(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載のせん断ダンパーにおいて、前記一対の躯体接合部のうちの片方の躯体接合部であるブレース接合部は、圧縮力を負担可能なブレースである圧縮ブレースに接合され、前記リブにおける前記ブレース接合部側の先端位置が、前記一対の躯体接合部のうちのもう片方の躯体接合部側から見て、前記ブレース接合部と前記圧縮ブレースとの接合箇所の位置と同じ距離かまたは遠い側にあるせん断ダンパー。
請求項1または請求項2に記載のせん断ダンパーにおいて、前記エネルギー吸収部が平板状であって2枚平行に並び、前記リブが前記エネルギー吸収部の両側でこれら2枚の前記エネルギー吸収部に亘って設けられたせん断ダンパー。
請求項3に記載のせん断ダンパーにおいて、前記一対の躯体接合部のうちの片方の躯体接合部であるブレース接合部は、圧縮力を負担可能なブレースである圧縮ブレースに接合され、もう片方の躯体接合部である柱・横架材接合部は、建物躯体の柱または横架材に接合され、前記エネルギー吸収部と前記ブレース接合部の全体、および前記柱・横架材接合部の一部が同じ平板状の板材の各部で構成され、前記柱・横架材接合部は、前記板材に対して垂直で前記柱または横架材へ接合される板状部材を有し、この板状部材から前記2枚の板材と前記2枚のリブとが立ち上がるせん断ダンパー。
請求項4に記載のせん断ダンパーにおいて、前記板状部材は、前記リブよりも前記相対移動の方向の両側へ延び、そのリブよりも両側へ延びた部分の前記リブが立ち上がる面に、延び方向に沿う補強用の凸条を設けたせん断ダンパー。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2,3のせん断ダンパーは、複数のエネルギー吸収子の屈曲方向が全て同じであるため、せん断力の方向によっては変形の特性が変化してしまうことが考えられる。また、複合的に面外方向への荷重が生じると、エネルギー吸収子が面外方向に変形してしまい、本来の性能が発揮できないと考えられる。さらに、変形時にエネルギー吸収子の根元部に曲げによる割れが生じ、荷重が低下すると考えられる。
【0006】
この発明の目的は、震動によるせん断力に対していずれの方向にも安定して変形し、かつ面外方向に変形し難いせん断ダンパーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のせん断ダンパーは、建物躯体の震動で相対移動する2つの部材間に設けられ、前記2つの部材にそれぞれ接合され互いに対向する一対の躯体接合部と、これら一対の躯体接合部に両端がそれぞれ続く複数のエネルギー吸収子からなり、これら複数のエネルギー吸収子はそれぞれが弓状に屈曲し、かつ屈曲の中心部がくびれる形状であり、屈曲の突出側が対向するように前記相対移動の方向に対称配置で並ぶエネルギー吸収部と、このエネルギー吸収部の前記相対移動の方向の外側位置で前記一対の躯体接合部に両端がそれぞれ固定された
一対のリブとを備
え、
前記一対の躯体接合部のうちの片方の躯体接合部は圧縮ブレースが接合されるブレース接合部であり、
前記各リブは、前記エネルギー吸収部の外側位置から、前記ブレース接合部における前記相対移動の方向の外側位置まで延びている。
【0008】
この構成によると、このせん断ダンパーが設けられる2つの部材間に相対移動が発生すると、エネルギー吸収部の各エネルギー吸収子が変形することでエネルギーを吸収する。各エネルギー吸収子はそれぞれが弓状に屈曲し、かつ屈曲の中心部がくびれる形状であるため、屈曲の中心部で屈曲が大きくなる側に確実に変形する。各エネルギー吸収子が、屈曲の突出側が対向するように相対移動の方向に対称配置で並んでいるため、2つの部材が正逆いずれの方向に相対移動するときも同じように変形して同等のエネルギー吸収能力が得られる。また、一対の躯体接合部に両端がそれぞれ固定されたリブが設けられているため、両躯体接合部が配置されている面と直交する方向である面外方向にエネルギー吸収部が変形することを防止できる。リブはエネルギー吸収部の相対移動方向の外側位置にあるため、前述の各エネルギー吸収子がせん断力を吸収する変形の障害とはならない。
【0009】
この発明において、前記一対の躯体接合部のうちの片方の躯体接合部であるブレース接合部は、圧縮力を負担可能なブレースである圧縮ブレースに接合され、前記リブにおける前記ブレース接合部側の先端位置が、前記一対の躯体接合部のうちのもう片方の躯体接合部側から見て、前記ブレース接合部と前記圧縮ブレースとの接合箇所の位置と同じ距離かまたは遠い側にあるのが良い。
上記のようにリブを設けると、圧縮ブレースからブレース接合部に面外方向の力が作用しても、その力をリブで受けることができるため、エネルギー吸収部の各エネルギー吸収子が面外方向に変形することをより確実に防止できる。
【0010】
この発明において、前記エネルギー吸収部が平板状であって2枚平行に並び、前記リブが前記エネルギー吸収部の両側でこれら2枚の前記エネルギー吸収部に亘って設けられていてもよい。
これにより、エネルギー吸収子によるせん断エネルギーの吸収、およびリブによるエネルギー吸収子の面外方向への変形防止がより一層確実なものとなる。
【0011】
上記構成の場合、前記一対の躯体接合部のうちの片方の躯体接合部であるブレース接合部は、圧縮力を負担可能なブレースである圧縮ブレースに接合され、もう片方の躯体接合部である柱・横架材接合部は、建物躯体の柱または横架材に接合され、前記エネルギー吸収部と前記ブレース接合部の全体、および前記柱・横架材接合部の一部が同じ平板状の板材の各部で構成され、前記柱・横架材接合部は、前記板材に対して垂直で前記柱または横架材へ接合される板状部材を有し、この板状部材から前記2枚の板材と前記2枚のリブとが立ち上がる構成とするとよい。
これにより、必要な強度は確保しつつ、エネルギー吸収部が効果的に変形するという機能が得られる。
【0012】
前記板状部材は、前記リブよりも前記相対移動の方向の両側へ延び、そのリブよりも両側へ延びた部分の前記リブが立ち上がる面に、延び方向に沿う補強用の凸条を設けてもよい。
板状部材をリブよりも両側へ延ばすことで、板状部材を柱または横架材に堅固に接合することができる。また、凸条を設けることで、板状部材の強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明のせん断ダンパーは、建物躯体の震動で相対移動する2つの部材間に設けられ、前記2つの部材にそれぞれ接合され互いに対向する一対の躯体接合部と、これら一対の躯体接合部に両端がそれぞれ続く複数のエネルギー吸収子からなり、これら複数のエネルギー吸収子はそれぞれが弓状に屈曲し、かつ屈曲の中心部がくびれる形状であり、屈曲の突出側が対向するように前記相対移動の方向に対称配置で並ぶエネルギー吸収部と、このエネルギー吸収部の前記相対移動の方向の外側位置で前記一対の躯体接合部に両端がそれぞれ固定された
一対のリブとを備
え、前記一対の躯体接合部のうちの片方の躯体接合部は圧縮ブレースが接合されるブレース接合部であり、前記各リブは、前記エネルギー吸収部の外側位置から、前記ブレース接合部における前記相対移動の方向の外側位置まで延びているため、震動によるせん断力に対していずれの方向にも安定して変形し、かつ面外方向に変形し難い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】この発明の一実施形態にかかるせん断ダンパーが設けられた建物躯体の正面図である。
【
図2】同せん断ダンパーが設けられた異なる建物躯体の正面図である。
【
図3】
図1または
図2に示す建物躯体の圧縮ブレースの分解図である。
【
図4】(A)は同建物躯体の連結部材とその周辺部の正面図、(B)その側面図である。
【
図5】(A)はせん断ダンパーの正面図、(B)はそのVB−VB断面図、(C)はその側面図である。
【
図7】せん断ダンパーのエネルギー吸収子およびリブの変形の様子を示す説明図である。
【
図8】エネルギー吸収子およびリブのそれぞれの変形量と荷重との関係を示すグラフである。
【
図9】せん断ダンパーの変形量と荷重との関係を示すグラフである。
【
図11】同建物躯体の連結部材と柱の接合部に作用する力の説明図である。
【
図12】せん断ダンパーが設けられた建物躯体の異なる例の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。
図1、
図2は、この発明のせん断ダンパーが設けられた建物躯体の一部を示す。建物は木造建物であって、制震構造とされた矩形の木造軸組み体1を備える。せん断ダンパー7は、この木造軸組み体1における震動で相対移動する2つの部材間に設けられる。
【0016】
木造軸組み体1は、隣合う2本の柱2とこれら柱2間に設けた上下の横架材3,4とからなる。例えば、上側の横架材3は梁であり、下側の横架材4は梁または土台である。これら柱2および横架材3,4は木造軸組み体1を構成する軸材であり、この実施形態の場合、柱2が長い方の軸材であり、横架材3,4が短い方の軸材である。ここで言う軸材の長短は、木造軸組み体1を構成する部分の長さを言う。具体的には、柱2の長さは上下の横架材3,4間の長さHであり、横架材3,4の長さは隣合う2本の柱2間の長さWである。
【0017】
この木造軸組み体1は、隣合う縦横の軸材の長手方向の中間位置間に両端がそれぞれ連結された4本の圧縮ブレース5を備える。具体的には、4本の圧縮ブレース5は、左側の柱2の上下中間位置と上側の横架材3の左右中間位置間、左側の柱2の上下中間位置と下側の横架材4の左右中間位置間、右の柱2の上下中間位置と上側の横架材3の左右中間位置間、および右側の柱2の上下中間位置と下側の横架材4の左右中間位置間にそれぞれ配置されている。つまり、これら4本の圧縮ブレース5は、互いに菱形状を成す。
【0018】
左右各2本の圧縮ブレース5における柱2に連結される側の端部は、柱2に接合された連結部材6に連結されており、柱2には直接連結されていない。連結部材6はある程度の上下長さを有し、その上下端に圧縮ブレース5の端部が連結されるため、4本の圧縮ブレース5の配置は厳密な意味での菱形ではなく、概略菱形状である。また、上下各2本の圧縮ブレース5における横架材3,4に連結される側の端部は、せん断ダンパー7を介して横架材3,4にそれぞれ連結される。せん断ダンパー7は、圧縮ブレース5と横架材3,4間に生じるせん断力を吸収する。この実施形態の場合、横架材3,4と圧縮ブレース5とが、前記震動で相対移動する2つの部材となる。
【0019】
圧縮ブレース5は、圧縮力を負担可能なブレースであって、
図3に示すように、主にパイプ材からなるブレース本体11と、このブレース本体11の両端に継がれる一対の継手部材12とでなる。ブレース本体11は両端に、互いにねじ溝の向きが逆の雌ねじ部11aを有する。この例の場合、ブレース本体11のパイプ材部分11bの両端に固定したナットを前記雌ねじ部11aとしている。継手部材12は、ブレース本体11の雌ねじ部11aにねじ込まれる雄ねじ部12aと、前記連結部材6に連結するための貫通孔13を有する平板状の取付部12bとでなる。ブレース本体11の雌ねじ部11aに対する継手部材12の雄ねじ部12aのねじ込み量を調節することで、圧縮ブレース5の全体長さを任意に変えられる。圧縮ブレース5は、いわゆるターンバックル方式の構成である。この圧縮ブレース5は、ブレース本体11が主にパイプ材からなるため、圧縮力に対して十分な剛性を有する。
【0020】
図4に示すように、連結部材6は、柱2における木造軸組み体1の内側の面に接合される平板状のベース部6aと、このベース部6aから木造軸組み体1の内側へ突出する2枚の平板状の突出部6bとからなる。ベース部6aを木造軸組み体1の内側の面に当接させ、木造軸組み体1の内側からベース部6aおよび柱2に複数本のビス14をねじ込んで、連結部材6を柱2に接合する。突出部6bの上下両端には、圧縮ブレース5を連結するため貫通孔15が設けられている。2枚の突出部6bの上端部間または下端部間に圧縮ブレース5の継手部材12の取付部12bを挿入し、継手部材12の貫通孔13(
図3)および突出部6bの貫通孔15に連結ピン16を挿通することで、連結部材6に圧縮ブレース5の端部が連結される。2枚の突出部6bの間に圧縮ブレース5の端部を挟み込むので、圧縮ブレース5が芯出しされる。
【0021】
図5に示すように、せん断ダンパー7は、横架材3,4に接合される柱・横架材接合部21と、圧縮ブレース5に接合されるブレース接合部22と、これら柱・横架材接合部21およびブレース接合部22の間に介在するエネルギー吸収部23と、このエネルギー吸収部23の
図5における左右外側位置にそれぞれ設けられた左右一対のリブ24とを有する。柱・横架材接合部21およびブレース接合部22が、請求項で言う一対の「躯体接合部」である。この実施形態の場合、柱・横架材接合部21は横架材3,4に接合されるが、後で示すように柱・横架材接合部21は柱2に接合されることもある。
【0022】
前記柱・横架材接合部21、ブレース接合部22、およびエネルギー吸収部23の区分は機能面から見た区分であり、実際には、ブレース接合部22およびエネルギー吸収部23の全体、並びに柱・横架材接合部21の一部は同じ平板状のエネルギー吸収部形成板材25の各部で構成されている。具体的には、打抜き加工等によって鋼板に複数の開口部26および切欠き部27を設けることで、エネルギー吸収部23が形成されている。エネルギー吸収部23の形状については、後で説明する。このようなエネルギー吸収部形成板材25が互いに平行に2枚並んでいる。つまり、柱・横架材接合部21およびブレース接合部22は共に、2枚のエネルギー吸収部形成板材25の一部分からなる。
【0023】
柱・横架材接合部21は、前記2枚のエネルギー吸収部形成板材25の一部からなる部分25aと、両エネルギー吸収部形成板材25に対して垂直な板状部材28とからなる。そして、板状部材28とブレース接合部22とに亘り、前記2枚のリブ24が、各エネルギー吸収部形成板材25の左右両端縁に沿って設けられている。換言すると、板状部材28から2枚のエネルギー吸収部形成板材25と2枚のリブ24とが立ち上がっている。板状部材28は、エネルギー吸収部形成板材25の左右両端よりも左右外側へ延び、そのリブ24よりも外側へ延びた部分のリブ24が立ち上がる面に、延び方向に沿う補強用の凸条29が設けられている。
【0024】
柱・横架材接合部21は、板状部材28を横架材3,4における木造軸組み体1の内側の面に当接させ、木造軸組み体1の内側から板状部材28および横架材3,4に複数本のビス30をねじ込んで、横架材3,4に接合される。ブレース接合部22には、圧縮ブレース5を連結するための貫通孔31が2つ設けられている。2枚のエネルギー吸収部形成板材25の間に圧縮ブレース5の継手部材12の取付部12bを挿入し、この取付部12bの貫通孔13(
図3)およびブレース接合部22の貫通孔31に連結ピン32を挿通することで、ブレース接合部22に圧縮ブレース5の端部が連結される。
【0025】
図5(C)に示すように、リブ24は、鋼板等からなる長方形の板材であって、同図における上下両端が柱・横架材接合部21およびブレース接合部22にそれぞれ溶接等により固定されている。リブ24の上端位置は、前記貫通孔31の位置と比べて同じかまたは高くしてある。換言すると、リブ24におけるブレース接合部22側の先端位置は、柱・横架材接合部21側から見て、前記貫通孔31の位置と同じ距離かまたは遠い側にある。これは、圧縮ブレース5からブレース接合部22に面外方向の力が作用しても、その力をリブ24で受けることで、エネルギー吸収部23が面外方向に変形することを防止するためである。
【0026】
エネルギー吸収部23は、両端が柱・横架材接合部21およびブレース接合部22にそれぞれ続く複数のエネルギー吸収子40からなる。換言すると、各エネルギー吸収子40の一端が柱・横架材接合部21に続き、他端がブレース接合部22に続いている。これら複数のエネルギー吸収子40は等間隔で並んでいる。各エネルギー吸収子40はそれぞれが弓状に屈曲し、かつ屈曲の中心部がくびれる形状である。この実施形態の場合、エネルギー吸収子40の数は各エネルギー吸収部形成板材25につき6つであり、左右各3つのエネルギー吸収子40が互いに屈曲の突出側が対向するように左右対称配置で並んでいる。
【0027】
さらに詳しくは、
図5のVI部拡大図である
図6に示すように、エネルギー吸収子40は、屈曲の中心部であるくびれ部分41の両側縁が円弧状であり、このくびれ部分41から柱・横架材接合部21(図示せず)およびブレース接合部22に向けてそれぞれ直線部分42が斜めに延びている。直線部分42の傾斜角度θは、例えば60°である。直線部分42の両側縁は直線である。また、直線部分42は、柱・横架材接合部21およびブレース接合部22に近づくに従い幅が広くなる形状である。直線部分42の最小幅aと最大幅bの比は、例えばa:b=1.5:2である。直線部分42と柱・横架材接合部21およびブレース接合部22との接続部43の側縁は円弧状である。このように、各エネルギー吸収子40の側縁は、直線と円弧とが切れ目なく繋がった滑らかな形状とされている。
【0028】
上記構成のせん断ダンパー7の作用を説明する。
このせん断ダンパー7が設けられる2つの部材、すなわち横架材3,4と圧縮ブレース5間に、横架材3,4の長手方向となる水平方向の相対移動が発生すると、エネルギー吸収部23の各エネルギー吸収子40が変形することでエネルギーを吸収する。複数のエネルギー吸収子40が等間隔で並んでいるため、力が各エネルギー吸収子40に均等に流れる。
【0029】
各エネルギー吸収子40はそれぞれが弓状に屈曲し、かつ屈曲の中心部でくびれる形状であるため、屈曲の中心部で屈曲が大きくなる側に確実に変形する。エネルギー吸収子40が滑らかな形状であるため、応力の負担を分散できる。それにより、大変形領域まで変形させることが可能である。
【0030】
各エネルギー吸収子40が、屈曲の突出側が対向するように左右対称の配置で並んでいるため、横架材3,4と圧縮ブレース5とが正逆いずれの方向に相対移動するときも同じように変形して同等のエネルギー吸収能力が得られる。つまり、せん断ダンパー4の左右の不釣り合いがない。
【0031】
エネルギー吸収部23の両側にリブ24が設けられているため、エネルギー吸収子40が損傷しても、リブ24が引張力を負担する部材として機能することで、荷重低下を防ぐことができる。例えば、せん断力によりエネルギー吸収子40が
図7(A)から
図7(B)のように変形すると、エネルギー吸収子40と柱・横架材接合部21またはブレース接合部22との境界部に割れ45が生じる。これにより、
図8のグラフに実線Aで示すように、エネルギー吸収子40が負担する荷重は低下する。しかし、リブ24が引っ張られて(または押されて)リブ24の長さが伸びることにより、
図8のグラフに点線Bで示すように、リブ24が負担する荷重が直線的に増加する。エネルギー吸収子40の荷重低下とリブ24の荷重増加とが相殺されるため、全体として負担する荷重はほとんど変わらない。エネルギー吸収部23の両端に切欠き部27が設けられているため、リブ24が変形してもエネルギー吸収子40と干渉しない。
【0032】
図9は、このせん断ダンパー7の一例の載荷試験結果を示すグラフである。この試験結果から、変形が大きくなっても全体で負担する荷重がほとんど変わらないことが分かる。また、正逆いずれの方向の荷重に対しても同じ挙動をすることが見て取れる。エネルギー吸収子40の数、厚み、傾斜角度θ、直線部分42の最小幅aと最大幅bの比等を変えることで、変形量・荷重の特性を任意に変えることができる。
【0033】
また、エネルギー吸収部23の両側に設けられた一対のリブ24が、このせん断ダンパー7に入る回転力を受けることで、エネルギー吸収子40が面外方向に変形することを防止する。リブ24はエネルギー吸収部23の左右外側位置にあるため、各エネルギー吸収子40がせん断力を吸収する変形の障害とはならない。
【0034】
このせん断ダンパー7は、各部が鋼板でできているため、加工が容易で、安価に製作することができる。また、特殊な素材を必要としない。各部が鋼板からなっていても、板状部材28から2枚のエネルギー吸収部形成板材25と2枚のリブ24とが立ち上がる形状に組むことで、必要な強度は確保しつつ、エネルギー吸収部23の各エネルギー吸収子40が効果的に変形するという機能を得ることができる。また、2枚のエネルギー吸収部形成板材25の間に圧縮ブレース5の端部を挟み込むので、容易に圧縮ブレース5の芯出しができる。強度が必要な場合は、3枚以上のエネルギー吸収部形成板材25を互いに離して、または互いに重ね合わせて設けても良い。
【0035】
上記せん断ダンパー7が設けられる木造軸組み体1は、上下の横架材3,4間の内法高さに応じて圧縮ブレース5の全体長さを調整する。
図1は内法高さが低い場合を示し、
図2は内法高さが高い場合を示す。但し、圧縮ブレース5は、せん断ダンパー7にせん断力を効率良く伝達する適正な角度で使用する必要がある。例えば、内法高さが極端に高い場合、圧縮ブレース5の長さを伸ばして調整しようとすると、圧縮ブレース5の角度が立ち過ぎとなり、せん断ダンパー7にせん断力を効率良く伝達できなくなる。このように、圧縮ブレース5の長さで調整することが不適切な場合は、連結部材6として上下長さの長いものを用いることにより、圧縮ブレース5の角度を適正角度内に保ちつつ、内法高さに対応させる。
【0036】
この木造軸組み体1は、地震による横揺れを受けたとき以下の挙動を示す。
例えば、
図10に示すように、建物に図の右向きの力Fが作用すると、各圧縮ブレース5に矢印で示す方向に荷重P1,P2,P3,P4がかかる。4本の圧縮ブレース5を菱形に配置したことにより、連結部材6を挟んで並ぶ一対の圧縮ブレース5の各荷重P1,P2(P3,P4)における水平成分は互いに逆向きとなる。このため、両荷重P1,P2(P3,P4)の水平成分が相殺され、柱2には水平方向の力がかからず、鉛直方向の軸力N1,N2のみがかかる。その結果、柱2と横架材3,4の接合部8にせん断力がほとんど作用しない。木造軸組み体1にかかる水平方向のせん断力は、その上下のせん断ダンパー7で負担される。地震力がせん断ダンパー7で吸収されることで、制震作用が得られる。
【0037】
木造軸組み体1の右側部分について見た場合、
図11に示すように、連結部材6には下向きの荷重Pがかかっている。この荷重Pの中心は、柱2と連結部材6の接合面17から距離hだけ離れているので、接合面17に(h×P)の大きさの曲げモーメントMがかかる。この曲げモーメントMは、荷重Pが下向きである場合、連結部材6の上部を接合面17から引き離そうとする作用を及ぼす。この実施形態の連結部材6は、平板状のベース部6aを柱2に当接させ、複数本のビス14により柱2に接合してあるため、前記曲げモーメントMをベース部6aの広い面で受けることができ、十分な接合強度が得られる。また、ベース部6aを平板状とすることで、多数本のビス14で連結部材6を柱2に固定することができ、1本当たりのビス14の負担を軽減できる。
【0038】
上記木造軸組み体1は、長い方の軸材が柱2であり、短い方の軸材が横架材3,4であるため、柱2と圧縮ブレース5との接合部に連結部材6を介在させ、上下の横架材3,4と圧縮ブレース5との接合部にせん断ダンパー7を介在させてある。
図12のように、長い方の軸材が横架材3,4であり、短い方の軸材が柱2である場合は、長い方の軸材である上下の横架材3,4と圧縮ブレース5との接合部に連結部材6を介在させ、短い方の軸材である柱2と圧縮ブレース5との接合部にせん断ダンパー7を介在させるとよい。
【0039】
1…木造軸組み体(建物躯体)
2…柱
3,4…横架材
5…圧縮ブレース
6…連結部材
7…せん断ダンパー
21…柱・横架材接合部(躯体接合部)
22…ブレース接合部(躯体接合部)
23…エネルギー吸収部
24…リブ
28…板状部材
29…凸条
40…エネルギー吸収子