特許第6448975号(P6448975)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6448975
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】クロムフリーの革の再なめし
(51)【国際特許分類】
   C14C 3/22 20060101AFI20181220BHJP
【FI】
   C14C3/22
【請求項の数】4
【外国語出願】
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-205342(P2014-205342)
(22)【出願日】2014年10月6日
(65)【公開番号】特開2015-78362(P2015-78362A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2017年9月19日
(31)【優先権主張番号】201310492704.0
(32)【優先日】2013年10月18日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】特許業務法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カイユン・リー
(72)【発明者】
【氏名】イン・シュエ
(72)【発明者】
【氏名】フェンギ・スー
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 旧東ドイツ国経済特許第243046(DD,A1)
【文献】 特開2010−144061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B68F1/00〜3/04
C14B1/00〜C14C99/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus(STN)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロムフリーの再なめし革を作製する方法であって、
(a)ウェットホワイトを、
i)ピペラジン、ピペラジン水和物、ピペラジンの塩、及びこれらの組み合わせ、からなる群から選択される化合物と
ii)前記i)の化合物、及び水性乳化重合体であって、該乳化重合体の重量を基準として2重量%〜35重量%の、1以上のエポキシ基を有するエチレン性不飽和モノマーを共重合単位として含み、2,000〜100,000の重量平均分子量を有する、水性乳化重合体の組み合わせと、
からなる群から選択される、ウェットホワイトの湿重量を基準として固体重量で1%〜8%の再なめし剤と接触させる工程と、
(b)前記接触されたウェットホワイトを加熱する工程と、
(c)前記接触され加熱されたウェットホワイトを乾燥する工程と、を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記1以上のエポキシ基を有するエチレン性不飽和モノマーが、グリシジル(メタ)ア
クリレート、アリルグリシジルエーテル、及びこれらの混合物、からなる群から選択され
る、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、前記化合物が、リン酸ピペラジンとピロリン酸ピペラジンとの混合物である、方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法で作製された、クロムフリーの再なめし革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロムフリーの革の再なめしに関する。より具体的には、本発明は、クロムフリーの再なめし革を作製する方法であって、(a)ウェットホワイト(クロムフリーのなめし皮)を、i)水性乳化重合体であって、該乳化重合体の重量を基準として2重量%〜35重量%の、1以上のエポキシ基を有するエチレン性不飽和モノマーを共重合単位として含み、2,000〜100,000の重量平均分子量を有する、水性乳化重合体と;ii)ピペラジン、ピペラジン水和物、ピペラジンの塩、及びこれらの組み合わせ、からなる群から選択される化合物と;iii)i)とii)との組み合わせと、からなる群から選択される、ウェットホワイトの湿重量を基準として固体重量で1%〜8%の再なめし剤と接触させる工程と、(b)前記接触されたウェットホワイトを加熱する工程と、(c)前記接触され加熱されたウェットホワイトを乾燥する工程と、を含む方法に関する。本出願はまた、上記方法により作成されたクロムフリーの再なめし革に関する。
【背景技術】
【0002】
革を製造するための皮(hide)や皮膚(skin)の処理は、多数の独立した化学操作及び機械操作を伴う。これらの操作は、一連のウェットエンド工程、つまり湿潤条件下での加工工程と、それに引き続く一連のドライ工程、つまり乾燥条件下での加工工程と、とに分けられ得る。典型的な皮革の製造過程は、以下の一連のウェットエンド工程を伴う:トリミング及び選別、水漬け、裏打ち、脱毛、脱灰、浸酸、なめし、水絞り、分割及びシェービング、再なめし、染色、加脂、及びセッティング。一連のドライ工程、例えば乾燥、味取り、ステーキング、バフィング、仕上げ、プレート仕上げ(plating)、計量、及び格付けが、これらのウェットエンド工程に引き続く。これらの作業の説明はLeather Facts,New England Tanners(1972)に記載されている。
【0003】
本発明は、一次なめしの後に行われるウェットエンド工程、すなわち再なめしに関する。一次なめしの目的は皮、生皮(pelt)、又は皮膚を、安定した、腐敗しない材料に変換することである。一次なめしの後、革は再なめしされる。本明細書中で「ウェットホワイト」と呼ばれるクロムフリーのなめされた皮膚/皮は、野菜や植物のエキスを含む様々な自然由来の材料、及び「シンタン」として知られる合成なめし剤、及びこれらの組み合わせ、を用いて再なめしされ得る。再なめしの後、もしくは所望される場合には再なめしの間に、皮は、酸性染料、媒染染料、直接染料、含金属染料、可溶性硫化染料、及びカチオン染料等の着色料で染色される。
【0004】
革なめし業界は、クロムフリーのなめし革を製造するための代替処理を模索している。本明細書中で用いられる「クロムフリー」は、革が、そのいかなる酸化状態においても、そのいかなる化合物においても、元素のクロムを含まないことを意味するが、クロムフリーは、微量のクロム、つまり法律上又は規制上のクロムフリーの定義に合致し得る量等を除外しない。ウェットホワイトの革は、利用される異なる化学的性質のために、特定の再なめし剤を必要とする。優れた柔軟性と染色強度とを有する革を提供するためには、クロムフリーなめし革用の再なめし剤が必要である。
【0005】
米国特許第7,638,576号は、コーティング組成物用の、エポキシ基を有する重合体粒子の多段階水性分散液を開示している。
【0006】
米国特許第7,465,761号は、ピペラジンの塩を含む重合体樹脂用の難燃剤組成物を開示している。
【0007】
Journal of the Society of Leather technologists and Chemists,90,pp93−101,2006は、革のなめしに、エポキシド含有小分子、すなわち500未満の分子量を有する分子、を使用し、収縮温度を上昇させることを開示している。しかしながら、このような革は相対的に剛直である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
クロムフリー革の柔軟性と染色強度の改善が、今なお求められており、製革における再なめし工程を通じて、本発明の方法により提供される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様においては、クロムフリーの再なめし革を作製する方法であって、ウェットホワイトを、i)水性乳化重合体であって、該乳化重合体の重量を基準として2重量%〜35重量%の、1以上のエポキシ基を有するエチレン性不飽和モノマーを共重合単位として含み、2,000〜100,000の重量平均分子量を有する、水性乳化重合体と;ii)ピペラジン、ピペラジン水和物、ピペラジンの塩、及びこれらの組み合わせ、からなる群から選択される化合物と;iii)i)とii)との組み合わせと、からなる群から選択される、ウェットホワイトの湿重量を基準として固体重量で1%〜8%の再なめし剤と接触させる工程を含む方法が提供される。
【0010】
本発明の第二の態様においては、本発明の第一の態様の方法により作製されたクロムフリーの再なめし革が提供される。
【0011】
本発明の方法において、ウェットホワイトは、a)水性乳化重合体であって、該乳化重合体の重量を基準として2重量%〜35重量%の、1以上のエポキシ基を有するエチレン性不飽和モノマーを共重合単位として含み、2,000〜100,000の重量平均分子量を有する、水性乳化重合体と;b)ピペラジン、ピペラジン水和物、ピペラジンの塩、及びこれらの組み合わせ、からなる群から選択される化合物と;c)a)とb)との組み合わせと、からなる群から選択される、ウェットホワイトの湿重量を基準として固体重量で1%〜8%、好ましくは3%〜6%の再なめし剤と接触させられる。
【0012】
水性乳化重合体の再なめし剤が、乳化重合条件下における付加重合によって調製され、共重合単位として、該乳化重合体の重量を基準として2重量%〜50重量%、好ましくは2重量%〜35重量%、より好ましくは5重量%〜30重量%の、1以上のエポキシ基を有するエチレン性不飽和モノマーを含む。1以上のエポキシ基を有するエチレン性不飽和モノマーは、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、桂皮酸グリシジル、クロトン酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、グリシジルノルボルネニル(norbomenyl)エステル、グリシジルノルボルネニルエーテル、等を含む。グリシジル(メタ)アクリレートとアリルグリシジルエーテルが好適である。
【0013】
水性乳化重合体は、共重合単位として、スチレン、ビニルトルエン、エチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ならびに、メチルアクリレート(MA)、メチルメタクリレート(MMA)、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オレイル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、及びステアリル(メタ)アクリレートを含む(メタ)アクリル酸の各種の(C−C20)アルキル又は(C−C20)アルケニルエステル、を含むモノエチレン性不飽和モノマー等の1以上の不飽和モノマーを更に含む。本開示内で、(メタ)アクリレート又は(メタ)アクリルアミドのように、その他の用語に先立つ用語「(メタ)」の使用は、それぞれ、アクリレートとメタクリレート、又はアクリルアミドとメタクリルアミドの両方を参照する。乳化重合体は、典型的には「実質的に未架橋」であり、これは本明細書中においては、該乳化重合体が、共重合単位として、0重量%〜0.1重量%、好ましくは0重量%、の架橋モノマー、例えば、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、メタリル(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、及びジビニルベンゼン等のジエチレン性不飽和モノマー、を含むことを意味する。ただし、乳化重合体の調製、保管、処理の間に生じ得るような偶発的な微量の架橋は除外されない。
【0014】
水性乳化重合体は、水性のアクリル共重合体、すなわち支配的な量の共重合された(メタ)アクリル酸エステルと、共重合単位として0重量%〜5重量%、好ましくは0.1重量%〜0.25重量%の、カルボン酸又はヒドロキシ官能性を有するモノマーと、を含む共重合体、またはその混合物であることが好ましい。
【0015】
乳化重合体の算出されたガラス転移温度(「Tg」)は、当該技術分野で周知のとおり、典型的には−80℃〜−20℃、好ましくは−80℃〜−40℃であり、所望の重合体Tgを達成するためのモノマー及びモノマー量の選択によって到達される。本明細書において、重合体のTgは、Fox式(T.G.Fox,Bull.Am.Physics Soc.,Volume 1,Issue No.3,p.123(1956))により算出されたものである。つまり、例えばモノマーM1とM2との共重合体のTgを求める場合、
1/Tg(calc.)=w(M1)/Tg(M1)+w(M2)/Tg(M2)
ここで
Tg(calc.)は共重合体について算出されたガラス転移温度、
w(M1)は共重合体中のモノマーM1の重量分率、
w(M2)は共重合体中のモノマーM2の重量分率、
Tg(M1)はM1のホモポリマーのガラス転移温度、
Tg(M2)はM2のホモポリマーのガラス転移温度、であり、すべての温度は°Kである。
【0016】
ホモポリマーのガラス転移温度は、例えば「Polymer Handbook」(J.Brandrup及びE.H.Immergut編、Interscience Publishers)で見つけることができる。2以上の異なる乳化重合体、もしくは、コア/シェル型重合体等の複数の相を含む乳化重合体が用いられる実施形態においては、該乳化重合体の算出されたTgは、重合体成分の全体の組成を基に算出することとする。
【0017】
ポリスチレン標準を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定された乳化重合体の重量平均分子量は2,000〜100,000、好ましくは4,000〜40,000である。
【0018】
乳化重合体は、当該技術分野において周知のとおり、乳化重合条件下における付加重合によって調製される。例えば、アルカリ金属又はアンモニウムアルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸、脂肪酸、及びオキシエチル化アルキルフェノール、及びこれらの混合物、等のようなアニオン性及び/又は非イオン性界面活性剤を含む慣用の界面活性剤及び混合物が用いられ得る。フリーラジカル付加重合を行うことのできる1以上のエチレン性不飽和炭素−炭素結合を含む重合可能界面活性剤が用いられ得る。界面活性剤の使用量は、モノマーの総重量を基準として通常0.1重量%〜6重量%である。熱開始又はレドックス開始プロセスのいずれかが用いられ得る。慣用のフリーラジカル開始剤、例えば過酸化水素、t−ブチル過酸化水素、t−アミル過酸化水素、過硫酸アンモニウム及び/又はアルカリ、が、通常、モノマーの総重量を基準として0.01重量%〜3.0重量%の量で用いられ得る。上記の開始剤と適切な還元剤、例えばホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、ヒドロ亜硫酸ナトリウム、イソアスコルビン酸、硫酸ヒドロキシルアミン、及び重亜硫酸ナトリウム等、との組み合わせを用いるレドックス系が同様の量で、任意で例えば鉄、銅等の金属イオンとの組み合わせで、任意で金属錯化剤を更に含んで、用いられ得る。重合体の分子量を調節するためにメルカプタン等の連鎖移動剤が用いられ得る。典型的には、モノマーの総重量を基準として0.1重量%〜5重量%の、アルキルメルカプタン及びメルカプトアルキルカルボン酸エステルから選択されたメルカプタンが用いられる。モノマー混合物はニート又は水中エマルションとして加えられ得る。モノマー混合物は一度の追加、又は、反応期間にわたって連続する、同一又は異なる組成を用いた複数回の追加で加えられ得る。追加の成分、例えばフリーラジカル開始剤、酸化剤、還元剤、連鎖移動剤、中和剤、界面活性剤、及び分散剤等が、いずれかの段階の前、間、もしくは後に、加えられ得る。例えば米国特許第4,384,056号及び第4,539,361号に開示のような、ポリモーダルな粒径分布をもたらす方法が採用され得る。乳化重合体は、当該技術分野で周知のとおり、多段階乳化重合プロセスによって調製され得る。乳化重合体は、また、分子量の異なる2以上の段階で調製されると考えられる。2つの異なる乳化重合体を混合することも考えられる。
【0019】
水性乳化重合体粒子は、典型的には100nm〜1500nm、好ましくは100nm〜600nmの、光散乱によって測定された数平均粒径を有する。
【0020】
本発明の方法の再なめし剤化合物は、ピペラジン、ピペラジン水和物、ピペラジンの塩、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。ピペラジンはアルコール性アンモニアを1,2−ジクロロエタンと反応させること、ナトリウムとエチレングリコールとのエチレンジアミン塩酸塩への作用、又はエタノール中におけるナトリウムによるピラジンの還元、により生成され得る。ピペラジン水和物は、ピペラジン六水和物を含む。ピペラジンの塩は、例えばクエン酸ピペラジン、アジピン酸ピペラジン、リン酸ピペラジン、ピロリン酸ピペラジン、オルトリン酸ピペラジン、及びポリリン酸ピペラジンを含む。好適な再なめし剤はオルトリン酸ピペラジンとピロリン酸ピペラジンとの、比率5:1〜1:5、好ましくは2:1〜1:2の混合物である。
【0021】
本明細書で上述された水性乳化重合体と、本明細書で上述された再なめし剤化合物との混合物である再なめし剤は、典型的には、水性乳化重合体の乾燥重量を基準として10重量%〜50重量%、好ましくは20重量%〜40重量%、の再なめし剤化合物を含む。
【0022】
特定の性能特性を付与する目的で、その他の化学薬品が再なめし剤化合物に加えられ得る。その他の化学薬品は、加脂剤、1又は複数の顔料、乳化剤、界面活性剤、潤滑剤、合体剤、不凍剤、硬化剤、バッファ、中和剤、増粘剤、レオロジー調整剤、保湿剤、湿潤剤、殺生物剤、可塑剤、消泡剤、紫外線吸収剤、蛍光漂白剤、光又は熱安定剤、殺生物剤、キレート剤、分散剤、着色剤、染料、撥水剤、及び酸化防止剤、を個別に含み得る。
【0023】
典型的な再なめし加工において、皮は、反応を起こすための充分な時間にわたり再なめし剤と接触し、特定の時間にわたり加熱され、その後乾燥されて再なめし革を作製する。典型的には、接触されたウェットホワイトは、30〜600分間、25℃〜60℃でドラミングされ、その後室温で24時間乾燥された。
【発明を実施するための形態】
【0024】
一部の実施形態における本発明を、以下の実施例を参照して更に説明する。
【表1】
【0025】
革の加工
手順Iは、Jiangyin Lexus Trading Co.,Ltd.(中国、江蘇省)より購入された厚さ1.8〜2.2mmの浸酸された牛の生皮を処理してウェットホワイトを作製するために用いられる一次なめし加工である。なめし剤は変性グルタルアルデヒドの一種(LEVOTAN(商標)GTA−C)であった。選択された試料の、ウェットホワイトに対する再なめし性能を評価するために、手順IIが用いられた。
【0026】
全ての重量は革材料の重量を基準とする(100%はドラムに投入された材料の重量と等しい重量を意味する)。別段の記載がない限り、化学薬品添加のパーセンテージはいずれも、革材料の重量を基準とした重量%を指す。
【0027】
手順I
1)50%のフロート(フロートとは水を指し、100%のフロートとは材料の重量と等しい重量の水を添加することを意味する)が、約4%のナトリウム塩と共にドラムに投入され、20℃において
【化1】
(ボーメ度)の溶液を得た。
2)ここに生皮を投入し、ドラム内で10分間回転した。その後、0.3%PREVENTOL(商標)WB Plus−Lを5分間加え、その後1%BAYKANOL(商標)Licker SLを20分間加え、3%LEVOTAN(商標)GTA−Cを30分間加えた。3種類の化学薬品はいずれも、ドラムへの投入前に、水で4倍に希釈されていた。
3)ここに3%TANIGAN(商標)CKが加えられ、180分間ドラミングされた。
4)ここに0.3%Naが10分間流し入れられた。その後フロートのpHは、合計使用量0.75〜1.5%の重炭酸ナトリウムを必要に応じて一度に0.5%及び/又は0.25%のポーションを徐々に加えることにより約3.9まで上昇された。75〜90分後、100%フロートが加えられ、ドラムの温度は40℃に上昇され、60分間ドラミングされた。
5)材料がドラムから取り出され、室温で一晩木馬に載せられた(horsed)。
6)翌日、収縮温度(Ts)をチェックした後、材料は取り出され、1.0〜1.2mmに削られた。
7)材料は200%の水と0.2%のシュウ酸によって、35℃で20分間洗浄された。その後、ドラムは排水された。
8)100%の新しいフロートが、2%のTANIGAN PAKと共に、35℃で10分間、材料に適用された。
9)材料は1.5%のギ酸ナトリウムと0.5〜1.5%の重炭酸ナトリウムとで中和され、フロートのpHは約4.9となり、30〜40分間回転された。
10)これに、3倍の水で希釈された3%EUREKA(商標)950−Rが加えられ、30分間回転された。その後3%LEUKOTAN(商標)1084及び8%TANIGAN BNが20分間加えられた。その後4%TANIGAN(商標)Fが加えられ、30分間回転された。
11)これに、12%Seta TRが120分間加えられた。50%フロートが加えられ、ドラム温度が10分間40℃に上昇された。
12)これに、3倍の水で希釈された3%EUREKA(商標)950−Rが加えられ、90分間ドラミングされた。
13)なめしドラムの内容物に、0.5重量%ギ酸(活性85%)の量でギ酸が加えられた。フロートのpHを3.8未満に低下させるため10〜15%のギ酸がドラムに投入され、室温でのドラミングが30〜60分間継続された。
14)ドラムが排水された。200%の新しいフロートが0.2%EDTAと共に加えられ、材料が室温で30分間洗浄された。
15)処理済みの材料が一晩木馬に載せられた。翌日、材料は、半乾燥させるためにトグル張りされた。
【0028】
手順II
手順Iで処理された材料が再計量された。化学薬品添加のパーセンテージはいずれも、処理済み材料の重量を基準とした重量%を指す。
1)なめされた材料に、400%のフロート及び0.6%のシュウ酸が35℃で適用された。材料は、完全に最湿潤される(材料中の水分が飽和し、材料が柔軟になる)まで60分以上回転された。その後ドラムが排水された。
2)材料と、投入された200%のフロートとが、1.0%のギ酸ナトリウムと1.5〜1.75%の重炭酸ナトリウムとで中和された。混合物はその後3時間以上ドラミングされた。中和フロートのpHは監視され、必要に応じ、一度の追加ごとに0.5%及び/又は0.25%のポーションで重炭酸ナトリウムを革に適用することで5.0〜5.5の範囲内に維持された。
3)中和の後、ドラム温度は45℃に上昇し、選択された試料が3%又は6%の固体として加えられ(加えられた試料の固体重量は、材料の重量を基準として3%又は6%)、90〜120分間ドラミングされた。
4)2%BAYGENAL(商標)Brown CGG I(染料)が、40℃で30〜60分間、材料に適用された。
5)4%BAYKANOL(商標)Licker Additive Lが、45℃で60〜90分間、材料に適用された。
6)なめしドラムの内容物に、0.5重量%ギ酸(活性85%)の量でギ酸が加えられた。ギ酸は、フロートのpHを3.6未満に低下させるため、10〜25%としてドラムに投入され、室温でのドラミングが30〜60分間継続された。
7)処理済みの材料が一晩木馬に載せられた。翌日、材料は、乾燥させるためにトグル張りされた。
【0029】
手順IIの後、フレーム乾燥された処理済み材料(クラスト(crust)と呼ばれる)の水分量が、均一に水を噴霧し、プラスチック袋に4〜24時間密封することにより16〜19%に調整された(コンディショニングと呼ばれる)。この結果得られたコンディショニングされた革は、その後、更なる試験又は評価のための適切な革試料を提供するために、ステーキングと呼ばれる加工によって機械的に柔軟化された。
【0030】
試験/評価方法
粒径はBrookHaven BI−90 Plus、動的光散乱法によって求められた。分子量はパーミエーションクロマトグラフィーによって求められた。
【0031】
フロートの透明性
革繊維による化学物質の吸収量を示すために、含まれる革の残骸による影響を除外したフロートの濁度の目視検査(観測)によって、フロートの透明性が評価された。
【0032】
染料の色調/染色結果
染色強度の結果が、銀面(grain)の色合い(期待される「本来の色」との相対的なもの)と、鮮やかさ(灰色っぽさ、白っぽさ、又は脱色、の無さ)とに重点を置いた、処理済みの革の目視検査によって評価された。色は、非常に良好、良好、可、不可、の尺度で評価された。
【0033】
感触
感触が、銀面表面の手触りによって、乾いている、滑らか、引っかかる/湿っている、及び、自然である、を含む、異なる描写によって評価された。
【0034】
柔軟性
柔軟性(BLC)試験方法は、ISO 17235−2002:皮革‐物理的・機械的試験‐柔軟性の測定である。結果は、数字と単位mmによって表される。
【0035】
柔軟性(取り扱い)に関しては、手による取り扱い/感触によって、非常に柔らかい、柔らかい、普通、やや固い、固い、の尺度で柔軟性クラストが評価された。
【実施例】
【0036】
試料1の合成
モノマーエマルション−40gのX−405(70%)が400gの脱イオン水(DI水)に溶解された。以下の化学物質を、撹拌された溶液に徐々に加えることで、乳化されたモノマー混合物が調製された:0.7gのBHT、665gのBA、35gのGMA、21gのMMP。
【0037】
5gのX−405(70%)と、650gの脱イオン水(本明細書中では「DI水」)とを含む溶液が、熱電対と、冷却コンデンサと、撹拌機とを備えた五口の3リットルの丸底フラスコに仕込まれ、窒素雰囲気中で65℃に加熱された。該フラスコに116.2gのモノマーエマルションを移し、1.5gの硫酸鉄(II)(0.5%溶液)及び1.5gのエチレンジアミン四酢酸(0.5%溶液、EDTA)が加えられた。温度が65℃の時、70%t−BHP溶液(10gのDI水中に0.15g)とFF6溶液(10gのDI水中に0.13g)とからなるレドックス開始剤カップルが加えられた。約5分以内に、5〜10℃の温度上昇と、反応混合物の外観の変化によって、重合開始が確認された。熱発生が完了すると、モノマーエマルションの残り、ならびに、t−BHP溶液(70%、55gのDI水中に1.88g)とFF6溶液(55gのDI水中に0.85g)とからなるレドックスカップルが、撹拌を行いながら、120分の期間にわたり、フラスコに徐々に加えられた。重合反応温度は、64〜66℃に維持された。追加が完了すると、モノマーエマルションを収容していた容器と、フラスコへつながっている供給管が、60gのDI水ですすがれ、すすぎ水はフラスコに加えられた。追加が完了すると、反応混合物は60℃に冷却され、その後t−BHP(70%、13gの水中に1.53g)及びFF6(15gの水中に0.71g)が30分にわたり、撹拌を行いながら徐々に加えられた。供給が完了すると、反応物は室温に冷却された。
【0038】
試料2〜10と比較例試料a〜bの合成。合成は、上掲の方法に従って、以下に記載の異なるモノマーエマルションを用いて行われた。
【0039】
試料2のモノマーエマルション−40gのX−405(70%)が400gのDI水に溶解された。以下の化学物質を、撹拌された溶液へ徐々に加えることにより、乳化されたモノマー混合物が調製された:0.7gのBHT、332.5gの2−エチルヘキシルアクリレート(EHA)、332.5gのBA、35gのGMA、21gのMMP。
【0040】
試料3のモノマーエマルション−40gのX−405(70%)が400gのDI水に溶解された。以下の化学物質を、撹拌された溶液へ徐々に加えることにより、乳化されたモノマー混合物が調製された:0.7gのBHT、665gのEHA、35gのGMA、21gのMMP。
【0041】
試料4のモノマーエマルション−40gのX−405(70%)が400gのDI水に溶解された。以下の化学物質を、撹拌された溶液へ徐々に加えることにより、乳化されたモノマー混合物が調製された:0.7gのBHT、665gのEHA、35gのGMA、35gのn−ドデシルメルカプタン(nDDM)。
【0042】
試料5のモノマーエマルション−36gの実験用EH−40(70%、EH−40)が300gのDI水に溶解された。以下の化学物質を、撹拌された溶液へ徐々に加えることにより、乳化されたモノマー混合物が調製された:0.7gのBHT、630gのEHA、70gのGMA、35gのMMP。
【0043】
試料6のモノマーエマルション−36gのEH−40(70%)が300gのDI水に溶解された。以下の化学物質を、撹拌された溶液へ徐々に加えることにより、乳化されたモノマー混合物が調製された:0.7gのBHT、560gのEHA、140gのGMA、35gのMMP。
【0044】
試料7のモノマーエマルション−36gのEH−40(70%)が300gのDI水に溶解された。以下の化学物質を、撹拌された溶液へ徐々に加えることにより、乳化されたモノマー混合物が調製された:0.7gのBHT、455gのEHA、245gのGMA、35gのMMP。
【0045】
比較試料aのモノマーエマルション−40gのX−405(70%)が400gのDI水に溶解された。以下の化学物質を、撹拌された溶液へ徐々に加えることにより、乳化されたモノマー混合物が調製された:0.7gのBHT、700gのEHA、21gのMMP。
【0046】
比較試料bのモノマーエマルション−36gのEH−40(70%)が400gのDI水に溶解された。以下の化学物質を、撹拌された溶液へ徐々に加えることにより、乳化されたモノマー混合物が調製された:0.7gのBHT、700gのEHA、35gのMMP。
【0047】
実施例1〜7及び比較例A〜B.試験結果
【表1.1】
注:試料1は実施例1で用いられる乳化重合体;試料2は実施例2で用いられる乳化重合体;のように対応する。比較試料aは比較例Aで用いられる乳化重合体、比較試料bは比較例Bで用いられる乳化重合体である。
【0048】
【表1.2】
共重合された(メタ)アクリル酸エステルの組成物をBAからEHAに変更した場合にも、色の表出に大きな差異はみられない。
【0049】
【表1.3】
本発明の重合体の使用量を増加させることで、色の表出(実施例6に対する実施例6’)に恩恵があるが、5〜20重量%のGMAレベルの効果はあまり見られない。
【0050】
【表1.4】
乳化重合体中のGMAは、GMAを含まない乳化重合体よりも良い色の表出を革にもたらす。GMAレベルが高すぎると(>35%)、効果は減衰し得る。
【0051】
【表1.5】
GMA含有重合体は、クロムフリー革によるより良い吸収を示し、それにより、より濁りの少ないフロートを示す。
【0052】
【表1.6】
GMAレベル、又はGMA含有乳化重合体の使用量のレベルを増加させることは、湿っている感覚を向上させることにより、銀面の表面の感触を改善する。
【0053】
実施例8.クロムフリー再なめし革の作製と評価
ピペラジン(AR)混合物である再なめし剤化合物が、再なめし加工において、45℃で90分間、ウェットホワイト革に加えられた。材料は、ウェットホワイト皮に対して3%(固体%)(皮の重量を100%とした場合)として加えられた。皮は90分間ドラミングされ、その後24時間乾燥され、手触り又は機器による試験で特性が評価された。表8.1は、各皮の最終的特性を示す。
【0054】
【表8.1】
BLC柔軟性については、値が高いほど革が柔軟であることを示す。注:実施例8及び9の染色強度は互いに相対的に評価された。ピペラジン(AR)混合物は、リン酸ピペラジンとピロリン酸ピペラジンとの、モル比1.0/0.8の混合物である。
【0055】
本発明の実施例8は、比較例に比べて改善された柔軟性を提供する。
【0056】
実施例9.クロムフリー再なめし革の作製と評価
実施例9では、水性乳化重合体である試料3が、2:1(固体比)でピペラジン(AR)混合物と混合された。3%(固体%)(皮の重量を100%とした場合)のブレンド混合物が、再なめし加工において、ウェットホワイト皮に加えられた。条件は実施例8で用いられたものと同様である。表9.1は、各皮の最終的特性を示す。
【0057】
【表9.1】
BLC柔軟性については、値が高いほど革が柔軟であることを示す。注:実施例8及び9の染色強度は互いに相対的に評価された。
【0058】
水性乳化重合体(本発明の実施例9)と共にピペラジン混合物を用いることは、比較例に比べてより良い柔軟性(手触り)及び染色強度(目視検査)を革に付与した。