(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記吐水孔に前記第1内部主流が先に供給されることにより、前記第2主流より前記第1主流の流量が多くなるように第1主流及び第2主流が形成され、その後に前記吐水孔に前記第1内部主流及び前記第2内部主流が供給されることにより、前記第1主流より前記第2主流の流量が多くなるように第1主流及び第2主流が形成されることを特徴とする請求項4または6に記載の水洗大便器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の水洗大便器のように、各リム吐水部から吐水した洗浄水により鉢面部内を旋回する旋回流を形成する場合、水量を抑えつつ鉢面部内の広い範囲を洗浄できる利点があるものの、溜水部に流入する水流の水勢が弱くなるという問題点もある。つまり、特許文献1の水洗大便器では、第1リム吐水部、第2リム吐水部から鉢面部の立面部に沿うように洗浄水が吐水され、各洗浄水は鉢面部内を旋回してから溜水部に流入している。よって、各洗浄水は鉢面部内を旋回する過程で水勢が失われるうえ、鉢面部の立面部と当たることで勢いが失われてしまい、溜水部には水勢の弱い水流しか流入できなくなる。溜水部に流入する水流の水勢が弱いと、溜水部内の汚物を排水路に排出し難くなるため、その改善が求められる。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされ、その目的は、鉢面部内を旋回流により洗浄しつつ、汚物の排出能力を高められる水洗大便器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の水洗大便器は、鉢面部と、鉢面部の下方に形成される溜水部と、を有する便鉢と、溜水部の底部に形成される入口を通して溜水部内に連通される排水路と、鉢面部内に洗浄水を吐き出し、鉢面部内で旋回する第1主流を形成する第1吐水部と、溜水部に向けて洗浄水を吐き出し、鉢面部内から溜水部に流入する第2主流を形成する第2吐水部と、を備え、第1主流が第2主流と合流することにより、第2主流の水勢を増幅させるように構成される。
この態様によれば、吐水孔から溜水部に向けて吐き出される洗浄水により第2主流が形成されるため、溜水部以外に向けて洗浄水を吐き出すよりも、強い水勢の第2主流が溜水部内に流入できる。また、第1主流と第2主流との合流により第2主流の水勢を増幅させるため、更に強い水勢の第2主流が流入でき、溜水部内の汚物を排水路に排出させ易くなる。よって、鉢面部内を旋回する第1主流により鉢面部内を洗浄しつつ、汚物の排出能力を高められる。
【0008】
前述の態様において、溜水部は、第2主流によって、排水路の入口に上から下に向かう誘導流を形成するように構成されてもよい。
この態様によれば、溜水部内に流入した強い水勢の第2主流により、強い水勢の誘導流を形成でき、その誘導流により溜水部内の汚物を排水路に勢いよく押し流せるようになり、汚物の排出能力を更に高められる。
【0009】
前述の態様において、第2主流は、溜水部の内周面に沿って流入してもよい。
この態様によれば、第2主流は溜水部の内周面に沿ってスムーズに方向変換し易くなる。よって、第2主流の流入方向前方に位置する壁面に第2主流が衝突するときの勢いを水平方向に逃がし易くなり、鉢面部内への第2主流の乗り上げを防止できる。
【0010】
前述の態様において、第1主流は、鉢面部内での旋回途中に第1分流と第2分流を形成し、第1分流は、鉢面部内を更に旋回してから鉢面部内で第2主流と合流し、第2分流は、溜水部内の第2主流と合流し、これらにより、第2主流の水勢を増幅させてもよい。
この態様によれば、鉢面部内の広い範囲を第1主流により洗浄しつつ、多くの第1主流を無駄にせずに第2主流の水勢を大きく増幅できる。
【0011】
前述の態様において、第1吐水部と第2吐水部は、鉢面部に形成される単一の吐水孔であってもよい。
この態様によれば、洗浄水を吐き出して第1主流、第2主流を形成するうえで、別々の吐水孔を鉢面部に設けずともよくなり、清掃時の作業性が良好になる。
【0012】
前述の態様において、吐水孔の上流側に設けられる通水部と、通水部内に洗浄水を吐き出し、吐水孔に供給される第1内部主流を形成する第1吐出部と、通水部内に洗浄水を吐き出し、吐水孔に供給される第2内部主流を形成する第2吐出部と、を備え、吐水孔に供給される第1内部主流及び第2内部主流により第1主流及び第2主流が形成されてもよい。
この態様によれば、各内部主流が吐水孔に供給されるときの水勢、流れ方向、流量等の調整により、第1主流、第2主流の水勢、流れ方向、流量等を様々に調整できる。
【0013】
前述の態様において、吐水孔に第1内部主流が先に供給されることにより、第2主流より第1主流の流量が多くなるように第1主流及び第2主流が形成され、その後に吐水孔に第1内部主流及び第2内部主流が供給されることにより、第1主流より第2主流の流量が多くなるように第1主流及び第2主流が形成されてもよい。
この態様によれば、吐水孔に第1内部主流が供給されている状態では、吐水孔から吐き出される洗浄水の多くを第1主流に用い、鉢面部内の汚物を溜水部内に洗い落とし易くなる。また、鉢面部内の広い範囲の汚物を第1主流により洗い落とした後は、多くの洗浄水を第1主流に用いても、汚物の排出能力が向上し難く洗浄水が無駄になり易い。この点、吐水孔に第1内部主流、第2内部主流が供給されている状態では、汚物の排出能力の向上に寄与し難い第1主流の流量を減らし、排出能力の向上に寄与する第2主流の流量を多くでき、洗浄水の無駄を抑えつつ汚物の排出能力を高められる。
【0014】
前述の態様において、通水部は、第1内部主流又は第2内部主流の何れか一方が衝突し、その衝突した内部主流を吐水孔に導く導水部を有してもよい。
この態様によれば、第1内部主流又は第2内部主流の一方は導水部に衝突して水勢を弱めてから吐水孔に導かれるため、第1内部主流又は第2内部主流の他方と合流するときに生じる飛沫を低減できる。
【0015】
前述の態様において、吐水孔は便鉢内と通水部内を隔てる壁部に形成され、導水部は、壁部により一部が形成されてもよい。
この態様によれば、吐水孔は導水部の近傍に設けられることになる。よって、導水部に衝突した内部主流は導水部の近傍にある吐水孔から早期に吐き出され、通水部内の他の箇所に流出し難くなり、吐水孔からは大流量の内部主流を吐き出し易くなる。この結果、通水部に供給した多くの洗浄水を無駄にせずに大流量の主流を便鉢内に形成でき、便鉢内の洗浄力を高められる。
【0016】
前述の態様において、第1内部主流及び第2内部主流は通水部内で合流した後に吐水孔から吐き出されてもよい。
この態様によれば、各内部主流を便鉢内で合流させるよりも、各内部主流が合流したときに生じる飛沫の飛散範囲を制限でき、便鉢内から外側への飛沫の飛散を防止できる。
【0017】
前述の態様において、通水部の内壁面には、吐水孔に向かうにつれて通水部の高さ寸法を狭めるように傾斜する誘導面が形成されてもよい。
この態様によれば、吐水孔に向けて供給される内部主流の一部が誘導面に当たると、その水流は誘導面に沿って吐水孔に誘導されることで整流される。この結果、吐水孔の直前での水流の乱れを抑えられ、吐水孔からの飛沫の飛散を抑えられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、鉢面部内を旋回する第1主流により鉢面部内を洗浄しつつ、汚物の排出能力を高められる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、各実施形態では、同一の構成要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、各図面では、説明の便宜のため、構成要素の一部を適宜省略する。
【0021】
[第1の実施の形態]
図1は第1実施形態に係る水洗大便器10の側面断面図である。以下の説明では、水洗大便器10の便座(図示せず)に通常の姿勢で座る人の向きを基準として前後左右を表す。水洗大便器10は、便器本体12の前部に設けられる便鉢14を備える。便鉢14は、上側に開放する鉢面部16と、鉢面部16の下縁部から下方に窪んで形成される溜水部18とを有する。
【0022】
図2は水洗大便器10の平面断面図である。
鉢面部16は、平面視にて左右寸法より前後寸法の大きい楕円状に形成される。溜水部18は、平面視にて便鉢14の左右方向の略中央位置であって、前後方向の中央部分より後方寄りの位置に配置される。
【0023】
鉢面部16は、
図1に示すように、汚物を受けるための受け面部22と、受け面部22の上縁部から略鉛直に立ち上がる立面部24と、を有する。受け面部22と立面部24は環状に連続し、受け面部22は鉢面部16の中央側に向けて下り勾配で傾斜する。溜水部18は、底部26と、鉢面部16の下縁部と底部26を接続する立壁部28と、を有する。底部26の後方領域には便鉢14内の汚物を排出するための排水路30の入口32が形成される。立壁部28は鉢面部16の下縁部から垂下するとともに環状に連続して設けられる。立壁部28は、水平面に対する勾配が受け面部22より大きくなる。
【0024】
立壁部28は、
図2に示すように、左右一方寄りの前側、つまり、右前側に設けられる右前壁部34(第1壁部)と、左右他方寄りの前側、つまり、左前側に設けられる左前壁部36(第2壁部)とを含む。右前壁部34と左前壁部36は各々の前端部が接続され、その接続部は外向きに凸状に湾曲する。また、右前壁部34及び左前壁部36は、底部26に対して、外向きに凸状に湾曲する角部27を介して接続される。
【0025】
排水路30は、
図1に示すように、入口32を通して溜水部18内に連通される。排水路30は、上流側に設けられるトラップ部38と、下流側に設けられる接続配管40とを有する。トラップ部38の一部には洗浄水が溜まり、通水方向での空気の流れが洗浄水により遮断される。このとき、溜水部18内には洗浄水が溜水42として貯溜される。接続配管40は、トラップ部38の下流端部に設けられる排出口44と、便器本体12が設置される床面46に開口する排水管の流入口(図示せず)とを連通する。接続配管40には排出口44の下側に絞り部48が形成される。排水路30を通して洗浄水が排出されるとき、排水路30内では洗浄水が絞り部48と衝突等して水膜が形成され、水膜によりサイホン作用の発生が促進される。
【0026】
図3は
図2のA−A線断面図である。
鉢面部16の後部には、
図2、
図3に示すように、吐水孔50が形成される。吐水孔50は、溜水部18より後方であって、便鉢14の前方から見て左右方向の中心位置より左寄りの位置に形成される。また、吐水孔50は立面部24の高さ方向の途中位置に形成される。吐水孔50は左右方向に長い長孔である。吐水孔50からは洗浄水が吐き出され、後述するように、鉢面部16の右側領域に向かう第1主流F1と、溜水部18に向かう第2主流F2とが形成される。
【0027】
便器本体12の上面部には、
図1に示すように、後述する通水部76の後方に収納部52が形成される。収納部52は便器本体12の上面部にて窪んで形成される。収納部52上には洗浄水を貯留する貯水タンク56が取り付けられる。収納部52内には貯水タンク56から供給される洗浄水を分配する分配器58の一部が配置される。
【0028】
分配器58は、
図2に示すように、貯水タンク56から洗浄水が流入する流入部60と、流入部60の下流端部から左右方向の外向きに分岐して設けられる左側分岐部62(第1分岐部)及び右側分岐部64(第2分岐部)とを有する。
【0029】
流入部60は上下方向に延在する管体であり、その上端部が貯水タンク56の排水口(図示せず)に接続される。左側分岐部62及び右側分岐部64は可撓性及び伸縮性を有する蛇腹状の管体であり、収納部52に形成される挿通孔66に挿通される。分配器58には、流入部60と各分岐部62、64との根元部の前方に接続口68が設けられ、その接続口68には右側吐出部70(第1吐出部)が接続される。右側吐出部70は硬質な管体であり、収納部52の挿通孔66に挿通される。左側分岐部62の下流端部には左側吐出部72(第2吐出部)が接続される。左側吐出部72は管体であり、可撓性及び伸縮性を有する蛇腹状に一部が構成される。右側分岐部64の下流端部74は閉塞される。
【0030】
図4は便器本体12に設けられる中空構造の通水部76の内部を示す平面断面図である。
便器本体12には、便鉢14の後方に通水部76が設けられる。通水部76は吐水孔50の上流側に設けられる。通水部76は、便鉢14の鉢面部16の一部であって、便鉢14内と通水部76内とを隔てる前壁部78を有する。
【0031】
通水部76は、前後方向の中間位置で左右方向の内寸法を狭めるとともに、その中間位置から前後方向の両側に向かうにつれて内寸法を広げる形状に形成される段差部80を有する。通水部76の下壁面82は、段差部80を境界として左右方向内側の方が外側より低位置となるように高低差が設けられる。通水部76の左右方向の内寸法が狭くなる部位には孔壁部84が設けられ、孔壁部84内には上下に貫通する取付孔86が形成される。取付孔86には、便器本体12に便座を取り付けるためのねじ等の固定具(図示せず)が挿通される。
【0032】
通水部76の下壁面82には、勾配を有する案内領域83が設けられる。案内領域83は、本例では、下壁面82の全域に亘り設けられる。案内領域83の勾配は、前壁部78と下壁面82との間の隅角部85の左右方向中心位置(
図4の領域B1)まで、案内領域83上の洗浄水を案内可能に設けられる。本図では案内領域83の勾配を矢印で示す。
【0033】
通水部76には、鉢面部16寄りの位置に導水部88が設けられる。導水部88は、前壁部78と段差部80との一部により前後に挾まれて形成される。導水部88は、便鉢14の前方から見て左右方向の中心位置より左寄りの位置に形成される吐水孔50よりも、更に左側にずれた位置に設けられる。導水部88は通水部76内で左右方向の外側に袋小路となるように形成される。
【0034】
図5は
図2のB−B線断面の一部を示す図である。
右側吐出部70の先端部には、
図2、
図5に示すように、右側吐出口90(第1吐出口)が形成される。右側吐出口90は、右側吐出部70の先端部から右向きであって斜め前側に向けて開放する。右側吐出口90からは吐水孔50に向けて洗浄水が吐き出されて第1内部主流F3が形成される。左側吐出部72の先端部には、左側吐出口92(第2吐出口)が形成される。左側吐出口92は、左側吐出部72の先端部から左右方向の一方である右向きであって、斜め下側に向けて開放する。左側吐出口92からは導水部88の後側内壁面88aに向けて洗浄水が吐き出されて第2内部主流F4が形成される。本図では各内部主流F3、F4の流れ方向に符号を付して示す。
【0035】
次に、以上の水洗大便器10を用いた便鉢14の洗浄方法とともに、洗浄水の流れ方を説明する。
図1に示すように、貯水タンク56内の洗浄水を排水して便器洗浄を行うと、分配器58に洗浄水が供給される。
図2に示すように、分配器58には流入部60に洗浄水が流入し、流入した洗浄水は右側吐出部70と左側吐出部72に分配され、各吐出部70、72の吐出口90、92から洗浄水が吐き出される。
【0036】
図6は通水部76内での各内部主流F3、F4の流れ方を示す図である。本図では第1内部主流F3の流れる主な範囲に符号を付し、第2内部主流F4の流れ方向を示す矢印に符号を付して示す。
第1内部主流F3は右側吐出口90から吐水孔50に向けて流れ、吐水孔50に供給される。この流れ方向は吐水孔50を通った後に鉢面部16の右側領域16aに向かう方向となる。第1内部主流F3は、前壁部78の吐水孔50周りの部位に当たって分散しつつ、その大半が勢いよく吐水孔50から吐き出される。
【0037】
第1内部主流F3の形成に寄与する洗浄水は、分配器58内で第2内部主流F4の形成に寄与する洗浄水と分かれてから吐水孔50に供給される。各内部主流F3、F4の形成に寄与する洗浄水が分配器58で分かれてから吐水孔50に供給されるまでに通る経路の長さを経路長とすると、第1内部主流F3の形成に寄与する洗浄水の経路長は、第2内部主流F4の形成に寄与する洗浄水の経路長より短くなるように調整される。これにより、第1内部主流F3は第2内部主流F4より吐水孔50に先に供給され、その第1内部主流F3が吐水孔50から吐き出されることにより、左右方向に横長な第1吐水流Faが形成される。以下、この状態を第1状態という。
【0038】
第1吐水流Faは溜水部18の上方を一部が通るとともに、鉢面部16の右側領域16a上を残部が通るように吐水孔50から吐き出される。第1吐水流Faの一部は溜水部18の上方を通るときに分流されて第1主流F1を形成し、残部が第2主流F2を形成する。第1状態にあるとき、第2主流F2より第1主流F1の流量が多くなる。
【0039】
第2内部主流F4は左側吐出口92から導水部88の後側内壁面88aに向けて流れ、後側内壁面88aと衝突し、導水部88の左右方向の外側(
図6中左側)に送り込まれる。このとき、第2内部主流F4は、左側吐出口92から導水部88の後側内壁面88aを通るまでの間、平面視にて第1内部主流F3と交差する領域A1を通る。この第1内部主流F3と第2内部主流F4との衝突を避けるため、これらは領域A1にて高さ方向にずれた位置を通る(
図5も参照)。
【0040】
図7は通水部76内での各内部主流F3、F4の流れ方を示す他の図である。
第2内部主流F4が流れ続けると、導水部88内の洗浄水が吐水孔50に近づく方向(
図7中右側)に向けて押し出されるように導かれる。また、導水部88内の洗浄水は導水部88の下壁面82の勾配により吐水孔50に近づく側に導かれる。これらが相まって、吐水孔50には左右方向の一方である左側に向かう速度ベクトルをもつ第2内部主流F4が供給される。
【0041】
この吐水孔50には右側吐出口90から左右方向の他方である右側に向かう速度ベクトルをもつ第1内部主流F3が供給される。吐水孔50内や直近の通水部76内を含む領域A2では、左右方向の速度ベクトルが異なる第1内部主流F3、第2内部主流F4が合流する。合流した水流が吐水孔50から便鉢14内に吐き出されることにより、第2吐水流Fbが形成される。以下、この状態を第2状態という。
【0042】
第2状態にあるとき、第2内部主流F4は、導水部88と衝突していることから、第1内部主流F3より水勢が弱くなっている。よって、第2内部主流F4の流れ方向は、第1内部主流F3との合流により、第1内部主流F3の流れ方向に近づくように大きく変換され、第2内部主流F4の多くは吐水孔50から溜水部18に向けて流れるようになる。この結果、第2吐水流Fbは、第1吐水流Faよりも溜水部18に向かう流量が多くなり、第2吐水流Fbにより形成される第1主流F1より第2主流F2の流量が多くなる。このとき、第1主流F1の形成には第1内部主流F3が主に寄与し、第2主流F2の形成には第2内部主流F4が主に寄与する。
【0043】
図8は便鉢14内での各主流F1、F2の流れ方を示す平面断面図である。本図では溜水部18に第2主流F2が流入し始める初期段階を示す。
第1主流F1は、吐水孔50から鉢面部16の右側領域16a、前側領域16b、左側領域16cを順に経由して後側領域16dに至るように、平面視にて鉢面部16内で反時計方向に旋回する。本図では第1主流F1が鉢面部16の前側領域16bまで到達した状態を示す。第1主流F1は、鉢面部16の受け面部22の上縁部や立面部24に沿って流れる。
【0044】
第2主流F2は、吐水孔50から溜水部18に向けて流れる。第2主流F2は、鉢面部16内から溜水部18内に落ち込むように流入する。第2主流F2は、溜水部18の内周面の横側領域に沿って流入する。ここでいう「溜水部18の内周面に沿って流入する」とは、第2主流F2が溜水部18内に流入した直後において、流れ方向横側に位置する溜水部18の内周面18aを通る接線に沿うように流入することをいう。
【0045】
図9は便鉢14内での各主流F1、F2の流れ方を示す側面断面図である。
溜水部18に流入した第2主流F2は、溜水部18の右前壁部34と当たることで溜水部18の左前壁部36に向けて流れ方向を変えつつ流れた後に左前壁部36と衝突する。左前壁部36と衝突する主流F2は、溜水部18の底部26と左前壁部36を接続する湾曲する角部27により押し上げられるように上昇する。また、左前壁部36と衝突する主流F2は、溜水部18の左前壁部36と当たることで溜水部18の後側領域に向けて流れ方向が変換される。これらにより、左前壁部36と衝突する主流F2は、溜水部18内で上昇しつつ、水流の流れ方向が排水路30の入口32に向けて変換され、排水路30の入口32に上から下に向かう誘導流F2bが第2主流F2の一部として形成される。
【0046】
図10は便鉢14内での各主流F1、F2の流れ方を示す他の平面断面図である。本図では初期段階より時間が経過した後の途中段階を示す。
第1主流F1は、鉢面部16内での旋回途中に前側領域16bにて第1分流F1aと第2分流F1bを形成する。第1分流F1aは、鉢面部16の左側領域16cを経由して後側領域16dまで流れるように更に旋回してから、鉢面部16内で第2主流F2と合流する(範囲A4参照)。第1分流F1aは、第2主流F2と合流するとき、第2主流F2と同様に溜水部18内に向かう速度ベクトルをもち、鉢面部16内の第2主流F2の水勢を増幅させる。第2主流F2は、水勢を増幅させた状態で溜水部18内に流入し、初期状態より水勢の強い誘導流F2bを形成する。第2分流F1bは鉢面部16の左寄りの前側領域16bから溜水部18内の排水路30の入口32に向けて流入し、溜水部18内の第2主流F2である誘導流F2bと合流する(範囲A5参照)。第2分流F1bは、誘導流F2bと同様に排水路30の入口32に向かう速度ベクトルをもち、溜水部18内の誘導流F2bの水勢を増幅させる。
【0047】
ここで、初期段階(
図8の段階)にあるとき、溜水部18内の汚物は誘導流F2bにより排水路30内に勢いよく押し流され、排水路30を通して外部の排水管に排出される。初期状態にあるとき、通水部76内での水流の状態は、第1状態(
図6の状態)となってから第2状態(
図7の状態)に変わる。よって、初期状態にあるとき、まずは第1状態となることで第1主流F1及び第2主流F2全体の流量は比較的に少なくなり、この後に第2状態となることで第1主流F1及び第2主流F2全体の流量は第1状態より多くなる。また、初期状態にあるとき、まずは第1状態になることで第1主流F1の方が第2主流F2より流量が多くなり、この後に第2状態となることで第2主流F2の方が第1主流F1より流量が多くなる。
【0048】
この後、便鉢14内での水流の状態は途中段階(
図10の段階)に変わる。途中段階にあるときも初期段階にあるときと同様に汚物は誘導流F2bにより排水路30内に押し流されるが、途中段階にあるときは誘導流F2bの水勢が初期段階より大きく増幅され、初期段階より勢いよく押し流される。
【0049】
以上の通り、本実施形態に係る水洗大便器10では、吐水孔50から溜水部18に向けて吐き出される洗浄水により第2主流F2が形成されるため、溜水部18以外に向けて洗浄水が吐き出されるよりも、強い水勢の第2主流F2が溜水部18内に流入できる。また、第1主流F1と第2主流F2との合流するにより第2主流F2の水勢を増幅させるため、更に水勢の強い第2主流が流入でき、溜水部18内の汚物を排水路30に排出させ易くなる。よって、鉢面部16を旋回する第1主流F1により鉢面部16内を洗浄しつつ、汚物の排出能力を高められる。このとき、溜水に浮遊する浮遊性汚物を特に効果的に排出できる。
【0050】
また、吐水孔50から溜水部18に向けて吐き出される洗浄水により第2主流F2が形成されるため、溜水部18内に早期に第2主流F2が流入できる。この結果、トラップ部38内に貯められた洗浄水を排出口44に早期に送り出せ(
図1参照)、排水路30内で洗浄水を絞り部48と衝突等させて早期に水膜を形成でき、早期にサイホン作用を発生させられる。
【0051】
また、溜水部18は、第2主流によって、排水路30に向かう誘導流F2bを形成するように構成される。よって、溜水部18内に流入した強い水勢の第2主流F2により、強い水勢の誘導流F2bを形成でき、その誘導流F2bにより溜水部18内の汚物を排水路30に勢いよく押し流せるようになり、汚物の排出能力を更に高められる。
【0052】
また、第2主流F2は溜水部18の内周面に沿って流入するため、溜水部18の内周面に沿ってスムーズに方向変換し易くなる。かりに、第2主流F2が溜水部18の内周面と大きく交差する方向に流入すると、第2主流F2の流入方向前方に位置する壁面との衝突時の勢いにより鉢面部16内に第2主流F2が乗り上げる恐れがある。この点、本実施形態によれば、第2主流F2の流入方向前方に位置する壁面に第2主流F2が衝突するときの勢いを水平方向に逃がし易くなり、鉢面部16内への第2主流F2の乗り上げを防止できる。また、第2主流F2の多くを誘導流F2bの形成に利用でき、少ない流量でも水勢の強い誘導流F2bを形成できる。
【0053】
また、第1主流F1が形成する第1分流F1aは鉢面部16内を更に旋回してから第2主流F2と合流して水勢を増幅させ、第1主流F1が形成する第2分流F1bは溜水部18内で第2主流F2である誘導流F2bと合流して水勢を増幅させる。よって、鉢面部16内の広い範囲を第1主流F1により洗浄しつつ、多くの第1主流F1を無駄にせずに第2主流F2の水勢を大きく増幅できる。
【0054】
また、第1主流F1、第2主流F2が単一の吐水孔50から吐き出される。よって、洗浄水を吐き出して第1主流F1、第2主流F2を形成するうえで、別々の吐水孔50を鉢面部16に設けずともよくなり、鉢面部16への加工作業が減るうえ、清掃時の作業性が良好になる。また、吐水孔50を複数ではなく単一にした場合でも、鉢面部16内を旋回する第1主流F1や、溜水部18内に誘導流F2bを形成する第2主流F2を形成でき、便鉢14の洗浄力の低下を防止できる利点もある。
【0055】
また、通水部76内には別々の第1内部主流F3、第2内部主流F4が形成され、各内部主流F3、F4により第1主流F1、第2主流F2が形成される。よって、単一の吐水孔50から洗浄水を吐き出して第1主流F1、第2主流F2を形成する場合でも、各内部主流F3、F4が吐水孔50に供給されるときの水勢、流れ方向、流量等の調整により、第1主流F1、第2主流F2の水勢、流れ方向、流量等を様々に調整できる。各内部主流F3、F4の水勢等の因子と各主流F1、F2の水勢等の因子との相関関係は、予め実験、解析等により求めておけばよい。これにより、この相関関係に基づいて、各主流F1、F2の水勢等について所望の条件を満たすように、各内部主流F3、F4の水勢等を調整できる。
【0056】
また、
図6に示す第1状態では第2主流F2より第1主流F1の流量が多く、第2状態では第1主流F1より第2主流F2の流量が多くなる。よって、第1状態では、吐水孔50から吐き出される洗浄水の多くを第1主流F1に用い、鉢面部16内の汚物を溜水部18内に洗い落とし易くなる。また、鉢面部16内の広い範囲の汚物を第1主流F1により洗い落とした後は、多くの洗浄水を第1主流F1に用いても、汚物の排出能力が向上し難く洗浄水が無駄になり易い。この点、第2状態では、汚物の排出能力の向上に寄与し難い第1主流F1の流量を減らしたうえで、排出能力の向上に寄与する第2主流F2の流量を多くでき、洗浄水の無駄を抑えつつ汚物の排出能力を高められる。
【0057】
また、別々の第1内部主流F3、第2内部主流F4を単一の吐水孔50に供給するうえでは、吐水孔50を通る前後で各内部主流F3、F4が合流し易くなる。各内部主流F3、F4が合流するとき、その衝突により飛沫が生じ易くなり、便鉢14内から外側に飛沫が飛散する恐れがある。この点、本実施形態によれば、第2内部主流F4は導水部88に衝突して水勢を弱めてから吐水孔50に導かれるため、第1内部主流F3と合流するときに生じる飛沫を低減でき、便鉢14内から外側への飛沫の飛散を防止できる。
【0058】
また、吐水孔50は前壁部78に形成され、導水部88は前壁部78により一部が形成されるため、吐水孔50は導水部88の近傍に設けられることになる。よって、導水部88に衝突した第2内部主流F4は導水部88の近傍にある吐水孔50から早期に吐き出され、通水部76内の他の箇所に流出し難くなる。よって、吐水孔50からは大流量の第2内部主流F4を吐き出し易くなる。この結果、通水部76に供給した多くの洗浄水を無駄にせずに大流量の第2主流F2を便鉢14内に形成でき、便鉢14内の洗浄力を高められる。
【0059】
また、第1内部主流F3及び第2内部主流F4が通水部76内で合流した後に吐水孔50から吐き出されるため、各内部主流F3、F4を便鉢14内で合流させるよりも、各内部主流F3、F4が合流したときに生じる飛沫の飛散範囲を制限できる。よって、便鉢14内から外側への飛沫の飛散を防止できる。
【0060】
なお、貯水タンク56の大きさに応じて分配器58に供給される洗浄水に働く水圧(以下、供給水圧という)が変化する。この供給水圧が過度に大きいと、便鉢14内に吐水孔50から吐き出される洗浄水の水勢が過度に強くなり、便鉢14内で飛沫が飛散し易くなる。この対策として、本実施形態に係る分配器58は、以下のように構成される。
【0061】
図11は分配器58の内部構造の一部を示す部分断面側面図である
分配器58の流入部60は軸方向に分割した形状の上流側管部60aと下流側管部60bを有する。これらは下流側管部60bの上端部内に上流側管部60aの下端部が圧入等することにより脱着可能に接続される。上流側管部60aの内部には流入部60の通水方向での流路断面を狭める絞り孔60cが形成される。貯水タンク56から供給される洗浄水は、絞り孔60cを通ることで供給水圧より減圧されてから、分配器58の各吐出部70、72に供給される。よって、供給水圧が大きい場合でも、吐水孔50から吐き出される洗浄水の水勢を弱め、便鉢14内での飛沫の飛散を抑えられる。
【0062】
なお、複数種の上流側管部60aとして、絞り孔60cが大きいもの、小さいもの、絞り孔60cがないもの等を予め準備しておいてもよい。下流側管部60bに接続される上流側管部60aを替えれば、各吐出部70、72に供給される洗浄水の水圧を段階的に調整可能となる。
【0063】
[第2の実施の形態]
図12は通水部76の吐水孔50周りを示す側面断面図であり、
図12(a)は第1実施形態、
図12(b)は第2実施形態のものを示す。
第1実施形態に係る通水部76は、
図12(a)に示すように、前壁部78と上壁部94が角部96を介して接続され、前壁部78が角部96からほぼ鉛直に延在する。この場合、吐水孔50に向けて供給される第1内部主流F3の一部が前壁部78の内壁面に当たることで、吐水孔50の直前の領域A6で水流が大きく乱れ易くなり、吐水孔50から飛沫が飛散し易くなる恐れがある。
【0064】
この対策として、第2実施形態に係る通水部76の内壁面には、
図12(b)に示すように、吐水孔50に向かうにつれて通水部76の高さ寸法を狭めるように傾斜する誘導面98が形成される。誘導面98は、通水部76内にて凹状に湾曲して形成される。誘導面98は通水部76の上壁面に形成される。
【0065】
以上の水洗大便器10によれば、吐水孔50に向けて供給される第1内部主流F3の一部が誘導面98に当たると、その水流は誘導面98に沿って吐水孔50に誘導されることで整流される。この結果、吐水孔50の直前での水流の乱れを抑えられ、吐水孔50からの飛沫の飛散を抑えられる。
【0066】
[第3の実施の形態]
図13は第3実施形態に係る水洗大便器10を示す平面図である。
第1実施形態では分配器58を用いて通水部76内に洗浄水を吐き出して第1内部主流F3、第2内部主流F4を形成し、各内部主流F3、F4を吐水孔50から吐き出して第1主流F1、第2主流F2を形成する例を説明した。本実施形態では、通水部76に貯水タンク56から吐水孔50に至る通水路100が形成される。貯水タンク56から通水路100に洗浄水が供給されると、通水路100内を通して吐水孔50に洗浄水が供給される。吐水孔50からは洗浄水が吐き出され、左右方向に横長な吐水流Fcが形成される。
【0067】
吐水流Fcは溜水部18の上方を一部が通るとともに、鉢面部16上を残部が通るように吐き出される。吐水流Fcの一部は溜水部18の上方を通るときに分流されて第1主流F1を形成し、残部が第2主流F2を形成する。第1主流F1、第2主流F2は第1実施形態と同様に、初期段階では溜水部18に第2主流F2が流入し、途中段階では第1主流F1が第2主流F2と合流して第2主流F2の水勢を増幅させる。本実施形態のように、吐水孔50から吐き出される洗浄水により第1主流F1、第2主流F2を形成するうえでは、分配器58を用いなくともよい。
【0068】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示すにすぎない。また、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能である。
【0069】
各実施形態では、第1主流F1、第2主流F2を形成するため、単一の吐水孔50から吐き出される洗浄水を用いる例を説明した。これらを一般化すると、水洗大便器10は、鉢面部16内に洗浄水を吐き出して第1主流F1を形成する第1吐水部102(
図2参照)と、溜水部18に向けて洗浄水を吐き出して第2主流F2を形成する第2吐水部104とを備え、第1吐水部102及び第2吐水部104が単一の吐水孔50により構成される例を説明したことになる。この他にも、第1吐水部102と第2吐水部104とが鉢面部16に形成される別々の吐水孔により構成されてもよい。
【0070】
また、各実施形態に係る水洗大便器10では、溜水部18に第2主流F2が流入し始める初期段階と、第1主流F1及び第2主流F2が合流した後の途中段階との何れにおいても、溜水部18に水勢の異なる誘導流F2bのみが生じる場合を説明した。この他にも、初期段階においては、溜水部18内に旋回流を主に生じさせ、汚物を旋回流の中心側に集めるようにし、途中段階においては、溜水部18内に誘導流F2bを主に生じさせ、旋回流の中心側に集められた汚物を誘導流F2bにより排水路30内に勢いよく押し流すようにしてもよい。この場合でも、吐水孔50から溜水部18に向けて吐き出される洗浄水により第2主流F2が形成されるため、途中段階において、強い水勢の第2主流F2が溜水部18内に流入でき、溜水部18内の汚物を排水路30に排出させ易くなる。よって、鉢面部16内を旋回する第1主流F1により鉢面部16内を洗浄しつつ、汚物の排出能力を高められる。
【0071】
溜水部18は、鉢面部16内から流入する第2主流F2によって誘導流F2bを形成するように構成されていればよく、図示の構造には限られない。
【0072】
各実施形態では、第1主流F1が第1分流F1aと第2分流F1bを形成し、第1分流F1aが鉢面部16内で第2主流F2と合流し、第2分流F1bが溜水部18内の第2主流である誘導流F2bと合流し、これらにより、誘導流F2bの水勢を増幅させる例を説明した。本発明に係る水洗大便器10では、第2主流F2により溜水部18内で誘導流F2bが生じた後、第1主流F1が第2主流と合流して誘導流F2bの水勢を増幅させればよく、第1分流F1a、第2分流F1bを形成しなくともよい。たとえば、第1主流F1が第1分流F1aを形成せずに、
図9で第2分流F1bが通る部分のみを第1主流F1が通るように洗浄水の吐出量を調整してもよい。
【0073】
各実施形態では、第2内部主流F4が導水部88の後側内壁面88aに衝突したが、その衝突位置は通水部76の内壁面であれば特に限られない。また、第2内部主流F4のみでなく、第1内部主流F3が通水部76の内壁面に衝突してもよいし、第1内部主流F3及び第2内部主流F4の両方が衝突してもよい。また、導水部88は、第1内部主流F3、第2内部主流F4の何れか一方が衝突し、その衝突した内部水流を吐水孔50に導ければよく、図示の構造には限られない。
【0074】
また、
図5、
図6の例では、領域A1にて第1内部主流F3が上側、第2内部主流F4が下側を通ったが、第1内部主流F3が下側、第2内部主流F4が上側を通ってもよい。また、
図2では、分配器58が第1吐出部70、第2吐出部72を有し、二股に分岐する例を説明したが、右側分岐部64の下流端部に管体である第3吐出部を接続し、三股に分岐してもよい。また、第1吐出部〜第3吐出部の何れか一つのみを有してもよい。
【0075】
また、鉢面部16の形状は特に限られず、便鉢14の上縁部にて内周側に突き出るひさし部が設けられてもよい。また、洗浄水の供給は、貯水タンク56を用いずに、上水道から直接に供給されてもよいし、フラッシュバルブを通して供給されてもよい。