特許第6449069号(P6449069)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6449069
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】輸液監視装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/168 20060101AFI20181220BHJP
【FI】
   A61M5/168 510
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-60387(P2015-60387)
(22)【出願日】2015年3月24日
(65)【公開番号】特開2016-179019(P2016-179019A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2018年1月16日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野坂 大喜
【審査官】 今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0099964(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0046533(US,A1)
【文献】 特開2013−81804(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/030764(WO,A1)
【文献】 特開平6−277202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/168
A61M 1/36
A61B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の血管外への輸液の漏出を監視する装置であって、
2つの光学計測部であり、前記光学計測部の各々が、前記血管へ第1の波長の第1の光を照射する第1の発光素子と、前記第1の光の前記血管からの第1の反射光を検出する第1の受光素子とを有し、前記患者の体表面に配置される2つの光学計測部と、
前記光学計測部の各々から前記第1の反射光の第1の検出値が入力される制御部とを備え、
前記血管の前記輸液が注入される部位の上流側に、一方の前記光学計測部が配置され、前記血管の前記輸液が注入される部位の下流側に、他方の前記光学計測部が配置され、
前記制御部が、
一方の前記光学計測部からの一方の前記第1の反射光の前記第1の検出値と、他方の前記光学計測部からの他方の前記第1の反射光の前記第1の検出値とに基づいて、前記第1の光が照射された際の、前記輸液の液量の第1の変化を検知し、
検知した前記第1の変化に基づいて、前記輸液の漏出を検知する、輸液監視装置。
【請求項2】
前記光学計測部の各々が、前記血管へ第2の波長の第2の光を照射する第2の発光素子をさらに有し、
前記第1の受光素子が、前記第2の光の前記血管からの第2の反射光をさらに検出し、
前記制御部に、前記光学計測部の各々から前記第2の反射光の第2の検出値がさらに入力され、
前記制御部が、さらに、
一方の前記光学計測部からの一方の前記第2の反射光の前記第2の検出値と、他方の前記光学計測部からの他方の前記第2の反射光の前記第2の検出値とに基づいて、前記第2の光が照射された際の、前記輸液の流量の第2の変化を検知し、
検知した前記第1の変化および前記第2の変化の少なくともいずれかに基づいて、前記輸液の漏出を検知する、請求項1に記載の輸液監視装置。
【請求項3】
前記光学計測部の各々が、前記血管へ第3の波長の第3の光を照射する第3の発光素子をさらに有し、
前記第1の受光素子が、前記第3の光の前記血管からの第3の反射光をさらに検出し、
前記制御部に、前記光学計測部の各々から前記第3の反射光の第3の検出値がさらに入力され、
前記制御部が、さらに、
一方の前記光学計測部からの一方の前記第3の反射光の前記第3の検出値と、他方の前記光学計測部からの他方の前記第3の反射光の前記第3の検出値とに基づいて、前記第3の光が照射された際の、前記輸液の流量の第3の変化を検知し、
検知した前記第1の変化、前記第2の変化、および前記第3の変化の少なくともいずれかに基づいて、前記輸液の漏出を検知する、請求項2に記載の輸液監視装置。
【請求項4】
前記光学計測部の各々が、前記血管へ第2の波長の第2の光を照射する第2の発光素子と、前記第2の光の前記血管からの第2の反射光を検出する第2の受光素子とをさらに有し、
前記制御部に、前記光学計測部の各々から前記第2の反射光の第2の検出値がさらに入力され、
前記制御部が、さらに、
一方の前記光学計測部からの一方の前記第2の反射光の前記第2の検出値と、他方の前記光学計測部からの他方の前記第2の反射光の前記第2の検出値とに基づいて、前記第2の光が照射された際の、前記輸液の流量の第2の変化を検知し、
検知した前記第1の変化および前記第2の変化の少なくともいずれかに基づいて、前記輸液の漏出を検知する、請求項1に記載の輸液監視装置。
【請求項5】
前記光学計測部の各々が、前記血管へ第3の波長の第3の光を照射する第3の発光素子と、前記第3の光の前記血管からの第3の反射光を検出する第3の受光素子とをさらに有し、
前記制御部に、前記光学計測部の各々から前記第3の反射光の第3の検出値がさらに入力され、
前記制御部が、さらに、
一方の前記光学計測部からの一方の前記第3の反射光の前記第3の検出値と、他方の前記光学計測部からの他方の前記第3の反射光の前記第3の検出値とに基づいて、前記第3の光が照射された際の、前記輸液の流量の第3の変化を検知し、
検知した前記第1の変化、前記第2の変化、および前記第3の変化の少なくともいずれかに基づいて、前記輸液の漏出を検知する、請求項4に記載の輸液監視装置。
【請求項6】
前記第1の波長が495nm〜960nmの範囲内にある、請求項1〜5のいずれかに記載の輸液監視装置。
【請求項7】
前記第1の波長および前記第2の波長が、620nm〜750nmの範囲、750nm〜960nmの範囲、または495nm〜620nmの範囲の互いに重複しないいずれかの範囲内にある、請求項2または4に記載の輸液監視装置。
【請求項8】
前記第1の波長、前記第2の波長、および前記第3の波長が、620nm〜750nmの範囲、750nm〜960nmの範囲、または495nm〜620nmの範囲の互いに重複しないいずれかの範囲内にある、請求項3または5に記載の輸液監視装置。
【請求項9】
患者の血管外への輸液の漏出を監視する装置であって、
2つの光学計測部であり、前記光学計測部の各々が、前記血管へ互いに異なる波長の光を照射する複数の発光素子と、前記互いに異なる波長の光の前記血管からの反射光を検出する一つまたは複数の受光素子とを有し、前記患者の体表面に配置される2つの光学計測部と、
前記光学計測部の各々から前記反射光の検出値が入力される制御部とを備え、
前記血管の前記輸液が注入される部位の上流側に、一方の前記光学計測部が配置され、前記血管の前記輸液が注入される部位の下流側に、他方の前記光学計測部が配置され、
前記制御部が、
前記互いに異なる波長の光のそれぞれについて、一方の前記光学計測部からの一方の前記反射光の前記検出値と、他方の前記光学計測部からの他方の前記反射光の前記検出値とに基づいて、前記互いに異なる波長の光が照射された際の、前記輸液の液量の変化をそれぞれ検知し、
検知した前記変化の少なくともいずれかに基づいて、前記輸液の漏出を検知する、輸液監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は輸液を監視する装置に関し、より詳細には、患者の血管外への輸液の漏出を監視することができる輸液監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療施設および福祉施設における慢性的な人員不足は、地方の施設においてより深刻な問題となっており、医療処置中または処置後において患者の容体を継続的に充分に把握することが非常に困難な状況となっている。特に医療処置に長時間を要する輸液投与においては、適切なスピードで輸液が注入されているか否かの流量管理ができることが課題とされ、これまでにセンサーの開発や機器の改良、流量低下検知時の通報のシステム化が行われてきた。
【0003】
しかし、高齢者や小児患者の増加と長期入院や長期療養が増加したことにより、また近年がん患者に対する新たな抗がん剤として、分子標的型のがん化学療法剤が多数開発され、頻繁な輸液投与によって、輸液穿刺部位の静脈血管が破損し易くなり、輸液の血管外漏出(輸液漏れ)が医療現場で多発している。米国看護協会の調査によると、化学療法患者においては、化学療法中には0.5%〜6.5%程度の頻度で抗がん剤の血管外漏出が起こっているといわれており、血管の脆弱性が高い高齢者や、栄養不良、糖尿病などの合併症を有する患者においては、高頻度で漏出が起こっていることが確認されている。
【0004】
血管外漏出が起きると、患者には、激しい疼痛や潰瘍または壊死による身体的、精神的影響が発生し、単にQOLが低下するのみならず、皮膚の損傷部位で細菌感染が起こることでさらなる治療が必要になるという問題が発生する。さらに、輸液用の中空針の差し直しによるさらなる血管破損の結果、輸液可能なルートが確保できなくなるといった問題も発生する。
【0005】
また、血管外漏出の発見が早期に行われた場合においては、冷却やステロイドの局所注射などによる医学的処置などが行われるが、確実な治療方法は未だ確立されておらず、壊死が進行する場合には外科的処置や植皮が必要となる場合もある。
【0006】
一方、医療スタッフ側には、輸液の血管外漏出の有無を早期に発見するために、頻繁に輸液の血管外漏出のチェックを行う必要が生じ、不足している医療スタッフのさらなる多忙化に拍車をかける原因ともなっている。
【0007】
医療現場においては、このような血管外漏出の発生を予防すべく、各医療機関において穿刺部位や穿刺後に針が移動しないように確実な固定処置を行うことが徹底されている。しかしながら、血管外漏出を確実に予防する方法は無く、医療スタッフのこまめな観察や、患者自身あるいは家族への指導によって、問題発生を回避する以外に方法が無いのが現状である。
【0008】
このことから、輸液の血管外漏出を早期に発見し検出可能なセンシング技術と、検知情報をリアルタイムに無線ネットワークを介して看護師や医師へ提供可能な監視通報システムの研究開発は、医療過誤を未然に防ぐというリスクマネージメントの観点において必要不可欠である。しかしながら、輸液管理システムにおいて血管外漏出の検知機能を有する有効な監視システムの実用化には、未だ至っていない。また、輸液管理に起因する皮膚障害発生の問題は、日本のみならず他の先進国等においても同様であり、医療過誤に発展した症例も少なくない。
【0009】
下記特許文献1には、輸液漏れ検出装置が開示されている。特許文献1の装置は、カテーテルを刺し留置して、カテーテルと輸液剤間の導入チューブ間に設けた金属パイプからなり輸液容器側に配置した電極と、カテーテル留置場所より離れた留置静脈上の体表に設けた電極を設置し、金属パイプ電極のうち、穿刺してあるカテーテルより遠いほうの金属パイプ電極と注射針留置場所より遠い位置に位置する方の体表面に位置する電極間に交流定電流を印加し、注射針と輸液剤間の導入チューブ間に設けた金属パイプからなる電極のうちカテーテル側に配置した方の電極と、カテーテル留置場所より離れた留置静脈上の体表に設けた2つの電極のうちカテーテル留置場所に近い方の電極との電位差を測定することにより、カテーテルが穿刺した血管からはずれて、血管外組織に該輸液剤が注入されていることを検出することを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−075540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の装置では電位差を測定するので、装置を患者に設定後、患者の皮膚表面の伝導度が汗などにより変化した場合に、電位差が変動を受けるという問題がある。
【0012】
一方、従来のその他の方式として、輸液剤の圧力を検出し、血管が注射針またはカテーテルから外れることによる輸液剤の注入抵抗の増加を検出する方法や、輸液が筋肉組織に注入されることによる四肢の径の膨張を、4電極法を用いインピーダンスの変化により検出する方法や、漏れ部位の水分の増加を超短波の吸収により検出する方法がある。しかしながら、従来のどの方式も、生体の変動の影響や検出感度に課題を有しているのが実情である。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、生体の状態の変動に影響されることなく高い検出感度で患者の血管外への輸液の漏出を監視することができる輸液監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を進めていたところ、従来の方式が着目していた、皮膚上に配置した電極や留置針の電気抵抗や電位差、輸液ポンプの圧力変化ではなく、血液が輸液によって希釈されることに着目することにより、血管外への輸液の漏出を検知する方法を見出した。すなわち、本発明者は、この知見をもとに、例えば赤色光と光センサとを用いて、輸液注入部位(穿刺部位)の血管の上流および下流において、血液による赤色光の吸収変化を光センサによって検出することにより、血管外への輸液の漏出を検知する方法を見出した。
【0015】
すなわち、本発明は、以下に示す態様を含むものである。
【0016】
上記目的を達成するための、本発明に係る輸液監視装置(1)は、患者の血管外への輸液の漏出を監視する装置であって、
2つの光学計測部であり、前記光学計測部の各々が、前記血管へ第1の波長の第1の光を照射する第1の発光素子と、前記第1の光の前記血管からの第1の反射光を検出する第1の受光素子とを有し、前記患者の体表面に配置される2つの光学計測部と、
前記光学計測部の各々から前記第1の反射光の第1の検出値が入力される制御部とを備え、
前記血管の前記輸液が注入される部位の上流側に、一方の前記光学計測部が配置され、前記血管の前記輸液が注入される部位の下流側に、他方の前記光学計測部が配置され、
前記制御部が、
一方の前記光学計測部からの一方の前記第1の反射光の前記第1の検出値と、他方の前記光学計測部からの他方の前記第1の反射光の前記第1の検出値とに基づいて、前記第1の光が照射された際の、前記輸液の液量の第1の変化を検知し、
検知した前記第1の変化に基づいて、前記輸液の漏出を検知する、輸液監視装置である。
【0017】
好ましくは、本発明に係る輸液監視装置(2)は、輸液監視装置(1)において、
前記光学計測部の各々が、前記血管へ第2の波長の第2の光を照射する第2の発光素子をさらに有し、
前記第1の受光素子が、前記第2の光の前記血管からの第2の反射光をさらに検出し、
前記制御部に、前記光学計測部の各々から前記第2の反射光の第2の検出値がさらに入力され、
前記制御部が、さらに、
一方の前記光学計測部からの一方の前記第2の反射光の前記第2の検出値と、他方の前記光学計測部からの他方の前記第2の反射光の前記第2の検出値とに基づいて、前記第2の光が照射された際の、前記輸液の流量の第2の変化を検知し、
検知した前記第1の変化および前記第2の変化の少なくともいずれかに基づいて、前記輸液の漏出を検知する。
【0018】
好ましくは、本発明に係る輸液監視装置(3)は、輸液監視装置(2)において、
前記光学計測部の各々が、前記血管へ第3の波長の第3の光を照射する第3の発光素子をさらに有し、
前記第1の受光素子が、前記第3の光の前記血管からの第3の反射光をさらに検出し、
前記制御部に、前記光学計測部の各々から前記第3の反射光の第3の検出値がさらに入力され、
前記制御部が、さらに、
一方の前記光学計測部からの一方の前記第3の反射光の前記第3の検出値と、他方の前記光学計測部からの他方の前記第3の反射光の前記第3の検出値とに基づいて、前記第3の光が照射された際の、前記輸液の流量の第3の変化を検知し、
検知した前記第1の変化、前記第2の変化、および前記第3の変化の少なくともいずれかに基づいて、前記輸液の漏出を検知する。
【0019】
好ましくは、本発明に係る輸液監視装置(4)は、輸液監視装置(1)において、
前記光学計測部の各々が、前記血管へ第2の波長の第2の光を照射する第2の発光素子と、前記第2の光の前記血管からの第2の反射光を検出する第2の受光素子とをさらに有し、
前記制御部に、前記光学計測部の各々から前記第2の反射光の第2の検出値がさらに入力され、
前記制御部が、さらに、
一方の前記光学計測部からの一方の前記第2の反射光の前記第2の検出値と、他方の前記光学計測部からの他方の前記第2の反射光の前記第2の検出値とに基づいて、前記第2の光が照射された際の、前記輸液の流量の第2の変化を検知し、
検知した前記第1の変化および前記第2の変化の少なくともいずれかに基づいて、前記輸液の漏出を検知する。
【0020】
好ましくは、本発明に係る輸液監視装置(5)は、輸液監視装置(4)において、
前記光学計測部の各々が、前記血管へ第3の波長の第3の光を照射する第3の発光素子と、前記第3の光の前記血管からの第3の反射光を検出する第3の受光素子とをさらに有し、
前記制御部に、前記光学計測部の各々から前記第3の反射光の第3の検出値がさらに入力され、
前記制御部が、さらに、
一方の前記光学計測部からの一方の前記第3の反射光の前記第3の検出値と、他方の前記光学計測部からの他方の前記第3の反射光の前記第3の検出値とに基づいて、前記第3の光が照射された際の、前記輸液の流量の第3の変化を検知し、
検知した前記第1の変化、前記第2の変化、および前記第3の変化の少なくともいずれかに基づいて、前記輸液の漏出を検知する。
【0021】
好ましくは、本発明に係る輸液監視装置(6)は、輸液監視装置(1)〜(5)のいずれかにおいて、前記第1の波長が495nm〜960nmの範囲内にある。
【0022】
好ましくは、本発明に係る輸液監視装置(7)は、輸液監視装置(2)または(4)において、前記第1の波長および前記第2の波長が、620nm〜750nmの範囲、750nm〜960nmの範囲、または495nm〜620nmの範囲の互いに重複しないいずれかの範囲内にある。
【0023】
好ましくは、本発明に係る輸液監視装置(8)は、輸液監視装置(3)または(5)において、前記第1の波長、前記第2の波長、および前記第3の波長が、620nm〜750nmの範囲、750nm〜960nmの範囲、または495nm〜620nmの範囲の互いに重複しないいずれかの範囲内にある。
【0024】
また、上記目的を達成するための、本発明に係る輸液監視装置(9)は、患者の血管外への輸液の漏出を監視する装置であって、
2つの光学計測部であり、前記光学計測部の各々が、前記血管へ互いに異なる波長の光を照射する複数の発光素子と、前記互いに異なる波長の光の前記血管からの反射光を検出する一つまたは複数の受光素子とを有し、前記患者の体表面に配置される2つの光学計測部と、
前記光学計測部の各々から前記反射光の検出値が入力される制御部とを備え、
前記血管の前記輸液が注入される部位の上流側に、一方の前記光学計測部が配置され、前記血管の前記輸液が注入される部位の下流側に、他方の前記光学計測部が配置され、
前記制御部が、
前記互いに異なる波長の光のそれぞれについて、一方の前記光学計測部からの一方の前記反射光の前記検出値と、他方の前記光学計測部からの他方の前記反射光の前記検出値とに基づいて、前記互いに異なる波長の光が照射された際の、前記輸液の液量の変化をそれぞれ検知し、
検知した前記変化の少なくともいずれかに基づいて、前記輸液の漏出を検知する、輸液監視装置である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、生体の状態の変動に影響されることなく高い検出感度で患者の血管外への輸液の漏出を監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る輸液監視装置10の概略構成を示すブロック図である。
図2】輸液の血管外漏出を検知する原理を説明するための模式図である。
図3図2中に示す部位Aおよび部位Bにおける反射光強度を示す模式図である。
図4】本発明の第2の実施の形態に係る輸液監視装置10が備える上流用の光学計測部1Uを示すブロック図である。
図5】本発明の第2の実施の形態に係る輸液監視装置10が備える下流用の光学計測部1Dを示すブロック図である。
図6】本発明の第2の実施の形態において、患者の体表面に上流用の光学計測部1Uおよび下流用の光学計測部1Dが配置された状態を示す模式図である。
図7】ヘモグロビンの吸光係数を示すグラフである。
図8】本発明の第3の実施の形態に係る輸液監視装置10が備える上流用の光学計測部1Uを示すブロック図である。
図9】本発明の第3の実施の形態に係る輸液監視装置10が備える下流用の光学計測部1Dを示すブロック図である。
図10】本発明の第3の実施の形態において、患者の体表面に上流用の光学計測部1Uおよび下流用の光学計測部1Dが配置された状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明および図面において、同じ符号は同じまたは類似の構成要素を示すこととし、よって、同じまたは類似の構成要素に関する説明を省略する。
【0028】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る輸液監視装置10の概略構成を示すブロック図である。輸液監視装置10(以下、単に装置10とも記す)は、上流用の光学計測部1Uと、下流用の光学計測部1Dと、制御部2とを備える。
【0029】
上流用の光学計測部1Uおよび下流用の光学計測部1Dは、患者の体表面の、輸液が注入される血管の部位の上流および下流にそれぞれ配置され、患者の血管に向けて所定の波長の光を照射し、血管からの反射光の強度を検出する。制御部2には、上流用の光学計測部1Uおよび下流用の光学計測部1Dからの反射光強度の検出値が入力され、制御部2は、これら反射光強度の検出値に基づいて、患者の血管外へ輸液が漏出しているか否かの判断を行う。
【0030】
上流用の光学計測部1Uは、第1のLED11Uと、第1のフォトダイオード12Uと、フィルタ回路13Uと、増幅器14Uと、増幅器14Uに接続された電源15Uと、A/D変換器16Uとを備える。第1のLED11Uは、患者の血管に向けて所定の波長の光を所定の時間照射する。第1のフォトダイオード12Uは、患者の血管からの反射光の強度を検出する素子であり、反射光の強度に応じた電流信号を発生する。フィルタ回路13Uは、例えばローパスフィルタであり、第1のフォトダイオード12Uから入力される信号のノイズをカットする。増幅器14Uは、フィルタ回路13Uからの信号を増幅する。A/D変換器16Uは、増幅器14Uからのアナログ信号をデジタル信号に変換し、制御部2に出力する。
【0031】
下流用の光学計測部1Dも、上流用の光学計測部1Uと同様に、第1のLED11Dと、第1のフォトダイオード12Dと、フィルタ回路13Dと、増幅器14Dと、増幅器14Dに接続された電源15Dと、A/D変換器16Dとを備える。
【0032】
上流用の第1のLED11Uおよび下流用の第1のLED11Dが照射する光(第1の光)の波長は概ね同一である。本実施形態では、照射する第1の光の波長は、赤色領域の約620nm〜750nmの範囲であり、好ましくは約660nmである。この約660nmの波長は、後述する図6を参照して説明するように、還元ヘモグロビンHbの吸光係数は高いが、酸化ヘモグロビンHbOの吸光係数は低いので、検出感度を向上させることができる。
【0033】
制御部2は、CPUと、RAMと、ROMとを備え、装置10全体の動作を制御する。CPUは、RAMを作業領域として使用し、処理に必要なデータ(例えば、処理途中の中間データ等)を適宜RAMに記録する。本実施形態では、後述する処理を行うためのプログラムが、例えば実行形式(例えばプログラミング言語からコンパイラにより変換されて生成される)でROMに予め記録されており、制御部2は、ROMに記録したプログラムを使用して後述する処理を行う。
【0034】
図2は、輸液の血管外漏出を検知する原理を説明するための模式図である。図3は、図2中に示す部位Aおよび部位Bにおける反射光強度を示す模式図であり、(a)は部位Aにおける反射光強度を示し、(b)は輸液の漏れが無い状態での部位Bにおける反射光強度を示し、(c)は輸液の漏れが発生した状態での部位Bにおける反射光強度を示す。
【0035】
図2中、患者の皮膚S内の血管Vに穿刺針Nが穿刺され、輸液パック21からの輸液が、輸液チューブ22および穿刺針Nを介して血管Vに輸液されている。上流用光学計測部1Uは、穿刺部位の上流側の体表面上の部位Aに配置されており、下流用光学計測部1Dは、穿刺部位の下流側の体表面上の部位Bに配置されている。血流の向きは符号Fで示されている。なお、部位Aおよび部位B間の距離は特に制限されないが、血中の酸素飽和濃度の変化による影響を抑えるために、なるべく近距離(例えば、10cm未満)であることが好ましい。また、制御部2の配置として、部位Aおよび部位Bからの距離は特に制限されないが、制御部2は、例えば患者のベッドサイドなどに表示部3とともに配置される。患者の血管V内に流入される輸液の流速は、図示しない例えば輸液ポンプ等により一定に保たれている。
【0036】
本発明では、輸液の注入によって穿刺部位の上流と下流とで血中のヘモグロビン濃度が変化することに着目して、輸液の血管外漏出を検知する。穿刺針Nから輸液が注入されると、輸液注入部位(穿刺部位)の下流(図2中に符号DSで示す領域)の血液は、輸液の注入により血液が希釈されてヘモグロビン濃度が低下する。ヘモグロビンは赤色光を吸収する色素を含んでいるので、ヘモグロビン濃度が低下すると、輸液注入部位の下流の血管では、上流での測定と比較して、入射光の吸収量が低下するため反射光の強度が増大する。図3の(a)では、部位Aにおける反射光強度を実線で示している。図3の(b)では、部位Aにおける反射光強度を破線で示し、輸液の漏れが無い場合の部位Bにおける反射光強度を実線で示している。このように、輸液の漏れが無い状態では、輸液注入部位の下流に位置する部位Bでの反射光強度は、輸液の注入によるヘモグロビン濃度の低下に応じて所定の割合で増大する。
【0037】
一方で、輸液の漏れが発生した状態では、輸液の漏れが無い状態と比較して、輸液注入部位の下流の血液の希釈の度合いは低下する。図3の(c)では、部位Aにおける反射光強度を破線で示し、輸液の漏れが発生した場合の部位Bにおける反射光強度を実線で示している。図3の(c)に実線で示すように、部位Bでの反射光強度が増大する割合は、図3の(b)の輸液の漏れが無い状態と比較すると低くなる。図3の(b)および(c)に示すように、反射光強度が増大する程度を示す矢印の長さは、(c)中の矢印の方が(b)中の矢印よりも短く、輸液の漏れが発生した状態での部位Bでの反射光強度が、輸液の漏れが無い状態での部位Bでの反射光強度よりも低下していることがわかる。
【0038】
このように、部位Aおよび部位Bでの反射光強度の変化率が、輸液の投与程度を表す指標となることがわかる。本発明では、血管への光の照射と、血管からの反射光強度の測定とを所定の時間間隔で繰り返し、制御部2において、部位Aおよび部位Bでの反射光強度の変化率を、所定の時間間隔でリアルタイムにモニタすることにより、輸液の血管外漏出を検知している。
【0039】
反射光強度の変化率をモニタする方法には種々の態様が考えられる。部位Aでの反射光強度をI、部位Bでの反射光強度をIとすると、例えば、制御部2において、部位Aでの反射光強度と部位Bでの反射光強度との差|I−I|が所定のしきい値以上であるか否かをリアルタイムにモニタしておき、反射光強度の差が所定のしきい値よりも低くなった場合に、輸液の血管外漏出が発生したと判断する。
【0040】
装置10は、任意の構成として、装置の各種状態を表示する表示部3と、外部との通信を行う送信部4とを備えることができる。例えば送信部4は無線通信機であり、制御部2が輸液の漏出を検知した場合に、病院内の無線ネットワーク5を介して、輸液の血管外漏出を検知した旨を意味する緊急信号を、患者の識別情報と共に、ナースステーション(図示せず)にいる看護師に伝達することが可能である。これにより、血管外漏出が発生しても早期に適切な医療処置を施すことが可能となる。また、送信部4からインターネットを介して緊急信号を外部のサーバに伝達することにより、病院から離れた場所で療養中の患者に対する遠隔モニタリングを提供することが可能となる。送信部4を介して送信するデータは、緊急信号や患者の識別情報に限られず、後述する血中の酸素飽和度や、各光学計測部にて取得した測定データを含んでいてもよい。緊急信号は、送信部4を介して送信されるデータに限られず、表示部3に例えば点滅信号や文字情報として表示してもよく、スピーカ(図示せず)等から警告音を発してもよい。
【0041】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係る輸液監視装置10は、第1の実施の形態に係る上流用の光学計測部1Uおよび下流用の光学計測部1Dに代えて、上流用の光学計測部1Uおよび下流用の光学計測部1Dを備える。
【0042】
図4は、本発明の第2の実施の形態に係る輸液監視装置10が備える上流用の光学計測部1Uを示すブロック図である。図5は、本発明の第2の実施の形態に係る輸液監視装置10が備える下流用の光学計測部1Dを示すブロック図である。図6は、患者の体表面に上流用の光学計測部1Uおよび下流用の光学計測部1Dが配置された状態を示す模式図である。
【0043】
第1の実施の形態に係る上流用の光学計測部1Uと比較して、図4に示すように、上流用の光学計測部1Uは、第2のLED11Uと、第2のフォトダイオード12Uと、フィルタ回路13Uと、増幅器14Uと、増幅器14Uに接続された電源15Uと、A/D変換器16Uとをさらに備える。下流用の光学計測部1Dも、図5に示すように、第2のLED11Dと、第2のフォトダイオード12Dと、フィルタ回路13Dと、増幅器14Dと、増幅器14Dに接続された電源15Dと、A/D変換器16Dとをさらに備える。
【0044】
上流用の第2のLED11Uおよび下流用の第2のLED11Dが照射する光(第2の光)の波長は概ね同一である。本実施形態では、照射する第2の光の波長は、近赤外光領域の約750nm〜960nmの範囲であり、好ましくは約900nmである。第2の実施の形態では、第1の波長の光および第2の波長の光の複数の異なる波長の光を用いることにより、検出感度を向上させている。
【0045】
図2に示すように、第1の実施の形態では、血管からの光の反射光強度を測定しているが、血管からの反射光を非侵襲的に皮膚表面から計測しようとする場合、計測用のセンサ等を血管に直接接触させることはできない。そのため、血管内を流れる赤血球ヘモグロビンを計測対象とした場合、皮膚色の違いや皮下組織の厚さ、脂肪の量などといった皮下組織の個人差に測定結果が影響され、測定に誤差が生じるおそれがある。また、ヘモグロビンの吸光係数は酸素飽和度によって異なることから、酸素飽和度の違いも測定に誤差を生じさせるおそれがある。
【0046】
図7は、ヘモグロビンの吸光係数を示すグラフである。血中のヘモグロビンは、酸素と結合した酸化型のヘモグロビンHbOと、酸素が乖離した還元型のヘモグロビンHbとに大きく分けることができ、動脈では酸化ヘモグロビンHbOが多く存在し、静脈では還元ヘモグロビンHbが多く存在している。皮下組織での吸光係数とヘモグロビンの吸光係数とに着目して、図7に示すグラフを次の3つの波長領域に区分すると、各波長領域は次のような特徴を有する。
【0047】
・緑色領域〜橙色領域(約495nm〜620nm)
570nm付近の波長では、還元ヘモグロビンHbの吸光係数は高く、酸化ヘモグロビンHbOの吸光係数も高い。皮下組織での吸光係数も高い。
・赤色領域(約620nm〜750nm)
660nm付近の波長では、還元ヘモグロビンHbの吸光係数は高いが、酸化ヘモグロビンHbOの吸光係数は低い。皮下組織での吸光係数は他と比較して並程度。
・近赤外光領域(約750nm〜960nm)
900nm付近の波長では、還元ヘモグロビンHbの吸光係数は低く、酸化ヘモグロビンHbOの吸光係数も低い。皮下組織での吸光係数も低い。
【0048】
このようなヘモグロビンの吸光特性と皮下組織での吸光特性とに基づき、第2の実施の形態では、皮下組織による測定への影響を避けるために、第1の実施の形態で用いた赤色領域の波長(第1の光の波長)に加えて、第2の光の波長として、近赤外光領域の波長(例えば、約900nm)を使用している。一般的に、輸液は患者の上腕の静脈(還元ヘモグロビンが多い)または手の甲(酸化ヘモグロビンHbOが多い)に投与されることから、約660nmおよび約900nmの2つの波長を用いることによって、皮下組織による影響を極力低減しながら互いに補完し合って検出感度を向上させることができる。
【0049】
第2の実施の形態では、2つの異なる波長を用いた反射光強度の測定タイミングは、同一のタイミングとすることができる。制御部2において部位Aと部位Bとの間の反射光強度の変化率をモニタする方法としては、例えば次の1)および2)に示す値を単独でまたは適宜組み合わせて、輸液の血管外漏出を検知することができる。Iは第1の波長(例えば660nm)での反射光強度であり、Iは第2の波長(例えば900nm)での反射光強度である。
【0050】
1)各波長の反射光強度
,I
2)複数の波長の反射光強度の比率
/I
【0051】
1)各波長の反射光強度(I,I)を用いる場合
例えば第1の実施の形態と同様の方法で、第1の波長の光および第2の波長の光のそれぞれについて、制御部2において、部位Aでの反射光強度と部位Bでの反射光強度との差が所定のしきい値以上であるか否かをリアルタイムにモニタしておき、第1の波長の光または第2の波長の光のいずれかについて、部位Aと部位Bとの間の反射光強度の差が所定のしきい値よりも低くなった場合に、輸液の血管外漏出が発生したと判断する。
【0052】
この場合、部位Aでの第1の波長の反射光強度をIA1、第2の波長の反射光強度をIA2とし、部位Bでの第1の波長の反射光強度をIB1、第2の波長の反射光強度をIB2とすると、制御部2は、例えば|IA1−IB1|および|IA2−IB2|をそれぞれリアルタイムにモニタする。
【0053】
一方、部位Aと部位Bとで皮膚Sから血管Vまでの距離(血管の深さ)が異なっている場合、皮下組織の厚さによっては、例えば部位Aでは第1の波長が測定に有効であると判断され、部位Bでは第2の波長が測定に有効であると判断される場合がある。このように、部位Aと部位Bとで測定に適した波長が異なることが予想される場合には、次に説明するように、穿刺後に輸液を流し始める前に、キャリブレーションとして血管の深さに関する校正係数を予め算出しておき、この校正係数と、各波長の反射光強度とを用いて、輸液の血管外漏出を判断する。輸液開始後の反射光強度の測定値に校正係数を掛け合わせることにより、部位Aと部位Bとの間の血管の深さによる影響を補正して、より正確な反射光強度を得ることができる。
【0054】
まず、輸液開始前に、第1の波長および第2の波長それぞれについての、部位Aおよび部位Bそれぞれでの反射光強度IA1、IB1、IA2、IB2をそれぞれ測定し、
A1 = α×IB1
A2 = α×IB2
の関係から、制御部2が校正係数αおよびαを予め算出して記憶しておく。
【0055】
次に、輸液開始後に、第1の波長および第2の波長それぞれについての、部位Aおよび部位Bそれぞれでの反射光強度IA1、IB1、IA2、IB2をそれぞれ測定し、制御部2が、測定により得た部位Bでの反射光強度IB1、IB2に校正係数α、αをそれぞれ掛け合わせて、部位Bでの補正された反射光強度α×IB1およびα×IB2を算出する。制御部2は、この補正された部位Bでの反射光強度を用いて、輸液の血管外漏出を判断する。すなわち制御部2は、例えば|IA1−α×IB1|および|IA2−α×IB2|をそれぞれリアルタイムにモニタし、この値のどちらかが所定のしきい値よりも低くなった場合に、輸液の血管外漏出が発生したと判断する。
【0056】
2)複数の波長の反射光強度の比率(I/I)を用いる場合
図7に示すように、第1の波長(例えば660nm)と、第2の波長(例えば900nm)とでは、還元ヘモグロビンHbおよび酸化ヘモグロビンHbOの吸光係数がそれぞれ異なっている。この還元ヘモグロビンHbおよび酸化ヘモグロビンHbOの吸光係数の違いに基づき、制御部2は、反射光強度の比率I/Iに基づいて、装置10の装着に問題が無いかを判定することが可能となる。また、制御部2は、比率I/Iに基づいて、計測部位の血液が動脈血または静脈血のどちらに近いのかを判定することが可能となり、第1の波長または第2の波長のうち、測定において最も参照すべき優先度の高い波長を選択することが可能となる。酸素飽和度は比率I/Iから求めることができる。
【0057】
まず、血中の酸素飽和度(SpO)の一般的な計測原理について説明する。赤色光(R)および近赤外光(IR)に対する吸光特性は、図7に示す通りである。例えば計測部位の血液が動脈血の場合は、ヘモグロビンに酸素が多く結合しているので、血中の濃度は、酸化ヘモグロビンHbO >> 還元ヘモグロビンHb、となり、吸光度も、赤色光Rでの吸光度 << 近赤外光IRでの吸光度、という関係が成立する。一方、静脈血の場合は、ヘモグロビンから酸素が乖離しているので、血中の濃度は、酸化ヘモグロビンHbO << 還元ヘモグロビンHb、となり、吸光度も、赤色光Rでの吸光度 >> 近赤外光IRでの吸光度、という関係が成立する。両者の吸光度を基に比率R/IRを求めると、次の表1に示す結果となる。
【0058】
【表1】
【0059】
酸素飽和度は、この比率R/IRに所定の校正定数を掛け合わせることにより算出される。校正定数は、使用する赤色光Rまたは近赤外光IRの波長によって異なっている。このような酸素飽和度の計測では、通常は透過光を使用している。
【0060】
これに対し、本発明では、反射光の強度を測定しているので、吸光度の場合とは関係が逆転し、動脈血の場合は、赤色光Rでの反射光強度 >> 近赤外光IRでの反射光強度、という関係が成立し、静脈血の場合は、赤色光Rでの反射光強度 << 近赤外光IRでの反射光強度、という関係が成立する。また、両者の反射光強度を基に、比率R/IRを求める。酸素飽和度は、この比率R/IRに校正定数を掛け合わせることにより算出されるが、計測部位の血液が動脈血または静脈血のどちらに近いのかを判定する場合には、特に酸素飽和度を求める必要はなく、校正定数を用いることなく比率R/IRだけからでも判定することができる。
【0061】
すなわち、部位Aおよび部位Bのそれぞれにおいて、第1の波長の反射光強度と第2の波長の反射光強度との比率I/Iを算出する場合、比率I/Iは第1の波長と第2の波長との比率であることから、輸液によるヘモグロビン濃度の変化があった場合であっても、還元ヘモグロビンHbおよび酸化ヘモグロビンHbOの両方の濃度が変化し、還元ヘモグロビンHbまたは酸化ヘモグロビンHbOのどちらか一方の濃度だけが変化するということはなく、比率I/I自体も変化することはない。
【0062】
したがって、制御部2が、部位Aまたは部位Bのどちらか一方において、比率I/Iに所定のしきい値以上の差がある(つまり、IA1/IA2またはIB1/IB2のどちらか一方に所定のしきい値以上の差がある)と判断した場合には、装置10の装着に問題があると判定することができる。
【0063】
また、表1に示すように、比率R/IRが約0.4であると酸素飽和度はほぼ100%であり、以後、比率R/IRが増加するにつれて、酸素飽和度は減少する。したがって、制御部2は、比率I/Iの値から酸素飽和度を推定し、計測部位の血液が動脈血または静脈血のどちらに近いのかを判定することができる。計測部位の血液が動脈血に近いと判定される場合は、前述のように、赤色光Rでの反射光強度 >> 近赤外光IRでの反射光強度、であるので、第1の波長を最も参照するべき優先度の高い波長として選択し、計測部位の血液が静脈血に近いと判定される場合は、前述のように、赤色光Rでの反射光強度 << 近赤外光IRでの反射光強度、であるので、第2の波長を最も参照するべき優先度の高い波長として選択する。
【0064】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態に係る輸液監視装置10は、第2の実施の形態に係る上流用の光学計測部1Uおよび下流用の光学計測部1Dに代えて、上流用の光学計測部1Uおよび下流用の光学計測部1Dを備える。
【0065】
図8は、本発明の第3の実施の形態に係る輸液監視装置10が備える上流用の光学計測部1Uを示すブロック図である。図9は、本発明の第3の実施の形態に係る輸液監視装置10が備える下流用の光学計測部1Dを示すブロック図である。図10は、患者の体表面に上流用の光学計測部1Uおよび下流用の光学計測部1Dが配置された状態を示す模式図である。
【0066】
第2の実施の形態に係る上流用の光学計測部1Uと比較して、図8に示すように、上流用の光学計測部1Uは、第3のLED11Uと、第3のフォトダイオード12Uと、フィルタ回路13Uと、増幅器14Uと、増幅器14Uに接続された電源15Uと、A/D変換器16Uとをさらに備える。下流用の光学計測部1Dも、図9に示すように、第3のLED11Dと、第3のフォトダイオード12Dと、フィルタ回路13Dと、増幅器14Dと、増幅器14Dに接続された電源15Dと、A/D変換器16Dとをさらに備える。
【0067】
上流用の第3のLED11Uおよび下流用の第3のLED11Dが照射する光(第3の光)の波長は概ね同一である。本実施形態では、照射する第3の光の波長は、緑色領域〜橙色領域の約495nm〜620nmの範囲であり、好ましくは約570nmである。
【0068】
がん化学療法中の患者等、頻繁に輸液が投与される患者は、輸液穿刺部位の静脈血管が破損し易くなっており、一旦血管外への輸液の漏出が発生すると、輸液穿刺部位付近の組織が壊死してしまい赤く腫れ上がり、赤色領域の波長が測定に適さない状態となることがある。第3の実施の形態では、第2の実施の形態で用いた赤色領域の波長(第1の光の波長)および近赤外光領域の波長(第2の光の波長)に加えて、第3の光の波長として、緑色領域〜橙色領域の波長(例えば、約570nm)を使用している。図7に示すグラフを参照すると、570nm付近の波長は、皮下組織による測定への影響は受けやすいものの、還元ヘモグロビンHbおよび酸化ヘモグロビンHbOの吸光係数がいずれも極めて高い。したがって、第3の実施の形態では、約660nm、約900nm、および約570nmの3つの波長を用いることによって、例えば輸液穿刺部位の静脈血管が破損し壊死したような患者に対しても、皮膚の状態の変化による影響を極力低減しながら互いに補完し合って検出感度をさらに向上させることができる。
【0069】
第3の実施の形態でも、3つの異なる波長を用いた反射光強度の測定タイミングは、同一のタイミングとすることができる。制御部2において部位Aと部位Bとの間の反射光強度の変化率をモニタする方法としては、例えば次の1)および2)に示す値を単独でまたは適宜組み合わせて、輸液の血管外漏出を検知することができる。Iは第3の波長(例えば570nm)での反射光強度である。
【0070】
1)各波長の反射光強度
,I,I
2)複数の波長の反射光強度の比率
/I,I/I,I/I
【0071】
一例として、1)各波長の反射光強度を用いる場合を説明すると、例えば第1の実施の形態と同様の方法で、第1の波長の光と第2の波長の光と第3の波長の光とのそれぞれについて、制御部2において、部位Aでの反射光強度と部位Bでの反射光強度との差が所定のしきい値以上であるか否かをリアルタイムにモニタしておき、第1の波長の光、第2の波長の光、または第3の波長の光のいずれかについて、反射光強度の差が所定のしきい値よりも低くなった場合に、輸液の血管外漏出が発生したと判断する。
【0072】
この場合、部位Aでの第3の波長の反射光強度をIA3とし、部位Bでの第3の波長の反射光強度をIB3とすると、制御部2は、例えば|IA1−IB1|、|IA2−IB2|、および|IA3−IB3|をそれぞれリアルタイムにモニタする。
【0073】
2)複数の波長の反射光強度の比率を用いる場合についても、判定において考慮する反射光強度の測定値としてさらにIを用いる組み合わせが追加されている点を除いて、基本的には、上記した第2の実施の形態の説明において説明した方法と同様である。
【0074】
第3の実施の形態では、第3の光の波長として、緑色領域〜橙色領域の波長を使用することにより、例えば血管が壊死し部位Aと部位Bとで皮膚の色調が大きく異なる場合であっても、輸液の血管外漏出の検出感度を向上させることができる。さらに、穿刺後に輸液を流し始める前に、キャリブレーションとして血管の深さに関する校正係数を予め算出しておき、判定に、この校正係数と、各波長の反射光強度とを用いることにより、部位Aと部位Bとで血管の深さに有意な差異がある場合であっても、輸液の血管外漏出をより正確に検知することが可能となる。これを実現するための、使用する3つの波長の波長範囲の組み合わせは特に制限されないが、一例として、例えば部位Bにおいて血管が壊死している場合には、第1の波長に代えて第3の波長を使用するために、部位Aでは第1の波長と第2の波長とを測定に使用し、部位Bでは第3の波長と第2の波長とを測定に使用することができる。
【0075】
以上、本発明を特定の実施の形態によって説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではない。
【0076】
上記第1〜第3の実施の形態では、各光学計測部中のLED11は所定の波長の光を所定の時間照射しているが、光を照射する時間は輸液の血管への流入量に応じて適宜調整することができる。例えば流入する輸液の量が少ない場合には、光の照射時間を長くして、反射光強度を照射時間(例えば、約10秒〜60秒程度)にわたって積算することにより、部位Aおよび部位Bでの反射光強度の累積変化率に基づいて、輸液の血管外漏出を検知すればよい。
【0077】
また、上記第2の実施の形態および第3の実施の形態では、電源15はLED11およびフォトダイオード12のペア毎にそれぞれ設けられているが、1つの光学計測部1内において複数の電源15を共通化することが可能であり、電源15は、上流用または下流用の1つの光学計測部1毎に少なくとも1つ設けられていればよい。
【0078】
同様に、フィルタ13、増幅器14、A/D変換器16もLED11およびフォトダイオード12のペア毎にそれぞれ設けられているが、複数の同種の構成を共通化することが可能である。フォトダイオード12から入力されるアナログ信号を、例えばアナログ・スイッチ回路により随時切り替えれば、フィルタ13、増幅器14、A/D変換器16は、1つの光学計測部1毎にそれぞれ少なくとも1つずつ設ければよい。
【0079】
また、上記第2の実施の形態および第3の実施の形態では、フォトダイオード12は受光する光の波長毎にそれぞれ設けられているが、1つの光学計測部1内において複数のフォトダイオード12を共通化することが可能である。例えば図4に示す第2の実施の形態の態様では、第1のフォトダイオード12Uが第1の波長(約660nm)の光を検出し、第2のフォトダイオード12Uが第2の波長(約900nm)の光を検出しているが、例えば、第1のフォトダイオード12Uを、第1の波長の光を照射する第1のLED11Uと第2の波長の光を照射する第2のLED11Uとの両方に隣接して配置し、第1のフォトダイオード12Uが、第1の波長の光の反射光と、第2の波長の光の反射光とを時分割で区別して検出することにより、第2のフォトダイオード12Uを省略することが可能となる。同様に、例えば図8に示す第3の実施の形態においても、第1のフォトダイオード12Uを、第1の波長の光を照射する第1のLED11Uと、第2の波長の光を照射する第2のLED11Uと、第3の波長の光を照射する第3のLED11Uとに隣接して配置し、第1のフォトダイオード12Uが、第1の波長の光の反射光と、第2の波長の光の反射光と、第3の波長の光の反射光とを時分割で区別して検出することにより、第2のフォトダイオード12Uおよび第3のフォトダイオード12Uを省略することが可能となる。
【0080】
また、上記第2の実施の形態および第3の実施の形態では、制御部2が輸液の血管外漏出を検知する際に、1)各波長の反射光強度、および2)複数の波長の反射光強度の比率、に示す値を単独でまたは適宜組み合わせて用いているが、検知に用いる値はこれらに限られず、例えば、複数の波長の反射光強度の合計値(例えば、I+I,I+I,I+I+I)を用いてもよい。
【0081】
また、上記第1〜第3の実施の形態では、反射光強度の変化率をモニタする際の一例として、制御部2において、部位Aでの反射光強度と部位Bでの反射光強度との差|I−I|が所定のしきい値以上であるか否かをリアルタイムにモニタしておき、反射光強度の差が所定のしきい値よりも低くなった場合に、輸液の血管外漏出が発生したと判断しているが、反射光強度の変化率をモニタする方法は、このようなしきい値を用いた方法に限定されない。
【0082】
例えば、輸液開始前に、部位Aおよび部位Bそれぞれでの反射光強度I、Iをそれぞれ測定し、
X = {(I−I)/I}×100
を算出して、比較の基準となる反射光強度の比率Xを予め記憶しておく。次に、輸液開始後に、部位Aおよび部位Bそれぞれでの反射光強度I、Iをそれぞれ測定し、
Y = {(I−I)/I}×100
から、モニタの対象となる反射光強度の比率Yを算出する。算出したこの比率Yが、輸液開始前の比率Xから所定の割合(例えば、80%)より下回る場合、すなわち、
Y < K×X
であれば、制御部2は輸液の血管外漏出が発生したと判断する。ここで、係数Kは輸液漏れの検出係数であり、検出感度に応じて0〜1の範囲内で適宜設定(例えば、0.8)することができる。
【0083】
なお、輸液によって患者の全身の血液が希釈され生体の変動が起こることから、部位Aでの反射光強度の測定は最初の1回だけではなく、装置10の装着中は、部位Aでの反射光強度は継続してモニタすることが好ましい。患者への継続的な輸液により、図3の(a)に実線で示す部位Aにおける反射光強度には若干の変動が生じるからである。
【0084】
また、上記第2の実施の形態および第3の実施の形態では、制御部2が装置10の装着に問題があると判定する際に、部位Aまたは部位Bのどちらか一方において、比率I/Iに所定のしきい値以上の差があるか否かを判断していたが、判定の方法はしきい値を用いる方法に限定されない。例えば、少なくとも部位Aまたは部位Bのどちらか一方において、輸液開始前に装置10が正常に装着されていた状態の反射光強度の比率I/Iを予め記憶しておき、輸液開始後に測定して得られた比率I/Iが、予め記憶しておいた輸液開始前の比率I/Iから所定の割合より下回る場合に、制御部2は装置10の装着に問題があると判定することができる。
【0085】
また、上記第2の実施の形態および第3の実施の形態では、反射光強度の比率として例えばI/I,I/I,I/Iを用いているが、検知をするためには比率であれば良いので、反射光強度の比率はこれらの比率の逆数であってもよい。
【0086】
また、輸液はがん化学療法剤等の薬液に限られず、一般的に点滴に利用される栄養剤であってもよい。
【0087】
以上、本発明によると、生体の状態の変動に影響されることなく、高い検出感度で患者の血管外への輸液の漏出を監視することができる。電気的な変化を検知する方式ではなく、光学的な変化を検知する光学センサー方式であるので、患者の皮膚表面の汗などによる電気伝導度の変化に影響を受けることはない。
【0088】
また、光学センサー方式であるので計測は非侵襲的であり、計測による患者の負担を軽減することができる。
【0089】
また、輸液パックおよび穿刺針を含む輸液投与の器具とは切り離した装置構成とすることができるので、比較的安価な光学センサーを用いることにより、適用する患者毎に装置をディスポーザブル化することが可能となり、患者間での装置の使い回しによる汚染を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0090】
10 輸液監視装置
1U〜1U 上流用の光学計測部
1D〜1D 下流用の光学計測部
2 制御部
3 表示部
4 送信部
5 無線ネットワーク
11U〜11U、11D〜11D LED
12U〜12U、12D〜12D フォトダイオード
13U、13D フィルタ回路
14U、14D 増幅器
15U、15D 電源
16U、16D A/D変換器
21 輸液パック
22 輸液チューブ
S 患者の皮膚
V 血管
N 穿刺針
図1
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図10