(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6449170
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】レーザ溶接ヘッドおよびプロセス
(51)【国際特許分類】
B23K 26/14 20140101AFI20181220BHJP
【FI】
B23K26/14
【請求項の数】9
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-548707(P2015-548707)
(86)(22)【出願日】2013年12月16日
(65)【公表番号】特表2016-501132(P2016-501132A)
(43)【公表日】2016年1月18日
(86)【国際出願番号】FR2013053090
(87)【国際公開番号】WO2014096653
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2016年11月25日
(31)【優先権主張番号】1262368
(32)【優先日】2012年12月19日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】516235451
【氏名又は名称】サフラン・ヘリコプター・エンジンズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャントゥルー,ドゥニ・リュック・アラン
(72)【発明者】
【氏名】デュブールデュ,ジャン・マルク
(72)【発明者】
【氏名】ラメゾン,オリビエ
(72)【発明者】
【氏名】バリー,クリスチャン
【審査官】
岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−277780(JP,A)
【文献】
特開平05−185266(JP,A)
【文献】
特開2008−311498(JP,A)
【文献】
特開2010−284696(JP,A)
【文献】
特表平11−509477(JP,A)
【文献】
特開平09−277080(JP,A)
【文献】
特開平08−039280(JP,A)
【文献】
特開2012−000648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザを合焦させるための合焦レンズの下で固定するためのレーザ溶接ヘッド(1)であって、ヘッドは少なくとも、
環状出口(18)の上流のプレナムチャンバ(15)を含む環状ノズルであって、保護ガスを噴射するための、レーザ溶接ヘッド(1)を通る遮られない光軸(O)を中心に配置された環状ノズル(5)と、
横断空気流によって合焦レンズを保護するための保護チャンバ(3)であって、空気導入口(9)、および前記光軸(O)に対して実質的に直角な平面内で空気導入口(9)と位置合わせされた空気排出口(10)を有し、前記空気排出口がレーザ溶接ヘッド(1)の進行方向(A)と反対の方向に配向されている保護チャンバと、を備える、レーザ溶接ヘッド(1)。
【請求項2】
保護チャンバ(3)と環状ノズル(5)との間に少なくとも1つの横開口(13)を有する、請求項1に記載のレーザ溶接ヘッド(1)。
【請求項3】
前記空気排出口(10)の下流の空気偏向器(6)を含む、請求項1または2のいずれか一項に記載のレーザ溶接ヘッド(1)。
【請求項4】
前記保護チャンバ(3)が、前記光軸(O)を中心に位置する少なくとも1つの環状ワッシャ(11、12)によって軸方向に画定されている、請求項1から3のいずれか一項に記載のレーザ溶接ヘッド(1)。
【請求項5】
前記環状ノズル(5)が、プレナムチャンバ(15)と環状出口(18)との間のベント通路(17)を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のレーザ溶接ヘッド(1)。
【請求項6】
保護ガスを噴射するための第二ノズル(21)をさらに含み、第二ノズルはレーザ溶接ヘッド(1)の進行方向(A)に対して環状ノズル(5)の後ろに配置されている、請求項1から5のいずれか一項に記載のレーザ溶接ヘッド(1)。
【請求項7】
保護チャンバ(3)と環状ノズル(5)との間に介在する熱的および/または電気的絶縁材料で作られた要素(4)を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のレーザ溶接ヘッド(1)。
【請求項8】
環状ノズル(5)からの出口(18)と保護チャンバ(3)との間の距離(d)は調整可能である、請求項1から7のいずれか一項に記載のレーザ溶接ヘッド(1)。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のレーザ溶接ヘッド(1)を用いるレーザ溶接方法であって、レーザビーム(L)は光軸(O)に沿って環状ノズル(5)の下に位置する焦点(F)に合焦し、その間に保護ガスが前記環状ノズル(5)を通じて前記焦点(F)を中心に噴射され、前記保護チャンバ(3)内の横断空気流(C)が合焦レンズを保護し、レーザ溶接ヘッド(1)が光軸(O)に対して直角な進行方向に沿って前進する、レーザ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ溶接の分野に関し、具体的にはレーザ溶接ヘッドおよびヘッドを用いる溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ溶接は、レーザビームによってエネルギーを送達することによって、溶融可能な材料、具体的には金属材料で作られた複数の部品が互いに組み立てられることを可能にする技術である。レーザビームは、2つの隣り合う部品の間の焦点に合焦して、局所的に溶接するために材料をその融点を超えるまで加熱するのに役立ち、これによって2つの部品が接合面で互いに溶接されることを可能にする。するとレーザビームの焦点軸に対して直角に溶接点を徐々に前進させることで、隣り合う部品はこの進行方向にしたがって溶接線に沿って互いに接合することが可能となる。
【0003】
溶接線における材料の酸化を回避するために、当業者は、たとえばアルゴンなどの不活性保護ガスが、焦点軸を中心に位置する環状ノズルを通じて焦点上に噴射可能であることを知っている。
【0004】
それでもなお、この技術の不都合は、レーザの配向および合焦に使用される光学素子の、および具体的には光路の末端に位置する合焦レンズの、進行性劣化にある。このレンズは、高温ガス、粉塵、および溶融金属の液滴によって浸食性の環境に曝されるので、急速に劣化する可能性がある。残念ながら、このような光学素子の費用は高額であり、これらを頻繁に交換することは、レーザ溶接装置の使用に著しい不利益をもたらす可能性がある。
【0005】
合焦レンズの前に保護ガラス板を配置することで、この不都合は非常に不完全なやり方でのみ解消されることが可能である。このようなガラス板が合焦レンズよりも安価であったとしても、その交換費用のみならず、ガラス板を交換するためにレーザ溶接装置を停止する必要もあるため、その劣化による頻繁な交換はまた著しく費用がかさむ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このため、別の形で合焦レンズの表面を劣化させる可能性のある高温ガス、粉塵、および液滴に触れさせないために、レンズの前を通過する横断空気流によって合焦レンズを保護する提案がなされてきた。それでもなお、このような「クロスジェット」法の有効性は限定されている。具体的には、焦点軸を中心とする保護ガスの噴射と組み合わせた場合に、横断空気流と保護ガスの噴流との間の空気力学的相互作用が保護ガスの噴流を不安定化させ、これによって溶融材料を望ましくない酸化に曝す可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書は、これらの不都合を解消しようとするものである。具体的にはこれは、レーザを合焦させるために合焦レンズの下で固定するためのレーザ溶接ヘッドであって、ヘッドは、少なくとも保護ガスを噴射するための、光軸を中心に配置された環状ノズルと、横断空気流によって合焦レンズを保護するための保護チャンバとを備え、チャンバは空気導入口、および前記光軸に対して実質的に直角な平面内で空気導入口と位置合わせされた空気排出口を有し、それでいて保護ガスの噴流と横断空気流との間の有害な空気力学的相互作用を回避することを可能にする、レーザ溶接ヘッドを提案しようとするものである。
【0008】
少なくとも1つの実施形態において、この目的は、レーザ溶接ヘッドが、合焦レンズと前記保護チャンバとの間にいかなる横開口も備えずに、前記合焦レンズに対して固定されるように構成されるということ、およびこれが環状ノズルの出口と前記保護チャンバとの間に少なくとも100ミリメートル(mm)の距離を有するということによって、達成されることが可能である。
【0009】
これらの提供により、溶接ヘッドを通じて、または外部から、合焦レンズの近傍における高温ガス、粉塵、または液滴の到達を可能な限り回避するために、横断空気流と保護ガスの噴流との間の有害な空気力学的相互作用が最小化されることが可能である。
【0010】
具体的には、その慣性を低減して作動しやすくするように、レーザ溶接ヘッドを特に軽量化するために、ヘッドは保護チャンバと環状ノズルとの間に少なくとも1つの横開口を有してもよい。
【0011】
具体的には前記保護チャンバから排出口を通じて出てくる空気流をさらに分離するために、レーザ溶接ヘッドは、前記空気排出口の下流に空気偏向器を含んでもよい。
【0012】
合焦レンズに付加的な保護を提供しながら、保護チャンバを通じて横断空気流を通すために、前記保護チャンバは、前記光軸を中心に位置する少なくとも1つの環状ワッシャによって、軸方向に画定されてもよい。
【0013】
前記環状ノズルからの出口において均一な流れを得るために、環状ノズルは、環状出口の上流にプレナムチャンバを含んでもよい。
【0014】
液体または固体粒子がプレナムチャンバ内に侵入するのを回避するために、環状ノズルは、プレナムチャンバと環状出口との間にベント通路を含んでもよい。環状ノズルは、ベント通路の代替として、またはこれに加えて、少なくとも1つのディフューザも含んでもよい。具体的には、ベント通路は、ディフューザを保護するように、ディフューザの下流に位置してもよい。具体的にはディフューザは、たとえば多孔性部品など、少なくとも1つの多孔性部品またはフィルタ、あるいはスペーサによって離間された複数のフィルタを含んでもよい。この少なくとも1つの多孔性部品またはフィルタは、金属で作られてもよい。つまり一例として、ディフューザは青銅で作られた多孔性部品を含んでもよい。
【0015】
一例として、熱的または電気的衝撃からレーザ溶接装置を保護するために、レーザ溶接ヘッドは、保護チャンバと環状ノズルとの間に介在する熱的および/または電気的絶縁材料で作られた要素を含んでもよい。
【0016】
前進するレーザ溶接ヘッドの後のまだ高温の溶接線の酸化に対して保護を提供し続けるために、レーザ溶接ヘッドはさらに、保護ガスを噴射するための第二ノズルを含んでもよく、第二ノズルはレーザ溶接ヘッドの進行方向に対して環状ノズルの後ろに配置されている。具体的には、第二噴射ノズルは、溶接線を覆うように、レーザ溶接ヘッドの後に固定されたトラベラに組み込まれてもよい。
【0017】
さらに、横断空気流と保護ガスの噴流との間の空気力学的干渉をより良く回避するために、前記保護チャンバからの空気排出口は、レーザ溶接ヘッドの進行方向と反対の方向に配向されてもよい。これにより、前進するレーザヘッドが、排出口の下流でこの空気流によって発生する乱流に捉えられるのを回避する。
【0018】
環状ノズルの出口と保護チャンバとの間の距離は調整可能であってもよく、こうしてレーザ溶接ヘッドを様々な異なる動作パラメータにより良く適合させられるようにする。
【0019】
本開示はまた、このようなレーザ溶接ヘッドを用いるレーザ溶接方法にも関し、ここでレーザビームは光軸に沿って環状ノズルの下に位置する焦点に合焦し、その間に保護ガスが前記環状ノズルを通じて前記焦点を中心に噴射され、前記保護チャンバ内の横断空気流が合焦レンズを保護し、そしてレーザ溶接ヘッドが光軸に対して直角な進行方向に沿って前進する。
【0020】
非限定例によって示される実施形態の以下の詳細な説明を読むと、本発明をよく理解することができ、その利点がより明確となる。本明細書は、以下の添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】レーザ溶接機械に実装された実施形態におけるレーザ溶接ヘッドの斜視図である。
【
図3】
図2の線III−IIIに沿った、
図1および
図2のレーザ溶接ヘッドの長手方向断面図である。
【
図4】
図2の線IV−IVに沿った、
図1および
図2のレーザ溶接ヘッドの部分断面図である。
【
図5】
図1のレーザ溶接ヘッドの空気偏向器の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
レーザ溶接ヘッド1の実施形態が、
図1に示される。レーザ溶接ヘッド1は、蝶番接続アーム型、ガントリー型、またはこの用途向けの当業者にとって周知のその他いずれかの構成であってもよい、レーザ溶接装置による作動に適した可動形式で支持されたレーザ光源2の下に、直接実装されている。レーザ光源2は、溶接ヘッド1と直接隣り合うその底部末端に、合焦レンズ(図示せず)に続く光路を有する。図示されるレーザ溶接ヘッド1は、合焦レンズの下に直接固定されており、3つの主要部分を備える。すなわち、横断空気流によって合焦レンズを保護するための保護チャンバ3、ケージ4、および保護ガスを噴射するための環状ノズル5である。あと2つの要素がレーザ溶接ヘッド1に固定されている。すなわち、保護チャンバ3に固定された空気偏向器6、および環状ノズル5の周りに実装されたカラー8によってレーザ溶接ヘッド1に固定されたトラベラ7である。
【0023】
図2に見られるように、トラベラ7は、側方スカート20、ならびにプレート19およびスカート20によって画定された空間内にガスを噴射するために加圧不活性保護ガス源に接続可能な第二ノズル21を有する、プレート19を備える。複数の穿孔を有するプレート(図示せず)は、プレナム空洞を形成するように、およびプレート19の下のさらに広い領域にわたって第二ノズル21を通ってくる保護ガスの噴射を分配するように、プレート19に面するこの空間内に介在してもよい。
【0024】
図3は、レーザ溶接ヘッド1の長手方向断面図である。この図は、合焦レンズによって焦点F上に合焦されたレーザビームLを通すための遮られない光軸をレーザ溶接ヘッド1が有する様子を示す。
【0025】
保護チャンバ3は、いかなる横開口も残さずに、合焦レンズの下に直接実装される。この保護チャンバ3は、加圧空気源に接続されるのに適したスロットの形状の空気導入口9と、半月形の空気排出口10とを有する。導入口9および排出口10は、合焦レンズを損傷する可能性がある高温ガス、粉塵、または液滴からこれを保護するために合焦レンズの前に空気の横断層流または「クロスジェット」Cを形成するように、光軸Oに対して直角な平面内で互いに位置合わせされて配置されている。加えて、2つの環状ワッシャ11および12が、この保護チャンバを軸方向に画定する。
【0026】
ケージ4は、その間に少なくとも100mmの距離を維持するように、環状ノズル5から保護チャンバ3を分離する。環状ノズル5およびケージ4は、この距離dを調整可能にする補完ネジ22によって結合されている。ケージ4は、これを軽量化するために楕円形の横開口13を有する。一例としてこれは、ポリマーまたは強化ポリマーに基づく合成材料で作られてもよく、環状ノズル5をレーザ溶接ヘッド1および装置の残部から隔離するために、電気的および/または熱的に絶縁されてもよい。環状ノズルを電気的に絶縁することは、具体的には衝突予防システムが静電荷の検出に基づいて使用されることを可能にするのに役立つ。一例として、ケージ4は、ステレオリソグラフィなどの付加的な製造システムによって製造されてもよい。
【0027】
環状ノズル5は、レーザビームLを通すように光軸Oを中心に配置されており、これは焦点Fを中心とする噴射のために、たとえばアルゴンなどの加圧不活性保護ガス源に接続され、これにより、溶接の間、化学反応物質、具体的には空気中の酸素から溶融材料を隔離するのに役立つ。
図4により詳細に示される環状ノズル5は加圧保護ガス導入口14を有し、このガスの流れ方向を下流に向かって、プレナムチャンバ15、ディフューザ16、ベント通路17、およびノズル出口18がこれに続く。図示される実施形態において、ディフューザ16は、スペーサによって離間された複数の連続する金属フィルタでできている。ディフューザ16およびベント通路17は、レーザ溶接の間に射出される固体粒子または液体液滴がプレナムチャンバ内に侵入するのを防止する。
【0028】
図5は、偏向器6を詳細に示す。偏向器6は、排出口10から漏れた後にこの空気流を環状ノズル15から離れる方へ配向するために、横断空気流の流れ方向でその排出口10からすぐ下流で保護チャンバ3の外側に固定されており、これにより、この空気流と環状ノズル5を通じて噴射される保護ガスの噴流との間の空気力学的干渉を回避するのに、貢献する。
【0029】
動作中、連続的でも断続的でもよいレーザビームLは、焦点Fにおいて溶接のために材料を加熱し、その間、レーザ溶接ヘッド1およびレーザ光源2によって構成されるアセンブリは、溶接線を形成するように、材料に対して進行方向Aに向かって前進する。
【0030】
環状ノズル5は同時に、具体的には溶融材料が酸化するのを防止する目的のため、焦点Fを中心に不活性保護ガスを噴射する。同じ不活性保護ガスはまた、トラベラ7の下で第二ノズル21を通じても噴射され、このトラベラは、光軸Oに対して進行方向と反対の方向に延在する。こうして、焦点Lの後の溶接線内のまだ高温の材料は、レーザ溶接ヘッド1が前進している間、保護され続ける。
【0031】
同時に、導入口9を通じて保護チャンバ3内に侵入する加圧空気は、保護チャンバ3の上方の盲空洞の上の合焦レンズを保護するように、排出口10に向かって光軸Oに対して横方向に流れる。光軸Oに対して、この空気流が排出口10を離れる際に偏向器6によって後ろ向きおよび上向きに放出されるように、導入口9は進行方向Aに向いており、これにより、環状ノズル5を離れるガス噴流との空気力学的干渉をさらに最小化する。
【0032】
本発明は特定の実施形態を参照して上述されたが、請求項によって定義される本発明の一般的な範囲を逸脱することなく様々な修正および変更がなされ得ることは、明らかである。結果的に、本説明および図面は、限定的ではなくむしろ説明的な意味において検討されるべきである。