特許第6449220号(P6449220)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6449220
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】毛包新生
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20181220BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20181220BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20181220BHJP
【FI】
   C12N5/077ZNA
   C12N5/10
   C12N15/09 Z
【請求項の数】16
【全頁数】63
(21)【出願番号】特願2016-253496(P2016-253496)
(22)【出願日】2016年12月27日
(62)【分割の表示】特願2013-515559(P2013-515559)の分割
【原出願日】2011年6月17日
(65)【公開番号】特開2017-93451(P2017-93451A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2017年1月25日
(31)【優先権主張番号】61/344,258
(32)【優先日】2010年6月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508331350
【氏名又は名称】ザ ヘンリー エム.ジャクソン ファウンデイション フォー ザ アドバンスメント オブ ミリタリー メディスン,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】ラジェシュ サンガパザム
(72)【発明者】
【氏名】トーマス エヌ.ダーリング
(72)【発明者】
【氏名】シャオウェイ リ
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2008年,vol.105, no.9,pp.3539-3544
【文献】 Cell Stem Cell,2009年,vol.5, no.3,pp.279-289
【文献】 J. Med. Genet.,2010年,vol.47, no.3,pp.182-189
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00−5/28
C12N 15/00−15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変されたヒト間葉系細胞を含む組成物であって、前記改変されたヒト間葉系細胞が、野生型のヒト間葉系細胞と比較して、TSC1、TSC2、およびFLCNのうちの少なくとも1つが少なくとも90%低下し、ここで、組成物がヒト上皮細胞を含まないが、ヒト毛包を誘導することができる、上記組成物。
【請求項2】
Ras、Raf、Mek、Erk、Rsk1、PI3K、Akt1、Akt2、Akt3、Rheb、mTOR、Raptor、Rictor、mLST8、S6K1、リボソームタンパク質S6、SKAR、SREBP1、eIF4e、IKKbeta、Myc、Runx1、CD133、CD10、ネスチン、アルカリホスファターゼ、およびp27のうちの少なくとも1つが、アップレギュレートされ、および/または
CYLD、MEN1、NF1、PTEN、PRAS40、4E−BP1、GSK3、およびDeptorのうちの少なくとも1つが、ダウンレギュレートされる、
請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記改変されたヒト間葉系細胞が、バート−ホッグ−デューベ症候群、ブルック−スピーグラー症候群、カウデン症候群、多発性内分泌腺腫1型、神経線維腫症、または複合型結節硬化症に関連する腫瘍由来である、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記改変されたヒト間葉系細胞が、線維血管腫、線維毛包腫、線維性斑、前額部斑、毛包母斑、インフンディブローマ、イスシミコーマ、毛包周囲線維腫、脂腺母斑、器官母斑、汗管腫、粒起革様斑、毛盤腫、毛髪上皮腫、毛芽細胞腫、毛根鞘腫、毛包腺腫、炎症性硬結、または爪周囲線維腫由来である、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記改変されたヒト間葉系細胞が、TSC1、TSC2、またはFLCNに対するsiRNA、shRNA、またはmiRNA含む、野生型のヒト間葉系細胞である、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記改変されたヒト間葉系細胞が、マトリックスを備える、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記マトリックスが、コラーゲンマトリックス、または基質マトリックスである、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
前記マトリックスが、I型コラーゲンマトリックスである、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
前記改変されたヒト間葉系細胞が、真皮線維芽細胞、毛乳頭細胞、表皮鞘細胞または間葉系幹細胞である、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
ヒト毛包を誘導することができる細胞の、それを必要とする患者への移植に使用するための皮膚移植用製剤または皮内注射用製剤を製造するための請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記患者が、部分層の皮膚欠損、全層の皮膚欠損、創傷、火傷、傷跡、または脱毛の患者である、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
前記改変されたヒト間葉系細胞が患者由来である、請求項10または11記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物がエクリン腺を誘導する、請求項10〜12のいずれか1項記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が皮脂腺を誘導する、請求項10〜13のいずれか1項記載の組成物。
【請求項15】
前記改変されたヒト間葉系細胞が、マイクロスフィア中に存在する、請求項1〜14のいずれか1項記載の組成物。
【請求項16】
前記マイクロスフィアが、毛乳頭培地とケラチン細胞無血清培地の1:1混合物中に、新生児包皮線維芽細胞と新生児包皮ケラチン細胞(それぞれ最大約30,000の細胞)の混合物を含む細胞集塊を含み、前記細胞集塊は、最大約4週間、インキュベートされる、請求項15記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権出願の情報
本出願は、2010年6月18日に出願された米国仮出願第61/344,258号の優先権を主張し、これらの全内容は、参照によって本明細書中に組み込まれる。
【0002】
特許に係る政府の権利の表明
本発明は、一部において、米国政府から支援を受けてなされた。したがって、政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、十分に形成されたヒト毛包を誘導することができる、皮膚代替物に関する。また、本発明は、ヒト毛包の新生を誘導するための方法および組成物にも関する。一部の実施態様において、本発明は、全層または部分層の皮膚欠損、創傷、火傷、傷跡、および完全なまたは部分的な脱毛の治療に使用することができる。
【背景技術】
【0004】
髪および皮膚に関する研究は、再生医療の最先端にあり続けている。皮膚代替物は、生体組織工学の原理を用いて開発されている、最初の製品の1つであり、また、これらのベンチャーの成功は、複数の市販製品の臨床利用で明らかである。さらに、植毛は、男性および女性の化粧療法の中で最も急成長している領域のうちの1つである。
【0005】
主な皮膚損傷を治療するための現在の臨床的な「至適基準」は、分層自家移植片(split−thickness skin autograft)の利用を含み、これは、患者の一方の箇所から他方の箇所に真皮の一部を有する表皮を移植することを含む。但し、創傷を被覆するのに不十分なドナー皮膚が存在する場合、皮膚代替物を使用してもよい。今日利用可能な皮膚代替物は、組成が変化したが、この皮膚代替物は、一般に、非生物コラーゲンマトリックス、および角化細胞と腺維芽細胞の種々の組合せを含む。例えば、アプリグラフ(APLIGRAF)(登録商標)(オーガノジェネシス(Organogenesis)社製、カントン、マサチューセッツ州)は、一般に利用可能な最も臨床的に成功した複合皮膚代替物であることが報告され、これは、同種異型新生児ケラチン細胞で被覆したウシI型コラーゲン中の同種異型新生児腺維芽細胞からなる。
【0006】
しかしながら、一般に利用可能な皮膚代替物は、正常な皮膚のすべての機能を果たすことができるとは限らない。例えば、一般に利用可能な皮膚代替物を使用しても毛包新生はみられず、これは、患者におけるこれらの利用を制限する。毛包およびこれらに関連する皮脂腺は、外観、皮膚水和、障壁形成、および病原体からの保護にとって重要である。さらに、毛包は、創傷治癒中に動員され得る表皮幹細胞を保存する。したがって、毛包を有する皮膚は、毛包のない皮膚よりも迅速に治癒する。さらに、毛包を欠く皮膚に存在し得る幹細胞は、表皮の表層に位置し、軽微な外傷による損失、および紫外線光による損傷を受けやすい細胞を形成する。したがって、正常な毛包新生に関与する治療は、正常な皮膚機能および外観の回復のための非常に広い用途を見出す。
【0007】
種々の医薬および手術の選択は、皮膚に正常な髪の成長を回復するのに有効である。医薬の選択は、一般に、現存する無活動の毛包を刺激するミノキシジルまたはフィナステリド等の薬剤の利用を含む。手術の選択は、一般に、身体の一部から毛包を含む組織を採取することと、髪が失われた部位に毛包を移植することとを含む。しかしながら、いずれのアプローチも毛包新生を生じない。その代わりに、これらのアプローチは共に、皮膚に現存する毛包を必要とし、このことは、特定の患者におけるこれらの適用可能性を制限する。
【0008】
毛包新生の現在の方法は、ドナーからレシピエントの表皮に誘導性の毛乳頭(DP)または表皮鞘(dermal sheath)(DS)細胞を含む組織を移植することを含む。例えば、DSおよびDP細胞は、マウスおよびラットから単離されており、上皮細胞と組み合わせ、動物に移植するか、または注入して、毛包新生を誘導する。しかしながら、ヒト細胞は、毛包誘導におけるげっ歯動物細胞ほど強健でないことが分かった。また、複雑な試験系が、ヒトの毛包形成を促進するために考案されている。これらの系には、チャンバーアッセイ、皮下注射アッセイ、サンドイッチおよび皮膚弁移植アッセイが含まれる(Ohyamaらの文献:Exp.Dermatol.,19:89−99(2010)を参照のこと)。毛包様構造は、チャンバーアッセイにおいて、マウス間葉系細胞およびヒト表皮細胞のキメラ構築物を使用して形成され(Ehamaらの文献:J.Invest.Dermatol.,127:2106−15(2007)を参照のこと)、また、成人ヒト頭皮のDP細胞は、皮膚弁移植モデルを使用して、マウス胚表皮中の毛包を誘導することを示した(Qiaoらの文献:Regen.Med.,4:667−76(2009)を参照のこと)。チャンバーアッセイとサンドイッチアッセイの近年の比較は、ヒトDP細胞の毛包誘導能のスクリーニングにおいて、同等の有用性を示した(Inoueらの文献:Cells Tissues Organs,190:120−10(2009)を参照のこと)。
【0009】
しかしながら、これらの系は、調査ツールとして非常に有益であるが、これらの方法によって生産された毛包が、ヒト構築物に十分でなく(しかし、その代りに、キメラげっ歯動物/ヒト構築物では十分である)、十分に開発されておらず、誤った解剖箇所の毛幹を含み、長期移植生存および正常な毛包周期を示さず、および/または皮脂腺を含む毛包を形成しないので、これらは臨床有用性を欠く。さらに、かかる方法によって生産された毛包は、可変的で制御できない方向に成長する傾向があり、不自然な外観の髪を生ずる。したがって、かかる方法によって生産された毛包は、毛包を欠く皮膚におけるヒトの毛包新生に有用でない。さらに、毛包を形成するヒト包皮ケラチン細胞の性能が報告されている(Ehamaら)が、毛乳頭/表皮鞘細胞(これらは、髪誘導に特定される)を使用する場合であっても、培養成人ヒト線維芽細胞を使用して、ヒトの毛包を発生させることはできなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、形態学的に正確で、十分に開発されたヒト毛包を発生させることができる方法および組成物の必要性が存在する。かかる方法および組成物は、全層または部分層の皮膚欠損、創傷、火傷、傷跡および脱毛の治療条件に有用である。本発明は、髪新生および再生が可能な細胞組成物の提供によって、これらの必要性を満たす。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上皮細胞と改変間葉系細胞とを含む皮膚代替物であって、改変間葉系細胞が、野生型間葉系細胞と比較して、低下したTSC1/TSC2機能、増加したmTORC1機能、および/または低下したmTORC2機能を有する、皮膚代替物を提供する。
【0012】
また、本発明は、ヒト毛包を誘導することができる細胞を移植する方法も提供する。一実施態様において、この方法は、患者の間葉系細胞に皮下送達または皮内送達することを含み、かつ改変間葉系細胞が、野生型間葉系細胞と比較して、低下したTSC1/TSC2機能、増加したmTORC1機能、および/または低下したmTORC2機能を有する。別の実施態様において、この方法は、患者に上皮細胞を送達することをさらに含む。さらに別の実施態様において、この方法は、患者に本発明の皮膚代替物を移植することを含む。
【0013】
一実施態様において、患者は、全層もしくは部分層の皮膚欠損、創傷、火傷、傷跡、または脱毛を有する。別の実施態様において、この方法は、エクリン腺の形成を誘導する。さらに別の実施態様において、この方法は、皮脂腺の形成を誘導する。
【0014】
一実施態様において、野生型間葉系細胞と比較して、少なくとも1つのTSC1/TSC2の負の調節因子の機能が増加し(例えば、TSC1/TSC2機能を阻害するタンパク質のアップレギュレートによって)、および/または、少なくとも1つのTSC1/TSC2の正の調節因子の機能が低下している(例えば、TSC1/TSC2機能を刺激するタンパク質のダウンレギュレートによって)ので、TSC1/TSC2機能は、直接的または間接的に低下している。別の実施態様において、低下したTSC1/TSC2機能の模擬体によって、mTORC1の機能は増加しているか、mTORC2の機能は低下しているか、またはこれらの両方である。
【0015】
一実施態様において、TSC1もしくはTSC2のダウンレギュレート;TSC1/TSC2機能を阻害するか、もしくは低下したTSC1/TSC2機能の模擬体として作用する、阻害タンパク質のアップレギュレート;または、TSC1/TSC2機能を刺激するか、もしくは増加したTSC1/TSC2機能の模擬体として作用する、刺激タンパク質のダウンレギュレートによって、TSC1/TSC2の機能は低下し、mTORC1の機能は増加し、および/またはmTORC2の機能は低下する。一実施態様において、刺激タンパク質は、TSC1、TSC2、CYLD、LKB1、FLCN、MEN1、NF1、PTEN、PRAS40、4E−BP1、GSK3、およびDeptorのうちの少なくとも1つから選択される。別の実施態様において、阻害タンパク質は、Ras、Raf、Mek、Erk、Rsk1、PI3K、Akt1、Akt2、Akt3、Rheb、mTOR、Raptor、Rictor、mLST8、S6K1、リボソームタンパク質S6、SKAR、SREBP1、eIF4e、IKKbeta、Myc、Runx1、およびp27のうちの少なくとも1つから選択される。一実施態様において、TSC2はダウンレギュレートされる。別の実施態様において、FLCNはダウンレギュレートされる。さらに別の実施態様において、TSC2およびFLCNは共に、ダウンレギュレートされる。
【0016】
一実施態様において、改変間葉系細胞は、良性付属器腫瘍由来である。さらに別の実施態様において、改変間葉系細胞は、線維血管腫、線維毛包腫、線維性斑、前額部斑(forehead plaque)、毛包母斑、インフンディブローマ、イスシミコーマ(isthmicoma)、毛包周囲線維腫(perifollicular fibroma)、脂腺母斑、器官母斑、汗管腫、粒起革様斑、毛盤腫、毛髪上皮腫、毛芽細胞腫、毛根鞘腫、毛包腺腫、炎症性硬結、または爪周囲線維腫由来である。更なる別の実施態様において、改変間葉系細胞は、バート−ホッグ−デューベ症候群(Birt−Hogg−Dube syndrome)、ブルック−スピーグラー症候群(Brooke−Spiegler syndrome)、カウデン症候群(Cowden syndrome)、多発性内分泌腺腫1型、神経線維腫症、または複合型結節硬化症に関連する腫瘍由来である。
【0017】
一実施態様において、改変間葉系細胞は、TSC1/TSC2機能を低下させ、mTORC1機能を増加させ、および/またはmTORC2機能を低下させるように改変された、野生型の間葉系細胞である。別の実施態様において、野生型間葉系細胞は、真皮線維芽細胞、毛乳頭細胞、表皮鞘細胞、人工多能性幹細胞、または間葉系幹細胞である。さらに別の実施態様において、野生型間葉系細胞は、真皮線維芽細胞である。
【0018】
一実施態様において、野生型間葉系細胞は、少なくとも1つのTSC1/TSC2の負の調節因子の機能が増加するか、および/または少なくとも1つのTSC1/TSC2の正の調節因子の機能が低下することによって、TSC1/TSC2機能を低下させるように改変される。別の実施態様において、野生型の間葉系細胞では、低下したTSC1/TSC2機能の模擬体によって、mTORC1の機能が増加しているか、mTORC2の機能が低下しているか、またはこれらの両方である。
【0019】
一実施態様において、野生型間葉系細胞では、TSC1/TSC2機能が低下し、mTORC1の機能が増加し、および/またはmTORC2の機能が、TSC1もしくはTSC2のダウンレギュレート;TSC1/TSC2機能を阻害するか、もしくは低下したTSC1/TSC2機能の模擬体として作用する、阻害タンパク質のアップレギュレート;または、TSC1/TSC2機能を刺激するか、もしくは増加したTSC1/TSC2機能の模擬体として作用する、刺激タンパク質のダウンレギュレートによって低下する。
【0020】
一実施態様において、改変は、TSC1/TSC2の正の調節因子、または増加したTSC1/TSC2機能の模擬体をコードする遺伝子を抑制することを含む。一実施態様において、遺伝子サイレンシングは、標的遺伝子に対して、siRNA、shRNA、またはRNAiと、野生型間葉系細胞を処理することによって行うことができる。さらに別の実施態様において、改変は、TSC1/TSC2の負の調節因子、または低下したTSC1/TSC2機能の模擬体をコードする遺伝子を過剰発現させることを含む。一実施態様において、過剰発現は、構造的に活性のあるプロモーターの制御下で、遺伝子を含む発現ベクターにより野生型間葉系細胞を安定的にトランスフェクトすることによって行うことができる。
【0021】
別の実施態様において、間葉系細胞は、成長因子遺伝子によってトランスフェクトされるか、またはTSC1/TSC2機能を低下させるか、もしくは低下したTSC1/TSC2機能の模擬体として作用する成長因子(インシュリン、EGF、HGF、IGF、およびKGF等)によって処理することができる。さらに別の実施態様において、間葉系細胞は、TSC1/TSC2機能を低下させるか、または低下したTSC1/TSC2機能の模擬体として作用する組換え型タンパク質によって処理することができる。別の実施態様において、細胞は、転写因子PPARG(ペルオキシゾーム増殖因子活性化受容体ガンマ)のアゴニストである、チアリジンジオン(thiaolidinedione)(ロシグリタゾンおよびピオグリタゾンを含む)等の、転写因子の発現を増加させる薬剤によって処理することができる。
【0022】
一実施態様において、間葉系細胞は、マイクロスフィアに導入される。別の実施態様において、マイクロスフィアは、毛乳頭培地とケラチン細胞無血清培地の1:1混合物中に、新生児包皮腺維芽細胞と新生児包皮ケラチン細胞(それぞれ約30,000の細胞)とを混合し、細胞集塊を約4週間、インキュベートすることによって、形成される。別の実施態様において、間葉系細胞はマトリックスを備える。さらに別の実施態様において、マトリックスは、コラーゲンマトリックス、または基質マトリックスである。更なる別の実施態様において、マトリックスは、I型コラーゲンマトリックスである。さらに別の実施態様において、マトリックスは、ラットI型コラーゲンマトリックス、ウシI型コラーゲンマトリックス、またはヒトI型コラーゲンマトリックスである。
【0023】
一実施態様において、上皮細胞は、種々の供給源からの1以上の上皮細胞を含む。別の実施態様において、上皮細胞は、ケラチン細胞、またはケラチン細胞様細胞である。さらに別の実施態様において、ケラチン細胞は、新生児包皮ケラチン細胞である。
【0024】
一実施態様において、間葉系細胞および上皮細胞は、同じドナー由来である。別の実施態様において、ドナーは患者である。さらに別の実施態様において、間葉系細胞および上皮細胞は、異なるドナー由来である。更なる別の実施態様において、間葉系細胞または上皮細胞のいずれかのドナーは、患者である。
【0025】
添付図面は、本明細書の一部に組み込まれ、かつこれを構成し、本発明の説明と共に、本発明の複数の非限定実施態様を示し、本発明の原理について説明するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】Aは、患者の線維性前額部斑の写真である。Bは、新生児包皮ケラチン細胞によって被覆したTSC2ヌル皮膚過誤腫の腺維芽細胞様細胞を含む、本発明の皮膚代替物の組織染色された断面である。Cは、新生児包皮ケラチン細胞によって被覆したTSC2ヌル皮膚過誤腫の腺維芽細胞様細胞を含む、本発明の皮膚代替物を移植したマウスの写真である。Dは、新生児包皮ケラチン細胞によって被覆したTSC2ヌル皮膚過誤腫の腺維芽細胞様細胞を含む、本発明の皮膚代替物において成長する毛包微小解剖の概略図である。
【0027】
図2図2は、mTOR(ラパマイシンの哺乳動物標的)のネットワークの概略図である。
【0028】
図3】Aは、TSC患者の正常な皮膚の組織染色された断面である。Bは、TSC患者の前額部斑の組織染色された断面である。Cは、TSC患者の正常な皮膚の抗リン酸化S6免疫組織染色された断面である。Dは、TSC患者の前額部斑の抗リン酸化S6免疫組織染色された断面である。Eは、TSC患者の正常な皮膚の抗Ki−67免疫組織染色された断面である。Fは、TSC患者の前額部斑の抗Ki−67免疫組織染色された断面である。Gは、TSC患者の正常な皮膚の抗CD68免疫組織染色された断面である。Hは、TSC患者の前額部斑の抗CD68免疫組織染色された断面である。Iは、TSC患者の正常な皮膚の抗CD31免疫組織染色された断面である。Jは、TSC患者の前額部斑の抗CD31免疫組織染色された断面である。
【0029】
図4図4は、正常な皮膚(A)、前額部斑からのTSC皮膚過誤腫(B)、線維血管腫(C)、および爪周囲線維腫(D)の組織染色である。
【0030】
図5】Aは、TSC2ヌル腺維芽細胞様細胞のTSC2遺伝子の一部の配列解析である。Bは、標準細胞およびTSC2ヌル腺維芽細胞様細胞のマイクロサテライトヌクレオチド反復多型(D16S291、D16S521、およびD16S663)の解析である。D16S291のプライマー対は、フォワードプライマー、5’GCAGCCTCAGTTGTGTTTCCTAATC3’(配列番号1)と、リバースプライマー、5’AGTGCTGGGATTACAGGCATGAACC3’(配列番号2)である。D16S521のプライマー対は、フォワードプライマー、5’AGCGAGACTCCGTCTAAAAA3’(配列番号3)と、リバースプライマー、5’TACAACCAAAATGCCTTACG3’(配列番号4)である。D16S663のプライマー対は、フォワードプライマー、5’GTCTTTCTAGGAATGAAATCAT3’(配列番号5)と、リバースプライマー、5’ATTGCAGCAAGACTCCATCT3’(配列番号6)である。Cは、毛包上皮下部を包含する腫瘍異種移植片表皮鞘の顕微解剖である。Dは、TSCの正常な腺維芽細胞(「正常」)、TSC2ヌル腺維芽細胞様細胞(「腫瘍」)、および腫瘍異種移植片のレーザー顕微解剖した毛包上皮(「FE」)、または表皮鞘(「DS」)領域から増幅したTSC2のエキソン10のBsmA1制限酵素消化の結果を示す、10%TBEゲルである。
【0031】
図6】Aは、標準細胞の細胞溶解物、およびTSC患者の前額部斑のウェスタンブロットである。ブロットは、アクチン(対照)、リン酸化S6K1(pS6K1)、非リン酸化S6K1、リン酸化リボソームタンパク質S6(pS6)、およびラパマイシン治療の機能としてのS6の発現のレベルを示す。Bは、標準細胞、およびラパマイシン治療の機能としてのTSC患者の前額部斑細胞の細胞増殖データを示す、棒グラフである。
【0032】
図7図7は、標準細胞の細胞溶解物、TSC患者の前額部斑、および線維血管腫のウェスタンブロットである。ブロットは、アクチン(対照)、TSC2(チュベリン)、リン酸化S6(pS6)、および非リン酸化S6の発現のレベルを示す。
【0033】
図8】Aは、TSCの正常な腺維芽細胞と、ヒト新生児包皮ケラチン細胞によって作製された移植片の組織染色である。Bは、TSC皮膚過誤腫のTSC2ヌル細胞と、ヒト新生児の包皮ケラチン細胞を含む移植片の組織染色である。
【0034】
図9】Aは、移植17週後のTSC皮膚過誤腫のTSC2ヌル細胞を含む皮膚代替物の皮脂腺および毛幹を有する成長期の毛包の組織染色である(縮尺バー=130μm)。Bは、移植17週後のTSC皮膚過誤腫のTSC2ヌル細胞を含む皮膚代替物のヒト毛幹を有する毛包の縦断面の組織染色である(縮尺バー=130μm)。Cは、成長期の毛包の断面の組織染色であり、移植17週後のTSC皮膚過誤腫のTSC2ヌル細胞を含む皮膚代替物の外毛根鞘、内毛根鞘、毛幹、および皮脂腺を示す(縮尺バー=35μm)。Dは、移植17週後のTSC皮膚過誤腫のTSC2ヌル細胞を含む皮膚代替物の毛乳頭、下部表皮鞘、有糸分裂像を有するマトリックス、内毛根鞘、および外毛根鞘を有する毛球の組織染色である(縮尺バー=35μm)。EおよびFは、移植17週後のTSC皮膚過誤腫のTSC2ヌル細胞を含む皮膚代替物の抗COX IV抗体免疫組織染色された上皮細胞および真皮細胞である(縮尺バー:図9E=130μm、図9F=35μm)。GおよびHは、移植17週後のTSC皮膚過誤腫のTSC2ヌル細胞を含む皮膚代替物の毛包上皮を含む表皮細胞のインサイチュハイブリダイゼーションであり、核(青色)によってハイブリダイズされた、ヒトY染色体(赤色)の蛍光プローブを示す(縮尺バー:図9G=130μm、図9H=20μm)。IおよびJは、抗ネスチン抗体免疫組織染色された断面である。染色細胞は、移植17週後のTSC皮膚過誤腫のTSC2ヌル細胞を含む皮膚代替物の毛乳頭および下部表皮鞘領域由来である(縮尺バー:図8I=65μm、図8J=35μm)。Kは、抗ベルシカン抗体免疫組織染色された断面である。染色細胞は、移植17週後のTSC皮膚過誤腫のTSC2ヌル細胞を含む皮膚代替物の成長期の毛包の毛乳頭および下部表皮鞘領域由来である(縮尺バー=65μm)。Lは、アルカリホスファターゼ染色された断面であり、移植17週後のTSC皮膚過誤腫のTSC2ヌル細胞を含む皮膚代替物の毛包の毛乳頭および下部鞘領域の酵素活性を示す(縮尺バー=65μm)。Mは、抗Ki−67抗体免疫組織染色された断面である。染色細胞は、移植17週後のTSC皮膚過誤腫のTSC2ヌル細胞を含む皮膚代替物の表皮の基底層および毛包マトリックス由来である(縮尺バー=65μm)。NおよびOは、抗ケラチン15抗体免疫組織染色された断面である。染色細胞は、移植17週後のTSC皮膚過誤腫のTSC2ヌル細胞を含む皮膚代替物の毛包漏斗より下にある外毛根鞘の基底層である(縮尺バー=65μm)。Pは、抗ケラチン75抗体免疫組織染色された断面である。染色細胞は、移植17週後のTSC皮膚過誤腫のTSC2ヌル細胞を含む皮膚代替物の毛包付随層(hair follicle companion layer)である(縮尺バー=65μm)。
【0035】
図10】Aは、抗HLA抗体免疫組織染色された断面である。染色された細胞は、線維血管腫および新生児包皮ケラチン細胞のTSC2ヌル腺維芽細胞様細胞を含む皮膚代替物の真皮、表皮および毛包である(縮尺バー=65μm)。Bは、線維血管腫の新生児包皮ケラチン細胞およびTSC2ヌル腺維芽細胞様細胞を含む移植片の凍結切片に加えたときの、表皮および毛包上皮の核にハイブリダイズするヒトY染色体に対する蛍光プローブのインサイチュハイブリダイゼーションである(縮尺バー=65μm)。
【0036】
図11】Aは、TSC患者の正常な腺維芽細胞を含む異種移植片の抗COX IV抗体免疫組織染色された断面である。異種移植片は、ビヒクルで処置したマウスから採取した(縮尺バー=35μm)。Bは、TSC患者の正常な腺維芽細胞を含む異種移植片の抗COX IV抗体免疫組織染色された断面である。異種移植片は、ラパマイシンで処置したマウスから採取した(縮尺バー=35μm)。Cは、TSC患者のTSC2ヌル腺維芽細胞を含む異種移植片の抗COX IV抗体免疫組織染色された断面である。異種移植片は、ビヒクルで処置したマウスから採取した(縮尺バー=35μm)。Dは、TSC患者のTSC2ヌル腺維芽細胞を含む異種移植片の抗COX IVの抗体免疫組織染色された断面である。異種移植片は、ラパマイシンで処置したマウスから採取した(縮尺バー=35μm)。Eは、TSC患者の正常な腺維芽細胞を含む異種移植片の抗pS6抗体免疫組織染色された断面である。異種移植片は、ビヒクルで処置したマウスから採取した(縮尺バー=35μm)。Fは、TSC患者の正常な腺維芽細胞を含む異種移植片の抗pS6抗体免疫組織染色された断面である。異種移植片は、ラパマイシンで処置したマウスから採取した(縮尺バー=35μm)。Gは、TSC患者のTSC2ヌル線維芽細胞を含む異種移植片の抗pS6抗体免疫組織染色された断面である。異種移植片は、ビヒクルで処置したマウスから採取した(縮尺バー=35μm)。Hは、TSC患者のTSC2ヌル線維芽細胞を含む異種移植片の抗pS6抗体免疫組織染色された断面である。異種移植片は、ラパマイシンで処置したマウスから採取した(縮尺バー=35μm)。Iは、TSC患者の正常な線維芽細胞を含む異種移植片の抗Ki−67抗体免疫組織染色された断面である。異種移植片は、ビヒクルで処置したマウスから採取した(縮尺バー=35μm)。Jは、TSC患者の正常な線維芽細胞を含む異種移植片の抗Ki−67抗体免疫組織染色された断面である。異種移植片は、ラパマイシンで処置したマウスから採取した(縮尺バー=35μm)。Kは、TSC患者のTSC2ヌル線維芽細胞を含む異種移植片の抗Ki−67抗体免疫組織染色された断面である。異種移植片は、ビヒクルで処置したマウスから採取した(縮尺バー=35μm)。Lは、TSC患者のTSC2ヌル線維芽細胞を含む異種移植片の抗Ki−67抗体免疫組織染色された断面である。異種移植片は、ラパマイシンで処置したマウスから採取した(縮尺バー=35μm)。Mは、TSC患者の正常な線維芽細胞を含む異種移植片の抗F4 80抗体免疫組織染色された断面である。異種移植片は、ビヒクルで処置したマウスから採取した(縮尺バー=35μm)。Nは、TSC患者の正常な線維芽細胞を含む異種移植片の抗F4 80抗体免疫組織染色された断面である。異種移植片は、ラパマイシンで処置したマウスから採取した(縮尺バー=35μm)。Oは、TSC患者のTSC2ヌル線維芽細胞を含む異種移植片の抗F4 80抗体免疫組織染色された断面である。異種移植片は、ビヒクルで処置したマウスから採取した(縮尺バー=35μm)。Pは、TSC患者のTSC2ヌル線維芽細胞を含む異種移植片の抗F4 80抗体免疫組織染色された断面である。異種移植片は、ラパマイシンで処置したマウスから採取した(縮尺バー=35μm)。Qは、TSC患者の正常な線維芽細胞を含む異種移植片の抗CD31抗体免疫組織染色された断面である。異種移植片は、ビヒクルで処置したマウスから採取した(縮尺バー=35μm)。Rは、TSC患者の正常な線維芽細胞を含む異種移植片の抗CD31抗体免疫組織染色された断面である。異種移植片は、ラパマイシンで処置したマウスから採取した(縮尺バー=35μm)。Sは、TSC患者のTSC2ヌル線維芽細胞を含む異種移植片の抗CD31抗体免疫組織染色された断面である。異種移植片は、ビヒクルで処置したマウスから採取した(縮尺バー=35μm)。Tは、TSC患者のTSC2ヌル線維芽細胞を含む異種移植片の抗CD31抗体免疫組織染色された断面である。異種移植片は、ラパマイシンで処置したマウスから採取した(縮尺バー=35μm)。
【0037】
図12】Aは、TSC患者のTSC2ヌル線維芽細胞または正常な線維芽細胞を含む異種移植片の全真皮面積に対する、ヒト特異性抗COX−IV抗体と反応的な真皮細胞の平均数を示す、棒グラフである。異種移植片は、示されるように、ラパマイシンによって処置したマウス、またはラパマイシンによって処置していないマウスから採取した。結果は、平均±SE(**=p<0.01)である。Bは、TSC患者のTSC2ヌル線維芽細胞または正常な線維芽細胞を含む異種移植片の全真皮面積に対する、ヒト特異性抗pS6抗体と反応的な真皮細胞の平均数を示す、棒グラフである。異種移植片は、示されるように、ラパマイシンによって処置したマウス、またはラパマイシンによって処置していないマウスのそれぞれのグループから採取した。結果は、平均±SE(**=p<0.01、***=p<0.001)である。Cは、TSC患者のTSC2ヌル線維芽細胞または正常な線維芽細胞を含む異種移植片の全表皮面積に対する、蛍光強度として定量化した、表皮における抗pS6抗体の陽性染色の平均強度を示す。異種移植片は、示されるように、ラパマイシンによって処置したマウス、またはラパマイシンによって処置していないマウスから採取した。結果は、平均±SE(**=p<0.01、***=p<0.001)である。Dは、TSC患者のTSC2ヌル線維芽細胞または正常な線維芽細胞を含む異種移植片の表皮の長さに対する、抗Ki−67抗体と反応的な非毛包表皮細胞の平均数を示す、棒グラフである。異種移植片は、示されるように、ラパマイシンによって処置したマウス、またはラパマイシンによって処置していないマウスから採取した。結果は、平均±SE(**=p<0.05)である。Eは、TSC患者のTSC2ヌル線維芽細胞または正常な線維芽細胞を含む異種移植片の全真皮面積に対する、抗F4/80抗体と反応的な真皮細胞の平均数を示す、棒グラフである。異種移植片は、示されるように、ラパマイシンによって処置したマウス、またはラパマイシンによって処置していないマウスから採取した。結果は、平均±SE(***=p<0.001)である。Fは、TSC患者のTSC2ヌル線維芽細胞または正常な線維芽細胞を含む異種移植片の真皮面積当たりの血管の数として表した、抗CD31陽性血管の平均数および面積を示す、棒グラフである。異種移植片は、示されるように、ラパマイシンによって処置したマウス、またはラパマイシンによって処置していないマウスから採取した。結果は、平均±SE(**=p<0.01、***=p<0.001)である。Gは、TSC患者のTSC2ヌル線維芽細胞または正常な線維芽細胞を含む異種移植片のそれぞれの血管の平均断面積として表した、抗CD31陽性血管の平均数および面積を示す、棒グラフである。異種移植片は、示されるように、ラパマイシンによって処置したマウス、またはラパマイシンによって処置していないマウスから採取した。結果は、平均±SE(***=p<0.001)である。Hは、TSC患者のTSC2ヌル線維芽細胞または正常な線維芽細胞を含む異種移植片内の血管面積と真皮面積の割合として表した、抗CD31陽性血管の平均数および面積を示す、棒グラフである。異種移植片は、示されるように、ラパマイシンによって処置したマウス、またはラパマイシンによって処置していないマウスから採取した。結果は、平均±SE(***=p<0.001)である。
【0038】
図13】Aは、TSC患者の正常な線維芽細胞を含む異種移植片のHLA免疫化学染色された断面である。異種移植片は、ビヒクルで処置したマウスから採取した。Bは、TSC患者の正常な線維芽細胞を含む異種移植片のHLA免疫化学染色された断面である。異種移植片は、ラパマイシンで処置したマウスから採取した。Cは、TSC患者のTSC2ヌル線維芽細胞を含む異種移植片のHLA免疫化学染色された断面である。異種移植片は、ビヒクルで処置したマウスから採取した。Dは、TSC患者のTSC2ヌル線維芽細胞を含む異種移植片のHLA免疫化学染色された断面である。異種移植片は、ラパマイシンで処置したマウスから採取した。
【0039】
図14図14は、TSC患者の正常な線維芽細胞またはTSC2ヌル線維芽細胞を含む異種移植片の真皮面積に対する、異種移植片の真皮の蛍光強度のパラメーターとして、HLA確実性を定量化する棒グラフである。異種移植片は、示されるように、ラパマイシンによって処置したマウス、またはラパマイシンによって処置していないマウスから採取した(**=p<0.01)。
【0040】
図15図15は、移植17週後のTSC皮膚過誤腫のTSC2ヌル細胞を含む皮膚代替物のインサイチュハイブリダイゼーションである。DAPI染色は、青色の細胞の核を示す。Cy3は、水平方向の矢印を付した下部表皮鞘のCy3標識細胞、および隣接する垂直方向の矢印を付したCy3標識真皮線維芽細胞で赤色のヒト特異性動原体プローブである。FITCは、矢印を付したFITC標識内皮細胞で緑色のマウス特異性動原体プローブである。マージ(MERGE)は、これらの3つの像の結合である。
【0041】
図16図16は、shRNAベクターによって安定的に形質導入された新生児包皮線維芽細胞の蛍光顕微鏡の像(左側パネル)、および位相差顕微鏡の像(右側パネル)を示す。細胞は、GAPDHsh対照、非標的shRNA対照(shを抑制しない)、またはTSC2ノックダウンベクター(TSC2sh1、TSC2sh2、TSC2sh3)によって形質導入された。
【0042】
図17図17は、非標的shRNA対照(shNT)、TSC2(TSC2、一番上のバンド)のレベルを示すTSC2ノックダウンベクター(shTSC2)、リン酸化リボソームタンパク質S6(pS6)、全リボソームタンパク質S6(S6)、およびチューブリン負荷対照によって形質導入された包皮線維芽細胞の細胞溶解物のウェスタンブロットである。
【0043】
図18】Aは、4つの継代培養(P=4)および正常な線維芽細胞(P=4)でのTSC患者の皮膚腫瘍のTSC2ヌル細胞の単層培養におけるアルカリホスファターゼ活性(AP)染色(青色)である。Bは、初期継代培養(P=4)および後期継代培養(P=7)での正常なヒト毛乳頭細胞、および改変間葉系細胞(shTSC2によって形質導入された新生児包皮線維芽細胞)の単層培養におけるAP活性の染色(青色)である。DP=正常なヒト毛乳頭細胞;shNT=対照shRNAによって形質導入された包皮線維芽細胞;shTSC2=TSC2 shRNAによって形質導入された包皮線維芽細胞。
【0044】
図19図19は、非テンプレート対照(NT)と比較した、TSC2(shTSC2)のノックダウンによるレンチウイルス粒子によって安定的に形質導入された毛乳頭細胞(DP)、または新生児包皮線維芽細胞(NFF)の単層培養におけるAP活性の染色(青色)である。NT=対照shRNA;shTSC2=TSC2 shRNA;DP=毛乳頭細胞;NFF=新生児包皮線維芽細胞;4倍および10倍は拡大レベルを示す。
【0045】
図20図20は、対照、およびFLCN遺伝子を抑制するように標的化された3つの異なる配列(FLCN1、FLCN2、およびFLCN3)として、いずれかの非標的配列(NT)を有するレンチウイルス粒子によって安定的に形質導入された新生児包皮線維芽細胞の単層培養(P=3)におけるAP活性の染色(青色)である。NT=対照shRNA;shFLCN1、shFLCN2、およびscFLCN3=3つの異なるFLCN shRNA;shFLCN123=全3つのFLCNサイレンシング配列の組合せ。
【0046】
図21図21は、インビトロでの懸滴培養毛包分析の結果を示し、Aは、1:1の比率のTSC2ノックダウンベクター(shTSC2)および新生児包皮ケラチン細胞(NFK)によって形質導入された新生児包皮線維芽細胞からなる集塊であり、ヘマトキシロンおよびエオシン(H&E)で染色される。Bは、1:1の比率の非標的対照ベクター(NT)およびNFKによって形質導入された新生児包皮線維芽細胞からなる集塊であり、H&Eで染色される。Cは、1:1の比率のTSC2ノックダウンベクター(shTSC2)およびNFKによって形質導入された新生児包皮線維芽細胞からなる集塊であり、抗パンサイトケラチン抗体で染色される。Dは、1:1の比率の非標的対照ベクター(NT)およびNFKによって形質導入された新生児包皮線維芽細胞からなる集塊であり、抗パンサイトケラチン抗体で染色される。Eは、1:1の比率のTSC2ノックダウンベクター(shTSC2)およびNFKによって形質導入された新生児包皮線維芽細胞からなる集塊であり、抗パンサイトケラチン抗体で染色され、蛍光顕微鏡検査法を用いて視覚化される。髪繊維様構造体の自己蛍光に矢印を付す。
【0047】
図22図22は、真皮−表皮複合体(皮膚代替物)における毛包様構造体のインビトロでの髪形成を示す。Aは、複合体を気液界面に供してから4日後の皮膚等価物のヘマトキシロンおよびエオシン(H&E)分析を示す。複合体は、形質導入され、TSC2ノックダウンベクターを安定的に発現させる新生児包皮線維芽細胞(10%FBS/DMEM中1mg/mLのラット尾部1型コラーゲン、および1×10のケラチン細胞で被覆された)からなる。像を10倍の対象レンズで撮影した。Bは、複合体を気液界面に供してから8日後のH&Eで染色された皮膚代替物である。像を10倍の対象レンズで撮影した。Cは、複合体を気液界面に供してから4日後の抗パンサイトケラチン抗体で染色された皮膚代替物である。像を10倍の対象レンズで撮影した。Dは、複合体を気液界面に供してから8日後の抗パンサイトケラチン抗体で染色された皮膚代替物である。像を10倍の対象レンズで撮影した。Eは、複合体を気液界面に供してから4日後の抗パンサイトケラチン抗体で染色された皮膚代替物である。像を4倍の対象レンズで撮影した。
【0048】
図23図23は、移植10週後にサンプリングされた真皮−表皮複合体のヘマトキシロンおよびエオシン染色された断面を示す。複合体は、shRNAによってTSC2に形質導入された毛乳頭細胞、I型コラーゲン、および正常な新生児包皮ケラチン細胞からなっていた。Aは、複数の毛包を含む移植片の低出力の(40倍)像である。Bは、毛包漏斗(右側)、および近位の(球状体上の(suprabulbar))毛包(左側)の中程度出力の(100倍)像である。Cは、近位の毛包の高出力の(400倍)像であり、外毛根鞘および内毛根鞘、ならびに着色された毛幹皮質を示す。Dは、初期の皮脂腺発達および着色された髪繊維を有する毛包漏斗の高出力の像である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
I.定義
本明細書に使用する、「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」という単数形は、文脈に明確に示されない限り、複数形も含むことが意図される。さらに、「含む(including)」、「含む(includes)」、「有する(having)」、「有する(has)」、「有する(with)」という用語、またはこれらの変形が、詳細な説明および/または特許請求の範囲のいずれかに使用される限度において、かかる用語は、「含む(comprising)」という用語と同様に、包括的であることが意図される。
【0050】
本明細書に使用する、「約」および「およそ」という用語は、一部において、どのように測定されるか、または決定されるかに依存する(すなわち、測定システムの限界)、当業者によって決定される特定の値の許容し得る誤差の範囲内を意味する。例えば、「約」は、当該技術分野の実施ごとに、1〜1.5の標準偏差、または1〜2の標準偏差を意味する場合がある。また、「約」とは、所定の値の20%、10%、5%または1%以下の範囲を意味する場合がある。また、特に、生体系または生物学的過程に関して、この用語は、値の1桁以下、5倍以下、および2倍以下を意味する場合がある。特定の値が、出願および特許請求の範囲に記載されている場合、特に明記しない限り、特定の値の許容し得る誤差の範囲内を意味する、「約」という用語が想定される。
【0051】
本明細書に使用する「アポクリン腺」という用語は、好酸性の細胞質と鼻先端(apical snout)を有する立方上皮細胞が並ぶ、広く拡張したルーメンを有するコイル状で管状の分泌部、および顕著な基底膜に基づく筋上皮細胞の外側不連続層を有した、皮膚の腺を指す。
【0052】
本明細書に使用する「組成物」という用語は、治療活性成分、および当該技術分野において従来の薬学的に許容し得、かつ治療目的で対象への投与に適切なキャリアまたは賦形剤等のキャリアを含む、混合物を指す。治療活性成分には、本発明の間葉系細胞が含まれ得る。別の実施態様において、「組成物」という用語は、本発明の皮膚代替物を指し、これは、以下にさらに詳細に説明する。さらに、本発明の組成物は、マトリックスを含み得、これは、以下に定義する。
【0053】
本明細書に使用する「毛乳頭」という用語は、毛包真皮乳頭(すなわち、毛包基部における間葉系細胞の凝縮状態)を指す。
【0054】
本明細書に使用する「低下したTSC1/TSC2機能」という用語は、TSC1/TSC2複合体のレベル、機能、活性、および/または効果のダウンレギュレーションを指し、TSC1もしくはTSC2のいずれかのダウンレギュレーション、またはTSC1もしくはTSC2の上流の調節因子の機能の変化によって、生じ得る。
【0055】
さらに、TSC1/TSC2複合体の機能は、その下流の標的、mTORC1およびmTORC2に影響を与える他のタンパク質によって模倣することができる。したがって、低下したTSC1/TSC2機能の模擬体として作用するタンパク質のアップレギュレート、および/または増加したTSC1/TSC2機能の模擬体として作用するタンパク質のダウンレギュレートによって、mTORC1機能が増加するか、mTORC2機能が低下するか、またはこれらの両方をもたらし、野生型の間葉系細胞と比較したかかる変化は、本発明の一実施態様に望まれる。
【0056】
低下したTSC1/TSC2機能、増加したmTORC1機能、および/または低下したmTORC2機能は、次に示すものによって生じ得る:(1)TSC1および/またはTSC2をダウンレギュレートすること;(2)TSC1/TSC2機能を阻害するか、もしくは低下したTSC1/TSC2機能の模擬体として作用する阻害タンパク質をアップレギュレートすること;または、(3)TSC1/TSC2機能を刺激するか、もしくは増加したTSC1/TSC2機能の模擬体として作用する刺激タンパク質をダウンレギュレートすること。増加したかまたは低下した機能の模擬体には、mTORシグナリングネットワークにおけるTSC1/TSC2の下流のmTORC1またはmTORC2活性に影響を与える、他の分子が含まれる。
【0057】
本発明の一実施態様には、少なくとも1つの刺激タンパク質(例えば、LKB1、NF1、PTEN、CYLD、FLCN、PRAS40、4E−BP1、GSK3、およびMEN1)の機能低下、および/または少なくとも1つの阻害タンパク質(例えば、Ras、Raf、Mek、Erk、Rsk1、PI3K、Akt1、Akt2、Akt3、Rheb、mTOR、Raptor、Rictor、mLST8、S6K1、リボソームタンパク質S6、SKAR、SREBP1、eIF4e、IKKbeta、Myc、Runx1、およびp27)の機能増加が含まれる。これらの改変はすべて、「低下したTSC1/TSC2機能、増加したmTORC1機能、および/または低下したmTORC2機能」という用語に包含される。
【0058】
本明細書に使用する「エクリン腺」という用語は、皮膚の汗腺を指す。エクリン腺は、次に示す2つの解剖部分からなる:(1)分泌コイル、皮下組織との接続において深い真皮に位置し、明瞭な錐状体細胞および暗色細胞からなり、十分に区画形成された基底膜に基づく筋上皮細胞の単一の外側不連続層を囲む;および、(2)直線状皮内部と表皮内螺旋状部(表皮内汗管)からなる分泌部、および内在する筋上皮層を有さない小さな立方細胞の二重層。
【0059】
本明細書に使用する「内皮細胞」という用語は、血管の内壁に並ぶ、特殊な細胞を指す。
【0060】
本明細書に使用する「表皮細胞」という用語は、皮膚の表皮由来の細胞を指す。表皮細胞は、上皮細胞の1種である。表皮細胞の一例には、ケラチン細胞、メラノサイト、ランゲルハンス細胞、およびメルケル細胞が含まれるが、これらに限定されない。
【0061】
本明細書に使用する「上皮細胞」という用語は、外側(皮膚)、粘膜、および身体の腔内と管腔に並ぶ、細胞を指す。特定の実施態様において、「上皮細胞」という用語は、重層扁平上皮細胞を指す。大部分の上皮細胞は、細胞構成要素の先端基部の偏りを示す。上皮細胞は、一般に、形状、およびこれらの特性によって分類される。例えば、扁平上皮細胞は、薄く、主として核によって区画形成された不規則な平坦形状を有する。扁平上皮細胞は、一般に、食道等の体腔の表面に並ぶ。特殊な扁平上皮は、血管(内皮細胞)、および心臓(中皮細胞)に並ぶ。立方上皮細胞は、立方体形状であり、これらの核を通常中心に有する。立方上皮細胞は、一般に、隠れているか、または吸収組織(例えば、腎臓細管、腺管、膵臓外分泌腺)にみられる。円柱状上皮細胞は、広いというよりも長く、また、細長い核は通常、細胞の基部に近い。また、これらの細胞は、絨毛様突起と呼ばれる小さな突起も有し、これは、細胞の表面積を増加させる。円柱状上皮細胞は、一般に、感覚器と同様に、胃腸の裏側を形成する。
【0062】
本明細書に使用する「遺伝子」という用語は、ポリペプチドまたは前駆体の生産に必要な核酸コード配列を指す。ポリペプチドの所望の機能特性(例えば、酵素活性、リガンド結合、シグナル伝達等)が保持される限り、ポリペプチドは、全長コード配列またはコード配列の任意の部分によって、コードすることができる。また、この用語は、構造遺伝子のコード領域も包含し、配列は、一方の端で約1kbの距離の5’および3’末端のコード領域に隣接しており、その結果、「遺伝子」という用語は、全長mRNAの長さに対応する。コード領域の5’に位置し、mRNA上に存在する配列は、5’非翻訳配列と呼ばれる。コード領域の3’または下流に位置し、mRNA上に存在する配列は、3’非翻訳配列と呼ばれる。これらの配列は、「隣接」配列または領域と呼ばれる。5’隣接領域は、遺伝子の転写を制御するか、またはこれに影響を及ぼすプロモーターおよびエンハンサー等の調節配列を含み得る。3’隣接領域は、転写終了、転写後切断、およびポリアデニル化を指示する配列を含み得る。
【0063】
「遺伝子」という用語は、遺伝子のcDNAおよびゲノム形態を共に包含する。遺伝子のゲノムの形態またはクローンは、「イントロン」または「介在領域」または「介在配列」と呼ばれる、非コード配列で遮断されたコード領域を含み得る。イントロンは、核RNA(hnRNA)に転写される遺伝子の一部であり、エンハンサー等の調節要素を含み得る。イントロンは、核または一次転写産物から除去されるか、または「切り出される」ので、イントロンは、メッセンジャーRNA(mRNA)転写において不在である。mRNAは、翻訳中に機能して、発生期のポリペプチドにおいて、アミノ酸の配列または順番を特定する。
【0064】
本明細書に使用する、「遺伝子ノックダウン」および「遺伝子サイレンシング」という用語は、1以上の遺伝子の発現を低減させる技術を指す。かかる遺伝子ノックダウン法には、ゲノムDNAを変異させて、遺伝子転写もしくは翻訳を低減させるかまたは排除すること、ジンクフィンガーヌクレアーゼを使用する標的二本鎖切断の発生、およびアンチセンスオリゴヌクレオチド等の試薬によってゲノムDNAを処理することが含まれるが、これらに限定されない。本明細書に使用する「アンチセンスヌクレオチド」という用語は、標的RNAまたはDNAの一部と実質的に同一の(または実質的に相補的な)核酸分子を指す。アンチセンスヌクレオチドには、小型干渉RNA(siRNA)、短干渉ヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、または干渉RNA(RNAi)等の短い相補的な二本鎖RNAオリゴヌクレオチド(dsRNA)が含まれるが、これらに限定されない。本明細書に使用する「発現を阻害するのに十分な量」という用語は、mRNAまたは標的遺伝子から生じたタンパク質のレベルまたは安定性を低減させるのに十分なアンチセンスオリゴヌクレオチドの濃度または量を指す。本明細書に使用する「発現を阻害する」とは、タンパク質および/または標的遺伝子からのmRNA産物のレベルの不足または顕著な減少を指す。阻害は、一時的かまたは恒久的であり得、用途に依存する。減少は、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、または100%の減少であり得る。
【0065】
本発明は、アンチセンスオリゴヌクレオチドの変異体を包含する。RNAとDNA塩基配列を比較する場合に、チミンとのウラシルの置換を考慮に入れると、本明細書に使用する、アンチセンスオリゴヌクレオチドに適用される「実質的に同一」および「実質的に相補的」という用語は、アンチセンスオリゴヌクレオチドの1本鎖のヌクレオチド配列が、標的遺伝子の20以上の連続したヌクレオチドと、少なくとも約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一であることを意味し、これは、ストリンジェントな条件(以下に定義する)下で標的遺伝子にハイブリダイズする。しかしながら、アンチセンスオリゴヌクレオチドと標的遺伝子の間の100%の配列同一性は、本発明を実施するのに要求されない。本発明は、遺伝子操作もしくは合成、遺伝子突然変異、株多型、または進化分岐により期待され得る配列変異を許容することができる。したがって、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも1、2以上のヌクレオチドの標的遺伝子によるミスマッチを含み得る。「20以上のヌクレオチド」という用語は、標的遺伝子のコード配列または全長の標的遺伝子まで、少なくとも約20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、40、50、75、100、150、200、300、400、500、1000、1500、または2000の連続した塩基である、標的遺伝子の一部を意味する。
【0066】
また、「遺伝子ノックダウン」および「遺伝子サイレンシング」という用語は、1以上の遺伝子によって発現させたタンパク質の機能が低減される技術も指す。かかる遺伝子ノックダウン法には、ゲノムDNAを変異させて、タンパク質機能を低減させるかまたは排除すること、タンパク質機能に干渉するか、またはこれを阻害する試薬によって細胞を処理することが含まれるが、これらに限定されない。本明細書に使用する、「機能を阻害するのに十分な量」という用語は、細胞のタンパク質機能のレベルを低減させるのに十分な試薬の濃度または量を指す。本明細書に使用する「機能阻害」とは、細胞におけるタンパク質機能のレベルの不足または顕著な減少をいう。
【0067】
本明細書に使用する「毛包」という用語は、髪が成長することができる表皮の管状の凹凸を指す。毛包は、正確な解剖箇所に毛幹を含み、長期移植生存、正常な毛包周期、および皮脂腺を示す。
【0068】
本明細書に使用する「髪の再生」という用語は、髪成長の成長期に入るための現存する無活動の毛包の刺激を指す。また、この用語は、無傷の無活動の毛包から始めるのではない、毛包残存物または毛包成分からの髪形成の刺激(例えば、顕微解剖した毛乳頭および毛包上皮の移植、または引き抜いた後の髪の成長)も指す。
【0069】
本明細書に使用する「髪新生」という用語は、毛包が先に存在しない皮膚、または所望の数の毛包よりも少ない数を有する皮膚に毛包が以前に存在しなかった箇所での、新たな毛包成長の刺激を指す。
【0070】
本明細書に使用する「ケラチン細胞」という用語は、表皮基底膜に接する基底細胞から扁平上皮細胞への細胞分裂および層化を受ける、皮膚表皮中の上皮細胞(毛包上皮中の細胞を含む)を指す。ケラチン細胞は、ケラチンを発現させる。
【0071】
本明細書に使用する「ケラチン細胞様細胞」という用語は、ケラチンを発現させ、重層扁平上皮形成能または毛包上皮形成能を有する、細胞を指す。ケラチン細胞様細胞は、皮膚細胞もしくは他の器官(骨髄もしくは気管等)、または幹細胞機能を有する細胞(胚性幹細胞を含む)か、もしくは多能性幹細胞を誘導する細胞由来であり得る。
【0072】
本明細書に使用する、「マトリックス」および「基質」という用語は、水和されたゲル様細胞支持体を形成することができる天然または合成の細胞外マトリックス様組成物を指す。細胞は、マトリックスおよび基質内、またはこれらの上に堆積することができる。マトリックスおよび基質は、構造機能および接着機能を共に有する1以上の線維性タンパク質を含み得る。かかるタンパク質には、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニン、ならびにコラーゲンI、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、およびXIIが含まれるが、これらに限定されない。または、もしくはさらに、マトリックスおよび基質は、タンパク質に共有結合した多糖鎖を含んだプロテオグリカン分子を含み得る。かかるプロテオグリカンには、ヒアルロナン結合タンパク質、ヘパリン硫酸結合タンパク質、コンドロイチン結合タンパク質、ケラチン硫酸結合タンパク質、およびデルマチン硫酸結合タンパク質が含まれるが、これらに限定されない。
【0073】
本明細書に使用する「間葉系細胞」という用語は、毛包からの毛乳頭および結合組織鞘の細胞に類似する毛包形成潜在能または誘導能を有する多能性細胞を指す。間葉系細胞は、通常、ビメンチンを発現させる中胚葉結合組織細胞と考えられるが、所定の属性を有する細胞は、誘導された神経冠でもあり得る。間葉系細胞は、次に示す1以上の供給源から単離することができる:自家細胞のための患者の皮膚または粘膜;同種異型細胞のためのドナーの皮膚または粘膜;正常な皮膚または粘膜;付属器腫瘍を有する皮膚;および、他の組織(例えば、脂肪、骨髄)。間葉系細胞には、線維芽細胞、毛乳頭細胞、表皮鞘細胞、爪線維芽細胞(onychofibroblast)(爪単位の線維芽細胞)、歯髄細胞、歯周靱帯細胞、神経冠細胞、付属器腫瘍細胞、人工多能性幹細胞、ならびに骨髄、臍帯血、臍帯、脂肪、および他の器官からの間葉系幹細胞が含まれるが、これらに限定されない。
【0074】
本明細書に使用する、「形態学的に正確で」および「十分に開発された」という用語は、毛包基部に位置する毛包および毛乳頭の遠心端から現われる上皮フィラメントを有した正常な形態を有する、毛包を指す。また、毛包は、毛包基部で増殖する細胞も有し、外毛根鞘および内毛根鞘、角皮および皮質の同心層も有する。毛包は、外毛根鞘の正常な分化を示し、毛幹および皮脂腺を有する。髪は、正常な周期を経て、上皮幹細胞構成要素を含む。
【0075】
本明細書に使用する「突然変異」という用語は、遺伝子のコード配列の変化を指す。突然変異には、ミスセンス突然変異、フレームシフト突然変異(すなわち、挿入および欠失)、スプライス部位突然変異、ナンセンス突然変異(すなわち、早期終止コドン)、および遺伝子自体の欠失が含まれる。
【0076】
本明細書に使用する、「遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列」という用語、または「遺伝子コード化」等のその変形は、遺伝子のコード領域、または遺伝子産物(すなわち、ポリペプチド)をコードする核酸配列を含む、核酸配列を意味する。コード領域は、cDNA、ゲノムDNA、またはRNA形態に存在し得る。DNA形態に存在する場合、ヌクレオチド配列は、一本鎖(すなわち、センス鎖)かまたは二本鎖であり得る。転写の適切な開始、および/または初期RNA転写の正確な処理を可能にするのに必要な場合、エンハンサー/プロモーター、スプライス部位、ポリアデニル化シグナル等の適切な制御要素は、遺伝子のコード領域のすぐ近くに配置されてもよい。または、コード領域は、内因性のエンハンサー/プロモーター、スプライス部位、介在配列、ポリアデニル化シグナル等、または内因性および外因性の制御要素の組合せを含み得る。
【0077】
本明細書に使用する「薬学的に許容し得るキャリア」という用語は、従来型の無毒な固形物、半固形物、または液状充填物、希釈剤、封入材料、製剤補助物、または賦形剤を指す。薬学的に許容し得るキャリアは、利用される用量および濃度においてレシピエントに無毒であり、製剤の他の原料と相溶性がある。
【0078】
本明細書に使用する、「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「核酸」、「核酸分子」、「核酸配列」、「ポリヌクレオチド配列」、および「ヌクレオチド配列」という用語は、任意の長さのヌクレオチドの重合体形態を指すのに区別しないで使用される。ポリヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、置換されたそのアルファ−アノマー型、ペプチド核酸(PNA)、ロックド核酸(LNA)、ホスホロチオアート、メチルホスホナート、および/または天然に存在するおよび天然に存在しない類似体もしくはこれらの誘導体を含み得る。また、この用語には、野生型配列の天然に存在するおよび天然に存在しない変異体も含まれる。変異体には、野生型配列と少なくとも約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一の挿入、付加、欠失、または置換が含まれ得る。一部の実施態様において、アミノ酸残基の10%未満は、変異体のタンパク質産物に組み換えられる。別の実施態様において、アミノ酸残基の5%未満は組み換えられる。挿入および欠失変異体には、対応する野生型配列の長さの90%、95%、105%、または110%であるポリヌクレオチドが含まれる。
【0079】
本明細書に使用する「皮脂腺」という用語は、皮脂腺起源の出芽として生じる、毛包依存性腺を指す。皮脂腺は、丸い細胞(脂肪細胞)の複数の小葉からなり、脂質含有液胞で充填され、小さく暗色の胚芽細胞の単層に囲まれる。小葉は、短い管に集中し、これは、変性した脂肪細胞の脂質内容物を毛包に移す。
【0080】
本明細書に使用する、「皮膚代替物」、「皮膚等価物」、「真皮−表皮複合体」、および「皮膚移植片」という用語は、完全なもしくは部分的な、一時的なもしくは恒久的な、損傷した皮膚の交換の目的で使用され、解剖学的にもしくは機能的にヒト皮膚と一部の類似性を有する、生産物を指す。本発明の文脈では、これらの用語は、上皮細胞のインビトロ由来の培養物と組み合わせた、アップレギュレートされたTSC1/TSC2ネットワークを有する間葉系細胞のインビトロ由来の培養物を指す。皮膚代替物には、生物工学によって作製された皮膚等価物、生体組織工学によって作製された皮膚、生体組織工学によって作製された皮膚構築物、生体皮膚代替物、生物工学によって作製された皮膚代替物、皮膚代替バイオ皮膚構築物、生存皮膚交換物、真皮−表皮複合体、および生物工学によって作製された代替組織が含まれるが、これらに限定されない。
【0081】
本明細書に使用する、「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」という用語は、ポリヌクレオチドが、標的配列だけでなく、最小数の他の配列にもハイブリダイズする条件を指す。一般に、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件には、Na2+またはK2+の無機陽イオンを有する塩の低濃度(<0.15M)(すなわち、低いイオン強度)、ハイブリダイズされた複合体のTmよりも低く、20℃〜25℃よりも高い温度(すなわち、標的配列に相補的なオリゴヌクレオチドの50%が平衡状態で標的配列にハイブリダイズする温度)、およびホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、または洗浄剤ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等の変性剤の存在下が含まれる。Tm値は、次に示す方程式によって算出することができる:核酸が1MのNaClの水溶液中にある場合、Tm=81.5+0.41(G+C%)(例えば、AndersonとYoungの文献:「核酸ハイブリダイゼーションにおける定量フィルターハイブリダイゼーション(Quantitative Filter Hybridization,in Nucleic Acid Hybridization)」[1985]を参照のこと)。例示的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件には、4倍塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中で約65〜70℃のハイブリダイゼーション、4倍SSCと50%ホルムアミド中で約42〜50℃のハイブリダイゼーション後に、約65〜70℃で、1倍SSC中での1回以上の洗浄、400mM NaCl、40mM PIPES、pH6.4、1mM EDTAでのハイブリダイゼーション、60℃で12〜16時間ハイブリダイゼーション後に、0.1%SDSおよび0.1%SSCによって、60℃で15〜60分間の洗浄、ならびに、5倍SSPE(43.8g/lのNaCl、6.9g/lのNaHPOO、および1.85g/lのEDTA、NaOHで7.4に調整したpH)、0.5%SDS、5倍のデンハート(Denhardt)試薬、および100μg/mlの変性サケ精子DNAからなる溶液で、42℃のハイブリダイゼーション後、42℃で、0.1倍SSPE、1.0%SDSを含む溶液中での洗浄が含まれるが、これらに限定されない。
【0082】
本明細書に使用する「トランスフェクション」という用語は、真核細胞への外来DNAの導入を指す。トランスフェクションは、リン酸カルシウム−DNA共沈、DEAEデキストラン媒介トランスフェクション、ポリブレン媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポソーム融合、リポフェクション、原形質融合、レトロウイルス感染、およびバイオリスティクスを含む、当該技術分野で公知の種々の手段によって行うことができる。また、トランスフェクションには、複製不適当なレトロウイルスベクターによって行われた外来DNAの導入も含まれ、これも、形質導入またはウイルス形質導入と呼ばれる。「安定したトランスフェクション」、または「安定的にトランスフェクトされた」という用語は、トランスフェクトされた細胞のゲノムへの外来DNAの導入および組込みを指す。「一時的なトランスフェクション」、または「一時的にトランスフェクトされた」という用語は、細胞への外来DNAの導入であって、外来DNAが、トランスフェクトされた細胞のゲノムに組み込まれないものを指す。外来DNAは、数日間、一時的にトランスフェクトされた細胞の核を維持する。この間に、外来DNAは、調節制御され、染色体中の内因性遺伝子の発現が調節される。
【0083】
本明細書に使用する「治療」という用語は、所定の薬理学効果および/または生理学効果を得るための、ヒトを含む哺乳動物における症状の管理または矯正の適用を指す。治療には、例えば、失われたか、欠けているか、不完全な機能を回復するかもしくは修復すること、または効果のない過程を刺激することによって、症状を抑制すること、その進行を阻止すること、または症状を緩和することが含まれる。
【0084】
本明細書に使用する「発毛促進性の(trichogenic)」という用語は、細胞の毛包誘導能、および/または毛包形態形成促進能(すなわち、毛包形成(folliculogenesis))を指す。
【0085】
本明細書に使用する、「野生型」および「通常の」という用語は、天然に存在する供給源における遺伝子、遺伝子産物、またはシグナリングネットワークの特性を有する、遺伝子、遺伝子産物、またはシグナリングネットワークを指す。野生型遺伝子、遺伝子産物、またはシグナリングネットワークは、個体で最も頻繁にみられ、このため、任意に設計された「通常の」または「野生型」の形態である。対照的に、「改変された」、「突然変異体」、および「変異体」という用語は、対応する野生型のものと比較した場合、配列および/または機能特性の改変(すなわち、変更された特性)を示す、遺伝子、遺伝子産物、またはシグナリングネットワークを指す。天然に存在する供給源から天然に存在する突然変異体を単離することができ、これは、対応する野生型の遺伝子、遺伝子産物、またはシグナリングネットワークと比較して、これらが変更された特性を有するという事実によって同定されることに留意する。
【0086】
II.本発明の皮膚代替物
驚くべきことに、良性付属器腫瘍から採取された細胞が発毛促進性であることが分かった。具体的には、アップレギュレートされたmTORC1/TSC1/TSC2シグナリングネットワークを示す間葉系細胞は、毛包を誘導することができる。かかる毛包は、Chuongらの文献:「幹細胞生物工学の時代における毛包の定義(Defining hair follicles in the age of stem cell bioengineering)」,J.Invest.Dermatol.,127:2098−100(2007)によって提案された基準に従って完成される。毛包は、毛包基部に位置する毛包および毛乳頭の遠心端から現われる上皮フィラメントを有した正常な形態を有する。毛包は、毛包基部で増殖する細胞を有し、外毛根鞘および内毛根鞘、角皮および皮質の同心層を有する。毛包は、外毛根鞘の正常な分化を示し、毛幹および皮脂腺を有する。髪は、正常な周期を経て、上皮幹細胞構成要素を含む。
【0087】
したがって、本発明は、髪新生が可能な細胞組成物を提供する。一実施態様において、本発明は、上皮細胞と改変間葉系細胞とを含む皮膚代替物であって、改変間葉系細胞が、野生型間葉系細胞と比較して、低下したTSC1/TSC2機能、増加したmTORC1機能、および/または低下したmTORC2機能を有する、皮膚代替物を提供する。本発明の別の実施態様は、改変間葉系細胞であって、改変間葉系細胞が、野生型間葉系細胞と比較して、低下したTSC1/TSC2機能、増加したmTORC1機能、および/または低下したmTORC2機能を有し、かつ改変間葉系細胞が、患者自身の上皮細胞と相互作用することができる、改変間葉系細胞を提供する。
【0088】
一実施態様において、組成物は、良性付属器腫瘍から単離された発毛促進性間葉系細胞を含み、これは、野生型細胞に対して「改変された」と考えることができる。または、生毛細胞(trichogenic cell)は、通常の間葉系細胞または野生型間葉系細胞と比較して、TSC1/TSC2機能を低下させること、mTORC1機能を増加させること、および/またはmTORC2機能を低下させることによって、人工的に作製してもよい。本発明の間葉系細胞では、TSC1もしくはTSC2のダウンレギュレート;TSC1/TSC2機能を阻害するか、もしくは低下したTSC1/TSC2機能の模擬体として作用する、阻害タンパク質のアップレギュレート;または、TSC1/TSC2機能を刺激するか、もしくは増加したTSC1/TSC2機能の模擬体として作用する、刺激タンパク質のダウンレギュレートによって、TSC1/TSC2の機能は低下し、mTORC1の機能は増加し、および/またはmTORC2の機能は増加する。
【0089】
A.哺乳動物の皮膚の一般的特性
哺乳動物の皮膚は、表皮と呼ばれる外側層と、真皮と呼ばれる中間層の2つの第一の層を含む。表皮は、有糸分裂によって表皮の深い層に形成され、次いで、表面まで移動する、ケラチン細胞を主として含み、ケラチン細胞は結局屑する。真皮は、毛包、皮脂腺、汗腺、アポクリン腺、神経、リンパ管、および血管を含んだ種々の構造体を含む。
【0090】
毛包形態形成は、胚形成時において多くは子宮内で生じる。毛包形成は、表皮プラコードの外観から始まり、これは、新しい毛包の位置を示す。その後、間葉系細胞(すなわち、誘導型多能性細胞)は、表皮プラコードより下にある真皮に凝集し始める。間葉系細胞凝集物は、被覆したプラコードのケラチン細胞にシグナルを送り、その後、真皮の下方に増殖し始める。表皮のケラチン細胞が間葉系細胞凝集物に達すると、細胞は、一連の分化と増殖の過程を経て、結局、成熟した毛包を形成する。
【0091】
成熟した毛包は、毛乳頭(DP)、表皮鞘(DS)、毛包上皮、および毛幹の4つの主要部分を含む(図1D)。DPは、毛幹を生ずる髪マトリックスに隣接する毛包の基部または毛包球に位置する。DSは、結合組織から構成され、毛包を覆う。毛包上皮には、外毛根鞘および内毛根鞘が含まれる。毛幹は、毛包基部から皮膚の外部の表皮まで延びるタンパク質構造体である。
【0092】
毛包は、成長(成長期)、退行(退行期)、および静止(休止期)の期間を通じて、繰り返し循環する、動的な小器官である。毛包下部は、逆行するか、または再成長し、真皮の間葉系細胞と表皮細胞の間の複雑な相互作用によって、各周期で再生する。連続的に再形成した部分の上の下部毛包の恒久的部分は、わずかに毛包から突き出るので、「膨出(bulge)」と呼ばれる。膨出は、毛包、皮脂腺、および表皮を形成することができる多能性細胞を含む。患者の年齢、成長期および退行期の毛包周期は、短くなり、毛包は、休止期への急速な変化を経験する。その結果、正常な髪は、微細なうぶ毛に徐々に代わり、一部の患者において、細胞は、これらの発毛促進特性を完全に失う場合がある。
【0093】
B.本発明に使用する皮膚細胞
本発明の皮膚代替物は、(1)改変間葉系細胞、または(2)改変間葉系細胞および上皮細胞のいずれかを含む。皮膚代替物が改変間葉系細胞を含み、上皮細胞を含まない実施態様において、間葉系細胞は、患者の上皮細胞と相互作用して、毛包を生ずる。皮膚代替物が改変間葉系細胞と上皮細胞とを含む実施態様において、改変間葉系細胞および上皮細胞は、皮膚代替物に供され、患者の上皮細胞と相互作用してか、または相互作用しないで、毛包を生ずる。
【0094】
1.間葉系細胞
一般に、間葉系細胞(すなわち、誘導型多能性細胞)の供給源が、本発明に有用である。したがって、本発明は、毛包形成誘導能または潜在能を有する特定の供給源の細胞の使用に限定されない。実際、本発明は、毛包を誘導することができる種々の細胞系および供給源の使用を考慮する。間葉系細胞は、通常、ビメンチンを発現させる中胚葉結合組織細胞と考えられるが、これらの属性を有するビメンチン発現細胞は、誘導された神経冠でもあり得る。細胞の供給源には、毛乳頭の誘導型多能性細胞、および毛包の結合組織鞘が含まれる。間葉系細胞は、次に示す1以上の供給源から単離することができる:自家細胞のための患者の皮膚または粘膜;同種異型細胞のためのドナーの皮膚または粘膜;正常な皮膚;付属器腫瘍を有する皮膚;および、他の組織(例えば、脂肪、骨髄等)。間葉系細胞の一例には、線維芽細胞、毛乳頭細胞、表皮鞘細胞、爪線維芽細胞(爪単位の線維芽細胞)、歯髄細胞、歯周靱帯細胞、神経冠細胞、付属器腫瘍細胞、人工多能性幹細胞、ならびに骨髄、臍帯血、臍帯、脂肪、および他の器官からの間葉系幹細胞が含まれる。
【0095】
2.上皮細胞
一般に、扁平上皮に階層化することができる上皮細胞または細胞系の供給源が、本発明に有用である。したがって、本発明は、扁平上皮に分化することができる、特定の供給源の細胞の使用に限定されない。実際、本発明は、重層扁平上皮に分化することができる、種々の細胞系および供給源の使用を考慮する。細胞の供給源には、初期および不死化ケラチン細胞、ケラチン細胞様細胞、ならびに、ヒトおよび死後硬直ドナーから得られるケラチン細胞様細胞への分化能を有する細胞(Augerらの文献:In Vitro Cell.Dev.Biol.−−Animal 36:96−103;および、米国特許第5,968,546号および同第5,693,332号)、新生児包皮(Asbillらの文献:Pharm.Research 17(9):1092−97(2000);Meanaらの文献:Burns 24:621−30(1998);米国特許第4,485,096号;同第6,039,760号;および、同第5,536,656号)、およびNM1細胞等の不死化ケラチン細胞系(Badenの文献:In Vitro Cell.Dev.Biol.23(3):205−213(1987))、HaCaT細胞(Boucampらの文献:J.cell.Boil.106:761−771(1988));ならびに、NIKS細胞(細胞系BC−1−Ep/SL;米国特許第5,989,837号;ATCC CRL−12191)が含まれる。
【0096】
また、上皮細胞は、次に示すものからも得ることができる:患者の皮膚もしくは粘膜(自家)、ドナー皮膚もしくは粘膜(同種異型)、表皮細胞系、幹細胞由来の表皮細胞、初期もしくは継代表皮細胞、気管、および血液単核球細胞もしくは循環幹細胞由来の細胞。また、これらの供給源の上皮細胞のサブポピュレーションは、例えば、幹細胞特性により細胞数を増やすことによって使用することもできる。上皮細胞は、ケラチンを発現させるか、またはケラチンを発現させるのを誘導し、重層扁平上皮および/または毛包上皮形成能を有する。
【0097】
一部の実施態様において、上皮細胞は、2つの異なる供給源由来である。例えば、本発明は、自家ケラチン細胞と共に、不死化ケラチン細胞を使用して実施してもよい。不死化細胞と自家細胞の相対比率は、1:99、5:95、10:90、20:80、30:70、40:60、50:50、60:40、70:30、80:20、または90:10であり得る。このように、自家ケラチン細胞の数を低減してもよい。不死化ケラチン細胞は、例えば、細胞を遺伝子組み換えして、成長因子または血管新生因子を発現させることによって、増強し、皮膚治癒を促進してもよい。移植後の一時点に不死化ケラチン細胞を除去することを目標とするように、不死化ケラチン細胞を改変することができる。一実施態様において、具体的には、いわゆる「自殺遺伝子」を使用することができ、また、細胞が薬物療法に応じて死ぬように、細胞を遺伝子組み換えすることができる。(Voglerらの文献:「効果的な精製のための改変双シストロン性CD20/tCD34ベクター、および養子免疫療法のための遺伝子組換え型T細胞のインビボ除去(An Improved Bicistronic CD20/tCD34 Vector for Efficient Purification and In Vivo Depletion of Gene−Modified T Cells for Adoptive Immunotherapy)」,Mol Ther.doi:10.1038(2010年5月11日)(オンライン電子出版);および、Scaifeらの文献:「移植片対宿主病のレンチウイルスベクターの新たな適用(Novel Application of Lentiviral Vectors Towards Treatment of Graft−Versus−Host Disease)」,Expert Opin Biol Ther.2009 Jun;9(6):749−61を参照のこと)。
【0098】
3.細胞の単離
間葉系細胞および上皮細胞は、適切な方法を用いて、皮膚または粘膜の試料または皮膚腫瘍から単離することができる。例えば、間葉系細胞は、組織外植片から細胞の移動によって単離してもよい。かかる方法の一例は、実施例3でさらに詳細に説明する。または、細胞を、皮膚または粘膜の試料または皮膚腫瘍から解離して、間葉系細胞および上皮細胞を単離することができる。かかる方法の一例は、実施例3でさらに詳細に説明する。さらに、上皮細胞は、多能性幹細胞を誘導して、上皮細胞に分化することによって単離することができる。かかる方法の一例は、実施例7でさらに詳細に説明する。
【0099】
単離した細胞は、当業者に公知の適切な培地で増殖させることができる。例示的な培地は、実施例6で詳細に論じる。試料は、当業者に公知の方法に基づいて、髪誘導細胞で富化することができる。例えば、細胞は、実施例5で非常に詳細に論じるように、CD133、CD10、またはネスチン等の適切な細胞マーカーの存在に基づいて、選択してもよい。または、実施例5で非常に詳細に論じるように、BMP2、4、5、または6、Wnt−3a、Wnt−10b、インシュリン、FGF2、KGF等の成長因子を加えて、毛乳頭細胞を含む髪誘導細胞を維持し富化してもよい。また、細胞は、実施例8で非常に詳細に論じる、細胞接着および細胞選別法を用いて、これらの毛包分化能を強化してもよい。
【0100】
C.TSC1/TSC2およびmTORシグナリングネットワーク
本発明の皮膚代替物に使用する改変間葉系細胞は、TSC1/TSC2およびmTORシグナリングネットワークに対して自然に発生する改変を有するか、または、これを設計して、TSC1/TSC2およびmTORシグナリングネットワークの改変を形成する。したがって、「改変された」という用語は、野生型の細胞と比較して、このネットワークへの自然に発生し、および設計された変化を包含する。
【0101】
TSC1およびTSC2の遺伝子は、腫瘍抑制遺伝子である。TSC1は、染色体9q34に位置し、ハマルチンと呼ばれる140kDaのタンパク質をコードするのに対し、TSC2は、染色体16p13.3に位置し、チュベリンと呼ばれる200kDaのタンパク質をコードする。ハマルチン(TSC1とも呼ばれる)、およびチュベリン(TSC2とも呼ばれる)は、会合して、TSC1/TSC2複合体と呼ばれるヘテロ二量体タンパク質複合体を形成する。TSC1/TSC2複合体は、本明細書中でTSC1/TSC2およびmTORシグナリングネットワークと呼ばれるものにシグナリングネットワークのネットワークを結合する、中心ハブとして機能する。
【0102】
TSC1/TSC2複合体は、mTOR(ラパマイシンの哺乳動物標的)ネットワークの一部である、mTORC1の阻害機能によって本発明におけるその効果を発揮すると考えられる。また、TSC1/TSC2複合体は、mTORC2の機能を刺激するとも考えられる。mTORネットワークは、成長調節および増殖制御を中心に関係する。図2は、mTORネットワークの概要の概略図を示す。mTORは、キナーゼのホスホイノシチド−3−キナーゼ関連(PI3K関連)ファミリーのメンバーである。構造的および機能的に明瞭な2つのmTOR含有複合体が哺乳動物細胞で同定されている(mTORC1およびmTORC)。
【0103】
TSC1/TSC2タンパク質複合体は、mTORC1とmTORC2の両方の上流に機能する。TSC1/TSC2複合体は、小さなGタンパク質Rheb(脳に濃縮するRasの同族体)を不活性化し、これによって、mTORC1を消極的に調節する、TSC2タンパク質によってGTPアーゼ活性化タンパク質(GAP)機能を示す。対照的に、TSC1/TSC2複合体は、積極的にmTORC2を調節する。
【0104】
また、TSC1/TSC2複合体、ならびに個々のTSC1およびTSC2タンパク質は、多くの他のシグナリングネットワークと相互作用する。例えば、TSC1/TSC2複合体は、InR(インシュリン様受容体)、PTEN(染色体10で欠失したリン酸塩およびテンシン相同体)、Akt(プロテインキナーゼB)、ならびにS6K1(70kDaのリボソームタンパク質S6キナーゼ)を含む、InRシグナルの成分と相互作用する。さらに、TSC1は、タンパク質DOCK7、エズリン/ラジキシン/モエシン、FIP200、IKKbeta、Melted、メルリン、NADE(p75NTR)、NF−L、Plk1、およびTBC7と相互作用する。TSC2は、14−3−3(アイソフォームベータ、イプシロン、ガンマ、イータ、シグマ、タウ、およびゼータ)、Akt、AMPK、CaM、CRB3/PATJ、サイクリンA、サイクリンD1、D2、D3、Dsh、ERalpha、Erk、FoxO1、HERC1、HPV16 E6、HSCP−70、HSP70−1、MK2、NEK1、p27KIP1、Pam、PC1、PP2Ac、ラバプチン−5(Rabaptin−5)、Rheb、RxRalpha/VDR、およびSMAD2/3と相互作用する。タンパク質axin、Cdk1、サイクリンB1、GADD34、GSK3、mTOR、およびRSK1は、TSC1およびTSC2との共免疫沈殿が示されている。キナーゼCdk1およびIKKbetaは、ハマルチンをリン酸化する。Erk、Akt、MK2、AMPK、およびRSK1は、TSC2をリン酸化する。また、GSK3は、TSC1およびTSC2を共にリン酸化する。したがって、これらの種々のタンパク質、およびこれらの関連するシグナリングネットワークは、TSC1/TSC2およびmTORシグナリングネットワークの一部と考えられる。
【0105】
これらのうち、TSC1、TSC2、FLCN、MEN1、およびPTENは、以下に論じる、皮膚の付属器腫瘍に対して遺伝性素因を有する種々の症候群に共有される。
【0106】
1.TSC1/TSC2の機能を低下させるための方法、および低下したTSC1/TSC2機能の模擬体をダウンレギュレートするための方法
TSC1/TSC2の機能は、mTORC1の機能を増加させ、および/またはmTORC2の機能を低下させることができる、当業者に公知の方法によって低下させることができる。これは、TSC1またはTSC2を直接ダウンレギュレートすることによって、および/または、TSC1/TSC2機能を刺激するか、もしくは増加したTSC1/TSC2機能の模擬体(例えば、CYLD、LKB1、FLCN、MEN1、NF1、PTEN、PRAS40、4E−BP1、GSK3、もしくはDeptor)として作用する、刺激タンパク質のダウンレギュレートによって、実行することができる。
【0107】
例えば、細胞は、刺激タンパク質をコードする遺伝子に指示された、小型干渉RNA(siRNA)、短干渉ヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、または干渉RNA(RNAi)等の短い相補的な二本鎖RNAオリゴヌクレオチド(dsRNA)によって、処理することができる。当業者は、正常な間葉系細胞中でノックダウン遺伝子発現の標準手順を用いることができる。例えば、レンチウイルス粒子を使用して、カスタムクローン化短ヘアピンRNA(shRNA)を間葉系細胞に送達することができる。かかる方法の詳細な説明は、実施例2および4に提供する。
【0108】
または、もしくはさらに、遺伝子療法に基づく方法を用いて、TSC1、TSC2、および/またはTSC1/TSC2機能を刺激する刺激タンパク質をダウンレギュレートすることができる。例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ等のジンクフィンガータンパク質を使用して、TSC1もしくはTSC2遺伝子に、またはTSC1/TSC2機能を刺激する刺激タンパク質をコードする遺伝子に、標的二本鎖切断を発生させることができる。相同性のない端部接続過程によって、かかる二本鎖切断は、標的遺伝子の機能的なノックアウトを形成する。
【0109】
また、TSC1、TSC2、および/または刺激タンパク質は、これらのタンパク質をコードする遺伝子を突然変異させて、タンパク質機能を排除することによって、阻害することもできる。さらに、TSC1またはTSC2の機能は、特定の相互作用するタンパク質の発現を減少させることによって、間接的に調節することもできる。例えば、Aktリン酸化からTSC2を保護することによってmTORC1を抑制するタンパク質である、ポリシスチン−1の発現をノックダウンすること(Dere R.らの文献:「ポリシスチン−1のカルボキシ末端は、TSC2の局在化を調節して、mTORを抑制する(Carboxy terminal tail of polycystin−1 regulates localization of TSC2 to repress mTOR)」,PLoS One,5(2):e9239(2010))が、TSC2機能を低下させると予想される。別のアプローチは、上流または下流に相互作用するタンパク質を調節するタンパク質の発現をノックダウンすることである。例えば、TSC1/TSC2機能の欠損によって、mTORC1の活性化が生じ、Deptorをノックダウンすることが、mTORC1機能を増加させると予想される。または、細胞は、刺激タンパク質の機能を減少させる化学物質または分子によって処理することができる。例えば、TSC2は、AMPKによって活性化され、化合物Cまたはスニチニブ等のAMPKを阻害する薬剤(Laderoute K.R.らの文献「SU11248(スニチニブ)は、哺乳動物の5’−AMP−活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性を直接阻害する(SU11248(sunitinib) directly inhibits the activity of mammalian 5’−AMP−activated protein kinase(AMPK))」,Cancer Biol Ther.,10(1)(2010))は、TSC2機能を低下させることができる。
【0110】
2.TSC1/TSC2機能を阻害するか、または低下したTSC1/TSC2機能の模擬体として作用する阻害タンパク質をアップレギュレートするための方法
TSC1/TSC2機能を阻害するか、または低下したTSC1/TSC2機能の模擬体として作用するタンパク質の機能は、mTORC1の機能を増加させ、および/またはmTORC2の機能を低下させることができる、当業者に公知の方法によって、増加させることができる(例えば、Ortiz−Urda,S.らの文献:「遺伝子操作された線維芽細胞の注入は、再生ヒト表皮水疱症皮膚組織を矯正する(Injection of Genetically Engineered Fibroblasts Corrects Regenerated Human Epidermolysis Bullosa Skin Tissue)」,The Journal of Clinical Investigation 111(2):251−255(2003)を参照のこと)。例えば、阻害タンパク質の機能は、強いプロモーターでノックして、阻害タンパク質をコードする遺伝子の発現を促進することによって、増加させることができる。かかる方法の詳細な説明は、実施例4に提供する。
【0111】
または、細胞は、遺伝子に指示されたdsRNAによって処理することができ、その産物は、阻害タンパク質の発現または機能を抑制する。また、阻害タンパク質の機能は、阻害タンパク質をコードする遺伝子を突然変異させて、構造的に活性のあるタンパク質にすることによって増加させることもできる。または、実施例4で詳細に説明するように、阻害タンパク質は、細胞に直接送達することができる。
【0112】
3.良性付属器腫瘍
上に論じるように、TSC1/TSC2およびmTORシグナリングネットワークの改変は、自然に発生し得る。これらの自然に発生する改変は、良性付属器腫瘍に存在し得る。したがって、良性付属器腫瘍は、本発明による改変間葉系細胞の十分な供給源を提供すると考えられる。
【0113】
良性付属器腫瘍は、次に示す、正常な皮膚に存在する種々の型の付属器上皮のうちの1つへの形態分化を示す、非悪性皮膚腫瘍である。(1)毛包脂腺単位(すなわち、毛幹、毛包、および皮脂腺);(2)エクリン汗腺;および、(3)アポクリン汗腺。良性付属器腫瘍は、通常、多分葉化され、対称で滑らかな境界を有し、通常、腫瘍壊死または潰瘍形成がなく、上皮細胞の均一な集団を有する。異型性(すなわち、細胞異常)は通常ない。また、有系分裂活性は、一般に最小である。密な線維性間質反応が、これらの腫瘍で頻繁に生じる。
【0114】
良性付属器腫瘍の一例には、線維血管腫、アポクリン/エクリン母斑、類基底の表皮増殖、類基底毛包過誤腫、軟骨様汗管腫、円柱腫、癒着性毛根鞘腫、癒着性毛髪上皮腫、線維毛包腫、線維性斑、毛包皮脂嚢胞性過誤腫(folliculosebaceous cystic hamartoma)、前額部斑(図1A)、毛包母斑、単純汗腺棘細胞腫、汗腺腫、乳頭状汗腺腫、汗腺嚢腫、インフンディブローマ、表皮内炎症性硬結、イスシミコーマ、ヤーダッソーン脂腺母斑、小結節性汗腺腫、真皮間葉系細胞損傷に重なる器官母斑、乳頭状腺腫、毛包周囲線維腫、毛の腫瘍(pilar tumor)、棘細胞腫、毛母腫、炎症性硬結、増殖性毛母腫、増殖性外毛根鞘嚢腫、脂腺増殖症、脂腺腫(sebaceoma)、脂腺腺腫、脂腺上皮腫、脂腺増殖症、脂腺母斑、毛包脂腺腫(sebaceous trichofolliculoma)、脂腺腫瘍、粒起革様斑、汗腺腫、多発性脂腺嚢腫、管状乳頭状汗腺腫(stubulopapillary hidradenoma)、乳頭状汗管嚢胞腺腫、シリンゴフィブロアデノーマ(syringofibradenoma)、シリンゴフィブロアデノーマ(syringofibroadenoma)、汗管腫、外毛根鞘嚢腫、毛根鞘腫、毛包腺腫(trichoadenoma)、毛芽細胞腫、毛芽細胞線維腫(trichoblastic fibroma)、毛盤腫、毛髪上皮腫、毛包腫、管状アポクリン腺腫、管状乳頭状汗腺腫(tubulopapillary hidradenoma)、および爪周囲線維腫が含まれるが、これらに限定されない。
【0115】
これらの条件のうち、線維血管腫、線維性前額部斑、線維毛包腫、毛盤腫、および毛包周囲線維腫は、互いに最も類似しているものである。これらは、組織機能および免疫組織機能を共有する。さらに、爪周囲線維腫および粒起革様斑は、TSC1/TSC2異常を共有する。
【0116】
また、良性付属器腫瘍には、バート−ホッグ−デューベ症候群、ブルック−スピーグラー症候群、カウデン症候群(CS)、家族性類基底毛包過誤腫症候群(familial basaloid follicular hamartoma syndrome)、多発性内分泌腺腫1型(MEN1)、神経線維腫症(NF1)、ポイツ・イェガース症候群(Peutz−Jeghers syndrome)(PJS)、または複合型結節硬化症(TSC)に関連する腫瘍も含まれるが、これらに限定されない。
【0117】
良性付属器腫瘍は、多種多様な種類の細胞からなり、ある皮膚組織を目立たせる傾向を有した、無秩序で過度の細胞増殖を示す。例えば、毛根鞘腫と呼ばれるCSにみられる腫瘍は、毛包の外側の鞘に類似する厚くなった上皮を示す。線維血管腫と呼ばれるTSCにみられる腫瘍は、乳頭状真皮および/または付属器周囲真皮の過形成であると考えられる。神経線維腫と呼ばれるNF1にみられる腫瘍は、過剰な量の神経および線維組織を示す。そして、黒子と呼ばれるPJSにみられる腫瘍は、黒血球過形成を示す。
【0118】
最も良性の付属器腫瘍症候群は、TSC1/TSC2複合体を介してシグナルを送る遺伝子の突然変異によって生じる。例えば、TSC1またはTSC2のいずれかの突然変異によって、多重の常染色体優性障害である、結節硬化(TSC)が生じる。連鎖解析は、家族性TSCにおいて、障害を生ずるおよそ半分の突然変異がTSC1で生じ、さらに半分がTSC2で生じることを示唆する。対照的に、散発性TSCでは、TSC2での突然変異は、TSC1での突然変異よりも約5倍頻度が高い。TSC2突然変異を有する患者は、TSC1遺伝子の突然変異を有する患者よりも重度な障害を受けると考えられる。TSC遺伝子の突然変異スペクトルは、非常に不均一であり、突然変異のホットスポットは発見されていない。
【0119】
TSCは、6000人の出生中約1人に障害を及ぼし、発作、認知機能障害、ならびに腎臓、心臓、皮膚、肺および脳における腫瘍様成長の進行が特徴である。皮膚損傷は、ほぼすべての患者の幼児期に生じ、これには、線維血管腫、爪周囲線維腫、石灰化網膜過誤腫、皮質結節、腎臓血管筋脂肪腫、白斑、線維性前額部斑、顔面線維血管腫、および粒起革様斑が含まれる。TSCの重症度および生活の質へのその影響は、非常に可変的である。罹患の最も大きな原因は、脳腫瘍(皮質結節)であり、これは、障害を受けた患者の80〜90%で発作をもたらし、障害を受けた患者の半分超で、行動障害(多くは自閉症)をもたらす。
【0120】
また、TSC1/TSC2複合体は、他の遺伝子の突然変異によって生じる良性付属器腫瘍症候群にも役割を果たす。例えば、ポイツ・イェガース症候群(PJS)は、LKB1腫瘍抑制遺伝子の突然変異によって生じ、腸における過誤腫ポリープ、ならびに唇および口腔粘膜上の色素過剰斑が特徴である。LKB1タンパク質は、アデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼ(AMPK)をリン酸化し、活性化する、セリン/トレオニンキナーゼであり、これは、次に、TSC2をリン酸化し活性化する。PJSは、120,000人の出生中約1人に障害を及ぼす。
【0121】
同様に、カウデン症候群(CS)、バナヤン−ライリー−ルバルカバ症候群(Bannayan−Riley−Ruvalcaba syndrome)(BRRS)、プロテウス症候群(PS)、およびレルミット−デュクロ疾患(Lhermitte−Duclos disease)(LDD)はすべて、常染色体優性過誤腫症候群であり、また、すべては、PTEN腫瘍抑制遺伝子の突然変異に関与する。PTEN活性の欠損は、Akt活性を増加させ、TSC2をダウンレギュレートする。CSは、200,000人中約1人に生じる。BRRSは、過誤腫性ポリープ症として現われる稀な過成長症候群である。PSは、世界中の約100〜200人に障害を及ぼし、身体の半分を超える腫瘍が伴った皮膚過成長および異常な骨成長をもたらす。そして、LDDは、世界中のおよそ200人に障害を及ぼし、小脳の過誤腫として現われる。
【0122】
さらに、神経線維腫症1型(NF1)は、NF1遺伝子の突然変異によって生じ、良性神経線維腫および悪性末梢神経鞘腫瘍の進行が特徴である。NF1は、ニューロフィブロミンをコードし、これは、Ras−GTPアーゼ−活性化タンパク質として機能する。Rasは、細胞において多くの機能を有し、このうちの1つは、TSC1/TSC2複合体を阻害することである。NF1は、3000人の患者中約1人に生じ、障害を受けた患者は、認知障害、骨変形、および虹彩の過誤腫性損傷を示す場合がある。神経線維肉腫(悪性シュワン鞘腫)は、障害を受けた患者の3%〜15%で進行し、深刻な神経線維腫に関係することが多い。
【0123】
更なる一例として、常染色体優性遺伝性嚢胞腎(ADPKD)の90%は、PKD1遺伝子の突然変異によって生じる。TSC1は、PC1の局在化に必要であり、ADPKDに相乗的な役割を果たすと考えられる。ADPKDは、すべての腎臓における複数の包嚢の存在が特徴であり、世界中の400人の患者中約1人から1,000人の患者中約1人に生じる。また、ADPKDは末期腎臓病にも関係する。
【0124】
したがって、mTORC1/TSC1/TSC2シグナリングネットワークは、複数の異なる良性付属器腫瘍症候群で一般的な関係を提供する。
【0125】
III.本発明の組成物を製造する方法
本発明の組成物には、皮膚代替物と注射用製剤が共に含まれる。
【0126】
A.皮膚代替物
本発明の皮膚代替物は、先行技術の皮膚代替物とは異なる細胞型を含むが、先行技術の公知の方法(図1B)によって調製してもよい。例えば、Greenberg Sらの文献:「設計されたヒト皮膚のインビボ移植(In vivo transplantation of engineered human skin)」,Methods Mol Biol.,289:425−30(2005)は、インビトロで皮膚代替物を作製する方法を開示する。さらに、Shevchenko RVらの文献:「皮膚再建に使用可能の組織によって設計された皮膚バイオ構築物の総説(A review of tissue−engineered skin bioconstructs available for skin reconstruction)」,J R Soc Interface,7(43):229−58(2010)は、皮膚代替物の調製に使用することができる種々のアプローチの総説を提供する。また、例示的な方法は実施例9にも提供する。
【0127】
一実施態様において、生毛細胞を含む組成物は、皮膚代替物の形で提供される。一部の実施態様において、皮膚代替物は、生毛細胞(または、線維芽細胞を有する生毛細胞、内皮細胞、および/または他の支持間葉系細胞)と、基質またはマトリックスとを組み合わせ、次いで、上皮細胞で構築物を被覆することによって、形成される。移植前に、上皮細胞を部分的にまたは完全に誘導して、代替物の表面に空気を曝露することによって、重層扁平上皮および角化層を形成することができる。
【0128】
別の実施態様において、生毛細胞は、マトリックスと組み合わせる前に培養することができる。別の実施態様において、細胞−マトリックス混合物は、上皮細胞と組み合わせる前に培養する。別の実施態様において、生毛細胞は、基質またはマトリックスに導入するのではなく、基質またはマトリックスの上かまたは下で増殖させ、これは、上皮細胞で被覆される。
【0129】
別の実施態様において、生毛細胞は、基質/マトリックス/足場に導入されるか、もしくは挿入される前に、または基質/マトリックス/足場に設置する前に、最初にマイクロスフィアにされ、これは、上皮細胞で被覆される。マイクロスフィアは、上皮細胞を有するか、もしくは上皮細胞のない、またはマトリックスを有するか、もしくはマトリックスのない、生毛細胞からなり得る。マイクロスフィアにマトリックスがある場合、マイクロスフィアは、真皮足場による組成物と同じかまたは異なる。マイクロスフィアが入れられる基質/マトリックス/足場は、付加的な線維芽細胞、内皮細胞、および/または他の支持間葉系細胞を有するか、またはこれらがなくてもよい。マイクロスフィアの間隔は、無作為であるか、または正常なヒト皮膚中の毛包の間隔を繰り返す間隔であってもよい。
【0130】
別の実施態様において、生毛細胞(または、線維芽細胞を有する生毛細胞、もしくは他の支持間葉系細胞)は、表皮構築物とは別に製造される真皮構築物に使用され、この2つは、患者に連続して移植される。表皮構築物の使用の代替として、培地またはフィブリン糊中に細胞のエアゾールを使用して、上皮細胞を、移植された真皮構築物上に噴霧してもよい。
【0131】
基質/マトリックス/足場に使用することができる化合物には、コラーゲン、エラスチン、ラミニン、フィブリン、ヒアルロナンもしくはヒアルロン酸、フィブロネクチン、キトサン、セルロース、絹フィブロイン、およびアルギンが含まれる。これらの化合物は、ヒト、ラット、ブタ、もしくはウシ由来;か、甲殻類(crustaceon)、菌類(キトサン)、植物、もしくは藻類(セルロース)由来;であるか、または、細菌もしくは他の生物体中の組換え型として発現させたタンパク質であり得る。また、これらの化合物は、髪ケラチン−コラーゲン海綿、フィブロネクチン機能ドメインと結合したヒアルロナン、ポリ(乳酸−co−グリコール酸/キトサンハイブリッドナノファイバー膜、ポリカプロラクトン(PCL)コラーゲンナノファイバー膜、絹フィブロインおよびアルギン、ポリビニルアルコール/キトサン/フィブロイン海綿混合物、テガダーム−ナノファイバー構築物、細菌セルロース、ICX−SKN皮膚移植交換物(インターサイテックス(InterCytex)社製、ケンブリッジ、英国)、コラーゲン−グリコサミノグリカン−キトサン、ナノ酸化チタン−キトサン複合体(コラタンプ(Collatamp)(登録商標)(ユーサファーマ(EUSAPharma)社製、ラングホーン、ペンシルベニア州)、脱アセチルキチンもしくは植物セルロース移動膜等を改良するか、または組み合わせることもできる。さらに、足場も、ヒト、ブタ、またはウシの無細胞真皮、腱、または粘膜下組織であってもよく、これらは、凍結乾燥し、架橋し、網目状とするか、または上述の化合物のうちのいずれかと組み合わせることができる。足場は、マトリゲル(Matrigel)(商標)(BDバイオサイエンシーズ(BD Biosciences)社製)か、または線維芽細胞もしくは他の細胞由来の細胞外マトリックス等の複合混合物であり得る。また、マトリックス、基質、または足場も、シリコーン、ポリシロキサン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ナイロン、ポリアクティブ(PolyActive)(商標)マトリックス(オクトプラス(OctoPlus)社製、ケンブリッジ、マサチューセッツ州)(ポリエチレンオキシドテレフタラート、およびポリブチレンテレフタラート)、ならびに生物分解性ポリウレタンマイクロファイバーを含む、合成材料からなるか、またはこれらを導入することができる。
【0132】
皮膚代替物は、1回の使用の準備ができている10%CO/空気大気、およびアガロース栄養培地を備える、大量のゲージポリエチレンバッグに密閉して供することができる。皮膚代替物は、使用するまで、68°F〜73°F(20℃〜23℃)で密封したバッグに保存することができる。皮膚代替物は、円板(例えば、直径およそ75mm、および厚さ0.75mm)として供することができる。アガロース輸送培地(agarose shipping medium)は、アガロース、L−グルタミン、ヒドロコルチゾン、ヒト組換え型インシュリン、エタノールアミン、O−ホスホリルエタノールアミン、アデニン、亜セレン酸、DMEM粉末、HAMのF−12粉末、重炭酸ナトリウム、塩化カルシウム、および注射用蒸留水を含み得る。皮膚代替物は、場合により、プラスチックトレーに、またはバッグ内の細胞培養皿に保存してもよい。皮膚代替物は、ポリカーボネート膜に基づいて、表皮(光沢のない、マット仕上げ)層を上に向け、真皮(光沢仕上げ)層を下に向けて、包装することができる。
【0133】
B.注射用製剤または移植用製剤
本発明には、注射用製剤または移植用製剤が含まれる。これらの製剤は、当業者に公知の方法によって調製することができる。例示的な方法は、実施例9に提供する。一実施態様において、間葉系細胞は、無菌食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、ダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)(DMEM)、ハンクスの平衡塩類溶液(Hank’s balanced salt solution)、プラズマライト(Plasmalyte)A、またはRPMI等の注入に適切なバッファーに含まれる。一実施態様において、間葉系細胞は、マイクロスフィアに導入される。別の実施態様において、間葉系細胞は、マトリックスまたは基質を備える。マトリックスは、メチルセルロース、コラーゲン、キトサン、ヒアルロン酸、ゼラチン、アルギン、フィブリン、フィブロネクチン、またはアガロース等の天然高分子であり得る。マトリックスは、マトリゲル(Matrigel)(商標)、または合成高分子等の複合混合物であり得る。別の実施態様において、間葉系細胞は、注入または移植前にマトリックスまたは基質を有するか、またはこれらのない上皮細胞と組み合わせる。
【0134】
一実施態様において、生毛細胞を含む組成物は、髪の成長が更なる培養物なしで望まれる部位に、皮下にまたは皮内に注入するか、または移植することができる。実施例3Bに説明する解離方法によって調製された細胞は、バッファーに再懸濁させ、直接注入されるか、または注入または移植前に、マイクロスフィアに最初に導入することができる。培地中の細胞は、24時間以上、氷上で、または長期保存のために液体窒素で凍結することができる。低温保存において、細胞は、10%DMSO、70%DMEM、および20%ウシ胎仔血清の溶液に入れる。細胞は、1ml当たり10万〜1000万の細胞濃度のクライオバイアルに入れ、制御冷凍庫に凍結され、注入または移植時まで−180℃で保存される。すべての解凍された細胞の生存率は、使用前に、85%を超えることを確認し得る。
【0135】
生毛細胞を含む組成物は、レシピエント皮膚または創傷に注入するか、または移植することができる。また、組成物は、患者または次の移植の適用前に、移植片(真皮−表皮複合体を含む分層植皮片もしくは皮膚代替物、および表皮構築物もしくは細胞噴霧と組み合わせた真皮構築物)に注入するか、または移植することもできる。別の実施態様において、生毛細胞を含む組成物は、注入または移植前に培養することができる。
【0136】
IV.本発明の皮膚代替物を投与する方法
本発明は、本発明の皮膚代替物を投与する少なくとも2つの方法を提供する。本発明の皮膚代替物は、患者に移植することができ(図1C)、また、この皮膚代替物は、患者に注入することができる。このため、本発明は、患者のヒト毛包を誘導することができる細胞を患者に移植するための方法を提供する。
【0137】
A.本発明による治療の恩恵を受ける患者
本発明の組成物は、全層または部分層の皮膚欠損、皮膚の失活、創傷、潰瘍、化学火傷または熱傷、傷跡、および、先天的にもしくは後天的に、完全なもしくは部分的な髪、皮脂腺、もしくはエクリン腺の異常を有する患者を治療するのに有用である。皮膚損傷は、表皮、部分層、および全層の3つのカテゴリーに分類される。表皮のみが影響を受け、これが傷跡を残さずに、迅速に再生するので、表皮の損傷は、特殊な外科治療を必要としない。部分層の創傷は、表皮および真皮に影響を与える。かかる創傷は、一般に、創傷の縁からの上皮化によって治癒し、傷端、毛包、または汗腺の基底のケラチン細胞は、移動して、損傷領域を被覆する。全層の損傷は、上皮再生要素の完全な破壊が特徴である。この型の損傷は、傷端のみの上皮化と共に、拘縮によって治癒する。部分層の損傷および全層の損傷は、皮膚移植を必要とすることが多い。
【0138】
また、本発明の組成物は、手術傷を治療するために使用することもできる。例えば、巨大母斑(黒あざ)等の大きな皮膚損傷の除去は、独力で治癒することができず、また、分層自家皮膚移植片(autologous split−thickness skin graft)には非常に大きい傷を残す。本発明の組成物は、かかる損傷を治療するのに有用である。
【0139】
脱毛の最も一般的な形態は、男性ホルモン性脱毛症と呼ばれる進行性の薄毛状態である。脱毛は、身体の任意の部分に生じる場合があり、幾つかの要因から発生し得る。例えば、牽引性脱毛症は、ポニーテールまたはコーンロウに過度の力で髪を引っ張る人において最も一般的にみられる。円形脱毛症は、1箇所のみの脱毛(単発型円形脱毛症(alopecia areata monolocularis))を生じるか、全身のすべての髪の損失(汎発型円形脱毛症(alopecia areata universalis))を生じ得る、自己免疫疾患である。また、甲状腺機能低下症、腫瘍、および皮膚派生物(包嚢等)も、局所的な脱毛症を誘導する。さらに、脱毛は、化学療法、放射線治療、出産、大手術、中毒、真菌感染、および重篤なストレスによってもたらされる場合もある。さらに、鉄分欠乏は、薄毛の一般的な原因である。脱毛の多くの事例では、毛包は、周期を停止し、無活動段階に入っている。他の事例では、毛包は、完全に失われるか、またはそもそも形成されない。
【0140】
本発明の組成物および方法は、毛包の成長を必要とする症状を治療するのに有用である。また、一実施態様において、この方法は、エクリン腺も誘導する。さらに、別の実施態様において、この方法は、皮脂腺を誘導する。
【0141】
B.皮膚代替物の投与
さらに別の実施態様において、この方法は、患者に本発明の皮膚代替物を移植することを含む。本発明の皮膚代替物は、当業者に公知の適切な方法によって投与することができる。
【0142】
1.移植片部位の調製
移植片部位は、当業者に公知の方法によって調製することができる。例示的な方法は、実施例12に提供する。移植片部位は、損傷した皮膚(例えば、部分層もしくは全層の化学火傷、熱傷、皮膚の裸出、または皮膚の失活)、皮膚の部分的かもしくは完全な欠損による創面(例えば、皮膚が裸出したか、潰瘍化した部位)、手術傷(例えば、良性または悪性皮膚腫瘍の切除後の)、または先天的な皮膚(例えば、先天性皮膚形成不全症)もしくは後天性の皮膚(例えば、任意の原因による傷跡のある皮膚)、毛包、皮脂腺、および/またはエクリン腺の減少、異常、もしくは欠損を有する皮膚であり得る。一部の実施態様において、移植片部位は、水、抗菌性洗浄剤、またはアルコール溶液(アルコール綿球等)によって洗浄される。別の実施態様において、所望のパターンの髪は、外科用マーカーによって移植片部位上で抜かれる。別の実施態様において、局所麻酔薬が患者に投与される。更なる麻酔を必要とする事例では、ガス、静脈内、または神経ブロック麻酔薬を患者に投与することができる。
【0143】
更なる実施態様において、現存する皮膚組織、失活した組織、痂皮、傷端もしくは潰瘍端、または瘢痕組織は、当該技術分野における標準技術を用いて除去される。可能な場合、皮膚感染または悪化条件は、移植片の適用前に解決する必要がある。局所的にまたは全身に投与された抗微生物剤、抗真菌剤、および抗ウイルス剤を、皮膚代替物の投与前後しばらくの間(例えば、1週間)、使用して、感染の危険性を低減させることができる。
【0144】
皮膚代替物は、非細胞毒性溶液によって創傷を徹底的に洗浄した後、清浄で創面切除された皮膚表面に適用することができる。創面切除は、健全で、生存可能な、出血組織まで及び得る。適用前に、止血を行うことができる。創面切除前に、創傷を、無菌食塩水によって徹底的に浄化して、遊離した細片および壊死組織を除去することができる。組織ニッパー、外科用メス、またはキューレットを使用して、角質増殖、および/または壊死組織と細片を創傷表面から除去することができる。潰瘍辺縁は、ソーサー効果(saucer effect)を有するように、創面切除することができる。創面切除後、創傷は、無菌食塩水で徹底的に浄化され、穏やかにガーゼで乾燥することができる。傷端の創面切除または修正によって生じる分泌または出血は、緩やかな圧力(必要であれば、血管の結紮、電気焼灼、化学焼灼、またはレーザー)の使用によって、停止することができる。大量の滲出物は、皮膚代替物に代わり、接着を低減し得る。滲出物は、適切な臨床治療によって最小化され得る。例えば、創傷が粘着性を有するまで、室温または42℃以内の無菌空気を創傷に吹きつけてもよい。滲出物が持続する場合、皮膚代替物を浸透させて、皮膚代替物を穿孔して排出することによって滲出させることができる。
【0145】
2.皮膚代替物の適用
種々の臨床的方法を、患者に皮膚代替物を適用するのに用いることができる。皮膚代替物は、治療する欠陥のサイズ、痛みレベル、および全身麻酔の必要性により、外来患者診療室、または手術室で適用することができる。例示的な方法は、実施例11および12に説明する。皮膚代替物の適用前に、施術者は、皮膚代替物の有効期限を再検討し、pHを確認し、視覚的に観察し、臭いをかいで、細菌汚染物質または粒子状物質等の汚染物質がないことを確認することができる。皮膚代替物は、使用直前まで、制御温度68°F〜73°F(20℃〜23℃)で、ポリエチレンバッグに保存することができる。
【0146】
施術者は、密封したポリエチレンバッグを切開することができ、また、皮膚代替物が、細胞培養皿またはプラスチックトレーに提供される場合、皮膚代替物は、無菌技術による無菌領域に移すことができる。細胞培養皿またはプラスチックトレーが存在する場合、トレーまたは細胞培養皿の蓋を外すことができ、また、施術者は、皮膚代替物の表皮および真皮層の配向に注意し得る。無菌非外傷性器具を使用して、施術者は、およそ0.5インチの皮膚代替物をトレーまたは細胞培養皿の壁からそっと離して移すことができる。皮膚代替物を持ち上げる場合、施術者は、皮膚代替物の下の膜を穿孔しないか、またはこれを持ち上げないように注意し、プラスチックトレーが存在する場合、当該膜をトレーに残存させる必要がある。
【0147】
無菌の手袋をはめた手で、施術者は、一方の人差し指を皮膚代替物の剥離部分の下に挿入し、他方の人差し指を使って、デバイスの端に沿って別の箇所の皮膚代替物をつかむことができる。2箇所に皮膚代替物を保持し、施術者は、スムーズな動きで、トレーまたは細胞培養皿から皮膚代替物全体を持ち上げることができる。過度に折り重なる場合、皮膚代替物は、無菌トレー中の温かい無菌食塩水上に浮かす(表皮表面を上にして)ことができる。
【0148】
真皮層(中間付近の光沢層)が、皮膚代替物の部位と直接接触するように、皮膚代替物を配置することができる。
【0149】
塩水で湿らせた綿塗布用具を使用して、施術者は、部位上の皮膚代替物を滑らかにし、このため、気泡もしわが寄った端もなくすることができる。皮膚代替物が適用部位よりも大きい場合、超過した皮膚代替物は、包帯に付着するのを防ぐために、切り取ることができる。皮膚代替物が適用部位よりも小さい場合、不足が充足されるまで、複数の皮膚代替物を互いに隣接させて適用することができる。
【0150】
皮膚代替物は、適切な臨床用包帯で固定することができる。縫合または試料は必要ではないが、移植片面に移植片を係留するために、一部の事例に使用してもよい。包帯は、適用部位への皮膚代替物の接触を確実にし、かつ移動を防ぐために使用することができる。治療上の圧縮を移植片部位に適用することができる。一部の事例において、移植された四肢を固定して、皮膚代替物と適用部位の間の剪断力を最小化することが必要な場合がある。包帯は、週に一度、または、必要であれば、これより頻繁に交換することができる。
【0151】
皮膚代替物の付加的な適用は、特定の事例において必要であり得る。付加的な適用前に、先の皮膚移植片または皮膚代替物の非接着性残存物は、穏やかに除去する必要がある。治癒組織または接着皮膚代替物は適所に残してもよい。部位は、皮膚代替物の付加的な適用前に、非細胞毒性溶液によって浄化することができる。一実施態様において、付加的な皮膚代替物は、先の皮膚代替物が接着していない領域に適用することができる。
【0152】
C.生毛細胞の注入
本発明の生毛細胞は、当業者に公知の適切な方法によって注入することができる。例示的な方法は、実施例11に説明する。一実施態様において、この方法は、低下したTSC1/TSC2機能、増加したmTORC1機能、および/または低下したmTORC2機能を有する、改変間葉系細胞を、患者に、皮下送達または皮内送達することを含む。別の実施態様において、この方法は、患者に上皮細胞を送達することをさらに含む。細胞は、懸濁剤、またはマイクロスフィアとして送達することができる。懸濁剤を注入する場合、それぞれの注入部位は、50〜2,000の細胞を送達することができる。マイクロスフィアを注入する場合、それぞれの注入部位は、1以上のマイクロスフィアを送達することができる。
【0153】
1.移植片部位の調製
移植片部位は、水、抗菌性洗浄剤、またはアルコール溶液(アルコール綿球等)によって洗浄することができる。別の実施態様において、所望のパターンの髪は、各注入部位を示すアウトライン法またはピクセル処理法(pixilated fashion)のいずれかで、外科用マーカーによって移植片部位上で抜かれる。また、紙テンプレートまたは他の材料のテンプレートも、注入パターンを示す注入部位に適用することができるか、または、注入物を、グリッドにロボット工学もしくは複数の注入口を備えたデバイスを使用することによって、正確な間隔で送達することができる。別の実施態様において、局所麻酔薬を患者に投与することができる。更なる麻酔を必要とする事例では、ガス、静脈内、神経ブロック麻酔薬を患者に投与することができる。
【0154】
2.注入方法、用量、および投与頻度
注入物は、皮下注射または皮内注射のための当業者に公知の技術によって投与することができる。1,000〜20,000細胞/mlの濃度を注入物に使用することができる。0.05〜0.1mlの容積を、14〜30ゲージ針を有する1〜3mlの注射器を使用して、各注射部位に注射することができる。かかる実施態様において、皮膚はぴんと張られ、また、針は、皮膚と5°〜30°の角度の傾斜で挿入される。その後、細胞は、緩やかな圧力を徐々に注入され、針は除去され、また、緩やかな圧力は、漏出を防ぎ、かつ吸収を促進するためにかけられる。
【0155】
注入は、患者の安心のために、または付加的な毛包が連続投与後に生じ得るので、しばらくの間、繰り返してもよい。かかる事例では、投与は、1週、2週、3週、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、または6ヶ月、間隔を置いてもよい。
【0156】
前述の複数の実施態様は、以下に示す非限定的な実施例に示す。但し、本発明の別の実施態様は、本明細書に開示する発明の詳説および実施を考慮して、当業者に明らかである。例示的なものとしてのみ、詳説および実施例が考慮されることが意図され、また、特許請求の範囲に記載するように、本発明を限定するものではない。さらに、本明細書に引用された参照はすべて、引用によりこれらの全体に組み込まれるものと考えられる。
【実施例】
【0157】
V.実施例
実施例1:TSC患者の皮膚代替物の調製および評価
線維性前額部斑、線維血管腫、および爪周囲線維腫を含むTSC皮膚過誤腫は、真皮および/または毛包周囲線維芽細胞様細胞、ならびに上皮における変化を含む。TSCと診断された患者を、施設内倫理委員会に承認されたプロトコール、全国心臓肺臓血液学会(NIH)の00−H−0051に登録した。TSC患者の線維血管腫、爪周囲線維腫、線維性斑、および正常と考えられる皮膚の試料を得て、二分化し、一方の部分をルーチン病理に使用し、また、他方を、凍結切片または細胞培養に使用した。
【0158】
A.正常組織試料および腫瘍組織試料の組織学的および免疫組織化学的比較
正常および腫瘍患者の試料間の組織学的相違(図3Aおよび3B)および免疫組織化学的相違を、比較用のベースラインによって特性評価した。簡潔には、試料のパラフィン切片を脱パラフィン化し、20分間、10mMクエン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)中で沸騰させることによって、抗原回復の処理をした。凍結切片を、−20℃で10分間、アセトンに固定した。ベクター(Vector)(登録商標)レッドまたはDAB基質(ベクターラボラトリーズ(Vector Laboratories)社製、バーリンゲーム、カリフォルニア州)を有する、特異的抗体およびベクタスタチン(VECTASTAIN)ABCキットを使用して、メーカーの手順に従って(DABペルオキシダーゼ褐色基質によるABC西洋わさびペルオキシダーゼ染色を使用した、Ki−67染色を除く)、切片の細胞マーカーを染色した。ポジティブ染色法の相対強度を、オリンパスBX40光学顕微鏡(オリンパス社製、メルヴィル、ニューヨーク州)、およびオープンラボ(Openlab)4.0ソフトウェア(インプロビジョン(Improvision)社製、レキシントン、マサチューセッツ州)を使用して、定量化した。
【0159】
パラフィン包埋患者試料中の血管を、CD31(アブカム(Abcam)社製、ケンブリッジ、マサチューセッツ州)に対するウサギポリクローナル抗体によって染色した。陽性の血管の数および面積を測定し、合計面積によって標準化した。試料中の細胞増殖を、Ki−67(サーモサイエンティフィック(Thermo Scientific)社製、フェルモント、カリフォルニア州)に対するウサギモノクローナル抗体を使用して、免疫染色することによって検出した。Ki−67陽性細胞を、オリンパスBX40光学顕微鏡(オリンパス社製、メルヴィル、ニューヨーク州)を使用して、数え、表皮の長さによって標準化した。腫瘍関連マクロファージを、ラット抗マウスF4/80抗体(アブカム社製)による免疫組織化学染色によって、試料中で検出した。真皮中のマクロファージ含量を、20倍対象レンズを使用して、各切片の3つのランダム面積を計測し、面積により標準化することによって測定した。CD68陽性単核食細胞を、ABCキット(ベクター社製)、および抗CD68抗体(M0814、ダコサイトメーション(DakoCytomation)社製)を使用して、免疫組織化学染色によって確認した。そして、上昇したmTORC1機能を、リン酸化リボソームタンパク質S6(抗pS6、2211、細胞シグナリング)を免疫染色することによって決定した。
【0160】
線維性斑は、正常な皮膚と比較して、大きな細胞、コラーゲン構造の変化、および血管の増加を示した(図3Aおよび3B)。また、TSC線維性斑の線維芽細胞様細胞は、線維血管腫および爪周囲線維腫のように、正常な線維芽細胞と比較して、リン酸化リボソームタンパク質S6で免疫反応性も示し(図3Cおよび3D)、線維性斑が、正常な皮膚と比較して、増加したmTOR機能を示すことを示した。さらに、線維性斑の表皮は、pS6で、正常な皮膚よりも高い免疫反応性(図3Cおよび3D)、並びに正常な皮膚よりも大きな増殖(図3Eおよび3F)を示した。これは、TSC2ヌル細胞により放出されたパラクリン因子によって、もたらされたと考えられる。過誤腫線維芽細胞様細胞および表皮細胞におけるこれらの変化は、CD68陽性単核食細胞(図3Gおよび3H)と、CD31陽性血管(図3Iおよび3J)の2つの付加的な細胞構成要素の劇的な増加が伴った。試験は、組織試料で終了した。
【0161】
総合すると、これらの試験は、前額部斑がすべて、線維血管腫および爪周囲線維腫のように、TSCが正常であると考えられる皮膚と比較して、増加したmTORC1機能、CD31陽性血管、CD68陽性単核食細胞、および増殖する(すなわち、Ki−67陽性)表皮細胞を含むことを示した。
【0162】
B.腫瘍組織試料および正常組織試料における毛包の分析
正常な皮膚中の毛包と比較して、線維性斑および線維血管腫中の毛包は、可変的に拡大し、延び、または、数が多いと考えられるが、爪周囲線維腫は、厚くなった表皮を有するが、毛包を有さなかった(図4A〜4D)。この観察は、ヘマトキシロンおよびエオシンによる組織切片染色に基づく。線維血管腫中の毛包は、可変的に肥大したか、延びたか、または未熟であった。爪周囲線維腫には、毛包構造体がなかった。
【0163】
C.腫瘍細胞におけるTSC2およびmTORC1機能の分析
線維芽細胞を、生体試料を小さな断片に切断し、これらを、10%FBS、ペニシリン(100U/ml)、およびストレプトマイシン(100μg/ml)を添加した1mlのDMEM中の35mm培養皿に載置して、組織を被覆することによって、線維血管腫、爪周囲線維腫、前額部斑、および正常と考えられる皮膚生体試料から単離した。細胞が移動して、培養皿を被覆するまで、培地を週に2回交換した。その後、細胞を二次培養のために採取した。
【0164】
PCR、制限消化、および配列確認によって、単離した細胞のTSC2発現を分析した。簡潔には、培養細胞から単離したDNAを、メーカーが提供するマグネシウム含有バッファー中AmpliTaq金DNAポリメラーゼ(アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)社製)を使用して、TSC2のエキソン10の増幅に使用した。熱サイクルを次に示すように行った:95℃、30秒間の変性、59℃、1分間のアニーリング、および72℃、1分間の伸長、その後、34回循環し、72℃、1分間の最終伸長。PCR増幅DNA産物を、電気泳動によって分離し、キアクイック(QIAquick)ゲル抽出キット(キアゲン(QIAGEN)社製)によって、精製した。精製DNAを、ABI・プリズム・ビッグダイ・ターミネーター・v3.1・サイクル・シークエンシング・キット・ビッグダイ・ターミネーター・v3.1・サイクル・シークエンシング・キット(ABI PRISM BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kits BigDye(登録商標)Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドシステムズ(Applied Biosystems)社製)を備えた3130xlジェネティックアナライザー(3130xl Genetic Analyzer)を使用して、USU BICゲノム分裂DNAシーケエンスサービス(USU BIC Genomic Division−DNA Sequencing Service)によって配列した。
【0165】
シークエンシング用のPCRプライマーは、次に示すとおりであった:5’TGGTGTCCTATGAGATCGTCC3’(配列番号7)、および5’AGGAGCCGTTCGATGTT3’(配列番号8)。線維性前額部斑のTSC2ヌル細胞のシークエンシングは、TSC2遺伝子のナンセンス突然変異を示した。具体的には、エキソン10の位置1074におけるGは、Aに変異され、トリプトファンの正常なUGGコドンを終止コドンUGAに変換した(図5A)。また、細胞は、TSC2遺伝子に隣接する3つのマイクロサテライトマーカーでヘテロ接合性の欠損を示し(図5B)、細胞のホモ接合またはヘミ接合をエキソン10で点突発変異させた。点突発変異は、PCR増幅腫瘍DNAのBsmA1切断における新しい制限部位を導入した(図5C)。正常な患者の線維芽細胞は、突然変異を含まなかった(図5D)。
【0166】
また、PCR増幅DNA産物も、制限酵素消化によって分析した。酵素消化分析においてエキソン10を増幅するのに使用した、PCRプライマーは、次に示すとおりであった:5’AAGCAGCTCTGACCCTGTGT3’(配列番号9)、および5’GGCCCAAGGTACCATCTTCT3’(配列番号10)。BsmA1制限部位を導入するG→A点突発変異の存在を確認するために、2μlのPCR増幅DNAを、10倍バッファー4(NEB)、2μlのBsmA1(NEB)、および12μlの水と混合した。この混合物を、55℃で一晩、インキュベートし、消化PCR産物および未消化PCR産物の試料を、10%TBEゲル中で、100ボルトの電気泳動によって分離した。切断を、ゲル中のバンドの移動パターンに基づいて決定した。
【0167】
また、血清飢餓条件下で、細胞のリボソームタンパク質S6の超リン酸化も分析した。細胞(10%FBSを添加したDMEM中5×10細胞)を、60mmの皿に接種する。翌日、培地を、無血清DMEMと交換した。さらに37℃で24時間培養後、細胞を、タンパク質抽出バッファー(20mMトリス、pH7.5、150mM NaCl、1%ノニデットP−40、20mM NaF、2.5mM Na、1mMβ−グリセロリン酸、1mMベンズアミジン、10mM p−ニトロフェニルホスファート、1mMフェニルメチルスルホニルフルオリド中に溶解した。等量の全タンパク質を含む試料を、10%(w/v)ポリアクリルアミドゲル中で分離し、0.45μmインビトロロン(Invitrolon)(商標)PVDF膜(インビトロゲン(Invitrogen)社製)に移した後、抗リン酸−S6リボソームタンパク質(Ser 235/236)、または抗S6リボソームタンパク質一次抗体(細胞シグナリング)、ホースラディシュペルオキシダーゼ結合抗ウサギ二次抗体(GEヘルスケア(GE Healthcare)社製、英国)、およびスーパー・シグナル・ウエスト・ピコ化学発光検出キット(SuperSignal West Pico chemiluminescence detection kit)(ピアスケミカル(Pierce Chemical)社製、ロックフォード、イリノイ州)を使用して、イムノブロッティングを行った。バンド強度を、コダックキャプチャーDC290画像システム(Kodak Capture DC 290 imaging system)(イーストマンコダック(Eastman Kodak)社製、ロチェスター、ニューヨーク州)を使用して、測定した。
【0168】
また、細胞は、mTORC1を阻害するラパマイシンによって処理した。具体的には、TSC皮膚腫瘍細胞または正常と考えられる線維芽細胞を、10%FBS含有DMEM中で、96穴プレート(ウエル当たり2000細胞)に載置した。翌日、培地を、ラパマイシンを3日間、0.2nM、2nM、もしくは20nM添加したか、または未添加の10%FBS/DMEMに交換した。その後、細胞数を、MTT細胞増殖アッセイキット(セルタイター(CELLTITER)(登録商標)非放射性細胞増殖アッセイ(プロメガ(Promega)社製、マディソン、ウイスコンシン州))を使用して、評価した。これらの試験は、ラパマイシンが、mTORC1活性化を阻止し(図6A)(上述するように、mTORC1活性化を、下流分子S6のリン酸化によって測定した)、患者の正常と考えられる皮膚の線維芽細胞の一対の試料よりも大きくなる程度まで、TSC2ヌル線維芽細胞のインビトロ増殖を減少させることを示した(図6B)。ラパマイシンがmTORC1の特異的な阻害剤であるので、これらの結果は、S6のリン酸化が、TSC2ヌル細胞のmTORC1の活性化によることを確認する。
【0169】
要約すると、これらの結果は、一部の試料が、TSC2の発現の劇的な低下と、対応するmTORC1の構造的な活性化を示した。4つの線維性斑のうちの3つ、65の線維血管腫のうちの3つ、および41の爪周囲線維腫のうちの8つから増殖した線維芽細胞様細胞では、TSC2タンパク質発現は、検出不能であったか、または辛うじて検出することができ、mTORC1は、構造的に活性があった(図7)。純粋か、または高純度のTSC2ヌル細胞が存在する試料を得るために、培養線維芽細胞様細胞を、TSC2発現およびmTORC1活性化の欠損についてスクリーニングをした。これらの細胞は、下記に説明する異種移植片に使用した。
【0170】
D.TSC皮膚過誤腫の異種移植片モデル
広範囲に使用されているインビトロで構築した真皮−表皮複合体の系を、移植に適応させた。メラノサイトを伴うケラチン細胞を、4℃で一晩、ディスパーゼ(ベクトン・ディキンソン・ラボウエア(Becton Dickinson Labware)社製、ベッドフォード、マサチューセッツ州)で処理することによって、身元不明の正常な新生児包皮から単離した。表皮シートを真皮シートから分離し、次いで、37℃で20分間、0.05%トリプシン−0.53mM EDTA(インビトロゲン(Invitrogen)社製、ゲーサーズバーグ、メリーランド州)によって消化させた。細胞を回収し、これをウシ下垂体抽出物、および組換え型上皮成長因子を添加した、ケラチン細胞無血清培地(インビトロゲン(Invitrogen)社製)中の組織培養皿に載置した。
【0171】
女性患者から採取したTSC2ヌル皮膚腫瘍細胞、またはTSC2正常線維芽細胞を、10%FBS/DMEM中1mg/mLのラット尾部1型コラーゲン(BDバイオサイエンシーズ(BD Biosciences)社製、ベッドフォード、マサチューセッツ州)と混合することによって、皮膚代替物を作製した。この混合物を、ウエル当たり0.5×10の細胞密度で、6穴トランスウエル(Transwell)プレート(コーニング(Corning)社製、コーニング、ニューヨーク州)に入れた。細胞混合物を3日間培養し、次いで、培養ケラチン細胞を、ウエル当たり1×10の細胞密度で加えた。その後、構築物を、0.1%FBSを含む、DMEMとハムのF12(GIBO/インビトロゲン(Invitrogen)社製、グランドアイランド、ニューヨーク州)の3:1混合物に浸漬し、2日間培養した。培養後、液体の一部を除去することによって、ケラチン細胞を気液界面に供し、移植前にさらに2日間、1%FBS含有DMEMおよびハムのF12(1:1)中で培養した。
【0172】
6〜8週齢の老齢の雌Cr:NIH(S)−nu/nuマウス(FCRDC、フレデリック、メリーランド州)を使用して、外科手術室でマウスに移植した。Oとイソフルランの混合物(2〜4%)によって吸入麻酔を使用して、マウスに麻酔をかけた。マウス背部の移植領域を評価し、皮膚を、ポビジン(povidine)および70%エタノールによって洗浄後、彎鋏を使用して除去した。皮膚代替物を、正確な解剖配向で移植片面に配置し、無菌ヘトロラタムガーゼで被覆し、包帯で固定した。その後、マウスを再び目覚めさせた後、無菌ケージに移した。包帯を週2回交換し、4週後に除去した。
【0173】
移植8〜17週後屠殺したマウスにおいて、TSCの正常な線維芽細胞を含む移植片は、毛包のない皮膚を形成した(図8A)。特定のTSC皮膚腫瘍のTSC2ヌル細胞を含む移植片は、毛包を形成し(図8B、表1)、TSC皮膚腫瘍細胞が、包皮ケラチン細胞において毛包新生を誘導することを示唆した。
【0174】
【表1】
【0175】
移植片中の毛包は、適切な間隔を置き、解剖学的に完成した。表皮鞘に囲まれた毛幹、皮脂腺、内毛根鞘、および外毛根鞘の同心層、ならびに毛乳頭、髪マトリックス、および皮質を有する毛球は、すべて存在した(図9A〜9D)。毛包は、これらが得られた領域を模倣した。例えば、顔面の皮膚におけるように、多くの毛包が、成長期(成長)ではなく、退行期(退行)および休止期(静止)にあり、これは、頭皮毛包においてより一般的である(図8B)。さらに、毛幹は、前額部または鼻から採取した細胞の移植片の皮膚表面から目視することができなかった(図1C)。これらの結果は、間葉系細胞の供給源が、これらの最終目標(すなわち、頭皮の間葉系細胞は、脱毛した頭皮を治療するのに使用し、腕の間葉系細胞は、腕の火傷を治療するのに使用する)を反映する場合、本発明が最適な結果をもたらし得ることを示唆する。
【0176】
毛幹は、マウス毛の規則的に間隔を置いたエアポケットを欠き、これは、ヒト由来起源のものと一致する。抗ヒトCOX IV抗体による免疫組織化学検査を行って、毛包由来の種を確認した。簡潔には、異種移植片のパラフィン切片を脱パラフィン化し、上述するように、患者の組織試料を、抗原回復のために処理した。次いで、切片を、マウスCOX IVを認識しない、抗COX−IV 3E11抗体(セル・シグナリング・テクノロジー(Cell Signaling technology)社製、ダンバーズ、マサチューセッツ州)のメーカーの説明書に従って、染色した。免疫反応性は、異種移植片の毛包、上皮、および真皮にみられた(図9Eおよび9F)が、マウス皮膚ではみられなかった(データは示されない)。同様の結果が、パン−ヒトHLAクラスIモノクローナル抗体を使用して得られ(図10A)、正常な皮膚において、予想どおりに、毛包上皮よりも毛包内表皮を強く染色した。
【0177】
ヒトY染色体のプローブを使用し、蛍光インサイチュハイブリダイゼーションを行って、ヒト包皮ケラチン細胞(男性由来)と、女性患者のTSC2ヌル細胞を識別した。簡潔には、CEP Y(DY21)染色体スペクトルオレンジプローブ(バイシス(Vysis)、ダウナーズ(Downers)IL60515)を使用して、Y染色体FISHを、メーカーのプロトコールに従って、行った。このプローブは、表皮および毛包上皮中の核にハイブリダイズしたが、真皮細胞の核(図9Gおよび9H)、または隣接する正常なマウス皮膚(図示せず)にはハイブリダイズしなかった。これらの結果は、包皮ケラチン細胞が誘導して、正常な毛包を構成する、複数の細胞構成要素に分化したことを示し、改めて毛包誘導を確認した。
【0178】
誘導された毛包の正常性を、十分に成長したヒト毛包の特異的なコンパートメントのマーカーを使用して、免疫組織化学検査によってさらに確認した。簡潔には、異種移植片のパラフィン切片を脱パラフィン化し、上述するように、抗原回復のために処理した。次いで、切片を、抗ヒトネスチン抗体(AB5922、ミリポア(Millipore)社製)、抗ヒトベルシカン抗体(PA1−1748A、サーモサイエンティフィック(Thermo Scientific)社製、ロックフォード、イリノイ州)、抗Ki−67抗体(RM−9106、サーモサイエンティフィック社製)、抗ヒトケラチン15抗体(PCK−153P、コバンス(Covance)社製)、および抗サイトケラチン75抗体(GP−K6hf、プロゲンバイオテクニク(Progen Biotechnik)社製)によって染色した。
【0179】
毛乳頭および下部表皮鞘の領域中の細胞は、ネスチン(図9Iおよび9J)、およびベルシカン(図9K)で正常な染色を示した。Ki−67における免疫反応性は、髪マトリックスの領域に集中し(図9M)、これは、強健な毛幹形成を有した活性のある典型的な成長期の増殖であった。膨出領域に位置する毛包幹細胞のマーカーである、ケラチン15は、ヒト線維血管腫にみられるように、外毛根鞘の基底層に局在化した(図9Nおよび9O)。そして、付随層のマーカーである、ケラチン75における免疫反応性は、正常なヒトの髪にみられるように、内外毛根鞘と外毛根鞘の細胞の単層に存在した(図9P)。したがって、形態および免疫組織化学基準によって、十分に成長したヒトの髪は、異種移植された皮膚に存在した。
【0180】
また、切片のアルカリホスファターゼ活性も分析した。簡潔には、凍結切片を、10分間、アセトンに固定し、次いで、0.1%トゥイーン20添加1倍PBSによって洗浄した。切片を、予備平衡化バッファー(100mM NaCl、50mM NgCl、100mMトリス−HCl、pH9.5、0.1%トゥイーン20)と、湿潤室で、室温で15分間、インキュベートした。現像液(BMパープルAP基質、ロッシュ(Roche)社製、インディアナポリス、インディアナ州)を、暗色湿潤室で2時間、組織に適用した。次いで、この反応を、PBS中の20mM EDTAによって停止し、切片を、ベクタマウント(VectaMount)(商標)AQ水性封入剤(ベクター社製)と共に搭置した。毛乳頭および下部表皮鞘の領域中の細胞は、正常なアルカリホスファターゼ活性を示した(図9I)。これは、移植されたTSC2ヌル細胞が、表皮鞘/毛乳頭細胞の適切な箇所において、予想どおりに、アルカリホスファターゼ活性を示すことを示す。
【0181】
異種移植片中の細胞の遺伝的同一性を調査して、誘導された毛包の毛乳頭/下部表皮鞘領域中のTSC2ヌル細胞の存在を決定した。簡潔には、上述するように、異種移植片の切片を顕微解剖し、制限酵素分析のためにDNAを抽出した。これらの試験は、毛乳頭/下部表皮鞘の領域の細胞において突然変異DNAを示したが、毛包上皮ではこれを示さなかった(図5Cおよび5D)。この領域、および毛包内真皮(データに示さない)中のTSC2ヌル細胞の存在は、TSC腫瘍線維芽細胞様細胞が、真皮線維芽細胞、または毛乳頭/表皮鞘細胞の機能を示すことができる多能性先祖細胞であることを示した。
【0182】
また、異種移植片モデルを使用して、TSC2ヌル細胞が、上の腫瘍組織試料にみられた細胞学的および生化学的変化を誘導することができるか否かについて判断した。簡潔には、TSC腫瘍細胞(n=27)、またはTSCの正常な線維芽細胞(n=27)を移植したマウスに、ラパマイシン(2mg/kg)(n=29)、または等量のビヒクル(0.9%NaCl、5%ポリエチレングリコール、および5%トゥイーン80)(n=25)のいずれかを、移植後5週で開始して12週間隔日の腹腔内注射によって供した。マウスを、最後の注射24時間後に屠殺し、移植片を採取し、それぞれの移植片の半分の一方を、パラフィン包埋のために調製し、他方を凍結切片のために調製した。パラフィン切片を、血管(CD31)(図11Q〜11T)、リボソームタンパク質S6のリン酸化(pS6)(図11E〜11H)、およびヒト細胞(COX−IV)の持続性(図11A〜11D)のために染色した。凍結切片を、細胞増殖(Ki−67)(図11I〜11L)、および腫瘍関連マクロファージ(F4/80)(図11M〜11P)のために染色した。
【0183】
ラパマイシンによって処置したマウス、またはラパマイシンによって処置していないマウスにおいて、腫瘍移植片と正常移植片の間のサイズまたは外観に全体的な相違はなかった。ビヒクルによって処置したマウスにおいて、腫瘍移植片の真皮中のCOX IV陽性細胞の数は、正常移植片と同様であった(図11A、11Cおよび12A)。しかしながら、ビヒクルによって処置した腫瘍移植片は、正常移植片よりもpS6に対して免疫反応性がある真皮細胞および表皮細胞の数が多かった(図11E、11G、12Bおよび12C)。さらに、ビヒクルによって処置した腫瘍移植片の表皮は、正常な移植片よりもKi−67陽性細胞の数が多かった(図11I、11Kおよび12D)。また、ビヒクルによって処置した腫瘍移植片は、正常移植片と比較して、CD68陽性単核食細胞の数、ならびにCD31陽性血管の密度、サイズ、および血管面積が増加した(図11Qおよび11S)。他の患者の線維性斑、線維血管腫、および爪周囲線維腫のTSC2ヌル細胞を使用し、TSCの正常な線維芽細胞から構築した正常移植片と比較して、質的に同様の変化がみられた。腫瘍移植片および正常移植片が共に、同じ新生児包皮ケラチン細胞を使用して発生したので、これらの結果は、TSC2ヌル細胞が、TSC皮膚腫瘍の過誤腫性機能を誘導するのに十分であることを示す。
【0184】
ヒト抗HLAクラスI(図13C、D)またはCOX−IV抗体(図11C、D)による染色によって決定されるように、ラパマイシン処置によって、腫瘍異種移植片中のヒト真皮細胞の数が減少したが、腫瘍細胞は、処置を通して持続した。ラパマイシンは、正常な異種移植片に対して細胞数に有意な影響がなかった(図13および14)。処置終了時のTSC2ヌル細胞の持続性を、採取後、腫瘍異種移植片の顕微解剖した真皮、および腫瘍異種移植片から増殖した線維芽細胞の突然変異DNAの存在によって確認した(データは示さない)。真皮細胞および表皮細胞におけるpS6免疫反応性の損失によって示されるように、TSC2ヌル細胞は、ラパマイシンのインビボ浸透にもかかわらず、持続した(図11Eおよび11G)。ラパマイシン処置によって、腫瘍移植片中のKi−67陽性表皮細胞の数、単核食細胞の数、ならびに血管密度、サイズ、および合計面積が減少した(図11および12)。これらの結果は、ラパマイシンを摂取する患者にみられたTSC皮膚損傷の赤みおよびサイズの減少によって、抗腫瘍細胞効果および抗血管新生作用が共に生じ得ることを示唆する。ラパマイシンの抗血管新生作用は、血管内皮の直接的な阻害、および/またはTSC2ヌル細胞による血管新生因子放出の減少、もしくは血管新生促進単核球の動員の減少等の間接的な阻害によるものであると考えられる。ラパマイシンは、毛包、毛包密度、または毛包径による移植片の割合に影響を及ぼさなかった(表1)。毛包パラメーターに対する効果の不足は、毛包の誘導がmTORC1に依存しないか、または毛包新生の開始後、ラパマイシンに効果がなかったことを示すものと考えられる。
【0185】
ヒトまたはマウスDNAに特異的なプローブを使用する、蛍光インサイチュハイブリダイゼーションを行って、TSC2ヌル細胞およびヒトのケラチン細胞を使用して、異種移植片においてヒト細胞とマウス細胞を区別した(図15)。前に、4μgの凍結切片を風乾させた後、37℃で20分間、2倍SSCバッファー中でインキュベートした。エタノール中での連続脱水後、切片を、10mM HClと0.006%ペプシンによって、37℃で2.5分間、処理し、PBSによって2回洗浄し、脱水し、風乾させた。切片を、70%ホルムアミド、2倍SSC中で、70℃で2分間、変性させ、プローブ混合物(10.5μLのハイブリダイゼーションバッファー、および2μLのプローブ)と37℃で一晩、ハイブリダイズする前に脱水した。試料を、2倍SSC/50%ホルムアミドによって、37℃で2回洗浄し、各目標領域上で、10μLのDAPI(ベクターラボラトリーズ社製)を適用することによって、対比染色した。使用するプローブは、濃縮ヒトパン動原体塗料1695−Cy3−02(カタログNo.SFP3339)、および濃縮マウスパン動原体染料−FITC 1697−MF−02(カタログNo.MF−02)(オープンバイオシステム(Openbiosystem)社製)であった。DAPI染色は、細胞の核が、左下側角部の管内皮に、毛包上皮、および毛乳頭/表皮鞘細胞を含んだ毛包球を含むことを示した。Cy3ヒト特異的動原体プローブは、下部表皮鞘(水平方向の矢印)および隣接する真皮線維芽細胞(垂直方向の矢印)の細胞を含む、毛包球中の細胞に印をつけた。FITCマウス特異的動原体プローブは、内皮細胞を標識した(矢印)。結合した像は、毛包上皮、表皮鞘、および毛乳頭の細胞が、ヒト由来であることを示した(矢印)。これらの結果は、毛包が、表皮および真皮構成要素(毛乳頭と表皮鞘)の両方において、ヒト由来であることを示す。
【0186】
E.要約および結論
本実施例は、毛包新生が可能な皮膚代替物を開示する。また、本実施例は、結節硬化複合体(TSC)における皮膚過誤腫の異種移植片モデルの開発についても開示する。患者の正常と考えられる皮膚の線維芽細胞ではなく、ヒトTSC皮膚過誤腫から増殖したTSC2ヌル線維芽細胞様細胞は、模倣TSC過誤腫の組織的変化を刺激し、正常なヒト包皮ケラチン細胞を誘導して、毛包を形成した。毛包は、周期的に間隔を置き、正確に配向し、皮脂腺、毛幹、内毛根鞘、および外毛根鞘を十分に備え、また、幹細胞の付随層および膨出領域のマーカーを発現させた。毛包下部(すなわち、毛球)周囲のTSC2ヌル細胞は、幹細胞マーカーネスチンを含む、表皮鞘および毛乳頭のマーカーを発現させた。腫瘍異種移植片は、増加したmTORC1機能、血管新生、および被覆する表皮細胞の増殖を含む、TSC皮膚過誤腫の機能を要約した。ラパマイシン(mTORC1阻害剤)による処置は、これらのパラメーターを標準化し、腫瘍細胞の数を減少させたが、毛包サイズまたは密度を変化させなかった。
【0187】
これらの試験は、混乱した組織アーキテクチャーの過誤腫が、胎児の組織成長時において正常にみられる誘導能を有する細胞から生じることを示す。したがって、本実施例は、TSC2ヌル線維芽細胞様細胞が、TSC皮膚過誤腫を誘発する細胞であり、血管新生をシミュレートして、毛包新生を誘導することができることを示す。幹細胞マーカーの発現、およびこれらの細胞による髪の誘導能の保持は、TSC2機能の欠損が、真皮中の多能性前駆細胞の分化を変化させることを示唆する。マウスでは、放射神経膠におけるTSC2の欠損は、前駆細胞プールを増加させ、ニューロンを減少させる。一方、造血幹細胞中のTSC1の欠失は、顆粒細胞−単球前駆細胞を増加させ、巨大核細胞赤血球前駆細胞を減少させる。線維血管腫および線維性斑のTSC2ヌル細胞は、毛包形態形成および再生成を調査するためのツールである。TSC皮膚腫瘍が通常出生後に発生するという事実は、他の毛包過誤腫の発生に関与するTSC1/TSC2ネットワーク、および/またはシグナリングネットワークに影響を与える薬剤を使用することによって、毛包誘導細胞を形成するかまたは増強する可能性を示唆する。
【0188】
実施例2:TSC2およびFLCNノックダウン試験
立証された発毛促進能を有する細胞にみられたTSC2発現の欠損を模倣するために、shRNAを使用して、培養した線維芽細胞および毛乳頭細胞中のTSC2発現をノックダウンした。さらに、バート−ホッグ−デューベ症候群患者が、TSC皮膚過誤腫に類似する皮膚過誤腫の形成をもたらすFLCN機能の欠損を有するため、shRNAも使用して、培養した線維芽細胞および毛乳頭細胞中のFLCN発現をノックダウンした。以下に論じるように、TSC2およびFLCNのノックダウンは、細胞の発毛促進性を増強した。
【0189】
A.遺伝子ノックダウン
野生型間葉系細胞(すなわち、真皮線維芽細胞および毛乳頭細胞)を、shRNAを使用し、TSC2の発現をノックダウンすることによって、TSC2に改変して、TSC1/TSC2機能を低下させ、mTORC1機能を増加させた。さらに、野生型間葉系細胞を、shRNAを使用し、FLCNの発現を減少させることによって、FLCNに改変して、TSC1/TSC2機能の欠損を模倣した。TSC2を標的としたヘアピン配列を含む、pGIPZ−レンチウイルスshRNAmirベクターを有する市販のレンチウイルス粒子(オープンバイオシステム社製)を、TSC2発現のノックダウンに使用した。FLCNを標的としたヘアピン配列を含む、pGIPZ−レンチウイルスshRNAmirベクターを有する市販のレンチウイルス粒子(オープンバイオシステム社製)を、FLCN発現のノックダウンに使用した。新生児包皮線維芽細胞またはヒト毛乳頭細胞を、レンチウイルス粒子によって形質導入し、その後、形質導入48時間後に開始するプロマイシン選択(2μg/ml)をした。shRNAを安定的に発現させる細胞(GFP発現によって決定する)を、プールし、プロマイシン中に維持した。公知の哺乳動物遺伝子に対して相同性のない非標的shRNA対照(shNT、NT)を含む、pGIPZレンチウイルスを、負の対照としてノックダウン試験に使用した。
【0190】
図16は、TSC2ノックダウン試験からの安定的にトランスフェクトされたすべての包皮線維芽細胞におけるGFPの良好な発現を示す。細胞はすべて、少なくとも11の継代培養において恒久的な形質導入が維持された。ウェスタンブロット分析は、形質導入によって、TSC2の90%を超えるノックダウンが生じることを確認した(図17、一番上のバンド)。同じ結果は、TSC2ノックダウンベクターによって形質導入された毛乳頭細胞にみられた(データは示さない)。さらに、FLCNノックダウン粒子は、100%の線維芽細胞を形質導入した(データは示さない)。したがって、事実上、細胞はすべて、関心のある遺伝子をノックダウンするのに使用したベクターによって形質導入され、標的遺伝子の発現は、実質的に低減された。
【0191】
B.mTORC1シグナリングに対するTSC2ノックダウンの影響
安定的にトランスフェクトされたTSC2ノックダウン包皮線維芽細胞でウェスタンブロット分析を行って、TSC2発現が、mTORC1を介するシグナリングの活性化がみられる程度に十分に減少するか否かについて判断した。図17は、血清飢餓条件下におけるリボソームタンパク質S6(pS6)の超リン酸化によって示すように、TSC2ノックダウンには、過剰に活性のあるmTORC1シグナリングが伴ったことを示す。すべてのS6は不変であり、チューブリン対照は、比較可能な量のタンパク質が、異なるレーンにロードしたことを確認した。同様の結果は、複製の形質導入で得られた(データは示さない)。したがって、TSC2発現は、mTORC1を介するシグナリングを活性化する方法で、良好にノックダウンされた。
【0192】
これらの結果は、TSC2発現を減少させることによってか、またはTSC1/TSC2機能の模擬体の発現を減少させることによって、野生型間葉系細胞を改変して、TSC1/TSC2機能を低下させ、mTORC1機能を増加させることができることを示す。
【0193】
C.発毛促進(trichogenesis)の分析
毛包の形成を誘導する細胞(生毛細胞)は、アルカリホスファターゼを発現させる。アルカリホスファターゼは、毛乳頭細胞のマーカーであり、高いアルカリホスファターゼ活性を有する毛乳頭細胞は、インビボにおいて、高い毛包誘導能を有する。したがって、培養形質導入細胞において、アルカリホスファターゼ活性を測定して、TSC2またはFLCN発現のノックダウンによって、生毛細胞の数が増加するか否かについて判断した。図18に示すように、ヒト毛乳頭細胞は、初期継代培養時において高いアルカリホスファターゼ活性を有し、これは、その後の継代培養に伴って急速に低下する。対照的に、非標的ベクター(shNT)ではなく、shTSC2を有する正常なヒト線維芽細胞を形質導入して、アルカリホスファターゼ活性が増加し、この増加は、数回の継代培養において維持された。全体として、アルカリホスファターゼ活性は、TSCの正常な線維芽細胞よりもTSC2ヌル細胞で高く、TSC2ノックダウン細胞において発毛促進活性を示した。TSC2がヒト毛乳頭細胞でノックダウンされる場合(図19)と、FLCNが真皮線維芽細胞にノックダウンされる場合(図20)、同様の結果が得られた。したがって、TSC2またはFLCNのノックダウンによる細胞は、アルカリホスファターゼ(発毛促進性毛乳頭細胞のマーカー)の細胞活性の増加を示した。
【0194】
D.ハンギングボールアッセイ(hanging ball assay)における毛包新生の分析
インビトロ毛包分析を用いて、懸滴細胞培養物における毛包組織および構造対形成に対するTSC2のノックダウンの影響を決定した。簡潔には、改変間葉系細胞(TSC2(shTSC2)または非テンプレート(NT)対照のノックダウンによる新生児包皮線維芽細胞(NFF))から作製した、30,000の細胞の懸滴培養物を、毛乳頭培地とケラチン細胞無血清培地の1:1混合物(10μl)中の新生児包皮ケラチン細胞(NFK)(各細胞集塊当たり30,000の細胞)と組み合わせた。細胞集塊を、懸滴して、4週間、インキュベーターでインキュベートした。懸滴培養物をヘマトキシロンおよびエオシンで分析し、抗パンサイトケラチン抗体によって免疫組織化学検査を行って、選択的にケラチン細胞を確認した。
【0195】
図21は、TSC2ノックダウンshRNAまたは非テンプレート(NT)対照によって形質導入されたケラチン細胞および線維芽細胞を使用して、懸滴培養物で形成された構造体を比較する。TSC2ノックダウン細胞による集塊は、線維芽細胞周囲のケラチン細胞と共に、大きな組織を示す傾向があった(図21Aおよび21C)が、NT対照は、依然として混乱する傾向があった(図21Bおよび21D)。髪繊維様構造体がTSC2ノックダウン培養物にみられた。これらの細胞集塊では、正常なヒトの髪と同じ緑色の自動蛍光を発する、屈折繊維様構造体が形成した(図21E)。TSC2ノックダウン細胞によるこれらの集塊は、以下に論じるように、毛包形成のために、皮膚に移植されるか、または移植片に導入することができる。
【0196】
E.真皮−表皮複合体移植片における毛包新生の分析
形質導入した、および安定的にTSC2ノックダウンベクターを発現させる、新生児包皮線維芽細胞(NFF)または毛乳頭細胞を使用して、真皮−表皮複合体を発生させた。細胞を、10%FBS/DMEM中1mg/mLのラット尾部1型コラーゲンと混合し、ウエル当たり0.5×10の細胞密度で、6穴トランスウエルプレートに加えた。真皮構築物を、3日間、10%FBS/DMEM中で成長させた。shTSC2で形質導入されたNFFの5つの30,000細胞懸滴マイクロスフィアを、真皮構築物上に静置し、1×10のケラチン細胞で被覆した。真皮−表皮複合体を、4日間、0.1%FBSを含むDMEMとハムのF12(3:1)の混合物中で浸漬させてインキュベートし、その後、複合体を、気液界面に供し、皮膚等価物を、4日間または8日間、1%FBSを含むDMEMとハムのF12(1:1)の混合物中で成長させた後、10%ホルマリンに固定した。次いで、皮膚等価物を、ヘマトキシロンおよびエオシン(H&E)によって分析し、免疫組織化学検査を、抗パンサイトケラチン抗体によって行った。
【0197】
図22に示すように、コラーゲンゲル中の正常なヒトケラチン細胞および線維芽細胞からなる真皮−表皮複合体は、真皮等価物を被覆する重層扁平上皮を形成し、真皮表皮接合部は、ケラチン細胞の陥入なしで適正に水平であった。しかしながら、TSC2のノックダウンによる線維芽細胞を使用した、4日目(図22A)にケラチン細胞の管状の陥入が形成し、8日目に、これらの陥入が、パレード様配列(pallisading)ケラチン細胞の周縁部によって多細胞を拡大させ(図22B)、成長する毛包と外観において類似した。免疫組織化学検査は、これらの構造体が真皮等価物に陥入することを示し(図21C〜E)、これらが上皮細胞であることを示した。したがって、TSC2のノックダウンは、真皮−表皮複合体における毛包様構造体のインビトロ形成を促進する。
【0198】
F.真皮−表皮複合体を移植したマウスにおける毛包新生の分析
マウス移植試験を行って、TSC2のノックダウンが、インビボにおいて毛包の形成を促進するか否かについて判断した。簡潔には、新生児包皮線維芽細胞および毛乳頭を形質導入し、上述するように、TSC2ノックダウンベクターまたは非標的ベクターのいずれかを選択した。細胞を、10%FBS/DMEM中1mg/mLのラット尾部1型コラーゲン(BDバイオサイエンシーズ社製、ベッドフォード、マサチューセッツ州)と混合し、ウエル当たり0.5×10の細胞密度で、6穴トランスウエルプレート(コーニング社製、コーニング、ニューヨーク州)に加えた。真皮構築物を、10%FBS/DMEM中で3日間成長させ、1×10のケラチン細胞で被覆した。真皮−表皮複合体を、2日間、0.1%FBSを含むDMEMとハムのF12(3:1)の混合物中で浸漬させてインキュベートし、その後、複合体を気液界面に供し、移植前にさらに2日間、1%FBSを含むDMEMとハムのF12(1:1)の混合物中で成長させた。
【0199】
6〜8週齢の老齢の雌Cr:NIH(S)−nu/nuマウス(FCRDC、フレデリック、メリーランド州)に、Oとイソフルランの混合物(2〜4%)によって、麻酔をかけた。マウス背部の移植領域を慎重に評価し、彎鋏を使用して皮膚を除去した。複合体を、正確な解剖配向で移植片面に配置し、無菌ヘトロラタムガーゼで被覆し、包帯で固定した。包帯を週2回交換し、4週後に除去した。併せて、39匹のマウスに移植した(6匹のマウス:非標的対照shRNAを有する新生児包皮線維芽細胞;14匹のマウス:TSC2 shRNAを有する新生児包皮線維芽細胞;6匹のマウス:非標的対照shRNAを有する毛乳頭;および、13匹のマウス:TSC2 shRNAを有する毛乳頭)。移植10週後にサンプリングした6匹のマウスでは、shTSC2線維芽細胞は、サンプリングした3匹のマウスのうちの1匹において毛包様構造体を誘導し、また、shTSC2毛乳頭細胞は、サンプリングした3匹のマウスのうちの1匹において毛包を誘導した(図23)。結果は、出願時において他のマウスでは出ていない。
【0200】
G.結論
shRNAのレンチウイルス形質導入を用いた、本実施例に示す結果は、TSC2またはFLCNの欠損によって、線維芽細胞の発毛促進能が増強するという概念実証を提供する。
【0201】
実施例3:付属器腫瘍または正常ヒト皮膚からの間葉系細胞の単離
間葉系細胞は、次に示す1以上の供給源から単離することができる:自家細胞のための患者の皮膚または粘膜;同種異型細胞のためのドナーの皮膚または粘膜;正常な皮膚または粘膜;付属器腫瘍を有する皮膚;および、他の組織(例えば、脂肪、骨髄)。試料サイズが十分に大きい場合(すなわち、1cm以上)、線維芽細胞は、酵素消化によって単離することができる。
【0202】
A.細胞移動方法
細胞は、細胞移動方法を用いる皮膚試料または皮膚腫瘍から単離することができる。外植片から細胞移動によって間葉系細胞を単離するために、皮膚試料を小さな断片に切断し、これを、1mLまたは5mLの10%FBS/DMEMまたは間葉系幹細胞増殖培地(MSCGM;ロンザグループ(Lonza Group)社製、スイス)を収容した、35mmまたは100mmの無菌皿に移す。プレートを、37℃で、5%COインキュベーターにインキュベートする。十分な数の間葉系細胞がみられるまで、培地を週2回度交換する。組織片から移動する細胞を、倒立顕微鏡を使用して、規則的にモニターする。間葉系細胞が、外植片(培養開始およそ2〜3週後)間の皿表面の大部分を占める場合、間葉系細胞を二次培養する。細胞を、二次培養のために採取し、小さな組織片を、多くの細胞を単離するために、新しい皿に移し、細胞が組織からこれ以上移動しなくなるまで、外植片の移動を10回より多く繰り返す。各移動からの細胞を、初期継代培養で液体窒素中に保存する。
【0203】
B.2つの代替的な細胞解離方法
皮膚試料または皮膚腫瘍からの細胞解離を、間葉系細胞を単離するのに使用することができる。本方法によれば、皮膚試料(1×1cm)を、4℃で、60mm皿で、3mlのディスパーゼによって一晩処理する。または、試料を、室温で30分間、0.25%トリプシンによって処理してもよい。真皮を表皮シートから分離し、小さな断片に切断する。試料を、10mLの酵素溶液(1mMピルビン酸ナトリウム、2.75mg/mL細菌コラゲナーゼ、1.25mg/mLヒアルロニダーゼ、および0.1mg/mL DNアーゼIを添加したリヒターの改良MEMインシュリン培地(RPMI)を含む、HEPES)が入った50mL遠心分離管中で、室温で3時間、インキュベートする。インキュベーション後、組織を、10回を上下にピペッティングすることによって、機械的に解離する。細胞懸濁液を、無菌ナイロンメッシュによってろ過して、組織断片を除去し、室温で10分間、400×gで遠心分離する。上清を廃棄し、細胞ペレットを、10mlの培地(間葉系幹細胞増殖培地、または10%FBS添加DMEM等)中に再懸濁させ、75cm培養皿に移す。細胞を、37℃で、5%COインキュベーターで培養し、培地を24時間後に交換して、非接着性物質を除去する。
【0204】
皮膚試料または皮膚腫瘍からの細胞解離のための代替アプローチは、PBS中で真皮を3回洗浄し、小さな断片(2〜3mm)に細かく切断し、37℃、穏やかな振盪条件(50〜55rpm)下で、4ml/g組織中、クロストリジウム・ヒストリチウム(Clostridium histolyticum)コラゲナーゼ(CHC)抽出物(ワージントンバイオケミカル(Worthington Biochemical)社製、レークウッド、ニュージャージー州)を含むPBS(カルシウムおよびマグネシウムを含まない)溶液で消化することである。インキュベーション後、消化物を、開口したフィルタチャンバー(NPBI、エマー−コンパスキューム、オランダ)によってろ過し、フィルタを10ml培地によって2回洗浄する。湿潤組織重量を消化前後に測定して、組織消化効率を算出する。細胞懸濁液を、250×gで10分間、遠心分離し、上清を吸引し、また、細胞を細胞培養培地中に再懸濁させる。算出室を使用して、細胞濃度を、3つの個別に採取した試料で3回測定し(単離細胞収率)、生存率をトリパンブルー(シグマ(Sigma)社製)排除法によって評価する。細胞を、3つの独立したフラスコで、5×10または10×10細胞/cmの密度で培養物に接種する。24時間後、接着した細胞の割合を、フレームグラッバーイメージプリンターを備えるビデオカメラに接続した倒立顕微鏡を使用して、評価する。
【0205】
C.毛乳頭(DP)/表皮鞘(DS)間葉系細胞の単離
毛乳頭細胞は、顕微解剖によってヒト頭皮試料から単離し、その後、37℃で30分間、穏やかな撹拌によって、コラゲナーゼによって処理することができる。毛乳頭細胞の富化は、トルイジンブルー染色を使用するか、または、細胞核内の桿のための細胞の検査によって、確認することができる。細胞は、2〜3日ごとに交換した、チャンの培地とケラチン細胞調整培地の1:1混合物で増殖させることができる。
【0206】
表皮鞘細胞は、ヒト皮膚試料をさいの目に切り、次いで、コラゲナーゼによって試料を酵素的に解離することによって、正常なヒト成人皮膚から単離することができる。酵素解離は、皮膚外植片を使用するよりも短期間で多くの細胞を提供する。さらに、細胞生存率および増殖は、自家移植のための真皮等価物を生成するのに十分である。表皮鞘細胞は、4℃で30分間、FITC標識抗CD10抗体を有する細胞をインキュベートし、その後、細胞選別することによって、同定することができる。
【0207】
また、DPおよびDS細胞は、ハンクスバッファー中で3回、各回10分間、正常なヒト頭皮組織(1×1cm)を洗浄し、約0.3〜0.5cm幅のストリップに切断し、そして、真皮および皮下脂肪の界面で切断することによって、単離することもできる。皮下組織を、4℃で16〜18時間、3〜5mlの0.5%ディスパーゼ(シグマケミカル(Sigma Chemical)社、セントルイス、ミズーリ州)と共にインキュベートする。毛包を皮膚脂肪から引き抜く。上皮を、緩やかな圧力を1組のマイクロピンセットの先端にかけることによって、表皮鞘から押し出す。次いで、表皮鞘を、毛乳頭の柄が顕微鏡制御下で消化されるまで、37℃で6〜8時間、10%FBSを含むエングル最小必須培地(MEM)(ICNバイオメディカルズ(ICN Biomedicals)社製、オローラ、オハイオ州、米国)中0.2%コラゲナーゼD(ベーリンガーマンハイム(Boehringer Mannheim)社製、ドイツ)で、インキュベートする。線維鞘が完全に消化され、乳頭状突起がちょうど消化開始されるときに、酵素消化を停止する。ハンクスを加え、懸濁液を、2000rpmで5分間、遠心分離し、これを3回繰り返す。ペレットを再懸濁させ、200rpmで5分間、低速で遠心分離し、これを3回繰り返し、培養上清中にDS細胞を残す。真皮乳頭を、低速遠心分離によって残留物から完全に単離する。最終的な毛乳頭ペレットを、単離細胞なしで再懸濁させ、10%FBS添加MEM培地中の外植片培養物のための培地を収容した25mlフラスコに移す。培養物を5日間インキュベートし、培地を毎週2回交換する。
【0208】
その後、単離した毛乳頭および表皮鞘細胞を、適切な培地にインキュベートして、毛乳頭および表皮鞘のマーカーの誘導または維持について試験することができる。
【0209】
D.皮膚から皮膚由来前駆体または神経冠細胞を得るための方法を用いる、間葉系細胞の単離
ヒト間葉系細胞を、皮膚由来前駆体として、同様の方法を用いて単離する(Biernaskie,J.A.らの文献:「皮膚由来前駆体(SKP)の単離、およびこれらのシュワン細胞子孫の分化と富化(Isolation of skin−derived precursors(SKPs) and differentiation and enrichment of their Schwann cell progeny)」,Nature protocols 1(6):2803−2812(2006))。簡潔には、ヒト皮膚試料または皮膚腫瘍を、HBSS中で洗浄し、3〜5mmの大きさの小さな断片に切断し、25mlのブレンドザイム(Blendzyme)溶液(ロッシュ(Roche)社製)を充填した10cmプラスチック組織培養皿で、4℃で24〜48時間、消化する。表皮を、微細なピンセットを使用して、内在する真皮から剥離し、単離した真皮組織を、カミソリ刀を使用して1〜2mmの断片に細かく切断する。ヒト真皮のこれらの小さな断片を、5〜10mlの新しいブレンドザイム溶液を収容した15ml円錐管に収集する。また、DNアーゼI(1つの400μlアリコート)を懸濁液に加えて、細胞凝集を低減させることもできる。組織の最も効果的な消化のために、試料を、37℃で1〜2時間、穏やかに撹拌することができる。消化終了時に、10%FBS添加20ml洗浄用培地を加えて、ブレンドザイムを不活性化させる。1,200r.p.m.で、6〜8分間、組織試料を遠心分離して、細胞および皮膚断片をすべてペレット化する。酵素および培地を含む上清を廃棄する。新しい洗浄用培地(3〜5ml)を加え、10mlのディスポーザブルプラスチックピペットを使用して、ペレットを解離する。懸濁液を、1,200r.p.mで20秒間、遠心分離して、大きな皮膚断片をペレット化する。上清を、50ml収集管に収集し、冷凍する。組織ペレットを、組織片が厚くなり、細胞がこれ以上する遊離しなくなるまで、粉砕手段を繰り返すための新しい培地中で解離する。解離した細胞懸濁液を、70μm細胞ストレーナを通して50ml円錐管に入れ、1,200r.p.m.で7分間、遠心分離する。細胞ペレットを、2%B27添加物(インビトロゲン社製)添加洗浄用培地中に再懸濁させる。再懸濁液の容積は、ペレットのサイズに依存して、5ml〜20mlの媒体であり、細胞収率の定量化を簡潔にするために調整することができる。解離した真皮細胞を、75cmフラスコで、30mlの増殖培地(0.1%ペニシリン/ストレプトマイシン、40μg/mlフンギゾン、40ng/ml FGF2、20ng/ml EGF、2%B27添加物を含むDMEM/F12(3:1))、および25cmフラスコで10mlに希釈する。細胞を、球状のコロニーを形成させるために、継代培養なしで、7〜14日間培養し、培地を4〜5日ごとに交換する。
【0210】
実施例4:改変間葉系細胞の発生
A.遺伝子ノックダウン
ノックダウン遺伝子発現、例えば、TSC1、TSC2、CYLD、LKB1、FLCN、MEN1、NF1、PTEN、PRAS40、4E−BP1、GSK3もしくはDeptor、カスタムクローン化ヘアピンRNA(shRNA)のレンチウイルス粒子、またはpLKO.1−puro−CMV−tGFPベクター(シグマ社製)における非標的shRNA対照を、メーカーの説明書に従って、使用することができる。パイロット試験において、細胞を6穴プレート(2×10細胞/ウエル)に載置し、24時間、10%FBS/DMEMに培養する。培地を、8μg/mlのヘキサジメトリンを添加した、示される遺伝子または対照shRNAレンチウイルス粒子(0、1、2、5、10もしくは20MOI)に対するshRNAを含む、2mlの新しい10%FBS/DMEMと交換し、一晩インキュベートする。ウイルス粒子を含む培地を除去し、細胞を、10〜14日間、プロマイシンによる選択24時間前に、新しい完全培地中で培養する(滴定は、0.5〜10μg/mlのプロマイシンによって96穴プレート中で1×10細胞を処理することによって、使用前に行うことができる)。プロマイシンを含む培地を3日ごとに交換する。プロマイシン耐性細胞コロニーを収集し、更なる分析のために培養する。遺伝子発現を、qRT−PCRまたはウェスタンブロットによって測定する。遺伝子ノックダウン後の細胞を評価するために、形質導入された細胞を、プロマイシン選択後にプールする。形質導入された細胞における標的タンパク質のレベルを、ウェスタンブロットによって測定し、1、10、20、30および40継代培養の対照shRNA細胞と比較する。
【0211】
または、もしくはさらに、遺伝子療法を遺伝子発現のノックダウンに用いることができる。例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼを使用して、TSC1もしくはTSC2遺伝子において、またはTSC1/TSC2機能を刺激するタンパク質をコードする遺伝子において、標的二本鎖切断を発生することができる(例えば、Leeらの文献:Genome Res.,20:81−89(2010);Handelらの文献:Curr.Gene Ther.,11:28−37(2011);Holtらの文献:Nat.Biotechnol.,28:839−47(2010);および、Ledfordの文献:Nature,471:16(2011)を参照のこと)。簡潔には、単離した細胞を、一般に関心の高い遺伝子のコード領域の最初の2/3を標的とする、コンポZr(CompoZr)(登録商標)ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)(シグマアルドリッチ(Sigma Aldrich)社製)(または、他の適切なヌクレアーゼ)によって、処理することができる。ZFNをインシリコで設計し、細胞分析で試験して、標的部位を切断するZFNを同定し、また、1組のZFNを使用のために選択する。ZFNは、ZFNプラスミドもしくはmRNA転写のヌクレオフェクション、エレクトロポレーション、または脂質系トランスフェクションを用いて、細胞に送達することができる。また、ZFNを、レンチウイルス等のウイルスベクターを使用して送達することもできる。ヌクレオフェクションにおいて、約80%の集密度の5×10〜10×10の細胞を、トリプシン処理し、メーカーの説明書に従って、ヌクレオフェクター(Nucleofector)キット(アマクサバイオシステムズ(Amaxa Biosystems)社製)を使用して、約5μgの各ZFNコードプラスミドによってトランスフェクトする。トランスフェクション後、細胞を、10%FBS添加DMEM等の培地に維持する。ミスマッチ特異的切断分析(Cel−1が、変性−復元後の野生型および変異型DNA鎖のヘテロ二本鎖を切断する、サーベイヤー(Surveyor)エンドヌクレアーゼ分析(Cel−1;トランスゲノミクス(Transgenomics)社製)等)を用いて、ノックアウトによる細胞の割合を決定することができる。ノックアウトによる細胞の純粋な集団または富化された集団を得るために、細胞をクローン化することができる。または、GFPまたはプロマイシンプラスミド等の遺伝子を、ZFNによるTSC1またはTSC2ノックアウト時の相同組換えによって、挿入することができる。これによって、FACSを使用して、細胞を選別するか、または抗生物質選択を用いて、富化することができる。処理細胞の標的タンパク質のレベルを、ウェスタンブロットによって測定し、対照の未処理細胞と比較することができる。
【0212】
また、形質導入された細胞を、mTORC1シグナリングに対するノックダウンの影響について分析することもできる。これは、ウェスタンブロットにより形質導入された細胞におけるホスホ−S6発現を測定することによって、達成され、1、10、20、30および40継代培養で対照shRNA細胞と比較することができる。Wntシグナリングが髪形態形成時に活性があるので、Wntシグナリングに対するノックダウンの影響も評価することができる。これは、特異的抗体(セル・シグナリング・テクノロジー(Cell Signaling Technology)社製)を使用するウェスタンブロットにより、ベータ−カテニンおよびGSK3のレベルを測定することによって行うことができる。WNTネットワークは、成長時に表皮プラコードにおいて活性があり、また、WNTタンパク質は、真皮凝縮物を誘導して形成するシグナルの一部と考えられる(Kishimoto,J.らの文献:「Wntシグナリングは、毛乳頭の髪誘導活性を維持する(Wnt Signaling Maintains the Hair−Inducing Activity of the Dermal Papilla)」,Genes & Development 14(10):1181−1185(2000);Shimizu,H.らの文献:「ベータ−カテニン経路を介するWntシグナリングは、維持するのに十分であるが、回復しない、毛乳頭細胞の成長期の特性(Wnt Signaling Through the Beta−Catenin Pathway is Sufficient to Maintain,but Not Restore,Anagen−Phase Characteristics of Dermal Papilla Cells)」,The Journal of Investigative Dermatology 122(2):239−245(2004))。
【0213】
B.遺伝子誘導
ヒト間葉系細胞を、標準手順を用いて、構造的に活性のあるプロモーターの制御下で、mTORネットワークを活性化するか、または毛包関連遺伝子(例えば、Ras、Raf、Mek、Erk、Rsk1、PI3K、Akt1、Akt2、Akt3、Rheb、mTOR、Raptor、Rictor、mLST8、S6K1、リボソームタンパク質S6、SKAR、SREBP1、eIF4e、IKKbeta、Myc、Runx1、またはp27)の安定した発現のために、トランスフェクトすることができる(Ortiz−Urda,S.らの文献:「遺伝子操作線維芽細胞の注入は、再生ヒト表皮水疱症皮膚組織を矯正する(Injection of Genetically Engineered Fibroblasts Corrects Regenerated Human Epidermolysis Bullosa Skin Tissue)」,The Journal of Clinical Investigation 111(2):251−255(2003))。簡潔には、CMV IEプロモーターを使用して、遺伝子を、BglII断片として、285bpのΦC31attB配列を、プラスミドpcDNAattBを作製するバックボーンベクターpcDNA3.1/zeoのBglII部位に挿入することによって、ストレプトマイセスファージΦC31インテグラーゼ支援安定化組込みプラスミドに導入することができる。IRESおよびブラストシジン(blastocidin)の抵抗配列を、pcDNAattBのEcoRV/XbaI部位に挿入され、プラスミドpcDNAattB−IBを形成する、鈍化SnaBI−NheI断片として、pWZL芽細胞ベクターから除去することができる。次いで、示される遺伝子のうちの1つを増幅し、EcoRI、HindIII/EcoRI、およびEcoRI(鈍化)/BamHI断片として、lacZ遺伝子によって、pcDNAattB−IBのEcoRI、HindIII/EcoRI、およびHindIII(鈍化)/BamHI部位にそれぞれクローン化する。この手順は、関心のある遺伝子attBおよびplacZ−attBを含む伝達性プラスミドを作製する。その後、構築されたベクターを、ΦC31インテグラーゼコードプラスミドによってヒト間葉系細胞に同時トランスフェクトする。簡潔には、ヒト間葉系細胞を、改良ポリブレン衝撃を用いて、pIntおよび関心のある遺伝子attBおよびplacZ−attBによってトランスフェクトする。初期ヒト間葉系細胞を、70〜80%の集密状態まで、35mmプレートに培養し、次いで、改良ポリブレン衝撃によってトランスフェクトする。ポリブレントランスフェクションにおいて、760mlの増殖培地を、トランスフェクトされるプラスミドと混合し、この混合物を激しく撹拌する。HBSS中3.8mlの1mg/mlの臭化ヘキサジメトリン(アルドリッチケミカル(Aldrich Chemical)社製、ミルウォーキー、ウイスコンシン州)を加え、再度撹拌する。この混合物を6時間、細胞に被覆する。培地を吸引した後、増殖培地混合物中で28%DMSO(シグマケミカル社製、セントルイス、ミズーリ州)を細胞に適用する。細胞を90秒間インキュベートした後、DMSOを吸引し、10%仔ウシ血清を含むPBSと交換する。プレートを2回洗浄し、細胞を、37℃で一晩、新しい増殖培地にインキュベートする。選択のために、トランスフェクション3日後の細胞に、培地中でブラスチシジン(4μg/ml)を10日間供する。遺伝子導入効率を、免疫蛍光顕微鏡検査法およびイムノブロットアッセイによって確認する。10日間の選択後、間葉系細胞コロニーをトリプシン処理し、限界希釈法でサブクローン化して、高い増殖性クローンを得る。
【0214】
C.インビトロにおける細胞へのタンパク質送達
mTORネットワーク活性化または毛包関連タンパク質を、記載する方法を用いてヒト間葉系細胞に送達することができる(Weill,C.O.らの文献:「細胞内タンパク質送達のための実用的アプローチ(A Practical Approach for Intracellular Protein Delivery)」,Cytotechnology 56(1),41−48(2008))。細胞を、タンパク質送達時に、およそ70〜80%の集密度に到達させるために、載置する。24穴プレートの1ウエルに、0.5〜8μgの精製タンパク質を、滅菌条件下で、1.5mlのマイクロ遠心管中の100μlのHepesバッファー(20mM、pH7.4)で希釈する。それぞれの遠心管で、1〜8μlのタンパク質送達試薬プルシン(PULSin)(商標)(イルキルシュ(Illkirch)社製、フランス)を、タンパク質溶液に加える。ボルテックスによる簡単な均質化後、タンパク質/試薬混合物を、室温で15分間、インキュベートして、複合体を形成させる。細胞を1mlのPBSによって洗浄し、900μlの無血清培地を、それぞれのウエルに加える。それぞれのウエルへの複合体の添加後、プレートを、穏やかに混合し、さらに37℃でインキュベートする。4時間後、インキュベートした培地を除去し、1mlの新しい完全培地(血清を含む)と交換する。タンパク質送達を、免疫細胞化学検査によって、即時にまたは後で分析する。
【0215】
実施例5:髪の誘導性による細胞の富化
A.細胞マーカーに基づく分離
実施例3Bにおける一方のプロトコールに説明するように、皮膚組織を調製する。細胞を、0.25%トリプシンおよび5mM EDTA(シグマ社製)を含む溶液を使用して、7日後に採取し、細胞マーカーCD−10に基づく髪誘導細胞のために富化する。FITC標識抗CD−10抗体(イーバイオサイエンス(eBioscience)社製)を、4℃で30分間、線維芽細胞とインキュベートする。0.1%BSA添加PBSによって細胞を洗浄後、BDバイオサイエンス社製のFACSAriaセルソーターを使用して、細胞を選別する。
【0216】
または、細胞を、室温で30分間、抗CD10/RPE抗体(1×10の細胞10ml;ダコ(DAKO)社製、グロストラップ(Glostrup)、デンマーク;クローンSS2/36)で標識する。標識細胞を、PBS、2%ウシ血清アルブミンによって洗浄し、室温で30分間、抗PEマイクロビーズ(10ml/10の細胞;ミルテニイバイオテック(Miltenyi Biotec)社製、ベルギシュグラドバッハ、ドイツ)とインキュベートし、メーカーのプロトコールに従って、MiniMACSセパレーター(ミルテニイバイオテック社製)に配置したMACSカラムによって分離する。
【0217】
B.所望の細胞の増殖の促進、不要な細胞の増殖の阻害/致死に基づく分離
BMP2、4、5もしくは6、Wnt−3a、Wnt−10b、FGF2、KGF、または他のもの等の成長因子を、成長培地に加えて、毛乳頭細胞を含む髪誘導細胞を維持し富化することができる。毛乳頭細胞を、増加したWNTタンパク質、またはWNTによって促進されたシグナル伝達の効果を模倣する薬剤の存在下で培養する。本方法は、上に論じる、WNTシグナリングが髪形態形成時に活性があるという発見に基づく(Kishimoto,J.らの文献:「Wntシグナリングは、毛乳頭の髪誘導活性を維持する(Wnt Signaling Maintains the Hair−Inducing Activity of the Dermal Papilla,)」,Genes & Development 14(10):1181−1185(2000);Shimizu,H.らの文献:「ベータ−カテニン経路を介するWntシグナリングは、維持するのに十分であるが、回復しない、毛乳頭細胞の成長期の特性(Wnt Signaling Through the Beta−Catenin Pathway is Sufficient to Maintain,but Not Restore,Anagen−Phase Characteristics of Dermal Papilla Cells)」,The Journal of Investigative Dermatology 122(2):239−245(2004))。
【0218】
代替アプローチは、ヒトWnt−3aタンパク質を含む調整培地を調製することである。マウスL細胞を、37℃で、10%FCSおよび抗生物質を添加したDMEMとHAM F12培地の1:1混合物で培養する。Wnt−3a cDNAによってトランスフェクトされたL細胞の確立において、ヒトWnt−3a cDNA(この発現は、ラットホスホグリセロキナーゼ遺伝子のプロモーター(PGKプロモーター)によって促進され、ウシ成長ホルモン遺伝子の転写ターミネーター配列で終了する)を、PGKプロモーターによって促進するネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(neo)を含むpGKneoに、挿入することによって、pGKWnt−3aを構築することができる。DNA添加1日前に、1.5×10の細胞/プレートの密度で、60mm培養皿に載置したL細胞に、pGKWnt−3aを、リン酸カルシウム法によって導入する。これらの培養物に、400mg/mLのG418を、トランスフェクション2日後に加える。次いで、安定的にトランスフェクトされたクローンを選択し、二次培養する。Wnt−3a産生L細胞の培養物から調整培地(CM)を回収するために、これらの細胞を、10%FCS添加DMEMとHAM F12の1:1混合物を収容した100mm皿に、1×10の細胞密度で接種し、4日間培養する。調整培地を採取し、1000gで10分間、遠心分離し、ニトロセルロース膜によってろ過する。対照として、調整培地を、pGKneoのみによってトランスフェクトされたL細胞から調製し、上述と同じ条件下で培養することができる。調整培地を使用して、Wnt促進髪誘導細胞を得ることができる。簡潔には、100〜1000の皮膚間葉系細胞を、10%FBS添加DMEM中の100mm皿に載置し、24時間培養する。翌日、培地を、Wnt2aタンパク質を含むL細胞調整培地と交換し、3日ごとの培地変更によって2週間培養する。2週後に、細胞クローンを、ヒト皮膚への更なる分析または注入のために回収する。
【0219】
実施例6:特殊な培地または成長因子を使用する増殖時の髪誘導性の維持
ヒトDP細胞の毛包誘導潜在能は、次に示す培地のうちの1つで維持することができる。
【0220】
チャンの培地(Chang H.C.らの文献:「ホルモン添加培地で増殖させたヒト羊水細胞:出生前診断での適応性(Human amniotic fluid cells grown in a hormone−supplemented medium:suitability for prenatal diagnosis)」, Proc Natl Acad Sci USA 79(15):4795−9(1982)):簡潔には、基本培地[無血清(SF)培地]を、15mM Hepes、1リットル当たり1.2gのNaHCO、40mgのペニシリン、8mgのアンピシリン、および90mgのストレプトマイシンを添加した、ダルベッコ−フォークト変法イーグル培地(DVME培地)とハムのF12培地(F12培地)の1:1混合物である。10の発育促進物質を添加したSF培地を、H培地(補足培地)と称する。添加した発育促進物質は、次に示すとおりである:トランスフェリン(5μg/ml)、セレン(20nM)、インシュリン(10μg/ml)、トリヨードサイロニン(0.1nM)、グルカゴン(1μg/ml)、線維芽細胞成長因子(10ng/ml)、ヒドロコルチゾン(1nM)、テストステロン(1nM)、エストラジオール(1nM)、およびプロゲステロン(1nM)。
【0221】
ケラチン細胞調整培地(KCM):ケラチン細胞培養物からKCMを回収するために、10の細胞を、100mm皿に載置し、10mlの培地(FBSまたは成長添加物質を含まない50%KSFMおよび50%DMEM)で3〜5日間培養する。調整培地を回収し、これを、ヒト皮膚への注入2〜4週前に、皮膚間葉系細胞の培養に使用する。
【0222】
市販の培地または成長因子の利用:間葉系幹細胞培地(インビトロゲン社製)、またはヒト毛包DP細胞増殖培地(プロモセル(PromoCell)社製)を、ヒトDP細胞の培養に使用する。BMP6(10ng/ml)、FGF−2(10ng/ml、バイオビジョン(BioVision)社製)、またはレプチン(0、10、もしくは100ng/ml、シグマアルドリッチ社製)等の他の成長因子を、DP細胞培養に利用することができる。
【0223】
小分子阻害剤の使用:髪を維持するために、誘導型間葉系細胞、GSK−3阻害剤、BIO(カルバイオケム(Calbiochem)社製、ラ・ホーヤ、カリフォルニア州)を100mm皿中に1.5μM、培地に加える。細胞を二次培養し、ヒト皮膚の更なる分析またはヒト皮膚への注入2週間より前に継代培養する。
【0224】
実施例7:表皮細胞の単離
表皮細胞を次に示す供給源から単離することができる:患者皮膚または粘膜(自家)、ドナー皮膚または粘膜(同種異型)、表皮細胞系、幹細胞由来の表皮細胞、および初期または継代培養された表皮細胞。
【0225】
ケラチン細胞を単離するために、ヒト新生児包皮または成人皮膚組織を、4℃で一晩、ディスパーゼによって処理する。表皮シートを真皮シートから分離し、次いで、37℃で20分間、0.05%トリプシン、0.53mM EDTAによって消化する。細胞を回収し、ウシ下垂体抽出物、および組換え型上皮成長因子を添加した、ケラチン細胞無血清培地中の組織培養皿に載置した。本方法は、上に論じる、間葉系細胞の細胞解離方法に類似する(すなわち、真皮の切断を、間葉系細胞に使用し、上皮の切断を、表皮細胞に使用する)。
【0226】
または、次に示すプロトコールを用いて、幹細胞を誘導して、表皮細胞に分化することによって、幹細胞を、表皮細胞を発生させるために使用することができる。従来の研究は、幹細胞をBMコーティング皿に載置する場合、幹細胞は、ケラチン14(K14)陽性細胞に分化することができる上皮シートを生じさせることを示した。また、これらの研究は、かかる培養物が、上皮先祖細胞(EPC)と呼ばれる二次培養で維持される、表皮先祖細胞を含むことも示唆した。高密度で培養する場合、抗体による間接免疫蛍光法によって決定されるように、EPCは、毛包分化経路に沿って成長し、髪ケラチンを発現させる。幹細胞を誘導して、表皮細胞に分化するために、35mm組織培養皿で増殖する幹細胞を、室温で30分間、マトリゲル(1mL/35mm皿、およそ0.1mg)でコーティングし、次いで、マトリゲルを、15%DMEMと穏やかに交換する。4日目に、細胞を、インキュベーターで、2〜3分間、0.25%トリプシン−EDTAによって処理する。細胞を、15mLファルコンチューブに移し、アリコートを除去して、すべての使用可能な細胞を数える。細胞を、ペレット形成のために、700×gで、2〜3分間、遠心分離する。回転時に、細胞を、コールターカウンターを使用して数える。ペレットを15%DMEMによって再懸濁させ、10の細胞/35mm皿に載置するために、適切に希釈する。免疫蛍光検査において、細胞を、22×22mmのガラス製カバーグラスに載置することができる。
【0227】
実施例8:毛包分化能を有する表皮細胞の富化
A.細胞接着
新生児または成人のヒト皮膚の幹細胞集団を、以前に報告された方法に従って、迅速な接着によって富化することができる。簡潔には、100mm細菌プラスチック皿を、100μg/mlのIV型コラーゲンでコーティングし、0.5mg/mlの熱変性BSAと37℃で1時間、インキュベートし、無血清培地中で洗浄する。ケラチン細胞を、1〜5×10細胞/mlの密度で、無血清培地中に再懸濁させる。10mlの細胞懸濁液を、IV型コラーゲンをコーティングした皿に加え、この皿を、5台の顕微鏡のあるインキュベーターに戻す。接着した細胞を迅速に採取し、0.4mg/mlヒドロコルチゾン(シグマ社製)、5mg/mlトランスフェリン(シグマ社製)、5mg/mlインシュリン(シグマ社製)、100IU/mlペニシリン、100mg/mlストレプトマイシン、10%FCS、10ng/ml上皮成長因子(EGF)(シグマ社製)、および10ng/ml塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)(ギブコ(Gibco))を添加した、FAD(DMEM/F12 3:1、v/v、ギブコ)中の更なる培養物において、1×10細胞で再度載置する。皿を、37℃、100%の湿度、および5%COでインキュベーターに載置し、培地を2〜3日ごとに交換する。細胞外マトリックスでコーティングした培養皿に多く接着する、表皮幹細胞は、毛包に形成する高い潜在能を有する。
【0228】
B.細胞選別
膨出細胞は、磁性ビーズ系によって単離することができる。2つの磁性ビーズ系を組み合わせて、中間毛包懸濁液から膨出ORS細胞を単離する。最初に、毛包細胞を、4℃で20分間、PE結合抗ヒトCD24、CD34、CD71、およびCD146抗体(BNC)のカクテルによって染色する。洗浄後、毛包細胞を、4℃で25分間、抗PEマイクロビーズ(ミルテニイバイオテック(Miltenyi Biotec)社製)とインキュベートする。その後、PE陽性非膨出細胞を、小型MACS MSカラム(ミルテニイバイオテック社製)を使用して、磁力分離によって除去する。除去手順を3〜5回繰り返して、最大の消耗を確認する。次に、中間毛包細胞を、4℃で20分間、精製した抗ヒトCD200マウスmAbとインキュベートし、洗浄し、4℃で30分間、傾かせて、ダイナビーズ(Dynabeads)M−450ヒツジ抗マウスIgG磁性ビーズ(ダイナルバイオテック(Dynal Biotech)社製)とインキュベートする。その後、正の選別を、MPC−L磁性粒子コンセントレーター(ダイナルバイオテック社製)によって行い、CD200陽性細胞を得る。CD59陽性細胞を、正の選別対照として同様に回収してもよい。膨出細胞を富化する表皮細胞の調製によって、高い毛包形成能を有することが期待される。
【0229】
実施例9:移植のための細胞の調製
A.皮膚代替物
三次元インビトロ構築物を、本明細書に記載するように、確立された改良法を用いて、移植のために調製する。簡潔には、間葉系細胞を、10%FBS/DMEM中の1mg/ml I型コラーゲン(下記のように、ラットまたはウシ)と混合し、1cm当たり1.5×10細胞の密度で、6穴トランスウエルプレート(コーニング社製、コーニング、ニューヨーク州)に加える。真皮等価物を、上部の1×10のケラチン細胞を等分する4日前に、10%FBS/DMEM中で培養する。構築物を、0.1%FBSを含む、DMEMとハムのF12(3:1)(ギブコ(GIBCO)/インビトロゲン社製、グランドアイランド、ニューヨーク州)の混合物中で2日間、浸漬させて培養し、その後、ケラチン細胞を気液界面に供し、移植前にさらに2日間、1%FBSを含む、DMEMとハムのF12(3:1)の混合物中で培養する。
【0230】
B.細胞集塊
注入のための細胞凝集物を、懸滴法を用いて形成することができる(Qiao J.らの文献:「培養ヒト頭皮毛乳頭細胞によって誘導された毛包新生(Hair follicle neogenesis induced by cultured human scalp dermal papilla cells)」、Regen Med 4(5):667−76(2009))。簡潔には、ヒト間葉系細胞とケラチン細胞の混合物(10:1、5:1、1:1、1:5、または1:10)を、0.24%メチルセルロースを含むチャンの培地中に懸濁させる。100mmペトリ皿の底部において、細胞を、20μlの液滴(液滴はそれぞれ、4×10細胞を含む)に適用する。液滴が上下逆さまに懸滴するように、ペトリ皿を逆さまにする。懸濁した液滴を、37℃、5%COで、インキュベーターでインキュベートする。凝集物の形成を18〜20時間以内に終了する。形成において、凝集物を、150μlチャンの培地を収容した96穴丸底アッセイプレートのウエルに別々に移す。ウエルを、0.24%メチルセルロース培地で予め覆って、髪の原型(proto−hair)の付着を防ぐ。培地を2〜3日毎に交換する。
【0231】
C.マイクロスフィア
注入のための生物分解性マイクロスフィアを、従来の油/水エマルション、および溶媒蒸発/抽出法を用いて、75:25 PLGA(分子量=100,000Da、バーミンガムポリマーズ(Birmingham Polymers)社製、バーミンガム、アラバマ州)から製造する。簡潔には、600mgPLGAを、12mlの塩化メチレン中に溶解し、0.5%(w/v)ポリビニルアルコール(分子量=30,000〜70,000Da、シグマ社製)の400ml水溶液に加え、室温で一晩、激しく撹拌する。マイクロスフィアを遠心分離によって回収し、蒸留水によって3回洗浄し、50〜200μm径のサイズに濾す。マイクロスフィアを凍結乾燥し、6時間、紫外線光によって殺菌する。ヒト間葉系細胞(2.5×10細胞)、およびケラチン細胞(6×10の細胞)を、ケラチン細胞のための10ng/mlのEGFを含む30mlの無血清KGM、または間葉系細胞のための10%(v/v)FBSを含むDMEM/F12を収容した、スピナーフラスコ(ベルコガラス(Bellco Glass)社製、ヴァインランド、ニュージャージー州)中に、PLGAマイクロスフィア(1μgマイクロスフィア/10細胞)と共に載置し、50rpmで2週間、培養する。培地を1日おきに交換する。細胞凝集物を沈降させ、16mlの培養上清を回収し、遠心分離し、15mlの上清を除去し、また、15mlの新しい培地を、1mlの残存上清中の遠心分離した細胞に加える。新しい培地中の細胞をスピナーフラスコに移す。または、アルギン酸ナトリウム中で細胞を懸濁させ、その後、Lin C.M.らの文献:「マイクロカプセル化ヒト髪毛乳頭細胞:毛乳頭の代わりになるか?(Microencapsulated human hair dermal papilla cells: a substitute for dermal papilla?)」,Arch Dermatol Res.300(9):531−5(2008)に記載する、高電圧電気液滴発生器を使用して、球状液滴を形成することによって、細胞集塊を形成してもよい。
【0232】
実施例10:
生体力学特性、創傷治癒、および長期毛包再生成のための本発明の皮膚代替物の評価
本発明の皮膚代替物を、生体力学特性、創傷治癒、および長期毛包再生成に関して試験することができる。
【0233】
生体力学特性には、皮膚保護機能、皮脂分泌、皮膚引張強さ、経皮水分損失、および皮膚静電容量が含まれる。皮膚静電容量は、コルネオメーター(Corneometer)CM 825 PC(コーリッジ・アンド・カーザカ・エレクトロニック(Courage & Khazaka Electronic)社製、ケルン、ドイツ)を使用して、測定することができる。経皮水分損失は、テヴァメーター(Tewaeter)TM 300(コーリッジ・アンド・カーザカ・エレクトロニック社製、ケルン、ドイツ)によって、測定することができる。皮脂腺の活性を評価するために、一つには、オイルレッドO染色、およびレーザー顕微解剖材料のリアルタイムPCRを使用して、ヒト皮脂脂質およびタンパク質の発現を測定することができる。すべてのRNAを、レーザー顕微解剖された皮脂腺、および逆転写されたmRNAから単離することができる。皮膚引張強さを測定するために、動物を屠殺した後に得られる小さく細長い移植片を、引張計(インストロン(Insron)5542引張計、インストロン社製、カントン、マサチューセッツ州)に載置し、ピーク破断荷重を測定することができる。簡潔には、組織ストリップの一部分(およそ0.5cmの切開)を、切開の線に垂直な引張計のつかみ具に配向する。ピーク破断荷重を測定し、破壊された組織の断面積で破断荷重を割ることによって、引張強さ値(1平方センチメートル当たりのキログラム力)に変換する。同じ手順を用いて、引っ張った髪の引張強さを測定することができる。
【0234】
創傷治癒を評価するために、創傷を、移植4〜6週後に移植片に形成することができる。創傷に包帯をしてもよく、また、創傷拘縮および再上皮化を測定するスケールで、1〜2日ごとに連続写真術によって、創傷治癒の割合を決定した。移植片の切片を採取し、マソンのトライコームによって染色し、創傷の中心を通して切断することによって、創傷および傷跡面積、真皮厚さ、ならびに表皮厚さを組織学的に評価することができる。創傷の組織形態測定を行うことができ、また、質的評価は、炎症細胞浸潤、線維芽細胞増殖、コラーゲン形成、および血管新生からなっていた。免疫組織化学検査を用いて、ヒト細胞、細胞増殖(Ki−67)、および多くの筋線維芽細胞を確認する。
【0235】
髪周期を、毛周期を通じた再現観察によって裏付けることができる。しかしながら、毛周期が、非頭皮皮膚で約100日、頭皮で最大数年であるので、試験の進行を、髪を引き抜くこと(例えば、ワックスを使用して)によって促進してもよい。髪の引き抜きは、髪を誘導して、成長期に再度入らせるための十分に立証された方法である。髪引抜き分析を、表皮および毛包膨出領域における標識保持細胞の存在のための表皮幹細胞コンパートメントの評価と組み合わせてもよい。BrdUを、毛包新生の終了から6日間、腹腔内に毎日2回注入することができる。10〜14週で、移植片の2分の1の髪を引き抜いてもよい。これらの試験によって、標識保持表皮幹細胞の存在と位置、および毛包がある、または毛包のない皮膚を引き抜くことに対するこれらの反応を決定することができる。
【0236】
実施例11:移植方法
A.複合体の配置
6〜8週齢の老齢の雌Cr:NIH(S)−nu/nuマウス(FCRDC、フレデリック、メリーランド州)に、Oとイソフルランの混合物(2〜4%)を使用して、麻酔をかけた。マウス背部の移植領域を慎重に評価し、皮膚を、ポビジンおよび70%エタノールによって洗浄後、彎鋏を使用して除去した。構築物を、正確な解剖配向で移植片面に配置し、無菌ヘトロラタムガーゼで被覆し、包帯で固定した。マウスを再び目覚めさせた後、無菌ケージに移した。包帯を週2回交換し、4週後に除去した。マウスを移植4〜18週後に屠殺する。
【0237】
B.細胞の注入
細胞を、Ortiz−Urdaらの文献(上述する)に記載するものと同様の方法を用いて、ヒト皮膚に直接注入する。マウス皮膚へのヒト間葉系細胞の注入において、6〜8週齢の老齢の雌Cr:NIH(S)−nu/nuマウスに、30ゲージ針を使用して、100μl PBS中に再懸濁させた10の細胞を皮内に注入する。注入を、最初に皮膚を貫通し、その後、表面後方に針を戻し、細胞を可能な限り皮相に注入することによって、行う。これによって、注入領域の中心に境界明瞭な丘疹が形成する。注入8〜16週後に、生体組織検査および分析をマウス皮膚で行う。
【0238】
C.細胞の移植
麻酔後、およそ0.5〜1.0mmの幅および長さの小さな切開を、27ゲージ針を使用して作製する。単一培養した凝集物(髪の原型)を、各切開内の浅い位置に挿入する。挿入後、切開を治癒ために残す。
【0239】
動物または患者に麻酔をかけた後、全層の皮膚創傷(1.5×1.5cm矩形形状)を移植領域に形成する。創縁および自発的創傷拘縮の宿主皮膚細胞の移動を最小化するために、創縁の皮膚を焼灼によって焼き、非再吸収性5−0ナイロン縫合糸(アイリー(AILEE)社製、釜山、韓国)によって、隣接する筋肉層に固定する。PLGAマイクロスフィアに培養した間葉系細胞(およそ10の細胞/創傷)、およびケラチン細胞(およそ7.5×10の細胞/創傷)を、針のない1mL注射器を使用して、創傷に移植する。移植後、創傷を、包帯材料テガダーム(Tegaderm)(スリーエムヘルスケア(3M Health Care)社製、セントポール、ミネソタ州)、および無菌綿ガーゼで覆い、コバン(自己付着性ラップ)スリーエムヘルスケア社製)を使用して、しっかりと固定する。マウスにおいて、抗生物質(セファゾリン、0.1mg/マウス、ユーハン(Yuhan)社製、ソウル、韓国)、および鎮痛剤(ブプレノルフィン、0.1mg/kg、ハンリムファーマ(Hanlim Pharm)社製、ソウル、韓国)をそれぞれ、移植5日後に、筋肉内および皮下に投与する。手術後、マウスを単独で収容し、NIHの動物実験に関する指針に従って、マウスは人道的な処置を受ける。
【0240】
実施例12:患者創傷への皮膚代替物の適用
全層または部分層の皮膚欠損、創傷、火傷、傷跡、および完全または部分的な脱毛を示す、患者に、標準術前評価を行って、手術危険度を決定する。皮膚代替物の適用部位には、軟骨、腱、または神経ではなく、真皮、筋膜、筋肉、肉芽組織、骨膜、軟骨膜、腱周囲、および神経周膜等の十分な血液供給がある。創傷は、壊死組織がないことを要する。創傷は、1平方センチメートル当たり100,000未満の菌数の細菌によって比較的汚染されていないことを要する。十分な創傷面は、創面切除、包帯交換、および全身的または局所的抗生物質を必要とする。局所的にまたは全身に投与される、抗菌剤、抗真菌剤、および抗ウイルス物質を、皮膚代替物の投与前後の一定期間(例えば、1週間)、使用して、感染の危険性を低減させることができる。創傷の真空支援閉鎖を用いて、移植前に、創傷面の特性を改良することができ、また、移植後にこれを用いることができる。
【0241】
患者は、局所、局部、または全身麻酔を用いて、麻酔をかけられ、移植片部位を、水、抗菌性洗浄剤、またはアルコール溶液(アルコール綿球等)によって洗浄する。現存する皮膚組織、失活した組織、痂皮、傷端もしくは潰瘍端、または瘢痕組織は、当該技術分野における標準技術を用いて除去される。創面切除は、健全で、生存可能な、出血組織まで及び得る。創面切除前に、創傷を、無菌食塩水によって徹底的に浄化して、遊離した細片および壊死組織を除去することができる。組織ニッパー、外科用メスもしくはキューレットを使用して、角質増殖、および/または壊死組織と細片を創傷表面から除去する。潰瘍辺縁は、ソーサー効果を有するように、創面切除することができる。創面切除後、創傷は、無菌食塩水で徹底的に浄化され、穏やかにガーゼで乾燥する。傷端の創面切除または修正によって生じる分泌または出血は、緩やかな圧力の使用によって、停止することができる。他の選択肢には、血管の結紮、電気焼灼、化学焼灼、またはレーザー焼灼が含まれるが、これらのアプローチによって、失活した組織が生じ、これらの使用は最小化にする必要がある。大量の滲出物は、皮膚代替物に代わり、接着を低減し得る。滲出物は、適切な臨床治療によって最小化され得る。例えば、創傷が粘着性を有するまで、室温または42℃以内の無菌空気を創傷に吹きつけてもよい。滲出物が持続する場合、皮膚代替物を浸透させて、皮膚代替物を穿孔して排出することによって滲出させることができる。
【0242】
皮膚代替物は、非細胞毒性溶液によって創傷を徹底的に洗浄した後、清浄で創面切除された皮膚表面に適用することができる。皮膚代替物の適用前に、施術者は、皮膚代替物の有効期限を再検討し、pHを確認し、視覚的に観察し、臭いをかいで、細菌汚染物質または粒子状物質等の汚染物質がないことを確認することができる。皮膚代替物は、使用直前まで、制御温度68°F〜73°F(20℃〜23℃)で、ポリエチレンバッグに保存することができる。施術者は、密封したポリエチレンバッグを切開することができ、また、皮膚代替物が、細胞培養皿またはプラスチックトレーに提供される場合、皮膚代替物は、無菌技術による無菌領域に移すことができる。細胞培養皿またはプラスチックトレーが存在する場合、トレーまたは細胞培養皿の蓋を外すことができ、また、施術者は、皮膚代替物の表皮および真皮層の配向に注意し得る。無菌非外傷性器具を使用して、施術者は、およそ0.5インチの皮膚代替物をトレーまたは細胞培養皿の壁からそっと離して移すことができる。皮膚代替物を持ち上げる場合、施術者は、皮膚代替物の下の膜を穿孔しないか、またはこれを持ち上げないように注意し、プラスチックトレーが存在する場合、当該膜をトレーに残存させる必要がある。無菌の手袋をはめた手で、施術者は、一方の人差し指を皮膚代替物の剥離部分の下に挿入し、他方の人差し指を使って、デバイスの端に沿って別の箇所の皮膚代替物をつかむことができる。2箇所に皮膚代替物を保持し、施術者は、スムーズな動きで、トレーまたは細胞培養皿から皮膚代替物全体を持ち上げることができる。過度に折り重なる場合、皮膚代替物は、無菌トレー中の温かい無菌食塩水上に浮かす(表皮表面を上にして)ことができる。真皮層(中間付近の光沢層)が、皮膚代替物の部位と直接接触するように、皮膚代替物を配置することができる。塩水で湿らせた綿塗布用具を使用して、施術者は、部位上の皮膚代替物を滑らかにし、このため、気泡もしわが寄った端もなくすることができる。皮膚代替物が適用部位よりも大きい場合、超過した皮膚代替物は、包帯に付着するのを防ぐために、切り取ることができる。皮膚代替物が適用部位よりも小さい場合、不足が充足されるまで、複数の皮膚代替物を互いに隣接させて適用することができる。
【0243】
皮膚代替物は、適切な臨床用包帯で固定することができる。非付着性、半閉塞、吸収性包帯材を使用することが望ましい。移植領域全体に均一に圧力をかける必要がある。縫合またはステープルは必要ではないが、移植片面に移植片を係留する(仮縫合)ために、一部の事例に使用してもよい。除去を必要としないので、5−0の速吸収性グット(fast absorbing gut)等の吸収性縫合糸が望ましい。包帯は、適用部位への皮膚代替物の接触を確実にし、かつ移動を防ぐために使用することができる。治療上の圧縮を移植片部位に適用することができる。一部の事例において、移植された四肢を固定して、皮膚代替物と適用部位の間の剪断力を最小化することが必要な場合がある。ボルスター包帯は、動作を回避するのが困難な領域、および不規則な輪郭の創傷に有用である。包帯は、週に一度、または、必要であれば、これより頻繁に交換することができる。痛み、臭気、剥離、または合併症の他の兆候は、除去および検査する適用部位に包帯をしていることによって表れるものである。
【0244】
皮膚代替物の付加的な適用は、特定の事例において必要であり得る。付加的な適用前に、先の皮膚移植片または皮膚代替物の非付着性残存物は、穏やかに除去する必要がある。治癒組織または接着皮膚代替物は適所に残してもよい。部位は、皮膚代替物の付加的な適用前に、非細胞毒性溶液によって浄化することができる。一実施態様において、付加的な皮膚代替物は、先の皮膚代替物が接着していない領域に適用することができる。
図1
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]