【実施例】
【0157】
V.実施例
実施例1:TSC患者の皮膚代替物の調製および評価
線維性前額部斑、線維血管腫、および爪周囲線維腫を含むTSC皮膚過誤腫は、真皮および/または毛包周囲線維芽細胞様細胞、ならびに上皮における変化を含む。TSCと診断された患者を、施設内倫理委員会に承認されたプロトコール、全国心臓肺臓血液学会(NIH)の00−H−0051に登録した。TSC患者の線維血管腫、爪周囲線維腫、線維性斑、および正常と考えられる皮膚の試料を得て、二分化し、一方の部分をルーチン病理に使用し、また、他方を、凍結切片または細胞培養に使用した。
【0158】
A.正常組織試料および腫瘍組織試料の組織学的および免疫組織化学的比較
正常および腫瘍患者の試料間の組織学的相違(
図3Aおよび3B)および免疫組織化学的相違を、比較用のベースラインによって特性評価した。簡潔には、試料のパラフィン切片を脱パラフィン化し、20分間、10mMクエン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)中で沸騰させることによって、抗原回復の処理をした。凍結切片を、−20℃で10分間、アセトンに固定した。ベクター(Vector)(登録商標)レッドまたはDAB基質(ベクターラボラトリーズ(Vector Laboratories)社製、バーリンゲーム、カリフォルニア州)を有する、特異的抗体およびベクタスタチン(VECTASTAIN)ABCキットを使用して、メーカーの手順に従って(DABペルオキシダーゼ褐色基質によるABC西洋わさびペルオキシダーゼ染色を使用した、Ki−67染色を除く)、切片の細胞マーカーを染色した。ポジティブ染色法の相対強度を、オリンパスBX40光学顕微鏡(オリンパス社製、メルヴィル、ニューヨーク州)、およびオープンラボ(Openlab)4.0ソフトウェア(インプロビジョン(Improvision)社製、レキシントン、マサチューセッツ州)を使用して、定量化した。
【0159】
パラフィン包埋患者試料中の血管を、CD31(アブカム(Abcam)社製、ケンブリッジ、マサチューセッツ州)に対するウサギポリクローナル抗体によって染色した。陽性の血管の数および面積を測定し、合計面積によって標準化した。試料中の細胞増殖を、Ki−67(サーモサイエンティフィック(Thermo Scientific)社製、フェルモント、カリフォルニア州)に対するウサギモノクローナル抗体を使用して、免疫染色することによって検出した。Ki−67陽性細胞を、オリンパスBX40光学顕微鏡(オリンパス社製、メルヴィル、ニューヨーク州)を使用して、数え、表皮の長さによって標準化した。腫瘍関連マクロファージを、ラット抗マウスF4/80抗体(アブカム社製)による免疫組織化学染色によって、試料中で検出した。真皮中のマクロファージ含量を、20倍対象レンズを使用して、各切片の3つのランダム面積を計測し、面積により標準化することによって測定した。CD68陽性単核食細胞を、ABCキット(ベクター社製)、および抗CD68抗体(M0814、ダコサイトメーション(DakoCytomation)社製)を使用して、免疫組織化学染色によって確認した。そして、上昇したmTORC1機能を、リン酸化リボソームタンパク質S6(抗pS6、2211、細胞シグナリング)を免疫染色することによって決定した。
【0160】
線維性斑は、正常な皮膚と比較して、大きな細胞、コラーゲン構造の変化、および血管の増加を示した(
図3Aおよび3B)。また、TSC線維性斑の線維芽細胞様細胞は、線維血管腫および爪周囲線維腫のように、正常な線維芽細胞と比較して、リン酸化リボソームタンパク質S6で免疫反応性も示し(
図3Cおよび3D)、線維性斑が、正常な皮膚と比較して、増加したmTOR機能を示すことを示した。さらに、線維性斑の表皮は、pS6で、正常な皮膚よりも高い免疫反応性(
図3Cおよび3D)、並びに正常な皮膚よりも大きな増殖(
図3Eおよび3F)を示した。これは、TSC2ヌル細胞により放出されたパラクリン因子によって、もたらされたと考えられる。過誤腫線維芽細胞様細胞および表皮細胞におけるこれらの変化は、CD68陽性単核食細胞(
図3Gおよび3H)と、CD31陽性血管(
図3Iおよび3J)の2つの付加的な細胞構成要素の劇的な増加が伴った。試験は、組織試料で終了した。
【0161】
総合すると、これらの試験は、前額部斑がすべて、線維血管腫および爪周囲線維腫のように、TSCが正常であると考えられる皮膚と比較して、増加したmTORC1機能、CD31陽性血管、CD68陽性単核食細胞、および増殖する(すなわち、Ki−67陽性)表皮細胞を含むことを示した。
【0162】
B.腫瘍組織試料および正常組織試料における毛包の分析
正常な皮膚中の毛包と比較して、線維性斑および線維血管腫中の毛包は、可変的に拡大し、延び、または、数が多いと考えられるが、爪周囲線維腫は、厚くなった表皮を有するが、毛包を有さなかった(
図4A〜4D)。この観察は、ヘマトキシロンおよびエオシンによる組織切片染色に基づく。線維血管腫中の毛包は、可変的に肥大したか、延びたか、または未熟であった。爪周囲線維腫には、毛包構造体がなかった。
【0163】
C.腫瘍細胞におけるTSC2およびmTORC1機能の分析
線維芽細胞を、生体試料を小さな断片に切断し、これらを、10%FBS、ペニシリン(100U/ml)、およびストレプトマイシン(100μg/ml)を添加した1mlのDMEM中の35mm培養皿に載置して、組織を被覆することによって、線維血管腫、爪周囲線維腫、前額部斑、および正常と考えられる皮膚生体試料から単離した。細胞が移動して、培養皿を被覆するまで、培地を週に2回交換した。その後、細胞を二次培養のために採取した。
【0164】
PCR、制限消化、および配列確認によって、単離した細胞のTSC2発現を分析した。簡潔には、培養細胞から単離したDNAを、メーカーが提供するマグネシウム含有バッファー中AmpliTaq金DNAポリメラーゼ(アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)社製)を使用して、TSC2のエキソン10の増幅に使用した。熱サイクルを次に示すように行った:95℃、30秒間の変性、59℃、1分間のアニーリング、および72℃、1分間の伸長、その後、34回循環し、72℃、1分間の最終伸長。PCR増幅DNA産物を、電気泳動によって分離し、キアクイック(QIAquick)ゲル抽出キット(キアゲン(QIAGEN)社製)によって、精製した。精製DNAを、ABI・プリズム・ビッグダイ・ターミネーター・v3.1・サイクル・シークエンシング・キット・ビッグダイ・ターミネーター・v3.1・サイクル・シークエンシング・キット(ABI PRISM BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kits BigDye(登録商標)Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドシステムズ(Applied Biosystems)社製)を備えた3130xlジェネティックアナライザー(3130xl Genetic Analyzer)を使用して、USU BICゲノム分裂DNAシーケエンスサービス(USU BIC Genomic Division−DNA Sequencing Service)によって配列した。
【0165】
シークエンシング用のPCRプライマーは、次に示すとおりであった:5’TGGTGTCCTATGAGATCGTCC3’(配列番号7)、および5’AGGAGCCGTTCGATGTT3’(配列番号8)。線維性前額部斑のTSC2ヌル細胞のシークエンシングは、TSC2遺伝子のナンセンス突然変異を示した。具体的には、エキソン10の位置1074におけるGは、Aに変異され、トリプトファンの正常なUGGコドンを終止コドンUGAに変換した(
図5A)。また、細胞は、TSC2遺伝子に隣接する3つのマイクロサテライトマーカーでヘテロ接合性の欠損を示し(
図5B)、細胞のホモ接合またはヘミ接合をエキソン10で点突発変異させた。点突発変異は、PCR増幅腫瘍DNAのBsmA1切断における新しい制限部位を導入した(
図5C)。正常な患者の線維芽細胞は、突然変異を含まなかった(
図5D)。
【0166】
また、PCR増幅DNA産物も、制限酵素消化によって分析した。酵素消化分析においてエキソン10を増幅するのに使用した、PCRプライマーは、次に示すとおりであった:5’AAGCAGCTCTGACCCTGTGT3’(配列番号9)、および5’GGCCCAAGGTACCATCTTCT3’(配列番号10)。BsmA1制限部位を導入するG→A点突発変異の存在を確認するために、2μlのPCR増幅DNAを、10倍バッファー4(NEB)、2μlのBsmA1(NEB)、および12μlの水と混合した。この混合物を、55℃で一晩、インキュベートし、消化PCR産物および未消化PCR産物の試料を、10%TBEゲル中で、100ボルトの電気泳動によって分離した。切断を、ゲル中のバンドの移動パターンに基づいて決定した。
【0167】
また、血清飢餓条件下で、細胞のリボソームタンパク質S6の超リン酸化も分析した。細胞(10%FBSを添加したDMEM中5×10
5細胞)を、60mmの皿に接種する。翌日、培地を、無血清DMEMと交換した。さらに37℃で24時間培養後、細胞を、タンパク質抽出バッファー(20mMトリス、pH7.5、150mM NaCl、1%ノニデットP−40、20mM NaF、2.5mM Na
2P
4O
7、1mMβ−グリセロリン酸、1mMベンズアミジン、10mM p−ニトロフェニルホスファート、1mMフェニルメチルスルホニルフルオリド中に溶解した。等量の全タンパク質を含む試料を、10%(w/v)ポリアクリルアミドゲル中で分離し、0.45μmインビトロロン(Invitrolon)(商標)PVDF膜(インビトロゲン(Invitrogen)社製)に移した後、抗リン酸−S6リボソームタンパク質(Ser 235/236)、または抗S6リボソームタンパク質一次抗体(細胞シグナリング)、ホースラディシュペルオキシダーゼ結合抗ウサギ二次抗体(GEヘルスケア(GE Healthcare)社製、英国)、およびスーパー・シグナル・ウエスト・ピコ化学発光検出キット(SuperSignal West Pico chemiluminescence detection kit)(ピアスケミカル(Pierce Chemical)社製、ロックフォード、イリノイ州)を使用して、イムノブロッティングを行った。バンド強度を、コダックキャプチャーDC290画像システム(Kodak Capture DC 290 imaging system)(イーストマンコダック(Eastman Kodak)社製、ロチェスター、ニューヨーク州)を使用して、測定した。
【0168】
また、細胞は、mTORC1を阻害するラパマイシンによって処理した。具体的には、TSC皮膚腫瘍細胞または正常と考えられる線維芽細胞を、10%FBS含有DMEM中で、96穴プレート(ウエル当たり2000細胞)に載置した。翌日、培地を、ラパマイシンを3日間、0.2nM、2nM、もしくは20nM添加したか、または未添加の10%FBS/DMEMに交換した。その後、細胞数を、MTT細胞増殖アッセイキット(セルタイター(CELLTITER)(登録商標)非放射性細胞増殖アッセイ(プロメガ(Promega)社製、マディソン、ウイスコンシン州))を使用して、評価した。これらの試験は、ラパマイシンが、mTORC1活性化を阻止し(
図6A)(上述するように、mTORC1活性化を、下流分子S6のリン酸化によって測定した)、患者の正常と考えられる皮膚の線維芽細胞の一対の試料よりも大きくなる程度まで、TSC2ヌル線維芽細胞のインビトロ増殖を減少させることを示した(
図6B)。ラパマイシンがmTORC1の特異的な阻害剤であるので、これらの結果は、S6のリン酸化が、TSC2ヌル細胞のmTORC1の活性化によることを確認する。
【0169】
要約すると、これらの結果は、一部の試料が、TSC2の発現の劇的な低下と、対応するmTORC1の構造的な活性化を示した。4つの線維性斑のうちの3つ、65の線維血管腫のうちの3つ、および41の爪周囲線維腫のうちの8つから増殖した線維芽細胞様細胞では、TSC2タンパク質発現は、検出不能であったか、または辛うじて検出することができ、mTORC1は、構造的に活性があった(
図7)。純粋か、または高純度のTSC2ヌル細胞が存在する試料を得るために、培養線維芽細胞様細胞を、TSC2発現およびmTORC1活性化の欠損についてスクリーニングをした。これらの細胞は、下記に説明する異種移植片に使用した。
【0170】
D.TSC皮膚過誤腫の異種移植片モデル
広範囲に使用されているインビトロで構築した真皮−表皮複合体の系を、移植に適応させた。メラノサイトを伴うケラチン細胞を、4℃で一晩、ディスパーゼ(ベクトン・ディキンソン・ラボウエア(Becton Dickinson Labware)社製、ベッドフォード、マサチューセッツ州)で処理することによって、身元不明の正常な新生児包皮から単離した。表皮シートを真皮シートから分離し、次いで、37℃で20分間、0.05%トリプシン−0.53mM EDTA(インビトロゲン(Invitrogen)社製、ゲーサーズバーグ、メリーランド州)によって消化させた。細胞を回収し、これをウシ下垂体抽出物、および組換え型上皮成長因子を添加した、ケラチン細胞無血清培地(インビトロゲン(Invitrogen)社製)中の組織培養皿に載置した。
【0171】
女性患者から採取したTSC2ヌル皮膚腫瘍細胞、またはTSC2正常線維芽細胞を、10%FBS/DMEM中1mg/mLのラット尾部1型コラーゲン(BDバイオサイエンシーズ(BD Biosciences)社製、ベッドフォード、マサチューセッツ州)と混合することによって、皮膚代替物を作製した。この混合物を、ウエル当たり0.5×10
6の細胞密度で、6穴トランスウエル(Transwell)プレート(コーニング(Corning)社製、コーニング、ニューヨーク州)に入れた。細胞混合物を3日間培養し、次いで、培養ケラチン細胞を、ウエル当たり1×10
6の細胞密度で加えた。その後、構築物を、0.1%FBSを含む、DMEMとハムのF12(GIBO/インビトロゲン(Invitrogen)社製、グランドアイランド、ニューヨーク州)の3:1混合物に浸漬し、2日間培養した。培養後、液体の一部を除去することによって、ケラチン細胞を気液界面に供し、移植前にさらに2日間、1%FBS含有DMEMおよびハムのF12(1:1)中で培養した。
【0172】
6〜8週齢の老齢の雌Cr:NIH(S)−nu/nuマウス(FCRDC、フレデリック、メリーランド州)を使用して、外科手術室でマウスに移植した。O
2とイソフルランの混合物(2〜4%)によって吸入麻酔を使用して、マウスに麻酔をかけた。マウス背部の移植領域を評価し、皮膚を、ポビジン(povidine)および70%エタノールによって洗浄後、彎鋏を使用して除去した。皮膚代替物を、正確な解剖配向で移植片面に配置し、無菌ヘトロラタムガーゼで被覆し、包帯で固定した。その後、マウスを再び目覚めさせた後、無菌ケージに移した。包帯を週2回交換し、4週後に除去した。
【0173】
移植8〜17週後屠殺したマウスにおいて、TSCの正常な線維芽細胞を含む移植片は、毛包のない皮膚を形成した(
図8A)。特定のTSC皮膚腫瘍のTSC2ヌル細胞を含む移植片は、毛包を形成し(
図8B、表1)、TSC皮膚腫瘍細胞が、包皮ケラチン細胞において毛包新生を誘導することを示唆した。
【0174】
【表1】
【0175】
移植片中の毛包は、適切な間隔を置き、解剖学的に完成した。表皮鞘に囲まれた毛幹、皮脂腺、内毛根鞘、および外毛根鞘の同心層、ならびに毛乳頭、髪マトリックス、および皮質を有する毛球は、すべて存在した(
図9A〜9D)。毛包は、これらが得られた領域を模倣した。例えば、顔面の皮膚におけるように、多くの毛包が、成長期(成長)ではなく、退行期(退行)および休止期(静止)にあり、これは、頭皮毛包においてより一般的である(
図8B)。さらに、毛幹は、前額部または鼻から採取した細胞の移植片の皮膚表面から目視することができなかった(
図1C)。これらの結果は、間葉系細胞の供給源が、これらの最終目標(すなわち、頭皮の間葉系細胞は、脱毛した頭皮を治療するのに使用し、腕の間葉系細胞は、腕の火傷を治療するのに使用する)を反映する場合、本発明が最適な結果をもたらし得ることを示唆する。
【0176】
毛幹は、マウス毛の規則的に間隔を置いたエアポケットを欠き、これは、ヒト由来起源のものと一致する。抗ヒトCOX IV抗体による免疫組織化学検査を行って、毛包由来の種を確認した。簡潔には、異種移植片のパラフィン切片を脱パラフィン化し、上述するように、患者の組織試料を、抗原回復のために処理した。次いで、切片を、マウスCOX IVを認識しない、抗COX−IV 3E11抗体(セル・シグナリング・テクノロジー(Cell Signaling technology)社製、ダンバーズ、マサチューセッツ州)のメーカーの説明書に従って、染色した。免疫反応性は、異種移植片の毛包、上皮、および真皮にみられた(
図9Eおよび9F)が、マウス皮膚ではみられなかった(データは示されない)。同様の結果が、パン−ヒトHLAクラスIモノクローナル抗体を使用して得られ(
図10A)、正常な皮膚において、予想どおりに、毛包上皮よりも毛包内表皮を強く染色した。
【0177】
ヒトY染色体のプローブを使用し、蛍光インサイチュハイブリダイゼーションを行って、ヒト包皮ケラチン細胞(男性由来)と、女性患者のTSC2ヌル細胞を識別した。簡潔には、CEP Y(DY21)染色体スペクトルオレンジプローブ(バイシス(Vysis)、ダウナーズ(Downers)IL60515)を使用して、Y染色体FISHを、メーカーのプロトコールに従って、行った。このプローブは、表皮および毛包上皮中の核にハイブリダイズしたが、真皮細胞の核(
図9Gおよび9H)、または隣接する正常なマウス皮膚(図示せず)にはハイブリダイズしなかった。これらの結果は、包皮ケラチン細胞が誘導して、正常な毛包を構成する、複数の細胞構成要素に分化したことを示し、改めて毛包誘導を確認した。
【0178】
誘導された毛包の正常性を、十分に成長したヒト毛包の特異的なコンパートメントのマーカーを使用して、免疫組織化学検査によってさらに確認した。簡潔には、異種移植片のパラフィン切片を脱パラフィン化し、上述するように、抗原回復のために処理した。次いで、切片を、抗ヒトネスチン抗体(AB5922、ミリポア(Millipore)社製)、抗ヒトベルシカン抗体(PA1−1748A、サーモサイエンティフィック(Thermo Scientific)社製、ロックフォード、イリノイ州)、抗Ki−67抗体(RM−9106、サーモサイエンティフィック社製)、抗ヒトケラチン15抗体(PCK−153P、コバンス(Covance)社製)、および抗サイトケラチン75抗体(GP−K6hf、プロゲンバイオテクニク(Progen Biotechnik)社製)によって染色した。
【0179】
毛乳頭および下部表皮鞘の領域中の細胞は、ネスチン(
図9Iおよび9J)、およびベルシカン(
図9K)で正常な染色を示した。Ki−67における免疫反応性は、髪マトリックスの領域に集中し(
図9M)、これは、強健な毛幹形成を有した活性のある典型的な成長期の増殖であった。膨出領域に位置する毛包幹細胞のマーカーである、ケラチン15は、ヒト線維血管腫にみられるように、外毛根鞘の基底層に局在化した(
図9Nおよび9O)。そして、付随層のマーカーである、ケラチン75における免疫反応性は、正常なヒトの髪にみられるように、内外毛根鞘と外毛根鞘の細胞の単層に存在した(
図9P)。したがって、形態および免疫組織化学基準によって、十分に成長したヒトの髪は、異種移植された皮膚に存在した。
【0180】
また、切片のアルカリホスファターゼ活性も分析した。簡潔には、凍結切片を、10分間、アセトンに固定し、次いで、0.1%トゥイーン20添加1倍PBSによって洗浄した。切片を、予備平衡化バッファー(100mM NaCl、50mM NgCl
2、100mMトリス−HCl、pH9.5、0.1%トゥイーン20)と、湿潤室で、室温で15分間、インキュベートした。現像液(BMパープルAP基質、ロッシュ(Roche)社製、インディアナポリス、インディアナ州)を、暗色湿潤室で2時間、組織に適用した。次いで、この反応を、PBS中の20mM EDTAによって停止し、切片を、ベクタマウント(VectaMount)(商標)AQ水性封入剤(ベクター社製)と共に搭置した。毛乳頭および下部表皮鞘の領域中の細胞は、正常なアルカリホスファターゼ活性を示した(
図9I)。これは、移植されたTSC2ヌル細胞が、表皮鞘/毛乳頭細胞の適切な箇所において、予想どおりに、アルカリホスファターゼ活性を示すことを示す。
【0181】
異種移植片中の細胞の遺伝的同一性を調査して、誘導された毛包の毛乳頭/下部表皮鞘領域中のTSC2ヌル細胞の存在を決定した。簡潔には、上述するように、異種移植片の切片を顕微解剖し、制限酵素分析のためにDNAを抽出した。これらの試験は、毛乳頭/下部表皮鞘の領域の細胞において突然変異DNAを示したが、毛包上皮ではこれを示さなかった(
図5Cおよび5D)。この領域、および毛包内真皮(データに示さない)中のTSC2ヌル細胞の存在は、TSC腫瘍線維芽細胞様細胞が、真皮線維芽細胞、または毛乳頭/表皮鞘細胞の機能を示すことができる多能性先祖細胞であることを示した。
【0182】
また、異種移植片モデルを使用して、TSC2ヌル細胞が、上の腫瘍組織試料にみられた細胞学的および生化学的変化を誘導することができるか否かについて判断した。簡潔には、TSC腫瘍細胞(n=27)、またはTSCの正常な線維芽細胞(n=27)を移植したマウスに、ラパマイシン(2mg/kg)(n=29)、または等量のビヒクル(0.9%NaCl、5%ポリエチレングリコール、および5%トゥイーン80)(n=25)のいずれかを、移植後5週で開始して12週間隔日の腹腔内注射によって供した。マウスを、最後の注射24時間後に屠殺し、移植片を採取し、それぞれの移植片の半分の一方を、パラフィン包埋のために調製し、他方を凍結切片のために調製した。パラフィン切片を、血管(CD31)(
図11Q〜11T)、リボソームタンパク質S6のリン酸化(pS6)(
図11E〜11H)、およびヒト細胞(COX−IV)の持続性(
図11A〜11D)のために染色した。凍結切片を、細胞増殖(Ki−67)(
図11I〜11L)、および腫瘍関連マクロファージ(F4/80)(
図11M〜11P)のために染色した。
【0183】
ラパマイシンによって処置したマウス、またはラパマイシンによって処置していないマウスにおいて、腫瘍移植片と正常移植片の間のサイズまたは外観に全体的な相違はなかった。ビヒクルによって処置したマウスにおいて、腫瘍移植片の真皮中のCOX IV陽性細胞の数は、正常移植片と同様であった(
図11A、11Cおよび12A)。しかしながら、ビヒクルによって処置した腫瘍移植片は、正常移植片よりもpS6に対して免疫反応性がある真皮細胞および表皮細胞の数が多かった(
図11E、11G、12Bおよび12C)。さらに、ビヒクルによって処置した腫瘍移植片の表皮は、正常な移植片よりもKi−67陽性細胞の数が多かった(
図11I、11Kおよび12D)。また、ビヒクルによって処置した腫瘍移植片は、正常移植片と比較して、CD68陽性単核食細胞の数、ならびにCD31陽性血管の密度、サイズ、および血管面積が増加した(
図11Qおよび11S)。他の患者の線維性斑、線維血管腫、および爪周囲線維腫のTSC2ヌル細胞を使用し、TSCの正常な線維芽細胞から構築した正常移植片と比較して、質的に同様の変化がみられた。腫瘍移植片および正常移植片が共に、同じ新生児包皮ケラチン細胞を使用して発生したので、これらの結果は、TSC2ヌル細胞が、TSC皮膚腫瘍の過誤腫性機能を誘導するのに十分であることを示す。
【0184】
ヒト抗HLAクラスI(
図13C、D)またはCOX−IV抗体(
図11C、D)による染色によって決定されるように、ラパマイシン処置によって、腫瘍異種移植片中のヒト真皮細胞の数が減少したが、腫瘍細胞は、処置を通して持続した。ラパマイシンは、正常な異種移植片に対して細胞数に有意な影響がなかった(
図13および14)。処置終了時のTSC2ヌル細胞の持続性を、採取後、腫瘍異種移植片の顕微解剖した真皮、および腫瘍異種移植片から増殖した線維芽細胞の突然変異DNAの存在によって確認した(データは示さない)。真皮細胞および表皮細胞におけるpS6免疫反応性の損失によって示されるように、TSC2ヌル細胞は、ラパマイシンのインビボ浸透にもかかわらず、持続した(
図11Eおよび11G)。ラパマイシン処置によって、腫瘍移植片中のKi−67陽性表皮細胞の数、単核食細胞の数、ならびに血管密度、サイズ、および合計面積が減少した(
図11および12)。これらの結果は、ラパマイシンを摂取する患者にみられたTSC皮膚損傷の赤みおよびサイズの減少によって、抗腫瘍細胞効果および抗血管新生作用が共に生じ得ることを示唆する。ラパマイシンの抗血管新生作用は、血管内皮の直接的な阻害、および/またはTSC2ヌル細胞による血管新生因子放出の減少、もしくは血管新生促進単核球の動員の減少等の間接的な阻害によるものであると考えられる。ラパマイシンは、毛包、毛包密度、または毛包径による移植片の割合に影響を及ぼさなかった(表1)。毛包パラメーターに対する効果の不足は、毛包の誘導がmTORC1に依存しないか、または毛包新生の開始後、ラパマイシンに効果がなかったことを示すものと考えられる。
【0185】
ヒトまたはマウスDNAに特異的なプローブを使用する、蛍光インサイチュハイブリダイゼーションを行って、TSC2ヌル細胞およびヒトのケラチン細胞を使用して、異種移植片においてヒト細胞とマウス細胞を区別した(
図15)。前に、4μgの凍結切片を風乾させた後、37℃で20分間、2倍SSCバッファー中でインキュベートした。エタノール中での連続脱水後、切片を、10mM HClと0.006%ペプシンによって、37℃で2.5分間、処理し、PBSによって2回洗浄し、脱水し、風乾させた。切片を、70%ホルムアミド、2倍SSC中で、70℃で2分間、変性させ、プローブ混合物(10.5μLのハイブリダイゼーションバッファー、および2μLのプローブ)と37℃で一晩、ハイブリダイズする前に脱水した。試料を、2倍SSC/50%ホルムアミドによって、37℃で2回洗浄し、各目標領域上で、10μLのDAPI(ベクターラボラトリーズ社製)を適用することによって、対比染色した。使用するプローブは、濃縮ヒトパン動原体塗料1695−Cy3−02(カタログNo.SFP3339)、および濃縮マウスパン動原体染料−FITC 1697−MF−02(カタログNo.MF−02)(オープンバイオシステム(Openbiosystem)社製)であった。DAPI染色は、細胞の核が、左下側角部の管内皮に、毛包上皮、および毛乳頭/表皮鞘細胞を含んだ毛包球を含むことを示した。Cy3ヒト特異的動原体プローブは、下部表皮鞘(水平方向の矢印)および隣接する真皮線維芽細胞(垂直方向の矢印)の細胞を含む、毛包球中の細胞に印をつけた。FITCマウス特異的動原体プローブは、内皮細胞を標識した(矢印)。結合した像は、毛包上皮、表皮鞘、および毛乳頭の細胞が、ヒト由来であることを示した(矢印)。これらの結果は、毛包が、表皮および真皮構成要素(毛乳頭と表皮鞘)の両方において、ヒト由来であることを示す。
【0186】
E.要約および結論
本実施例は、毛包新生が可能な皮膚代替物を開示する。また、本実施例は、結節硬化複合体(TSC)における皮膚過誤腫の異種移植片モデルの開発についても開示する。患者の正常と考えられる皮膚の線維芽細胞ではなく、ヒトTSC皮膚過誤腫から増殖したTSC2ヌル線維芽細胞様細胞は、模倣TSC過誤腫の組織的変化を刺激し、正常なヒト包皮ケラチン細胞を誘導して、毛包を形成した。毛包は、周期的に間隔を置き、正確に配向し、皮脂腺、毛幹、内毛根鞘、および外毛根鞘を十分に備え、また、幹細胞の付随層および膨出領域のマーカーを発現させた。毛包下部(すなわち、毛球)周囲のTSC2ヌル細胞は、幹細胞マーカーネスチンを含む、表皮鞘および毛乳頭のマーカーを発現させた。腫瘍異種移植片は、増加したmTORC1機能、血管新生、および被覆する表皮細胞の増殖を含む、TSC皮膚過誤腫の機能を要約した。ラパマイシン(mTORC1阻害剤)による処置は、これらのパラメーターを標準化し、腫瘍細胞の数を減少させたが、毛包サイズまたは密度を変化させなかった。
【0187】
これらの試験は、混乱した組織アーキテクチャーの過誤腫が、胎児の組織成長時において正常にみられる誘導能を有する細胞から生じることを示す。したがって、本実施例は、TSC2ヌル線維芽細胞様細胞が、TSC皮膚過誤腫を誘発する細胞であり、血管新生をシミュレートして、毛包新生を誘導することができることを示す。幹細胞マーカーの発現、およびこれらの細胞による髪の誘導能の保持は、TSC2機能の欠損が、真皮中の多能性前駆細胞の分化を変化させることを示唆する。マウスでは、放射神経膠におけるTSC2の欠損は、前駆細胞プールを増加させ、ニューロンを減少させる。一方、造血幹細胞中のTSC1の欠失は、顆粒細胞−単球前駆細胞を増加させ、巨大核細胞赤血球前駆細胞を減少させる。線維血管腫および線維性斑のTSC2ヌル細胞は、毛包形態形成および再生成を調査するためのツールである。TSC皮膚腫瘍が通常出生後に発生するという事実は、他の毛包過誤腫の発生に関与するTSC1/TSC2ネットワーク、および/またはシグナリングネットワークに影響を与える薬剤を使用することによって、毛包誘導細胞を形成するかまたは増強する可能性を示唆する。
【0188】
実施例2:TSC2およびFLCNノックダウン試験
立証された発毛促進能を有する細胞にみられたTSC2発現の欠損を模倣するために、shRNAを使用して、培養した線維芽細胞および毛乳頭細胞中のTSC2発現をノックダウンした。さらに、バート−ホッグ−デューベ症候群患者が、TSC皮膚過誤腫に類似する皮膚過誤腫の形成をもたらすFLCN機能の欠損を有するため、shRNAも使用して、培養した線維芽細胞および毛乳頭細胞中のFLCN発現をノックダウンした。以下に論じるように、TSC2およびFLCNのノックダウンは、細胞の発毛促進性を増強した。
【0189】
A.遺伝子ノックダウン
野生型間葉系細胞(すなわち、真皮線維芽細胞および毛乳頭細胞)を、shRNAを使用し、TSC2の発現をノックダウンすることによって、TSC2に改変して、TSC1/TSC2機能を低下させ、mTORC1機能を増加させた。さらに、野生型間葉系細胞を、shRNAを使用し、FLCNの発現を減少させることによって、FLCNに改変して、TSC1/TSC2機能の欠損を模倣した。TSC2を標的としたヘアピン配列を含む、pGIPZ−レンチウイルスshRNAmirベクターを有する市販のレンチウイルス粒子(オープンバイオシステム社製)を、TSC2発現のノックダウンに使用した。FLCNを標的としたヘアピン配列を含む、pGIPZ−レンチウイルスshRNAmirベクターを有する市販のレンチウイルス粒子(オープンバイオシステム社製)を、FLCN発現のノックダウンに使用した。新生児包皮線維芽細胞またはヒト毛乳頭細胞を、レンチウイルス粒子によって形質導入し、その後、形質導入48時間後に開始するプロマイシン選択(2μg/ml)をした。shRNAを安定的に発現させる細胞(GFP発現によって決定する)を、プールし、プロマイシン中に維持した。公知の哺乳動物遺伝子に対して相同性のない非標的shRNA対照(shNT、NT)を含む、pGIPZレンチウイルスを、負の対照としてノックダウン試験に使用した。
【0190】
図16は、TSC2ノックダウン試験からの安定的にトランスフェクトされたすべての包皮線維芽細胞におけるGFPの良好な発現を示す。細胞はすべて、少なくとも11の継代培養において恒久的な形質導入が維持された。ウェスタンブロット分析は、形質導入によって、TSC2の90%を超えるノックダウンが生じることを確認した(
図17、一番上のバンド)。同じ結果は、TSC2ノックダウンベクターによって形質導入された毛乳頭細胞にみられた(データは示さない)。さらに、FLCNノックダウン粒子は、100%の線維芽細胞を形質導入した(データは示さない)。したがって、事実上、細胞はすべて、関心のある遺伝子をノックダウンするのに使用したベクターによって形質導入され、標的遺伝子の発現は、実質的に低減された。
【0191】
B.mTORC1シグナリングに対するTSC2ノックダウンの影響
安定的にトランスフェクトされたTSC2ノックダウン包皮線維芽細胞でウェスタンブロット分析を行って、TSC2発現が、mTORC1を介するシグナリングの活性化がみられる程度に十分に減少するか否かについて判断した。
図17は、血清飢餓条件下におけるリボソームタンパク質S6(pS6)の超リン酸化によって示すように、TSC2ノックダウンには、過剰に活性のあるmTORC1シグナリングが伴ったことを示す。すべてのS6は不変であり、チューブリン対照は、比較可能な量のタンパク質が、異なるレーンにロードしたことを確認した。同様の結果は、複製の形質導入で得られた(データは示さない)。したがって、TSC2発現は、mTORC1を介するシグナリングを活性化する方法で、良好にノックダウンされた。
【0192】
これらの結果は、TSC2発現を減少させることによってか、またはTSC1/TSC2機能の模擬体の発現を減少させることによって、野生型間葉系細胞を改変して、TSC1/TSC2機能を低下させ、mTORC1機能を増加させることができることを示す。
【0193】
C.発毛促進(trichogenesis)の分析
毛包の形成を誘導する細胞(生毛細胞)は、アルカリホスファターゼを発現させる。アルカリホスファターゼは、毛乳頭細胞のマーカーであり、高いアルカリホスファターゼ活性を有する毛乳頭細胞は、インビボにおいて、高い毛包誘導能を有する。したがって、培養形質導入細胞において、アルカリホスファターゼ活性を測定して、TSC2またはFLCN発現のノックダウンによって、生毛細胞の数が増加するか否かについて判断した。
図18に示すように、ヒト毛乳頭細胞は、初期継代培養時において高いアルカリホスファターゼ活性を有し、これは、その後の継代培養に伴って急速に低下する。対照的に、非標的ベクター(shNT)ではなく、shTSC2を有する正常なヒト線維芽細胞を形質導入して、アルカリホスファターゼ活性が増加し、この増加は、数回の継代培養において維持された。全体として、アルカリホスファターゼ活性は、TSCの正常な線維芽細胞よりもTSC2ヌル細胞で高く、TSC2ノックダウン細胞において発毛促進活性を示した。TSC2がヒト毛乳頭細胞でノックダウンされる場合(
図19)と、FLCNが真皮線維芽細胞にノックダウンされる場合(
図20)、同様の結果が得られた。したがって、TSC2またはFLCNのノックダウンによる細胞は、アルカリホスファターゼ(発毛促進性毛乳頭細胞のマーカー)の細胞活性の増加を示した。
【0194】
D.ハンギングボールアッセイ(hanging ball assay)における毛包新生の分析
インビトロ毛包分析を用いて、懸滴細胞培養物における毛包組織および構造対形成に対するTSC2のノックダウンの影響を決定した。簡潔には、改変間葉系細胞(TSC2(shTSC2)または非テンプレート(NT)対照のノックダウンによる新生児包皮線維芽細胞(NFF))から作製した、30,000の細胞の懸滴培養物を、毛乳頭培地とケラチン細胞無血清培地の1:1混合物(10μl)中の新生児包皮ケラチン細胞(NFK)(各細胞集塊当たり30,000の細胞)と組み合わせた。細胞集塊を、懸滴して、4週間、インキュベーターでインキュベートした。懸滴培養物をヘマトキシロンおよびエオシンで分析し、抗パンサイトケラチン抗体によって免疫組織化学検査を行って、選択的にケラチン細胞を確認した。
【0195】
図21は、TSC2ノックダウンshRNAまたは非テンプレート(NT)対照によって形質導入されたケラチン細胞および線維芽細胞を使用して、懸滴培養物で形成された構造体を比較する。TSC2ノックダウン細胞による集塊は、線維芽細胞周囲のケラチン細胞と共に、大きな組織を示す傾向があった(
図21Aおよび21C)が、NT対照は、依然として混乱する傾向があった(
図21Bおよび21D)。髪繊維様構造体がTSC2ノックダウン培養物にみられた。これらの細胞集塊では、正常なヒトの髪と同じ緑色の自動蛍光を発する、屈折繊維様構造体が形成した(
図21E)。TSC2ノックダウン細胞によるこれらの集塊は、以下に論じるように、毛包形成のために、皮膚に移植されるか、または移植片に導入することができる。
【0196】
E.真皮−表皮複合体移植片における毛包新生の分析
形質導入した、および安定的にTSC2ノックダウンベクターを発現させる、新生児包皮線維芽細胞(NFF)または毛乳頭細胞を使用して、真皮−表皮複合体を発生させた。細胞を、10%FBS/DMEM中1mg/mLのラット尾部1型コラーゲンと混合し、ウエル当たり0.5×10
6の細胞密度で、6穴トランスウエルプレートに加えた。真皮構築物を、3日間、10%FBS/DMEM中で成長させた。shTSC2で形質導入されたNFFの5つの30,000細胞懸滴マイクロスフィアを、真皮構築物上に静置し、1×10
6のケラチン細胞で被覆した。真皮−表皮複合体を、4日間、0.1%FBSを含むDMEMとハムのF12(3:1)の混合物中で浸漬させてインキュベートし、その後、複合体を、気液界面に供し、皮膚等価物を、4日間または8日間、1%FBSを含むDMEMとハムのF12(1:1)の混合物中で成長させた後、10%ホルマリンに固定した。次いで、皮膚等価物を、ヘマトキシロンおよびエオシン(H&E)によって分析し、免疫組織化学検査を、抗パンサイトケラチン抗体によって行った。
【0197】
図22に示すように、コラーゲンゲル中の正常なヒトケラチン細胞および線維芽細胞からなる真皮−表皮複合体は、真皮等価物を被覆する重層扁平上皮を形成し、真皮表皮接合部は、ケラチン細胞の陥入なしで適正に水平であった。しかしながら、TSC2のノックダウンによる線維芽細胞を使用した、4日目(
図22A)にケラチン細胞の管状の陥入が形成し、8日目に、これらの陥入が、パレード様配列(pallisading)ケラチン細胞の周縁部によって多細胞を拡大させ(
図22B)、成長する毛包と外観において類似した。免疫組織化学検査は、これらの構造体が真皮等価物に陥入することを示し(
図21C〜E)、これらが上皮細胞であることを示した。したがって、TSC2のノックダウンは、真皮−表皮複合体における毛包様構造体のインビトロ形成を促進する。
【0198】
F.真皮−表皮複合体を移植したマウスにおける毛包新生の分析
マウス移植試験を行って、TSC2のノックダウンが、インビボにおいて毛包の形成を促進するか否かについて判断した。簡潔には、新生児包皮線維芽細胞および毛乳頭を形質導入し、上述するように、TSC2ノックダウンベクターまたは非標的ベクターのいずれかを選択した。細胞を、10%FBS/DMEM中1mg/mLのラット尾部1型コラーゲン(BDバイオサイエンシーズ社製、ベッドフォード、マサチューセッツ州)と混合し、ウエル当たり0.5×10
6の細胞密度で、6穴トランスウエルプレート(コーニング社製、コーニング、ニューヨーク州)に加えた。真皮構築物を、10%FBS/DMEM中で3日間成長させ、1×10
6のケラチン細胞で被覆した。真皮−表皮複合体を、2日間、0.1%FBSを含むDMEMとハムのF12(3:1)の混合物中で浸漬させてインキュベートし、その後、複合体を気液界面に供し、移植前にさらに2日間、1%FBSを含むDMEMとハムのF12(1:1)の混合物中で成長させた。
【0199】
6〜8週齢の老齢の雌Cr:NIH(S)−nu/nuマウス(FCRDC、フレデリック、メリーランド州)に、O
2とイソフルランの混合物(2〜4%)によって、麻酔をかけた。マウス背部の移植領域を慎重に評価し、彎鋏を使用して皮膚を除去した。複合体を、正確な解剖配向で移植片面に配置し、無菌ヘトロラタムガーゼで被覆し、包帯で固定した。包帯を週2回交換し、4週後に除去した。併せて、39匹のマウスに移植した(6匹のマウス:非標的対照shRNAを有する新生児包皮線維芽細胞;14匹のマウス:TSC2 shRNAを有する新生児包皮線維芽細胞;6匹のマウス:非標的対照shRNAを有する毛乳頭;および、13匹のマウス:TSC2 shRNAを有する毛乳頭)。移植10週後にサンプリングした6匹のマウスでは、shTSC2線維芽細胞は、サンプリングした3匹のマウスのうちの1匹において毛包様構造体を誘導し、また、shTSC2毛乳頭細胞は、サンプリングした3匹のマウスのうちの1匹において毛包を誘導した(
図23)。結果は、出願時において他のマウスでは出ていない。
【0200】
G.結論
shRNAのレンチウイルス形質導入を用いた、本実施例に示す結果は、TSC2またはFLCNの欠損によって、線維芽細胞の発毛促進能が増強するという概念実証を提供する。
【0201】
実施例3:付属器腫瘍または正常ヒト皮膚からの間葉系細胞の単離
間葉系細胞は、次に示す1以上の供給源から単離することができる:自家細胞のための患者の皮膚または粘膜;同種異型細胞のためのドナーの皮膚または粘膜;正常な皮膚または粘膜;付属器腫瘍を有する皮膚;および、他の組織(例えば、脂肪、骨髄)。試料サイズが十分に大きい場合(すなわち、1cm
3以上)、線維芽細胞は、酵素消化によって単離することができる。
【0202】
A.細胞移動方法
細胞は、細胞移動方法を用いる皮膚試料または皮膚腫瘍から単離することができる。外植片から細胞移動によって間葉系細胞を単離するために、皮膚試料を小さな断片に切断し、これを、1mLまたは5mLの10%FBS/DMEMまたは間葉系幹細胞増殖培地(MSCGM;ロンザグループ(Lonza Group)社製、スイス)を収容した、35mmまたは100mmの無菌皿に移す。プレートを、37℃で、5%CO
2インキュベーターにインキュベートする。十分な数の間葉系細胞がみられるまで、培地を週2回度交換する。組織片から移動する細胞を、倒立顕微鏡を使用して、規則的にモニターする。間葉系細胞が、外植片(培養開始およそ2〜3週後)間の皿表面の大部分を占める場合、間葉系細胞を二次培養する。細胞を、二次培養のために採取し、小さな組織片を、多くの細胞を単離するために、新しい皿に移し、細胞が組織からこれ以上移動しなくなるまで、外植片の移動を10回より多く繰り返す。各移動からの細胞を、初期継代培養で液体窒素中に保存する。
【0203】
B.2つの代替的な細胞解離方法
皮膚試料または皮膚腫瘍からの細胞解離を、間葉系細胞を単離するのに使用することができる。本方法によれば、皮膚試料(1×1cm)を、4℃で、60mm皿で、3mlのディスパーゼによって一晩処理する。または、試料を、室温で30分間、0.25%トリプシンによって処理してもよい。真皮を表皮シートから分離し、小さな断片に切断する。試料を、10mLの酵素溶液(1mMピルビン酸ナトリウム、2.75mg/mL細菌コラゲナーゼ、1.25mg/mLヒアルロニダーゼ、および0.1mg/mL DNアーゼIを添加したリヒターの改良MEMインシュリン培地(RPMI)を含む、HEPES)が入った50mL遠心分離管中で、室温で3時間、インキュベートする。インキュベーション後、組織を、10回を上下にピペッティングすることによって、機械的に解離する。細胞懸濁液を、無菌ナイロンメッシュによってろ過して、組織断片を除去し、室温で10分間、400×gで遠心分離する。上清を廃棄し、細胞ペレットを、10mlの培地(間葉系幹細胞増殖培地、または10%FBS添加DMEM等)中に再懸濁させ、75cm
2培養皿に移す。細胞を、37℃で、5%CO
2インキュベーターで培養し、培地を24時間後に交換して、非接着性物質を除去する。
【0204】
皮膚試料または皮膚腫瘍からの細胞解離のための代替アプローチは、PBS中で真皮を3回洗浄し、小さな断片(2〜3mm
3)に細かく切断し、37℃、穏やかな振盪条件(50〜55rpm)下で、4ml/g組織中、クロストリジウム・ヒストリチウム(Clostridium histolyticum)コラゲナーゼ(CHC)抽出物(ワージントンバイオケミカル(Worthington Biochemical)社製、レークウッド、ニュージャージー州)を含むPBS(カルシウムおよびマグネシウムを含まない)溶液で消化することである。インキュベーション後、消化物を、開口したフィルタチャンバー(NPBI、エマー−コンパスキューム、オランダ)によってろ過し、フィルタを10ml培地によって2回洗浄する。湿潤組織重量を消化前後に測定して、組織消化効率を算出する。細胞懸濁液を、250×gで10分間、遠心分離し、上清を吸引し、また、細胞を細胞培養培地中に再懸濁させる。算出室を使用して、細胞濃度を、3つの個別に採取した試料で3回測定し(単離細胞収率)、生存率をトリパンブルー(シグマ(Sigma)社製)排除法によって評価する。細胞を、3つの独立したフラスコで、5×10
4または10×10
4細胞/cm
2の密度で培養物に接種する。24時間後、接着した細胞の割合を、フレームグラッバーイメージプリンターを備えるビデオカメラに接続した倒立顕微鏡を使用して、評価する。
【0205】
C.毛乳頭(DP)/表皮鞘(DS)間葉系細胞の単離
毛乳頭細胞は、顕微解剖によってヒト頭皮試料から単離し、その後、37℃で30分間、穏やかな撹拌によって、コラゲナーゼによって処理することができる。毛乳頭細胞の富化は、トルイジンブルー染色を使用するか、または、細胞核内の桿のための細胞の検査によって、確認することができる。細胞は、2〜3日ごとに交換した、チャンの培地とケラチン細胞調整培地の1:1混合物で増殖させることができる。
【0206】
表皮鞘細胞は、ヒト皮膚試料をさいの目に切り、次いで、コラゲナーゼによって試料を酵素的に解離することによって、正常なヒト成人皮膚から単離することができる。酵素解離は、皮膚外植片を使用するよりも短期間で多くの細胞を提供する。さらに、細胞生存率および増殖は、自家移植のための真皮等価物を生成するのに十分である。表皮鞘細胞は、4℃で30分間、FITC標識抗CD10抗体を有する細胞をインキュベートし、その後、細胞選別することによって、同定することができる。
【0207】
また、DPおよびDS細胞は、ハンクスバッファー中で3回、各回10分間、正常なヒト頭皮組織(1×1cm)を洗浄し、約0.3〜0.5cm幅のストリップに切断し、そして、真皮および皮下脂肪の界面で切断することによって、単離することもできる。皮下組織を、4℃で16〜18時間、3〜5mlの0.5%ディスパーゼ(シグマケミカル(Sigma Chemical)社、セントルイス、ミズーリ州)と共にインキュベートする。毛包を皮膚脂肪から引き抜く。上皮を、緩やかな圧力を1組のマイクロピンセットの先端にかけることによって、表皮鞘から押し出す。次いで、表皮鞘を、毛乳頭の柄が顕微鏡制御下で消化されるまで、37℃で6〜8時間、10%FBSを含むエングル最小必須培地(MEM)(ICNバイオメディカルズ(ICN Biomedicals)社製、オローラ、オハイオ州、米国)中0.2%コラゲナーゼD(ベーリンガーマンハイム(Boehringer Mannheim)社製、ドイツ)で、インキュベートする。線維鞘が完全に消化され、乳頭状突起がちょうど消化開始されるときに、酵素消化を停止する。ハンクスを加え、懸濁液を、2000rpmで5分間、遠心分離し、これを3回繰り返す。ペレットを再懸濁させ、200rpmで5分間、低速で遠心分離し、これを3回繰り返し、培養上清中にDS細胞を残す。真皮乳頭を、低速遠心分離によって残留物から完全に単離する。最終的な毛乳頭ペレットを、単離細胞なしで再懸濁させ、10%FBS添加MEM培地中の外植片培養物のための培地を収容した25mlフラスコに移す。培養物を5日間インキュベートし、培地を毎週2回交換する。
【0208】
その後、単離した毛乳頭および表皮鞘細胞を、適切な培地にインキュベートして、毛乳頭および表皮鞘のマーカーの誘導または維持について試験することができる。
【0209】
D.皮膚から皮膚由来前駆体または神経冠細胞を得るための方法を用いる、間葉系細胞の単離
ヒト間葉系細胞を、皮膚由来前駆体として、同様の方法を用いて単離する(Biernaskie,J.A.らの文献:「皮膚由来前駆体(SKP)の単離、およびこれらのシュワン細胞子孫の分化と富化(Isolation of skin−derived precursors(SKPs) and differentiation and enrichment of their Schwann cell progeny)」,Nature protocols 1(6):2803−2812(2006))。簡潔には、ヒト皮膚試料または皮膚腫瘍を、HBSS中で洗浄し、3〜5mm
2の大きさの小さな断片に切断し、25mlのブレンドザイム(Blendzyme)溶液(ロッシュ(Roche)社製)を充填した10cmプラスチック組織培養皿で、4℃で24〜48時間、消化する。表皮を、微細なピンセットを使用して、内在する真皮から剥離し、単離した真皮組織を、カミソリ刀を使用して1〜2mm
2の断片に細かく切断する。ヒト真皮のこれらの小さな断片を、5〜10mlの新しいブレンドザイム溶液を収容した15ml円錐管に収集する。また、DNアーゼI(1つの400μlアリコート)を懸濁液に加えて、細胞凝集を低減させることもできる。組織の最も効果的な消化のために、試料を、37℃で1〜2時間、穏やかに撹拌することができる。消化終了時に、10%FBS添加20ml洗浄用培地を加えて、ブレンドザイムを不活性化させる。1,200r.p.m.で、6〜8分間、組織試料を遠心分離して、細胞および皮膚断片をすべてペレット化する。酵素および培地を含む上清を廃棄する。新しい洗浄用培地(3〜5ml)を加え、10mlのディスポーザブルプラスチックピペットを使用して、ペレットを解離する。懸濁液を、1,200r.p.mで20秒間、遠心分離して、大きな皮膚断片をペレット化する。上清を、50ml収集管に収集し、冷凍する。組織ペレットを、組織片が厚くなり、細胞がこれ以上する遊離しなくなるまで、粉砕手段を繰り返すための新しい培地中で解離する。解離した細胞懸濁液を、70μm細胞ストレーナを通して50ml円錐管に入れ、1,200r.p.m.で7分間、遠心分離する。細胞ペレットを、2%B27添加物(インビトロゲン社製)添加洗浄用培地中に再懸濁させる。再懸濁液の容積は、ペレットのサイズに依存して、5ml〜20mlの媒体であり、細胞収率の定量化を簡潔にするために調整することができる。解離した真皮細胞を、75cm
2フラスコで、30mlの増殖培地(0.1%ペニシリン/ストレプトマイシン、40μg/mlフンギゾン、40ng/ml FGF2、20ng/ml EGF、2%B27添加物を含むDMEM/F12(3:1))、および25cm
2フラスコで10mlに希釈する。細胞を、球状のコロニーを形成させるために、継代培養なしで、7〜14日間培養し、培地を4〜5日ごとに交換する。
【0210】
実施例4:改変間葉系細胞の発生
A.遺伝子ノックダウン
ノックダウン遺伝子発現、例えば、TSC1、TSC2、CYLD、LKB1、FLCN、MEN1、NF1、PTEN、PRAS40、4E−BP1、GSK3もしくはDeptor、カスタムクローン化ヘアピンRNA(shRNA)のレンチウイルス粒子、またはpLKO.1−puro−CMV−tGFPベクター(シグマ社製)における非標的shRNA対照を、メーカーの説明書に従って、使用することができる。パイロット試験において、細胞を6穴プレート(2×10
5細胞/ウエル)に載置し、24時間、10%FBS/DMEMに培養する。培地を、8μg/mlのヘキサジメトリンを添加した、示される遺伝子または対照shRNAレンチウイルス粒子(0、1、2、5、10もしくは20MOI)に対するshRNAを含む、2mlの新しい10%FBS/DMEMと交換し、一晩インキュベートする。ウイルス粒子を含む培地を除去し、細胞を、10〜14日間、プロマイシンによる選択24時間前に、新しい完全培地中で培養する(滴定は、0.5〜10μg/mlのプロマイシンによって96穴プレート中で1×10
4細胞を処理することによって、使用前に行うことができる)。プロマイシンを含む培地を3日ごとに交換する。プロマイシン耐性細胞コロニーを収集し、更なる分析のために培養する。遺伝子発現を、qRT−PCRまたはウェスタンブロットによって測定する。遺伝子ノックダウン後の細胞を評価するために、形質導入された細胞を、プロマイシン選択後にプールする。形質導入された細胞における標的タンパク質のレベルを、ウェスタンブロットによって測定し、1、10、20、30および40継代培養の対照shRNA細胞と比較する。
【0211】
または、もしくはさらに、遺伝子療法を遺伝子発現のノックダウンに用いることができる。例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼを使用して、TSC1もしくはTSC2遺伝子において、またはTSC1/TSC2機能を刺激するタンパク質をコードする遺伝子において、標的二本鎖切断を発生することができる(例えば、Leeらの文献:Genome Res.,20:81−89(2010);Handelらの文献:Curr.Gene Ther.,11:28−37(2011);Holtらの文献:Nat.Biotechnol.,28:839−47(2010);および、Ledfordの文献:Nature,471:16(2011)を参照のこと)。簡潔には、単離した細胞を、一般に関心の高い遺伝子のコード領域の最初の2/3を標的とする、コンポZr(CompoZr)(登録商標)ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)(シグマアルドリッチ(Sigma Aldrich)社製)(または、他の適切なヌクレアーゼ)によって、処理することができる。ZFNをインシリコで設計し、細胞分析で試験して、標的部位を切断するZFNを同定し、また、1組のZFNを使用のために選択する。ZFNは、ZFNプラスミドもしくはmRNA転写のヌクレオフェクション、エレクトロポレーション、または脂質系トランスフェクションを用いて、細胞に送達することができる。また、ZFNを、レンチウイルス等のウイルスベクターを使用して送達することもできる。ヌクレオフェクションにおいて、約80%の集密度の5×10
6〜10×10
6の細胞を、トリプシン処理し、メーカーの説明書に従って、ヌクレオフェクター(Nucleofector)キット(アマクサバイオシステムズ(Amaxa Biosystems)社製)を使用して、約5μgの各ZFNコードプラスミドによってトランスフェクトする。トランスフェクション後、細胞を、10%FBS添加DMEM等の培地に維持する。ミスマッチ特異的切断分析(Cel−1が、変性−復元後の野生型および変異型DNA鎖のヘテロ二本鎖を切断する、サーベイヤー(Surveyor)エンドヌクレアーゼ分析(Cel−1;トランスゲノミクス(Transgenomics)社製)等)を用いて、ノックアウトによる細胞の割合を決定することができる。ノックアウトによる細胞の純粋な集団または富化された集団を得るために、細胞をクローン化することができる。または、GFPまたはプロマイシンプラスミド等の遺伝子を、ZFNによるTSC1またはTSC2ノックアウト時の相同組換えによって、挿入することができる。これによって、FACSを使用して、細胞を選別するか、または抗生物質選択を用いて、富化することができる。処理細胞の標的タンパク質のレベルを、ウェスタンブロットによって測定し、対照の未処理細胞と比較することができる。
【0212】
また、形質導入された細胞を、mTORC1シグナリングに対するノックダウンの影響について分析することもできる。これは、ウェスタンブロットにより形質導入された細胞におけるホスホ−S6発現を測定することによって、達成され、1、10、20、30および40継代培養で対照shRNA細胞と比較することができる。Wntシグナリングが髪形態形成時に活性があるので、Wntシグナリングに対するノックダウンの影響も評価することができる。これは、特異的抗体(セル・シグナリング・テクノロジー(Cell Signaling Technology)社製)を使用するウェスタンブロットにより、ベータ−カテニンおよびGSK3のレベルを測定することによって行うことができる。WNTネットワークは、成長時に表皮プラコードにおいて活性があり、また、WNTタンパク質は、真皮凝縮物を誘導して形成するシグナルの一部と考えられる(Kishimoto,J.らの文献:「Wntシグナリングは、毛乳頭の髪誘導活性を維持する(Wnt Signaling Maintains the Hair−Inducing Activity of the Dermal Papilla)」,Genes & Development 14(10):1181−1185(2000);Shimizu,H.らの文献:「ベータ−カテニン経路を介するWntシグナリングは、維持するのに十分であるが、回復しない、毛乳頭細胞の成長期の特性(Wnt Signaling Through the Beta−Catenin Pathway is Sufficient to Maintain,but Not Restore,Anagen−Phase Characteristics of Dermal Papilla Cells)」,The Journal of Investigative Dermatology 122(2):239−245(2004))。
【0213】
B.遺伝子誘導
ヒト間葉系細胞を、標準手順を用いて、構造的に活性のあるプロモーターの制御下で、mTORネットワークを活性化するか、または毛包関連遺伝子(例えば、Ras、Raf、Mek、Erk、Rsk1、PI3K、Akt1、Akt2、Akt3、Rheb、mTOR、Raptor、Rictor、mLST8、S6K1、リボソームタンパク質S6、SKAR、SREBP1、eIF4e、IKKbeta、Myc、Runx1、またはp27)の安定した発現のために、トランスフェクトすることができる(Ortiz−Urda,S.らの文献:「遺伝子操作線維芽細胞の注入は、再生ヒト表皮水疱症皮膚組織を矯正する(Injection of Genetically Engineered Fibroblasts Corrects Regenerated Human Epidermolysis Bullosa Skin Tissue)」,The Journal of Clinical Investigation 111(2):251−255(2003))。簡潔には、CMV IEプロモーターを使用して、遺伝子を、BglII断片として、285bpのΦC31attB配列を、プラスミドpcDNAattBを作製するバックボーンベクターpcDNA3.1/zeoのBglII部位に挿入することによって、ストレプトマイセスファージΦC31インテグラーゼ支援安定化組込みプラスミドに導入することができる。IRESおよびブラストシジン(blastocidin)の抵抗配列を、pcDNAattBのEcoRV/XbaI部位に挿入され、プラスミドpcDNAattB−IBを形成する、鈍化SnaBI−NheI断片として、pWZL芽細胞ベクターから除去することができる。次いで、示される遺伝子のうちの1つを増幅し、EcoRI、HindIII/EcoRI、およびEcoRI(鈍化)/BamHI断片として、lacZ遺伝子によって、pcDNAattB−IBのEcoRI、HindIII/EcoRI、およびHindIII(鈍化)/BamHI部位にそれぞれクローン化する。この手順は、関心のある遺伝子attBおよびplacZ−attBを含む伝達性プラスミドを作製する。その後、構築されたベクターを、ΦC31インテグラーゼコードプラスミドによってヒト間葉系細胞に同時トランスフェクトする。簡潔には、ヒト間葉系細胞を、改良ポリブレン衝撃を用いて、pIntおよび関心のある遺伝子attBおよびplacZ−attBによってトランスフェクトする。初期ヒト間葉系細胞を、70〜80%の集密状態まで、35mmプレートに培養し、次いで、改良ポリブレン衝撃によってトランスフェクトする。ポリブレントランスフェクションにおいて、760mlの増殖培地を、トランスフェクトされるプラスミドと混合し、この混合物を激しく撹拌する。HBSS中3.8mlの1mg/mlの臭化ヘキサジメトリン(アルドリッチケミカル(Aldrich Chemical)社製、ミルウォーキー、ウイスコンシン州)を加え、再度撹拌する。この混合物を6時間、細胞に被覆する。培地を吸引した後、増殖培地混合物中で28%DMSO(シグマケミカル社製、セントルイス、ミズーリ州)を細胞に適用する。細胞を90秒間インキュベートした後、DMSOを吸引し、10%仔ウシ血清を含むPBSと交換する。プレートを2回洗浄し、細胞を、37℃で一晩、新しい増殖培地にインキュベートする。選択のために、トランスフェクション3日後の細胞に、培地中でブラスチシジン(4μg/ml)を10日間供する。遺伝子導入効率を、免疫蛍光顕微鏡検査法およびイムノブロットアッセイによって確認する。10日間の選択後、間葉系細胞コロニーをトリプシン処理し、限界希釈法でサブクローン化して、高い増殖性クローンを得る。
【0214】
C.インビトロにおける細胞へのタンパク質送達
mTORネットワーク活性化または毛包関連タンパク質を、記載する方法を用いてヒト間葉系細胞に送達することができる(Weill,C.O.らの文献:「細胞内タンパク質送達のための実用的アプローチ(A Practical Approach for Intracellular Protein Delivery)」,Cytotechnology 56(1),41−48(2008))。細胞を、タンパク質送達時に、およそ70〜80%の集密度に到達させるために、載置する。24穴プレートの1ウエルに、0.5〜8μgの精製タンパク質を、滅菌条件下で、1.5mlのマイクロ遠心管中の100μlのHepesバッファー(20mM、pH7.4)で希釈する。それぞれの遠心管で、1〜8μlのタンパク質送達試薬プルシン(PULSin)(商標)(イルキルシュ(Illkirch)社製、フランス)を、タンパク質溶液に加える。ボルテックスによる簡単な均質化後、タンパク質/試薬混合物を、室温で15分間、インキュベートして、複合体を形成させる。細胞を1mlのPBSによって洗浄し、900μlの無血清培地を、それぞれのウエルに加える。それぞれのウエルへの複合体の添加後、プレートを、穏やかに混合し、さらに37℃でインキュベートする。4時間後、インキュベートした培地を除去し、1mlの新しい完全培地(血清を含む)と交換する。タンパク質送達を、免疫細胞化学検査によって、即時にまたは後で分析する。
【0215】
実施例5:髪の誘導性による細胞の富化
A.細胞マーカーに基づく分離
実施例3Bにおける一方のプロトコールに説明するように、皮膚組織を調製する。細胞を、0.25%トリプシンおよび5mM EDTA(シグマ社製)を含む溶液を使用して、7日後に採取し、細胞マーカーCD−10に基づく髪誘導細胞のために富化する。FITC標識抗CD−10抗体(イーバイオサイエンス(eBioscience)社製)を、4℃で30分間、線維芽細胞とインキュベートする。0.1%BSA添加PBSによって細胞を洗浄後、BDバイオサイエンス社製のFACSAriaセルソーターを使用して、細胞を選別する。
【0216】
または、細胞を、室温で30分間、抗CD10/RPE抗体(1×10
6の細胞10ml;ダコ(DAKO)社製、グロストラップ(Glostrup)、デンマーク;クローンSS2/36)で標識する。標識細胞を、PBS、2%ウシ血清アルブミンによって洗浄し、室温で30分間、抗PEマイクロビーズ(10ml/10
6の細胞;ミルテニイバイオテック(Miltenyi Biotec)社製、ベルギシュグラドバッハ、ドイツ)とインキュベートし、メーカーのプロトコールに従って、MiniMACSセパレーター(ミルテニイバイオテック社製)に配置したMACSカラムによって分離する。
【0217】
B.所望の細胞の増殖の促進、不要な細胞の増殖の阻害/致死に基づく分離
BMP2、4、5もしくは6、Wnt−3a、Wnt−10b、FGF2、KGF、または他のもの等の成長因子を、成長培地に加えて、毛乳頭細胞を含む髪誘導細胞を維持し富化することができる。毛乳頭細胞を、増加したWNTタンパク質、またはWNTによって促進されたシグナル伝達の効果を模倣する薬剤の存在下で培養する。本方法は、上に論じる、WNTシグナリングが髪形態形成時に活性があるという発見に基づく(Kishimoto,J.らの文献:「Wntシグナリングは、毛乳頭の髪誘導活性を維持する(Wnt Signaling Maintains the Hair−Inducing Activity of the Dermal Papilla,)」,Genes & Development 14(10):1181−1185(2000);Shimizu,H.らの文献:「ベータ−カテニン経路を介するWntシグナリングは、維持するのに十分であるが、回復しない、毛乳頭細胞の成長期の特性(Wnt Signaling Through the Beta−Catenin Pathway is Sufficient to Maintain,but Not Restore,Anagen−Phase Characteristics of Dermal Papilla Cells)」,The Journal of Investigative Dermatology 122(2):239−245(2004))。
【0218】
代替アプローチは、ヒトWnt−3aタンパク質を含む調整培地を調製することである。マウスL細胞を、37℃で、10%FCSおよび抗生物質を添加したDMEMとHAM F12培地の1:1混合物で培養する。Wnt−3a cDNAによってトランスフェクトされたL細胞の確立において、ヒトWnt−3a cDNA(この発現は、ラットホスホグリセロキナーゼ遺伝子のプロモーター(PGKプロモーター)によって促進され、ウシ成長ホルモン遺伝子の転写ターミネーター配列で終了する)を、PGKプロモーターによって促進するネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(neo)を含むpGKneoに、挿入することによって、pGKWnt−3aを構築することができる。DNA添加1日前に、1.5×10
6の細胞/プレートの密度で、60mm培養皿に載置したL細胞に、pGKWnt−3aを、リン酸カルシウム法によって導入する。これらの培養物に、400mg/mLのG418を、トランスフェクション2日後に加える。次いで、安定的にトランスフェクトされたクローンを選択し、二次培養する。Wnt−3a産生L細胞の培養物から調整培地(CM)を回収するために、これらの細胞を、10%FCS添加DMEMとHAM F12の1:1混合物を収容した100mm皿に、1×10
6の細胞密度で接種し、4日間培養する。調整培地を採取し、1000gで10分間、遠心分離し、ニトロセルロース膜によってろ過する。対照として、調整培地を、pGKneoのみによってトランスフェクトされたL細胞から調製し、上述と同じ条件下で培養することができる。調整培地を使用して、Wnt促進髪誘導細胞を得ることができる。簡潔には、100〜1000の皮膚間葉系細胞を、10%FBS添加DMEM中の100mm皿に載置し、24時間培養する。翌日、培地を、Wnt2aタンパク質を含むL細胞調整培地と交換し、3日ごとの培地変更によって2週間培養する。2週後に、細胞クローンを、ヒト皮膚への更なる分析または注入のために回収する。
【0219】
実施例6:特殊な培地または成長因子を使用する増殖時の髪誘導性の維持
ヒトDP細胞の毛包誘導潜在能は、次に示す培地のうちの1つで維持することができる。
【0220】
チャンの培地(Chang H.C.らの文献:「ホルモン添加培地で増殖させたヒト羊水細胞:出生前診断での適応性(Human amniotic fluid cells grown in a hormone−supplemented medium:suitability for prenatal diagnosis)」, Proc Natl Acad Sci USA 79(15):4795−9(1982)):簡潔には、基本培地[無血清(SF)培地]を、15mM Hepes、1リットル当たり1.2gのNaHCO
3、40mgのペニシリン、8mgのアンピシリン、および90mgのストレプトマイシンを添加した、ダルベッコ−フォークト変法イーグル培地(DVME培地)とハムのF12培地(F12培地)の1:1混合物である。10の発育促進物質を添加したSF培地を、H培地(補足培地)と称する。添加した発育促進物質は、次に示すとおりである:トランスフェリン(5μg/ml)、セレン(20nM)、インシュリン(10μg/ml)、トリヨードサイロニン(0.1nM)、グルカゴン(1μg/ml)、線維芽細胞成長因子(10ng/ml)、ヒドロコルチゾン(1nM)、テストステロン(1nM)、エストラジオール(1nM)、およびプロゲステロン(1nM)。
【0221】
ケラチン細胞調整培地(KCM):ケラチン細胞培養物からKCMを回収するために、10
6の細胞を、100mm皿に載置し、10mlの培地(FBSまたは成長添加物質を含まない50%KSFMおよび50%DMEM)で3〜5日間培養する。調整培地を回収し、これを、ヒト皮膚への注入2〜4週前に、皮膚間葉系細胞の培養に使用する。
【0222】
市販の培地または成長因子の利用:間葉系幹細胞培地(インビトロゲン社製)、またはヒト毛包DP細胞増殖培地(プロモセル(PromoCell)社製)を、ヒトDP細胞の培養に使用する。BMP6(10ng/ml)、FGF−2(10ng/ml、バイオビジョン(BioVision)社製)、またはレプチン(0、10、もしくは100ng/ml、シグマアルドリッチ社製)等の他の成長因子を、DP細胞培養に利用することができる。
【0223】
小分子阻害剤の使用:髪を維持するために、誘導型間葉系細胞、GSK−3阻害剤、BIO(カルバイオケム(Calbiochem)社製、ラ・ホーヤ、カリフォルニア州)を100mm皿中に1.5μM、培地に加える。細胞を二次培養し、ヒト皮膚の更なる分析またはヒト皮膚への注入2週間より前に継代培養する。
【0224】
実施例7:表皮細胞の単離
表皮細胞を次に示す供給源から単離することができる:患者皮膚または粘膜(自家)、ドナー皮膚または粘膜(同種異型)、表皮細胞系、幹細胞由来の表皮細胞、および初期または継代培養された表皮細胞。
【0225】
ケラチン細胞を単離するために、ヒト新生児包皮または成人皮膚組織を、4℃で一晩、ディスパーゼによって処理する。表皮シートを真皮シートから分離し、次いで、37℃で20分間、0.05%トリプシン、0.53mM EDTAによって消化する。細胞を回収し、ウシ下垂体抽出物、および組換え型上皮成長因子を添加した、ケラチン細胞無血清培地中の組織培養皿に載置した。本方法は、上に論じる、間葉系細胞の細胞解離方法に類似する(すなわち、真皮の切断を、間葉系細胞に使用し、上皮の切断を、表皮細胞に使用する)。
【0226】
または、次に示すプロトコールを用いて、幹細胞を誘導して、表皮細胞に分化することによって、幹細胞を、表皮細胞を発生させるために使用することができる。従来の研究は、幹細胞をBMコーティング皿に載置する場合、幹細胞は、ケラチン14(K14)陽性細胞に分化することができる上皮シートを生じさせることを示した。また、これらの研究は、かかる培養物が、上皮先祖細胞(EPC)と呼ばれる二次培養で維持される、表皮先祖細胞を含むことも示唆した。高密度で培養する場合、抗体による間接免疫蛍光法によって決定されるように、EPCは、毛包分化経路に沿って成長し、髪ケラチンを発現させる。幹細胞を誘導して、表皮細胞に分化するために、35mm組織培養皿で増殖する幹細胞を、室温で30分間、マトリゲル(1mL/35mm皿、およそ0.1mg)でコーティングし、次いで、マトリゲルを、15%DMEMと穏やかに交換する。4日目に、細胞を、インキュベーターで、2〜3分間、0.25%トリプシン−EDTAによって処理する。細胞を、15mLファルコンチューブに移し、アリコートを除去して、すべての使用可能な細胞を数える。細胞を、ペレット形成のために、700×gで、2〜3分間、遠心分離する。回転時に、細胞を、コールターカウンターを使用して数える。ペレットを15%DMEMによって再懸濁させ、10
6の細胞/35mm皿に載置するために、適切に希釈する。免疫蛍光検査において、細胞を、22×22mmのガラス製カバーグラスに載置することができる。
【0227】
実施例8:毛包分化能を有する表皮細胞の富化
A.細胞接着
新生児または成人のヒト皮膚の幹細胞集団を、以前に報告された方法に従って、迅速な接着によって富化することができる。簡潔には、100mm細菌プラスチック皿を、100μg/mlのIV型コラーゲンでコーティングし、0.5mg/mlの熱変性BSAと37℃で1時間、インキュベートし、無血清培地中で洗浄する。ケラチン細胞を、1〜5×10
3細胞/mlの密度で、無血清培地中に再懸濁させる。10mlの細胞懸濁液を、IV型コラーゲンをコーティングした皿に加え、この皿を、5台の顕微鏡のあるインキュベーターに戻す。接着した細胞を迅速に採取し、0.4mg/mlヒドロコルチゾン(シグマ社製)、5mg/mlトランスフェリン(シグマ社製)、5mg/mlインシュリン(シグマ社製)、100IU/mlペニシリン、100mg/mlストレプトマイシン、10%FCS、10ng/ml上皮成長因子(EGF)(シグマ社製)、および10ng/ml塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)(ギブコ(Gibco))を添加した、FAD(DMEM/F12 3:1、v/v、ギブコ)中の更なる培養物において、1×10
5細胞で再度載置する。皿を、37℃、100%の湿度、および5%CO
2でインキュベーターに載置し、培地を2〜3日ごとに交換する。細胞外マトリックスでコーティングした培養皿に多く接着する、表皮幹細胞は、毛包に形成する高い潜在能を有する。
【0228】
B.細胞選別
膨出細胞は、磁性ビーズ系によって単離することができる。2つの磁性ビーズ系を組み合わせて、中間毛包懸濁液から膨出ORS細胞を単離する。最初に、毛包細胞を、4℃で20分間、PE結合抗ヒトCD24、CD34、CD71、およびCD146抗体(BNC)のカクテルによって染色する。洗浄後、毛包細胞を、4℃で25分間、抗PEマイクロビーズ(ミルテニイバイオテック(Miltenyi Biotec)社製)とインキュベートする。その後、PE陽性非膨出細胞を、小型MACS MSカラム(ミルテニイバイオテック社製)を使用して、磁力分離によって除去する。除去手順を3〜5回繰り返して、最大の消耗を確認する。次に、中間毛包細胞を、4℃で20分間、精製した抗ヒトCD200マウスmAbとインキュベートし、洗浄し、4℃で30分間、傾かせて、ダイナビーズ(Dynabeads)M−450ヒツジ抗マウスIgG磁性ビーズ(ダイナルバイオテック(Dynal Biotech)社製)とインキュベートする。その後、正の選別を、MPC−L磁性粒子コンセントレーター(ダイナルバイオテック社製)によって行い、CD200陽性細胞を得る。CD59陽性細胞を、正の選別対照として同様に回収してもよい。膨出細胞を富化する表皮細胞の調製によって、高い毛包形成能を有することが期待される。
【0229】
実施例9:移植のための細胞の調製
A.皮膚代替物
三次元インビトロ構築物を、本明細書に記載するように、確立された改良法を用いて、移植のために調製する。簡潔には、間葉系細胞を、10%FBS/DMEM中の1mg/ml I型コラーゲン(下記のように、ラットまたはウシ)と混合し、1cm
2当たり1.5×10
5細胞の密度で、6穴トランスウエルプレート(コーニング社製、コーニング、ニューヨーク州)に加える。真皮等価物を、上部の1×10
6のケラチン細胞を等分する4日前に、10%FBS/DMEM中で培養する。構築物を、0.1%FBSを含む、DMEMとハムのF12(3:1)(ギブコ(GIBCO)/インビトロゲン社製、グランドアイランド、ニューヨーク州)の混合物中で2日間、浸漬させて培養し、その後、ケラチン細胞を気液界面に供し、移植前にさらに2日間、1%FBSを含む、DMEMとハムのF12(3:1)の混合物中で培養する。
【0230】
B.細胞集塊
注入のための細胞凝集物を、懸滴法を用いて形成することができる(Qiao J.らの文献:「培養ヒト頭皮毛乳頭細胞によって誘導された毛包新生(Hair follicle neogenesis induced by cultured human scalp dermal papilla cells)」、Regen Med 4(5):667−76(2009))。簡潔には、ヒト間葉系細胞とケラチン細胞の混合物(10:1、5:1、1:1、1:5、または1:10)を、0.24%メチルセルロースを含むチャンの培地中に懸濁させる。100mmペトリ皿の底部において、細胞を、20μlの液滴(液滴はそれぞれ、4×10
4細胞を含む)に適用する。液滴が上下逆さまに懸滴するように、ペトリ皿を逆さまにする。懸濁した液滴を、37℃、5%CO
2で、インキュベーターでインキュベートする。凝集物の形成を18〜20時間以内に終了する。形成において、凝集物を、150μlチャンの培地を収容した96穴丸底アッセイプレートのウエルに別々に移す。ウエルを、0.24%メチルセルロース培地で予め覆って、髪の原型(proto−hair)の付着を防ぐ。培地を2〜3日毎に交換する。
【0231】
C.マイクロスフィア
注入のための生物分解性マイクロスフィアを、従来の油/水エマルション、および溶媒蒸発/抽出法を用いて、75:25 PLGA(分子量=100,000Da、バーミンガムポリマーズ(Birmingham Polymers)社製、バーミンガム、アラバマ州)から製造する。簡潔には、600mgPLGAを、12mlの塩化メチレン中に溶解し、0.5%(w/v)ポリビニルアルコール(分子量=30,000〜70,000Da、シグマ社製)の400ml水溶液に加え、室温で一晩、激しく撹拌する。マイクロスフィアを遠心分離によって回収し、蒸留水によって3回洗浄し、50〜200μm径のサイズに濾す。マイクロスフィアを凍結乾燥し、6時間、紫外線光によって殺菌する。ヒト間葉系細胞(2.5×10
7細胞)、およびケラチン細胞(6×10
6の細胞)を、ケラチン細胞のための10ng/mlのEGFを含む30mlの無血清KGM、または間葉系細胞のための10%(v/v)FBSを含むDMEM/F12を収容した、スピナーフラスコ(ベルコガラス(Bellco Glass)社製、ヴァインランド、ニュージャージー州)中に、PLGAマイクロスフィア(1μgマイクロスフィア/10
5細胞)と共に載置し、50rpmで2週間、培養する。培地を1日おきに交換する。細胞凝集物を沈降させ、16mlの培養上清を回収し、遠心分離し、15mlの上清を除去し、また、15mlの新しい培地を、1mlの残存上清中の遠心分離した細胞に加える。新しい培地中の細胞をスピナーフラスコに移す。または、アルギン酸ナトリウム中で細胞を懸濁させ、その後、Lin C.M.らの文献:「マイクロカプセル化ヒト髪毛乳頭細胞:毛乳頭の代わりになるか?(Microencapsulated human hair dermal papilla cells: a substitute for dermal papilla?)」,Arch Dermatol Res.300(9):531−5(2008)に記載する、高電圧電気液滴発生器を使用して、球状液滴を形成することによって、細胞集塊を形成してもよい。
【0232】
実施例10:
生体力学特性、創傷治癒、および長期毛包再生成のための本発明の皮膚代替物の評価
本発明の皮膚代替物を、生体力学特性、創傷治癒、および長期毛包再生成に関して試験することができる。
【0233】
生体力学特性には、皮膚保護機能、皮脂分泌、皮膚引張強さ、経皮水分損失、および皮膚静電容量が含まれる。皮膚静電容量は、コルネオメーター(Corneometer)CM 825 PC(コーリッジ・アンド・カーザカ・エレクトロニック(Courage & Khazaka Electronic)社製、ケルン、ドイツ)を使用して、測定することができる。経皮水分損失は、テヴァメーター(Tewaeter)TM 300(コーリッジ・アンド・カーザカ・エレクトロニック社製、ケルン、ドイツ)によって、測定することができる。皮脂腺の活性を評価するために、一つには、オイルレッドO染色、およびレーザー顕微解剖材料のリアルタイムPCRを使用して、ヒト皮脂脂質およびタンパク質の発現を測定することができる。すべてのRNAを、レーザー顕微解剖された皮脂腺、および逆転写されたmRNAから単離することができる。皮膚引張強さを測定するために、動物を屠殺した後に得られる小さく細長い移植片を、引張計(インストロン(Insron)5542引張計、インストロン社製、カントン、マサチューセッツ州)に載置し、ピーク破断荷重を測定することができる。簡潔には、組織ストリップの一部分(およそ0.5cmの切開)を、切開の線に垂直な引張計のつかみ具に配向する。ピーク破断荷重を測定し、破壊された組織の断面積で破断荷重を割ることによって、引張強さ値(1平方センチメートル当たりのキログラム力)に変換する。同じ手順を用いて、引っ張った髪の引張強さを測定することができる。
【0234】
創傷治癒を評価するために、創傷を、移植4〜6週後に移植片に形成することができる。創傷に包帯をしてもよく、また、創傷拘縮および再上皮化を測定するスケールで、1〜2日ごとに連続写真術によって、創傷治癒の割合を決定した。移植片の切片を採取し、マソンのトライコームによって染色し、創傷の中心を通して切断することによって、創傷および傷跡面積、真皮厚さ、ならびに表皮厚さを組織学的に評価することができる。創傷の組織形態測定を行うことができ、また、質的評価は、炎症細胞浸潤、線維芽細胞増殖、コラーゲン形成、および血管新生からなっていた。免疫組織化学検査を用いて、ヒト細胞、細胞増殖(Ki−67)、および多くの筋線維芽細胞を確認する。
【0235】
髪周期を、毛周期を通じた再現観察によって裏付けることができる。しかしながら、毛周期が、非頭皮皮膚で約100日、頭皮で最大数年であるので、試験の進行を、髪を引き抜くこと(例えば、ワックスを使用して)によって促進してもよい。髪の引き抜きは、髪を誘導して、成長期に再度入らせるための十分に立証された方法である。髪引抜き分析を、表皮および毛包膨出領域における標識保持細胞の存在のための表皮幹細胞コンパートメントの評価と組み合わせてもよい。BrdUを、毛包新生の終了から6日間、腹腔内に毎日2回注入することができる。10〜14週で、移植片の2分の1の髪を引き抜いてもよい。これらの試験によって、標識保持表皮幹細胞の存在と位置、および毛包がある、または毛包のない皮膚を引き抜くことに対するこれらの反応を決定することができる。
【0236】
実施例11:移植方法
A.複合体の配置
6〜8週齢の老齢の雌Cr:NIH(S)−nu/nuマウス(FCRDC、フレデリック、メリーランド州)に、O
2とイソフルランの混合物(2〜4%)を使用して、麻酔をかけた。マウス背部の移植領域を慎重に評価し、皮膚を、ポビジンおよび70%エタノールによって洗浄後、彎鋏を使用して除去した。構築物を、正確な解剖配向で移植片面に配置し、無菌ヘトロラタムガーゼで被覆し、包帯で固定した。マウスを再び目覚めさせた後、無菌ケージに移した。包帯を週2回交換し、4週後に除去した。マウスを移植4〜18週後に屠殺する。
【0237】
B.細胞の注入
細胞を、Ortiz−Urdaらの文献(上述する)に記載するものと同様の方法を用いて、ヒト皮膚に直接注入する。マウス皮膚へのヒト間葉系細胞の注入において、6〜8週齢の老齢の雌Cr:NIH(S)−nu/nuマウスに、30ゲージ針を使用して、100μl PBS中に再懸濁させた10
6の細胞を皮内に注入する。注入を、最初に皮膚を貫通し、その後、表面後方に針を戻し、細胞を可能な限り皮相に注入することによって、行う。これによって、注入領域の中心に境界明瞭な丘疹が形成する。注入8〜16週後に、生体組織検査および分析をマウス皮膚で行う。
【0238】
C.細胞の移植
麻酔後、およそ0.5〜1.0mmの幅および長さの小さな切開を、27ゲージ針を使用して作製する。単一培養した凝集物(髪の原型)を、各切開内の浅い位置に挿入する。挿入後、切開を治癒ために残す。
【0239】
動物または患者に麻酔をかけた後、全層の皮膚創傷(1.5×1.5cm
2矩形形状)を移植領域に形成する。創縁および自発的創傷拘縮の宿主皮膚細胞の移動を最小化するために、創縁の皮膚を焼灼によって焼き、非再吸収性5−0ナイロン縫合糸(アイリー(AILEE)社製、釜山、韓国)によって、隣接する筋肉層に固定する。PLGAマイクロスフィアに培養した間葉系細胞(およそ10
8の細胞/創傷)、およびケラチン細胞(およそ7.5×10
6の細胞/創傷)を、針のない1mL注射器を使用して、創傷に移植する。移植後、創傷を、包帯材料テガダーム(Tegaderm)(スリーエムヘルスケア(3M Health Care)社製、セントポール、ミネソタ州)、および無菌綿ガーゼで覆い、コバン(自己付着性ラップ)スリーエムヘルスケア社製)を使用して、しっかりと固定する。マウスにおいて、抗生物質(セファゾリン、0.1mg/マウス、ユーハン(Yuhan)社製、ソウル、韓国)、および鎮痛剤(ブプレノルフィン、0.1mg/kg、ハンリムファーマ(Hanlim Pharm)社製、ソウル、韓国)をそれぞれ、移植5日後に、筋肉内および皮下に投与する。手術後、マウスを単独で収容し、NIHの動物実験に関する指針に従って、マウスは人道的な処置を受ける。
【0240】
実施例12:患者創傷への皮膚代替物の適用
全層または部分層の皮膚欠損、創傷、火傷、傷跡、および完全または部分的な脱毛を示す、患者に、標準術前評価を行って、手術危険度を決定する。皮膚代替物の適用部位には、軟骨、腱、または神経ではなく、真皮、筋膜、筋肉、肉芽組織、骨膜、軟骨膜、腱周囲、および神経周膜等の十分な血液供給がある。創傷は、壊死組織がないことを要する。創傷は、1平方センチメートル当たり100,000未満の菌数の細菌によって比較的汚染されていないことを要する。十分な創傷面は、創面切除、包帯交換、および全身的または局所的抗生物質を必要とする。局所的にまたは全身に投与される、抗菌剤、抗真菌剤、および抗ウイルス物質を、皮膚代替物の投与前後の一定期間(例えば、1週間)、使用して、感染の危険性を低減させることができる。創傷の真空支援閉鎖を用いて、移植前に、創傷面の特性を改良することができ、また、移植後にこれを用いることができる。
【0241】
患者は、局所、局部、または全身麻酔を用いて、麻酔をかけられ、移植片部位を、水、抗菌性洗浄剤、またはアルコール溶液(アルコール綿球等)によって洗浄する。現存する皮膚組織、失活した組織、痂皮、傷端もしくは潰瘍端、または瘢痕組織は、当該技術分野における標準技術を用いて除去される。創面切除は、健全で、生存可能な、出血組織まで及び得る。創面切除前に、創傷を、無菌食塩水によって徹底的に浄化して、遊離した細片および壊死組織を除去することができる。組織ニッパー、外科用メスもしくはキューレットを使用して、角質増殖、および/または壊死組織と細片を創傷表面から除去する。潰瘍辺縁は、ソーサー効果を有するように、創面切除することができる。創面切除後、創傷は、無菌食塩水で徹底的に浄化され、穏やかにガーゼで乾燥する。傷端の創面切除または修正によって生じる分泌または出血は、緩やかな圧力の使用によって、停止することができる。他の選択肢には、血管の結紮、電気焼灼、化学焼灼、またはレーザー焼灼が含まれるが、これらのアプローチによって、失活した組織が生じ、これらの使用は最小化にする必要がある。大量の滲出物は、皮膚代替物に代わり、接着を低減し得る。滲出物は、適切な臨床治療によって最小化され得る。例えば、創傷が粘着性を有するまで、室温または42℃以内の無菌空気を創傷に吹きつけてもよい。滲出物が持続する場合、皮膚代替物を浸透させて、皮膚代替物を穿孔して排出することによって滲出させることができる。
【0242】
皮膚代替物は、非細胞毒性溶液によって創傷を徹底的に洗浄した後、清浄で創面切除された皮膚表面に適用することができる。皮膚代替物の適用前に、施術者は、皮膚代替物の有効期限を再検討し、pHを確認し、視覚的に観察し、臭いをかいで、細菌汚染物質または粒子状物質等の汚染物質がないことを確認することができる。皮膚代替物は、使用直前まで、制御温度68°F〜73°F(20℃〜23℃)で、ポリエチレンバッグに保存することができる。施術者は、密封したポリエチレンバッグを切開することができ、また、皮膚代替物が、細胞培養皿またはプラスチックトレーに提供される場合、皮膚代替物は、無菌技術による無菌領域に移すことができる。細胞培養皿またはプラスチックトレーが存在する場合、トレーまたは細胞培養皿の蓋を外すことができ、また、施術者は、皮膚代替物の表皮および真皮層の配向に注意し得る。無菌非外傷性器具を使用して、施術者は、およそ0.5インチの皮膚代替物をトレーまたは細胞培養皿の壁からそっと離して移すことができる。皮膚代替物を持ち上げる場合、施術者は、皮膚代替物の下の膜を穿孔しないか、またはこれを持ち上げないように注意し、プラスチックトレーが存在する場合、当該膜をトレーに残存させる必要がある。無菌の手袋をはめた手で、施術者は、一方の人差し指を皮膚代替物の剥離部分の下に挿入し、他方の人差し指を使って、デバイスの端に沿って別の箇所の皮膚代替物をつかむことができる。2箇所に皮膚代替物を保持し、施術者は、スムーズな動きで、トレーまたは細胞培養皿から皮膚代替物全体を持ち上げることができる。過度に折り重なる場合、皮膚代替物は、無菌トレー中の温かい無菌食塩水上に浮かす(表皮表面を上にして)ことができる。真皮層(中間付近の光沢層)が、皮膚代替物の部位と直接接触するように、皮膚代替物を配置することができる。塩水で湿らせた綿塗布用具を使用して、施術者は、部位上の皮膚代替物を滑らかにし、このため、気泡もしわが寄った端もなくすることができる。皮膚代替物が適用部位よりも大きい場合、超過した皮膚代替物は、包帯に付着するのを防ぐために、切り取ることができる。皮膚代替物が適用部位よりも小さい場合、不足が充足されるまで、複数の皮膚代替物を互いに隣接させて適用することができる。
【0243】
皮膚代替物は、適切な臨床用包帯で固定することができる。非付着性、半閉塞、吸収性包帯材を使用することが望ましい。移植領域全体に均一に圧力をかける必要がある。縫合またはステープルは必要ではないが、移植片面に移植片を係留する(仮縫合)ために、一部の事例に使用してもよい。除去を必要としないので、5−0の速吸収性グット(fast absorbing gut)等の吸収性縫合糸が望ましい。包帯は、適用部位への皮膚代替物の接触を確実にし、かつ移動を防ぐために使用することができる。治療上の圧縮を移植片部位に適用することができる。一部の事例において、移植された四肢を固定して、皮膚代替物と適用部位の間の剪断力を最小化することが必要な場合がある。ボルスター包帯は、動作を回避するのが困難な領域、および不規則な輪郭の創傷に有用である。包帯は、週に一度、または、必要であれば、これより頻繁に交換することができる。痛み、臭気、剥離、または合併症の他の兆候は、除去および検査する適用部位に包帯をしていることによって表れるものである。
【0244】
皮膚代替物の付加的な適用は、特定の事例において必要であり得る。付加的な適用前に、先の皮膚移植片または皮膚代替物の非付着性残存物は、穏やかに除去する必要がある。治癒組織または接着皮膚代替物は適所に残してもよい。部位は、皮膚代替物の付加的な適用前に、非細胞毒性溶液によって浄化することができる。一実施態様において、付加的な皮膚代替物は、先の皮膚代替物が接着していない領域に適用することができる。