(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6449250
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】標的の位置を特定するための方法及びかかる方法を実現するためのマルチスタティックレーダーシステム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/46 20060101AFI20181220BHJP
G01S 13/91 20060101ALI20181220BHJP
G08G 5/04 20060101ALI20181220BHJP
【FI】
G01S13/46
G01S13/91 200
G08G5/04 A
【請求項の数】17
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-514410(P2016-514410)
(86)(22)【出願日】2014年5月22日
(65)【公表番号】特表2016-524704(P2016-524704A)
(43)【公表日】2016年8月18日
(86)【国際出願番号】EP2014060539
(87)【国際公開番号】WO2014187898
(87)【国際公開日】20141127
【審査請求日】2017年4月26日
(31)【優先権主張番号】1301182
(32)【優先日】2013年5月24日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】511148123
【氏名又は名称】タレス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー,ダニエル
【審査官】
▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2005/0057395(US,A1)
【文献】
米国特許第04398195(US,A)
【文献】
INGGS,M.R. 外1名,“Commensal radar using separated reference and surveillance channnel configuration”,ELECTRONICS LETTERS,2012年 9月10日,Volume 48, Number 18,2 Pages,URL,http://doi.org/10.1049/el.2012.1124
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 − G01S 7/42
G01S 13/00 − G01S 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的の位置を特定する方法であって、
a)N≧1台の受信機(RR1、RR2、RR3)により、M≧1台の送信機(ER)から送信され、前記標的(C)により反射される機会電波信号(SRE)を受信するステップであって、N・M≧3であり、少なくとも1台の前記送信機は少なくとも1台の前記受信機の見通し外に配置される、受信するステップと、
b)データ伝送リンク(LD)により、少なくとも1台の前記受信機の見通し外に配置される前記送信機又は各前記送信機により送信される電波信号を表す1つ又は複数のいわゆる基準信号を受信するステップと、
c)前記機会電波信号及び1つ又は複数の前記基準信号に基づいて前記標的の位置を決定するステップと
を含み、前記ステップc)が、見通し外に配置される前記送信機又は各前記送信機からの直接伝播が可能である場合に、かかる直接伝播により前記受信機又は各前記受信機により受信されるであろう電波信号の複製の、1つ又は複数の前記基準信号に基づく、再構成を含み、前記基準信号又は各基準信号がソース信号であり、このソース信号に基づいて複数の前記送信機がそれぞれの変調パラメータを使用して対応する電波信号を生成することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記ステップc)が前記機会電波信号と前記複製との間の周波数シフトの動作を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記再構成が1つ又は複数の前記基準信号の前記データ伝送リンク沿いの伝送遅延の補償の動作を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
見通し外に配置される前記送信機又は各送信機と前記受信機又は各前記受信機との間の距離に比例する遅延を挿入するために前記再構成が前記複製の時間シフトの動作も含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップc)が前記送信機又は送信機群及び前記受信機又は受信機群により共用される共通時間基準(HOR)を用いて実現される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップc)が、少なくとも1台の前記受信機と、少なくとも1台の前記送信機と、前記標的との間の少なくとも3つのバイスタティック距離の計算であって、この状態計算は、前記受信機又は前記受信機群により受信された信号と前記複製との間の相関により行われる計算と、前記バイスタティック距離に基づく前記標的の位置特定とを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップc)が、前記送信機又は送信機群及び前記受信機又は受信機群により共用される共通時間基準(HOR)を用いて実現され、前記複製の前記共通時間基準との同期の動作を含む方法であって、この動作は、3つの前記バイスタティック距離の種々の組を使用することにより決定される前記標的の位置間の不一致を最小化するタイミング修正を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップc)が、前記機会電波信号及び前記基準信号又は各前記基準信号に含まれる時間マーカーによる前記複製の前記共通時間基準との同期の動作を含む、請求項5又は請求項5に依存する場合の請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記相関が、前記受信機又は前記受信機群により受信された信号と前記複製との間に種々のドップラーシフトを使用して行われ、その結果は前記標的の移動の速度を決定するために使用される、請求項6から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記送信機と前記受信機との間の直接伝播をシミュレートするために前記ステップc)が前記複製を等化する動作も含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記機会電波信号がテレビジョン信号である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載された方法の航空機位置特定とりわけ航空交通の一次監視に対する使用。
【請求項13】
機会電波信号のM≧1台の送信機(ER)と、前記機会電波信号を受信するためのN≧1台の受信機(RR1、RR2、RR3)であって、N・M≧3であり、少なくとも1台の前記送信機は少なくとも1台の前記受信機の見通し外に配置されている受信機と、データ処理手段とを含むマルチスタティックレーダーシステムであって、前記システムは、少なくとも1台の前記受信機の見通し外に配置される前記送信機又は各前記送信機により送信される電波信号を表す1つ又は複数のいわゆる基準信号を前記データ処理手段に送信するためのデータ伝送リンク(LD)も含み、前記データ処理手段は、前記受信機又は前記受信機群により受信される電波信号及び1つ又は複数の前記基準信号に基づいて、前記送信機又は前記送信機群により送信される電波信号を反射する標的の位置を決定するように構成又はプログラムされ、
見通し外に配置される前記送信機又は各前記送信機からの直接伝播が可能である場合に、かかる直接伝播により前記受信機又は各前記受信機により受信されるであろう電波信号の複製を1つ又は複数の前記基準信号に基づいて再構成し、前記複製を使用して前記標的の位置を決定するように前記データ処理手段が構成かつプログラムされ、前記基準信号がソースファイルを表すシステムであって、このソースファイルに基づいて複数の前記送信機がそれぞれの変調パラメータを使用して対応する電波信号を生成することを特徴とする、システム。
【請求項14】
前記機会電波信号が地上デジタルテレビジョン信号である、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記データ処理手段が、
− ローカル装置(UL1、UL2、UL3)であって、それぞれの受信機に関係付けられ、かつ、以下:前記基準信号又は少なくとも1つの前記基準信号を受信すること;前記基準信号又は少なくとも1つの前記基準信号に基づいて、見通し外に配置される前記送信機又は各前記送信機からの直接伝播が可能である場合に、かかる直接伝播により前記受信機により受信されるであろう電波信号の複製を再構成すること;及び前記受信機により受信された信号と前記複製との間の相関により、前記受信機と、少なくとも1つの前記送信機と、前記標的との間の複数のバイスタティック距離を計算することを行うようにプログラム又は構成されるローカル装置(UL1、UL2、UL3)と、
− 前記ローカル装置から対応するバイスタティック距離を受信し、かつ、それを使用して前記標的の位置を決定するように構成又はプログラムされる中央装置(UC)と、
を含む、請求項13から14のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項16】
前記送信機又は送信機群により、前記受信機又は受信機群により、及び前記データ処理手段により共用される共通時間基準を得るための装置も含む、請求項13から15のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項17】
請求項13から16のいずれか一項に記載のマルチスタティックレーダーシステムを一次レーダーとして含む、航空交通を監視するためのシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とりわけ航空機を対象とする標的を検知し、その位置を特定するための方法、航空交通の一次監視へのその応用、かかる方法の実現のためのマルチスタティックレーダーシステム及びかかるマルチスタティックレーダーシステムを含む航空交通監視システムに関する。
【0002】
本発明は、とりわけ、テレビジョン信号などの機会(オポチュニティ)信号による航空交通の一次監視に適用される。
【背景技術】
【0003】
航空交通の一次監視(航空機標的側の協力を伴わない)は、従来、無線パルスを送信し、検知対象標的(航空機)による前記無線パルスの反射を受信する「モノスタティック」レーダー(各レーダーの送信機と受信機が同一場所に配置されている)により行われている。1つ又は複数の無線信号送信機及びこれらの送信機又は送信機群と同じ場所に配置されていない複数の反射受信用受信機を含む、いわゆる「マルチスタティック」システムも存在する。これらのすべての場合において、これらは、特に標的の検知を意図する無線信号を送信する「アクティブな」システムである。
【0004】
どこにおいても利用できる電波信号(「機会信号」)、たとえばラジオ放送の又はテレビジョンの信号をマルチスタティック型の検知方式で使用するいわゆるパッシブな検知システムも存在する。次にパッシブコヒーレントロケーション(PCL)について述べる。純粋にパッシブなシステムは、航空交通監視のように重大な応用には適さない。しかし、連携的な方法により機会送信機を使用する「セミアクティブ」なシステムをこれらの送信機の運用者の同意に基づいて設置することは、少なくとも原理的には可能であろう。
【0005】
図1は、アクティブであれ、パッシブであれ、マルチスタティック検知の基本原理を示す。送信機ERは、空中を伝播し、2つの経路をたどって受信機RRに到達する電波信号SREを送信する:
− 直接経路、T
1、その長さL
1は、送信機と受信機との間の距離Dに等しい、及び
− 間接経路、T
2、検知されるべき標的C(ここでは、航空機)による反射を含み、前記標的の位置に依存するL
2>L
1である長さを示す。
【0006】
直接経路を辿った信号(基準信号)及び間接経路を辿った信号は、相異なる方向から受信機に到着する;したがって、これらは、たとえばビーム形成回路(受信パターンのデジタル合成)をもつアレーアンテナにより区別することができる。したがって、それらの相対的伝播遅延、Δt
p=ΔL/c=(L
2−L
1)/c(cは、電波信号の伝播速度、すなわち光の速度である)は、相互相関により決定でき、それによりL
2の計算が可能となる(L
1は、既知とされている)。次に、送信機及び受信機を焦点とする楕円面(点の軌跡として定義される)の上に標的が位置しており、また、2つの焦点からの標的までの距離の和がL
2(「バイスタティック距離」)に等しいことが分かる。少なくとも2つの他の送信機/受信機の対が利用可能である場合(たとえば、1つの送信機について少なくとも3つの受信機、又はその反対、或いは2つの送信機及び2つの受信機がある場合等)、標的Cの位置は、種々の楕円面間の交差により特定することができる。移動中の標的の場合、反射される信号は、ドップラー効果により周波数シフトされる。したがって、2つの信号間の種々の周波数シフトを導入して相関を数回計算する。相関を最大にする周波数シフトの値が、「バイスタティック速度」(それは、バイスタティック距離L
2の時間に関する微分係数である)の決定を可能にする。標的の速度ベクトルは、3種類の「バイスタティック速度」に基づいて得ることができる。
【0007】
容易に分かることであるが、直接伝播が可能であるためには、送信機及び受信機が「見通し線上」に存在しなければならない。これは、地表の湾曲のために、それらの間の距離が高々数十キロメートルを超えられないことを意味する。両者の少なくとも一方が高い高度にある場合は、この限りではないが、それは必ずしも可能ではないか又は望ましくない。これは、送信機の放射パターンが検知条件の関数として定義されるアクティブマルチスタティックレーダーでは問題ではないが、航空交通監視に適用されるパッシブな検知システムでは問題となる。
【0008】
標的の位置特定は、検知のために使用される電波信号の帯域幅に依存する値をもつ不確定性の影響を被る。これは、航空交通監視のために使用できる機会送信機の選択を制限する。実際、FMラジオ放送の送信機(約20kHzの帯域幅)の使用は、およそ1kmの不確定性に通じ、したがって民間航空交通の監視には適さない(しかし、それは、他の応用、たとえば航空機検知には適する)。他方、テレビジョン信号(約10MHzの帯域幅)は、およそ20mの不確定性の実現を可能とし、これは民間航空交通監視に十分である。しかし、テレビジョン送信機は、地面にほぼ平行なビームを送信し、且つ、垂直平面において、小さい(およそ2°〜4°の)開口角を示す。これは、30,000フィート(約9144m)の高度で飛行する航空機は300km超離れた場所に位置するテレビジョン送信機のみにより照射されることを意味する。
【0009】
この状況を
図2により示す。この図は(それは原寸に比例していない)、地球の表面−球面−ST上に位置している送信機ERを表している。送信機は、比較的狭いビームの形態の電波信号SREを送信する。この電波信号は、送信機のレベルにおける地表STに対する接平面に平行な平均方位に沿って伝播する。点線TVは、民間航空機である標的の飛行軌跡を表す。この線は、地表に平行であり、地表からおよそ9,000mの距離Hを維持している。送信機ERから遠く離れている検知域ZDにおいてビームSREが軌跡TVを捕捉することが分かるであろう。他方、地表STに関して高々数十メートルの高さをもつ受信機RRは、ビームSREを捕捉できるように送信機ERにより近い位置を占めなければならない。
【0010】
その結果、パッシブマルチスタティックレーダーを形成するテレビジョン送信機及び受信機のグループにより確保される受信可能範囲は、空中監視の対象たる高高度において「ブラインドコーン」を示す。
図3A及び3Bは、テレビジョン送信機Tx及び「見通し線」(「LOS」)上に位置するように送信機の周りの約30kmの半径内に位置する3つの受信機Rxにより構成されるマルチスタティックシステムの場合におけるこの効果を示す。
図3Aでは、領域RC
1000は、1000フィート(304.8m)の高度における受信可能範囲を示す:それがほぼ凸形状を示していることが分かる。他方、
図3Bでは、領域RC
30.000は、30,000フィート(9144m)の高度における受信可能範囲を表す。これは、円環の形状をもっている;送信機及び受信機が配置されている中央の領域には、この受信可能範囲は存在しない。円環の中断は、送信機と受信機との間の整列の方向に対応し、この方向の受信機の放射パターンは直接信号を拒絶するためにゼロを示している。円環形状検知領域を使用して空域の全体を覆うことが実際的でないことは容易に分かる。テレビジョン送信機の位置はこの応用のために最適化されていないので、なおさらである。さらに、送信機及び受信機から数百キロメートルの距離に位置する標的のパッシブ位置特定は、信号の受ける相当な減衰により、さらに困難となる。
【0011】
文献国際公開第03/014764号は、送信機又は送信機群の見通し線上に受信機を置くことを必要としない連携コヒーレント位置特定の方法を開示している。この方法は、基準直接信号の欠如を軽減するために送信機により送信される信号の中に挿入される事前定義シーケンスの検知を使用する。この技術は、送信される信号の変更を必要とするので、抑制的である。さらに、受信された信号の統合は、事前定義されたシーケンスの継続時間(それは、一般的にかなり短い)中にのみ行われ得る;これは、この方法が良好な信号対雑音比条件の下でのみ実行できることを示唆している。
【0012】
文献欧州特許第1972962号は、送信機の見通し線上に受信機を置くことを必要としない非連携的パッシブコヒーレント位置検知の方法を開示している。この方法は、基準直接信号の欠如を軽減するために標的による反射後に受信された信号の独特の文字(「指紋」)の抽出を使用する。かかる技術は、制限的仮定、とりわけ高い信号対雑音比の下でのみ機能することができる。さらに、デジタル変調よりアナログ変調に向いているように思われ、それは機会信号がより広く広がっているからである。
【0013】
Thales Air Systems for Eurocontrol社(航空安全のためのヨーロッパの組織)により作成された最終レポート、「ADT−Alternative Detection Techniques to Supplement PSR Coverage」は、送信機から受信機へデータ伝送リンク、たとえば有線により基準信号を送信することができるアクティブマルチスタティックレーダーシステムについて記述している。かかるシステムは、数十キロメートルの距離にあらかじめ定められたレイアウトに従って配置された専用送信機及び受信機から構成される。機会信号の利用は考慮されない。
【0014】
M.R.Inggsらによる論文、「Commensal radar using separated reference and surveillance channel configuration」,Electronics Letters,Vol.48,No.18,30 August 2012は、機会送信機及び前記送信機から見通し外の受信機を含み、かつ、機会信号を使用する航空監視用バイスタティックレーダーを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第03/014764号
【特許文献2】欧州特許第1972962号明細書
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Thales Air Systems for Eurocontrol社(航空安全のためのヨーロッパの組織)により作成された最終レポート、「ADT−Alternative Detection Techniques to Supplement PSR Coverage」
【非特許文献2】M.R.Inggsらによる論文、「Commensal radar using separated reference and surveillance channel configuration」,Electronics Letters,Vol.48,No.18,30 August 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、先行技術の上記の欠点を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的の達成を可能にする本発明の主題は、標的の位置を特定する方法であって、
a)M≧1台の送信機により送信され、前記標的により反射される機会電波信号をN≧1台の受信機により受信するステップであって、N・M≧3であり、前記送信機又は少なくとも1つの前記送信機は前記受信機又は少なくとも1つの前記受信機の見通し外に配置される、受信するステップと、
b)前記受信機又は少なくとも1つの前記受信機の見通し外に配置される前記送信機又はそれぞれの前記送信機により送信される電波信号を表す1つ又は複数のいわゆる基準信号をデータ伝送リンクにより受信するステップと、
c)前記電波信号及び前記基準信号又は前記基準信号群に基づいて前記標的の位置を決定するステップと
を含むことを特徴とする方法である。
【0019】
既知の方法では、「機会信号」は、標的の検知を可能にする目的ではなく、何らかの別の機能、たとえば情報送信を行うために送信された信号を意味すると言えるであろう。これらは、主としてラジオ放送の又はテレビジョンの信号である。機会信号の使用は好ましいが、かかる方法は非機会信号も使用することができる。
【0020】
データリンクは、デジタルでも(好ましい実施形態)又はアナログでもよい。
【0021】
本発明に従って、基準信号を送信するためにデータ伝送リンク(それは、公衆通信ネットワーク又は民間通信ネットワーク又は専用リンク、とりわけ有線でもよい)を使用することは、見通し条件が満たされなければならない場合に比べて送信機又は送信機群からより遠くに受信機を配置することを可能にする。
【0022】
本発明の種々の実施形態によれば:
− 前記ステップc)は、見通し外に配置される前記送信機又はそれぞれの前記送信機からの直接伝播が可能であれば前記受信機又はそれぞれの前記受信機によりかかる直接伝播により受信されるであろう電波信号の複製の前記基準信号又は前記基準信号群に基づく再構成を含み得る。
− 前記再構成は、前記複製の周波数シフトの動作を含み得る。
− 前記再構成は、前記基準信号又は前記基準信号群の前記データ伝送線路沿いの伝送遅延の補償の動作を含み得る。
− 前記再構成は、見通し外に配置される前記送信機又はそれぞれの送信機と前記受信機又はそれぞれの前記受信機との間の距離に比例する遅延を挿入する前記複製の時間的シフトの動作も含み得る。
− 前記ステップc)は、前記送信機又は送信機群及び前記受信機又は受信機群により共有される共通時間基準を用いて実現され得る。
− 前記ステップc)は、以下を含み得る:前記受信機又は少なくとも1つの前記受信機と、前記送信機又は少なくとも1つの前記送信機と、前記標的との間の少なくとも3つのバイスタティック距離の計算(この状態計算は、前記受信機又は前記受信機群により受信された信号と前記複製との間の相関により行われる):及び前記バイスタティック距離に基づく前記標的の位置特定。
− より具体的には、前記ステップc)は、前記複製の前記共通時間基準との反復的な同期の動作を含み得る。この同期は、3つの前記バイスタティック距離の種々の組を使用することにより決定される前記標的の位置間の不一致を最小化することにより行われる。あるいは、前記ステップc)は、前記電波信号及び前記基準信号又はそれぞれの前記基準信号中に含まれる時間マーカーによる前記複製の前記共通時間基準との同期の動作を含み得る。
− 前記相関は、種々のドップラー効果を示す複数のバージョンの前記複製を使用して行うことができる。その結果は、前記標的の移動の速度を決定するためにも使用することができる。
− 前記ステップc)は、前記送信機と前記受信機との間の直接伝播をシミュレートするために前記複製を等化する動作も含み得る。
− 前記電波信号として、テレビジョン信号を用いることができる。
− 前記基準信号又は各基準信号として、ソース信号を用いることができる。すなわち、このソース信号に基づいて複数の前記送信機がそれぞれの変調パラメータを使用して対応する電波信号を生成する。
【0023】
本発明の別の主題は、かかる方法の航空機位置特定、とりわけ航空交通の一次監視への応用である。
【0024】
本発明のさらに別の主題は、機会電波信号のM≧1台の送信機と、前記電波信号を受信するためのN≧1台の受信機であって、N・M≧3であり、前記送信機又は少なくとも1つの前記送信機は前記受信機又は少なくとも1つの前記受信機の見通し外に配置される受信機と、データ処理手段とを含むマルチスタティックレーダーシステムであって、このシステムは、前記受信機又は少なくとも1つの前記受信機の見通し外に配置される前記送信機又はそれぞれの前記送信機により送信される電波信号を表す1つ又は複数のいわゆる基準信号を前記データ処理手段に送信するためのデータ伝送リンクも含み、前記データ処理手段は、前記受信機又は前記受信機群により受信される電波信号及び前記基準信号又は前記基準信号群に基づいて、前記送信機又は前記送信機群により送信される電波信号を反射する標的の位置を決定するように構成又はプログラムされることを特徴とする。
【0025】
かかるシステムの種々の実施形態に従って:
− 前記基準信号は、ソースファイルを表すことができ、このソースファイルに基づいて複数の前記送信機がそれぞれの変調パラメータを使用して対応する電波信号を生成する。
− 前記電波信号は、デジタル地上テレビジョン信号でもよい。
− 前記データ処理手段は、以下を含むことができる:ローカル装置であって、それぞれの受信機に関係付けられ、かつ、以下:前記基準信号又は少なくとも1つの前記基準信号を受信すること;前記基準信号又は前記基準信号群に基づいて、見通し外に配置される前記送信機又はそれぞれの前記送信機からの直接伝播が可能であれば前記受信機によりかかる直接伝播により受信されるであろう電波信号の複製を再構成すること;及び前記受信機により受信された信号と前記複製との間の相関により、前記受信機と、前記送信機又は少なくとも1つの前記送信機と、前記標的との間の複数のバイスタティック距離を計算することを行うようにプログラム又は構成されるローカル装置;及び前記ローカル装置から対応するバイスタティック距離を受信し、かつ、それを使用して前記標的の位置を決定するように構成又はプログラムされる中央装置。
− このシステムは、前記送信機又は送信機群により、前記受信機又は受信機群により、及び前記データ処理手段により共用される共通時間基準を得るための装置も含み得る。
【0026】
本発明のさらに別の主題は、かかるマルチスタティックレーダーシステムを一次レーダーとして含む航空交通を監視するためのシステムである。
【0027】
本発明による方法及びシステムは、「セミアクティブ」又は「セミパッシブ」と名付けることができる。実際、純粋にパッシブな方法及びシステムのように、この方法及びシステムは、標的の検知に適するようにするために変更することを必要としない機会信号を使用する。しかしながら、この目的のために設けられるデータリンクにより基準信号を送信しなければならない送信機側において、ある種の連携が必要である。
【0028】
本発明のその他の特徴、詳細及び長所は、例示される添付図面を参照しつつ与えられる記述の読了により明らかとなるであろう。図面の内容は、それぞれ、以下のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、マルチスタティック検知の原理を示す。
【
図2】
図2は、テレビジョン送信機に生成された電磁波のビームの伝播を示す。
【
図3A】
図3Aは、従来の受動的マルチスタティックシステムにより1000フィートの高度において得られるレーダー受信可能範囲を示す。
【
図3B】
図3Bは、従来の受動的マルチスタティックシステムにより30,000フィートの高度において得られるレーダー受信可能範囲を示す。
【
図4】
図4は、本発明による方法の基礎原理を示す。
【
図5】
図5は、本発明の第1実施形態によるシステムの機能図である。
【
図6】
図6は、前記第1実施形態の代替案、本発明の第2実施形態によるシステムの機能図である。
【
図7】
図7は、本発明の前記第2実施形態によるシステムの総合機能図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図4に示すとおり、本発明による検知方法は、送信機ERの見通し外に配置される少なくとも1つの受信機RRの使用に基づいている。この図の場合、送信機と受信機間に介在しているのは、地表の曲面である。別の実施形態では、それは山岳のような障害物であろう。見通し線上にない送信機及び受信機は、信号SLDを運ぶデータ伝送線路LDにより結合される。受信機RRは、この信号を使用して、送信機から発生する信号の直接伝播が可能であった場合に受信されるであろう信号の複製を再構成する。標的Cのバイスタティック距離は、したがって、このように再構成された前記複製及び送信機ERにより生成され、前記標的による反射後に受信機に到達した電波信号に基づいて決定される。
【0031】
データ伝送線路は、有線(同軸ケーブル、光ファイバ等)でも、実に無線(この場合、中継所を用いる必要がある)でもよい。それは、専用線でも通信ネットワークの一部でもよい。その待ち時間は既知であるか、又は、たとえば後刻詳述する同期メカニズムにより測定可能であるか、又は少なくとも一定であるか又は実際にゆっくりと変化することが望ましい。
【0032】
基準信号SLTは、アナログでもよいが、好ましくはデジタルである。それは、電波信号SREの複製(デジタル化してもよい)―通常、中間周波数又は実際にベースバンドに変換される―でよいが、より一般的には前記電波信号を再構成するために必要なすべての情報を伝えるものであれば任意の信号でよい。
【0033】
図5は、本発明の第1実施形態による検知システムの構造及び動作をさらに詳しく示している。送信機ERは、デジタルテレビジョン送信機である。それは、中央放送局SCDからMPEGファイルを構成するバイト列を表すデジタルソース信号SSを受信する。この信号は、送信機固有の変調パラメータによりパラメータ化されるデジタル変調器MODを駆動する。それによりMODは、中間周波数の信号を生成する。この信号は、
− 一方において、送信アンテナにより電波信号SREの形態で照射されるために無線周波数に変換される;
− 他方において、デジタル形式で(デジタル基準信号SLDの形態で)データ伝送線路LDに沿って送信されるために標本化・量子化される。受信機RRのレベルにおいて、複製再構成モジュールRSRは、このデジタル信号を使用して信号SREFを再構成又は再生する。このSREFは、前記受信機のアンテナにより直接伝播により受信されたであろう信号を「模倣」する信号である(中間周波数に変換され、適切な場合にはデジタル化される)。したがって、モジュールRSRは、再構成された複製SREFを電波信号が送信機と受信機を隔てている距離を進むための仮想伝播時間からデータ伝送線路LDの待ち時間を引いた時間に等しい時間だけ遅延させなければならない。これは、送信機と受信機との間の共通時間基準HORの存在により可能になる。それは、たとえばGPSクロックでよい。
【0034】
大気中における伝播により取り入れられる周波数フィルタリングを模倣するために、再構成された信号の等化を考えることもできる。
【0035】
従来の方法では、受信機は、検知対象の標的上の反射により到着する電波信号SREを受信するアレーアンテナARも含んでいる。このアレーアンテナは、収集される信号を最大化するようにその受信ローブを決定するビーム合成回路SFにより駆動される。実際に、送信機が見通し線上にない場合においても、適応アンテナが使用されなかった場合、受信機は、同じ周波数で運用しているより近くの送信機から発生する干渉を拾うであろう。アンテナにより受信される信号は、中間周波数への変換を含む前処理後に、再構成された複製SREFとともに相関器モジュールXCに伝えられる。相関器モジュールXCは、これらの2つの信号と種々の時間シフト及び周波数シフトとの相互相関を計算し、かつ、この相関を最大化するシフトを決定する。このようにして識別された時間シフトは1項目の情報、標的のバイスタティック距離に関するΔLを提供し、また、周波数シフトはそのバイスタティック速度に関するΔfを提供する。したがって、各受信機は、それがデータ伝送線路LDにより結合されている各送信機に関する1対の値(ΔL、Δf)を決定する。中央処理装置UCは、複数の受信機により伝えられるこれらの値を収集し、かつ、−先行技術に従って−それらを使用して前記標的の位置を特定し、また、その速度ベクトルを決定する。
【0036】
図6の方式図は、伝送線路LDに沿って送信される信号がソース信号SSである第2の実施形態を示している。この場合、基準信号の再構成に役立つ中間周波信号を再構成するために変調器MOD’が受信機レベルに設けられなければならない。受信機のこのさらなる複雑化は、データ伝送線路の相当な簡素化の対偶をなす。実際に、中央放送局SCDは、全く同一のソース信号SSを数台の送信機に送信することができる。これらの送信機は、それぞれの電波信号を生成するために、それらの固有変調パラメータをこのSSに適用する。第2実施形態では、データ伝送線路は、第1実施形態の場合の送信機により生成された種々の変調された信号ではなく、この単一ソース信号を受信機に送信しなければならない。
【0037】
図7は、前記第2実施形態によるシステムの一般的構造を概略表示している。このシステムは、ソース信号SSを2つの送信機ER1、ER2及び(データ伝送線路LDにより)3つの受信機RR1、RR2、RR3に送信する中央放送局SCDを含んでいる。各受信機は、アンテナ及びローカルデータ処理装置UL1〜UL3を含んでいる。各前記ローカル処理装置は、変調、複製の再構成及び相互相関のブロックを含み(これらの動作方法についてはすでに述べた)、かつ、2対の値(ΔL
i、Δf
i)
jを生成する。ここで“i”は送信機(i=1,2)を識別し、“j”は受信機(j=1,2,3)を識別する。これらの値は、中央処理装置UCに送られる。中央処理装置は、それらを使用してその(又は各)標的の位置
【数1】
及び速度
【数2】
を計算する。
【0038】
標的の位置を特定するために3つの値ΔL
iで十分であることが分かるであろう。ここで、
図7のシステムには、これらの値が6とおり存在する。したがって、位置
【数3】
は20種類の方法で計算することが可能であり、かつ、避けられない誤差及び不正確さのために、20種類の位置が得られる。これらの冗長性を使用して、種々の計算された位置間の平均二乗誤差の最小化を可能にするタイミング修正を決定することにより受信機と送信機との間の同期を改善することが可能である。極限において、これは、伝送リンクの待ち時間が一定であるか、又は少なくともゆっくり変化することを条件として、外部クロックに依存する必要なく共通時間基準を決定することを可能にするであろう。したがって、最小二乗システムをそれぞれの送信および受信の経路の1つの未知数により補うだけで十分である。測定値の個数が十分である場合、これらの未知項の識別は可能である。
【0039】
図8A及び8Bは、本発明の技術的成果の評価を可能にする。これらの図は、送信機及びそれらが離れているために前記送信機の見通し線上に存在しない4台の受信機を含む本発明による検知システムにより得られる受信可能範囲を示す。
図8Aにおいて領域RC’
1000は、1000フィート(304.8m)の高度における受信可能範囲を示す。
図3Bにおいて領域RC’
30.000は、高度30,000フィート(12,192m)における受信可能範囲を示す。後者の高度においても送信機−受信機距離間隔増大による「ブラインドコーン」は存在しない。