特許第6449265号(P6449265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6449265有機組織の超音波損傷の特性を決定する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6449265
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】有機組織の超音波損傷の特性を決定する方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 7/02 20060101AFI20181220BHJP
   A61B 8/14 20060101ALI20181220BHJP
【FI】
   A61N7/02
   A61B8/14
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-521279(P2016-521279)
(86)(22)【出願日】2014年10月7日
(65)【公表番号】特表2016-538012(P2016-538012A)
(43)【公表日】2016年12月8日
(86)【国際出願番号】FR2014052539
(87)【国際公開番号】WO2015052428
(87)【国際公開日】20150416
【審査請求日】2017年7月14日
(31)【優先権主張番号】1359727
(32)【優先日】2013年10月8日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】511004944
【氏名又は名称】エダップ テエムエス フランス
【氏名又は名称原語表記】EDAP TMS FRANCE
(73)【特許権者】
【識別番号】592236234
【氏名又は名称】アンスティテュー・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル・(イ・エヌ・エス・ウ・エール・エム)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE (I.N.S.E.R.M.)
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100202201
【弁理士】
【氏名又は名称】兒島 淳一郎
(72)【発明者】
【氏名】ムロドゥリマ,ダヴィド
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンスノ,ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】ブラン,エマニュエル
【審査官】 中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−519504(JP,A)
【文献】 特表2009−508619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 7/02
A61B 8/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射面がトロイダル形状または準円筒形状を有するプローブ(2)によって送出される高密度焦点式超音波を照射することによって形成された有機組織の超音波損傷(T)の特性を決定するための画像を取得および処理する方法であって、
前記超音波を照射する前に、前記有機組織の基準画像(Ir)を取得することと、
超音波照射の終了から少なくとも2日経ってから、前記有機組織の少なくとも1つの特性決定画像(Ic)を取得することと、
デジタル画像処理を用いて、前記特性決定画像(Ic)においてコントラスト境界(16)の存在を検出することと、
前記コントラスト境界(16)に基づいて前記超音波損傷の範囲を判定して治療マージンの大きさを推定するために、前記基準画像および前記特性決定画像(Ir,Ic)を処理することと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記特性決定画像(Ic)において、デジタル画像処理を用いて、閉じたコントラスト境界(16)の存在を検出することを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
超音波による特性決定画像(Ic)を取得することと、
前記超音波による特性決定画像(Ic)の前記コントラスト境界(16)の内側で、高レベルエコー領域(14)と、前記高レベルエコー領域(14)および前記コントラスト境界(16)の近傍に位置する低レベルエコー領域(15)とを特定することと、
を含むことを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記特性決定画像(Ic)中の前記超音波損傷によって定められる面積と前記基準画像(Ir)中の腫瘍によって定められる面積との比を前記損傷の範囲についてマージンの大きさを推定するために算出することを含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
複数の特性決定画像(Ic)と複数の基準画像(Ir)とを用いて、前記複数の特性決定画像(Ic)中の前記超音波損傷によって定められる体積と前記複数の基準画像(Ir)中の前記腫瘍によって定められる体積との比を、前記比から前記超音波損傷の範囲についてマージンの大きさを推定するために算出することを含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記超音波照射の終了から6日〜30日後に、前記特性決定画像(Ic)を取得することを含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記超音波照射の終了から8日後に、前記特性決定画像(Ic)を取得することを含むことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度焦点式超音波(HIFU)の技術分野に関し、より詳細には、集束超音波を照射することによって生じた有機組織の損傷の特性を決定することに関する。
【背景技術】
【0002】
局所的な固形がん性腫瘍の治療において、最善の治療法は、通常、依然として外科的切除である。外科的切除によれば、がん性組織を取り除くことができ、また、切除マージンが陰性である場合、局所転移のリスクを最小限に抑えられる。
【0003】
しかし、その治療法には2つの制約がある。
・外科手術が侵襲的であり、処置のリスク対効果比を低減させる可能性がある。
・切除マージンが陰性であること、すなわち、全ての腫瘍細胞が確かに取り除かれていることが必要となる。
【0004】
HIFU治療技術は、侵襲の少ない有利な解決方法を提供する。その原理は、破壊対象である腫瘍領域(「目標」領域とも称する)に超音波ビームを集束させることにある。生体組織が超音波エネルギーを吸収すると、温度が大幅に上昇し、それにより超音波ビームの焦点で組織の即時かつ不可逆な壊死が生じる一方で、超音波トランスデューサと焦点との間に介在している組織は損傷を免れる。
【0005】
その代わり、上記処置は侵襲的ではないため、処置マージンの観察に関する問題が複雑である。切除時には、執刀医は、処置範囲を広げるか否かを決定するために、生体組織のサンプルを採取し、該サンプルを分析して、切除マージンを調べることができる(即時分析)。このサンプル採取および分析は、非侵襲的なHIFU処置を行う場合には実施できない。
【0006】
この課題に対処するために、いくつかの解決方法が考えられる。それら解決方法は全て、破壊対象である組織領域の位置を正確に視覚化することが可能な高性能の手術前または手術後イメージングを利用する。この段階で、治療マージン、すなわち、目標領域から処置を広げるべき最小限の距離が確定されることが多い。処置中、実時間イメージング装置により、処置対象の器官をイメージングして、目標領域を観察し、それに合わせて治療器具を配置することが可能になる。処置の終了後、治療マージンを観察することに関して、形成された生体損傷を処置器具に接続されたイメージング手段によって可視化できるか否かに応じて、複数の解決方法が提案できる。
【0007】
生体損傷を可視化できない場合(前立腺などの特定の器官に対する放射線治療や集束超音波治療)、治療器具が手術前計画に沿って適切に配置されたことを確認するために、コンピュータツール(多重モード画像合成)が用いられることが多い。しかし、このような「再調整」ツールを用いるとはいえ、目標領域の全体が処置されたことを確認するのに十分な広さの治療マージンを採用するのが適切である。
【0008】
形成された生体損傷を可視化できる場合、マージンを視覚的に観察でき、手術者は、生体損傷が確かに目標領域の全体に及んでいることを様々な断面で確認できる。しかし、視覚化された生体損傷が、破壊された生体組織の領域を確かに表わしていることを確認することがやはり適切である。例えば、破壊された生体領域の画像は、治療原理上生じる組織の局所的な脈管遮断に依存する場合があり、この脈管遮断は、核磁気共鳴イメージング(MRI)または超音波イメージングにおいて低レベル信号を発生させる。しかし、脈管遮断は確実に細胞死を表わすわけではなく、局所転移のリスクを完全には排除できない。
【0009】
細胞死を正確に表現でき、かつ非侵襲的検査に適合するイメージング手段がなければ、侵襲の少ない処置の最中に治療マージンを検査するという課題は十分には解決されないままである。
【0010】
新たな超音波イメージング技術(エコーイメージングとも称される)が、Bモード(二次元輝度モード)型の従来のエコーイメージングでは観察できない組織損傷をイメージングするために開発されている。
【0011】
組織が超音波処置によって加熱された後の組織の弾性の違いを利用する技術がある(弾性イメージング)。文献"Performance assessment of HIFU lesion detection by harmonic motion imaging for focused ultrasound (HMIFU): a 3-D finite element-based framework with experimental validation", by Gary Y. Hou et al., Ultrasounds in Medicine and Biology, New York, NY, US, Vol. 37, No. 12, September 6, 2011は、このような方法を記載している。それらの方法は複雑であり、特異で高価かつ汎用されていないイメージングシステムを必要とする。
【0012】
特定の画像処理アルゴリズムにより、Bモード型の従来のエコー画像において、処置された組織と処置されていない組織との間のコントラスト差を強調することが可能な場合がある。そのような方法は複雑であり、実際の臨床用途にとって十分な堅牢性を欠いていることが多い。文献"Ultrasound image enhancement for HIFU lesion detection and measurement" by Sheng Yan et al., 9th International Conference on Electronic Measurement & Instruments, 2009 - August 16-19, 2009, Beijing, China - Proceedings, IEEE, pp. 4-193 - ISBN: 978-1-4244-3863-1 - Section III Experimental result on HIFU monitor imageは、このような方法を提案している。コントラスト差を強調することにより、処置された組織と処置されていない組織とを区別すること(セグメンテーションと称する)が容易になるものの、処置された領域の輪郭を自動的にセグメント化できるようにするためには、やはり強力なアルゴリズムに頼る必要がある。文献"Ultrasound segmentation: A survey", by J. Alison Noble, IEEE Transactions on Medical Imaging, Vol. 25, No. 8, August 2006, pp. 987-1010は、セグメンテーションの分野の最近の発展に関して検討しており、超音波イメージングの分野でのこの課題の格別な困難性を強調している。
【0013】
画像処理およびセグメンテーションの上述した方法は依然として複雑であり、一般的な仕方で使用するには未だ堅牢性が不十分である。そのため、HIFU処置などの非侵襲的な、または侵襲の少ない方法で処置された有機組織の損傷の特性を決定する方法を開発する必要が生じている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は、放射面がトロイダル形状または準円筒(pseudo-cylindrique)形状を有するプローブによって送出される高密度焦点式超音波を照射することによって形成された有機組織の超音波損傷の特性を決定する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、上記方法は、
・超音波照射の終了から少なくとも2日経ってから、処置された有機組織の少なくとも1つの特性決定画像を取得することと、
・上記画像においてコントラスト境界の存在を検出することと、
・上記コントラスト境界に基づいて、超音波損傷の範囲を判定することと、
を含む。
【0016】
特定の実施形態では、本方法は、以下の追加的特徴を1つ以上または全て有する。
・特性決定画像において、閉じたコントラスト境界の存在を検出すること;
・特性決定画像において、コントラスト境界の内側で超音波損傷を特定すること;
・超音波による特性決定画像を取得し、該超音波による特性決定画像のコントラスト境界の内側で、高レベルエコー領域と、該高レベルエコー領域およびコントラスト境界の近傍に位置する低レベルエコー領域とを特定すること;
・超音波を照射する前に有機組織の基準画像を取得して腫瘍を視覚化し、基準画像を特性決定画像と比較して治療マージンを観察すること;
・基準画像および特性決定画像を処理して超音波損傷の範囲を判定すること;
・特性決定画像中の超音波損傷によって定められる面積と基準画像中の腫瘍によって定められる面積との比を算出して、該比から損傷の範囲についてマージンの大きさを推定すること;
・複数の特性決定画像と複数の基準画像とを用いて、複数の特性決定画像中の超音波損傷によって定められる体積と複数の基準画像中の腫瘍によって定められる体積との比を算出して、該比から超音波損傷の範囲についてマージンの大きさを推定すること;
・6日〜30日後、好ましくはおよそ8日後に、特性決定画像を取得すること;および
・肝臓組織に相当する有機組織の損傷の特性を決定すること。
【0017】
上に定義した特性決定方法は、高密度焦点式超音波を照射するための工程を含んでおらず、ヒトまたは動物の体の外科的または治療的処置の工程を除外している。この方法は、そのような処置によって生じたと想定される損傷の特性を決定することのみを目的としている。この方法は、そのような処置の前に行われる1つまたは複数の工程を備えていてもよいが、その場合にも、そのような処置は含まない。
【0018】
さらに、本発明は、ヒトまたは動物の体の生体組織を処置して特性を決定する方法であって、放射面がトロイダル形状または準円筒形状を有するプローブによって送出される高密度焦点式超音波をヒトまたは動物の体内の生体組織に照射する工程と、上に定義した特性決定方法と、を含む処置工程を備える方法も提供する。
【0019】
その他の様々な特徴が、本発明の実施形態を非限定的な例として示す添付の図面を参照してなされる以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、トロイダル形状の放射面を有する超音波治療用プローブを示す図である。
図2図2は、そのようなプローブの有機組織の処置への適用を示す図である。
図3図3は、HIFU処置前の腫瘍のエコー画像である。
図4図4は、超音波照射の終了時に取得した損傷のエコー画像である。
図5図5は、超音波照射の終了から数えて8日後に取得した損傷のエコー画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書では、高密度焦点式超音波を照射することによって生じた有機組織の超音波損傷の特性決定に適用した場合について、本発明を説明する。超音波は、図1に示した、放射面がトロイダル形状である治療用プローブ1によって送出される。治療用プローブ1は、生物の組織を高密度焦点式超音波(HIFU)を用いて処置するように構成されている。治療用プローブ1は、特に、例えば圧電素子である1つまたは複数の超音波放射体3を有するトランスデューサ2を備えている。これら超音波放射体3は、超音波放射体3を起動するための信号を送出する制御回路7に、同軸ケーブル5により増幅段6を介して接続されている。制御回路7は、当業者の技術知識の一部であるため、これ以上詳細には説明しない。すなわち、制御回路7は、従来通り、増幅段6を介して超音波放射体に接続された制御信号発生器を備えている。
【0022】
トランスデューサ2は、焦点領域Zに集束される超音波を放射するための面8を有している。図2により詳細に示すように、この放射面8は、対称軸Sから距離R(Rはゼロではない)の位置にある曲率中心Cを有する長さlの凹状または凸状の曲線セグメント9を対称軸S周りに回転させることによって形成される回転面である。回転面8は、長さがl、半径がrで、中心cが対称軸Sから距離R(Rはゼロではない)の位置にある円弧状セグメントによって形成される。この回転面8の形状は、トロイダル形状とみなされる。
【0023】
図2に示す例では、曲率中心Cおよび曲線セグメント9が対称軸Sに対して同じ側に位置している。当然のことながら、曲率中心Cが、対称軸Sに対して曲線セグメント9の反対側に位置するようにも構成できる。この変形形態では、放射面8は、交差トロイダル形状になるとみなされる。
【0024】
図2に示す実施形態では、回転面8は、凹面が対称軸S側を向いた円弧状セグメントによって形成される。回転面8は、円弧以外の曲線セグメントによって形成されてもよいことはもちろんである。すなわち、回転面8は、曲線セグメントの各点と曲率中心Cとの間の距離rが連続的に(変曲点なしで)変化する曲線セグメント、例えば楕円状曲線セグメントなどによって形成されてもよい。
【0025】
上記の説明からわかるように、トランスデューサの放射面8はトロイダル形状である。一般化して述べると、トランスデューサの放射面8は、対称軸周りの回転によって超音波放射面を形成する曲線セグメントの形状に応じた形状を有しており、該曲線セグメントは様々な形状を有し得る。例えば、放射面8は、2つの対称な曲線セグメントを、これら2つの曲線セグメントを含む平面に垂直な方向に平行移動させることによって形成されてもよい。各曲線セグメントは凹状であって、有限長である。この変形形態では、放射面8は準円筒形状を有する。
【0026】
周知の通り、超音波プローブ1は、超音波の焦点領域Zが、処置すべき腫瘍に対応する目標領域または処置領域T内の有機組織に超音波損傷を生じさせる効果を持つように、体外法、術中法、または体腔内法によって配置される。図3は、処置すべき腫瘍に対応する目標領域Tの画像Irの例を示している。この「基準」画像Irは、HIFU処置の前に撮影された目標領域Tの手術前または手術中の画像である。
【0027】
従来、超音波の焦点領域Zは、目標領域Tに超音波損傷を生じさせるため、すなわち、この領域に組織壊死を生じさせるために、目標領域Tの全体を処置するように動かされる。このような移動は、超音波プローブ1を動かすことによって、または超音波放射体3を電子制御することによって行われる。このプローブ1を用いて超音波を照射する段階は、当業者にとって周知であり、また、本発明の主題の一部でもないため、これ以上詳細には説明しない。
【0028】
このように、本発明の方法は、放射面がトロイダル形状または準円筒形状を有するプローブによって送出される高密度焦点式超音波を照射することによって得られるような、目標領域T内の有機組織の超音波損傷の特性を決定することを目的とする。以下、この明細書では、本発明を肝臓に適用した例について説明する。ただし、本発明は、例えば、膵臓、乳房、子宮、腎臓、および胎盤などの人体のその他の器官の組織に適用してもよい。
【0029】
図4は、超音波を照射した直後に取得された超音波損傷の「初期」特性決定画像Iciを示している。説明する実施形態では、図4は、超音波イメージングシステムを用いて取得された目標領域Tのエコー画像である。ただし、当然のことながら、本発明はエコー画像に限定されず、MRIまたはスキャナによって得られる画像も包含する。
【0030】
図4は、超音波損傷に特有の高レベルのエコーを発生させている領域14を示している。集束超音波による加熱の間、焦点領域内の肝細胞または肝臓の細胞が破壊される。この壊死領域に、多数の空洞が出現する。各空洞は、肝小葉の中心に位置し、中心静脈と一致する。これらの空洞または組織間隙の存在が、この超音波損傷領域14の高レベルエコーの発現の要因である。
【0031】
さらに、特性決定画像Iciは、高レベルエコー領域14の近傍に位置する低レベルエコー領域15も示しており、この領域15は、超音波照射時に高レベルエコー領域14の温度よりも低い温度へと昇温された領域である。この低レベルエコー領域15では、超音波処置によって細胞融解が生じ、肝細胞中に初め存在していた細胞質小器官が破壊される。これら小器官の消滅が、壊死領域14を囲んでいる損傷領域15の低レベルエコーの発現の要因である。
【0032】
このように、本発明は、高レベルエコー領域14および低レベルエコー領域15に対応する超音波損傷Tの特性を決定することを目的としている。このために、本発明の方法は、まず第一に、超音波照射の終了から少なくとも2日経ってから、有機組織の特性を決定するための少なくとも1つの特性決定画像Icを取得することを含む。少なくとも2日とは、好ましくは、6日〜30日であり、典型的には、およそ8日である。図5に示す特性決定画像Icは、超音波イメージングシステムによって撮影された処置済み領域のエコー画像であるが、このような特性決定画像は、他のタイプのイメージングシステムによって得られてもよいことは明白である。
【0033】
重要な特徴によれば、本方法は、特性決定画像Icにおいてコントラスト境界16の存在を検出して損傷の範囲を判定することを含む。「コントラスト境界」という用語は、高レベルエコー信号に対応する周辺の組織の光度よりも高い光度を示す幅の狭い事実上連続的な線を意味すると解されるべきである。コントラスト境界16は、図5に示す例では、薄く映っている。有利には、本方法は、この画像において、閉じた輪郭を有するコントラスト境界16の存在を検出することを含む。
【0034】
有利なことに、この境界は、現在低コストで広く入手可能な従来の、すなわち、Bモード(2次元輝度モード)型の超音波イメージングによって得られた画像において、処置された領域と処置されていない領域との間の不十分なコントラストを強調するための複雑な画像処理アルゴリズムに頼る必要なく、容易に検出できることがわかる。本方法によれば、分析対象の組織の音響インピーダンスの不連続点を検出することによってコントラスト境界を検出することが可能であり、該音響インピーダンスの不連続点は、従来のBモード超音波イメージングで、特に追加の処理を必要とすることなく直接検出され、可視化される。
【0035】
当然のことながら、HIFU処置時に、超音波放射によって生じる熱が周辺の細胞の原形質膜を弱体化させる。このような損傷を受けた膜は多孔質になる。浸透作用により、多量のカルシウムが細胞質内に入り込む。細胞がまだ機能している場合には、カルシウムの細胞内濃度の調節がミトコンドリアによって行われる。イオン濃度が上昇すると、ミトコンドリアが、溶解したカルシウムを固形の析出物へと変化させる。この現象は恒久的であるため、各ミトコンドリアが、結晶成長の開始を可能にする種晶となる。その後、このようにして生じた多数のカルシウム粒子によって境界16が形成される。
【0036】
典型的には、エコー画像において、境界16は高レベルエコーを発生させる。より詳細には、境界16は、ヒドロキシアパタイトの析出物によって形成される。特性決定画像には、上述したように、析出したカルシウムの凝集物に相当する固体物質の島が数多く出現する。詳細に述べると、超音波の照射から特性決定画像の撮影までの間に、有機体は、損傷の周囲にカルシウムの外殻を形成している。超音波が肝臓組織から石灰化した媒質へと伝わる際に生じる音響インピーダンスの不連続点によって、特性決定画像Icに高レベルエコー信号が発生し、この信号がコントラスト境界となって現れる。
【0037】
少なくとも2日、典型的には少なくとも6日後以降にこの境界16が出現することで、超音波処置の結果どの領域が破壊されたかを観察することが可能になる。境界16の外側にある肝細胞は不可逆的に破壊はされず、カルシウムを析出させることなく通常の機能を示す。逆に、境界16の内側にある肝細胞は、HIFU処置による熱にさらされており、不可逆的な凝固壊死をしていることが特徴である。それら肝細胞の機能は完全に破壊されているため、それら肝細胞はカルシウムを析出させない。正常な組織と破壊された組織との間の移行領域にある肝細胞はただ弱体化されているだけで、カルシウムを析出させてコントラスト境界を形成するのに十分な活性を保持している。したがって、境界16は、超音波損傷Tの範囲の特性を決定するのに役立つ。
【0038】
高レベルエコー領域14と低レベルエコー領域15の構成および境界16の構成は、使用された超音波トランスデューサ2のトロイダル形状または準円筒形状に由来する。互いに並列した複数の小さい体積に超音波同士を集束させる既存の技術(球状)と比較して、トロイダル形状または準円筒形状では、超音波エネルギーを1つの大きい体積に大規模に集積させることができ、それにより、強力な超音波照射を受けて高レベルエコーを発現する空洞が形成された広い中央領域を形成できる。この領域の周辺では、超音波照射が比較的弱く、細胞融解を生じさせるだけであり、この細胞融解が、低レベルエコー画像として現われる。コントラスト境界16は、融解細胞と正常細胞との間の移行領域の縁部にある細胞によって形成される。
【0039】
図5にさらに明確に見られるように、境界16が低レベルエコー領域15を囲んでおり、低レベルエコー領域15自体は、上述したように、高レベルエコー領域14を囲んでいる。低レベルエコー領域15および高レベルエコー領域14は特性決定画像Icにも存在したままである。本発明によると、有利には、特性決定画像Icにおいて境界16が一旦検出されれば、超音波損傷T、すなわち、高レベルエコー領域14と、高レベルエコー領域14およびコントラスト境界16の双方の近傍に位置する低レベルエコー領域15とを特定できる。
【0040】
したがって、本発明では、損傷の範囲を判定するためには、特性決定画像Icにおいて境界16の存在を特定すれば足りる。本発明に係る超音波損傷の範囲を判定するための境界16の特定は、目視によって、またはデジタル画像処理を用いることによって、実施できる。典型的には、境界16の検出は、画像処理を用いて、点の集合によって構成される閉じた境界または閉じた環を検出することを含む。
【0041】
本発明の好ましい実施形態では、本方法は、例えば図3に示す画像のように腫瘍を視覚化するために、超音波を照射する前に有機組織の基準画像Irを取得することを含む。本方法は、マージンの大きさを調べ、マージンが陰性であることを確認するために、基準画像Irを特性決定画像Icと比較することを含む。
【0042】
さらに、基準画像Irと特性決定画像Icとを比較することによって、損傷の範囲についてマージンの大きさを推定できる。本発明によれば、このことは、超音波損傷の範囲についてマージンの大きさを推定するために、特性決定画像Ic中の超音波損傷によって定められる面積と基準画像Ir中の腫瘍によって定められる面積との比を算出するだけで行える。有利な実施形態では、本発明は、複数の基準画像Irおよび複数の特性決定画像Icを撮影することを含む。この場合、まず複数の特性決定画像Ic中の超音波損傷によって定められる体積を、次に複数の基準画像Ir中の腫瘍によって定められる体積を定め、それから超音波損傷の範囲についてマージンの大きさを上記体積に応じて推定することができる。
【0043】
本発明は、説明し図示した例に限定されず、本発明の範囲を逸脱しない限り、様々な変更を上記例に適用してもよい。
図1
図2
図3
図4
図5