特許第6449342号(P6449342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6449342スチレン及びメチルメタクリレートに基づくナノ構造化ブロック共重合体フィルムの周期をコントロールする方法、及びナノ構造化ブロック共重合体フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6449342
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】スチレン及びメチルメタクリレートに基づくナノ構造化ブロック共重合体フィルムの周期をコントロールする方法、及びナノ構造化ブロック共重合体フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20181220BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20181220BHJP
   C08F 293/00 20060101ALI20181220BHJP
   C08F 297/02 20060101ALI20181220BHJP
   G03F 1/38 20120101ALI20181220BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20181220BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20181220BHJP
【FI】
   C08J7/00 301
   C08J7/00CEY
   C08J5/18CET
   C08F293/00
   C08F297/02
   G03F1/38
   B82Y30/00
   B82Y40/00
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-572506(P2016-572506)
(86)(22)【出願日】2015年6月1日
(65)【公表番号】特表2017-524760(P2017-524760A)
(43)【公表日】2017年8月31日
(86)【国際出願番号】FR2015051430
(87)【国際公開番号】WO2015189495
(87)【国際公開日】20151217
【審査請求日】2017年2月6日
(31)【優先権主張番号】1455294
(32)【優先日】2014年6月11日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ナヴァロ, クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ニコレ, セリア
(72)【発明者】
【氏名】シュバリエ, ザビエル
【審査官】 芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−166933(JP,A)
【文献】 特開2005−029779(JP,A)
【文献】 特開2010−180353(JP,A)
【文献】 特開平03−079613(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/069642(WO,A1)
【文献】 特表2012−527752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00−02,5/12−22
B29C 71/04
C08J 7/00−02,7/12−18
C08F 251/00−283/00,283/02−289/00,
291/00−297/08
B82Y 30/00
B82Y 40/00
G03F 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
50kg/モル超、又は100kg/モル超かつ250kg/モル未満の分子量Mpを有するベースブロック共重合体であって、その少なくとも1つのブロックがスチレンを含み、かつその少なくとも1つの他のブロックがメチルメタクリレートを含むベースブロック共重合体から得られる、ナノドメインへとナノ構造化されるブロック共重合体フィルムであって、前記ブロック共重合体フィルムは、スチレン系ブロックが、スチレン及びジフェニルエチレン(DPE)のP(S−co−DPE)共重合体によって形成されること、並びに、スチレン系ブロックに組み込まれるジフェニルエチレン(DPE)のモノマー単位としての相対的比率が、それが共重合するスチレンコモノマーに対して、1%から25%の間、又は1%から10%の間であることを特徴とする、ブロック共重合体フィルム。
【請求項2】
各ブロックの分子量Mpが、15kg/モルから100kg/モルの間、又は30kg/モルから100kg/モルの間であり、分散指数が、2以下、又は1.02から1.70の間であることを特徴とする、請求項1に記載のブロック共重合体フィルム。
【請求項3】
ブロックの数nが、n≦7、又は2≦n≦3であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のブロック共重合体フィルム。
【請求項4】
スチレン系共重合体ブロック(P(S−co−DPE))のコモノマーが、統計型又は勾配型の配列を有することを特徴とする、請求項1からの何れか一項に記載のブロック共重合体フィルム。
【請求項5】
50kg/モル超、又は100kg/モル超かつ250kg/モル未満の分子量Mpを有するベースブロック共重合体であって、その少なくとも1つのブロックがスチレンを含み、かつその少なくとも1つの他のブロックがメチルメタクリレートを含むベースブロック共重合体を用いて、ブロック共重合体フィルムのナノドメインへのナノ構造化の周期をコントロールするための方法であって、以下の、
スチレンを含有する前記ベースブロック共重合体のブロック中に、1つ又は複数のジフェニルエチレン(DPE)コモノマーを組み込むことによって、P(S−co−DPE)共重合体ブロックを形成する、前記ブロック共重合体の合成工程と、
フィルムの形態の前記ブロック共重合体の溶液の表面への塗布工程と、
溶液の溶媒のエバポレーション工程と前記所定の温度におけるアニーリング工程と
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項6】
合成が、コントロールされるラジカル重合によって実施されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項7】
合成が、アニオン重合によって実施されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項8】
アニーリング工程が、前記表面上に堆積されたブロック共重合体フィルムのナノ構造化を可能にし、230℃よりも低い、又は210℃よりも低い温度Tで実施されることを特徴とする、請求項からの何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
ブロック共重合体フィルムのナノ構造化を可能にするアニーリング工程が、溶媒雰囲気下で、若しくは熱的に、又はこれら2つの方法の組合せによって実施されることを特徴とする、請求項からの何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
アニーリング工程時に、共重合体ブロックが、5分以下、2分以下、又は1から2分の間の動態でナノドメインへと組織化されることを特徴とする、請求項からの何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
スチレン系共重合体ブロックに組み込まれたジフェニルエチレンコモノマーが、これが共重合するスチレンコモノマーに対して、1%から25%の間の、又は1%から10%の間の相対的比率で、モノマー単位として組み込まれて、共重合体ブロックを形成することを特徴とする、請求項から10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項から11の何れか一項に記載の方法に従ってエッチングされる表面に堆積されている、請求項1からの何れか一項に記載のブロック共重合体フィルムから得られるナノリソグラフィマスクであって、前記共重合体フィルムが、エッチングされる表面に対して垂直に配向されたナノドメインを含み、30nm以上、又は50nm超かつ100nm未満の周期Loを有する、ナノリソグラフィマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の方向に配向されたナノドメインを有するナノ構造化ブロック共重合体の分野に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、高い層間隔離と、好ましくは30nm超、より好ましくは更に50nm超かつ100nm未満の大きな周期とを有する、スチレン及びメチルメタクリレートに基づくブロック共重合体のフィルムに関する。本発明はまた、スチレン及びメチルメタクリレートを含むベースブロック共重合体を用いて、ナノ構造化ブロック共重合体の周期をコントロールするための方法に関する。
【0003】
残りの説明においてLoで表される用語「周期」は、異なる化学組成を有するドメインによって分離された同一の化学組成を有する2つの隣接するドメインを分離する最小距離を意味するものと理解される。
【背景技術】
【0004】
ナノ技術の発達は、特に、マイクロエレクトロニクス及び微小電気機械システム(MEMS)の分野において、絶え間なく製品の小型化を図ることを可能にした。今日、従来のリソグラフィ技術は、60nm未満の寸法を有する構造を生成することができないために、小型化に対するこれらの絶え間ないニーズに応えることはもはやできない。
【0005】
したがって、リソグラフィ技術を適合させ、高分解能でますます小さいパターンを作ることを可能にするエッチングマスクを作り出すことが必要になってきた。ブロック共重合体を用いて、50nm未満のスケールでのブロック間の層間隔離によって、ナノドメインを形成することによって、共重合体の構成ブロックの配列を構造化することが可能である。このナノ構造化される能力のために、エレクトロニクス又はオプトエレクトロニクスの分野におけるブロック共重合体の使用は現在周知である。
【0006】
ナノリソグラフィを実施するために研究されたマスクの中で、ブロック共重合体フィルム、特に、以降PS−b−PMMAと表されるポリスチレン−b−ポリ(メチルメタクリレート)に基づくものは、これらが、高分解能でパターンを作り出すことを可能にするために、非常に有望な解決策であると思われる。このようなブロック共重合体フィルムのエッチングマスクとしての使用を可能にするために、共重合体の1つのブロックは、残余ブロックの多孔質フィルムを作り出すために選択的に除去されなければならず、その後、このパターンは、エッチングによって、下層に転写される。PS−b−PMMAフィルムに関しては、PMMA(ポリ(メチルメタクリレート))は、残余PS(ポリスチレン)のマスクを作り出すために、通常、選択的に除去される。
【0007】
文献日本特許第2005−029779号は、135℃から210℃の間のアニーリング温度でナノドメインへとナノ構造化することが可能なPS−b−PMMAブロック共重合体フィルムを記載しており、この共重合体フィルムは、78.2kg/モル程度の分子量を有する。このため、この文献は、従来のアニオン重合反応を記載しており、これにより、MMAブロックがPSブロックに重合することができ、PMMAを重合するために必要な反応条件を作り出すために、実在のDPEが、PSブロックの鎖末端に添加される。その後、合成される共重合体は、PS−DPE−PMMA型である。
【0008】
このようなマスクを作り出すために、ナノドメインは、下層の表面に対して垂直に配向されなければならない。このようなドメインの構造化は、下層の表面の調製ばかりでなく、更にブロック共重合体の組成などの特定の条件を必要とする。
【0009】
重要な因子は、フローリー・ハギンス相互作用パラメータとしても知られ、「χ」によって表される層間隔離因子である。具体的には、このパラメータはナノドメインのサイズをコントロールすることを可能にする。より具体的には、これは、ブロック共重合体のブロックがナノドメインに分かれる傾向性を定義する。したがって、重合度Nと、フローリー・ハギンスパラメータχとの積χNは、2つのブロックの相溶性及びこれらが分離し得るかどうかについての指標を提供する。例えば、厳密に対称的な組成のジブロック共重合体は、積χNが10.49超である場合、マイクロドメインに分かれる。この積χNが、10.49未満である場合、ブロックは互いに混合し、観察温度において、相分離は観察されない。
【0010】
小型化に対する絶え間ないニーズにより、ブロック共重合体の高いガラス転移温度Tg、良好な温度耐性、又はブロック共重合体がPS−b−PMMAなどである場合のUV処理下におけるPMMAの解重合などのブロック共重合体の特定の基本特性を保持しながら、典型的には20nm未満、好ましくは10nm未満の非常に高い分解能を得ることを可能にするナノリソグラフィマスクを生成するために、この相分離度を増加させることが求められている。
【0011】
Macromolecules,2008,41,9948において、Y.Zhaoらは、PS−b−PMMAブロック共重合体についてのフローリー・ハギンスパラメータを概算した。フローリー・ハギンスパラメータχは、次の等式:χ=a+b/Tに従う(式中、a及びbの値は、共重合体のブロックの性質に依存する一定の特定値であり、Tは、ブロック共重合体をそれ自体が組織化することを可能にするために、すなわち、ドメインの相分離、ドメインの配向、及び欠陥の数における低減を得るために、ブロック共重合体に加えられた熱処理の温度である)。より具体的には、値a及びbは、それぞれ、エントロピー及びエンタルピーの寄与を表す。したがって、PS−b−PMMAブロック共重合体については、層間隔離因子は、次の等式:χ=0.0282+4.46/Tに従う。
【0012】
したがって、フローリー・ハギンス相互作用パラメータのこの低い値は、非常に高い分解能を有する構造の生成のためのPS及びPMMAに基づくブロック共重合体の利点を制限する。
【0013】
この問題を回避するために、M.D.Rodwoginらは、ACS Nano、2010、4、725において、フローリー・ハギンスパラメータχを非常に大きく増加させるために、かつ非常に高い分解能で所望の形態、すなわち、10nm未満であるナノドメインのサイズを得るために、ブロック共重合体のブロックの化学的性質を変化させることが可能であることを立証した。これらの結果は、特に、PLA−b−PDMS−b−PLA(ポリ(乳酸)−ブロック−ポリ(ジメチルシロキサン)−ブロック−ポリ(乳酸)のトリブロック共重合体に対して立証された。
【0014】
H.Takahashiらは、Macromolecules,2012,45,6253において、フローリー・ハギンス相互作用パラメータχの共重合体アセンブリの動態及び共重合体中の欠陥の低減に及ぼす影響を研究した。彼らは、特に、このパラメータχが大きくなりすぎる場合、一般に、アセンブリ動態及び層間隔離動態のかなりの緩慢化があり、ドメイン組織化の時点での欠陥低減の動態の緩慢化にもつながることを立証した。
【0015】
米国特許第8304493号及び米国特許第8450418号は、その相互作用パラメータχが高いベースブロック共重合体を修飾するための方法、及び修飾されたブロック共重合体も記載している。これらのブロック共重合体は、フローリー・ハギンス相互作用パラメータχの値を低減するために修飾され、これにより、ブロック共重合体は、より速い動態を備えた小さいサイズのナノドメインに構造化することができる。より具体的には、これらの文献は、PS−b−PDMS(ポリスチレン−ブロック−ポリ(ジメチルシロキサン))ブロック共重合体で、そのナノドメインが、それらが堆積されている表面に対して平行に配向されているもののフローリー・ハギンスパラメータχを低減しようとしている。この文献に記載されるブロック共重合体のアセンブリの動態は、そのまま残っているが、これらが数時間、典型的には、最長4時間続くために、非常にゆっくりである。
【0016】
PS−b−PMMA型のベースブロック共重合体の少なくとも1つのブロックの修飾のパラメータχ及びブロック共重合体をナノドメインに構造化する動態に及ぼす影響が立証されている。しかしながら、2つの他のパラメータも重要である。これらは、一方では、ナノドメインの形状(ラメラ、円筒形、球体等の形態での配列)をコントロールすることを可能にするブロック間の比であり、他方では、ブロックのサイズ及び間隔、すなわち、Loで表されるブロック共重合体の周期をコントロールすることを可能にする各ブロックの分子量である。しかしながら、ブロック共重合体の周期を、この周期が大きく、かつ、例えば、30nmの閾値以上であるようにコントロールすることが望ましい場合、大きなブロックを、したがって大周期を形成するために、高い重合度Nを有する大きな重合体鎖が必要である。
【0017】
その結果、ブロック共重合体フィルムの周期をコントロールすることが望ましい場合、ブロックのそれぞれの構成重合体鎖の長さをコントロールする必要がある。例として、例えば30nm超、より好ましくは更に50nm超かつ100nm未満の大周期Loを有するPS−b−PMMAブロック共重合体フィルムを生成することを可能にするために、ブロックのそれぞれの分子量は15kg/モル超でなければならない。
【0018】
しかしながら、このような、そのブロックが大きな重合体によって形成されているブロック共重合体は、今度は、非常に高い積χNを有し、そのナノ構造化は、多くのエネルギーを必要とする。実際、ブロックの組織化に必要なアニーリングは、230℃以上の、一般には250℃程度の非常に高温で、比較的長時間にわたって、一般には2から4時間にわたって行われなければならず、その後、重合体は分解しやすく、最終ブロック共重合体中に欠陥が出現しやすい。
【0019】
その結果、ナノ構造化ブロック共重合体の周期Loを、典型的には、30nm超であり、より好ましくは更に50nm超かつ100nm未満であるようにコントロールするために、積χNの調節をコントロールすることが必要である。実際、大周期、好ましくは30nm超の周期を可能にするために、高い重合度Nを有しつつ、ブロック間の最適な層間隔離を可能にするのに十分であるフローリー・ハギンスパラメータχが得られることが必要である。
【0020】
文献国際公開第2013/019679号は、ベースブロック共重合体のブロックのうちの少なくとも1つを修飾する可能性を記載している。ブロック共重合体のブロックのうちの少なくとも1つの修飾は、ナノドメインの表面及び界面エネルギーに及ぼす影響を有し、形態の変更及びブロック共重合体中のナノドメインの配向の変更を伴う。この文献は、修飾されたブロック共重合体の組織化の動態に関しては沈黙したままであり、ナノ構造化ブロック共重合体の周期を増加させようとはしていない。
【0021】
PS−b−PMMAブロック共重合体が、良好な分解能を提供するナノリソグラフィマスクを生成することを可能にするという事実のために、本出願者は、迅速なナノ構造化動態及び著しく低減された欠陥率で、ブロック共重合体の周期をコントロールできるようにするために、特に、30nmの閾値を超える、より好ましくは更に50nm超かつ100nm未満である周期を得るために、この型のブロック共重合体を修飾するための解決策を求めた。
【0022】
より具体的には、本出願人は、過剰に高いナノ構造化温度及び/又は過剰に遅いナノ構造化動態に起因する欠陥の出現なく、その周期Loを増大させることができるように、このようなPS−b−PMMA型のブロック共重合体を修飾するための解決策を求めた。
【発明の概要】
【0023】
したがって、本発明の目的は、先行技術の欠点のうちの少なくとも1つを克服することである。本発明は、特に、50kg/モル超、好ましくは100kg/モル超かつ250kg/モル未満の分子量を有するベースブロック共重合体であって、その少なくとも1つのブロックがポリスチレンを含有し、かつ、その少なくとも1つの他のブロックがメチルメタクリレートを含有するベースブロック共重合体を用いて、ブロック共重合体のナノドメインへのナノ構造化の周期をコントロールするための方法を提供することを目的とする。
【0024】
このため、ナノドメイン間の良好な層間隔離及び、好ましくは30nm超、より好ましくは50nm超かつ100nm未満の大周期Loが得られることを可能にするために、積χNが7以上であり、好ましくは10以上であるように、ブロック共重合体が修飾される。ナノ構造化方法はまた、1から数分程度の組織化動態で、ブロック共重合体の非常に迅速な組織化も可能にしなければならず、これは、アニーリング温度と称される、この重合体の分解温度よりも低い温度で行われる。
【0025】
本発明は、50kg/モル超、好ましくは100kg/モル超かつ250kg/モル未満の分子量を有するベースブロック共重合体であって、その少なくとも1つのブロックがスチレンを含み、かつその少なくとも1つの他のブロックがメチルメタクリレートを含むベースブロック共重合体から得られた、ナノドメインへとナノ構造化されたブロック共重合体フィルムを提供することも目的とし、該共重合体は、ブロックの急速な組織化動態で及び/又はこの共重合体の分解温度よりも低い温度において、大周期を伴ってナノ構造化されるために修飾されている。
【0026】
驚くべきことに、50kg/モル超、好ましくは100kg/モル超かつ250kg/モル未満の分子量を有するベースブロック共重合体であって、その少なくとも1つのブロックがスチレンを含み、かつその少なくとも1つの他のブロックがメチルメタクリレートを含むベースブロック共重合体から得られた、ナノドメインへとナノ構造化されたブロック共重合体フィルムであって、該ブロック共重合体フィルムにおいて、スチレン系ブロックがスチレン及びジフェニルエチレン(DPE)の共重合体によって形成されることを特徴とするブロック共重合体フィルムが、ベースの、すなわち、非修飾の、PS−b−PMMAブロック共重合体のブロックを組織化するのに必要とされるものよりも低い温度において組織化することを可能にしながら、かつ該ベースPS−b−PMMAブロック共重合体で得られたものに対して低減された欠陥率で急速な組織化動態を保持しながら、所望の範囲における値χNを得ることを可能にし、かつ典型的には30nm超の大周期Loを有するナノドメインを得ることを可能にすることを発見した。
【0027】
本発明はまた、50kg/モル超、好ましくは100kg/モル超かつ250kg/モル未満の分子量を有するベースブロック共重合体であって、その少なくとも1つのブロックがスチレンを含み、かつその少なくとも1つの他のブロックがメチルメタクリレートを含むベースブロック共重合体を用いて、ブロック共重合体フィルムのナノドメインへのナノ構造化の周期をコントロールするための方法において、以下の、
− スチレンを含有する該ベースブロック共重合体のブロック中に、1つ又は複数のジフェニルエチレン(DPE)コモノマーを組み込むことによって、P(S−co−DPE)共重合体ブロックを形成する、該ブロック共重合体の合成工程と、
− フィルムの形態の該ブロック共重合体の溶液の表面への塗布工程と、
− 溶液の溶媒のエバポレーション工程と該所定の温度におけるアニーリング工程と
を含むことを特徴とする、方法に関する。
【0028】
本発明は、最終的には、上記方法に従ってエッチングされる表面上に堆積された、上述された該ブロック共重合体のフィルムから得られたナノリソグラフィマスクに関し、該共重合体フィルムは、エッチングされる表面に対して垂直に配向されたナノドメインを含み、30nm超、より好ましくは更に50nm超かつ100nm未満の周期Loを有する。
【0029】
本発明の他の特長及び利点は、添付の図面を参照して、例示的かつ非限定的な例として提供された説明を読み取ることによって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】使用することができる重合設備の例の図である。
図2】異なる、修飾された又は非修飾の組成のナノ構造化ブロック共重合体の様々な試料の走査電子顕微鏡で撮影された写真である。
図3】2つの異なる厚さを有し、かつ2つの異なる熱処理を受けた、同一の修飾されたブロック共重合体のいくつかの試料の走査電子顕微鏡で撮影された写真である。
図4】2つの異なる持続時間にわたって熱処理を受けた同一の修飾されたブロック共重合体の2つの試料の、走査電子顕微鏡で撮影された写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
使用される用語「モノマー」は、重合を受けることができる分子に関する。
【0032】
使用される用語「重合」は、モノマー又はモノマーの混合物を重合体に変換する方法に関する。
【0033】
用語「共重合体ブロック」又は「ブロック」は、いくつかの型の、又は同一の型のいくつかのモノマー単位を一緒に集めた重合体を意味すると理解される。
【0034】
用語「ブロック共重合体」は、少なくとも2つの上で定義されたブロックを含む重合体であって、この2つのブロックが、互いに異なり、これらが混和性ではなく、ナノドメインに分かれるように層間隔離パラメータを有する重合体を意味すると理解される。
【0035】
上で使用された用語「混和性」は、2つの化合物が、均一相を形成するために、互いに完全に混合するための能力を意味すると理解される。
【0036】
説明において、ブロック共重合体の分子量が言及される場合、これは、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって測定された、ピーク、Mpにおける分子量である。
【0037】
本発明の原理は、ポリスチレン系ブロックの重合反応中に、ジフェニルエチレン(以降、DPEとも表される)を導入することによって、各ブロック中のスチレン及びメチルメタクリレート単位を保持しつつ、ベースPS−b−PMMAブロック共重合体の化学構造を修飾することからなる。このジフェニルエチレンのポリスチレン系ブロックへの導入は、得られるP(S−co−DPE)−b−PMMAブロック共重合体の構造の移動性の変更を誘導する。
【0038】
このDPEのスチレン系ブロックへの組み込みのために、同一の鎖長において、したがって同一の重合度Nにおいて、本発明によるP(S−co−DPE)−b−PMMAブロック共重合体のアニーリング時間及びアニーリング温度は、初期の非修飾のPS−b−PMMAブロック共重合体のアニーリング時間よりも短く、そのアニーリング温度よりも低いことが観察された。
【0039】
現在まで、同一の鎖長において、欠陥の出現なく、又は破壊さえもなく、例えば、30nm超の大周期を有する非修飾のPS−b−PMMAブロック共重合体を迅速にナノ構造化することは不可能であったが、DPEのPSブロック中への導入によって修飾された共重合体を用いることでこれは可能になる。
【0040】
得られたP(S−co−DPE)−b−PMMAブロック共重合体の鎖長は、所望のナノ構造化周期Loに応じて選択されるであろう。DPEのPSブロック中への組み込みは、ナノ構造化ブロック共重合体フィルムについての積χNの値を徐々に調整することを可能にする。PSブロック中に組み込まれるDPEの量を決定するために、一方ではブロック共重合体中のDPEの含有量と積χNとの間の関係を、他方では重合度Nと周期Loとの間の関係を決定することを可能にする計算図表を使用することができる。
【0041】
本発明によるブロック共重合体の構造のこの修飾は、同一の鎖長の非修飾のPS−b−PMMA重合体に対して低下したアニーリング温度において、ブロックの迅速な組織化(1から数分)を可能にしつつ、30nm超、より好ましくは更に50nm超かつ100nm未満の周期Loで、ブロック共重合体のナノドメインへのナノ構造化を可能にするために、積χNを、典型的には、10超の大きい値に調整することを可能にする。したがって、アニーリング時間及び温度の低減は、大周期を伴い、かつ欠陥なしにナノ構造化ブロック共重合体を生成することを可能にするために特に好都合である。
【0042】
ブロック共重合体のブロックの数nは、好ましくは7個以下であり、より好ましくは更に、2≦n≦3である。本発明において、ブロック共重合体のブロックの数に対して制限がないとはいえ、トリブロック又はジブロック共重合体、好ましくはジブロック共重合体の合成は、特に考慮されるであろう。奇数のブロックを含むブロック共重合体の場合、ブロック共重合体の末端における2つのブロックは、スチレン/ジフェニルエチレン共重合体P(S−co−DPE)又はポリメチルメタクリレートPMMAの何れかであり得る。
【0043】
特に、組織化動態及び欠陥低減動態の緩慢化をもたらす、重合体が過剰に高いパラメータχを有する場合に問題が引き起こされることを考えれば、修飾されたブロック共重合体の積χNは、最適な層間隔離を得るのに十分に高くなければならないが、組織化動態及び欠陥低減動態による問題をもたらさないために、あまり高くてはならない。ブロック共重合体の迅速な組織化及び30nm超のナノ構造化周期を得るために、積χNは、好ましくは、次の値の範囲:7≦χN≦500、より好ましくは更に10≦χN≦200内にあるべきである。相互作用パラメータの物理的定義χ=(a+b/T)(式中、「a」及び「b」は、それぞれエントロピー及びエンタルピーの寄与を表し、Tは、温度(ケルビンでの)を表す)により、これは、ブロック共重合体が、好ましくは、関係10≦N(a+b/T)≦200を満たすべきであるとの記述に等しい。Tは、ブロック共重合体組織化温度、すなわち、様々なブロック間の相分離、得られたナノドメインの配向、及び欠陥の数の低減が得られるアニーリング温度を表す。DPEのブロック共重合体のPSブロックへの導入のために、ブロック共重合体のエンタルピー及びエントロピーの寄与が変更される。この寄与の変更は、ブロックの組織化を可能にするアニーリング温度及び動態に及ぼす影響を有する。この変更に起因して、温度Tは、その後、ベース、すなわち、非修飾のPS−b−PMMA共重合体のアニーリング温度と比較して低下され得る。これは、好ましくは230℃以下であり、より好ましくは、更に、これは210℃以下である。このように、アニーリング温度は、ブロック共重合体の分解温度よりも低く、その結果、修飾されたブロック共重合体における、そのナノドメインへの組織化の時点での欠陥の高濃度の出現(これは、時として、重合体の破壊をもたらし得る)を回避する。
【0044】
好都合には、ブロック共重合体骨格の修飾は、ベースの、すなわち、非修飾のPS−b−PMMAブロック共重合体の化学的性質に結びついた特性を妨害することはない。したがって、修飾されたブロック共重合体は、高いガラス転移温度Tg、良好な温度耐性、及びUV下におけるPMMAを含有するブロックの解重合を保持する。
【0045】
したがって、ブロック共重合体は、スチレンモノマー及びジフェニルエチレンDPEコモノマーから形成された少なくとも1つの共重合体ブロックと、メチルメタクリレートMMAモノマーから形成された少なくとも1つの他の共重合体ブロックとを含む。P(S−co−DPE)共重合体ブロックのスチレンS及びジフェニルエチレンDPEコモノマーは、統計型又は勾配型の配列を有してもよい。
【0046】
ブロック共重合体の合成は、逐次合成であってもよい。この場合、ラジカル、カチオン、又はアニオン重合によるもののいずれにせよ、最初に、スチレン及びDPEモノマーの第1の混合物を用いて、P(S−co−DPE)の第1のブロックが合成され、次いで、2番目に、他のブロックのMMAモノマーが導入される。ラジカル重合の場合、各モノマー間の十分に高い反応性比が十分に守られるという条件で、モノマーの全てを同時に、バッチ式で、又は連続的に導入することによって、ブロック共重合体を得ることが可能である。
【0047】
修飾されたブロック共重合体において、様々な共重合体ブロックのシーケンスは、例えば逐次的に行われる合成を介しての線形構造、又は、例えば合成が多官能性開始剤を用いて行われる場合の星形構造の何れかを採用してもよい。この修飾されたブロック共重合体の生成は、反応性末端を用いて、予め合成されたブロックを互いにグラフトすることによると想定される。
【0048】
P(S−co−DPE)ブロックの共重合及びPMMAブロックの共重合のための反応は、慣習的な技術、すなわち、コントロールされたラジカル重合、アニオン重合、又は開環重合などによって、行われてもよい。
【0049】
重合方法が、コントロールされたラジカル経路を介して行われる場合、これがNMP(「ニトロキシド媒介重合」)、RAFT(「可逆的付加及びフラグメンテーション連鎖移動」)、ATRP(「原子移動ラジカル重合」)、INIFERTER(「開始剤移動停止」)、RITP(「逆ヨウ素移動重合」)、又はITP(「ヨウ素移動重合」)の何れであるにせよ、任意のコントロールされたラジカル重合技術を使用することができる。好ましくは、コントロールされたラジカル重合を介する重合方法は、NMPによって行われるであろう。
【0050】
より具体的には、安定なフリーラジカル(1)に由来するアルコキシアミンから得られたニトロキシドが好ましい。
式中、ラジカルRは、15,0342g/モル超のモル質量を有する。ラジカルRは、15.0342超のモル質量を有する限りにおいて、塩素、臭素又はヨウ素などのハロゲン原子、アルキル又はフェニルラジカルなどの飽和又は不飽和の、直鎖、分岐鎖若しくは環式の炭化水素系基、又はエステル基−COOR若しくはアルコキシル基−OR、あるいはホスホン酸基−PO(OR)であってもよい。一価であるラジカルRは、ニトロキシドラジカルの窒素原子に対してβ位にあると考えられている。式(1)における炭素原子及び窒素原子の残りの原子価は、水素原子、1から10個の炭素原子を含むアルキル、アリール又はアリールアルキルラジカルなどの炭化水素系ラジカルなどの様々なラジカルに結合されてもよい。環を形成するよう二価のラジカルによって互いに接続される式(1)中の炭素原子及び窒素原子も論外ではない。しかしながら、好ましくは、式(1)における炭素原子及び窒素原子の残りの原子価は、一価のラジカルに結合される。好ましくは、ラジカルRは、30g/モル超のモル質量を有する。ラジカルRは、例えば、40から450g/モルの間のモル質量を有してもよい。例として、ラジカルRは、ホスホリル基を含むラジカルであってもよく、該ラジカルRが、下記の式:
(式中、R及びRは、同一であっても異なってもよく、アルキル、シクロアルキル、アルコキシル、アリールオキシル、アリール、アラルキルオキシル、ペルフルオロアルキル、及びアラルキルラジカルから選択されてもよく、かつ1から20個の炭素原子を含んでもよい)によって表されることが可能である。R及びRはまた、塩素若しくは臭素又はフッ素若しくはヨウ素原子などのハロゲン原子であってもよい。ラジカルRはまた、フェニルラジカル又はナフチルラジカルなどの少なくとも1つの芳香族環を含んでもよく、後者は、例えば、1から4個の炭素原子を含むアルキルラジカルで置換されることが可能である。
【0051】
より具体的には、以下の安定なラジカルに由来するアルコキシアミンが好ましい。
−N−(tert−ブチル)−1−フェニル−2−メチルプロピルニトロキシド、
−N−(tert−ブチル)−1−(2−ナフチル)−2−メチルプロピルニトロキシド、
−N−(tert−ブチル)−1−ジエチルホスホノ−2,2−ジメチルプロピルニトロキシド、
−N−(tert−ブチル)−1−ジベンジルホスホノ−2,2−ジメチルプロピルニトロキシド、
−N−フェニル−1−ジエチルホスホノ−2,2−ジメチルプロピルニトロキシド、
−N−フェニル−1−ジエチルホスホノ−1−メチルエチルニトロキシド、
−N−(1−フェニル−2−メチルプロピル)−1−ジエチルホスホノ−1−メチルエチルニトロキシド、
−4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ、
−2,4,6−トリ−(tert−ブチル)フェノキシ。
【0052】
好ましくは、N−(tert−ブチル)−1−ジエチルホスホノ−2,2−ジメチルプロピルニトロキシドに由来するアルコキシアミンが使用されるであろう。
【0053】
コントロールされたラジカル重合中に、重合反応器中の滞留時間は、最終ブロック共重合体のフローリー・ハギンスパラメータχの値に影響を有する。具体的には、P(S−co−DPE)共重合体ブロック中に組み込まれるコモノマーの異なる反応性のために、これらは、全てが同じ割合で鎖に組み込まれるわけではない。その結果、滞留時間に応じて、共重合体ブロック中の様々なコモノマーの相対的比率は、異なることになり、したがって、最終ブロック共重合体のパラメータχの値も変わる。一般に、ラジカル重合では、約50−70%程度の変換率を得ることが求められる。その結果、これらの変換率に対応する重合反応器中の最大滞留時間が設定される。したがって、50%から70%の変換率を得るために、重合されるコモノマーの出発比が変更される。このため、一方では、重合されるコモノマーの出発比と変換率との間の関係を、他方では、ブロック共重合体の分子量とχNとの間の関係を決定することを可能にする計算図表を使用することができる。
【0054】
重合方法が、本発明で使用される好ましい経路である、アニオン経路を介して実施される場合、これが連結アニオン重合又はその他の開環アニオン重合であろうと、アニオン重合のいかなる機構も考慮されてもよい。
【0055】
本発明の好ましい文脈において、欧州特許第0749987号に記載されるように、非極性溶媒、好ましくはトルエン中で、マイクロミキサーを伴う、アニオン重合を使用するであろう。
【0056】
スチレン系共重合体ブロック中のDPEコモノマーのモノマー単位としての相対的比率は、今度は、これが共重合するスチレンコモノマーに対して、1%から25%の間、好ましくは1%から10%の間(端点を含む)である。
【0057】
これらの比率の限度内で、スチレン系ブロック中に組み込まれるDPEコモノマー単位の数が大きくなればなるほど、χNは、ブロックが純粋であるPS−b−PMMAのものに対してより大幅に修飾され、その後、より多くが、大周期で共重合体をナノ構造化することが可能であろう。
【0058】
更に、各共重合体ブロックの分子量Mは、好ましくは15から100kg/モルの間、より好ましくは30から100kg/モルの間(端点を含む)であり、分散指数PDiは、好ましくは、2以下、より好ましくは、更に1.02から1.7の間(端点を含む)である。
【0059】
その1つのブロックが、DPEコモノマーの組み込みによって修飾された化学構造を有する、このようなブロック共重合体は、例えば、リソグラフィ、特にリソグラフィマスクを生成するために、又はその他の膜の製造、表面の官能化及びコーティング、インク及び複合材の製造、表面ナノ構造化、トランジスタ、ダイオードもしは有機メモリセルの製造などの様々な応用方法で使用されてもよい。
【0060】
本発明はまた、PS−PMMAに基づくブロック共重合体を用いて、ブロック共重合体フィルムのナノ構造化周期をコントロールするための方法に関する。このような方法は、ブロック共重合体のブロックであって、その化学構造が修飾されているブロック間の層間隔離(χN)を調整することによって、ナノ構造化周期をコントロールすることを可能にする。そのため、修飾されたブロック共重合体の合成後に、フィルムを形成するために、後者が溶液で表面に塗布される。次いで、溶液の溶媒がエバポレートされ、フィルムが熱処理を受ける。この熱処理、又はアニーリングは、ブロック共重合体が正確に組織化されること、すなわち、特に、ナノドメイン間の相分離、ドメインの配向、及び欠陥の数の低減を得ることを可能にする。好ましくは、この熱処理の温度Tは、≦230℃であり、より好ましくは、更に≦210℃である。得られたブロック共重合体フィルムは、50kg/モル超の、好ましくは100kg/モル超かつ250kg/モル未満の分子量についての規則構造を有し、これに対して、化学的に修飾されていないPS−b−PMMAのフィルムは、同一の分子量について、規則的方式で構造化され得ず、なぜなら、このような構造化は、過剰に大量の欠陥が出現するようなアニーリング温度及び時間を必要とし、生成される共重合体の規則的なナノ構造化を妨げるためである。
【0061】
好都合なことに、その分子量が高く、50kg/モル超、好ましくは100kg/モル超かつ250kg/モル未満であり、そのχNの値が10超である、このような修飾されたブロック共重合体のアニーリングは、1から数分程度の組織化動態でのナノ構造化を可能にする。好ましくは、組織化動態は、5分以下であり、より好ましくは、更にこれらは2分以下であり、1から2分の間である。
【0062】
リソグラフィの場合には、所望の構造化、例えば、表面に対して垂直なナノドメインの作製は、表面エネルギーをコントロールする目的で、共重合体溶液が堆積される表面の前調製をそれでも必要とする。既知の可能性の中でも、表面上に堆積されるものは、中和層を形成する統計共重合体であり、そのモノマーは、堆積されることが望ましいブロック共重合体で使用されるものと完全に又は部分的に同一であってもよい。先駆的な論文において、Manskyら(Science、第275巻、p1458−1460、1997年)は、現在当業者に周知である、この技術を明確に記載している。
【0063】
好まれている表面の中でも、シリコンからなる表面が言及されており、このシリコンは、自然又は熱酸化物層、ゲルマニウム、白金、タングステン、金、窒化チタン、グラフェン、BARC(底部反射防止コーティング)又はリソグラフィで使用される任意の他の反射防止層を有する。
【0064】
表面が調製されると、本発明による修飾されたブロック共重合体の溶液が堆積され、次いで溶媒が、例えば「スピンコーティング」、「ドクターブレード」、「ナイフシステム」、又は「スロットダイシステム」技術などの当業者に既知の技術によりエバポレートされるが、乾式成膜、すなわち、事前可溶化を伴わない成膜などの任意の他の技術を用いてもよい。
【0065】
次いで、熱処理が行われ、これは、同一の鎖長を有する非修飾のブロック共重合体で得られるものと比較して、大幅に低減されている欠陥率を得つつ、ブロック共重合体が正確に組織化される、すなわち、特にナノドメイン間の相分離及びドメインの配向を得ることを可能にする。ブロック共重合体フィルムのナノ構造化を可能にする、このアニーリング工程は、溶媒雰囲気下で、又は熱的に、若しくはこれらの2つの方法の組合せによって、実施されてもよい。
【0066】
本発明によるブロック共重合体のナノ構造化周期をコントロールするための方法は、したがって、特に、高重合度を有するベース共重合体の場合に、非修飾の共重合体と比較して、大幅に低減されている欠陥率を有するナノ構造化共重合体フィルムを得ることを可能にする。
【0067】
更に、本出願者は、好ましくは1%から25%の間の、好ましくは1%から10%の間の含有量でのDPEのPSブロック中への導入が、好都合には、非修飾のブロック共重合体を用いて得られたものよりも厚いフィルム厚に対する無欠陥ナノ構造化を得ることを可能にすることも観察した。これらの厚さは、欠陥の出現なく、30nm以上、更に40nm超であってもよい。非修飾のブロック共重合体では、欠陥なく、このような厚さに達することは不可能である。大きな厚さは、(乾式又は湿式)エッチングによる基質中のナノ構造化パターンの転写が、マスクとして使用されるフィルムの厚さに大きく依存するために(その厚さが40nm未満のフィルムは、基質中の有効な転写を可能にすることができないだろうが、一方より厚いフィルムは、より高いアスペクト比をもたらすであろう)、リソグラフィ方法のより良いコントロールを可能にする。
【0068】
高分子量の、典型的には、50kg/モル超の、好ましくは100kg/モル超かつ250kg/モル未満のPS−b−PMMAブロック共重合体で、DPEをスチレン系ブロック中に導入することによって修飾されているものは、したがって、高い層間隔離及び典型的には30nm超、好ましくは50nm超かつ100nm未満の大周期Loを伴い、それが堆積される表面に対して垂直なブロックのアセンブリを得ることを可能にし、これが、ベース、すなわち、非修飾のブロック共重合体をナノ構造化するために必要なものよりも低い温度で、かつ迅速な組織化動態を伴う。修飾されたブロック共重合体は、同一の非修飾のブロック共重合体と比較して、低減した欠陥率を有し、これは非常に大きな厚さにおいても生じる。したがって、このようなブロック共重合体は、リソグラフィ方法のコントロールを可能にする。
【0069】
本発明は、ナノ構造化方法によりエッチングされる表面上に堆積された、修飾されたブロック共重合体から得られたナノリソグラフィマスクにも関する。このように表面上に堆積されたフィルムは、エッチングされる表面に対して垂直に配向されたナノドメインを含み、30nm以上、好ましくは50nm超かつ100nm未満の周期を有する。
【0070】
以下の実施例は、非限定的な方式で本発明の範囲を例示する。
【実施例】
【0071】
実施例1:P(スチレン−co−ジフェニルエチレン)−b−P(メチルメタクリレート)(P(S−co−DPE)−b−PMMA)ジブロック共重合体の合成
使用された重合設備を、図1に概略的に表わす。マクロ開始系の溶液を容器C1中で調製し、モノマーの溶液を容器C2中で調製する。重合開始温度にするために、容器C2からの流れを交換器Eに送る。次いで、2つの流れをミキサーMに送り、このミキサーは、この実施例では、特許出願EP0749987及びEP0524054に記載されているような静的ミキサーであり、その後、標準管式反応器である重合反応器Rに送る。生成物を容器C3で受け、次いで、これをその中で沈殿させるために、容器C4に移動させる。
【0072】
容器C1において、トルエン中、P(S−co−DPE)の27.5重量%溶液を45℃で調製し、これにより、このブロックが、その後にPMMAの第2のブロックを開始させるためのマクロ開始剤系となる。これに、トルエンの溶液及びヘキサン中1.5Mのs−ブチルリチウム133mlを、窒素の不活性雰囲気下で添加し、これに、スチレン/1,1−ジフェニルエチレンの90/10重量比の混合物4kgを添加する。45℃での2時間の重合後に、容器C1の温度を−20℃まで低下させ、トルエン中、リチウムメトキシエタノレート及び更に1,1−ジフェニルエチレン72.1gの溶液を、ポリ(スチリル−co−1,1−ジフェニルエチル)CHC(Ph)LiとCHOCHCHOLiとの間の1/6のモル比を得るように添加する。このトルエン溶液は、23.2重量%溶液である。[ポリ(スチリル−co−1,1,−ジフェニルエチル)CHC(PH)Li]/[CHOCHCHOLi.]マクロ開始系が、ここで得られる。これらの合成は、特許出願第0749987及び第0524054にも記載されている。
【0073】
前もってアルミナモレキュラーシーブを通過させたMMAから構成される溶液(トルエン中6.2重量%の濃度で)を、容器C2において−15℃で保管する。
【0074】
マクロ開始系溶液の流れを、60kg/時に調整する。容器C2のMMA溶液の流れを、その温度を−20℃まで低下させるように、交換器に送り、MMA溶液の流れを、56kg/時に調整する。2つの流れを静的ミキサーで混合し、その後、容器C3内に回収し、ここで、共重合体を、メタノール溶液の添加によって不活性化する。
【0075】
固体含有量を測定することによって決定される変換は、99%超である。
【0076】
その後、容器C3の内容物を、ヘプタンを収容する容器C4に、撹拌しながら滴下して沈殿させる。容器C3の内容物とC4の内容物との間の容積比は、1/7である。容器C3の溶液の添加の終了時に、撹拌を停止させ、共重合体が沈殿する。これを、上清の排除及び濾過によって、回収する。
【0077】
乾燥後の、共重合体の特性は以下の通りである。
共重合体のMp=55.4kg/モル
分散度:1.09
P(S−co−DPE)/PMMA重量比=69・8/30.2
【0078】
実施例4の比較実施例AからCに以下に例示した比較を実行することができるように、様々なベース、すなわち、非修飾のPS−b−PMMAブロック共重合体を、様々な組成で(すなわち、PS及びPMMAの様々な含有量で)この方法に従って合成し、様々な修飾されたP(S−co−DEP)−b−PMMAブロック共重合体も、異なる組成で、この方法に従って合成した。
【0079】
合成された様々なブロック共重合体の様々な組成を、以下に提示した表1にまとめる。
【0080】
実施例2:PS−stat−PMMA中和層の合成
第1の工程:市販のアルコキシアミンBlocBuilder(登録商標)(ARKEMA)からのヒドロキシ官能化アルコキシアミンの調製:
窒素をパージした1Lの丸底フラスコに、下記を導入する。
226.17gのBlocBuilder(登録商標)(1当量)
68.9gの2−ヒドロキシエチルアクリレート(1当量)
548gのイソプロパノール
【0081】
反応混合物を、4時間加熱還流し(80℃)、次いで、イソプロパノールを減圧下でエバポレートし、ヒドロキシ官能化アルコキシアミン297gを、高度に粘性の黄色油状物の形態で得る。
【0082】
第2の工程:工程1からのアルコキシアミンからPS/PMMA統計共重合体を調製するための実験プロトコル
【0083】
トルエン、及びまたスチレン(S)、メチルメタクリレート(MMA)などのモノマー、並びに工程1からの官能化アルコキシアミンを、機械的撹拌機を装備したジャケット付きステンレス鋼反応器に導入する。様々なスチレン(S)とメチルメタクリレート(MMA)モノマーとの間の重量比を、以下の表2に記載する。トルエンのローディング重量を、反応媒体に対して30%で設定する。反応混合物を、撹拌し、窒素を常温で30分間泡立てることによって脱気する。
【0084】
次いで、反応媒体の温度を、115℃にする。時間t=0は、常温で誘発される。70%程度のモノマーの変換が達成されるまで、重合全体を通して、温度を115℃に維持する。重量分析法(固体含有量の測定)を介して重合動態を決定するために、試料を規則的な間隔で取り出す。
【0085】
70%の変換が達成される場合に、反応媒体を60℃に冷却し、溶媒及び残留モノマーを減圧下でエバポレートする。エバポレーション後に、メチルエチルケトンを、25重量%程度の共重合体溶液が生成されるような量で、反応媒体に添加する。
【0086】
この共重合体溶液を、次いで、非溶媒(ヘプタン)を収容するビーカー中に滴下で導入し、これにより、共重合体を沈殿させる。溶媒の非溶媒(メチルエチルケトン/ヘプタン)に対する重量比は、1/10程度である。沈殿された共重合体を、濾過及び乾燥後に、白色粉末の形態で回収する。
【0087】
実施例3:PS−b−PMMAに基づく修飾されたブロック共重合体フィルムをナノ構造化する方法
シリコン基質を、3×3cmに手動で切断し、次いで、この小片を、従来の処理(ピラニア溶液、酸素プラズマ等)によって浄化する。プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)中に2重量%の比率で前もって溶解された、実施例2に従って調製された統計PS−stat−PMMA共重合体を、次いで、スピンコーティング又は当業者に既知の任意の他の堆積技術を介して官能化される基質上に堆積させ、これにより、60から80nm周辺の厚さを有する重合体フィルムを形成する。この統計共重合体フィルムは、その後、中和層を形成する。次いで基質を、230℃程度の温度で2から5分間加熱することで、重合体鎖を表面にグラフトする。
【0088】
基質を、続いて、PGMEA中で多数回濯ぎ、これにより、過剰の未グラフト重合鎖を排除し、次いで官能化基質を、窒素流下で乾燥させる。
【0089】
実施例1で合成され、上述された、修飾されたPS−b−PMMAブロック重合体を、目的のフィルム厚に応じて、1重量%から2重量%の比率で、PGMEA中に溶解させ、所望の厚さのフィルムを形成するために、スピンコーティングを介して表面上に堆積させる。例として、1.5重量%の溶液は、これが、スピンコーティング技術を介して2000rpmで表面上に堆積される場合、45から50nm周辺の厚さを有するブロック共重合体フィルムを提供することができる。このように形成されたフィルムを、次いで、ブロックのナノドメインへのナノ構造化を可能にするために、210℃から230℃の間(場合に応じて)で2分間アニールする。
【0090】
この実施例では、シリコン基質を使用したことに留意される。明白ではあるが、この方法は、目的の任意の他の基質へのいかなる大規模な変更なしに、特許出願番号FR2974094に記載されるエレクトロニクスに置き換えることができる。
【0091】
実施例4:比較実施例
A)修飾されたブロック共重合体の組成のナノ構造化条件及び周期Loに及ぼす影響
その組成が、実施例1に関して上記表1にまとめられている、修飾された又は非修飾のブロック共重合体の様々な試料の走査電子顕微鏡を用いて撮影された写真が図2に表示されている。更に、各ブロック共重合体のアニーリング温度及び時間、並びに試料のそれぞれの周期及び厚さも、図2に示されている。
【0092】
220℃で2分間の持続時間にわたってアニールされる匹敵する共重合体分子量、すなわち、匹敵する重合度Nを有する、非修飾のブロック共重合体C35が、30nm程度の周期及び19nmの厚さについて高欠陥品率を有したが、一方、それぞれ220℃及び210℃の温度で2分間の持続時間にわたってアニールされる修飾された共重合体C35 1DPE及びC35 10DPEは、それぞれ36nm及び40nm超の大周期Lo、並びに20nmの匹敵する厚さにおいて、更に44nmの大きな厚さにおいても、大幅に低減された欠陥率を有することを観察した。
【0093】
同様に、重合度Nが更に高い重合体について、すなわち、その分子量が、それぞれ103.2及び127.2kg/モルである、共重合体C50及びC50 10DPEについて、欠陥の出現なく、大周期(50nm超)を有するブロック共重合体を得るために、DPEの組み込みが、アニーリング温度及び/又はアニーリング時間を低下させることを可能にすることを観察した。
【0094】
したがって、50kg/モル超の、好ましくは、100kg/モル超かつ250kg/モル未満の高分子量を有する初期PS−b−PMMAブロック共重合体のスチレンブロックへのDPEの組み込みが、共重合体のブロックが、典型的には30nm超の大周期でナノ構造化されるようになるよう共重合体のブロックを組織化し、かつこれが欠陥を含まないように、アニーリング時間及び/又は温度を低下させることを可能にするとの結果を、この図2から得た。
【0095】
B)厚さの関数としての欠陥率に及ぼすアニーリング温度の影響
図3は、様々な厚さ及びアニーリング後の異なる条件を有する、その合成が実施例2に関して上述される、中和層上に堆積された、その組成が上記表1に記載される、共重合体C35 10DPEの走査電子顕微鏡で撮影された写真AからDを表す。
【0096】
より具体的には、PSブロック中に4.6%のDPEを含有し、その厚さが、それぞれ19及び24nmである、P(S−co−DPE)−b−PMMAブロック共重合体の4つの試料が、200℃の温度で(写真C及びD)並びに180℃の温度で(写真A及びB)5分間のアニーリングを受けた。
【0097】
試料の厚さに関係なく、アニーリング温度の低下は、実質的に低減された欠陥率を得ることを可能にするとの結果を、これらの比較から得た。
【0098】
C)アニーリング時間の欠陥率に及ぼす影響
図4は、PSブロック中に4.6%のDPEを含有し、その厚さが19nmに等しい共重合体C35 10DPEの2つの試料E及びFの走査電子顕微鏡を用いて撮影された写真を表し、この試料は、180℃で、それぞれ5分及び2分の持続時間にわたってアニールされている。この比較から、アニール時間の低減が、ナノ構造化ブロック共重合体フィルムの欠陥率を実質的に低減させるとの結果を得た。
【0099】
したがって、高分子量の初期PS−b−PMMA共重合体へのDPE添加は、初期共重合体のブロックを組織化するために使用されるものよりも低い温度において、かつ非常に速い動態で、並びにこれが大幅に低減された欠陥率を伴い、ブロックを組織化することを可能にする。典型的には40nm超の大きな厚さに対しても欠陥率が低減されるという事実に基づく追加の利点は、図2で観察することができる。
図1
図2
図3
図4