(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1部材、前記第2部材および前記第3部材を加熱する工程では、前記第3部材において前記第1部材に接触する面である第3接触面が、前記キャビティ側壁に取り囲まれる、請求項3に記載の金属部材の製造方法。
前記第1部材、前記第2部材および前記第3部材を加熱する工程では、前記金型を固定し、前記第1部材を回転させる、請求項2〜4のいずれか1項に記載の金属部材の製造方法。
前記第1部材、前記第2部材および前記第3部材を加熱する工程では、前記第2部材が変形することにより前記凹部側面に接触する、請求項6または7に記載の金属部材の製造方法。
前記第1部材と前記第2部材とが接合した状態で前記凹部側面が除去されるように前記第1部材が加工される工程をさらに備える、請求項6〜8のいずれか1項に記載の金属部材の製造方法。
前記第1部材、前記第2部材および前記第3部材を加熱する工程では、前記第1部材を固定し、前記第2部材を回転させる、請求項6〜9のいずれか1項に記載の金属部材の製造方法。
前記第1部材と前記第2部材とが接合した状態で、前記第1部材、前記第2部材および前記第3部材を加熱する工程において前記第2部材が変形して形成されたバリを除去する工程をさらに備える、請求項1〜10のいずれか1項に記載の金属部材の製造方法。
前記第3部材は、前記第1部材と前記第2部材とが接合された状態において前記第1部材と前記第2部材との間に生じる応力を緩和する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の金属部材の製造方法。
前記第1部材、前記第2部材および前記第3部材を加熱する工程において、温度が上昇した状態における前記第2金属および前記第3金属の変形抵抗は前記第1金属の変形抵抗に比べて10%以上小さい、請求項1〜12のいずれか1項に記載の金属部材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載のピストンシューの構造では、摺動部はベース部に対して係合して固定されているに過ぎない。そのため、ピストンシューに衝撃が加わった場合、摺動部のベース部への固定状態が不安定となるおそれがある。
【0006】
本発明は、異なる金属からなる部材同士が接合層を介して互いに接合された構造を有する金属部材の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従った金属部材の製造方法は、第1金属からなる第1部材、第2金属からなる第2部材および第3金属からなる第3部材を準備する工程と、第1部材と第2部材とを第3部材を介して接合する工程と、を備える。第1部材と第2部材とを接合する工程は、第1部材、第3部材および第2部材をこの順で積み重ね、第1部材を第3部材に押し付け、第2部材および第3部材に対する相対的な位置関係を変えることなく回転軸周りに相対的に回転させることにより、第1部材、第2部材および第3部材を加熱する工程と、加熱された第1部材、第2部材および第3部材を積み重ねた状態で冷却する工程と、を含む。
【0008】
本発明の金属部材の製造方法においては、第1部材、第3部材および第2部材をこの順で積み重ね、第1部材を第3部材に押し付け、第2部材および第3部材に対する相対的な位置関係を変えることなく回転軸周りに相対的に回転させて第1部材、第2部材および第3部材を加熱する。そして、加熱された第1部材、第2部材および第3部材を積み重ねた状態で冷却することにより、第1部材と第2部材とが第3部材を介して接合される。
【0009】
このように、本発明の金属部材の製造方法によれば、異なる金属からなる部材同士が接合層(中間層)である第3部材を介して互いに接合された構造を有する金属部材を製造することができる。
【0010】
上記金属部材の製造方法において、第2金属および第3金属は第1金属よりも変形抵抗が小さくてもよい。第1部材、第2部材および第3部材を加熱する工程では、金型のキャビティ内に第2部材および第3部材が配置されてもよい。
【0011】
第2金属および第3金属の変形抵抗を第1金属の変形抵抗よりも小さく設定することで、金型のキャビティ内において第2部材および第3部材が変形してキャビティを規定する壁面と接触する。これにより、第2部材および第3部材が第1部材とともに回転することが抑制されるとともに、さらなる変形も抑制される。そのため、第1部材と第3部材との摩擦によって発生した熱がキャビティ内から放出されることが抑制される。その結果、第1部材、第2部材および第3部材を加熱する工程を効率よく実施することができる。
【0012】
上記金属部材の製造方法において、金型は、キャビティを規定するキャビティ底壁と、キャビティを規定し、キャビティ底壁に交差する方向に延在するキャビティ側壁と、を含んでいてもよい。このようにすることにより、上記金属部材の製造方法を容易に実施することができる。
【0013】
上記金属部材の製造方法において、第1部材、第2部材および第3部材を加熱する工程では、第3部材において第1部材に接触する面である第3接触面が、キャビティ側壁に取り囲まれてもよい。このようにすることにより、第2部材および第3部材の変形をキャビティ側壁により制限することができる。
【0014】
上記金属部材の製造方法において、第1部材、第2部材および第3部材を加熱する工程では、金型を固定し、第1部材を回転させてもよい。このようにすることにより、上記金属部材の製造方法を容易に実施することができる。
【0015】
上記金属部材の製造方法において、第2金属および第3金属は第1金属よりも変形抵抗が小さくてもよい。第1部材には凹部が形成されていてもよい。第1部材、第2部材および第3部材を加熱する工程では、凹部内に第3部材を配置し、第2部材を、少なくとも一部が凹部に進入する状態で第3部材に相対的に押し付けつつ回転させることにより、第1部材、第2部材および第3部材を加熱してもよい。
【0016】
第2金属および第3金属の変形抵抗を第1金属の変形抵抗よりも小さく設定することで、第1部材の凹部内において第2部材および第3部材が変形して凹部を規定する壁面と接触する。第2部材および第3部材の変形は第1部材の凹部を規定する壁面により制限される。そのため、第1部材と第3部材との摩擦によって発生した熱が凹部内から放出されることが抑制される。その結果、第1部材、第2部材および第3部材を加熱する工程を効率よく実施することができる。
【0017】
上記金属部材の製造方法において、第1部材は、凹部を規定する凹部底面と、凹部を規定し、凹部底面に交差する方向に延びる凹部側面と、を含んでいてもよい。第1部材、第2部材および第3部材を加熱する工程では、第1部材の凹部底面に接触して配置された第3部材に第2部材が相対的に押し付けられつつ回転してもよい。このようにすることにより、上記金属部材の製造方法を容易に実施することができる。
【0018】
上記金属部材の製造方法において、第1部材、第2部材および第3部材を加熱する工程では、第2部材が変形することにより凹部側面に接触してもよい。このように凹部側面が第2部材の変形を制限することにより、上記金属部材の製造方法を容易に実施することができる。
【0019】
上記金属部材の製造方法は、第1部材と第2部材とが接合した状態で凹部側面が除去されるように第1部材が加工される工程をさらに備えていてもよい。このようにすることにより、第1部材が凹部底面において第3部材を介して第2部材と接合されて形成される金属部材を得ることができる。
【0020】
上記金属部材の製造方法において、第1部材、第2部材および第3部材を加熱する工程では、第1部材を固定し、第2部材を回転させてもよい。このようにすることにより、上記金属部材の製造方法を容易に実施することができる。
【0021】
上記金属部材の製造方法は、第1部材と第2部材とが接合した状態で、第1部材、第2部材および第3部材を加熱する工程において第2部材が変形して形成されたバリを除去する工程をさらに備えていてもよい。このようにすることにより、第1部材と第2部材との接合に際して形成されるバリが除去された金属部材を得ることができる。
【0022】
上記金属部材の製造方法において、第3部材は、第1部材と第2部材とが接合された状態において第1部材と第2部材との間に生じる応力を緩和するものであってもよい。このようにすることにより、第1部材と第2部材との間に生じる応力に起因する亀裂の発生等を抑制することができる。
【0023】
上記金属部材の製造方法において、第1部材、第2部材および第3部材を加熱する工程において、温度が上昇した状態における第2金属および第3金属の変形抵抗は第1金属の変形抵抗に比べて10%以上小さくてもよい。このようにすることにより、第3部材を介した第1部材と第2部材との接合が容易となる。
【発明の効果】
【0024】
以上の説明から明らかなように、本発明の金属部材の製造方法によれば、異なる金属からなる部材同士が接合層を介して互いに接合された構造を有する金属部材を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0027】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態の金属部材の製造方法により製造可能な金属部材(機械部品)の構造を示す概略断面図である。
図1を参照して、金属部材1は、第1金属からなる第1部材10と第2金属からなる第2部材20とが第3金属からなる第3部材30を介して接合された構造を有している。
【0028】
第1部材10は、円筒状の形状を有している。第1部材10の一方の端面11が接合面となっている。第2部材20は円筒状(円盤状)の形状を有している。第2部材20の一方の端面21が接合面となっている。第3部材30は円盤状の形状を有している。第3部材30は、第1部材10と第2部材20との間に介在する接合層(中間層)である。
【0029】
第2部材20の一方の端面21上に端面30Bにおいて接触するように第3部材30が配置されている。第3部材30の端面30A上に一方の端面11において接触するように第1部材10が配置されている。
【0030】
第2部材20を構成する第2金属および第3部材30を構成する第3金属は、第1部材10を構成する第1金属に比べて変形抵抗が小さい。本実施の形態において、第1金属としては、たとえば調質された(焼入処理および焼戻処理された)鋼(たとえばJIS規格SCM440などの機械構造用合金鋼または機械構造用炭素鋼)が採用される。第2金属としては、銅合金(たとえば高力黄銅)が採用される。第3金属としては、銅が採用される。第3部材30は、第1部材10と第2部材20とが接合された状態において第1部材10と第2部材20との間に生じる応力を緩和する。
【0031】
このような金属部材1は、以下のような本実施の形態における金属部材の製造方法により製造することができる。
【0032】
図2は、金属部材の製造方法の概略を示すフローチャートである。
図3は、金属部材の製造装置の構造を示す概略図である。
図4は、金属部材の製造装置の動作を示す概略断面図である。
図5は、金属部材の製造装置に含まれる金型の構造を示す概略平面図である。
【0033】
図2を参照して、本実施の形態における金属部材1の製造方法では、まず工程(S10)として成形部材準備工程が実施される。この工程(S10)では、
図1を参照して、たとえば調質処理された機械構造用合金鋼からなる円筒形状の第1部材10と、高力黄銅からなる円盤形状の第2部材20と、銅からなる円盤形状または箔状の第3部材30とが準備される。第1部材10の一方の端面11は、接合面となるべき平坦面である第1部材接触面となっている。第2部材20の一方の端面21は、接合面となるべき平坦面である第2部材接触面となっている。
【0034】
次に、工程(S20)として洗浄工程が実施される。この工程(S20)では、工程(S10)において準備された第1部材10、第2部材20および第3部材30が洗浄される。第1部材10、第2部材20および第3部材30が、メタノール、エタノール、アセトンなどの液体を用いて洗浄される。これにより、第1部材10、第2部材20および第3部材30を準備するための切断、加工などのプロセスにおいて第1部材10、第2部材20および第3部材30に付着した異物等が除去される。なお、本実施の形態の金属部材1の製造方法では、第2部材20および第3部材30の端面に対する精密な仕上げ加工は省略することが可能である。第2部材20および第3部材30の端面は切断のままの状態であってもよい。
【0035】
次に、
図2を参照して、閉塞摩擦接合工程が実施される。閉塞摩擦接合工程は、接合準備工程、摩擦工程および冷却工程を含んでいる。ここで、閉塞摩擦接合を実施することで金属部材1を製造する金属部材の製造装置について説明する。
【0036】
図3を参照して、金属部材の製造装置である閉塞摩擦接合装置9は、軸α周りに回転可能な主軸95と、主軸95に対して軸α方向に間隔を置いて配置された基台部98と、主軸95を軸α方向に駆動することにより主軸95と基台部98との間隔を調整する駆動部97と、主軸95および基台部98を支持するフレーム90とを備えている。
【0037】
図3を参照して、フレーム90内には、軸αに対して平行に延在するシャフト90Aが設置されている。シャフト90Aは、主軸95を支持する主軸支持部90Cをシャフト90Aの延在方向に沿って移動可能に支持している。さらに、シャフト90Aには、シャフト90Aを駆動する主軸移動モータ90Bが接続されている。シャフト90Aが主軸移動モータ90Bによって駆動されることにより、主軸支持部90Cにより支持される主軸95が軸α方向に移動する。これにより、主軸95と基台部98との間隔を調整することができる。シャフト90A、主軸支持部90Cおよび主軸移動モータ90Bは、駆動部97を構成する。
【0038】
駆動部97により主軸95と基台部98との間隔を調整して第1部材10と第3部材30とを接触させた状態(
図4の状態)において、キャビティ93Aを規定するキャビティ側壁93Cが、第3部材30において第1部材10に接触する面である第3接触面としての一方の端面30Aの外周を取り囲むように、回転側チャック94および金型93が配置されている。
図4を参照して、軸α方向におけるキャビティ側壁93Cの高さは、第2部材20と第3部材30の厚みの合計値よりも大きい。
【0039】
図3を参照して、主軸95には、基台部98に対向するように第1部材10を保持する第1保持部としての回転側チャック94が設けられている。また、主軸95には、主軸95を軸α周りに回転駆動する主軸モータ95Bが接続されている。さらに、主軸95には、第1部材10と第3部材30との接触荷重を検知する荷重センサ96が設置されている。この荷重センサ96は、回転側チャック94に加わる第1部材10と第3部材30との接触の反力の大きさから、第1部材10と第3部材30との接触荷重を検知する。荷重センサ96は、閉塞摩擦接合装置9において必須の構成ではないが、これを設置することにより、第1部材10と第3部材30との接触荷重を適切な範囲に調整することが容易となる。
【0040】
基台部98には、回転側チャックに対向するように第2部材20を保持する第2保持部としての金型93が配置されている。
図3および
図4を参照して、基台部98は、ベース体91と、金型ホルダ92と、金型93とを含んでいる。ベース体91は、フレーム90上に設置されている。金型ホルダ92は、ベース体91上に固定されている。金型93は、金型ホルダ92に形成された凹部である金型保持部に嵌め込まれ、径方向チャック面92Bにより固定されている。金型93は、
図5に示すように、2つの部品99,99に分離することができる。
【0041】
図4および
図5を参照して、金型93は、円形の平面であるキャビティ底壁93Bと、キャビティ底壁93Bからキャビティ底壁93Bに交差する方向(垂直な方向)に延在するキャビティ側壁93Cとを含む。キャビティ底壁93Bおよびキャビティ側壁93Cは、キャビティ93Aを規定する。キャビティ側壁93Cは、円形の形状を有するキャビティ底壁93Bの外周に接続され、キャビティ底壁93Bと同じ直径を有する円筒面形状を有している。
【0042】
次に、閉塞摩擦接合工程の具体的な手順を説明する。
図3および
図4を参照して、工程(S30)として実施される接合準備工程では、第1部材10が外周面において回転側チャック94に保持される。第2部材20および第3部材30が金型93のキャビティ93A内にセットされる。
【0043】
キャビティ93Aを規定するキャビティ底壁93Bに端面において接触するように第2部材20が配置される。第2部材20の一方の端面21に一方の端面において接触するように第3部材30が積み重ねられて配置される。第1部材10の一方の端面11と第3部材30の一方の端面30Aとが対向し、かつ第1部材10、第2部材20および第3部材30の中心軸が回転側チャックの回転軸αに一致するように、第1部材10、第2部材20および第3部材30は配置される。
【0044】
キャビティ93A内には、離型剤が導入される。これにより、後述の工程(S40)においてキャビティ93A内に離型剤が存在する状態で第1部材10、第2部材20および第3部材30が加熱される。この離型剤の導入は必須の手順ではないが、離型剤を導入することにより、後述の工程(S50)において第1部材10と第2部材20とが第3部材30を介して接合されて構成される構造体を金型93から取り外すことが容易となる。離型剤は、液体状であってもよいし粉体状であってもよい。
【0045】
次に、工程(S40)として摩擦工程が実施される。この工程(S40)では、主軸95が主軸モータ95Bにより駆動されて軸α周りに回転するとともに、主軸移動モータ90Bにより駆動されて基台部98に近づく。これにより、回転側チャック94が軸α周りに回転しつつ、金型93に近づく。
【0046】
第1部材10が第3部材30に接触すると、第1部材10、第3部材30および第2部材20がこの順で積み重ねられた状態となる。そして、第1部材10は、第3部材30に押し付けられつつ、第2部材20および第3部材30に対する相対的な位置関係を変えることなく回転軸周りに相対的に回転する。第1部材10と第3部材30との接触部の温度が摩擦熱により上昇する。この摩擦熱により、第1部材10、第2部材20および第3部材30が加熱される。第2部材20の温度は、たとえば第2部材20を構成する第2金属の軟化点以上の温度であって融点未満の温度にまで上昇する。第3部材30の温度は、たとえば第3部材30を構成する第3金属の軟化点以上の温度であって融点未満の温度にまで上昇する。
【0047】
上述のように、第2部材20および第3部材30の変形抵抗は第1部材10の変形抵抗に比べて小さい。加熱された第2部材20および第3部材30は軟化して変形し、金型93のキャビティ側壁93Cに接触する。これにより、第2部材20および第3部材30が第1部材10とともに回転することが抑制されるとともに、さらなる変形も抑制される。そのため、第1部材10と第3部材30との摩擦によってさらなる熱が発生し、発生した熱がキャビティ93A内から放出されることが抑制される。
【0048】
次に、工程(S50)として冷却工程が実施される。この工程(S50)では、まず主軸95の回転数を低下させ、停止させる。その後、荷重センサ96により検知される押し付け荷重を低下させる。この間、第1部材10と第2部材20とは第3部材30を挟んで互いに押し付け合う状態を維持しつつ、第1部材10、第2部材20および第3部材30は冷却される。第1部材10、第2部材20および第3部材30は積み重ねられた状態で冷却される。これにより、第1部材10と第2部材20とが第3部材30を介して接合される。
【0049】
押し付け荷重が0とされた後、第1部材10と第2部材20とが第3部材30を介して接合されて構成される構造体である金属部材1が閉塞摩擦接合装置9から取り出される。以上の手順により、閉塞摩擦接合工程が完了する。
【0050】
次に、工程(S60)として、機械加工工程が実施される。この工程(S60)では、工程(S50)において得られた金属部材1に対して機械加工が実施される。工程(S60)では、たとえば工程(S40)において第2部材20が変形して形成されるバリが除去される。
【0051】
次に、工程(S70)としてガス軟窒化工程が実施される。この工程(S70)では、工程(S60)において機械加工が実施されて得られた金属部材1に対してガス軟窒化処理が実施される。具体的には、アンモニアガスを含む雰囲気中で第1部材10を構成する鋼のA
1変態点未満の温度に加熱されることにより、第1部材10の表層部に窒化層が形成される。その後、必要に応じて仕上げ処理が実施され、本実施の形態の金属部材1が完成する。
【0052】
このように、本実施の形態における閉塞摩擦接合装置9を用いた金属部材1の製造方法によれば、第1金属からなる第1部材10と、第1金属よりも変形抵抗が小さい第2金属からなる第2部材20とが第1金属よりも変形抵抗が小さい第3金属からなる第3部材30を介して接合された構造を有する金属部材1を製造することができる。異なる金属からなる第1部材10と第2部材20とが接合層である第3部材30を介して互いに接合された構造を有する金属部材1を製造することができる。第1部材10、第2部材20および第3部材30を同時に接合することができる。
【0053】
また、第3部材30を構成する第3金属である銅の熱膨張係数は、第1部材10を構成する第1金属である鋼の熱膨張係数よりも大きく、第2部材20を構成する第2金属である黄銅の熱膨張係数よりも小さい。そのため、第3部材30は、工程(S70)において実施される熱処理によって熱膨張係数の違いに起因して発生する第1部材10と第2部材20との間の応力を緩和することができる。第3部材30を第1部材10と第2部材20との間に介在させることにより、熱膨張係数の違いに起因して発生する上記応力によって亀裂が発生することを抑制することができる。
【0054】
(実施の形態2)
次に、本発明の他の実施の形態である実施の形態2について説明する。実施の形態2において製造される金属部材は、基本的には実施の形態1の場合と同様の構造を有する。しかし、実施の形態2の金属部材1は、第3部材30が環状の形状を有している点において実施の形態1の場合とは異なっている。
【0055】
図6を参照して、実施の形態2における第3部材30は環状の形状を有する。第3部材30は、中心軸を含む領域に貫通穴が形成された円環状の形状を有している。第3部材30の貫通穴に対応する領域において、第1部材10と第2部材20とは直接接合されている。
【0056】
このような金属部材1は、以下のような実施の形態2における金属部材の製造方法により製造することができる。実施の形態2における金属部材の製造方法は、基本的には実施の形態1の場合と同様に実施され、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態2における金属部材の製造方法では、円環状の第3部材30が用いられる点において実施の形態1の場合とは異なっている。
【0057】
図2および
図7を参照して、実施の形態2の工程(S10)(成形部材準備工程)においては、円環状の第3部材30が準備される。そして、円環状の第3部材30を用いて閉塞摩擦接合工程が実施されることにより、軟化した第2部材20が第3部材30の貫通穴内に侵入し、本実施の形態の金属部材1が得られる。
【0058】
熱膨張係数の違いに起因して発生する応力は、金属部材1の外周面に近づくにしたがって大きくなる。金属部材1の外周面を含む領域において第1部材10と第2部材20との間に第3部材30が介在することにより、応力の大きい領域において当該応力を有効に緩和することができる。
【0059】
(実施の形態3)
次に、本発明のさらに他の実施の形態である実施の形態3について説明する。
図8は、実施の形態3の金属部材の製造方法により製造可能な金属部材(機械部品)の構造を示す概略断面図である。
図8を参照して、金属部材1は、第1金属からなる第1部材10と第2金属からなる第2部材20とが第3金属からなる第3部材30を介して接合された構造を有している。
【0060】
第1部材10は、円筒状(円盤状)の形状を有している。第1部材10の一方の端面11が接合面となっている。第2部材20は円筒状の形状を有している。第2部材20の一方の端面21が接合面となっている。第3部材30は円盤状の形状を有している。第3部材30は、第1部材10と第2部材20との間に介在する接合層(中間層)である。第1金属、第2金属および第3金属としては、実施の形態1の場合と同様の金属が採用される。
【0061】
第2部材20の一方の端面21上に一方の端面30Aにおいて接触するように第3部材30が配置されている。第3部材30の他方の端面30B上に一方の端面11において接触するように第1部材10が配置されている。第3部材30は、第1部材10と第2部材20とが接合された状態において第1部材10と第2部材20との間に生じる応力を緩和する。
【0062】
このような金属部材1は、以下のような本実施の形態における金属部材の製造方法により製造することができる。
【0063】
図2は、金属部材の製造方法の概略を示すフローチャートである。
図9は、金属部材の製造装置の構造を示す概略図である。
図10は、金属部材の製造装置の動作を示す概略断面図である。
図11および
図12は、金属部材の製造方法を説明するための概略断面図である。
【0064】
図2を参照して、本実施の形態における金属部材1の製造方法では、まず工程(S10)として成形部材準備工程が実施される。この工程(S10)では、
図10を参照して、たとえば調質処理された機械構造用合金鋼からなる第1部材10と、高力黄銅からなる第2部材20と、銅からなる第3部材30が準備される。第2部材20は、円筒状の形状を有している。第3部材30は円盤状の形状または箔状の形状を有している。
【0065】
第1部材10は円筒形状(円盤形状)を有している。第1部材10は、凹部10Aを有している。凹部10Aは、第1部材10の中心軸を含むように形成される。凹部10Aは、円筒状の形状を有している。第1部材10の中心軸と凹部10Aの中心軸とは一致する。第1部材10は、凹部10Aを規定する凹部底面11と、凹部10Aを規定し、凹部底面11に交差する方向に延びる凹部側面12とを含む。
【0066】
第1部材10の凹部底面11は、第3部材30を介して第2部材20に接合されるべき平坦面である第1部材接触面となっている。第2部材20の一方の端面21は、第3部材30を介して第1部材10に接合されるべき平坦面である第2部材接触面となっている。
【0067】
次に、工程(S20)として洗浄工程が実施される。この工程(S20)は、上記実施の形態1と同様に実施される。なお、本実施の形態の金属部材1の製造方法では、第2部材20の一方の端面21に対する精密な仕上げ加工は省略することが可能である。第2部材20の一方の端面21は切断のままの状態であってもよい。
【0068】
次に、
図2を参照して、閉塞摩擦接合工程が実施される。閉塞摩擦接合工程は、接合準備工程、摩擦工程および冷却工程を含んでいる。ここで、閉塞摩擦接合を実施することで金属部材1を製造する金属部材の製造装置について説明する。
【0069】
図9を参照して、実施の形態3における金属部材の製造装置である閉塞摩擦接合装置9は、基本的には実施の形態1の場合と同様の構造を有し、同様に動作する。以下、実施の形態1の場合と異なる点について説明する。
【0070】
主軸95には、基台部98に対向するように第2部材20を保持する回転側チャック94が設けられている。基台部98には、回転側チャック94に対向するように第1部材10を保持する固定側チャック92が配置されている。
図9および
図10を参照して、基台部98は、ベース体91と、固定側チャック92とを含んでいる。固定側チャック92は、ベース体91上に固定されている。固定側チャック92は、第1部材10を軸方向に保持する底面92Aと、第1部材10を径方向に保持する径方向チャック面92Bとを含んでいる。
【0071】
次に、閉塞摩擦接合工程の具体的な手順を説明する。
図9を参照して、工程(S30)として実施される接合準備工程では、第2部材20が外周面において回転側チャック94に保持される。また、第1部材10が外周面において固定側チャック92に保持される。第3部材30は、第1部材10の凹部10A内に配置される。凹部底面11と第3部材30の端面とが接触する。
【0072】
第1部材10の凹部底面11上に配置された第3部材30の一方の端面30Aと第2部材20の一方の端面21とが対向し、かつ第1部材10、第2部材20および第3部材30の中心軸が回転側チャック94の回転軸αに一致するように、第1部材10、第2部材20および第3部材30は配置される。
【0073】
次に、工程(S40)として摩擦工程が実施される。この工程(S40)では、主軸95が主軸モータ95Bにより駆動されて軸α周りに回転するとともに、主軸移動モータ90Bにより駆動されて基台部98に近づく。これにより、回転側チャック94が軸α周りに回転しつつ、固定側チャック92に近づく。
【0074】
そして、
図10に示すように、第2部材20は、少なくとも一部(一方の端面21を含む領域)が凹部10Aに進入する状態で第1部材10および第3部材30に対する相対的な位置を変えることなく、第3部材30に対して所定の荷重にて押し付けられつつ相対的に回転する。第3部材30の一方の端面30Aに対して第2部材20が相対的に押し付けられつつ回転する。これにより、第1部材10、第2部材20および第3部材30の温度が摩擦熱により上昇する。
【0075】
回転の開始時点において、第2部材20の外周面22と第1部材10の凹部側面12との間には隙間が形成される。回転の開始時点において、第2部材20の外周面22と第1部材10の凹部側面12とは接触しない。
【0076】
上述のように、第2部材20の変形抵抗は第1部材10の変形抵抗に比べて小さい。
図11を参照して、加熱された第2部材20は軟化して変形し、凹部側面12に接触する。第2部材20の変形は第1部材10の凹部10Aを規定する壁面(凹部底面11および凹部側面12)により制限される。そのため、摩擦によって発生した熱が凹部10A内から放出されることが抑制される。凹部10Aは、軟化した第2部材20および第3部材30により充填される。第2部材20が変形することにより、バリ29が形成される。第2部材20の温度は、たとえば第2部材20を構成する第2金属の軟化点以上の温度であって融点未満の温度にまで上昇する。第3部材30の温度は、たとえば第3部材30を構成する第3金属の軟化点以上の温度であって融点未満の温度にまで上昇する。
【0077】
次に、工程(S50)として冷却工程が実施される。この工程(S50)では、まず主軸95の回転数を低下させ、停止させる。その後、荷重センサ96により検知される押し付け荷重を低下させる。この間、第1部材10と第2部材20とは第3部材30を挟んで互いに押し付け合う状態を維持しつつ、第1部材10、第2部材20および第3部材30は冷却される。第1部材10、第2部材20および第3部材30は積み重ねられた状態で冷却される。これにより、第1部材10と第2部材20とが第3部材30を介して接合される。
【0078】
押し付け荷重が0とされた後、第1部材10と第2部材20とが第3部材30を介して接合されて構成される構造体である金属部材1が閉塞摩擦接合装置9から取り出される(
図12参照)。以上の手順により、閉塞摩擦接合工程が完了する。
【0079】
次に、工程(S60)として、機械加工工程が実施される。この工程(S60)では、工程(S50)において得られた金属部材1に対して切削等の機械加工が実施される。
図12を参照して、工程(S60)では、第1部材10と第2部材20とが接合された状態で工程(S40)において第2部材20が変形して形成されたバリ29が除去される。
【0080】
図12を参照して、工程(S60)では、さらに第1部材10と第2部材20とが第3部材30を介して接合された状態で凹部側面12が除去されるように第1部材10が加工される。破線Aに沿って第1部材10および第2部材20が切削加工されることにより、凹部側面12を含む外周領域およびバリ29が除去される。以上の手順により、
図8に示す第1部材10と第2部材20との接合体である金属部材1が得られる。凹部側面12を含む外周領域の除去とバリ29の除去とは連続的に一工程として実施されてもよいし、別工程として時間をおいて実施されてもよい。その後、実施の形態1の場合と同様に工程(S70)としてガス軟窒化工程が実施される。さらに、必要に応じて仕上げ加工等が実施されて金属部材1が完成する。
【0081】
このように、本実施の形態における閉塞摩擦接合装置9を用いた金属部材1の製造方法によれば、第1金属からなる第1部材10と、第1金属よりも変形抵抗が小さい第2金属からなる第2部材20とが第1金属よりも変形抵抗が小さい第3金属からなる第3部材30を介して接合された構造を有する金属部材1を製造することができる。異なる金属からなる第1部材10と第2部材20とが接合層である第3部材30を介して互いに接合された構造を有する金属部材1を製造することができる。第1部材10、第2部材20および第3部材30を同時に接合することができる。
【0082】
また、第3部材30を構成する第3金属である銅の熱膨張係数は、第1部材10を構成する第1金属である鋼の熱膨張係数よりも大きく、第2部材20を構成する第2金属である黄銅の熱膨張係数よりも小さい。そのため、第3部材30は、工程(S70)において実施される熱処理によって熱膨張係数の違いに起因して発生する第1部材10と第2部材20との間の応力を緩和することができる。第3部材30を第1部材10と第2部材20との間に介在させることにより、熱膨張係数の違いに起因して発生する上記応力によって亀裂が発生することを抑制することができる。
【0083】
なお、上記実施の形態1〜3の工程(S40)において、温度が上昇した状態における第2部材20(第2金属)および第3部材30(第3金属)の変形抵抗は第1部材10(第1金属)の変形抵抗に比べて10%以上小さいことが好ましく、50%以上小さいことがより好ましく、80%以上小さいことがさらに好ましい。上述のように、第1部材10(第1金属)に比べて第2部材20(第2金属)および第3部材30(第3金属)の変形抵抗が小さい場合、本実施の形態のように第1部材10と第2部材20とを第3部材30を介して接合することができる。しかし、第1部材10の変形抵抗と第2部材20および第3部材30の変形抵抗との差が小さい場合、工程(S40)において第2部材20および第3部材30だけでなく第1部材10も変形するおそれがある。
【0084】
このような場合、第1部材10と第2部材20とを、第3部材30を介して良好に接合することが難しくなる。工程(S40)において第1部材10、第2部材20および第3部材30の温度を厳密に管理する必要が生じる。工程(S40)において、温度が上昇した状態における第2金属および第3金属の変形抵抗を第1金属の変形抵抗に比べて10%以上小さく設定することにより、良好な接合を達成することが容易となり、50%以上小さく設定すること、さらには80%以上小さく設定することにより、良好な接合を達成することが一層容易となる。
【実施例】
【0085】
上記実施の形態1と同様の手順により第1部材10と第2部材20とを第3部材30を介して接合して金属部材1のサンプルを作製する実験を行った。第1部材10を構成する金属(第1金属)としては、鋼(機械構造用合金鋼)であるJIS規格SCM440(焼入および焼戻処理済み)を採用した。第2部材20を構成する金属(第2金属)としては、高力黄銅を採用した。第3部材30を構成する金属(第3金属)としては、銅を採用した。得られたサンプルを接合面に垂直な断面で切断した断面の写真を
図13に示す。
【0086】
図13を参照して、第1部材10と第2部材20とが第3部材30を介して良好に接合されていることが分かる。この実験結果から、本発明の金属部材の製造方法によれば、異なる金属からなる部材同士が接合層を介して互いに接合された構造を有する金属部材を製造できることが確認される。
【0087】
なお、上記実施の形態および実施例においては、第1部材を構成する金属(第1金属)として鋼を採用し、第2部材を構成する金属(第2金属)として黄銅を採用し、第3部材を構成する金属(第3金属)として銅を採用する場合について例示したが、本発明において採用可能な金属はこれらに限られない。採用可能な金属の組み合わせの一例を表1に示す。
【0088】
【表1】
表1に示すように、本発明の金属部材の製造方法においては、第1金属からなる第1部材、第1金属に比べて変形抵抗の小さい第2金属からなる第2部材、および第1金属に比べて変形抵抗の小さい第3金属からなる第3部材の種々の組み合わせを採用可能である。
【0089】
また、上記実施の形態においては、第3金属の熱膨張係数が、第1金属の熱膨張係数よりも大きく、第2金属である黄銅の熱膨張係数よりも小さいことにより、第1部材10と第2部材20との間の応力を緩和する場合について説明したが、たとえば第3金属のヤング率が小さいことにより上記応力が緩和されてもよい。
【0090】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって示された範囲、ならびに請求の範囲と均等な意味および範囲内でのすべての変更、改良が含まれることが意図される。