(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
対向した一対の棒状電極のうち少なくとも一方の電極が炭素棒である電極間に気中放電させることで前記炭素棒からカーボンスーツを発生させるカーボンスーツ発生装置であって、
前記カーボンスーツは、少なくとも一部がグラファイト化したカーボンであり、
前記電極が収容され、前記カーボンスーツを内部で発生させる容器と、
前記容器内に配置され、一方の前記電極の周囲を囲む筒と、
前記容器内の前記電極間に連続する気中放電を発生させる放電発生電源と、
一方の前記電極と前記筒との間に接続され、不活性ガスが流れる配管と、
を備え、
前記気中放電によって発生した前記カーボンスーツを加熱し、該カーボンスーツに導電性を付与する加熱機構を有し、
前記一対の棒状電極は、陽極炭素棒と陰極炭素棒とで構成され、
前記陰極炭素棒における前記陽極炭素棒側の端部の断面積は、前記陽極炭素棒における前記陰極炭素棒側の端部の断面積より小さく、
前記配管は、前記陰極炭素棒から前記陽極炭素棒に向かって、不活性ガスを供給し、
前記陽極炭素棒の軸を中心に前記陽極炭素棒を回転させる回転機構をさらに備えた、カーボンスーツ発生装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0020】
<第1実施形態>
先ず、第1実施形態に係るカーボンスーツ発生装置100について説明する。
図1は、本実施形態に係るカーボンスーツ発生装置100を模式的に示した図である。
図1に示すように、カーボンスーツ発生装置100は、上下方向(ここでは鉛直方向)に対向した一対の第1電極101および第2電極102の間に気中放電させることで、電極101および102からカーボンスーツを発生させる装置である。カーボンスーツ発生装置100は、一対の第1電極101および第2電極102を収容する減圧可能な容器107と、放電発生電源113と、イメージ炉117とを備えている。
【0021】
電極101および102は、棒状電極であり、炭素棒である。典型的には、丸棒(円柱)状の棒状電極であるが、角棒(角柱)状の棒状電極であってもよい。なお、電極101は炭素棒である必要はなく、少なくとも電極102が炭素棒であればよい。ここでは、電極101および102は、長手方向に対向するようにして上下方向に並んでいる。電極101および102は、それぞれホルダ103および104に固定されている。ホルダ103および104には、それぞれ端子105および106が接続されている。また、第2電極102が固定されたホルダ104は、ホルダ台114に載置されている。
【0022】
容器107は、内部でカーボンスーツを発生させる。容器107には、電極101および102などが収容されている。本実施形態では、容器107は、下方に開口しており、この開口は、底蓋107aによって閉じられている。容器107は耐熱性のある気密容器である。容器107の上部であって、第2電極102の上方に位置する箇所には、排出口115が形成されている。この排出口115は、電極101および102間で発生したカーボンスーツが排出される部位である。底蓋107aには、上面から上方に延びた締結部材112が設けられている。この締結部材112の上端にはホルダ台114が設けられている。締結部材112によって、第2電極102は固定されている。また、底蓋107aには、チューブ110が設けられ、このチューブ110は、容器107内で金属製配管111に接続されている。チューブ110には、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス等)が流されており、チューブ110および金属製配管111を通して容器107内を不活性ガスで満たす(置換する)ことができる。なお、容器107内は真空であってもよい。また、容器107内の圧力については特に限定されないが、典型的には、0.02MPa〜0.2MPa程度が適当である。
【0023】
本実施形態では、チューブ110および金属製配管111を通った不活性ガスは、電極101から電極102に向かうように噴出される。具体的には、第1電極101は、筒108によって周囲が囲まれている。第1電極101と筒108の内周面との間には若干の隙間がある。また、電極101および102が対向している箇所は、筒109によって周囲が囲まれている。筒109は、石英またはアルミナなどの絶縁性と耐熱性とを有する材料によって構成されている。金属製配管111は、一端がチューブ110に接続されており、他端が第1電極101の下方から第1電極101と筒108の内周面との間の隙間に向かって不活性ガスが流れるように配置されている。そのため、チューブ110および金属製配管111を通った不活性ガスは、電極101から電極102に向かうように噴出される。
【0024】
放電発生電源113は、容器107内の電極101および102間に連続する気中放電を発生させる。本実施形態では、放電発生電源113は、端子105および106、ならびに、ホルダ103および104を介して、電極101および102に接続されている。放電発生電源113は、正負極出力を有している。ここでは、第1電極(カソード)101には、負極の電圧が印加され、第2電極(アノード)102には、正極の電圧が印加されている。放電発生電源113は、気中放電を定電流によって連続放電させる機能を有している直流電源であり、アーク放電電源であることが好ましい。アーク放電を用いることで、エネルギー投入量の増大を狙い、所定の電圧(例えば20V〜100V、好ましくは30V〜80V)かつ所定の電流(例えば10A〜60A、好ましくは20A〜40A)の連続放電を第1電極101および第2電極102の間に発生させることができ、その結果、5g/h程度のカーボンスーツを発生させることができる。
【0025】
イメージ炉117は、放電発生電源113の気中放電によって発生したカーボンスーツを加熱し、このカーボンスーツに導電性を付与する。本実施形態では、イメージ炉117は、本発明の加熱機構に対応する。
【0026】
本実施形態では、イメージ炉117は、容器107の排出口115の出口に設けられている。イメージ炉117は、従来公知のものであればよい。例えば、イメージ炉117は、赤外線ゴールドイメージ炉であることが好ましい。イメージ炉117は、一対の電極101および102の間から発生したカーボンスーツに赤外線を照射して、発生したカーボンスーツを加熱させる。ここでは、イメージ炉117は、略長方体形状であり、長手方向に沿って円筒が切り抜かれた形状をしている。イメージ炉117の内周面には、赤外線ランプ(図示せず)および放物面ミラー(図示せず)が配置されている。また、イメージ炉117内には、透明な筒状の石英管116が配置されており、この石英管116が容器107の排出口115の出口に繋がっている。ここでは、石英管116内にカーボンスーツが導入され、上記赤外線ランプおよび上記放物面ミラーによってカーボンスーツは高温で加熱される。そして、カーボンスーツが高温で加熱されることによって、導電性が付与される。なお、イメージ炉117の加熱温度は、600℃〜1000℃であることが好ましい。
【0027】
次に、本実施形態に係るカーボンスーツ発生装置100において、カーボンスーツが発生し、発生したカーボンスーツに導電性を付与する手順について説明する。先ず、チューブ110から不活性ガスが容器107内に導入され、容器107内が所定のガス圧となるように不活性ガスで置換される。放電発生電源113によって電極101および102に電圧が印加される。このとき、電極101および102の間で放電が発生し、正極の電圧が印加された電極102が加熱されて昇華し、カーボンスーツが発生する。発生したカーボンスーツは、筒108の内周面と電極101との隙間を上方に向かって噴射する不活性ガスによって、冷却しながら容器107の上方へ移動し、排出口115を通じてイメージ炉117内の石英筒116に導入される。石英筒116内に導入されたカーボンスーツは、イメージ炉117内に配置された赤外線ランプおよび放物面ミラーによって約600℃〜1000℃で加熱されることにより急速な冷却が抑制され、結晶化(グラファイト化)の進行によって導電性が付与されることとなる。
【0028】
以上、第1実施形態に係るカーボンスーツ発生装置100について説明した。次に、第1実施形態に関する試験例について説明するが、以下で説明する試験例は本発明を限定することを意図したものではない。
【0029】
ここでは、試験例1として、第1実施形態に係るカーボンスーツ発生装置100において、電極101および102の間から発生したカーボンスーツを、加熱機構であるイメージ炉117に導入したときにおける、カーボンスーツの抵抗値について調べた。
【0030】
≪試験例1≫
<実施例1>
先ず、棒状の炭素棒である第1電極101および第2電極102を用意した。第1電極101および第2電極102は、ともに極径5mm、長さ100mmの炭素棒である。そして、電極101および102の気中放電前の間隔が2mmとなるように、
図1に示すカーボンスーツ発生装置100のように第1電極101および第2電極102を垂直に対向するように配置した。また、容器107内は、所定のガス圧の不活性ガス(窒素ガス)で満たされている。そして、放電発生電源113としてアーク発生電源(直流電源)を用いて、所定の電圧(25V)で気中放電(アーク放電)を第1電極101および第2電極102の間に発生させる。
【0031】
上述した構成のカーボンスーツ発生装置100において、第1電極101および第2電極102間でカーボンスーツを発生させる。そして、発生したカーボンスーツをイメージ炉117内の石英筒116に導入し、600℃でカーボンスーツを加熱させた。このときの時間の経過に伴うカーボンスーツの抵抗値(MΩ)を求めた。
【0032】
<実施例2>
イメージ炉117内の石英筒116に導入したカーボンスーツを800℃で加熱させた以外は、実施例1と同様にして、実施例2における時間の経過に伴うカーボンスーツの抵抗値を求めた。
【0033】
<実施例3>
イメージ炉117内の石英筒116に導入したカーボンスーツを1000℃で加熱させた以外は、実施例1と同様にして、実施例3における時間の経過に伴うカーボンスーツの抵抗値を求めた。
【0034】
実施例1〜3で求めた石英筒116に導入した時間の経過に伴うカーボンスーツの抵抗値を
図2のグラフに示す。なお、
図2において、縦軸はカーボンスーツの抵抗値(MΩ)を示し、横軸はカーボンスーツを石英筒116内に導入した経過時間(即ち加熱継続時間)を示している。
図2に示すように、イメージ炉117内の加熱温度を高くすることによって、短時間でカーボンスーツの抵抗値が下がることが分かる。すなわち、加熱温度が高いほど短時間でカーボンスーツがグラファイト化し、導電性の向上が認められる。特に、実施例3のように加熱温度を1000℃にすると、0.5秒でカーボンスーツの抵抗値が1.0MΩ以下となった。なお、実際の排ガス中のPMの抵抗値は600kΩ〜800kΩである。このことによって、発生したカーボンスーツに加熱処理をすることで、カーボンスーツの抵抗値を低減させる、すなわち、カーボンスーツに導電性を付与することができることが分かる。イメージ炉117の加熱温度を高温にする程、より短時間で、カーボンスーツに導電性を付与することができる。
【0035】
以上のように、本実施形態では、気中放電によって発生したカーボンスーツは、イメージ炉117によって加熱される。加熱されたカーボンスーツは、導電性が低いアモルファスカーボンではなく、導電性が高いグラファイト化したカーボンとなる。よって、発生したカーボンスーツの導電性を向上させることができる。また、導電性が向上したカーボンスーツが含まれた評価ガスで、PFの適切な性能評価をすることができる。
【0036】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係るカーボンスーツ発生装置200について説明する。
図3は、本実施形態に係るカーボンスーツ発生装置200を模式的に示した図である。本実施形態では、
図3に示すように、カーボンスーツの加熱機構は、電極間隔調節手段(モータ209)によって、電極201および202の間が所定の間隔に設定されるとともに、設定された間隔において、放電発生電源によって、発生したカーボンスーツに導電性を付与し得る熱エネルギーを有するアーク放電を発生させるように構成されている。
【0037】
本実施形態では、炭素棒で構成された第1電極(カソード)201および第2電極(アノード)202は、お互いの端面が対向するようにして略平行に配置されている。第1電極201には取付器具203が取り付けられており、取付器具203によって台座205に固定されている。第2電極202には取付器具204が取り付けられており、取付器具204によって台座206に固定されている。台座206は、スライド台207に載置されている。また、台座206の
図3の正面からみて右側側面の面中心には、雌螺子が加工されている。その台座206の雌螺子部分には、雄螺子シャフト210の雄螺子部分が貫通されている。
【0038】
そして、雄螺子シャフト210の雄螺子部分に対向する側には、モータ209の回転軸が固定されており、モータ209の回転と共に雄螺子シャフト210も回転する。このように、モータ209が回転することによって雄螺子シャフト210が回転することにより、台座206がスライドし、該スライドによって第2電極202が軸方向に移動することができる。このことによって、第1電極201および第2電極202の間隔を調整することができる。また、台座205、スライド台207およびモータ209は、ベース台208に固定されている。
【0039】
かかる構成のカーボンスーツ発生装置200には、放電発生電源211が備えられている。放電発生電源211は、モータ209によって所定の間隔に調節された一対の電極201および202の間にアーク放電を生じさせるように構成されている。ここでは、放電発生電源211の正極出力には、第2電極202、すなわち、モータ209によってスライドさせる電極が接続されている。一方、放電発生電源211の負極出力には、第1電極201が接続されている。また、放電発生電源211の正極出力側はアースされている。なお、放電発生電源211は定電流源である。
【0040】
かかるカーボンスーツ発生装置200の構成のうち、第1電極201、第2電極202、取付器具203および204、台座205および206、スライド台207は、容器214内に格納されている。容器214は、密閉性の高い容器である。容器214には、配管215および217が貫通されている。この配管215および217は、不活性ガス(例えば、アルゴンガスまたは窒素ガス)を容器214内に導入する管である。このように、配管215および217を通じて容器214内に窒素ガスを導入することによって、容器214内は、窒素ガスが充満された状態(以下、「窒素雰囲気」ともいう。)となる。特に、配管217の出口は、第1電極201および第2電極202の間の近傍に設けられており、アーク放電によって発生したカーボンスーツを効果的に冷却する。また、配管217を流れる不活性ガスは、電極201および202の間で発生したカーボンスーツを上方に向かって後述する排出口216へ移動させる役割も担っている。
【0041】
また、容器214の上部には、排出口216が設けられている。この排出口216は、カーボン製であり、容器214内で発生したカーボンスーツを含有するガス(以下、「カーボン含有ガス」ともいう。)を排出するための管である。
【0042】
かかるカーボンスーツ発生装置200は、制御部213を備えている。制御部213は、主としてデジタルコンピュータから構成されており、カーボンスーツ発生装置200の稼働における制御装置として機能する。制御部213は、例えば、ROM、RAMおよびCPU等を有している。制御部213は、入力ポートによってカーボンスーツ発生装置200内の情報を取得し、該情報に基づいて出力ポートに制御信号を送信することで、カーボンスーツ発生装置200を制御することができる。例えば、入力ポートには、放電発生電源211によって発生された第1電極201および第2電極202との間の電圧および/または電流の情報が伝達される。一方、出力ポートにはモータ209が接続されており、該出力ポートを介して、モータ制御信号をモータ209に送信することで、モータ209の回転によって、第2電極202を軸方向に移動することによって第1電極201および第2電極202との間隔を制御することができる。
【0043】
カーボンスーツ発生装置200は、電圧検出手段212と、電極間隔調節手段としてのモータ209を備えている。電圧検出手段212は、第1電極201および第2電極202に印加された電圧を検出する手段である。電圧検出手段212は、制御部213と電気的に接続されている。制御部213は、電圧測定信号を受信し、該受信後、電圧検出手段212は、放電発生電源211によって発生された第1電極201および第2電極202の間の電圧を測定する。なお、この電圧を測定する方法は、本発明を特に限定するものではないが、例えば、可動コイル構造であり永久磁石およびコイルで構成される電圧測定器などを使用することができる。
【0044】
電極間隔調節手段は、一対の電極201および202の間の間隔を調節する。上述したように、ここでは、電極間隔調節手段は、モータ209である。モータ209は、制御部213と電気的に接続されている。制御部213は、電圧検出手段212によって電極201および202に印加された電圧を検出し、該検出結果に基づいて電極201および202の間隔を調節するために、モータ209を駆動させることによって、第2電極202を軸方向に移動させて、電極201および202の間隔を調節している。
【0045】
カーボンスーツ発生装置200は、加熱機構を備えており、この加熱機構は、放電発生電源211と電極間隔調節手段(モータ209)とから構成されている。具体的には、加熱機構は、モータ209によって、電極201および202の間が所定の間隔に設定されるとともに、該設定された間隔において、放電発生電源211によって発生したカーボンスーツに導電性を付与し得る熱エネルギーを有するアーク放電を発生させるように構成されている。すなわち、本実施形態に係る加熱機構は、放電発生電源211によって発生したアーク放電の熱エネルギーを利用して、発生したカーボンスーツを加熱している。
【0046】
かかる構成のカーボンスーツ発生装置200において、配管217からの不活性ガスの上方に向かう流路に沿って、電極201および202の間で発生したカーボンスーツは、排出口216へ向かって移動する。このとき、容器214内の電極201および202と排出口216との間の空間Aは、放電発生電源211によるアーク放電の熱エネルギーによって赤熱している。カーボンスーツは、この空間Aを通過することによって加熱され、導電性が高いグラファイト化したカーボンとなる。なお、この空間Aの赤熱の範囲は、モータ209によって電極201および202の間の間隔を広くする程、広くなる。
【0047】
このことは以下のことから説明できる。電極201および202の間隔が広くなると、電極201および202への印加電圧が高くなる。放電発生電源211は、定電流源であるため、上記間隔が広くなることはアーク放電にかかる電力が大きくなることである。また、アーク放電は、電極201および202の近傍で発生するため、電極201および202の間におけるカーボンスーツを発生させる以外の熱エネルギーは、電極201および202の周囲を加熱することに費やされる。そのため、電極201および202の間の間隔を広くすることで、容器214内のカーボンスーツは、アーク放電の熱エネルギーにより、導電性が高いグラファイト化したカーボンとなる。
【0048】
図4および
図5は、カーボンスーツ発生装置200において、発生したカーボンスーツのTEM画像である。
図4は、電極201および202の間の間隔を2mmにした場合における、発生したカーボンスーツである。
図5は、電極201および202の間の間隔を4mmにした場合における、発生したカーボンスーツである。なお、
図4および
図5のTEM画像は、倍率が30万倍である。
図4に示すように、電極201および202の間隔を2mmとした場合、発生したカーボンスーツはアモルファスカーボンである。一方、
図5に示すように、電極201および202の間隔を4mmとした場合、発生したカーボンスーツには、グラファイト化したカーボンの特徴である層状構造が見受けられた。このように、電極201および202の間隔は、4mm以上であることが好ましい。このことによって、導電性が高いグラファイト化したカーボンスーツが得られ易い。
【0049】
以上のように、本実施形態では、放電発生電源211はアーク放電を発生させる電源である。一対の電極201および202間から発生したカーボンスーツに、導電性を付与し得る熱エネルギーを有するアーク放電を発生させることで、カーボンスーツを導電性が高いグラファイト化したカーボンにすることができる。また、加熱機構専用の装置などを新たに用意する必要がないため、コストを削減することができる。
【0050】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態に係るカーボンスーツ発生装置300について説明する。
図6は、第3実施形態に係るカーボンスーツ発生装置300を模式的に示した図である。第3実施形態では、
図6に示すように、容器303の周りにイメージ炉304を設けることで、電極間で発生したカーボンスーツを加熱している。
【0051】
本実施形態では、炭素棒である第1電極(カソード)301および第2電極(アノード)302は、お互いの端面が対向するようにして略垂直に配置されている。第1電極301は、端子320を介してアーク放電を行う定電流の放電発生電源322の負極出力が接続されている。第2電極302は、端子321を介して放電発生電源322の正極出力が接続されている。ここでは、電極301および302は、石英製の透明な筒状の容器303に収容されている。
【0052】
容器303には、上部および下部に、配管305および316が設けられている。配管305および316には、不活性ガスが流されており、配管305および316を通して容器303は所定のガス圧の不活性ガスで満たされる(置換される)。具体的には、配管305からの不活性ガスは、一対の電極301および302の近傍へ流れる。第1電極301は、耐熱性の材料で形成された筒307に囲まれており、この筒307の上端には配管305の出口が設けられている。配管305からの不活性ガスは、筒307と第1電極301との間の隙間から電極301および302の近傍に流れる。配管316からの不活性ガスは、容器303の下部から上方へ向かって流れる。また、容器303には、上部に排出口317が設けられている。排出口317は、容器303内のカーボンスーツを排出するものである。そのため、配管316からの不活性ガスは、電極301および302の間で発生したカーボンスーツを排出口317へ向けて流す流路を形成している。
【0053】
ここでは、第2電極302には、電極間隔調節手段であるモータ308が接続されている。このモータ308によって第2電極302は、上下方向に移動可能である。すなわち、モータ308によって、電極301および302の間隔を調節することができる。このモータ308によって電極301および302の間隔を調節する構造は、従来公知のものであればよく、その説明は省略する。
【0054】
本実施形態では、容器303を囲むようにして、イメージ炉304が配置されている。このイメージ炉304は、所謂ゴールドイメージ炉であり、赤外線ランプ(図示せず)と放物面ミラー(図示せず)とを備えている。イメージ炉304によって、容器303内を600℃〜1000℃に加熱する。
【0055】
本実施形態では、カーボンスーツ発生装置300は、第2実施形態の制御部213と同様の制御部323と、第2実施形態の電圧検出手段212と同様の電圧検出手段324とを備えている。制御部323は、モータ308および電圧検出手段324と電気的に接続されており、電圧検出手段324によって電極301および302に印加された電圧を検出し、モータ308を制御することによって、上記印加された電圧が一定になるように電極301および302の間隔を調節する。
【0056】
以上のように、本実施形態では、電極301および302から発生したカーボンスーツは、イメージ炉304によって容器303内で加熱され、導電性が高いグラファイト化したカーボンとなる。よって、第1実施形態と同様の効果が得られる。また、本実施形態では、一対の電極301および302の間から発生したカーボンスーツに、導電性を付与し得る熱エネルギーを有するアーク放電を発生させることで、カーボンスーツを導電性が高いグラファイト化したカーボンにすることもできる。よって、第2実施形態と同様の効果が得られる。
【0057】
なお、第3実施形態において、加熱機構のイメージ炉304の代わりに、反射鏡を容器303の周りに設けてもよい。このことによって、放電発生電源322からのアーク放電から発生する赤外線を電極301および302から発生するカーボンスーツの近傍、および、発生したカーボンスーツが排出口317に移動する流路に集光させることで、カーボンスーツを加熱し、カーボンスーツに導電性を付与することができる。
【0058】
また、第3実施形態において、加熱機構としてのイメージ炉304の代わりに、電極301および302の周囲を囲むように筒状に巻いたニクロム線であってもよい。
【0059】
<第4実施形態>
次に、第4実施形態に係るカーボンスーツ発生装置400について説明する。
図7は、第4実施形態に係るカーボンスーツ発生装置400を模式的に示した図である。
図7に示すように、陰極炭素棒の一例である第1電極(カソード)401、および、陽極炭素棒の一例である第2電極(アノード)402は、お互いの端面が上下方向に対向するように配置されている。このことによって、放電切れが発生しにくい。第1電極401は、端子420を介してアーク放電を行う定電流の放電発生電源422の負極出力が接続されている。第2電極402は、端子421を介して放電発生電源422の正極出力が接続されている。第1電極401における第2電極402側の端部の断面積は、第2電極402における第1電極401側の端部の断面積より小さい。ここでは、第1電極401の両端部および中央部の横断面積は略同じである。電極401および402は、容器403に収容されている。
【0060】
容器403の下部には、配管404および405が設けられている。配管404および405には、不活性ガスが流される。ここでは、配管404および405には、共に流量計418aを介して、不活性ガスである窒素を供給する窒素供給装置419a、および、流量計418bを介して、不活性ガスであるアルゴンを供給するアルゴン供給装置419bが接続されている。供給装置419aおよび419bは、本発明の不活性ガス供給機構の一例である。流量計418aおよび418bは、例えばフロート式の流量計であり、それぞれ窒素およびアルゴンの流量を調整する。なお、配管404および405には、不活性ガスの流動を整える整流板が設けられていてもよい。
【0061】
本実施形態では、第1電極401は、円筒状の供給ノズル425で囲まれており、この供給ノズル425の下方に配管404の出口が設けられている。配管404からの不活性ガスは、供給ノズル425と第1電極401との間の空間を通り、第1電極401から第2電極402に向かって流れる。ここでは、電極401および402は円筒状の筒426で囲まれており、この筒426の下方に配管405の出口が設けられている。配管405からの不活性ガスは、筒426内を通過する。ここでは、容器403の上部には、カーボンスーツを排出する排出口417が設けられている。配管404および405からの不活性ガスは、電極401および402の間で発生したカーボンスーツを排出口417へ向けて流す流路を形成している。本実施形態では、排出口417および配管404は、電極401および402の軸線上に配置されている。
【0062】
カーボンスーツ発生装置400は、回転機構430を備えている。回転機構430は、第2電極402の軸を中心に第2電極402を回転させるものである。回転機構430の構成は特に限定されない。例えば、本実施形態では、回転機構430は、ドリブンギア431と、ドライブギア432と、ドライブシャフト433と、モータ434とによって構成されている。ドリブンギア431は、第2電極402に固定されている。ドリブンギア431には、ドライブギア432が噛み合っている。ドライブギア432には、ドライブシャフト433の一端が挿入されている。ドライブシャフト433の他端には、モータ434が接続されている。ここでは、モータ434が回転することによって、ドライブシャフト433、ドライブギア432およびドリブンギア431を通じて、第2電極402は軸方向に回転する。なお、第2電極402の回転数は、3秒〜10秒ごとに1回転することが好ましい。
【0063】
第2電極402には、電極間隔調節手段であるモータ408が接続されている。このモータ408は、第3実施形態のモータ308と同様のものであり、モータ408によって、電極401および402の間隔を調節することができる。
【0064】
本実施形態では、カーボンスーツ発生装置400は、第2実施形態の制御部213と同様の制御部428と、第2実施形態の電圧検出手段212と同様の電圧検出手段429とを備えている。制御部428は、電極間隔調節手段のモータ408、回転機構430のモータ434、供給装置419a,419b、および、電圧検出手段429と電気的に接続されている。電圧検出手段429によって電極401および402に印加された電圧を検出し、モータ408を制御することによって、上記印加された電圧が一定になるように電極401および402の間隔を調節する。また、制御部428は、回転機構430のモータ434によって、第2電極402の回転数を制御する。
【0065】
本実施形態では、まず、配管404および405を流れる不活性ガス(窒素およびアルゴン)の流量を流量計418aおよび418bによって設定する。そして、放電発生電源422の電流値および初期電圧値を設定する。電圧検出手段429によって電極401および402に印加された電圧を検出し、モータ408を制御することによって、上記印加された電圧が一定になるように電極401および402の間隔を調節する。このことによって、発生したカーボンスーツの粒径および単位時間当たりの発生数を安定させることができる。
【0066】
発生したカーボンスーツは、温度が高い(例えば、数千℃)雰囲気中では、粒径成長し、不活性ガスの流路に沿って容器403の上部へ移動する。そして、温度が低下するとカーボンスーツの粒径成長は止まり、その粒径のカーボンスーツが排出口417から排出される。本実施形態では、温度が高い雰囲気中に存在するカーボンスーツの個数濃度が高い場合、カーボンスーツが大粒径化する。すなわち、放電発生電源422の電流値が大きい程、カーボンスーツが大粒径化する。また、電極401および402の間隔を大きくすると、電圧が高くなる。このことによって、カーボンスーツの発生量が多くなる。以上のように、放電発生電源422の電流値を一定にし、電極401および402の間隔を調節して電圧を変化させることで、カーボンスーツの粒径分布を安定させた状態で発生数のみを制御することができる。
【0067】
本実施形態では、不活性ガスとして、窒素供給装置419aから供給される窒素、および、アルゴン供給装置419bから供給されるアルゴンを使用している。アルゴンは窒素よりも放電し易い気体である。そのため、不活性ガスとしてアルゴンを使用した場合、同一電圧において、電極401および402の間隔を大きくした状態であっても放電することができる。よって、同一電圧において、アルゴンを容器403に導入した場合、発生したカーボンスーツの個数濃度が下がり、小粒径化したカーボンスーツが得られる。また、窒素とアルゴンとの混合割合は特に限定されず、粒径が大きいカーボンスーツを得たい場合、窒素の割合を大きくするとよく、粒径が小さいカーボンスーツを得たい場合、アルゴンの割合を大きくするとよい。
【0068】
以上、第4実施形態に係るカーボンスーツ発生装置400について説明した。次に、第4実施形態のカーボンスーツ発生装置400に関する試験例について説明するが、以下で説明する試験例は本発明を限定することを意図したものではない。
【0069】
≪試験例2≫
試験例2では、容器403に不活性ガスを導入する際、1箇所から不活性ガスを導入する場合と、2箇所から不活性ガスを導入する場合とにおける発生したカーボンスーツの個数濃度について調べた。
【0070】
<実施例2−1>
極径3mm、長さ100mmの炭素棒である第1電極401、および、極径10mm、長さ100mmの炭素棒である第2電極402を用意した。電極401および402の気中放電前の間隔が2mmとなるように、第1電極401および第2電極402を垂直に対向するように配置した。そして、放電発生電源422としてアーク発生電源(直流電源)を用いて、所定の電圧(25V)で気中放電(アーク放電)を第1電極401および第2電極402の間に発生させる。また、配管404から窒素を20L/min、および、配管405から窒素を40L/minで容器403に導入する。
【0071】
上述した構成のカーボンスーツ発生装置400において、第1電極401および第2電極402間でカーボンスーツを発生させる。このときの時間経過(0.5時間経過〜1.25時間経過の間の2700秒間)に伴う発生したカーボンスーツの個数濃度を調べた。その結果を
図8に示す。
【0072】
<比較例2−1>
配管404から窒素を40L/minを容器403内に導入し、配管405から窒素を容器403内に導入させない以外は、実施例2−1と同様にして、時間経過(0.5時間経過〜1.25時間経過の間の2700秒間)に伴う発生したカーボンスーツの個数濃度を調べた。その結果を
図9に示す。
【0073】
図9に示すように、経過時間が1000秒〜2700秒の間において、配管404のみから窒素を容器403内に導入した比較例2−1の場合、時間が経過するに従って個数濃度にばらつきがみられた。一方、
図8に示すように、配管404および405の2箇所から窒素を容器403内に導入した実施例2−1の場合、時間が経過したときでも個数濃度が安定している。よって、配管404および405の2箇所から不活性ガスを容器403内に導入することによって、発生したカーボンスーツの個数濃度を安定させることができる。
【0074】
≪試験例3≫
次に、試験例3について説明する。試験例3では、第2電極(アノード)402を回転させる場合と回転させない場合における、第2電極402の片減り角度について調べた。なお、片減り角度とは、
図10に示すような角度Rのことである。
【0075】
<比較例3−1、実施例3−1〜3−5>
試験例3では、電圧:50V、電流:20Aとする以外は、実施例2−1と同様の構成であって、第2電極402の回転数が0r/min(比較例3−1)、0.38r/min(実施例3−1)、0.77r/min(実施例3−2)、6.15r/min(実施例3−3)、12.3r/min(実施例3−4)、および、18.5r/min(実施例3−5)である場合における、30分経過後の第2電極402の片減り角度について調べた。その結果を
図11に示す。
【0076】
図11に示すように、第2電極402を回転させない比較例3−1では、片減り角度が約12度であった。しかし、第2電極402を回転させた実施例3−1〜3−5では、片減り角度が比較例3−1よりも小さかった。このことによって、第2電極402を回転させることによって、片減り角度を小さくすることができることが分かる。
【0077】
また、試験例3において、第2電極402の回転数を6.15r/minとする実施例3−3、および、第2電極402を回転させない比較例3−1における時間経過(2時間連続試験の最後の15分間)に伴う発生したカーボンスーツの個数濃度を表すグラフを
図12に示す。
図12に示すように、第2電極402を回転させた実施例3−3の方が、第2電極402を回転させない比較例3−1に比べて、発生したカーボンスーツの個数濃度が安定している。なお、図示は省略するが、第2電極402を回転させた実施例3−3の方が、第2電極402を回転させない比較例3−1に比べて、電圧値が安定していた。以上のように、第2電極402を回転させて片減り角度を小さくすることによって、発生したカーボンスーツの個数濃度を安定させることができる。第2電極402の片減り角度が大きいと、第2電極402に接触する不活性ガスが偏流し易くなる。その結果、発生したカーボンスーツの粒径および発生量が安定しない。しかし、本実施形態では、第2電極402を均等に消費させることによって、第2電極402に接触する不活性ガスが偏流することを防ぐことができる。よって、発生したカーボンスーツの粒径および発生量を安定させることができる。
【0078】
≪試験例4≫
次に、試験例4について説明する。試験例4では、第1電極(カソード)401の第2電極402の端部の極径(以下、単に第1電極401の極径という。)を変更したときにおける時間経過に伴う発生したカーボンスーツの個数濃度と、電圧値とを調べた。
【0079】
<実施例4−1>
実施例4−1は、実施例2−1と同様の構成である。
【0080】
<比較例4−1>
第1電極401の極径が10mmである以外は、実施例4−1と同様の構成とした。
【0081】
実施例4−1および比較例4−1における時間経過に伴う発生したカーボンスーツの個数濃度および電圧値について調べ、その結果を
図13に示す。
図13に示すように、第1電極401の極径を、第2電極402の極径と同じにした比較例4−1では、発生したカーボンスーツの個数濃度にばらつきがみられた。しかし、第1電極401の極径を第2電極402の極径よりも細くした実施例4−1では、比較例4−1に比べて、発生したカーボンスーツの個数濃度が安定した。また、実施例4−1では、比較例4−1に比べて、電圧値が安定した。電圧値が安定することによって、発生するカーボンスーツの発生量を安定させることができる。よって、第1電極401の極径を第2電極402の極径よりも細くする、すなわち、第1電極401における第2電極402側の端部の断面積を、第2電極402における第1電極401側の端部の断面積よりも小さくすることによって、電圧値を安定することができると共に、発生したカーボンスーツの粒径および発生量を安定させることができる。
【0082】
≪試験例5≫
次に、試験例5について説明する。試験例5では、第2電極(アノード)402の極径を変更したときにおける発生したカーボンスーツの発生レートと粒径との関係について調べた。
【0083】
<実施例5−1〜5−3>
第2電極(アノード)402の極径を5mm、7mm、10mmであること、および、それぞれ電圧:60V、電流:20Aとする以外は、実施例4−1と同様の構成とし、それぞれ実施例5−1、実施例5−2、実施例5−3とした。
【0084】
実施例5−1〜実施例5−3における発生したカーボンスーツの発生レートと粒径との関係について調べ、その結果を
図14に示す。
図14に示すように、第2電極402の極径を細くする程、第2電極402の蒸発が促進される。このことによって、粒径成長が促進される。よって、発生したカーボンスーツの発生レートが高くなり、粒径が大きくなる。一方、第2電極402の極径を太くする程、第2電極402の蒸発が抑制される。そのため、粒径成長が抑制される。よって、発生したカーボンスーツの発生レートが低くなり、粒径が小さくなる。したがって、第2電極402の極径を変更することによって粒径および発生レートを調整することができる。
【0085】
以上、第4実施形態におけるカーボンスーツ発生装置400について説明した。なお、本実施形態では、
図7に示すように、第1電極401の両端部および中央部の横断面積は略同じであった。しかし、第1電極401の第2電極402側の端部の断面積が、第2電極402の第1電極401側の端部の断面積よりも小さいとよく、この場合、
図15に示すように、第1電極401の第2電極402側の端部の断面積は、第1電極401の第2電極402と反対側の端部の断面積よりも小さくてもよい。第1電極401は、第2電極402の端部に向かうに従って、断面積が小さくてもよい。