(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6450166
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】排気システムにおける排気管同士を連結する球面継手の配置位置決定方法および排気システムの製造方法
(51)【国際特許分類】
F01N 13/08 20100101AFI20181220BHJP
B60K 13/04 20060101ALI20181220BHJP
F01N 1/00 20060101ALI20181220BHJP
F16L 27/04 20060101ALI20181220BHJP
【FI】
F01N13/08 F
B60K13/04 A
F01N1/00 D
F16L27/04
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-242576(P2014-242576)
(22)【出願日】2014年11月28日
(65)【公開番号】特開2016-102488(P2016-102488A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】貝田 英俊
(72)【発明者】
【氏名】松本 幸人
(72)【発明者】
【氏名】藤田 昌一郎
(72)【発明者】
【氏名】織田 俊也
【審査官】
楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−127450(JP,A)
【文献】
特開平10−266850(JP,A)
【文献】
特開2007−099102(JP,A)
【文献】
特開2006−009753(JP,A)
【文献】
特開2009−013869(JP,A)
【文献】
特開2002−371841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 13/08
B60K 13/04
F01N 1/00
F16L 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気ガスを排出する排気システムにおける排気管同士を連結する球面継手の配置位置決定方法であって、
周波数ごとに、前記排気システムの上流側の端部に当該周波数の振動を与えて、前記排気管に設定した複数箇所のなかから、前記排気システムにおける前記球面継手の配置位置を決定する処理を含み、
前記処理において、
前記周波数ごとに、当該周波数の振動を前記排気システムに与えた場合における、前記複数箇所の曲げモーメントのうちの最大値に対する、前記複数箇所のそれぞれの箇所の曲げモーメントの比率を検出し、当該比率が所定値以上の箇所から、前記球面継手を構成する互いに接触する球面状の内周面と球面状の外周面との間に最大静止摩擦力を発生させるトルク以上の曲げモーメントが発生する箇所を検出し、前記検出した箇所を前記排気システムにおける前記球面継手の配置位置に決定する
ことを特徴とする、排気システムにおける排気管同士を連結する球面継手の配置位置決定方法。
【請求項2】
請求項1記載の排気システムにおける排気管同士を連結する球面継手の配置位置決定方法であって、
前記比率が所定値以上の箇所に球面継手を配置して、前記排気システムの上流側の端部に前記振動を与え、前記排気システムを固定するマウンタに配置した加速度センサの検出値が、予め定めた基準値以下である場合に、前記比率が所定値以上の箇所を、前記球面継手を構成する互いに接触する球面状の内周面と球面状の外周面との間に最大静止摩擦力を発生させるトルク以上の曲げモーメントが発生する箇所として検出する
ことを特徴とする、排気システムにおける排気管同士を連結する球面継手の配置位置決定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の排気システムにおける排気管同士を連結する球面継手の配置位置決定方法であって、
前記曲げモーメントの最大値に基づき、前記比率が所定値以上の箇所を特定するために用いる周波数を絞り込むことを特徴とする、排気システムにおける排気管同士を連結する球面継手の配置位置決定方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の排気システムにおける排気管同士を連結する球面継手の配置位置決定方法であって、
前記複数箇所にひずみゲージを取り付けて、前記排気システムの上流側の端部に前記エンジンの振動を模した模擬振動を加え、そのときに各ひずみゲージで測定された曲げひずみに基づいて、前記複数箇所のそれぞれにおける曲げモーメントを算出して、前記球面継手を構成する互いに接触する球面状の内周面と球面状の外周面との間に最大静止摩擦力を発生させるトルク以上の曲げモーメントが発生する箇所を検出する
ことを特徴とする、排気システムにおける排気管同士を連結する球面継手の配置位置決定方法。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の排気システムにおける排気管同士を連結する球面継手の配置位置決定方法であって、
CAE(Computer Aided Engineering)解析により、前記排気システムの上流側の端部に前記エンジンの振動を模した模擬振動を加えたときの応力分布を求め、当該応力分布に基づいて、前記複数箇所のそれぞれにおける曲げモーメントを算出して、前記球面継手を構成する互いに接触する球面状の内周面と球面状の外周面との間に最大静止摩擦力を発生させるトルク以上の曲げモーメントが発生する箇所を検出する
ことを特徴とする、排気システムにおける排気管同士を連結する球面継手の配置位置決定方法。
【請求項6】
複数の排気管と、前記排気管同士を連結する球面継手と、を備え、前記排気管を介してエンジンの排気ガスを排出する排気システムの製造方法であって、
前記球面継手は、請求項1ないし5のいずれか一項記載の排気システムにおける排気管同士を連結する球面継手の配置位置決定方法により決定した箇所に配置される
ことを特徴とする排気システムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のエンジンの排気ガスを排出するための排気システムに関し、特に、エンジンから車体に伝わる振動を低減させるために、排気システムの途中に配置される排気管同士を連結する球面継手の配置位置決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の排気システムにおいて、エンジンから伝わる振動が、排気システムを車体に取り付けるためのマウンタ(吊りゴム等)を介して、車体に伝わるのを防止するために、排気システムの途中に排気管同士を連結する球面継手を配置した排気システムが知られている。例えば、特許文献1には、車両のフロントに横置きされたエンジンの排気ガスを車両のリアから排出するための排気システムにおいて、排気管が車両の前後方向に略直線的に延びる部分および排気管が車両の左右方向に略直線的に延びる部分を設け、それぞれの部分に球面継手を配置した排気システムが開示されている。この排気システムによれば、排気管が車両の前後方向に略直線的に延びる部分に配置された球面継手により、車両の上下方向の振動を減衰させることができるとともに、排気管が車両の左右方向に略直線的に延びる部分に配置された球面継手により、車両の前後方向の振動を減衰させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−218863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、球面継手は、互いに接触する球面状の内周面と球面状の外周面との間に最大静止摩擦力を発生させるトルク以上の曲げモーメントが加わった場合に、球面状の内周面と球面状の外周面との間で摺動が発生する。この摺動に伴う摩擦により振動エネルギーを散逸させることによって、球面状の内周面が設けられた部材および球面状の外周面が設けられた部材の一方から他方へ伝わる振動を減衰させる。
【0005】
したがって、排気システムにおいて、その上流側および下流側が同期して上下方向、左右方向あるいは前後方向に移動するような箇所に球面継手を配置した場合、その箇所が振動の大きい箇所であっても、球面継手を構成する互いに接触する球面状の内周面と球面状の外周面との間に最大静止摩擦力を発生させるトルク以上の曲げモーメントが発生しない場合がある。この場合、球面状の内周面と球面状の外周面とが摺動しないため、振動を減衰させることができない。従来の球面継手を用いた排気システムは、この点が考慮されていなかった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、エンジンから車体に伝わる振動をより効果的に低減可能な、排気システムにおける排気管同士を連結する球面継手の配置位置決定方法および排気システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、排気システムにおいて、この排気システムに所定の振動(例えば、この排気システムが採用される自動車等に搭載予定のエンジンにて想定される振動)が加わった場合に、球面継手を構成する互いに接触する球面状の内周面と球面状の外周面との間に最大静止摩擦力を発生させるトルク以上の曲げモーメントが発生する箇所に、球面継手を配置した。
【0008】
例えば、本発明は、エンジンの排気ガスを排出する排気システムにおける排気管同士を連結する球面継手の配置位置決定方法であって、
周波数ごとに、前記排気システムの上流側の端部
に当該周波数の振動を与え
て、
前記排気管に設定した複数箇所のなかから、前記排気システムにおける前記球面継手の配置位置を決定する処理を含み、
前記処理において、
前記周波数ごとに、当該周波数の振動を前記排気システムに与えた場合における、前記複数箇所の曲げモーメントのうちの最大値に対する、前記複数箇所のそれぞれの箇所の曲げモーメントの比率を検出し、当該比率が所定値以上の箇所から、前記球面継手を構成する互いに接触する球面状の内周面と球面状の外周面との間に最大静止摩擦力を発生させるトルク以上の曲げモーメントが発生する箇所
を検出し、前記検出した箇所を前記排気システムにおける前記球面継手の配置位置に決定する。
【0009】
ここで、前記排気システムの複数箇所にひずみゲージを取り付けて、前記排気システムの上流側の端部に前記エンジンの振動を模した模擬振動を加え、そのときに各ひずみゲージで測定された曲げひずみにより、前記球面継手を構成する互いに接触する球面状の内周面と球面状の外周面との間に最大静止摩擦力を発生させるトルク以上の曲げモーメントが発生する箇所を検出してもよい。あるいは、CAE(Computer Aided Engineering)解析を行って、前記排気システムの上流側の端部に前記エンジンの振動を模した模擬振動を加えたときの応力分布を求めることにより、前記球面継手を構成する互いに接触する球面状の内周面と球面状の外周面との間に最大静止摩擦力を発生させるトルク以上の曲げモーメントが発生する箇所を検出してもよい。
【0010】
また、本発明は、
複数の排気管と、前記排気管同士を連結する球面継手と、を備え、前記排気管を介してエンジンの排気ガスを排出する排気システム
の製造方法であって、
前記球面継手は、
上記配置位置決定方法により決定した箇所に配置され
る。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エンジンから排気システムに所定の振動が加わった場合に、球面継手を構成する互いに接触する球面状の内周面と球面状の外周面との間に最大静止摩擦力を発生させるトルク以上の曲げモーメントが発生する箇所に、球面継手を配置しているので、球面継手の球面状の内周面と球面状の外周面との間でより多くの摺動を発生させることができ、これにより、排気システムを介してエンジンから車体に伝わる振動をより効率よく低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係る配置位置決定方法により決定された位置に球面継手2が配置された排気システム1の概略図である。
【
図3】
図3(A)および
図3(B)は、球面継手2の動作原理を説明するための図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施の形態に係る配置位置決定方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施の形態について説明する。
【0014】
本実施の形態に係る配置位置決定方法は、自動車等の排気システム1において、エンジンから伝わる振動を減衰するために好適な球面継手2の配置位置を決定する。
【0015】
図1は、本実施の形態に係る配置位置決定方法により決定された位置に球面継手2が配置された排気システム1の概略図である。
【0016】
図示するように、排気システム1は、この排気システム1が搭載される自動車等のボディ(不図示)の中央に配置されるセンターマフラー3aおよび後方に配置されるリアマフラー3b(以下、これらを単にマフラー3とも呼ぶ)と、この排気システム1が搭載される自動車等のエンジン(不図示)とセンターマフラー3aとの間およびセンターマフラー3aとリアマフラー3bとの間に配置され、エンジンの排気ガスをセンターマフラー3a経由でリアマフラー3bから排出するための複数の排気管4a〜4d(以下、これらを単に排気管4とも呼ぶ)と、マフラー3と排気管4との間あるいは排気管4と排気管4との間に配置された球面継手2と、を備えている。
【0017】
図1に示す排気システム1では、排気管4aと排気管4bとの間、排気管4bとセンターマフラー3aとの間、排気管4cと排気管4dとの間、および排気管4dとリアマフラー3bとの間の合計4か所に球面継手2を配置しているが、球面継手2の配置位置および配置数は、本実施の形態に係る配置位置決定方法に基づいて決定されるものであり、
図1に示す例に限定されない。なお、球面継手2が配置されていないマフラー3と排気管4との間および排気管4と排気管4との間(
図1では、センターマフラー3aと排気管4cとの間)には、固定継手5が配置される。なお、固定継手5を配置する代わりに、両者を溶接してもよいし、あるいは、両者を一体的に形成してもよい。また、この排気システム1では、二本のマフラー3a、3bおよび四本の排気管4a〜4dを備えているが、これらの構成も、この排気システム1を搭載する自動車等によって適宜変更される。
【0018】
球面継手2は、本実施の形態に係る配置位置決定方法に基づき、マフラー3と排気管4との間および排気管4と排気管4との間のうち、球面継手2を構成する互いに接触する球面状の内周面26と球面状の外周面27との間(
図2参照)に最大静止摩擦力を発生させるトルク以上の曲げモーメントが発生する箇所に、それぞれ配置される。
【0019】
図2は、本発明の一実施の形態に係る球面継手2の断面図である。
【0020】
図示するように、球面継手2は、互いに連結する二つの連結対象(マフラー3と排気管4あるいは排気管4と排気管4)のうち、一方の連結対象の端部に装着されたフランジ20からこの一方の連結対象の軸心方向内方(
図2の+O方向)へ向けて形成され、この一方の連結対象の排気路と繋がる挿入口21と、フランジ22が装着された他方の連結対象の端部である挿入部23と、二つの連結対象を連結するばね付きボルト24およびナット25と、を備えている。
【0021】
フランジ20、22には、ボルト孔28、29が形成されており、ばね付きボルト24は、これらのボルト孔28、29を介してナット25と螺合することにより、挿入部23を挿入口21に挿入する方向に付勢しながら、二つの連結対象を連結する。
【0022】
挿入口21は、球面状の内周面26が形成されている。また、挿入部23は、挿入口21の内周面26と略同径の球面状の外周面27を有する筒状の摺動部材30が、フランジ22が装着された連結対象の端部に取り付けられることにより形成されている。摺動部材30は、例えば金網等の補強材および膨張黒鉛等の耐熱材を備えて構成される。挿入口21の内周面26および挿入部23の摺動部材30の外周面27は、ばね付きボルト24およびナット25によって挿入部23が挿入口21に挿入される方向へ付勢されることにより、互いに接触する。そして、この互いに接触する挿入口21の内周面26および挿入部23の外周面27の最大静止摩擦力は、内周面26および外周面27の摩擦特性と、ばね付きボルト24およびナット25による付勢力(挿入部23を挿入口21へ押し当てる力)と、により決定される。
【0023】
なお、
図2に示す球面継手2では、互いに連結する二つの連結対象(マフラー3と排気管4あるいは排気管4と排気管4)のうち、一方の連結対象の端部に挿入口21が一体形成されたフランジ20を装着し、かつ他方の連結対象の端部にフランジ22および挿入部23を構成する摺動部材30を装着しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、フランジ20および挿入口21を一方の連結対象の端部に一体的に形成してもよい。また、フランジ22および挿入部23を他方の連結対象の端部に一体的に形成してもよい。
【0024】
図3(A)および
図3(B)は、球面継手2の動作原理を説明するための図である。
【0025】
図3(A)に示すように、球面継手2は、互いに接触する挿入口21の内周面26と挿入部23の摺動部材30の外周面27との間に最大静止摩擦力を発生させるトルクT(内周面26により特定される球の中心Oを回転中心とするトルク)以上の曲げモーメントが生じた場合に摺動が発生する。これにより、球面継手2より上流(エンジン)側から下流(リアマフラー3b)側へ伝わる振動を減衰させることができる。一方、
図3(B)に示すように、球面継手2より上流側と下流側とが同期して上下方向、左右方向あるいは前後方向に平行移動する場合、球面継手2の配置位置における振動Vが大きくても、球面継手2の挿入口21の内周面26と挿入部23の摺動部材30の外周面27との間に最大静止摩擦力を発生させるトルクT以上の曲げモーメントが発生しない場合がある。この場合、球面継手2の挿入口21の内周面26と挿入部23の外周面27とが摺動しないため、球面継手2より上流側の振動が球面継手2で減衰されることなく下流側へ伝わってしまう。そこで、本実施の形態に係る配置位置決定方法では、所定の振動(例えば、排気システム1が採用される自動車等に搭載予定のエンジンにて想定される振動)が排気システム1に加わった場合に、球面継手2の挿入口21の内周面26と挿入部23の摺動部材30の外周面27との間に最大静止摩擦力を発生させるトルク以上の曲げモーメントが発生する箇所を、球面継手2の配置位置に決定している。
【0026】
図4は、本実施の形態に係る配置位置決定方法のフロー図である。
【0027】
・ステップS1:排気システム1のセッティング(球面継手2なし)
まず、球面継手2なしの排気システム1を用意する。球面継手2なしの排気システム1は、マフラー3および排気管4が一体的に形成されたものでもよいし、あるいは、固定継手5、溶接等により、マフラー3と排気管4との間、および排気管4と排気管4との間を剛結したものでもよい。つぎに、排気システム1が採用される自動車等の車体にこの排気システム1を取り付ける場合と同じマウンタ(吊ゴム等)の取付位置において、マウンタを介して所定の治具に排気システム1を固定する。これにより、排気システム1の車体への取り付け状態を再現する。
【0028】
・ステップS2:ひずみゲージの取り付け
排気システム1において、球面継手2の配置可能位置、例えば、マフラー3と排気管4との連結部、排気管4と排気管4との連結部、および排気管4の屈曲部等に、ひずみゲージを取り付ける。
【0029】
・ステップS3:エンジンの模擬振動の入力
排気システム1が採用される自動車等に搭載予定のエンジンにて想定される振動を、エンジンの模擬振動として生成し、この模擬振動を排気システム1の上流側(エンジン側)である排気管4aに入力する。
【0030】
・ステップS4:ひずみ測定・曲げモーメント算出
排気システム1の上流側からエンジンの模擬振動が加えられた状態において、球面継手2の各配置可能位置に取り付けられたひずみゲージで各配置可能位置における管軸方向の曲げひずみを測定する。そして、球面継手2の配置可能位置毎に、測定した曲げひずみと、配置可能位置にあるマフラー3あるいは排気管4の断面係数およびヤング率とを用いて、曲げモーメントを算出する。
【0031】
・ステップS5:エンジンの模擬振動の全周波数での実施チェック
エンジンの模擬振動の全周波数、具体的には、所定の周波数間隔毎に、排気システム1が採用される自動車等に搭載予定のエンジンにて想定される振動の周波数帯域から選択されたすべての周波数において、ステップS3、S4が実施されているか否かをチェックする。エンジンの模擬振動の全周波数において、ステップS3、S4が実施されていない場合(ステップS5で「NO」)、つまり、ステップS3、S4が実施されていない周波数があるならば、ステップS3に戻り、この周波数についてステップS3、S4を実施する。一方、全周波数においてステップS3、S4が実施されている場合(ステップS5で「YES」)、ステップS6に進む。
【0032】
・ステップS6:球面継手2の配置候補位置の決定
エンジンの模擬振動の各周波数における球面継手2の配置可能位置各々における曲げモーメントに基づいて、球面継手2の配置候補位置を決定する。例えば、エンジンの模擬振動の周波数毎に、曲げモーメントの最大値を1として、球面継手2の配置可能位置各々における曲げモーメント比を算出する。そして、エンジンの模擬振動の周波数毎に、曲げモーメント比が所定値(例えば0.9)以上である球面継手2の配置可能位置を、球面継手2の配置候補位置に決定する。この際、エンジンの模擬振動の各周波数における曲げモーメントの最大値に基づいて(例えば曲げモーメントの最大値の大きい順に)、球面継手2の配置候補位置を決定する模擬振動の周波数を絞り込んでもよい。
【0033】
・ステップS7:排気システム1のセッティング(球面継手2あり)
ステップS1により球面継手2なしで組み立てられ、マウンタを介して所定の冶具に固定されることにより車体への取り付け状態が再現された排気システム1において、マフラー3と排気管4との連結部分および排気管4と排気管4との連結部分のうち、球面継手2の配置候補位置に決定された連結部分を固定継手5から球面継手2に置き換える。
【0034】
・ステップS8:加速度センサの取り付け
排気システム1が採用される自動車等の車体にこの排気システム1を取り付ける場合と同じ位置に設置され、排気システム1を所定の治具に固定するためのマウンタに、加速度センサを取り付ける。
【0035】
・ステップS9:エンジンの模擬振動の入力
排気システム1が採用される自動車等に搭載予定のエンジンにて想定される振動を、エンジンの模擬振動として生成し、この模擬振動を排気システム1の上流側である排気管4aに入力する。
【0036】
・ステップS10:加速度測定
排気システム1の上流側からエンジンの模擬振動が加えられた状態において、この排気システム1を所定の治具に固定するためのマウンタに取り付けられた加速度センサで加速度を測定する。
【0037】
・ステップS11:エンジンの模擬振動の全周波数での実施チェック
エンジンの模擬振動の全周波数、具体的には、排気システム1が採用される自動車等に搭載予定のエンジンにて想定される振動の周波数帯域から、所定の周波数間隔毎に選択されたすべての周波数において、ステップS9、S10が実施されているか否かをチェックする。エンジンの模擬振動の全周波数において、ステップS9、S10が実施されていない場合(ステップS11で「NO」)、つまり、ステップS9、S10が実施されていない周波数があるならば、ステップS9に戻り、この周波数についてステップS9、S10を実施する。一方、全共振周波数において、ステップS9、S10が実施されている場合(ステップS9で「YES」)、ステップS12に進む。
【0038】
・ステップS12:球面継手2の配置位置の決定
エンジンの模擬振動の各周波数における加速度センサの測定値に基づいて、球面継手2の配置位置を決定する。例えば、エンジンの模擬振動の周波数毎に、加速度センサの測定値が所定の基準値以下となっているか否かを調べる。加速度センサの測定値が所定の基準値以下となっている場合、配置候補位置に配置された球面継手2の互いに接触する球面状の内周面26と球面状の外周面27との間に最大静止摩擦力を発生させるトルク以上の曲げモーメントが発生して、この内周面26と外周面27とが摺動し、その結果、マウンタを介して排気システム1から所定の治具に伝わる振動が低減しているものと考えられる。そこで、エンジンの模擬振動の各周波数において、加速度センサの測定値が所定の基準値以下となっている場合は、配置候補位置を球面継手2の配置位置に決定する。
【0039】
以上、本発明の一実施の形態について説明した。
【0040】
本実施の形態では、排気システム1の複数箇所にひずみゲージを取り付けて、エンジンの模擬振動の周波数毎に、エンジンの模擬振動を排気システム1の上流側の端部に加え、そのときに各ひずみゲージで測定された管軸方向の曲げひずみに基づいて、球面継手2を構成する互いに接触する球面状の内周面26と球面状の外周面27との間に最大静止摩擦力を発生させるトルク以上の曲げモーメントが発生する位置を検出し、検出した位置を球面継手2の配置位置に決定している。このため、排気システム1に配置された球面継手2の内周面26と外周面27との間でより多くの摺動を発生させ、エンジンから排気システム1に伝わった加速度を低減させることができるとともに、エンジンを含む排気システムの振動の周波数をシフトさせることができる。これにより、排気システムを介してエンジンから車体に伝わる振動をより効率よく低減させることができるとともに、搭乗者に不快な周波数の振動を不快と感じない周波数の振動にシフトさせることができる。
【0041】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【0042】
例えば、上記の実施の形態では、エンジンの模擬振動の周波数(具体的には、排気システム1が採用される自動車等に搭載予定のエンジンにて想定される振動の周波数帯域から、所定の周波数間隔毎に選択された周波数)毎に、エンジンの模擬振動を排気システム1の上流側の端部に加えた場合に、球面継手2の内周面26と外周面27との間に最大静止摩擦力を発生させるトルク以上の曲げモーメントが発生する位置を、球面継手2の配置位置に決定している。しかし、本発明はこれに限定されない。本発明は、エンジンから排気システム1に、所定の振動(例えば、排気システム1が採用される自動車等に搭載予定のエンジンにて想定されるいずれかの振動)が加わった場合に、球面継手2の内周面26と外周面27との間に最大静止摩擦力を発生させるトルク以上の曲げモーメントが発生する位置を、球面継手2の配置位置に決定するものであればよい。
【0043】
また、上記の実施の形態では、排気システム1の複数箇所にひずみゲージを取り付けて、排気システム1の上流側の端部に所定の振動を加え、そのときに各ひずみゲージで測定された管軸方向の曲げひずみに基づいて、球面継手2の内周面26と外周面27との間に最大静止摩擦力を発生させるトルク以上の曲げモーメントが発生する位置を検出している。しかし、本発明はこれに限定されない。例えば、CAE(Computer Aided Engineering)解析により、排気システム1の上流側の端部に所定の振動を加えたときの応力分布を求め、この応力分布に基づいて、球面継手2の内周面26と外周面27との間に最大静止摩擦力を発生させるトルク以上の曲げモーメントが発生する箇所を検出してもよい。例えば、
図4のステップS2〜S5において、エンジンの模擬振動の周波数毎に、CAE解析により球面継手2の応力分布を求め、求めた応力分布に基づいて球面継手2の配置可能位置各々の曲げモーメントを算出する。そして、曲げモーメントの最大値を1として、球面継手2の配置可能位置各々における曲げモーメント比を算出し、エンジンの模擬振動の周波数毎に曲げモーメント比が所定値(例えば0.9)以上である球面継手2の配置可能位置を、球面継手2の配置候補位置に決定してもよい。
【符号の説明】
【0044】
1:排気システム、 2:球面継手、 3a:センターマフラー、3b:リアマフラー、 4a〜4d:排気管、 5:固定継手、 20、22:フランジ、 21:挿入口、 23:挿入部、 24:ばね付きボルト、 25:ナット、 26:球面状の内周面、 27:球面状の外周面、 28、29:ボルト孔、 30:摺動部材