(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記光学部の後面における基礎球面の曲率半径は、前記光学部の前面の曲率半径の17.8%〜60.0%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の後眼房型眼内レンズ。
前記光学部の後面における基礎球面の曲率半径は、前記光学部の前面の曲率半径の20.0%〜45.6%であることを特徴とする請求項3に記載の後眼房型眼内レンズ。
前記ハプティックのハプティック基部が、前記光学部分における前記光学部辺縁に直接連なっていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の後眼房型眼内レンズ。
前記後眼房型眼内レンズは連接部を更に含み、前記ハプティックのハプティック基部が、前記連接部を介して前記光学部分の前記光学部辺縁に連なっていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の後眼房型眼内レンズ。
前記連接部の縦方向の中心線は、前記光学部分の縦方向の中心線に対し、10°〜45°の範囲の連接部傾斜角をなすことを特徴とする請求項7又は8に記載の後眼房型眼内レンズ。
前記ハプティック基部の縦方向の中心線は、前記光学部分の縦方向の中心線に対し、0°〜7°の範囲のハプティック形成角をなすことを特徴とする請求項5から9のいずれか一項に記載の後眼房型眼内レンズ。
前記光学部における後面の面形状は、球面、非球面、複合トーリック面、複数領域で屈折するよう設計された複数焦点面、及び複数領域で回折するよう設計された複数焦点面を含む面形状のいずれかであることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の後眼房型眼内レンズ。
前記光学部における前面の面形状は、球面、非球面、複合トーリック面、複数領域で屈折するよう設計された複数焦点面、及び複数領域で回折するよう設計された複数焦点面を含む面形状のいずれかであることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の後眼房型眼内レンズ。
前記後眼房型眼内レンズは屈折率1.48の疎水性アクリル酸エステルからなり、前記光学部の後面における基礎球面の曲率半径は7.5mm〜11.1mmの範囲内であり、前記光学部の前面の曲率半径は8.0mm〜55.7mmの範囲内であることを特徴とする請求項13又は14に記載の後眼房型眼内レンズ。
【背景技術】
【0002】
眼内レンズ(IOL)は、眼内に移植可能な人工レンズであって、白内障により混濁した眼内の水晶体の代替物として、或いは、屈折矯正手術に用いられ、視力矯正に資する。眼内レンズの形態は、通常は円形光学部分とその周辺に設けられる支持ハプティックから構成される。眼内レンズの光学部分は支持ハプティックに直接連なっている。眼内レンズの光学部分は、光学部(当該技術分野では、有効光学領域又は光学部本体とも称されるが、本願では光学部とする)及び光学部辺縁からなる。軟質材料からなる眼内レンズは、折り畳み可能眼内レンズと称されることも多く、折り畳んだりカールさせたりすることで面積を縮小してから、小切開口(2mm〜3mm未満)を介して眼内に移植可能である。このように折り畳んだりカールさせたりした眼内レンズは、眼内移植後に自ら展開する。
【0003】
光学部分と支持ハプティックの結合方式から、軟質折り畳み可能眼内レンズは、一般的に1ピース式と3ピース式に分けられる。1ピース式の軟質折り畳み可能眼内レンズは、光学部分と支持ハプティックが一体となっており、1つの軟質材料から構成される。一方、3ピース式の軟質折り畳み可能眼内レンズは、光学部分と支持ハプティックを別々に加工してから組み合わせ、接続して成形される。
【0004】
これまで、折り畳み可能眼内レンズを形成する軟質材料は、シリコーン、親水性アクリル酸エステル(ヒドロゲル)、疎水性アクリル酸エステル及びポリメタクリル酸メチル(PMMA)など数種類に大別される。疎水性アクリル酸エステルは、現在最も広く使用されている眼内レンズ材料である。疎水性アクリル酸エステルは、屈折率が高く、折り畳み後の展開速度が適切であるとの利点を有する。例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3は、複数の異なる疎水性アクリル酸エステル眼内レンズ材料の調製方法を提示している。
【0005】
後眼房型眼内レンズ1(以下、“眼内レンズ”とも略称する)は眼内に移植された後、支持ハプティック5と後嚢12との相互作用により後眼房嚢12内の相対位置に維持される。嚢の収縮や膨張が支持ハプティックに作用することで、支持ハプティックに連なる眼内レンズは圧迫されたり引っ張られたりし、眼軸方向D−D’に沿って前後に変移する。
図1に示すように、眼内レンズ1の光学部分2と眼の角膜11は共同で屈折系を構成し、眼の約30%の屈折力を担う。ここで、光線がある物質から光学密度の異なる別の物質に入射した場合、光線の伝播方向に折れ曲がりが生じるが、こうした現象を光の屈折現象と称する。このような屈折現象の大きさ(屈折力)は屈折度数で表され、単位をディオプタ(“D”と略称)とする。屈折力1Dとは、平行光を1mの焦点距離に集光可能なことに相当する。光線を屈折させる眼の作用を屈折といい、焦点屈折力(focal power)で屈折の能力を表す。これを屈折度数ともいう。屈折度数とは、光線に対するレンズの屈折強度のことである。ディオプタは屈折力の大きさの単位であり、Dで表される。即ち、平行光が当該屈折物を透過して1mで焦点を結ぶ場合、この屈折物の屈折力は1ディオプタ又は1Dとされる。レンズに関してはレンズパワーの単位であり、例えばレンズの焦点距離が1mである場合、このレンズの屈折力は屈折度数1Dとされ、焦点距離と反比例する。レンズの屈折力はF=1/fで求められ、fはレンズの焦点距離である。この式において、屈折力の単位はディオプタであり、記号をDとし、ディメンジョンはL
−1であり、1D=1m
−1となる。
【0006】
当業者にとって、眼内レンズの結像品質は製品設計過程における検討必須事項である。
【0007】
眼内レンズには、屈折力を提供して角膜の屈折力不足を補う以外にも、高い結像品質を実現すべく、角膜及び眼内レンズ自身の各種高次収差を矯正することが求められる。
【0008】
屈折異常は結像品質に顕著に影響を及ぼす要因の一つである。なかでも乱視は一般的な眼の屈折異常現象であり、眼球の屈折力が経線によって異なったり、或いは同一経線の屈折度数が異なったりすることで、眼内に入射した平行光が網膜上で焦点を結べず、焦線を形成してしまう現象をいう。乱視は、臨床的には正乱視と不規則乱視の2種類に分けられる。屈折力の差が最大である2本の経線を主経線とし、2本の主経線が互いに直交するものを正乱視といい、各子午線における乱視の曲率が異なるものを不規則乱視という。このうち、正乱視はレンズで矯正が可能である。
【0009】
正規母集団において、1.5Dを超える角膜乱視の割合は1%〜29%にのぼり、人々の視覚の質に深刻に影響している。現在、乱視を伴う白内障の最新治療法としては、眼内に乱視型眼内レンズ(トーリックIOL)を移植することで、屈折を正常化するとともに角膜乱視を矯正するとの目的を達成している。
【0010】
トーリックIOLは1997年に市販を開始し、米国FDAや欧州連合安全認証(CE)を取得している。最も初期のトーリックIOLは、眼内レンズの後面にシリンドリカル面を付帯してなっていた(基本面形状は前方凸後方平型であり、後面にシリンドリカル面を直接付帯していた)。現在、比較的成熟したトーリックIOLは複合トーリック面設計を採用しており、シリンドリカル面の屈折効果と球面、非球面とを組み合わせている。典型的なものとしては、例えば米国アルコン社のAcrysof乱視用眼内レンズがあり、水晶体の後面にトーリック設計を用いることで、角膜の乱視度数1.03D〜4.11Dを矯正可能である。また、エイエムオー(AMO)社の眼内レンズTECNISトーリックシリーズは、角膜の乱視度数0.69D〜2.74Dを矯正可能である。同時に、改良型の“L”ハプティック又は“C”ハプティックを用いることで、眼内における水晶体の安定性が高められている。
【0011】
このほか、高次収差も結像品質に影響を及ぼす。高次収差には、主に球面収差とコマ収差が含まれる。眼の屈折系において、球面収差は屈折異常のほか結像品質にも影響を及ぼす最大の要因であり、特に、暗闇条件下で瞳孔が拡大した状態(瞳孔が4.5mm〜6.0mm)において、球面収差はいっそう顕著となる。眼内レンズの球面収差最小時における光学面の曲率半径は計算によって得られるが、算出される光学面の曲率半径は眼内レンズ材料の屈折率に関連する。表1は、光学部が球面設計で屈折率の異なる2種類の眼内レンズそれぞれの球面収差最小時における曲率半径を示している。算出には、次の式が用いられる。
【0012】
【数1】
【0013】
r1、r2はそれぞれ人工水晶体における前後面の曲率半径、nは人工水晶体材料の屈折率、n’は硝子体と房水の屈折率、φ1、φ2は前後面の屈折度数である。式(1)は、レンズの球面収差を表す式が極値をとるよう導かれる。
【0014】
【数2】
【0015】
式中、
【0016】
【数3】
【0017】
表1 屈折率の異なる2種類の眼内レンズそれぞれの球面収差最小時における曲率半径
【0018】
【表1】
【0019】
図2に示すように、所定の屈折力及び所定の屈折率の眼内レンズ1の球面収差は、放物線状に変化する。
図2に示すグラフにおいて、横座標ρ1は眼内レンズにおける光学部前面の曲率半径の逆数であり(ρ1が小さいほど光学部の前面は平坦である)、各ρ1の値は各面形状設計を有する従来技術の眼内レンズにほぼ対応している。縦座標のδL
0’は球面収差の大きさを示す。
図2及び表1から明らかなように、眼内レンズにおける光学部3の面形状は結像品質に顕著に影響する。球面収差(δL
0’)を最小限まで低減させて結像品質を高めるために、従来技術の球面眼内レンズの面形状は、一般的に凸平型(光学部が、前方が凸であり、後方が平らである)又は両凸型(光学部の前面が顕著に突出しており、光学部の後面がわずかに後方に凸である)とされており、これは、光学設計において全体を湾曲させることで初歩的な球面収差を最小化するという面形状設計の原則に即している。従来技術の眼内レンズにおける前後面の曲率半径タイプは表1のものに類似しており、後面が平坦傾向である一方、前面は顕著に突出しており、前面の曲率半径は全体的に後面よりも小さい。臨床での移植結果からも、球面眼内レンズにおける凸平、又は前面が顕著に突出した光学部構造は結像品質がより良好となることが示されている。従って、これまでは多くの眼内レンズでこれら2種類の一般的な面形状設計が採用されている。
【0020】
光学部の後面の曲率半径が光学部の前面の曲率半径より顕著に小さい眼内レンズの場合、こうした光学部の後面が顕著に突出した眼内レンズを適用すると、前述のような現在広く使用されている一般的に面形状が平凸又は後方にわずかに凸の通常の眼内レンズに比べ、残留球面収差が大きくなってしまう恐れがある。
図2に示すように、眼内レンズにおける光学部の後面の曲率半径が小さな設計は、結像品質を一部犠牲にすることになる。これは、光学部の前面と後面の曲率半径の違いによって、顕著な後方凸型の眼内レンズ自体に比較的大きな球面収差が残留するためである。残留球面収差が大きくなるほど、結像品質は低下してしまう。
【0021】
このほか、従来技術の眼内レンズでは、通常の非球面(すなわち、単一非球面係数Q値)の面形状設計を採用することで球面収差を補償可能としているが、後眼房に移植された眼内レンズは常に後眼房における完全な中心部位に位置するとは限らず、ある程度の傾斜や偏心によって、球面収差以外の高次収差、主にコマ収差が生じ得ることを、当業者は認識可能である。従来技術による眼内レンズの結像品質は、眼内レンズの眼内における実際の位置誤差によって低下し、光学的な優劣は実際の臨床現場において極めて鋭敏に現れる。
【0022】
後嚢混濁は二次的白内障とも称され、眼内レンズの移植後によくみられる合併症である。後嚢混濁は、白内障の手術後に残留した水晶体の上皮細胞が増殖し、眼内レンズの後面と後嚢の間に変移することで生じる。特許文献4や特許文献5のように眼内レンズの光学部に尖った直角辺縁を採用する設計は、後嚢混濁を有効に低減させる方法となることが証明されている。このような設計は、水晶体の上皮細胞が眼内レンズの後面と後嚢の間に変移することを阻止可能なためである(Buehl他 『Journal of Cataract and Refractive Surgery』(34)、1976〜1985頁参照)。このように尖った直角辺縁設計は3ピース式眼内レンズにおいて比較的実現しやすいが、これは支持ハプティックが細く、且つ光学部に移植されているためである。また、1ピース式眼内レンズで尖った直角辺縁設計を実現すことはやや困難である。これは、支持ハプティックと光学部が一体に連なっており、且つ支持ハプティックは軟質材料で形成されることから、幅広で厚めとする必要があるためである。1ピース式眼内レンズで尖った直角辺縁設計を実現するには、光学部の辺縁を厚くして支持ハプティックを薄くするか、或いは直角辺縁の段差を小さくする必要がある。しかし、光学部の辺縁が厚すぎると眼内レンズの総体積が増加し、小切開手術の難易度が増すことになる。一方、支持ハプティックが薄すぎると、嚢との間で作用する力が不足し、眼内レンズが嚢内で不安定となる恐れがある。また、直角辺縁の段差が小さすぎると、水晶体の上皮細胞に対する変移阻止作用が奏されなくなる。
【0023】
従来技術の後眼房型眼内レンズの光学設計では、球面収差を低減させるとともに、結像品質を高めるために、一般的に、球面の眼内レンズを前面が顕著に突出し、後面が相対的に平たくなるよう設計しており、前面の曲率半径が全体的に後面より小さくなっている。後発的に開発された球面収差を矯正するための非球面眼内レンズ、及び乱視矯正用のトーリック眼内レンズは、いずれもこのような設計理念を踏襲している。従って、従来技術の眼内レンズは光学部の後方凸が控え目である(平面形状の場合もある)ことから、眼内に移植後に、眼内レンズの後面と後嚢との間に比較的大きな隙間ができることがあり、眼内レンズの位置決めが不安定となるとともに、術後に後嚢混濁現象が生じやすい。眼内レンズの辺縁に直角縁(角型縁)設計を採用したとしても、遠方や近方を見るにあたって毛様体筋が自動的に収縮・弛緩調節すると、硝子体の圧迫下において後嚢膜が前後に変移し、眼内レンズの支持ハプティックの基部領域が後嚢膜を圧迫及び不均一引っ張ることから、房水の流動によってPCOが眼内レンズの光学部辺縁内にもたらされる。
【0024】
現在、二次的白内障は白内障手術患者を悩ませる、早急に解決を要する課題となっている。しかし、眼内レンズの嚢内における空間位置の安定性を高め、且つ、眼内レンズ移植後の二次的白内障の発症率を低下させるために、従来技術による眼内レンズの光学部後面に対して曲率半径を小さくする設計を用いると、従来技術による眼内レンズの結像品質を一部犠牲にするという代償が伴うことになる。
【0025】
当業者にとって、良好な眼内レンズの設計とは、眼内レンズの嚢内における安定性保証、後嚢混濁の発症率低下、良好な結像品質、眼内レンズの眼内移植後の迅速な展開、支持ハプティックと光学部との粘着現象の防止、といった各種要因を総合的且つバランスよく考慮したものでなければならない。即ち、当業者は、従来技術の後方凸型眼内レンズにおける結像品質不良を改善可能な、光学部の後方凸が顕著な後眼房型眼内レンズを必要としている。
【発明の概要】
【0027】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものである。本発明の主要な目的は、眼内レンズの嚢内における空間位置の安定性を向上可能であるとともに、眼内レンズ移植後の二次白内障(PCO)の発症率低下に寄与し、光学部の後面が顕著に突出した後眼房型眼内レンズを提供することにある。また、これをベースとした本発明の更なる目的は、眼内レンズの結像品質を改良可能及び/又は乱視患者の視覚の質を改善可能な、光学部の後面が顕著に突出した後眼房型眼内レンズを提供することにある。
【0028】
<用語の定義>
本願で用いられる用語「光学部分」とは、眼内レンズの光学部と光学部辺縁からなる。
【0029】
本願で用いられる用語「光学部」とは、眼内レンズの光学部分の中心に位置し、光学特性を持つことで眼内レンズの屈折度数調節という主要な機能を実現可能な部分をいう。具体的には、本発明の実施例で用いられる眼内レンズの光学部分の直径は約6mmであり、そのうち光学部とは、眼内レンズにおける口径5.0mm以内の部分をいう。
【0030】
本願で用いられる用語「光学部辺縁」とは、眼内レンズの光学部外周に設けられ、眼内レンズの光学特性に影響しない辺縁領域をいう。具体的には、本発明の実施例で用いられる眼内レンズの光学部分の直径は約6mmであり、そのうち光学部辺縁とは、光学部の中心から2.5mm(或いは眼内レンズにおける口径5.0mm)より外側の光学部辺縁の部分をいい、
図3では符号4で示される。当業者であれば、光学部の直径が他の寸法である眼内レンズの場合、光学部の中心から光学部辺縁までの距離は相応に変化し得ることを容易に理解可能である。
【0031】
本願で用いられる用語「光学部の後面」とは、眼内レンズを眼内に移植した後に後嚢と接触する光学部の表面をいう。
【0032】
本願で用いられる用語「光学部の前面」とは、眼内レンズを眼内に移植した後に光学部の後面と対向し、後嚢からより離間して配置される光学部の表面をいう。
【0033】
本願で用いられる用語「ハプティック」或いは「支持ハプティック」とは、眼内レンズの光学部分に連なって、光学部分を支持するとの作用を奏するとともに、毛様体筋の収縮と弛緩により生じる収縮力を前記光学部分へ伝達するとの作用を奏する部分である。
【0034】
本願で用いられる用語「ハプティック基部」とは、光学部辺縁又は(具備する場合には連接部)に直接連なる眼内レンズのハプティック一端において直線に延びる部位をいう。
【0035】
本願で用いられる用語「ハプティック形成角」とは、眼内レンズに力がかかっていない状態で、眼内レンズのハプティック基部における縦方向の中心線が、眼内レンズの光学部分における縦方向の中心線に対してなす角度であって、
図22に示すように符号αで表される。本願では、「ハプティックの設計角度」とも称する。
【0036】
本願で用いられる用語「連接部傾斜角」とは、連接部の縦方向の中心線が眼内レンズの光学部分における縦方向の中心線に対してなす角度であって、
図22に示すように、符号βで表される。
【0037】
本願で用いられる方向に関する用語、例えば「前」「後」は、後嚢からの遠近に対する用語である。例えば、両光学面を調節する焦点調節可能な眼内レンズの場合、「光学部の後面」は「光学部の前面」よりも後嚢から近い光学面である。
【0038】
本願で用いられる形状を表す用語、例えば「凸」「凹」は、眼内レンズの光学部分における縦方向の中心平面に対する用語である。例えば、「後方凸形状の眼内レンズ」とは、当該眼内レンズにおける光学部の後面上の点が、当該面の中心に近づくほど、当該眼内レンズの光学部分における縦方向の中心平面から遠くなるものいう。
【0039】
本願で用いられる「光学部の後方凸が顕著な」又は「光学部の後面が顕著に突出した」との記載は相対的なものである。具体的には、眼内レンズにおける光学部の後面が眼内レンズにおける光学部の前面よりも顕著に突出していることをいう。換言すれば、眼内レンズにおける光学部の後面の曲率半径が、眼内レンズにおける光学部の前面の曲率半径よりも小さいことをいう。当業者にとって、「光学部の後方凸が顕著な」又は「光学部の後面が顕著に突出した」との記載は、例えば「光学部高さが後方に凸である」ともいえる。
【0040】
本願で用いられる用語「基礎球面」とは、本発明にかかる眼内レンズの光学部前後面に採用される各種面形状に対応する球面をいう。本願では用語を統一するために、当該球面を一括して「基礎球面」と称する。
【0041】
本願で述べる高次非球面設計を有する後方凸が顕著な後眼房型眼内レンズにおける光学部の前面、或いは眼内レンズにおける光学部の後面は、それぞれ前方又は後方に突出している。従って、本願で用いられる用語「光学部表面の頂点」とは、前記眼内レンズにおいて突出する光学部の前面上、又は眼内レンズにおいて突出する光学部の後面上の中心点をいう。即ち、光学部表面の頂点とは、前記眼内レンズにおいて突出する光学部の前面が前方へ突出することで、当該眼内レンズの光学部分における縦方向の中心平面との距離が最も遠くなる点、又は、前記眼内レンズにおいて突出する光学部の後面が後方へ突出することで、当該眼内レンズの光学部分における縦方向の中心平面との距離が最も遠くなる点、ともいえる。
【0042】
本願で述べる後方凸が顕著なトーリック後眼房型眼内レンズにおける光学部の前面には凸型複合トーリック面設計が施されており、且つ、眼内レンズにおける光学部の前面は前方へ突出している。よって、本願のトーリック後眼房型眼内レンズの場合、本願で用いられる用語「光学部の前面の頂点」とは、前記眼内レンズにおいて突出する光学部の前面上の中心点をいう。即ち、光学部の前面の頂点とは、前記眼内レンズにおいて突出する光学部の前面が前方へ突出することで、当該眼内レンズの光学部分における縦方向の中心平面との距離が最も遠くなる点、ともいえる。
【0043】
本発明の一局面は、光学部及び光学部辺縁からなる光学部分と、前記光学部分に連なる少なくとも2つのハプティックを含む後眼房型眼内レンズを提供し、当該後眼房型眼内レンズは、前記光学部の後面が凸型球面であり、且つ、その基礎球面の曲率半径が
7.2mm〜
15.3mmの範囲内であり
、前記光学部の後面の曲率半径は、前記光学部の前面の曲率半径より小さいことを特徴とする。
【0044】
本発明の好ましい実施例では、前記光学部の前面は凸型球面であり、且つ、その曲率半径は
8.0mm〜
65.5mmの範囲内とすればよい。
【0045】
本発明の他の好ましい実施例では、前記後眼房型眼内レンズは疎水性アクリル酸エステルから作製すればよく、前記光学部の後面の曲率半径は7.5mm〜
15.3mmの範囲内とすればよく、前記光学部の前面の曲率半径は8.0mm〜
65.5mmの範囲内とすればよい。好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は8.1mm〜
15.3mmの範囲内である。より好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は約11.1mmである。
【0046】
本発明の他の好ましい実施例では、前記後眼房型眼内レンズは疎水性アクリル酸エステルから作製すればよく、前記光学部の後面の曲率半径は
7.6mm〜
10.6mmの範囲内とすればよく、前記光学部の前面の曲率半径は
55.5mmとすればよい。好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は7.6mm〜
10.6mmの範囲内である。より好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は約10.6mmである。
【0047】
本発明の他の好ましい実施例では、前記後眼房型眼内レンズはシリコーン又はヒドロゲルから作製すればよく、前記光学部の後面の曲率半径は
7.3mm〜
13.3mmの範囲内とすればよく、前記光学部の前面の曲率半径は
9.2mm〜
44.5mmの範囲内とすればよい。好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は7.5mm〜10.0mmの範囲内である。より好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は約8.0mmである。
【0048】
本発明の他の好ましい実施例では、前記後眼房型眼内レンズは疎水性アクリル酸エステルから作製すればよく、前記光学部の後面の曲率半径は
7.3mm〜
15.0mmの範囲内とすればよく、前記光学部の前面の曲率半径は
11.1mm〜
44.5mmの範囲内とすればよい。好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は
7.3mm〜11.0mmの範囲内である。より好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は約8.5mmである。
【0049】
本発明の他の好ましい実施例では、前記後眼房型眼内レンズはポリメタクリル酸メチル(PMMA)から作製すればよく、前記光学部の後面の曲率半径は
9.0mm〜
13.1mmの範囲内とすればよく、前記光学部の前面の曲率半径は
44.5mm〜
44.7mmの範囲内とすればよい。好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は
9.0mm〜13.1mmの範囲内である。より好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は約9.0mmである。
【0050】
本発明の他の好ましい実施例では、前記後眼房型眼内レンズは疎水性アクリル酸エステルから作製すればよく、前記光学部の後面の曲率半径は
7.2mm〜
15.3mmの範囲内とすればよく、前記光学部の前面の曲率半径は
44.5mm〜
65.5mmの範囲内とすればよい
。より好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は約9.9mmである。
【0051】
本発明の他の好ましい実施例では、前記後眼房型眼内レンズは疎水性アクリル酸エステルから作製すればよく、前記光学部の後面の曲率半径は
7.2mm〜
15.3mmの範囲内とすればよく、前記光学部の前面の曲率半径は30.8mm〜84.0mmの範囲内とすればよい。好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は9.0mm〜
15.3mmの範囲内である。より好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は約12.7mmである。
【0052】
好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は前記光学部の前面の曲率半径の17.8%〜60.0%とすればよい。
【0053】
より好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は前記光学部の前面の曲率半径の20.0%〜45.6%とすればよい。
【0054】
本発明の他の好ましい実施例では、前記後眼房型眼内レンズは1ピース式眼内レンズとすればよい。
【0055】
本発明の別の好ましい実施例では、前記後眼房型眼内レンズは3ピース式眼内レンズとすればよい。
【0056】
本発明の他の好ましい実施例では、前記ハプティックは、前記光学部分の周方向において対称に前記光学部辺縁に連なっていればよい。
【0057】
本発明の他の局面は、光学部及び光学部辺縁からなる光学部分と、前記光学部分に連なる少なくとも2つのハプティックを含む後眼房型眼内レンズを提供し、当該後眼房型眼内レンズは、前記光学部の前面が凸型球面であり、且つ、前記光学部の後面が高次非球面設計を採用した凸型非球面であり、前記凸型非球面が、曲率半径
7.2mm〜
15.3mmの範囲内である基礎球面と、前記基礎球面に対する偏移量とを重畳してな
り、前記光学部の後面における基礎球面の曲率半径は、前記光学部の前面の曲率半径より小さいことを特徴とする。前記後眼房型眼内レンズにおける高次非球面設計を採用した光学部表面の頂点を原点として2次元座標系を構築すると、前記座標系の縦軸Yは前記光学部表面に接するとともに、前記光学部表面の頂点Oを通過する。また、前記座標系の横軸Zは眼軸方向D−D’と平行であり、縦軸Yと90度の角度をなすとともに、前記光学部表面の頂点Oを通過する。前記2次元座標系の平面YZにおける前記凸型非球面の曲線は、以下の高次非球面設計を表す式を満たす。
【0059】
Z(y)は、YZ平面における眼内レンズの光学部の非球面曲線を表す式であり、cは光学部における基礎球面表面の曲率半径の逆数であり、yは横軸Zから前記曲線上の任意の一点までの垂直距離であり、A
2iは非球面の高次項係数であり、m,nは1以上の整数でn≧mである。前記凸型非球面の面形状における各点は、前記曲線が横軸(Z)まわりに回転対称変化することで得られる。
【0060】
本発明の好ましい実施例では、前記光学部の前面の曲率半径は
8.0mm〜
65.5mmの範囲内である。
【0061】
本発明の他の好ましい実施例では、mは2であり、且つnは5である。
【0062】
本発明の他の好ましい実施例では、A
4=2.431E−004、A
6=2.897E−004、A
8=−5.417E−005、A
10=2.940E−006である。
【0063】
本発明の別の好ましい実施例では、前記後眼房型眼内レンズは屈折率1.48の疎水性アクリル酸エステルからなり、前記光学部の後面における基礎球面の曲率半径は7.5mm〜
11.1mmの範囲内であり、前記光学部の前面の曲率半径は8.0mm〜
55.7mmの範囲内である。
【0064】
屈折率1.48の疎水性アクリル酸エステルからなる本発明の別の好ましい実施例では、前記光学部の後面における基礎球面の曲率半径は8.1mm〜
11.1mmの範囲内である。
【0065】
本発明の別の好ましい実施例では、前記光学部の後面における基礎球面の曲率半径は11.1mmである。
【0066】
本発明の別の好ましい実施例では、前記光学部の後面における基礎球面の曲率半径は、前記光学部の前面の曲率半径より小さい。
【0067】
本発明の別の好ましい実施例では、前記光学部の後面における基礎球面の曲率半径は、前記光学部の前面の曲率半径の17.8%〜60.0%である。
【0068】
本発明の別の好ましい実施例では、前記光学部の後面における基礎球面の曲率半径は、前記光学部の前面の曲率半径の20.0%〜45.6%である。
【0069】
本発明の他の局面は、光学部及び光学部辺縁からなる光学部分と、前記光学部分に連なる少なくとも2つのハプティックを含む後眼房型眼内レンズを提供し、当該後眼房型眼内レンズは、前記光学部の後面が凸型球面であり、且つ、前記光学部の前面は高次非球面設計を採用した凸型非球面であり、前記凸型非球面は、曲率半径
8.0mm〜
65.5mmの範囲内である基礎球面と、前記基礎球面に対する偏移量とを重畳してなり、且つ、前記光学部の後面の曲率半径は
7.2mm〜
15.3mmの範囲内であ
り、前記光学部の後面における基礎球面の曲率半径は、前記光学部の前面における基礎球面の曲率半径より小さいことを特徴とする。前記後眼房型眼内レンズにおける高次非球面設計を採用した光学部表面の頂点を原点として2次元座標系を構築すると、前記座標系の縦軸Yは前記光学部表面に接するとともに、前記光学部表面の頂点Oを通過する。また、前記座標系の横軸Zは眼軸方向D−D’と平行であり、縦軸Yと90度の角度をなすとともに、前記光学部表面の頂点Oを通過する。前記2次元座標系の平面YZにおける前記凸型非球面の曲線は、以下の高次非球面設計を表す式を満たす。
【0071】
Z(y)は、YZ平面における眼内レンズの光学部の非球面曲線を表す式であり、cは光学部における基礎球面表面の曲率半径の逆数であり、yは横軸Zから前記曲線上の任意の一点までの垂直距離であり、A
2iは非球面の高次項係数であり、m,nは1以上の整数でn≧mである。前記凸型非球面の面形状における各点は、前記曲線が横軸(Z)まわりに回転対称変化することで得られる。
【0072】
本発明の他の好ましい実施例では、mは2であり、且つnは5である。
【0073】
本発明の他の好ましい実施例では、A
4=−2.431E−004、A
6=−2.897E−004、A
8=5.417E−005、A
10=−2.940E−006である。
【0074】
本発明の他の好ましい実施例では、前記後眼房型眼内レンズは屈折率1.48の疎水性アクリル酸エステルからなり、前記光学部の後面の曲率半径は7.5mm〜
11.1mmの範囲内であり、前記光学部の前面における基礎球面の曲率半径は8.0mm〜74.0mmの範囲内である。
【0075】
本発明の別の好ましい実施例では、前記光学部の後面の曲率半径は8.1mm〜
11.1mmの範囲内である。
【0076】
本発明の別の好ましい実施例では、前記光学部の後面の曲率半径は11.1mmである。
【0077】
本発明の別の好ましい実施例では、前記光学部の後面の曲率半径は、前記光学部の前面における基礎球面の曲率半径より小さい。
【0078】
本発明の別の好ましい実施例では、前記光学部の後面の曲率半径は前記光学部の前面における基礎球面の曲率半径の17.8%〜60.0%である。
【0079】
本発明の別の好ましい実施例では、前記光学部の後面の曲率半径は前記光学部の前面における基礎球面の曲率半径の20.0%〜45.6%である。
【0080】
本発明の更に別の局面は、光学部及び光学部辺縁からなる光学部分と、前記光学部分に連なる少なくとも2つのハプティックを含む後眼房型眼内レンズを提供し、当該後眼房型眼内レンズは、前記光学部の前面が凸型複合トーリック面であり、前記凸型複合トーリック面が、曲率半径
8.0mm〜
65.5mmの範囲内である基礎球面と、前記基礎球面に対する偏移量とを重畳してなり、且つ、前記光学部の後面の曲率半径は
7.2mm〜
15.3mmの範囲内であ
り、前記光学部の後面の曲率半径は、前記光学部の前面における基礎球面の曲率半径より小さいことを特徴とする。前記後眼房型眼内レンズにおける光学部の前面の頂点を原点として2次元座標系を構築すると、前記座標系の縦軸Yは前記光学部の前面に接するとともに、前記光学部の前面の頂点Oを通過する。また、前記座標系の横軸Zは眼軸方向D−D’と平行であり、縦軸Yと90度の角度をなすとともに、前記光学部の前面の頂点Oを通過する。前記2次元座標系の平面YZにおける前記凸型複合トーリック面の曲線は、以下の式を満たす。
【0082】
Z(y)は、YZ平面における眼内レンズの光学部の前記凸型複合トーリック面曲線を表す式であり、cは光学部の前面における基礎球面表面の曲率半径の逆数であり、yは横軸Zから前記曲線上の任意の一点までの垂直距離であり、A
2iは非球面の高次項係数であり、m,nは1以上の整数でn≧mである。前記凸型複合トーリック面の面形状における各点は、前記曲線が縦軸Yに平行な直線まわりに一定の前面回転半径Rで一周することで得られる。
【0083】
本発明の他の好ましい実施例では、前記後眼房型眼内レンズは屈折率1.48の疎水性アクリル酸エステルからなり、前記光学部の後面の曲率半径は7.5mm〜
11.1mmの範囲内であり、前記光学部の前面における基礎球面の曲率半径は8.0mm〜
55.7mmの範囲内である。
【0084】
本発明の他の好ましい実施例では、前記光学部の後面の曲率半径は8.1mm〜
11.1mmの範囲内である。
【0085】
本発明の別の好ましい実施例では、前記光学部の後面の曲率半径は11.1mmである。
【0086】
本発明の別の好ましい実施例では、前記光学部の後面の曲率半径は、前記光学部の前面における基礎球面の曲率半径より小さい。
【0087】
本発明の別の好ましい実施例では、前記光学部の後面の曲率半径は前記光学部の前面における基礎球面の曲率半径の17.8%〜60.0%である。
【0088】
本発明の別の好ましい実施例では、前記光学部の後面の曲率半径は前記光学部の前面における基礎球面の曲率半径の20.0%〜45.6%である。
【0089】
本発明の別の好ましい実施例では、前記光学部の前面のYZ平面上における基本曲線の曲率半径は8.0mm〜
65.5mmの範囲内であって、複合トーリック面に付与されるシリンドリカルレンズ度数が0.5D〜5.0Dの範囲内である場合、前面の回転半径は6.23mm〜46.09mmの範囲内である。
【0090】
本発明の別の好ましい実施例では、前記光学部の前面のYZ平面上における基本曲線の曲率半径は10.69mm〜55.7mmの範囲内であって、複合トーリック面に付与されるシリンドリカルレンズ度数が1.0D〜4.0Dの範囲内である場合、前面の回転半径は8.2mm〜39.95mmの範囲内である。
【0091】
本発明の他の好ましい実施例では、前記後眼房型眼内レンズは1ピース式眼内レンズとすればよい。
【0092】
本発明の別の好ましい実施例では、前記後眼房型眼内レンズは3ピース式眼内レンズとすればよい。
【0093】
本発明の他の好ましい実施例では、前記ハプティックは、前記光学部分の周方向において対称に前記光学部辺縁に連なっていればよい。
【0094】
本発明の他の好ましい実施例では、
前記後眼房型眼内レンズは、前記光学部の前面が複合トーリック面であり、前記光学部の後面が非球面であり、前記複合トーリック面は凸型複合トーリック面であり、前記凸型複合トーリック面は、曲率半径
8.0mm〜
65.5mmの範囲内である基礎球面と、前記基礎球面に対する偏移量とを重畳してな
り、前記凸型非球面における基礎球面の曲率半径は、前記凸型トーリック面における基礎球面の曲率半径より小さい。前記後眼房型眼内レンズにおける光学部の前面の頂点(O)を原点として2次元座標系を構築すると、前記座標系の縦軸(Y)は前記光学部の前面に接するとともに、前記光学部の前面の頂点(O)を通過する。また、前記座標系の横軸(Z)は、眼軸方向(D−D’)と平行であり、縦軸(Y)と90度の角度をなすとともに、前記光学部の前面の頂点(O)を通過する。前記2次元座標系の平面(YZ)における前記凸型複合トーリック面の曲線は、以下の式を満たす。
【0096】
Z(y)は、YZ平面における眼内レンズの光学部の前記凸型複合トーリック面曲線を表す式であり、cは光学部の前面における基礎球面表面の曲率半径の逆数であり、yは横軸(Z)から前記曲線上の任意の一点までの垂直距離であり、A
2iは非球面の高次項係数であり、m,nは1以上の整数でn≧mである。前記凸型複合トーリック面の面形状における各点は、前記曲線が縦軸(Y)に平行な直線(d−d’)まわりに一定の前面回転半径(R)で一周することで得られる。
【0097】
本発明の別の好ましい実施例では、前記非球面は凸型非球面であり、前記凸型非球面における基礎球面の曲率半径は8.0mm〜
65.5mmの範囲内である。
【0098】
本発明の別の好ましい実施例では、前記凸型非球面は高次非球面設計を採用している。前記後眼房型眼内レンズにおける高次非球面設計を採用した光学部の後面の頂点を原点として2次元座標系を構築すると、前記座標系の縦軸(Y)は前記光学部の後面に接するとともに、前記光学部の後面の頂点(O’)を通過する。前記座標系の横軸(Z)は、眼軸方向(D−D’)と平行であり、縦軸(Y)と90度の角度をなすとともに、前記光学部の後面の頂点(O’)を通過する。前記2次元座標系の平面(YZ)における前記凸型非球面の曲線は、以下の高次非球面設計を表す式を満たす。
【0100】
Z(y)は、YZ平面における眼内レンズの光学部の非球面曲線を表す式であり、cは、光学部における基礎球面後面の曲率半径の逆数であり、yは横軸(Z)から前記曲線上の任意の一点までの垂直距離であり、A
2iは非球面の高次項係数であり、m,nは1以上の整数でn≧mである。前記凸型非球面の面形状における各点は、前記曲線が横軸(Z)まわりに回転対称変化することで得られる。
【0101】
本発明の別の好ましい実施例では、前記後眼房型眼内レンズは屈折率1.48の疎水性アクリル酸エステルからなる。
【0102】
本発明の別の好ましい実施例では、前記ハプティックはL型ハプティック又はC型ハプティックであり、前記ハプティックのハプティック形成角は1.5°である。
【0103】
本発明の別の好ましい実施例では、前記ハプティックは、前記光学部分の周方向において対称に設けられたハプティックである。
【0104】
具体的に、本発明は以下の多方面の内容に関する。
【0105】
(1)光学部及び光学部辺縁からなる光学部分と、前記光学部分に連なる少なくとも2つのハプティックを含む後眼房型眼内レンズにおいて、前記光学部の後面は凸型であり、且つ、その基礎球面の曲率半径は
7.2mm〜
15.3mmの範囲内であ
り、前記光学部の後面における基礎球面の曲率半径は、前記光学部の前面の曲率半径より小さいことを特徴とする。
【0106】
(2)(1)に記載の後眼房型眼内レンズにおいて、前記光学部の前面は凸型であり、且つ、その基礎球面の曲率半径は
8.0mm〜
65.5mmの範囲内であることを特徴とする。
【0107】
(3)(1)又は(2)に記載の後眼房型眼内レンズにおいて、前記光学部の後面における基礎球面の曲率半径は、前記光学部の前面の曲率半径の17.8%〜60.0%であることを特徴とする。
【0108】
(4)(3)に記載の後眼房型眼内レンズにおいて、前記光学部の後面における基礎球面の曲率半径は、前記光学部の前面の曲率半径の20.0%〜45.6%であることを特徴とする。
【0109】
(5)(1)から(4)のいずれか一つに記載の後眼房型眼内レンズにおいて、前記ハプティックのハプティック基部が、前記光学部分における前記光学部辺縁に直接連なっていることを特徴とする。
【0110】
(6)(5)に記載の後眼房型眼内レンズにおいて、前記光学部辺縁は尖った折り曲げ部を更に含むことを特徴とする。
【0111】
(7)(1)から(4)のいずれか一つに記載の後眼房型眼内レンズにおいて、前記後眼房型眼内レンズは連接部を更に含み、前記ハプティックのハプティック基部が、前記連接部を介して前記光学部分の前記光学部辺縁に連なっていることを特徴とする。
【0112】
(8)(7)に記載の後眼房型眼内レンズにおいて、前記光学部辺縁は尖った折り曲げ部を更に含むことを特徴とする。
【0113】
(9)(7)又は(8)に記載の後眼房型眼内レンズにおいて、前記連接部の縦方向の中心線は、前記光学部分の縦方向の中心線に対し、10°〜45°の範囲の連接部傾斜角をなすことを特徴とする。
【0114】
(10)(5)から(9)のいずれか一つに記載の後眼房型眼内レンズにおいて、前記ハプティック基部の縦方向の中心線は、前記光学部分の縦方向の中心線に対し、0°〜7°の範囲のハプティック形成角をなすことを特徴とする。
【0115】
(11)(1)〜(
10)のいずれか一つに記載の後眼房型眼内レンズにおいて、前記光学部における後面の面形状は、球面、非球面、複合トーリック面、複数領域で屈折するよう設計された複数焦点面、及び複数領域で回折するよう設計された複数焦点面を含む面形状のいずれかであることを特徴とする。
【0116】
(12)(1)〜(
10)のいずれか一つ記載の後眼房型眼内レンズにおいて、前記光学部における前面の面形状は、球面、非球面、複合トーリック面、複数領域で屈折するよう設計された複数焦点面、及び複数領域で回折するよう設計された複数焦点面を含む面形状のいずれかであることを特徴とする。
【0117】
(13)上記のいずれか
一つに記載の後眼房型眼内レンズにおいて、前記後眼房型眼内レンズは、シリコーン、ヒドロゲル、疎水性アクリル酸エステル、又はポリメタクリル酸メチルから作製されることを特徴とする。
【0118】
(14)(13)に記載の後眼房型眼内レンズにおいて、前記後眼房型眼内レンズの作製材料の屈折率は1.45〜1.56の間であることを特徴とする。
【0119】
(15)(13)又は(14)に記載の後眼房型眼内レンズにおいて、前記後眼房型眼内レンズは屈折率1.48の疎水性アクリル酸エステルからなり、前記光学部の後面における基礎球面の曲率半径は7.5mm〜
11.1mmの範囲内であり、前記光学部の前面の曲率半径は8.0mm〜
55.7mmの範囲内であることを特徴とする。
【0120】
(16)(15)に記載の後眼房型眼内レンズにおいて、前記光学部の後面における基礎球面の曲率半径は8.1mm〜
11.1mmの範囲内であることを特徴とする。
【0121】
(17)(16)に記載の後眼房型眼内レンズにおいて、前記光学部の後面における基礎球面の曲率半径は11.1mmであることを特徴とする。
【0122】
(18)(1)〜(1
7)のいずれか一つに記載の後眼房型眼内レンズにおいて、前記後眼房型眼内レンズは1ピース式眼内レンズであることを特徴とする。
【0123】
(19)(1)〜(1
7)のいずれか一つに記載の後眼房型眼内レンズにおいて、前記後眼房型眼内レンズは3ピース式眼内レンズであることを特徴とする。
【0124】
現在の従来技術における後眼房型眼内レンズと比較して、本発明の後眼房型眼内レンズの光学部は、後面が顕著に突出した設計を採用するとともに、非球面、高次非球面、複合トーリック面、複数領域で屈折又は回折するよう設計された複数焦点面等の設計を選択的に付与している。よって、眼内レンズの光学部の後面と後嚢との距離が縮小されて、眼内レンズの嚢内における空間位置の安定性が高まり、眼内レンズの光学部辺縁における角型縁効果の利点がより良好に発揮されるとともに、眼内レンズ移植後のPCO発症率が低下する。更に、光学部の前面が略平坦であるため、眼内レンズのハプティック(特に、1ピース式後眼房型眼内レンズのハプティック)が折り畳み時に光学部の前面に強く圧接されることがない。よって、眼内移植後に支持ハプティックと光学部が粘着することなく容易に展開するほか、眼内レンズの結像品質及び/又は乱視患者の視覚の質をいっそう改善することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0127】
以下の具体的実施例は、本発明を更に解釈・説明するためのものにすぎず、本発明は以下の具体的実施形態に特に限定されない。これら実施形態を元とした変更は、本発明の主旨原則及び範囲に適合していれば、いずれも本発明特許が包含する範囲であるとみなされる。
【0128】
(I)眼内レンズの光学部における後方凸設計
移植された眼内レンズの嚢内における安定性を高め、後嚢混濁の発症率を低下させることは、本発明にかかる眼内レンズの光学部の面形状を設計するにあたって最初に考慮すべき事項である。
【0129】
図3は、眼内レンズの前面上方からみた本発明の一実施例にかかる1ピース式後眼房型眼内レンズ1の概略斜視図である。
図4は、眼内レンズの後面上方からみた本発明の一実施例にかかる1ピース式後眼房型眼内レンズの概略斜視図である。
図3及び
図4に示されるように、後眼房型眼内レンズ1は、光学部3と光学部辺縁4からなる光学部分2と、前記光学部分2と―体成形される2つの支持ハプティック5を含む。支持ハプティック5と光学部分2の光学部辺縁4は直接連なっている。いうまでもなく、当業者であれば、前記ハプティック5の数は2つより多くてもよく、6つより少ないことが好ましいことが理解できる。前記ハプティック5は、前記光学部分2の周方向において対称に光学部辺縁4に設けられるとともに、前記光学部分の前面に連なっている。いうまでもなく、当業者であれば、ハプティック5は前記光学部分2の周方向において対称に光学部辺縁4に設けられるとともに、前記光学部分の側面と一体に連なっていてもよいことを理解可能である。
図3及び
図4に示すように、前記光学部3の後面7は凸型であり、且つ前記光学部3の前面6も凸型である。いうまでもなく、当業者であれば、前記光学部3の後面7の面形状が球面、非球面、複合トーリック面、複数領域で屈折するよう設計された複数焦点面、及び複数領域で回折するよう設計された複数焦点面を含む面形状のいずれかであってもよく、前記光学部3の前面6が球面、非球面、複合トーリック面、複数領域で屈折するよう設計された複数焦点面、及び複数領域で回折するよう設計された複数焦点面を含む面形状のいずれかであってもよいことを理解可能である。
図3及び
図4において、1ピース式後眼房型眼内レンズ1のハプティック5は展開状態であって、眼内レンズの光学部分2の前面上に折り畳まれてはいない。
【0130】
図5は、本発明の一実施例にかかる1ピース式後眼房型眼内レンズ1の断面図であり、同図において、ハプティック5は眼内レンズの光学部分2の前面上に折り畳まれている。同図より、後眼房型眼内レンズ1の光学部の後面7は、後眼房型眼内レンズ1の光学部の前面6に比べ顕著に突出していることがより明白である。特に、後眼房型眼内レンズ1の光学部の後面が顕著に後方凸である面形状設計の場合、本発明のL型ハプティック又はC型ハプティックは、本発明の後眼房型眼内レンズ1における顕著に後方凸である後面とともに3点安定構造を形成可能なため、後嚢における眼内レンズの位置安定に有利であるとともに、眼内レンズ移植後の二次的白内障(PCO)の発症率を有効に低下させることができる。
【0131】
図6は、嚢収縮状態における、眼内に移植された従来技術の後眼房型眼内レンズ1における光学部の後面7と、後嚢膜9との作用関係を示す図である。
図6に示される従来技術の後眼房型眼内レンズ1の光学部面形状は、わずかに凸の面形状である(つまり、光学部の前面が凸型であり、光学部の後面がわずかに凸である)。
図6に示される従来技術の後眼房型眼内レンズ1を眼内へ移植すると、従来技術の後眼房型眼内レンズ1は、支持ハプティック5と嚢12との相互作用によって後眼房嚢内の相対位置に維持される。嚢の収縮や膨張が支持ハプティック5に作用することで、支持ハプティック5に連なる眼内レンズ1は圧迫されたり引っ張られたりし、眼軸方向D−D’において前後に変移する。従来技術の後眼房型眼内レンズ1における光学部の後面はわずかに凸(或いはほぼ平坦)である。よって、眼内に移植された従来技術の後眼房型眼内レンズ1が後眼房内で圧迫されたり引っ張られたりした場合、従来技術の後眼房型眼内レンズ1における光学部の後面と後嚢膜9の間には多少の隙間10が存在することから、嚢収縮時において収縮力Pの作用により従来技術の後眼房型眼内レンズが変移可能な空間範囲Sは比較的大きくなる。このことから、従来技術の後眼房型眼内レンズ1における光学部の後面7と後嚢膜9との密着が不安定となるため、白内障手術後に残留した水晶体の上皮細胞が増殖し、光学部の後面と後嚢膜9との隙間10を経由して技術の後眼房型眼内レンズにおける光学部の後面と後嚢の間へ変移しやすくなり、結果として、術後に後嚢混濁(PCO)現象が生じやすくなってしまう。
【0132】
図7は、嚢収縮状態における、眼内に移植された本発明の後眼房型眼内レンズ1における光学部の後面7と、後嚢膜9との作用関係を示す図である。
図6に示した従来技術の後眼房型眼内レンズ1における光学部の後面の突出度と比較して、
図7に示される本発明の後眼房型眼内レンズ1における光学部の後面の突出はより顕著である。
図7に示される本発明の後眼房型眼内レンズ1を眼内へ移植すると、従来技術の後眼房型眼内レンズ1は、支持ハプティック5と嚢との相互作用によって後眼房嚢内の相対位置に維持される。嚢の収縮や膨張が支持ハプティック5に作用することで、支持ハプティック5に連なる眼内レンズ1は圧迫されたり引っ張られたりし、眼軸方向D−D’において前後に変移する。一般的な従来技術の眼内レンズと比較して、
図7に示される顕著に後方凸の面形状である本発明の眼内レンズにおける光学部の後面は後嚢との隙間が小さく、嚢収縮時において収縮力Pの作用により眼内レンズが変移可能な空間範囲Sが相対的に小さくなることから、嚢内における水晶体の位置安定性が向上する。具体的には、
図7に示す本発明の眼内レンズ1における光学部の後面の突出は相対的に顕著であるため、眼内に移植された本発明の後眼房型眼内レンズ1が後眼房内で圧迫されたり引っ張られたりした場合、本発明の後眼房型眼内レンズ1における光学部の後面と後嚢膜9との隙間10は最小限まで縮小される。よって、本発明の後眼房型眼内レンズ1における光学部の後面と後嚢膜9はより良好に密着することになる。従って、従来技術の後眼房型眼内レンズ1における光学部の後面7と後嚢膜9との密着がより安定するため、白内障手術後に残留した水晶体の上皮細胞が増殖するとともに光学部の後面と後嚢膜9との隙間10を経由して技術の後眼房型眼内レンズにおける光学部の後面と後嚢の間へ変移することを阻止可能となる。以上より、眼内レンズの光学部の後面を顕著に突出させれば、後嚢と光学部との隙間が縮小され、上皮細胞が眼内レンズの後面と後嚢の間へ変移する機会が減るため、結果として眼内レンズ移植後のPCO発症率が低下することが顕著である。
【0133】
図8は、
図6の円G内に示される従来技術の後眼房型眼内レンズにおける光学部の後面と後嚢膜との相互作用を詳細に示したものである。
図9は、
図7の円H内に示される本発明の1ピース式後眼房型眼内レンズにおける光学部の後面と後嚢膜との相互作用を詳細に示したものである。従来技術における眼内レンズの光学部辺縁4が採用する角型縁設計でPCOの生長を阻止するには、眼内レンズ辺縁における角型縁が後嚢膜9に圧着可能であることが前提条件となり、これによって初めて水晶体の上皮細胞の流動が阻止される。
図8と
図9を比較すると、本発明の後眼房型眼内レンズにおける光学部の後面は、従来技術の後眼房型眼内レンズよりも後嚢膜に密着しており、本発明の後眼房型眼内レンズが後嚢内にいっそう安定的に位置決めされていることがわかる。即ち、本発明の後眼房型眼内レンズにおける光学部の後面が顕著に突出した面形状設計によれば、眼内レンズの光学部辺縁における角型縁効果の利点がより良好に発揮される。
【0134】
眼内レンズの移植時には、眼内レンズをインジェクターに装填して手術を行う必要があり、通常はハプティックの折り畳み操作を伴う。
図10は、眼内移植前に、従来技術の1ピース式後眼房型眼内レンズのハプティックが光学部の前面上に折り畳まれた状況を断面図形式で概略的に示したものである。
図11は、眼内移植前に、本発明の1ピース式後眼房型眼内レンズのハプティックが光学部の前面上に折り畳まれた状況を断面図形式で概略的に示したものである。1ピース式眼内レンズは、眼内レンズを前進させるにあたって移植器の先端がハプティック5を傷つけることのないよう、通常は移植前に支持ハプティックを眼内レンズの光学部分の前面6上に折り畳む必要がある。
図10と
図11を比較すると、眼内レンズの光学部分前面が突出しすぎている場合、ハプティック折り畳み時にハプティックが眼内レンズの光学部分前面に密着するため、折り畳み隙間13が小さくなることがわかる。そして、眼内レンズをインジェクターから押し出す際に、ハプティック5が展開しにくくなる。これに対し、本発明の1ピース式後眼房型眼内レンズ1における光学部の後面7が顕著に突出した面形状設計によれば、光学部分の前面6が比較的平坦であるため、折り畳まれたハプティックと光学部分の前面6との接触面積及び作用力が低減され、折り畳み隙間13が大きくなる。従って、本発明の1ピース式後眼房型眼内レンズ1における光学部の後面7が顕著に突出した面形状設計によれば、本発明の1ピース式後眼房型眼内レンズ1を眼内に移植した後に、本発明の1ピース式後眼房型眼内レンズ1の光学部分の前面6上に折り畳まれたハプティックが容易に展開するため、支持ハプティックと眼内レンズの光学部が粘着して自動展開がスムーズに行われないとのリスクが低減される。
【0135】
図21は、本発明の他の実施例にかかる1ピース式後眼房型眼内レンズの概略斜視図であり、同図において、ハプティックは展開しており眼内レンズの光学部分の前面上に折り畳まれてはいない。同図は特に、光学部分とハプティックの間に介する連接部の断面を含んでいる。
【0136】
図22は、
図21に示す断面における1ピース式後眼房型眼内レンズの光学部分とハプティックとの間の連接部について具体的且つ概略的に示したものである。
図21及び
図22に示されるように、本発明の他の実施例にかかる後眼房型眼内レンズ1は、光学部3と光学部辺縁4からなる光学部分2、前記光学部分2と―体成形される2つの支持ハプティック5、及び、光学部分2と支持ハプティック5の間の連接部15を含む。支持ハプティック5と光学部分2の光学部辺縁4は、前記連接部15を介して連なっている。前記連接部15は略円錐又はシリンドリカル形状であり、且つ、眼内レンズの作製過程において機械加工される。選択的に、前記光学部辺縁4は、例えば角型縁構造等の尖った折り曲げ部14を更に含んでもよい。連接部15の一端は光学部分2の光学部辺縁4に直接連なっており、連接部15の他端は支持ハプティック5のハプティック基部16に直接連なっている。ハプティック基部16は、支持ハプティック5における自由端と対向する一端に位置するとともに、略直線状に延伸している。ハプティック基部16の縦方向の中心線16’−16’は、後眼房型眼内レンズ1の光学部分2における縦方向の中心線8’−8’に対し傾斜しており、0°〜7°の範囲のハプティック形成角αをなしている。連接部15の縦方向の中心線15’−15’も、後眼房型眼内レンズ1の光学部分2における縦方向の中心線8’−8’に対して傾斜しており、10°〜45°の範囲の連接部傾斜角βをなしている。連接部傾斜角βはハプティック形成角αよりも大きい。尖った折り曲げ部14は、後嚢膜9上で機械的なバリアを形成し、上皮細胞の変位及び流動を遮断するのに寄与するとともに、光学部分とハプティックの接続強度を強める作用を奏する。また、支持ハプティック5に連なる眼内レンズ1が嚢の収縮及び膨張作用を受けて圧迫又は引っ張られた場合、ハプティック形成角α(ハプティックの設計角度)が存在することから、ハプティック5が受ける径方向の力は、眼軸線方向において光学面を後嚢に向けて運動させる分力と、眼軸線に垂直な方向において光学部の面形状を変化させる分力とに分解される。これにより、光学部の後面7と後嚢9を常に密着させるのに有利となり、このような密着式の構造設計はPCOの発生機会を大幅に減少させることができる。ハプティック形成角α、連接部15及び(選択的な)尖った折り曲げ部14を含むことを特徴とする構造は、本発明の後眼房型眼内レンズ1における後方凸が顕著な光学部の後面7と組み合わせることで、後方凸が顕著な光学部の後面7を後嚢膜9により密着させるのに有利となる。これにより、本発明の後眼房型眼内レンズ1は後嚢9内においていっそう安定的に位置決めされ、結果としてより良好にPCOの生長が阻止される。いうまでもなく、当業者であれば、前記ハプティック5の数は2つより多くてもよく、6つより少ないことが好ましいことを理解可能である。前記ハプティック5は、前記光学部分2の周方向において対称に光学部辺縁4に設けられるとともに、前記光学部分の前面に連なっている。いうまでもなく、当業者であれば、ハプティック5は前記光学部分2の周方向において対称に光学部辺縁4に設けられるとともに、前記光学部分の側面と一体に連なっていてもよいことを理解可能である。
【0137】
また、当業者であれば更に、本発明における光学部の後面が顕著に突出した後眼房型眼内レンズは、上述の実施例のような1ピース式眼内レンズであってもよいし、3ピース式眼内レンズであってもよいことを認識可能である。3ピース式眼内レンズについて、光学部の面形状設計の特徴は上記実施例で述べた1ピース式眼内レンズの場合と類似しているため、ここでは詳述しない。従来技術の後眼房型眼内レンズと比較して、本発明の3ピース式後眼房型眼内レンズにおける光学部の後面は顕著に突出していることから、移植後に後嚢と光学部との隙間が同様に縮小され、上皮細胞が3ピース式眼内レンズの後面と後嚢の間へ変移する機会を減らすことができるので、結果として3ピース式眼内レンズ移植後のPCO発症率が低下する。また、本発明における光学部の後面が顕著に突出した3ピース式後眼房型眼内レンズの光学部の後面は、同様に後嚢膜に対していっそう密着可能となるため、後嚢内においてより安定的に位置決めがなされ、眼内レンズの光学部辺縁における角型縁効果の利点がより良好に発揮される。
【0138】
(II)眼内レンズの光学部における面形状設計
表2に、異なる材料で作製された本発明の後眼房型眼内レンズにおける光学部の面形状設計の実施例
及び参考例を列挙する。
なお、表2の各実施例において、光学部の後面の基礎球面の曲率半径が7.2mm〜15.3mmの範囲外のものは、参考例である。
【0139】
本発明の後眼房型眼内レンズの光学部表面がいずれも球面形状を備える場合は、眼内レンズにおける前後の光学部表面の曲率半径で本発明の後眼房型眼内レンズにおける光学部表面の面形状を直接表すことができる。
【0140】
本発明の後眼房型眼内レンズの光学部表面が、更に高次非球面設計及び/或いは複合トーリック面設計を採用している場合、これは、表2に列挙される異なる材料で作製された本発明の後眼房型眼内レンズにおける光学部の基礎球面に、高次非球面設計及び/或いは複合トーリック面設計を追加したものにあたる。この場合は、表2に列挙する前面の曲率半径、後面の曲率半径が、それぞれ当該後眼房型眼内レンズの光学部前面における基礎球面の曲率半径、及び当該後眼房型眼内レンズの光学部後面における基礎球面の曲率半径となる。非球面設計は基礎球面の結像品質を更に改善するためになされ、複合トーリック面設計(Toric)は付加的に乱視を矯正し、乱視患者の視覚の質を改善するためになされる。
【0141】
記載の便宜上及び統一性を考慮して、以下では、表2のデータを解釈及び説明するにあたり、上述の2種類の場合における本発明の後眼房型眼内レンズにおける球面を、いずれも「基礎球面」と称する。
【0142】
本発明の後眼房型眼内レンズに用いられる以下の材料の実施例は、いずれも屈折率が1.45〜1.56の間である。当業者にとっては、必要に応じて常用の調製方法を用い、生成される材料の屈折率を1.45〜1.56の間の任意の値にするとの要求を満たすことは公知である。また、本発明の後眼房型眼内レンズの光学部の中心厚は0.3mm〜1.2mmの範囲内であり、且つ、光学部辺縁の厚みは0.3mm〜0.6mmの範囲内である。「光学部の中心厚」とは、本発明の後眼房型眼内レンズの光学部中心における最も厚い箇所の厚みをいう。また、「光学部辺縁の厚み」とは、本発明の後眼房型眼内レンズにおける光学部から光学部辺縁への移行位置で測定した厚みをいう。当業者にとっては、本発明の後眼房型眼内レンズにおける光学部の中心厚寸法と、本発明の後眼房型眼内レンズにおける光学部辺縁の厚み寸法とが、選択する材料及び所望の屈折度数によって決まることは公知である。表2に列挙される光学部表面の面形状設計を備えた本発明のこれら眼内レンズは、いずれも5.0D〜36.0Dの屈折度数を達成可能である。現在、臨床で最も使用されているのは、屈折度数が20D程度の眼内レンズである。
【0143】
表2 本発明の後眼房型眼内レンズにおける光学部の面形状設計の実施例
【0146】
表2より、本発明の後眼房型眼内レンズの光学部後面における基礎球面の曲率半径は約
7.2mm〜
15.3mmの範囲内であり、本発明の後眼房型眼内レンズの光学部前面における基礎球面の曲率半径は約
8.0mm〜
65.5mmの範囲内であることがわかる。
【0147】
実施例1では、本発明の他の好ましい実施例において、後眼房型眼内レンズは屈折率1.46のシリコーン又はヒドロゲルから形成されている。例えば、当該材料は、米国エイエムオー(AMO)社のシリコーン眼内レンズSI40NBやボシュロン(Bausch and Lomb)社のヒドロゲル眼内レンズAkreosの作製に用いられていた。表2より、当該後眼房型眼内レンズにおける光学部の後面の曲率半径は
7.3mm〜
13.0mmの範囲内であり、当該後眼房型眼内レンズにおける光学部の前面の曲率半径は
9.2mm〜
44.5mmの範囲内であることがわかる。本発明における上述の有益な効果をより良好に実現するとの観点から、前記光学部の後面の曲率半径は7.5mm〜10.0mmの範囲内であることが好ましい。より好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は約8.0mmである。
【0148】
実施例2において、後眼房型眼内レンズは屈折率1.47の疎水性アクリル酸エステルから形成されている。例えば、当該材料は米国エイエムオー社(AMO)のAR40e型眼内レンズの作製に用いられていた。表2より、当該後眼房型眼内レンズにおける光学部の後面の曲率半径は
7.3mm〜
15.0mmの範囲内であり、当該後眼房型眼内レンズにおける光学部の前面の曲率半径は
11.0mm〜
44.5mmの範囲内であることがわかる。本発明における上述の有益な効果をより良好に実現するとの観点から、前記光学部の後面の曲率半径は
7.3mm〜11.0mmの範囲内であることが好ましい。より好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は約8.5mmである。
【0149】
実施例3において、後眼房型眼内レンズは疎水性アクリル酸エステルから形成されており、且つ、当該材料は愛博諾徳(北京)医療科技有限公司製である。表2より、当該後眼房型眼内レンズ材料の屈折率は1.48であることがわかる。当該後眼房型眼内レンズにおける光学部の後面の曲率半径は7.5mm〜
11.1mmの範囲内であり、当該後眼房型眼内レンズにおける光学部の前面の曲率半径は8.0mm〜
55.7mmの範囲内である。本発明における上述の有益な効果をより良好に実現するとの観点から、前記光学部の後面の曲率半径は8.1mm〜
11.1mmの範囲内であることが好ましい。より好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は約11.1mmである。
【0150】
実施例4において、後眼房型眼内レンズはポリメタクリル酸メチル(PMMA)から形成されており、且つ、当該材料は初期の眼内レンズに常用されていた作製材料である。表2より、当該後眼房型眼内レンズ材料の屈折率は1.49であることがわかる。当該後眼房型眼内レンズにおける光学部の後面の曲率半径は
9.0mm〜
13.1mmの範囲内であり、当該後眼房型眼内レンズにおける光学部の前面の曲率半径は
44.5mm〜
44.7mmの範囲内である。本発明における上述の有益な効果をより良好に実現するとの観点から、前記光学部の後面の曲率半径は
9.0mm〜13.1mmの範囲内であることが好ましい。より好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は約9.0mmである。
【0151】
実施例5において、後眼房型眼内レンズは屈折率1.51の疎水性アクリル酸エステルから形成されている。例えば、当該材料は日本HOYA株式会社がAF−1型眼内レンズの作製に用いていた。表2より、当該後眼房型眼内レンズにおける光学部の後面の曲率半径は
7.2mm〜
15.3mmの範囲内であり、当該後眼房型眼内レンズにおける光学部の前面の曲率半径は
44.5mm〜
65.5mmの範囲内であることがわかる。本発明における上述の有益な効果をより良好に実現するとの観点から、前記光学部の後面の曲率半径は7.2mm〜15.3mmの範囲内であることが好ましい。より好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は約9.9mmである。
【0152】
実施例6において、後眼房型眼内レンズは疎水性アクリル酸エステルから形成されており、且つ、当該材料は愛博諾徳(北京)医療科技有限公司製である。表2より、当該後眼房型眼内レンズ材料の屈折率は1.52である。当該後眼房型眼内レンズにおける光学部の後面の曲率半径は
7.6mm〜
10.6mmの範囲内であり、当該後眼房型眼内レンズにおける光学部の前面の曲率半径は
55.5mmの範囲内である。本発明における上述の有益な効果をより良好に実現するとの観点から、前記光学部の後面の曲率半径は7.6mm〜
10.6mmの範囲内であることが好ましい。より好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は約10.6mmである。
【0153】
実施例7において、後眼房型眼内レンズは屈折率1.55の疎水性アクリル酸エステルから形成されている。例えば、当該材料は米国アルコン社(ALCON)が眼内レンズAcrysofシリーズの作製に用いていた。表2より、当該後眼房型眼内レンズにおける光学部の後面の曲率半径は
7.8mm〜
12.7mmの範囲内であり、当該後眼房型眼内レンズにおける光学部の前面の曲率半径は
53.0mm〜
55.5mmの範囲内であることがわかる。本発明における上述の有益な効果をより良好に実現するとの観点から、前記光学部の後面の曲率半径は9.0mm〜
12.7mmの範囲内であることが好ましい。より好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は約12.7mmである。
【0154】
また、表2より、本発明の後眼房型眼内レンズにおける光学部の後面の曲率半径は、前記光学部の前面の曲率半径より小さいことがわかる。本発明における上述の有益な効果をより良好に実現するとの観点から、好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は前記光学部の前面の曲率半径の17.8%〜60.0%であり、より好ましくは、前記光学部の後面の曲率半径は前記光学部の前面の曲率半径の20.0%〜45.6%である。
【0155】
いうまでもなく、当業者であれば表2を一読することで、本発明の後眼房型眼内レンズにおける光学部の後面の曲率半径が、前記光学部の前面の曲率半径とほぼ等しくてもよいことを認識可能である。
【0156】
(II.1)眼内レンズの光学部における高次非球面設計
従来技術の眼内レンズ製品が備える高次収差(球面収差及びコマ収差を含む)を除去又は低減させて結像品質を高めるために、本発明の一実施形態における後方凸が顕著な後眼房型眼内レンズにおける光学部の後面又は光学部の前面は高次非球面設計を採用しており、一般的な単一Q値の非球面設計は用いていない(単一Q値の非球面設計は球面収差の補償しかできない)。
【0157】
本発明の後方凸が顕著な後眼房型眼内レンズにおける光学部の非球面は、非球面に発生する付加的な球面収差と基礎球面に発生する球面収差を正負で相殺し、非球面に発生する付加的なコマ収差と基礎球面に発生するコマ収差を正負で相殺することを補償の原則としている。
【0158】
本願の高次非球面設計では、多元高次方程式の係数を設計時の各種変数として用いており、形成される非球面の面形状は、その基礎球面の面形状よりも複雑となる。高次非球面設計は球面収差を矯正可能なだけでなく、その他の高次収差を矯正することも可能であり、移植位置に対する水晶体の感度が低減される。
【0159】
本発明における眼内レンズの光学部の面形状についてより正確に述べるために、
図12では、本発明の後方凸が顕著な後眼房型眼内レンズにおける高次非球面設計を採用した光学部表面の頂点を原点として、2次元座標系を構成している。前記座標系の縦軸Yは前記光学部表面に接しており、且つ前記光学部表面の頂点Oを通過している。前記座標系の横軸Zは、
図5に示す眼軸方向D−D’と平行であり、縦軸Yと90度の角度をなすとともに、前記光学部表面の頂点Oを通過している。本発明の後方凸が顕著な後眼房型眼内レンズにおける高次非球面設計を採用した光学部表面上の各点は、前記光学部表面の頂点Oを通過する、
図5に示す眼軸方向D−D’と平行な横軸Zに対して回転対称の関係にある。従って、本発明の後方凸が顕著な後眼房型眼内レンズにおける高次非球面設計を採用した光学部表面の、上記縦軸Yと横軸Zからなる平面上の座標関係を特定し、回転対称変換を行いさえすれば、本発明の後方凸が顕著な後眼房型眼内レンズにおける高次非球面設計を採用した光学部表面の面形状を復元可能である。前記縦軸Yと横軸Zからなる平面上において、本発明の後方凸が顕著な後眼房型眼内レンズにおける高次非球面設計を採用した光学部表面の各点は(Z,y)で表される。
図12に示すように、Zasphは2次元座標系の平面YZ上における非球面面形状曲線の任意の一点のZ値であり、Zsphは2次元座標系の平面YZ上における球面面形状の任意の一点のZ値である。
【0160】
図10と組み合わせて、上述の2次元座標系の平面YZ上における本発明の後方凸が顕著な後眼房型眼内レンズの光学部表面の非球面曲線は、以下の高次非球面設計式を満たす。
【0162】
Z(y)は、YZ平面における眼内レンズの光学部の非球面曲線を表す式であり、cは光学部における基礎球面表面の曲率半径の逆数であり、yは横軸Zから前記曲線上の任意の一点までの垂直距離であり、A
2iは非球面の高次項係数であり、m,nは1以上の整数でn≧mであり、これらの項が非球面の面形状と基礎球面の面形状の差を反映する。上記の式より、高次非球面とは基礎球面項
【0164】
に偏移量を重畳したものとみなされ、非球面の高次項係数
【0167】
前記凸型非球面の面形状における各点は、前記曲線が横軸Zまわりに回転対称変化することで得られる。
【0168】
表3には、本発明の複数の好ましい実施形態にかかる、眼内レンズの光学部後面における表2に列挙した各種基礎球面に対して高次非球面設計を追加した場合の、式(4)の重畳項における各パラメーターA
2iを列挙している(m=2且つn=5)。表2の高次項係数はZEMAXシミュレーションで取得し、シミュレーションに用いる模型眼はLiou模型とし、所望の水晶体が偏心0.5mm、傾斜5°の場合に良好な結像品質を持つよう合理化した。
【0169】
当業者であれば、異なる模型眼を使用した場合、得られる式(4)における重畳項の各高次項係数も異なることを理解可能である。
【0170】
表3 眼内レンズの光学部後面における各種基礎球面に対して高次非球面設計を追加した場合の、本発明の非球面の面形状を表す式における重畳項のパラメーター(m=2且つn=5)
【0172】
また、当業者であれば、非球面設計を眼内レンズの光学部前面における基礎球面に追加した場合、その高次非球面の係数が表2に列挙した対応する高次非球面の係数とは正負が逆の関係となることを認識可能である。当業者であれば更に、非球面設計を眼内レンズにおける光学部の前面と後面のいずれか一方の基礎球面に追加したとしても、結像品質に影響しないことを認識可能である。
【0173】
球面設計を採用した従来技術の眼内レンズ及び単一Q値の非球面設計を採用した従来技術の眼内レンズと比較して、本発明の好ましい実施形態における光学部は、非球面設計の後方凸が顕著な後眼房型眼内レンズを採用しているため、
図13〜
図17に示すように、眼内レンズの結像品質がいっそう改善される。
【0174】
図13は、口径5mm、20Dで後面設計の異なる3種類の(後面が顕著に突出した球面、後面が平坦な球面、後面が顕著に突出した非球面設計)眼内レンズについて、模型眼内における縦方向の収差曲線を示したものである。横座標は各口径位置(口径寸法のパーセンテージで表す)を示し、縦座標は縦方向の収差の大きさを示す。中心位置に置かれた眼内レンズの場合、縦方向の収差は主として球面収差である。後面の曲率半径が大きい球面眼内レンズの後面は比較的平坦であり、球面収差を最小化するための設計原則に適合している(眼内レンズの両面の面形状を全体的に湾曲させることで球面収差の最小化を実現している)ため、球面収差が小さい(図中の点線)。後面が小曲率半径で設計されている球面眼内レンズは後面が顕著に突出しており、後面が平坦な球面眼内レンズよりも球面収差が顕著に大きい(細線)。眼内レンズの片面に非球面設計を採用すると、面形状に起因する球面収差が有効に補償され、球面収差が顕著に低減する(図中の太線)。
【0175】
図14A、
図14B、
図14Cは、球面、単一Q値の非球面及び高次非球面の眼内レンズについて、中心位置、偏心及び傾斜それぞれの場合の水晶体の高次収差分布を示している(瞳孔5.0mm)。上述の眼内レンズが嚢内で中心位置にある場合、球面眼内レンズの球面収差は大きく、単一Q値の非球面は球面収差を矯正可能であり、他の高次収差は存在しない(又は高次収差が大変小さい)。また、高次非球面も球面収差を矯正可能であるが、単一Q値の非球面に比べてやや大きな球面収差が残る。上述の眼内レンズが嚢内において偏心及び傾斜状態にある場合、球面と非球面はいずれも球面収差とコマ収差を有するが、単一Q値の非球面に発生するコマ収差が最大となる。高次非球面は発生するコマ収差が単一Q値に比べて小さく、全体として高次収差が球面及び単一Q値の非球面よりも小さい。
【0176】
本技術分野では、高次収差が大きな系統か小さな系統かに拘らず、MTFグラフの使用が有効且つ客観的で全面的な像質評価方法となる。実用的な意味からいうと、MTF値は光学画像のコントラストとシャープネスを表すものであり、lp/mmを単位とする1mm範囲内で表現可能なライン数について量られる。
【0177】
図15は、球面、単一Q値の非球面及び後面の曲率半径が小さな高次非球面の眼内レンズが瞳孔5mm下で嚢内の中心位置にある場合に、角膜収差を有する模型眼において実測して得たMTF曲線を示す。図より、中心位置にある球面眼内レンズは球面収差が大きく、MTF曲線が低いのに対し、単一Q値の非球面と本発明の設計は、いずれも良好に球面収差を矯正可能であることがわかる。
【0178】
図16は、球面、単一Q値の非球面及び後面の曲率半径が小さな高次非球面の眼内レンズが、瞳孔5mm下で嚢内において1mm偏心している場合に、角膜収差を有する模型眼において実測して得たMTF曲線を示す。図より、嚢内で1mm偏心している場合、本発明の眼内レンズは中低周波数領域、特に50lp/mm以下において、他の眼内レンズに比べて顕著な優位性を有することがわかる(50lp/mmで視力0.5となる)。ただし、高周波数については他の眼内レンズとの差は大きくない。それでも、本発明の眼内レンズは全体として他の眼内レンズに比べてかなりの優位性を有している。
【0179】
図17は、球面、単一Q値の非球面及び後面の曲率半径が小さな高次非球面の眼内レンズが、瞳孔5mm下で嚢内において0.5mm偏心し、5°傾斜している場合に、角膜収差を有する模型眼において実測して得たMTF曲線を示す。図より、偏心及び傾斜している場合、本発明の眼内レンズの優位性はより顕著となり、100lp/mmの全周波数領域において優れた光学性能を有することがわかる。
【0180】
以上の図面より、本発明の好ましい実施形態にかかる光学部は、非球面設計の後方凸が顕著な後眼房型眼内レンズを採用することで、眼内レンズの後面における曲率半径が前面より小さいことに起因して水晶体に残留する球面収差が、通常の面形状設計(前方凸後方平型)に残留する球面収差よりも大きくなるとの課題を解決している。また、通常の非球面(単一Q値の非球面)の眼内レンズが移植の不正確さ(手術中に発生する偏心や傾斜)に対し過敏であるとの課題を解決している。
【0181】
以上、本発明は眼内レンズの光学部設計分野に属する。後面の曲率半径が小さな眼内レンズ設計に対して、本発明では高次非球面設計を採用することで、水晶体の球面収差、及び大口径、不正確といった状況における他の高次収差を矯正して、眼内レンズの結像品質を高めている。
【0182】
(II.2)眼内レンズの光学部における複合トーリック面設計
乱視を伴う白内障患者の水晶体を摘出した後、屈折力を矯正するとともに角膜乱視を矯正することで更に視覚の質を高めるために、本発明の後方凸が顕著な後眼房型眼内レンズにおける光学部の前面又は光学部の後面に、複合トーリック面設計を採用してもよい。
【0183】
乱視眼における乱視性質、度数及び軸は、角膜乱視と水晶体乱視の双方によって決定される。白内障患者の場合、水晶体の摘出後に角膜の面形状が損なわれることが乱視の主な原因である。乱視とは一種のベクトルであって、大きさと角度の双方で表される。簡単にいうと、乱視を伴う角膜は球面レンズとシリンドリカルレンズの屈折力の和と理解でき、水平方向と垂直方向の屈折度数が異なる複合トーリック面であるとも理解される。
【0184】
角膜乱視の形成は、角膜がトーリック面となることが原因と考えられる。眼内レンズが角膜乱視を矯正する方式としては、眼内レンズをトーリック面として設計し、最大屈折力の軸を角膜の最小屈折力の軸に重ね合わせる。
【0185】
単乱視の矯正(屈折度数を含まない)にはシリンドリカルレンズを使用し、シリンドリカルレンズの屈折力を角膜乱視の大きさと等しくする一方、方向を逆にすればよい。白内障における水晶体移植手術では、水晶体の屈折度数と乱視の矯正を組み合わせることで、屈折の目的を達成するとともに、角膜乱視を矯正可能とする必要がある。
【0186】
そこで、トーリック眼内レンズの設計においては、基本的な屈折力設計を行うこと、即ち、眼における屈折要求を満たすことを第1の要点とするとともに、基本的な屈折力設計をベースに、トーリック面形状を用いて任意の一方向にシリンドリカルレンズ度数を付与し、これを角膜に付与されているシリンドリカルレンズ度数と大きさを等しくする一方で、方向は逆とすることを第2の要点とする。
【0187】
本発明のトーリック眼内レンズの設計には、以下のような手順が含まれる。即ち、トーリック眼内レンズの基本面形状を設計し、眼における総体的な屈折力矯正要求を満たす。本発明の場合、眼内レンズが眼内において達成すべき屈折範囲は5.0D〜36.0Dである。続いて、乱視を伴う角膜、模型眼を構築する。最後に、トーリック眼内レンズの基本面形状にシリンドリカルレンズ度数を付与し、角膜乱視を矯正する。本発明の場合、光学部の前面又は光学部の後面に複合トーリック面形状を用いることでシリンドリカルレンズ度数を付与可能である。
【0188】
トーリック型眼内レンズのトーリック面は軸方向マーク(眼内レンズにおける最小屈折力方向を示す)を備え、手術では、トーリック型眼内レンズの軸方向マークを角膜乱視の最大屈折力方向に重ね合わせる必要がある。研究によれば、トーリック型眼内レンズの軸方向が角膜の軸方向位置に対し5°を超えて回転した場合、トーリック型眼内レンズは乱視矯正作用を喪失してしまう。移植する眼内レンズの光学性能を更に高めるとともに、移植過程において眼内レンズの軸方向位置を医者が把握しやすいよう計らうことは、本発明の乱視矯正型眼内レンズの光学部面形状を設計するにあたって考慮すべき事項となる。このことから、当業者にとって、トーリック面及びその軸方向マークの理想的な位置は、眼内レンズの前面(前眼房方向)とすべきである。
【0189】
乱視を伴う白内障患者の大部分は、乱視のシリンドリカルレンズ度数が0.5D〜2.5Dの間に集中している(ALCON Toric IOL製品カタログより)。よって、本発明のトーリック眼内レンズの設計においては、シリンドリカルレンズ度数0.5D〜2.5Dを主として矯正するよう考慮した。
【0190】
図18と組み合わせて、本発明の他の実施形態にかかる後方凸が顕著な後眼房型眼内レンズにおける光学部の前面は、光学部及び光学部辺縁からなる光学部分と、前記光学部分に連なる少なくとも2つのハプティックを含む。前記光学部の前面は凸型複合トーリック面であり、前記凸型複合トーリック面は、曲率半径
8.0mm〜
65.5mmの範囲内である基礎球面と、前記基礎球面に対する偏移量とを重畳してなり、且つ、前記光学部の後面の曲率半径は
7.2mm〜
15.3mmの範囲内である。前記後眼房型眼内レンズにおける光学部の前面の頂点Oを原点として2次元座標系を構築すると、前記座標系の縦軸Yは前記光学部の前面に接するとともに、前記光学部の前面の頂点Oを通過する。前記座標系の横軸Zは眼軸方向D−D’と平行であり、縦軸Yと90度の角度をなすとともに、前記光学部の前面の頂点Oを通過している。前記2次元座標系の平面YZにおける前記凸型複合トーリック面の曲線は、以下の式を満たす。
【0192】
Z(y)は、YZ平面における眼内レンズの光学部の前記凸型複合トーリック面曲線を表す式であり、cは光学部の前面における基礎球面表面の曲率半径の逆数であり、yは横軸Zから前記曲線上の任意の一点までの垂直距離であり、A
2iは非球面の高次項係数であり、m,nは1以上の整数でn≧mである。前記凸型複合トーリック面の面形状における各点は、前記曲線が縦軸Yに平行な直線d−d’まわりに一定の前面回転半径Rで一周することで得られる。
【0193】
この種の複合トーリック面は、水平方向と垂直方向の屈折力の大きさが異なっており、垂直方向の屈折力は回転曲線の曲率半径により決定され、水平方向の屈折力は曲線が囲繞する前面の回転半径により決定され、水平方向と垂直方向間の屈折力は曲線の回転により形成される面形状で決定される、ことを特徴とする。このような複合トーリック面の面形状における屈折力分布の効果は、基礎球面とシリンドリカル面を組み合わせたものに等しい。
【0194】
表4に、本発明の他の実施形態におけるトーリック眼内レンズに付与されるシリンドリカルレンズ度数と、矯正可能な角膜のシリンドリカルレンズ度数との対応関係を列挙する。
【0196】
表5に、異なる材料、異なる度数の後方凸型トーリック眼内レンズにおける各シリンドリカルレンズ度数に対応する前面基準YZ曲線の曲率半径rと、前面の回転半径R、及び後面の曲率半径を示す。
なお、表5において、光学部の後面の基礎球面の曲率半径が7.2mm〜15.3mmの範囲外のものは、参考例である。
【0200】
表5の
データより、以下が明らかである。
【0201】
屈折率が1.46のシリコーン或いはヒドロゲルからなる本発明の光学部の前面に対して複合トーリック面設計を採用した後方凸が顕著な後眼房型眼内レンズの場合、前記光学部の前面のYZ平面上における基本曲線の曲率半径は
9.2mm〜
44.5mmの範囲内であって、複合トーリック面に付与されるシリンドリカルレンズ度数が0.5mm〜5.0Dの範囲内である場合、前面の回転半径は
6.71mm〜
37.73mmの範囲内である。本発明における上述の有益な効果をより良好に実現するとの観点から、前記光学部の前面のYZ平面上における基本曲線の曲率半径は9.2mm〜44.5mmの範囲内であることが好ましく、複合トーリック面に付与されるシリンドリカルレンズ度数が1.0D〜4.0Dの範囲内である場合、前面の回転半径は7.09mm〜32.75mmの範囲内である。より好ましくは、前記光学部の前面のYZ平面上における基本曲線の曲率半径は約12.0mmであって、複合トーリック面に付与されるシリンドリカルレンズ度数が2.25Dの場合、前面の回転半径は約9.85mmである。
【0202】
屈折率が1.47の疎水性アクリル酸エステルからなる本発明の光学部の前面に対して複合トーリック面設計を採用した後方凸が顕著な後眼房型眼内レンズの場合、前記光学部の前面のYZ平面上における基本曲線の曲率半径は
11.1mm〜
45.5mmの範囲内であって、複合トーリック面に付与されるシリンドリカルレンズ度数が0.5mm〜5.0Dの範囲内である場合、前面の回転半径は
7.80mm〜
38.90mmの範囲内である。本発明における上述の有益な効果をより良好に実現するとの観点から、前記光学部の前面のYZ平面上における基本曲線の曲率半径は11.0mm〜45.5mmの範囲内であることが好ましく、複合トーリック面に付与されるシリンドリカルレンズ度数が1.0D〜4.0Dの範囲内である場合、前面の回転半径は8.28mm〜33.97mmの範囲内である
。
【0203】
屈折率が1.48の疎水性アクリル酸エステルからなる本発明の光学部の前面に対して複合トーリック面設計を採用した後方凸が顕著な後眼房型眼内レンズの場合、前記光学部の前面のYZ平面上における基本曲線の曲率半径は8.0mm〜
55.7mmの範囲内であって、複合トーリック面に付与されるシリンドリカルレンズ度数が0.5D〜5.0Dの範囲内である場合、前面の回転半径は6.23mm〜
46.54mmの範囲内である。本発明における上述の有益な効果をより良好に実現するとの観点から、前記光学部の前面のYZ平面上における基本曲線の曲率半径は10.69mm〜55.74mmの範囲内であることが好ましく、複合トーリック面に付与されるシリンドリカルレンズ度数が1.0D〜4.0Dの範囲内である場合、前面の回転半径は8.2mm〜39.95mmの範囲内である。より好ましくは、前記光学部の前面のYZ平面上における基本曲線の曲率半径は約14.71mmであって、複合トーリック面に付与されるシリンドリカルレンズ度数が2.25Dの場合、前面の回転半径は約11.91mmである。
【0204】
屈折率が1.49のポリメタクリル酸メチル(PMMA)からなる本発明の光学部の前面に対して複合トーリック面設計を採用した後方凸が顕著な後眼房型眼内レンズの場合、前記光学部の前面のYZ平面上における基本曲線の曲率半径は
44.5mm〜
44.7mmの範囲内であって、複合トーリック面に付与されるシリンドリカルレンズ度数が0.5D〜5.0Dの範囲内である場合、前面の回転半径は
18.20mm〜
39.03mmの範囲内である
。
【0205】
屈折率が1.51の疎水性アクリル酸エステルからなる本発明の光学部の前面に対して複合トーリック面設計を採用した後方凸が顕著な後眼房型眼内レンズの場合、前記光学部の前面のYZ平面上における基本曲線の曲率半径は
44.5mm〜
65.5mmの範囲内であって、複合トーリック面に付与されるシリンドリカルレンズ度数が0.5D〜5.0Dの範囲内である場合、前面の回転半径は
19.53mm〜
55.12mmの範囲内である。本発明における上述の有益な効果をより良好に実現するとの観点から、前記光学部の前面のYZ平面上における基本曲線の曲率半径は27.5mm〜55.5mmの範囲内であることが好ましく、複合トーリック面に付与されるシリンドリカルレンズ度数が1.0D〜4.0Dの範囲内である場合、前面の回転半径は
22.0mm〜42.08mmの範囲内である。より好ましくは、前記光学部の前面のYZ平面上における基本曲線の曲率半径は約53.5mmであって、複合トーリック面に付与されるシリンドリカルレンズ度数が2.25Dの場合、前面の回転半径は約31.62mmである。
【0206】
屈折率が1.52の疎水性アクリル酸エステルからなる本発明の光学部の前面に対して複合トーリック面設計を採用した後方凸が顕著な後眼房型眼内レンズの場合、前記光学部の前面のYZ平面上における基本曲線の曲率半径は
44.5mm〜
55.5mmの範囲内であって、複合トーリック面に付与されるシリンドリカルレンズ度数が0.5D〜5.0Dの範囲内である場合、前面の回転半径は
20.14mm〜
48.23mmの範囲内である。本発明における上述の有益な効果をより良好に実現するとの観点から、前記光学部の前面のYZ平面上における基本曲線の曲率半径は
44.5mmの範囲内であることが好ましく、複合トーリック面に付与されるシリンドリカルレンズ度数が1.0D〜4.0Dの範囲内である場合、前面の回転半径は
22.62mm〜
35.83mmの範囲内である。より好ましくは、前記光学部の前面のYZ平面上における基本曲線の曲率半径は約55.5mmであって、複合トーリック面に付与されるシリンドリカルレンズ度数が2.25Dの場合、前面の回転半径は約33.06mmである。
【0207】
屈折率が1.55の疎水性アクリル酸エステルからなる本発明の光学部の前面に対して複合トーリック面設計を採用した後方凸が顕著な後眼房型眼内レンズの場合、前記光学部の前面のYZ平面上における基本曲線の曲率半径は
53.0mm〜
55.5mmの範囲内であって、複合トーリック面に付与されるシリンドリカルレンズ度数が0.5mm〜5.0Dの範囲内である場合、前面の回転半径は
23.68mm〜
49.13mmの範囲内である。本発明における上述の有益な効果をより良好に実現するとの観点から、前記光学部の前面のYZ平面上における基本曲線の曲率半径は
55.5mmの範囲内であることが好ましく、複合トーリック面に付与されるシリンドリカルレンズ度数が1.0D〜4.0Dの範囲内である場合、前面の回転半径は
31.21mm〜44.07mmの範囲内である。より好ましくは、前記光学部の前面のYZ平面上における基本曲線の曲率半径は約55.5mmであって、複合トーリック面に付与されるシリンドリカルレンズ度数が2.25Dの場合、前面の回転半径は約35.05mmである。
【0208】
いうまでもなく、当業者であれば、本発明における上述のトーリック眼内レンズは、光学部の後面に球面設計を用いてもよいし、基礎球面上に高次非球面など他の設計を付与してもよいことを理解可能である。
【0209】
従来技術における通常の非球面眼内レンズと比較して、本発明におけるトーリック眼内レンズにおける光学部の前面には複合トーリック面設計が用いられていることから、
図19A、
図19B、
図20A及び
図20Bに示されるように、乱視を伴う白内障患者の視覚の質を更に改善可能である。
【0210】
図19Aと
図19Bはそれぞれ、通常の非球面眼内レンズ及び本発明のトーリック眼内レンズをそれぞれ移植した後の角膜乱視を伴う眼についてZEMAXシミュレーションで取得した点拡がり関数を対比する図であり、当該眼の模型は2.9Dの角膜乱視を有するものとする。
図19Aと
図19Bの対比より、通常の非球面眼内レンズが移植された眼には乱視が存在して点拡がり関数が直線状となり、一方向(縦方向)における結像状態は良好であるが、他の方向(横方向)における高次収差は極めて大きいことがわかる。一方、トーリック眼内レンズを移植すると、点拡がり関数は点状となり、一部の乱視は残るものの、大幅な矯正がなされていることがわかる(なお、両図は寸法が異なる)。
【0211】
図20Aと
図20Bはそれぞれ、通常の非球面眼内レンズ及び本発明のトーリック眼内レンズをそれぞれ移植した後の角膜乱視を伴う眼についてZEMAXシミュレーションで取得したMTFを対比する図であり、当該眼の模型は2.9Dの角膜乱視を有するものとする。
図20Aと
図20Bの対比より、通常の非球面眼内レンズを移植した場合、MTFは一方向では回折限界に達し、結像が良好となるが、他の方向ではMTFが極めて低くなることがわかる。一方、本発明のトーリック眼内レンズを移植すると、MTFは両方向ともに回折限界に近いレベルに達することがわかる。
【0212】
よって、以上の図面から、本発明の好ましい実施形態における光学部の前面に複合トーリック面設計を採用した後方凸が顕著なトーリック眼内レンズは、屈折力とともに角膜乱視も矯正することで、乱視を伴う白内障患者の視覚の質を改善していることが顕著である。
【0213】
また、別の複合トーリック面設計では、従来技術の眼内レンズ製品が備える高次収差(球面収差及びコマ収差を含む)を除去又は低減させて結像品質を高めるために、本発明の後眼房型眼内レンズにおける光学部の前面に対し複合トーリック面設計を採用するとともに、本発明の後眼房型眼内レンズにおける光学部の後面に高次非球面設計を採用している。
【0214】
表6に、上記別の複合トーリック面設計を採用した本発明の後眼房型眼内レンズの好ましい実施例と、比較例としての従来技術との面形状設計のパラメーターを列挙する。当該後眼房型眼内レンズの好ましい実施例及び比較例としての従来技術は、いずれも疎水性アクリル酸エステルから作製されており、且つ、当該材料は愛博諾徳(北京)医療科技有限公司製である。当該後眼房型眼内レンズ材料の屈折率は1.48(20度)である。当該材料の屈折率は適切であり、グレア、ゴースト象の発生率を有効に低下させることができる。本発明における以下の好ましい実施例の後眼房型眼内レンズは、いずれも20.0Dの屈折度数を達成可能である(付与されるシリンドリカルレンズ度数が2.5D)。表6において、Raは眼内レンズ前面の曲率半径(単位mm)、Rpは眼内レンズ後面の曲率半径(単位mm)であり、曲率半径の数値が正数であることは、当該表面が眼内レンズの光学部分における縦方向の中心平面に対して外側に凸であることを表しており、A
4,A
6,A
8,A
10は眼内レンズの非球面における係数の値である(上記参照)。
【0216】
表6より、本発明の後眼房型眼内レンズの好ましい実施例及び比較例としての従来技術は、いずれも光学部の後面が顕著に後方凸な面形状設計を有することがわかる。
【0217】
また、表6より、本発明の後眼房型眼内レンズの好ましい実施例では、複合トーリック面が眼内レンズにおける光学部の前面に位置するとともに、非球面が眼内レンズにおける光学部の後面に位置しているのに対し、比較例では、複合トーリック面と非球面がともに眼内レンズにおける光学部の前面に位置していることが更にわかる。
【0218】
図23は、トーリック型眼内レンズの眼内移植時における眼内レンズ軸方向と、角膜の最大屈折力方向との位置関係を概略的に示したものである。眼内移植時に、眼内レンズの軸方向と角膜11における最大屈折力方向E−E’との間に5°以上のずれが生じると、患者の視力は深刻な影響を受けることになる。よって、手術時には、トーリック型眼内レンズの設計に対する客観的要求として、トーリック面における方向マークが識別しやすく明確であることが求められる。従って、本発明の後眼房型眼内レンズの好ましい実施例において、複合トーリック面を眼内レンズにおける光学部の前面に設けることは非常に有益である。
【0219】
図24は、非球面と複合トーリック面とが両側に別々に位置する眼内レンズ(好ましい実施例)と、非球面と複合トーリック面が同一側に位置する眼内レンズ(比較例)について、口径3.0mmで乱視を伴う模型眼における空間周波数0〜100lp/mm時のMTFを対比する概略図である。
【0220】
図24において、実線は、非球面とトーリック面が別々に水晶体の両側に位置する眼内レンズ(好ましい実施例)の、口径3.0mmで乱視を伴う模型眼における空間周波数0〜100lp/mm時のMTFを示す。また、点線は、非球面とトーリック面が同一側に位置する眼内レンズ(比較例)の、口径3.0mmで乱視を伴う模型眼における空間周波数0〜100lp/mm時のMTFを示す。図面より、非球面とトーリック面とが別々に水晶体の両側に位置する眼内レンズのMTF曲線は、非球面とトーリック面が水晶体の同一側に位置する眼内レンズのMTFよりも高いことがわかる。即ち、同条件(同一の乱視眼模型において非球面係数が最適化されている)においては、非球面とトーリック面とが別々に水晶体の両側に位置する眼内レンズの光学性能のほうが、非球面とトーリック面とが水晶体の同一側に位置する眼内レンズよりも優れていることが顕著である。
【0221】
図25は、本発明の乱視矯正型眼内レンズにおける面形状設計の、模型眼内における像面箇所の波面図を概略的に示したものである(非球面と複合トーリック面とが別々に眼内レンズの両側に位置する好ましい実施例)。
図26は、従来技術における非球面と複合トーリック面とが片面上で組み合わされた面形状設計(比較例)の、同一模型眼内における波面図を概略的に示したものである。
【0222】
図25、
図26の波面収差を対比すると、複合トーリック面と非球面とが分割された眼内レンズの、乱視眼内における像面の波面乱視形状は起伏が小さく、波面収差PVの値は0.1060λ、RMSの値は0.0241λであるのに対し、複合トーリック面と非球面が片面で組み合わされた設計の像面には、顕著な乱視形状の起伏が存在しており、波面収差PVの値は0.3331λ、RMSの値は0.0700λであることがわかる。これより、複合トーリック面と非球面が分割された眼内レンズは、角膜に対する乱視矯正効果がより良好であり、矯正後の波面収差がいっそう縮小されることが証明された。
【0223】
上述したように、従来技術の後眼房型眼内レンズと比較して、本発明の後眼房型眼内レンズの光学部は後面が顕著に突出した(曲率半径の小さい)設計を採用するとともに、高次非球面設計を採用、或いは複合トーリック面設計を付与していることから、眼内レンズにおける光学部の後面と後嚢との距離が縮小されて、眼内レンズの嚢内における空間位置の安定性が高まり、眼内レンズの光学部辺縁における角型縁効果の利点がより良好に発揮されるとともに、眼内レンズ移植後のPCO発症率が低下する。更に、光学部の前面が略平坦であるため、眼内レンズのハプティック(特に、1ピース式後眼房型眼内レンズのハプティック)が折り畳み時に光学部の前面に強く圧接されることがない。よって、眼内移植後に支持ハプティックと光学部が粘着することなく容易に展開するほか、眼内レンズの結像品質及び/又は乱視患者の視覚の質をいっそう改善することが可能となる。
【0224】
なお、上記で述べた実施例は一例にすぎず、限定的な意味はない。従って、本願が開示する発明思想から逸脱しないことを前提に、当業者であれば上述の実施例を修正又は変更可能である。よって、本発明の保護範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。