【0007】
本発明を以下に詳細に説明する。
本発明では、中間中胚葉細胞を、TGFβシグナル刺激剤およびBMP阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、腎前駆細胞を製造する方法を提供する。
本発明において、中間中胚葉細胞とは、本発明においてTGFβシグナル刺激剤およびBMP阻害剤を含む培地で培養することによって腎前駆細胞へ誘導される任意の細胞を意味する。中間中胚葉細胞を取得する方法としては、例えば、マウスおよびヒトの多能性幹細胞から中間中胚葉細胞への分化誘導方法が公知である(非特許文献1および2、特許文献3)。中間中胚葉細胞を特徴づけるマーカーとしてOSR1が知られており、本発明の方法で使用される中間中胚葉細胞の例として、OSR1陽性の中間中胚葉細胞が挙げられる。例えば、OSR1プロモーター制御下に導入されたレポーター遺伝子(例えば、GFP)を有する多能性幹細胞(例えば、後記実施例記載のOSR1−GFPレポーターヒトiPS細胞)を培養し、当該レポーター遺伝子の発現を指標に当該分野で公知の方法(例えば、細胞ソーターを用いる方法)によって、OSR1陽性の中間中胚葉細胞を単離することができる。また、定量的RT−PCR(Nat Commun 4,1367,(2013))等の遺伝子発現を分析する方法によって、中間中胚葉細胞におけるOSR1の発現を確認することもできる。本発明において、OSR1陽性の中間中胚葉細胞には、OSR1タンパク質を発現している細胞、およびOSR1プロモーター制御下にある遺伝子によってコードされるタンパク質を発現する細胞が包含される。本発明において、OSR1には、NCBIのアクセッション番号として、ヒトの場合、NM_145260.2、マウスの場合、NM_011859.3に記載されたヌクレオチド配列を有する遺伝子並びに当該遺伝子にコードされるタンパク質、ならびにこれらの機能を有する天然に存在する変異体が包含される。好ましくは、本発明の方法で使用される中間中胚葉細胞は、SIX2が陰性であり、OSR1が陽性である細胞である。
本発明において、腎前駆細胞は、ネフロン前駆細胞と同等の細胞として取り扱われ、in vitroで腎臓の糸球体様構造や尿細管様構造などの器官構造へ分化し得る細胞であり、器官構造への分化能は、例えば、Osafune K,et al.(2006),Development 133:151−61に記載の方法によって評価し得る。ネフロン前駆細胞としての状態を維持するための特徴的な因子としてSIX2が知られており(非特許文献4)、本発明の方法で誘導される腎前駆細胞の例として、SIX2陽性の腎前駆細胞が挙げられる。例えば、SIX2プロモーター制御下に導入されたレポーター遺伝子(例えば、tdTomato)を有する多能性幹細胞(例えば、後記実施例記載のOSR1−GFP& SIX2−tdTomatoレポーターヒトiPS細胞)を培養し、当該レポーター遺伝子の発現を指標に当該分野で公知の方法(例えば、細胞ソーターを用いる方法)によって、SIX2陽性の腎前駆細胞を単離することができる。また、定量的RT−PCR(NatCommun 4,1367,(2013))等の遺伝子発現を分析する方法によって、腎前駆細胞におけるSIX2の発現を確認することもできる。本発明において、SIX2陽性の腎前駆細胞には、SIX2タンパク質を発現している細胞、およびSIX2プロモーター制御下にある遺伝子にコードされるタンパク質を発現する細胞が包含される。本発明において、SIX2には、NCBIのアクセッション番号として、ヒトの場合、NM_016932.4、マウスの場合、NM_011380.2に記載されたヌクレオチド配列を有する遺伝子並びに当該遺伝子にコードされるタンパク質、ならびにこれらの機能を有する天然に存在する変異体が包含される。好ましくは、本発明の方法で誘導される腎前駆細胞は、OSR1が陽性であり、かつSIX2が陽性である細胞である。
本発明において、中間中胚葉細胞または腎前駆細胞は、他の細胞種が含まれる細胞集団として提供されてもよく、純化された集団であってもよい。好ましくは、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%、20%、28%または30%以上当該細胞が含まれた細胞集団である。
本発明の方法において、中間中胚葉細胞を任意の方法で実質的に分離(または解離)することで単一細胞の状態、または、細胞同士が接着した細胞塊の状態で、浮遊培養により培養するか、あるいは、コーティング処理された培養皿を用いて接着培養してもよい。ここで、分離の方法としては、例えば、力学的分離や、プロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する分離溶液(例えば、トリプシンとコラゲナーゼの含有溶液Accutase(TM)およびAccumax(TM)(Innovative CellTechnologies,Inc)が挙げられる)またはコラゲナーゼ活性のみを有する分離溶液を用いた分離が挙げられる。
本発明の方法において使用される浮遊培養とは、細胞を培養皿へ非接着の状態で培養することであり、特に限定はされないが、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリックス等によるコーティング処理)されていないもの、または、人工的に接着を抑制する処理(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly−HEMA)によるコーティング処理)したものを使用して行うことができる。
本発明の方法において使用される接着培養とは、コーティング処理された培養皿にて培養することである。コーティング剤としては、例えば、マトリゲル(BDBiosciences)、Synthemax(Corning)、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、またはエンタクチン、およびこれらの組み合わせが挙げられ、好ましくは、マトリゲル、Synthemaxまたはゼラチンである。
本発明の中間中胚葉細胞の培養工程に使用される培地は、動物細胞の培養に用いられる基礎培地へTGFβシグナル刺激剤およびBMP阻害剤を添加して調製することができる。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s ModifiedEagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12(F12)培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清(例えば、ウシ胎児血清(FBS))が含有されていてもよいし、または無血清でもよい。必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、KnockOut Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時の血清代替物)(Invitrogen)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール、3’−チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L−グルタミン、GlutaMAX(Invitrogen)、非必須アミノ酸(NEAA)、ビタミン、増殖因子、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、およびこれらの同等物などの1つ以上の物質も含有しうる。1つの実施形態において、基礎培地は、DMEMとF12の1:1の混合培地(DMEM/F12)に、GlutaMAX、KSR、非必須アミノ酸、2−メルカプトエタノールおよび抗生物質を含む培地である。
本発明において使用されるTGFβシグナル刺激剤とは、TGFβシグナル経路を活性化するものである限り特に限定されず、TGFβシグナル刺激剤としては、TGFβ1、TGFβ2、TGFβ3などのタンパク質(Peprotech、R&D社等から入手可能)、IDE1((Z)−2−((2−(6−carboxyhexanoyl)hydrazono)methyl)benzoic acid)およびIDE2(7−(2−cyclopentylidenehydrazinyl)−7−oxoheptanoic acid)(Borowiak M,et al,Cell Stem Cell.2009,4:348−58)などの化合物が例示される。IDE1およびIDE2は、Stemgent社、Tocris社等から入手可能である。好ましいTGFβシグナル刺激剤は、TGFβ1である。
本発明において、TGFβシグナル刺激剤を用いる場合の濃度は、使用するTGFβシグナル刺激剤に応じて当業者に適宜選択可能であるが、例えば、TGFβシグナル刺激剤としてTGFβ1、TGFβ2、TGFβ3などのタンパク質を用いる場合の濃度は、0.1ng/mlから100ng/ml、好ましくは、1ng/mlから10ng/ml、さらに好ましくは、5ng/mlから10ng/mlである。また、IDE1およびIDE2を用いる場合の濃度は、1μMから100μM、好ましくは、25μMから75μM、さらに好ましくは、40μMから60μMである。
本発明において使用されるBMP阻害剤とは、BMP(Bone Morphogenetic Protein)シグナル経路を抑制するものである限り特に限定されず、BMP阻害剤としては、Chordin、Noggin、Follistatinなどのタンパク質性阻害剤、Dorsomorphin (6−[4−(2−piperidin−1−yl−ethoxy)phenyl]−3−pyridin−4−yl−pyrazolo[1,5−a]pyrimidine)およびその誘導体(P.B.Yu et al.(2007),Circulation,116:II_60;P.B.Yu et al.(2008),Nat.Chem.Biol.,4:33−41;J.Hao et al.(2008),PLoSONE,3(8):e2904)、DMH1(4−[6−(4−Isopropoxyphenyl)pyrazolo[1,5−a]pyrimidin−3−yl]quinoline,4−[6−[4−(1−Methylethoxy)phenyl]pyrazolo[1,5−a]pyrimidin−3−yl]−quinoline)、ならびにLDN193189(4−(6−(4−(piperazin−1−yl)phenyl)pyrazolo[1,5−a]pyrimidin−3−yl)quinoline)が例示される。DorsomorphinおよびLDN193189は市販されており、Sigma−Aldrich、Stemgent、Merck、Axon MedChem、Peprotech社等から入手可能である。好ましいBMP阻害剤としては、DMH1、Noggin、LDN193189、及びDorsomorphinが挙げられ、より好ましいBMP阻害剤は、DMH1である。
本発明において、BMP阻害剤を用いる場合の濃度は、使用するBMP阻害剤に応じて当業者に適宜選択可能であるが、例えば、BMP阻害剤としてChordin、Noggin、Follistatinなどのタンパク質性阻害剤を用いる場合の濃度は、0.1ng/mlから1000ng/ml、好ましくは、1ng/mlから500ng/ml、さらに好ましくは、10ng/mlから100ng/mlである。また、Dorsomorphin、DMH1およびLDN193189を用いる場合の濃度は、0.01μMから100μM、好ましくは、0.1μMから10μM、さらに好ましくは、0.5μMから1μMである。
本発明の中間中胚葉細胞の培養工程において、基礎培地へFGF9、FGF20、BMP7、レチノイン酸誘導体、GSK−3β阻害剤のいずれかまたは任意の組み合わせをさらに添加しても良い。
本発明の中間中胚葉細胞の培養工程の日数は、長期間培養することで腎前駆細胞の製造効率に特に影響がないため上限はないが、例えば、2日以上、4日以上、6日以上、8日以上、10日以上、11日以上、12日以上、13日以上、14日以上、15日以上、16日以上、17日以上、18日以上、19日以上、20日以上が挙げられる。
本発明の中間中胚葉細胞の培養工程において、培養温度は、以下に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO
2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO
2濃度は、好ましくは約2〜5%である。
本発明の1つの実施形態において、中間中胚葉細胞は、多能性幹細胞から誘導された中間中胚葉細胞である。この場合、誘導された中間中胚葉細胞を一旦単離し、単離された中間中胚葉細胞を本発明の培養工程によって腎前駆細胞へ誘導しても良い。または、多能性幹細胞から中間中胚葉細胞を誘導し、中間中胚葉細胞を単離せずにそのまま本発明の培養工程に供することによって腎前駆細胞へ誘導しても良い。
中間中胚葉細胞を単離する場合、内在性のOSR1プロモーターによって発現が制御されるレポーター遺伝子を有する多能性幹細胞を使用してもよい。多能性幹細胞のOSR1プロモーター制御下にレポーター遺伝子を導入する方法としては、例えば、BACベクター等を用いた相同組換えが挙げられ、WO2012/011610等に記載されている。また、誘導された腎前駆細胞を単離するために、SIX2プロモーターによって発現が制御されるレポーター遺伝子を有する多能性幹細胞を使用してもよく、前記と同様の方法を使用して作製することができる。使用されるレポーター遺伝子としては、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコニダーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、tdTomato、細胞表面タンパク質などの公知のレポータータンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。これらの多能性幹細胞から誘導された中間中胚葉細胞または腎前駆細胞は、当該レポータータンパク質の発現を指標として細胞ソーターを用いる方法、当該細胞表面タンパク質に対する抗体を使用して、磁気ビーズを用いて磁性により細胞を選別する方法(例えば、MACS)、当該抗体等が固定化された担体(例えば、細胞濃縮カラム)を用いる方法等、当該分野で公知の方法を用いて単離され得る。
本発明において多能性幹細胞とは、生体に存在する多くの細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞であり、本発明で使用される中間中胚葉細胞に誘導される任意の細胞が包含される。多能性幹細胞には、特に限定されないが、例えば、胚性幹(ES)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞、精子幹細胞(「GS細胞」)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)、人工多能性幹(iPS)細胞、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)などが含まれる。好ましい多能性幹細胞は、製造工程において胚、卵子等の破壊をしないで入手可能であるという観点から、iPS細胞であり、より好ましくはヒトiPS細胞である。
iPS細胞の製造方法は当該分野で公知であり、任意の体細胞へ初期化因子を導入することによって製造され得る。ここで、初期化因子とは、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c−Myc、N−Myc、L−Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15−2、Tcl1、beta−catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3またはGlis1等の遺伝子または遺伝子産物が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO2010/111409、WO2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D,et al.(2008),Nat.Biotechnol.,26:795−797、Shi Y,et al.(2008),Cell Stem Cell,2:525−528、Eminli S,et al.(2008),Stem Cells.26:2467−2474、Huangfu D,et al.(2008),Nat.Biotechnol.26:1269−1275、Shi Y,et al.(2008),Cell Stem Cell,3,568−574、Zhao Y,et al.(2008),Cell Stem Cell,3:475−479、Marson A,(2008),Cell Stem Cell,3,132−135、Feng B,et al.(2009),Nat.Cell Biol.11:197−203、R.L.Judson et al.,(2009),Nat.Biotechnol.,27:459−461、Lyssiotis CA,et al.(2009),Proc Natl Acad Sci U S A.106:8912−8917、Kim JB,et al.(2009),Nature.461:649−643、Ichida JK,et al.(2009),Cell Stem Cell.5:491−503、Heng JC,et al.(2010),Cell Stem Cell.6:167−74、Han J,et al.(2010),Nature.463:1096−100、Mali P,et al.(2010),Stem Cells.28:713−720、Maekawa M,et al.(2011),Nature.474:225−9.に記載の組み合わせが例示される。
体細胞には、非限定的に、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、および成熟した健全なもしくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、および株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)血液細胞(末梢血細胞、臍帯血細胞等)、リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞および脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。
また、iPS細胞を移植用細胞の材料として用いる場合、拒絶反応が起こらないという観点から、移植先の個体のHLA遺伝子型が同一または実質的に同一である体細胞を用いることが望ましい。ここで、「実質的に同一」とは、移植した細胞に対して免疫抑制剤により免疫反応が抑制できる程度にHLA遺伝子型が一致していることであり、例えば、HLA−A、HLA−BおよびHLA−DRの3遺伝子座またはHLA−Cを加えた4遺伝子座が一致するHLA型を有する体細胞である。
本発明において、多能性幹細胞から中間中胚葉細胞への分化誘導に際して、以下の工程を含む方法を用いることができる:
(i)多能性幹細胞を、Activin A、GSK−3β阻害剤およびレチノイン酸誘導体からなる群から選択される1以上の物質を含む培地で培養する工程、および
(ii)工程(i)で得られた細胞を、BMP7、GSK−3β阻害剤およびレチノイン酸誘導体からなる群から選択される1以上の物質を含む培地で培養する工程。
以下に各工程についてさらに説明する。
(i)多能性幹細胞を、Activin A、GSK−3β阻害剤およびレチノイン酸誘導体からなる群から選択される1以上の物質を含む培地で培養する工程:
本工程では、多能性幹細胞を当該分野で公知の任意の方法で分離し、浮遊培養または接着培養により培養してもよい。多能性幹細胞の分離の方法としては、例えば、力学的分離や、プロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する分離溶液(例えば、Accutase(TM)およびAccumax(TM)(Innovative Cell Technologies,Inc)が挙げられる)またはコラゲナーゼ活性のみを有する分離溶液を用いた分離が挙げられる。好ましくは、プロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する分離溶液を用いて解離し、力学的に細かく単一細胞へ分散する方法である。本工程で用いるヒト多能性幹細胞としては、使用したディッシュに対して70%〜80%コンフルエントになるまで培養されたコロニーを用いることが好ましい。
本工程(i)において使用される培地は、動物細胞の培養に用いられる基礎培地へActivin A、GSK−3β阻害剤およびレチノイン酸誘導体からなる群から選択される1以上の物質を添加して調製することができる。1つの実施形態において、本工程で使用される物質は、Activin AおよびGSK−3β阻害剤の組み合わせ、または、GSK−3β阻害剤およびレチノイン酸誘導体の組み合わせである。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12(F12)培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清(例えば、FBS)が含有されていてもよいし、または無血清でもよい。必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、KnockOut Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時の血清代替物)(Invitrogen)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール、3’−チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L−グルタミン、GlutaMAX(Invitrogen)、非必須アミノ酸(NEAA)、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有しうる。本工程の1つの実施形態において、基礎培地は、GlutaMAX、血清および抗生物質を含むDMEM/F12である。
本工程(i)において、Activin Aには、ヒトおよび他の動物由来のActivin A、ならびにこれらの機能的改変体が包含され、例えば、R&D systems社等の市販されているものを使用することができる。本工程で用いるActivin Aの濃度は、1ng/mlから1000ng/ml、好ましくは、10ng/mlから500ng/ml、より好ましくは、50ng/mlから200ng/mlである。
本工程(i)において、GSK−3β阻害剤は、GSK−3βの機能、例えば、キナーゼ活性を阻害できるものである限り特に限定されず、例えば、インジルビン誘導体であるBIO(別名、GSK−3β阻害剤IX;6−ブロモインジルビン−3’−オキシム)、マレイミド誘導体であるSB216763(3−(2,4−ジクロロフェニル)−4−(1−メチル−1H−インドール−3−イル)−1H−ピロール−2,5−ジオン)、フェニル−α−ブロモメチルケトン化合物であるGSK−3β阻害剤VII(α,4−ジブロモアセトフェノン)、細胞膜透過型のリン酸化ペプチドであるL803−mts(別名、GSK−3βペプチド阻害剤;Myr−N−GKEAPPAPPQSpP−NH
2:配列番号1)および高い選択性を有するCHIR99021(Nature(2008)453:519−523)が挙げられる。これらの化合物は、例えば、Stemgent社、Calbiochem社、Biomol社等から入手可能であり、また自ら作製してもよい。本工程で用いる好ましいGSK−3β阻害剤としては、CHIR99021が挙げられる。本工程で用いるGSK−3β阻害剤の濃度は、使用するGSK−3β阻害剤に応じて当業者に適宜選択可能であるが、例えば、GSK−3β阻害剤としてCHIR99021を用いる場合、0.01μMから100μM、好ましくは、0.1μMから10μM、さらに好ましくは、1μMから3μMである。
本工程(i)において、レチノイン酸誘導体は、天然のレチノイン酸が有する機能を保持する人工的に修飾されていてもよいレチノイン酸であり、例えば、レチノイド化合物及びビタミンD3化合物を包含する。レチノイド化合物の例としては、レチノイン酸、3−デヒドロレチノイン酸、4−[[(5,6,7,8−tetrahydro−5,5,8,8−tetramethyl−2−naphthalenyl)carbonyl]amino]−Benzoic acid(AM580)(Tamura K,et al.,Cell Differ.Dev.32:17−26(1990))、4−[(1E)−2−(5,6,7,8−tetrahydro−5,5,8,8−tetramethyl−2−naphthalenyl)−1−propen−1−yl]−Benzoic acid(TTNPB)(Strickland S,et al.,Cancer Res.43:5268−5272(1983))、およびTanenaga,K.et al.,Cancer Res.40:914−919(1980)に記載されている化合物、パルミチン酸レチノール、レチノール、レチナール、3−デヒドロレチノール、3−デヒドロレチナール等が挙げられる。レチノイン酸化合物とは、レチノイド化合物のうち、カルボキシル基を有する化合物であり、例えば、レチノイン酸、3−デヒドロレチノイン酸、AM580、TTNPB等が挙げられる。ビタミンD3化合物の例には、Abe,E.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)78:4990−4994(1981)、およびSchwartz,E.L.et al.,Proc.Am.Assoc.Cancer Res.24:18(1983)に記載されている化合物が挙げられる。本工程の1つの実施形態において、レチノイン酸誘導体は、レチノイド化合物又はビタミンD3化合物である。本工程の別の実施形態において、レチノイン酸誘導体は、レチノイド化合物であり、また別の実施形態において、レチノイン酸誘導体は、レチノイン酸化合物である。本工程で用いる好ましいレチノイン酸誘導体としては、AM580またはTTNPBが挙げられる。本工程で用いるレチノイン酸誘導体の濃度は、使用するレチノイン酸誘導体に応じて当業者に適宜選択可能であるが、例えば、レチノイン酸誘導体としてAM580またはTTNPBを用いる場合、0.01μMから100μM、好ましくは、0.1μMから10μM、さらに好ましくは、0.5μMから2μMである。
本工程(i)における培地はさらに、ROCK阻害剤を含んでいてもよい。特に、本工程が多能性幹細胞を単一細胞へ分散させる工程を含む場合には、培地にROCK阻害剤が含まれていることが好ましい。
ROCK阻害剤は、Rho−キナーゼ(ROCK)の機能を抑制できるものである限り特に限定されず、例えば、Y−27632(例、Ishizaki et al.,Mol.Pharmacol.57,976−983(2000);Narumiya et al.,Methods Enzymol.325,273−284(2000)参照)、Fasudil/HA1077(例、Uenata et al.,Nature 389:990−994(1997)参照)、H−1152(例、Sasaki et al.,Pharmacol.Ther.93:225−232(2002)参照)、Wf−536(例、Nakajima et al.,Cancer Chemother Pharmacol.52(4):319−324(2003)参照)およびそれらの誘導体、ならびにROCKに対するアンチセンス核酸、RNA干渉誘導性核酸(例、siRNA)、ドミナントネガティブ変異体、およびそれらの発現ベクターが挙げられる。また、ROCK阻害剤としては他の公知の低分子化合物も使用できる(例えば、米国特許出願公開第2005/0209261号、同第2005/0192304号、同第2004/0014755号、同第2004/0002508号、同第2004/0002507号、同第2003/0125344号、同第2003/0087919号、及び国際公開第2003/062227号、同第2003/059913号、同第2003/062225号、同第2002/076976号、同第2004/039796号参照)。本発明では、1種または2種以上のROCK阻害剤が使用され得る。本工程で用いる好ましいROCK阻害剤としては、Y−27632が挙げられる。本工程で用いるROCK阻害剤の濃度は、使用するROCK阻害剤に応じて当業者に適宜選択可能であるが、例えば、ROCK阻害剤としてY−27632を用いる場合、0.1μMから100μM、好ましくは、1μMから50μM、さらに好ましくは、5μMから20μMである。
本工程(i)において、培養温度は、以下に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO
2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO
2濃度は、約2〜5%、好ましくは約5%である。本工程の培養時間は、例えば2日以下の培養であり、好ましくは2日である。
(ii)工程(i)で得られた細胞を、BMP7、GSK−3β阻害剤およびレチノイン酸誘導体からなる群から選択される1以上の物質を含む培地で培養する工程:
本工程では、前述の工程(i)で得られた浮遊培養後の細胞集団をそのままコーティング処理された培養皿にて、任意の培地中で接着培養してもよく、または、前述の工程(i)で接着培養により得られた細胞を、培地の交換により培養を続けてもよい。
本工程(ii)において使用される培地は、動物細胞の培養に用いられる基礎培地へBMP7、GSK−3β阻害剤およびレチノイン酸誘導体からなる群から選択される1以上の物質を添加して調製することができる。1つの実施形態において、本工程で使用される物質は、BMP7およびGSK−3β阻害剤の組合せ、または、レチノイン酸誘導体である。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12(F12)培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清(例えば、FBS)が含有されていてもよいし、または無血清でもよい。必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、KnockOut Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時の血清代替物)(Invitrogen)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール、3’−チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L−グルタミン、GlutaMAX(Invitrogen)、非必須アミノ酸(NEAA)、ビタミン、増殖因子、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、およびこれらの同等物などの1つ以上の物質も含有しうる。本工程の1つの実施形態において、基礎培地は、DMEMとF12の1:1の混合培地(DMEM/F12)に、GlutaMAX、KSR、非必須アミノ酸、2−メルカプトエタノールおよび抗生物質を含む培地である。
本工程(ii)において、例えば、工程(i)で得られた細胞を、BMP7およびGSK−3β阻害剤から選択される1以上の物質を含む培地で培養し、その後に、レチノイン酸誘導体を含む培地でさらに培養しても良い。好ましくは、本工程(ii)において、工程(i)で得られた細胞を、BMP7およびGSK−3β阻害剤から選択される1以上の物質を含む培地で培養し、その後に、レチノイン酸誘導体およびTGFβシグナル刺激剤を含む培地でさらに培養する。
すなわち、本工程(ii)は、次の工程(ii−1)および(ii−2):
(ii−1)BMP7およびGSK−3β阻害剤から選択される1以上の物質を含む基礎培地で培養する工程、および
(ii−2)TGFβシグナル刺激剤およびレチノイン酸誘導体から選択される1以上の物質を含む基礎培地で培養する工程
の2工程に分離して行っても良い。
より好ましくは、本工程(ii)において、(ii−1)工程は、BMP7およびGSK−3β阻害剤を含む培地で培養する工程であり、かつ(ii−2)工程は、TGFβシグナル刺激剤およびレチノイン酸誘導体を含む培地で培養する工程である。
本工程(ii)において、BMP7には、ヒトBMP7(NCBIのアクセッション番号:NM_001719.2)および他の動物由来のBMP7、ならびにこれらの機能的改変体が包含され、例えば、Invitrogen社、R&D社等の市販されているものを使用することができる。本工程で用いるBMP7の濃度は、1ng/mlから1000ng/ml、好ましくは、10ng/mlから500ng/ml、より好ましくは、50ng/mlから200ng/mlである。
本工程(ii)において、GSK−3β阻害剤は、前述の工程(i)について例示したGSK−3β阻害剤を使用することができ、好ましいGSK−3β阻害剤としては、CHIR99021が挙げられる。本工程で用いるGSK−3β阻害剤の濃度は、使用するGSK−3β阻害剤に応じて当業者に適宜選択可能であるが、例えば、GSK−3β阻害剤としてCHIR99021を用いる場合、0.01μMから100μM、好ましくは、0.1μMから10μM、さらに好ましくは、1μMから3μMである。
本工程(ii)において、TGFβシグナル刺激剤は、TGFβシグナル経路を活性化するものである限り特に限定されず、TGFβシグナル刺激剤としては、TGFβ1、TGFβ2、TGFβ3あるいはIDE1およびIDE2を使用することができ、好ましいTGFβシグナル刺激剤としては、TGFβ1が挙げられる。本工程(ii)において、TGFβシグナル刺激剤を用いる場合の濃度は、使用するTGFβシグナル刺激剤に応じて当業者に適宜選択可能であるが、例えば、TGFβシグナル刺激剤としてTGFβ1、TGFβ2、TGFβ3などのタンパク質を用いる場合の濃度は、0.1ng/mlから100ng/ml、好ましくは、1ng/mlから10ng/ml、さらに好ましくは、5ng/mlから10ng/mlである。また、IDE1およびIDE2を用いる場合の濃度は、1μMから100μM、好ましくは、25μMから75μM、さらに好ましくは、40μMから60μMである。
本工程(ii)において、レチノイン酸誘導体は、前述の工程(i)について例示したレチノイン酸誘導体を使用することができ、好ましいレチノイン酸誘導体としては、AM580またはTTNPBが挙げられる。本工程で用いるレチノイン酸誘導体の濃度は、使用するレチノイン酸誘導体に応じて当業者に適宜選択可能であるが、例えば、レチノイン酸誘導体としてAM580またはTTNPBを用いる場合、0.01μMから100μM、好ましくは、0.1μMから10μM、さらに好ましくは、0.5μMから2μMである。
本工程(ii)、(ii−1)及び(ii−2)において、培養温度は、以下に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO
2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO
2濃度は、約2〜5%、好ましくは約5%である。培養時間は、、長期間培養することで腎前駆細胞の製造効率に特に影響がないため上限はないが、工程(ii)の培養時間としては、例えば3日以上の培養であり、好ましくは3日以上から12日以下、より好ましくは3日以上9日以下が挙げられる。工程(ii)が工程(ii−1)及び(ii−2)を含む場合、工程(ii)の培養時間としては前述のとおりであるが、工程(ii−1)の培養時間としては、例えば1日以上の培養であり、好ましくは2日以上から11日以下、より好ましくは2日以上6日以下が挙げられ、工程(ii−2)の培養時間としては、例えば1日以上の培養であり、好ましくは2日以上から11日以下、より好ましくは3日以上6日以下が挙げられる。この時、培地は、3日ごとに交換することが望ましい。
本発明では、上述した方法により得られた腎前駆細胞、該腎前駆細胞を含む医薬組成物、該腎前駆細胞を含む腎疾患治療剤、該腎前駆細胞の治療有効量を投与する工程を包含する腎疾患を治療する方法、腎疾患の治療に使用するための該腎前駆細胞、及び腎疾患の治療用の医薬組成物の製造における該腎前駆細胞の使用をそれぞれ提供する。治療を必要とする患者への治療剤の投与方法としては、例えば、得られた腎前駆細胞をシート化して、患者の腎臓に貼付する方法、得られた腎前駆細胞を生理食塩水等に懸濁させた細胞懸濁液、あるいは三次元培養(例えば、Dev Cell.Sep 11,2012;23(3):637−651)し、得られた細胞塊を患者の腎臓に直接移植する方法、マトリゲル等から構成されたスキャフォールド上で三次元培養し、得られた腎前駆細胞塊を移植する方法などが挙げられる。移植部位は、腎臓内であれば特に限定されないが、好ましくは、腎被膜下である。腎疾患としては、急性腎障害、慢性腎不全、慢性腎不全にまで至らない慢性腎臓病が例示される。
本発明において、腎疾患治療剤に含まれる腎前駆細胞の細胞数は、移植片が投与後に生着できれば特に限定されなく、患部の大きさや体躯の大きさに合わせて適宜増減して調製されてもよい。
【実施例】
【0008】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はそれらの実施例によって制限されないものとする。
[実施例1]
[OSR1−GFP & SIX2−GFP knock−inヒトiPS細胞株の樹立]
ヒトiPS細胞(201B7)は、京都大学(日本国、京都)の山中伸弥教授より受領し、従来の方法で培養した(Takahashi K,et al.Cell.131:861−72)。続いて、Mae S,et al,Nat Commun.4:1367,2013に記載された方法で、内在性のOSR1の発現と連動してGFPを発現するOSR1−GFPレポーターヒトiPS細胞株を作製した。次いで、Maeら(前出)と同じ方法を用いて、IRES−tdTomatoを挿入したBACクローン(RP11−819H19、Children’s Hospital Oakland Research Institute)を使用して、当該OSR1−GFPレポーターヒトiPS細胞株のSIX2の終止コドンの下流へIRES−tdTomatoを相同組換えにより導入し、内在性のSIX2の発現と連動してtdTomatoを発現するOSR1−GFP & SIX2−tdTomatoレポーターiPSヒト細胞株を作製した。
[実施例2]
[SIX2陽性細胞の誘導方法1]
<ステージ1>
実施例1の方法で得られたOSR1−GFP & SIX2−tdTomatoレポーターヒトiPS細胞株を、5ng/ml bFGF(Wako)を添加した霊長類ES/iPS細胞用培地(リプロセル)を含む10cmディッシュ上で、SNL細胞(McMahon,A.P.and Bradley,A.(1990)Cell 62;1073−1085)(15.5μg/mlのマイトマイシン(協和発酵キリン)で2〜3時間処理し、3×10
5細胞/10cmディッシュで播種)をフィーダー細胞として用いて、37℃、2〜5%CO
2雰囲気下でコンフルエントになるまで培養した。ここへCTK溶液(2.5%Trypsin(Invitrogen)、1mg/ml Collagenase IV(Invitrogen)、0.1M CaCl
2、10mL KnockOut SR(Invitrogen)、29.5mL H
2O)を加えて解離させ、フィーダー細胞を除去した後、1μM CHIR99021(Stemgent、04−0004)、100ng/mlActivin A(R&D systems、338−AC)、1%GlutaMAX(100X)(Invitrogen、35050−061)、2%FBS(Hyclone)、および0.5%PenStrep(Invitrogen、10565)を含有するDMEM/F12培地に懸濁させ、非接着プレート(LOW CELL BIND 6WELL DISH(Nunc、145383))へ1uferuあたり10cmディッシュから得られた細胞懸濁液の1/3〜1/6量を移し浮遊培養にて37℃、5%CO
2雰囲気下で2日間培養した。
<ステージ2>
ステージ1で得られた細胞塊を、マトリゲル(BD Matrigel Matrix Growth Factor Reduced(BD Biosciences、356230)によりコートした24ウェルまたは6ウェルディッシュ(DMEM中0.2mg/mlのマトリゲルでコーティングし、37℃で30分または4℃で一晩処理)またはSynthemax(Corning Synthemax II−SC Substrate(Corning、3535XX1))によりコートした24ウェルまたは6ウェルディッシュ(滅菌水で40倍希釈したSynthemaxでコーティングし、室温で2時間処理)へ移し、1μM CHIR99021、100ng/ml BMP7(Recombinant human BMP7(R&D systems、3534−BP))、0.1% 2−メルカプトエタノール(1000X)(Invitrogen、21985)、1% GlutaMAX(100X)、10%KnockOut SR(Invitrogen)、0.1mM MEM NEAA(Invitrogen、11140)、および0.5%PenStrepを含有するDMEM/F12を添加した培地へ交換し、37℃、5%CO
2雰囲気下で接着培養にて3日間から6日間培養した。3日間以上培養した場合は、3日目に同じ条件の培地へ交換した。
<ステージ3>
ステージ2で得られた細胞から培地を除去し、PBSで洗浄後、5ng/ml TGFβ1(Peprotech,100−21C)、0.5μM Dorsomorphin(AMPK Inhibitor,Compound C(Merck、171260))、0.1%2−メルカプトエタノール(1000X)、1% GlutaMAX(100X)、10%KnockOut SR、0.1mM MEM NEAA、および0.5%PenStrepを含有するDMEM/F12を添加した培地へ交換し、さらに浮遊培養にて37℃、5%CO
2雰囲気下で15日間から22日間培養した。このとき、3日に1度同じ条件の培地へ交換した。得られた細胞のSIX2−tdTomato陽性細胞率をフローサイトメーター(ベクトン・ディッキンソン)を用いて評価したところ、21.5±2.0%であった(
図1B)。
[実施例3]
[SIX2陽性細胞の誘導方法2]
<ステージ1>
実施例1の方法で得られたOSR1−GFP & SIX2−tdTomatoレポーターヒトiPS細胞株を、誘導方法1のステージ1に記載した方法と同じ方法で、SNL細胞をフィーダー細胞として用いて10cmディッシュ上でコンフルエントになるまで培養した。ここへCTK溶液を加えて解離させ、フィーダー細胞を除去した後、1μM TTNPB(Sigma、T3757)、1μM CHIR99021、1%GlutaMAX(100X)、2%FBS、および0.5%PenStrepを含有するDMEM/F12培地に懸濁させ、非接着プレート(LOW CELL BIND 6WELL DISH)へ1ウェルあたり10cmディッシュから得られた細胞懸濁液の1/3〜1/6量を移し、浮遊培養にて37℃、5%CO
2雰囲気下で2日間培養した。
<ステージ2>
ステージ1で得られた細胞塊を、マトリゲルによりコートしたディッシュまたはSynthemaxによりコートしたディッシュ(誘導方法1のステージ2に記載の方法で調製)へ移し、1μM TTNPB、0.1%2−メルカプトエタノール(1000X)、1%GlutaMAX(100X)、10%KnockOut SR、0.1mM MEM NEAA、および0.5%PenStrepを含有するDMEM/F12を添加した培地へ交換し、接着培養にて37℃、5%CO
2雰囲気下で3日間から9日間培養した。このとき、3日に1度同じ条件の培地へ交換した。
<ステージ3>
ステージ2で得られた細胞から培地を除去し、PBSで洗浄後、5ng/ml TGFβ1、0.5μM Dorsomorphin、0.1%2−メルカプトエタノール(1000X)、1%GlutaMAX(100X)、10%KnockOut SR、0.1mM MEM NEAA、および0.5%PenStrepを含有するDMEM/F12を添加した培地へ交換し、さらに浮遊培養にて37℃、5%CO
2雰囲気下で12日間から22日間培養した。このとき、3日に1度同じ条件の培地へ交換した。得られた細胞においてSIX2−tdTomato陽性細胞率をフローサイトメーターを用いて評価したところ、20.6±5.3%であった(
図1C)。
[実施例4]
[SIX2陽性細胞の誘導方法3]
<ステージ1>
実施例1の方法で得られたOSR1−GFP & SIX2−tdTomatoレポーターヒトiPS細胞株を、誘導方法1のステージ1に記載した方法と同じ方法で、SNL細胞をフィーダー細胞として用いて10cmディッシュ上でコンフルエントになるまで培養した。ここへCTK溶液を加えて解離させ、フィーダー細胞を除去し、Accutase(TM)(Innovative Cell Technologies、AT−104)を加えてiPS細胞を単一細胞へ分散させた。次いで、10μM Y−27632(Wako、253−00513)、1μM CHIR99021、1μM TTNPB、1%GlutaMAX(100X)、2%FBS、および0.5%PenStrepを含有するDMEM/F12培地に懸濁させ、0.1%ゼラチン(Gelatin from porcine skin,Type A(Sigma、G1890))でコーティングしたディッシュに上記細胞懸濁液(1×10
5細胞/ウェル(96ウェルの場合))を移し、37℃、5%CO
2雰囲気下で接着培養にて2日間培養した。
<ステージ2>
ステージ1で得られた細胞をPBSで洗浄し、1μM TTNPB、0.1%2−メルカプトエタノール(1000X)、1%GlutaMAX(100X)、10%KnockOut SR、0.1mM MEM NEAA、および0.5%PenStrepを含有するDMEM/F12を添加した培地へ交換し、接着培養にて37℃、5%CO
2雰囲気下で3日間から9日間培養した。このとき、3日に1度同じ条件の培地へ交換した。
<ステージ3>
ステージ2で得られた細胞へAccutase(TM)を加えて解離させ、OSR1(GFP)を指標としてFACSによりOSR1陽性細胞をソーティングした。得られたOSR1陽性細胞を5ng/ml TGFβ1、0.5μM Dorsomorphin、0.1%2−メルカプトエタノール(1000X)、1%GlutaMAX(100X)、10%KnockOut SR、0.1mM MEM NEAA、および0.5%PenStrepを含有するDMEM/F12を添加した培地中で、非接着プレート(LOW CELL BIND 6WELL DISH)へ1×10
6細胞/ウェルを移し、37℃、5%CO
2雰囲気下で浮遊培養にて2日間培養した。得られた細胞塊をマトリゲル(BD Matrigel Matrix Growth Factor Reduced)によりコートしたディッシュへ移し、5ng/ml TGFβ1、0.5μM Dorsomorphin、0.1%2−メルカプトエタノール(1000X)、1%GlutaMAX(100X)、10%KnockOut SR、0.1mM MEM NEAA、および0.5%PenStrepを含有するDMEM/F12中で、37℃、5%CO
2雰囲気下で2日から13日間、接着培養した。このとき、3日に1度同じ条件の培地へ交換した。得られた細胞においてSIX2−tdTomato陽性細胞率をフローサイトメーターを用いて評価したところ、31.1±10.0%であった(
図1D)。
[実施例5]
[Dorsomorphinの代替物での検討]
SIX2陽性細胞の誘導方法1のステージ3において、Dorsomorphinを100ng/mlNoggin(Peprotech)、0.5μM LDN193189(Axon MedChem、1509)または0.5μM DMH1(Tocris、4126)へ変更して同様に分化誘導したところ、それぞれ、SIX2−tdTomato陽性細胞率は7.5%、20.4%または15.4%であった(それぞれ、
図2B、CおよびD)。
[TGFβ1の代替物での検討]
SIX2陽性細胞の誘導方法1のステージ3において、TGFβ1を50μM IDE1(Tocris)または50μM IDE2(Tocris)へ変更して同様に分化誘導したところ、それぞれ、SIX2−tdTomato陽性細胞率は8.4%、39.4%であった(
図2EおよびF)。
[組み合わせでの検討]
SIX2陽性細胞の誘導方法1のステージ3において、Dorsomorphinを0.5μM LDN193189へ変更し、TGFβ1を10ng/ml TGFβ2(Peprotech)または10ng/ml TGFβ3(R&D)へ変更して同様に分化誘導したところ、それぞれ、SIX2陽性細胞率は8.6%、9.3%であった(
図2GおよびH)。
[実施例6]
[OSR1−GFP & SIX2−tdTomato knock−inヒトiPS細胞株の樹立]
実施例1に記載と同様の方法を用いて、Mae S,et al,Nat Commun.4:1367,2013に記載のOSR1−GFPレポーターヒトiPS細胞株(3D45)から、OSR1−GFP & SIX2−tdTomatoレポーターiPSヒト細胞株(4A6C3−10)を作製した。
[実施例7]
[SIX2陽性細胞の誘導方法4]
<ステージ1>
実施例6の方法で得られたOSR1−GFP & SIX2−tdTomatoレポーターヒトiPS細胞株
4A6C3−10を、500U/mlペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)及び5ng/ml組換えヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、Wako)を添加した霊長類ES培地(ReproCELL)を含む10cmディッシュ上で、胎生12.5日ICRマウス胚由来マウス胚性線維芽細胞(MEF)又はSNLフィーダー細胞(McMahon,A.P.and Bradley,A.(1990)Cell 62;1073−1085)(15.5μg/mlのマイトマイシン(協和発酵キリン)で2〜3時間処理し、2×10
5細胞/6cmディッシュで播種)をフィーダー細胞として用いて、37℃、2〜5%CO
2雰囲気下で70%〜80%コンフルエントになるまで培養した。細胞を含む10cmプレートをPBSでリンスし、CTK溶液(PBS中、0.25%Trypsin(Invitrogen)、0.1%Collagenase IV(Invitrogen)、20%KnockOutSR(KSR、Invitrogen)及び1mM CaCl
2)で37℃、4分間処理した。CTK溶液をPBSでのリンスにより除去した後、0.1mM MEM NEAA(Invitrogen)、1000U/mlペニシリン/ストレプトマイシン、0.55mM 2−メルカプトエタノール(Invitrogen)、及び20%KSRを含有するDMEM/F12+Glutamax(Invitrogen)に置き換えた。次いで、細胞をセルスクレーパーで掻きとり、0.2%ゼラチンコートした6cmプレートに播いて、フィーダー細胞を除去した。1時間後、細胞を500U/mlペニシリン/ストレプトマイシン及び2%FBS(HyClone)を含有するDMEM/F12+Glutamax[ステージ1培地]で洗浄し、100ng/ml組換えヒト/マウス/ラットActivin A(R&D systems)及び1μM CHIR99021を含有するステージ1培地を含む超低接着ディッシュ(Corning 3471)に移し、37℃、5%CO
2雰囲気下で2日間培養した。
<ステージ2>
細胞を中間中胚葉へ分化させるために、ステージ1で得られた細胞塊(胚様体(EB))を、Synthemax II(Corning)によりコートした24ウェルプレートへ移し、0.1mM MEM NEAA、500U/mlペニシリン/ストレプトマイシン、0.55mM 2−メルカプトエタノール、10%KSR、100ng/ml BMP7(recombinant human BMP7、R&D systems)、及び1μM CHIR99021を含有するDMEM/F12+Glutamaxへ交換し、37℃、5%CO
2雰囲気下で3日間培養した。
<ステージ3>
ステージ2の後、培地を、0.1mM MEM NEAA、500U/mlペニシリン/ストレプトマイシン、0.55mM 2−メルカプトエタノール、10%KSR、1μM TTNPB(Sigma T3757)及び5ng/ml TGFβ1(Peprotech)を含有するDMEM/F12+Glutamaxへ交換し、37℃、5%CO
2雰囲気下で5日間培養した。培養開始後2日目(ステージ1開始(1日目)から8日目)に同じ条件の培地に交換した。
<ステージ4>
ステージ3の後、培地を、0.1mM MEM NEAA、500U/mlペニシリン/ストレプトマイシン、0.55mM 2−メルカプトエタノール、10%KSR、5ng/ml TGFβ1及び0.5μM DMH1(Tocris)を含有するDMEM/F12+Glutamaxへ交換し、37℃、5%CO
2雰囲気下で17日間培養した(ステージ1開始(1日目)から全28日間の培養。
図3A)。このとき、3日に1度同じ条件の培地に交換した。得られた細胞においてOSR1陽性SIX2陽性(OSR1
+SIX2
+)細胞率を、フローサイトメーターを用いて評価したところ、培養28日目で32.8%であった(
図3B)。また、OSR1
+SIX2
+細胞率は、培養25日目で最大に達し、その後培養28日まで維持していることが確認された(
図3D)。
[実施例8]
[種々のTGFβシグナル刺激剤及びBMP阻害剤の組み合わせでの検討]
種々のTGFβシグナル刺激剤及びBMP阻害剤の組み合わせについて、前記iPS細胞株4A6C3−10からOSR1
+SIX2
+細胞への誘導を検討した。具体的には、以下に説明する条件1)〜10)の下で4A6C3−10からOSR1
+SIX2
+細胞への誘導を検討した。
条件1)〜10)のステージ1〜2では、それぞれ実施例7のステージ1〜2と同じ方法を用いた。条件1)〜7)及び10)のステージ3では、実施例7のステージ3と同じ方法を用いた。条件8)のステージ3では、実施例7のステージ3における5ng/ml TGFβ1及び1μM TTNPBを5ng/ml TGFβ2(Peprotech)に置き換えた培地で培養した。条件9)のステージ3では、実施例7のステージ3における5ng/ml TGFβ1及び1μM TTNPBを5ng/ml TGFβ3(Peprotech)に置き換えた培地で培養した。各条件のステージ4では、実施例7のステージ4と同じ方法、又は実施例7のステージ4における5ng/ml TGFβ1及び0.5μM DMH1を以下のいずれかに置き換えた培地で培養した:条件1)DMSOのみ、条件2)5ng/ml TGFβ1、条件3)0.5μM DMH1、条件4)5ng/ml TGFβ1及び100ng/ml Noggin(Peprotech)、条件5)5ng/ml TGFβ1及び0.5μM Dorsomorphin(Merck)、条件6)5ng/ml TGFβ1及び0.5μM LDN193189(Axon MedChem)、条件7)5ng/ml TGFβ1(Peprotech)及び0.5μM DMH1(実施例7と同じ)、条件8)5ng/ml TGFβ2(Peprotech)及び0.5μM DMH1、条件9)5ng/ml TGFβ3(Peprotech)及び0.5μM DMH1、条件10)50μM IDE2(Tocris)及び0.5μM DMH1。
その結果(
図4)、OSR1
+SIX2
+細胞への誘導には、TGFβシグナル刺激剤としてはTGFβ1を、BMP阻害剤としてはDMH1を用いることが効果的であることが確認された。実施例7におけるステージ4において、5ng/ml TGFβ1及び0.5μM DMH1と共に、TGFβレセプター1阻害剤であるSB431542(Tocris)(10μM)を含む培地で培養した場合(条件11))、OSR1
+SIX2
+細胞への分化が抑制された。
[実施例9]
[種々のヒトiPS細胞及びヒトES細胞での検討]
15種のヒトiPS細胞(末梢血由来iPS細胞585A1、585B1、604A1、604B1、648A1、648B1、692D2;臍帯血由来iPS細胞606A1、606B1、610B1;成人皮膚線維芽細胞(aHDF)由来iPS細胞201B6、201B7、253G1、253G4;及び4A6C3−10)及び3種のヒトES細胞(khES1、khES3、H9)(Proc Natl Acad Sci USA 109,12538−12543(2012)、Stem Cells 31,458−466(2013)、)を実施例7に記載の方法と同じ方法で処理し、定量的RT−PCR(Nat Commun 4,1367,(2013))によりOSR1及びSIX2の遺伝子発現を分析した。実施例7に記載の方法により、4A6C3−10以外の複数の細胞株においてOSR1及びSIX2の発現が確認され(
図5)、本方法が他のiPS細胞及びES細胞にも適用可能であることが確認された。
[実施例10]
[発現マーカー分析]
実施例7での誘導工程で処理した4A6C3−10における各種発現マーカーをRT−PCRまたは定量RT−PCRで分析した。結果を
図3CおよびEに示す。ステージ1後の細胞では初期の後方中胚葉(posterior nascent mesoderm)のマーカーであるBRACHYURY及びTBX6の発現が確認され、ステージ2後の細胞では中間中胚葉のマーカーであるOSR1の発現が確認された(
図3C)。その後、後腎間充織(間葉)マーカーであるWT1、PAX2、SIX2、及び後方(posterior)HOX遺伝子の発現が活性化された(
図3C)。培養28日目のOSR1
+SIX2
+細胞において、腎前駆細胞マーカーであるCITED1、EYA1、PAX2、WT1、SALL1、ITGA8、CDH11、GDNF、HOXA11及びHOXD11が発現されており、一方、当該細胞において間質マーカーであるFOXD1、中腎管マーカー、尿管芽であるHOXB7は検出されなかった(
図3E)。
[腎前駆細胞の評価]
実施例7での誘導工程で処理した培養28日目のOSR1
+SIX2
+細胞をフローサイトメトリーで単離し、Synthemax IIをコートした96ウェルプレート上に3.0×10
4細胞/ウェルで播種し、10μM Y−27632を添加したREGM培地(LONZA)中で37℃、5%CO
2雰囲気下で7日間培養した。得られた細胞をNEPHRIN(糸球体ポドサイトマーカー)、AQP1およびMEGALIN(近位尿細管マーカー)ならびにUROMUCOID(ヘンレのループマーカー)に対する免疫染色によって、各マーカーの陽性細胞を確認した(
図6A)。
続いて、同OSR1
+SIX2
+細胞を、50ng/ml BMP7(R&D systems)及び10μM Y−27632(Wako)を添加したUBC培養上清(以下参照)を含む紡錘底低接着96ウェルプレート(Lipidure Coat、NOF)に1.0×10
5細胞/ウェルで播種し、37℃、5%CO
2雰囲気下で24時間培養した。次いで、培地を50ng/ml BMP7、0.5μM BIO(Wako)、及び10μM Y−27632を添加したUBC培養上清に置き換え、2から3日間培養した後、細胞を回収し、マイトマイシン処理したWnt4を発現するNIH3T3(Osafune K,et al.(2006),Development 133:151−61)上に3.0×10
4細胞/ウェル(24ウェルプレート)で播種し、5から7日間培養した。得られた細胞をLotus Tetragonolobus lectin(LTL)(近位尿細管マーカー)、LAMININ(極性上皮細胞マーカー)、CDH1(遠位尿細管マーカー)ならびにPODOCALYXINおよびWT1(糸球体ポドサイトマーカー)に対する免疫染色によって、各マーカーの陽性細胞を確認した(
図6B)。
さらに、OSR1
+SIX2
+細胞をE11.5のマウス胚脊髄と器官培養した。詳細には、OSR1
+SIX2
+細胞を、50ng/ml BMP7(R&D systems)及び10μM Y−27632(Wako)を添加したUBC培養上清(以下参照)を含む紡錘底低接着96ウェルプレート(Lipidure Coat、NOF)に1.0×10
5細胞/ウェルで播種し、37℃、5%CO
2雰囲気下で24時間培養した。次いで、培地を50ng/ml BMP7、0.5μM BIO(Wako)、及び10μM Y−27632を添加したUBC培養上清に置き換え、2から3日間培養した後、細胞を回収し、E11.5のマウス胚脊髄と共に0.4μm孔を有するポリカーボネート(polycarbonate)フィルター(Millipore)上の空気−培養液の境界において37℃で培養した。培養液側には500U/mlペニシリン/ストレプトマイシンおよび10%FBSを添加したDMEM(Nacalai tesque)を用いた(Osafune K,et al.(2006),Development133:151−61)。一週間後得られた細胞をLTL、LAMININ、CDH1、PODOCALYXINおよびWT1に対する免疫染色によって、各マーカーの陽性細胞を確認した(
図6C)。
同様に、OSR1
+SIX2
+細胞をE11.5のマウス胚後腎と器官培養した。詳細には、OSR1
+SIX2
+細胞を、50ng/ml BMP7(R&D systems)及び10μM Y−27632(Wako)を添加したUBC培養上清(以下参照)を含む紡錘底低接着96ウェルプレート(Lipidure Coat、NOF)に1.0×10
5細胞/ウェルで播種し、37℃、5%CO
2雰囲気下で24時間培養した。次いで、培地を50ng/ml BMP7、0.5μM BIO(Wako)、及び10μM Y−27632を添加したUBC培養上清に置き換え、2から3日間培養した後、細胞を回収し、Accumaxを用いて分離した。ICRマウスからE11.5のマウス胚後腎を抽出し、DMEM中で切断し、0.05%Trypsin−EDTA中で10分間放置し、ピペティングにより分離した。分離したマウス胚後腎細胞は、500U/mlペニシリン/ストレプトマイシンおよび10%FBSを添加したDMEM中で、37℃、10分間静置した後、40μmセルストレーナー(BD)でろ過した。得られた5.0×10
5細胞のマウス胚後腎細胞を5.0×10
5細胞の前記Accumaxで分離したOSR1
+SIX2
+細胞と混合し、紡錘底低接着96ウェルプレート上、10μM Y−27632、500U/mlペニシリン/ストレプトマイシンおよび10%FBSを添加したDMEM中で一昼夜培養し、凝集塊を形成させた。得られた凝集塊を0.4μm孔を有するポリカーボネート(polycarbonate)フィルター(Millipore)上の空気−培養液の境界において37℃で培養した。培養液側には500U/mlペニシリン/ストレプトマイシンおよび10%FBSを添加したDMEM(Nacalai tesque)を用いた(Uchino,S.et al.JAMA 294,813−818(2005))。一週間後得られた細胞をCDH6(腎小胞マーカー)、LTL、LAMININ、CDH1、PODOCALYXINおよびWT1に対する免疫染色によって、各マーカーの陽性細胞を確認した(
図6D)。
さらに、OSR1
+SIX2
+細胞を、50ng/ml BMP7(R&D systems)及び10μM Y−27632(Wako)を添加したUBC培養上清(以下参照)を含む紡錘底低接着96ウェルプレート(Lipidure Coat、NOF)に1.0×10
5細胞/ウェルで播種し、37℃、5%CO
2雰囲気下で24時間培養した。次いで、培地を50ng/ml BMP7、0.5μM BIO(Wako)、及び10μM Y−27632を添加したUBC培養上清に置き換え、2から3日間培養した後、細胞を回収し、免疫不全マウス(NOD.CB17−Prkdc
scid/J(Charles river))の副睾丸脂肪組織へ移植し、30日後移植部位を回収したところ、LTLおよびLAMININ陽性の近位尿細管様構造を確認した(
図6E)。
さらに、実施例7での誘導工程で処理した培養28日目の各分画の細胞(OSR1
−SIX2
−、OSR1
+SIX2
−、OSR1
−SIX2
+、およびOSR1
+SIX2
+)をE11.5のマウス胚尿管芽と器官培養した。詳細には、iPS細胞由来の細胞を、50ng/ml BMP7(R&D systems)及び10μM Y−27632(Wako)を添加したUBC培養上清(以下参照)を含む紡錘底低接着96ウェルプレート(Lipidure Coat、NOF)に1.0×10
5細胞/ウェルで播種し、37℃、5%CO
2雰囲気下で24時間培養した。次いで、培地を50ng/mlBMP7、0.5μM BIO(Wako)、及び10μM Y−27632を添加したUBC培養上清に置き換え、2から3日間培養した後、細胞を回収し、Accumaxを用いて分離した。ICRマウスからE11.5のマウス胚尿管芽を抽出した。得られた5.0×1
5細胞のマウス胚尿管芽を5.0×10
5細胞の前記Accumaxで分離したOSR1
−SIX2
−、OSR1
+SIX2
−、OSR1
−SIX2
+、およびOSR1
+SIX2
+の各細胞群と混合し、紡錘底低接着96ウェルプレート上、10μM Y−27632、500U/mlペニシリン/ストレプトマイシンおよび10%FBSを添加したDMEM中で一昼夜培養し、凝集塊を形成させた。得られた凝集塊を0.4μm孔を有するpolycarbonateフィルター(Millipore)上の空気−培養液の境界において37℃で培養した。培養液側には500U/mlペニシリン/ストレプトマイシンおよび10%FBSを添加したDMEM(Nacalai tesque)を用いた(Uchino,S.et al.JAMA 294,813−818(2005))。一週間後得られた細胞凝集塊を観察したところ、OSR1
+SIX2
+細胞との凝集塊においてのみ管構造を確認した(
図6F左図)。さらに、OSR1
+SIX2
+細胞との凝集塊に対して、DBA(尿管芽マーカー)に対する免疫染色を行ったところ、マウス尿管芽由来の分枝が確認された(
図6F右図)。
以上より、実施例7に記載の方法で分化誘導したOSR1
+SIX2
+細胞は、腎前駆細胞であることが示された。
[UBC培養上清]
Ureteric Bud細胞(UBC)馴化培地を文献(Am J Physiol 273,F757−767(1997))記載の方法を改良した方法で作製した。UBC(Dr Sakuraiから譲受、Proc Natl Acad Sci USA 94,6279−6284(1997))を、10%ウシ胎児血清(FBS)を含有する最小必須培地(MEM;Invitrogen)で培養した。80%コンフルエントになったところで細胞をPBSでリンスし、培地を0.1mM MEM NEAA、500U/mlペニシリン/ストレプトマイシン、及び0.55mM 2−メルカプトエタノール、10%KSRを含有するDMEM/F12+Glutamaxで置き換えた。次いで、細胞を3日間培養して培養上清を生成した。培養上清は使用前に0.22μmフィルターでろ過した。
[実施例11]
[ヒトiPS由来腎前駆細胞の治療効果]
実施例7に記載の方法で分化誘導した25日〜28日目のヒトiPS由来腎前駆細胞(OSR1
+SIX2
+細胞;RP−OSとも称する)又はヒトiPS由来腎前駆細胞を含む細胞群(OSR1
+SIX2
−細胞及びOSR1
+SIX2
+細胞;hiPSC−RPとも称する)をフローサイトメトリーで単離し、50ng/ml BMP7(R&D systems)及び10μM Y−27632(Wako)を添加したUBC培養上清(上記)を含む紡錘底低接着96ウェルプレート(Lipidure Coat、NOF)に1.0×10
5細胞/ウェルで播種し、37℃、5%CO
2雰囲気下で24時間培養した。次いで、培地を50ng/ml BMP7、0.5μM BIO(Wako)、及び10μM Y−27632を添加したUBC培養上清に置き換え、さらに24時間培養した。コントロールとして未分化ヒトiPS細胞(4A6C3−10)を、10μM Y−27632を添加した霊長類ES細胞培地(ReproCELL)を含む紡錘底低接着96ウェルプレートに1.0×10
5細胞/ウェルで播種し、37℃、5%CO
2雰囲気下で48時間培養した。培養後の各細胞を生理食塩水で洗浄し、培地を除去した。その後、以下に記載のように、15個のhiPSC−RPの細胞塊を急性腎障害(AKI)モデルマウスの腎臓被膜下に移植した。また、OSR1
+SIX2
+細胞の組織分化を確認する実験(
図7AおよびB)として、以下に記載のように、5個のRP−OSの細胞塊をAKIモデルマウス及び慢性腎不全モデルマウスの腎臓実質にピペッティングで注入した。
[マウス急性腎障害(AKI)モデル試験]
マウス虚血再灌流AKIモデルを公知の方法(Aging Cell 8,192−200(2009)、J Am Soc Nephrol 20,1544−1555(2009)、J Am Soc Nephrol 25,316−328(2014))に従って作製した。6週齢の雌性免疫不全マウス(NOD.CB17−Prkdc
scid/J(Charlesriver))をイソフルラン吸入により麻酔し、37℃で維持した。側腹切開して右腎摘出を行った後、非外傷的微小血管用クランプ(夏目製作所、日本国)を使用して、45分間左腎動脈を閉塞した。クランプを外したのち、RP−OS、hiPSC−RP、又は4A6C3−10を移植した(コントロールマウスには生理食塩水を注入した)。マウスの末梢血中の腎機能マーカーである血中尿素窒素(BUN)及び血清クレアチニン(Cr)レベルをDRI−CHEM7000VZ(富士フイルム、日本国)を使用して測定した。AKI状態の確立は、虚血再灌流後に腎梗塞を伴うことなく2日目にBUNレベルが上昇(>41mg/dl)していることにより確認した。腎組織の解析においては虚血再灌流後(I/R)3日目に過ヨウ素酸−Schiff(PAS)又はマッソントリクローム(MT)染色で染色した。
[マウス慢性腎不全モデル試験]
マウス慢性腎不全モデル(5/6腎摘出モデル)を公知の方法(Nephrol Dial Transplant 26,832−838(2011))に従って作製した。6週齢の雌性免疫不全マウス(NOD.CB17−Prkdc
scid/J)をイソフルラン吸入により麻酔し、37℃で維持した。右腎摘出を行った後、左腎臓の上下両極を切除した。RP−OSの細胞塊を術後2週間で移植した。移植3日後又は2週間後にマウスを屠殺し、腎組織切片を免疫染色で試験した。
[結果]
RP−OSの腎実質移植後2週間目のAKIモデル(
図7A)及び慢性腎不全モデル(
図7B)の両方において、移植したRP−OSのいくらかが宿主の腎臓に組み込まれ、近位尿細管マーカーLTL及びAQP1陽性細胞に分化していた。しかし、RP−OSの腎実質移植は、両モデルにおいて腎機能に対する明確な効果を示さなかった(データは示さず)。静脈内注射と比較して腎臓被膜下へ移植を行うことにより多数の間葉系幹細胞を損傷された腎臓に直接送達することが報告されている(Transplant Proc 41,947−951(2009))ことから、本発明者らは、hiPSC−RPの腎臓被膜下への移植による治療効果を試験した。その結果、虚血再灌流後2、4、6日目でコントロール群及び未分化ヒトiPS細胞移植群と比較して、hiPSC−RP移植群においてBUNレベル及び血清Crレベルが有意に低下した(
図7C)。組織学的分析により、腎実質領域の円柱を伴う拡張尿細管がコントロール群と比較してhiPSC−RP移植群において有意に小さく、線維化領域もhiPSC−RP移植群で小さいことが確認された(
図7D及びE)。hiPSC−RPは宿主の腎臓に組み込まれなかったことから、本プロトコルで確認されたhiPSC−RPの治療効果は主にパラクライン効果に基づくことが示唆された。