特許第6450316号(P6450316)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6450316高屈折率透明性薄膜の製造方法及びその方法により製造された薄膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6450316
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】高屈折率透明性薄膜の製造方法及びその方法により製造された薄膜
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/24 20060101AFI20181220BHJP
   B05D 3/06 20060101ALI20181220BHJP
   B32B 27/16 20060101ALI20181220BHJP
   C09D 185/02 20060101ALI20181220BHJP
   C09D 4/00 20060101ALI20181220BHJP
【FI】
   B05D7/24 301J
   B05D3/06 C
   B05D3/06 Z
   B32B27/16
   C09D185/02
   C09D4/00
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-534155(P2015-534155)
(86)(22)【出願日】2014年8月20日
(86)【国際出願番号】JP2014071712
(87)【国際公開番号】WO2015029844
(87)【国際公開日】20150305
【審査請求日】2017年7月12日
(31)【優先権主張番号】特願2013-176163(P2013-176163)
(32)【優先日】2013年8月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000149561
【氏名又は名称】大八化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】松川 公洋
(72)【発明者】
【氏名】渡瀬 星児
(72)【発明者】
【氏名】御田村 紘志
(72)【発明者】
【氏名】平田 学
【審査官】 清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−310423(JP,A)
【文献】 特開2010−181801(JP,A)
【文献】 特開2008−308593(JP,A)
【文献】 特開2001−089535(JP,A)
【文献】 特開2012−025882(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/161859(WO,A1)
【文献】 特開2000−344504(JP,A)
【文献】 特開2015−044925(JP,A)
【文献】 宮崎怜太、外5名,リン酸エステル修飾チタニアゾルを用いた高屈折率フォトポリマーの開発,高分子学会予稿集,2012年 5月15日,Vol.61,No.1,p.1288(1Pf080)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00−7/26
B32B 1/00−43/00
C09D 1/00−10/00
101/00−201/10
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一工程:下記式(1)で表されるリン化合物で修飾された金属酸化物含有ゾルで基板上に、樹脂バインダーを使用することなく、塗膜を形成する工程、
【化1】

(式(1)中、Rは水素原子、アルキル基、アルキニル基、アルケニル基、アリール基、脂肪族複素環基、又は芳香族複素環基であり、Rは2価の有機残基であり、nは、1又は2である。)
第二工程:第一工程で得られた基板上の塗膜を、150〜400nmの波長を含む光を照射して硬化させる工程、及び
第三工程:第二工程で得られた硬化物に、更に300〜600℃への加熱及び/又は波長が150nm〜400nmの範囲の光に波長が400nm〜1000nmの範囲の光を併せて含有する閃光の照射によりエネルギーを加える工程、
を含む薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記式(1)のRが、水素原子、又は炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐鎖状のアルキル基である請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記式(1)のRが、下記式(2)
【化2】

(式(2)中、Yは、炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐鎖状のアルキレン基であり、pは、1〜10の整数である。)
で表される2価の有機残基である請求項1又は2に記載の薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記式(2)のYが、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐鎖状のアルキレン基である請求項3に記載の薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物の金属が、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、アルミニウム、亜鉛及びスズから選択される少なくとも1つである請求項1〜4のいずれか1つに記載の薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記金属酸化物の金属がチタン及びジルコニウムから選択される少なくとも1つである請求項1〜5のいずれか1つに記載の薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記薄膜の屈折率が1.8以上である請求項1〜6のいずれか1つに記載の薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高い屈折率及び透明性を持つ薄膜の製造方法に関する。さらに詳しくは、非常に高い屈折率及び透明性を持つ薄膜の製造方法において、パターンニングされた膜を短時間で容易に得られ、屈折率の調節も容易である製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルディスプレー、光学センサー、集積光学(フォトニック)回路、及び発光ダイオード(LED)等の半導体デバイスの特性は、デバイス構造の発光部あるいは感光部等に、透明で高屈折率薄膜を施すことにより改善されることが知られている。透明で高屈折率の薄膜材料としては、有機ポリマー、有機無機ハイブリッドポリマー又は無機金属酸化物等が挙げられる。
【0003】
有機ポリマーは、薄膜形成が容易で低温で施工でき、優れた表面接着性を含む丈夫な機械特性を提供する。しかしながら、可視波長域で1.65〜1.70ぐらいの屈折率が上限に近い。これら高い屈折率を有するポリマーでも一般に臭素、ヨウ素、あるいは硫黄等極性の大きな原子を高濃度に含むため、熱及び化学的安定性が制約される。
【0004】
有機無機ハイブリッドポリマーは、ポリマー担体にナノ寸法(直径1〜50nm)の金属酸化物粒子を分散させ、ポリマーの透明性を維持しつつ屈折率を高くしたものである。しかしながら、分散させた金属酸化物の屈折率と同程度の屈折率を得るのは難しく、可視波長域で1.70〜1.80ぐらいの屈折率が上限に近い。
【0005】
透明で高屈折率を有している金属酸化物で、最も知られているのは酸化チタンと酸化ジルコニウムである。これらを薄膜として用いた場合は特に優れた光学的透明性を持ち、可視波長域で2.0以上の屈折率を呈する。しかしながら、これらの薄膜を形成する一般的な方法としては、気化あるいはスパッタリングの様な高価で効率の悪い方法で蒸着しなければならず、蒸着した金属酸化物被覆は脆く、デバイス表面にしっかり接着しにくい。
【0006】
そこで、特表2007−521355号報では、キレート錯体を形成した有機金属オリゴマーを分散させた有機ポリマー溶液を基板上に塗布し、塗膜を加熱により硬化させ、更に加熱することで有機物を分解し、金属酸化物の薄膜を作成する方法が開示されている。しかしながら、この方法は塗膜の硬化が加熱によるものであり、短時間に正確にパターンニングするのは困難であり、量産することに適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2007−521355号報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の課題は、高い屈折率及び透明性をもつ、パターンニングされた薄膜を短時間で容易に製造できる製造方法、及びその方法で製造された高屈折率薄膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を持つ有機リン化合物で修飾した金属酸化物含有ゾル(以下、リン修飾金属酸化物ゾルという。)により塗膜を形成することで、塗膜のUV硬化が可能となり、金属酸化物含有量が多い薄膜の正確なパターンニングが容易に短時間でできること、及びパターンニングされた薄膜に、熱又は光のエネルギーを加えることで、高屈折率領域(屈折率1.8以上)の薄膜とすることができることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は以下のことに特定される。
[項1] 第一工程:下記式(1)で表されるリン化合物で修飾された金属酸化物含有ゾルで基板上に塗膜を形成する工程、
【化1】
(式(1)中、Rは水素原子、アルキル基、アルキニル基、アルケニル基、アリール基、脂肪族複素環基、又は芳香族複素環基であり、Rは2価の有機残基であり、nは、1又は2である。)
第二工程:第一工程で得られた基板上の塗膜を、光を照射して硬化させる工程、及び
第三工程:第二工程で得られた硬化物に、更に加熱及び/又は光の照射によりエネルギーを加える工程を含む薄膜の製造方法。
[項2] 前記式(1)のRが、水素原子、又は炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐鎖状のアルキル基である項1に記載の薄膜の製造方法。
[項3] 前記式(1)のRが、下記式(2)
【化2】
(式(2)中、Yは、炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐鎖状のアルキレン基であり、pは、1〜10の整数である。)
で表される2価の有機残基である項1又は2に記載の薄膜の製造方法。
[項4] 前記式(2)のYが、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐鎖状のアルキレン基である項3に記載の薄膜の製造方法。
[項5] 前記金属酸化物の金属が、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、アルミニウム、亜鉛及びスズから選択される少なくとも1つである項1〜4のいずれか1つに記載の薄膜の製造方法。
[項6] 前記金属酸化物の金属がチタン及びジルコニウムから選択される少なくとも1つである項1〜5のいずれか1つに記載の薄膜の製造方法。
[項7] 前記第二工程で用いる光が、150〜400nmの波長を含む光である項1〜6のいずれか1つに記載の薄膜の製造方法。
[項8] 前記第三工程における加熱の温度が50〜800℃である項1〜7のいずれか1つに記載の薄膜の製造方法。
[項9] 前記第三工程における光の波長が150〜1000nmであり、且つ、照射積算光量が100〜2000mJ/cmである項1〜8のいずれか1つに記載の薄膜の製造方法。
[項10] 項1〜9のいずれか1つに記載の製造方法により製造された薄膜。
[項11] 屈折率が1.7以上である項10に記載の薄膜。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製法によれば、正確にパターンニングされた高屈折率で透明性のある薄膜が容易に作成できるうえ、所望の屈折率に調節することも容易である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔リン修飾金属酸化物ゾル〕
本発明のリン修飾金属酸化物ゾルは、下記式(1)
【化3】
(式(1)中、Rは水素原子、アルキル基、アルキニル基、アルケニル基、アリール基、脂肪族複素環基、又は芳香族複素環基であり、Rは2価の有機残基であり、nは、1又は2である。)
で表されるリン化合物及び金属酸化物を含む。
【0013】
〔リン修飾金属酸化物ゾルの原料〕
(リン化合物)
本発明で用いられるリン化合物は、下記式(1)で表される。
【化4】
(式(1)中、Rは水素原子、アルキル基、アルキニル基、アルケニル基、アリール基、脂肪族複素環基、又は芳香族複素環基であり、Rは2価の有機残基であり、nは、1又は2である。)
【0014】
で表されるアルキル基は、直鎖又は分岐鎖状のいずれでもよく、例えば炭素数1〜20の直鎖又は分岐状のアルキル基が挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、イソペンチル基、2−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、4−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、セチル基、ステアリル基等が挙げられる。上記アルキル基の炭素数は1〜12であることが好ましく、1〜5であることがより好ましい。
【0015】
で表されるアルキニル基は、直鎖又は分岐鎖状のいずれでもよく、例えば炭素数2〜15のアルキニル基が挙げられる。アルキニル基としては、例えばエチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、3−ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基等が挙げられる。アルキニル基の炭素数は2〜10であることが好ましく、2〜6であることがより好ましい。
【0016】
で表されるアルケニル基は、直鎖又は分岐鎖状のいずれでもよく、例えば炭素数2〜15のアルケニル基が挙げられる。アルケニル基としては、例えばビニル基、1−プロペニル基、アリル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、イソプロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−メチル−2−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基等が挙げられる。アルキニル基の炭素数は2〜10であることが好ましく、2〜6であることがより好ましい。
【0017】
で表されるアリール基は、例えば炭素数6〜20のアリール基が挙げられる。アリール基としては、例えばフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントリル基、フェナンスリル基、2−ビフェニル基、3−ビフェニル基、4−ビフェニル基、ターフェニル基等が挙げられる。
【0018】
で表される脂肪族複素環基としては、例えば炭素数2〜14で、ヘテロ原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいる、5〜8員、好ましくは5又は6員の単環の脂肪族複素環基、多環又は縮合環の脂肪族複素環基が挙げられる。脂肪族複素環基としては、例えばピロリジル−2−オン基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、モルホリノ基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロチエニル基等が挙げられる。
【0019】
で表される芳香族複素環基としては、例えば炭素数2〜15で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等の異種原子を含んでいる、5〜8員、好ましくは5又は6員の単環式ヘテロアリール基、多環式又は縮合環式のヘテロアリール基が挙げられる。芳香族複素環基としては、例えばフリル基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、ピリダジル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フタラジル基、キナゾリル基、ナフチリジル基、シンノリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基等が挙げられる。
【0020】
上記アルキル基、アルキニル基、アルケニル基、アリール基、脂肪族複素環基、又は芳香族複素環基の任意の水素原子は、置換基で置換されていてもよい。前記置換基としては特に限定されないが、例えばアルキル基、アルキニル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アルキレンジオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキル基、脂肪族複素環基、芳香族複素環基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、ヘテロアリールチオ基、アミノ基、置換アミノ基、シアノ基、ヒドロキシル基、オキソ基、ニトロ基、メルカプト基又はハロゲン原子等が挙げられる。上記置換基の数は1〜3個が好ましく、1又は2個がより好ましい。
【0021】
が、水素原子、又は炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐鎖状のアルキル基であることが好ましく、水素原子、又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基であることがより好ましく、水素原子、メチル基又はエチル基であることが特に好ましい。
【0022】
の有機残基としては、リン化合物中に導入された官能基の部分構造であれば特に限定されない。有機残基としては、例えばアルキレン基、シクロアルキレン基、アルキニレン基、アルケニレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、アラルキレン基、オキシアルキレン基、シクロアルキレンオキシ基、アリーレンオキシ基、アラルキレンオキシ基、ヘテロアリーレンオキシ基、アルキレンチオ基、アリーレンチオ基、アラルキレンチオ基、ヘテロアリーレンチオ基等が挙げられる。これらの基の具体例は、公知のものから便宜に選択される。炭素数は、特に限定されないが、例えば、1〜10程度のものであってよい。
【0023】
の有機残基としては、下記式(2)で表される基であることが好ましい。
【化5】
(式(2)中、Yは、炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐鎖状のアルキレン基であり、pは、1〜10の整数である。)
【0024】
式(2)中、Yは直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数1〜10のアルキレン基であり、例えばメチレン基、エチレン基、メチルエチレン基、エチルエチレン基、n−プロピレン基、1−メチルプロピレン基、2−メチルプロピレン基、n−ブチレン基、n−ヘキシレン基、n−ヘプチレン基、n−オクチレン基等が挙げられる。Yとしては、炭素原子数1〜4の直鎖のアルキレン基であることが好ましく、メチルエチレン基又はエチレン基であることが特に好ましい。
【0025】
pは1〜10の整数であり、好ましくは1〜5の整数であり、特に好ましくは1〜3の整数である。
【0026】
式(1)で表されるリン化合物としては、特に限定されないが、例えば2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、3−アクリロイルオキシプロピルアシッドフォスフェート、2−アクリロイルオキシプロピルアシッドフォスフェート、6−アクリロイルオキシヘキシルアシッドホスフェート、10−アクリロイルオキシデシルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、3−メタクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、6−メタクリロイルオキシヘキシルアシッドホスフェート、10−メタクリロイルオキシデシルアシッドホスフェート等を用いることができる。
本発明に用いるリン化合物は、市販品を用いてもよいし、公知の方法により製造してもよい。リン化合物の市販品としては、例えば大八化学工業社製のMR−200等が挙げられる。
【0027】
(金属酸化物)
本発明の金属酸化物は、主に金属原子と酸素原子により構成された化合物であり、金属酸化物の微粒子をそのまま用いてもよく、金属酸化物のゾルを公知の方法により製造して用いてもよい。例えば金属アルコキシド又は金属ハロゲン化物に溶媒を加え加水分解し、その後に縮合する方法等で金属酸化物のゾルを製造できる。上記反応に用いる溶媒としては、無機溶媒、有機溶媒又はその混合物のいずれでもよく、例えば前記混合物としては、トルエン、イソプロピルアルコール及び水の混合物等が挙げられる。
【0028】
金属酸化物中の金属としては、例えばチタン、ジルコニウム、ハフニウム、アルミニウム、亜鉛、スズ等が挙げられる。中でも、高い屈折率を有することから、チタン又はジルコニウムが好ましく、チタンであることが特に好ましい。
【0029】
金属アルコキシドとしては、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、ハフニウムアルコキシド、アルミニウムアルコキシド、亜鉛アルコキシド、スズアルコキシド等が挙げられる。
【0030】
チタンアルコキシドとしては、例えば、ジアルキルジアルコキシチタン(例えば、ジメチルジメトキシチタン、ジエチルジエトキシチタン等)等のジアルコキシチタン;トリアルコキシチタン(例えば、トリメトキシチタン、トリエトキシチタン等)、アルキルトリアルコキシチタン(例えば、エチルトリメトキシチタン等)、アリールトリアルコキシチタン(例えば、フェニルトリメトキシチタン等)等のトリアルコキシチタン;テトラアルコキシチタン(例えば、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトラn−ブトキシチタン、テトラt−ブトキシチタン、テトラノニルオキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、テトラキス(メトキシプロポキシ)チタン、テトラステアリルオキシチタン、テトライソステアリルオキシチタン等の炭素数1〜18のテトラアルコキシチタン、好ましくは炭素数1〜10のテトラアルコキシチタン、さらに好ましくは炭素数1〜6のテトラアルコキシチタン等)等が挙げられる。
【0031】
ジルコニウムアルコキシドとしては、例えば、テトラアルコキシジルコニウム{例えば、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、テトライソブトキシジルコニウム、テトラn−ブトキシジルコニウム、テトラt−ブトキシジルコニウム、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)ジルコニウム、テトラキス(2−メチル−2−ブトキシ)ジルコニウム等の炭素数1〜18のテトラアルコキシジルコニウム、好ましくは炭素数1〜10のテトラアルコキシジルコニウム、さらに好ましくは炭素数1〜6のテトラアルコキシジルコニウム等}等が挙げられる。
【0032】
ハフニウムアルコキシドとしては、例えば、テトラメトキシハフニウム、テトラエトキシハフニウム、テトライソプロポキシハフニウム、テトラt−ブトキシハフニウム等が挙げられる。
【0033】
アルミニウムアルコキシドとしては、例えば、トリアルコキシアルミニウム(トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリプロポキシアルミニウム、トリn−ブトキシアルミニウム、トリs−ブトキシアルミニウム、トリt−ブトキシアルミニウム等)等が挙げられる。
【0034】
亜鉛アルコキシドとしては、例えば、ジエトキシ亜鉛、ビスメトキシエトキシ亜鉛等が挙げられる。
【0035】
スズアルコキシドとしては、例えば、テトラエトキシスズ、テトライソプロポキシスズ、テトラn−ブトキシスズ等)等が挙げられる。
【0036】
金属アルコキシドとしては、チタンアルコキシド又はジルコニウムアルコキシドが好ましく、中でもテトラエトキシチタン、テトラn−プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトラs−ブトキシチタン、テトラt−ブトキシチタン、テトラエトキシジルコニウム、テトラn−プロポキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、テトラn−ブトキシジルコニウム、テトライソブトキシジルコニウム、テトラs−ブトキシジルコニウム、テトラt−ブトキシジルコニウムがより好ましく、テトラn−ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトラs−ブトキシチタン、テトラt−ブトキシチタンが特に好ましい。
【0037】
金属ハロゲン化物としては、四塩化チタン、四臭化チタン等のハロゲン化チタン;四塩化ジルコニウム、四臭化ジルコニウム、ヨウ化ジルコニウム等のハロゲン化ジルコニウム;オキシ塩化ジルコニウム、オキシヨウ化ジルコニウム等のオキシハロゲン化ジルコニウム;四塩化ハフニウム等のハロゲン化ハフニウム;オキシ塩化ハフニウム等のオキシハロゲン化ハフニウム;臭化アルミニウム、塩化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム等のハロゲン化アルミニウム;塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛等のハロゲン化亜鉛;塩化スズ、臭化スズ、ヨウ化スズ等のハロゲン化スズ;等が挙げられる。
【0038】
中でも、四塩化チタン、四臭化チタン、四塩化ジルコニウム、四臭化ジルコニウム、及びオキシ塩化ジルコニウムが好ましく、四塩化チタン、四塩化ジルコニウム、及びオキシ塩化ジルコニウムが特に好ましい。
【0039】
金属アルコキシド及び金属ハロゲン化物は、単独で又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0040】
(溶媒)
本発明のリン修飾金属酸化物ゾルは、溶媒を含む。
有機溶媒としては、例えば、アルコール類(例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルキルアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等)、炭化水素類(例えば、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類等)、ハロゲン化炭化水素類(例えば、塩化メチレン、クロロホルム等)、エーテル類(例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等の鎖状エーテル類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類等)、エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酪酸エチル等)、ケトン類(例えば、アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリドン等)、セロソルブ類(例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等)、カルビトール類(例えば、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール等)、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類(例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn−ブチルエーテル等)、グリコールエーテルエステル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等)、アミド類(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド等)、ニトリル類(例えば、アセトニトリル、ベンゾニトリル等)、N−メチルピロリドン等が使用でき、好ましくは芳香族炭化水素類及びグリコールエーテルエステル類であり、特に好ましいのはトルエン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートである。
【0041】
無機溶媒としては、塩化水素、硫酸、硝酸、炭酸、リン酸等の酸性物質を含有する酸性水溶液;水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム等の塩基性塩を含有する塩基性水溶液;純水、或いは、食塩等の中性塩を含有する中性水溶液等が挙げられる。
【0042】
これら有機溶媒は単独で又は2種以上を組み合わせて使用しても良い。また、溶媒は有機溶媒又は無機溶媒のいずれかを用いてもよく、両者を混合して用いてもよい。
【0043】
(分散助剤)
本発明のリン修飾金属酸化物ゾルは、さらに分散助剤を含んでもよい。分散助剤は、特に限定されないが、例えば、アセト酢酸メチル、アセチルアセトン、N,N−ジアルキルアセトアセトアミドから選択される一以上のものを好適に使用できる。これらの中でも、安全性等の観点から、特にアセチルアセトン、N,N−ジアルキルアセトアセトアミドが好ましい。
【0044】
〔リン修飾金属酸化物ゾルの製造方法〕
本発明のリン修飾金属酸化物ゾルは、リン化合物と金属酸化物を反応させることにより製造することができる。金属酸化物とリン化合物の比率は、金属酸化物中に含まれる金属原子1モルに対し、リン化合物中に含まれるリン原子のモル数が約0.01〜約1.00であることが好ましく、約0.05〜約0.70であることがより好ましく、約0.10〜約0.50であることが特に好ましい。金属酸化物として、金属酸化物のゾルを用いる場合、金属酸化物ゾルの製造時にリン化合物を混合してもよいし、金属酸化物ゾルの製造後にリン化合物を混合してもよい。
【0045】
リン化合物と金属酸化物の反応時、加熱することが好ましい。加熱方法としては電気ヒーター、熱媒又はマイクロウェーブを用いる方法等が挙げられるが特に限定はされない。金属酸化物分散体の量や製造装置等の規模に応じて、安全に加熱できる方法を適宜選択すれば良い。但し、マイクロウェーブを用いた場合は、比較的硬化物のクラック発生が少なくなる傾向がある。
【0046】
金属酸化物分散体の製造時の反応温度は、反応が進行すれば特に限定されないが、例えば約0〜約100℃、好ましくは約40〜約80℃とすることができる。反応時間は、反応が進行すれば特に限定されないが、約1分〜約10時間であればよく、約1分〜約5時間であることが好ましく、約2分〜約3時間程度であることがより好ましい。
【0047】
なお、本発明に用いる前記金属酸化物分散体は、それ自体が重合性を有している。したがって、本発明のひとつの好ましい態様においては、薄膜の製造に樹脂バインダーを使用しない。樹脂バインダーを用いないことで、好ましくは、より高い屈折率を有する薄膜を得ることができる。また、本発明に用いる前記金属酸化物分散体が光重合性であることから、後記するように光照射による硬化が可能であり、パターニングされた膜を容易に得ることができる。
【0048】
〔高屈折率薄膜の製造方法〕
本発明の高屈折率薄膜は下記工程により製造できる。
第一工程:基板上にリン修飾金属酸化物ゾルの塗膜を形成する。
第二工程:前記第一工程で得た塗膜を光照射で硬化し、薄膜を形成する。
第三工程:前記薄膜に加熱及び/又は光照射でエネルギーを加える。
【0049】
〔塗膜の形成〕
(基板)
前記基板の材質は、用途に応じて選択され、特に限定されないが、例えば半導体(例えば、シリコン、ガリウム、砒素、窒化ガリウム、炭化シリコン等)、金属(例えば、アルミニウム、銅等)、セラミック(例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン、PZT等)、透明無機材料(例えば、ガラス、石英、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム等)、透明樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート等)等を用いることができる。これらの基板材質のうち、透明樹脂を用いる場合は、前記第三工程においては加熱ではなく光照射を行うことが好ましい。
【0050】
(塗布方法)
本発明において、基板上にリン修飾金属酸化物ゾルを塗布前又は塗布中に、光重合開始剤を混合する必要がある。光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン類{例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類等};アセトフェノン類{例えば、アセトフェノン、p−ジメチルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−フェニル−2−ヒドロキシ−アセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等};プロピオフェノン類{例えば、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン等};ブチリルフェノン類{例えば、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オン等};アミノアセトフェノン類{例えば、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ジエチルアミノ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−2−モルホリノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−(4−メチルフェニル)プロパン−1−オン、1−(4−ブチルフェニル)−2−ジメチルアミノ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−1−(4−メトキシフェニル)−2−メチルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−ジメチルアミノフェニル)−ブタン−1−オン等};ベンゾフェノン類{例えば、ベンゾフェノン、ベンジル、N,N’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン(ミヒラーズケトン)、3,3−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン等のN,N’−ジアルキルアミノベンゾフェノン等};ケタール類{例えば、アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等};チオキサンテン類{例えば、チオキサンテン、2−クロロチオキサンテン、2,4−ジエチルチオキサンテン等};アントラキノン類{例えば、2−エチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、2,3−ジフェニルアントラキノン等};(チオ)キサントン類{例えば、チオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等};アクリジン類{例えば、1,3−ビス−(9−アクリジニル)プロパン、1,7−ビス−(9−アクリジニル)ヘプタン、1,5−ビス−(9−アクリジニル)ペンタン等};トリアジン類{例えば、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4−ビス−トリクロロメチル−6−(3−ブロモ−4−メトキシ)スチリルフェニル−s−トリアジン等};スルフィド類{例えば、ベンジルジフェニルサルファイド等};アシルフォスフィンオキサイド類{例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等};チタノセン系光重合開始剤;オキシムエステル類等が挙げられる。これらの光重合開始剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0051】
塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、フローコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、スクリーン印刷法、キャスト法、バーコーティング法、カーテンコーティング法、ロールコーティング法、グラビアコーティング法、ディッピング法、スリット法等により行うことができる。
【0052】
〔塗膜の硬化〕
本発明の塗膜は光照射によって硬化できる。そのため、フォトマスク等を用いることで、微細な模様を正確にパターンニングされた薄膜を短時間で容易に作成できる。
【0053】
照射する光は、特に限定されないが、例えばガンマー線、X線、紫外線(UV)、可視光線等を用いることができ、可視光又は紫外線(UV)であることが好ましい。用いる光の波長は、約150〜約800nm、好ましくは約150〜約600nm、さらに好ましくは約150〜約400nmとすることができる。
【0054】
また、本発明のひとつの態様において、前記第二工程で照射する光は、約150nm〜約400nmの範囲内に波長を有する輝線が1以上、及び/又は約150nm〜約400nmの範囲内に波長の連続スペクトルを有する光が1以上、含有されているものであることが好ましい。
【0055】
照射の積算光量(以下、照射光量ともいう。)は、塗膜の厚み等に応じて選択してよい。照射光量は、特に限定されないが、例えば約1〜約10000mJ/cm、製造効率等の観点から、好ましくは約5〜約5000mJ/cm、より好ましくは約10〜約1000mJ/cmである。照射時間は特に限定されず、例えば約0.1秒〜約10分、製造効率等の観点から、好ましくは約5秒〜約5分、より好ましくは約10秒〜約1分である。
【0056】
本発明において、前記塗膜の硬化に用いる光照射装置としては、上記条件で光を照射できるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、カーボンアーク、蛍光ランプ、タングステンランプ、ハロゲンランプ、紫外光レーザー、可視光レーザー、赤外光レーザー、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、エキシマランプ、キセノンランプ、キセノンフラッシュランプ(パルスドキセノンランプまたはクセノンフラッシュランプともいう)、無電極放電ランプ等を装着している装置が挙げられる。上記のランプは、1種又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0057】
〔薄膜の屈折率の調整〕
前記第二工程で硬化した薄膜は、それ自体に透明性があり、屈折率も高いものであるが、前記第三工程において、前記薄膜に対して更に加熱又は光照射を行うことで屈折率を更に上げることができる。加熱あるいは光の照射により有機物が分解し、金属酸化物含有量が多くなり屈折率が上昇していくものと推測されるが、本発明の薄膜は分解した有機物による影響も少なく、各段階における薄膜の透明性は損なわれ難い。
【0058】
〔加熱処理〕
前記第三工程の加熱処理について具体的に説明する。
前記第二工程で硬化した薄膜を、前記第三工程において更に加熱することで透明性を保ちつつ、さらに屈折率を高く調節することができる。加熱温度は約50〜約800℃が好ましく、約100〜約700℃が更に好ましく、約300〜約600℃が特に好ましい。加熱時間は、特に限定されずに装置や規模によって適宜選択すればよいが、生産効率の観点から、約10〜約1800秒が好ましく、約30〜約900秒が更に好ましく、約60〜約600秒が特に好ましい。上記範囲で加熱することで薄膜を所望の屈折率に調節することが可能である。
【0059】
〔光照射処理〕
前記第三工程の光照射処理について、具体的に説明する。
前記第二工程で硬化した薄膜に対して、前記第三工程において更に光の照射をすることで透明性を保ちつつ、さらに屈折率を高く調節することができる。光の波長は150〜1000nmが好ましく、200〜800nmがより好ましい。また、前記光は約150nm〜約1000nmの範囲の光を含有することが好ましく、約200nm〜約800nmの範囲の光を含有することがさらに好ましい。
【0060】
本発明の好ましい態様において、前記光は、波長が約150nm〜約400nmの範囲の光を含有する閃光である。また、本態様において、前記閃光を繰り返し照射する。閃光の繰返し照射の間隔は、0.1〜1秒であることが好ましく、0.1〜0.5秒であることが更に好ましく、0.3〜0.5秒であることが特に好ましい。照射回数は1〜300回であることが好ましく、10〜200回であることが更に好ましく、30〜150回であることが特に好ましい。さらに、前記閃光は、波長が約400nm〜約1000nmの範囲の光を併せて含有することが好ましい。本発明の特に好ましい態様において、前記閃光は、波長が約200nm〜約400nmの範囲の光、及び波長が約400nm〜約800nmの範囲の光を含有する。
【0061】
本発明において、例えば、「波長が約150nm〜約1000nmの範囲の光を含有する」とは、(I)波長の値が約150nm〜約1000nmの範囲内にある輝線が、1以上発光されている、(II)波長約150nm〜約1000nmの連続スペクトルを有する光が発光されている、(III)波長の値が約150nm〜約1000nmの範囲内にある輝線が1以上、及び、波長約150nm〜約1000nmの範囲内のさらに特定の波長範囲内に連続スペクトルを有する光が1以上発光されている、(IV)波長約150nm〜約1000nmの範囲内のさらに特定の波長範囲内に連続スペクトルを有する光が1以上発光されている、という状態のいずれであってもよい。
【0062】
また、本発明のひとつの態様において、前記第三工程で照射する光は、約150nm〜約1000nmの範囲内に波長を有する輝線が1以上、及び/又は約150nm〜約800nmの範囲内に波長の連続スペクトルを有する光が1以上、含有されているものであることが好ましい。
【0063】
本発明において、前記薄膜の屈折率の調整に用いる光照射装置としては、上記条件で光を照射できるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、カーボンアーク、蛍光ランプ、タングステンランプ、ハロゲンランプ、紫外光レーザー、可視光レーザー、赤外光レーザー、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、エキシマランプ、キセノンランプ、キセノンフラッシュランプ(パルスドキセノンまたはクセノンフラッシュランプともいう)、無電極放電ランプ等を装着している装置が挙げられる。上記のランプは、1種又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0064】
前記第三工程における照射の積算光量(以下、照射量ともいう。)は、パルスドキセノンランプを用いた場合、製造効率等の観点から、約100〜約1000mJ/cmが好ましく、約150〜約500mJ/cmが更に好ましく、約200〜約400mJ/cmが特に好ましい。尚、ここでいう照射量は、測定波長254nmの照度計により測定した照度と照射時間の積をいう。
【0065】
上記範囲で光照射することで薄膜の屈折率を上げることが可能であり、積算光量を変化させることで所望の屈折率に調節することが可能である。具体的には、積算光量を高めると、屈折率を高くできる。上記第三工程の操作は、前記第二工程と連続して、あるいは前記第二工程の操作と同時に行うこともできる。ここで、「同時に行う」とは、例えば第三工程が薄膜を加熱する工程である場合に、第二工程の光の照射と第三工程の加熱を同時に行うことを包含する。
【0066】
本発明の好ましい態様において、前記屈折率を向上させた薄膜の屈折率は、通常1.7以上、好ましくは1.8以上、より好ましくは1.9以上である。
【0067】
なお、本発明において、薄膜の屈折率は、例えば反射分光膜厚計を用い、波長633nmにおける屈折率を測定することができる。前記反射分光膜厚計は、例えば、後記する実施例に記載したものを用いることができる。
【0068】
また、本発明において、前記第二工程、又は第三工程における照射の積算光量(照射量)は、例えば、UVの波長領域であれば、UV測定器を用いて測定できる。前記UV測定器は、例えば、ヘレウス株式会社製のUV Power PuckIIを用いることができる。また、測定波長254nmの照度計を用いて測定することもできる。前記照度計は、例えば、岩崎電気社製のUVPX−G2K(型番)を用いることができる。
【0069】
本発明のひとつの態様において、薄膜の全光線透過率は、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、88%以上であることが特に好ましい。また、薄膜のヘイズ値は、1.0以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.3以下であることが特に好ましい。
薄膜の全光線透過率およびヘイズ値は、例えばJIS−K7105およびJIS−K7136に従い、紫外可視分光光度計を用いて測定することができる。
【実施例】
【0070】
次に、実験例、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0071】
使用した物質、試薬及び測定機器を以下に示す。使用する物質等は、特記しない限り市販品又は公知の方法により合成したものを用いた。
【0072】
原 料
〔リン化合物〕
【0073】
〔金属アルコキシド〕
・テトラn−ブトキシチタン
【0074】
〔アクリルモノマー〕
・ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)
【0075】
〔光重合開始剤〕
・2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン
(チバガイギー製 ダロキュア1173)
【0076】
〔有機溶媒〕
・トルエン
・イソプロピルアルコール(IPA)
【0077】
〔アルカリ溶液〕
・2.38重量%テトラメチルアンモニウム ヒドロキシド水溶液
(東京応化工業社製 NMD−3)
【0078】
測定方法
(薄膜の物性)
薄膜のヘイズ値は、JIS−K7105及びJIS−K7136に従い、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製、V−560型)を用いて測定した。
薄膜の屈折率および膜厚は、反射分光膜厚計(大塚電子株式会社製、 FE−3000)を用いて測定した。屈折率は波長633nmにおける屈折率を測定し、膜厚は分光法により測定した。
【0079】
〔リン修飾金属酸化物ゾル1の調製〕
撹拌機、温度計、及び滴下ロートを付けた5Lの4つ口フラスコに、テトラn−ブトキシチタン250g(0.74mol)及びトルエン2500gを入れて溶解し、60℃まで昇温した。その溶液に、リン化合物としてMR−200を19.6g(0.074mol)、IPA1190g及び水39.7g(2.2mol)の混合液を30分間掛けて添加した。反応溶液が白濁するまで温度を約30分間保持した後、20℃まで冷却した。その反応溶液が透明になるまで減圧濃縮し、リン修飾金属酸化物ゾル1を得た。
なお、リン修飾金属酸化物ゾル1の調製において、チタン原子1molのチタン酸化物に対し、リン原子0.1molのリン化合物で修飾した。
【0080】
〔リン修飾金属酸化物ゾル2の調製〕
撹拌機、温度計、及び滴下ロートを付けた5Lの4つ口フラスコに、テトラn−ブトキシチタン250g(0.74mol)及びトルエン2500gを入れて溶解し、60℃まで昇温した。その溶液に、リン化合物としてMR−200を59.0g(0.222mol)、IPA1190g及び水39.7g(2.2mol)の混合液を30分間掛けて添加した。反応溶液が白濁するまで温度を約30分間保持した後、20℃まで冷却した。その反応溶液が透明になるまで減圧濃縮し、リン修飾金属酸化物ゾル2を得た。
なお、リン修飾金属酸化物ゾル2の調製において、チタン原子1molのチタン酸化物に対し、リン原子0.3molのリン化合物で修飾した。
【0081】
〔リン修飾金属酸化物ゾル3の調製〕
撹拌機、温度計、及び滴下ロートを付けた5Lの4つ口フラスコに、テトラn−ブトキシチタン250g(0.74mol)及びトルエン2500gを入れて溶解し、60℃まで昇温した。その溶液に、リン化合物としてMP−10を57.7g(0.222mol)、IPA1190g及び水39.7g(2.2mol)の混合液を30分間掛けて添加した。反応溶液が白濁するまで温度を約30分間保持した後、20℃まで冷却した。その反応溶液が透明になるまで減圧濃縮し、リン修飾金属酸化物ゾル3を得た。
なお、リン修飾金属酸化物ゾル3の調製において、チタン原子1molのチタン酸化物に対し、リン原子0.3molのリン化合物で修飾した。
【0082】
〔リン修飾金属酸化物ゾル4の調製〕
撹拌機、温度計、及び滴下ロートを付けた5Lの4つ口フラスコに、テトラn−ブトキシチタン250g(0.74mol)及びトルエン2500gを入れて溶解し、60℃まで昇温した。その溶液に、リン化合物としてフェニルリン酸を38.6g(0.222mol)、IPA1190g及び水39.7g(2.2mol)の混合液を30分間掛けて添加した。反応溶液が白濁するまで温度を約30分間保持した後、20℃まで冷却した。その反応溶液が透明になるまで減圧濃縮し、リン修飾金属酸化物ゾル4を得た。
なお、リン修飾金属酸化物ゾル4の調製において、チタン原子1molのチタン酸化物に対し、リン原子0.3molのリン化合物で修飾した。
【実施例1】
【0083】
650mgのリン修飾金属酸化物ゾル1に、光重合開始剤として2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン4.7mgを添加したものを攪拌し、50mm×50mmのガラス基板上に回転数500rpmでスピンコートし、塗膜を得た。
得られた塗膜を乾燥し、UV照射装置(ウシオ電機株式会社製 UVC−1212/1MNLC3−AA04)で、高圧水銀ランプ(ウシオライティング株式会社 UVL−800−O/N 主波長365nm)を用いて、414.9mJ/cm2の照射量を照射した後、アルカリ溶液のNMD−3を水で10倍に薄めた溶液に10秒浸けた。その後、水洗、乾燥処理を行い、膜厚285nmの薄膜を得た。
上記照射量は、UV測定器(ヘレウス株式会社製 UV Power PuckII)を用いて、UVAの波長領域において測定した。
得られた薄膜の屈折率は1.805、ヘイズ値0.2であった。
【実施例2】
【0084】
リン修飾金属酸化物ゾル1の代わりにリン修飾金属酸化物ゾル2を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、膜厚450nmの薄膜を得た。得られた薄膜の屈折率は1.710、ヘイズ値0.2であった。
【実施例3】
【0085】
ガラス基板の代わりにPET樹脂基板を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、膜厚285nmの薄膜を得た。得られた薄膜の屈折率は1.805、ヘイズ値0.2であった。
【0086】
[比較例1]
リン修飾金属酸化物ゾル1の代わりにリン修飾金属酸化物ゾル3を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行ったところ、基板上の塗膜は全て除去されて薄膜は形成されなかった。
【0087】
[比較例2]
リン修飾金属酸化物ゾル1の代わりにリン修飾金属酸化物ゾル4を用いた以外は実施例1と同様の操作を行ったところ、基板上の塗膜は全て除去されて薄膜は形成されなかった。
【0088】
実施例1〜3のように本願のリン修飾金属酸化物ゾルであれば、UV照射で硬化して薄膜が形成でき、アルカリ溶液につけても基板から剥がれないことが分かる。即ち、フォトマスクを用いて微細模様の薄膜を現像することが容易であることが分かる。比較例1及び2のように光重合性官能基を有しないリン修飾金属酸化物ゾルではUV照射で硬化せず、微細模様の薄膜の現像が出来ないことが分かる。
【実施例4】
【0089】
下記表1の温度のホットプレート上で、実施例1で得られた薄膜を5分間加熱した後、屈折率の測定を行った。その結果を表1に示す。
【表1】
【実施例5】
【0090】
下記表2の温度のホットプレート上で、実施例2で得られた薄膜を5分間加熱した後、屈折率の測定を行った。その結果を表2に示す。
【表2】
【実施例6】
【0091】
実施例3で得られた薄膜に、ピークが370nmであり、200nm以上の連続したスペクトルの光を発するパルスドキセノンランプ(岩崎電気株式会社製PXL2000L−2ES2)を用いて下記表3の照射量を照射した後、屈折率の測定を行った。その結果を表3に示す。
照射量は、波長254nmにおける照度を照度計(岩崎電気株式会社製 UVPX−G2K)で測定し、照度と照射時間(秒数)の積で計算した。
【表3】
【0092】
実施例4及び5において、加熱することで薄膜の屈折率を調節できることが分かり、実施例6において光を照射することで薄膜の屈折率を調節できること、およびPET樹脂基板に対しては、熱損傷が少ないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の製法は、高屈折率の薄膜を微細構造にパターンニングすることが容易であるうえ、フラットパネルディスプレー、光学センサー、集積光学回路、及び発光ダイオード等、半導体デバイスの形成、タッチパネル等のインデックスマッチング及び反射防止膜の高屈折層等、光学材料の製造に有用である。