特許第6450317号(P6450317)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6450317
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】DHA及びEPAを含む軟カプセル
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/202 20060101AFI20181220BHJP
   A61K 35/60 20060101ALI20181220BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20181220BHJP
   A61K 31/355 20060101ALI20181220BHJP
   A61K 31/36 20060101ALI20181220BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20181220BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20181220BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20181220BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20181220BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20181220BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20181220BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20181220BHJP
   A61K 36/899 20060101ALI20181220BHJP
   A61K 36/55 20060101ALI20181220BHJP
   A61K 36/535 20060101ALI20181220BHJP
   A61K 36/63 20060101ALI20181220BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20181220BHJP
【FI】
   A61K31/202
   A61K35/60
   A61K9/48
   A61K31/355
   A61K31/36
   A61P9/00
   A61P3/06
   A61P29/00 101
   A61P27/02
   A61P25/28
   A61P43/00 121
   A61K47/44
   A61K36/899
   A61K36/55
   A61K36/535
   A61K36/63
   A61K36/185
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-539453(P2015-539453)
(86)(22)【出願日】2014年9月30日
(86)【国際出願番号】JP2014076042
(87)【国際公開番号】WO2015046563
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2017年9月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-204885(P2013-204885)
(32)【優先日】2013年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 秀爾
【審査官】 磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−073749(JP,A)
【文献】 特表2005−535733(JP,A)
【文献】 特開平10−101550(JP,A)
【文献】 特開平08−134026(JP,A)
【文献】 DHA&EPA+セサミンE,サントリーウェルネス[Online],2013年 8月23日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/202
A61K 9/48
A61K 31/355
A61K 31/36
A61K 35/60
A61K 36/185
A61K 36/535
A61K 36/55
A61K 36/63
A61K 36/899
A61K 47/44
A61P 3/06
A61P 9/00
A61P 25/28
A61P 27/02
A61P 29/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟カプセル1粒当たりにドコサヘキサエン酸75mg以上と、エイコサペンタエン酸とを含有する魚油を含み、さらに、常温で液状の魚油以外の油を含む、カプセル皮膜以外の重量が220mg〜260mgの軟カプセルの製造方法であって、
ドコサヘキサエン酸の含有率が50%〜60%及びエイコサペンタエン酸の含有率が5%〜8%となるように濃縮された魚油と、エイコサペンタエン酸の含有率が15%〜30%である魚油と、これら以外の常温で液状の油とを混合すること、
混合した油を軟カプセルの皮膜で包んで、内容量(カプセル皮膜以外の重量)が、220mg〜260mgの軟カプセルとすること、
を含
軟カプセルが、常温で液状の魚油以外の油を、カプセル1粒当たり20mg〜60mg含む、上記方法。
【請求項2】
前記エイコサペンタエン酸の含有率が15%〜30%である魚油として、エイコサペンタエン酸の含有率が25%〜30%となるように濃縮された魚油を用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
軟カプセルが、1粒当たりにエイコサペンタエン酸を25mg以上含有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
軟カプセル全体の重量(内容量とカプセル皮膜の重量の合計)が、380mg〜420mgである、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
常温で液状の魚油以外の油が、米胚芽油、亜麻仁油、荏胡麻油、オリーブ油、胡麻油またはこれらのうちの2種以上の混合物を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
さらに、ビタミンEを混合することを含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
さらに、セサミンを混合することを含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドコサヘキサエン酸とエイコサペンタエン酸とを高濃度に含有し、さらに他の健康成分を含有する軟カプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
青魚などの魚油に含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)及びエイコサペンタエン酸(EPA)は、動脈硬化や高脂血症などの生活習慣病の予防効果や、学習機能の向上効果があることが知られている。厚生労働省による「日本人の食事摂取基準」(2010年版)(非特許文献1)によれば、18歳以上におけるEPA及びDHAの望ましい1日当たり摂取量は1g以上とされているが、近年の食の欧米化に伴い、日本人の青魚などの魚介類消費量は減少しており、EPA及びDHAの望ましい量を摂取している人は少なくなっている。このような状況に鑑み、DHAやEPAを含有するサプリメントが市販されている。サプリメントには、ドリンク剤、錠剤、顆粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤など多様な形態のものがあるが、携帯や保管に便利であり、また一定量の健康成分を簡便に摂取できる錠剤やカプセル剤はサプリメントの主流となっている。DHAやEPAのサプリメントに関しては、DHAやEPAが常温で液状の魚油に含まれる成分であり、魚油独特の匂いを発する可能性があること、また、酸化による劣化をうけやすく、加工の段階で失われる可能性があることから、複雑な工程を経ずにDHA・EPA含有魚油をそのまま封じ込めることができる軟カプセルの形態が好適である。出願人は、軟カプセル4粒に、DHA300mg、EPA100mgと、ゴマに含まれる希少な健康成分であるセサミン及び抗酸化作用のあるビタミンEとを含むサプリメント(カプセル1粒当たりの重量415mg)を製造、販売しており、2012年2月末時点で累計100万人以上といった多くのお客様にご愛飲いただいている。出願人は、上記のサプリメントのさらなる健康機能の向上にむけて鋭意検討を継続している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】厚生労働省「日本人の食事摂取基準」(2010年版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サプリメントは、一般に、日々継続して摂取することにより、体質等の改善がみられるものであるが、そのように日々継続して摂取するためには、消費者が服用しやすいこと(液剤、小粒の錠剤またはカプセルなど)、持ち運びや保管に便利であること(錠剤、カプセルなど)、価格が高くないことなどは、望ましい要素の1つであるといえる。また、錠剤やカプセルの場合、健康成分の所望の量をできるだけ少ない粒数で摂取できるものは、日々の飲みやすさの観点から望ましいといえる。また、サプリメントの愛用者の中には1日に数種類ものサプリメントを、何粒も(例えば10粒以上)服用する場合もあるが、1粒のサプリメント中に、より多くの種類の健康成分を、より多くの量含むものがあれば、1日に服用するサプリメントの数(種類)や粒数を減らすことができる場合もあると考えられ、望ましいと考えられる。
【0005】
このような状況に鑑み、出願人は、上記のサプリメント(軟カプセル)において、現在含まれている健康成分(4粒当たりDHA300mg、EPA100mg、セサミン、ビタミンE)の量はそのままで、さらに新たな健康成分を加えることを検討した。
【0006】
DHAやEPAは、常温で液状の油(精製魚油)として得られるものであって、一定の容量(体積)を有するものであるから、軟カプセルといったある特定の容量を有するいわば「容器」の中に、既存の製品のDHA及びEPAの量を維持しつつ、さらに他の健康成分(特に油のような一定の容量を持つもの)を加えることは容易ではない。カプセルのサイズを大きくすれば可能ではあるが、消費者が服用しにくくなるため、好ましくない。
【0007】
本発明は、カプセルのサイズを大きくすることなく、既存の製品に含まれるDHA、EPAの量は維持しながら、さらに他の健康成分(特に油のような一定の容量を持つもの)を軟カプセル中に封入して、軟カプセルのサプリメントとしての価値を高めること、または、飲みやすさ(大きさ、1日当たり粒数)を維持しつつ健康機能を高めることのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、まず、精製魚油に含まれるDHA及びEPAの濃縮を試みたが、これらはいずれかを濃縮するともう一方の濃度が低減する傾向があることが判った。そのため、例えば、4粒当たりにDHA300mg、EPA100mg、さらに他の健康成分を含有する軟カプセルを、カプセルのサイズを現行品より大きくすることなく製造することは困難であった。特にEPAは、最高でも含有率30%程度の精製魚油が得られるのみであり、所望の量のEPAを含有する魚油を軟カプセル中に封入しようとすると、EPA精製魚油のみで軟カプセルの容量の多くを占めることとなり、DHAや他の健康成分を特定量で封入することが困難であった。しかしながら、鋭意検討を進めた結果、DHAを特定の濃度にまで濃縮した精製魚油中には、一定量のEPAが含まれることを見出し、このDHA濃縮精製魚油を、EPA精製魚油と組み合わせることで、軟カプセルの形状を大きくすることなく、DHAとEPAを目標の量(例えば、4粒当たりそれぞれ300mg及び100mg)で含み、さらに他の健康成分(例えば油のような一定の容量を有する成分)も含む軟カプセルを製造できることを見出した。本発明は、以下の態様を含む。
1.軟カプセル1粒当たりにドコサヘキサエン酸75mg以上と、エイコサペンタエン酸とを含有する魚油を含み、さらに、常温で液状の魚油以外の油を含む、カプセル皮膜以外の重量が220mg〜260mgの軟カプセルの製造方法であって、
ドコサヘキサエン酸の含有率が50%以上となるように濃縮された魚油と、エイコサペンタエン酸の含有率が15%以上である魚油と、これら以外の常温で液状の油とを混合すること、
混合した油を軟カプセルの皮膜で包んで、内容量(カプセル皮膜以外の重量)が、220mg〜260mgの軟カプセルとすること、
を含む、上記方法。
2.前記エイコサペンタエン酸の含有率が15%以上である魚油として、エイコサペンタエン酸の含有率が25%以上となるように濃縮された魚油を用いる、上記1の方法。
3.軟カプセルが、1粒当たりにエイコサペンタエン酸を25mg以上含有する、上記1または2の方法。
4.ドコサヘキサエン酸の含有率が50%以上となるように濃縮された魚油が、エイコサペンタエン酸を5%以上の含有率で含む、上記1〜3のいずれか1の方法。
5.軟カプセル全体の重量(内容量とカプセル皮膜の重量の合計)が、380mg〜420mgである、上記1〜4のいずれか1の方法。
6.常温で液状の魚油以外の油が、米胚芽油、亜麻仁油、荏胡麻油、オリーブ油、胡麻油またはこれらのうちの2種以上の混合物を含む、上記1〜5のいずれか1の方法。
7.軟カプセルが、常温で液状の魚油以外の油を、カプセル1粒当たり20mg以上含む、上記1〜6のいずれか1の方法。
8.軟カプセルが、常温で液状の魚油以外の油を、カプセル1粒当たり20〜60mg含む、上記7の方法。
9.さらに、ビタミンEを混合することを含む、上記1〜8のいずれか1の方法。
10.さらに、セサミンを混合することを含む、上記1〜9のいずれか1の方法。
11.1粒当たりにドコサヘキサエン酸75mg以上、エイコサペンタエン酸25mg以上、及びγ−オリザノールを含む、1粒当たりの重量が380mg〜420mgである軟カプセル。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、1粒当たりのサイズ、ならびに1粒に含まれるDHA及びEPAの量を維持しながら、さらに追加の健康成分(常温で液状の油の形態の健康成分)を軟カプセル中に含有させることができ、軟カプセルのサプリメントとしての価値を高めることができる。具体的には、1粒当たりのサイズが、比較的小さいので服用しやすく、また、DHAとEPAに加えて追加の健康成分を含むので、さらなる健康効果が期待できる。また、1粒当たりの健康成分の含有量が高いので、1日当たりの服用粒数が、比較的少なくて済む(目安として4粒)。サプリメントが多種類の健康成分を含むことは、健康を志向する消費者にとって利益である。また、1日当たり服用粒数が少なくて済むことは、消費者が手軽に服用できるという利点に加え、通常、1ヶ月単位などで容器に詰められて販売されるサプリメントにおいて、商品(例えば1ヶ月分のサプリメントを入れた容器)の大きさが大きくならずに済み、消費者と販売者の双方にとって運搬や保管の際に利点があるといえる。また、サプリメントしての役割を考えると、サプリメントの摂取による健康成分以外の成分の摂取はできるだけ少ない方が望ましいといえるところ、1日当たりに服用する軟カプセルの粒数が少なければ、その分、カプセルの皮膜などの健康成分以外の成分の1日当たりの摂取量が減ると考えられ、好ましいと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、特定の量以上のドコサヘキサエン酸及びエイコサペンタエン酸を含む魚油を含有し、さらにこの魚油以外の常温で液状の油を含有する、カプセル皮膜以外の重量(すなわち、カプセル中に含まれる液量)が220mg〜260mgの軟カプセルを製造する方法に関する。本発明の方法は、ドコサヘキサエン酸の含有率が50%以上となるように濃縮された油を用いることを特徴の1つとする。
【0011】
(ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸)
ドコサヘキサエン酸(DHA)は、分子式C2232の不飽和脂肪酸である。エイコサペンタエン酸(EPA)は、分子式C2030の不飽和脂肪酸である。これらはいずれも魚油中に多く含まれることが知られている(例えば、イワシ油:DHA12%、EPA17%、マグロ油:DHA25%、EPA7%、カツオ油:DHA24%、EPA5%、サケ油:DHA14%、EPA9%)。本発明では、容量の限定された軟カプセル中に、特定量以上のDHA及びEPAを配合するために、これらをそれぞれ特定濃度以上とした魚油を組み合わせて用いる。具体的には、DHAの含有率が50%以上となるように濃縮された魚油と、EPAの含有率が15%以上である魚油とを組み合わせる。なお、本発明において、DHA及びEPAの含有量は、遊離脂肪酸としてのDHA及びEPAの量のみではなく、トリグリセリド、ジグリセリド、またはモノグリセリドの形態にあるDHA及びEPAの量(遊離脂肪酸量に換算する)も含むものとする。魚油中のDHA及びEPAのそれぞれの含有率または含有量は、以下の実施例に詳細を示すように、GC(ガスクロマトグラフィー)を用いて測定することができる。
【0012】
魚油中のDHAやEPAを濃縮する方法については例えば、基質特異性のあるリパーゼを用いて、所望の脂肪酸以外の脂肪酸を除去する方法が挙げられ、そのような方法については種々報告されている(例えば、特開平8−214891号公報、特開2002−136298号公報、特許第4530311号、特許第5204776号、特開2013−55893号公報)。本発明では、いずれかの方法で所望の濃度とした精製魚油を用いることができる。DHAやEPAは酸化されやすい成分であるから、魚油としては、新鮮な魚から得られた油を用いることが重要である。魚の種類は特に限定されないが、マグロ、カツオ、イワシ、サバ、サンマ、アジ、イカ、タラなどから得られる油は、DHAやEPAを豊富に含むので好ましい。
【0013】
EPA精製魚油としては、EPAの含有率が15%以上であるものを用いる。好ましくは、EPAの含有率を25%以上に濃縮した魚油(EPA精製濃縮魚油)を用いる。本発明において、EPA精製魚油としては、精製品または濃縮精製魚油を適宜用いることができる。EPA濃縮精製魚油中の上限値は特に制限されないが、上記の方法によって精製したEPA濃縮精製魚油中のEPAの含有率は、最高でも30%程度であると考えられる。所定の容量の軟カプセル中に、所定量のEPAを含有させるためには、DHAの濃度を高めるように精製した魚油(DHA濃縮精製魚油)中に含まれるEPAも考慮に入れる必要がある。DHA濃縮精製魚油中のDHA含有率は、75%程度まで高められたものも存在する。しかしながら、DHAを高濃度に濃縮し過ぎると、DHA濃縮精製魚油中に含まれるEPAの濃度が低下して、軟カプセル中に必要な量のEPAをDHA濃縮精製魚油から補うことが困難となる。また、DHAを高濃度に濃縮した魚油はコストが高い。DHAの含有率の上限としては、70%程度、好ましくは60%程度までのものがよいであろう。特に、DHAの含有率が50%〜60%の範囲となるように濃縮されたDHA濃縮精製魚油中には、含有率で5%以上、好ましくは5%〜8%程度のEPAも残存しており、EPA精製魚油からのEPAと組み合わせることで、軟カプセル中に含有させるEPAの所定量を達成することができる。中でも、DHAの含有率が53%〜58%の範囲であり、および/または、EPAの含有率が6.5%〜7%の範囲のDHA濃縮精製魚油を好適に用いることができる。
【0014】
DHA濃縮精製魚油と、EPA精製魚油とは、必要に応じて100メッシュ〜120メッシュ程度の網を通過させて、適度な温度に保ちながら、撹拌混合すればよい。温度は、高すぎるとDHA及びEPAが劣化するおそれがある。好ましくは、30〜40℃の範囲である。また、撹拌は、魚油中にできるだけ酸素を巻き込まないように行うべきであり、窒素を吹き込みながら行うのが好ましい。
【0015】
本発明の軟カプセル中には、1粒当たり、DHA75mg以上を含有させ、さらに、好ましくはEPA25mg以上を含有させる。これは、軟カプセル4粒で、DHA300mg、EPA100mgとなる量である。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」(2010年版)によれば、18歳以上におけるEPA及びDHAの望ましい1日当たり摂取量は1g以上であるが、EPA及びDHAの摂取量の最も少ない群(18〜29歳の女性)では1日当たり摂取量が188mgであり、最も多い群(70歳以上の男性)でも775mgである。EPA及びDHAは、現状、各世代の男女において1日当たり所望量に達していない。本発明の軟カプセルは、EPA及びDHAの摂取を補助する役割を果たす。なお、EPA及びDHAの1日当たりの摂取量の上限値は、「日本人の食事摂取基準」(2010年版)では算定されていない。しかしながら、どのような物質であれ、極端な大量摂取は健康障害を引き起こす可能性があるから、適度な量を保って摂取することが大切である。
【0016】
DHA、EPAを日々適度な量で摂取することにより、心血管リスク低減、中性脂肪低下作用、関節リウマチ症状緩和作用、加齢黄斑変性症発生リスク低減、認知機能低下抑制効果等の幅広い効能が得られることが知られている。
【0017】
(魚油以外に添加する成分)
本発明の軟カプセルには、上記のDHA、EPAを含有する魚油に加えて、魚油以外の常温で液状の油、特に健康機能を有するものをさらに配合する。本発明では、特定の濃度にまで凝縮したDHA濃縮精製魚油を、EPA精製魚油と組み合わせることにより、一定の容量を有する軟カプセル中にDHAとEPAとを所定量以上含有させつつ、さらに、他の健康機能を有する油も追加できることを見出した。
【0018】
本発明の軟カプセル中に配合するのに適する常温で液状の油としては、健康機能を有するものであれば特に限定されず、例えば、米胚芽油、亜麻仁油、荏胡麻油、オリーブ油、胡麻油、またはこれらを混合したものなどが挙げられる。米胚芽油は、好ましい油の1つである。米胚芽油は、米の胚芽から抽出された脂肪油であり、通常、1.0〜1.5w/w%程度のγ−オリザノールを含むと言われている。米胚芽油は、例えば、γ−オリザノールを1.2〜1.5w/w%含有するオリザオイルS−1(一丸ファルコス株式会社)、γ−オリザノールを1.0〜1.5w/w%含有する米胚芽油PRO−15(築野食品工業株式会社)等の名称で市販されている。
【0019】
本願明細書において、γ−オリザノールとは、フェルラ酸にトリテルペンアルコール又はステロールがエステル結合したものの総称を指し、トリテルペンアルコールとしては、例えば、シクロアルテノール、2,4−メチレンシクロアルタノール、シクロアルタノール、シクロブラノール等を挙げることができ、ステロールとしては、例えば、カンペステロール、スチグマステロール、β−シトステロール等を挙げることができる。γ−オリザノールは、これらの化合物の混合物であってもよいし、単独の化合物であってもよい。γ−オリザノールには、血中中性脂質低下作用(Geriant. Med. 19, 1812-1840, 1981)、内分泌・自律神経調節作用(日薬理誌、75(4)、399-403, 1979)、胃粘膜保護作用(日薬理誌、84(6)、537-542, 1984)などの様々な生理作用が知られており、精製されたものは高脂血症治療剤や心身症(更年期障害、過敏性大腸症候群)治療剤などの医薬品として認可されている。γ−オリザノールの定量法としては、UV吸光度法やHPLC法等の公知の方法を適宜用いることができる。例えば、「医薬部外品原料規格」や「化学的合成品以外の食品添加物自主規格」に記載されている通り、サンプルをヘプタンに溶解し、315nm付近における吸収の極大波長で吸光度を測定することにより定量することができる。
【0020】
米胚芽油は、γ−オリザノールを濃縮したものを用いても良い。濃縮油中のγ−オリザノールの含有量は、2w/w%以上が好ましく、30w/w%以上がより好ましい。このようなγ−オリザノールの濃縮油は、工業的には、有機溶剤で抽出するか、または樹脂処理後に精製することにより得ることができ、米胚芽油ガンマ30(築野食品工業株式会社)や、γ−オリザノール、オリザドリムV−50、コメヌカ油、玄米胚芽油(オリザ油化株式会社)として入手可能である。
【0021】
軟カプセル中の米胚芽油の含有量は、米胚芽油または米胚芽油濃縮物に特徴的に含まれるステロールの含有量、及び各種ステロールの含有比率を指標として測定することができる。
【0022】
米胚芽油の好ましい配合量は、本発明の軟カプセル1粒当たりに、1〜40mgであり、さらに好ましくは1〜20mg、最も好ましくは5〜10mgである。γ−オリザノールの好ましい配合量は、本発明の軟カプセル1粒当たりに、0.3〜12mgであり、さらに好ましくは0.3〜6mg、最も好ましくは1.5〜3mgである。
【0023】
米胚芽油などの、常温で液状の魚油以外の油は、合計で、本発明の軟カプセル1粒当たりに、好ましくは、20mg以上配合することができる。さらに好ましくは、20〜60mg、さらに好ましくは40〜60mgである。このような油は、DHA濃縮精製魚油とEPA精製魚油とを混合する際に共に混合することができる。
【0024】
本発明の軟カプセル中には、DHA及びEPAを含有する魚油と、上記の常温で液状の油以外にも、他の油溶性の健康成分や、抗酸化剤などを添加してもよい。このような成分としては、例えば、セサミン、エピセサミン、セサミノール、エピセサミノール、セサモリン等のセサミン類、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロール、ε−トコフェロール、ξ−トコフェロール、η−トコフェロール、トコフェロールエステル(酢酸トコフェロール等)のトコフェロール類、β−カロチン、カンタキサンチン、アスタキサンチン等のカロテノイド類、フラボン誘導体、フィロズルシン類、コウジ酸、没食子酸誘導体、カテキン類、フキ酸、ゴシポール、ピラジン誘導体、セサモール、グァヤオール、グァヤク酸、p−クマリン酸、ノールジヒドログァヤテッチク酸、ステロール類、テルペン類、核酸塩基類、リグナン類などの天然の抗酸化成分、及びアスコルビン酸パルミチン酸エステル、アスコルビン酸ステアリン酸エステル、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、モノ−t−ブチルヒドロキノン(TBHQ)、4−ヒドロキシメチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール(HMBP)に代表されるような合成抗酸化剤が挙げられる。特に、セサミン類は、好ましい化合物の一種である。
【0025】
セサミン類は、ゴマに含有されるリグナン化合物の一種であり、血中コレステロール低下作用及び血中中性脂質低下作用、肝機能改善作用、活性酸素消去作用、Δ5不飽和化酵素阻害作用、過酸化脂質生成抑制作用、抗高血圧作用、悪酔防止作用、乳癌抑制作用等の種々の生理活性が報告されている。本願明細書において、セサミン類とは、セサミン及びその類縁体を含む一連の化合物の総称である。例えば、上記のセサミン、エピセサミン、セサミノール、エピセサミノール、セサモリン等が含まれ、これらの立体異性体又はラセミ体を単独で、または混合して用いることができる。また、セサミン類の代謝体(例えば、特開2001−139579号公報に記載)も、効果を有する限り、本願明細書におけるセサミン類として使用することができる。セサミン類は、その形態や製造方法等によって何ら制限されない。例えば、セサミンを選択した場合には、市販の胡麻油(液状)をそのまま用いることもできるし、胡麻油から公知の方法(例えば、特開平4−9931号公報に記載された方法)によって抽出したセサミン(セサミン抽出物または濃縮物という)を用いることもできる。後者の方が、必要量をカプセル中に含有させやすく、消費者にとって摂取しやすいので好ましい。セサミン抽出物(またはセサミン濃縮物)は、公知の手段、例えば活性白土処理等により無味無臭としてもよい。セサミン類の濃縮物における濃縮の度合いは、用いるセサミン類の種類などに応じて適宜設定すればよいが、通常、セサミン類が総量で1w/w%以上となるように濃縮されたセサミン類濃縮物を用いるのが好ましい。セサミン類濃縮物中のセサミン類総含量は、20w/w%以上がより好ましく、さらに50w/w%以上が好ましく、さらに70w/w%以上が好ましく、90w/w%以上まで濃縮(精製)されたものが最適である。セサミン類の含有量は、HPLC法等の公知のいずれかの方法を用いて測定できる。HPLC法に関しては、例えば、特開2009−155312号公報に記載の方法等を参考にすることができる。
【0026】
出願人は、セサミン類とビタミンE(トコフェロール類)とを組み合わせることにより、相乗的な抗疲労効果が得られることを見出している(国際公開第2009/038089号明細書)。したがって、本発明の軟カプセル中に、セサミン類とビタミンEとの組合せをさらに配合することは好ましい。
【0027】
また、出願人は、セサミン類とともに、γ−オリザノール(米胚芽油に含まれる)を併用することで、セサミン類の生理作用、例えば、抗疲労作用が顕著に高まることを見出した(特開2009−073749号公報)。更に、出願人は、セサミン類を、γ−オリザノール(米胚芽油に含まれる)と組み合わせることにより、セサミン類の体内吸収が促進されることを見出し、出願を行った(特願2012−135034号(国際公開第2013/187391号参照))。したがって、本発明の軟カプセル中に、セサミン類とγ−オリザノール(または米胚芽油)との組合せを配合することは好ましい。
【0028】
したがって、本発明の軟カプセル中に含有させる最も好ましい例としては、DHA及びEPAを含有する精製魚油、米胚芽油(γ−オリザノールを含む)、セサミン類、及びビタミンEの組み合わせが挙げられる。セサミン類の好ましい配合量は、本発明の軟カプセル1粒当たりに、0.1〜10mgであり、さらに好ましくは1〜5mgである。ビタミンEの好ましい配合量は、本発明の軟カプセル1粒当たりに、0.35〜20mgであり、さらに好ましくは7〜18mg、最も好ましくは7〜11mgである。
【0029】
セサミン類やビタミンEは、粉末の状態のものを、魚油と魚油以外の液状の油とを混合する際に添加して、これらの油中に溶解させてもよいし、あるいは、油の混合工程の前に、予め、魚油および/または魚油以外の油中に溶解させておいてもよい。例えば、ビタミンEは、ビタミンE含有オイルとして市販されている。ビタミンE含有オイルの好ましい配合量は、オイル中のビタミンEの含有率にもよるが、例えば、本発明の軟カプセル1粒当たりに1〜50mgであり、さらに好ましくは20〜50mg、最も好ましくは30〜50mgである。
【0030】
(軟カプセル)
軟カプセルは、日本薬局方に規定されるように、「有効成分に添加剤を加えたものを、グリセリン又はD−ソルビトールなどを加えて塑性を増したゼラチンなどの適切なカプセル基剤で、一定の形状に被包成形」したものをいう。カプセル基材(カプセル皮膜の材料)や、カプセル化の方法は、特に限定されず、通常の材料及び方法を用いればよい。例えば、日本薬局方に規定されるように「グリセリン又はD−ソルビトールなどを加えて塑性を増したゼラチン」を皮膜の材料として用いればよく、また、打ち抜き法(ロータリーダイ)などを用いてカプセル皮膜の成形と内容物の充填とを行えばよい。
【0031】
軟カプセルの形状や大きさは特に限定されず、カプセル内容物の量や、消費者の飲み込みやすさを考慮して設定する。軟カプセルの形状には、楕円形(オーバル)、長楕円形(オブロング)、球形(ラウンド)、なみだ形、特殊形(三角形、ハート形、ひし形等)などがあるが、なみだ形(しずく形と呼ばれることもある)の形状は、飲み込みやすく、また、容器から出した際に転がりにくいなど、消費者にとって扱いやすいと考えられるため、好ましい。軟カプセルの大きさは、飲みやすさを考慮すると、長径が17mm以下、短径が8mm以下程度であることが好ましい。軟カプセルの大きさ(長径、短径)の下限値は、カプセル内容物の量によって異なる。
【0032】
本発明の軟カプセル1粒当たりに含まれる内容物の量(カプセル皮膜以外の重量)は、220mg〜260mgの範囲内とする。内容量が少なければ、健康成分の所望の量を1日当たりカプセル4粒で摂取する事が困難となるし、また、内容量が多すぎると、カプセルの全体の大きさが大きくなりすぎて、消費者が飲み込みにくくなるから好ましくない。軟カプセル1粒当たりの全体の重さ(内容物の量とカプセル皮膜の重量の合計)は、限定されないが、健康成分の所望量、飲み込みやすさ、及びカプセル皮膜の強度等を考慮すると、380mg〜420mg程度がよい。
【0033】
本発明の軟カプセルは、ボトル容器などに詰めた後に、機能に関する表示を付して提供してもよい。機能の表示の方法には特別制限はないが、食品の包装、容器の面、食品の説明書、食品の広告等への表示が例示できる。本発明の軟カプセルが有する機能の例は、心血管リスク低減、中性脂肪低下作用、関節リウマチ症状緩和作用、加齢黄斑変性症発生リスク低減、認知機能低下抑制効果等が挙げられる。
【0034】
以下に実施例に基づいて本発明の説明をするが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
(参考例)
濃縮度合いの違いによるDHA濃縮精製魚油中のDHA含有率とEPA含有率の違いを表1に示す。魚油はマグロの頭部から採取し、リパーゼを用いてDHA以外の脂肪酸を除去する方法によりDHAを濃縮した。
【0036】
なお、魚油中のDHA及びEPAの量は、以下の方法に従って測定した:
A.試料の前処理
魚油が軟カプセル中に含まれる場合には、中味液を注射針付きシリンジ等で取り出し、測定に供した。
【0037】
試料約50mgを50ml共栓付平底フラスコに正しく量り取り、N/2水酸化ナトリウム−メタノール溶液6mlを加え、還流冷却器を付けて水浴上で30分間沸騰させた後、三フッ素ホウ素メタノール錯体−メタノール溶液7mlを冷却器上部から加え、5分間沸騰させた後、更にヘキサン5mlを冷却器上部から加え、1分間沸騰させた。加熱を止め、フラスコを冷却器から外し、冷後ヘキサン層がフラスコの首に達するまで塩化ナトリウム飽和水溶液を加えた。約1mlのヘキサン溶液を試験管に移し少量の硫酸ナトリウム(無水)を加え、脱水したものを試料溶液とした。
【0038】
B.ガスクロマトグラフィー条件・カラム:J&W Scientific DB−WAX 30m×0.25mmI.D.,0.25μm
・検出器:FID
・キャリアーガス:He(1.5ml/min)
・カラム温度:140℃(1min)→3℃/min→230℃(30min)
・注入口温度:270℃
・検出器温度:270℃
・試料溶液注入量:3μl
C.計算方法および表示
ピーク面積の総和(溶媒のピーク面積は除く)に対するDHAおよびEPAのそれぞれのピーク面積の百分率をもって、脂肪酸組成中のDHA含量(%)およびEPA含量(%)とした。
【0039】
【表1】
(実施例1)
前述の魚油を使い、以下の表2に示す組成(軟カプセル1粒当たり、単位mg)に従って加温下で撹拌混合し、軟カプセル用の内容物を調製した。EPA濃縮精製魚油としては、市販の精製濃縮魚油を用いた。ビタミンE含有オイルおよび米胚芽油についても市販品を用いた。
【0040】
【表2】
別に、ゼラチン100重量部および食添グリセリン30重量部に水を加え、50〜60℃で溶解し、軟カプセル皮膜用基材を調製した。
【0041】
これらを用いて、ロータリーダイにより、なみだ形の軟カプセルを製造した。得られた軟カプセル1粒当たりの皮膜の重量は、いずれも160mgであった(ゼラチン123mg、グリセリン37mg)。軟カプセル全体の重量(1粒当たり)は、参考品が398mg、本発明品が395mgであり、大きさは、いずれも、長径15mm、短径7mmであった。
【0042】
参考品と本発明品とは、いずれも、4粒当たりにDHAを300mg以上、EPAを100mg以上、セサミンを10mg以上、ビタミンEを40mg以上含んでいた。これらに加えて、本発明品は、さらにγ−オリザノールを10mg以上含んでいた。
【0043】
本発明品では、DHAの含有率が50%以上となるように濃縮された魚油を、EPA精製魚油と組み合わせることにより、参考品に対してカプセル1粒当たりの重量を大きくすることなく、参考品と同程度の量のDHA、EPAに加えて、さらに米胚芽油(健康成分であるγ−オリザノールを含む)を軟カプセル中に含有させることができた。
【0044】
(実施例2)
前述の魚油3を用い、以下の表3に示す組成(軟カプセル1粒当たり、単位mg)に従って、内容物重量が220〜260mgで、製剤重量が380〜420mgの軟カプセルを製造した。EPA精製魚油、ビタミンE含有オイルおよび米胚芽油は市販品を用いた。製造方法は、実施例1に準じた。
【0045】
得られた軟カプセルは、いずれも、4粒当たりにDHAを300mg以上、EPAを100mg以上含んでいた。また、液状の魚油以外の油を、カプセル1粒当たり約20〜60mg程度含んでおり、それでいて、服用しやすい大きさであった。
【0046】
【表3】