特許第6450595号(P6450595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6450595移動体制御装置、移動体制御方法、および移動体制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6450595
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】移動体制御装置、移動体制御方法、および移動体制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/42 20060101AFI20181220BHJP
【FI】
   B63H25/42 G
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-230(P2015-230)
(22)【出願日】2015年1月5日
(65)【公開番号】特開2016-124424(P2016-124424A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】特許業務法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸本 和也
(72)【発明者】
【氏名】前野 仁
【審査官】 結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−173589(JP,A)
【文献】 特開2000−302098(JP,A)
【文献】 特開2014−24421(JP,A)
【文献】 特開2010−105551(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0191562(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 25/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水上または水中を移動する移動体の位置を検出する移動体位置検出部と、
特定の一方向に前記移動体を推進させる推進力発生部と、
該推進力により移動する方向を調整する移動方向調整部と、
前記移動体を定点に留める制御を行う制御部と、
を備えた移動体制御装置であって、
前記移動体を移動させる外乱の方向を推定する外乱方向推定部を備え、
前記外乱方向推定部は、前記定点と、前記移動体の位置と、のずれ量を求め、当該ずれ量の変化を累積した値である累積変化量に基づいて前記外乱方向を推定することを特徴とする移動体制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動体制御装置であって、
前記ずれ量は、前記定点を通る直線のうち前記外乱方向に平行する直線と、前記移動体の位置と、の距離であることを特徴とする移動体制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の移動体制御装置であって、
前記外乱方向推定部は、さらに、前記ずれ量の累積値に基づいて前記外乱方向を推定することを特徴とする移動体制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の移動体制御装置であって、
前記外乱方向推定部は、さらに、前記ずれ量の比例値に基づいて前記外乱方向を推定することを特徴とする移動体制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の移動体制御装置であって、
前記制御部は、前記特定の一方向が前記外乱の方向と反対の向きになるように、前記推進力発生部および前記移動方向調整部を用いて前記移動体の姿勢を制御することを特徴とする移動体制御装置。
【請求項6】
水上または水中を移動する移動体の位置を検出する移動体位置検出ステップと、
特定の一方向に前記移動体を推進させる推進力発生ステップと、
該推進力により移動する方向を調整する移動方向調整ステップと、
前記移動体を定点に留める制御を行う制御ステップと、
を実行する移動体制御方法であって、
前記移動体を移動させる外乱の方向を推定する外乱方向推定ステップを実行し、
前記外乱方向推定ステップは、前記定点と、前記移動体の位置と、のずれ量を求め、当該ずれ量の変化を累積した値である累積変化量に基づいて前記外乱方向を推定することを特徴とする移動体制御方法。
【請求項7】
水上または水中を移動する移動体の位置を検出する移動体位置検出ステップと、
特定の一方向に前記移動体を推進させる推進力発生ステップと、
該推進力により移動する方向を調整する移動方向調整ステップと、
前記移動体を定点に留める制御を行う制御ステップと、
をコンピュータに実行させる移動体制御プログラムであって、
前記移動体を移動させる外乱の方向を推定する外乱方向推定ステップを実行させ、
前記外乱方向推定ステップは、前記定点と、前記移動体の位置と、のずれ量を求め、当該ずれ量の変化を累積した値である累積変化量に基づいて前記外乱方向を推定することを特徴とする移動体制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶等の移動体を定常的に同じ位置に留めるための移動体制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一本釣り漁船等では、魚礁や瀬のような目的魚が多く生息する特定の位置に留まって漁を行う必要がある。すなわち、船舶を定点保持した状態で漁を行う必要がある。しかしながら、海上では、船体が風や潮流等からなる外乱を受けて、目的とする特定の位置から流されてしまうことがある。
【0003】
このため、従来、風や潮流を受けても船舶を定点に留める船体制御方法が各種考案されている。例えば、特許文献1に示す船舶では、サイドスラスターを備えている。サイドスラスターとは、船体を横方向、すなわち右舷左舷方向へ移動させるための機構である。また、従来の船舶には、このような横方向の移動を実現するために、水平方向に回動可能なプロペラを備えるものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−87389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の船体制御方法は、サイドスラスターが存在しない1軸1舵方式の船舶に用いることはできなかった。1軸1舵船において定点保持を行うためには、外乱に対して船尾または船首を向ける必要がある。
【0006】
外乱のうち、風については風向センサや風速センサを用いて直接測定することができるが、潮流の方向を直接測定することは困難であるため、結果として、外乱の方向を推定することは困難であった。
【0007】
この発明は、外乱の方向を推定し、定点保持を行う移動体制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、移動体の位置を検出する移動体位置検出部と、特定の一方向に前記移動体を推進させる推進力発生部と、該推進力により移動する方向を調整する移動方向調整部と、前記移動体を定点に留める制御を行う制御部と、を備えた移動体制御装置である。
【0009】
移動体制御装置は、前記移動体を移動させる外乱の方向を推定する外乱方向推定部を備え、前記外乱方向推定部は、前記定点と、前記移動体の位置と、のずれ量を求め、当該ずれ量の変化を累積した値である累積変化量に基づいて前記外乱方向を推定することを特徴とする。
【0010】
この発明では、進行方向またはその反対方向(後退方向)にのみ推進力を発生させる1軸1舵方式の移動体(例えば船舶)を想定している。1軸1舵方式では、自船の進行方向が外乱方向と反対の向きになるように、推進力発生部および移動方向調整部を制御して、船舶の姿勢を制御する必要がある。
【0011】
ずれ量は、定点と移動体の位置(自船の位置)との相対距離であってもよいが、定点を通る直線のうち外乱方向に平行する直線と、自船の位置と、の距離(以下、XTE:Cross Track Errorと言う。)とすることが好ましい。XTEが0となる場合、自船の進行方向が外乱方向と反対向きになって、定点に向かっている状態となる。
【0012】
そして、この発明の外乱方向推定部は、このXTEが0となるように、推定した外乱方向を補正する。特に、この発明の外乱方向推定部は、XTEの変化の累積値である累積変化量(すなわち、XTEの微分値をさらに積分したもの)に基づいて外乱方向を推定するため、例えば当該累積変化量が大きくなるほど、補正量を大きくする。すなわち、XTEが0(目標値)から遠ざかっている場合には、当該XTEの変化(微分値)は、正の値を示すため、その積分値が大きくなり、補正量が大きくなる。一方で、XTEが0(目標値)に近づいている場合には、XTEの変化(微分値)は負の値を示すため、補正量が小さくなる。したがって、この発明の外乱方向推定手法によれば、目標値への収束を速めながらも滑らかに近づけることができる。
【0013】
なお、外乱方向推定部は、さらに、ずれ量の累積値(積分値)に基づいて外乱方向を推定することも可能であるし、さらに、比例値に基づいて外乱方向を推定することも可能である。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、外乱の方向を推定することができるため、1軸1舵方式であっても、定点保持を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る船舶の主要構成を示すブロック図である。
図2】外乱方向の概念を説明するための図である。
図3】外乱方向の推定動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明の実施形態に係る船舶10の主要構成を示すブロック図である。船舶10は、船体制御装置20、動力源30、プロペラ31、および舵40を備える。
【0017】
船体制御装置20は、アンテナ21、測位部22A、センサ22B、制御部23、動力制御部24、舵制御部25、および操作部26を備えている。
【0018】
測位部22Aは、GPS等の位置検出部であり、本発明の「移動体位置検出部」に相当する。アンテナ21は、GPS測位信号を受信し、測位部22Aへ出力する。測位部22Aは、GPS測位信号を用いて測位演算を実行し、船舶10の位置を算出する。この測位演算は、予め設定した測位タイミング毎に実行される。測位部22Aは、算出した船舶10の位置を、制御部23へ出力する。
【0019】
センサ22Bは、風向を検知する風向センサである。センサ22Bは、検出した風向の情報を制御部23へ出力する。また、例えば、船首方向を検出するヘディングセンサ、風速センサ、潮流計等、さらに他のセンサ機構を備えていてもよい。
【0020】
制御部23は、機能的に(すなわち、ソフトウェア動作として)外乱方向推定部231を備えている。無論、外乱方向推定部231は、ソフトウェアではなく、別個独立したハードウェアにより構成されていてもよい。
【0021】
制御部23は、予め操作部26を介してユーザから受け付けた定点位置を記憶している。制御部23は、測位部22Aから出力された船舶10の位置と、受け付けた定点位置と、に基づいて、船舶10を定点位置に留まらせるように制御する制御情報を設定する。制御情報は、例えば、動力量の情報と推進方向の情報とからなる。動力量の情報は、動力制御部24へ出力される。推進方向の情報は、舵制御部25へ出力される。
【0022】
動力制御部24は、制御部23から入力された動力量の情報に基づいて、動力源30の駆動制御を行う。動力源30は、ディーゼルエンジンやモータからなる。また、動力源30は、これらディーゼルエンジンとモータの両方を備え、状況に応じて使い分けるハイブリッド動力機構であってもよい。動力源30は、発生した動力をプロペラ31に与える。これら動力源30およびプロペラ31は、本発明の「推進力発生部」に相当する。
【0023】
船舶10は、プロペラ31の推進力と、舵40の舵角によって、定点位置に留まるように、進行もしくは後退する。船舶10は、進行方向または後退方向にのみ推進力を発生させる1軸1舵方式の船舶である。1軸1舵方式では、自船の進行方向が外乱方向と反対の向きになるように、推進力発生部および移動方向調整部を制御して、船舶の姿勢を制御する必要がある。したがって、定点位置に留まるためには、外乱方向を推定することが重要である。本実施形態の船舶10は、外乱方向推定部231が当該外乱方向を推定する。
【0024】
図2は、外乱方向の概念を説明するための図であり、図3は、外乱方向の推定動作を示すフローチャートである。まず、図2を参照して、外乱方向の概念について説明する。ただし、図2においては、紙面上側を真北方向、紙面右側を真東方向として説明する。
【0025】
図2に示すように、外乱は、風による速度ベクトルと潮流による速度ベクトルの合成ベクトルからなる。この合成ベクトルの方向を外乱方向と称する。本実施形態の外乱方向推定部231は、定点位置Ppと、自船の位置P0のずれ量を求め、このずれ量の変化に基づいて、外乱方向を推定する。すなわち、外乱方向推定部231は、最初に推定した外乱方向(初期推定外乱方向)に対し、その時点のずれ量に基づいて、当該ずれ量が0になるように、当該推定した初期推定外乱方向を補正する処理を繰り返し行う。
【0026】
ずれ量は、定点位置Ppと自船の位置P0との相対距離であってもよいが、図2の例では、定点位置Ppを通る直線のうち外乱方向に平行する直線(以下、外乱対向ラインと称する。)と、自船の位置P0と、の距離であるXTEとする。XTEが0となる場合、自船の進行方向が外乱方向に対向した状態となり、定点位置Ppに向かっている状態となる。なお、図2の例では、外乱方向に対向した状態において右側を正とし、左側を負とする。
【0027】
外乱方向推定部231は、以下の数式1に示すように、初期推定外乱方向と、XTEに基づく補正値と、を差分して、新たな推定外乱方向を算出する。
【0028】
【数1】
【0029】
すなわち、外乱方向推定部231は、XTEの比例成分および積分成分に基づいて、初期推定外乱方向Ψを新たな推定外乱方向Ψに更新し、目標値(この例では、XTE=0)に収束させる処理を行う。なお、比例補正ゲインk、第1積分補正ゲインki1、および第2席分補正ゲインki2は、各項の重み付けを示す任意の値である。
【0030】
ここで、本実施形態の外乱方向推定部231は、数式1に示すように、XTEの積分項(Σ)内に、さらにXTEの微分項(d/dt)を含めることによって、目標値への収束を速く、かつ滑らかに近づけることができるものである。
【0031】
外乱方向推定部231は、XTEの積分項内に、さらにXTEの微分項を含めることによって、XTEの変化の累積値である累積変化量に基づいて外乱方向を推定することになる。この場合、当該累積変化量が大きくなるほど、補正量が大きくなり、当該累積変化量が小さくなるほど、補正量が小さくなる。
【0032】
例えば、XTEが目標値から遠ざかっていく場合には、当該XTEの変化(微分値)は、正の値を示す。したがって、当該微分値の積分値は大きくなるため、補正量が大きくなる。一方で、XTEが目標値に近づいていく場合には、当該微分値は負の値を示すため、その積分値は小さくなる。したがって、補正量は小さくなる。
【0033】
すなわち、当該外乱方向推定手法によれば、目標値から遠ざかるほど外乱方向が大きく補正され、一方で、目標値に近づくほど外乱方向の補正が小さくなるため、目標値への収束を速めながらも滑らかに近づけることができる。
【0034】
次に、図3のフローチャートを参照して、当該外乱方向の推定動作を説明する。まず、制御部23は、操作部26から、ユーザの定点位置設定の操作入力を受け付ける(S101)。定点位置が設定されると、外乱方向推定部231は、初期推定外乱方向Ψ0を設定する(S102)。例えば、真北を初期推定外乱方向として設定する。あるいは、その時点でセンサ22Bから検出した風向を初期推定外乱方向として設定してもよい。
【0035】
そして、外乱方向推定部231は、測位部22Aから船舶10の位置を入力し、S101で設定された定点位置Ppと、測位部22Aから入力した船舶10の位置と、に基づいてXTEを算出する(S103)。すなわち、図2に示したように、定点位置Ppを通る直線のうち初期推定外乱方向に平行する直線(外乱対向ライン)を設定し、当該外乱対向ラインと、自船の位置P0と、の距離をXTEとして算出する。
【0036】
その後、外乱方向推定部231は、算出したXTEと、上記数式1と、に基づいて、初期推定外乱方向を補正し、新たな推定外乱方向を算出する(S104)。最後に、S105において、処理が終了したと判断した場合(例えば、ユーザが操作部26を操作して、定点制御の解除を指示した場合)、動作を終える。
【0037】
外乱方向推定部231は、S105において処理が終了したと判断するまでは、XTEの算出(S103)および外乱方向の補正(S104)を繰り返し行う。
【0038】
制御部23は、外乱方向推定部231が推定した外乱方向に基づいて、動力制御部24および舵制御部25に、それぞれ動力量の情報と推進方向の情報を出力する。例えば、舵制御部25には、推定した外乱方向に自船の進行方向が対向するように、舵40の舵角を制御する情報を出力する。また、動力制御部24には、図2に示した外乱直交ライン(定点位置Ppを通る直線のうち外乱方向に直交する直線)に対し、自船の位置が後方に位置する場合には、推進力を発生させ、自船の位置が前方に位置する場合には推進力を停止させるための情報を出力する。
【0039】
これにより、船舶10は、外乱から受ける力を利用して定点位置Ppに近づくことになり、XTEが0に近づくことになる。
【0040】
なお、上述の説明では、各機能部は、ハードウェアである例を示したが、測位部22A、制御部23、動力制御部24、および舵制御部25は、ソフトウェアでも実現可能である。すなわち、これら機能部の処理をプログラム化して記憶媒体に記憶しておき、演算器(コンピュータ等)で当該船体制御のプログラムを読み出して実行することで、上述の処理を実現することが可能である。
【0041】
また、上述の説明では、移動体として船舶を例に示したが、特定方向への推進力のみを備える水上もしくは水中を移動する移動体(例えば、水陸両用車、水上バイク等)にも、上述の構成および処理を適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
10…船舶
20…船体制御装置
21…アンテナ
22A…測位部
22B…センサ
23…制御部
24…動力制御部
25…舵制御部
26…操作部
30…動力源
31…プロペラ
40…舵
231…外乱方向推定部
図1
図2
図3