特許第6450668号(P6450668)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6450668
(24)【登録日】2018年12月14日
(45)【発行日】2019年1月9日
(54)【発明の名称】土砂移動観測システム
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20181220BHJP
   G01C 7/02 20060101ALI20181220BHJP
【FI】
   E02D17/20 106
   G01C7/02
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-196834(P2015-196834)
(22)【出願日】2015年10月2日
(65)【公開番号】特開2017-66833(P2017-66833A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2017年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】390027177
【氏名又は名称】坂田電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 直之
(72)【発明者】
【氏名】後藤 知英
【審査官】 荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−145289(JP,A)
【文献】 特開2011−012516(JP,A)
【文献】 特開2005−337972(JP,A)
【文献】 特開2002−365046(JP,A)
【文献】 特開2007−024859(JP,A)
【文献】 特開2000−039342(JP,A)
【文献】 特開2012−198082(JP,A)
【文献】 特開2011−232119(JP,A)
【文献】 特開2012−088144(JP,A)
【文献】 特開2006−170843(JP,A)
【文献】 特開平11−295111(JP,A)
【文献】 特開2007−262851(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0141515(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/00−17/20
G01C 1/00−1/14
G01C 5/00−15/14
G01D 18/00−21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保全対象物への土砂の流入又は接近を観測するための土砂移動観測システムであって、
観測対象となる土砂に対して設置された移動体と、
前記移動体に内蔵された低周波電磁界信号の発信が可能な発信装置と、
前記発信装置から発信された前記低周波電磁界信号を検知する受信装置とを備え、
前記受信装置として、前記観測対象となる土砂の近辺に設置されたメンテナンス用受信装置と、前記保全対象物の近辺に設置された移動時用受信装置とが存在しており、前記メンテナンス用受信装置の検知範囲と前記移動時用受信装置の検知範囲とは離隔していることを特徴とする土砂移動観測システム。
【請求項2】
前記移動時用受信装置として、前記観測対象となる土砂の流下方向における前記保全対象物より上流側に設置された第1受信装置と、下流側に設置された第2受信装置とが存在していることを特徴とする請求項1に記載の土砂移動観測システム。
【請求項3】
前記移動体は、前記観測対象となる土砂の内部に埋設されるとともに、
前記移動体の大きさは、前記観測対象となる土砂の流下が生じた際に浮上して輸送されるように設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の土砂移動観測システム。
【請求項4】
前記移動体の大きさは、前記観測対象となる土砂の平均粒径を基準に設定されていることを特徴とする請求項3に記載の土砂移動観測システム。
【請求項5】
保全対象物への土砂の流入又は接近を観測するための土砂移動観測システムであって、
観測対象となる土砂に対して設置された移動体と、
前記移動体に内蔵された低周波電磁界信号の発信が可能な発信装置と、
前記発信装置から発信された前記低周波電磁界信号を検知する受信装置とを備え、
前記発信装置は、所定の間隔で前記低周波電磁界信号を発信させるためのメンテナンス用電源と、前記移動体の傾きが検知された際に前記低周波電磁界信号を発信させるための移動時用電源とを備えていることを特徴とする土砂移動観測システム。
【請求項6】
前記受信装置が前記低周波電磁界信号を検知した際に、前記保全対象物の近辺を撮影する確認用カメラを備えたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の土砂移動観測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線路や道路などの保全対象物への土砂の流入又は接近を観測するための土砂移動観測システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2に開示されているように、大雨などによって緩んだ斜面の土砂が崩壊して線路や道路に流入した場合に、その状況を検知して到達前の列車や自動車に報知するシステムが知られている。
【0003】
一方、特許文献3には、電波発信器が埋め込まれた石れきを、河川の石れきや土砂に紛れ込ませておくことで、土石の移動現象を観測することができる方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献4には、低い周波数の低周波信号を発信する低周波発振器を石れきなどの観測対象物に実装しておくことで、水中や土中での減衰量の少ない発信装置にできることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−101638号公報
【特許文献2】特許第5107765号公報
【特許文献3】特開平6−130077号公報
【特許文献4】特許第4027362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、鉄道においては、土砂の線路内への流入検知によって列車を一旦止めると、ダイヤの乱れが起きて後続列車にも影響を及ぼすことになるため、誤検知や誤報知のない正確な検知及び報知が望まれる。
【0007】
そこで、本発明は、誤検知や誤報知の起き難い構成の土砂移動観測システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の土砂移動観測システムは、保全対象物への土砂の流入又は接近を観測するための土砂移動観測システムであって、観測対象となる土砂に対して設置された移動体と、前記移動体に内蔵された低周波電磁界信号の発信が可能な発信装置と、前記発信装置から発信された前記低周波電磁界信号を検知する受信装置とを備え、前記受信装置として、前記観測対象となる土砂の近辺に設置されたメンテナンス用受信装置と、前記保全対象物の近辺に設置された移動時用受信装置とが存在しており、前記メンテナンス用受信装置の検知範囲と前記移動時用受信装置の検知範囲とは離隔していることを特徴とする。
【0009】
ここで、前記移動時用受信装置として、前記観測対象となる土砂の流下方向における前記保全対象物より上流側に設置された第1受信装置と、下流側に設置された第2受信装置とが存在している構成とすることができる。
【0010】
また、別の発明となる土砂移動観測システムは、保全対象物への土砂の流入又は接近を観測するための土砂移動観測システムであって、観測対象となる土砂の内部に埋設された移動体と、前記移動体に内蔵された低周波電磁界信号の発信が可能な発信装置と、前記発信装置から発信された前記低周波電磁界信号を検知する受信装置とを備え、前記移動体の大きさは、前記観測対象となる土砂の流下が生じた際に浮上して輸送されるように設定されていることを特徴とする。
【0011】
ここで、前記移動体の大きさは、前記観測対象となる土砂の平均粒径を基準に設定されている構成とすることができる。
【0012】
さらに、別の発明となる土砂移動観測システムは、保全対象物への土砂の流入又は接近を観測するための土砂移動観測システムであって、観測対象となる土砂に対して設置された移動体と、前記移動体に内蔵された低周波電磁界信号の発信が可能な発信装置と、前記発信装置から発信された前記低周波電磁界信号を検知する受信装置とを備え、前記発信装置は、所定の間隔で前記低周波電磁界信号を発信させるためのメンテナンス用電源と、前記移動体の傾きが検知された際に前記低周波電磁界信号を発信させるための移動時用電源とを備えていることを特徴とする。
【0013】
そして、前記受信装置が前記低周波電磁界信号を検知した際に、前記保全対象物の近辺を撮影する確認用カメラを備えた構成とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
このように構成された本発明の土砂移動観測システムは、観測対象となる土砂に対して設置された移動体と、それに内蔵された低周波電磁界信号の発信が可能な発信装置とを備えている。
【0015】
そして、受信装置としては、観測対象となる土砂の近辺に設置されたメンテナンス用受信装置と、保全対象物の近辺に設置された移動時用受信装置とが存在している。このメンテナンス用受信装置の検知範囲と移動時用受信装置の検知範囲とは、離隔していて重複していない。
【0016】
このため、いずれの受信装置によって発信装置からの低周波電磁界信号が検知されるかによって、観測対象となる土砂の位置が正確に把握できるようになり、誤検知や誤報知を防ぐことができる。
【0017】
また、移動時用受信装置として、保全対象物より上流側と下流側にそれぞれ受信装置を設置しておくことによって、さらに正確な位置情報が把握できるようになり、危険度に応じた対応を取ることができるようになる。
【0018】
さらに、観測対象となる土砂の内部に埋設された移動体の大きさが、土砂の流下が生じた際に浮上して輸送されるように設定されていれば、実際には土石流が発生しているのに移動体が一緒に移動せずに検知が遅れるといった事態の発生を防ぐことができる。
【0019】
特に、移動体の大きさを観測対象となる土砂の平均粒径を基準に設定することによって、粒度偏析によって高い確率で移動体を浮上させて土石流と一緒に移動させることができる。
【0020】
また、発信装置の電源が、所定の間隔で低周波電磁界信号を発信させるためのメンテナンス用電源と、移動体の傾きが検知された際に発信させるための移動時用電源とに分かれていれば、常時の位置確認ができるうえに、土石流が発生したときの電源を確実に確保しておくことができる。
【0021】
さらに、受信装置が低周波電磁界信号を検知した際に、保全対象物の近辺を撮影する確認用カメラを備えることによって、目視によっても状況が確認できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施の形態の土砂移動観測システムの全体構成を説明する説明図である。
図2】発信装置を内蔵させる移動体の構成を説明する斜視図である。
図3】発信装置の構成を説明するブロック図である。
図4】(a)は移動体の埋設状態を説明する模式的な断面図、(b)は土石流が発生した際の移動体の移動状況を説明する説明図である。
図5】粒度偏析が起きやすい条件を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態の土砂移動観測システム1の全体構成及び動作状況を説明するための図である。
【0024】
本実施の形態の土砂移動観測システム1は、保全対象物となる線路2に隣接して設けられる。図1では、図中の左右に延びる線路2に対して、上から下に向けて線路2を横断するような土石流の発生が予想される状況を図示している。
【0025】
すなわち図1では、線路2の上側が土石流の上流側となり、線路2の下側が土石流の下流側となる。また、土石流の予想される経路として土石流路31を二点鎖線で帯状に示した。
【0026】
図に土石流路31を示したように、斜面の状態や地質などによって、土石流が起きやすい箇所や土石流が発生した場合に流れる方向などは、ある程度予測することができる。本実施の形態では、この予測に基づいて土砂移動観測システム1の設置が行われる。
【0027】
本実施の形態の土砂移動観測システム1は、観測対象3となる土砂に対して設置された移動体4と、移動体4に内蔵された発信装置5と、発信装置5から発信された低周波電磁界信号を検知する受信装置(6,7,8)と、受信装置(6,7,8)による検知を報知する報知手段(図示省略)とによって主に構成される。
【0028】
また、土石流が流入する可能性のある線路2の範囲を撮影する確認用カメラ9を、線路2に隣接した位置に設置しておくことができる。この確認用カメラ9は、動画撮影を行うビデオカメラであっても、静止画を撮影するカメラであっても、いずれの構成でもよい。
【0029】
移動体4には、図2に示すように、例えば石れきが使用できる。この移動体4には、中央付近が穿孔されて孔41が設けられる。そして、この孔41に発信装置5が挿入されて、蓋部42によって孔41が塞がれる。
【0030】
図3は、発信装置5の構成の一例をブロック図で示したものである。この発信装置5は、アンテナ51と、発信回路52と、電源(54,56)とによって主に構成される。
【0031】
この発信回路52は、低周波電磁界信号の発信が可能な回路である。発信回路52は、8−20kHz程度の低い周波数の電磁界信号(電磁波)を生成させる回路である。この生成された電磁界信号には、識別子を付与することができる。
【0032】
低周波電磁界信号は、土中や水中において減衰しにくく、発信装置5が土砂や土石流に埋もれていても、後述する受信装置(6,7,8)によって検知させることができる。
【0033】
この発信装置5には、定期的に位置を検知させるためのメンテナンス用電源54が電源として設けられている。メンテナンス用電源54には、タイマ回路53が接続されており、所定の間隔(例えば1回/日)で発信回路52を通じて低周波電磁界信号を発信させることができる。
【0034】
さらに、発信装置5には、移動体4が移動しているときに位置を検知させるための移動時用電源56も電源として設けられている。この移動時用電源56は、移動体4の傾きを検知して傾斜検知スイッチ55が入ると通電して、発信回路52を通じて低周波電磁界信号を連続して発信させることができる。
【0035】
傾斜検知スイッチ55には、例えば発信装置5がある角度以上に傾くとスイッチが入る公知の転倒スイッチを使用することができる。また、移動時用電源56によって作動する傾斜センサを組み込んだ構成であってもよい。
【0036】
このようにして発信装置5が内蔵された移動体4は、図4(a)に示すように、観測対象3となる土砂の内部に埋設される。このように土砂の内部に埋設しておくことで、動物や人の歩行による転がりや、表面水による移動を防ぐことができる。
【0037】
一方、移動体4を埋設した場合であっても、土石流の発生によって一緒に移動体4が流下しなければならない。そこで、移動体4の大きさは、粒度偏析によって観測対象3の土砂の内部から浮上して輸送されるように設定される。
【0038】
ここで、「粒度偏析」とは、粒径が異なる粒体が混在する状態で振動を与えると、粒径によるふるい分けが起きる現象をいう。図5は、粒度偏析が起きやすい程度を偏析度として、粒径との関係を説明した公知の知見を模式的に図示したものである。
【0039】
この図5から、小粒径と大粒径の2種類の粒体が混在した試験体において、偏析度が高くなる粒径比が読み取れる。すなわち、粒径比0.5程度で偏析度が最も高くなることがわかる。
【0040】
そこで、この粒径比の関係を、観測対象3の土砂の平均粒径(D50)と移動体4の粒径(大きさ)との関係に置き換えて、移動体4の大きさを設定する。要するに、観測対象3の土砂の平均粒径(D50)の2倍程度の粒径の移動体4を使用することで、土石流が発生したときに、確実に移動体4を浮上させることができるようになる。
【0041】
また、粒度偏析によって浮上した移動体4は、流速の大きな表面流に輸送されて、図4(b)に示すように土石流の先頭部32に移動していくため、土石流が線路2に近づいていることを早期に検知させることができるようになる。
【0042】
発信装置5から発信された低周波電磁界信号を検知させる受信装置には、観測対象3の近辺に設置されたメンテナンス用受信装置6と、線路2の近辺に設置された移動時用受信装置(7,8)とが存在している。
【0043】
メンテナンス用受信装置6は、初期位置として移動体4が埋設された近辺の土石流路31から外れた左岸に設置される。このメンテナンス用受信装置6の検知範囲61は、半径10m程度を限度にそれよりも小さく設定する。
【0044】
メンテナンス用受信装置6によって検知された信号は、遠隔した場所にある管理室に送信されて報知手段となる表示器や報知器に入力され、管理者が認識可能な表示や音などによって出力される。
【0045】
移動時用受信装置(7,8)としては、線路2より土石流の上流側に第1受信装置7が設置され、下流側に第2受信装置8が設置される。図1では、第1受信装置7は土石流路31の右岸側に設置され、第2受信装置8は土石流路31の左岸側に設置されている。
【0046】
また、第1受信装置7及び第2受信装置8の検知範囲71,81は、半径10m程度を限度にできるだけ大きく設定する。第1受信装置7又は第2受信装置8によって検知された信号は、遠隔した場所にある管理室に送信されて報知手段となる表示器や報知器(警報器)に入力され、管理者が認識可能な表示や音などによって出力される。
【0047】
図1では、メンテナンス用受信装置6の検知範囲61は、第1受信装置7及び第2受信装置8の検知範囲71,81よりも小さく設定されている。また、検知範囲61は、検知範囲71,81から離隔しており、重複する検知範囲がない状態になっている。
【0048】
これに対して、第1受信装置7と第2受信装置8の検知範囲71,81は、線路2部分で重複している。このため、移動体4が線路2上まで移動してきた場合は、第1受信装置7及び第2受信装置8の両方で検知することができる。
【0049】
そして、確認用カメラ9は、線路2上の少なくとも第1受信装置7と第2受信装置8の検知範囲71,81が重複している箇所の撮影ができるように設置される。
【0050】
この確認用カメラ9は、発信装置5から発信された低周波電磁界信号を検知した時点から、撮影が開始されるように設定することができる。なお、確認用カメラ9が電源が確保しやすい箇所に設置される場合は、常時、撮影が行われる設定であってもよい。
【0051】
また、詳細な説明は省略するが、確認用カメラ9で撮影された画像も、受信装置(6,7,8)と同様に、遠隔した場所にある管理室で確認できる構成となっている。
【0052】
次に、本実施の形態の土砂移動観測システム1の設置方法、その動作及びその作用について、図面を参照しながら説明する。
【0053】
まず、観測対象3の土砂を採取して、その土砂の平均粒径(D50)を測定する。そして、平均粒径(D50)の2倍程度の粒径の石れきを、移動体4として選定する。この移動体4には、図2に示すように、略中央に円柱状の孔41を穿孔する。
【0054】
この孔41には、発信装置5を入れる。そして、その上から円板状の蓋部42を被せ、孔41を密封する。このようにして製作された発信装置5が内蔵された移動体4は、図4(a)に示すように、観測対象3となる土砂の内部に埋設する。
【0055】
さらに、移動体4が埋設された観測対象3の近辺には、図1に示すように、検知範囲61に初期位置の移動体4が入るようにメンテナンス用受信装置6を設置する。
【0056】
一方、土石流路31の右岸側の線路2の近辺(土石流の上流側)には、第1受信装置7を設置する。また、この土石流路31を挟んで第1受信装置7の反対側の線路2の近辺(土石流の下流側)には、第2受信装置8を設置する。
【0057】
このようにして土砂移動観測システム1が設置されると、発信装置5から例えば1日1回の間隔で低周波電磁界信号が発信され、メンテナンス用受信装置6によってその信号が検知される。
【0058】
メンテナンス用受信装置6によって検知された信号は、管理室の表示器などに送られ、表示器の検知範囲61内の移動体4を点灯させるなどして、管理者が現在位置を視認できるようになっている。
【0059】
このメンテナンス用受信装置6で検知できている間は、移動体4の移動はない、すなわち線路2に危険が及ぶような土石流は起きていないものと判断することができる。
【0060】
これに対して、大雨が降り続き、斜面が緩んで土石流が発生すると、図4(b)に示すように、粒度偏析によって移動体4が浮上して表面流によって輸送されて土石流の先頭部32に移動し、土石流とともに線路2に向けて流下していくことになる。
【0061】
土石流によって移動体4が移動すると、まずメンテナンス用受信装置6の検知範囲61から外れて、検知範囲71内に入った時に、第1受信装置7によって検知される。
【0062】
第1受信装置7によって検知された信号は、管理室の表示器や警報器などに送られ、警報器を鳴らして発報したり、表示器の検知範囲71内の移動体4を点灯させるなどして管理者が認識できるようになっている。
【0063】
この状態で土石流が止まれば、第1受信装置7のみによる検知として、土石流が線路2に流入する手前で停止したと判定できる。また、第1受信装置7の検知によって撮影を開始する確認用カメラ9の映像によっても、状況を確認することができる。
【0064】
これに対して、第2受信装置8でも発信装置5の低周波電磁界信号が検知されると、土石流が線路2に到達したものと判定することができる。詳細には、移動体4が線路2上にある場合は、第1受信装置7と第2受信装置8の両方で検知されることになる。一方、第2受信装置8のみで検知された場合は、土石流の先頭部32は線路2を通過していったと判定できる。
【0065】
第2受信装置8によって検知された信号も、管理室の表示器や警報器などに送られ、警報器を鳴らして発報したり、表示器の検知範囲81内の移動体4を点灯させるなどして管理者が認識できるようになっている。
【0066】
例えば、土石流の先頭部32が線路2に差し掛かった程度であれば、復旧までの時間は比較的に短く済むものと判断できる。これに対して、土石流の先頭部32が線路2を通過している場合は、線路2に堆積した土砂の量も多いものと判断でき、復旧までの時間が長くなることが予想できる。
【0067】
このような線路2上の状態は、第1受信装置7及び第2受信装置8の少なくとも一方で検知がある場合に撮影を開始する確認用カメラ9の映像によって確認することができる。
【0068】
このように構成された本実施の形態の土砂移動観測システム1は、観測対象3となる土砂に対して設置された移動体4と、それに内蔵された低周波電磁界信号の発信が可能な発信装置5とを備えている。
【0069】
そして、受信装置としては、観測対象3となる土砂の近辺に設置されたメンテナンス用受信装置6と、線路2の近辺に設置された移動時用受信装置(7,8)とが存在している。このメンテナンス用受信装置6の検知範囲61と移動時用受信装置(7,8)の検知範囲71,81とは、離隔していて重複していない。
【0070】
このため、いずれの受信装置(6,7,8)によって発信装置5からの低周波電磁界信号が検知されるかによって、観測対象3となる土砂の位置が正確に把握できるようになり、誤検知や誤報知を防ぐことができる。
【0071】
また、移動時用受信装置として、線路2より上流側と下流側にそれぞれ第1受信装置7と第2受信装置8を設置しておくこによって、さらに正確な移動体4の位置情報を把握できるようになり、危険度に応じた対応を取ることができるようになる。
【0072】
さらに、観測対象3となる土砂の内部に埋設された移動体4の大きさが、土砂の流下が生じた際に浮上して輸送されるように設定されていれば、実際には土石流が発生しているのに移動体4が一緒に移動せずに検知が遅れるといった事態の発生を防ぐことができる。
【0073】
特に、移動体4の大きさを観測対象3となる土砂の平均粒径(D50)を基準に設定することによって、粒度偏析によって高い確率で移動体4を浮上させて土石流と一緒に移動させることができる。
【0074】
また、発信装置5の電源が、所定の間隔で低周波電磁界信号を発信させるためのメンテナンス用電源54と、移動体4の傾きが検知された際に発信させるための移動時用電源56とに分かれていれば、常時の位置確認ができるうえに、土石流が発生したときの電源を確実に確保しておくことができる。
【0075】
要するに、発信装置5から所定の間隔で低周波電磁界信号を発信させることによって、移動体4の移動が起きていないかを確認できるため、メリットがある。しかしながら、安定している状態を確認するために電力が消費され、異常時に低周波電磁界信号を発信させる電力が残っていなければ、発信装置5としての意味がない。
【0076】
これに対して、常時の位置確認用の電源とは別に、土石流が発生したときに確実に低周波電磁界信号を発信させるだけの電力が移動時用電源56によって確保されておれば、線路2への土砂の流入又は接近を検知することができる。
【0077】
さらに、移動時用受信装置(7,8)が低周波電磁界信号を検知した際に、線路2の近辺を撮影する確認用カメラ9を備えることによって、目視によっても状況が確認できるようになる。
【0078】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0079】
例えば前記実施の形態では、保全対象物を線路として説明したが、これに限定されるものではなく、保全対象物が道路や建物などであってもよい。
【0080】
また、前記実施の形態では、移動体4の大きさを観測対象3となる土砂の流下が生じた際に浮上して輸送されるように設定したが、これに限定されるものではなく、土石流や土砂崩壊が確実に検知できる大きさや配置にすればよい。
【0081】
さらに、前記実施の形態では、メンテナンス用電源54と移動時用電源56との両方を備えた発信装置5について説明したが、これに限定されるものではなく、発信装置の電源は一つであってもよい。
【0082】
また、前記実施の形態では、確認用カメラ9が配置された構成について説明したが、これに限定されるものではなく、確認用カメラ9は省略することもできる。
【0083】
さらに、前記実施の形態では、発信装置5が内蔵された移動体4が観測対象3に1個だけ設置された場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、複数の移動体4,・・・を観測対象3の内部に設置することができる。その場合は、各発信装置5,・・・から発信される低周波電磁界信号に異なる識別子を付加して、区別させることができる。
【符号の説明】
【0084】
1 土砂移動観測システム
2 線路(保全対象物)
3 観測対象
4 移動体
5 発信装置
54 メンテナンス用電源
56 移動時用電源
6 メンテナンス用受信装置(受信装置)
61 検知範囲
7 第1受信装置(移動時用受信装置)
71 検知範囲
8 第2受信装置(移動時用受信装置)
81 検知範囲
9 確認用カメラ
図1
図2
図3
図4
図5