【実施例】
【0041】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0042】
測定方法は下記のとおりである。
<繊維直径>
生体適合長繊維不織布の走査型電子顕微鏡(SEM、日立走査型顕微鏡S−2600N、500倍)の写真から任意に選択した50本の繊維を用いて、平均繊維直径及びその変化の度合いを測定した。
<その他>
後述のとおり、JIS又は業界の規定する測定方法に従って測定した。
【0043】
(実施例1)
ゼラチンとして新田ゼラチン社製(ゼリー強度262g 原料:アルカリ処理牛骨)を使用し、ゼラチン:水=3:5の質量比(ゼラチン濃度37.5質量%)とし、温度60℃で溶解した。60℃における粘度は960〜970mPa・sであった。このゼラチン水溶液を紡糸液とし、
図4に示す不織布製造装置を使用して長繊維不織布を製造した。紡糸液の温度は60℃、ノズル直径(内径)250μm、吐出圧0.3MPa、ノズル高さ5mm、エアー圧力0.3MPa、エアー温度100℃、流体噴射口5とノズル吐出口3との距離は20mm、捕集距離100cmとし、巻き取りローラ11で長繊維不織布9を巻き取った。
次いで、長繊維不織布は真空凍結乾燥し(−80℃、13Pa、72時間)、その後、加熱脱水架橋させた。架橋条件は温度140℃、48時間とした。
【0044】
得られた実施例1の不織布を走査型電子顕微鏡(SEM、日立走査型顕微鏡S−2600N)で観察し、その結果を
図1(100倍)及び
図2(500倍)に示した。
図2の生体適合長繊維不織布の走査型電子顕微鏡写真(500倍)から任意に選択した50本の繊維直径を測定したところ、前記不織布を構成する長繊維の平均繊維直径は51μmであり、51±20μmの範囲で繊維直径が変化していた。また、
図1〜2に示すように構成繊維は、繊維交点において部分的に溶着していた。
【0045】
得られた実施例1の不織布を、直径φ4mmの円柱状に打ち抜いた。打ち抜いた不織布サンプルを、37℃の精製水中で、1晩静置し、飽和状態になるまで十分に膨潤させ、ピンセットで持った際の形状維持性を確認した。その結果を
図5に示した。
図5に示されているように、実施例1の不織布は膨潤後の形態維持性が良好であり、膨潤後にピンセットで持っても、形状を維持しておりハンドリング性に優れていた。また、膨潤させた不織布サンプルの直径を計測後、(株)山電製クリープメータ物性試験システムRE2−33005Cにて、厚さ(H1)を測定し、直径φ40mmのプランジャーを用い、0.05mm/secで圧縮した。ひずみ1〜5%の圧縮弾性率(kPa)及び、ひずみ10%、20%、30%の中間圧縮応力(kPa)を測定した。また、無荷重時の厚さ(ひずみ0%)を基準とし、圧縮応力1kPa時の厚さの変化率(ひずみ率)を算出し、圧縮変形率とした。ひずみ1〜5%の圧縮弾性率(kPa)は初期弾性率に該当する。また、プレートリーダー社製、型番「Spectra Max i3」)を用いて、膨潤させた不織布サンプル(厚み1.5mm)の波長範囲400〜800nmにおける透過率を10nm間隔で測定し、400〜800nmの範囲における平均透過率を算出した。
【0046】
(実施例2)
吐出圧0.15MPaとした以外は実施例1と同様にして不織布を作製し、実施例1と同様にして物性を測定した。
【0047】
(実施例3)
吐出圧0.2MPaとした以外は実施例1と同様にして不織布を作製し、実施例1と同様にして物性を測定した。
【0048】
(実施例4)
吐出圧0.1MPaとし、エアー圧力0.2MPa、捕集距離50cmとした以外は実施例1と同様にして不織布を作製し、実施例1と同様にして物性を測定した。
【0049】
(実施例5)
不織布の作製時間を増やし、膨潤後、無荷重時での厚さが3.03mmになるようにした以外は、実施例4と同様に不織布を作製し、実施例1と同様にして物性測定をした。
【0050】
(実施例6)
不織布の作製時間を減らし、膨潤後、無荷重時での厚さが0.69mmになるようにした以外は、実施例4と同様に不織布を作製し、物性測定に用いた不織布サンプルの直径φ6mmにした以外は、実施例1と同様にして物性測定をした。
【0051】
(比較例1)
比較例1として、熱架橋後のゼラチンスポンジ(ファイザー株式会社、商品名「ゼルフォーム」)を任意の厚さにスライスした後、直径φ4mmに打ち抜き、37℃の精製水中で、1晩静置し、飽和状態になるまでに十分に膨潤させ、実施例1と同様に物性測定した。
【0052】
以上の条件及び結果は表1にまとめて示す。また、実施例2〜4のゼラチン長繊維不織布、比較例1のゼラチンスポンジ、及び実施例6のゼラチン長繊維不織布を精製水中で膨潤させ、ピンセットで持った際の形状維持性を確認した結果を
図6〜9、37にそれぞれ示した。
図6〜9、37から分かるように、実施例2〜4のゼラチン長繊維不織布も、実施例1のゼラチン長繊維不織布と同様、膨潤後の形態維持性が良好であり、膨潤後にピンセットで持っても、形状を維持しておりハンドリング性に優れていた。一方、比較例1のゼラチンスポンジは、膨潤後の形態維持性が悪く、膨潤後にピンセットで持った場合、形状が崩れていた。
【0053】
【表1】
【0054】
表1から明らかなとおり、比較例1のゼラチンスポンジは、膨潤前後での厚さを対比すると、膨潤後の方が薄くなった。また、比較例1のゼラチンスポンジは、圧縮特性において、圧縮弾性率が低く、またひずみに伴い、圧縮応力変化が小さいことから、非常に変形しやすく、腰がなかった。一方で、本発明の各実施例のゼラチン長繊維不織布は、膨潤前後の厚さを対比すると、膨潤後の方が、厚くなった。ゼラチンスポンジと比較して、圧縮弾性率が約1.2〜3.0倍高かった。さらに繊維直径が太いほど、ひずみに伴い、圧縮応力が増大しており、変形に強かった。また、1.0kPaの圧縮応力時の圧縮変形率(ひずみ率)は、ゼラチンスポンジは56.8%と大きく変形するが、実施例のゼラチン長繊維不織布は、35%以下であり、腰が強かった。
【0055】
(実施例A1)
本実施例は、静置培養による細胞培養試験の例である。実施例4で得られたゼラチン長繊維不織布製の足場(乾燥時の厚さ1.2mm、密度 0.44g/cm
3、直径4mm)を用いて細胞の静置培養を行った。
1.試験の内容
(1)細胞培養
(a)ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)を、液体培地中(ウシ胎児血清10質量%、ペニシリンストレプトマイシン1質量%を含むαMEM培地)に、2.0×10
6cells/mLとなるよう懸濁し、細胞懸濁液を準備した。
(b)エチレンオキサイドガス滅菌後のゼラチン長繊維不織布製の足場を、液体培地に30分間静置して、十分に膨潤させた。
(c)膨潤させたゼラチン長繊維不織布製の足場を、15mLのPPチューブ中に入れ、ここに細胞懸濁液200μLを加え、37℃インキュベーター中で、オービタルシェイカー上で、300rpm、6時間振盪し、細胞播種した。
(d)細胞播種後、リン酸緩衝液(pH7.4)でゼラチン長繊維不織布製の足場を洗浄し、未接着の細胞を除去し、12ウェルプレートにピンセットで移し、液体培地3mLを加え、温度37℃、5%CO
2のインキュベーター中で静置培養した。液体培地は、2〜3日毎に交換した。
(2)培養時の観察
細胞培養中の足場を、ルーチン倒立顕微鏡(カールツァイスマイクロスコピー社製の「Primo Vert」)で観察、撮影した。
(3)細胞数
培養した足場をリン酸緩衝液(pH7.4)で洗浄し、37℃の、0.2mg/mLのドデシル硫酸ナトリウムを含んだ30mMの塩化ナトリウム−クエン酸溶液(SSC溶液)300μL中で、24時間、300rpmで撹拌し、細胞を回収した。回収した細胞の分散液100μLに、30mMの塩化ナトリウム−クエン酸溶液(SSC溶液)400μLを加え、得られた溶液に核染色剤であるHoechest33258(ナカライテスク社)を1μL/mLとなるよう加えた。得られた溶液をEx355nm、Em460nmで蛍光強度測定し、細胞数既知の溶液から得られた標準線から、細胞数を求めた。
(4)足場内の細胞分布
培養した足場をリン酸緩衝液で洗浄後、4%パラホルムアルデヒドで固定し、さらにリン酸緩衝液(pH7.4)で3回洗浄した。洗浄後、OCTコンパウンド(サクラファインテックジャパン社)で包埋後、凍結状態で、円柱状の足場の直径と垂直方向に、切片を作製した。凍結切片をヘマトキシリンエオジン染色し、足場内の細胞分布の仕方を光学顕微鏡(株式会社キーエンス社製、型番「BZ−X710」)観察した。
(5)足場内の低酸素状態の評価
細胞培養中の液体培地を取り除き、新たに加えたαMEM培地に、Hypoxia Probe LOX−1(ORGANOGENIX社)を所定量加え、一晩インキュベートした。培養中の足場を、蛍光顕微鏡(株式会社キーエンス製の「BZ−X710」)で、Ex510−560nm、Em580nmで蛍光観察した。Image Jでコントラストを調整した。
【0056】
(実施例A2)
実施例4で得られたゼラチン長繊維不織布製の足場に代わりに、実施例2で得られたゼラチン長繊維不織布製の足場を用いた以外は、実施例A1に記載のとおりに細胞培養を行った。
【0057】
(比較例A1〜A3)
実施例4で得られたゼラチン長繊維不織布製の足場に代わりに、比較例1のゼラチンスポンジ製の足場(比較例A1)、比較例2として繊維径40μmのポリプロピレン長繊維不織布製の足場(比較例A2)、比較例3として繊維径2μmのポリ乳酸長繊維不織布製の足場(比較例A3)を用いた以外は、実施例A1に記載のとおりに細胞培養を行った。
【0058】
2.結果
(1)細胞培養及び培養時の観察性
図10に実施例4のゼラチン長繊維不織布製の足場を用いて細胞培養した時の細胞播種直後の倒立顕微鏡観察写真(20倍)を示し、
図11に同培養7日目の倒立顕微鏡観察写真(20倍)を示した。
図10及び
図11から分かるように、実施例4のゼラチン長繊維不織布製の足場は、培養液中で透明で、細胞培養の様子が観察できた。また、細胞播種後は、ゼラチン長繊維の交点に細胞接着が見られ、培養7日目には繊維間隙を細胞が覆い尽くした。一方、比較例1のゼラチンスポンジの足場を用いた比較例A1(
図12)、比較例2のポリプロピレン不織布製の足場を用いた比較例A2(
図13)、比較例3のポリ乳酸不織布製の足場を用いた比較例A3で(
図14)は、細胞培養時に光が足場を透過せず、細胞の状態を観察できなかった。実施例で得られたゼラチン長繊維不織布を用いた足場は、細胞培養しながら細胞形態の観察が可能であるため、研究用途に使いやすいことが確認できた。
(2)細胞数
表2及び
図20に実施例2で得られたゼラチン長繊維不織布製の足場及び実施例4で得られたゼラチン長繊維不織布製の足場を用いた場合の細胞増殖データのデータを示す。実施例4のゼラチン長繊維不織布製の足場を用いた場合は、培養7日目で、細胞播種後の約3.5倍、培養14日目で細胞播種後の約8.2倍、培養21日目で細胞播種後の約19.5倍に細胞増殖した。
【0059】
【表2】
【0060】
(3)足場内の細胞分布
図15に、実施例4で得られたゼラチン長繊維不織布製の足場を用いて8日間細胞培養した後の足場切片のヘマトキシリンエオジン染色し、光学顕微鏡で観察した全体像の写真(10倍で観察した写真をソフトウェア上で連結)を示し、
図16にその部分拡大写真(10倍)を示した。
図15及び
図16から明らかなように、本発明の実施例4で得られたゼラチン長繊維不織布製の足場不織布製の足場を用いて細胞培養した時、足場の内部まで、細胞が侵入していた。一方、比較例2のポリプロピレン不織布製の足場を用いた比較例A2では、細胞侵入は足場の外側までであった(
図17:倍率4の写真)。
図15〜17において、濃色に見える部分は細胞核である。
(4)足場内の酸素分圧
図18に、実施例4で得られたゼラチン長繊維不織布製の足場を用いて12日間細胞培養を行った時の足場の光学顕微鏡観察写真(20倍)を示した。
図19に、実施例4で得られたゼラチン長繊維不織布製の足場を用いて細胞培養を12日間行った後の足場内の酸素状態を低酸素マーカーによって観察した蛍光観察顕微鏡写真(明度の高い部分(白色に近い部分):低酸素部位)(20倍)を示した。実施例4で得られたゼラチン長繊維不織布製の足場は、
図18の光学顕微鏡観察写真で繊維と同定できる部位にて、低酸素マーカーによる蛍光強度が弱いことから(
図19)、繊維内を酸素が拡散していることが確認できた。本発明の実施例で得られたゼラチン長繊維不織布製の足場は、構成繊維が部分的に溶着し、水に濡れてもへたらないことから、酸素がゼラチン長繊維不織布製の足場全体に行きわたり、立体足場として有用であった。
【0061】
(実施例A3)
本実施例は、撹拌培養による細胞培養試験の例である。
1.試験の内容
(1)ゼラチン長繊維不織布の作製
実施例5で得られたゼラチン長繊維不織布製の足場(乾燥時の厚さ1.6mm、密度0.44g/cm
3、直径4mm)を用いて撹拌培養による細胞培養を行った。
(2)細胞培養
上記で得られたゼラチン長繊維不織布製の足場を用い、上述の静置培養と同様の細胞播種方法にて、細胞播種した。
図21に示す装置を用いて、細胞播種したゼラチン長繊維不織布製の足場26を、22ゲージの滅菌針25に複数個刺し、足場26間の距離が2mmとなるよう調整した。ゼラチン長繊維不織布製の足場26を刺した22G針25をスピナーフラスコ21の上部のゴム栓に刺し、固定した。ゼラチン長繊維不織布製の足場が浸るまで、液体培地を加え、37℃、5%CO
2のインキュベーター中に置いたマグネティックスターラー上で、100rpmで撹拌し、培養液を撹拌させた。3〜4日毎に、液体培地を半分量除き、等量の新たな液体培地を加えることで、培地交換を行った。
(3)細胞生死の確認
培養中の足場を、リン酸緩衝液で洗浄した。リン酸緩衝液に、Calcein AM(Life Technologies社)0.75μL/mL、Ethidium homodimer−1(Life Technologies社)2μL/mLとなるよう、溶液を調整した。24ウェルプレート中に置いた足場に、上記溶液を1mL加え、37℃で30分間インキュベートした。インキュベート後、溶液を除去し、リン酸緩衝液を1mL加え、37℃で5分間インキュベートすることで、洗浄した。洗浄後の足場を、OCTコンパウンド(サクラファインテックジャパン社)で包埋後、凍結状態で、円柱状の足場の直径と垂直方向に、切片を作製した。蛍光顕微鏡(株式会社キーエンス製、型番「BZ−X710」)を用い、生細胞をEx:470nm、Em:525nm、死細胞をEx:545nm、Em:605nmで蛍光観察した。
(4)脱細胞処理
培養した足場をリン酸緩衝液で洗浄し、37℃の、0.2mg/mLのドデシル硫酸ナトリウムを含んだ30mMの塩化ナトリウム―クエン酸(SSC)溶液300μL中で、24時間、300rpmで撹拌し、細胞を抽出し、脱細胞処理を行った。
(5)細胞分布
撹拌培養後の足場及び脱細胞処理を行った足場を、リン酸緩衝液で洗浄後、4%パラホルムアルデヒドで固定し、さらにリン酸緩衝液で3回洗浄した。洗浄後、OCTコンパウンド(サクラファインテックジャパン社)で包埋後、凍結状態で、円柱状の足場の直径と垂直方向になるように、切片を作製した。凍結切片をヘマトキシリンエオジン染色し、足場内の細胞分布の仕方を光学顕微鏡(株式会社キーエンス製、型番「BZ−X710」)で観察した。
(6)足場の強度測定
細胞培養後の足場及び脱細胞処理後の足場の直径を計測し、(株)山電製のクリープメータ物性試験システムRE2−33005Cにて、厚さを測定し、φ40mmのプランジャーを用い、0.05mm/secの速度で圧縮した。ひずみ1〜5%の圧縮弾性率(kPa)及び、ひずみ10%、20%、30%の中間圧縮応力(kPa)を測定した。また無荷重時(ひずみ0%)を基準とし、圧縮応力1kPa時のひずみを寸法変化率とした。
【0062】
2.結果
(1)撹拌培養による足場形状の変化
培養日時の経過により、ゼラチン長繊維不織布製の足場の形状が変化した。
図22に、培養中の足場を、横方向からデジタルカメラで撮影した写真を示した。
図23に、培養後、足場一つ分を切り出した、細胞足場の外観写真を示した。
図24に、脱細胞処理した細胞足場の写真を示した。撹拌培養により、ゼラチン長繊維不織布製の足場は、培養7日目で、ゼラチン長繊維不織布製の足場の角が取れ、14日目以降で直径が小さくなり、白く濁った。培養25日目には、2mm間隔で針に配置した足場同士が繋がり、一体となった。細胞培養後の足場は、脱細胞処理を行っても形状を維持していた。
(2)細胞の分布
図25に、実施例A3において、14日間撹拌培養した後の足場の切片(足場断面)をヘマトキシリンエオジン染色し、光学顕微鏡で観察した全体像の写真(10倍で観察し、ソフトウェア上で連結)を示した。
図26に、その端部における部分拡大写真(20倍)を示した。
図25及び26から明らかなように、細胞が足場内部まで侵入しており、特に足場の端部では、細胞がより高密度に増殖していた。
図25、26において、濃色に見える部分は細胞核である。
図27に、実施例A3において、14日間撹拌培養後、脱細胞処理した後の足場の切片をヘマトキシリンエオジン染色し、端部を光学顕微鏡で観察した(20倍)を示した。細胞が高密度で増殖した足場端部では、足場を取り除いた後も、ゼラチン繊維間に組織が残存しており、細胞が細胞外マトリクスを産生していることが分かった。
図28に、実施例A3において、25日間撹拌培養した後の足場の切片をヘマトキシリンエオジン染色し、光学顕微鏡で観察した全体像の写真(10倍で観察し、ソフトウェア上で連結)を示した。
図29に、その端部における部分拡大写真(20倍)を示した。
図28及び29から明らかなように、細胞が組織中心部まで高密度に増殖した。
図28、29において、濃色に見える部分は細胞核である。
図30に、実施例A3において、25日間撹拌培養後、脱細胞処理した後の足場の切片をヘマトキシリンエオジン染色し、光学顕微鏡で観察した全体像の写真(10倍で観察し、ソフトウェア上で連結)を示した。
図31に、その端部及び中心部における部分拡大写真(20倍)を示した。
図30及び31より明らかなように、培養25日目には、ゼラチン繊維が見られず、細胞外マトリクスのみが見られるため、細胞が高密度に凝集する中で、ゼラチン長繊維不織布が分解し、細胞が産生した細胞外マトリクスとすべて置き換わったことが分かった。
(3)細胞生死
図32に、実施例A3において、14日間撹拌培養した後の足場の切片の生細胞を蛍光顕微鏡で観察した全体像の写真(10倍で観察し、ソフトウェア上で連結)を示した。生細胞部位にて、蛍光強度が強いため、明度の高い部位(白色に近い部位)が、生細胞である。
図33に、実施例A3において、14日間撹拌培養した後の足場の切片の死細胞を蛍光顕微鏡で観察した全体像の写真(10倍で観察し、ソフトウェア上で連結)を示した。死細胞部位にて、蛍光強度が強いため、明度の高い部位(白色に近い部位)が、死細胞部位である。
図32〜33より明らかなように、ゼラチン長繊維不織布内部では、生細胞が多くみられ、死細胞がほぼ見られない。ゼラチン長繊維不織布を細胞培養足場とすることで、3次元の細胞凝集体においても、組織中心部で細胞が、高い生存率を示すことが分かった。
図34に、実施例A3において、25日間撹拌培養した後の足場の切片の生細胞を蛍光顕微鏡で観察した全体像の写真(10倍)で観察し、ソフトウェア上で連結)を示した。生細胞部位にて、蛍光強度が強いため、明度の高い部位(白色に近い部位)が、生細胞である。
図35に、実施例A3において、25日間撹拌培養した後の足場の切片の死細胞を蛍光顕微鏡で観察した全体像の写真(10倍で観察し、ソフトウェア上で連結)を示した。死細胞部位にて、蛍光強度が強いため、明度の高い部位(白色に近い部位)が、死細胞部位である。
図34及び35より明らかなように、ゼラチン長繊維不織布が消失し、細胞と細胞外マトリクスで構成される組織と置き換わった後においても、細胞組織内部では、生細胞が多くみられ、死細胞がほぼ見られなかった。ゼラチン長繊維不織布を足場として細胞培養した時、ゼラチン長繊維不織布が、直径2mm以上と大きく、かつ高密度の3次元細胞凝集体と置き換わったあとも、高い生存率を示すことが分かった。
(4)足場の強度測定
実施例A3において、撹拌培養した後の足場及び、脱細胞処理した足場の力学特性を表3に示した。ゼラチン長繊維不織布を用い、撹拌培養することで、1-5%弾性率及び中間応力は、いずれも上昇した。ゼラチン長繊維不織布の空隙内、細胞が密に増殖していくことで、強度が向上した。さらにこれらの力学挙動は、脱細胞処理した足場においても、同傾向であり、細胞が産生した細胞外マトリクスが、ゼラチン長繊維不織布の空隙内を満たすことによって、強度が向上した。特に、培養25日目においては、ゼラチン長繊維不織布が消失し、細胞及び細胞外マトリクスのみからなる細胞凝集体となっているにも関わらず、高強度となっており、細胞が産生した細胞外マトリクスには、エラスチンなどの弾性線維が含まれており、よりヒトの生態環境に近い細胞凝集体となっていると期待できる。
【0063】
【表3】
【0064】
本実施例のゼラチン長繊維不織布製の足場を用いて撹拌下で細胞培養した結果から、次のことが分かる。
(1)培養25日の短期で、大きさ2mm以上の3次元細胞凝集体が得られ、その凝集体内部で、細胞は高生存率であった。
(2)得られた3次元細胞凝集体では、ゼラチン長繊維不織布が消失し、細胞及び細胞が産生する細胞外マトリクスと置き換わっていた。
(3)得られた3次元細胞凝集体は、高強度を示した。
【0065】
(実施例A4)
本実施例は、積層培養による細胞培養試験の例である。実施例6で得られたゼラチン長繊維不織布製の足場(乾燥時の厚さ0.2mm、密度0.8g/cm
3、直径6mm)を用いて細胞の静置培養を行った。
【0066】
1.細胞培養
(1)ゼラチン長繊維不織布製の足場と細胞シートの交互積層
(a)ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)を、液体培地中(ウシ胎児血清10質量%、ペニシリンストレプトマイシン1質量%を含むαMEM培地)に、2.0×10
6cells/mLとなるよう懸濁し、細胞懸濁液を準備した。
(b)12穴のウェルプレートに液体培地を1mL加え、そこに細胞懸濁液を50μL播種し、10日間静置培養して細胞シートを作製した。
(c)1000mLのマイクロピペットを用い、液流によって細胞シートを12穴のウェルプレートから剥離した。
(d)エチレンオキサイドガス滅菌後のゼラチン長繊維不織布製の足場を、液体培地に30分間静置して、十分に膨潤させた。
(d)ウェルプレートの培地を抜き、細胞シートの上に膨潤させたゼラチン長繊維不織布製の足場を置いた。ゼラチン長繊維不織布製の足場の上から圧力1.3kPaの圧力をかけて、細胞シートとゼラチン不織布を接着させた。
(e)ピンセットを用いて、同様にして作製した細胞シート・ゼラチン長繊維不織布製の足場の一体物を3層積層させて(
図36−f)、温度37℃、5%CO
2の条件で60分間インキュベートして、層同士を接着し一体化した。
(2)積層体の上面の観察
積層後の足場と細胞シートの積層体を、光学顕微鏡(株式会社キーエンス製、型番「BZ−X710」)で観察し、撮影した。
(3)積層体の断面の観察
積層体をリン酸緩衝液で洗浄後、4%パラホルムアルデヒドで固定し、さらにリン酸緩衝液(pH7.4)で3回洗浄した。洗浄後、OCTコンパウンド(サクラファインテックジャパン社)で包埋後、凍結状態で、円柱状の足場の直径と垂直方向に、切片を作製した。凍結切片をヘマトキシリン・エオジン染色し、足場内の細胞分布の仕方を光学顕微鏡(株式会社キーエンス製、型番「BZ−X710」)で観察した。
【0067】
2.結果
(1)積層体の観察
図39に、積層体を上面から観察した顕微鏡写真(4倍)を蛍光顕微鏡(株式会社キーエンス製、型番「BZ−X710」)のソフトウェア上で連結し、全体像としたものを示した。細胞シートがゼラチン不織布の上面にシワなく重なっていることが確認できた。
図40にゼラチン長繊維不織布と細胞シートを3層交互に積層した積層体の断面図の顕微鏡写真を示した。ヘマトキシリン・エオジンによって染色された細胞核と細胞質が線状にみられることから、細胞シートの存在が確認できた。また、その細胞シートが一定の間隔を置いて3層みられた。その間隔は膨潤したゼラチン長繊維不織布の厚さ(約0.7mm)と同等であり、ゼラチン長繊維不織布と細胞シートが交互積層していることが確認できた。
【0068】
(実施例B1)
異なる厚さ(乾燥状態)及び密度(乾燥状態)のゼラチン長繊維不織布を用いて、積層用足場に好ましいゼラチン長繊維不織布を検討した。ハンドリグ性が良好というのは、液体培地で膨潤した後の足場をピンセットで把持した際に形状維持性は良好であるとともに、屈曲しにくいことを意味する。例えば、
図5〜8及び
図37は、水又は液体培地で膨潤した後の足場をピンセットで把持した際に形状維持性が良好であとともに、屈曲していない例である。一方、
図38には、ピンセットで把持した際に形状維持性が良好であるが、屈曲している例を示した。ゼラチン長繊維不織布製の足場のハンドリング性を片持ち梁で評価した。直方体の台を試験台とした。片持ち梁となるように、試験片の面積の半分が台座から出るように、台座の端に試験片を置いた。試験片の俯角を測定して45度以内であればハンドリング性良好(A)、45度より大きければハンドリング性不良(B)と判断した。片持ち梁試験において、ハンドリング性良好の例を
図41に示し、ハンドリング性不良の例を
図42に示した。ハンドリング性の結果を
図43に示した。
図43から、ゼラチン長繊維不織布製の足場を液体培地で膨潤させてピンセットで把持する際に、膨潤する前の乾燥状態の厚さが0.2mm以上、密度は0.8g/cm
3以上が好ましいことが分かった。