(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電流測定装置は少なくとも、光入出射部と、センサ用光ファイバと、ファラデー回転子と、第1の1/4波長板及び第2の1/4波長板と、偏光分離器と、光源と、光電変換素子を備える信号処理回路を含み、
前記光入出射部は2本の導波路が配列されて構成されており、
前記光入出射部から順に、前記偏光分離器、前記第1の1/4波長板、前記第2の1/4波長板、前記ファラデー回転子、前記センサ用光ファイバが配置され、
更に前記センサ用光ファイバは複屈折を有すると共に、被測定電流が流れている導体の外周に周回設置され、回転方向の異なる2つの円偏光を入射するための一端と、入射した前記円偏光を反射する他端を備え、
前記第2の1/4波長板は、前記センサ用光ファイバの一端側に設けられると共に、
前記ファラデー回転子は、前記センサ用光ファイバの一端側と前記第2の1/4波長板との間に配置され、
前記光源から出射された光が前記他端で反射されることで、前記偏光分離器、前記第1の1/4波長板、前記第2の1/4波長板前記ファラデー回転子、及び前記センサ用光ファイバを往復する往復光路が設定され、
前記第1の1/4波長板と前記第2の1/4波長板間の前記往復光路は、2つの直線偏光が伝播されると共に、2つの前記直線偏光の位相差が補償されるように構成されており、
更に、前記ファラデー回転子は、ファラデー素子の厚さを最適化することにより磁気飽和時のファラデー回転角が、温度23℃において22.5°+α°に設定され、前記信号処理回路から出力される前記被測定電流の測定値における比誤差の変動幅が、100℃の温度範囲において±0.5%の範囲内に設定され、
前記第1の1/4波長板及び前記第2の1/4波長板のそれぞれの光学面上における結晶軸方向が、直交するように設定されるか又は同一方向に設定され、
前記偏光分離器の光学面上における結晶軸方向と、前記第1の1/4波長板の光学面上における前記結晶軸方向が、直交するように設定されるか又は同一方向に設定されることを特徴とする電流測定装置。
前記偏光分離器の光学面上における結晶軸方向と、前記第1の1/4波長板の光学面上における前記結晶軸方向と、前記第2の1/4波長板の光学面上における前記結晶軸方向とが、同一方向に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の電流測定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者が実際に電流測定装置の比誤差の変動幅を±0.5%以内まで低減した結果、相対的にセンサ用光ファイバ固有の複屈折が大きな補償対象として現れることを、本発明者は特許文献2の電流測定装置を検討して導き出した。
【0009】
センサ用光ファイバは直線状態でも複屈折を有しており、更に導体の外周に周回設置される。従って、センサ用光ファイバが直線状態から変形される構成となる。この曲げに伴う変形によりセンサ用光ファイバに応力が発生し、その応力によりセンサ用光ファイバには更に大きな複屈折が発生する。その結果、比誤差の低減化を図るほど、センサ用光ファイバからの出力時に制御不可能な位相を持つ2つの伝搬モードが出力されることとなり、電流測定装置の出力に変動や減衰が顕著に表れることを本発明者は見出した。
【0010】
本発明者が実際に特許文献2で開示されている電流測定装置の比誤差の変動幅を測定したところ、センサ用光ファイバの複屈折に起因する比誤差の変動幅は
図31に示すように、電流測定装置から出力される被測定電流の測定値において、約−1.0%〜約1.2%の範囲で現れた(−20℃以上80℃以下の温度範囲では、約−0.7%〜約1.2%の範囲)。従って、前記のようにファラデー回転子の比誤差の変動幅を減少させるだけでは、被測定電流の測定値における比誤差の変動幅を±0.5%の範囲内に抑えることは困難であることを見出した。
【0011】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、出力における比誤差の変動幅を±0.5%の範囲内に確実に収めることが可能であり、且つ、組み立ての容易化も可能な電流測定装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題は、以下の本発明により達成される。即ち、
(1)電流測定装置は少なくとも、光入出射部と、センサ用光ファイバと、ファラデー回転子と、第1の1/4波長板及び第2の1/4波長板と、偏光分離器と、光源と、光電変換素子を備える信号処理回路を含み、
前記光入出射部は2本の導波路が配列されて構成されており、
前記光入出射部から順に、前記偏光分離器、前記第1の1/4波長板、前記第2の1/4波長板、前記ファラデー回転子、前記センサ用光ファイバが配置され、
更に前記センサ用光ファイバは複屈折を有すると共に、被測定電流が流れている導体の外周に周回設置され、回転方向の異なる2つの円偏光を入射するための一端と、入射した前記円偏光を反射する他端を備え、
前記第2の1/4波長板は、前記センサ用光ファイバの一端側に設けられると共に、
前記ファラデー回転子は、前記センサ用光ファイバの一端側と前記第2の1/4波長板との間に配置され、
前記光源から出射された光が前記他端で反射されることで、前記偏光分離器、前記第1の1/4波長板、前記第2の1/4波長板前記ファラデー回転子、及び前記センサ用光ファイバを往復する往復光路が設定され、
前記第1の1/4波長板と前記第2の1/4波長板間の前記往復光路
は、2つの直線偏光が伝播されると共に
、2つの前記直線偏光の位相差が補償され
るように構成されており、
更に、前記ファラデー回転子は
、ファラデー素子の厚さを最適化することにより磁気飽和時のファラデー回転角が、温度23℃において22.5°+α°に設定され、前記信号処理回路から出力される前記被測定電流の測定値における比誤差の変動幅が
、100℃の温度範囲において±0.5%の範囲内に設定され、
前記第1の1/4波長板及び前記第2の1/4波長板のそれぞれの光学面上における結晶軸方向が、直交するように設定されるか又は同一方向に設定され、
前記偏光分離器の光学面上における結晶軸方向と、前記第1の1/4波長板の光学面上における前記結晶軸方向が、直交するように設定されるか又は同一方向に設定されることを特徴とする。
【0013】
2つの直線偏光を伝搬する、第1の1/4波長板と第2の1/4波長板間の往復光路としては偏光面保持ファイバ(PMF)で構成するか、或いは、光学面上の結晶軸方向が揃っていると共に異常光線のシフト方向が逆方向に配置された2つの複屈折素子で構成しても良い。
【0014】
(2)本発明の電流測定装
置は、偏光分離器の光学面上における結晶軸方向と、第1の1/4波長板の光学面上における結晶軸方向が直交するように設定されるか又は同一方向に設定されることを特徴とする。
【0015】
(3)本発明の電流測定装置の他の実施形態は、偏光分離器の光学面上における結晶軸方向と、第1の1/4波長板の光学面上における結晶軸方向と、第2の1/4波長板の光学面上における結晶軸方向とが、同一方向に設定されることを特徴とする。
【0016】
(4)本発明の電流測定装
置は、変動幅が±0.5%の範囲内に設定される温度範囲が100℃であることが好ましい。
【0017】
(5)本発明の電流測定装置の他の実施形態は、100℃の温度範囲が、−20℃以上80℃以下であることが好ましい。
【0018】
(6)本発明の電流測定装置の他の実施形態は、ファラデー回転子が、温度の変化に伴って磁気飽和時のファラデー回転角が2次曲線状に変化するファラデー回転角の温度特性を有することが好ましい。
【0019】
(7)本発明の電流測定装置の他の実施形態は、ファラデー回転子が、2つ以上のファラデー素子で構成されることが好ましい。
【0020】
(8)本発明の電流測定装置の他の実施形態は、2つ以上のファラデー素子のファラデー回転角がそれぞれ異なることが好ましい。
【0021】
(9)本発明の電流測定装置の他の実施形態は、信号処理回路から出力される被測定電流の測定値における比誤差の変動幅が、±0.2%の範囲内に設定されることが好ましい。
【0022】
(10)本発明の電流測定装
置は、変動幅が±0.2%の範囲内に設定される温度範囲が100℃であることが好ましい。
【0023】
(11)本発明の電流測定装置の他の実施形態は、100℃の温度範囲が、−20℃以上80℃以下であることが好ましい。
【0024】
(12)本発明の電流測定装置の他の実施形態は、センサ用光ファイバが鉛ガラスファイバであることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
請求項1記載の発明(即ち、前記(1)の発明)に依れば、温度23℃においてファラデー回転子の回転角を22.5°からα°だけ変化させて電流測定装置の比誤差の変動幅を減少させることに加え、センサ用光ファイバ固有の複屈折に伴う比誤差を補償すると共に、第1の1/4波長板と第2の1/4波長板の間の往復光路における2つの直線偏光の位相差も補償している。従って、ファラデー回転子の回転角の位相差以外の位相差は、センサ用光ファイバ内部のファラデー効果による位相差φを除いて全て補償され、電流測定装置の出力に現れなくなる。よって、センサ用光ファイバの複屈折に起因する比誤差の変動幅(約−1.0%〜約1.2%)が補償されると共に、第1の1/4波長板と第2の1/4波長板の間の往復光路における2つの直線偏光の位相差も補償されるため、電流測定装置の出力における比誤差の変動幅を±0.5%の範囲内に確実に収めることが可能となる。
【0026】
更に、ファラデー回転子の回転角の位相差以外の位相差が、位相差φを除いて全て補償されるので、電流測定装置の光ファイバ内を光が伝搬する時に外乱が加わって位相が変化しても、電流測定装置の出力は影響を受けない。従って、電流測定装置の出力特性を安定化させることも可能となる。
【0027】
更に、第1及び第2の1/4波長板のそれぞれの光学面上における結晶軸方向を直交するように設定又は同一方向に設定している。従って、円偏光を使用した電流測定装置を構成する際に、2つの1/4波長板の分だけ構成素子が増加しても、互いの結晶軸方向の細かな角度調整作業が不要となる。よって、比誤差変動幅の±0.5%範囲内への抑制という高機能の実現と、構成素子の組み立て作業の容易化を同時に実現することが可能となる。
【0028】
更に、センサ用光ファイバの種類を問わず広く本発明の電流測定装置を実現することが出来るので、電流測定装置の歩留まり向上も可能となる。
【0029】
更に、請求項2記載の発明(即ち、前記(2)の発明)に依れば、請求項1記載の発明が有する効果に加えて、第1の1/4波長板に対して偏光分離器を設置する際に、互いの結晶軸方向の細かな角度調整作業が不要となる。従って、偏光分離器と第1の1/4波長板との間の組み立て作業を容易に行うことが可能となる。
【0030】
更に、請求項3記載の発明(即ち、前記(3)の発明)に依れば、請求項1記載の発明が有する効果に加えて、偏光分離器と2つの1/4波長板との間の結晶軸角度の調整作業や設置作業を行う必要が無くなる。従って、偏光分離器と2つの1/4波長板との間の組み立て作業をより一層容易化することが出来る。
【0031】
更に、請求項4、5又は10、11記載の発明(即ち、前記(4)、(5)又は(10)、(11)の発明)に依れば、±0.5%又は±0.2%の比誤差変動幅を、100℃(−20℃以上80℃以下)の温度範囲に亘って実現することにより、−10℃以上40℃以下の常温域をカバーする実用性を備えた電流測定装置を構成することが可能となる。
【0032】
更に、請求項6又は9記載の発明(即ち、前記(6)又は(9)の発明)に依れば、温度の上昇に伴って磁気飽和時のファラデー回転角が2次曲線状に変化するファラデー回転角の温度特性を有するファラデー回転子を備えることにより、信号処理回路から出力される被測定電流の測定値における比誤差の変動幅を、±0.5%又は±0.2%の範囲内に設定することが可能となる。従って±0.5%範囲内の用途に加えて、±0.2%範囲内の比誤差の温度特性が要求される用途(例えば電気料金を計量するための電力量計)に電流測定装置を使用することが可能となる。
【0033】
更に、請求項7記載の発明(即ち、前記(7)の発明)に依れば、所望の回転角を有するファラデー回転子を安定して得ることが出来る。
【0034】
更に、請求項8記載の発明(即ち、前記(8)の発明)に依れば、各ファラデー素子のファラデー回転角をそれぞれ異なるように構成することが可能となるので、各ファラデー素子の温度特性を所望の特性に設定することが出来る。
【0035】
更に、請求項12記載の発明(即ち、前記(12)の発明)に依れば、センサ用光ファイバに鉛ガラスファイバを使用しても、信号処理回路から出力される被測定電流の測定値における比誤差の変動幅を±0.5%(又は±0.2%)の範囲内に抑えることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、各図を参照して本発明の一実施形態に係る電流測定装置を詳細に説明する。
図1に示す電流測定装置1は少なくとも、光入出射部と、センサ用光ファイバ2と、ファラデー回転子3と、第1の1/4波長板4及び第2の1/4波長板5と、偏光分離器6、光源7、及び光電変換素子13a、13bを備える信号処理回路8を含んで構成される。更に、光源7から出射された光が、センサ用光ファイバ2の他端で反射されることで、偏光分離器6、第1の1/4波長板4、第2の1/4波長板5、ファラデー回転子3、及びセンサ用光ファイバ2を往復する往復光路が設定される。
【0038】
なお、以下の説明においては、
図1中に示されるXYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各構成素子の位置関係について説明する。偏光分離器6からセンサ用光ファイバ2へと伝搬する光の伝搬方向をZ軸、そのZ軸に直交する面内のそれぞれ水平方向をX軸、垂直方向をY軸とそれぞれ設定しており、
図1〜
図23に示すXYZ直交座標系は、各図で相互に対応しているものとする。
【0039】
電流測定装置1は大きく分けると、
図1に示すように光源7と信号処理回路8及び光学系9とから構成されており、光学系9は
図2に示す各構成素子およびサーキュレータ10とから構成されている。光入出射部は2本の導波路である第1光ファイバ11及び第2光ファイバ12が配列されて構成されている。また、
図2〜
図4に示す各構成素子は、光入出射部から順に、偏光分離器6、第1の1/4波長板4、第2の1/4波長板5、ファラデー回転子3、センサ用光ファイバ2が配置される。
【0040】
偏光分離器6には、X軸方向に平行な偏光方向を有する1つの直線偏光L1が入射される。その直線偏光L1は、
図2〜
図3に示すように第1光ファイバ11から、偏光分離器6に入射される。
【0041】
第1光ファイバ11は偏光面保持ファイバで構成され、直線偏光状態を保持しつつ光を伝送することの可能な光ファイバ(いわゆるPMF;Polarization Maintaining Fiber)であり、一端側の端面11aが偏光分離器6の近傍に配置される。或いは端面11aと偏光分離器6が当接するように配置しても良い。その結果、第1光ファイバ11は直線偏光L1を偏光分離器6に入射させると共に、偏光分離器6から出射される常光線LOを、光電変換素子13aに伝搬する機能を有する。この偏光面保持ファイバは、その主軸が直線偏光L1の偏光方向(X軸方向)に一致するように配置される。
【0042】
第2光ファイバ12は、シングルモード光ファイバやマルチモード光ファイバ、又は偏光面保持ファイバなどで構成され、一端側の端面12aが偏光分離器6の近傍に配置される。或いは、端面12aと偏光分離器6が当接するように配置しても良い。その結果、第2光ファイバ12は、偏光分離器6から出射される異常光線LEを光電変換素子13bに伝搬する機能を有する。
【0043】
本実施形態の場合、第1及び第2光ファイバ11、12は、一端側の端面11a、12aどうしが同一平面上に配置され、更に所定間隔を隔てて二芯構造のフェルール14により保持される。前記所定間隔は、平行平板状の偏光分離器6の厚みと、偏光分離器6の材料の物性に応じて設定される。前記所定間隔を、偏光分離器6の分離間隔と一致させることで、常光線LOと異常光線LEを各光ファイバ11、12の各コアに入射させることができる。なお、第1及び第2光ファイバ11、12を所定間隔に保持する手段はフェルール14に限る必要は無く、例えば、平行な2本のV溝を備えたアレイ基板であっても良く、光ファイバ11、12をV溝内に配置することで、双方の位置決めが可能となる。
【0044】
偏光分離器6は光透過型の光学素子であり、第1光ファイバ11の端面11a側の近傍側に設置される。偏光分離器6は複屈折素子から構成されており、直線偏光が結晶軸と直交に入射したときには直線偏光をそのまま透過し、直線偏光が結晶軸に沿って入射したときには直線偏光を平行にシフト移動させて出射させる、偏光分離素子としての機能を備える。このような直交する二面以外の偏光面で入射した直線偏光は、それぞれのベクトル成分に光強度が分離され、常光線はそのまま透過され、異常光線は平行移動して出射される。従って、偏光分離器6は、センサ用光ファイバ2側から伝搬される直線偏光を、相互に直交する常光線LOと異常光線LEに分離すると共に、後述する光源7から出射される直線偏光L1を透過させる機能を有する。
【0045】
偏光分離器6の材料は、ルチル、YVO
4、ニオブ酸リチウム、方解石から選択することができる。このような材料から選択された複屈折素子は、所定の厚みで、対向する光入出射用光学面が平行となる平板に加工されて偏光分離器6とされる。平行な光学面の一方が、第1光ファイバ11及び第2光ファイバ12の端面11a及び12aと対向し、他方の光学面がレンズ15及び第1の1/4波長板4と対向するように設置される。また、光学面上における結晶軸X61方向は、Y軸方向に平行に設定される。このような偏光分離器6では、直線偏光が一方の光学面から入射すると、常光線LOと異常光線LEとに分離し、他方の平面から出射する際に、これらの常光線LOと異常光線LEを所定の分離間隔に隔てて平行に出射する。
【0046】
第1の1/4波長板4は、偏光分離器6と面対向に配置され、光学面上における結晶軸X41の方向が、X軸方向となるように配置される。その材料には水晶やフッ化マグネシウム等の結晶材料が使用され、波長λの直線偏光の位相がπ/2ずれるような厚みで、且つ、対向する光入出射用の光学面が平行となる平板に加工されている。
【0047】
その第1の1/4波長板4と後述する第2の1/4波長板5の間の往復光路では、2つの直線偏光が伝搬される。本実施形態では、その往復光路として偏光面保持ファイバ17を用いる。偏光面保持ファイバ17は、直線偏光状態を保持しつつ光を伝送することの可能な光ファイバ(PMF)であり、その素線内部は
図5の端面図で示すように、高屈折率であるコア17aと、このコア17aの周囲に同心円状に形成された比較的低屈折率のクラッド17cと、クラッド17c内に設けられた2つの応力付与部17bとから構成されている。
【0048】
応力付与部17bは、クラッド17c内でコア17aを中心に対称配置されており、その断面は円形である。また、その屈折率はクラッド17cよりも更に低い。応力付与部17bには、クラッド17cよりも熱膨張係数の大きい材料が用いられており、特にB
2O
3−SiO
2ガラスが利用される。2つの応力付与部17bによってコア17aには両サイドから内部応力が加えられ(
図5の場合はX軸に対して45°の方向、即ちS軸方向に加えられる)、その内部応力によってコア17a内部の応力分布がS軸方向と、その方向に直交な方向(Y軸に対して45°の方向、すなわちF軸方向)で非対称となり、複屈折特性が現れる。
【0049】
この複屈折特性により、X軸に平行な偏光方向で入射する直線偏光L1は、それぞれの軸成分(
図5中のS軸とF軸)に光強度が分離され、2つの直線偏光LFとLSとして偏光面保持ファイバ17内部を伝搬して行き、出射される。この応力方向S軸とその直交方向F軸を偏光面保持ファイバの主軸(偏光保存軸)と云う。応力分布の非対称性によって、S軸とF軸との伝搬定数に差が付けられて偏光モード間の結合が防止される。複屈折特性により、S軸とF軸では光の群速度が異なる。モード屈折率が小さいとその方向に進行する光の群速度が大きくなるので、F軸方向を高速軸(Fast axis)と呼び、同様の理由から大きなモード屈折率を持つS軸方向を低速軸(Slow axis)と呼ぶ。
【0050】
偏光面保持ファイバ17の一端側の端面はレンズ15に対向して配置されると共に、他端側の端面は第2の1/4波長板5に面対向に配置される。各端面は、偏光面保持ファイバ17の光軸と直交する直立面になっている。
【0051】
その偏光面保持ファイバ17の一端側の端面と、第1の1/4波長板4との間にレンズ15が配置される。レンズ15は本実施形態の場合には単一のレンズで構成され、焦点が偏光面保持ファイバ17端面のコアの略中心上に設定されている。
【0052】
なお、第1及び第2光ファイバ11、12の各端面11a、12aは
図21に示すように斜めに研磨加工を施すように変更しても良い。このように端面11a、12aを斜めに形成することにより、端面11a、12aの位置を、レンズ15における常光線LO、異常光線LEごとの焦点距離に合致させ、第1光ファイバ11及び第2光ファイバ12の結合効率を向上させることが可能となる。
【0053】
第2の1/4波長板5は、偏光面保持ファイバ17を伝搬して来る2つの直線偏光LF、LSの偏光面を円偏光LC1、LC2に変換する光学素子として用いられる。その材料には水晶やフッ化マグネシウム等の結晶材料が使用され、波長λの各直線偏光LF、LSの位相がπ/2ずれるような厚みで、且つ、対向する光入出射用の光学面が平行となる平板に加工されている。
【0054】
第2の1/4波長板5は、偏光面保持ファイバ17と面対向に配置されると共に、センサ用光ファイバ2の一端側に配置されるように設けられる。更に、光学面上における結晶軸X51の方向が、偏光面保持ファイバ17から入射される2つの直線偏光LF、LSの偏光方向に対して±45°の角度を呈するようにX軸方向に設定される。
【0055】
従って、第1の1/4波長板4及び第2の1/4波長板5のそれぞれの光学面上における結晶軸X41とX51の結晶軸方向は、同一方向であるX軸方向に設定される。更に、偏光分離器6の光学面上における結晶軸X61方向は、前記の通りY軸方向に設定されている為、結晶軸X61方向と結晶軸X41方向とは互いに直交するように設定される。
【0056】
ファラデー回転子3は、外周に永久磁石3aが設けられた光透過型の光学素子であり、ビスマス置換型ガーネット単結晶で形成され、センサ用光ファイバ2の入射端である一端2a側の近傍と第2の1/4波長板5との間に配置される。また外形は、所定の厚みで且つ対向する光入出射用光学面が平行となる平板に加工されており、入射する2つの円偏光LC1、LC2の一方に、磁気飽和によるファラデー回転角分だけ往復分の総和の位相差を与える。なお、
図4及び
図8では永久磁石3aの図示を省略している。
【0057】
本発明では、2つの円偏光LC1、LC2が透過する際の、磁気飽和時におけるファラデー回転角を、温度23℃において22.5°から若干変化するように設定する。なおファラデー回転角の温度を23℃に定義した根拠は、常温においてファラデー回転角を計測するに当たって最も簡単に計測できる温度として本出願人が設定したためである。従って、円偏光LC1又はLC2がファラデー回転子3を1回透過する際のファラデー回転角は、22.5°+若干の変化分α°となる。よって、第2の1/4波長板5を透過後で且つファラデー回転子3を透過する前の円偏光間の位相差と、センサ用光ファイバ2から出射後で且つファラデー回転子3を透過後の円偏光間の位相差は、被測定電流Iの影響を受けない場合、前記ファラデー回転角の2倍となり、合計で45°+2α°となる。なお、ファラデー回転角の回転方向はZ軸方向に対して、右回り又は左回りのどちらでも任意に設定可能であるが、
図3では一例として左回りの場合を図示している。
【0058】
図11に、円偏光が往復で透過する際に温度23℃において45°のファラデー回転角を有する電流測定装置の信号処理回路から出力される被測定電流の測定値における−20℃以上80℃以下の温度範囲における比誤差の温度特性を模式的に示したグラフを表す。温度範囲を−20℃以上80℃以下の100℃に定義した根拠は、本出願人の客先からの要求による。
【0059】
図11に示すように、電流測定装置の比誤差は温度が上昇するにつれて非線形に増大する。このような比誤差の温度特性において、温度23℃におけるファラデー回転角を22.5°から若干の回転角α°だけ変化するように設定することにより、
図12に示すように往復で回転角は前記の通り45°+2α°となる。これにより
図13に示すように電流測定装置の比誤差の温度特性の曲線は高温側へとシフトする。この結果、
図11と
図13を比較して分かるように、比誤差の変動幅を減少させることが可能となる。回転角α°は、比誤差の温度特性の曲線をシフトさせたときに、比誤差の変動幅が減少する範囲内で任意に設定可能である。このようにファラデー回転角を22.5°からα°だけ変化させることにより、電流測定装置の比誤差の変動幅を減少させる。
【0060】
そのファラデー回転子3と第2の1/4波長板5との間には、レンズ16が配置される。レンズ16は本実施形態の場合には単一のレンズで構成され、焦点が偏光面保持ファイバ17端面のコア17aの略中心上と、センサ用光ファイバ2の一端2aのコアの略中心上に設定される。センサ用光ファイバ2の一端2aも、その光ファイバ2の光軸と直交する直立面になっている。
【0061】
センサ用光ファイバ2は、被測定電流Iが流れている導体18の外周に周回設置される。センサ用光ファイバ2を構成するファイバの種類は特に限定されないが、複屈折を有するファイバとする。ファイバの中でも鉛ガラスファイバは光弾性係数が小さく、且つファラデー効果の大きさを決めるヴェルデ定数が比較的大きいという特性を有するため、センサ用光ファイバ2に好ましい。
【0062】
またセンサ用光ファイバ2は、ファラデー回転子3から出射された回転方向の異なる2つの円偏光LC1、LC2を入射するための一端2aと、入射した円偏光LC1、LC2を反射する他端を備える。その他端には反射部材としてミラー19が設けられる。なお他端には、ミラー19の他にも任意の反射部材を採用することが可能であり、例えば、金、銀、銅、クロム、アルミなど、光に対して低吸収率で高反射率の金属や、誘電体膜による反射膜を設けても良い。
【0063】
更に、
図1より10はサーキュレータ、7は光源、13aと13bは光電変換素子の一種であるフォトダイオード(PD:Photo Diode)、21aと21bはアンプ(A)、22aと22bはバンドパスフィルタ(BPF:Band−Pass Filter)、23aと23bはローパスフィルタ(LPF:Low−Pass Filter)、24aと24bは電気信号の交流成分と直流成分との比を求めるための除算器、25は極性反転器、26は演算器である。
【0064】
フォトダイオード13aは、常光線LOを受光して当該LOの光強度に応じた第1の電気信号を出力する。一方のフォトダイオード13bは、異常光線LEを受光して当該LEの光強度に応じた第2の電気信号を出力する。信号処理回路8は、第1及び第2の電気信号に基づいて被計測電流Iの電流値を算出する。
【0065】
光源7は、半導体レーザ(LD:Laser Diode)、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)、スーパールミネッセントダイオード(SLD:Super Luminescent Diode)、ASE光源などで構成され、所定の波長λの光を出射させる。
【0066】
サーキュレータ10は偏光依存/無依存型のどちらでも良く、光源7から出射された光を直線偏光化し、1つの直線偏光L1を第1光ファイバ11に入射する。そのサーキュレータ10は複屈折素子及び45°ファラデー回転子で構成すれば良く、またサーキュレータ10に換えて偏光分離プリズムや光ファイバカプラを用いても良い。
【0067】
以上のように構成された電流測定装置1の動作を、各図を参照して説明する。なお、
図7及び
図10の(a)〜(h)は、
図2中の符号(a)〜(h)で示す各光路断面での偏光状態に対応している。更に、
図7又は
図10ではX軸方向を1〜4、Y軸方向をa〜dのマトリクスで表し、例えば
図7(a)に示すような直線偏光L1の伝搬位置は、マトリクスで見るとX軸方向で2と3の間、Y軸方向でaとbの間なので、本実施形態ではこのような伝搬位置を(2−3、a−b)と表す。
【0068】
まず、光源7から出射された波長λのレーザ光はサーキュレータ10によって、X軸方向に平行な偏光方向を示す1つの直線偏光L1に変換され、次に第1光ファイバ11に入射される(
図2、
図3参照)。
【0069】
第1光ファイバ11は偏光面保持ファイバなので、直線偏光L1はその偏光方向を保持されたまま第1光ファイバ11の一端側の端面11aまで伝搬され、端面11aから偏光分離器6に(2−3、a−b)の伝搬位置で出射される(
図7(a)参照)。
【0070】
前記の通り、偏光分離器6の光学面上における結晶軸X61方向は、Y軸方向に平行に設定されるため、直線偏光L1の偏光方向と直交する。従って、直線偏光L1は偏光分離器6内部で複屈折を起こすこと無く常光線として透過し、偏光分離器6に入射した時の偏光状態のまま第1の1/4波長板4に入射する。
【0071】
前記の通り、第1の1/4波長板4の光学面上における結晶軸X41の方向は、X軸方向に平行に設定されるため、直線偏光L1の偏光方向と一致する。従って直線偏光L1は第1の1/4波長板4の内部を、入射した時の偏光状態のまま透過して、レンズ15によって偏光面保持ファイバ17の端面に入射される。
【0072】
前記の通り、偏光面保持ファイバ17の偏光保存軸であるS軸とF軸は、X軸に対して45°の方向と、Y軸に対して45°の方向に配置されている。従って、X軸に平行な直線偏光L1が偏光面保持ファイバ17に入射すると、偏光面保持ファイバ17の複屈折特性によりS軸とF軸にそれぞれ平行なベクトル成分に光強度が分離され、2つの直線偏光LFとLSに変換されてコア17a内部を伝搬する(
図3、及び
図5参照)。直線偏光LFとLSは、一端側の端面まで伝送され、端面から第2の1/4波長板5に出射される。
【0073】
偏光面保持ファイバ17内部を伝搬する時に2つの直線偏光LFとLS間には、高速軸(Fast axis)と低速軸(Slow axis)間の群速度の相違による位相差ΔVが発生する。従って、偏光面保持ファイバ17から出射した時に、LFはLSに対してΔV分の位相差を有する。
【0074】
前記の通り、第2の1/4波長板5の光学面上における結晶軸X51の方向は、X軸方向に設定されている。従って、偏光面保持ファイバ17から入射される2つの直線偏光LFとLSの偏光方向に対して±45°の角度を呈するように配置される(
図6、及び
図7(b)参照)。前記F軸と結晶軸X51とは−45°の傾きとなるので、
図7(c)に示すように直線偏光LFは第2の1/4波長板5の入射側(Z軸方向)から見て左回りの第1の円偏光LC1に変換される。一方、前記S軸と結晶軸X51とは+45°の傾きとなるので、
図7(d)に示すように直線偏光LSは第2の1/4波長板5の入射側(Z軸方向)から見て右回りの第2の円偏光LC2に変換される。
【0075】
位相差ΔVが付与されて先行する円偏光LC1は、第2の1/4波長板5から出射された後にレンズ16を透過し、次にファラデー回転子3を透過する際に、22.5°+α°の位相差が付与される。前記の通り、ファラデー回転子3の回転方向はZ軸方向に見て左回りに設定されているので、Z軸方向に見て左回りの円偏光LC1が、LC2に対して22.5°+α°進むように位相差が付与される。ファラデー回転子3を透過後、2つの円偏光LC1とLC2はセンサ用光ファイバ2の一端2aに入射される。
【0076】
センサ用光ファイバ2内に入射した2つの円偏光LC1とLC2は、その内部を伝搬して他端側に到達しミラー19で反射して、再び一端2aに戻る(
図2参照)。このような反射による円偏光LC1及びLC2の往復伝搬の間に、円偏光LC1及びLC2は被測定電流Iによって発生した磁界の影響を受ける。そしてファラデー効果により被測定電流Iの大きさに応じた位相差φが、2つの円偏光LC1及びLC2間に発生する。φは、センサ用光ファイバ2内を円偏光LC1及びLC2が往復したときに、ファラデー効果により被測定電流Iに応じて発生する円偏光LC1及びLC2間の位相差である。
【0077】
更に、センサ用光ファイバ2が有する複屈折により、2つの円偏光LC1及びLC2間には、一端2aから他端までの伝搬の間に位相差が発生し、この位相差による比誤差も発生する。しかしながら、2つの円偏光LC1及びLC2は、ミラー19での反射により一端2aから他端の間を往復伝搬する。従って、一端2aから他端までの往路における伝搬の間に発生した位相差は、他端から一端2aまでの復路における伝搬の間に発生する位相差によって補償される。以上により、センサ用光ファイバ2固有の複屈折に伴う比誤差が補償される。
【0078】
ミラー19による反射の前後で、第1の円偏光LC1及び第2の円偏光LC2のそれぞれの回転方向は変わらないが、反射により伝搬方向は逆方向となる。従って、伝搬方向から見た時にはそれぞれの回転方向は逆回転となる。
【0079】
反射された2つの円偏光LC1及びLC2は、再びセンサ用光ファイバ2を伝搬し、今度はセンサ用光ファイバ2の一端2aからファラデー回転子3へと出射される(
図2及び
図8参照)。
【0080】
円偏光LC1とLC2は、今度はセンサ用光ファイバ2側(−Z軸方向)からファラデー回転子3に入射される。また、各円偏光LC1、LC2の伝搬方向における回転方向は、ミラー19での反射により往路と復路で逆方向となっている。従って、2つの円偏光LC1及びLC2が再度ファラデー回転子3を透過する際に、再び円偏光LC1に対して22.5°+α°の位相差が付与される。以上により、センサ用光ファイバ2から出射してファラデー回転子3を透過した後の2つの円偏光LC1及びLC2の間の位相差は、往路においてファラデー回転子3を透過する前の2つの円偏光LC1及びLC2間に対し、(45°+2α°+φ+ΔV)だけ進むこととなる。
【0081】
ファラデー回転子3を透過後、2つの円偏光LC1とLC2は、レンズ16を透過して再度、第2の1/4波長板5に入射される(
図8、及び
図10(e)、(f)参照)。円偏光LC1は伝搬方向である−Z軸方向から見ると右回りの円偏光なので、第2の1/4波長板5によって前記S軸方向の偏光方向を呈する直線偏光LS’に変換される。一方、円偏光LC2は−Z軸方向から見ると左回りの円偏光なので、第2の1/4波長板5によって前記F軸方向の偏光方向を呈する直線偏光LF’に変換される(
図8、及び
図10(g)参照)。
【0082】
これら2つの直線偏光LF’、LS’は、レンズ16によって偏光面保持ファイバ17端面に入射され、偏光面保持ファイバ17内を他端側まで伝搬される(
図9参照)。直線偏光LF’の偏光方向は、偏光面保持ファイバ17のF軸(高速軸)に平行に入射され、もう一方の直線偏光LS’の偏光方向は、偏光面保持ファイバ17のS軸(低速軸)に平行に入射される。従って、偏光面保持ファイバ17内で2つの直線偏光LF’、LS’は更に分離されることなく、互いの偏光方向を保ったまま第1の1/4波長板4側に伝搬されて行く。
【0083】
前記の通り往路(Z軸方向)での2つの直線偏光LFとLSの間には、偏光面保持ファイバ17の群速度の相違による位相差ΔVが付与されていた。しかし復路(−Z軸方向)では、LSがF軸成分の直線偏光LF’となり、LFがS軸方向の直線偏光LS’となる。従って、復路ではLF’がLS’ に対してΔV分の位相差を有することになる。即ち、往路で位相差ΔVを有する直線偏光LFは、復路では位相差−ΔVを有することになるので、偏光面保持ファイバ17内を2つの直線偏光が往復することにより、偏光面保持ファイバ17内の位相差は補償される。以上により、第1の1/4波長板4と第2の1/4波長板5の間の往復光路である偏光面保持ファイバ17における2つの直線偏光の位相差が補償されることとなる。従って復路において、偏光面保持ファイバ17を出射した時点での2つの直線偏光LF’、LS’間の位相差は、(45°+2α°+φ)となる。
【0084】
偏光面保持ファイバ17の一端側の端面まで伝搬された2つの直線偏光LF’及びLS’は、その端面からレンズ15を介して第1の1/4波長板4に出射され、第1の1/4波長板4を透過することで1つの光に合成される。2つの直線偏光LF’及びLS’間の位相差は(45°+2α°+φ)であるため、合成された光としては、長軸がY軸に対して傾いた楕円偏光が形成される。この楕円偏光の長軸成分と短軸成分との比率は、前記位相差φに依存して変化する。このような楕円偏光が偏光分離器6に入射される。
【0085】
偏光分離器6に入射された合成光は、相互に直交する常光線LOと異常光線LEに分離される(
図2、
図9、及び
図10(h)参照)。常光線LOと異常光線LEの光強度は、前記位相差φに依存して変化する。
図9及び
図10(h)では見易さの確保のため、大きめに図示している。結晶軸X61方向はY軸方向に設定されているため、常光線LOの偏光方向と直交する。従って、常光線LOは偏光分離器6内部で複屈折を起こすこと無く、
図10(h)に示すように(2−3、a−b)の伝搬位置のまま透過して第1光ファイバ11に入射される。一方、異常光線LEは、結晶軸X61の方向に対して平行となるため、
図10(h)に示すように偏光分離器6内部で(2−3、c−d)の伝搬位置にシフト移動され、第2光ファイバ12に入射される。
【0086】
第1光ファイバ11に入射された常光線LOの直線偏光は、サーキュレータ10に導かれ、更に光電変換素子13aに受光される。一方、第2光ファイバ12に入射された異常光線LEの直線偏光は、光電変換素子13bに受光される。
【0087】
光電変換素子13a、13bにより2つの直線偏光は、第1及び第2の電気信号に変換され、それら電気信号は信号処理回路8に入力され、2つの電気信号のそれぞれの変調度(交流成分/直流成分)の平均が演算され、最終的に電気量に変換されることで被測定電流Iの電流値が算出される。
図14に、電流測定装置1において信号処理回路8から出力される被測定電流Iの測定値における比誤差の温度特性グラフの一例を示す。
【0088】
本発明では、
図14に示すように信号処理回路8から出力される、被測定電流Iの測定値における比誤差の変動幅を、±0.5%の範囲内に設定するものとする。また前記±0.5%を、100℃(−20℃以上80℃以下)の温度範囲に亘って実現するものとする。前記温度範囲を−20℃以上80℃以下の100℃に設定する理由は、−10℃以上40℃以下の常温域をカバーする実用性を考慮したものである。本発明では、このような比誤差の変動幅の±0.5%内の設定を、前述したようにファラデー回転子3の回転角の調整と、センサ用光ファイバ2固有の複屈折に伴う比誤差の補償、及び、第1の1/4波長板4と第2の1/4波長板5の間の往復光路における2つの直線偏光の位相差の補償、により実現するものである。
【0089】
以上のように本発明に依れば、温度23℃においてファラデー回転子3の回転角を22.5°からα°だけ変化させて電流測定装置1の比誤差の変動幅を減少させることに加え、センサ用光ファイバ2固有の複屈折に伴う比誤差を補償すると共に、第1の1/4波長板4と第2の1/4波長板5の間の往復光路における2つの直線偏光の位相差も補償している。従って、ファラデー回転子3の回転角の位相差以外の位相差は、センサ用光ファイバ2内部のファラデー効果による位相差φを除いて全て補償され、電流測定装置1の出力に現れなくなる。よって、センサ用光ファイバの複屈折に起因する比誤差の変動幅(約−1.0%〜約1.2%)が補償されると共に、第1の1/4波長板4と第2の1/4波長板5の間の往復光路における2つの直線偏光の位相差も補償されるため、電流測定装置1の出力における比誤差の変動幅を±0.5%の範囲内に確実に収めることが可能となる。
【0090】
更に、ファラデー回転子3の回転角の位相差以外の位相差が、位相差φを除いて全て補償されるので、偏光面保持ファイバ17やセンサ用光ファイバ2に振動や温度の変動などの外乱が加わって、光の伝搬時に位相が変化しても、電流測定装置1の出力は影響を受けない。従って、電流測定装置1の出力特性を安定化させることも可能となる。
【0091】
更に電流測定装置1の出力における比誤差の変動幅を、−20℃以上80℃以下の温度範囲に亘って±0.5%の範囲内に抑えることにより、電流測定装置の信頼性が向上すると共に、比誤差の変動幅を±0.5%以内に抑えることで、保護継電器用途への適用が可能な電流測定装置を実現することが出来る。
【0092】
更に、2つの1/4波長板4及び5のそれぞれの光学面上における結晶軸X41及びX51方向を同一方向に設定している。従って、円偏光を使用した電流測定装置1を構成する際に、2つの1/4波長板4及び5の分だけ構成素子が増加しても、互いの1/4波長板の結晶軸角度の調整作業や設置作業を行う必要が無くなる。よって本発明の電流測定装置1に依れば、比誤差変動幅の±0.5%範囲内への抑制という高機能の実現と、構成素子の組み立て作業の容易化を同時に実現することが可能となる。
【0093】
なお、本実施形態の電流測定装置1では、偏光分離器6の結晶軸X61方向を、第1の1/4波長板4の結晶軸X41方向に対して直交に設置する必要がある。しかしながら、例えば45°の角度を付けて設置する場合に比べて細かな角度調整作業が必要となるわけでは無いので、偏光分離器6と第1の1/4波長板4との間の組み立て作業を容易に行うことが出来る。
【0094】
なお前記電流測定装置1は、ファラデー回転子3を
図16に示すように、例えばファラデー回転角が異なる2つのファラデー素子27a、27bで構成した電流測定装置28に変更可能である。電流測定装置28では、円偏光LC1とLC2が往復で2つのファラデー素子27a、27bを透過する際の、磁気飽和時における合計のファラデー回転角を、45°から若干変化するように設定する。即ち円偏光LC1及びLC2が、2つのファラデー素子27a、27bをそれぞれ1回透過したときのファラデー回転角の合計を、22.5°+若干の変化分α°とするように変更すれば良い。なおファラデー素子の数は2つに限定されず、3つ以上でファラデー回転子3を構成することも可能である。
【0095】
図17、
図18はそれぞれのファラデー素子27a、27bのファラデー回転角の温度特性を模式的に示したグラフである。更に、各ファラデー素子のそれぞれのファラデー回転角の温度特性を組み合わせたときのファラデー回転角の温度特性を
図19に示す。
図17に示すように第1ファラデー素子27aの回転角は2次曲線状の温度依存性を持つ。また、第2ファラデー素子27bの回転角は
図18に示すように、−20℃以上80℃以下の温度範囲に亘って温度の上昇に反比例して一様に減少していることが分かる。従って、この第1ファラデー素子27aと第2ファラデー素子27bのファラデー回転角の温度特性を組み合わせると、
図19に示すような温度の上昇に対して2次曲線状に減少するファラデー回転角の温度特性を示す。従って、被測定電流Iの測定値における比誤差の変動幅を、−20℃以上80℃以下の温度範囲に亘って±0.2%の範囲内に抑えることにより、±0.2%範囲内の比誤差の温度特性が要求される用途(例えば厳密な計量が要求される電気料金計量用の電力量計)に電流測定装置を使用することが可能となる。
【0096】
前記
図15に示すように、センサ用光ファイバ2に用いる鉛ガラスファイバの比誤差の温度特性は、温度の上昇に比例して一様に増加する。従って、この高温域でのファラデー回転角減少分をファラデー素子27aと27bに設けることに加えて、センサ用光ファイバ2の複屈折の補償と、2つの1/4波長板4及び5の間の往復光路における2つの直線偏光の位相差の補償を行うことにより、センサ用光ファイバ2に使用される鉛ガラスファイバの比誤差の温度特性を加えたときに、前記高温域でのファラデー回転角減少分によって鉛ガラスファイバの比誤差変化分が補償される。よって、
図20に示すように、信号処理回路8から出力される被測定電流Iの測定値における比誤差の変動幅を−20℃以上80℃以下の温度範囲に亘って±0.5%(又は±0.2%)の範囲内に抑えることが可能となる。
【0097】
電流測定装置1と電流測定装置28の構成を比較すると、電流測定装置1の方がファラデー回転子3を1枚とすることができるので、その分電流測定装置の構成を簡素化できると共に、信号処理回路8から出力される被測定電流Iの測定値における比誤差の変動幅も調節しやすくなる。以上の理由により、電流測定装置1が最も好ましい実施形態である。
【0098】
しかしながらファラデー回転子3のガーネットの組成により、所望の回転角を有するガーネット単結晶が安定して作成することが出来ない場合は、ファラデー回転子3を2つ以上のファラデー素子で構成すれば良い。更に、2つ以上のファラデー素子でファラデー回転子3を構成する場合は、各ファラデー素子のファラデー回転角がそれぞれ異なるように構成することにより、各ファラデー素子の温度特性を所望の特性に設定することが出来る。
【0099】
被測定電流Iの測定値における比誤差の変動幅を、−20℃以上80℃以下の温度範囲に亘って±0.2%の範囲内に抑えることにより、±0.2%範囲内の比誤差の温度特性が要求される用途(例えば厳密な計量が要求される電気料金計量用の電力量計)に電流測定装置を使用することが可能となる。
【0100】
センサ用光ファイバ2に用いる鉛ガラスファイバは、
図15に示すような比誤差の温度特性を有する。従って、ファラデー回転子3の回転角を22.5°からα°だけ変化させて電流測定装置1の比誤差の変動幅を減少させる際は、鉛ガラスファイバの比誤差の温度特性を加えた上で、信号処理回路8から出力される被測定電流Iの測定値における比誤差の変動幅が−20℃以上80℃以下の温度範囲に亘って±0.5%(又は±0.2%)の範囲内に収まるように、α°の角度を調節する。従って、センサ用光ファイバ2に鉛ガラスファイバを使用しても、信号処理回路8から出力される被測定電流Iの測定値における比誤差の変動幅を±0.5%(又は±0.2%)の範囲内に抑えることが可能となる。
【0101】
なお、本発明はその技術的思想により種々変更可能であり、例えばセンサ用光ファイバ2を石英ガラスファイバとしても良い。従って、センサ用光ファイバの種類を問わず広く本発明の電流測定装置を実現することが出来るので、電流測定装置の歩留まり向上も可能となる。また、第1光ファイバ11をシングルモード光ファイバに変更しても良い。
【0102】
また、2つの直線偏光を伝搬する、第1の1/4波長板4と第2の1/4波長板5の間の往復光路としては偏光面保持ファイバ17に限定されず、例えば
図22に示すような、Z軸方向から見たときに光学面上の結晶軸X20aとX20bの方向が揃っていると共に、異常光線のシフト移動の方向が逆方向に配置された、2つの複屈折素子20a、20bで構成しても良い。なお、
図22においてレンズ15は省略している。
【0103】
第1の1/4波長板4及び第2の1/4波長板5のそれぞれの光学面上における結晶軸X41とX51の方向は、互いに直交するように設定しても良い。
図3〜
図4の実施形態では、結晶軸X41及びX51は共にX軸方向に設定しているが、例えば結晶軸X41の方向のみをY軸方向に平行に変更しても良い。或いは逆に結晶軸X41をX軸方向に設定し、結晶軸X51の方向のみをY軸方向に平行に変更しても良い。
【0104】
結晶軸X41とX51の方向を互いに直交に設置する場合であっても、例えば互いに45°の角度を付けて設置する場合に比べて、互いの結晶軸X41とX51方向の細かな角度調整作業が必要となるわけでは無い。従って、2つの1/4波長板4及び5の間の組み立て作業を容易に行うことが出来る。
【0105】
結晶軸X41とX51の方向を互いに直交または平行に設定するときは、結晶軸X41方向が直線偏光L1の偏光方向と直交または平行となるように注意すると共に、結晶軸X51方向は2つの直線偏光LF及びLSの互いの偏光方向と±45°の角度を形成するように注意する。
【0106】
また
図23に示すように、偏光分離器6の光学面上における結晶軸X61方向と、第1の1/4波長板4の光学面上における結晶軸X41方向を同一方向に変更しても良い。
図23に示す構成例では、結晶軸X61方向をX軸方向に設定している。この場合、第1光ファイバ11を伝搬してくる直線偏光L1が異常光線として偏光分離器6に入射されるため、偏光分離器6内部でのシフト移動分だけ、予め第1光ファイバ11の端面11aの位置を変更しておけば良い。併せて
図3中の第1光ファイバ11の端面11aの位置に、前記端面12aが来るように第2光ファイバ12の位置も変更しておけば良い。
【0107】
このように、偏光分離器6の光学面上における結晶軸X61方向と、第1の1/4波長板4の光学面上における結晶軸X41方向を同一方向に設定することにより、偏光分離器6と第1の1/4波長板4との間の結晶軸角度の調整作業や設置作業を行う必要が無くなる。従って、偏光分離器6と第1の1/4波長板4との間の組み立て作業をより一層容易化することが出来る。
【0108】
更に、偏光分離器6の光学面上における結晶軸X61方向と、2つの1/4波長板4及び5の光学面上における結晶軸X41及びX51方向を同一方向に設定することにより、偏光分離器6と2つの1/4波長板4及び5との間の、結晶軸角度の調整作業や設置作業を行う必要が無くなる。従って、偏光分離器6と2つの1/4波長板4及び5との間の組み立て作業を、より一層容易化することが出来る。
【実施例】
【0109】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。なお、各実施例1〜実施例3においては、センサ用光ファイバ2に鉛ガラスファイバを用いると共に、第1の1/4波長板4と第2の1/4波長板5の間の往復光路を偏光面保持ファイバ(PMF)で構成する。更に、2つの1/4波長板4及び5の結晶軸X41とX51の方向は互いにX軸方向に設定すると共に、変更分離器6の結晶軸X61方向はY軸方向に設定するものとする。
【0110】
(実施例1)
図2のファラデー回転子3として、光アイソレータに用いられる、
図14に示すようなファラデー回転角の温度特性を有する磁性ガーネットを使用した例を示す。温度23℃におけるファラデー回転角を22.5°+1.0°に設定したファラデー回転子を使用した。即ち、α=1.0°と設定し、円偏光LC1とLC2が往復で透過する際の、磁気飽和時における合計のファラデー回転角を47.0°と設定した。このようなファラデー回転子3を備えた電流測定装置1の信号処理回路から出力される、被測定電流Iの測定値における温度−比誤差特性を表1及び
図24に示す。なお表1におけるファラデー回転角とは、円偏光LC1とLC2が往復で透過する際の磁気飽和時における合計のファラデー回転角である。また、表1における比誤差とは、電流測定装置1の信号処理回路から出力される、被測定電流Iの測定値における比誤差である。以下、実施例2乃至実施例3でも同様とする。
【0111】
【表1】
【0112】
表1及び
図24より、ファラデー回転子が1つで、α=1.0°と設定した場合、23℃を基準とした比誤差を−0.01〜0.42%に収めることが可能であることが分かる。即ち、比誤差の変動幅は、−20℃以上80℃以下の温度範囲に亘って0.43%の範囲内となる。
【0113】
(実施例2)
往復での磁性ガーネットの回転角の温度依存性を以下の2次式(数1)で表し、係数a及び係数bに対する比誤差変動幅の最小値を計算した。なお係数cは比誤差変動幅が最小値をとるように設定した。比誤差変動幅と係数aおよびbの関係を表2に示す。また、表2のように比誤差変動幅が最小値となる場合の温度23℃におけるファラデー回転角調整分α°と係数a及び係数bとの関係を表3に示す。
【0114】
(数1)
θF=a・T2+b・T+c なおT:温度[℃]
【0115】
【表2】
【0116】
【表3】
【0117】
表2および表3は係数aおよび係数bの0を中心に点対称の関係となっている。表2より比誤差変動幅が最小となるのは係数a、係数bがそれぞれ−0.0001および−0.02の場合と、係数a、係数bがそれぞれ0.0001および0.02の場合があり、そのときの回転角調整分α°の符号は表3から前者でプラスとなり、後者でマイナスとなる。一般的な磁性ガーネットは上に凸型状の曲線かつ温度の上昇に伴って回転角が減少するファラデー回転角の温度特性となることから、係数a及び係数bの符号はマイナスとなる。以上のことから比誤差変動幅を低減するためには、磁性ガーネットの温度−回転角特性の係数aが−0.0001および係数bが−0.02に近い値にすれば良いことがわかる。この場合、回転角調整分α°は1.66°程度となる。
【0118】
比誤差変動幅を低減する係数a、bを実現するため、
図16に示す2つのファラデー素子27a、27bによる実施例を示す。
図16のファラデー素子27aとして、2次曲線状の温度依存性を持つ磁性ガーネットを使用し、ファラデー素子27bとして
図26に示すような磁性ガーネットを使用した。温度23℃におけるファラデー回転角45°のファラデー素子27a、27bの温度依存性をそれぞれ
図25および
図26に示す。
【0119】
ファラデー素子27a、27bのそれぞれの厚さを最適化した結果、往復時に以下の数2で示される温度依存性をもつファラデー素子が得られた。温度23℃における磁気飽和時のファラデー素子27aの回転角8.34°、ファラデー素子27bの回転角15.73°、合計ファラデー回転角24.07°が得られ、α=1.57°となる。円偏光LC1とLC2が往復で透過する際の、温度23℃における磁気飽和時の合計のファラデー回転角は48.14°となる。往復時の合計ファラデー回転角の温度依存性を
図27に示す。
【0120】
(数2)
θF=−2.02・10−4・T2−0.0200・T+48.71 なおT:温度[℃]
【0121】
電流測定装置28の信号処理回路から出力される、被測定電流Iの測定値における温度−比誤差特性を表4及び
図28に示す。
【0122】
【表4】
【0123】
表4及び
図28より、2つのファラデー素子27a、27bで構成し、α=1.57°と設定した場合、温度23℃を基準とした比誤差を−0.04〜0.01%に収めることが可能となった。即ち、比誤差の変動幅は、−20℃以上80℃以下の温度範囲に亘って0.05%の範囲内となる。
【0124】
(実施例3)
表2の検討結果をもとに1つのファラデー回転子で比誤差を低減すべく、磁性ガーネットの開発を行った。その結果以下の数3で示される温度依存性をもつ磁性ガーネットが得られた。温度23℃におけるファラデー回転角は24.22°、即ちα=1.72°と設定した。得られた磁性ガーネットの温度依存性を
図29に示す。
【0125】
(数3)
θF=−1.64・10−4・T2−0.0185・T+48.95 なおT:温度[℃]
【0126】
円偏光LC1とLC2が往復で透過する際の、磁気飽和時における合計のファラデー回転角は48.44°となる。このようなファラデー回転子3を備えた電流測定装置1の信号処理回路から出力される、被測定電流Iの測定値における温度−比誤差特性を表5及び
図30に示す。
【0127】
【表5】
【0128】
表5及び
図30より、比誤差範囲が−0.05〜0.01%となり、比誤差の変動幅は、−20℃以上80℃以下の温度範囲に亘って0.06%の範囲内となる。実施例2と比較して1つのファラデー回転子で同等の性能を実現できた。