(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エポキシ樹脂、芳香族グリシジルエーテル及び芳香族アルコールを含有する接着剤組成物であって、前記芳香族アルコールの含有量は、接着剤組成物全体に対して、2質量%〜5質量%であり、前記芳香族アルコールに対する前記芳香族グリシジルエーテルの質量比は、0.4〜3であることを特徴とする接着剤組成物。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車用バッテリー等として各種鉛蓄電池が用いられている。鉛蓄電池の一般的な製造方法を以下に示す。
まず、セパレータを介して正極板及び負極板を積層し、正極板及び負極板の耳部に、正極柱及び負極柱を接続して極板群を形成する。この極板群をバッテリーケースの電槽内に収容し、電槽の上端開口部を密閉するために蓋部を設置して接続部を接着剤で密封する。次に、槽内に、電解液として希硫酸を注入する。さらに、正極柱及び負極柱の上部に、正極外部端子及び負極外部端子を接続し、それぞれの引き出し部を接着剤で密封する。
しかしながら、上記鉛蓄電池では、接着剤で密封した接着部で剥離が生じ、槽内に充填された電解液の希硫酸が滲出するという問題があった。なお、本明細書においては、上記現象に対する耐性を「耐硫酸性」という。
上記電槽や蓋部を備えるバッテリーケースの材料としては、一般にアクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)等が用いられている。そのため、ABS樹脂及び鉛又は鉛合金に対する接着性に優れ、且つ耐硫酸性に優れる接着剤用の樹脂組成物が望まれてきた。
【0003】
特許文献1には、(A)エポキシ樹脂、(B)第3級アミン系硬化剤及び(C)第1級アミン系硬化剤及び/又は第2級アミン系硬化剤からなる接着剤組成物及びそれを用いた接着方法が開示されている。特許文献1の接着剤組成物は、スチレン系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂及び鉛を含む金属に対して優れた接着性を示し、それらの樹脂からなる固体表面同士や上記樹脂からなる固体表面と鉛又は鉛合金からなる固体表面とを強固に接着させることができることが記載されている。また、特許文献1の接着剤組成物の硬化物は、優れた耐硫酸性を有するため、接着面の剥離による内部硫酸の滲みだしが解決できることも記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、(A)エポキシ樹脂100重量部と(B)(イ)ジメチルアミノメチルフェノールと(ロ)トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールとの重量比10:90ないし35:65の混合硬化剤9〜22重量部からなるバッテリーケース用接着剤が開示されている。上記の接着剤は、ABS樹脂からなるバッテリーケースを接着する場合でも、低温、短時間で硬化するため、長時間の加熱によりABS樹脂が変形することがないこと、スチレン系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、鉛及び鉛合金に対しても優れた接着性を示すので、上記樹脂からなるバッテリーケースを強固に接着することができること、及び上記樹脂からなるバッテリーケースと鉛や鉛合金からなる電極端子とを強固に接着できることが示されている。さらに、特許文献2の接着剤を用いたバッテリーのバッテリーケースと電極端子との接着部は、強い接着強度を有するため、接着面での剥離による硫酸の滲み出しが殆ど生じないことが記載されている。
【0005】
上記接着剤には、通常、粘度を調整したり、接着性を向上させるために、希釈剤が用いられている。ベンジルアルコールは、特にABS樹脂との接着性を向上させるために有効な希釈剤である。しかしながら、ベンジルアルコールの使用により接着剤の耐硫酸性が低下する可能性があることがわかってきた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
本発明の接着剤組成物は、エポキシ樹脂、芳香族グリシジルエーテル及び芳香族アルコールを含有する接着剤組成物であって、芳香族アルコールの含有量が、接着剤組成物全体に対して、2質量%〜5質量%であることを特徴とする。
エポキシ樹脂系接着剤は、通常、一液型と二液型に大別される。一液型は、加熱や紫外線照射により硬化させるタイプで、混合工程を要しない。一方、二液型は、エポキシ樹脂を含有する主剤と硬化剤を含有する硬化剤液の二液を混合して硬化させるタイプで、低温で硬化させることができる。高温加熱工程や紫外線照射工程等を要しない点では、二液混合型が好ましい。
【0012】
本発明の接着剤組成物には、後述するように、アミン系等の低温硬化剤を用いることが好ましい。この場合、主剤と硬化剤液を混合して硬化させる二液型の接着剤組成物が用いられる。ここで、フェニルグリシジルエーテル等の芳香族グリシジルエーテルは、常温で低温硬化剤と反応しやすいため、主剤中に添加する。一方、ベンジルアルコール等の芳香族アルコールは、通常、硬化剤と反応しないので、主剤若しくは硬化剤液のいずれか又は主剤及び硬化剤液の双方に添加することができる。
【0013】
上記接着剤組成物全体に対する芳香族アルコールの含有量は、一液型の場合には、その接着剤組成物中の芳香族アルコールの含有量である。一方、二液型の場合には、主剤と硬化剤液を混合した後の接着剤組成物全体に対する芳香族アルコールの含有量である。芳香族アルコールの含有量は、熱分析等により算出することができる。
ここで、接着剤組成物中の芳香族アルコールの含有量を上記範囲とすることにより、耐硫酸性並びにバッテリーケース本体の樹脂材料及び鉛又は鉛合金との接着性に優れ、且つブラックスポットの生じ難い接着剤組成物を得ることができる。
【0014】
また、接着剤組成物中の芳香族アルコールに対する芳香族グリシジルエーテルの質量比は、0.4〜3であることが好ましい。すなわち、芳香族アルコールの質量1に対して、芳香族グリシジルエーテルを0.4〜3添加することが好ましい。芳香族アルコールに対する芳香族グリシジルエーテルの質量比を上記範囲とすることにより、さらに優れた耐硫酸性が得られ、ブラックスポットの発生もさらに有効に抑えることができる。
上記芳香族グリシジルエーテル及び芳香族アルコールの質量比は、一液型の場合には、その接着剤組成物中の値である。一方、二液型の場合には、主剤と硬化剤液を混合した後の状態の値である。
以下に、本発明の接着剤組成物の詳細について説明する。
【0015】
(1)エポキシ樹脂
本発明の接着剤組成物は、エポキシ樹脂を含有する。エポキシ樹脂は、機械的特性、耐薬品性、耐熱性及び接着性の優れた材料として、接着剤組成物の主成分として広く用いられている。本発明に用いられるエポキシ樹脂は、特に限定されず、常温又は作業温度で液状の公知のエポキシ樹脂を用いることができる。具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂、有機カルボン酸類のグリシジルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。特に、接着剤組成物の粘度を低減でき、且つABS樹脂及び鉛や鉛合金との接着性に優れるという点で、ビスフェノールA型エポキシ樹脂は好適である。本発明の接着剤組成物において、エポキシ樹脂は単独で用いることもできるが、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0016】
(2)希釈剤
通常、接着剤組成物には、粘度調製や被着体との接着性を向上させる目的で希釈剤を配合する。公知の希釈剤としては、ブチルグリシジルエーテル等のアルキルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アルキルフェノールグリシジルエーテル等のモノエポキシサイド、ブタンジオールグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等のジエポキシサイド等の反応性希釈剤が挙げられる。また、ベンジルアルコール、キシレン樹脂、トルエン樹脂、ブチルジグリコール、ノニルフェノール等の非反応性希釈剤も挙げられる。
ベンジルアルコールは、接着剤組成物の粘度低減に有効な希釈剤で従来から知られている。しかし、ベンジルアルコールを単独で用いた場合には、十分な耐硫酸性が得られない可能性があることがわかってきた。これに対して、芳香族グリシジルエーテルを用いた接着剤では、耐硫酸性が改善されるとともに接着強度も向上することが見出された。しかし、硫酸との接触により、接着剤にブラックスポットが発生するという新たな問題が生じる。
本発明者らは、希釈剤としてフェニルグリシジルエーテルとベンジルアルコールを採用して、さらに接着剤組成物全体に占めるベンジルアルコールの量を調製することにより上記課題を解決できることを確認した。そして、フェニルグリシジルエーテル以外の芳香族グリシジルエーテル及びベンジルアルコール以外の芳香族アルコールにおいても同様の効果が得られることを見出した。すなわち、本発明の接着剤組成物は、芳香族グリシジルエーテル及び芳香族アルコールを含有し、接着剤組成物全体に対する芳香族アルコールの含有量が、2質量%から5質量%の範囲であることを特徴とする。このような接着剤組成物は、バッテリーケース本体の樹脂材料及び鉛又は鉛合金との接着性に優れ、得られる硬化物では、ブラックスポットの発生が抑えられる。
アルコールとエーテルを比較すると、エーテルの方が電子密度が局在化しているため硫酸と反応しやすいと考えられる。一方、芳香族と脂肪族を比較すると芳香族の方が電子密度が非局在化しているため、硫酸と反応しにくいものと考えられる。このため、芳香族アルコールは、硫酸との反応性が低いと考えられる。
ブラックスポットは、グリシジルエーテルと硫酸との反応により生じると考えられる。上記のとおり、芳香族アルコールは硫酸に対する反応性が低く、架橋反応に寄与しないため、接着剤硬化物中でフリーの状態で存在する。本発明では、接着剤硬化物に硫酸が接触した場合、硬化物中に存在する所定量の芳香族アルコールにより、硫酸と芳香族グリシジルエーテルとの反応が阻害され、ブラックスポットの発生が効果的に抑えられると考えられる。
また、本発明の接着剤組成物中の芳香族アルコールに対する芳香族グリシジルエーテルの質量比は、0.4〜3であることが好ましい。芳香族グリシジルエーテルと芳香族アルコールの質量比を上記範囲とすることにより、更に耐硫酸性を向上させることができる。
以下に、本発明に用いられる芳香族グリシジルエーテル及び芳香族アルコールについてそれぞれ説明する。
【0017】
(A)芳香族グリシジルエーテル
本発明では、希釈剤として、芳香族グリシジルエーテルを用いる。この成分を添加することにより耐硫酸性と各種基材に対する接着強度を向上させることができる。具体的な芳香族グリシジルエーテルとしては、フェニルグリシジルエーテル、アルキルフェノールグリシジルエーテル等が挙げられる。
本発明では、上記芳香族グリシジルエーテルを単独で用いることもできるし、複数の芳香族グリシジルエーテルを混合して用いることもできる。
【0018】
(B)芳香族アルコール
また、本発明では、希釈剤として、さらに、芳香族アルコールを用いる。
具体的な芳香族アルコールとしては、ベンジルアルコール、アニシルアルコール、ベラトリルアルコール、クミニルアルコール、フェネチルアルコール、ヒドロシンナミルアルコール等が挙げられる。
本発明では、上記芳香族アルコールを単独で用いることもできるし、複数の芳香族アルコールを混合して用いることもできる。
なお、複数の芳香族アルコールを用いる場合、芳香族アルコールの含有量は、含有する全ての芳香族アルコールの合計の含有量である。また、複数の芳香族グリシジルエーテル又は芳香族アルコールを用いる場合、芳香族アルコールに対する芳香族グリシジルエーテルの質量比は、芳香族アルコールの合計量に対する芳香族グリシジルエーテルの合計量から算出する。
【0019】
(3)硬化剤
本発明の接着剤組成物は、アミン系硬化剤を含有することが好ましい。硬化剤としては、常温で液状のものが好ましいが、常温で固体であっても有機溶媒に溶解して用いることができる。具体的には、イソホロンジアミン(cis-,trans-混合物)、メタフェニレンジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、4−クロロ−オルトフェニレンジアミン、3,3′−ジエチル−4,4′−ジアミノフェニルメタン、m−アミノベンジルアミン又はそれらの混溶融物(例えば、芳香族ジアミン共融混合物)や樹脂アダクト物等の芳香族ポリアミン系硬化剤や、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、ラミロンC−260、メンセンジアミン、イソフオロンジアミン等の脂肪族ポリアミン系硬化剤;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミン又はそれらの混溶融物や樹脂アダクト物等の脂肪族アミン系硬化剤が挙げられる。本発明では、上記第1級アミン系硬化剤又は第2級アミン系硬化剤を単独で用いることもできるが、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
さらに、上記第1級アミン系硬化剤又は第2級アミン系硬化剤に、第3級アミン系硬化剤を組合せて用いることもできる。第3級アミン系硬化剤の具体例としては、例えば、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール等が挙げられる。
【0020】
上記硬化剤の配合割合は、エポキシ樹脂を100として、質量比で、18〜26が好ましく、20〜24がより好ましい。硬化剤の配合割合を上記範囲とすることにより、組成物の適度な硬化速度が得られ、作業性に優れ、発熱によるバッテリーケース等の変形や硬化収縮の発生が抑えられる。
また、アミン系硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂l当量に対するアミノ基当量換算で、0.8当量〜1.2当量、好ましくは、0.9当量〜1.1当量の範囲であることが好ましい。上記範囲では、接着剤の樹脂材料との接着性及び硫酸浸漬後の鉛との接着性がさらに向上する。
【0021】
本発明の接着剤組成物には、本発明の効果が損なわれない範囲で、接着剤に慣用されている各種添加剤を添加することができる。上記添加剤としては、例えば、無機充填剤、難燃剤、消泡剤、界面活性剤、着色剤等が挙げられる。また、無機充填剤としては、例えばシリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、クレー等が挙げられる。
【0022】
(4)接着剤組成物の調製
本発明の接着剤組成物は、一液型の場合には、上述したエポキシ樹脂、芳香族グリシジルエーテル、芳香族アルコール、硬化剤、その他必要に応じて、各種添加剤等を任意の順序で加えて混合することにより調製することができる。また、二液型の場合には、エポキシ樹脂に、芳香族グリシジルエーテル、芳香族アルコール、その他必要に応じて、各種添加剤を加えて混合することにより、主剤を調製する。一方、硬化剤に、芳香族アルコール、その他必要に応じて、各種添加剤を加えて混合することにより、硬化剤液を調製する。なお、芳香族アルコールは、主剤又は硬化剤液の一方のみに添加することもできる。上記接着剤組成物の混合には、攪拌棒、ヘラ等を用いることができる。
【0023】
(5)バッテリーの製造
本発明の接着剤組成物は鉛蓄電池のバッテリーケース用として好ましく用いられる。以下に、本発明の二液型接着剤組成物を用いてバッテリーケースを製造する方法について説明する。バッテリーケースの電槽の上端周面に形成された凸部に嵌合する凹部(溝部)に主剤及び硬化剤液を混合した接着剤組成物を注入する。上記凹部に蓋部凸部を嵌合させて上から押圧し、接着剤組成物を硬化させる。ここで、接着剤組成物の硬化反応を促進させるためには、容器部及び蓋部を、予め30℃〜80℃に加熱しておくのが好ましい。
さらに、正極柱及び負極柱の上部に、鉛又は鉛合金製の正極外部端子及び負極外部端子を接続し、それぞれの引き出し部に上記接着剤組成物を付着して硬化させて固定する。
【実施例】
【0024】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、実施例中、特に記載がない場合には、「%」は質量%を示す。
【0025】
(実施例1)
表1に示すように、エポキシ樹脂100に対して、質量比で、ベンジルアルコール及びフェニルグリシジルエーテルをそれぞれ2ずつ添加して混合することにより、主剤を調製した。ここで、エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER828:三菱化学社製)を用いた。一方、硬化剤としては、希釈剤を添加せず、イソホロンジアミンをそのまま用いた。上記主剤と硬化剤を質量比で100/22の割合で秤量して、混合することにより、接着剤組成物を調製した。ここで、接着剤組成物全体に対するベンジルアルコールの含有量は、1.6質量%であった。得られた接着剤組成物を後述する引張りせん断強度測定、耐硫酸性評価試験における特定の箇所に塗布し、60℃で90分間加熱することにより硬化させた。また、容器に接着剤組成物を注入後、60℃で90分間加熱して、ブラックスポットの発生評価用の試料を作製した。それぞれの試料の引張りせん断強度(接着力)を測定した結果並びに耐硫酸性及びブラックスポットの発生の有無を評価した結果を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
(実施例2〜実施例4)
エポキシ樹脂100に対して、表1に示す質量比で、ベンジルアルコール及びフェニルグリシジルエーテルをそれぞれ添加した他は、実施例1と同様に主剤を調製した。得られた主剤と硬化剤を表1に示す質量比で秤量して、混合することにより、接着剤組成物を調製した。ここで、実施例2、3及び4の接着剤組成物全体に対するベンジルアルコールの含有量は、それぞれ2.0質量%、3.7質量%及び5.1質量%であった。得られた接着剤組成物より実施例1と同様に、引張りせん断強度測定用、耐硫酸性及びブラックスポットの発生評価用の試料を作製し、それぞれの評価を行った結果を表1に示す。
【0028】
(比較例1)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂とイソホロンジアミンを質量比で100/23の割合で秤量して、混合することにより、接着剤組成物を調製した。得られた接着剤組成物より実施例1と同様に、引張りせん断強度測定用、耐硫酸性及びブラックスポットの発生の有無評価用試料を作製し、それぞれの評価を行った結果を表1に示す。
【0029】
(比較例2)
エポキシ樹脂100に対して、質量比で10のフェニルグリシジルエーテルを添加し、ベンジルアルコールを添加しなかった他は、実施例1と同様に、接着剤組成物を調製した。得られた接着剤組成物より実施例1と同様に、引張りせん断強度測定用、耐硫酸性及びブラックスポットの発生の有無評価用試料を作製し、それぞれの評価を行った結果を表1に示す。
【0030】
(比較例3)
エポキシ樹脂100に対して、質量比で10のベンジルアルコールを添加し、フェニルグリシジルエーテルを添加しなかった他は、実施例1と同様に、接着剤組成物を調製した。なお、ここで、接着剤組成物全体に対するベンジルアルコールの含有量は、7.6質量%であった。得られた接着剤組成物より実施例1と同様に、引張りせん断強度測定用、耐硫酸性及びブラックスポットの発生の有無評価用試料を作製し、それぞれの評価を行った結果を表1に示す。
【0031】
(比較例4及び比較例5)
エポキシ樹脂100に対して、表1に示す質量比で、ベンジルアルコール及びフェニルグリシジルエーテルをそれぞれ添加した他は、実施例1と同様に主剤を調製した。得られた主剤と硬化剤を表1に示す質量比で秤量して、混合することにより、接着剤組成物を調製した。ここで、比較例4及び5の接着剤組成物全体に対するベンジルアルコールの含有量は、それぞれ0.8質量%及び5.7質量%であった。得られた接着剤組成物より実施例1と同様に、引張りせん断強度測定用、耐硫酸性及びブラックスポットの発生の有無評価用試料を作製し、それぞれの評価を行った結果を表1に示す。
【0032】
(比較例6)
フェニルグリシジルエーテルに変えてブチルグリシジルエーテルを用いた他は、実施例3と同様に、接着剤組成物及び評価用試料を調製して、評価を行った。得られた試料の引張りせん断強度を測定した結果並びに耐硫酸性及びブラックスポットの発生の有無を評価した結果を表1に示す。
【0033】
(比較例7)
ベンジルアルコールに変えてイソプロピルアルコールを用いた他は、実施例3と同様に、接着剤組成物及び評価用試料を調製して、評価を行った。得られた試料の引張りせん断強度を測定した結果並びに耐硫酸性及びブラックスポットの発生の有無を評価した結果を表1に示す。
【0034】
(実施例5〜実施例8)
エポキシ樹脂100に対して、表2に示す質量比で、ベンジルアルコール及びフェニルグリシジルエーテルをそれぞれ添加した他は、実施例1と同様に主剤を調製した。得られた主剤と硬化剤を表2に示す質量比で秤量して、混合することにより、接着剤組成物を調製した。ここで、実施例5、6、7及び8の接着剤組成物全体に対するベンジルアルコールの含有量は、それぞれ4.9質量%、4.5質量%、1.8質量%及び1.5質量%であった。また、実施例5、6、7及び8のベンジルアルコールに対するフェニルグリシジルエーテルの質量比は、それぞれ0.43、0.67、3.0及び4.0であった。得られた接着剤組成物より実施例1と同様に、引張りせん断強度測定用、耐硫酸性及びブラックスポットの発生評価用の試料を作製し、それぞれの評価を行った結果を表2に示す。
なお、比較のため、実施例3の結果についても表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
(比較例8〜比較例9)
エポキシ樹脂100に対して、表2に示す質量比で、ベンジルアルコール及びフェニルグリシジルエーテルをそれぞれ添加した他は、実施例1と同様に主剤を調製した。得られた主剤と硬化剤を表2に示す質量比で秤量して、混合することにより、接着剤組成物を調製した。ここで、比較例8及び比較例9の接着剤組成物全体に対するベンジルアルコールの含有量は、それぞれ5.6質量%及び1.1質量%であった。また、比較例8及び比較例9のベンジルアルコールに対するフェニルグリシジルエーテルの質量比は、それぞれ0.33及び5.7であった。得られた接着剤組成物より実施例1と同様に、引張りせん断強度測定用、耐硫酸性及びブラックスポットの発生評価用の試料を作製し、それぞれの評価を行った結果を表2に示す。
【0037】
(評価)
実施例及び比較例の接着剤組成物の引張りせん断強度、耐硫酸性及びブラックスポットの発生の有無を測定又は評価した結果を表1及び表2に示す。なお、それぞれの測定、又は評価は以下のとおりに行った。
【0038】
(引張りせん断強度)
JIS K 6850に準拠して測定を行った。2枚のABS樹脂板(商品名「テクノ620」、テクノポリマー社製)又は2枚の鉛合金(4質量%アンチモン含有)板の間に、各実施例及び比較例の接着剤組成物を塗布して、ABS樹脂板又は鉛板を接合させ、60℃で90分間加熱して接着剤組成物を硬化させた後、常温で1日放置し試験片とした。その後、各試験片の引張りせん断接着強さを測定した。なお、各実施例及び比較例とも試験片を3個ずつ作製し、3回ずつ評価を行った。
また、同様に作製した試験片を硫酸水溶液中に浸漬後、同様の方法で引張りせん断接着強さを測定した。ここで、硫酸濃度は40質量%とし、70℃の電気炉中で7日間浸漬した。各実施例及び比較例とも、硫酸浸漬後の試験片を3個ずつ作製し、3回ずつ評価を行った。
なお、表1及び表2には、各試験片のせん断接着力の3回の測定値の平均値及び評価結果を示す。評価結果は、3回の評価で、試験片が2回以上材料破壊したものを○、試験片が1回のみ材料破壊したもの又はいずれも材料破壊しなかったものを×とした。
【0039】
(耐硫酸性評価)
耐硫酸性は、トリクル充填試験により評価した。直径5mmで長さ約10mmの鉛棒を入れた容器の中に実施例又は比較例の接着剤組成物を注型し、60℃で90分間加熱して接着剤組成物を硬化させて試験片とした。比重1.3で70℃の硫酸水溶液中に、鉛棒及び上記試験片を浸漬し、鉛棒をマイナス極、試験片をプラス極として2.3Vの外部電源を用いて、14日間通電を行った。通電試験後の試験片の鉛と接着剤組成物間の剥離状態を観察し、硫酸水溶液の這い上がりが4mm未満のものを○、4mm以上5mm未満のものを△、5mm以上のものを×とした。それぞれの評価結果を表1及び表2に示す。
【0040】
(ブラックスポットの有無評価)
各実施例及び比較例の接着剤組成物の主剤及び硬化剤液を混合し、容器に注入し、60℃で90分間加熱することにより接着剤硬化物を作製した。上記硬化剤に濃度40質量%の硫酸水溶液を0.5ml滴下後、70℃の電気炉中で2日間保持した。接着剤硬化物を目視で観察し、硫酸水溶液を滴下した箇所が黒から濃い茶色に変色しているものをブラックスポットあり(×)と判断し、変色していないもの及び黄色に変色しているものをブラックスポットなし(○)と判断した。なお、薄い茶色に変色しているものは、△とした。それぞれの評価結果を、表1及び2に示す。
【0041】
表1に示すように、希釈剤を添加せず、エポキシ樹脂と硬化剤のみを混合した比較例1の接着剤組成物では、十分な接着性が得られず、ブラックスポットも発生することが確認された。これに対して、フェニルグリシジルエーテルのみを添加した比較例2では、接着性は改善されるが、ブラックスポットの発生は抑えられないことがわかった。一方、ベンジルアルコールのみを添加した比較例3では、硫酸浸漬後の接着性が向上し、ブラックスポットの発生も抑えられるが、耐硫酸性が低下することが確認された。
エポキシ樹脂100に対して、ベンジルアルコールとフェニルグリシジルエーテルを質量比でそれぞれ1添加した比較例4では、接着性及び耐硫酸性は改善されるが、ブラックスポットの発生が抑えられないことがわかった。これに対して、希釈剤の添加量を増加させた実施例1、2、3及び4では、接着性、耐硫酸性に優れ、且つブラックスポットの発生も抑えられることがわかった。また、表中には記載していないが、上記全ての実施例で、鉛合金板を用いた接着性試験でも優れた接着性が確認された。一方、希釈剤の添加量をさらに増やした比較例5では、耐硫酸性が低下し、ブラックスポットの発生が抑制できなくなることが確認された。
上記結果より、エポキシ樹脂にベンジルアルコールとフェニルグリシジルエーテルを加え、且つベンジルアルコールを接着剤組成物全体に対して、1.5質量%から5質量%の範囲で含有させることにより、接着性、耐硫酸性に優れ、且つブラックスポットの発生が抑制される接着剤組成物が得られることが確認された。接着剤組成物中でベンジルアルコールは、架橋することなくフリーの状態で存在する。そして、適量のベンジルアルコールが存在することにより、エポキシ樹脂又はフェニルグリシジルエーテル中のエポキシ基と硫酸との反応が抑制されることにより、ブラックスポットの発生が抑えられるものと推測される。ブラックスポットの発生が抑制されることにより、外観上の問題も減少し、接着剤組成物の劣化も抑制されるものと考えられる。
【0042】
また、実施例3のフェニルグリシジルエーテルに変えて、ブチルグリシジルエーテルを用いた比較例6では、優れた接着性は得られるが、耐硫酸性評価試験で、硫酸の這い上がりが認められ、ブラックスポットの発生も抑制できないことがわかった。
一方、実施例3のベンジルアルコールに変えて、イソプロピルアルコールを用いた比較例7では、十分な初期接着性が得られず、耐硫酸性評価試験で、硫酸の這い上がりが認められ、ブラックスポットの発生も抑制できないことが確認された。
以上の結果より、芳香族グリシジルエーテルと芳香族アルコールとを組み合わせ、芳香族アルコールの含有量を接着剤組成物全体に対して、2質量%〜5質量%とした本発明の効果が明らかになった。
【0043】
表2に、ベンジルアルコールとフェニルグリシジルエーテルの比率を変えて調製した接着剤組成物の各種評価結果を示す。本結果からも接着剤組成物全体に対するアルコールの含有量が、1.5〜5の範囲である実施例5、実施例6、実施例3、実施例7及び実施例8では、接着性及び耐硫酸性とも十分な性能を有し、ブラックスポットの発生が抑えられることが確認された。特に、接着剤組成物全体に対するアルコールの含有量が、1.8〜5の範囲である実施例5、実施例6、実施例3及び実施例7ではさらに優れた効果が得られることがわかった。一方、接着剤組成物全体に対するアルコールの含有量が、5.6の比較例8では、耐硫酸性に問題があり、接着剤組成物全体に対するアルコールの含有量が、1.1の比較例9では、ブラックスポットの発生が抑制できないことがわかった。
上記実施例のなかでも、実施例5、実施例6、実施例3及び実施例7では、特に優れた効果が得られることがわかった。このことから、接着剤組成物中のベンジルアルコールに対するフェニルグリシジルエーテルの質量比は、0.4〜3であることが好ましいといえる。