特許第6451007号(P6451007)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6451007歯車の製造方法、及び歯車の加工具ユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6451007
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】歯車の製造方法、及び歯車の加工具ユニット
(51)【国際特許分類】
   B23F 5/04 20060101AFI20190107BHJP
   B23P 15/14 20060101ALI20190107BHJP
   F16H 55/17 20060101ALI20190107BHJP
【FI】
   B23F5/04
   B23P15/14
   F16H55/17 Z
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-241540(P2014-241540)
(22)【出願日】2014年11月28日
(65)【公開番号】特開2016-101627(P2016-101627A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年5月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000125853
【氏名又は名称】株式会社 神崎高級工機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100156845
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 威一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100112896
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 宏記
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(72)【発明者】
【氏名】池田 嘉明
【審査官】 中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−127623(JP,A)
【文献】 特開昭59−146715(JP,A)
【文献】 特開昭60−131114(JP,A)
【文献】 特開2000−117542(JP,A)
【文献】 特開2000−158234(JP,A)
【文献】 特開2001−131610(JP,A)
【文献】 特開2002−144148(JP,A)
【文献】 特開2004−154873(JP,A)
【文献】 特開2005−007550(JP,A)
【文献】 特開2013−049106(JP,A)
【文献】 特開2013−212568(JP,A)
【文献】 特開昭60−167745(JP,A)
【文献】 特開昭61−088938(JP,A)
【文献】 特開平06−312238(JP,A)
【文献】 特開平09−133198(JP,A)
【文献】 特開平10−286720(JP,A)
【文献】 特開2000−288834(JP,A)
【文献】 特開2002−069510(JP,A)
【文献】 特開2004−106132(JP,A)
【文献】 特開2005−014124(JP,A)
【文献】 特表2009−528522(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0206269(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 1/00−23/12
B23P 5/00−17/06
B23P 23/00−25/00
F16H 51/00−55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネジ歯車状の第1の加工具と、被加工歯車とを噛み合わせ、両者を連れ回りさせつつ、第1の切り込み速度で両者を相対的に近接させることで、焼き入れを行う第1の工程と、
ネジ歯車状の第2の加工具と、被加工歯車とを噛み合わせ、両者を連れ回りさせつつ、第2の切り込み速度で両者を相対的に近接させることで、研削を行う第2の工程と、
を備え、
前記第1の切り込み速度は、前記第2の切り込み速度よりも速い、歯車の製造方法。
【請求項2】
前記第1の切り込み速度は、40μm/s以上である、請求項1に記載の歯車の製造方法。
【請求項3】
前記第1の切り込み速度は、80μm/s以上である、請求項1に記載の歯車の製造方法。
【請求項4】
前記第1の加工具の回転軸線と前記第2の加工具の回転軸線とが同一軸線上に配置されるように、当該第1の加工具と第2の加工具とが連結され、
前記第1の工程により、前記被加工歯車の焼き入れが完了した後、前記第2の工程に先立って、前記被加工歯車を前記軸部材の軸方向に相対的に移動させることで、前記被加工歯車を前記第2の加工具と対向させる、請求項1から3のいずれかに記載の歯車の製造方法。
【請求項5】
被加工歯車を加工するための加工具ユニットであって、
ネジ歯車状の第1の加工具と、
ネジ歯車状の第2の加工具と、
を備え、
前記第1の加工具の回転軸線と前記第2の加工具の回転軸線とが同一軸線上に配置されるように、当該第1の加工具と第2の加工具とが連結されており、
前記第1の加工具により、前記被加工歯車の焼き入れを行うように構成され、
前記第2の加工具により、前記被加工歯車の研削を行うように構成されており、
前記焼き入れは、前記被加工歯車と前記第1の加工具とを連れ周りさせつつ、第1の切り込み速度で両者を相対的に近接させることで行い、
前記研削は、前記被加工歯車と前記第2の加工具とを連れ周りさせつつ、前記第1の切り込み速度よりも遅い第2の切り込み速度で両者を相対的に近接させることで行われる、歯車の加工具ユニット。
【請求項6】
前記第1の加工具と前記第2の加工具とは前記同一軸線上で隣接している、請求項5に記載の歯車の加工具ユニット。
【請求項7】
前記第1の加工具の歯と前記第2の加工具の歯とが連続するように連結されている、請求項6に記載の歯車の加工具ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車の製造方法、及び歯車の加工具ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、歯車の製造においては、粗加工がなされた被加工歯車に対し、焼き入れを行った後、仕上げの研削加工を行う(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−14124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、歯車の焼き入れは、次のように行う。すなわち、歯車を炉に入れて焼き入れ温度まで加熱した後、急冷する。これにより、歯車の表面の硬度を高くすることができる。しかしながら、歯車の焼き入れには長時間を要するため、歯車の製造時間が長くなるという問題があった。本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、製造時間を短くすることができる、歯車の製造方法、及びそれに用いる歯車の加工具ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る歯車の製造方法は、ネジ歯車状の第1の加工具と、被加工歯車とを噛み合わせ、両者を連れ回りさせつつ、第1の切り込み速度で両者を相対的に近接させることで、焼き入れを行う第1の工程と、ネジ歯車状の第2の加工具と、被加工歯車とを噛み合わせ、両者を連れ回りさせつつ、第2の切り込み速度で両者を相対的に近接させることで、研削を行う第2の工程と、を備え、前記第1の切り込み速度は、前記第2の切り込み速度よりも速い。
【0006】
この構成によれば、外歯車状の第1の加工具により焼き入れを行うとともに、外歯車状の第2の加工具により研削加工を行う。焼き入れは、研削加工よりも高い第1の切り込み速度により行われる。これにより、高い切り込み速度による加工熱で、被加工歯車の表面が加熱されるため、短時間で、被加工歯車の表面にオーステナイト層が生じる。そして、加工後に、オーステナイト層が自己冷却されることで、その層中にマルテンサイト変態が生じる。また、この表面層には、加工時の抵抗による残留圧縮応力が発生する。このような高硬度のマルテンサイト組織の発生と、残留圧縮応力により、被加工歯車の表面が硬化し、通常の焼き入れと同様の表面硬化層を得ることができる。
【0007】
このように、本発明においては、被加工歯車の焼き入れを、外歯車状の第1の加工具によって行うため、被加工歯車を炉に入れるなどの作業が不要となる。したがって、歯車の製造時間を大幅に短縮することができる。
【0008】
上記歯車の製造方法において、前記第1の切り込み速度は、例えば、40μm/s以上とすることができる。
【0009】
上記各歯車の製造方法において、前記第1の切り込み速度は、例えば、80μm/s以上とすることができる。
【0010】
上記各歯車の製造方法においては、前記第1の加工具の回転軸線と前記第2の加工具の回転軸線とが同一軸線上に配置されるように、当該第1の加工具と第2の加工具とが連結され、前記第1の工程により、前記被加工歯車の焼き入れが完了した後、前記第2の工程に先立って、前記被加工歯車を前記軸部材の軸方向に相対的に移動させることで、前記被加工歯車を前記第2の加工具と対向させることができる。
【0011】
このように、第1の加工具の回転軸線と第2の加工具の回転軸線とを同一軸線上に配置することで、被加工歯車を第1の加工具から第2の加工具への移動経路を短くすることができ、製造時間をさらに短縮することができる。
【0012】
本発明に係る歯車の加工具ユニットは、被加工歯車を加工するための加工具ユニットであって、外歯車状の第1の加工具と、外歯車状の第2の加工具と、を備え、前記第1の加工具の回転軸線と前記第2の加工具の回転軸線とが同一軸線上に配置されるように、当該第1の加工具と第2の加工具とが連結されており、前記第1の加工具により、前記被加工歯車の焼き入れを行うように構成され、前記第2の加工具により、前記被加工歯車の研削を行うように構成されている。
【0013】
上記歯車の加工具ユニットにおいては、前記第1の加工具と前記第2の加工具とを前記同一軸線上で隣接させることができる。
【0014】
上記歯車の加工具ユニットにおいては、前記第1の加工具の歯と前記第2の加工具の歯とが連続するように連結することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、工製造時間を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る歯車の製造方法を行うための製造装置の一部斜視図である。
図2】歯車の焼き入れと研削を示す一部平面図である。
図3】加工具ユニットの他の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る歯車の製造方法の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態に係る製造方法を行うための製造装置の一部斜視図である。
【0018】
図1に示すように、この製造方法において、被加工歯車である外歯車状のワーク10は、主軸台1に着脱自在に支持されている。そして、この主軸台1は、ワーク10の軸線X回りに、ワーク10を回転させるようになっている。一方、ワーク10を加工する加工具ユニット2は、歯が螺旋状に延びるネジ歯車状に形成されており、その軸線Yは、例えば、ねじれ角を有するワーク10と、リード角を有する加工具ユニット2とが噛み合う角度で、ワーク10の軸線Xと交差している。また、主軸台1及び加工具ユニット2の少なくとも一方が、軸線Y方向に移動できるようになっている。すなわち、主軸台1は、加工具ユニット2に対して、相対的に軸線Y方向に移動可能となっている。さらに、主軸台1及び加工具ユニット2の少なくとも一方が、軸線X及び軸線Yの双方に垂直な軸線Z方向に移動できるようになっている。すなわち、主軸台1は、加工具ユニット2に対して、相対的に軸線Z方向に移動可能となっており、両者が近接及び離間できるようになっている。
【0019】
加工具ユニット2は、軸方向Yに並ぶ2つの領域に分割されており、図1の左側の領域が焼き入れ領域21、右側の領域が研削領域22となっている。但し、焼き入れ領域21及び研削領域22を通じて、加工具ユニットの歯23は連続している。また、焼き入れ領域21及び研削領域22は、通常の研削などで用いられる材料で形成することができ、両領域を同じ材料で形成することができる。但し、異なる材料で形成することもできる。なお、加工具ユニット2における焼き入れ領域21が本発明の第1の加工具に相当し、研削領域22が第2の加工具に相当する。
【0020】
次に、上記のように構成された製造装置を用いた、ワーク10の焼き入れと研削について、図2を参照しつつ説明する。まず、ワーク10の焼き入れを行う。はじめに、ワーク10を加工具ユニット2の焼き入れ領域21と対向するように、主軸台1を加工具ユニット2に対して軸線Y方向に相対的に移動させる。続いて、加工具ユニット2を軸線Y回りに回転させるとともに、ワーク10を軸線X回りに回転させる。このとき、ワーク10の回転と加工具2の回転とが同期するように制御し、主軸台1を軸線Z方向に移動させて加工具ユニット2に対して相対的に近接させたときに、ワーク10の歯と焼き入れ領域21の歯とが噛み合うようにする。その結果、図2(a)に示すように、両者は連れ回りする。
【0021】
このとき、ワーク10及び加工具ユニット2の回転数は、例えば、100〜1000rpmとすることができる。また、主軸台1を近接させる速度、つまり切り込み速度(第1の切り込み速度)は、40μm/s以上であることが好ましく、60μm/s以上であることがさらに好ましく、80μm/s以上であることが特に好ましい。また、100μm/s以上であることがより好ましい。そして、ワーク10の表面を所定の厚みだけ削り取ると、ワーク10を加工具ユニット2から離間させ、焼き入れ工程を終了する。
【0022】
このように、ワーク10を高い切り込み速度で加工すると、加工熱が高くなる。そのため、ワーク10の表面が短時間で加熱され、ワーク10の表面にオーステナイト層が生じる。そして、加工後に、オーステナイト層が自己冷却されることで、その層中にマルテンサイト変態が生じる。また、この表面層には、加工時の抵抗による残留圧縮応力が発生する。このような高硬度のマルテンサイト組織の発生と、残留圧縮応力により、ワーク10の表面が硬化し、通常の焼き入れと同様の表面硬化層を得ることができる。なお、ワーク10の表面には黒色の酸化膜が生成されることがある。
【0023】
続いて、ワーク10の研削を行う。まず、図2(b)に示すように、主軸台1を加工具ユニット2に対して相対的に軸線Y方向に移動させ、ワーク10を加工具ユニット2の研削領域22と対向させる。次に、加工具ユニット2を軸線Y回りに回転させるとともに、ワーク10を軸線X回りに回転させる。このとき、ワーク10の回転と加工具2の回転とが同期するように制御し、主軸台1を軸線Z方向に移動させて加工具ユニット2に相対的に近接させたときに、ワーク10と研削領域22の歯とが噛み合うようにする。その結果、図2(c)に示すように、両者は連れ回りする。
【0024】
このとき、ワーク10及び加工具ユニット2の回転数は、例えば、100〜1000rpmとすることができる。また、主軸台1を近接させる速度、つまり切り込み速度(第2の切り込み速度)は、上述した焼き入れを行う際の切り込み速度よりも遅く、通常の研削を行うための速度とする。こうして、ワーク10の表面を研削し、上述した黒色の酸化膜とともに、ワーク10の表面を所定の厚みだけ削り取ると、ワーク10を加工具ユニット2から離間させ、研削工程を終了する。
【0025】
以上のように、本実施形態によれば、ワーク10の焼き入れを、加工具ユニット2の焼き入れ領域21によって行うため、従来のようにワーク10を炉に入れるなどの作業が不要となる。したがって、ワーク10の製造時間を大幅に短縮することができる。
【0026】
また、1つの加工具ユニット2に、焼き入れ領域21と研削領域22の両方を配置しているため、焼き入れ領域21から研削領域22へのワーク10の移動経路を短くすることができる。その結果、製造時間をさらに短縮することができる。
【0027】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこの実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0028】
例えば、上記実施形態では、1つの加工具ユニット2をねじ歯車状に形成し、焼き入れ領域21と研削領域22とに亘って歯23が連続的に延びるように形成しているが、歯23は、連続していなくてもよい。但し、歯が連続していると、加工具ユニット2の製造が容易になる。
【0029】
また、焼き入れ領域21と研削領域22とを異なる加工具で形成することもできる。例えば、図3に示すように、焼き入れ用のねじ歯車状の第1加工具31と、研削用のねじ歯車状の第2加工具32とを準備し、両者の回転軸Sが同一直線状に配置されるように連結部材4で2つの加工具31,32を連結することで、加工具ユニットを構成することができる。
【0030】
あるいは、焼き入れ用のねじ歯車状の第1加工具と、研削用のねじ歯車状の第2加工具とを完全に分離してもよい。この場合、第1加工具を製造装置の回転駆動装置に回転自在に固定し、ワーク10の焼き入れが終了した後、第1の加工具を第2の加工具に取り替え、研削を行えばよい。
【0031】
また、本発明に係る歯車の製造方法を行う製造装置は、上記実施形態に示したものに限定されず、少なくとも、加工具ユニットを回転駆動でき、またワークである歯車を回転することができ、両者を連れ回りさせながら,切り込みを行えるようなものであればよい。
【符号の説明】
【0032】
2 加工具ユニット
21 焼き入れ領域(第1の加工具)
22 研削領域(第2の加工具)
31 第1の加工具
32 第2の加工具
図1
図2
図3