特許第6451057号(P6451057)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6451057可視域反射防止近赤外域透過抑制光学製品並びに眼鏡レンズ及び眼鏡
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6451057
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】可視域反射防止近赤外域透過抑制光学製品並びに眼鏡レンズ及び眼鏡
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/115 20150101AFI20190107BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20190107BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20190107BHJP
【FI】
   G02B1/115
   G02C7/10
   G02B5/28
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-19631(P2014-19631)
(22)【出願日】2014年2月4日
(65)【公開番号】特開2015-148643(P2015-148643A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2016年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏寿
【審査官】 池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−292204(JP,A)
【文献】 特開2001−281409(JP,A)
【文献】 特開2006−301489(JP,A)
【文献】 米国特許第5183700(US,A)
【文献】 国際公開第2004/079278(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/115
G02B 5/28
G02C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の各条件を全て満たす光学多層膜を基体の片面又は両面に対して形成したことを特徴とする可視域反射防止近赤外域透過抑制光学製品。
(1)低屈折率層と高屈折率層を交互に積層した7層構造である。
(2)前記低屈折率層は、SiOを用いて形成される。
(3)前記高屈折率層は、波長500nmの光に対する屈折率が2.145以上である材料を用いて形成される。
(4)前記基体に最も近い層を1層目として、前記低屈折率層である5層目の物理膜厚は、145nm以上165nm以下である。
(5)4層目ないし6層目の光学膜厚(λ=500nm)の総和が、1.3λ以上1.5λ以下である。
(6)6層目の光学膜厚が、0.44λ以上である。
(7)波長800nm以上1500nm以下の波長域の光に係る片面に対する平均反射率が35%以上である。
(8)波長1000nmの光に係る片面に対する反射率が50%以上である。
(9)視感度反射率が2%以下である。
【請求項2】
請求項1に記載の可視域反射防止近赤外域透過抑制光学製品を用いた
ことを特徴とする眼鏡レンズ。
【請求項3】
請求項2に記載の眼鏡レンズを用いた
ことを特徴とする眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線反射機能を有する、眼鏡レンズ(サングラスレンズを含む)を始めとする光学製品、及び当該眼鏡レンズを用いた眼鏡(サングラスを含む)に関する。
【背景技術】
【0002】
近赤外線をカットするフィルタとして、下記特許文献1,2のものが知られている。このフィルタは、撮像素子用のフィルタ、あるいはカメラやミュージックプレイヤーにおけるディスプレイや自動車用ガラス等に採用され得るもので、基体の両面に対し、シリカ(SiO,二酸化ケイ素)とチタニア(TiO,二酸化チタン)を交互に各面20層合計40層積層した誘電体多層膜を形成して成る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−106836号公報
【特許文献2】特開2011−100084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2のものでは、近赤外線をカットすることができるものの、誘電体多層膜の層数が40層となり、高コストとなる。
又、20層以上ともなると、誘電体多層膜の膜厚が厚くなり、膜応力や成膜中の輻射熱の影響によって、クラックが発生するおそれがあるし、基体に対する密着性が比較的に低下するおそれがあるし、基体が変形するおそれがあり、耐久性が比較的に劣ってしまう可能性がある。
更に、特許文献1,2のものでは、可視領域(例えば400〜780nm(ナノメートル),あるいは400〜800nm)における透過率(反射防止性)をより一層良好にする余地がある。
特に、眼鏡レンズにおいては、可視領域における反射防止性能が求められる。
又、眼鏡レンズにおいては、紫外線や青色光のカットに比べ、近赤外線のカットが議論されてこなかったが、次の理由から、近赤外線のカットを行った方が良いものである。即ち、眼の水晶体の約70%(パーセント)は水であるところ、水は近赤外線をよく吸収し(水の近赤外線吸収係数が高い)、温度上昇を始めとして眼に悪影響を少しずつ及ぼす可能性がある。例えば、眼疾患の一つである白内障は、近赤外線により高温となった水晶体を紫外線や青色光線が通過することで進行するものである可能性がある。近赤外線は、例えば800〜2000nmの波長域の光であり、紫外線や可視光線と同様に太陽から放射され、地上に降り注いでいる。近赤外線は、紫外線や青色光線より波長が比較的に長く、その分地上への到達量が比較的に少なくなるが、それでも可視領域に近い近赤外線は、紫外線より僅かに減少した(同等量と言っても差し支えない程度の)量、地上に到達している。
眼鏡レンズに対して、近赤外線からの保護効果を付与すべく、特許文献1,2の多層膜をレンズ基体に施したとすると、コストが見合わず、耐久性に満足がいかず、可視領域の反射防止性が充分でなく視認性に満足できない可能性がある。
そこで、請求項1,4,5に記載の発明は、可視領域の反射防止性能がより高く、近赤外線光の透過率がより低く、コストがより低廉で、耐久性がより高い光学製品,眼鏡レンズ,眼鏡を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、可視域反射防止近赤外域透過抑制光学製品にあって、(1)低屈折率層と高屈折率層を交互に積層した7層構造の光学多層膜を基体の片面又は両面に有し、(2)前記低屈折率層は、SiOを用いて形成され、(3)前記高屈折率層は、波長500nmの光に対する屈折率が2.145以上である材料を用いて形成され、(4)前記基体に最も近い層を1層目として、前記低屈折率層である5層目の物理膜厚は、145nm以上165nm以下であり、(5)4層目ないし6層目の光学膜厚(λ=500nm)の総和が、1.3λ以上1.5λ以下であり、(6)6層目の光学膜厚が、0.44λ以上であり、(7)波長800nm以上1500nm以下の波長域の光に係る片面に対する平均反射率が35%以上であり、(8)波長1000nmの光に係る片面に対する反射率が50%以上であり、(9)視感度反射率が2%以下であるという条件を満たすことを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、眼鏡レンズにあって、上記発明の可視域反射防止近赤外域透過抑制光学製品を用いたことを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、眼鏡にあって、上記発明の眼鏡レンズを用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、充分な近赤外線に対する保護性能を有しながら、可視領域の反射防止性能が充分に高く、コストが低廉で、耐久性も充分である光学製品,眼鏡レンズ,眼鏡を提供することが可能となる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1〜3に係る、可視領域ないし近赤外域に係る分光反射率分布を示すグラフである。
図2】実施例1〜3に係る、可視領域に係る分光反射率分布を示すグラフである。
図3】実施例4〜6に係る、可視領域ないし近赤外域に係る分光反射率分布を示すグラフである。
図4】実施例4〜6に係る、可視領域に係る分光反射率分布を示すグラフである。
図5】実施例7〜9に係る、可視領域ないし近赤外域に係る分光反射率分布を示すグラフである。
図6】実施例7〜9に係る、可視領域に係る分光反射率分布を示すグラフである。
図7】実施例10〜12に係る、可視領域ないし近赤外域に係る分光反射率分布を示すグラフである。
図8】実施例10〜12に係る、可視領域に係る分光反射率分布を示すグラフである。
図9】比較例1〜2に係る、可視領域ないし近赤外域に係る分光反射率分布を示すグラフである。
図10】比較例1〜2に係る、可視領域に係る分光反射率分布を示すグラフである。
図11】比較例3〜4に係る、可視領域ないし近赤外域に係る分光反射率分布を示すグラフである。
図12】比較例3〜4に係る、可視領域に係る分光反射率分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る実施の形態の例につき、適宜図面を用いて説明する。尚、本発明の形態は、以下のものに限定されない。
【0009】
本発明に係る眼鏡レンズでは、基体の片面あるいは両面に対し、光学多層膜が形成されている。
本発明において、基体はどのような材質であっても良く、好ましくは透光性を有する。基体の材料(基材)として、例えばポリウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリ4−メチルペンテン−1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂を採用することができる。又、屈折率が高く(特に眼鏡レンズ用として)好適なものとして、エピスルフィド基とポリチオール及び/又は含硫黄ポリオールとを付加重合して得られるエピスルフィド樹脂を挙げることができる。
【0010】
又、本発明において、光学多層膜は、下記の条件を満たす。尚、光学多層膜は、両面に形成される場合、好ましくは何れの膜も下記の条件を満たし、更に好ましくは何れの膜も同一の積層構造となるようにする。
まず、光学多層膜は、低屈折率層と高屈折率層を交互に積層した7層構造である。最も基体側の層(基体に最も近い層)を1層目とすると、奇数層目が低屈折率層であり、偶数層目が高屈折率層である。
次に、低屈折率層は、シリカ(二酸化ケイ素,SiO)を用いて形成され、高屈折率層は、波長500nmの光に対する屈折率が2.145以上である材料を用いて形成される。尚、高屈折率層の屈折率は、一般の薄膜において知られているように、材質の他、蒸着時の真空度や単位時間当たり酸素ガス供給量や各種アシストの有無や成膜速度等の成膜条件により変化させることができる。材質の相違による屈折率の相違に比べ、成膜条件による屈折率の相違は比較的に小さく、成膜条件による屈折率変化は比較的に微量に留まり、成膜条件によって高屈折率層の屈折率は微調整される。
更に、5層目(低屈折率層)の物理膜厚は、145nm以上165nm以下である。
加えて、4層目(高屈折率層),5層目(低屈折率層),及び6層目(高屈折率層)の光学膜厚(λ=500nm)の総和が1.3λ以上1.5λ以下である。
【0011】
上記の光学多層膜は、好適には真空蒸着法やスパッタ法等により形成される。
又、高屈折率層の材料の例として、二酸化チタン(チタニア,TiO)、二酸化ジルコニウム(ジルコニア,ZrO)、二酸化タンタル(TaO)、二酸化ニオブ(NbO)、二酸化ハフニウム(HfO)、又はこれらの組合せが挙げられる。
【0012】
本発明において、光学多層膜と基体の間、及び/又は光学多層膜の表面に、ハードコート膜や撥水膜等の別種の膜を付加しても良く、光学多層膜を両面に形成する場合には、付加する別種の膜の種類を互いに変えたり、膜の有無を互いに変えたりして良い。
光学多層膜と基体の間に付加する膜として、ハードコート膜を採用する場合、ハードコート膜は、好適には基体の表面にハードコート液を均一に施すことで形成される。
又、ハードコート膜として、好ましくは無機酸化物微粒子を含むオルガノシロキサン系樹脂を用いることができる。オルガノシロキサン系樹脂は、アルコキシシランを加水分解し縮合させることで得られるものが好ましい。又、オルガノシロキサン系樹脂の具体例として、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルシリケート、又はこれらの組合せが挙げられる。これらアルコキシシランの加水分解縮合物は、当該アルコキシシラン化合物あるいはそれらの組合せを、塩酸等の酸性水溶液で加水分解することにより製造される。
一方、無機酸化物微粒子の材質の具体例として、酸化亜鉛、二酸化ケイ素(シリカ微粒子)、酸化アルミニウム、酸化チタン(チタニア微粒子)、酸化ジルコニウム(ジルコニア微粒子)、酸化スズ、酸化ベリリウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、酸化セリウムの各ゾルを単独であるいは何れか2種以上を混晶化したものが挙げられる。無機酸化物微粒子の直径は、ハードコート膜の透明性確保の観点から、1nm以上100nm以下であることが好ましく、1nm以上50nm以下であるとより好ましい。又、無機酸化物微粒子の配合量(濃度)は、ハードコート膜における硬度や強靱性の適切な度合での確保という観点から、ハードコート膜の全成分中の40重量%以上60重量%以下を占めることが好ましい。加えて、ハードコート液には、硬化触媒としてアセチルアセトン金属塩、及び/又はエチレンジアミン四酢酸金属塩等を付加することができ、更に基体に対する密着性確保や形成の容易化、所望の(半)透明色の付与等の必要に応じて界面活性剤、着色剤、溶媒等を添加することができる。
ハードコート膜の物理膜厚は、0.5μm(マイクロメートル)以上4.0μm以下とすると好ましい。この膜厚範囲の下限については、これより薄いと充分な硬度を得難いことから定まる。一方、上限については、これより厚くするとクラックや脆さの発生等、物性に関する問題の生ずる可能性が飛躍的に高まることから定まる。
更に、ハードコート膜と基体表面の間に、プライマー層を付加しても良い。プライマー層の材質として、例えばポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル樹脂、有機ケイ素系樹脂、又はこれらの組合せが挙げられる。
【0013】
上記の光学多層膜を有する光学製品は、7層の光学多層膜を有するので、20層程度の光学多層膜に比べ、形成が容易で、コストが低廉であり、応力や輻射熱によりクラックが発生する可能性を低減したり、基体に対する密着性を向上して剥離や基体の変形が発生する可能性を低減したりして、耐久性を向上することができる。
又、上記の光学製品は、可視領域(例えば400nm以上800nm以下、450nm以上800nm以下、又は450nm以上750nm以下等)において透過率が高く、反射防止性能を有する。例えば、波長450nm以上750nm以下の波長域の光に係る最大反射率が、4%以下となる。又、視感度反射率が2%以下となる。
しかも、上記の光学製品は、近赤外域の波長の光の透過率が低く、近赤外線を反射してカットする機能を有する。尚、本願において、光のカットは、光を完全に遮断する場合(透過率0%)のみを表すものではなく、所定の透過率(例えば90%又は80%)以下(換言すれば反射率10%以上又は20%以上)とする場合も含む。
上記の光学多層膜においては、波長800nm以上1500nm以下の波長域の光に係る基材片面における平均反射率が35%以上となり、且つ、波長1000nmの光の基材片面における反射率が50%以上となる。
又、上記の光学多層膜において、上記の条件を満足しつつ、可視領域において僅かに反射する(微量の)反射光の色につき、緑色を始めとする各種の色に調節することが可能である。
【0014】
上記の光学製品において、好適には基体は眼鏡レンズ基体であり、光学製品は眼鏡レンズである。又、当該眼鏡レンズを用いて、可視領域の光の反射を防止しつつ近赤外線をカットする眼鏡を作製することができる。
【実施例】
【0015】
[実施例1〜12及び比較例1〜4]
次いで、上記実施形態に係る本発明の実施例、及び本発明に属さない比較例を説明する。尚、本発明の実施形態は、以下の実施例に限定されない。
互いに同じ複数の眼鏡レンズ基体に対し、各眼鏡レンズ基体の両面においてそれぞれ異なる種類の中間膜や光学多層膜を形成して、眼鏡レンズに係る実施例1〜12,比較例1〜4を作製した。
【0016】
眼鏡レンズ基体は、チオウレタン系樹脂製で、度数がS−2.00である球面レンズ基体であり、屈折率は1.60であり、アッベ数は41であって、眼鏡レンズとして標準的な大きさの円形のものとした。
【0017】
又、中間膜は、ハードコート液の塗布により形成したハードコート膜とした。
ハードコート液は、次のように作製した。
まず、容器中にメタノール206g(グラム)、メタノール分散チタニア系ゾル(日揮触媒化成株式会社製,固形分30%)300g、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン60g、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン30g、テトラエトキシシラン60gを滴下し、その混合液中に0.01N(規定度)の塩酸水溶液を滴下、撹拌して加水分解を行った。
次いで、フロー調整剤0.5g及び触媒1.0gを加え、室温で3時間撹拌した。
ハードコート液は、眼鏡レンズ基材の各面に対し、次のように塗布した。
即ち、スピンコート法によりハードコート液を均一に行き渡らせ、120℃の環境に1.5時間置くことで、ハードコート液を加熱硬化させた。
このようにして形成されたハードコート膜は、何れも物理膜厚が2.5μmとなった。
【0018】
更に、光学多層膜は、同じ眼鏡レンズ基体においては両面とも同じ膜構造を有しており、何れも低屈折率層(二酸化ケイ素)と高屈折率層を交互に蒸着した7層構造の光学多層膜である。実施例1〜12,比較例1〜4では、低屈折率層や高屈折率層の少なくとも何れかの膜厚や高屈折率層の屈折率(材質や成膜法)が互いに相違する。
実施例1〜12,比較例1〜4の光学多層膜は、何れも真空蒸着法により形成した。
奇数層目(1,3,5,7層目)は低屈折率層で、二酸化ケイ素により形成され、偶数層目(2,4,6層目)は高屈折率層で、二酸化ケイ素より屈折率の大きい高屈折材料で形成される。
【0019】
高屈折率層の屈折率は、基本的には選択する材料によって定まるが、成膜レート(膜を形成する速さ)や成膜時圧力、イオンアシスト処理等により調整することができる。
実施例1〜4,7〜10では、高屈折率層の材料として二酸化チタンを選択し、成膜時圧力及びイオンアシスト条件を変えることで、互いに屈折率の異なったものとされている。成膜時圧力は、蒸着チャンバ内の真空度や、酸素ガス及び/又はアルゴンガスを僅かに導入した場合の単位時間当たりの導入量等により調節される。又、イオンアシスト条件は、酸素ガス及び/又はアルゴンガス中の酸素分子やアルゴン分子をイオン銃等により酸素イオンやアルゴンイオンとする場合の、イオン銃の作動パターン(オンオフの態様)や電圧、あるいは各種ガスの導入量により変更可能である。
実施例5,6,11,12や比較例1〜4では、高屈折率層の材料として二酸化ジルコニウムを選択し、二酸化チタンの場合と同様に、成膜時圧力及びイオンアシスト条件を変えることで、互いに屈折率の異なったものとされている。
実施例1〜12,比較例1〜4では、可視領域において反射防止機能を有するが、それでも僅かに(最大3%以下程度の反射率で)反射光が存在する。実施例1〜6や比較例1,2では、その反射光の色が緑色になるように設計されており、実施例7〜12や比較例3,4では、その反射光の色が青色になるように設計されている。
次の[表1]〜[表12]において実施例1〜12に係る光学多層膜の各層の屈折率や膜厚等を示し、[表13]〜[表16]において比較例1〜4に係る光学多層膜の各層の屈折率や膜厚等を示す。
【0020】
【表1】
【表2】
【表3】
【0021】
【表4】
【表5】
【表6】
【0022】
【表7】
【表8】
【表9】
【0023】
【表10】
【表11】
【表12】
【0024】
【表13】
【表14】
【0025】
【表15】
【表16】
【0026】
[可視領域ないし近赤外域における反射率分布]
実施例1〜12,比較例1〜4における、可視領域ないし近赤外域に係る分光反射率分布を図1,3,5,7,9,11に示し、可視領域に係る分光反射率分布を図2,4,6,8,10,12に示す。
実施例1〜3については図1,2に、実施例4〜6については図3,4に、実施例7〜9については図5,6に、実施例10〜12については図7.8に、比較例1,2については図9,10に、比較例3,4については図11,12に示す。
これらの図で示された反射率分布においても、以下に説明する可視域での反射防止性能や近赤外域でのカット性能が分かる。
【0027】
[可視領域での反射防止性]
次の[表17]において、実施例1〜6,比較例1〜2の反射光における反射色、CIE表色系におけるx値とy値、及び視感度反射率を示し、[表18]において、実施例7〜12,比較例3〜4の反射光における反射色、CIE表色系におけるx値とy値、及び視感度反射率を示す。
同表の反射色やx値とy値によれば、実施例1〜6や比較例1,2では反射色が緑色になり、実施例7〜12や比較例3,4では反射色が青色になることが分かる。
又、同表の視感度反射率によれば、何れの例においても、視感度反射率が1.2%以下となっており、図1〜12の反射率分布と適宜併せて見れば、可視領域において反射防止性を呈することが分かる。尚、視感度反射率は2%以下であれば、視認性を良好にするために充分な反射防止性を付与することができる。
【0028】
【表17】
【表18】
【0029】
[近赤外線のカット性]
次の[表19]において、実施例1〜6,比較例1〜2の近赤外域(波長800nm以上1500nm以下)における平均反射率、及び波長1000nmにおける反射率を示し、[表20]において、実施例7〜12,比較例3〜4の近赤外域(波長800nm以上1500nm以下)における平均反射率、及び波長1000nmにおける反射率を示す。
同表や図1〜12によれば、比較例1〜4では近赤外域の平均反射率が30%前後で最大でも31.92%(比較例3)であるのに対し、実施例1〜12では、最低の反射率でも35.27%(実施例10)であって何れも35%以上となっており、実施例1〜12において充分な近赤外線のカット性能を具備していることが分かる。
【0030】
【表19】
【表20】
【0031】
比較例1では、5層目の物理膜厚(154.84nm)が145nm以上165nm以下の範囲内となっており、又4〜6層目の光学膜厚の総和(1.323λ)が1.3λ以上1.5λ以下の範囲内となっているが、高屈折率層の屈折率(2.1071)が2.145未満であるため、波長800nm以上1500nm以下の波長域の光に係る平均反射率(31.88%)が35%未満となり、且つ、波長1000nmの光の反射率(46.88%)が50%未満となって、近赤外線のカット性能が比較的に劣る。
比較例2では、5層目の物理膜厚(155.40nm)が145nm以上165nm以下の範囲内となっているが、4〜6層目の光学膜厚の総和(1.279λ)が1.3λ以上1.5λ以下の範囲外となっており、高屈折率層の屈折率(2.0577)が2.145未満であるため、波長800nm以上1500nm以下の波長域の光に係る平均反射率(29.12%)が35%未満となり、且つ、波長1000nmの光の反射率(44.31%)が50%未満となって、近赤外線のカット性能が比較的に劣る。
これに対し、実施例1〜6では、何れも5層目の物理膜厚が145nm以上165nm以下の範囲内となっており、又4〜6層目の光学膜厚の総和が1.3λ以上1.5λ以下の範囲内となっており、更に高屈折率層の屈折率が2.145以上となっているため、波長800nm以上1500nm以下の波長域の光に係る平均反射率が35%以上となり、且つ、波長1000nmの光の反射率が50%以上となって、近赤外線のカット性能が良好なものとなる。
【0032】
又、比較例3では、5層目の物理膜厚(145.11nm)が145nm以上165nm以下の範囲内となっており、又4〜6層目の光学膜厚の総和(1.394λ)が1.3λ以上1.5λ以下の範囲内となっているが、高屈折率層の屈折率(2.1071)が2.145未満であるため、波長800nm以上1500nm以下の波長域の光に係る平均反射率(31.92%)が35%未満となり、且つ、波長1000nmの光の反射率(47.65%)が50%未満となって、近赤外線のカット性能が比較的に劣る。
比較例4では、5層目の物理膜厚(147.51nm)が145nm以上165nm以下の範囲内となっており、4〜6層目の光学膜厚の総和(1.412λ)が1.3λ以上1.5λ以下の範囲外となっているが、高屈折率層の屈折率(2.0577)が2.145未満であるため、波長800nm以上1500nm以下の波長域の光に係る平均反射率(30.17%)が35%未満となり、且つ、波長1000nmの光の反射率(44.86%)が50%未満となって、近赤外線のカット性能が比較的に劣る。
これに対し、実施例7〜12では、何れも5層目の物理膜厚が145nm以上165nm以下の範囲内となっており、又4〜6層目の光学膜厚の総和が1.3λ以上1.5λ以下の範囲内となっており、更に高屈折率層の屈折率が2.145以上となっているため、波長800nm以上1500nm以下の波長域の光に係る片面に対する平均反射率が35%以上となり、且つ、波長1000nmの光の片面に対する反射率が50%以上となって、近赤外線のカット性能が良好なものとなる。
尚、5層目の物理膜厚が145nm未満であると近赤外線のカット率が比較的に不十分となり、165nmを超えると可視領域の反射防止性の付与を含めて設計が難しくなるし、材料や形成等のコストが嵩む。4〜6層目の光学膜厚の総和の下限や上限についても、5層目の物理膜厚と同様である。
【0033】
[まとめ等]
実施例1〜12のように、低屈折率層と高屈折率層を交互に積層した7層構造の光学多層膜において、低屈折率層にシリカ(二酸化ケイ素,SiO)を用い、高屈折率層に波長500nmの光に対する屈折率が2.145以上である材料を用い、5層目(低屈折率層)の物理膜厚を145nm以上165nm以下とし、4〜6層目(高屈折率層)の光学膜厚(λ=500nm)の総和が1.3λ以上1.5λ以下とすると、形成が容易で、耐久性を向上することがで、コストを低廉化することができ、可視領域において充分な反射防止性能を有し、近赤外域において充分なカット性能を有する眼鏡レンズを提供することができる。
しかも、実施例1〜6のように、反射色を(極薄い)緑色にしたり、実施例7〜12のように、反射色を(極薄い)青色にしたりすることが可能である。上記の光学多層膜における層構造の条件を満たしながら、反射色を他の色にすることも可能である。
実施例1〜12の眼鏡レンズを用いて、可視領域の反射防止性と近赤外線のカットを両立した眼鏡を作製することができる。又、実施例1〜12と同様の特性を有する窓用フィルム(建物や車両等)やカメラレンズ用フィルタ等の光学製品を作製することができる。
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