【0012】
本発明において、光学多層膜と基体の間、及び/又は光学多層膜の表面に、ハードコート膜や撥水膜等の別種の膜を付加しても良く、光学多層膜を両面に形成する場合には、付加する別種の膜の種類を互いに変えたり、膜の有無を互いに変えたりして良い。
光学多層膜と基体の間に付加する膜として、ハードコート膜を採用する場合、ハードコート膜は、好適には基体の表面にハードコート液を均一に施すことで形成される。
又、ハードコート膜として、好ましくは無機酸化物微粒子を含むオルガノシロキサン系樹脂を用いることができる。オルガノシロキサン系樹脂は、アルコキシシランを加水分解し縮合させることで得られるものが好ましい。又、オルガノシロキサン系樹脂の具体例として、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルシリケート、又はこれらの組合せが挙げられる。これらアルコキシシランの加水分解縮合物は、当該アルコキシシラン化合物あるいはそれらの組合せを、塩酸等の酸性水溶液で加水分解することにより製造される。
一方、無機酸化物微粒子の材質の具体例として、酸化亜鉛、二酸化ケイ素(シリカ微粒子)、酸化アルミニウム、酸化チタン(チタニア微粒子)、酸化ジルコニウム(ジルコニア微粒子)、酸化スズ、酸化ベリリウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、酸化セリウムの各ゾルを単独であるいは何れか2種以上を混晶化したものが挙げられる。無機酸化物微粒子の直径は、ハードコート膜の透明性確保の観点から、1nm以上100nm以下であることが好ましく、1nm以上50nm以下であるとより好ましい。又、無機酸化物微粒子の配合量(濃度)は、ハードコート膜における硬度や強靱性の適切な度合での確保という観点から、ハードコート膜の全成分中の40重量%以上60重量%以下を占めることが好ましい。加えて、ハードコート液には、硬化触媒としてアセチルアセトン金属塩、及び/又はエチレンジアミン四酢酸金属塩等を付加することができ、更に基体に対する密着性確保や形成の容易化、所望の(半)透明色の付与等の必要に応じて界面活性剤、着色剤、溶媒等を添加することができる。
ハードコート膜の物理膜厚は、0.5μm(マイクロメートル)以上4.0μm以下とすると好ましい。この膜厚範囲の下限については、これより薄いと充分な硬度を得難いことから定まる。一方、上限については、これより厚くするとクラックや脆さの発生等、物性に関する問題の生ずる可能性が飛躍的に高まることから定まる。
更に、ハードコート膜と基体表面の間に、プライマー層を付加しても良い。プライマー層の材質として、例えばポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル樹脂、有機ケイ素系樹脂、又はこれらの組合せが挙げられる。
【実施例】
【0015】
[実施例1〜12及び比較例1〜4]
次いで、上記実施形態に係る本発明の実施例、及び本発明に属さない比較例を説明する。尚、本発明の実施形態は、以下の実施例に限定されない。
互いに同じ複数の眼鏡レンズ基体に対し、各眼鏡レンズ基体の両面においてそれぞれ異なる種類の中間膜や光学多層膜を形成して、眼鏡レンズに係る実施例1〜12,比較例1〜4を作製した。
【0016】
眼鏡レンズ基体は、チオウレタン系樹脂製で、度数がS−2.00である球面レンズ基体であり、屈折率は1.60であり、アッベ数は41であって、眼鏡レンズとして標準的な大きさの円形のものとした。
【0017】
又、中間膜は、ハードコート液の塗布により形成したハードコート膜とした。
ハードコート液は、次のように作製した。
まず、容器中にメタノール206g(グラム)、メタノール分散チタニア系ゾル(日揮触媒化成株式会社製,固形分30%)300g、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン60g、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン30g、テトラエトキシシラン60gを滴下し、その混合液中に0.01N(規定度)の塩酸水溶液を滴下、撹拌して加水分解を行った。
次いで、フロー調整剤0.5g及び触媒1.0gを加え、室温で3時間撹拌した。
ハードコート液は、眼鏡レンズ基材の各面に対し、次のように塗布した。
即ち、スピンコート法によりハードコート液を均一に行き渡らせ、120℃の環境に1.5時間置くことで、ハードコート液を加熱硬化させた。
このようにして形成されたハードコート膜は、何れも物理膜厚が2.5μmとなった。
【0018】
更に、光学多層膜は、同じ眼鏡レンズ基体においては両面とも同じ膜構造を有しており、何れも低屈折率層(二酸化ケイ素)と高屈折率層を交互に蒸着した7層構造の光学多層膜である。実施例1〜12,比較例1〜4では、低屈折率層や高屈折率層の少なくとも何れかの膜厚や高屈折率層の屈折率(材質や成膜法)が互いに相違する。
実施例1〜12,比較例1〜4の光学多層膜は、何れも真空蒸着法により形成した。
奇数層目(1,3,5,7層目)は低屈折率層で、二酸化ケイ素により形成され、偶数層目(2,4,6層目)は高屈折率層で、二酸化ケイ素より屈折率の大きい高屈折材料で形成される。
【0019】
高屈折率層の屈折率は、基本的には選択する材料によって定まるが、成膜レート(膜を形成する速さ)や成膜時圧力、イオンアシスト処理等により調整することができる。
実施例1〜4,7〜10では、高屈折率層の材料として二酸化チタンを選択し、成膜時圧力及びイオンアシスト条件を変えることで、互いに屈折率の異なったものとされている。成膜時圧力は、蒸着チャンバ内の真空度や、酸素ガス及び/又はアルゴンガスを僅かに導入した場合の単位時間当たりの導入量等により調節される。又、イオンアシスト条件は、酸素ガス及び/又はアルゴンガス中の酸素分子やアルゴン分子をイオン銃等により酸素イオンやアルゴンイオンとする場合の、イオン銃の作動パターン(オンオフの態様)や電圧、あるいは各種ガスの導入量により変更可能である。
実施例5,6,11,12や比較例1〜4では、高屈折率層の材料として二酸化ジルコニウムを選択し、二酸化チタンの場合と同様に、成膜時圧力及びイオンアシスト条件を変えることで、互いに屈折率の異なったものとされている。
実施例1〜12,比較例1〜4では、可視領域において反射防止機能を有するが、それでも僅かに(最大3%以下程度の反射率で)反射光が存在する。実施例1〜6や比較例1,2では、その反射光の色が緑色になるように設計されており、実施例7〜12や比較例3,4では、その反射光の色が青色になるように設計されている。
次の[表1]〜[表12]において実施例1〜12に係る光学多層膜の各層の屈折率や膜厚等を示し、[表13]〜[表16]において比較例1〜4に係る光学多層膜の各層の屈折率や膜厚等を示す。
【0020】
【表1】
【表2】
【表3】
【0021】
【表4】
【表5】
【表6】
【0022】
【表7】
【表8】
【表9】
【0023】
【表10】
【表11】
【表12】
【0024】
【表13】
【表14】
【0025】
【表15】
【表16】
【0026】
[可視領域ないし近赤外域における反射率分布]
実施例1〜12,比較例1〜4における、可視領域ないし近赤外域に係る分光反射率分布を
図1,3,5,7,9,11に示し、可視領域に係る分光反射率分布を
図2,4,6,8,10,12に示す。
実施例1〜3については
図1,2に、実施例4〜6については
図3,4に、実施例7〜9については
図5,6に、実施例10〜12については
図7.8に、比較例1,2については
図9,10に、比較例3,4については
図11,12に示す。
これらの図で示された反射率分布においても、以下に説明する可視域での反射防止性能や近赤外域でのカット性能が分かる。
【0027】
[可視領域での反射防止性]
次の[表17]において、実施例1〜6,比較例1〜2の反射光における反射色、CIE表色系におけるx値とy値、及び視感度反射率を示し、[表18]において、実施例7〜12,比較例3〜4の反射光における反射色、CIE表色系におけるx値とy値、及び視感度反射率を示す。
同表の反射色やx値とy値によれば、実施例1〜6や比較例1,2では反射色が緑色になり、実施例7〜12や比較例3,4では反射色が青色になることが分かる。
又、同表の視感度反射率によれば、何れの例においても、視感度反射率が1.2%以下となっており、
図1〜12の反射率分布と適宜併せて見れば、可視領域において反射防止性を呈することが分かる。尚、視感度反射率は2%以下であれば、視認性を良好にするために充分な反射防止性を付与することができる。
【0028】
【表17】
【表18】
【0029】
[近赤外線のカット性]
次の[表19]において、実施例1〜6,比較例1〜2の近赤外域(波長800nm以上1500nm以下)における平均反射率、及び波長1000nmにおける反射率を示し、[表20]において、実施例7〜12,比較例3〜4の近赤外域(波長800nm以上1500nm以下)における平均反射率、及び波長1000nmにおける反射率を示す。
同表や
図1〜12によれば、比較例1〜4では近赤外域の平均反射率が30%前後で最大でも31.92%(比較例3)であるのに対し、実施例1〜12では、最低の反射率でも35.27%(実施例10)であって何れも35%以上となっており、実施例1〜12において充分な近赤外線のカット性能を具備していることが分かる。
【0030】
【表19】
【表20】
【0031】
比較例1では、5層目の物理膜厚(154.84nm)が145nm以上165nm以下の範囲内となっており、又4〜6層目の光学膜厚の総和(1.323λ)が1.3λ以上1.5λ以下の範囲内となっているが、高屈折率層の屈折率(2.1071)が2.145未満であるため、波長800nm以上1500nm以下の波長域の光に係る平均反射率(31.88%)が35%未満となり、且つ、波長1000nmの光の反射率(46.88%)が50%未満となって、近赤外線のカット性能が比較的に劣る。
比較例2では、5層目の物理膜厚(155.40nm)が145nm以上165nm以下の範囲内となっているが、4〜6層目の光学膜厚の総和(1.279λ)が1.3λ以上1.5λ以下の範囲外となっており、高屈折率層の屈折率(2.0577)が2.145未満であるため、波長800nm以上1500nm以下の波長域の光に係る平均反射率(29.12%)が35%未満となり、且つ、波長1000nmの光の反射率(44.31%)が50%未満となって、近赤外線のカット性能が比較的に劣る。
これに対し、実施例1〜6では、何れも5層目の物理膜厚が145nm以上165nm以下の範囲内となっており、又4〜6層目の光学膜厚の総和が1.3λ以上1.5λ以下の範囲内となっており、更に高屈折率層の屈折率が2.145以上となっているため、波長800nm以上1500nm以下の波長域の光に係る平均反射率が35%以上となり、且つ、波長1000nmの光の反射率が50%以上となって、近赤外線のカット性能が良好なものとなる。
【0032】
又、比較例3では、5層目の物理膜厚(145.11nm)が145nm以上165nm以下の範囲内となっており、又4〜6層目の光学膜厚の総和(1.394λ)が1.3λ以上1.5λ以下の範囲内となっているが、高屈折率層の屈折率(2.1071)が2.145未満であるため、波長800nm以上1500nm以下の波長域の光に係る平均反射率(31.92%)が35%未満となり、且つ、波長1000nmの光の反射率(47.65%)が50%未満となって、近赤外線のカット性能が比較的に劣る。
比較例4では、5層目の物理膜厚(147.51nm)が145nm以上165nm以下の範囲内となっており、4〜6層目の光学膜厚の総和(1.412λ)が1.3λ以上1.5λ以下の範囲外となっているが、高屈折率層の屈折率(2.0577)が2.145未満であるため、波長800nm以上1500nm以下の波長域の光に係る平均反射率(30.17%)が35%未満となり、且つ、波長1000nmの光の反射率(44.86%)が50%未満となって、近赤外線のカット性能が比較的に劣る。
これに対し、実施例7〜12では、何れも5層目の物理膜厚が145nm以上165nm以下の範囲内となっており、又4〜6層目の光学膜厚の総和が1.3λ以上1.5λ以下の範囲内となっており、更に高屈折率層の屈折率が2.145以上となっているため、波長800nm以上1500nm以下の波長域の光に係る片面に対する平均反射率が35%以上となり、且つ、波長1000nmの光の片面に対する反射率が50%以上となって、近赤外線のカット性能が良好なものとなる。
尚、5層目の物理膜厚が145nm未満であると近赤外線のカット率が比較的に不十分となり、165nmを超えると可視領域の反射防止性の付与を含めて設計が難しくなるし、材料や形成等のコストが嵩む。4〜6層目の光学膜厚の総和の下限や上限についても、5層目の物理膜厚と同様である。
【0033】
[まとめ等]
実施例1〜12のように、低屈折率層と高屈折率層を交互に積層した7層構造の光学多層膜において、低屈折率層にシリカ(二酸化ケイ素,SiO
2)を用い、高屈折率層に波長500nmの光に対する屈折率が2.145以上である材料を用い、5層目(低屈折率層)の物理膜厚を145nm以上165nm以下とし、4〜6層目(高屈折率層)の光学膜厚(λ=500nm)の総和が1.3λ以上1.5λ以下とすると、形成が容易で、耐久性を向上することがで、コストを低廉化することができ、可視領域において充分な反射防止性能を有し、近赤外域において充分なカット性能を有する眼鏡レンズを提供することができる。
しかも、実施例1〜6のように、反射色を(極薄い)緑色にしたり、実施例7〜12のように、反射色を(極薄い)青色にしたりすることが可能である。上記の光学多層膜における層構造の条件を満たしながら、反射色を他の色にすることも可能である。
実施例1〜12の眼鏡レンズを用いて、可視領域の反射防止性と近赤外線のカットを両立した眼鏡を作製することができる。又、実施例1〜12と同様の特性を有する窓用フィルム(建物や車両等)やカメラレンズ用フィルタ等の光学製品を作製することができる。