(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
歩行者用エアバッグ装置は、自動車のカウル付近の外面に沿ってエアバッグを膨張させることにより歩行者等(歩行者や自転車等の二輪車乗員など)を受け止めるように構成されている。
【0003】
歩行者用エアバッグ装置のエアバッグが膨張すると、ボンネットフードの後縁部、カウル、ウィンドシールド及び左右のAピラーの少なくとも一部がエアバッグによって覆われる。
【0004】
この歩行者用エアバッグ装置は、折り畳まれたエアバッグを収納するためのリテーナ(ケース)と、エアバッグを膨張させるためのインフレータと、リテーナを閉鎖しているリッド等を備えている。リテーナは車体幅方向に延在した長函状のものである。
【0005】
特許文献1の
図1及び特許文献2の
図2には、膨張したエアバッグが自動車のカウル近傍領域の外面を覆うように展開し、この展開したエアバッグがワイパに覆い被さっている状況が示されている。このようにワイパを覆うように膨張したエアバッグは、ワイパをウィンドシールドに押し付け、ワイパ特にワイパアームを変形させるおそれがある。なお、ワイパ非作動時においては、ワイパがエアバッグに近接するので、その可能性が高くなる。
【0006】
一般に、ワイパは、ワイパピボットと、該ワイパピボットから延出するワイパアームと、該ワイパアームの先端側に取り付けられたワイパブレード等を備えている。ワイパブレードは、ウィンドシールドに接しているが、ワイパアームはウィンドシールドから若干離間している。そのため、膨張しつつあるエアバッグによってワイパアームが押されると、該ワイパアームが変形するおそれがある。
【0007】
なお、膨張しつつあるエアバッグがワイパブレードに当ったときに、ワイパブレードがねじれて変形することがある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。以下の説明において、前後及び左右は、歩行者用エアバッグ装置を搭載した自動車の前後及び左右を表わす。
【0014】
図1は第1の実施の形態に係る歩行者用エアバッグ装置10を搭載した自動車の前部の平面図であり、エアバッグが展開した状態を示している。
図2はこの歩行者用エアバッグ装置のエアバッグの膨張完了時の斜視図であり、
図3〜5はこの歩行者用エアバッグ装置を備えた自動車のカウル付近の前後方向の縦断面図である。
【0015】
自動車1はフードパネル2、カウル3、ウィンドシールド4、Aピラー5、ワイパ6、歩行者用エアバッグ装置10等を備えている。この実施の形態では、歩行者用エアバッグ装置10は、カウル3に設置されているが、これに限定されるものではなく、フードパネル2の後部に取り付けられてもよい。
【0016】
この歩行者用エアバッグ装置10は、エアバッグ11と、折り畳まれたエアバッグ11を収容する函状のリテーナ12と、エアバッグ11を膨張させるためのインフレータ13と、リッド14等を備えている。
【0017】
エアバッグ11は、フードパネル2の後部からウィンドシールド4の前部までを覆うように膨張する主部11aと、該主部11aの左右両端側から後方に延出してAピラーの少なくとも前部を被覆するように膨張する1対のピラー被覆部11b,11bと、該主部11aの下面に連なる下方延出部11cとを有している。主部11a、ピラー被覆部11b,11b及び下方延出部11cは連通している。
【0018】
エアバッグ11が膨張した状態において、主部11aは、自動車1の左端から右端まで連続して延在している。
【0019】
下方延出部11cは、エアバッグ11の膨張状態において、主部11aの下面からリテーナ12内にまで延在している。この実施の形態では、下方延出部11c内にインフレータ13が配置されている。
【0020】
インフレータ13はロッド状であり、一端側にガス噴出口が設けられている。インフレータ13は、長手方向を車体左右方向としている。インフレータ13から突設されたスタッドボルト(図示略)が下方延出部11c及びリテーナ12の底面を貫通し、ナット締めされることにより、インフレータ13がリテーナ12に固定されている。
【0021】
エアバッグ11は基布を縫製することにより構成されている。この実施の形態では、主部11aの上面を構成する基布(パネル)15と、主部11aの下面を構成するパネル16とがテザーパネル17によって連結されている。
【0022】
テザーパネル17は、自動車車体の左右方向に延在しており、上縁及び下縁がそれぞれ縫合糸18,19によって上側パネル15及び下側パネル16に縫合されている。
【0023】
テザーパネル17の下端辺の位置(テザーパネル17と下側パネル16との縫合位置)は、エアバッグ11が膨張完了した状態において、停止姿勢のワイパ6に対面する位置である。
【0024】
テザーパネル17の左右方向の端部と主部11aの左右の側辺部との距離は300mm以下特に250mm以下であることが好ましい。テザーパネル17のパネル15,16を結ぶ上下方向の幅員は80〜220mm特に100〜200mm程度が好ましい。なお、テザーパネル17は1枚物である必要はなく、2枚以上に分割されてもよい。
【0025】
テザーパネル17の左右方向の両端と主部11aの左右両側端との間には、ガスが通過する間隔があいている。この実施の形態では、テザーパネル17に、ガス通過用の開口17aが設けられているが、この開口17aは省略されてもよい。
【0026】
この実施の形態では、主部11aとピラー被覆部11bとが連なる部分付近にサイドテザーパネル20が設けられている。サイドテザーパネル20も、上縁及び下縁が上下のパネル15,16に縫合糸によって縫着されている。サイドテザーパネル20は、自動車の左右幅方向の中央側ほど自動車前方となるように設けられている。サイドテザーパネル20にもガス通過用開口が設けられてもよい。
【0027】
このエアバッグ11が折り畳まれてリテーナ12に収容され、リッド14によって該リテーナ12の上面が閉鎖される。エアバッグ11の折り畳み方法は、ロール折り、蛇腹折り、それらの併用など任意である。
【0028】
エアバッグ11を折り畳んだ後、エアバッグ折畳体を布やフィルム等よりなる保形クロス(図示略)によって被包して保形するのが好ましい。この保形クロスには、エアバッグ11が膨張するときに開裂するようにミシン目状のスリット等の開裂部が設けられている。
【0029】
この歩行者用エアバッグ装置10を搭載した自動車1が歩行者等と接触してインフレータ13が作動すると、エアバッグ11が
図4の状態を経て
図1,5のように膨張展開し、カウル3、フードパネル2の後部及びウィンドシールド4の前部が主部11aで覆われ、Aピラー5の少なくとも前部及びその近傍がピラー被覆部11bで覆われ、歩行者等が直接にカウル3やAピラー5に当ることが防止される。
【0030】
このエアバッグ装置10にあっては、エアバッグ11の上側パネル15と下側パネル16とがテザーパネル17によって連結されており、テザーパネル17の下端縁連結部付近の下側パネル16が上方に引っ張られる。これにより、エアバッグ11は、
図4,5のように、膨張途中から膨張完了状態において、主部11aの下面のうちワイパ6に対面する部分に凹部Hが形成される。
【0031】
即ち、エアバッグ11の主部11aが膨張する場合、主部11aの上側パネル15は、インフレータ13から噴出したガスによって上方に押されることにより、
図4のように、上方に向って凸に湾曲するように膨張しようとする。この上側パネル15に対し下側パネル16がテザーパネル17によって連結されているので、テザーパネル17下縁付近の下側パネル16が上方に引き上げられ、凹部Hが形成される。
【0032】
この凹部Hがワイパ6に対面するため、エアバッグ11がウィンドシールド4に被さるときにワイパ6を強く押すことがなく、ワイパ6の変形が防止される。
【0033】
なお、
図1では、ワイパ6はカウル3に沿った停止姿勢となっているが、ワイパ6が作動しているときにエアバッグ11が膨張した場合でも、ワイパ6のワイパアームの基部(ワイパピボット近傍)に凹部Hが対面する。そのため、ワイパ作動中にエアバッグ11が膨張した場合でも、ワイパアームの基部がエアバッグ11によって強く押されることがなく、ワイパアームの変形が防止される。
【0034】
上記実施の形態では、テザーパネル17によって凹部Hを形成しているが、
図6〜8に示す実施の形態に係る歩行者用エアバッグ装置10Aのエアバッグ11Aでは、下側パネル16のうち、停止状態のワイパ6に対面する位置に開口30を設け、この開口30の縁部に小袋31を縫合糸32によって縫着し、この小袋31内を凹部Hとしている。
【0035】
下側パネル16を平たく広げた状態において、開口30の車体左右方向の端部と主部11aの左右の側辺部との距離は300mm以下特に250mm以下であることが好ましく、前後方向の幅は10〜100mm特に40〜50mm程度が好ましい。凹部Hの深さは30〜130mm特に40〜100mm程度が好ましい。
【0036】
このエアバッグ11Aは、テザーパネル17が設けられていない。このエアバッグ11Aを備えたエアバッグ装置10Aのその他の構成は
図1〜5のエアバッグ装置10と同一であり、同一符号は同一部分を示している。
【0037】
図6のように、このエアバッグ11Aが膨張した場合、小袋31は開口30付近で低張力状態となっている。このように低張力状態となっている小袋31を有したエアバッグ11Aが、その後、
図7のようにウィンドシールド4の前部に覆い被さった場合、ワイパ6は、開口30を通って小袋31内に入り込む。このため、エアバッグ11Aがワイパ6を強く押すことがない。
【0038】
なお、小袋31をテザー部材によって上側パネル15に連結し、小袋31を上方に引き上げて凹部Hを形成してもよい。
【0039】
本発明では、
図9〜11に示す歩行者用エアバッグ装置10Bのように、インフレータ13からのガスを左右方向に導く整流筒40をエアバッグ11内に配置してもよい。この実施の形態では、整流筒40は、1枚の基布を二ツ折りして折り返し、端辺同士を縫合糸41で縫着して略筒状としたものである。この整流筒40の左右両端はガス流出口42,43となっている。また、整流筒40の筒軸方向の途中の上面にも、1個又は複数個のガス流出口44が設けられている。この整流筒40の内部にインフレータ13が配置される。
図11の符号13aは、インフレータ13のガス噴出部を示す。なお、左側のガス流出口42は、このガス噴出部13aに近いので、ガス流出口43よりも開口径が小さくなっており、左右にガスが均等に流出するよう構成されている。
【0040】
この整流筒40をエアバッグ11内に配置しておくと、インフレータ13から噴出したガスのうち多くのものが流出口42,43から左方及び右方に流出するので、膨張しつつあるエアバッグ11の折り畳み体がリテーナ12から上方に展開するときの速度が小さくなる。このため、エアバッグ11の折り畳み体がフードパネル2の後縁に当ったときに該後縁を押す力が小さくなり、該後縁の変形が防止される。
【0041】
なお、整流筒40は、ガスによって膨満した状態においても、該整流筒40の上部がフードパネル2の後端やワイパ6に達しない大きさとされる。
【0042】
図9〜11では、
図1〜5に示すエアバッグ11内に整流筒40が設置されているが、
図6〜8に示すエアバッグ11Aに整流筒40が設置されてもよい。
【0043】
上記実施の形態は、いずれも本発明の一例であり、本発明は図示の状態に限定されない。本発明では、膨張したエアバッグの下面のうちワイパ対面部分に凹部を形成することができる他の手段を採用してもよい。
【0044】
上記実施の形態では、歩行者用エアバッグ装置10はカウル3に設置されているが、フードパネル2の下側に配置され、エアバッグの膨張時にフードパネル2の後部が押し上げられてエアバッグが膨張するタイプの歩行者用エアバッグ装置などであってもよい。
【0045】
上記実施の形態では、1個のエアバッグによって左側Aピラーから右側Aピラーまでを覆うようにしているが、自動車の左半側を覆うエアバッグを有した歩行者用エアバッグ装置と右半側を覆うエアバッグを有した歩行者用エアバッグ装置であってもよい。