特許第6451317号(P6451317)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6451317
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】結晶化ガラス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/12 20060101AFI20190107BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20190107BHJP
   C03B 32/02 20060101ALI20190107BHJP
【FI】
   C03C10/12
   C03C3/085
   C03B32/02
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-501122(P2014-501122)
(86)(22)【出願日】2014年1月9日
(86)【国際出願番号】JP2014050205
(87)【国際公開番号】WO2014129223
(87)【国際公開日】20140828
【審査請求日】2016年8月4日
(31)【優先権主張番号】特願2013-31751(P2013-31751)
(32)【優先日】2013年2月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 宏和
(72)【発明者】
【氏名】小川 修平
(72)【発明者】
【氏名】船引 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 正宏
【審査官】 永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−56829(JP,A)
【文献】 特開2006−8488(JP,A)
【文献】 特表2009−527436(JP,A)
【文献】 特開2006−199538(JP,A)
【文献】 特開平11−314939(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/106489(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00−14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、SiO 55〜75%、Al 20.5〜27%、LiO 2超〜4.5%、TiO 1.5〜3%、SnO 0.1〜0.5%、TiO+ZrO 3.8〜5%、LiO+0.741MgO+0.367ZnO 3.7〜4.5%、SrO+1.847CaO 0.5%以下の組成(但し、SiOと、Alと、SnOと、TiO+ZrOと、LiO+0.741MgO+0.367ZnOとの合計が100%を超える組成を除く)を有し、かつβ−石英固溶体とβ−スポジュメン固溶体の両方を主結晶として有し、
30℃における長さをL、各温度における長さ(L)と、30℃における長さ(L)との差をΔLとしたときに、−40℃〜80℃における最大値ΔLmaxと最小値ΔLminとの差をLで割った値(ΔLmax−ΔLmin)/Lが8×10−6以下である、結晶化ガラス。
【請求項2】
−40℃〜80℃において、ΔL/Lの極大点及び極小点が存在する、請求項1に記載の結晶化ガラス。
【請求項3】
質量%で、SiO 55〜75%、Al 20.5〜27%、LiO 2超〜4.5%、TiO 1.5〜3%、SnO 0.1〜0.5%、TiO+ZrO 3.8〜5%、LiO+0.741MgO+0.367ZnO 3.7〜4.5%、SrO+1.847CaO 0.5%以下の組成(但し、SiOと、Alと、SnOと、TiO+ZrOと、LiO+0.741MgO+0.367ZnOとの合計が100%を超える組成を除く)を有する結晶性ガラスを用意する工程と、
前記結晶性ガラスを結晶化させて、β−石英固溶体とβ−スポジュメン固溶体の両方を主結晶として有する結晶化ガラスを得る結晶化工程と、
を備え、
前記結晶化工程における最高温度を、得ようとする結晶化ガラスの各温度における長さ(L)と、30℃における長さ(L)との差をΔLとしたときに、−40℃〜80℃における最大値ΔLmaxと最小値ΔLminとの差をLで割った値(ΔLmax−ΔLmin)/Lが8×10−6以下となるように、前記結晶化工程における最高温度を設定する、結晶化ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化ガラス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高密度波長分割多重通信(DWDM:Dense Wavelength Division Multiplex)を用いた光通信システムが用いられている。DWDMには、光波長合分波器が用いられる。特許文献1には、その一例が記載されている。特許文献1に記載の光波長合分波器は、シリコン基板上に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−284955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光波長合分波器では、設けられた各光学エレメント間の位置精度が重要となる。しかしながら、光波長合分波器の温度が変化すると、各光学エレメントの相対的位置関係が変化する。これに鑑み、各光学エレメントの相対的位置関係が変化した場合に光路を調整するためにMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーなどからなる光路調整素子に対してフィードバックしたり、光波長合分波器自体を一定の温度に調整できるようにすることが考えられる。しかしながら、上記のような方法では、光波長合分波器が大型化するという問題や、光波長合分波器の制御が煩雑になるという問題が生じる。
【0005】
本発明の主な目的は、光路調整機能を必ずしも必要としない光波長合分波器を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る結晶化ガラス板では、30℃における長さをL、各温度における長さ(L)と、30℃における長さ(L)との差をΔLとしたときに、−40℃〜80℃における最大値ΔLmaxと最小値ΔLminとの差をLで割った値(ΔLmax−ΔLmin)/Lが8×10−6以下である。
【0007】
本発明に係る結晶化ガラス板では、−40℃〜80℃において、ΔL/Lの極大点及び極小点が存在することが好ましい。
【0008】
本発明に係る結晶化ガラスの製造方法は、結晶性ガラスを用意する工程と、結晶性ガラスを結晶化させて結晶化ガラスを得る結晶化工程とを備える。結晶化工程における最高温度を、得ようとする結晶化ガラスの熱膨張特性に応じた温度とする。
【0009】
本発明に係る結晶化ガラスの製造方法において、結晶化ガラスの30℃における長さをL、各温度における長さ(L)と、30℃における長さ(L)との差をΔLとしたときに、−40℃〜80℃における最大値ΔLmaxと最小値ΔLminとの差をLで割った値(ΔLmax−ΔLmin)/Lが8×10−6以下となるように、結晶化工程における最高温度を設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光路調整機能を必ずしも必要としない光波長合分波器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る結晶化ガラスの略図的斜視図である。
図2図2は、各実施例及び各比較例におけるΔL/Lを表すグラフである。
図3図3は、結晶化工程における最高温度と、得られた結晶化ガラス板の−40℃〜80℃における最大値ΔLmaxと最小値ΔLminとの差をLで割った値(ΔLmax−ΔLmin)/Lの関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0013】
(結晶化ガラス1)
図1は、光波長合分波器などに用いられる結晶化ガラス1である。尚、結晶化ガラス1は、例えば、板状体であることが好ましく、板状の結晶化ガラスは溶融ガラスを板状に成形して結晶化することにより、或いは、溶融ガラスを塊状に成形して、結晶化させた後、板状に切断し研磨することにより作製される。
【0014】
上述のように、光波長合分波器においては、温度変化に伴って各光学エレメントの相対的位置関係が変化することを抑制することが重要となる。この解決策としては、例えば、平均線熱膨張係数の小さなガラス板を用いることも考えられる。しかしながら、本発明者らが鋭意研究した結果、平均線熱膨張係数の小さなガラス板であっても温度変化に伴う各光学エレメントの相対的位置関係の変化を十分に抑制できない場合があることが見いだされた。また、本発明者らは、その原因が、平均線熱膨張係数が小さい場合であっても、特定の温度域における熱膨張量が大きくなることにあることを見いだした。
【0015】
ここで、結晶化ガラス1では、30℃における結晶化ガラス1の長さをL、各温度における結晶化ガラス1の長さ(L)と、30℃における結晶化ガラス板1の長さ(L)との差をΔLとしたときに、−40℃〜80℃における最大値ΔLmaxと最小値ΔLminとの差をLで割った値(ΔLmax−ΔLmin)/Lが8×10−6以下である。このため、光波長合分波器の保証温度域である−40℃〜80℃の各温度において、結晶化ガラス1の温度変化した際の変形量が小さい。よって、結晶化ガラス1を用いることにより、温度が変化した場合であっても、各光学エレメントの相対的位置関係が変化しにくい。従って、結晶化ガラス1を用いることにより、光路調整機能を必ずしも必要としない光波長合分波器を実現することができる。
【0016】
温度変化に伴う各光学エレメントの相対的位置関係の変化をより効果的に抑制する観点からは、−40℃〜80℃における(ΔLmax−ΔLmin)/Lが6×10−6以下であることが好ましく、5×10−6以下であることがより好ましく、3×10−6以下であることがさらに好ましく、2×10−6以下であることが最も好ましい。
【0017】
なお、シリコンの−40℃〜80℃における(ΔLmax−ΔLmin)/Lは、300×10−6である。石英ガラスの−40℃〜80℃における(ΔLmax−ΔLmin)/Lは、34×10−6である。β−石英固溶体を主結晶として含む結晶化ガラス(日本電気硝子株式会社社製ネオセラムN−0)の−40℃〜80℃における(ΔLmax−ΔLmin)/Lは、24×10−6である。β−スポジュメン固溶体を主結晶として含む結晶化ガラス(日本電気硝子株式会社社製ネオセラムN−11)の−40℃〜80℃における(ΔLmax−ΔLmin)/Lは、62×10−6である。
【0018】
ところで、β−石英固溶体を主結晶として含む結晶化ガラス(日本電気硝子株式会社社製ネオセラムN−0)の熱膨張率は、−40℃〜80℃の温度範囲において、温度が高くなるにつれて単調減少する。一方、β−スポジュメン固溶体を主結晶として含む結晶化ガラス(日本電気硝子株式会社社製ネオセラムN−11)の熱膨張率は、−40℃〜80℃の温度範囲において、温度が高くなるにつれて単調増加する。このため、β−石英固溶体及びβ−スポジュメン固溶体の一方のみを主結晶として含む結晶化ガラスでは、−40℃〜80℃における(ΔLmax−ΔLmin)/Lを小さくすることは困難である。β−石英固溶体とβ−スポジュメン固溶体との両方を主結晶として含有することにより、結晶化ガラスの−40℃〜80℃における(ΔLmax−ΔLmin)/Lを十分に小さくすることが可能となると考えられる。特に、−40℃〜80℃において、ΔL/Lの極大点及び極小点が存在するような割合でβ−石英固溶体とβ−スポジュメン固溶体との両方を主結晶として含有することにより、結晶化ガラスの−40℃〜80℃における(ΔLmax−ΔLmin)/Lをさらに小さくし得ると考えられる。
【0019】
(結晶化ガラス1の製造方法)
結晶化ガラス1は、以下の要領で製造することができる。
【0020】
まず、結晶化ガラス1を構成するための結晶性ガラスを用意する。次に、その結晶性ガラスを結晶化させて結晶化ガラス1を得る(結晶化工程)。
【0021】
なお、結晶性ガラスは、β−石英固溶体とβ−スポジュメン固溶体との両方が析出し得る組成を有するものであることが好ましい。具体的には、結晶性ガラスの好ましい組成は、質量%で、SiO 55〜75%、Al 20.5〜27%、LiO 2超〜8%、TiO 1.5〜3%、SnO 0.1〜0.5%、TiO+ZrO 3.8〜5%、LiO+0.741MgO+0.367ZnO 3.7〜4.5%、SrO+1.847CaO 0.5%以下である。
【0022】
本発明者らは、鋭意研究した結果、結晶化工程における最高温度を変化させることにより、得られる結晶化ガラス1の熱膨張率や、(ΔLmax−ΔLmin)/Lを変化させることができることを見いだした。すなわち、本発明者らは、同じ組成の結晶性ガラスであっても、結晶化工程における最高温度を異ならせることにより、(ΔLmax−ΔLmin)/Lが異なる結晶化ガラス1が得られることを見いだした。よって、得ようとする結晶化ガラスの熱膨張特性に応じて、結晶化工程における最高温度を選択すればよいことが見いだされた。従って、本実施形態においては、結晶化ガラス1の−40℃〜80℃における(ΔLmax−ΔLmin)/Lが8×10−6以下、より好ましくは6×10−6以下、さらに好ましくは5×10−6以下、なお好ましくは3×10−6以下、最も好ましくは2×10−6以下となるように、結晶化工程における最高温度を設定することが好ましい。β−石英固溶体とβ−スポジュメン固溶体との両方が析出するように結晶化工程における最高温度を設定することが好ましい。
【0023】
このように、結晶化工程における最高温度を変化させることにより、得られる結晶化ガラス1の(ΔLmax−ΔLmin)/Lを変化させることができる理由としては定かではないが、以下の理由が考えられる。すなわち、結晶化工程における最高温度を変化させることにより、β−石英固溶体とβ−スポジュメン固溶体の両方が析出し、これらの析出割合が変化し、その結果、(ΔLmax−ΔLmin)/Lが変化するものと考えられる。
【0024】
なお、結晶化工程において、β−石英固溶体とβ−スポジュメン固溶体との両方を析出させやすくするためには、最高温度−100℃〜最高温度までの加熱速度を0.05℃/分〜5℃/分とすることが好ましい。
【0025】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0026】
(実施例1)
組成が、質量%で、SiO 65.75%、Al 22.3%、LiO 3.6%、MgO 0.7%、TiO 2.0%、ZrO 2.2%、P 1.4%、NaO 0.35%、KO 0.3%、BaO 1.2%、SnO 0.2%となるように原料を調合し、混合することにより原料バッチを得た。その原料バッチを1600℃で24時間溶融した後に、ロール製板することにより、結晶性ガラス板を得た。
【0027】
次に、得られた結晶性ガラス板を、最高温度を925℃、最高温度における保持時間を30分間、加熱速度を1℃/分、冷却速度を1℃/分として熱処理することにより結晶化させ、結晶化ガラス板を得た。得られた結晶化ガラス板の寸法は、300mm×300mm×5mmであった。
【0028】
次に、得られた結晶化ガラス板の−40℃〜80℃におけるΔL/Lを測定した。結果を図2に示す。
【0029】
(実施例2)
結晶化工程における最高温度を930℃としたこと以外は実施例1と同様にして結晶化ガラス板を作製し、得られた結晶化ガラス板の−40℃〜80℃におけるΔL/Lを測定した。結果を図2に示す。
【0030】
(実施例3)
結晶化工程における最高温度を935℃としたこと以外は実施例1と同様にして結晶化ガラス板を作製し、得られた結晶化ガラス板の−40℃〜80℃におけるΔL/Lを測定した。結果を図2に示す。
【0031】
(比較例1)
比較例1として、石英ガラス板を用意し、−40℃〜80℃におけるΔL/Lを測定した。結果を図2に示す。
【0032】
(比較例2)
比較例2として、シリコン板を用意し、−40℃〜80℃におけるΔL/Lを測定した。結果を図2に示す。
【0033】
(比較例3)
主結晶としてβ−石英固溶体のみを含む結晶化ガラス板(日本電気硝子株式会社社製ネオセラムN−0)を用意し、−40℃〜80℃におけるΔL/Lを測定した。結果を図2に示す。
【0034】
(比較例4)
主結晶としてβ−スポジュメン固溶体のみを含む結晶化ガラス板(日本電気硝子株式会社社製ネオセラムN−11)を用意し、−40℃〜80℃におけるΔL/Lを測定した。結果を図2に示す。
【0035】
(比較例5)
結晶化工程における最高温度を910℃としたこと以外は実施例1と同様にして結晶化ガラス板を作製し、得られた結晶化ガラス板の−40℃〜80℃におけるΔL/Lを測定した。結果を図2に示す。
【0036】
(比較例6)
結晶化工程における最高温度を940℃としたこと以外は実施例1と同様にして結晶化ガラス板を作製し、得られた結晶化ガラス板の−40℃〜80℃におけるΔL/Lを測定した。結果を図2に示す。
【0037】
また、実施例1〜3、比較例5及び6で得た結晶化ガラス板については、−40℃〜80℃における(ΔLmax−ΔLmin)/Lを求めた。結果を図3に示す。
【0038】
図2及び図3に示す結果から、実施例1〜3は、−40℃〜80℃における(ΔLmax−ΔLmin)/Lが6×10−6以下と小さく、また、−40℃〜80℃において、ΔL/Lの極大点及び極小点が存在していることが分かる。また、結晶化工程における最高温度を変化させることにより−40℃〜80℃における(ΔLmax−ΔLmin)/Lを変化させることができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の結晶化ガラスは、光波長合分波器の基板用途に限られるものではなく、例えば、エアギャップエタロンのスペーサー、リニアエンコーダポジションスケール等の精密スケール用の部材、精密機器の構造部材、精密ミラーの基材として用いることも可能である。
【符号の説明】
【0040】
1…結晶化ガラス
図1
図2
図3