【文献】
SCIENTIFIC REPORTS,2015年 9月 2日,Vol. 5,Article number:13671,DOI:10.1038/srep13671
【文献】
Journal of Crystal Growth,2009年 1月19日,Vol. 311,pp. 3011-3014
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ハロゲンを用いない気相成長法(ハロゲンフリーVPE)法、有機金属化学気相成長(MOCVD)法、又は、ハイドライド気相成長法(HVPE)法を用いて、前記窒化ガリウム結晶を成長させる成長手段を備えた請求項5から7までのいずれか1項に記載の結晶成長装置。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)は、ワイドギャップ半導体であり、LED、レーザー、パワー半導体、光デバイスなどに応用されている。GaNを用いて高性能な半導体デバイスを作製するためには、高品質なGaN結晶が必要となる。
これまでにGaN結晶成長に用いられてきた手法は幾つかある。例えば、厚さ数ミクロン程度までの結晶の成長には、分子線エピタキシー(MBE)法や有機金属気相成長(MOCVD)法が用いられている。また、厚さが10ミクロンを超えるバルクGaN結晶の成長には、ハイドライド気相成長(HVPE)法などが用いられている。
【0003】
しかし、HVPE法で作製したバルクGaN結晶、あるいはMBE法、MOCVD法などで作製したエピタキシャル成長GaN結晶において、ナノボイドの存在が確認されていた(非特許文献1〜3)。ナノボイドは、通常、結晶中に10
5〜10
7cm
-2程度存在していると報告されており、O不純物やSi不純物との関連(非特許文献1、2)や、らせん転位との関連(非特許文献3)が指摘されていた。しかし、ナノボイドの形成メカニズムは、完全には解明されていなかった。
【0004】
例えば、非特許文献1、2には、
(a)Si不純物濃度やO不純物濃度を上昇させると、ナノボイド密度が上昇するという現象が観察されること、及び、
(b)その際に明確な転位の増大は確認できないことから、不純物がナノボイドの形成に関連していること、
が述べられている。
一方、非特許文献3には、ナノボイドの中心部には中空らせん転位が存在しており、転位とナノボイドが関連していると報告されている。
【0005】
非特許文献1、4では、結晶表面のピット(表面ピット)とナノボイド形成との関連が述べられている。表面ピットからナノボイドが形成されると考えられるため、表面ピット密度は、結晶中のナノボイド密度と強い相関があると考えられる。表面ピットは、非特許文献5にも述べられているように、バルク結晶成長時には安定した長時間成長を困難としたり、結晶性の低下やウェハ加工歩留まりの低下など、さまざまな問題を引き起こす。また、パワーデバイス作製時には、表面ピットを起点として電界集中部が発生し、耐圧の低下を引き起こす。そのため、このような表面ピットをできるだけ少なくする必要があるが、明確な対処法は明らかになっていない。
【0006】
HVPE法やMOCVD法においては、通常、pBNコート黒鉛からなる部材やヒーターが成長装置内で用いられている(特許文献1、2)。しかし、BNに由来するB不純物とナノボイドとの関連性については知られていない。
特許文献3には、不純物濃度が高いと塑性変形しやすく、クラックが形成されやすいと記載されている。しかしながら、不純物の具体的物質名としては、MgやFeなどが記載されているのみであり、B不純物についての言及がない。また、不純物とナノボイドなどの欠陥との関連性についても検討されていない。
【0007】
さらに、特許文献4には、「パイプ穴」と呼ばれる欠陥の記述、及び、「パイプ穴」の密度を300個cm
-2まで低減できたとの記述がある。しかし、特許文献4にいう「パイプ穴」とは、エッチピット直下に貫通して存在している中空欠陥であり、表面ピット直下に断続的に形成される「ナノボイド」とは本質的に異なる欠陥である。
【0008】
すなわち、特許文献4の
図1に示されるように、「パイプ穴」が結晶を貫通していることやエッチングによってピットが形成されていることなどから、「パイプ穴」の形成要因は、不純物ではなく、中空らせん転位等の転位であることが疑われる。
さらに、特許文献4には、「パイプ穴の観測には、結晶を酸、もしくはアルカリ溶液でエッチングを施すことにより、光学顕微鏡で確認可能な大ピットが形成される」と述べられている。一方、表面ピット及びナノボイドを含む結晶にエッチングを施すと、ナノボイド直上の表面ピットはエッチングにより消失し、観察することはできない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 窒化ガリウム結晶]
本発明に係る窒化ガリウム結晶は、結晶中のナノボイド密度が1×10
5[cm
-2]未満であることを特徴とする。
【0018】
[1.1. ナノボイド]
[1.1.1. 定義]
本発明において、「ナノボイド」とは、c軸方向に伸びる中空欠陥であって、半径が1nm〜500nmであり、長さが1〜1000nmであり、かつ、アスペクト比が50以下であるものをいう。ナノボイドは、GaN結晶内でGaNが存在しない領域であって、結晶の周期性が成り立たない不連続領域である。
【0019】
ナノボイドは、
(a)c面(極性面)からなる成長面上にB不純物が偏析することによって、成長面上に部分的に高指数面(半極性面)が現れ、
(b)高指数面上には実質的に新たな結晶が成長せず、かつ、c面上において新たな結晶が優先的に成長するために、高指数面の直上に中空欠陥が生成し、
(c)中空欠陥がある程度成長したところで、中空欠陥の上部が閉塞する、
ことにより生成すると考えられる。
そのため、ナノボイドのアスペクト比は、50以下となる。また、成長過程においては高指数面の発生と中空欠陥の閉塞とが繰り返されるため、ナノボイドは、表面ピットの直下に断続的に発生する。アスペクト比が50以下であっても、ナノボイド部への電界集中が発生し、リーク電流の増大等の問題が発生する。
【0020】
なお、特許文献4に開示されている「パイプ穴」は、アスペクト比が70以上である(特許文献4の
図1参照)。このような「パイプ穴」は、転位に起因する欠陥であると考えられ、エッチングにより光学顕微鏡等で確認可能な大ピットとなる。一方、本願にいう「ナノボイド」は、転位に起因する欠陥ではなく、B不純物による半極性面の安定化に起因する欠陥であり、「パイプ穴」とは根本的に異なる。
【0021】
[1.1.2. ナノボイド密度]
ナノボイド密度については、断面TEM観察を用いることによって算出できる。試料厚さ(紙面奥行き方向)が約100nmである場合、断面TEM観察によりc軸方向に沿って観察を行う。視野(例えば、横方向500nm×縦方向(c軸方向)500nm)の中で結晶のc軸方向に沿って任意の数十nmの領域を選ぶ。その領域の中でナノボイドが1つ観察されるとすると、その視野のナノボイド密度(以下、「視野密度」ともいう)は、おおよそ2×10
9[cm
-2」と算出される。このようにしていくつかの視野で観察した視野密度の平均値により、ナノボイド密度を算出することができる。
【0022】
本発明に係る窒化ガリウム結晶のナノボイド密度は、1×10
5[cm
-2]未満である。後述する方法により、かかる要件を達成することができる。ナノボイド密度は、0超1×10
5[cm
-2]未満が好ましく、1×10
4[cm
-2]以上1×10
5[cm
-2]未満がより好ましい。製造条件をさらに最適化すると、ナノボイド密度は、1×10
4[cm
-2]未満となる。
【0023】
[1.2. 表面ピット]
[1.2.1. 定義]
「表面ピット(Surfactant Pit)」とは、成長面上にB不純物が偏析し、GaNの半極性面が安定化することにより、成長直後の成長面上に出現するピットをいう。表面ピットは、平坦な成長面をエッチングすることにより出現するピット、すなわち、エッチピットとは異なる。
【0024】
[1.2.2. 表面ピット密度]
表面ピットは、エッチピットとは形成メカニズムが異なる。そのため、特許文献4に記載されているように、窒化ガリウム結晶に対して、例えば、酸、アルカリなどの薬液によるエッチングを施す方法では、表面ピット密度を正確に測定することはできない。ナノボイドは成長終了直後の結晶の表面に存在するピット(半径:平均4nm程度)の直下に断続的に発生するものであり、その発生原因はB不純物による半極性面の安定化に起因している。そのため、成長終了直後の結晶表面をエッチングすると、通常の安定面であるc面から先にエッチングされ、表面ピットが消失する。
【0025】
従って、表面ピット密度は、成長終了直後の結晶表面をエッチングすることなく走査型電子顕微鏡(SEM)や原子間力顕微鏡(AFM)等で観察し、以下の方法によって統計的に見積もる必要がある。
ここでは、2インチ(5.08cm)サイズのウェハを例に挙げる。また、表面ピットは、B不純物の偏析により面内でランダムに発生するため、面内分布はない(すなわち、面内での表面ピット密度は等しい)と仮定する。
【0026】
(1)ウェハの表面を10mm角の賽の目状のエリア(測定エリア)に分ける。例えば、2インチサイズのウェハの場合、9個の測定エリアができる。なお、10mm角に満たない残りの半端なエリアは、測定エリアから除外する。
(2)各測定エリアの表面をSEM等で観察する。視野の大きさは、5μm×7μmとする。また、各測定エリアにおいて、それぞれ、任意に選択した11視野をSEM等で観察し、各視野毎に表面ピットの数を測定する。
(3)各視野に現れた表面ピットの総数を各視野の総面積で除すことにより視野全体の平均値を求め、これを「表面ピット密度」と定義する。
【0027】
例えば、2インチサイズのウェハの場合、合計99視野をSEM等で観察することになる。99視野の内、1視野のみで1個の表面ピットが観察されたと仮定すると、その視野における単位面積当たりの表面ピットの数(以下、これを「1視野当たりの表面ピット密度」という)は、2.9×10
6[cm
-2]に相当する。また、視野全体の平均値は、2.9×10
4[cm
-2]となる。
よって、1視野当たりの表面ピット密度の分布に正規性を仮定すると、1視野当たりの表面ピット密度の平均値(すなわち、表面ピット密度)は、95%信頼区間で0以上8.6×10
4[cm
-2]以下の範囲に存在することとなる。
このようにして、視野全体の平均値(すなわち、表面ピット密度)及びその95%信頼区間を求めることができる。
【0028】
ここで、95%信頼区間は、次式から算出することができる。
95%信頼区間=m±1.96×σ
但し、
mは、1視野当たりの表面ピット密度の平均値、
σは、1視野当たりの表面ピット密度の標準偏差。
【0029】
[1.2.3. ナノボイド密度と表面ピット密度との関係]
結晶中のナノボイド密度と表面ピット密度との間には強い相関があり、両者はほぼ同等の値を示す。これは、結晶中のナノボイドが成長面の表面ピットから形成されることに起因すると考えられる。よって、AFMやSEMなどで表面ピット密度を算出することにより、結晶内のナノボイド密度を把握することができる。
【0030】
[1.3. B不純物]
Bは、GaNの半極性面を安定化させる作用がある。そのため、結晶中のナノボイド密度とB不純物濃度との間には強い相関がある。ナノボイド密度を1×10
5[cm
-2]未満とするためには、結晶中のB不純物濃度は、3×10
16[cm
-3]以下にするのが好ましい。結晶中のB不純物濃度は、さらに好ましくは、1×10
16[cm
-2]以下である。また、B不純物の濃度を1×10
14[cm
-3]程度まで低減できれば、ナノボイドや表面ピットの存在しない結晶を作製できると考えられる。
結晶中のB不純物濃度(及び、後述するその他の不純物濃度)は、例えば、2次イオン質量分析法(D−SIMS)などによって測定できる。例えば、成長させた結晶のある点を深さ方向に対して、3μm厚さでSIMS分析を実施する。表面近傍の100nm程度は、表面汚染の影響があるため排除し、深さ100nmから3μmまでの不純物濃度の平均で算出する。
【0031】
[1.4. その他の不純物]
GaN結晶の製造方法によっては、B以外の不純物が結晶中に混入することがある。これらの内、ある種の不純物は、GaNの半極性面を安定化させる作用(すなわち、ナノボイド密度を増大させる作用)はないが、デバイス特性を低下させる作用を持つものがある。高性能なデバイスを得るためには、このような不純物は、少ない程良い。
【0032】
例えば、GaN結晶にNaやKのようなアルカリ金属が含まれると、シリコンプロセスでよく知られているように、デバイスプロセスにおいてアルカリ金属が酸化膜中で可動イオンとなり、しきい値の不安定化等の問題を引き起こす。
また、可動イオンが含まれる結晶を取り扱う場合には、クロスコンタミネーション等の問題から、既存のSiプロセスライン等を使用することができず、専用のプロセスラインを構築する必要がある。そのため、作製コストが大幅に増大する。
同様に、NiやCrなどの重金属についても、Siデバイス等では深い準位を形成するため、リーク電流を増大させる懸念がある。そのため、重金属が含まれる結晶と含まれない結晶とを取り扱う場合には、同一のラインを使用することができない。
従って、可動イオン(Na不純物、K不純物)や重金属(Ni不純物、Cr不純物)は、それぞれ、検出限界以下である1×10
14[cm
-3]以下が好ましい。
【0033】
後述する本発明に係る結晶成長装置の内、ハロゲンフリーVPE法を用いた装置は、NaやKなどの可動イオン、あるいは、NiやCrなどの重金属を実質的に含まないGaN結晶を製造することができる。そのため、このような結晶を用いたデバイスプロセスは、クロスコンタミネーションの問題が少なく、既存のプロセスラインを使用でき、コスト面や品質安定性において強みを持つ。
【0034】
[1.5. 用途]
本発明に係るGaN結晶は、例えば、ショットキーバリア(SB)ダイオード、PNダイオード、高電子移動度トランジスタ(HEMT)構造、金属−酸化物−半導体(MOS)構造、接合形電界効果トランジスタ(JFET)構造などの作製、及びこれらを用いたパワーデバイスの作製に用いることができる。本発明に係るGaN結晶はナノボイドや表面ピットが相対的に少ないため、これを用いると、耐圧が高く、かつオン抵抗の低いパワーデバイス、すなわち、理想的なGaN結晶の耐圧・オン抵抗のトレードオフ関係に近い特性を示すパワーデバイスを作製することができる。
【0035】
また、例えば、本発明に係るGaN結晶は、非輻射再結合を発生させる欠陥が少ないため、これを用いた光デバイスは高効率を示す。
さらに、後述する方法を用いると、高品質GaN結晶を容易に長尺成長させることができる。そのため、極性面であるc面成長のGaN基板だけでなく、m面({1−100}面)成長やa面({11−20}面)成長させたGaN基板、あるいは、長尺c面成長結晶から切り出したm面基板やa面基板を容易に作製できる。表面がm面やa面などの無極性面からなるGaNウェハを利用することで、高効率な光デバイス等を作製できる。
【0036】
[2. 結晶成長装置]
本発明に係る結晶成長装置は、
本発明に係る窒化ガリウム結晶を製造するための結晶成長装置であって、
結晶成長空間に曝される部材の内、温度が500℃以上となる部分に用いられる部材(高温用部材)として、少なくとも表層部分のB濃度が1ppm未満である部材を用いたことを特徴とする。
【0037】
[2.1. 高温用部材]
[2.1.1. 定義]
「高温用部材」とは、結晶成長空間に曝される部材の内、温度が500℃以上となる部分に用いられる部材をいう。
高温用部材であって、特にB不純物の混入源となりやすいものとしては、例えば、
(a)GaN結晶を成長させるための基板を保持するホルダー、
(b)Ga源(溶融Ga)を保持するためのルツボ、
(c)Ga源を所定の温度に加熱するためのヒーター、
(d)Ga源や基板を所定の温度に維持するための断熱材、
(e)キャリアガス、シースガス、反応ガスを装置内の適切な位置で混合させるためのガス穴付き容器などの装置部材、
(f)装置部材を固定する際に用いるネジ部材、
などがある。
【0038】
[2.1.2. 材料]
上述したように、表面ピット及びその直下に形成されるナノボイドは、成長面上へのB不純物の偏析により発生する。この点は、本願発明者らによって初めて見出された知見であり、ナノボイドを低減するためにB不純物源となる高温用部材に着目した例は、従来にはない。
ナノボイドの発生を抑制するためには、高温用部材のB濃度は、少ないほど良い。ナノボイド密度が1×10
5[cm
-2]未満であるGaN結晶を得るためには、高温用部材は、少なくとも表層部分のB濃度が1ppm未満であるものが好ましい。
ここで、「表層部分」とは、表面から深さ50μmまでの領域をいう。
【0039】
通常、GaN結晶の成長は、アンモニアガスなどを用いた高温還元雰囲気下で行われる。しかし、高温還元雰囲気下において耐久性のある材料は限られており、高温用部材には、通常、pBNコート黒鉛部材、黒鉛部材、黒鉛断熱材などが頻繁に用いられていた。これらの内、pBNコート黒鉛部材は、高温還元雰囲気下における耐久性は高いが、結晶へのB不純物の主要な混入源となる。そのため、ナノボイド密度を低減するためには、高温用部材として、pBNコート黒鉛部材などのpBNコート部材を用いないのが好ましい。
【0040】
本願において好適な高温用部材としては、例えば、
(a)TaCコート黒鉛部材などのTaCコート部材、
(b)SiCコート黒鉛部材などのSiCコート部材、
(c)TaCからなるバルク部材、
(d)SiCからなるバルク部材、
などがある。
表層部分を構成するTaCやSiCは、通常、B濃度が1ppm未満であるため、B不純物の混入源となることはない。
【0041】
また、ある種の黒鉛部材や黒鉛断熱材は、微量のBが含まれている場合がある。この微量のBもまた、結晶へのB不純物の混入源となる。しかし、微量のBを含む黒鉛部材であっても、これを非酸化雰囲気下において2000℃以上で加熱処理すると、B濃度を1ppm未満にすることができる(高純度処理)。そのため、高温用部材は、コート無しの黒鉛部材であって、B濃度が1ppm未満となるように高純度処理されたものでも良い。
これらの中でも、TaCコート部材は、高温還元雰囲気下における耐久性が高く、結晶へのB不純物の混入が少なく、しかも、任意の形状の部材を製造するのが容易であるので、高温用部材として特に好適である。
【0042】
[2.2. 成長手段]
本発明に係る結晶成長装置において、GaN結晶を成長させるための手段は特に限定されない。成長手段としては、例えば、
(a)ハロゲンを用いない気相成長法(ハロゲンフリーVPE)法を用いた手段、
(b)有機金属化学気相成長(MOCVD)法を用いた手段、
(c)ハイドライド気相成長法(HVPE)法を用いた手段、
(d)分子線エピタキシー(MBE)法を用いた手段、
(e)液相成長法であるNaフラックス法を用いた手段、
(f)高圧法を用いた手段、
(g)アモノサーマル法を用いた手段
などがある。
【0043】
ここで、「ハロゲンフリーVPE法」とは、基板表面にGa蒸気とNH
3ガスとを供給してこれらを反応させ、基板表面にGaN結晶を成長させる方法をいう。
「MOCVD法」とは、基板表面にトリメチルガリウムなどの有機金属化合物とNH
3ガスとを供給してこれらを反応させ、基板表面にGaN結晶を成長させる方法をいう。
「HVPE法」とは、基板表面に塩化ガリウムとNH
3ガスとを供給してこれらを反応させ、基板表面にGaN結晶を成長させる方法をいう。
【0044】
「MBE法」とは、超高真空下において原料のGaを蒸発させて、窒素プラズマ等と反応させ、GaN結晶を成長させる方法をいう。
「Naフラックス法」とは、800℃程度に加熱した金属Gaと金属Naの混合融液と数MPaに加圧された窒素とを接触させることで、混合融液に窒素を溶解させ、液相中でGaN結晶を成長させる方法をいう。
「高圧法」とは、数GPaで1500℃以上といった高温高圧の状態でGaに窒素を溶解させて、それを徐々に冷却してGaN結晶を成長させる方法をいうをいう。
「アモノサーマル法」とは、超臨界もしくは亜臨界(温度500℃程度、圧力0.1GPa程度)のNH
3にGaN原料を溶解させて、再結晶化させることによりGaN結晶を成長させる方法をいう。
【0045】
これらの中でも、ハロゲンフリーVPE法、MOCVD法、又はHVPE法を用いた手段は、高圧条件を必要としないため、装置が比較的安価に作製できる。また、気相成長法であるため、上記(MBE法以外)の液相成長法に比べて、成長速度が速い。例えば、ハロゲンフリーVPE法やHVPE法では、数百μm/h以上の成長レートでのGaN結晶成長が可能である。さらに、これらは、大口径の結晶成長にも適している。そのため、これらは、成長手段として好適である。
さらに、ハロゲンフリーVPE法を用いた手段は、他の方法を用いた手段に比べて高速成長や長時間成長が可能であり、かつ、可動イオンや重金属を実質的に含まない結晶を得ることができるため、成長手段として特に好適である。
【0046】
[2.3. 結晶成長装置の具体例]
図1に、本発明に係る結晶成長装置の断面模式図を示す。
図1に示す結晶成長装置は、ハロゲンフリーVPE法を用いて窒化ガリウム結晶を成長させる成長手段を備えた装置(以下、「ハロゲンフリーVPE装置」という)である。
図1において、ハロゲンフリーVPE装置10は、結晶成長部20と、Ga蒸気発生部30と、反応ガス供給手段50とを備えている。
【0047】
[2.3.1. 結晶成長部]
結晶成長部20は、第1反応管22と、基板24を保持するためのホルダー26とを備えている。基板24は、表面に窒化ガリウム結晶を成長させるための種結晶であり、基板24の裏面(成長面とは反対側の面)には、ホルダー26が接合されている。ホルダー26は、第1反応管22内のほぼ中央に設置されている。
第1反応管22の下部には、開口部が設けられており、Ga蒸気発生部30及び反応ガス供給手段50から供給される原料ガスを基板24の表面に供給できるようになっている。さらに、基板24は、加熱サセプタ台座(図示せず)上に固定されており、加熱サセプタにより所定の温度に加熱できるようになっている。
【0048】
第1反応管22には、耐熱性が高く、かつ、原料ガスとの反応性が低い材料(例えば、石英など)が用いられている。
基板24には、通常、サファイア基板が用いられている。基板24は、結晶成長の前に、不純物等を取り除くために洗浄を行うのが好ましい。洗浄方法としては、例えば、キャロス洗浄、RCA洗浄、有機洗浄などがある。
ホルダー26は、B不純物の混入源となり得るので、ホルダー26には、TaCコート黒鉛部材が用いられている。
【0049】
[2.3.2. Ga蒸気発生部]
Ga蒸気発生部30は、基板24に向かって、Ga蒸気を供給するためのものであり、第2反応管32と、3重ルツボ34とを備えている。3重ルツボ34は、第2反応管32のほぼ中央に設置されている。3重ルツボ34は、第2反応管32の外側に配置されたヒータ(図示せず)により、所定の温度まで加熱できるようになっている。
第2反応管32の上部には、開口部が設けられており、3重ルツボ34から供給されるGa蒸気を第1反応管22に供給できるようになっている。
【0050】
3重ルツボ34は、その内部に独立してキャリアガス及びシースガスを流すことができるようになっている。3重ルツボ34の最内部にあるルツボ34aは、溶融Gaを保持するためのものである。ルツボ34aの形状や大きさは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。
【0051】
ルツボ34a内には、エバポレータ36が設置されている。エバポレータ36は、その一部が溶融Gaと接触することが可能となるように設置されていればよい。例えば、エバポレータ36は、ルツボ34aの底面に固定されていても良く、あるいは、単に溶融Gaの表面に浮いている状態でも良い。
エバポレータ36は、ルツボ34a内にある溶融GaからのGa蒸気の発生を促進させるためのものである。エバポレータ36の一部を溶融Gaに接触させると、溶融Gaがエバポレータ36の表面を這い上がり、エバポレータ36の表面が溶融Gaで濡れる。エバポレータ36の表面が溶融Gaで濡れると、溶融Gaの見かけの表面積が増大する。その結果、エバポレータ36を用いない場合に比べて、Ga蒸気の供給速度が増大する。具体的には、エバポレータ36を用いることによって、Ga蒸気の蒸発量を1桁以上向上させることができる。
【0052】
最内部にあるルツボ34aと中間のルツボ(図示せず)との間には、キャリアガスを流すための流路(図示せず)が形成されており、流路は、外部のキャリアガス供給源(図示せず)に接続されている(キャリアガス供給手段38)。キャリアガス供給手段38は、ルツボ34a内にキャリアガスを流すことによって、ルツボ34aから基板24へのGa蒸気の供給を促進させるためのものである。キャリアガスは、特に限定されないが、通常、N
2ガスが用いられる。
【0053】
中間のルツボ(図示せず)と最外部のルツボ(図示せず)との間には、シースガスを流すための流路(図示せず)が形成されており、流路は、外部のシースガス供給源(図示せず)に接続されている(シースガス供給手段40)。シースガス供給手段40は、基板24に向かって供給されるキャリアガスと反応ガスとの間にシースガスを流すことによって、ルツボ34a内への反応ガスの混入を抑制するためのものである。シースガスは、特に限定されないが、通常、N
2ガスが用いられる。
【0054】
第2反応管32には、耐熱性が高く、かつ、原料ガスとの反応性が低い材料(例えば、石英など)が用いられている。3重ルツボ34は、B不純物の混入源となり得るので、3重ルツボ34には、TaCコート黒鉛部材が用いられている。但し、溶融Gaを保持するルツボ34aについては、B不純物が少ないだけでなく、Gaの這い上がりが少ない材料(例えば、黒鉛)からなる部材を用いるのが好ましい。
エバポレータ36には、その表面を溶融Gaが這い上がることが可能な材料を用いる。溶融Gaの這い上がり高さを高くするためには、エバポレータ36の材料は、相対密度が40%以上99%以下であり、平均細孔径が10nm以上200μm以下であり、かつ、溶融Gaの接触角が90°未満である材料が好ましい。このような条件を満たす材料としては、例えば、TaC、SiC、Al
2O
3などがある。特に、TaCは、他の材料に比べて溶融Gaの這い上がり高さが高いので、エバポレータ36の材料として好適である。
【0055】
[2.3.3. 反応ガス供給手段]
第2反応管32の外側には、反応ガスを流すための流路(図示せず)が形成されており、流路は、外部の反応ガス供給源(図示せず)に接続されている(反応ガス供給手段50)。反応ガス供給手段50は、基板24に向かって、Ga蒸気と反応させるための反応ガスを供給するためのものである。反応ガスは、第2反応管32の外側を通って、第1反応管22の下部に設けられた開口部に供給されるようになっている。反応ガスは、特に限定されないが、通常、N
2ガスで希釈されたNH
3ガスが用いられる。
【0056】
[3. 窒化ガリウム結晶の製造方法]
本発明に係る窒化ガリウム結晶の製造方法は、本発明に係る結晶成長装置を用いて、窒化ガリウム結晶を製造することを特徴とする。以下に、ハロゲンフリーVPE装置10を用いた窒化ガリウム結晶の製造方法について説明する。
【0057】
まず、ホルダー26の先端に基板24を接合し、基板24を加熱サセプタ台座上に固定する。次いで、加熱サセプタを用いて、基板24を所定の温度まで加熱する。
次に、エバポレータ36が設置されたルツボ34a内に、所定量の金属Gaを入れ、金属Gaを溶融させる。次いで、キャリアガス供給手段38を用いてルツボ34a内にキャリアガスを流し、かつ、シースガス供給手段40を用いてルツボ34aの開口部近傍にシースガスを流す。さらに、これと同時に、反応ガス供給手段50を用いて、結晶成長部20に反応ガスを供給する。これにより、ルツボ34aへの反応ガスの混入をシースガスで防ぎながら、Ga蒸気を含むキャリアガスと反応ガスとを結晶成長部20に供給することができる。
結晶成長部20にGa蒸気と反応ガスが供給されると、基板24の表面近傍においてこれらが反応し、基板24の表面にGaNが析出する。
【0058】
ルツボ34aの温度は高温であるため、Ga蒸気発生中にルツボ34a内に反応ガスが混入すると、ルツボ34a内においてGaNの生成と分解が起こる。その結果、液体Gaの突沸などが発生し、結晶成長部にGa蒸気のみならず、液滴Gaが供給される。そのため、このような液滴Gaが原因となり、結晶成長部に多結晶のGaNが成長してしまい、安定な結晶成長が不可能となるだけでなく、成長結晶が多結晶化し、結晶品質が大きく低下するという問題がある。
これに対し、
図1に示すハロゲンフリーVPE装置10は、シースガスを流すことが可能な3重ルツボ34を用いているので、ルツボ34a内への反応ガスの混入を防ぐことができる。そのため、ルツボ34a内でGaNを生成させることなく、Ga蒸気を安定して発生させることができる。
【0059】
また、
図1に示すハロゲンフリーVPE装置10は、エバポレータ36を用いているため、Ga蒸発量を増大させ、成長速度を高速化できる。キャリアガスとしてN
2ガスを用いた場合、成長速度は、700μm/h以上となることを確認している。さらに、ハロゲンフリーVPE装置10を用いると、このような高速成長を100h以上継続して行うことができる。
【0060】
参考文献1には、本発明に係る結晶成長装置に類似する構造であって、Ga供給部と反応部を二つに分離した構造が開示されている。しかしながら、本発明に係るハロゲンフリーVPE装置10の方が単純な構造であり、自由度も大きい。
また、ハロゲンフリーVPE装置10を用いることで、HClガスを用いずにGaの供給量を増大させることができる。そのため、従来からHVPE法で問題となっているNH
4Clによる配管の詰まりの問題は発生しない(参考文献2、3)。さらに、塩素系ガスによる部材の腐食等も抑えられるため、低コストで大口径の結晶成長を長時間行うことができる。
[参考文献1]D. Gogova et al., Phys. Status Solidi C8, 2120(2011)
[参考文献2]K. Fujito et al., J. Crist. Growth 311, 3011(2009)
[参考文献3]B. Schineller et al., CS MANTEC Conference (2007)
【0061】
[4. 作用]
従来、GaN結晶内には、ナノボイドが存在することが知られていたが、その形成メカニズムについては完全に解明されていなかった。特に、B不純物とGaN結晶の欠陥との関連に関する知見がなかったため、結晶成長用の部材からB不純物が成長結晶中に混入していた。その結果、成長結晶中における一定密度のナノボイドや表面ピットの生成、あるいは、成長面における新たな核形成の促進などが起こり、結晶の高品質化の妨げとなっていた。
【0062】
ナノボイドのような大きな結晶欠陥が結晶内に存在すると、例えばパワーデバイスの作製時には耐圧の低下を引き起こす。また、光デバイス作製時には、光学特性の劣化を引き起こす。表面ピットに関しても、ウェハ化の際の歩留まり低下や、電界集中による耐圧の低下を引き起こす。そのため、高性能なデバイスを作製するためには、GaN結晶中のナノボイド密度や表面ピット密度の低減は必要不可欠である。
【0063】
非特許文献1では、ナノボイドが10
5〜10
7cm
-2程度の密度で存在していると報告されているが、正確なナノボイド密度の求め方の記述はない。ナノボイド密度は、おそらく断面TEM像等で観察されるナノボイドの密度や、ロッキングカーブ測定で得られる半値幅で判断されていると考えられる。しかしながら、ナノボイド密度が低い場合、断面TEM像では局所的な情報しか得られないため、ナノボイド密度を正確に定量できない。また、ナノボイドは転位とは関連しないため、XRDのロッキングカーブ測定結果から密度を求めることはできない。そのため、ナノボイド密度は、非特許文献1で述べられている値に比べて大きい可能性がある。
【0064】
B不純物は、GaN結晶の表面において偏析を起こし、表面エネルギーを変化させる。その結果、通常の結晶成長に用いられるc面ではなく、その他の結晶面を安定化させ、成長中に高指数面が現れやすくなる。また、界面エネルギーが変化することにより、成長面において新たな核形成が促進される。これらの点は、本願発明者らの実験により明らかになったことである。
これらの要因となるB不純物は、pBNコート黒鉛からなる部材やヒータ、あるいは、黒鉛断熱材などから放出される。しかし、B不純物が結晶品質へ与える影響が不明確であったため、これまでB不純物が着目されることはなく、対策も取られていなかった。
【0065】
例えば、結晶面の不安定化が発生すると、c面ではなく高指数面が安定化するため、バルク結晶作製時に結晶表面に多数のピットが形成される。このように高指数面の安定化により、連続したバルク結晶成長が困難になるのみならず、表面荒れが発生し、種結晶を採取する時の歩留まり低下や結晶性低下などの問題を引き起こす。そのため、これらの現象を防ぐ必要がある。
また、例えば、新規の核が多数形成されると、新たな結晶核の僅かな方位ズレや核融合時に転位が発生するため、成長結晶の結晶性は低下する。結晶成長中に多数の核形成が発生すると、高品質な結晶成長が困難となるため、これらを防ぐ必要がある。
さらに、結晶中のナノボイドは、点欠陥や線欠陥と比較してもスケールの大きな結晶欠陥であり、結晶の光学特性の悪化やデバイス作製時の耐圧低下を引き起こす。そのため、ナノボイド密度は、できる限りゼロに近づける必要がある。
【0066】
これに対し、GaN結晶成長において、B不純物を低減した環境、又は、B不純物の存在しない環境で成長を行うと、通常用いる結晶成長面(c面、−c面)の安定化や、余分な核形成の抑制が可能となる。また、B不純物が偏析することで形成される結晶中のナノボイド密度や結晶表面の表面ピット密度の低減が可能となる。その結果、これまでに作製されたGaN結晶に比べて非常に高品質な(ナノボイド密度が1×10
5[cm
-2]未満の)結晶の作製が可能となる。
【0067】
本願発明者らの実験・研究により、GaN結晶成長において、
(a)B不純物が結晶表面の表面エネルギーを変化させること、及び、
(b)これが特定の結晶面(c面等)の不安定化、新規核形成の促進、成長結晶中のナノボイドの形成促進、成長結晶表面のピットの形成促進などに影響を与えること、
が明らかとなった。
そのため、B不純物を低減した環境、又は、B不純物の存在しない環境でGaN結晶の成長を行うことにより、上記のような現象の発生を抑制することが可能となり、高品質なGaN結晶を簡易に成長させることができる。
【実施例】
【0068】
(実施例1、比較例1)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例1]
図1に示すハロゲンフリーVPE装置10を用いて、厚さ50μmのGaN結晶を成長させた。基板24には、サファイア基板を用いた。サファイア基板は、表面の不純物等を取り除くため、予めキャロス洗浄を行った。また、ルツボ34aに金属Ga及びTaC製エバポレータ36を配置した。
【0069】
基板24を加熱サセプタ台座上に固定し、装置内で1100℃まで昇温した。ルツボ34aの温度は1250℃、第1反応管22及び第2反応管32内の圧力は1〜100kPaとした。反応ガス供給手段50から供給されるNH
3流量は1〜10slmとし、NH
3希釈用のN
2流量は、1〜20slmとした。また、キャリア(N
2)ガス流量は2slmとし、シース(N
2)ガス流量は5slmとした。
さらに、ホルダー26には、TaCコート黒鉛部材を用いた。3重ルツボ34の内、溶融Gaを保持するルツボ34aには高純度処理された黒鉛を用い、それ以外の部分には、TaCコート黒鉛を用いた。さらに、断熱材には、高純度処理によってB不純物濃度を低減させた黒鉛断熱材を用いた。
【0070】
[1.2. 比較例1]
ルツボ34aとして、pBNコート黒鉛ルツボを用いた以外は、実施例1と同様にして、厚さ50μmのGaN結晶を成長させた。
【0071】
[2. 結果]
[2.1. 成長速度]
ルツボ温度:1250℃、サセプタ温度:1100℃、反応管内の圧力:4kPa、NH
3流量:3slm、NH
3希釈用N
2流量:2slm、キャリアガス流量:2slm、シースガス流量:5slmである場合、成長速度は約300μm/hであった。
【0072】
[2.2. 成長結晶のモルフォロジ]
ルツボ34aの材料が異なる以外は同じ条件であるにもかかわらず、ルツボ34aの材料の変更により結晶のモルフォロジ等が大きく異なっていた。pBNコート黒鉛ルツボを用いた結晶では、表面に多量の六角形のヒロックが形成されていた。これは、高指数面の安定化により、c面以外の面で結晶表面が形成されていること、及び、新規核形成が頻繁に起きていること、が要因と考えられる。
一方、高純度処理された黒鉛ルツボを用いた結晶では、c面成長が支配的であり、新たな核形成部は確認できなかった。このようにB不純物を含まないTaCコート黒鉛ルツボを用いることで、安定的に長時間、c面成長が実施できることが明らかとなった。
【0073】
[2.3. 表面ピット密度及びナノボイド密度]
図2に、成長結晶内の表面ピット密度とナノボイド密度との関係を示す。
図2より明らかなように、ナノボイド密度と表面ピット密度には相関があり、ほぼ同等の値を示した。これは、結晶中のナノボイドが成長表面のピットから形成されていることに起因すると考えられる。よって、AFMやSEMなどで表面ピット密度を測定すれば、結晶内のナノボイド密度を把握することができる。
例えば、2.9×10
4[cm
-2]の表面ピット密度は、5×7μm角の99画像中に1個の表面ピットが確認されることに相当する。特に、デバイス応用において表面ピットが存在すると、電界集中が起きて逆方向リーク電流に大きく影響を与えることが分かっている。
【0074】
[2.4. B不純物濃度]
図3に、成長結晶内のB不純物濃度とナノボイド密度との関係を示す。
図3より、結晶中のナノボイド密度がB不純物濃度に依存していることが分かる。ナノボイド密度は低いほど良いが、好ましくは、1×10
5[cm
-2]未満である。そのためには、B不純物濃度を、3×10
16[cm
-3]以下、好ましくは1×10
16[cm
-3]以下にすれば良いことがわかる。さらに、B不純物濃度を1×10
14[cm
-3]程度まで低減できれば、ナノボイドや表面ピットの存在しない結晶を作製できると考えられる。
【0075】
図2及び
図3で述べたB不純物濃度とナノボイドや表面ピットの形成要因についてさらに明らかにするために、結晶のナノボイド部について3次元アトムプローブ測定を行った。その結果、ナノボイドの側壁と考えられる箇所に、B不純物の偏析が確認された。以上の結果より、B不純物がナノボイド形成に直接関連していることが明確となった。
【0076】
[2.5. リーク電流値]
図4に、ショットキーバリアダイオードを仮定して、1200Vの逆方向電圧(V
R)をかけた際のリーク電流値(I
R)が表面ピット密度によってどのように変化するかを示した。ここで、仕事関数差φB=1.2eV、表面ピット深さは断面TEM観察で観察されたピット深さである15nmとし、ピット角度は84°とした。通常使用できるデバイスの逆方向リーク電流の許容レベルは、Siデバイスを基準とすると、1×10
-5[A/cm
-2]である。
図4より、許容できる表面ピット密度は、1×10
5[cm
-2]未満であることが分かる。
【0077】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。