(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電源と負荷とを接続する電線の中途に設けられたスイッチ素子、前記電線に流れる電流の電流値を検出する電流検出部、該電流検出部が検出した電流値に基づいて前記電線の電線温度を推定する温度推定部、及び該温度推定部により推定した電線温度に基づき、前記スイッチ素子のオン又はオフを制御する制御部を備えた給電制御装置において、
前記制御部は、
前記電線の温度演算における放熱時定数を小さな値に変更して前記温度演算を行うことにより、前記スイッチ素子の発煙特性が示す温度及び前記電線の発煙特性が示す温度の双方よりも低い閾値温度を設定し、
前記温度推定部により推定された電線温度が前記閾値温度以上である場合、前記スイッチ素子をオフに制御する
ことを特徴とする給電制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
図1は本実施の形態に係る給電制御装置の構成を説明するブロック図である。本実施の形態に係る給電制御装置1は、電源2と負荷3とを接続する電線4の中途に設けられたスイッチ素子11、電線4に流れる電流の電流値を検出する電流検出回路12、電流検出回路12により検出された電流値に基づき電線温度を推定し、スイッチ素子をオン又はオフするための制御信号を出力するマイクロコンピュータ14(以下、マイコン14という)、及びマイコン14からの制御信号に従ってスイッチ素子をオン又はオフする制御回路15を備える。
【0014】
本実施の形態に係る給電制御装置1は、例えば車両に搭載される。電源2は、鉛蓄電池、リチウムイオン電池等であり、スイッチ素子11がオンである場合、ワイヤーハーネスなどの電線4を介して、ヘッドライト、ワイパーモータ等の負荷3へ電力を供給する。本実施の形態では、電源2から負荷3へ電力を供給する際の電線温度をマイコン14にて推定し、推定した電線温度が閾値温度(電線の許容温度)以上の場合にスイッチ素子11をオフすることにより、負荷3への給電を遮断する。
【0015】
スイッチ素子11は、例えばNチャネル型のFET(Field Effect Transistor)である。
図1に示した例では、FETのドレインが電線4を介して電源2に接続され、ソースが電線4を介して負荷3に接続されている。また、FETのゲートは制御回路15に接続されている。スイッチ素子11は、電源2と負荷3とを接続する電線4の中途に設けられているので、スイッチ素子11がオンである場合、電源2から負荷3への給電が可能となり、スイッチ素子11がオフである場合、電源2から負荷3への給電が遮断される。
【0016】
電流検出回路12は、電線4を流れる電流の電流値を検出するための回路であり、電流値を示すアナログ信号をマイコンへ出力する。電流検出回路12は、マイコン14に接続されると共に、抵抗13を介して固定電位に接続されており、電線4に流れる電流の所定数分の1(例えば4000分の1)の電流を抵抗13へ出力する。このとき、マイコン14に入力される電圧のアナログ値は、抵抗13を流れる電流の値と抵抗13の抵抗値との積で表される。ここで、抵抗値は定数であるため、マイコン14に入力される電圧の値は、抵抗13を介して流れる電流の値に比例する。また、電線4を流れる電流の値は、電流検出回路12が出力する電流の値を所定数倍した電流値であるので、マイコン14に入力される電圧の値を抵抗13の抵抗値で除算して、更に所定数倍した値が電線4を流れる電流の電流値となる。
【0017】
マイコン14は、制御部141、記憶部142、入力部143、及び出力部144を備える。制御部141は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)などを備える。制御部141内のCPUは、ROMに予め格納された制御プログラムを実行することにより、電線4に流れる電流の電流値に基づき電線温度を推定する機能、推定した電線温度を温度閾値と比較する機能、比較結果に基づきスイッチ素子11のオン又はオフの要否を判定する機能等を実現する。また、制御部141は、計測開始指示を与えてから計測終了指示を与えるまでの経過時間を計測するタイマ、数をカウントするカウンタ等(不図示)を備えていてもよい。
【0018】
記憶部142は、例えば、EEPROM(Electronically Erasable Programmable Read Only Memory)などのメモリにより構成されており、電線4の電流値から電線温度を算出するために必要なデータ、スイッチ素子11のオン及びオフを決定するために必要なデータ等を記憶する。記憶部142に記憶されている内容の読み出し及び書き込みは、制御部141によって行われる。
【0019】
入力部143は、アナログ信号が入力される入力端子、及び入力端子を通じて入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路(A : Analog, D : Digital)を備える。本実施の形態では、入力部143は電流検出回路12に接続されている。入力部143には、電流検出回路12を通じて、電線4を流れる電流の電流値を示すアナログ信号が入力される。入力部143は、電流検出回路12を通じて入力されるアナログ信号をA/D変換回路によりデジタル信号に変換し、変換後のデジタル信号を制御部141へ出力する。
【0020】
出力部144は、制御部141から出力される制御信号を外部の制御回路15へ出力するためのインタフェースを備える。本実施の形態では、制御部141は、電源2から負荷3への給電を指示する際、スイッチ素子11をオンするための制御信号を出力部144を通じて制御回路15へ出力する。また、制御部141は、電源2から負荷3への給電を遮断する際、スイッチ素子11をオフするための制御信号を出力部144を通じて制御回路15へ出力する。
【0021】
制御回路15は、マイコン14から出力される給電指示に係る制御信号又は遮断指示に係る制御信号に応じて、スイッチ素子11をオン又はオフするための回路である。制御回路15は、例えば、電流検出回路12からの入力電圧と参照電圧とを比較し、入力電圧が参照電圧未満であればハイレベルの信号、入力電圧が参照電圧以上であればローレベルの信号を出力するコンパレータ、及びマイコン14からの制御信号とコンパレータの出力信号と間の論理積をとるAND回路を備える。この場合、制御回路15は、電流検出回路12からの入力電圧が参照電圧未満であり、かつ、マイコン14から給電指示に係る制御信号(例えばハイレベルの信号)が入力された場合、ハイレベルの信号を出力してスイッチ素子11をオンし、それ以外の場合、ローレベルの信号を出力してスイッチ素子11をオフにする。
【0022】
なお、本実施の形態では、マイコン14は、電線4に流れる電流の電流値に基づいて電線温度を推定し、推定した電線温度に基づいてスイッチ素子11をオン又はオフするための制御信号を出力するものとして説明を行うが、負荷3の作動を指示する作動信号、及び負荷3の作動停止を指示する停止信号を外部から受付けた場合、これらの信号に基づいて、スイッチ素子11をオン又はオフさせる制御信号を出力する機能を有していてもよい。
【0023】
また、マイコン14は、電流検出回路12を通じて抵抗13に流れる電流が閾値電流以上であるか否かを判断し、閾値電流以上であると判断した場合、すなわち電線に許容範囲を超える電流が流れていると判断できる場合、即時的にスイッチ素子11をオフにする制御信号を出力する機能を有していてもよい。この機能により、電線4に過電流が流れることを防止することができる。
【0024】
以下、電線温度の推定方法について説明する。
電線4の電線温度は、電源2から負荷3への給電時に電線4の発熱に伴って上昇し、電源2から負荷3への給電の遮断時に電線4の放熱に伴って低下する。
【0025】
電線4の電線温度は、例えば、基準温度に対する温度差ΔTを以下の式により演算することにより推定することができる。
【0026】
ΔT=ΔTp×exp(−Δt/τ)
+I
2 ×R×r×{1−exp(−Δt/τ)}…(式1)
【0027】
ここで、
ΔT:電線4の基準温度に対する温度差(℃)
ΔTp:先行温度差(℃)
I:電線4に流れる電流の電流値(A)
R:電線4の熱抵抗(℃/W)
r:電線4の導体抵抗(Ω)
Δt:サンプリング時間(sec)
τ:電線4の放熱時定数(sec)
である。
【0028】
上述した式1の右辺第1項は、電源2から負荷3への給電を停止した場合(すなわち電線4に流れる電流の電流値Iが0の場合)における電線4の放熱に伴う温度低下を示しており、右辺第2項は、電源2から負荷3への給電を行っている場合の電線4の発熱に伴う温度上昇を示している。
【0029】
なお、基準温度としては、給電制御装置1が設置されている場所における環境温度(設定値)を用いてもよい。また、給電制御装置1が設置されている場所の温度をサーミスタなどの温度センサ(不図示)により計測して、マイコン14に入力し、現実の環境温度を基準温度として用いてもよい。
【0030】
給電制御装置1のマイコン14が備える記憶部142には、上述した演算式、及び、電線4の導体抵抗、熱抵抗、放熱時定数のデータ等が予め記憶されているものとする。マイコン14の制御部141は、電流検出回路12から入力される信号に基づき得られる電線4の電流値Iを所定の時間間隔(サンプリング時間Δt)で取得し、上述した式1を用いることにより、電線4の電線温度(=基準温度+ΔT)を推定することができる。
【0031】
制御部141は、電線4に流れる電流の電流値Iに基づいて推定した電線温度を、設定した許容温度と比較することにより、スイッチ素子11のオン又はオフの要否を判定する。
【0032】
以下、本実施の形態において設定する許容温度について説明する。
図2は電線4の発煙特性を示すグラフである。
図2に示すグラフの横軸は通電時間(sec)、縦軸は電線4に流れる電流の電流値(A)を示している。
図2において実線で示す曲線は、電線4に流れる電流の電流値と、電線4が発煙するまでの通電時間との関係(電線4の発煙特性)を表している。例えば、電線4に電流値I
1 の電流が流れている場合、t
11の通電時間で電線4が発煙に至ることを表している。
【0033】
図2に示す発煙特性に依れば、電流値I
1 より大きい電流が電線4に流れている場合、t
11より短い通電時間で電線4が発煙に至り、電流値I
1 より小さい電流が電線4に流れている場合、t
11 より長い通電時間で電線4が発煙に至ることが分かる。また、
図2に示す発煙特性は、電線4に流れる電流の電流値がある程度小さい場合、通電時間に依らず発煙が起こらないことを示している。
【0034】
図3は従来の許容温度の設定手法を説明する説明図である。電線4に電流値I
1 の電流が流れている場合、t
11より短いt
10の通電時間では電線4は発煙しないため、対応する温度を電線4の許容温度として設定することができる。電流値I
1 より大きい(又は小さい)電流値を持つ電流が電線4に流れた場合の許容温度についても同様であり、例えば
図3の破線で示す曲線に対応した電線4の温度を許容温度として設定することができる。
【0035】
このように、従来では、電線4の発煙特性のみを考慮して電線4の許容温度(閾値)を設定していた。すなわち、従来の給電制御装置では、電線に流れる電流の電流値に基づいて推定した電線温度と、電線の発煙特性のみから定めた許容温度(閾値)とを比較し、推定した電線温度が閾値以上の場合に給電を停止し、閾値未満の場合には給電を継続していた。
【0036】
しかしながら、従来では、スイッチ素子の発煙特性については何ら考慮されていない。スイッチ素子と電線とでは熱特性(発熱特性及び放熱特性)が異なるため、電線の発煙特性のみに基づいて定められた許容温度によって、スイッチ素子のオン/オフを切り替たとしても、比較的大きな電流が流れた場合には、スイッチ素子を保護することができない可能性がある。
【0037】
図4は電線4及びスイッチ素子11の発煙特性を示すグラフである。
図4に示すグラフの横軸は通電時間(sec)、縦軸は電線4に流れる電流の電流値(A)を示している。
図4において細実線で示す曲線は、電線4に流れる電流の電流値と、電線4が発煙するまでの通電時間との関係(電線4の発煙特性)を表している。一方、
図4において太実線で示す曲線は、電線4に流れる電流の電流値と、スイッチ素子11が発煙するまでの通電時間との関係(スイッチ素子11の発煙特性)を表している。
【0038】
図4に示すグラフからは、電線4に流れる電流が比較的大きい場合(両発煙特性の交点に対応した電流値I
0 より大きい場合)、スイッチ素子11は、電線4と比べて短時間で発煙することが分かる。このため、電線4の発煙特性のみに基づいて定められた許容温度により、スイッチ素子11のオン/オフを切り替たとしても、I
0 より大きな電流が流れた場合にはスイッチ素子11が先に発煙又は発火する可能性があり、スイッチ素子11を保護することができない可能性がある。
【0039】
そこで、本実施の形態では、電線4の発煙特性及びスイッチ素子11の発煙特性の双方を考慮して、電線4の許容温度(閾値)を定める。
【0040】
図5は本実施の形態における許容温度の設定手法を説明する説明図である。電線4に電流値I
2 (I
2 >I
0 )の電流が流れている場合、電線4ではt
21の通電時間で発煙し、スイッチ素子ではt
22の通電時間で発煙するものとする。このとき、t
21及びt
22より短いt
20の通電時間では、電線4及びスイッチ素子11の双方が発煙しないため、対応する温度を電線4の許容温度として設定することができる。
【0041】
本実施の形態では、
図5の破線で示されるように、スイッチ素子11及び電線4の双方の発煙特性を満たすような発煙特性を有する仮想的な電線を想定する。具体的には、実際の給電で使用される電線4の放熱時定数τよりも小さな放熱時定数τ−Δτ(Δτは正の定数)を持つ仮想的な電線を想定し、この仮想的な電線の発煙特性を満たすように許容温度を設定する。すなわち、このようにして設定される許容温度は、電線4の温度演算における放熱時定数τを小さな値(τ−Δτ)に変更することにより推定されるスイッチ素子11の発煙温度を表している。
【0042】
放熱時定数がτ−Δτの仮想的な電線の電線温度は、例えば、基準温度からの温度差を用いて、
ΔT=ΔTp×exp(−Δt/(τ−Δτ))
+I
2 ×R×r×{1−exp(−Δt/(τ−Δτ))}…(式2)
により推定される。
【0043】
よって、電流値I
2 及び通電時間t
20を式2に代入して許容温度を設定することができる。電流値I
2 より大きい(又は小さい)電流値を持つ電流が流れた場合の許容温度についても同様であり、
図5の破線で示す曲線に対応した仮想的な電線の温度を式2を用いて求めることにより、各電流値に対する許容温度を算出することができる。
【0044】
算出した許容温度のデータは、制御部141が推定する電線4の電線温度に対する閾値として記憶部142に記憶される。制御部141は、電線4に流れる電流の電流値に基づいて推定した電線温度と、記憶部142に記憶されている許容温度とを比較し、推定した電線温度が許容温度以上の場合、給電を停止させるための制御信号を出力部144を通じて制御回路15へ出力する。また、推定した電線温度が許容温度未満の場合、制御部141は、給電を指示する制御信号を出力部144を通じて制御回路15へ出力する。
【0045】
この結果、本実施の形態に係る給電制御装置1では、電線4に流れる電流の電流値が
図5に示すI
2 (>I
0 )の場合、通電時間がt
22に達するより前のt
20の通電時間でスイッチ素子11をオフにすることができるので、スイッチ素子11の発煙又は発火を未然に防止することができる。また、電線4に流れる電流の電流値が
図5に示すI
3 (<I
0 )の場合、通電時間がt
31に達するより前のt
30の通電時間でスイッチ素子11をオフにすることができるので、電線4の発煙又は発火を未然に防止することができる。
【0046】
以下、制御部141が実行する処理の手順について説明する。
図6は制御部141が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。制御部141は、内蔵タイマを参照して、現在がサンプリング時間であるか否かを判断する(ステップS1)。サンプリング時間でない場合(S1:NO)、制御部141はサンプリング時間となるまで待機する。
【0047】
現在がサンプリング時間であると判断した場合(S1:YES)、制御部141は、入力部143を通じて入力される電流検出回路12からの出力信号に基づき、電線4を流れる電流の電流値を取得する(ステップS2)。
【0048】
次いで、制御部141は、サンプリング時間及び電線4を流れる電流の電流値を式1に代入することにより、電線温度を推定する(ステップS3)。
【0049】
制御部141は、電線4の発煙特性及びスイッチ素子11の発煙特性の双方を満たすように定められた許容温度と、ステップS3で推定した電線温度とを比較し、電線温度が許容温度以上であるか否かを判定する(ステップS4)。
【0050】
推定した電線温度が許容温度未満であると判定した場合(S4:NO)、制御部141は、スイッチ素子11をオンにする制御信号を出力部144を通じて制御回路15へ出力し、スイッチ素子11をオンに維持する(ステップS5)。スイッチ素子11をオンに維持した場合、電源2から負荷3への給電は維持される。スイッチ素子11をオンにする制御信号を出力した後、制御部141は、処理をステップS1へ戻す。
【0051】
一方、推定した電線温度が許容温度以上であると判定した場合(S4:YES)、制御部141は、電源2からの給電を遮断するために、スイッチ素子11をオフにする制御信号を出力部144を通じて制御回路15へ出力する(ステップS6)。このとき、制御回路15はスイッチ素子11をオフに切り替えるので、電源2から負荷3への給電は遮断される。スイッチ素子11をオフにする制御信号を出力した場合、制御部141は、本フローチャートによる処理を終了する。
【0052】
以上のように、本実施の形態では、電線4の発煙特性及びスイッチ素子11の発煙特性の双方を満たすように定められた許容温度と、電線4に流れる電流の電流値に基づいて推定した電線温度とを比較し、電線温度が許容温度以上の場合にスイッチ素子11をオフにして電源2から負荷3への給電を遮断するので、電線4に比較的大きな電流が流れた場合であっても、スイッチ素子11の発煙及び発火を未然に防止することができ、しかも、電線4に比較的小さな電流が長時間流れた場合であっても、電線4の発煙及び発火を未然に防止することができる。
【0053】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。