特許第6451641号(P6451641)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6451641
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20190107BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20190107BHJP
   H01G 4/32 20060101ALI20190107BHJP
【FI】
   C08J5/18CEW
   G06F3/041 400
   G06F3/041 495
   G06F3/041 600
   H01G4/32 511L
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-544900(P2015-544900)
(86)(22)【出願日】2014年10月8日
(86)【国際出願番号】JP2014077022
(87)【国際公開番号】WO2015064327
(87)【国際公開日】20150507
【審査請求日】2017年9月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-224707(P2013-224707)
(32)【優先日】2013年10月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高 明天
(72)【発明者】
【氏名】金村 崇
(72)【発明者】
【氏名】向井 恵吏
(72)【発明者】
【氏名】小谷 哲浩
【審査官】 弘實 由美子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/084579(WO,A1)
【文献】 特開2010−026938(JP,A)
【文献】 特開2011−192665(JP,A)
【文献】 特開平08−100022(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/001633(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
G06F 3/041
H01G 4/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分極化フッ化ビニリデン系重合体フィルムであって;
前記フィルムは、Fe及びCrから選択された少なくとも一種の金属を含有し、及び下記条件(1)〜(3)を満たすフッ化ビニリデン系重合体を用いて製造されるフィルム:
(1)界面活性剤の含有量が100ppm以下である;
(2)メチルセルロースの含有量が6000ppm以下である;
(3)金属の含有量と、イオンの含有量との合計が200ppm以下である。
【請求項2】
分極化フッ化ビニリデン系重合体フィルムであって;
前記フッ化ビニリデン系重合体は、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体であり、
前記フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体は、さらに、フッ化ビニリデン及びテトラフルオロエチレン以外のモノマーに由来する繰り返し単位を含んでいてもよく、前記モノマーは、フルオロモノマー並びにアクリル酸系モノマー及びメタクリル酸系モノマー以外の炭化水素系モノマーから選択される少なくとも一種であり、
下記条件(1)〜(3)を満たす前記フッ化ビニリデン系重合体を用いて製造されるフィルム:
(1)界面活性剤の含有量が100ppm以下である;
(2)メチルセルロースの含有量が6000ppm以下である;
(3)金属の含有量と、イオンの含有量との合計が200ppm以下である。
【請求項3】
圧電フィルムである
請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項4】
100℃で60分間加熱して生じるカールが、±10mm以内である
請求項1〜3のいずれかに記載のフィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のフィルムを有する、圧電パネル、フィルムコンデンサ、又はエレクトロウエッティングデバイス。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のフィルムを有する入力装置。
【請求項7】
請求項6に記載の入力装置を有する電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電フィルムや、エレクトロウエッティング用途、フィルムコンデンサ用途に用いられるフィルム又は膜として、種々の有機誘電体フィルム及び無機誘電体膜が知られている。
これらの中でも、分極化フッ化ビニリデン系重合体フィルムは、透明性を有し、かつ無機誘電体薄膜とは異なり可撓性を有するという利点を有するので、様々な用途への適用が可能である。
例えば、特許文献1及び特許文献2では、分極化フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体フィルムを用いてタッチパネルにタッチ圧を検出する機能を付与する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−26938号公報
【特許文献2】特開2011−222679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1及び2に記載の分極化フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体フィルムは、製造の際に用いられる共重合体の特性について十分に検討されていない。上述のような用途に用いられるフィルムは、製造の際に用いられる共重合体が乳化重合により重合したものである場合、共重合体中に界面活性剤や金属、イオンが含まれる。また、懸濁重合により重合したものである場合、共重合体中にメチルセルロースや金属、イオンが含まれる。
このようなフィルム中に含まれる界面活性剤、メチルセルロース、並びに、金属及びイオンは、フィルムの絶縁性を低下させるため、フィルムの耐電圧性を低下させるという問題がある。特許文献1及び2に記載の分極化フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体フィルムは、絶縁性及び耐電圧性に改善の余地があった。
従って、本発明は、高い絶縁性を示し、耐電圧性に優れたフィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、
分極化フッ化ビニリデン系重合体フィルムであって;
前記フィルムは、下記条件(1)〜(3)を満たすフッ化ビニリデン系重合体を用いて製造されるフィルム:
(1)界面活性剤の含有量が100ppm以下である;
(2)メチルセルロースの含有量が6000ppm以下である;
(3)金属の含有量と、イオンの含有量との合計が200ppm以下である、
によって、前記課題が解決出来ることを見出し、更なる検討の結果、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、次の態様を含む。
【0007】
項1.
分極化フッ化ビニリデン系重合体フィルムであって;
前記フィルムは、下記条件(1)〜(3)を満たすフッ化ビニリデン系重合体を用いて製造されるフィルム:
(1)界面活性剤の含有量が100ppm以下である;
(2)メチルセルロースの含有量が6000ppm以下である;
(3)金属の含有量と、イオンの含有量との合計が200ppm以下である。
項2.
前記分極化フッ化ビニリデン系重合体フィルムが分極化フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体フィルムである
項1に記載のフィルム。
項3.
圧電フィルムである
項1又は2に記載のフィルム。
項4.
100℃で60分間加熱して生じるカールが、±10mm以内である
項1〜3のいずれかに記載のフィルム。
項5.
項1〜4のいずれかに記載のフィルムを有する、圧電パネル、フィルムコンデンサ、又はエレクトロウエッティングデバイス。
項6.
項1〜4のいずれかに記載のフィルムを有する入力装置。
項7.
項6に記載の入力装置を有する電子機器。
【発明の効果】
【0008】
本発明のフィルムは、分極化フッ化ビニリデン系共重合体フィルムであって;
下記条件(1)〜(3)
(1)界面活性剤の含有量が100ppm以下である;
(2)メチルセルロースの含有量が6000ppm以下である;
(3)金属の含有量と、イオンの含有量との合計が200ppm以下である;
を満たすフッ化ビニリデン系重合体を用いて製造されるので、得られたフィルム中の界面活性剤、メチルセルロース、並びに、金属及びイオンの含有量が抑制されているため、高い絶縁性を示し、優れた耐電圧性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
用語の意味
本明細書中、「タッチ位置」の「検出」は、タッチ位置の決定を意味し、一方、「タッチ圧」の「検出」は、押圧の有無、速度、大きさ又はこれらの組み合わせの決定を意味する。
本明細書中、用語「タッチ」は、触れること、触れられること、押すこと、押されること、及び接触すること、を包含する。
本明細書中、用語「分極化」は、表面に電荷を付与されていることを意味する。すなわち、分極化フィルムは、エレクトレットであることができる。
本明細書中、「エーテル基」は、炭素−炭素結合中に1個以上の−O−が挿入されているアルキル基を意味する。当該「エーテル基」は、「ポリエーテル基」を包含する。当該「エーテル基」は、好ましくは、炭素数が2以上50以下のエーテル基である。
本明細書中、「ポリエーテル基」は、炭素−炭素結合中に2個以上の−O−が挿入されているアルキル基を意味する。当該「ポリエーテル基」は、好ましくは、炭素数が8以上30以下のエーテル基である。
【0010】
フィルム
本発明のフィルムは、
分極化フッ化ビニリデン系重合体フィルムであって;
前記フィルムは、下記条件(1)〜(3)を満たすフッ化ビニリデン系重合体を用いて製造される:
(1)界面活性剤の含有量が100ppm以下である;
(2)メチルセルロースの含有量が6000ppm以下である;
(3)金属の含有量と、イオンの含有量との合計が200ppm以下である。
このため、本発明のフィルムは、界面活性剤、メチルセルロース、並びに、金属及びイオンの含有量が抑制されているため、高い絶縁性を示し、優れた耐電圧性を示すことができる。
【0011】
上記(1)において、界面活性剤は、本発明のフィルムの製造の際に用いられるフッ化ビニリデン系重合体(以下、単に「重合体」ともいう。)が乳化重合により重合したものである場合に、界面活性剤が残存する共重合体を用いてフィルムを製造することによりフィルム中に含まれ得る。
上記界面活性剤の含有量は、100ppm以下である。当該界面活性剤の含有量は、50ppm以下であることが好ましい。また、界面活性剤の含有量の下限は、特に限定されないが、懸濁重合により重合体を重合する場合は通常0ppmである。
本発明のフィルム中の界面活性剤の含有量は、ダイオネクス社製DX500測定器により、ポリマーを水に懸濁させたのち超音波で10分以上処理を行い界面活性剤を抽出した水を測定して検出することができる。
【0012】
上記重合体に含まれる界面活性剤としては、当該重合体の乳化重合の際に用いる界面活性剤、及びディスパージョンの安定化のために重合後に添加する界面活性剤が挙げられる。
重合体の乳化重合の際に用いる界面活性剤としては、下記式
Rf−X
(式中、Rfは、1個以上フッ素原子で置換されている炭素数が2以上、上限は50以下、好ましくは30以下のアルキル基を示し、Xはスルホ基、カルボキシル基、又はそれらの塩を示す。)
で示される、フルオロアルキル基を有するスルホン酸、若しくはカルボン酸、又はそれらの塩;
下記式
Rf−X
(式中、Rfは、1個以上フッ素原子で置換されている炭素数が2以上、上限は50以下、好ましくは30以下のエーテル基を示し、Xはスルホ基、カルボキシル基、又はそれらの塩を示す。)
で示される、フルオロエーテル基を有するスルホン酸、カルボン酸、又はそれらの塩;
が挙げられる。
また、乳化重合の際に用いる界面活性剤としては、下記式
−X
(式中、Rは、炭素数が2以上(好ましくは8以上)、上限は50以下、好ましくは30以下のアルキル基を示し、Xはスルホ基、カルボキシル基、又はそれらの塩を示す。)
で示される、フッ素非含有スルホン酸、フッ素非含有カルボン酸、又はそれらの塩;
下記式
−X
(式中、Rは、炭素数が2以上、上限は50以下、好ましくは30以下のエーテル基を示し、Xはスルホ基、カルボキシル基、又はそれらの塩を示す。)
で示される、フッ素非含有スルホン酸、若しくはフッ素非含有カルボン酸、又はそれらの塩;
が挙げられる。なお、上記式中、Rは、炭素数が8以上のポリエーテル基であることが好ましく、Rは、例えば、オキシエチレン基、及び/又はオキシプロピレン基等を含有できる。
上記乳化重合の際に用いる界面活性剤としては、また、高分子界面活性剤を用いてもよい。このような高分子界面活性剤としては、ポリアクリル/メタクリル酸塩、ポリビニルスルホン酸塩等が挙げられる。
上記乳化重合の際に用いる界面活性剤としては、また、ポリシロキサン系界面活性剤が挙げられる。
上記乳化重合の際に用いる界面活性剤としては、また、フッ化ビニリデンと共重合できるモノマーであって、側鎖にスルホ基、カルボキシル基、又はそれらの塩を含むものを用いることができ、これらは自己乳化剤として用いられる。このような界面活性剤としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸、ビニルエーテル鎖を有するカルボン酸、スルホン酸、及びそれらの塩等が挙げられる。
【0013】
ディスパージョンの安定化のために重合後に添加する界面活性剤としては、上述の乳化重合の際に用いる界面活性剤と同様のものを用いることができる。中でも、ディスパージョンの安定化のために重合後に添加する界面活性剤としては、下記式
−X
(式中、Rは、炭素数が2以上(好ましくは8以上)、上限は50以下、好ましくは30以下のアルキル基を示し、Xはスルホ基、カルボキシル基、又はそれらの塩を示す。)
で示される非フッ素系スルホン酸、非フッ素系カルボン酸、又はそれらの塩;
下記式
−X
(式中、Rは、炭素数が2以上、上限は50以下、好ましくは30以下のフッ素を含まないエーテル基を示し、Xはスルホ基、カルボキシル基、又はそれらの塩を示す。)
で示されるフッ素非含有スルホン酸、フッ素非含有カルボン酸、又はそれらの塩;
が好適に用いられる。なお、上記式中、Rは、炭素数が8以上、上限は50以下、好ましくは30以下のポリエーテル基であることが好ましく、Rは、例えばオキシエチレン基、及び/又はオキシプロピレン基等を含有できる。
上記ディスパージョンの安定化のために重合後に添加する界面活性剤としては、また、高分子界面活性剤が挙げられ、中でも、ポリアクリル/メタクリル酸塩、ポリビニルスルホン酸塩等が好ましい。
上記ディスパージョンの安定化のために重合後に添加する界面活性剤としては、また、ポリシロキサン系界面活性剤が挙げられる。
本発明が属する技術分野において用いられる界面活性剤は、通常、ここで説明した界面活性剤である。従って、本明細書中、「界面活性剤の含有量」は、通常、ここで説明した各界面活性剤の総含有量であることが推定できる。「界面活性剤の含有量」は、例えば、各界面活性剤の量を、その構造及び/又は性質に応じて、公知の方法で決定し、それらの総量を計算して決定できる。
【0014】
上記(2)において、メチルセルロースは、本発明のフィルムの製造の際に用いられるフッ化ビニリデン系重合体が懸濁重合により重合したものである場合に、重合の際に用いられるメチルセルロースが残存するフッ化ビニリデン系重合体を用いてフィルムを製造することによりフィルム中に含まれ得る。
上記メチルセルロースの含有量は、6000ppm以下である。当該メチルセルロースの含有量は、5000ppm以下であることが好ましい。また、メチルセルロースの含有量の下限は、特に限定されないが、乳化重合により重合体を重合する場合は通常0ppmであり、懸濁重合により重合体を重合する場合は通常3000ppm程度である。
本発明のフィルム中のメチルセルロースの含有量は、ダイオネクス社製DX500測定器により、ポリマーを水に懸濁させたのち超音波で10分以上処理を行いメチルセルロースを抽出した水を測定して検出することができる。
【0015】
上記(3)において、金属及びイオンは、乳化重合及び懸濁重合のいずれにより重合されたフッ化ビニリデン系重合体にも含まれ得るものであり、当該フッ化ビニリデン系重合体を用いて本発明のフィルムを製造することによりフィルム中に含まれ得る。
上記金属の含有量と、イオンの含有量との合計は、200ppm以下である。当該含有量の合計は、100ppm以下であることが好ましい。また、上記金属の含有量と、イオンの含有量との合計の下限は、特に限定されないが、乳化重合により重合体を重合する場合は通常30ppm程度であり、懸濁重合により重合体を重合する場合は通常10ppm程度である。
上記金属としては、特に限定されないが、例えば、Fe、Cr等が挙げられる。
また、イオンとしては、特に限定されないが、例えば、SO2−、Cl等が挙げられる。
本発明のフィルム中の金属の含有量は、セイコーインストルメンツ社製SPS3000測定器により、フィルムを燃焼させたのち、0.1wt%の希塩酸で金属を抽出し、それを当該装置で測定することで検出することができる。
また、本発明のフィルム中のイオンの含有量は、フィルムを細かく切って粉末に近い状態にし、水中に浸漬させ1hr以上超音波処理を施し、イオン分を抽出した水をダイオネクス社製DX500測定器により分析することにより測定することができる。
【0016】
本発明のフィルムは、好ましくは圧電フィルムであり、より好ましくは、有機圧電フィルムである。当該「有機圧電フィルム」は、有機物であるフッ化ビニリデン系重合体から形成されるフィルム(重合体フィルム)である。当該「有機圧電フィルム」は、当該フッ化ビニリデン系重合体以外の成分を含有してもよい。当該「有機圧電フィルム」は、当該フッ化ビニリデン系重合体からなるフィルム、及び当該重合体中に無機物が分散されているフィルムを包含する。
本発明のフィルムにおける当該重合体の含有量は、好ましくは、70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは85質量%以上、特に好ましくは90質量%である。当該含有量の上限は特に制限されず、例えば、100質量%であってもよいし、99質量%であってもよい。
本明細書中、「フッ化ビニリデン系重合体フィルム」の例としては、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体フィルム、フッ化ビニリデン/トリフロオロエチレン共重合体フィルム、及びポリフッ化ビニリデンフィルムが挙げられる。
前記フッ化ビニリデン系重合体フィルムは、好ましくはフッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体フィルムである。
当該「フッ化ビニリデン系重合体フィルム」は、樹脂フィルムに通常用いられる添加剤を含有してもよい。
【0017】
当該「フッ化ビニリデン系重合体フィルム」は、フッ化ビニリデン系重合体から構成されるフィルムであり、フッ化ビニリデン系重合体を含有する。
【0018】
当該「フッ化ビニリデン系重合体」の例としては、
(1)フッ化ビニリデンと、これと共重合可能な1種以上のモノマーと、の共重合体;及び
(2)ポリフッ化ビニリデン
が挙げられる。
【0019】
当該「(1)フッ化ビニリデンと、これと共重合可能な1種以上のモノマーと、の共重合体」における「これと共重合可能なモノマー」の例としては、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、及びフッ化ビニルが挙げられる。
当該「これと共重合可能な1種以上のモノマー」又はそのうちの1種は、好ましくはテトラフルオロエチレンである。
当該「フッ化ビニリデン系重合体」の好ましい例としては、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体が挙げられる。
当該「フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体」は、本発明に関する性質が著しく損なわれない限りにおいて、フッ化ビニリデン及びテトラフルオロエチレン以外のモノマーに由来する繰り返し単位を含有してもよい。
前記「(1)フッ化ビニリデンと、これと共重合可能な1種以上のモノマーと、の共重合体」は、フッ化ビニリデンに由来する繰り返し単位を50モル%以上(好ましくは60モル%以上)含有する。
【0020】
前記「フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体」における(テトラフルオロエチレンに由来する繰り返し単位)/(フッ化ビニリデンに由来する繰り返し単位)のモル比は、好ましくは5/95〜36/64、より好ましくは15/85〜25/75、更に好ましくは18/82〜22/78の範囲内である。
前記「フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体」は、本発明に関する性質が著しく損なわれない限りにおいて、フッ化ビニリデン及びテトラフルオロエチレン以外のモノマーに由来する繰り返し単位を含有してもよい。通常、このような繰り返し単位の含有率は、10モル%以下である。このようなモノマーは、フッ化ビニリデンモノマー、テトラフルオロエチレンモノマーと共重合可能なものである限り限定されないが、その例としては、
(1)フルオロモノマー例、ビニルフルオリド(VF)、トリフルオロエチレン(TrFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、1−クロロ−1−フルオロ−エチレン(1,1−CFE)、1−クロロ−2−フルオロ−エチレン(1,2−CFE)、1−クロロ−2,2−ジフルオロエチレン(CDFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロビニルモノマー、1,1,2−トリフルオロブテン−4−ブロモ−1−ブテン、1,1,2−トリフルオロブテン−4−シラン−1−ブテン、ペルフルオロアルキルビニルエーテル、ペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、ペルフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、ペルフルオロアクリラート、2,2,2−トリフルオロエチルアクリラート、2−(ペルフルオロヘキシル)エチルアクリラート);並びに
(2)炭化水素系モノマー(例、エチレン、プロピレン、無水マレイン酸、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸系モノマー、メタクリル酸系モノマー、酢酸ビニルが挙げられる。
【0021】
更に、本発明のフィルムは、本発明の効果が失われない範囲内で、これら以外の添加剤を含有していてもよい。
【0022】
本発明のフィルムを光学用途、例えばタッチパネル用圧電フィルムやエレクトロウェッテイングフィルムに用いる場合は、全光線透過率が85%以上であることが好ましい。 本発明のフィルムの全光線透過率は、より好ましくは90%以上、更に好ましくは92%以上であり、最も好ましくは95%以上である。当該全光線透過率の上限は限定されないが、本発明のフィルムの全光線透過率は、通常99%以下である。
本明細書中、「全光線透過率」は、ASTM D1003に基づき、ヘイズガードII(製品名、東洋精機製作所)又はその同等品を使用した光透過性試験によって得られる。
【0023】
本発明のフィルムの全ヘイズ値は、4.0%以下が好ましい。本発明のフィルムの全ヘイズ値は、より好ましくは、3.0%以下、更に好ましくは2.0%以下、特に好ましくは1.5%以下、最も好ましくは1.0%以下である。当該全ヘイズ値は低いほど好ましく、その下限は限定されないが、本発明のフィルムの全ヘイズ値は、通常0.2%以上である。
本明細書中、「全ヘイズ値」(total haze)は、ASTM D1003に準拠し、ヘイズガードII(製品名)(東洋精機製作所)又はその同等品を使用したヘイズ(HAZE、濁度)試験によって得られる。
【0024】
本発明のフィルムの内部ヘイズ値は、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.5%以下、より更に好ましくは1.2%以下、より更に好ましくは1.0%以下である。当該内部ヘイズ値は低いほど好ましく、その下限は限定されないが、本発明のフィルムの内部ヘイズ値は、通常0.1%以上である。
本明細書中、「内部ヘイズ値」(inner haze)は、前記全ヘイズ値の測定方法において、ガラス製セルの中に水を入れて、その中にフィルムを挿入し、ヘイズ値を測定することにより、得られる。
【0025】
本発明のフィルムの外部ヘイズ値は、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.5%以下、更に好ましくは1.0%以下、特に好ましくは0.9%以下、最も好ましくは0.7%以下である。当該外部ヘイズ値は低いほど好ましく、その下限は限定されないが、本発明のフィルムの外部ヘイズ値は、通常0.1%以上である。
本明細書中、「外部ヘイズ値」(outer haze)は、フィルムの全ヘイズ値から内部へイズ値を差し引くことで算出される。
【0026】
本発明のフィルムの電気機械結合係数は、通常0.1〜0.01の範囲内、好ましくは0.09〜0.02の範囲内、より好ましくは0.08〜0.03の範囲内である。
本発明のフィルムの電気機械結合係数の変化率は、好ましくは10%以下であり、より好ましくは8%以下であり、更に好ましくは6%以下である。
本明細書中、電気機械結合係数をktと略記する場合がある。
【0027】
本発明において、フィルムの「電気機械結合係数」(kt)は、フィルムの両側にAl蒸着電極を形成し、フィルムの所定箇所について、13mmの円板を切り出し、インピーダンスアナライザ(ヒューレットパッカード社、4194A)又はその同等品を用いて測定し、H. Ohigashiら、「The application of ferroelectric polymer, Ultrasonic transducers in the megahertz range」に記載の方法により、算出される。
【0028】
本明細書中、「電気機械結合係数の変化率」は、特に記載の無い限り、85℃で10時間加熱したときの電気機械結合係数の変化率である。
当該「電気機械結合係数の変化率」は、
(1)フィルムの電気機械結合係数(加熱前のkt)を測定すること、
(2)フィルムを、空気中で、85℃で10時間加熱すること、
(3)フィルムを室温で放置して室温まで冷却すること、及び
(4)前記加熱及び前記冷却後のフィルムの電気機械結合係数(加熱後のkt)を測定すること
を実施し、測定された「加熱前のkt」及び「加熱後のkt」を次式に算入することによって決定される。
電気機械結合係数の変化量(%)=
((加熱後のkt−加熱前のkt)/加熱前のkt)×100
電気機械結合係数の変化率(%)=|電気機械結合係数の変化量(%)|
本明細書中、「室温」は、15〜35℃の範囲内の温度である。
【0029】
本発明のフィルムの厚さは、例えば、0.5〜100μmの範囲内、0.8〜50μmの範囲内、0.8〜40μmの範囲内、3〜100μmの範囲内、3〜50μmの範囲内、6〜50μmの範囲内、9〜40μmの範囲内、10〜40μmの範囲内、又は10〜30μmの範囲内である。好ましい厚さは、本発明のフィルムの用途によって異なることができる。例えば、本発明のフィルムがタッチパネル等の圧電パネルに用いられる場合は、本発明のフィルムの厚さは好ましくは10〜40μmの範囲内であり、より好ましくは10〜30μmの範囲内であり、本発明のフィルムがエレクトロウエッティングデバイスに用いられる場合は、本発明のフィルムの厚さは好ましくは0.5〜5μm、より好ましくは0.8〜2μmの範囲内であり、及び本発明のフィルムがフィムコンデンサに用いられる場合は、本発明のフィルムの厚さは好ましくは1.5〜12μmの範囲内である。
【0030】
本発明のフィルムは、100℃の温度で60分加熱して生じるカールが±10mm以内であることが好ましい。カールの程度を上述の範囲とすることにより、本発明のフィルムを、圧電フィルム等の精度が要求される用途に用いるのに適したフィルムとすることができる。
上記カールは、幅100mm長さ100mmにカットしたフィルムを金属板上に中心のラインに沿ってテープで貼り付け、100℃で60分加熱したのちの両端部の金属板からの浮き上がり長さをノギスで測定する手法により測定される。
本発明のフィルムのカールを±10mm以内とする方法としては、例えば、後述する本発明のフィルムの製造方法において、基材とフッ化ビニリデン系重合体フィルムとの剥離強度を0.1N/cm以下、溶媒を気化するための乾燥温度を200℃以下、並びに、溶媒中にフッ化ビニリデン系重合体、及び所望による成分を溶解又は分散させて調製した液状組成物中の、フッ化ビニリデン系重合体の固形分濃度を5質量%以上とする方法が挙げられる。
【0031】
製造方法
本発明のフィルムは、例えば、
非分極のフッ化ビニリデン系重合体フィルムを分極処理する工程A;及びその後の
分極化フッ化ビニリデン系重合体フィルムを熱処理する工程B
を含む製造方法
によって製造できる。
【0032】
工程A(分極処理工程)
工程Aでは、非分極のフッ化ビニリデン系重合体フィルムを分極処理する。
【0033】
フッ化ビニリデン系重合体は溶液重合、水中での懸濁重合、水中での乳化重合により重合することができる。生産性、コストの問題から水中での懸濁重合または乳化重合が好ましい。
乳化重合の場合、重合ののちの凝析工程終了時にポリマーに含有される可能性がある不純物として、界面活性剤、開始剤由来のイオン分、凝析剤由来の金属、イオン分などがあるが、凝析後の洗浄工程にて除去をおこなうことが望ましい。洗浄工程は、水で洗浄することが生産上望ましいが、不純物がとりきれない場合は洗浄効率をあげるために温水やエタノールなどの有機溶媒と混合させた水で洗浄することができる。
懸濁重合の場合、重合ののちにポリマーに含有される可能性がある不純物として、開始剤由来のイオン分、装置由来の金属分、懸濁重合時に用いるメチルセルロースなどがあるが、洗浄工程にて除去をおこなうことが望ましい。洗浄工程は、水で洗浄が生産上望ましいが、不純物がとりきれない場合は洗浄効率をあげるために温水やエタノールなどの有機溶媒と混合させた水で洗浄することができる。
工程Aで用いられる「非分極のフッ化ビニリデン系重合体フィルム」は、例えば、上述のフッ化ビニリデン系重合体を用いて、キャスティング法、熱プレス法、又は溶融押出法等の公知の方法で製造できる。工程Aで用いられる「非分極のフッ化ビニリデン系重合体フィルム」は、好ましくは、キャスティング法で製造されたフィルムである。
【0034】
キャスティング法による「非分極のフッ化ビニリデン系重合体フィルム」の製造方法は、例えば、
(1)溶媒中に、フッ化ビニリデン系重合体、並びに所望による成分(例、無機酸化物粒子、及び親和性向上剤)を溶解又は分散させて液状組成物を調製する工程;
(2)前記液状組成物を基材上に流延(塗布)する工程;及び
(3)前記溶媒を気化させて、フィルムを形成させる工程
を含む製造方法である。
【0035】
液状組成物の調製における溶解温度は特に限定されないが、溶解温度を高くすると溶解を促進できるので好ましい。しかし、溶解温度が高すぎると、得られるフィルムが着色してしまう傾向があるので、溶解温度は、室温以上80℃以下であることが好ましい。
また、かかる着色を防止する意味から、前記溶媒の好ましい例としては、ケトン系溶媒(例、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン)、エステル系溶媒(例、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、乳酸エチル)、エーテル系溶媒(例、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン)、及びアミド系溶媒(例、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド)が挙げられる。これらの溶媒は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられ得る。前記溶媒として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の溶解に汎用される溶媒であるアミド系溶媒を用いてもよいが、溶媒中のアミド系溶媒の含有率は50%以下であることが望ましい。
【0036】
前記液状組成物の基材上への流延(塗布)は、ナイフコーティング方式、キャストコーティング方式、ロールコーティング方式、グラビアコーティング方式、ブレードコーティング方式、ロッドコーティング方式、エアドクタコーティング方式、またはスロットダイ方式等の慣用の方法に基づき行えばよい。なかでも、操作性が容易な点、得られるフィルム厚さのバラツキが少ない点、生産性に優れる点から、グラビアコーティング方式、又はスロットダイ方式が好ましい。当該基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、離形処理されたPETフィルム、スチールベルトを用いることができる。
【0037】
前記溶媒の気化は、加熱等の慣用の乾燥方法によって実施できる。
前記溶媒の気化における乾燥温度は溶媒の種類等に応じて適宜決定され得るが、通常、20℃〜200℃の範囲内であり、好ましくは40℃〜170℃の範囲内である。
当該乾燥温度は一定温度であってもよいが、変化させてもよい。乾燥温度を低温(例、40〜100℃)から高温(例、120〜200℃)へと変化させることにより、得られるフィルムのヘイズ値を下げることができる。これは、例えば、乾燥ゾーンを数ゾーンに分割し、フィルム(又はフィルム形成前の流延された溶液)が低温のゾーンへ入って高温のゾーンに移動することによって実現できる。
具体的には、例えば、乾燥ゾーンを50℃、80℃、120℃、及び150℃の4ゾーンに分割し、フィルムを50℃のゾーンから150℃のゾーンへ連続的に移動させればよい。
前記溶媒の気化における乾燥時間は、通常10〜600秒間の範囲内、好ましくは30〜300秒間の範囲内である。
【0038】
工程Aに用いられる「非分極のフッ化ビニリデン系重合体フィルム」(以下、単に「非分極フィルム」と称する場合がある)は、好ましくは、延伸されていないものである。また、好ましくは、本発明の製造方法においても、当該非分極フィルムを、延伸しない。すなわち、本発明のフィルムは、好ましくは、無延伸のフィルムである。
このようにして得られる本発明のフィルムは、その厚さの均一性が高い。具体的に好ましくは、本発明のフィルムは、フィルム全体に渡って1cm四方毎に10箇所において測定した厚さの変動係数が、平均膜厚の±20%以下である。
【0039】
工程Aで用いられる非分極フィルムは、製膜後、熱処理されたものであってもよい。
【0040】
工程Aで用いられる非分極フィルムの厚さの決定は、得ようとするフィルムに応じて行えばよい。
【0041】
工程Aの分極処理は、コロナ放電処理等の慣用の方法によって行うことができる。
【0042】
工程Aの分極処理は、好ましくはコロナ放電によって行われる。
コロナ放電には、負コロナ及び正コロナのいずれを用いてもよいが、非分極樹脂フィルムの分極しやすさの観点から負コロナを用いることが望ましい。
【0043】
コロナ放電処理は、特に限定されないが、例えば、非分極フィルムの両面から平板電極で挟み込んで印加を実施すること;特開2011−181748号公報(前記特許文献2)に記載のように非分極フィルムに対して線状電極を用いて印加を実施すること;又は非分極フィルムに対して針状電極を用いて印加を実施すること;により行うことができる。
【0044】
コロナ放電処理の条件は、本発明が属する技術分野の常識に基づいて、適宜設定すればよい。コロナ放電処理の条件が弱すぎると、得られるフィルムの圧電性が不充分になる虞があり、一方、コロナ放電処理の条件が強すぎると、得られるフィルムが点状欠陥を有する虞がある。
例えば、線状電極を用いてロール・ツー・ロールで連続印加を実施する場合は、線状電極と非分極フィルムの間の距離、フィルム膜厚等によって異なるが、例えば、−15〜−25kVの直流電界である。処理速度は、例えば、10〜500cm/分である。
【0045】
別法として、分極処理は、コロナ放電の他に、例えば非分極フィルムの両面から平板電極で挟み込んで印加することにより実施してもよい。具体的には、例えば、非分極フィルムの両面から平板電極で挟み込んで印加を実施する場合、0〜400MV/m(好ましくは50〜400MV/m)の直流電界、及び0.1秒〜60分間の印加時間の条件を採用できる。
【0046】
工程B(熱処理工程)
工程Bは、前記工程Aの後に実施される。工程Bでは、工程Aの分極処理で得られた分極化フッ化ビニリデン系重合体フィルム(以下、単に分極化フィルムと称する場合がある。)を熱処理する。
工程Bの熱処理は、前記分極化フィルム又は工程Aにおいて分極を完了した部分に対して行うことができる。すなわち、工程Aの分極処理を実施しながら、当該分極処理を終えた部分に対して工程Bの熱処理を実施してもよい。
熱処理の方法は、特に限定されないが、例えば、分極化フィルムを2枚の金属板で挟み、当該金属板を加熱すること;分極化フィルムのロールを恒温槽中で加熱すること;又はロール・ツー・ロール方式での分極化フィルムの生産において、金属ローラーを加熱し、分極化フィルムを、当該加熱した金属ローラーに接触させること;又は分極化フィルムを加熱した炉の中にロール・ツー・ロールで通していくことにより行うことができる。この際、分極化フィルムは単体で熱処理してもよいし、或いは別種のフィルム又は金属箔上に重ねて積層フィルムを作成し、これを熱処理してもよい。とりわけ、高温で熱処理する場合には後者の方法のほうが、分極化フィルムにしわが入りにくいので好ましい。
前記熱処理の温度は、熱処理される分極化フィルムの種類によって異なる場合があり、好ましくは(熱処理される分極化フィルムの融点−100)℃〜(熱処理される分極化フィルムの融点+40)℃の範囲内である。
前記熱処理の温度は、具体的には、好ましくは80℃以上、より好ましくは85℃以上、更に好ましくは90℃以上である。
また、前記熱処理の温度は、好ましくは170℃以下、より好ましくは160℃以下、更に好ましくは140℃以下である。
前記熱処理の時間は、通常、10秒間以上、好ましくは0.5分間以上、より好ましくは1分間以上、更に好ましくは2分間以上である。
また、前記熱処理の時間の上限は限定されないが、通常、前記熱処理の時間は60分間以下である。
前記熱処理の条件は、好ましくは90℃以上で1分間以上である。
本明細書中、フィルムの融点とは、示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、10℃/分の速度で昇温したときに得られる融解熱曲線における極大値である。
【0047】
熱処理後、非分極重合体フィルムを所定温度まで冷却する。当該温度は、好ましくは、0℃〜60℃の範囲であり、室温であることができる。冷却速度は、徐冷であっても急冷であってもよく、急冷であることが生産性の面から好ましい。急冷は、例えば送風等の手段によって実施できる。
【0048】
フィルムのロール
本発明のフィルムは、好ましくは、ロールとして保管及び出荷され得る。
本発明のフィルムは、このようなロールの形態にする際のシワの発生の抑制の観点から、弾性率が500MPa以上であることが好ましい。弾性率は、フィルムの材質の選択等により調整できる。
本発明のフィルムのロールは、本発明のフィルムのみからなってもよく、本発明のフィルムに保護フィルムなどを積層させて巻いた形態でもよく、紙管等の芯、及び当該芯に巻き付けられた本発明のフィルムを備えてもよい。
本発明のフィルムのロールは、好ましくは、幅50mm以上、かつ長さ20m以上である。
本発明のフィルムのロールは、例えば、本発明のフィルムを、巻き出しローラーと巻き取りローラーを用いて巻き取ることにより、調製できる。
ここで、フィルムのたわみを抑制する観点で、通常行われるように、巻き出しローラーと巻き取りローラーを平行にすることが好ましい。
また、フィルムのたわみを抑制する観点で、本発明のフィルムのなかでも、弾性率が500MPa以上のフィルムを用いてもよい。
ローラーとしては、本発明のフィルムの滑り性を良くするため、滑り性のよいローラー、具体的にはフッ素樹脂で被覆されたローラー、メッキされたローラー、又は離型剤を塗布したローラーを用いることが好ましい。
ここで、フィルムの厚さが不均一である場合は、いわゆるロールの耳立ち(ハイエッジ;ロールの軸方向の中心部に比べて、端部が太くなること;両端部が中心部より膜厚が低い場合に両端部が中心部に比べて凹むこと;又は一方の端部からもう一方の端部に傾斜的に厚さが変化していく場合に膜厚が薄い側の端部が凹むこと)等のロールの太さの不均一さが発生し、これはシワの発生の原因になり得る。また、これは、フィルムの捲き出しの際に、フィルムのたわみ(重力による張力以外の張力がかけられていない状態での湾曲)が発生する原因となり得る。
一般に、ロールの耳立ちを防止する目的で、ロールの端となるフィルム端をスリッター耳おとし(スリット)することが行われるが、フィルムの厚さの不均一がフィルム端から広い範囲にわたる場合、耳おとしのみでは、ロールの耳立ち及び凹みの防止が困難である。
また、一般に、フィルムの幅が広い(例、幅100mm以上)ほど、及びフィルムの長さが長い(例、50m以上)ほど、前記耳立ち、前記凹み及び前記たわみが生じやすい。 しかし、本発明のフィルムは、厚さの均一性が高いので、そのまま、又はロールの端となるフィルム端をスリッター耳おとし(スリット)することのみで、フィルムの幅が広く(例、幅100mm以上)、かつフィルムの長さが長い(例、50m以上)場合でも、前記耳立ち、前記凹み及び前記たわみが抑制されたロールにすることができる。
スリットで除去された耳(フィルム端)は、回収して、本発明のフィルムの原料として、リサイクルできる。
本発明のフィルムのロールは、太さの均一性が高く、好ましくは、ロールの軸方向の中心部の太さに対する、より太いほうの端部の太さの比が70〜130%の範囲内である。 これにより、本発明のフィルムのロールは、これから巻き出されたフィルムのたわみが抑制されている。
【0049】
本発明のフィルム及びそのロールの製造に用いられるローラーの表面粗さRaは、1μm以下であることが好ましい。本明細書において、「表面粗さRa」は、JIS B0601:2001に規定されている、「算術平均高さ」である。
また、本発明のフィルム及びそのロールの製造に用いられるローラーは、少なくともその表面の材質が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、クロムメッキ、又はステンレス鋼(SUS)であることが好ましい。 これらのことにより、フィルムのシワを抑制できる。
【0050】
適用
圧電パネル
本発明のフィルムは、圧電パネル(例、タッチ圧を検出できるタッチパネル)等に使用できる。
本発明のフィルムを有するタッチパネルは、タッチ位置及びタッチ圧の両方を検出でき、かつ極端な高温に曝された場合でもタッチ圧の検出性能が低下しにくく、かつ透明性が高い。
本発明のフィルムは、抵抗膜方式、及び静電容量方式等の、あらゆる方式のタッチパネルに使用できる。
本発明のフィルムは、タッチパネルに使用されるとき、必ずしも、タッチ位置及びタッチ圧の両方の検出のために使用される必要は無く、本発明のフィルムは、タッチ位置又はタッチ圧のいずれかの検出にも使用されてもよい。
本発明のフィルムを有する圧電パネルは、好ましくは、
第1の電極(好ましくは、透明電極)と、
本発明のフィルム(好ましくは、透明圧電フィルム)と、
第2の電極(好ましくは、透明電極)と、
をこの順で有する。
第1の電極は本発明のフィルムの一方の主面上に直接又は間接的に配置され、及び
第2の電極は本発明のフィルムの他方の主面上に直接又は間接的に配置される。
当該電極の例としては、ITO(酸化インジウム・スズ)電極、酸化スズ電極、金属ナノワイヤー、金属ナノ粒子、有機導電樹脂等が挙げられる。
【0051】
本発明のフィルムを有するタッチパネルは、入力装置に用いることができる。当該タッチパネルを有する入力装置は、タッチ位置、タッチ圧、又はその両方に基づく入力が可能である。当該タッチパネルを有する入力装置は、位置検出部及び圧力検出部を有することが出来る。
【0052】
当該入力装置は、電子機器(例、携帯電話(例、スマートフォン)、携帯情報端末(PDA)、タブレットPC、ATM、自動券売機、及びカーナビゲーションシステム)に用いることができる。当該入力装置を有する電子機器は、タッチ位置、タッチ圧又はその両方に基づく操作及び動作が可能である。
【0053】
エレクトロウエッティングデバイス
本発明のフィルムは、エレクトロウエッティングの性質を有し、エレクトロウエッティングデバイスに使用できる。ここで、当該「エレクトロウエッティング」とは、電界を用いて、フィルムの表面の濡れ性(wettability)を疎水性(撥水性)から親水性の間で変化させることを意味する。当該「エレクトロウエッティングデバイス」とは、当該「エレクトロウエッティング」を利用したデバイスを意味する。
本発明のフィルムは、光学素子、表示装置(ディスプレイ)、可変焦点レンズ、光変調装置、光ピックアップ装置、光記録再生装置、現像装置、液滴操作装置、分析機器(例、試料の分析のため微小の導電性液体を移動させる必要がある、化学、生化学、および生物学的分析機器)などにおけるエレクトロウエッティングデバイスに好適に用いることができる。
本発明のフィルムは、高い比誘電率及び低い誘電正接を有し得る。これにより、低い電圧で導電性液体を駆動できる。
【0054】
フィルムコンデンサ
本発明のフィルムは、高い比誘電率及び低い誘電正接を有し得るので、フィルムコンデンサ用のフィルムとしても好適に使用可能である。また、電圧を長時間印加してもフッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体の特徴である高誘電性が損なわれない点でもフィルムコンデンサ用のフィルムとして有利である。
【0055】
透明カバーフィルム
本発明のフィルムは耐候性に優れたビニリデン系樹脂からなること、及び透明性が非常に高いことから、透明カバーフィルムとしても用いることができる。この場合、例えば、ポリカーボネート又はPETフィルムを本発明のフィルムに積層することで、これらのフィルムに耐候性を付与できる。
【0056】
本発明のフィルムは、可撓性を有するので、種々の用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
以下、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体における、テトラフルオロエチレンに由来する繰り返し単位/フッ化ビニリデンに由来する繰り返し単位のモル比を“TFE/VDF”で表す場合がある。
【0058】
(圧電フィルムとしての実施例)
実施例1〜7、比較例1〜3
(非分極フィルムの調製)
フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体(TFE/VDF=20/80)を、メチルエチルケトン(MEK)に溶解させ、固形分25wt%の塗料を調製した。用いたフッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体の界面活性剤量、金属の含有量、イオンの含有量、及びメチルセルロース量を表1に示す。
なお、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体の金属の含有量の測定は、ICP(発光分析装置)により行った。具体的には、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体を燃焼させたのち灰分を0.1%塩酸に溶解させ、金属を抽出して、ICPにより測定を行った。ICPはセイコーインストルメンツ株式会社製SPS3000を用いた。
また、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体の界面活性剤量、イオンの含有量、及びメチルセルロース量の分析はイオンクロマトグラフィーにより行った。具体的には、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体を水に入れて超音波で2hr程度処理を行った後、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体を濾過し、水分をイオンクロマトグラフィーで測定した。イオンクロマトグラフィーはダイオネクス株式会社製DX500を用いた。
【0059】
得られた塗料を孔径3μmのデプスブリーツタイプのフィルターでろ過し、ろ過した塗料をダイコーターを用いてPETフィルム上に流延(キャスティング)し、乾燥を行って、厚さ25μmの重合体フィルムを調製した。
この際、乾燥は、乾燥装置を1ゾーン2mとして4ゾーンに分割し、それぞれの乾燥温度を、入り口側から50℃、80℃、120℃、及び150℃に設定し、各ゾーンの通過速度を周速8/minに設定して、フィルム(又は流延された塗料)を通過させることによって、実施した。
【0060】
(分極処理)
その後、前記重合体フィルムを前記PETフィルムから剥がし、金属電極で前記重合体フィルムを上下から挟み、厚さ25μmの前記重合体フィルムに対して300kV/cmの条件で、直流電圧を室温で5分間印加して分極し、分極化フィルムを得た。
(熱処理)
その後、当該分極化フィルムを、90℃で5分間、熱風乾燥機中で、加熱し、次いで室温で放置して室温まで冷却して、圧電フィルムを得た。
【0061】
当該熱処理後の圧電フィルムについて、下記の方法で、分極時の圧電フィルムの欠陥数を測定した。
分極時の1m当たりの欠陥数
上記各圧電フィルムに対して、1m当たりの欠陥数(短絡破壊箇所数)(個/m)を以下のように測定(算出)した。具体的には、以下の(1)〜(3)の手順に従って測定した。
(1)20cm×10cmの各フィルムを上記実施例の手法にて分極処理を行う。
(2)(1)ののち、目視で破壊数をカウントする。
(3)上記操作を5枚のフィルムで行い、欠陥数をmの個数に換算した。
全ヘイズ値
全ヘイズ値はASTM D1003に基づき、ヘイズガードII(製品名)(東洋精機製作所)を使用した光透過性試験によって測定した。
結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1の結果から、界面活性剤等の不純物の含有量が増加すると、ヘイズ値が悪化し、分極時の欠陥数も増大することが分かった。
【0064】
(フィルムコンデンサとしての実施例)
実施例8〜14
(フィルムの調製)
フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体(TFE/VDF=7/93)と、カルボキシブチルセルロースとを、90/10の重量比で混合した。これをNMP/MEKを30/70の重量比で混合した溶媒に溶解させ、固形分20wt%の塗料を調製した。用いたフッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体の界面活性剤量、金属の含有量、イオンの含有量、及びメチルセルロース量を表2に示す。
【0065】
なお、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体の金属の含有量の測定は、ICP(発光分析装置)により行った。具体的には、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体を燃焼させたのち灰分を0.1%塩酸に溶解させ、金属を抽出して、ICPにより測定を行った。ICPはセイコーインストルメンツ株式会社製SPS3000を用いた。
また、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体の界面活性剤量、イオンの含有量、及びメチルセルロース量の分析はイオンクロマトグラフィーにより行った。具体的には、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体を水に入れて超音波で2hr程度処理を行った後、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体を濾過し、水分をイオンクロマトグラフィーで測定した。イオンクロマトグラフィーはダイオネクス株式会社製DX500を用いた。
【0066】
得られた塗料を孔径3μmのデプスブリーツタイプのフィルターでろ過し、ろ過した塗料をダイコーターを用いてPETフィルム上に流延(キャスティング)し、乾燥を行って、厚さ3μmの重合体フィルムを調製した。
この際、乾燥は、乾燥装置を1ゾーン2mとして4ゾーンに分割し、それぞれの乾燥温度を、入り口側から170℃、140℃、140℃、及び120℃に設定し、各ゾーンの通過速度を周速8/minに設定して、フィルム(又は流延された塗料)を通過させることによって、実施した。
【0067】
得られたフィルムの片面にアルミニウムを4Ωになるように蒸着した。アルミニウムを蒸着したフィルムを幅30mm、長さ80mmに切り出し、4枚積層させてガラス板で挟み込み、両側の端面からリードを取り出して、スタンプ型のフィルムコンデンサを調製した。
得られたフィルムコンデンサに対し、1分につき100Vのスピードで昇圧させながら電圧をかけて、短絡するまでの耐電圧を測定し、ワイブル分布による信頼度評価に基づく99%耐電圧を測定した。
【0068】
比較例4〜6
フィルターろ過しなかった以外は実施例8〜14と同様の方法によりフィルムコンデンサを調製し、耐電圧及びワイブル分布による信頼度評価に基づく99%耐電圧を測定した。
【0069】
結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2の結果から、界面活性剤等の不純物の含有量が増加すると、フィルムのワイブル分布による信頼度評価に基づく99%耐電圧がさがり、その結果コンデンサとしたときの耐電圧も低下することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のフィルムはタッチパネル等に用いることができる。