【0017】
本発明のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、リチウム二次電池に利用することができる。リチウムイオン伝導度がより高められているからである。このペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、例えば、リチウム二次電池の固体電解質として利用するものとしてもよいし、リチウム二次電池のセパレータとして利用するものとしてもよい。こうしたリチウム二次電池は、リチウムを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極と、リチウムを吸蔵・放出しうる負極活物質を有する負極との間に、本発明のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物を介在させた構成とすることができる。正極に用いる正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS
2、TiS
3、MoS
3、FeS
2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi
(1-m)MnO
2(0<m<1など、以下同じ)やLi
(1-m)Mn
2O
4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi
(1-m)CoO
2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi
(1-m)NiO
2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi
(1-m)Ni
aMn
bO
2(a+b=1)などとするリチウムニッケルマンガン複合酸化物、基本組成式をLi
(1-m)Ni
aCo
bMn
cO
2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV
2O
3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、V
2O
5などの遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、LiV
2O
3などが好ましい。また、負極に用いる負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、基本組成式をLi
4Ti
5O
12などとするリチウムチタン複合酸化物及び導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、特に限定されるものではないが、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であるため、好ましい。
【実施例】
【0022】
以下では、Srサイトを他の元素で置換したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物を具体的に合成した例を、実験例として説明する。
【0023】
[ペロブスカイト型酸化物の作製]
SrサイトをCa、Y、Mg、La及びBaで置換したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物Li
3/8□
3/16Sr
(7(1-a)/16)A
7a/16Zr
1/4Ta
3/4O
3(□は原子空孔であり、AはCa、Y、Mg、La及びBaのいずれか、a=0.025)を合成した。このペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、Li
2CO
3、SrCO
3、ZrO
2、Ta
2O
5及びA原料を出発原料に用いて合成を行った。A原料は、CaCO
3、Y
2O
3、MgO、La
2O
3及びBaCO
3とした。はじめに、出発原料を化学量論比になるように秤量し、エタノール中にてボールミル(300rpm/ジルコニアボール)で300分、混合・粉砕を行った。出発原料の混合粉末をボールとエタノールから分離したのち、Al
2O
3製のるつぼ中にて、1100℃、12時間、大気雰囲気で仮焼を行った。次に、仮焼した粉体をペレット状に300MPaでCIP成型し、パウダーベッドを用いて本焼成した。本焼成は、仮焼粉体をパウダーベッドとして入れたAl
2O
3製のるつぼ中にこのペレット成形体を入れ、固相反応法により、1300℃、15時間、大気中の条件下で行った。Srサイトを置換しないものを実験例1とし、Srサイトを置換して得られた試料をそれぞれ実験例2〜6とした。
【0024】
SrサイトをCaで置換したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物Li
3/8□
3/16Sr
(7(1-a)/16)Ca
7a/16Zr
1/4Ta
3/4O
3(□は原子空孔であり、0≦a≦0.2)を合成した。このペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、Li
2CO
3、SrCO
3、ZrO
2、Ta
2O
5及びCaCO
3を出発原料に用いて合成を行った。ここで、実験例1、2、7〜10は、それぞれa=0、0.025、0.0375、0.05、0.1、0.2とし(表1参照)、実験例1と同様の工程を行い作製した。
【0025】
SrサイトをLaで置換したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物Li
3/8□
3/16Sr
(7(1-a)/16)La
7a/16Zr
(1/4+7a/16)Ta
(3/4-7a/16)O
3(式中、□は原子空孔であり、0≦a≦0.1を満たす)を合成した。このペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、Li
2CO
3、SrCO
3、ZrO
2、Ta
2O
5及びLa
2O
3を出発原料に用いて合成を行った。ここで、実験例5、11、12は、それぞれa=0.025、0.05、0.1とし(表2参照)、実験例1と同様の工程を行い作製した。
【0026】
(X線回折測定)
X線回折測定(XRD)は、XRD測定器(リガク製、Smart−Lab)を用いて、集中法型光学系で試料粉末をCuKα、2θ:10〜80°,5°/minの条件で測定した。結晶構造解析は、結晶構造解析用プログラム:Rietan−2000(Mater. Sci. Forum, p321−324(2000),198)を用いて解析を行った
。図4は、実験例1〜6のX線回折測定結果である。図
5は、実験例1、2、8〜10のX線回折測定結果である。図
4に示すように、いくつかの試料では異相(LiTaO
3)が認められたものの、実験例1〜6では、回折線がシフトしており、LSTZのSrサイトに各元素が置換されているものと認められた。また、図
5に示すように、SrをCaで置換した実験例2、8〜10は、おおむね単相であった。また、Caの置換量を増加させるのに従い、ペロブスカイト構造由来の回折線が高角側にシフトした。ペロブスカイト構造のSr(イオン半径=1.44Å)にCa(イオン半径=1.34Å)が置換されて入り込んだものと推察された。
【0027】
(電気伝導度測定)
伝導度は、恒温槽中にてACインピーダンスアナライザー(Agilent4294A)を用い、周波数40Hz〜110MHz、振幅電圧100mVの条件で、ナイキストプロットの円弧より抵抗値を求め、この抵抗値から算出した。伝導度σは、σ=1/R
Total,R
Total=R
b+R
gbの式から算出した。試料は、直径11.7mm×厚さ0.2mmのサイズとした。ACインピーダンスアナライザーで測定する際のブロッキング電極にはAu電極を用いた。Au電極は市販のAuペーストを850℃、30分の条件で焼き付けることで形成した。図
6は、実験例1〜6のナイキストプロットである。図
7は、実験例2、8〜10のナイキストプロットである。実験例1、2、7〜10の25℃での伝導度を表1に示す。実験例1、5、11、12の25℃での伝導度を表2に示す。図
8は、実験例1、2、7〜10のアレニウスプロット及びCaドープ量に対する伝導度の関係図である。図
9は、実験例1、5、11、12のアレニウスプロット及びLaドープ量に対する伝導度の関係図である。
【0028】
図
6に示すように、実験例1〜6では、ドープ量の関係で粒内(バルク)の電気伝導度σbは大きな変化がなかった。また、SrをCaやLaで置換したものは、粒界部での電気伝導度σgbが顕著に
高くなることがわかった。図
7及び表1に示すように、Srを一部Caに置換した実験例2
、7〜9(0<a(at%)≦10)では、粒界部での電気伝導度σgb(25℃)がCaに置換しない実験例1(a=0であるLi
3/8Sr
7/16Zr
1/4Ta
3/4O
3)に対して向上していることがわかった。また、Caに置換した実験例2、
7では、粒内の電気伝導度σb(25℃)が実験例1以上の値を示した。各試料の相対密度は96〜99%であったことから、伝導度がa値に応じて変化するのは、密度による影響ではないと考えられた。また、表2に示すように、Srを一部Laに置換した実験例5、11、12(0<a(at%)≦10)では、粒界部での電気伝導度σgb(25℃)が実験例1(a=0であるLi
3/8Sr
7/16Zr
1/4Ta
3/4O
3)に対して向上していることがわかった。また、Laに置換した実験例5、11、12では、粒内の電気伝導度σb(25℃)が実験例1と同等の値を示した。
【0029】
(活性化エネルギー(Ea))
活性化エネルギーEa(kJ/mol)はアレニウス(Arrhenius)の式:σ=Aexp(−Ea/kT)(σ:伝導度、A:頻度因子、k:ボルツマン定数、T:絶対温度)を用い、アレニウスプロットの傾きより求めた。求めた結果を表1、2に示す。Ca置換量a(at%)が2以上10以下の範囲では、より低い活性化エネルギー(Ea)を示し、5at%以下では更に低い値を示した。また、La置換量a(at%)が2以上10以下の範囲では、より低い活性化エネルギー(Ea)を示し、好ましいことがわかった。
【0030】
CaやLaを適量添加することで、伝導度が向上し、活性化エネルギーEaが低下する理由については、例えば、適量のCaやLaをSrと置換すると、伝導するリチウムイオン周りの構造がより好適なものとなり、リチウムイオンの移動が容易になるためであると考えられた。なお、Srと置換する元素は、Ca以外の元素、例えばBa、Sc、Y、Na、K、Rb、Cs及びLn(原子番号57〜71のランタノイド)などであっても、同様の構造変化が見込まれることから、同様の効果が得られるものと推察された。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
(活物質との反応性の検討)
SrサイトをCaで置換したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物であるLi
3/8Sr
7(1-a)/16Ca
7a/16Ta
3/4Zr
1/4O
3(a=0.0375の実験例7,LSTZ−Caとも称する)に活物質を混合して焼結させ、その反応性を検討した。焼結温度は、400℃〜900℃とした。
図10は、実験例7のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物の粉末にLiNi
0.5Mn
1.5O
4(LNMとも称する)の粉末を混合して焼成した試料のX線回折測定結果である。
図11は、実験例7のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物の粉末にLi
4Ti
5O
12(LTOとも称する)を混合して焼成した試料のX線回折測定結果である。
図10、11に示すように、SrサイトをCaで置換したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、正極活物質(LNM)や負極活物質(LTO)と焼成しても、副相は生じず、反応性が低く化学的に安定であることがわかった。
【0034】
(有機電解質との複合体の検討)
固体電解質の板状体の両面に有機電解質を積層した複合体を作製し、抵抗値(Ω)を検討した。SrサイトをCaで置換したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物(実験例7,LSTZ−Ca)からなる固体電解質と、有機電解質としてポリエチレンオキサイド(PEO)と、Li金属箔とを表裏に積層した、Li/PEO/LSTZ−Ca/PEO/Liを実験例13の評価複合体とした。また、Li
0.35La
0.55TiO
3(LLTとも称する)を固体電解質とした以外は実験例13と同様の構成とした複合体を実験例14とした。表3に実験例13、14の構成及び抵抗値(Ω)をまとめた。LLTは、25℃において伝導度が7×10
-5(S/cm)であり、電池の内部抵抗を下げるには十分でない。一方、LSTZ−Caは、25℃において伝導度が4×10
-4(S/cm)であり、実験例14に比して低い抵抗値を示し、電池の内部抵抗をより下げられることがわかった。
【0035】
【表3】
【0036】
(試験セル(半電池)の作製)
次に、全固体リチウム二次電池について試験セル(半電池)を作製し検討した。
図12は、試験セル30の説明図である。SrサイトをCaで置換したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物(LSTZ−Ca,実験例7)からなる固体電解質層31のペレットを作製し、その一方の面に活物質層33(薄膜)を形成した(複合体40)。また、固体活物質層31の他方の面に有機電解質層39を介してリチウム金属の対極36を貼り合わせた。正極活物質として、LiCoO
2(LCOとも称する)と、LNMとを用い、負極活物質としてLTOを用いた。有機電解質層39としてポリエチレンオキサイド(PEO)を用いた。試験セルは、Li/PEO/LSTZ−Ca/LCO半電池(実験例15)と、Li/PEO/LSTZ−Ca/LNM半電池(実験例16)と、Li/PEO/LSTZ−Ca/LTO半電池(実験例17)とした。
【0037】
(電池評価)
電池評価として、サイクリックボルタモグラム(CV)を測定した。CV測定は、電気化学測定システム(北斗電工社製、HZ−3000)を用いて行った。CV測定は、実験例15では、25℃、0.1mV/sec、Li
+/Li基準で3.0V〜4.2Vの範囲で行った。実験例16では、25℃、0.1mV/secで、Li+/Li基準で3.5V〜5.0Vの範囲で行った。実験例17では、25℃、0.1mV/secで、Li+/Li基準で1.0V〜3.0Vの範囲で行った。
図13は、LCO(LiCoO
2)試験セル(実験例15)のサイクリックボルタモグラムである。
図14は、LNM(LiNi
0.5Mn
1.5O
4)試験セル(実験例16)のサイクリックボルタモグラムである。
図15は、LTO(Li
4Ti
5O
12)試験セル(実験例17)のサイクリックボルタモグラムである。
図13〜15に示すように、SrサイトをCaで置換したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物では、全ての半電池で酸化還元電流を確認した。したがって、これらの活物質を用いて充放電ができることがわかった。特に、5V級の高電位活物質であり、固体電解質との組み合わせで充放電が困難であるLNMとの組み合わせにおいて充放電できることがわかった。これらの結果より、SrサイトをCaで置換したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物を用いて作製した全固体リチウム二次電池は、有効に充放電することができることが明らかとなった。
【0038】
なお、本発明は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。