特許第6451672号(P6451672)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6451672ペロブスカイト型イオン伝導性酸化物、複合体及びリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6451672
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】ペロブスカイト型イオン伝導性酸化物、複合体及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   C01G 35/00 20060101AFI20190107BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20190107BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20190107BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20190107BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20190107BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20190107BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20190107BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20190107BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20190107BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20190107BHJP
【FI】
   C01G35/00 C
   H01M10/0562
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/485
   H01M10/0565
   H01M10/052
   H01M10/0566
   H01B1/06 A
   H01B1/08
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-43447(P2016-43447)
(22)【出願日】2016年3月7日
(65)【公開番号】特開2016-169145(P2016-169145A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2017年10月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-45733(P2015-45733)
(32)【優先日】2015年3月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】駒形 将吾
(72)【発明者】
【氏名】朝岡 賢彦
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−500311(JP,A)
【文献】 特開2013−032259(JP,A)
【文献】 Solid State Ionics,2004年,Vol.167,p.263-272
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00−47/00
C01G 49/10−99/00
H01B 1/00− 1/24
H01M 10/05−10/0587
H01M 10/36−10/39
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本組成LiyzSr((1-y-z)(1-a))a(1-y-z)Zr(1-x+a(m-2))(x-a(m-2))3(式中、AはCaであり、元素MはTaであり、□は原子空孔であり、0<x<1、0<y<1、0<a≦0.1、x(n−4)+a(1−y−z)(m−2)=y+2z(但し、mはAの価数であり、nはMの価数)を満たす)で表される
ロブスカイト型イオン伝導性酸化物。
【請求項2】
基本組成Li3/83/16Sr(7(1-a)/16)Ca7a/16Zr1/4Ta3/43(式中、□は原子空孔であり、0<a≦0.1を満たす)で表される、請求項に記載のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物。
【請求項3】
基本組成Li3/83/16Sr(7(1-a)/16)La7a/16Zr(1/4+7a/16)Ta(3/4-7a/16)3(式中、□は原子空孔であり、0<a≦0.1を満たす)で表される
ロブスカイト型イオン伝導性酸化物。
【請求項4】
Srと元素A(元素AはCa又はLa)との全体に対して該元素Aが2at%以上10at%以下の範囲で前記Srを置換している、請求項1〜3のいずれか1項に記載のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物。
【請求項5】
電気伝導度σ(25℃)が7.0×10-5(S/cm)以上であり、
活性化エネルギーEaが40(kJ/mol)より小さい、請求項1〜のいずれか1項に記載のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物。
【請求項6】
粒界部での電気伝導度σgb(25℃)が2.0×10-4(S/cm)以上である、請求項1〜のいずれか1項に記載のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物を含む固体電解質層と、
前記固体電解質層に隣接しリチウムを吸蔵放出する活物質を含む活物質層と、を備えた複合体。
【請求項8】
前記活物質層は、前記活物質として、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルマンガン複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、リチウムバナジウム複合酸化物及びリチウムチタン複合酸化物のうち1以上を含む、請求項に記載の複合体。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物を含む固体電解質層と、
前記固体電解質層に隣接しリチウムイオンを伝導する有機電解質と、を備えた複合体。
【請求項10】
請求項のいずれか1項に記載の複合体、を備えたリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト型イオン伝導性酸化物、複合体及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ペロブスカイト型イオン伝導性酸化物としては、Li、Sr、Ta及びZrを含む酸化物が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。このペロブスカイト型酸化物は、30℃での粒内伝導度σbが2×10-4(S/cm)であり、粒界伝導度σgbが1×10-4(S/cm)であり、トータルの伝導度σが7×10-5(S/cm)であるとしている。また、ペロブスカイト型イオン伝導性酸化物としては、基本組成をLi3/8Sr(7/16)Zr1/4Ta3/43とし、パウダーベッドを用いて焼成したものが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。このペロブスカイト型酸化物は、27℃での粒内伝導度σbが3.5×10-4(S/cm)であり、粒界伝導度σgbが9.5×10-4(S/cm)であり、トータルの伝導度σが2.7×10-4(S/cm)であるとしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Solid State Ionics 167(2004)263-272
【非特許文献2】Solid State Ionics 261(2014)95-99
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の非特許文献1のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物では、イオン伝導性を有し、また、非特許文献2では、そのイオン伝導性をより向上してはいるものの、また十分でなく、さらなるイオン伝導性の向上が望まれていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、イオン伝導性をより向上することができるペロブスカイト型イオン伝導性酸化物、複合体及びリチウム二次電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、Li、Sr、Ta及びZrを含むペロブスカイト型イオン伝導性酸化物のSrをCaなどに置換すると、電気伝導度をより向上することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、
Liと、Srと、Zrとを含み、
Ca、Ba、Mg、Sc、Y、Na、K、Rb、Cs及びLn(原子番号57〜71のランタノイド)のうち1種以上を含む元素Aと、
Ta、Nb、W、Mo、Re、Ru及びOsのうち1種以上を含む元素Mと、を含むものである。
【0008】
本発明の複合体は、上述したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物を含む固体電解質層と、前記固体電解質層に隣接しリチウムを吸蔵放出する活物質を含む活物質層と、を備えたものである。あるいは、本発明の複合体は、上述したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物を含む固体電解質層と、前記固体電解質層に隣接しリチウムイオンを伝導する有機電解質層と、を備えたものである。また、本発明のリチウム二次電池は、上述したいずれかの複合体を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物、複合体及びリチウム二次電池は、イオン伝導性をより向上することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、異種元素により置換されることにより、粒界の構造がイオン伝導を阻害しにくい構造になり、粒界での伝導度がより向上するためであると推察される。また、異種元素により置換されることにより、より最適化された格子定数を有する構造になり、粒内伝導度も上昇するためであると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ペロブスカイト型イオン伝導性酸化物の構造の一例を表す模式図。
図2】全固体型のリチウム電池10の構造の一例を示す説明図。
図3】全固体型のリチウム電池10Bの構造の一例を示す説明図。
図4】実験例1〜6のX線回折測定結果。
図5】実験例1、2、8〜10のX線回折測定結果。
図6】実験例1〜6のナイキストプロット。
図7】実験例2、8〜10のナイキストプロット。
図8】アレニウスプロット及びCaドープ量に対する伝導度の関係図。
図9】アレニウスプロット及びLaドープ量に対する伝導度の関係図。
図10】実験例7にLiNi0.5Mn1.54を混合焼成したX線回折測定結果。
図11】実験例7にLi4Ti512を混合焼成したX線回折測定結果。
図12】試験セル30の説明図。
図13】LCO(LiCoO2)試験セルのサイクリックボルタモグラム。
図14】LNM(LiNi0.5Mn1.54)試験セルのサイクリックボルタモグラム。
図15】LTO(Li4Ti512)試験セルのサイクリックボルタモグラム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、Liと、Srと、Zrとを含み、Ca、Ba、Mg、Sc、Y、Na、K、Rb、Cs及びLn(原子番号57〜71のランタノイド)のうち1種以上を含む元素Aと、Ta、Nb、W、Mo、Re、Ru及びOsのうち1種以上を含む元素Mと、を含むものである。
【0012】
このペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、基本構成をSrZrO3とするものとし、SrサイトやZrサイトが他の元素により置換された、基本組成LiyzSr((1-y-z)(1-a))a(1-y-z)Zr(1-x+a(m-2))(x-a(m-2))3で表されるものとしてもよい。図1は、ペロブスカイト型イオン伝導性酸化物の構造の一例を表す模式図である。このペロブスカイト型イオン伝導性酸化物において、基本組成式は、原料配合時の組成をいうものとしてもよい。この基本組成式において、元素Aは、ペロブスカイト型酸化物のSrサイトに基本的に入る元素であり、Ca、Ba、Mg、Sc、Y、Na、K、Rb、Cs及びLn(原子番号57〜71のランタノイド)のうち1種以上の元素である。元素Aは、Ca、Ba、Mg、Y及びLaのいずれか1以上であることが好ましく、Srのイオン半径に近いCaやBa、Y、Laのうち1以上であることがより好ましい。この基本組成式において、元素Mは、ペロブスカイト型酸化物のZrサイトに基本的に入る元素であり、Ta、Nb、W、Mo、Re、Ru及びOsのうち1種以上の元素である。元素Mは、Zrのイオン半径に近いTaであることが好ましい。この基本組成式において、□は原子空孔である。また、この基本組成式において、x,y,z,aは、それぞれ0<x<1、0<y<1、0<a<1、x(n−4)+a(1−y−z)(m−2)=y+2z(但し、mはAの価数であり、nはMの価数)を満たす。この基本組成式において、元素Aの係数aは、0<a≦0.1を満たすことが好ましく、a≦0.05を満たすことがより好ましく、0.025≦a≦0.05を満たすことが更に好ましい。係数aが0<a≦0.1を満たすと、電気伝導度がより向上し、好ましい。また、元素Aは、Srと元素Aとの全体に対して2at%以上10at%以下の範囲でSrを置換していることが好ましく、5at%以下の範囲でSrを置換していることがより好ましく、2.5at%以上5at%以下の範囲でSrを置換していることが更に好ましい。このペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、基本組成Li3/83/16Sr(7(1-a)/16)Ca7a/16Zr1/4Ta3/43(式中、□は原子空孔であり、0<a≦0.1を満たす)で表されるものとしてもよい。また、このペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、基本組成Li3/83/16Sr(7(1-a)/16)La7a/16Zr(1/4+7a/16)Ta(3/4-7a/16)3(式中、□は原子空孔であり、0<a≦0.1を満たす)で表されるものとしてもよい。
【0013】
ここで、ペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、主としてペロブスカイト型の構造を有していればよく、例えば、酸化物に他の構造が一部含まれていたり、例えばX線回折のピーク位置がシフトしている、回折の主相が正方晶、立方晶、斜方晶などペロブスカイトからみて歪んだ構造を含むものとする。また、組成式で示しているが、酸化物には他の元素や構造などが一部含まれていてもよい。なお、「基本組成」とは、A,Mにはそれぞれ主成分の元素と1以上の副成分の元素を含んでいてもよい趣旨である。
【0014】
本発明のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、電気伝導度σ(25℃)が7.0×10-5(S/cm)以上であることが好ましく、1.0×10-4(S/cm)以上であることがより好ましく、2.0×10-4(S/cm)以上であることが更に好ましい。また、本発明のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、粒界部での電気伝導度σgb(25℃)が2.0×10-4(S/cm)以上であることが好ましく、5.0×10-4(S/cm)以上であることがより好ましく、6.0×10-4(S/cm)以上であることが更に好ましい。また、本発明のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、粒内(バルク)での電気伝導度σb(25℃)が8.0×10-5(S/cm)以上であることが好ましく、3.0×10-4(S/cm)以上であることがより好ましく、4.0×10-4(S/cm)以上であることが更に好ましい。これらの電気伝導度σ,σb,σgbは、Li、元素A,元素Mの添加割合(a,x,y,z)や、焼成温度を調整することにより、適宜変更することができる。
【0015】
本発明のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、活性化エネルギーEaが40(kJ/mol)より小さいことが好ましく、35(kJ/mol)以下であることがより好ましく、33(kJ/mol)以下であることが更に好ましい。活性化エネルギーEaが40(kJ/mol)より小さいと、イオン伝導性がより好ましい。この活性化エネルギーEaは、Li、元素A,元素Mの添加割合(a,x,y,z)や、焼成温度を調整することにより、適宜変更することができる。
【0016】
本発明のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、1500℃以下で焼成されていることが好ましく、1400℃以下で焼成されていることがより好ましく、1350℃以下で焼成されていることが更に好ましい。1500℃以下の焼成では、焼成エネルギーの低減をより図ることができる。ペロブスカイト型構造を形成する観点から、ペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、900℃以上で焼成されていることが好ましい。
【0017】
本発明のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、リチウム二次電池に利用することができる。リチウムイオン伝導度がより高められているからである。このペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、例えば、リチウム二次電池の固体電解質として利用するものとしてもよいし、リチウム二次電池のセパレータとして利用するものとしてもよい。こうしたリチウム二次電池は、リチウムを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極と、リチウムを吸蔵・放出しうる負極活物質を有する負極との間に、本発明のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物を介在させた構成とすることができる。正極に用いる正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-m)MnO2(0<m<1など、以下同じ)やLi(1-m)Mn24などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-m)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-m)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-m)NiaMnb2(a+b=1)などとするリチウムニッケルマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-m)NiaCobMnc2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV23などとするリチウムバナジウム複合酸化物、V25などの遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiV23などが好ましい。また、負極に用いる負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、基本組成式をLi4Ti512などとするリチウムチタン複合酸化物及び導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、特に限定されるものではないが、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であるため、好ましい。
【0018】
また、本発明のリチウム二次電池は、複合体を備えているものとしてもよい。複合体は、固体電解質層と活物質層とが積層されているものとしてもよいし、固体電解質層と有機電解質とを有するものとしてもよい。この有機電解質の表面には、固体電解質層が隣接されているものとしてもよい。有機電解質は、例えば、リチウムを含む支持塩と有機物とを含むものとしてもよい。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。また、有機物は、有機溶媒などの液体としてもよいし、有機高分子化合物などの固体としてもよい。有機溶媒としては、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。カーボネート類としては、例えば、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類が挙げられる。また、γ−ブチルラクトンなどの環状エステル類、酢酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフランなどのフラン類、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3−ジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。有機高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリアセトニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。有機電解質は、ポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルが好ましい。
【0019】
リチウム二次電池の構造は、特に限定されないが、例えば図2に示す構造が挙げられる。図2は、全固体型リチウム二次電池10の構造の一例を示す説明図である。この全固体型リチウム二次電池は、上述したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物を含む固体電解質層11と、この固体電解質層11の一方の面に形成されリチウムを吸蔵放出する正極活物質を含む正極活物質層13と、この固体電解質層11の他方の面に形成されリチウムを吸蔵放出する負極活物質を含む負極活物質層16とを有する。正極活物質層13の表面には、集電体14が形成されており、負極活物質層16の表面には、集電体17が形成されている。この全固体型リチウム二次電池10は、固体電解質層11及び正極活物質層13が複合体20であり、固体電解質層11及び負極活物質層16が複合体21であるものとしてもよい。あるいは、リチウム二次電池の構造は、図3に示すように、固体電解質層11及び有機電解質層18を有する複合体22と、固体電解質層11及び有機電解質層19を有する複合体23と、を備えたものとしてもよい。図3は、全固体型リチウム二次電池10Bの構造の一例を示す説明図である。有機電解質層18には、正極活物質層13が隣接され、有機電解質層19には負極活物質層16が隣接されている。この有機電解質層18,19はセパレータとして機能するものとしてもよい。
【0020】
以上詳述したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、イオン伝導性をより向上することができる。このような効果が得られる理由は、例えば、異種元素に置換されることにより、粒界の構造がイオン伝導を阻害しにくい構造になり、粒界での伝導度がより向上するためであると推察される。また、異種元素により置換されることにより、より最適化された格子定数を有する構造になり、粒内伝導度も上昇するためであると推察される。
【0021】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0022】
以下では、Srサイトを他の元素で置換したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物を具体的に合成した例を、実験例として説明する。
【0023】
[ペロブスカイト型酸化物の作製]
SrサイトをCa、Y、Mg、La及びBaで置換したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物Li3/83/16Sr(7(1-a)/16)7a/16Zr1/4Ta3/43(□は原子空孔であり、AはCa、Y、Mg、La及びBaのいずれか、a=0.025)を合成した。このペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、Li2CO3、SrCO3、ZrO2、Ta25及びA原料を出発原料に用いて合成を行った。A原料は、CaCO3、Y23、MgO、La23及びBaCO3とした。はじめに、出発原料を化学量論比になるように秤量し、エタノール中にてボールミル(300rpm/ジルコニアボール)で300分、混合・粉砕を行った。出発原料の混合粉末をボールとエタノールから分離したのち、Al23製のるつぼ中にて、1100℃、12時間、大気雰囲気で仮焼を行った。次に、仮焼した粉体をペレット状に300MPaでCIP成型し、パウダーベッドを用いて本焼成した。本焼成は、仮焼粉体をパウダーベッドとして入れたAl23製のるつぼ中にこのペレット成形体を入れ、固相反応法により、1300℃、15時間、大気中の条件下で行った。Srサイトを置換しないものを実験例1とし、Srサイトを置換して得られた試料をそれぞれ実験例2〜6とした。
【0024】
SrサイトをCaで置換したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物Li3/83/16Sr(7(1-a)/16)Ca7a/16Zr1/4Ta3/43(□は原子空孔であり、0≦a≦0.2)を合成した。このペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、Li2CO3、SrCO3、ZrO2、Ta25及びCaCO3を出発原料に用いて合成を行った。ここで、実験例1、2、7〜10は、それぞれa=0、0.025、0.0375、0.05、0.1、0.2とし(表1参照)、実験例1と同様の工程を行い作製した。
【0025】
SrサイトをLaで置換したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物Li3/83/16Sr(7(1-a)/16)La7a/16Zr(1/4+7a/16)Ta(3/4-7a/16)3(式中、□は原子空孔であり、0≦a≦0.1を満たす)を合成した。このペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、Li2CO3、SrCO3、ZrO2、Ta25及びLa23を出発原料に用いて合成を行った。ここで、実験例5、11、12は、それぞれa=0.025、0.05、0.1とし(表2参照)、実験例1と同様の工程を行い作製した。
【0026】
(X線回折測定)
X線回折測定(XRD)は、XRD測定器(リガク製、Smart−Lab)を用いて、集中法型光学系で試料粉末をCuKα、2θ:10〜80°,5°/minの条件で測定した。結晶構造解析は、結晶構造解析用プログラム:Rietan−2000(Mater. Sci. Forum, p321−324(2000),198)を用いて解析を行った図4は、実験例1〜6のX線回折測定結果である。図は、実験例1、2、8〜10のX線回折測定結果である。図に示すように、いくつかの試料では異相(LiTaO3)が認められたものの、実験例1〜6では、回折線がシフトしており、LSTZのSrサイトに各元素が置換されているものと認められた。また、図に示すように、SrをCaで置換した実験例2、8〜10は、おおむね単相であった。また、Caの置換量を増加させるのに従い、ペロブスカイト構造由来の回折線が高角側にシフトした。ペロブスカイト構造のSr(イオン半径=1.44Å)にCa(イオン半径=1.34Å)が置換されて入り込んだものと推察された。
【0027】
(電気伝導度測定)
伝導度は、恒温槽中にてACインピーダンスアナライザー(Agilent4294A)を用い、周波数40Hz〜110MHz、振幅電圧100mVの条件で、ナイキストプロットの円弧より抵抗値を求め、この抵抗値から算出した。伝導度σは、σ=1/RTotal,RTotal=Rb+Rgbの式から算出した。試料は、直径11.7mm×厚さ0.2mmのサイズとした。ACインピーダンスアナライザーで測定する際のブロッキング電極にはAu電極を用いた。Au電極は市販のAuペーストを850℃、30分の条件で焼き付けることで形成した。図は、実験例1〜6のナイキストプロットである。図は、実験例2、8〜10のナイキストプロットである。実験例1、2、7〜10の25℃での伝導度を表1に示す。実験例1、5、11、12の25℃での伝導度を表2に示す。図は、実験例1、2、7〜10のアレニウスプロット及びCaドープ量に対する伝導度の関係図である。図は、実験例1、5、11、12のアレニウスプロット及びLaドープ量に対する伝導度の関係図である。
【0028】
に示すように、実験例1〜6では、ドープ量の関係で粒内(バルク)の電気伝導度σbは大きな変化がなかった。また、SrをCaやLaで置換したものは、粒界部での電気伝導度σgbが顕著に高くなることがわかった。図及び表1に示すように、Srを一部Caに置換した実験例2、7〜9(0<a(at%)≦10)では、粒界部での電気伝導度σgb(25℃)がCaに置換しない実験例1(a=0であるLi3/8Sr7/16Zr1/4Ta3/43)に対して向上していることがわかった。また、Caに置換した実験例2、では、粒内の電気伝導度σb(25℃)が実験例1以上の値を示した。各試料の相対密度は96〜99%であったことから、伝導度がa値に応じて変化するのは、密度による影響ではないと考えられた。また、表2に示すように、Srを一部Laに置換した実験例5、11、12(0<a(at%)≦10)では、粒界部での電気伝導度σgb(25℃)が実験例1(a=0であるLi3/8Sr7/16Zr1/4Ta3/43)に対して向上していることがわかった。また、Laに置換した実験例5、11、12では、粒内の電気伝導度σb(25℃)が実験例1と同等の値を示した。
【0029】
(活性化エネルギー(Ea))
活性化エネルギーEa(kJ/mol)はアレニウス(Arrhenius)の式:σ=Aexp(−Ea/kT)(σ:伝導度、A:頻度因子、k:ボルツマン定数、T:絶対温度)を用い、アレニウスプロットの傾きより求めた。求めた結果を表1、2に示す。Ca置換量a(at%)が2以上10以下の範囲では、より低い活性化エネルギー(Ea)を示し、5at%以下では更に低い値を示した。また、La置換量a(at%)が2以上10以下の範囲では、より低い活性化エネルギー(Ea)を示し、好ましいことがわかった。
【0030】
CaやLaを適量添加することで、伝導度が向上し、活性化エネルギーEaが低下する理由については、例えば、適量のCaやLaをSrと置換すると、伝導するリチウムイオン周りの構造がより好適なものとなり、リチウムイオンの移動が容易になるためであると考えられた。なお、Srと置換する元素は、Ca以外の元素、例えばBa、Sc、Y、Na、K、Rb、Cs及びLn(原子番号57〜71のランタノイド)などであっても、同様の構造変化が見込まれることから、同様の効果が得られるものと推察された。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
(活物質との反応性の検討)
SrサイトをCaで置換したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物であるLi3/8Sr7(1-a)/16Ca7a/16Ta3/4Zr1/43(a=0.0375の実験例7,LSTZ−Caとも称する)に活物質を混合して焼結させ、その反応性を検討した。焼結温度は、400℃〜900℃とした。図10は、実験例7のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物の粉末にLiNi0.5Mn1.54(LNMとも称する)の粉末を混合して焼成した試料のX線回折測定結果である。図11は、実験例7のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物の粉末にLi4Ti512(LTOとも称する)を混合して焼成した試料のX線回折測定結果である。図10、11に示すように、SrサイトをCaで置換したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、正極活物質(LNM)や負極活物質(LTO)と焼成しても、副相は生じず、反応性が低く化学的に安定であることがわかった。
【0034】
(有機電解質との複合体の検討)
固体電解質の板状体の両面に有機電解質を積層した複合体を作製し、抵抗値(Ω)を検討した。SrサイトをCaで置換したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物(実験例7,LSTZ−Ca)からなる固体電解質と、有機電解質としてポリエチレンオキサイド(PEO)と、Li金属箔とを表裏に積層した、Li/PEO/LSTZ−Ca/PEO/Liを実験例13の評価複合体とした。また、Li0.35La0.55TiO3(LLTとも称する)を固体電解質とした以外は実験例13と同様の構成とした複合体を実験例14とした。表3に実験例13、14の構成及び抵抗値(Ω)をまとめた。LLTは、25℃において伝導度が7×10-5(S/cm)であり、電池の内部抵抗を下げるには十分でない。一方、LSTZ−Caは、25℃において伝導度が4×10-4(S/cm)であり、実験例14に比して低い抵抗値を示し、電池の内部抵抗をより下げられることがわかった。
【0035】
【表3】
【0036】
(試験セル(半電池)の作製)
次に、全固体リチウム二次電池について試験セル(半電池)を作製し検討した。図12は、試験セル30の説明図である。SrサイトをCaで置換したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物(LSTZ−Ca,実験例7)からなる固体電解質層31のペレットを作製し、その一方の面に活物質層33(薄膜)を形成した(複合体40)。また、固体活物質層31の他方の面に有機電解質層39を介してリチウム金属の対極36を貼り合わせた。正極活物質として、LiCoO2(LCOとも称する)と、LNMとを用い、負極活物質としてLTOを用いた。有機電解質層39としてポリエチレンオキサイド(PEO)を用いた。試験セルは、Li/PEO/LSTZ−Ca/LCO半電池(実験例15)と、Li/PEO/LSTZ−Ca/LNM半電池(実験例16)と、Li/PEO/LSTZ−Ca/LTO半電池(実験例17)とした。
【0037】
(電池評価)
電池評価として、サイクリックボルタモグラム(CV)を測定した。CV測定は、電気化学測定システム(北斗電工社製、HZ−3000)を用いて行った。CV測定は、実験例15では、25℃、0.1mV/sec、Li+/Li基準で3.0V〜4.2Vの範囲で行った。実験例16では、25℃、0.1mV/secで、Li+/Li基準で3.5V〜5.0Vの範囲で行った。実験例17では、25℃、0.1mV/secで、Li+/Li基準で1.0V〜3.0Vの範囲で行った。図13は、LCO(LiCoO2)試験セル(実験例15)のサイクリックボルタモグラムである。図14は、LNM(LiNi0.5Mn1.54)試験セル(実験例16)のサイクリックボルタモグラムである。図15は、LTO(Li4Ti512)試験セル(実験例17)のサイクリックボルタモグラムである。図13〜15に示すように、SrサイトをCaで置換したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物では、全ての半電池で酸化還元電流を確認した。したがって、これらの活物質を用いて充放電ができることがわかった。特に、5V級の高電位活物質であり、固体電解質との組み合わせで充放電が困難であるLNMとの組み合わせにおいて充放電できることがわかった。これらの結果より、SrサイトをCaで置換したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物を用いて作製した全固体リチウム二次電池は、有効に充放電することができることが明らかとなった。
【0038】
なお、本発明は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、イオン伝導性を用いる技術分野、例えば、固体電解質に利用可能である。
【符号の説明】
【0040】
10,10B 全固体型リチウム二次電池、11 固体電解質層、13 正極活物質層、14 集電体、16 負極活物質層、17 集電体、18,19 有機電解質層、20〜23 複合体、30 試験セル、31 固体電解質層、33 正極活物質層、36 対極、39 有機電解質層、40,43 複合体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15