【実施例】
【0045】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
【0046】
〔インキ組成物の製造方法〕
表1〜3の組成に従って、実施例1〜4および比較例1〜12のインキを三本ロールミルにて練肉することによって、各種の活性エネルギー線硬化型インキ組成物を得た。
表1〜3の数値は重量%である。
尚、全てのインキ組成物に対し着色成分として藍顔料であるDIC株式会社製FASTOGEN BLUE TGR−1(Pigment Blue15:3、フタロシアニンブルー)19重量%、粘度及び流動性調整剤としてタルク2重量%、助剤としてポリオレフィンワックス1重量%、光重合開始剤としてBASF社製Irgacure907(2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モノフォリノプロパン−1−オン)3重量%および大同化成工業社製EAB−SS(4,4′−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン)2.5重量%、重合禁止剤として重合禁止剤ベース1(和光純薬工業社製Q1301(N‐ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩)5重量%をMIWON社製MIRAMER M300(トリメチロールプロパントリアクリレート)95重量%に溶解させた液状混合物)1重量%を共通に添加した。
また、作製した各インキ組成物1.31mlを東洋精機(株)製インコメーターに塗布し、ローラー温度32℃、回転スピード400rpmに設定して回転させ、1分後のタックバリュー(T.V.)値を読み取り、タックバリュー(T.V.)値が全例とも標準的な10である事を確認した。
【0047】
〔展色物の製造方法〕
この様にして得られた活性エネルギー線硬化型インキ組成物を、簡易展色機(RIテスター、豊栄精工社製)を用い、インキ0.10mlを使用して、RIテスターのゴムロール及び金属ロール上に均一に引き伸ばし、コートボール紙(王子マテリア社製UFコート、米坪350g/m
2)の表面に、200cm
2の面積にわたって藍濃度1.6(X−Rite社製SpectroEye濃度計で計測)で均一に塗布されるように展色し、展色物を作製した。なおRIテスターとは、紙やフィルムにインキを展色する試験機であり、インキの転移量や印圧を調整することが可能である。
【0048】
〔UVランプ光源による硬化方法〕
インキ塗布後の展色物に活性エネルギー線である紫外線(UV)照射を行い、インキ皮膜を硬化させた。水冷メタルハライドランプ(出力100W/cm1灯)およびベルトコンベアを搭載したUV照射装置(アイグラフィックス社製、コールドミラー付属)を使用し、展色物をコンベア上に載せ、ランプ直下(照射距離11cm)を分速100メートルの速度で通過させることにより、インキ皮膜を硬化させた。各条件における紫外線照射量は紫外線積算光量計(ウシオ電機社製UNIMETER UIT−150−A/受光機UVD−C365)を用いて測定した。
【0049】
〔活性エネルギー線硬化型インキ組成物の評価方法1:流動性〕
インキ流動性はスプレッドメーター法(平行板粘度計)によりJIS K5101、5701に則った方法で測定を実施し、水平に置いた2枚の平行板の間に挟まれたインキが、荷重板の自重(115グラム)によって、同心円状に広がる特性を経時的に観察し、60秒後のインキの広がり直径をダイアメーター値(DM[mm])とし、インキ印刷適性が良好となる次の2段階で評価した。本評価項目においてDMが30mm未満となる組成では、印刷機上で壺切れ、インキローラ間の転移不良といった印刷適性面での不良が発現し易くなる。
○:DM30mm以上であり、流動性は良好である。
×:DM30mm未満であり、流動性は不良である。
【0050】
〔活性エネルギー線硬化型インキ組成物の評価方法2:硬化性〕
硬化性は、紫外線照射直後に爪スクラッチ法にて展色物表面の傷付きの有無を確認し次の5段階で評価した。爪で擦ってインキ硬化皮膜に傷が発生する組成では、印刷物の断裁や製函、輸送といった各工程において、印刷物が損傷し易くなる。
5:爪スクラッチで傷が発生せず、硬化性は良好である。
4:3(良好)と5(中位)の中間の硬化性が確認できた。
3:爪スクラッチで微小な傷が僅かに発生し、硬化性は中位である。
2:3(中位)と1(不良)の中間の硬化性が確認できた。
1:爪スクラッチで傷が明確に発生し、硬化性は不良である。
【0051】
〔活性エネルギー線硬化型インキ組成物の評価方法3:乳化率〕
インキの乳化率(乳化適性)の評価については、ダクテット試験機(川村理研製)を用いて実施した。本試験装置は特開2003−312161、特開平11−5376、特開平06−011432において用いられた試験機と同一の測定装置である。
【0052】
ダクテット試験機の断面図を
図1に示す。外筒3は内部がくりぬかれた、底面を有する円筒状の金属であり、内部に評価インキ7を投入できる構造となっている。評価インキ7(5グラム)投入後に円柱棒状の金属である内筒2を
図1に示す通り、外筒3の底面から1ミリメートルの距離に近接するまで差し込む。その後内筒を2000rpmで時計回りに、外筒も60rpmで時計回りに回転させ、速度差をつけることで評価インキ7にシェアーがかかり撹拌される。撹拌後3分間が経過した時点で、撹拌を継続しながら蒸留水を0.5(グラム/分)の速度で評価インキ7の直上に滴下することで、評価インキ7と滴下された蒸留水は即時に撹拌混合される(乳化)。蒸留水の滴下は10分間継続され、蒸留水の滴下量が合計5グラムに達した時点で終了される。
ダクテット試験機は、外筒3は外筒用駆動モーター5によって回転し、内筒2は内筒用駆動モーター1によって回転する構造を有し、また外筒3内部の評価インキ7の温度が一定となるよう、恒温水槽4を備え水道水6の温度は常に30℃に保たれている。
評価インキ7(5グラム)と蒸留水(5グラム)の撹拌混合が終了した後、内筒2内部にある余剰蒸留水(インキ中に取り込まれずに余った水)の重量(グラム)を秤量する。これにより、評価インキ7中に取り込まれた蒸留水の総重量Yは
【0053】
Y(グラム)=全投入蒸留水(5グラム)−余剰蒸留水の重量
で示され、評価インキ7の乳化率Zは、
【0054】
Z(%)=Y÷(評価インキ7(5グラム)+Y)×100
で示される。
(ここで、例えば、投入した蒸留水5グラム全てがインキ中に取り込まれ、余剰蒸留水が0グラムであった場合には、Y=5(グラム)、Z=50(%)と計算される。)
【0055】
インキ乳化率Z(%)の数値が適切な範囲(約20〜33%程度)にあれば、適度な乳化適性、すなわち水の取り込みと吐き出しのバランスに優れたインキと評価できる。インキ乳化率Z(%)の数値が20%未満の場合、インキが水を内包する能力が不足し、浮き汚れ等の印刷不良を発現する傾向があり、33%を上回る場合、インキが過乳化し易くなり濃度低下や濃度安定性不良等の印刷不良を発現する傾向がある。
一方でインキ乳化率Z(%)の数値が20〜33%の範囲に収まっていれば必ずしも優れた印刷適性を示すとは限らない。オフセット印刷適性は使用する各原料の親水/疎水バランスやインキのレオロジー特性等の様々な性質が複雑に相乗的に影響し合い決定されるものであるが、本発明の実施例においては適切な乳化率とオフセット印刷適性を満たしたことを確認した。
【0056】
〔活性エネルギー線硬化型インキ組成物のオフセット印刷方法〕
製造された実施例1〜4、比較例1〜12の活性エネルギー線硬化型インキについて、オフセット印刷適性を評価した。紫外線照射装置としてアイグラフィックス社製水冷メタルハライドランプ(出力160W/cm、3灯使用)を搭載したマンローランド社製オフセット印刷機(ローランドR700印刷機、幅40インチ機)を用いて、毎時9000枚の印刷速度にてオフセット印刷を実施した。印刷用紙には王子製紙社製OKトップコートプラス(57.5kg、A判)を使用した。版面に供給される湿し水は、水道水98重量%とエッチ液(FST−700、DIC社製)2重量%を混合した水溶液を用いた。
【0057】
〔活性エネルギー線硬化型インキ組成物の評価方法4:印刷適性(耐汚れ性)〕
オフセット印刷適性(耐汚れ性)の評価方法としては、まず印刷機の水供給ダイヤルを40(標準水量)にセットし、印刷物濃度が標準プロセス藍濃度1.6(X−Rite社製SpectroEye濃度計で計測)となるようインキ供給キーを操作し、濃度が安定した時点でインキ供給キーを固定した。その後インキ供給キーを固定したままの条件で、水供給ダイヤルを40から35に変更し水供給量を減らした条件で300枚印刷し、300枚後の印刷物の「浮き汚れ」の有無を確認した。水とインキのバランスが上手く保たれていない場合、インキ粒子が湿し水中に浮遊する、あるいは版面非画線部上に付着することで印刷物の画線が明瞭でなくなり汚れが発生するが、このような印刷不良は「浮き汚れ」と呼ばれる。もし浮き汚れが発生しなかった場合は、続けて水供給ダイヤルを35から30に変更し水供給量を減らした条件で更に300枚印刷し、300枚後の印刷物の「浮き汚れ」の有無を確認する。このようにして同様に水供給量を5ポイントずつ段階的に減らしていき、「浮き汚れ」が発生し始める水供給ダイヤル値を記録した。汚れ発生時の水供給ダイヤル値が低いほど、耐汚れ性は良好であると評価できる。下記の基準に従って活性エネルギー線硬化型インキの印刷適性(耐汚れ性)を評価した。
3:浮き汚れ発生時の水供給ダイヤル値が20未満であり、耐汚れ性は良好である。
2:浮き汚れ発生時の水供給ダイヤル値が20〜30の範囲にあり、耐汚れ性は中位である。
1:浮き汚れ発生時の水供給ダイヤルが30を上回り、耐汚れ性は不良である。
【0058】
〔活性エネルギー線硬化型インキ組成物の評価方法5:印刷適性(濃度安定性)〕
オフセット印刷適性(濃度安定性)の評価方法としては、まず印刷機の水供給ダイヤルを40(標準水量)にセットし、印刷物濃度が標準プロセス藍濃度1.6(X−Rite社製SpectroEye濃度計で計測)となるようインキ供給キーを操作し、濃度が安定した時点でインキ供給キーを固定した。その後インキ供給キーを固定したままの条件で、水供給ダイヤルを40から55に変更し水供給量を増やした条件で300枚印刷し、300枚後の印刷物の藍濃度を測定した。水供給量を増やした状態においても印刷物の濃度低下が少ないほど、乳化適性に優れ、濃度安定性に優れたインキと評価できる。下記の基準に従って活性エネルギー線硬化型インキの印刷適性(濃度安定性)を評価した。
3:印刷物の藍濃度が1.5以上であり、オフセット印刷適性は良好である。
2:印刷物の藍濃度が1.4以上〜1.5未満であり、オフセット印刷適性は中位であ
る。
1:印刷物の藍濃度が1.4未満であり、オフセット印刷適性は不良である。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
表1及び表2中の数値は重量%である。
表1、2に示す諸原料及び略を以下に示す。尚、粘度(mPa・s)は全て25℃の数値を示す。
・フタロシアニンブルー:銅フタロシアニン、FASTOGEN BLUE TGR−1、DIC社製
・タルク:含水ケイ酸マグネシウム、ハイフィラー #5000PJ、松村産業社製
・ポリオレフィンワックス、S−381−N1、シャムロック社製
・Irgacure907:2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モノフォリノプロパン−1−オン、BASF社製
・EAB―SS:4,4′−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、大同化成工業社製
・重合禁止剤ベース1(和光純薬工業社製Q1301(N‐ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩)5重量%をMIWON社製MIRAMER M300(トリメチロールプロパントリアクリレート)95重量%に溶解させた液状混合物)
・ウレタンアクリレートワニス1:ウレタンアクリレート1(下記)60重量%とエチレンオキサイド(平均3モル付加)変性トリメチロールプロパントリアクリレート(MIRAMER M3130、MIWON社製)40重量%の混合物
・ウレタンアクリレートワニス2:ウレタンアクリレート1(下記)55重量%とトリメチロールプロパントリアクリレート(MIRAMER M300、MIWON社製)45重量%の混合物
・ウレタンアクリレートワニス3:ウレタンアクリレート1(下記)55重量%とエチレンオキサイド(平均9モル付加)変性トリメチロールプロパントリアクリレート(MIRAMER M3190、MIWON社製)45重量%の混合物
・ウレタンアクリレート1:撹拌機、ガス導入管、コンデンサー、及び温度計を備えた1リットルのフラスコに、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ミリオネートMR−400、日本ポリウレタン工業株式会社製)328.1質量部、ターシャリブチルヒドロキシトルエン3質量部、メトキシハイドロキノン0.12質量部、ジブチル錫ジアセテート1.2質量部を加え、70℃に昇温し、2−ヒドロキシエチルアクリレート271.9質量部を2時間にわたって攪拌下で滴下した。滴下後、70℃で反応させ、イソシアネート基を示す2250cm−1の赤外吸収スペクトルが消失するまで反応を行いウレタンアクリレート1を得た
・DAPワニス1:ジアリルフタレート樹脂(ダイソーダップA、ダイソー社製)45重量%とエチレンオキサイド(平均3モル付加)変性トリメチロールプロパントリアクリレート(MIRAMER M3130、MIWON社製)55重量%の混合物
・EO3TMPTA:エチレンオキサイド(平均3モル付加)変性トリメチロールプロパントリアクリレート、MIRAMER M3130、粘度50〜70mPa・s、重量平均分子量428、MIWON社製
・BisA EO4DA:エチレンオキサイド(平均4モル付加)変性ビスフェノールAジアクリレート、MIRAMER M240、粘度900〜1300mPa・s、重量平均分子量512、MIWON社製
・DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、MIRAMER M600、粘度4000〜7000mPa・s、重量平均分子量578、MIWON社製
・DTMPTA:ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、SR355NS、粘度450〜750mPa・s、重量平均分子量467、サートマー社製
・TMPTA:トリメチロールプロパントリアクリレート、MIRAMER M300、粘度80〜120mPa・s、重量平均分子量296、MIWON社製
・EO9TMPTA:エチレンオキサイド(平均9モル付加)変性トリメチロールプロパントリアクリレート、粘度85〜140mPa・s、重量平均分子量692、MIRAMER M3190、MIWON社製
・BisAE010DA:エチレンオキサイド(平均10モル付加)変性ビスフェノールAジアクリレート、MIRAMER M2100、粘度600〜700mPa・s、重量平均分子量770、MIWON社製
・GPTA:プロピレンオキサイド(平均3モル付加)変性グリセリントリアクリレート、MIRAMER M320、粘度80〜120mPa・s、重量平均分子量428、MIWON社製
・PO3TMPTA:プロピレンオキサイド(平均3モル付加)変性トリメチロールプロパントリアクリレート、MIRAMER M360、粘度70〜100mPa・s、重量平均分子量470、MIWON社製
・EO4PETA:エチレンオキサイド(平均4モル付加)変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート、粘度120〜200mPa・s、重量平均分子量692、MIRAMER M4004、MIWON社製
【0063】
(重量平均分子量の測定)
尚、本発明におけるGPCによる重量平均分子量(ポリスチレン換算)の測定は東ソー(株)社製HLC8220システムを用い以下の条件で行った。
分離カラム:東ソー(株)製TSKgelGMH
HR−Nを4本使用。カラム温度:40℃。移動層:和光純薬工業(株)製テトラヒドロフラン。流速:1.0ml/分。試料濃度:1.0重量%。試料注入量:100マイクロリットル。検出器:示差屈折計。
【0064】
実施例に述べる活性エネルギー線硬化型オフセットインキ組成物では、紫外線光源により良好な硬化性が得られた。また各原材料を前記の重量%の範囲で配合することにより、本願発明の必要特性であるインキの流動性、適度な乳化率、及びこれらに影響を受ける印刷適性の各評価項目において良好な結果となった。ウレタンアクリレートオリゴマーを用いた実施例1〜3は特に良好な硬化性を発現した。
【0065】
比較例の結果においては、比較例1はエチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレートを含まないため乳化率が低く印刷適性が劣る結果となった。比較例2はエチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレートの使用量が過剰であり乳化率が高く濃度安定性が劣る結果となった。比較例3〜10は各モノマーの有する粘度、硬化性、親水/疎水バランス、相溶性といった性状の差異により、インキ組成物の流動性、硬化性、印刷適性、いずれか1つ以上のインキ性能が実施例と比較して劣る結果となった。比較例11、12は平均付加モル数が2〜6の範囲にあるエチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレートを含んでおらず、TMPTA(比較例11、平均0モル付加)、EO9TMPTA(比較例12、平均9モル付加)を使用したが、実施例に劣る結果となった。