特許第6451998号(P6451998)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6451998
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】金属調加飾部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20190107BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20190107BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20190107BHJP
【FI】
   B32B15/08 H
   B32B3/30
   B32B15/08 M
   B29C45/00
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-251006(P2015-251006)
(22)【出願日】2015年12月24日
(65)【公開番号】特開2017-113962(P2017-113962A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 辰哉
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 洋介
(72)【発明者】
【氏名】三沢 明弘
【審査官】 藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−141114(JP,A)
【文献】 特開2012−016951(JP,A)
【文献】 特開2001−001444(JP,A)
【文献】 特開2007−237457(JP,A)
【文献】 特開2008−105198(JP,A)
【文献】 特開2008−110513(JP,A)
【文献】 特開2005−238674(JP,A)
【文献】 特開2003−103709(JP,A)
【文献】 特開昭56−137919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B29C45/00−45/24
45/46−45/63
45/70−45/72
45/74−45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏面に凹凸面を有する透明樹脂基材と、
前記透明樹脂基材の前記裏面に積層する加飾層と、を有し、
前記加飾層は複数の金属フレークが堆積されてなり、
前記金属フレークの厚さは、10nm以上30nm以下であり、
前記加飾層において、前記透明樹脂基材との界面は前記凹凸面に整合した形状をなす金属調加飾部材。
【請求項2】
前記加飾層における前記界面とは反対側の面は、前記凹凸面に対応した形状をなす請求項1に記載の金属調加飾部材。
【請求項3】
前記加飾層の層厚は、100nm以上500nm以下である請求項1又は2に記載の金属調加飾部材。
【請求項4】
前記凹凸面はヘアライン形状を有し、
前記ヘアライン形状のヘアライン幅は、1μm以上50μm以下であり、
前記ヘアライン形状のヘアライン深さは、1μm以上5μm以下である請求項1〜3の何れか一項に記載の金属調加飾部材。
【請求項5】
前記金属フレークは、Al、Ag、Au、Sn、In、Mgより選択される少なくとも1つの金属からなる請求項1〜の何れか一項に記載の金属調加飾部材。
【請求項6】
前記加飾層における前記界面とは反対側の面には保護層が設けられている請求項1〜の何れか一項に記載の金属調加飾部材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の金属調加飾部材の製造方法であって、
溶融樹脂を成形型内に射出して前記透明樹脂基材を成形する射出成形工程において、前記凹凸面は前記成形型の型面に設けられた形状を転写して形成される金属調加飾部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両の内装体及び外装体に適用される金属調加飾部材、及びこの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からフロントグリル、バックガーニッシュ等に代表される車両用の樹脂製加飾部材として種々のものが知られている。これらのものには、美観等を付与するために、その表面に金属光沢感を付与した加飾部材が多く知られている。加飾部材に金属光沢感を付与する方法としては種々存在するが、近年では樹脂製加飾部材の表面を金属調塗料で塗装する方法が簡便性の観点より広く用いられている。
【0003】
また、金属加工の分野において知られた各種意匠を応用し、例えば、サンドブラストやヘアライン加工により艶消し金属調の外観を樹脂部材に付与して、金属光沢感とは異なった金属質感を表現する樹脂製加飾部材も存在する。
【0004】
このような樹脂製加飾部材としては、例えば特許文献1のような金属質感を表現した金属調化粧シートが開示されている。この金属調化粧シートは、透明熱可塑性樹脂層の裏面側に、接着剤層を介して金属層を積層したラミネートフィルムである。具体的には、光輝性顔料であるアルミニウムフレークを含有したポリプロピレンフィルムを金属層として用い、この金属層と透明熱可塑性樹脂層との間に接着剤を塗布し、金属層側の賦型ロールにヘアライン加工したものを用いてロール成形によって金属調化粧シートを成形した。これにより、金属調化粧シートは、金属層にヘアライン調の凹凸模様を有し、金属質感を表現するものとなっている。
【0005】
しかしながら、上記した金属調化粧シートでは、金属層となるポリプロピレンフィルム自体がヘアライン調に形成されており、ポリプロピレンフィルム内に含有されているアルミニウムフレークはこのヘアライン調の凹凸模様に十分に追従していないことが考えられる。その結果として、特許文献1に開示されている金属調化粧シートでは、ヘアライン調の凹凸模様を十分に表現できるまでに至っていなかった。つまり、特許文献1に開示されている金属調化粧シートは、艶消し金属調の外観を樹脂製部材の表面で十分に表現できていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−105198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものでありその目的は、透明樹脂基材に施された例えばヘアライン形状等の凹凸形状を十分に表現できる金属調加飾部材、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明の金属調加飾部材では、裏面に凹凸面を有する透明樹脂基材と、透明樹脂基材の裏面に積層する加飾層とを有し、加飾層は複数の金属フレークが堆積されてなり、加飾層において、透明樹脂基材との界面は凹凸面に整合した形状をなすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の金属調加飾部材では、透明樹脂基材の裏面に凹凸面が設けられており、この凹凸面に複数の金属フレークが堆積した加飾層を積層している。そして、加飾層における透明樹脂基材との界面は、凹凸面に整合した形状をなしている。すなわち、本発明の金属調加飾部材では、加飾層における複数の金属フレークが透明樹脂基材の裏面の凹凸面に追従するように堆積している。よって、透明樹脂基材の裏面に設けられた凹凸面からなる形状は、金属フレークが堆積した加飾層により十分に表現でき、結果として本発明の金属調加飾部材は凹凸形状から生まれる金属質感を十分に表現できる金属調加飾部材となる。
【0010】
例えば、この凹凸面がヘアライン形状であるならば、本発明の金属調加飾部材は、ヘアライン形状を十分に表現でき艶消し金属調の外観を樹脂製部材で表現することができる。したがって、本発明の金属調加飾部材であれば、金属光沢感とは異なった金属質感を表現することができ、意匠性の向上に有利な金属調加飾部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】当該実施形態に係る金属調加飾部材1の断面を模式的に示した図である。
図2】当該実施形態に係る金属調加飾部材1の加飾層3付近の断面を模式的に表した説明図である。
図3】実施例1に係る金属調加飾部材1の断面写真である。
図4図3におけるヘアライン形状51部分の拡大写真である。
図5】比較例1に係る金属調加飾部材10の断面写真である。
図6図5におけるヘアライン形状501部分の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1及び図2を参照しながら本発明の金属調加飾部材1及びその製造方法の好適な実施形態について説明する。
【0013】
説明に利用する図面は概略図であり、細かい部分での形状や相対的な位置関係、大きさの関係などは必ずしも厳密に記載されているものではない。
【0014】
また、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事項は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0015】
(実施形態)
当該実施形態に係る金属調加飾部材1は、図1に示すように、透明樹脂基材2と、加飾層3と、保護層4を有する。
【0016】
透明樹脂基材2は表面21と裏面22を有し、所望とする形状に成形されている。ここで透明とは、無色透明のほか、着色透明や半透明をも含む概念である。
【0017】
透明樹脂基材2は、代表的には熱可塑性樹脂材料が使用される。熱可塑性樹脂材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系樹脂、アクリル樹脂(メタクリル樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。
【0018】
アクリル樹脂としては、メタクリル酸エステルの単独重合体、2種以上の異なるメタクリル酸エステルモノマーの共重合体、又はメタクリル酸エステルと他のモノマーとの共重合体が挙げられ、具体的には、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル・メタクリル酸ブチル共重合体、メタクリル酸エチル・メタクリル酸ブチル共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、スチレン・メタクリル酸メチル共重合体などのメタクリル酸エステルを含む単独又は共重合体からなるアクリル樹脂が好適に用いられる。
【0019】
透明樹脂基材2の厚さは、用途に応じて選定されるものであるが、0.5mm以上3.0mm以下が成形性等の観点から望ましい。より望ましくは、1.0mm以上2.0mm以下である。
【0020】
当該実施形態における透明樹脂基材2の表面21は鏡面加工されていることが望ましい。一方、透明樹脂基材2の裏面22は凹凸面5を有する。
【0021】
当該実施形態における透明樹脂基材2の裏面22に形成される凹凸面5は、凹凸面5の反転状の微細なパターンが形成された型面を有する成形型のキャビティ内に、上記より選択された溶融樹脂材料を射出成形し、この型面に形成された微細なパターンを透明樹脂基材2の裏面22に正確に転写することにより形成されうる。
【0022】
成形型に形成される微細なパターンは、サンドブラスト法、化学エッチング法、フォトエッチング法、電鋳加工、放電加工及びノングレア処理等、成形型の型面を鏡面表面以外とするための従来から知られた各種方法により形成することができる。
【0023】
当該実施形態におけるヘアライン形状51の反転形状を成形型に形成する方法として、ヘアライン加工がある。ヘアライン加工は、例えば、成形型表面を脱脂した後に旋盤やけがき工具を用いて切削したり、エッチング、電極放電、サンドブラスト等の方法によって行われる。ここでヘアライン形状とは、単一方向に延びる毛髪程の微細な溝の形状を意味する。
【0024】
当該実施形態におけるヘアライン形状51は、ヘアラインの線幅が1μm以上50μm以下が望ましく、より望ましくは25μm以上35μm以下である。また、ヘアラインの溝の深さは、1μm以上5μm以下が望ましく、より望ましくは1μm以上3μm以下である。このような線幅、溝の深さを有するヘアライン形状は、艶消し効果を有する金属質感を強調することに効果的である。
【0025】
当該実施形態におけるヘアライン形状51は、ヘアラインに対して直交方向の線粗さRa(算術平均粗さ)が1.0μm以上3.0μm以下であることが望ましく、より望ましくは1.5μm以上2.5μm以下である。また、ヘアラインに対して直交方向の線粗さRz(十点平均粗さ)が5.0μm以上20μm以下であることが望ましく、より望ましくは10μm以上15μm以下である。ここで、RaはJIS B0601:2001に規定された算術平均粗さを意味しており、Rzは粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜取り部分の平均線から縦倍率の方向に測定した、最も高い山頂から5番目までの山頂の標高(Yp)の絶対値の平均値と、最も低い谷底から5番目までの谷底の標高(Yv)の絶対値の平均値との和を求め、この値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう。
【0026】
当該実施形態におけるヘアライン形状51の線粗さRa、Rzが上記範囲内にあることにより、ヘアライン形状51による艶消し効果を効果的に発揮でき金属質感を強調することに有利である。
【0027】
加飾層3は、透明樹脂基材2の裏面22側に積層しており、複数の金属フレーク31が堆積してなる薄膜である。加飾層3は、透明樹脂基材2の裏面22全体を被覆する薄膜であることが望ましい。
【0028】
また、図2に示すように、透明樹脂基材2の裏面22と接する加飾層3の界面32は、裏面22に設けられている凹凸面5の形状であるヘアライン形状51と整合する形状をなす。すなわち、当該実施形態における透明樹脂基材2の裏面22には、この裏面22に設けられているヘアライン形状51の凹凸面5に倣うようにして複数の金属フレーク31が堆積している。
【0029】
加飾層3の界面32に存在する金属フレーク31は、透明樹脂基材2の凹凸面5と隙間なく密着していることが望ましい。さらに、加飾層3内で隣接する金属フレーク31同士は、隙間なく密着していることが望ましい。このように、金属フレーク31が加飾層3で堆積していることにより、凹凸面5のヘアライン形状51が加飾層3によってより効果的に表現されうる。
【0030】
樹脂製部材を金属調に表現する金属調塗装において、透明樹脂基材2の裏面22に形成された微細な凹凸面5に複数の金属フレーク31が堆積してなる加飾層3を形成する場合に、加飾層3における透明樹脂基材2との界面32が透明樹脂基材2の裏面22の凹凸面5に整合していることが、凹凸面5の形状を十分に表現するために必要である。
【0031】
また、加飾層3の界面32は、凹凸面5の形状に整合するように形成され、かつ、界面32とは反対側の他面33が凹凸面5に対応した形状をなすことが望ましい。これは、他面33が平面となるよりも凹凸面5に対応する凹凸形状、すなわち、界面32の凹凸形状に対応する凹凸形状とする方が、加飾層3の層厚を小さくすることができる。結果として、金属フレーク31の量を少なくすることができる。よって、製造コストの低減に有利となる。
【0032】
さらに、図1及び図2に示すように加飾層3の層厚が均一になるようにして、加飾層3は透明樹脂基材2の裏面22に付された凹凸面5の形状に整合していることがより望ましい。換言すると、加飾層3における透明樹脂基材2との界面32と、他面33のどちらにおいても透明樹脂基材2の裏面22に設けられている凹凸面5の形状と整合していることがより望ましい。ここで均一とは略均一も含む概念である。
【0033】
このように加飾層3が凹凸面5の形状に整合するように形成されるためには、堆積される金属フレーク31の1つの厚さは10nm以上100nm以下であることが望ましく、10nm以上50nm以下であることがより望ましく、10nm以上30nm以下であることが特に望ましい。一般的に用いられている、金属調塗料に含有される1つの金属フレークの厚さは400nm程度である。このような厚みを有する金属フレークでは、厚みが大きいため硬く柔軟性に欠け、微細な凹凸面の形状に沿って形状を変形させることが難しいものと考えられる。一方、当該実施形態の金属フレーク31のようにその厚さが上記範囲内であれば、金属フレーク31は十分に薄くなるため柔軟性に優れ、微細な凹凸面5の形状に沿って形状を変形させることができるものと考えられる。つまり、上記範囲内の厚さを有する金属フレーク31は、凹凸面5の形状に追従するように堆積することができ、凹凸面5の形状に追従するような形状を有する加飾層3が効果的に形成されうる。
【0034】
したがって、当該実施形態の金属調加飾部材1は凹凸面5の形状であるヘアライン形状51を十分に表現でき、所望とする金属質感(例えば艶消し効果や金属がもつ重厚感)を表現することができる。
【0035】
加飾層3の層厚は、100nm以上500nm以下であることが望ましい。このような加飾層3の層厚を有することにより、十分に金属質感を強調することができ、また、凹凸面5の形状であるヘアライン形状51を十分に表現するために効果的である。
【0036】
当該実施形態における加飾層3は、複数の金属フレーク31を含有する光輝性塗料を透明樹脂基材2の裏面22に塗布することにより形成されている。光輝性塗料は、光輝性顔料である薄板状の金属フレーク31と、溶剤と、バインダーと、必要に応じて可塑剤や分散材などの添加剤を添加して調製されている。
【0037】
当実施形態における金属フレーク31の大きさは、5μm以上15μm以下であることが望ましい。より望ましくは、5μm以上10μm以下である。金属フレーク31の大きさが上記範囲内であることにより、金属フレーク31同士の過剰な凝集を抑制でき、過剰に凝集した金属フレーク31の堆積による透明樹脂基材2との密着性の低下を抑制することができる。したがって、外観におけるムラの発生を抑制することができる。また、金属フレーク31の大きさが上記範囲内であることにより、塗料内で金属フレーク31を効果的に分散させることができ、上記同様に外観におけるムラの発生を抑制することができる。
【0038】
ここで、金属フレーク31の厚さとは、金属フレーク31を水平に置いた場合の、その上下面に対して垂直な方向に沿った金属フレーク31の長さである。当該実施形態の金属調加飾部材1では、透明樹脂基材2の裏面22に対して垂直な断面において観察される金属フレーク31の長手方向に垂直な方向の長さを金属フレーク31の厚さと定義する。具体的には、TEM(透過電子顕微鏡)等の電子顕微鏡を用いて加飾層3の任意位置の断面において、金属フレーク31の長手方向に対して垂直な方向の長さをn=10以上測定しこれらの平均値を金属フレーク31の厚さ(nm)とする。
【0039】
また、金属フレーク31の大きさとは、金属フレーク31を水平に置いた場合の、水平な面に金属フレークを投影した形状における長手方向の長さ(μm)をいう。
【0040】
当該実施形態における加飾層3に含有される金属フレーク31の配合量は、加飾層3の全固形分100質量部に対して50質量部以上90質量部以下であることが望ましく、より望ましくは70質量部以上80質量部以下である。加飾層3における金属フレーク31の配合量が上記範囲内であることにより、金属フレーク31は透明樹脂基材2の裏面22に設けられている凹凸面5により良好に整合するようにして堆積される。また、金属フレーク31の配合量が上記範囲内であることにより、バインダー固形分をより少なくすることができるため、金属フレーク31同士の隙間を小さくすることができ密着性を向上させることができる。よって、加飾層3の界面32における金属フレーク31同士が可能な限り隙間なく存在でき、かつ、界面32と凹凸面5との間も可能な限り隙間を作ることなく密着させることができる。つまり、加飾層32の金属フレーク31がヘアライン形状51の形状に効果的に追従できるために、ヘアライン形状51をより効果的に表現することができる。
【0041】
当該実施形態における金属フレーク31は、蒸着に用いられるような金属であって層厚1μm未満の薄膜を形成し得る金属材料を用いることができる。このような金属材料としては、例えば、Al、Ag、Au、Sn、In、Ti、Ni、Mg、Crや、これら2種以上を含む合金等が挙げられる。これらのうち、特に金属材料としてAlを用いることが成形性及び製造コスト等の観点から望ましい。金属フレーク31は表面処理されているものが望ましい。
【0042】
光輝性塗料に含有させる溶剤は、有機溶剤であることが望ましい。このような有機溶剤としては、芳香族炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤等を挙げることができる。
【0043】
光輝性塗料に含有されるバインダーは、樹脂バインダーであることが望ましい。樹脂バインダーとしては、一般に塗膜形成樹脂として用いられている樹脂などを用いることができ、例えばアクリル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂等が挙げられる。また、添加剤としては、ポリエチレンワックス及びポリプロピレンワックスなどのワックス類や、分散剤等が用いられる。
【0044】
保護層4は、透明樹脂基材2と反対側の加飾層3の面を被覆している。保護層4は、加飾層3が透明樹脂基材2から剥離することを抑制し、かつ、加飾層3に含有される金属フレーク31の腐食を抑制する。保護層4を形成する塗料の材料は特に限定されるものではなく、例えば熱硬化性樹脂等をバインダーとし、カーボンブラック等を顔料とした塗料を用いることができる。
【0045】
保護層4の層厚は、20μm以上70μm以下であることが望ましい。保護層4は、上記した塗料を塗布して加飾層3に形成されることが望ましい。
【0046】
以上のような構成を有する当該実施形態の金属調加飾部材1は、透明樹脂基材2の表面21の任意位置から計測したL値が55以上75以下であることが望ましく、より望ましくは、60以上70以下である。金属調加飾部材1のL値が上記範囲内であることにより、より強く金属質感を表現することができる。ここでL値とは、JIS Z8729に記載のLab表色系で規定される値である。
【0047】
また、透明樹脂基材2の表面21の任意位置から計測した光沢度(グロス60°)は100以上300以下であることが望ましく、より望ましくは120以上150以下である。金属調加飾部材1の光沢度が上記範囲内であることにより、より強く金属質感を表現でき、また艶消し効果や金属のもつ重厚感を十分に表現することができる。ここで光沢度(グロス60°)とは、JIS Z8741に規定される方法によって算出された値である。
【0048】
次に当該実施形態の金属調加飾部材1の製造方法について説明する。当該実施形態における透明樹脂基材2の裏面22の凹凸面5は、ヘアライン形状51を有する。
【0049】
まず、裏面22にヘアライン形状51を有する透明樹脂基材2を、射出成形工程によって成形する。透明樹脂基材2の裏面22に施されるヘアライン加工は、透明樹脂基材2の裏面22を形成する成形型の型面を脱脂した後に、この型面に例えばサンドペーパー等によって所望とする溝・幅を有するヘアライン形状51の反転形状を形成する。次に、この成形型内に上記より選択される溶融樹脂材料を射出し、透明樹脂基材2を成形する。これにより、成形型の型面に設けられたヘアライン形状51の反転形状が透明樹脂基材2の裏面22に転写され、裏面22にヘアライン形状51を有する透明樹脂基材2が成形される。例えば、樹脂材料がアクリル樹脂やポリカーボネート樹脂である場合には、射出圧力は100MPa以上、成形型温度は80℃以上であることが望ましい。
【0050】
次に、射出成形工程によって成形された透明樹脂基材2の裏面22のヘアライン形状51に、上記より選択された金属フレーク31を含有する光輝性塗料を塗布する塗布工程を行う。これにより、透明樹脂基材2の裏面22に加飾層3が被覆される。
【0051】
その後、保護層4を形成する塗料を加飾層3を加飾層3上に塗布して乾燥させて保護層4を形成する保護層形成工程を行う。以上により、当該実施形態の金属調加飾部材1が製造される。
【0052】
当該実施形態の金属調加飾部材1の製造方法によれば、透明樹脂基材2の裏面22に施されるヘアライン加工は、成形型の型面からの転写によって行われる。したがって、当該実施形態における製造方法は、成形された透明樹脂基材2の裏面22に直接ヘアライン加工を施す方法に比べて、量産性に優れた製造方法であるといえる。
【0053】
また、当該実施形態の金属調加飾部材1の製造方法によれば、加飾層3を加飾層3を形成する光輝性塗料を塗布することにより形成している。したがって、当該実施形態における製造方法は、蒸着やスパッタリング等の薄膜形成法に比べてより簡易であり、製造設備の縮小化や製造コストの低減に優れた製造方法であるといえる。
【0054】
[本発明の金属調加飾部材における評価]
以下、本発明の金属調加飾部材1について図2図5を参照しながら評価する。
【0055】
実施例1として、上記した金属調加飾部材1の製造方法によりヘアライン形状51を裏面22に施したアクリル樹脂からなる1.5mmの厚さの透明樹脂基材2を準備した。ヘアライン形状51は、ヘアライン溝の幅が20μm、ヘアライン溝の深さが3μmの形状とした。透明樹脂基材2の裏面22全体に、厚さ20nm、大きさ10μmのアルミニウムフレークを含有した光輝性塗料を塗布して、200nmの厚さの加飾層3を形成した。その後、バインダーとしてのアクリルウレタン系樹脂、顔料としてのカーボンブラックを含有する塗料を、加飾層3上に塗布して乾燥させて、25μmの厚さの保護層4を形成し、実施例1の金属調加飾部材1を成形した。
【0056】
比較例1としては、光輝性塗料に含有されるアルミニウムフレークの形状を、厚さ400nm、大きさ20μmとしたこと以外は実施例1と同様にして比較例1の金属調加飾部材10を成形した。
【0057】
実施例1及び比較例1の金属調加飾部材1、10における、透明樹脂基材2、20の表面21、201に対して垂直な断面を電子顕微鏡にて観察した。結果を図3図6に示す。図3及び図4は実施例1の断面写真であり、図5及び図6は比較例1の断面写真である。
【0058】
図3図6より明らかなように、実施例1の金属調加飾部材1における加飾層3は、ヘアライン形状51に整合した形状をなしているため、ヘアライン形状51が明確に表現できている。これは、実施例1における金属フレークの厚さが十分に薄く柔軟性に優れているため、加飾層3の界面32において金属フレークが透明樹脂基材2の凹凸面5の形状に十分に追従できているためであると考えられる。
【0059】
一方、比較例1の金属調加飾部材10における加飾層30は、ヘアライン形状501に整合した形状をなしておらず、ヘアライン溝を消すように加飾層30の金属フレークが堆積している。よって、比較例1の金属加飾部材10はヘアライン形状501を十分に表現できていない。これは、比較例1における金属フレークの厚さが厚すぎ柔軟性に欠けているため、金属フレークが透明樹脂基材20の凹凸面501の形状に追従できていないためであると考えられる。
【0060】
したがって、本発明による金属調加飾部材1及びその製造方法によれば、ヘアライン形状51等の凹凸面5を十分に表現でき、金属光沢とは異なった金属質感を表現させることができる。よって、金属のもつ重厚感及び艶消し効果による高級感のある金属質感を表現できる本発明の金属調加飾部材1及びその製造方法は、意匠性に優れたものとなる。
【0061】
以上、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0062】
例えば、本実施形態における凹凸形状はヘアライン形状としているが、その他梨地状形状、皮シボ状形状、幾何学模様形状とすることも可能である。
【0063】
梨地状の微細な凹凸形状を形成するための方法の具体例としては、例えば、成形型表面を脱脂した後に、必要に応じてマスキングして乾燥し、その表面を酸で処理する方法が挙げられる。
【0064】
皮シボ状の凹凸形状を形成するための方法としては、皮シボのパターンを金型に転写し、必要に応じてマスキングした後に、エッチングとサンドブラストを繰り返して皮シボ状の凹凸形状を形成することができる。
【0065】
また、幾何学模様の凹凸形状を形成するための方法としては、いわゆるフォトエッチングの方法が用いられる。具体的には、成形型面の脱脂、フィルムトリミング、レジスト塗布、フィルム添付、露光、加熱現像、エッチング、レジスト除去、サンドブラストの工程を繰り返して幾何学模様の凹凸形状を形成することができる。
【0066】
また、当該実施形態の金属調加飾部材は、透明樹脂基材の裏面に凹凸面を設け、この凹凸面上に加飾層、保護層の順で積層している。しかしながら、これに代えて、保護層の表面に凹凸面を設け、この凹凸面の形状に整合する加飾層を設け、その後この加飾層上に、ポッティング等によって透明樹脂基材を設けるように成形されてもよい。
【0067】
また、加飾層3の金属フレーク31同士は隙間なく密着していることが望ましいが、バインダーである樹脂材料が存在していてもよい。同様に加飾層3の界面32に存在する金属フレーク31と透明樹脂基材2の凹凸面5との間もバインダーである樹脂材料が存在していてもよい。この場合において、加飾層3におけるバインダー固形分量は少ないことが望ましく、例えば加飾層3の全固形分100質量部に対して1質量部以上20質量部以下であることが望ましく、より望ましくは5質量部以上10質量部以下である。なお、当該実施形態における金属フレーク31の厚さは、10nm以下30nm以下と薄く制御されているため、金属フレーク31同士及び金属フレーク31と凹凸面5との接着性は十分に保たれる。すなわち、金属フレーク31同士及び金属フレーク31と凹凸面5との間に存在するバインダーは、仮止め程度の効果を奏するものであればよい。また、当該実施形態の金属調加飾部材1では加飾層3上に保護層4が設けられているため、加飾層3が透明樹脂基材2から剥離することを抑制できる。また、透明樹脂基材2を介して加飾層3を視認するとき、金属フレーク31同士の隙間から保護層4が視認されないように、金属フレーク31は堆積している。
【0068】
本発明は以下のように表現できる。
〈1〉裏面21に凹凸面5を有する透明樹脂基材2と、透明樹脂基材2の裏面22に積層する加飾層3と、を有し、加飾層3は複数の金属フレーク31が堆積されてなり、加飾層3において、透明樹脂基材2との界面32は凹凸面5に整合した形状をなす金属調加飾部材1。
〈2〉加飾層3における界面32とは反対側の面(他面)33は、凹凸面5に対応した形状をなす〈1〉に記載の金属調加飾部材1。
〈3〉加飾層3の層厚は、100nm以上500nm以下である〈1〉又は〈2〉に記載の金属調加飾部材1。
〈4〉凹凸面5はヘアライン形状51を有し、ヘアライン形状51のヘアライン幅は、1μm以上50μm以下であり、ヘアライン形状51のヘアライン深さは、1μm以上5μm以下である〈1〉〜〈3〉の何れか一つに記載の金属調加飾部材1。
〈5〉金属フレーク31の厚さは、10nm以上30nm以下である〈1〉〜〈4〉の何れか一つに記載の金属調加飾部材1。
〈6〉金属フレーク31は、Al、Ag、Au、Sn、In、Mgより選択される少なくとも1つの金属からなる〈1〉〜〈5〉の何れか一つに記載の金属調加飾部材1。
〈7〉加飾層3における界面32とは反対側の面(他面)33には保護層4が設けられている〈1〉〜〈6〉の何れか一つに記載の金属調加飾部材1。
〈8〉〈1〉に記載の金属調加飾部材1の製造方法であって、溶融樹脂を成形型内に射出して透明樹脂基材2を成形する射出成形工程において、凹凸面5は成形型の型面に設けられた形状を転写して形成される金属調加飾部材1の製造方法。
【0069】
さらに本発明は、上記に加えて以下のように表現されるものであってもよい。
〈9〉透明樹脂基材2の裏面22に設けられた凹凸面5に、金属フレーク31を含有する塗料を塗布して加飾層3を形成する塗布工程を有する〈8〉に記載の金属調加飾部材1の製造方法。
〈10〉凹凸面5は、ヘアライン形状51である〈8〉又は〈9〉に記載の金属調加飾部材1の製造方法.
〈11〉金属フレーク31の厚さは、10nm以上30nm以下である〈8〉〜〈10〉の何れか一つに記載の金属調加飾部材1の製造方法。
〈12〉金属フレーク31の大きさは、5μm以上15μm以下である〈8〉〜〈11〉の何れか一つに記載の金属調加飾部材1の製造方法。
【符号の説明】
【0070】
1:金属調加飾部材 2:透明樹脂基材 21:表面
22:裏面 3:加飾層 31:金属フレーク
32:界面 33:他面 4:保護層
5:凹凸面 51:ヘアライン形状
図1
図2
図3
図4
図5
図6