(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に本発明を実施するに当たり、好ましい態様を記載する。
【0009】
本発明の触媒は、モリブデン、バナジウムを触媒活性成分として含有すれば、他の金属成分に特に制限はない。アクリル酸製造用触媒の活性成分として好ましい複合金属酸化物の組成を一般式で表すと、例えば下記式(1)の通りである。
(Mo)
12(V)
a(W)
b(Cu)
c(Sb)
d(X)
e(Y)
f(Z)
g(O)
h (1)
(式中、Mo、V、W、Cu、Sb、およびOはそれぞれ、モリブデン、バナジウム、タングステン、銅、アンチモンおよび酸素を示し、Xはアルカリ金属、およびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を、Yはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよび亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を、Zはニオブ、セリウム、すず、クロム、マンガン、鉄、コバルト、サマリウム、ゲルマニウム、チタンおよび砒素からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素をそれぞれ示す。またa、b、c、d、e、f、gおよびhは各元素の原子比を示し、モリブデン原子12に対して、aは0<a≦10、bは0≦b≦10、cは0<c≦6、dは0≦d≦10、eは0≦e≦0.5、fは0≦f≦1、gは0≦g<6を表す。また、hは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子数である。)一般式に記載したとおり、本触媒はモリブデン、バナジウムを必須の活性成分とするイソポリ酸の結晶構造を有する触媒であることが本質であるため、その他の成分に発明の効果が限定されるものではない。
【0010】
本発明の上記触媒において、モリブデン及びバナジウムに加えて銅を必須成分とすることが好ましく、その場合、上記式(1)で表される組成が好ましい。
【0011】
本発明の触媒は、触媒活性成分を含有する化合物と水との混合物を乾燥して得られた粉体を焼成したのち、転動造粒法により成形して得ることができる。以下、工程ごとに好ましい実施態様を記載する。
【0012】
工程a)調製
触媒活性成分の調製に使用する原料については、特に限定するものではないが、一般に使用されるアンモニウム塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、酸化物、塩化物等が用いられる。これらの化合物の具体例としては、モリブデン含有化合物として、三酸化モリブデン、モリブデン酸またはその塩等が、バナジウム含有化合物として、五酸化バナジウム、硫酸バナジル、バナジン酸またはその塩等が、銅含有化合物として、酸化銅、硫酸銅、硝酸銅、酢酸銅、モリブデン酸銅等が、アンチモン含有化合物として、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、三塩化アンチモン等が挙げられる。また、タングステン含有化合物として、タングステン酸またはその塩等が挙げられる。本発明の触媒を調製する際には、まず上記した触媒活性成分含有化合物と水を混合して水溶液または水分散体を調製する。(以下特に断りのないかぎりこれらの水溶液または水分散体を併せて単にスラリー溶液という。)本発明においては、スラリー溶液を形成する溶剤が水であるのが好ましい。スラリー溶液中の各触媒活性成分含有化合物の含有割合については、特に制限はなく、上記式(1)の原子比の範囲となればよい。各成分原料を添加する際に水に溶解あるいは分散して添加するのが好ましいが、その際に用いる水の使用量は、用いる化合物の全量を完全に溶解できる、または均一に混合できる量であれば特に制限はないが、下記する乾燥工程や温度等を勘案して適宜決定され、通常化合物の合計質量100質量部に対して200質量部以上2000質量部以下である。水の量が少な過ぎると化合物を完全に溶解、または均一に混合できない。また、水の量が多過ぎると乾燥工程のエネルギーコストが増大するという経済的な問題や乾燥が不十分になるという問題が生じる。
【0013】
工程b)乾燥
次いで上記で得られた均一なスラリー溶液を乾燥する。乾燥方法は、スラリー溶液が乾燥でき、全体として成分が均一となる粉体が得られる方法であれば特に制限はなく、例えばドラム乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等が挙げられる。これらのうち本発明においては、スラリー溶液状態から短時間に粉末状態に乾燥することができるという理由で噴霧乾燥が好ましい。この場合の乾燥温度はスラリー溶液の濃度、送液速度等によって異なるが概ね乾燥機の出口における温度が85℃以上130℃以下である。また、この際得られる乾燥粉体の平均粒径が20μm以上60μm以下となるよう乾燥するのが好ましい。
【0014】
工程c)予備焼成・粉砕
次いで上記で得られた乾燥粉体を必要に応じ200℃以上600℃以下、好ましくは300℃以上450℃以下で、1時間以上15時間以下、好ましくは3時間以上8時間以下で予備焼成し、必要により予備焼成後の粉末を粉砕して予備焼成顆粒を得る。
【0015】
工程d)成形
本発明の触媒は、炭化珪素、アルミナ、ムライト、アランダム等の直径2.5mm以上10mm以下の球形担体に液状のバインダー成分を使用して転動造粒法等により、遠心加速度を0.5G以上30G以下として前記工程を経て調製された顆粒を被覆担持させて製造するものである。転動造粒法は、例えば固定容器内の底部に、平らなあるいは凹凸のある円盤を有する装置中で、円盤を高速で回転することにより、容器内の担体を自転運動と公転運動の繰り返しにより激しく撹拌させ、ここに液状バインダーと予備焼成顆粒と、また必要により成型助剤並びに強度向上剤の混合物を添加することにより該混合物を担体に被覆する方法である。このとき、遠心加速度を0.5G以上30G以下とすることで触媒性能と機械的強度を兼ねそなえた触媒を製造することが出来る。造粒の際の相対遠心加速度が小さいと、機械的強度が弱く反応管への充填作業によって触媒成分が剥離してしまうため、活性成分担持率が不均一になることや、剥離した粉末により圧力損失が上昇してしまい、実用に耐えない触媒となる。また、相対遠心加速度が大きいと触媒性能が低下する傾向にある。相対遠心加速度が30Gを超えると、造粒工程中に触媒活性成分の剥離などが生じる場合も有り、好ましくない。相対遠心加速度は以下の式で計算することが出来る。
【0016】
相対遠心加速度(G)=11.18×底板半径(m)×底板回転数
2(rpm)/10
8
【0017】
液状バインダーは、前記混合物に予め混合しておく、混合物を固定容器内に添加するのと同時に添加、混合物を添加した後に添加、混合物を添加する前に添加、混合物と液状バインダーをそれぞれ分割して同時または交互に添加する方法、など以上の方法を適宜組み合わせて全量添加する等の方法が任意に採用しうる。このうち混合物と液状バインダーをそれぞれ分割して交互に添加する方法においては、例えば混合物の固定容器壁への付着、混合物同士の凝集がなく担体上に所定量が担持されるようオートフィーダー等を用いて添加速度を調節して行うのが好ましい。
【0018】
液状バインダーとしては、水、エタノール、高分子系バインダーのポリビニールアルコール、無機系バインダーのシリカゾル水溶液等が挙げられるが、エチレングリコールやグリセリン等のジオール類やトリオール類等のアルコール類が好ましく、グリセリンが特に好ましい。アルコール類はそのまま用いてもよいが、濃度10質量%以上の水溶液として用いることが高性能触媒を得るのに有効である。これら液状バインダーの使用量は、予備焼成顆粒100質量部に対して通常10質量部以上50質量部以下である。
【0019】
用いることのできる担体の具体例としては、炭化珪素、アルミナ、ムライト、アランダム等の直径2.5mm以上10mm以下の球形担体等が挙げられる。これら担体のうち気孔率が30%以上50%以下、吸水率が10%以上30%以下、水銀ポロシメーターによる累積比表面積が0.1m
2/g以上50m
2/g以下であり、累積細孔容積が0.05ml/g以上2ml/g以下の担体を用いるのが好ましい。担体に添加する予備焼成顆粒は、通常、予備焼成顆粒/(予備焼成顆粒+担体)=10質量%以上75質量%以下、好ましくは15質量%以上50質量%以下となるように調整して使用する。
【0020】
工程e)本焼成
このようにして得られた成形品を成形後に再び焼成(本焼成)して触媒を得ることができる。本焼成温度は通常250℃以上500℃以下、好ましくは300℃以上450℃以下、本焼成時間は1時間以上50時間以下であり、好ましくは3時間以上8時間以下である。
【0021】
触媒の製造工程としては本焼成工程で終了であるが、本発明の触媒においては、長期間の保管後も製造直後の触媒と同等の性能を発揮することが出来る。
【0022】
本発明の触媒は、保管後の触媒の水分量が0.01質量%以上0.53質量%以下、好ましくは0.01質量%以上0.4質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以上0.3質量%以下とすることで、長期間の保管後も製造直後の触媒と同等の性能を発揮することが出来る。
【0023】
水分量は例えば市販の赤外式水分測定装置を用いて測定することが出来る。具体的には、株式会社ケツト化学品研究所製FD−720が例示される。触媒の水分量は以下の式で計算される。当然の事ながら、水分量の測定方法はこの方法に限定されるものではなく、触媒に含まれる水分量を正確に求められる方法であれば良い。
水分量=(乾燥前の触媒質量―乾燥後の触媒質量)/乾燥前の触媒質量×100
本発明における絶対湿度は、乾球温度計と湿球温度計という2本の温度計を用いたトヤマ式温湿(JIS Z8806)より、温度、湿度を測定し、乾湿計用温度表より絶対湿度を導き出した。尚、乾湿系用温度表は、理科年表 国立天文学台編 第79冊 を参考とした。
【0024】
本発明の触媒として好ましいのは、触媒に含まれる水分量が0.01質量%以上0.53質量%以下、好ましくは0.01質量%以上0.4質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以上0.3質量%以下の範囲を満たす触媒である。
【0025】
本発明の触媒の保管方法は、触媒に含まれる水分量が0.01質量%以上0.53質量%以下、好ましくは0.01質量%以上0.4質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以上0.3質量%以下の範囲を満たすような方法であれば特段限定されない。例えば、保管中に絶対湿度0.011kg−H
2O/kg−Air以上の湿度を有する外気との接触時間を7時間未満、好ましくは4時間以下の条件下などが挙げられる。
【0026】
本発明の触媒の保管方法によって、絶対湿度が0.011kg−H
2O/kg−Air以上の湿度で保管する場合、吸湿性が著しい上昇、水分量の増加、それらの影響による保管後の触媒の性能低下を防ぐことができる。
【0027】
本発明の触媒によるアクリル酸の製造方法は単流通法でも、あるいは反応原料リサイクル法であってもよく、公知の条件下で実施することができる。例えば、出発原料としてのアクロレイン2容量%以上10容量%以下、好ましくは3容量%以上9容量%以下、分子状酸素2容量%以上12容量%以下、好ましくは3容量%以上10容量%以下、水蒸気0容量%以上40容量%以下、好ましくは5容量%以上35容量%以下、不活性ガス(窒素、炭酸ガス等)28容量%以上93容量%以下、好ましくは35容量%以上86容量%以下等からなる混合ガスを、前記触媒上に200℃以上400℃以下で、ゲージ圧0kPaG以上200kPaG以下の圧力下で、空間速度(=原料ガス流量/充填した触媒のみかけの容量)500/hr以上3000/hr以下で導入することにより反応を行う。なお、上記混合ガスは、プロピレンを公知の方法で酸化して得られたガスを使用してよく、この場合、未反応のプロピレンや他の副生物が混在していてもよい。
【実施例】
【0028】
以下、具体的例を挙げて本発明の実施する態様を詳細に説明する。当然のことながら、本発明はその趣旨を逸脱しない限り実施例に限定されるものではなく、実施例に例示する担持触媒に限定されるものでなければ、その担持量に限定されるものでもない。
なお、実施例、比較中の部は質量部を意味する。また、アクロレイン収率、アクリル酸収率は下式のように定義する。
アクロレイン収率(モル%)=100×(生成したアクロレインのモル数)/(供給したプロピレンのモル数)
アクリル酸収率=100×(生成したアクリル酸のモル数)/(供給したプロピレンのモル数)
【0029】
触媒製造例1
撹拌モーターを備えた調合槽(A)に95℃の純水600部とタングステン酸アンモニウム16.26部を加え、撹拌した。次に、メタバナジン酸アンモニウム18.22部、モリブデン酸アンモニウム110部を溶解した。次に、三酸化アンチモン3.88部を加えた。脱イオン水96部の入った調合槽(B)に硫酸銅15.56部を溶解し、その溶液を調合槽(A)に加えスラリー溶液を得た。噴霧乾燥機の出口温度が約100℃になるように送液量を調整して上記で得られたスラリー溶液を乾燥した。このようにして得られた顆粒を空気流通下、350℃で5時間予備焼成した。
【0030】
次いで予備焼成顆粒をボールミルで粉砕し、粉体(以下これを予備焼成粉体という)を得た。直径4.5mmのアランダム担体300部を底板の直径23cm転動造粒器に投入し、底板を毎分100回転で回転させることで遠心加速度を1.3Gとした。ここにグリセリン20質量%水溶液50部を振りかけながら、上記で得られた予備焼成粉体を担持率が30質量%となるよう担持した。得られた成形品を空気流通下で390℃で5時間焼成し、触媒A1を得た。触媒A1の活性成分比率はモリブデンを12としたとき
Mo
12V
3W
1.2Cu
1.2Sb
0.5 であった。
【0031】
実施例1〜3および比較例1について、以下の手順で、触媒A1の保管試験、水分量測定、酸化反応を行った。実施例1〜3および比較例1の結果を表1に示す。
(保管試験)
触媒A1を恒温・恒湿度室で絶対湿度と保管時間を変化させた条件で触媒を保管した。保管中は触媒を金属製の容器に入れ、蓋をせずに室内の空気と接触させ続けた。また、保管方法を検討する為に触媒を70μmの厚みを有するポリエチレン製の袋に保管する試験も実施した。ここで、触媒A1の保管後の触媒を、以後、触媒B1とする。
【0032】
(水分量測定)
各種条件で保管した触媒5gを、株式会社ケツト化学品研究所製FD−720を用いて温度120℃にて乾燥した。120℃における質量変化が30秒間で0.05%以内になる事をもって乾燥を完了し、以下の式より水分量を求めた。
水分量(%)=(乾燥前の触媒質量―乾燥後の触媒質量)/乾燥前の触媒質量×100
【0033】
(酸化反応)
前段反応器として、熱媒体としてアルミナ粉末を空気により流動させるためのジャケット及び触媒層温度を測定するための熱電対を管軸に設置した、内径28.4mmのステンレス製反応器に担持触媒モリブデン、ビスマス、鉄を主成分とする触媒68mlを充填し、反応浴温度を320℃にした。
ここに原料モル比がプロピレン:酸素:窒素:水=1:1.7:6.4:3.0となるようにプロピレン、空気、水の供給量を設定したガスを空間速度862h
−1で酸化反応器内へ導入してアクロレインを含有する反応生成ガスを製造した。この時のプロピレンの反応率は97%であった。
【0034】
後段反応として、熱媒体としてアルミナ粉末を空気により流動させるためのジャケット及び触媒層温度を測定するための熱電対を管軸に設置した内径28.4mmのステンレス製反応器に表1の保管試験の条件で保管後の触媒B1を68ml充填し、反応浴温度を260℃にした。
前段反応器からの反応生成ガス全量に、前段反応器入口におけるプロピレンに対する酸素のモル比が0.5になるように流量を調節した空気を混合したガスを後段反応器に供給した。
【0035】
上記後段の酸化反応条件での反応開始後20時間が経過したところで、ガスクロマトグラフィーによる反応生成物の定量分析を実施し、触媒B1が充填されている後段反応器の出口におけるアクリル酸収率を求めた。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】