【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述した種々の被軸封機器の中には、長時間又は長期間にわたり連続して運転されるのではなく、例えば攪拌機のように1日のうち何回かバッチ運転され、夜間には運転を停止して洗浄作業等が行われる機器がある。ドライコンタクトシールでは、機器が起動又は停止するときに、静止環と回転環とが摺動するシール部に大きな摩擦熱が発生するが、前記バッチ運転が行われる機器では、当該機器の起動及び停止の回数が多いことから、前記シール部の温度が常温から大きく変化する機会が多くなる。換言すれば、急速な温度変化が繰り返し行われる状態となり、静止環又は回転環におけるシール部と他の部位との間に温度差が生じ、この温度差に起因して前記静止環又は回転環に熱歪が発生する虞がある。
【0006】
また、例えば攪拌機の場合、乾燥工程において機内側温度が150℃程度の高温になることがあるが、このとき機外側(大気)の温度は常温であるので、その温度差が大きくなる。このため、機内側と機外側の間にあるドライコンタクトシールにおける静止環及び回転環も温度変化の影響を受け、前記機内側の高温の流体と接触するシール面と、他の面(外周面、内周面又は背面)との間に温度差が生じ、この温度差に起因して当該静止環又は回転環に熱歪が発生する虞がある。
【0007】
回転環又は静止環に熱歪が発生すると、回転環のシール面と静止環のシール面との平行性を保つことができなくなり、異常摩耗や流体漏れに繋がる虞がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、回転環又は静止環の部位間の温度差に起因して当該回転環又は静止環に生じる熱歪を防止又は抑制することができるドライコンタクトシールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の第1の観点に係るドライコンタクトシールは、回転軸に設けられた回転環と、前記回転環と軸方向に対向して配設された静止環と、前記回転環と静止環との対面するシール面同士を接触させるべく当該回転環及び静止環のうちの一方を他方側に押す弾性手段と、を備え、前記シール面間を挟んで軸方向一方側の第1空間と軸方向他方側の第2空間とを仕切るドライコンタクトシールであって、
前記静止環は、SiCの焼結体又は超硬合金で作製されており、
前記静止環における前記回転環と対面するシール面にダイヤモンド膜が形成されており、且つ、
前記静止環の外周面又は内周面、及び、前記静止環における前記シール面と反対側の面である背面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されている。
【0010】
本発明の第1の観点に係るドライコンタクトシールでは、静止環の外周面又は内周面、及び、当該静止環における前記シール面と反対側の面である背面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されている。ダイヤモンド膜は1000〜2000W/m・kという大きな熱伝導率を有している。このため、静止環の摺動面であるシール面で発生した摩擦熱又はシール面近傍の高温流体から伝わった熱を速やかに当該静止環の外周面又は内周面に形成されたダイヤモンド膜を経由して静止環の背面に形成されたダイヤモンド膜に伝えることができる。これにより、静止環のシール面と背面との間の温度差を緩和し、前記温度差に起因する熱歪が静止環に生じるのを防止又は抑制することができる。その結果、回転環のシール面と、静止環のシール面との平行性を保つことができ、長期に亘り安定したシール性を発揮させることができる。
【0011】
(2)本発明の第2の観点に係るドライコンタクトシールは、回転軸に設けられた回転環と、前記回転環と軸方向に対向して配設された静止環と、前記回転環と静止環との対面するシール面同士を接触させるべく当該回転環及び静止環のうちの一方を他方側に押す弾性手段と、を備え、前記シール面間を挟んで軸方向一方側の第1空間と軸方向他方側の第2空間とを仕切るドライコンタクトシールであって、
前記静止環は、SiCの焼結体又は超硬合金で作製されており、
前記静止環における前記回転環と対面するシール面にダイヤモンド膜が形成されており、且つ、
前記静止環の外周面及び内周面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されている。
【0012】
本発明の第2の観点に係るドライコンタクトシールでは、静止環の外周面及び内周に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されている。ダイヤモンド膜は1000〜2000W/m・kという大きな熱伝導率を有している。このため、静止環の摺動面であるシール面で発生した摩擦熱又はシール面近傍の高温流体から伝わった熱を速やかに当該静止環の外周面及び内周面に形成されたダイヤモンド膜を経由して静止環の内周側及び外周側に伝えることができる。これにより、静止環のシール面と外周面と内周面の各々の間の温度差を緩和し、前記温度差に起因する熱歪が静止環に生じるのを防止又は抑制することができる。その結果、回転環のシール面と、静止環のシール面との平行性を保つことができ、長期に亘り安定したシール性を発揮させることができる。
【0013】
(3)前記(1)又は(2)のドライコンタクトシールにおいて、前記静止環が取り付けられるシールケースに、当該静止環の外周面に冷却液を供給する供給孔を形成することができる。この場合、静止環の外周面に高熱伝導率のダイヤモンド膜が形成されているので、冷却液による冷却効果を促進させることができる。
【0014】
(4)本発明の第3の観点に係るドライコンタクトシールは、被軸封機器のケーシングに固定されるシールケースと、前記ケーシングに挿入される回転軸との間に、当該回転軸の軸線方向に並列する、機内側の第1メカニカルシール及び機外側の第2メカニカルシールが配置されているドライコンタクトシールであって、
前記第1及び第2メカニカルシールは、それぞれ、前記回転軸に設けられた回転環と、前記シールケースに設けられた静止環と、前記回転環と静止環との対面するシール面同士を接触させるべく当該回転環及び静止環のうち一方を他方側に押す弾性手段とを備え、
前記第2メカニカルシールの回転環は、SiCの焼結体又は超硬合金で作製されており、
前記第2メカニカルシールの回転環における静止環と対面するシール面にダイヤモンド膜が形成されており、且つ、
前記第2メカニカルシールの回転環の外周面又は内周面、及び、当該回転環における前記シール面と反対側の面である背面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されている。
【0015】
本発明の第3の観点に係るドライコンタクトシールでは、第2メカニカルシールの回転環の外周面又は内周面、及び、当該回転環における前記シール面と反対側の面である背面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されている。ダイヤモンド膜は1000〜2000W/m・kという大きな熱伝導率を有している。このため、第2メカニカルシールの回転環の摺動面であるシール面で発生した摩擦熱を速やかに当該回転環の外周面又は内周面に形成されたダイヤモンド膜を経由して回転環の背面に形成されたダイヤモンド膜に伝えることができる。これにより、第2メカニカルシールの回転環のシール面と背面との間の温度差を緩和し、前記温度差に起因する熱歪が回転環に生じるのを防止又は抑制することができる。その結果、回転環のシール面と、静止環のシール面との平行性を保つことができ、長期に亘り安定したシール性を発揮させることができる。
【0016】
(5)本発明の第4の観点に係るドライコンタクトシールは、被軸封機器のケーシングに固定されるシールケースと、前記ケーシングに挿入される回転軸との間に、当該回転軸の軸線方向に並列する、機内側の第1メカニカルシール及び機外側の第2メカニカルシールが配置されているドライコンタクトシールであって、
前記第1及び第2メカニカルシールは、それぞれ、前記回転軸に設けられた回転環と、前記シールケースに設けられた静止環と、前記回転環と静止環との対面するシール面同士を接触させるべく当該回転環及び静止環のうち一方を他方側に押す弾性手段とを備え、
前記第2メカニカルシールの回転環は、SiCの焼結体又は超硬合金で作製されており、
前記第2メカニカルシールの回転環における静止環と対面するシール面にダイヤモンド膜が形成されており、且つ、
前記第2メカニカルシールの回転環の外周面及び内周面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されている。
【0017】
本発明の第4の観点に係るドライコンタクトシールでは、第2メカニカルシールの回転環の外周面及び内周に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されている。ダイヤモンド膜は1000〜2000W/m・kという大きな熱伝導率を有している。このため、第2メカニカルシールの回転環の摺動面であるシール面で発生した摩擦熱を速やかに当該回転環の外周面及び内周面に形成されたダイヤモンド膜を経由して回転環の内周側及び外周側に伝えることができる。これにより、第2メカニカルシールの回転環のシール面と外周面と内周面の各々の間の温度差を緩和し、前記温度差に起因する熱歪が回転環に生じるのを防止又は抑制することができる。その結果、回転環のシール面と、静止環のシール面との平行性を保つことができ、長期に亘り安定したシール性を発揮させることができる。
【0018】
(6)前記(1)〜(5)のドライコンタクトシールにおいて、前記ダイヤモンド膜の熱伝導率を1000〜2000W/m・kとすることができる。