特許第6452503号(P6452503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6452503
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】ドライコンタクトシール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20190107BHJP
   F04D 29/12 20060101ALI20190107BHJP
【FI】
   F16J15/34 F
   F16J15/34 H
   F04D29/12 B
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-45849(P2015-45849)
(22)【出願日】2015年3月9日
(65)【公開番号】特開2016-166630(P2016-166630A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2017年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 優司
(72)【発明者】
【氏名】西 崇伺
【審査官】 大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−058517(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/161704(WO,A1)
【文献】 特表2011−505532(JP,A)
【文献】 特開2005−171939(JP,A)
【文献】 特開2003−147527(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/001683(WO,A1)
【文献】 特開平05−106744(JP,A)
【文献】 特開平09−256993(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/147508(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 1/00−13/16
F04D 17/00−19/02
F04D 21/00−25/16
F04D 29/00−35/00
F16J 15/34−15/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に設けられた回転環と、前記回転環と軸方向に対向して配設された静止環と、前記回転環と静止環との対面するシール面同士を接触させるべく当該回転環及び静止環のうちの一方を他方側に押す弾性手段と、を備え、前記シール面間を挟んで軸方向一方側の第1空間と軸方向他方側の第2空間とを仕切るドライコンタクトシールであって、
前記静止環は、SiCの焼結体又は超硬合金で作製されており、
前記静止環における前記回転環と対面するシール面にダイヤモンド膜が形成されており、且つ、
前記静止環の外周面又は内周面、及び、前記静止環における前記シール面と反対側の面である背面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続しており、静止環のシール面の熱を当該静止環の背面に伝えるダイヤモンド膜が形成されている、ドライコンタクトシール。
【請求項2】
回転軸に設けられた回転環と、前記回転環と軸方向に対向して配設された静止環と、前記回転環と静止環との対面するシール面同士を接触させるべく当該回転環及び静止環のうちの一方を他方側に押す弾性手段と、を備え、前記シール面間を挟んで軸方向一方側の第1空間と軸方向他方側の第2空間とを仕切るドライコンタクトシールであって、
前記静止環は、SiCの焼結体又は超硬合金で作製されており、
前記静止環における前記回転環と対面するシール面にダイヤモンド膜が形成されており、且つ、
前記静止環の外周面及び内周面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続しており、静止環のシール面の熱を当該静止環の外周面及び内周面に伝えるダイヤモンド膜が形成されている、ドライコンタクトシール。
【請求項3】
前記静止環が取り付けられるシールケースに、当該静止環の外周面に冷却液を供給する供給孔が形成されている、請求項1又は請求項2に記載のドライコンタクトシール。
【請求項4】
被軸封機器のケーシングに固定されるシールケースと、前記ケーシングに挿入される回転軸との間に、当該回転軸の軸線方向に並列して配置され機内と機外とを密封する、機内側の第1メカニカルシール及び機外側の第2メカニカルシールを備えたドライコンタクトシールであって、
前記第1及び第2メカニカルシールは、それぞれ、前記回転軸に設けられた回転環と、前記シールケースに設けられた静止環と、前記回転環と静止環との対面するシール面同士を接触させるべく当該回転環及び静止環のうち一方を他方側に押す弾性手段とを備え、
前記第2メカニカルシールの回転環は、SiCの焼結体又は超硬合金で作製されており、
前記第2メカニカルシールの回転環における静止環と対面するシール面にダイヤモンド膜が形成されており、且つ、
前記第2メカニカルシールの回転環の外周面又は内周面、及び、当該回転環における前記シール面と反対側の面である背面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続しており、第2メカニカルシールの回転環のシール面の熱を当該回転環の背面に伝えるダイヤモンド膜が形成されている、ドライコンタクトシール。
【請求項5】
被軸封機器のケーシングに固定されるシールケースと、前記ケーシングに挿入される回転軸との間に、当該回転軸の軸線方向に並列して配置され機内と機外とを密封する、機内側の第1メカニカルシール及び機外側の第2メカニカルシールを備えたドライコンタクトシールであって、
前記第1及び第2メカニカルシールは、それぞれ、前記回転軸に設けられた回転環と、前記シールケースに設けられた静止環と、前記回転環と静止環との対面するシール面同士を接触させるべく当該回転環及び静止環のうち一方を他方側に押す弾性手段とを備え、
前記第2メカニカルシールの回転環は、SiCの焼結体又は超硬合金で作製されており、
前記第2メカニカルシールの回転環における静止環と対面するシール面にダイヤモンド膜が形成されており、且つ、
前記第2メカニカルシールの回転環の外周面及び内周面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続しており、第2メカニカルシールの回転環のシール面の熱を当該回転環の外周面及び内周面に伝えるダイヤモンド膜が形成されている、ドライコンタクトシール。
【請求項6】
前記ダイヤモンド膜の熱伝導率が1000〜2000W/m・kである、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のドライコンタクトシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドライコンタクトシール又はドライコンタクトメカニカルシール(以下、これらを総称して「ドライコンタクトシール」という)に関する。さらに詳しくは、例えば各種産業用ポンプ、撹拌機、コンプレッサ、ブロワ等の被軸封機器における回転軸とケーシングとの間を、回転環のシール面と静止環のシール面とを接触させてシールするドライコンタクトシールに関する。
【背景技術】
【0002】
主として気体をシールするメカニカルシールとして、回転環のシール面と静止環のシール面との間に液膜が介在しないタイプのシールであるドライコンタクトシールが、従来、種々提案されている(例えば、特許文献1〜2参照)。
【0003】
特許文献1〜2記載のドライコンタクトシールは、被軸封機器の回転軸に軸線方向移動可能に取り付けられた回転環と、シールケースに固定された静止環と、回転環のシール面と静止環のシール面とを押し付け合う弾性手段とを備えており、両シール面を前記弾性手段により接触させることで機内側領域と大気側領域とをシールしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−75787号公報
【特許文献2】特開2011−58517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述した種々の被軸封機器の中には、長時間又は長期間にわたり連続して運転されるのではなく、例えば攪拌機のように1日のうち何回かバッチ運転され、夜間には運転を停止して洗浄作業等が行われる機器がある。ドライコンタクトシールでは、機器が起動又は停止するときに、静止環と回転環とが摺動するシール部に大きな摩擦熱が発生するが、前記バッチ運転が行われる機器では、当該機器の起動及び停止の回数が多いことから、前記シール部の温度が常温から大きく変化する機会が多くなる。換言すれば、急速な温度変化が繰り返し行われる状態となり、静止環又は回転環におけるシール部と他の部位との間に温度差が生じ、この温度差に起因して前記静止環又は回転環に熱歪が発生する虞がある。
【0006】
また、例えば攪拌機の場合、乾燥工程において機内側温度が150℃程度の高温になることがあるが、このとき機外側(大気)の温度は常温であるので、その温度差が大きくなる。このため、機内側と機外側の間にあるドライコンタクトシールにおける静止環及び回転環も温度変化の影響を受け、前記機内側の高温の流体と接触するシール面と、他の面(外周面、内周面又は背面)との間に温度差が生じ、この温度差に起因して当該静止環又は回転環に熱歪が発生する虞がある。
【0007】
回転環又は静止環に熱歪が発生すると、回転環のシール面と静止環のシール面との平行性を保つことができなくなり、異常摩耗や流体漏れに繋がる虞がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、回転環又は静止環の部位間の温度差に起因して当該回転環又は静止環に生じる熱歪を防止又は抑制することができるドライコンタクトシールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の第1の観点に係るドライコンタクトシールは、回転軸に設けられた回転環と、前記回転環と軸方向に対向して配設された静止環と、前記回転環と静止環との対面するシール面同士を接触させるべく当該回転環及び静止環のうちの一方を他方側に押す弾性手段と、を備え、前記シール面間を挟んで軸方向一方側の第1空間と軸方向他方側の第2空間とを仕切るドライコンタクトシールであって、
前記静止環は、SiCの焼結体又は超硬合金で作製されており、
前記静止環における前記回転環と対面するシール面にダイヤモンド膜が形成されており、且つ、
前記静止環の外周面又は内周面、及び、前記静止環における前記シール面と反対側の面である背面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されている。
【0010】
本発明の第1の観点に係るドライコンタクトシールでは、静止環の外周面又は内周面、及び、当該静止環における前記シール面と反対側の面である背面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されている。ダイヤモンド膜は1000〜2000W/m・kという大きな熱伝導率を有している。このため、静止環の摺動面であるシール面で発生した摩擦熱又はシール面近傍の高温流体から伝わった熱を速やかに当該静止環の外周面又は内周面に形成されたダイヤモンド膜を経由して静止環の背面に形成されたダイヤモンド膜に伝えることができる。これにより、静止環のシール面と背面との間の温度差を緩和し、前記温度差に起因する熱歪が静止環に生じるのを防止又は抑制することができる。その結果、回転環のシール面と、静止環のシール面との平行性を保つことができ、長期に亘り安定したシール性を発揮させることができる。
【0011】
(2)本発明の第2の観点に係るドライコンタクトシールは、回転軸に設けられた回転環と、前記回転環と軸方向に対向して配設された静止環と、前記回転環と静止環との対面するシール面同士を接触させるべく当該回転環及び静止環のうちの一方を他方側に押す弾性手段と、を備え、前記シール面間を挟んで軸方向一方側の第1空間と軸方向他方側の第2空間とを仕切るドライコンタクトシールであって、
前記静止環は、SiCの焼結体又は超硬合金で作製されており、
前記静止環における前記回転環と対面するシール面にダイヤモンド膜が形成されており、且つ、
前記静止環の外周面及び内周面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されている。
【0012】
本発明の第2の観点に係るドライコンタクトシールでは、静止環の外周面及び内周に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されている。ダイヤモンド膜は1000〜2000W/m・kという大きな熱伝導率を有している。このため、静止環の摺動面であるシール面で発生した摩擦熱又はシール面近傍の高温流体から伝わった熱を速やかに当該静止環の外周面及び内周面に形成されたダイヤモンド膜を経由して静止環の内周側及び外周側に伝えることができる。これにより、静止環のシール面と外周面と内周面の各々の間の温度差を緩和し、前記温度差に起因する熱歪が静止環に生じるのを防止又は抑制することができる。その結果、回転環のシール面と、静止環のシール面との平行性を保つことができ、長期に亘り安定したシール性を発揮させることができる。
【0013】
(3)前記(1)又は(2)のドライコンタクトシールにおいて、前記静止環が取り付けられるシールケースに、当該静止環の外周面に冷却液を供給する供給孔を形成することができる。この場合、静止環の外周面に高熱伝導率のダイヤモンド膜が形成されているので、冷却液による冷却効果を促進させることができる。
【0014】
(4)本発明の第3の観点に係るドライコンタクトシールは、被軸封機器のケーシングに固定されるシールケースと、前記ケーシングに挿入される回転軸との間に、当該回転軸の軸線方向に並列する、機内側の第1メカニカルシール及び機外側の第2メカニカルシールが配置されているドライコンタクトシールであって、
前記第1及び第2メカニカルシールは、それぞれ、前記回転軸に設けられた回転環と、前記シールケースに設けられた静止環と、前記回転環と静止環との対面するシール面同士を接触させるべく当該回転環及び静止環のうち一方を他方側に押す弾性手段とを備え、
前記第2メカニカルシールの回転環は、SiCの焼結体又は超硬合金で作製されており、
前記第2メカニカルシールの回転環における静止環と対面するシール面にダイヤモンド膜が形成されており、且つ、
前記第2メカニカルシールの回転環の外周面又は内周面、及び、当該回転環における前記シール面と反対側の面である背面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されている。
【0015】
本発明の第3の観点に係るドライコンタクトシールでは、第2メカニカルシールの回転環の外周面又は内周面、及び、当該回転環における前記シール面と反対側の面である背面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されている。ダイヤモンド膜は1000〜2000W/m・kという大きな熱伝導率を有している。このため、第2メカニカルシールの回転環の摺動面であるシール面で発生した摩擦熱を速やかに当該回転環の外周面又は内周面に形成されたダイヤモンド膜を経由して回転環の背面に形成されたダイヤモンド膜に伝えることができる。これにより、第2メカニカルシールの回転環のシール面と背面との間の温度差を緩和し、前記温度差に起因する熱歪が回転環に生じるのを防止又は抑制することができる。その結果、回転環のシール面と、静止環のシール面との平行性を保つことができ、長期に亘り安定したシール性を発揮させることができる。
【0016】
(5)本発明の第4の観点に係るドライコンタクトシールは、被軸封機器のケーシングに固定されるシールケースと、前記ケーシングに挿入される回転軸との間に、当該回転軸の軸線方向に並列する、機内側の第1メカニカルシール及び機外側の第2メカニカルシールが配置されているドライコンタクトシールであって、
前記第1及び第2メカニカルシールは、それぞれ、前記回転軸に設けられた回転環と、前記シールケースに設けられた静止環と、前記回転環と静止環との対面するシール面同士を接触させるべく当該回転環及び静止環のうち一方を他方側に押す弾性手段とを備え、
前記第2メカニカルシールの回転環は、SiCの焼結体又は超硬合金で作製されており、
前記第2メカニカルシールの回転環における静止環と対面するシール面にダイヤモンド膜が形成されており、且つ、
前記第2メカニカルシールの回転環の外周面及び内周面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されている。
【0017】
本発明の第4の観点に係るドライコンタクトシールでは、第2メカニカルシールの回転環の外周面及び内周に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されている。ダイヤモンド膜は1000〜2000W/m・kという大きな熱伝導率を有している。このため、第2メカニカルシールの回転環の摺動面であるシール面で発生した摩擦熱を速やかに当該回転環の外周面及び内周面に形成されたダイヤモンド膜を経由して回転環の内周側及び外周側に伝えることができる。これにより、第2メカニカルシールの回転環のシール面と外周面と内周面の各々の間の温度差を緩和し、前記温度差に起因する熱歪が回転環に生じるのを防止又は抑制することができる。その結果、回転環のシール面と、静止環のシール面との平行性を保つことができ、長期に亘り安定したシール性を発揮させることができる。
【0018】
(6)前記(1)〜(5)のドライコンタクトシールにおいて、前記ダイヤモンド膜の熱伝導率を1000〜2000W/m・kとすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のドライコンタクトシールによれば、回転環又は静止環の部位間の温度差に起因して当該回転環又は静止環に生じる熱歪を防止又は抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のドライコンタクトシールの第1実施形態の縦断面説明図である。
図2図1に示されるドライコンタクトシールの変形例の要部拡大説明図である。
図3図1に示されるドライコンタクトシールの他の変形例の要部拡大説明図である。
図4図1に示されるドライコンタクトシールのさらに他の変形例の要部拡大説明図である。
図5】本発明のドライコンタクトシールの第2実施形態の縦断面説明図である。
図6図5に示されるドライコンタクトシールの要部拡大説明図である。
図7図5に示されるドライコンタクトシールの変形例の要部拡大説明図である。
図8図5に示されるドライコンタクトシールの他の変形例の要部拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明のドライコンタクトシールの実施の形態を詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係るドライコンタクトシールD1の縦断面説明図である。なお、図1及び後出する図2〜7においては、分かりやすくするために、ダイヤモンド膜の膜厚を誇張して描いている。
【0022】
本実施形態に係るドライコンタクトシールD1は、各種産業用ポンプ、撹拌機、コンプレッサ、ブロワ等の被軸封機器に用いることができ、当該被軸封機器のケーシング1と、このケーシング1に挿入される回転軸2との間に配設されている。ドライコンタクトシールD1は、後述するシール面間を挟んで、軸方向一方側の機内側(第1空間)Aと軸方向他端側の機外側(第2空間)Bとを仕切り、機内側に存在する流体が機外側に漏れるのを防止する。
【0023】
図1に示されるドライコンタクトシールD1は、回転軸2に設けられた回転環3と、前記回転環3と軸方向に対向して配設された静止環4と、前記回転環3と静止環4との対面するシール面同士を接触させるべく当該回転環3及び静止環4のうちの一方である回転環3を他方の静止環4側に押す弾性手段であるスプリング5と、を備えている。
【0024】
回転軸2の外周に円筒状のスプリングリテーナー6が外嵌されており、このスプリングリテーナー6はセットスクリュー7により回転軸2に固定されている。回転環3の機外側の端部はドライブカラー8に保持されており、このドライブカラー8は、前記スプリングリテーナー6を貫通するドライブピン17に軸方向に移動可能なように接続されている。スプリング5の機内側の端部は、前記ドライブカラー8の機外側端面8aと当接しており、当該ドライブカラー8を機内側、すなわち静止環4側に押している。なお、符号9はピンであり、回転環3の回り止めをするためのものである。回転軸2の外周面と回転環3の内周面との間にはOリング10が配設されている。
【0025】
静止環4は、Oリング11,12を介在して環状のシールケース13に取り付けられており、当該シールケース13は、ボルト14によりケーシング1に固定されている。静止環4は、SiCの焼結体で作製されており、この焼結体は、例えばSiCの常温焼結又は反応焼結により得ることができる。また、静止環4は超硬合金(WC)で作製してもよい。
【0026】
本実施形態では、静止環のシール面4a、外周面4b、及び、当該静止環4における前記シール面4aと反対側の面である背面4cにダイヤモンド膜d1,d2,d3がそれぞれ形成されている。ダイヤモンド膜d1,d2,d3は、互いに連続するように形成されている。ダイヤモンド膜は1000〜2000W/m・kという大きな熱伝導率を有している。このため、静止環の摺動面であるシール面4aで発生した摩擦熱又はシール面4a近傍の高温流体から伝わった熱を速やかに当該静止環4の外周面4bに形成されたダイヤモンド膜d2を経由して静止環4の背面4cに形成されたダイヤモンド膜d3に伝えることができる。これにより、静止環4の軸方向両側面であるシール面4aと背面4cとの間の温度差を緩和し、前記温度差に起因する熱歪が静止環4に生じるのを防止又は抑制することができる。その結果、回転環3のシール面3aと、静止環4のシール面4aとの平行性を保つことができ、長期に亘り安定したシール性を発揮させることができる。
【0027】
ダイヤモンド膜は、例えばマイクロ波CVD法、熱フィラメントCVD法等の一般的な製造技術を用いて作製することができる。また、ダイヤモンド膜の厚さは、本発明において特に限定されるものではないが、通常、3〜20μm、好ましくは3〜10μmである。静止環4のシール面4aで発生した摩擦熱が当該静止環4の母材であるSiC焼結体に移動する前に外周面4bのダイヤモンド膜d2に移動させるという観点からは、3μm以上の厚さであることが望ましい。また、ダイヤモンド膜が厚くなる程膜の表面粗度も大きくなり、精密な機械部品であるメカニカルシールのシール面として使用するのが困難になるのに加えてダイヤモンド膜の残留応力を極力小さくするという観点からは、10μm以下であることが望ましい。
【0028】
ダイヤモンド膜d1とダイヤモンド膜d2、d3とは同じ厚さであってもよいが、互いに異なる厚さであってもよい。静止環4のシール面4aで発生した摩擦熱を速やかに外周面4bのダイヤモンド膜d2に移動させるという観点からは、外周面4bのダイヤモンド膜d2の膜厚がシール面4aのダイヤモンド膜d1の膜厚以上であることが望ましいが、必ずしもそれに限定されるものではない。
【0029】
図2は、図1に示される第1実施形態の変形例の要部拡大説明図である。この変形例は、静止環4の外周面4bに代えて当該静止環4の内周面4dにダイヤモンド膜d4が形成されている点が第1実施形態に係るドライコンタクトシールD1と異なっている。したがって、第1実施形態と共通する構成要素には同一の参照符号を付し、簡単のため、それらについての説明は省略する。
【0030】
この変形例では、静止環4のシール面4a、内周面4d、及び、当該静止環4における前記シール面4aと反対側の面である背面4cにダイヤモンド膜d1,d4,d3がそれぞれ形成されている。ダイヤモンド膜d1,d4,d3は、互いに連続するように形成されている。静止環4の摺動面であるシール面4aで発生した摩擦熱又はシール面4a近傍の高温流体から伝わった熱は速やかに当該静止環4の内周面4dに形成されたダイヤモンド膜d4を経由して静止環4の背面4cに形成されたダイヤモンド膜d3に伝えることができる。これにより、静止環4の軸方向両側面であるシール面4aと背面4cとの間の温度差を緩和し、前記温度差に起因する熱歪が静止環4に生じるのを防止又は抑制することができる。その結果、回転環3のシール面3aと、静止環4のシール面4aとの平行性を保つことができ、長期に亘り安定したシール性を発揮させることができる。
【0031】
図3は、図1に示される第1実施形態の他の変形例の要部拡大説明図である。この変形例は、静止環4の背面4cを除く当該静止環4の外周面4b及び内周面4dにダイヤモンド膜d2、d4が形成されている点が第1実施形態に係るドライコンタクトシールD1と異なっている。したがって、第1実施形態と共通する構成要素には同一の参照符号を付し、簡単のため、それらについての説明は省略する。
【0032】
この変形例では、静止環4のシール面4a、外周面4b及び内周面4dにダイヤモンド膜d1,d2,d4がそれぞれ形成されている。ダイヤモンド膜d1,d2,d4は、互いに連続するように形成されている。静止環4の摺動面であるシール面4aで発生した摩擦熱又はシール面4a近傍の高温流体から伝わった熱は速やかに当該静止環4の外周面4b及び内周面4dに形成されたダイヤモンド膜d2、d4を経由して静止環4の内周側及び外周側に伝えることができる。これにより、静止環4のシール面4aと外周面4bと内周面4dの各々の間の温度差を緩和し、前記温度差に起因する熱歪が静止環4に生じるのを防止又は抑制することができる。その結果、静止環4のシール面4aと、回転環3のシール面3aとの平行性を保つことができ、長期に亘り安定したシール性を発揮させることができる。
【0033】
図4は、図1に示される第1実施形態のさらに他の変形例の要部拡大説明図である。この変形例では、静止環4が取り付けられるシールケース14に、当該静止環4の外周面に冷却液を供給する供給孔15が形成されている点が第1実施形態に係るドライコンタクトシールD1と異なっている。したがって、第1実施形態と共通する構成要素には同一の参照符号を付し、簡単のため、それらについての説明は省略する。
【0034】
この変形例では、静止環4を冷却するために前記供給孔15を通じて冷却水が当該静止環4の外周面に供給される。この場合、本実施形態では、静止環4の外周面4bに高熱伝導率のダイヤモンド膜d2が形成されているので、冷却水による冷却効果を促進させることができる。
【0035】
〔第2実施形態〕
図5は、本発明の第2実施形態に係るドライコンタクトシールD2の縦断面説明図であり、図6は、図5に示されるドライコンタクトシールD2の要部拡大説明図である。本実施形態に係るドライコンタクトシールD2は、各種産業用ポンプ、撹拌機、コンプレッサ、ブロワ等の被軸封機器のケーシング21に固定されるシールケース22と、前記ケーシング21に挿入される回転軸23との間に、当該回転軸23の軸線方向に並列する、機内側の第1メカニカルシールM1及び機外側の第2メカニカルシールM2が配置されている、いわゆるタンデム型のドライコンタクトシールである。
【0036】
機内側の第1メカニカルシールM1は、回転軸23に外嵌されたスリーブ24にOリング25でシールした状態でホロセットボルト26により固定されたリテーナ27に、Oリング28でシールした状態で軸線方向摺動可能に且つ相対回転不能に保持された回転環29と、前記シールケース22にOリング30でシールした状態でピン31により固定された静止環32と、前記回転環29及び静止環32のうちの一方である回転環29を他方の静止環32側へと押圧付勢するスプリング33とを備えている。この第1メカニカルシールM1では、回転環29と静止環32の対向端面であるシール面29a、32aの相対回転摺接作用により、被密封流体領域Aと、後述するパージガスの排出領域Bとをシール(一次シール)している。静止環32はセラミックスや超硬合金等の硬質材で作製され、一方、回転環29は静止環32より比較的軟質の材料、例えばカーボン等で作製されている。
【0037】
二次シールとして機能する機外側の第2メカニカルシールM2は、前記第1メカニカルシールM1の前方位置(機外側)に配置されており、当該第1メカニカルシールM1と同様に、回転軸23に外嵌されたスリーブ24にOリング34でシールした状態でピン35により固定された回転環36と、前記シールケース22にOリング37でシールした状態で軸線方向摺動可能に且つ相対回転不能に固定された静止環38と、前記回転環36及び静止環38のうちの一方である静止環38を他方の前記回転環36側へと押圧付勢するスプリング39とを備えている。この第2メカニカルシールM2では、回転環36と静止環38の対向端面であるシール面36a、38aの相対回転摺接作用により、パージガスの排出領域Bと、大気領域Cとをシール(二次シール)している。回転環36はSiCの焼結体で作製されており、この焼結体は、例えばSiCの常温焼結又は反応焼結により得ることができる。一方、静止環38は回転環36より比較的軟質の材料、例えばカーボン等で作製されている。なお、回転環36は超硬合金(WC)で作製してもよい。
【0038】
シールケース22には、パージガスの供給路40が形成されており、この供給路40を介してパージガスが第2メカニカルシールM2の外周の領域Dに供給される。このパージガスは、前記シールケース22の内周面に形成された環状凸部41の先端面41aと、第2メカニカルシールM2の回転環36が固定されるスリーブ24の環状鍔部42の外周面42aとの間の狭路43を通って回転環36の背部の領域Bに至り、ついでシールケース22に形成された排出路44を通って装置外に排出される。その際、前記狭路43を高速で通過するパージガスの流れによって、プロセス液が気化することにより発生した気体が大気側領域Cに漏れるのを抑制している。
【0039】
本実施形態では、図6に示されるように、第2メカニカルシールM2の回転環36のシール面36a、外周面36b、及び、当該回転環36における前記シール面36aと反対側の面である背面36cにダイヤモンド膜d1,d2,d3がそれぞれ形成されている。ダイヤモンド膜d1,d2,d3は、互いに連続するように形成されている。ダイヤモンド膜は1000〜2000W/m・kという大きな熱伝導率を有している。このため、回転環36の摺動面であるシール面36aで発生した摩擦熱を速やかに当該回転環36の外周面36bに形成されたダイヤモンド膜d2を経由して回転環36の背面36cに形成されたダイヤモンド膜d3に伝えることができる。これにより、回転環36の軸方向両側面であるシール面36aと背面36cとの間の温度差を緩和し、前記温度差に起因する熱歪が回転環36に生じるのを防止又は抑制することができる。その結果、回転環36のシール面35aと、静止環38のシール面38aとの平行性を保つことができ、長期に亘り安定したシール性を発揮させることができる。
【0040】
ダイヤモンド膜は、例えばマイクロ波CVD法、熱フィラメントCVD法等の一般的な製造技術を用いて作製することができる。また、ダイヤモンド膜の厚さは、本発明において特に限定されるものではないが、通常、3〜20μm、好ましくは3〜10μmである。回転環36のシール面36aで発生した摩擦熱が当該回転環36の母材であるSiC焼結体に移動する前に外周面36bのダイヤモンド膜d2に移動させるという観点からは、3μm以上の厚さであることが望ましい。また、ダイヤモンド膜が厚くなる程膜の表面粗度も大きくなり、精密な機械部品であるメカニカルシールのシール面として使用するのが困難になるのに加えてダイヤモンド膜の残留応力を極力小さくするという観点からは、10μm以下であることが望ましい。
【0041】
ダイヤモンド膜d1とダイヤモンド膜d2、d3とは同じ厚さであってもよいが、互いに異なる厚さであってもよい。回転環36のシール面36aで発生した摩擦熱を速やかに外周面36bのダイヤモンド膜d2に移動させるという観点からは、外周面36bのダイヤモンド膜d2の膜厚がシール面36aのダイヤモンド膜d1の膜厚以上であることが望ましい、必ずしもそれに限定されるものではない。
【0042】
図7は、図5に示される第2実施形態の変形例の要部拡大説明図である。この変形例は、回転環36の外周面36bに代えて当該回転環36の内周面36dにダイヤモンド膜d4が形成されている点が第2実施形態に係るドライコンタクトシールD2と異なっている。したがって、第2実施形態と共通する構成要素には同一の参照符号を付し、簡単のため、それらについての説明は省略する。
【0043】
この変形例では、回転環36のシール面36a、内周面36d、及び、当該回転環36における前記シール面36aと反対側の面である背面36cにダイヤモンド膜d1,d4,d3がそれぞれ形成されている。ダイヤモンド膜d1,d4,d3は、互いに連続するように形成されている。回転環36の摺動面であるシール面36aで発生した摩擦熱は速やかに当該回転環36の内周面36dに形成されたダイヤモンド膜d4を経由して回転環36の背面36cに形成されたダイヤモンド膜d3に伝えることができる。これにより、回転環36の軸方向両側面であるシール面36aと背面36cとの間の温度差を緩和し、前記温度差に起因する熱歪が回転環36に生じるのを防止又は抑制することができる。その結果、回転環36のシール面36aと、静止環38のシール面38aとの平行性を保つことができ、長期に亘り安定したシール性を発揮させることができる。
【0044】
図8は、図5に示される第2実施形態の他の変形例の要部拡大説明図である。この変形例は、回転環36の背面36cを除く当該回転環36の外周面36b及び内周面36dにダイヤモンド膜d2、d4が形成されている点が第2実施形態に係るドライコンタクトシールD2と異なっている。したがって、第2実施形態と共通する構成要素には同一の参照符号を付し、簡単のため、それらについての説明は省略する。
【0045】
この変形例では、回転環36のシール面36a、外周面36b及び内周面36dにダイヤモンド膜d1,d2,d4がそれぞれ形成されている。ダイヤモンド膜d1,d2,d4は、互いに連続するように形成されている。回転環36の摺動面であるシール面36aで発生した摩擦熱は速やかに当該回転環36の外周面36b及び内周面36dに形成されたダイヤモンド膜d2、d4を経由して回転環36の内周側及び外周側に伝えることができる。これにより、回転環36のシール面36aと外周面36bと内周面36dの各々の間の温度差を緩和し、前記温度差に起因する熱歪が回転環36に生じるのを防止又は抑制することができる。その結果、静止環38のシール面38aと、回転環36のシール面36aとの平行性を保つことができ、長期に亘り安定したシール性を発揮させることができる。
【0046】
なお、本発明のメカニカルシールは前述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 :ケーシング
2 :回転軸
3 :回転環
3a:シール面
3b:外周面
3c:背面
3d:内周面
4 :静止環
5 :スプリング
6 :スプリングリテーナー
7 : セットスクリュー
8 :ドライブカラー
9 :ピン
10 :Oリング
11 :Oリング
12 :Oリング
13 :シールケース
14 :シールケース
15 :供給孔
21 :ケーシング
22 :シールケース
23 :回転軸
24 :スリーブ
25 :Oリング
26 :ホロセットボルト
27 :リテーナ
28 :Oリング
29 :回転環
29a:シール面
30 :Oリング
31 :ピン
32 :静止環
32a:シール面
33 :スプリング
34 :Oリング
35 :ピン
36 :回転環
37 :Oリング
38 :静止環
39 :スプリング
40 :供給路
41 :環状凸部
41a:シール面
42 :環状鍔部
42a:外周面
43 :狭路
44 :排出路
D1:ドライコンタクトシール
D2:ドライコンタクトシール
M1:第1メカニカルシール
M2:第2メカニカルシール
d1:ダイヤモンド膜
d2:ダイヤモンド膜
d3:ダイヤモンド膜
d4:ダイヤモンド膜



図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8