特許第6452570号(P6452570)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6452570
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】グラビアロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 1/02 20060101AFI20190107BHJP
   B05C 1/08 20060101ALI20190107BHJP
【FI】
   B05C1/02 102
   B05C1/08
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-151546(P2015-151546)
(22)【出願日】2015年7月31日
(65)【公開番号】特開2017-29909(P2017-29909A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103367
【氏名又は名称】オーエスジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー
(72)【発明者】
【氏名】彦坂 和宏
(72)【発明者】
【氏名】正留 和隆
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−309173(JP,A)
【文献】 特開2007−130996(JP,A)
【文献】 特開2007−118594(JP,A)
【文献】 特開2015−044135(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/013333(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 1/00− 3/20
F16C 13/00−15/00
B41M 1/00− 3/18,
7/00− 9/04
B41N 1/00−99/00
B21H 1/00− 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属性の母材ロールと、その母材ロールの表面に形成される金属皮膜層と、その金属皮膜層の表面に形成される歯形とを備えるグラビアロールの製造方法において、
前記母材ロールを、ステンレス、アルミニウム、又は、鉄のいずれかの金属から形成する母材ロール形成工程と、前記母材ロール形成工程において形成された前記母材ロールの表面に、金、銀、亜鉛、カドミウム、スズ、鉛、アルミニウム、鉄、又は、銅のいずれかの金属であって前記母材ロールを形成する金属よりも展延性の良い金属によって前記金属皮膜層を形成する金属皮膜層形成工程と、前記金属皮膜層形成工程において形成された前記金属皮膜層の表面に、螺旋状の前記歯形を歩き転造によって形成する転造工程とを備え
前記母材ロール形成工程は、前記母材ロールに断面円形状の空洞を軸方向に形成することで、前記母材ロールを中空に形成し、
前記転造工程は、前記母材ロールの表面から前記歯形の山頂までの寸法を、前記歯形の谷底から山頂までの寸法の5倍以上の大きさに形成することを特徴とするグラビアロールの製造方法。
【請求項2】
前記母材ロール形成工程は、軸方向長さが外径よりも長い長尺状に前記母材ロールを形成し、
前記転造工程は、前記母材ロールの下面側を支持する転造装置によって転造することを特徴とする請求項1記載のグラビアロールの製造方法。
【請求項3】
前記転造工程において形成された前記歯形の表面に、前記金属皮膜層を形成する金属よりも硬い材料によって硬質皮膜層を形成する硬質皮膜層形成工程を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のグラビアロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビアロールの製造方法に関し、特に、グラビア塗工時の塗布ムラを抑制できるグラビアロールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に開示されるように、転造によってグラビア塗工用のグラビアロールの歯形を形成する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−224714号(例えば、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、グラビアロールは比較的長尺となるため、自重による撓みを抑制するために、母材(母材ロール)を剛性の高い材料で形成する必要があるところ、剛性の高い材料では、表面が硬いため、上述した特許文献1のように、転造により歯形を形成する技術では、母材ロールの表面に精度良く歯形を形成することが困難であった。更に、母材ロールの表面に存在するピンホールや変質層(硬化層)も転造の精度に影響する。よって、転造によって歯形が形成されるグラビアロールは、グラビア塗工時に塗布ムラが生じやすいという問題点があった。
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、グラビア塗工時の塗布ムラを抑制できるグラビアロールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
求項記載のグラビアロールの製造方法によれば、母材ロールの表面に形成される金属皮膜層は、母材ロールを形成する金属よりも展延性の良い金属によって形成されるため、母材ロールが剛性の高い金属材料で形成される場合であっても、転造によって形成される歯形の精度が高まる。また、母材ロールの表面に存在するピンホールや変質層が金属皮膜層によって被覆されるため、転造の精度への影響が抑制される。よって、グラビアロールの歯形を転造によって精度よく形成することが可能となり、グラビア塗工時の塗布ムラを抑制することができるという効果がある。また、金属皮膜層が展延性の良い金属によって形成されるため、歯形を形成する転造ダイスに加わる圧力が減少し、転造装置の耐久性が向上するという効果がある。
【0007】
更に、歯形が歩き転造によって形成されるため、エッチングや電子彫刻で歯形を形成する場合に比べてグラビアロールの生産性が向上すると共に、歯形が塑性加工によって形成されることでその強度が高まり、グラビアロールの耐久性が向上するという効果がある。
【0008】
また、母材ロールは、断面円形状の空洞が軸方向に形成されることで、中空に形成されるため、母材ロールが軽量化される。よって、長尺の母材ロールの長手方向の両端を支持しても、母材ロールの自重による撓みを抑制できるので、グラビアロールの歯形を転造によって精度良く形成することが可能となり、グラビア塗工時の塗布ムラを抑制することができるという効果がある。また、母材ロールが軽量化されることで歩き転造によるピッチずれを抑制できると共に、転造装置への設置が容易になり、グラビアロール製造時の作業性が向上するという効果がある。
【0009】
また、母材ロールの表面から歯形の山頂までの寸法は、歯形の谷底から山頂までの寸法よりも大きく形成されるため、転造ダイスが母材ロールに達することなく金属皮膜層の表面に歯形を形成することができる。よって、転造時に、母材ロールの剛性(硬さ)及びその表面に存在するピンホールや変質層から受ける影響が抑制されるので、グラビアロールの歯形を転造によって精度良く形成することが可能となり、グラビア塗工時の塗布ムラを抑制することができるという効果がある。また、転造ダイスが母材ロールに達することなく金属皮膜層の表面に歯形を形成するため、転造圧力が小さい転造装置によって歯形を形成することができるという効果がある。よって、転造装置のコストを抑制できる。
【0010】
また、母材ロールの表面から歯形の山頂までの寸法は、歯形の谷底から山頂までの寸法の5倍以上の大きさで形成されるため、より小さい転造圧力で歯形を形成でき、過転造によって歯形が崩れることを抑制することができる。よって、グラビアロールの歯形を転造によって精度良く形成することが可能となり、グラビア塗工時の塗布ムラを抑制することができるという効果がある。
【0011】
また、母材ロールに加わる転造の圧力を減少させることができるので、母材ロールが中空で形成される場合であっても、その母材ロールの変形を抑制でき、グラビアロール製造時の不良率を抑制することができる。
【0012】
請求項2記載のグラビアロールの製造方法によれば、請求項1記載のグラビアロールの製造方法の奏する効果に加え、母材ロール形成工程は、軸方向長さが外径よりも長い長尺状に母材ロールを形成し、転造工程は、母材ロールの下面側を支持する転造装置によって転造するので、長尺の母材ロールを転造する際に母材ロールの下面側を支持することができるという効果がある。
求項記載のグラビアロールの製造方法によれば、請求項1又は2に記載のグラビアロールの製造方法の奏する効果に加え、歯形の表面に、金属皮膜層を形成する金属よりも硬い材料によって形成される硬質皮膜層が形成されるため、展延性の良い金属によって金属皮膜層が形成されても、歯形の耐摩耗性が高まり、グラビアロールの耐久性が向上するという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態におけるグラビアロールの側面図である。
図2】(a)は母材ロールの部分拡大断面図であり、(b)は母材ロールの表面に金属皮膜層を形成した状態を示す母材ロールの部分拡大断面図であり、(c)は金属皮膜層の表面に歯形を形成した状態を示す母材ロールの部分拡大断面図である。
図3】(a)は母材ロール及び転造装置の正面図であり、(b)は母材ロール及び転造装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態におけるグラビアロール100の側面図である。尚、図1では、グラビアロール100の一部を断面で図示すると共に、グラビアロール100の長手方向の一端側のみを図示し、グラビアロール100の一部を省略して図示する。
【0015】
まず、図1を参照して、グラビアロール100の全体構成について説明する。
【0016】
図1に示すように、グラビアロール100は、グラビア塗工用のロールであり、金属製の母材ロール110と、その母材ロール110の表面に形成される金属皮膜層120と、その金属皮膜層120の表面に転造によって形成される歯形130と、その歯形130の表面に形成される硬質皮膜層140とを主に備える。
【0017】
母材ロール110は、グラビアロール100の母材となる金属製のロールであり、本実施形態では炭素鋼(STKM13A)で形成され、外径は50mm、長さは1730mmで形成されると共に、中空部111と、その中空部111に連結される支持部112とを主に備える。
【0018】
中空部111は、母材ロール110の空洞部分であり、母材ロール110の軸O方向に断面円形状で形成され、その内径が38mmに形成される。よって、母材ロール110の肉厚は6mmとなる。
【0019】
支持部112は、母材ロール110(グラビアロール100)を支持するための部位であり、母材ロール110の軸O方向における中空部111の両端に連結されることで、母材ロール110をその長手方向(軸O方向)の両端で支持することが可能となる。
【0020】
金属皮膜層120は、後述する歯形130を形成するための皮膜であり、母材ロール110の表面にめっきを施すことによって形成され、本実施形態では、母材ロール110を形成する炭素鋼よりも展延性の良い金属、即ち、炭素鋼よりも柔らかく、塑性加工に適した金属である銅によって形成される。
【0021】
歯形130は、グラビア塗工時に印刷対象に対して塗料を塗布するための凹凸部分であり、金属皮膜層120の表面を後述する転造装置200によって転造することで形成されると共に、軸O方向に直交する方向(図1の紙面垂直方向)視において断面台形状で母材ロール110の外周に螺旋状に形成される。
【0022】
硬質皮膜層140は、歯形130の耐摩耗性を高めるための皮膜であり、歯形130の表面にめっきを施すことで形成され、本実施形態では、金属皮膜層120を形成する銅よりも硬い材料である硬質クロムによって形成される。
【0023】
次いで、図1から図3を参照して、グラビアロール100の製造方法について説明する。
【0024】
図2(a)は母材ロール110の部分拡大断面図であり、図2(b)は母材ロール110の表面に金属皮膜層120を形成した状態を示す母材ロール110の部分拡大断面図であり、図2(c)は金属皮膜層120の表面に歯形130を形成した状態を示す母材ロール110の部分拡大断面図である。尚、図1及び図2では、母材ロール110の表面の変質層110bをハッチングによって図示する。
【0025】
図3(a)は母材ロール110及び転造装置200の正面図であり、図3(b)は母材ロール110及び転造装置200の側面図である。尚、図3では、理解を容易にするために、歯形130及び歯部211の寸法を拡大して図示すると共に、母材ロール110及び転造装置200の詳細構成を省略して図示する。
【0026】
グラビアロール100の製造では、母材ロール形成工程(図1参照)と、金属皮膜層形成工程(図2(b)参照)と、転造工程(図2(c)及び図3参照)と、硬質皮膜層形成工程(図1参照)とが順に行われる。
【0027】
まず、母材ロール形成工程について説明する。
【0028】
図1に示すように、母材ロール形成工程では、母材ロール110に中空部111を形成する。即ち、母材ロール110に断面円形状の空洞が軸方向に形成されることで、母材ロール110は中空に形成される。これにより、母材ロール110が軽量化される。
【0029】
次いで、母材ロール形成工程の後に行われる工程である金属皮膜層形成工程について説明する。
【0030】
図2(b)に示すように、金属皮膜層形成工程では、母材ロール形成工程で中空に形成された母材ロール110の表面(図2(a)参照)に略600μmの銅めっきを施し、金属皮膜層120を形成する。これにより、母材ロール110の表面のピンホール110aや変質層110bが金属皮膜層120によって被覆される。
【0031】
次いで、金属皮膜層形成工程の後に行われる工程である転造工程において使用する転造装置200について説明する。
【0032】
図3(a)及び図3(b)に示すように、転造装置200は母材ロール110の外周面(金属皮膜層120の表面)に歯形130を形成するための加工装置であり、一対の転造ダイス210と、母材ロール110の下面を支持するための支持刃220とを主に備える。
【0033】
転造ダイス210は、ロール状に形成されるダイスであり、その外周面には、歯形130を形成するための歯部211を備える。転造ダイス210の軸心は、母材ロール110の軸O方向(進行方向)に対して所定の傾斜角で傾斜され、図3(a)に矢印Aで示す方向にそれぞれの転造ダイス210が回転する。
【0034】
歯部211は、歯形130を形成するための凹凸部分であり、転造ダイス210の外周面に形成されると共に、転造ダイス210の軸方向に沿って所定のピッチで複数平行に形成される。
【0035】
転造装置200に設置された母材ロール110は、その左右方向(図3(a)の左右方向)から所定の転造圧力で転造ダイス210が押圧されることで一対の転造ダイス210によって挟持され、母材ロール110の下面は支持刃220によって支持される。これにより、母材ロール110に歯部211が所定の転造圧力で押圧され、金属皮膜層120の表面に歯部211の凹凸に応じた形状で歯形130が形成される。
【0036】
また、転造ダイス210は、その軸心が母材ロール110の軸O方向に対して所定の傾斜角で傾斜しつつ矢印Aの方向に回転するため、母材ロール110は、図3(a)の矢印B1で示す方向に回転しつつ、図3(b)の矢印B2で示す方向に送り出され、連続的に歯形130が形成される歩き転造によって加工される。よって、エッチングや電子彫刻で歯形130を形成する場合に比べ、グラビアロール100の生産性が向上する。
【0037】
また、歯形130は、転造の塑性加工によって形成されるため、エッチングや電子彫刻で歯形130を形成する場合に比べ、歯形130の強度が高まり、グラビアロール100の耐久性が向上する。
【0038】
ここで、グラビアロール100を製造する際、歯形130が形成される母材ロール110の表面に傷が付くことを防ぐため、母材ロール110の運搬時、転造装置200への設置時に、母材ロール110は常に支持部112によってその長手方向の両端を支持される。
【0039】
この場合、例えば、母材ロール110が中実で形成され、且つ300mmを超えるような長尺のロールの場合、その長手方向の両端を支持すると、母材ロール110が自重によって撓むことで変形してしまい、転造によって精度良く歯形130を形成することが困難であると共に、母材ロール110が撓んだ(変形した)状態のまま転造することによって、さらに大きく変形してしまうという問題点があった。
【0040】
また、長尺の母材ロール110を転造する際、転造時に母材ロール110の下面を支持刃220で支持する必要があり、上述したような中実且つ長尺の母材ロール110を転造する場合、その自重による撓みによって、母材ロール110と支持刃220との間に摩擦が生まれ、歯形130が形成される面にすり傷が付いてしまい、このすり傷は、硬質皮膜層140で被覆をしてもグラビア塗工時の塗布ムラに影響してしまう大きさで形成されるという問題点があった。
【0041】
これに対して本実施形態では、転造工程よりも前に行われる工程である母材ロール形成工程において、母材ロール110に中空部111を形成することで母材ロール110が軽量化されているため、支持部112によって母材ロール110の長手方向の両端を支持しても、母材ロール110が自重によって撓み、変形することを抑制できる。
【0042】
即ち、転造前に母材ロール110が自重によって撓み、変形するのを抑制することで、転造によって母材ロール110がさらに大きく変形することを抑制できるため、転造によって精度良く歯形130を形成することができると共に、母材ロール110と支持刃220との摩擦を抑制し、歯形130が形成された面にすり傷が付くことを抑制できる。よって、グラビアロール100の歯形130を転造によって精度良く形成することが可能となり、グラビア塗工時の塗布ムラを抑制することができる。
【0043】
更に、母材ロール110が軽量化されることで、母材ロール110の運搬や転造装置200への設置が容易となり、グラビアロール100の製造時の作業性が向上する。
【0044】
図2に戻り、金属皮膜層形成工程の後に行われる工程である転造工程について説明する。
【0045】
図2(c)に示すように、転造工程では、金属皮膜層形成工程で形成された金属皮膜層120の表面に、上述した転造装置200によって歯形130を形成する。本実施形態では、転造ダイス210の歯部211の谷底から山頂までの寸法は略40μmに設定されているため、歯形130の谷底から山頂までの寸法も同様に略40μmに形成される。
【0046】
ここで、母材ロール110は300mmを超える長尺のロールであり、自重による撓みを抑制するために、剛性の高い炭素鋼で形成されるため、その表面も硬く形成される。更には、図2(a)に示すように、母材ロール110の表面にはピンホール110aや変質層110bが存在する。ピンホール110aは炭素鋼を加工した際の欠陥である微小な穴であり、変質層110bは、炭素鋼の成分が変質することで一部が硬化した層である。
【0047】
このようなピンホール110aや変質層110bが存在する母材ロール110の表面に直接転造した場合、ピンホール110aは歯部211の谷底から山頂までの寸法の半分よりも深い(例えば、略20μmの)穴として形成されていると、転造によって形成される歯形130の精度に大きく影響する。また、変質層110bは炭素鋼よりもさらに硬く硬化した層であるため、転造によって塑性加工することが困難である。よって、母材ロール110の表面に直接転造した場合、精度良く歯形130を形成することは困難である。
【0048】
これに対して、母材ロール110の表面に炭素鋼よりも展延性の良い銅めっきを施すことによって金属皮膜層120を形成し、その金属皮膜層120の表面に歯形130を形成した場合、母材ロール110が剛性の高い炭素鋼で形成されていても、転造によって精度良く歯形130を形成することができる。また、ピンホール110aや変質層110bが金属皮膜層120によって被覆されるため、転造の精度への影響が抑制される。
【0049】
特に、本実施形態では、歯形130の谷底から山頂までの寸法を略40μmに形成し、母材ロール110の表面から歯形130の山頂までの寸法を略620μmに形成するため、転造ダイス210の歯部211が母材ロール110の表面に達することなく歯形130を形成することができる。
【0050】
よって、母材ロール110の剛性や、その表面のピンホール110a及び変質層110bから受ける影響が減少するため、グラビアロール100の歯形130を転造によって精度良く形成することが可能となり、グラビア塗工時の塗布ムラを抑制することができる。
【0051】
更に、転造ダイス210の歯部211が母材ロール110の表面に達することなく歯形130を形成するため、転造ダイス210(歯部211)に加わる圧力が減少し、転造装置200の耐久性が向上すると共に、転造力が小さい転造装置200によって歯形130を形成できるため、転造装置200のコストを抑制できる。
【0052】
また、歩き転造によって歯形130を形成する際、例えば、母材ロール110が中実で形成され、且つ300mmを超えるような長尺のロールを用いる場合、上述したように、母材ロール110が自重によって撓んでいるため、ピッチずれを起こしやすい。それを解消するために転造圧力を大きくすると、一対の転造ダイス210に挟持される母材ロール110が変形することや、過転造によって歯形130が崩れてしまうという問題点があった。
【0053】
これに対して本実施形態では、母材ロール110に中空部111を形成し、母材ロール110が軽量化されているため、歩き転造によるピッチずれを抑制できる。
【0054】
更に、母材ロール110の表面から歯形130の山頂までの寸法(略620μm)を、歯形130の谷底から山頂までの寸法(略40μm)の15倍以上の大きさで形成するため、小さい転造圧力で歯形130を形成でき、過転造によって歯形130が崩れることを確実に抑制することができる。よって、転造によって精度良く歯形130を形成することができ、グラビア塗工時の塗布ムラを抑制することができる。また、より小さい歯形130を形成することも可能となる。
【0055】
また、母材ロール110に加わる転造の圧力を減少させることができるので、母材ロール110が中空で形成される場合であっても、その母材ロール110の変形を抑制でき、グラビアロール100の製造時の不良率を抑制することができる。
【0056】
尚、母材ロール110の表面から歯形130の山頂までの寸法は、歯形130の谷底から山頂までの寸法の5倍以上の大きさで形成することが好ましく、15倍以上の大きさで形成することがより好ましい。この場合、母材ロール110の表面から歯形130の山頂までの寸法を5倍以上の大きさで形成すれば、より小さい転造圧力で歯形130を形成できるため、過転造によって歯形130が崩れることを抑制することができ、15倍以上の大きさで形成すれば、上述の通り、さらに小さい転造圧力で歯形130を形成できるため、過転造によって歯形130が崩れることを確実に抑制することができる。
【0057】
また、母材ロール110の表面から歯形130の山頂までの寸法を、歯形130の谷底から山頂までの寸法の15倍よりも大きく形成するほど、転造によって精度良く歯形130を形成することができる。しかしながら、金属皮膜層120の膜厚が厚くなるほど、金属皮膜層120を形成するコストも嵩むため、100倍以下の寸法にすることが好ましい。
【0058】
次いで、転造工程の後に行われる工程である硬質皮膜層形成工程について説明する。
【0059】
図1に示すように、硬質皮膜層形成工程では、転造工程で形成された歯形130の表面(図2(c)参照)に略10μmの硬質クロムめっきを施し、硬質皮膜層140を形成する。
【0060】
これにより、炭素鋼に比べて耐摩耗性が劣る銅で歯形130(金属皮膜層120)を形成しても、その歯形130の表面に銅よりも硬い材料である硬質クロムによって硬質皮膜層140が形成されるため、歯形130の耐摩耗性が高まり、グラビアロール100の耐久性が向上する。
【0061】
特に、エッチングや電子彫刻で歯形130を形成する場合や、ピンホール110aや変質層110bが存在する母材ロール110の表面に直接転造して歯形130を形成する場合に比べ、金属皮膜層120の表面に転造によって形成される歯形130はその表面が平滑であるため、歯形130の表面に形成される硬質皮膜層140の耐摩耗性が従来よりも高くなる。
【0062】
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、母材ロール110の外径、長さ、中空部111の内径および歯形130(歯部211)の谷底から山頂までの寸法は例示であり、適宜設定できる。
【0063】
上記実施形態では、母材ロール110が炭素鋼、金属皮膜層120が銅、硬質皮膜層140が硬質クロムで形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、母材ロール110がステンレスやアルミ、鉄から形成される場合、金属皮膜層120は、母材ロール110を形成する金属よりも展延性の良い金属、例えば、金、銀、亜鉛、カドミウム、スズ、鉛、アルミニウム、鉄、銅から任意に選択すれば良く、硬質皮膜層140は、金属皮膜層120を形成する金属よりも硬い材料、例えば、DLC、コバルト、パラジウム、ロジウム、ニッケル、白金、クロム、硬質クロム、鉄から任意に選択すれば良い。また、歯形130に窒化処理を施して硬質皮膜層140を形成しても良い。
【0064】
上記実施形態では、歯形130が軸O方向に対して所定の角度で傾斜し、断面台形状で母材ロール110の外周に螺旋状に形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、歯形130を軸O方向に対して直角に複数平行に形成しても良く、アールを持った断面形状や、台形以外の多角形の断面形状でも良い。また、歯形130をメッシュ状に形成しても良い。
【0065】
上記実施形態では、グラビアロール100(母材ロール110)に支持部112が連結されて長手方向の両端を支持される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、グラビアロール100(母材ロール110)は、支持部112が連結されない構成でも良く、その場合は、母材ロール110の軸O方向の両端を直接支持すれば良い。
【0066】
上記実施形態では、転造装置200が一対の転造ダイス210を備える場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、転造装置200は3個以上の複数の転造ダイス210を備えるものであっても良い。
【符号の説明】
【0067】
100 グラビアロール
110 母材ロール
120 金属皮膜層
130 歯形
140 硬質皮膜層
図1
図2
図3