【実施例】
【0097】
本発明
により前述した効果が得られることの確認試験を行った結果を以下に示す。
【0098】
なお,ブラスト加工装置としては,乾式ブラスト加工(比較例)及び本発明のブラスト加工(実施例)共にサクション式のブラスト加工装置を使用して行い(構造の概略については
図1参照),液体(水)の供給を行いながらブラストする本願のブラスト加工(実施例)では,ブラストノズルとして
図2(A)を参照して説明したようにジェット83の圧縮気体流路86中に液体導入路88を備えたもの,又は,
図5を参照して説明したように,ジェット83の先端部外周に液体導入路88となる室を設けたもののいずれかを使用し,一方,乾式のブラスト加工(比較例)については,
図2(A)及び
図5に記載のブラストノズルに水を供給することなく研磨材を噴射して測定するか,又は,一般的なジェットを備えたブラストノズル〔
図2(A)に示す構造のブラストノズルのジェット83から液体導入路88を除去した構造のもの〕を使用してブラスト加工を行い測定した。
【0099】
(1)帯電防止効果の確認
アクリル板(100×100×5mm)に対しブラスト加工を行った際の帯電量を測定した。
【0100】
研磨材として,不二製作所製のナイロンビーズ(NB)♯0303(平均粒径300μm)を使用し,ノズル距離を160mm,噴射圧力0.3MPa,噴射時間を40分間として研磨材の噴射を行った。
【0101】
加工は,
図1に示す構造の循環式のブラスト加工装置に,
図2(A)を参照して説明したブラストノズルを装着して行い,ブラストノズル8に対する水の導入量を調整する流量調整弁7を全閉の状態から徐々に開いて給水量を増やしていき,アクリル板の帯電量の変化(測定器:3M製709STATIC SENSORを使用),加工室内の温度と湿度の変化を測定すると共に,加工室内の様子を観察した。測定結果を表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
以上の結果から,流量調整弁7を全閉として無給水で行った乾式ブラストにおける帯電量に対し,0.06cc/minという僅かな給水を行っただけで帯電量が40%以上低下することが確認されており,比較的少量の水の噴霧によっても高い静電気の発生防止効果が得られることが確認された。
【0104】
その後,給水量を増やすにつれて帯電量は更に減少し,15.0cc/minで,無給水時の帯電量に対し90%以上の低下が見られた。
【0105】
また,流量調整弁7を全閉として無給水で行ったブラスト加工では,ブラスト加工後のキャビネット内は,被加工物の表面,キャビネットの内壁,ゴムホースやブラストノズルの表面等の至る所に研磨材が付着したものとなっていたが,本発明
装置によるブラスト加工を行った後のキャビネット内には,壁面の段差部等に対する研磨材の堆積は確認できたものの,静電気による研磨材の付着は確認することができなかった。
【0106】
(2)加工量(切削速度)増加の確認
(2-1) 給水量の変化に対する加工量変化の測定
図2(A)に示すブラストノズルを使用し,流量調整弁の開度を調整して,ブラストノズルに対する給水量を変化させると共に,ワークの加工量(切削量)の変化を測定した。
【0107】
測定は,噴射距離を120mm,研磨材をアルミナ研磨材〔不二製作所製「フジランダム A♯60」を使用し,噴射圧力を0.4MPaとして,下記の表2に示す材質のテストピースに対し,同表2に示した条件で加工を行い,加工前後における試験片の重量を測定して,減量を切削量として求めた。
【0108】
【表2】
【0109】
各テストピースに対する測定結果を,表3〜11,及び
図6〜14に示す。なお,表3〜11において減量比は,無給水での加工時における減量に対する比を示す。
【0110】
【表3】
【0111】
【表4】
【0112】
【表5】
【0113】
【表6】
【0114】
【表7】
【0115】
【表8】
【0116】
【表9】
【0117】
【表10】
【0118】
【表11】
【0119】
以上の結果,いずれの材質のテストピースに対して加工を行った場合においても,水の供給を行うことなくブラスト処理を行った場合(比較例)に比較して,切削量の増大が得られることが確認できた。
【0120】
この切削量の増大は,水の供給量を増やすに従い増大するが,ある程度まで切削量が増大すると,給水量を増やしても更なる増大は生じずに横這いとなった。
【0121】
このことから
,研磨材と共に比較的少量の液体を噴射することで,前述した帯電防止効果のみならず,加工量の増大という,予期しない効果が得られることが確認できた。
【0122】
しかも,このような効果は,被加工物の材質に拘わらず得られる効果であることが確認できた。
【0123】
(2-2) 研磨材の変更に対する加工量増加効果の確認
図5に示したブラストノズルを使用してジルコングリッド(不二製作所製「FZG 60」(粒径0.125〜0.250mm)を噴射してステンレス製のテストピース(SUS304)を加工した結果と,アルミナ製の研磨材(不二製作所製「フジランダムA ♯60」(平均粒径230μm)を噴射してテストピースを加工した結果を,それぞれ表12,13に示す。
【0124】
【表12】
【0125】
【表13】
【0126】
上記の結果から,研磨材としてジルコングリッド(FZG-60)を使用した場合,アルミナ製の研磨材(不二製作所製「フジランダムA ♯60」(粒径250〜212μm))を使用した場合のいずれにおいても,加工量の増大が確認されており,本願で得られる加工量の増加という効果が,使用する研磨材の種類を変更した場合であっても変わらずに得られる効果であることが確認された。
【0127】
加工量の増大は,ジルコングリッド(FZG-60)の使用で1.5倍以上,アルミナ研磨材(不二製作所製「フジランダムA ♯60」)の使用で1.3〜1.4倍であり,大幅な加工量の増大が得られることが確認できた。
【0128】
(3)研磨材突き刺さり状態の確認
前掲の「(2)」「(2-1)給水量の変化に対する加工量変化の測定」で加工したテストピースのうち,ウレタンゴム板,ステンレス板,鉄板,アクリル板,エポキシガラス板の加工箇所中心の成分を,EDX(エネルギー分散型X線分析)装置(Oxford社製 INCA Energy)を使用して測定し,使用したアルミナ研磨材(不二製作所製「フジランダムA ♯60」)の主成分であるアルミニウムの質量濃度をテストピースに対する研磨材の突き刺さり量として評価した。
【0129】
測定結果を,表14〜18及び
図15〜19に示す。なお,表14〜18において,Al質量濃度比は,無給水でのAl質量濃度に対する比を示す。
【0130】
【表14】
【0131】
【表15】
【0132】
【表16】
【0133】
【表17】
【0134】
【表18】
【0135】
以上の結果から,液体の供給を行うことで,無給水でブラスト加工を行う場合に比較して,研磨材の刺さり込みが減少することが確認された。
【0136】
なお,既知のウェットブラスト法で加工を行う場合においても,研磨材の刺さり込み量を減少することはできるが,前述したように既知のウェットブラストでは,乾式のブラスト加工に比較して,切削量の減少が生じるものであり,加工性との両立を行い得るものとはなっていなかった。
【0137】
これに対し,本
発明装置によるブラスト処理では,前述したように,従来のウェットブラストとの比較においてのみならず,無給水でのブラスト加工との比較においても切削量の向上が得られるものでありながら,同時に研磨材の刺さり込みを防止することができるという,予測し得ない効果が得られるものとなっている。
【0138】
(4)研磨材の消耗量と粒度の測定結果
図2(A)に示したブラストノズルを使用した本発明
による処理(実施例),及び,既知のブラストノズル〔
図2(A)のブラストノズルから液体導入路88を省略した構造のもの〕を使用した乾式ブラスト加工方法(比較例)により,研磨材としてジルコンビーズ(不二製作所製「FZB-60」(平均粒径200μm)を使用してSUS304製の試験片に対し噴射圧力0.5MPaでブラスト加工を行い,ブラスト加工後の研磨材の消耗量を測定すると共に,研磨材の粒子の状態を観察した。
【0139】
噴射は,連続噴射方式(
図1に示す研磨材循環型のブラスト加工装置)にて行い,測定開始当初にブラスト加工装置の研磨材タンク内に投入した研磨材の重量と,回収された研磨材の重量をそれぞれ測定し,減少分の重量を消耗量として評価した。
【0140】
ブラスト加工時間は45分で,本発
明における水の導入量は6cc/minである。
【0141】
上記による研磨材消耗量の測定結果を表19に,使用後の研磨材の粒子の状態を
図20にそれぞれ示す。
【0142】
【表19】
【0143】
以上の結果から,本発明
装置によるブラスト
処理では,既知の乾式ブラスト加工方法に比較して,研磨材の消耗量が減少していることが確認された。
【0144】
また,回収された研磨材の粒度(
図20参照)の観察結果から,本発明
装置によるブラスト加
工を行った後の研磨材に比較して,乾式のブラスト加工方法で使用した後の研磨材の方が破砕の進行が速く粒径が小さくなっており,この点でも研磨材の消耗に大きな差があることが確認された。
【0145】
(5)被加工物の表面温度の測定
(5-1) 熱電対による温度測定
噴射距離を100mm,噴射圧力を0.3MPaと0.5MPaとし,研磨材としてジルコビーズ(不二製作所製「FZB-400」:粒径<0.05mm)を使用して,15mm×15mm×0.5mmの銅板に研磨材を噴射して銅板の温度変化を測定した。
【0146】
温度の測定は,銅板の裏面に熱電対型の温度計を取り付けて温度変化を読み取り可能とした状態で,
図2(A)のブラストノズルを使用して給水量を変化させながら数秒間に亘り研磨材の噴射を行い,研磨材の噴射中に表示された最も高い温度を測定値として採用した。測定結果を表20に示す。
【0147】
【表20】
【0148】
上記の結果から,本発
明によれば,乾式ブラスト加工方法で加工する場合に比較して,被加工物の温度上昇を大幅に低下させることができることが確認された。
【0149】
(5-2) 発熱状態の確認
上記の試験で測定された温度は,あくまでも数秒間という極めて短時間の噴射で,且つ,処理対象とした銅板の裏面における温度を測定したものであり,研磨材の衝突が生じている表面側の温度上昇は,瞬間的に被加工物の表面を軟化させる程のより高温となっていることが予想される。
【0150】
そこで,本発明
による処理と,乾式のブラスト加工方法における被加工物の表面温度の相違を感覚的に判り易く捉えるため,PC(ポリカーボネイト)製の樹脂製品の塗膜剥離と,PPS(ポリフェニレンサンファイド)製樹脂製品のバリ取り処理に,本発明のブラスト処理と,既知の乾式ブラスト処理を適用して,加工状態を比較した。
【0151】
なお,PC製の樹脂製品の塗膜剥離は,
図2(A)に示すブラストノズルを使用して高純度アルミナ研磨材(不二製作所製「フジランダム WA ♯600」)を加工圧力0.4MPa,ノズル距離70mmで噴射して行い,本発明
によれば(実施例)においては5cc/minの給水量で,比較例においては無給水にて加工を行った。
【0152】
また,PPS(ポリフェニレンサンファイド)製樹脂製品のバリ取り処理は,
図2(A)に示すブラストノズルを使用して,ナイロンビーズ(不二製作所製「FNB -0303」)を加工圧力0.4MPa,ノズル距離20〜30mmで噴射し,本発
明(実施例)においては3cc/minの給水量で,比較例においては無給水にて加工を行った。
【0153】
塗膜剥離後のPC製品の表面粗さを測定した結果を
図21に,バリ取り後のPPS製品の表面粗さを測定した結果を
図22にそれぞれ示す。
【0154】
いずれの処理結果においても,本発明
装置で処理した樹脂製品〔
図21(A),
図22(A)参照〕は,乾式で行った比較例の樹脂製品〔
図21(B),
図22(B)〕に比較して表面の粗れが少ないことが判り,この結果から,乾式のブラスト加工では,発熱による軟化によって大きな変形を受けたものと考えられる。
【0155】
また,乾式ブラストによって処理がされた樹脂製品では,表面が焦げによって黒っぽく変色していたのに対し,本発明
装置で加工がされた樹脂製品にあっては,このような焦げの発生は確認できず,この点からも,本発明の方法では,被加工物の発熱が好適に防止できていることが確認できた。
【0156】
なお,このような焦げの発生は,樹脂製品に対し処理を行う場合のみならず,アルミ等の金属製品に対する処理を行った場合にも同様に生じるものであったが,本発明
装置による処理では,このような金属製品に対する処理においても焦げの発生を防止できるものであった。
【0157】
更に,乾式ブラスト加工では,11〜12秒かかった塗膜の剥離が,本発明
装置による処理では6〜7秒に短縮されており,本発明のブラスト加工を行う場合には,塗膜の除去効率の向上が得られることが確認できた。
【0158】
なお,このような効果は,母材が樹脂だけではなく、アルミニウム合金・マグネシウム合金・亜鉛合金・真鍮合金・鉄等などの金属表面の塗装剥がしでも同じ効果が確認された。
【0159】
また,バリ取り処理にあっては,乾式ブラストでは取れなかったバリについてまで,本発明のブラスト加工では除去することができており,バリ取り処理に使用した際にも本発明のブラスト加工が有効であることが確認された。
【0160】
このような相違は,乾式のブラスト加工では被加工物の表面温度が上昇して,塗膜やバリが軟化することで研磨材の衝突時の衝撃を吸収してしまい剥離や除去が行われ難くなるのに対し,本発明
による処理では,被加工物の表面が冷却されることで塗膜やバリの軟化が抑制され,塗膜やバリが硬い(従って脆い)状態を維持する結果,研磨材の衝突によって剥離や除去が行われ易いことが原因であると考えられる。
【0161】
(6)反りの発生状態の確認
図2(A)に示したブラストノズルを使用し,研磨材としてジルコンショット(不二製作所製「FZB-425」(0.425〜0.60mm平均粒径513μm))を使用してアルメンストリップ(Aストリップ)に対する加工を行った。
【0162】
加工圧力は0.3MPa,0.5MPaの2種類で行い,加工時間を20秒とし,給水量を変化させてアークハイト値(試験片の湾曲高さ)を測定し,これを「反り」として評価した。測定結果を表21に示す。
【0163】
【表21】
【0164】
以上の結果,本発明
装置によるブラスト加工を行う場合には,被加工物に対し生じる反りについても僅かに減少させることができることが確認された。