【文献】
宮澤 一之,位相限定相関法に基づく虹彩認証アルゴリズム,映像情報メディア学会技術報告,日本,(社)映像情報メディア学会,2006年 6月27日,第30巻,第33号,45〜48
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態は、一般にバイオメトリク虹彩照合のための方法及び機器に関する。一実施形態によれば、バイオメトリク虹彩照合のための方法が、目の赤外画像を受け取るステップと、目の中の虹彩と瞳孔との境界を分けるステップと、虹彩及び/又は瞳孔の任意の傾斜又は傾きを補正すると共に角膜歪みを補正するステップと、補正した虹彩画像に基づき多重分解能虹彩符号を生成するステップと、知られている虹彩画像のデータベースに対して虹彩符号を照合して合致の有無を判定するステップとを含む。
【0009】
図1は、本発明の例示的実施形態による、バイオメトリク虹彩照合用の虹彩プロセッサ100のブロック図を示す。虹彩プロセッサ100は、プリプロセッサ102、符号化プロセッサ104、及び照合プロセッサ106を含む。虹彩プロセッサ100は、画像を入力、例えば入力画像101として受け取り、合致した虹彩108をリモートデータベース又はローカルデータベースから出力する。データベースは、「クラウド」サービスとしてや、インターネット接続等を介して直接アクセスできることを当業者なら理解されよう。虹彩プロセッサ100の破線の外郭線によって示すプリプロセッサ102、符号化プロセッサ104、及び照合プロセッサ106は、単一の装置上で、又は異なる装置、サーバ、クラウドサービス等の上で実行され得る。当業者なら理解するように、虹彩プロセッサ100はモジュール式とすることができ、各プロセッサは、単一の装置上に、複数の装置上に、サービスとしてクラウド内に実装することができる。プリプロセッサ102は、符号化プロセッサ104及び照合プロセッサ106とは独立に使用できることを当業者なら理解されよう。
【0010】
本発明の例示的実施形態によれば、入力画像101は赤外画像であり、虹彩プロセッサ100に結合される赤外線捕捉装置(不図示)によって捕捉される。赤外線捕捉装置は、当業者に知られている任意の種類の赤外線捕捉装置とすることができる。他の例では、入力画像101がRGB(赤、緑、青)画像等である。入力画像101は、虹彩及び瞳孔が少なくとも部分的に見える目を含み、虹彩プロセッサ100は、その目を目画像のローカルデータベース又はリモートデータベース内の目画像の虹彩に対して照合しようと試みる。例示的実施形態によれば、虹彩は、2つの符号化虹彩画像間のハミング距離に基づいて照合される。
【0011】
最初に、入力画像101がプリプロセッサ102によって処理される。プリプロセッサ102は、入力画像101内の虹彩を区分化及び正規化し、入力画像101は、虹彩/瞳孔及び虹彩/強膜の可変コントラスト、狭い瞼開度、及び非正面の虹彩表示を有する場合がある。プリプロセッサ102の結果は、はっきりと線引きされた虹彩の境界、及び合成された準正面の表示を含む修正済み虹彩画像である。例えば、入力画像101内の虹彩が左、右、上、又は下に向かって回転している場合、プリプロセッサ102は、あたかもその虹彩が真正面に位置していたかのように入力画像101上の虹彩を合成する。同様に、正面に位置する瞳孔が、入力画像101のスキューされた又は回転された瞳孔上に合成される。
【0012】
符号化プロセッサ104は、様々な分解能、質、及び焦点状態の入力画像101内に含まれる構造上の虹彩情報をロバストに表現できるように、空間規模の所定の範囲においてプリプロセッサ102が生成する虹彩画像の虹彩情報を解析し、符号化する。その結果生じる符号の情報内容は、入力画像101の特性に応じて異なる。符号化プロセッサ104によって生成される、入力画像101を表す符号は、照合プロセッサ106による虹彩符号の整列を助ける空間的補間を可能にする。
【0013】
符号化プロセッサ104からの出力符号は、照合プロセッサ106に結合される。照合プロセッサ106は、記憶済みの虹彩画像と入力画像101から生成される捕捉虹彩符号との間の虹彩構造情報の制約付きアクティブ整列を実装し、プリプロセッサ102による虹彩画像の正規化における制約を補償する。照合プロセッサ106は、符号化プロセッサ104によって生成される符号の推定残留歪みに基づき、符号を局所的にずらし又は歪ませることによって整列を行い、生成符号を記憶済みの虹彩符号テンプレートに対して照合する。一部の実施形態によれば、整列を行うために「バレルシフト」アルゴリズムを使用する。このようにして構造上の対応を位置合わせし、照合プロセッサ106が整列された符号を比較して合致の有無を判定する。合致が見つかる場合、照合プロセッサは合致した虹彩データ108を返す。
【0014】
合致した虹彩データ108は多くの例で、例えば金融取引を承認するために使用することができる。プリプロセッサ102は、携帯電話、カメラ、タブレット等のモバイル装置上で実行されるアプリケーションとすることができる。モバイル装置上のプリプロセッサ102は、装置のカメラを使用して利用者の目の画像を捕捉し、モバイル装置上で前処理ステップを実行し、次いでバンドル化され、暗号化された要求を符号化プロセッサ104に伝送することができ、符号化プロセッサ104は例えば金融機関のリモートサーバ上のクラウドサービスを介してアクセスすることができる。他の実施形態では、モバイル装置上のアプリケーションが符号化プロセッサ104も含むことができ、虹彩の符号化がモバイル装置上で実行される。一部の実施形態では、プリプロセッサ102を現金自動預払機(ATM)と共に使用することができ、利用者はプリプロセッサ102によって走査され、処理される自身の虹彩によって承認される。プリプロセッサ102はATMのソフトウェア内にあっても良く、又はATMが、カメラによって捕捉される画像を、前処理を行うためにプリプロセッサ102が実行されるサーバに供給しても良い。
【0015】
符号化プロセッサ104は、照合プロセッサ106に伝送される虹彩符号を生成する。照合プロセッサ106は、金融機関のサーバ上にホストされても良く、又は虹彩画像に基づいて利用者を認証するための、複数の金融機関が使用可能なリモートサードパーティサービスとすることができる。利用者が認証されると、利用者と金融機関との間で金融取引を行うことができる。同様に、虹彩プロセッサ100は、ソーシャルネットワーク、メッセージングサービス等へのサインイン等、任意の脈絡で利用者を認証するために使用することができる。
【0016】
虹彩プロセッサ100は、例えば虹彩識別に基づくマーケティングデータの収集やターゲティングに使用することができる。例えば、食品雑貨店にいる顧客を検出し、その顧客の虹彩をローカルデータベース又はリモートデータベース内に記憶することができる。その顧客が再びその食品雑貨店又は虹彩情報が共有される関連店に入店する場合、店は虹彩検出及び視線追跡を使用することにより、その顧客、その顧客が最も頻繁に購入し、目を通す品物等のプロファイルを構築することができる。これらのマーケティングプロファイルは、製品を配置するために店自体が使用することができ、又はマーケティングデータとしてサードパーティマーケティングサービスによって使用されても良い。他の実施形態では、顧客プロファイルを識別情報と照合することができ、店と提携するウェブサイト又は虹彩データにアクセス可能なウェブサイトを顧客が使用すると、そのウェブサイトは顧客を識別し、その顧客にターゲットマーケティングを提供する。
【0017】
虹彩プロセッサ100は、携帯装置の利用者を承認し、地理位置情報データ等と共に装置が盗難されているかどうかを判定するために使用することができる。この実施形態では、携帯装置の購入時に、利用者が自身の識別情報を自らの虹彩情報に基づいて装置上に「転写する」ことができ、その結果、盗難が報告された場合に他者がその装置を使用することを防ぐことができる。承認はオフィス環境又は個人環境に拡張することもでき、かかる環境では、虹彩プロセッサ100を使用し、承認され又は検出された利用者が特定の位置にアクセスできるかどうかを判定することができる。例えば、セキュリティ保護されたオフィス環境では、大半の従業員にとって写真を撮ることが禁止されている場合があるが、承認された従業員についてはこの禁止を無効にし、カメラを使用可能にすることができる。従業員の画像を捕捉するために従業員のモバイル装置を使用し、虹彩プロセッサ100が従業員の虹彩を照合し、その従業員の承認を線引きする従業員プロファイルを抽出する。
【0018】
医療分野では、薬剤、装置等の特定の医療資源にアクセスしている人物が、その資源へのアクセスを許可されているかどうかを判定するために虹彩プロセッサ100を使用することができる。虹彩プロセッサ100は、例えば薬品戸棚にアクセスする人物の動画を捕捉する記録装置に結合することができ、その人物が戸棚から医療資源を取ることを承認されているかどうか。
【0019】
虹彩プロセッサ100は、資源が限られている小企業によって、セキュリティシステム及び認証装置として使用されても良い。電気的/機械的な施錠システムにカメラ又は他の画像捕捉装置を単純に結合することにより、企業は承認された人物しかドア、オフィス、金庫室等を利用できなくすることができる。符号化プロセッサ104が生成する虹彩符号は、例えば飛行機の搭乗券を承認するために使用することができる。旅行(飛行機、電車、バス等)切符の購入時に、符号化プロセッサ104は購入者の虹彩符号を生成し、その虹彩符号を搭乗券に転写するために保存する。旅行者が飛行機、バス、又は電車に乗るとき、運輸会社は照合プロセッサ106を呼び出し、搭乗券を提示する旅行者によって作り出される虹彩符号に対して搭乗券上の虹彩符号を照合することができる。合致がある場合、その旅行者はバス、電車、又は飛行機に乗ることを許可される。
【0020】
図2は、本発明の例示的実施形態による、虹彩プロセッサのプリプロセッサのブロック図を示す。プリプロセッサは入力画像101を受け取り、修正済み虹彩画像220を出力する。修正済み虹彩画像220は、周囲照明条件、様々な照明形状、狭い瞼開域、表示角(傾き)等、無制御の捕捉シナリオを補正する。修正済み虹彩画像220は、虹彩画像220が与えられる照合アルゴリズムに基づいて様々な不適合を補正することを当業者なら理解されよう。
【0021】
プリプロセッサ200は、区分化モジュール202及び補正モジュール204を含む。区分化モジュール202は、瞳孔区分化モジュール206、虹彩区分化モジュール208、及びエッジ検出モジュール209を更に含む。区分化モジュール202は、低コントラストの瞳孔と虹彩との境界について入力画像を補正する。次いで、区分化モジュール202が生成した画像が、更なる補正のために補正モジュール204に結合される。補正モジュール204は、傾斜補正モジュール210及び角膜補正モジュール212を含む。区分化モジュール202の詳細については以下で説明する。
【0022】
図3Aは、様々な照明形状が瞳孔の異なる外観を作り出すことを示す。
図3Aは、距離、例えば1メートルや2メートル、瞳孔の大きさ、例えば2.4mmや4.0mm、及びカメラ/照明器の距離、例えば6〜16cmに応じた瞳孔−虹彩明度測定値の違いを示す。カメラ/照明器の距離が長くなるにつれ、瞳孔虹彩明度が低下する。瞳孔のコントラストは、カメラと対象との間の距離に応じて、並びに照明器の形状寸法及び瞳孔径に応じて大幅に変わる。距離による変化は、照明器とカメラ軸との間の角距離が長距離よりも短距離(例えば1m)において大きいことに起因する。照明器とカメラ軸とが近づくにつれ、網膜から瞳孔を通って外に跳ね返るより多くの光がカメラレンズによって捕捉される。このことは、普通の写真内の赤目及び赤外写真内の明瞳孔を招く。例示的な照明器については、参照によりその全体を本明細書に援用する2006年1月19日に出願されたMateyの「Method and Apparatus for Providing Strobed Image Capture」と題された米国特許第7,542,628号明細書、及び2009年4月24日に出願されたMateyの「Method and Apparatus for Providing Strobed Image Capture」と題された米国特許第7,657,127号明細書の中で更に説明されている。
【0023】
区分化モジュール202及び補正モジュール204は、例えば医療分野、ターゲットマーケティング、店内の顧客追跡等に使用することができる。例えば、
図2及び
図3A〜
図3Dに関して更に説明するように、医療分野では、人が有し得る病気をその人の虹彩プロファイルに基づいて診断するための診断ツールとして、瞳孔及び虹彩の挿入がプリプロセッサ102によって行われ得る。
【0024】
図3Bは、本発明の例示的実施形態による、虹彩及び瞳孔の境界の照合についての一例を示す。一部の実施形態によれば、虹彩径が区分化モジュール208によって正規化される。大きさの正規化は、画像を撮るカメラの自動焦点設定から得られる距離推定を用いて行われる。画像300は、瞳孔区分化モジュール206が計算した瞳孔の境界304を示す。次いで瞳孔区分化モジュール206は、画像300内の瞳孔の境界304内に人工的な暗い瞳孔を挿入する。その後、虹彩の境界を計算する虹彩区分化モジュール208に画像300を結合する。
図3C及び
図3Dは、挿入された人工瞳孔及び虹彩の境界の例を示す。
図3Cでは、入力画像320がプリプロセッサ200に結合される。次いで、瞳孔境界領域326を計算するために、入力画像320が瞳孔区分化モジュール206によって区分化される。その後、瞳孔区分化モジュールが人工的な黒色の瞳孔を瞳孔境界領域326内に挿入する。更に、傾いた虹彩及び瞳孔を円形になるように歪める。瞳孔境界領域326内に人工瞳孔を挿入することは、例えばカメラが捕捉する画像内の赤目現象を除去するために使用することができる。区分化モジュール202は、瞳孔領域と虹彩領域とを分けるために使用することができ、人工瞳孔を挿入することにより、瞳孔の赤目を補正することができる。区分化し、歪めるこの過程については以下でより詳細に説明する。
【0025】
図3Dは、同様の過程だが、画像350内の下向きの虹彩についての過程を示す。画像352内では、瞼によって遮られているにもかかわらず、瞳孔境界356が相変わらず検出されている。区分化を助けるために、瞳孔及び虹彩の両方を歪ませて円形領域を形成する。瞳孔区分化モジュール206が画像352内に黒いディスク/人工瞳孔を挿入し、画像352を虹彩区分化モジュール208に結合する。虹彩区分化モジュール208が、虹彩境界358を決定する。最終的に、様々な照明条件について虹彩境界及び瞳孔境界を補正し、画像354内に提示し、画像354内では領域360が人工瞳孔を伴って見られ得る。一部の実施形態によれば、人工瞳孔は必ずしも黒でなくても良く、サードパーティ虹彩認識ソフトウェアとの互換性に基づく別の適切な色とすることができる。
【0026】
一実施形態によれば、ハフ変換を使用して瞳孔境界、例えば304、326及び356、並びに虹彩境界(虹彩/強膜の境界領域)、例えば306、328及び358を計算する。瞳孔区分化モジュール206及び虹彩区分化モジュール208は、エッジ検出モジュール209を用いたエッジ検出を使用してエッジマップを生成し、エッジマップは、エッジコントラストが低い場合にさえグレースケール瞳孔の変化するスケールに有効である。瞳孔区分化モジュール206が区分化された瞳孔領域(従って瞳孔の輪郭線)を決定し、瞳孔及び虹彩が円形領域を形成するように歪められると、暗い瞳孔の外観を擬似するように区分化された瞳孔領域が黒い又は暗いディスクで置換される。
【0027】
図4Aは、本発明の一実施形態による、エッジ検出方法400の流れ図を示す。方法400は、瞳孔及び虹彩の境界を検出するために使用するエッジ検出モジュール209の動作についての例示的説明である。
【0028】
この方法はステップ402で始まり、ステップ404に進む。ステップ404で、目の画像、例えば入力画像101からエッジマップを生成する。明るく照らされた虹彩画像の一例示的エッジマップを
図4Bの画像420に示す。画像422は、そこまで明るく照らされなかった虹彩画像、即ちそのエッジが画像420内のエッジ程明確には見えない不明瞭な瞳孔のエッジマップである。
【0029】
ステップ406で、所与のエッジマップについて瞳孔輪郭候補を構築する。ステップ406は、サブステップ406A及び406Bから成る。サブステップ406Aで、
図4Bの画像420に示すように、第1の瞳孔輪郭候補を最適円から作成する。例えば、円の円点の最も大きい部分がエッジ点に一致するという意味で、エッジマップ内で最高水準の支援を有する円を見つけるために、ハフ変換やRANSAC(ランダムサンプルコンセンサス)法を使用することができる。ステップ406Bで、
図4Bの画像422に示すように、第2の瞳孔輪郭候補を最良の内接円から構築する。内接円とは、エッジ点が(又は指定された少数のエッジ点しか)円内にないようにエッジマップのエリア/領域内に描くことができる円であることを当業者なら理解されよう。一実施形態によれば、最良の内接円とは、瞳孔のエリア/領域内で見つけることができる最大のかかる内接円である。次いでこの方法はステップ408に進み、ステップ408では、方法400が、エッジマップの第1の及び第2の瞳孔合致輪郭候補から最も合致する瞳孔輪郭候補を決定する。一実施形態によれば、最良合致は、最適円の支援水準を評価し、この支援水準が閾値を上回る場合に最適円を最良合致として選択することによって決定される。最良の内接円は、最適円の支援水準が閾値を下回る場合に最良合致として選択される。
【0030】
一実施形態によれば、エッジ輪郭マップ内で最適輪郭(円)がエッジ輪郭にどの程度うまく合致するのかに基づく自動処理を使用して、どの輪郭候補を選ぶのかを決める。例えば、上記の最も支援された円では、その角度方向が候補円の一部であるそのエッジ点と一致するエッジ点に限られる、エッジ点の部分集合を選択することができる。言い換えれば、その方向が候補円の推定される中心からの方向に対してほぼ垂直であるエッジ点だけが含まれる。この処理は、円の一部になる正しい位置に偶然入り得るが、実際の円の輪郭に対応しないエッジ点を検討対象から除去する。そのように選択されるエッジ点の比率が、円を構成する点の数の幾らかの指定の割合(例えば20%)を上回る場合、その円の支援水準が十分と見なされ、最適円が選択される。被選択エッジ点による支援水準がこの閾値を下回る場合、最適円は不十分な支援を有すると見なされ、代わりに最良の内接円が選択される。概して言えば、明るい色の目のエッジマップが最良の内接円430及び最適円432にオーバレイされる
図4Bの画像420に示すように、最適輪郭候補は明瞳孔画像内の正確な瞳孔の区分化を提供する。次いでこの方法は、最も合致する瞳孔輪郭候補が見つかると、ステップ412で終了する。
【0031】
一部の例では、虹彩画像が、例えば
図3Dに示すように鼻側の凝視角に対する凝視の偏差が0度から40度に及ぶ、一連の傾斜した視野条件にわたって捕捉される場合がある。傾斜補正モジュール210は、この傾斜について画像を修正し、傾斜補正済み画像を生成する。一実施形態によれば、傾斜補正済み画像は、傾斜の程度及び方向/角度を推定し又は求め、虹彩画像に幾何変換を適用して傾斜した視角を補償することによって生成され得る。虹彩が平らなディスクである場合、この変換の最も単純な形態は、傾斜方向に画像を伸縮して虹彩と画像平面との間の角度によって引き起こされるフォアショートニングを補償することである。かかる非等方伸縮は、アフィン変換として数学的に表される。この幾何学的傾斜除去のより正確なバージョンは、平らで傾いた面上のパターンの画像表現をより良く表す投影変換でアフィン変換を置換する。
【0032】
補正モジュール204には、虹彩プロセッサ100の他の構成要素とは無関係の幾つかの用途がある。例えば、補正モジュール204を使用して人の目の1つ又は複数のフレームを捕捉することにより、人の凝視を検出し又は人の凝視を継続的に追跡することができる。傾斜補正モジュール210は、例えばモバイル装置上の利用者の凝視を継続的に追跡し、文書をスクロールし、スワイプ等を行うために使用することができる。この傾斜検出は、モバイル装置のディスプレイを有効又は無効にするために、例えば
図1に記載した照合プロセッサ106とは独立に使用することができる。
【0033】
一部の実施形態では、区分化モジュールが入力画像101上に人工的な瞳孔のディスクを設ける前に、補正モジュール204が入力画像101を補正する。一部の例では、見た目に明らかな虹彩の鼻側の部分の瞳孔が片寄って圧縮されること等、傾斜補正が依然として歪みを示す場合があり、虹彩をバイオメトリクによって記憶済みの虹彩画像と照合する際に問題を引き起こす。この歪みは、そこを通して虹彩を撮像する、人間の目の角膜及び前眼房の光学効果によって引き起こされる。これらの2つの構造は同様の屈折率(前眼房を満たす房水で1.336、角膜で1.376)を有し、そのため合わさると、それらの光学効果はおおよそ、虹彩と接触する水で満たされた単一の平凸レンズの光学効果である。斜角から見ると、かかるレンズは虹彩画像内に非対称の歪みを作り出し、或る領域内では画像を圧縮し、他の領域内では画像を拡張する。
【0034】
傾斜補正モジュール210によって生成される傾斜補正済み画像は、上記の角膜の歪みを補正する角膜補正モジュール212に結合される。
【0035】
図4Cは、本発明の例示的実施形態による、角膜歪みを補正する方法440の流れ図を示す。方法400は、エッジ検出モジュール209の動作についての例示的説明である。
【0036】
この方法はステップ402で始まり、ステップ404に進む。ステップ404で、傾斜補正モジュール210が、カメラの向きに対する虹彩の傾斜角を推定する。傾斜は、瞳孔の中心を見つけ、その中心と虹彩の撮像に使用される近赤外照明器によって引き起こされる角膜内の明るい反射との間の距離を測定することによって概算で推定することができる。当業者に知られている傾斜推定の他の方法も使用することができる。実際に、本明細書では傾斜推定の如何なる方法も置換することができる。
【0037】
この方法は、画像が遠近歪み、即ち発生する虹彩のフォアショートニングについて補正されるステップ406に進む。フォアショートニングの効果は、方向又は傾斜に関する捕捉画像の単純な圧縮として概算することができる。従って、この効果は、傾斜推定ステップから得た方向に画像を単純に伸縮することによって補償することができる。投影変換を使用してフォアショートニングの効果をより精密に捕捉することにより、より正確な補正を行うこともできる。
【0038】
最後にステップ448で、方法400は、傾斜した角膜を介して見ることによる光学的歪みの効果を補正する。一実施形態によれば、上記の光学的歪みをおおよそ補正することは、瞳孔の偏心及び瞳孔の伸長の効果を測定し、補正することによって実現することができる。この方法はステップ450で終了する。
【0039】
図4Dの画像460内で見られるように、傾斜の推定に基づきフォアショートニングを補正した後、瞳孔は依然として虹彩の中心に対して左にずれて表示され、水平方向に伸びて表示されている。これらの効果は、角膜の光学効果によって引き起こされる。角膜補正モジュール212は、これらの歪みを引き起こした光学要素をモデリングすることなしに、虹彩エリア/領域を非線形に歪めて虹彩輪郭466及び瞳孔輪郭468を同心円にすることによってこれらの歪みを補正する。角膜補正モジュール212は、非円形瞳孔輪郭468上の点を非円形虹彩/強膜輪郭466上の対応する点につなぐ1組のスポーク470を定め、合成の円形瞳孔輪郭472を同心円虹彩/強膜輪郭474につなぐ位置にスポーク470の各スポークをマッピングすることにより、この非線形ワーピング関数を作成する。次いで、説明した変換を基礎画像460に適用する。この(適切な補間を伴う)マッピングの結果を画像476内に示す。瞳孔及び虹彩のエリア/領域が同心円になるようにずらした後、より優れた合致結果を伴い、符号化処理をより正確に行うことができる。
【0040】
上記のようにかかる補正済み画像を構築した後、標準的な管理条件下で捕捉される虹彩画像に適用されるように設計された所望の任意の虹彩バイオメトリクアルゴリズムを使用し、虹彩の符号化及び照合を行うことができる。例えば、Daugmanの古典的方法(Daugman, J., “High confidence visual recognition of persons by a test of statistical independence”, IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, 15 (11), pp 1148−1161 (1993))を適用することができる。但し、これだけに限定されないが、Munro(D. M. Monro and D. Zhang, An Effective Human Iris Code with Low Complexity, Proc. IEEE International Conference on Image Processing, vol. 3, pp. 277−280, Sep 2005)及びTan(Tan et al, Efficient Iris Recognition by Characterizing Key Local Variations IEEE TRANSACTIONS ON IMAGE PROCESSING, VOL. 13, NO. 6, JUNE 2004)の方法を含む、他者によって開発された方法も使用することができる。
【0041】
図5は、本発明の例示的実施形態による、符号化プロセッサ500のブロック図を示す。符号化プロセッサ500は、座標モジュール502及び抽出モジュール506を含む。
【0042】
座標モジュール502は、対応する空間情報を比較できるように、変化する虹彩画像から抽出される虹彩情報を位置合わせすることを可能にする、不変の座標系画像表現に関する不変の座標系を構築する。抽出モジュール506は、提示された目の2つの画像が統計的に独立したパターンを表すという仮説の拒絶を支援するために虹彩画像から情報を抽出する。符号化プロセッサ500は、他の虹彩画像と正確に照合するための区分化され、補正された虹彩画像220を作成し、非制約の虹彩捕捉応用を可能にする。例えば、画像の大きさ及び焦点は、個々の虹彩構造の違い、及び虹彩構造の空間情報内容の照明波長によるばらつきに加え、距離と共に変化し得る。概して、虹彩の符号化は約15から40周期/2pi、又は2.5から6画素/周期の間の角周波数に基づき、一実施形態によれば、本願は、符号化プロセッサ500が生成する符号に基づくロバストな照合を約40画素/虹彩径まで実現する。
【0043】
一実施形態によれば、符号化プロセッサ500は、単一の解析スケールを選ぶのではなく、多重分解能符号化手法を包含するDaugmanの局所位相表現の改変形態を使用する。低周波成分は、低分解能画像内で引き続き入手でき、焦点がぼけた画像又は他の方法で劣化した画像内で失われにくい。一実施形態では、著しい遮蔽が生じ得る虹彩画像を処理する場合に有用な高密度符号化をDaugmanの局所位相表現の改変形態が可能にする。上記のロバストな区分化及び修正の過程は、様々な虹彩符号化及び照合アルゴリズムと共に使用可能な補正済みの虹彩画像を生成するが、一部の状況では標準アルゴリズムの特性を保つ利点がある。Daugman型の位相符号化手法の1つの利点は、虹彩画像の入手可能な全部分を表す符号を生成することである。これは、遮蔽され、さもなければ合致されるべき特定の画像内で入手できない場合があるまばらな局所的特徴を用いる手法とは対照的である。更に、多重分解能位相手法を使用することにより、既存の位相に基づく表現との符号レベルの互換性を実現する可能性を保つ。多重スケール情報を含むことに加え、作成される符号は、比較前の虹彩符号の整列及び局所構造情報の空間的補間の推定を助ける追加情報を含む。
【0044】
図5に示すように、符号化プロセッサ500は、座標モジュール502を含む。座標モジュール502は、修正済み虹彩画像220を偏光虹彩画像504に変換する。この偏光虹彩画像504では、瞳孔境界が上部に表示され(バイオメトリクスキャナの照明器コラムの鏡面反射に気付かれたい)、虹彩−強膜境界領域が下部に表示される。角度寸法は、画像の左側において3時から時計回りに進む。左から右に進み、下瞼及び上瞼が見える。画像504では、睫毛が上瞼から瞳孔の中にまで伸びていることに留意されたい。
【0045】
続いて、修正済み虹彩画像を極座標画像に変換した後、画像504が抽出モジュール506に結合され、抽出モジュール506は、偏光虹彩画像504をフィルタにかけ、サブサンプリングして
図6にその一例を示す多重分解能虹彩符号表現520を生成する。一例示的実施形態によれば、画像504を一連の帯域フィルタに通して1組のフィルタ済み画像を生成する。
図6は、フィルタ121(フィルタ1...5)によってフィルタにかけられ、高周波領域の帯から低周波領域の帯までのフィルタ済みの帯600、602、604、606、及び608のそれぞれを含む虹彩符号622を生成する、偏光虹彩画像620の一例を示す。図示の5つの帯は、虹彩の周りで200画素においてサンプリングした偏光画像に対する、6、8、12、16、及び24画素のガボールフィルタ(調和解析、ウェーブレット復元、及びエッジ検出に使用される線形フィルタ)搬送波波長に対応する。従って周波数は、ほぼ33、25、16、12、及び8周期/2piの角空間周波数に対応する。
【0046】
より高い周波数は、標準の虹彩照合アルゴリズムに使用される周波数に相当する。マスク610は2つのマスクの融合であり、2つのマスクとはつまり、鏡面反射及び瞼と睫毛の場所のおおよその位置に対応する領域にマスクをかける、入力偏光虹彩画像504内の明度解析に基づく(全ての帯に共通の)マスクと、局所位相測定値が不安定な領域(不安定領域)にマスクをかける、ガボールフィルタにかけられた画像内の信号強度に基づくマスクとである。虹彩符号622内に示す多重分解能表現は、虹彩における単位距離当たりの画素数の点で異なる虹彩画像、並びに
図2〜
図4Dに関して上記で論じたようにフォアショートニング及び光学的縮小を引き起こす傾斜したカメラ視野の原因となる、カメラ−対象間の様々な距離における画像からの情報を表示できるようにする。
【0047】
虹彩符号表現520の他の重要な特性は、フィルタ特性、空間サンプリング、表現、及び量子化の完全記述である。フィルタ特性は、中心周波数、帯域幅、関数の種類(例えばログガボール)、及び配向調整のうちの1つ又は複数を含む。空間サンプリングは、フィルタの種類ごとに正規化画像の放射軸及び角度軸に沿った間隔の1つ又は複数を含み、量子化は、それぞれの値が表わされる数のレベル又はそれぞれに割り当てられるビット数を明示する。例示的実施形態によれば、虹彩符号表現520及び例示的虹彩符号622は、サブナイキスト空間サンプリングを使用することによる補間を可能にする、歪めることができる符号であり、生成を行うフィルタ621内の各フィルタ1...5の要件は、正確に補間するのに十分なサンプリングの基準を与える。サブナイキスト空間サンプリングは、Daugman型の符号化で使用される複素位相成分当たり1ビットよりも微細な明度の量子化と組み合わせられる。例えば、複素位相成分ごとに4ビット使用する場合、これはおおよそ位相角の64ステップ、従ってpi/32ラジアン又は6度未満の最大補間誤差に相当する。
【0048】
一部の実施形態では、非量子化虹彩符号も照合することができ、元の複素帯域フィルタ出力は量子化なしに記憶される。一実施形態では、それぞれのフィルタ出力が単位円上の複素数を表すように、フィルタ出力を規模に関して正規化する。遮蔽及び局所的複素振幅に基づいてデータマスクが生成される。Daugman虹彩符号の標準ハミング距離測度の最も近い類似物である合致測度は、位相差ヒストグラムに基づく。このヒストグラムは比較されている2つの符号の位相ベクトル間の角度を計算し(
図6参照)、−piとpiとの間の位相差の(有効なデータマスクの影響を受ける)ヒストグラムをコンパイルすることによって構築される。これらの位相差は、符号が同じ目を表す場合は小さく、符号が統計的に独立した目を表す場合は或る程度均一に分散される。
【0049】
そのような2つのヒストグラムの一例を
図7に示す。左側のヒストグラムは偽物の合致に対応し、右側のヒストグラムは真正の合致に対応する。予期されるように、真正の分布は、ゼロ位相シフトの前後で密に集中し、位相差値の少ない割合しか絶対値がpi/2を上回らない。対照的に、偽物のヒストグラムは多くの大きい位相差を示し、ゼロ値前後に集中する明らかな兆候は示さない。所望の場合、pi/2を上回る値の一部を使用し、Daugman符号ハミング距離とそっくりに挙動する合致統計を生成することができる。但し、以下に記載するように、真正の分布と偽物の分布とを区別するために使用することができる中心集中度及び分散の他の多くの測度がある。更に、偽物の及び真正のヒストグラムの十分なトレーニングセットを与え、判別解析、サポートベクタマシン、ニューラルネットワーク、ロジスティック回帰等、統計的分類又は機械学習技法を使用して一部のデータ種別に最適な決定手順を構築することが有益な場合がある。
【0050】
位相差ヒストグラムの中央値の測定及びその点の周りの分散の測定は、位相差が角度であり、従ってヒストグラムが閉じた円上に分布することを考慮に入れる。通常の平均及び分散の測度(又は必要に応じて更に高いモーメント)は、角度データの所望の特性を正しく表さない。フォンミーゼス分布は、周期的領域にわたって分布するデータの特性を推定するための良く特徴付けられた方法を提供する。フォンミーゼス平均は、分布の集中の中心の推定、集中パラメータ、及び散らばりの推定を与える。位相差が単位複素数として表される場合、どちらの量も簡単に計算することができる。この場合、平均推定は、単純に複素数のサンプル平均に対応する角度であり、集中パラメータは、単純にサンプル平均の複素強度に関係する。
【0051】
別の実施形態によれば、円調和関数を計算するためのフーリエ級数展開を使用することにより、周期的領域にわたってデータが解析される。フォンミーゼスパラメータのように、相対強度の次数の低い円調和関数は、データの集中度に関する情報を与える。決定手順を構築するための学習技法を使用する前に、円調和関数を使用してヒストグラムデータを変換することが有益である。
【0052】
位相差ヒストグラムは、2つの符号間の合致水準を解析するのを助けるが、2つの符号の比較に関係する情報の全ては表わさない。位相差の値が絶対位相に応じて変わる場合、強い結び付きが与えられても、ヒストグラムは低い集中度(即ち大きい分散)を示す。一実施形態によれば、或る確率変数の値の知識を所与として別の確率変数のエントロピの低下を測定する、相互情報量又は他の条件付きエントロピ記述を使用してこの問題を防ぐ。このより完全な特徴付けは、変数が無相関の場合でも関連性を検出する。
【0053】
位相差ヒストグラムのもう1つの制限は、ヒストグラムが全体統計なので空間情報を完全に抑制することである。しかし、位相差の局所的若しくはパッチ式の均一性又は他の検出可能な関連性も符号が無関係ではないと結論付けるには十分である。この局所的解析は、局所的ヒストグラム解析、相互情報量、又は空間相関解析を使用して実現することができる。
【0054】
図7は、本発明の例示的実施形態による、照合プロセッサ700のブロック図を示す。照合プロセッサ106は、整列モジュール702及び流動推定モジュール704を含む。例示的実施形態によれば、
図5に示す符号化プロセッサ500によって生成される虹彩符号520が、整列モジュール702に結合される。整列モジュール702は、以下に記載する照合アルゴリズムに基づき虹彩符号520に対して様々な整列を行う。整列モジュール702は、虹彩符号520を流動推定モジュール704に更に結合し、照合を支援するための推定流動ベクトルを生成する。整列モジュール702は、虹彩符号520をデータベース708の虹彩符号706と比較して合致の有無を判定する。合致がない場合、データベース708からの更に多くの虹彩符号が虹彩符号520と比較される。合致スコアを求め、合致スコアが所定の閾値を満たし又はそれを下回る場合は合致がある。例示的実施形態によれば、合致スコアとしてハミング距離が使用される。最終的に、合致した虹彩データ108が照合プロセッサ700によって返される。他の一部の実施形態によれば、未知の虹彩符号520及び記憶されている虹彩符号706から得られる情報に対して流動推定が適用される。この情報は、それ自体が虹彩符号520の一部でもそうでなくても良い。結果として生じる流動推定モジュール704からの流動場を使用して修正済み虹彩符号を生成し、照合プロセッサ700がこの修正済み虹彩符号を参照虹彩符号と照合して合致スコア720を生成する。
【0055】
二値の脈絡、即ち虹彩符号の比較では、2つの二値画像間で異なるビット数を計算するためのXOR演算に基づく二値距離をハミング距離が表す。例示的実施形態によれば、整列モジュール702が虹彩符号に対してDaugmanバレルシフトを行い、即ち比較されている虹彩符号間の最良合致を与える虹彩符号の循環を見つける。一実施形態では、照合プロセッサ700が使用する照合アルゴリズムが、バレルシフト位置の組ごとのハミング距離(HD)を使用し、最も低いハミング距離をその符号の対のスコアとして取る修正済みアルゴリズムである。スコアが(符号によって表わされる統計的な自由度の推定数に基づいて調節することができる)何らかの閾値を下回る場合、未知の符号が合致と見なされる。HDが閾値を上回る場合、未知の符号が偽物とラベル付けされる。一実施形態では、閾値が虹彩符号の構造の詳細及び合致シナリオの統計的要件によって決まる。
【0056】
整列モジュール702が使用する修正済みアルゴリズムは、比較されている虹彩符号をバレルシフトし、更に虹彩符号を互いに局所的に整列して、補正されていない光学的歪み又は虹彩の膨脹及び収縮の複雑さに起因する虹彩画像の正規化における不正確さを補償する。整列モジュール702が行う局所的整列機能は、虹彩の全体にわたって均一ではない入力虹彩画像内の歪みを補償できるようにする。この機能は、符号の局所領域をシフトして、それらの領域を参照符号の対応する領域とより正確に整列させることによって達成される。非常に狭い推定領域を使用してこの処理を実行する場合、事実上どんな虹彩符号も他の任意の虹彩符号に合致させることができ、それにより誤った合致が作り出されることになる。
【0057】
推定流動場に対して適切な平滑度条件を課すために、この誤った合致の問題を回避することができる。例えば、比較的広い推定領域を使用して局所変換推定を行うことによって流動場を推定する場合、局所流動推定がこの比較的広い領域にわたる平均運動を表す。
【0058】
かかる領域が重複し、付近の位置の流動ベクトルを計算するために使用する領域がほぼ同じ内容を含む場合、変位推定は位置と共に徐々に変化し、誤った合致が防がれる。或いは、狭い推定領域を用いて行った局所変位推定を空間フィルタリングによって平滑化し、局所変位の急激な変化をなくすことができる。更なる代替策として、次数の低い多項式級数や打切りフーリエ級数等の大域パラメトリック表現を使用することができ、このパラメトリック表現のパラメータは直接推定され、又は局所推定に適合される。かかるパラメトリック表現は、局所シフトにおける急激過ぎる変化が生じるのを防ぐ固有の平滑特性を有する。各虹彩符号は複数の周波数帯を含むので、整列モジュール702は、例えば虹彩符号520と虹彩符号706との比較ごとに複数の合致スコアを更に生成する。
【0059】
図8は、本発明の例示的実施形態による、照合プロセッサ700によって行われる虹彩符号の照合過程を示す。標準的な虹彩符号の照合と同じく、照合しようとする第1の符号800及び第2の符号802は、角座標及び正規化された動径座標から成る、修正された(例えば偏光された)虹彩画像の座標系上の値として表される。局所変位関数又は流動場が
図7の照合機器の流動推定モジュール704によって計算され、幾らかの平滑度又はパラメトリック拘束を条件として、第1の虹彩符号800内の構造を第2の符号802内の対応する構造に最も上手く整列させる整列モジュール702に結合される。この流動場推定は、標準的なバレルシフト整列の効果を含むことができ、又は別のステップとして実行可能なバレルシフト整列の効果を含み得る。この流動場内のベクトルは、第1の符号800内の画像構造が第2の符号802内の構造に最も良く合致する正規化画像座標系内の変位をそれぞれ明示する。
【0060】
第1の虹彩符号800内の各帯を、この変位関数を用いて変換して整列虹彩符号を生成し、この整列虹彩符号と第2の符号802の対応する帯との間のハミング距離を計算する。平滑であるように変換が制約されるので、以下で説明するように、偽物符号が真正符号に変換されることはない。
【0061】
流動推定モジュール704は、流動場を低減された分解能で虹彩符号ごとに計算し、流動場を平滑に補間して最終推定を生成する。一例示的実施形態によれば、流動推定モジュール704が、ピラミッドに基づく粗から微への流動推定技法を使用するが、他の技法を代わりに使用しても良いことを当業者なら理解されよう。整列モジュール702は、第1の虹彩符号800及び第2の虹彩符号802のそれぞれの1つの帯の中に小さな局所シフトを取り入れ、そのシフトは角度方向にあり、全ての半径方向位置において等しい。変位シフトも角度方向に平滑に変化する。この時点でハミング距離を計算すると、非合致という結果になる(例えばDaugman型の照合アルゴリズムを使用する場合、33を上回るハミング距離は非合致を意味する)。流動推定モジュール704は、粗から微へのアルゴリズムを使用して、符号800と符号802との間の流動場を符号の低分解能帯から推定する。
【0062】
次いで、整列モジュール702が推定流動場の分だけ符号800を歪ませ、高信頼度の合致を示唆する大幅に低減されたハミング距離をもたらす。Daugman型の照合器では、ハミング距離<.3は高信頼度の合致を意味する。高信頼度の合致と見なされる様々なハミング距離値に様々な合致が対応し得ることを当業者なら理解されよう。別の実施形態によれば、照合プロセッサ700は、比較される符号の位相角に基づく相互情報量測度、並びに位相角の局所的な違いに基づく測度を使用することにより、2つの虹彩符号を照合することができる。
【0063】
図9は、本発明の例示的実施形態による、虹彩符号の流動場を推定するための、上記の粗から微へのアルゴリズムの図である。粗から微への修正は、
図9に示すように、実質的に入力画像900及び902のそれぞれの帯域フィルタにかけたバージョン904−1から904−N及び906−1から906−1の集まりである「ピラミッド」構造に基づいて機能する。
【0064】
最も低い周波数帯904−1及び906−1から開始し、ピラミッド内の各レベルにおいて前のレベルで推定した変位908−1から908−Nを使用して現在のレベルの画像を歪ませ、次いで歪ませたレベルと他の画像内の対応するピラミッドレベルとの間の残差に基づいて増分変位を計算する。この処理は、最も高いレベルに到達し、結果が最終推定流動場910になるまで続く。
【0065】
多重分解能虹彩符号自体、整列が望まれる画像の帯域フィルタにかけられたバージョンの集まりなので、一実施形態によれば、これらの帯自体を使用して整列モジュール702内で整列過程を駆動することができる。これにより、真に「自己整列式の」虹彩符号が生成される。この手法では、多重分解能虹彩符号構造の一部として更なる整列データを記憶する必要がない。
【0066】
図10は、本発明の例示的実施形態による、2つの虹彩符号間の流動場を推定するための方法1000を示す流れ図である。この方法は、流動推定モジュール704の実装である。この方法はステップ1002で始まり、ステップ1004に進む。
【0067】
ステップ1004で、流動推定モジュール704が、帯域フィルタを使用し、第1の入力画像(即ち第1の虹彩符号)から第1の複数の画像、第2の入力画像(即ち照合対象の第2の虹彩符号)から第2の複数の画像を生成し、第1の複数の画像及び第2の複数の画像は低周波帯から高周波帯に及ぶ画像を含む。
【0068】
次にこの方法はステップ1006に進み、ステップ1006では、流動推定モジュール704が、処理されていない、即ち前の流動場推定がない、最も低い周波数帯の第1の複数の画像から画像を選択する。ステップ1008で、流動推定モジュール704が、第1の複数の画像と第2の複数の画像との間で、低周波帯内の流動場が推定されているかどうかを判定する。低周波帯内の流動場が推定されている場合、この方法は、低周波帯の流動場推定を使用して被選択画像を歪ませるステップ1010に進む。低周波帯内の流動場推定が推定されていない場合、この方法はステップ1012に進み、ステップ1012では、歪められた画像と第2の複数の画像からの同じ周波数帯にある第2の画像との間の残差に基づき、流動推定モジュール704が流動場を推定する。
【0069】
次いでこの方法はステップ1014に進み、ステップ1014では、流動推定モジュール704が全ての周波数帯が処理されているかどうかを判定する。処理されていない場合、この方法はステップ1006に戻り、全ての周波数帯が処理されるまで次に高い周波数帯を処理する。全ての周波数帯を処理する(即ち低周波の流動場推定によって歪ませる)と、この方法は、最後の流動場推定を照合プロセッサ700に返すステップ1016に進む。この方法はステップ1018で終了する。
【0070】
図11は、本発明の例示的実施形態による、2つの虹彩符号間の流動場を推定するための方法1100を示す流れ図である。この方法は、虹彩プロセッサ100の実装である。この方法はステップ1102で始まり、ステップ1104に進む。
【0071】
ステップ1104で、プリプロセッサ102が、目を含む画像を前処理し、瞳孔及び虹彩の境界が修正され、傾斜及び角膜歪みが補正された修正済み虹彩画像を生成する。
【0072】
この方法はステップ1106に進み、ステップ1106では、符号化プロセッサ104が修正済み虹彩画像を多重分解能虹彩符号へと符号化する。虹彩符号は、修正済み虹彩画像の偏光バージョンの多重周波数帯表現を含む。次いでこの方法はステップ1108に進み、ステップ1108では、多重分解能虹彩符号をデータベース内の1組の記憶済みの虹彩符号と比較して虹彩符号がデータベース内に含まれているかどうかを判定し、合致した虹彩に関連するデータを返す。この方法はステップ1110で終了する。
【0073】
図12は、本発明の例示的実施形態による、虹彩プロセッサ100を実装するためのコンピュータシステムを示す。コンピュータシステム1200は、プロセッサ1202、様々な支援回路1205、及びメモリ1204を含む。コンピュータシステム1200は、プロセッサ1202と同様の、当技術分野で知られている1つ又は複数のマイクロプロセッサを含むことができる。プロセッサ1202用の支援回路1205は、従来のキャッシュ、電源供給、クロック回路、データレジスタ、入出力インターフェイス1207等を含む。入出力インターフェイス1207は、メモリ1204に直接結合されても、支援回路1205を介して結合されても良い。入出力インターフェイス1207は、ネットワーク装置、様々な記憶装置、マウス、キーボード、ディスプレイ、映像及び音声センサ、可視赤外カメラ等、入力装置及び/又は出力装置と通信するように構成することができる。
【0074】
メモリ1204又はコンピュータ可読媒体は、プロセッサ1202によって実行され且つ/又は使用され得る、非一時的なプロセッサ実行可能命令及び/又はデータを記憶する。これらのプロセッサ実行可能命令は、ファームウェア、ソフトウェア等、又はその何らかの組合せを含み得る。メモリ1204内に記憶されるプロセッサ実行可能命令を有するモジュールは、虹彩プロセッサ1206を含む。虹彩プロセッサ1206は、前処理モジュール1208、符号化モジュール1210、及び照合モジュール1212を更に含む。メモリ1204は、データベース1214を更に含むことができるが、データベース1214は、虹彩プロセッサ1206と同じ物理メモリ1204内になくても良いことを当業者なら理解されよう。データベース1214は、クラウドサービスを介して虹彩プロセッサ1206によって遠隔的にアクセスされても良い。更に当業者は、虹彩プロセッサ1206がメモリ1204上に共同設置することができない幾つかの構成要素を有しても良いことを理解されよう。例えば一部の実施形態では、前処理モジュール1208がコンピュータシステム1200にとってローカルであるのに対し、符号化モジュール1210及び照合モジュール1212は、有線又は無線ネットワーク経由でクラウドサービスとしてアクセスされ得る。他の例では、照合モジュール1212だけがネットワーク経由でアクセスされる。各モジュール間の通信は、データがネットワーク上を移動するとき暗号化され得る。
【0075】
コンピュータシステム1200は、幾つかある既知のプラットフォームの中で特に、OS/2、Java(登録商標)仮想マシン、Linux(登録商標)、SOLARIS、UNIX(登録商標)、HPUX、AIX、WINDOWS(登録商標)、WINDOWS(登録商標)95、WINDOWS(登録商標)98、WINDOWS(登録商標) NT、WINDOWS(登録商標)2000、WINDOWS(登録商標) ME、WINDOWS(登録商標) XP、WINDOWS(登録商標) SERVER、WINDOWS(登録商標) 8、Mac OS X、IOS、ANDROID(登録商標)を含み得る、1つ又は複数のオペレーティングシステム1220(概してオペレーティングシステム(OS)と呼ばれる)でプログラムされ得る。オペレーティングシステムの少なくとも一部を、メモリ1204内に配置することができる。
【0076】
メモリ1204は、下記のランダムアクセスメモリ、読取専用メモリ、磁気抵抗読取/書込みメモリ、光読取/書込みメモリ、キャッシュメモリ、磁気読取/書込みメモリ等、並びに以下に記載する信号保持媒体のうちの1つ又は複数を含み得る。
【0077】
コンピュータシステム1200は、例えば携帯電話やタブレット装置等のモバイル装置とすることができることを当業者なら理解されよう。モバイル装置はカメラを含み、虹彩プロセッサ1206をアプリケーションとしてメモリ上に記憶しても良い。一部の実施形態では、虹彩プロセッサ1206をオペレーティングシステム1220の一部とすることができる。一部の実施形態では、虹彩プロセッサ1206が独立したプロセッサでも良く、又はプロセッサ1202とは異なるチップ上に記憶されても良い。例えば、多くの場合にモバイル装置はカメラ処理モジュール及び虹彩プロセッサ1206を有し、又は虹彩プロセッサ1206の一部がカメラ処理モジュール上にあっても良く、カメラ内の撮像装置はCCD又はCMOS撮像装置である。一部の例では、幾つかのセンサ、その種のカメラ撮像装置等を含むようにモバイル装置をカスタマイズすることができる。
【0078】
図13は、例示的動作シナリオにある虹彩プロセッサ100を示す。この事例では、廊下を歩く複数の人物を識別するために、虹彩プロセッサ100を含む顔追跡及び可動型/自動焦点式の虹彩捕捉装置の組合せを使用する。本発明の機能を有する装置を使用する場合、捕捉装置は廊下の端に邪魔にならないように配置することができ、一連の表示角をもたらす広範囲の捕捉距離において動作することができる。或る環境内で個人を追跡し、1台又は複数台のカメラを向けて画像データを捕捉するための機構が、米国特許第6437819号明細書の中で開示されている。しかし、斜め視野、低分解能、及び他の要因により、この方法で捕捉される虹彩画像は既存の虹彩バイオメトリクシステムの処理要件を満たさない。本発明によれば、虹彩バイオメトリクから得た識別情報を人物追跡システムからの追跡情報と組み合わせることにより、アクティブ捕捉領域を通過する各人物に識別情報を関連させる(又は識別情報を割り出すことができない)ことが可能である。
【0079】
様々な要素、装置、モジュール、及び回路をそのそれぞれの機能に関して上記で説明した。これらの要素、装置、モジュール、及び回路は、本明細書に記載したそのそれぞれの機能を実行するための手段と見なす。上記の内容は本発明の実施形態を対象とするが、本発明の基本的な範囲から逸脱することなしに本発明の他の及び更なる実施形態を考案することもでき、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって定められる。