(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記移動機構の長孔は、前記長手方向が、前記移動機構によって移動される歯車が噛み合う歯車のうち駆動側の歯車から伝達されるトルクに応じた荷重と、前記移動機構によって移動される歯車が噛み合う歯車のうち従動側の歯車から受ける反力とをベクトル加算して得られる方向に延びて形成されている請求項2に記載の機械式時計のムーブメント。
前記移動機構は、前記長孔が形成され、地板及び輪列受けのうち少なくとも一方に固定される基部材を備え、前記長孔の空間に配置された前記受け石と前記付勢部材と前記基部材とが一体化されている請求項2又は3に記載の機械式時計のムーブメント。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る機械式時計のムーブメントの実施形態について、図面を用いて説明する。
[第1の実施形態]
<ムーブメントの構成>
図1は、本発明の第1の実施形態(実施形態1)である機械式の携帯用時計(例えば腕時計)におけるムーブメント100を示す模式図である。
図示のムーブメント100は、動力源の一例としてのぜんまい1と、輪列機構10と、ガンギ車21及びアンクル22(脱進機)と、テンプ23(調速機)とを備えている。ぜんまい1は、輪列機構10において一番車となる回転香箱11の内部に設けられている。
【0013】
ぜんまい1の内側の端部は香箱真11aに掛けられていて、図示しないリュウズへの巻き上げ操作(手巻き式の場合)又はロータの回転(自動巻き式の場合)によって香箱真11aが回転し、ぜんまい1が香箱真11aに巻き付けられる。そして、香箱真11aに巻き付けられたぜんまい1が解けるときに発生するトルク(以下、香箱トルクという。)によって、回転香箱11は香箱真11aを回転軸として回転する。香箱真11aは、地板91(後述する
図2参照)と香箱受けとに回転可能に支持されている。
【0014】
輪列機構10は、回転香箱11、二番車12(移動される輪列車の一例)、三番車13及び四番車14とを備えている。回転香箱11は、上述したように内部にぜんまい1を備え、香箱真11aの回りに回転する。回転香箱11の外周には歯車11bが形成されている。
二番車12は、カナ12aと歯車12bとがホゾ12cを軸として一体に形成されている。三番車13及び四番車14も同様であり、三番車13は、カナ13aと歯車13bとがホゾ13cを軸として一体に形成され、四番車14は、カナ14aと歯車14bとがホゾ14cを軸として一体に形成されている。
【0015】
二番車12、三番車13及び四番車14の各ホゾ12c,13c,14cはそれぞれ、上述した地板91と輪列受けとに回転可能に支持されていて、二番車12、三番車13及び四番車14、それぞれホゾ12c,13c,14cの回りに回転する。
二番車12のカナ12aは、回転香箱11の歯車11bに噛み合っていて、駆動側である回転香箱11の回転による香箱トルクを受けて、ホゾ12cを回転軸として回転する。三番車13のカナ13aは、二番車12の歯車12bに噛み合っていて、駆動側である二番車12の回転によるトルクを受けて、ホゾ13cを回転軸として回転する。四番車14のカナ14aは、三番車13の歯車13bに噛み合っていて、駆動側である三番車13の回転によるトルクを受けて、ホゾ14cを回転軸として回転する。
【0016】
四番車の歯車14bは、ガンギ車21のガンギカナ21aに噛み合って、ガンギ車21を回転させる。ガンギ車21及びアンクル22は脱進機を構成し、テンプ23は調速機を構成し、これらガンギ車21、アンクル22及びテンプ23は、公知の相互の作用により輪列機構10の脱進、調速を司っている。
【0017】
<ばね付台座の構成>
図2Aは、二番車12のホゾ12c(
図1参照)を回転自在に支持しているばね付台座30(移動機構の一例)を示す斜視図であり、ばね部33が押し縮められていない状態を示す。
図2Bは
図2Aに示したばね付台座30のばね部33が押し縮められている状態を示す斜視図である。
図3Aは、
図2AのI−I線で示す鉛直面による断面図である。
図3Bは
図2AのI−I線で示す鉛直面による、は
図2Bの状態に対応した断面図である。
【0018】
二番車12のホゾ12cは、
図2A,2B,3A,3Bに示すばね付台座30に支持されている。このばね付台座30は、二番車12の上側に配置された地板91と二番車12の下側に配置された輪列受けとにそれぞれ設けられている。なお、
図2A,2B,3A,3Bは地板91に設けられたものを示しているが、輪列受けに設けられているばね付台座30も
図2A,2B,3A,3Bに示したものと同じである。地板91と輪列受けとは上下の配置が反対であってもよい。
ばね付台座30は、ガイド31(基部材の一例)と、台座32と、ばね部33(付勢部材の一例)と、を備えている。
【0019】
台座32は、外周輪郭形状が円形で、内側に形成された凹部32aに、受け石34が嵌め込まれている。受け石34には、二番車12のホゾ12cを回転可能に支持する軸受の孔34aが形成されていて、ホゾ12cはこの孔34aに支持されている。
ガイド31は、平面視の外周輪郭形状が円形で、内側に、台座32を収容する長孔31aが形成されている。長孔31aは、長手方向Xに沿って台座32を移動可能に形成されている。ガイド31の外周は地板91に形成された孔に嵌め込まれて、地板91に固定されている。
【0020】
ばね部33は、平面視の輪郭形状が略S字に形成されている。ばね部33は、S字の一端と他端とがガイド31の長孔31aの長手方向Xに沿うように、長孔31aの内部に配置されている。ばね部33は、S字の一端と他端との間に、長手方向Xに沿う、予め設定された値を超える荷重が入力されると、S字の形状が弾性変形する材料で形成されている。ばね部33のS字の一
端はガイド31に接続され、S字の他端は台座32に接続されている。
【0021】
ばね部33は、弾性変形していない状態では
図2A及び
図3Aに示すように、台座32及び受け石34を長孔31aの長手方向Xの一方の端部31bに近接させた状態に付勢している。一方、ばね部33のS字の一端と他端との間に長手方向Xに沿う、予め設定された値を超える荷重が入力されてばね部33が弾性変形した状態では、
図2B及び
図3Bに示すように、台座32及び受け石34は、長孔31aの長手方向Xの上記一方の端部31bから遠ざかった位置に移動する。
これにより、二番車12のホゾ12cは、
図3Aに示す位置から
図3Bに示す位置まで、長手方向Xに沿って移動する。
なお、実施形態1におけるばね付台座30は、ガイド31、台座32及びばね部33が一体的に形成されたものである。
【0022】
図4は、輪列機構10を
図1の背面側から見た図である。回転香箱11の内部に設けられたぜんまい1が解けるときに発生する香箱トルクによって、回転香箱11は
図4の矢印方向(反時計回り)に回転する。二番車12のカナ12aは、回転香箱11の歯車11bからトルクを伝達される。
つまり、回転香箱11は、二番車12から見て駆動側の歯車に相当する。回転香箱11のトルクに応じて回転香箱11から二番車12に作用する荷重F1は、厳密には噛み合う歯の形状(歯形)の種類や歯の噛み合い状態によって異なるが、平均的には歯車11bとカナ12aとの共通接線方向から摩擦角だけ傾いた方向に向いている。
【0023】
また、二番車12に伝達されたトルクによって、二番車12は
図4の矢印方向(時計回り)に回転する。三番車13のカナ13aは、二番車12の歯車12bからトルクを伝達される。
つまり、三番車13は、二番車12から見て従動側の歯車に相当する。二番車12のトルクに応じて二番車12の歯車12bから三番車13のカナ13aに作用する荷重は、厳密には歯形の種類や歯の噛み合い状態によって異なるが、平均的には歯車12bとカナ13aとの共通接線方向から摩擦角だけ傾いた方向に向いている。そして、作用・反作用の関係により、三番車13から二番車12に反作用の荷重F2が作用する。このとき、三番車13から二番車12に作用する反作用の荷重F2は、同様に平均的には歯車12bとカナ13aとの共通接線方向から摩擦角だけ傾いた方向に向いている。
【0024】
したがって、二番車12には、回転香箱11からの荷重F1と三番車13からの荷重F2とを受ける。そして、
図2A,2B,3A,3Bに示したばね付台座30は、これら2つの荷重F1,F2をベクトル加算して得られた合力F3の方向に、長孔31aの長手方向Xが一致して配置されている。このとき、ばね付台座30は
、合力F3が二番車12に作用してホゾ12cを支持した受け石34及び台座32がばね部33を長手方向Xに押し縮める向きで配置されている。
【0025】
なお、この合力F3の方向は、二番車12のホゾ12cを、駆動側の歯車である回転香箱11から遠ざける方向であるとともに、従動側の歯車である三番車13から遠ざける方向である。したがって、長孔31aの長手方向Xも、二番車12のホゾ12cを回転香箱11から遠ざける方向であるとともに、三番車13から遠ざける方向である。
【0026】
<ムーブメントの作用>
以上のように構成されたムーブメント100は、図示しないリュウズへの巻き上げ操作又はロータの回転によって香箱真11aが回転し、ぜんまい1が香箱真11aに巻き付けられる。そして、香箱真11aに巻き付けられたぜんまい1による香箱トルクが、回転香箱11から二番車12、三番車13、四番車14、ガンギ車21、アンクル22、テンプ23へと順次伝達される。
【0027】
図5は、ぜんまい1が巻き上げられた状態から解かれる経過時間に応じた香箱トルク及びその香箱トルクに対応してテンプ23に伝達されるトルクに減速比を乗じた値を示すグラフである。
香箱トルクは、
図5に示すように、ぜんまい1(
図1参照)が予め設定された巻量まで巻き上げられた状態(全巻状態)でTmaxを示す。そして、全巻状態から、ぜんまい1が解かれる経過時間が長くなるにしたがって香箱トルクは小さくなり、香箱トルクがテンプ23を駆動するために最低限必要となる値を下回ると、輪列機構10が動かなくなり時計の動きは止まる。
【0028】
全巻状態に対応した香箱トルクTmaxは予め設定されたトルクであり、この香箱トルクTmaxに対応して、テンプ23の振り角などのムーブメント100の仕様が設定されている。
しかし、ぜんまい1の全巻状態からさらにぜんまい1を巻き上げる操作が入力されることがあり、この巻き上げる操作が入力されている期間中は、
図5のグラフにおける左端部に示すように、香箱トルクは全巻状態でのトルクTmaxを上回るトルクTsmaxを示す。
【0029】
香箱トルクによるエネルギは、テンプ23に伝達されるまでの期間中に、輪列機構10やガンギ車21、アンクル22などにおける接触摩擦や粘性摩擦などにより消費される。一例として、輪列機構10は、香箱トルクのエネルギを30[%]程度消費し、ガンギ車21及びアンクル22は、香箱トルクのエネルギを35[%]程度消費する。この結果、テンプ23には、香箱トルクのエネルギの35[%]程度が伝達されることになる。
【0030】
テンプ23の振幅角度の最大値は、想定されている香箱トルクTmaxに対応して設定されているため、ぜんまい1が全巻状態からさらに巻き上げ操作されている期間中は、香箱トルクがトルクTmaxを超えるトルクTsmaxとなる。
この場合、本実施形態1とは異なる従来のムーブメントであれば、テンプ23に伝達されるトルクに減速比を乗じた値も、
図5の細実線で示すように、想定されているトルク(香箱トルクTmaxの35[%])よりも大きいトルク(香箱トルクTsmaxの35[%])となる。そして、テンプ23の振幅角度が想定されている角度を超えて振幅し、いわゆる振れ当たりが発生し得る。
【0031】
これに対して、本実施形態1のムーブメント100は、香箱トルクが予め設定されたトルクTmaxよりも大きいときは、ばね付台座30が二番車12を、輪列機構10におけるトルクの伝達効率が低下する方向に移動させる。香箱トルクが予め設定されたトルクTmaxを超えないときは、ばね付台座30は二番車12を移動させない。
【0032】
具体的には、回転香箱11から作用する香箱トルクによる荷重F1(
図4参照)と三番車13から受ける荷重F2との合力F3により、二番車12は合力F3の方向に移動しようとする。ここで、二番車12のホゾ12cは受け石34により支持され、受け石34は台座32に固定されているが、ホゾ12cに作用する合力F3は、香箱トルクがTmaxまでのときはばね部33を弾性変形させるに至らない(
図2A及び
図3A参照)。
したがって、香箱トルクが予め設定されたトルクTmaxを超えないときは、二番車12は、
図2A及び
図3Aの状態に維持される。この状態は、輪列機構10における香箱トルクのエネルギを30[%]程度消費する状態である。
【0033】
一方、香箱トルクが予め設定されたトルクTmaxを超えたときは、二番車12のホゾ12cに作用する合力F3は、ばね部33を弾性変形させる(
図2B及び
図3B参照)。そして、ばね部33の変形により二番車12が長手方向Xに沿って移動すると、回転香箱11の歯車11bと二番車12のカナ12aとの噛み合いの効率が低下し、回転香箱11から二番車12へのトルクの伝達効率が低下する。
さらに、二番車12が長手方向Xに沿って移動すると、二番車12の歯車12bと三番車13のカナ13aとの噛み合いの効率も低下し、二番車12から三番車13へのトルクの伝達効率も低下する。
【0034】
このように輪列機構10における香箱トルクの伝達効率が低下することにより、輪列機構10における香箱トルクのエネルギの消費は、例えば35[%]程度まで上昇する。したがって、本実施形態1のムーブメント100は、輪列機構10からガンギ車21に伝達される香箱トルクを、二番車12を移動させない従来のムーブメントに比べて、小さくすることができる。
ガンギ車21及びアンクル22が消費する香箱トルクのエネルギは35[%]程度で変化はないため、テンプ23には、香箱トルクのエネルギの30[%]程度が伝達されることになる。
【0035】
この結果、テンプ23に伝達されるトルクに減速比を乗じた値は、
図5の太実線で示すように、想定されているトルク(香箱トルクTmaxの35[%])と同程度の大きさのトルク(香箱トルクTsmaxの30[%])となる。したがって、テンプ23の振幅角度が想定されている角度を超えて振幅することが防止乃至抑制され、いわゆる振れ当たりの発生を防止乃至抑制することができる。
【0036】
このように、本実施形態1のムーブメント100によれば、ぜんまい1で過度の香箱トルクが発生した(香箱トルクがトルクTmaxを超えている)ときであってもテンプ23へ伝達されるのを(振幅角度が増加するのを)防止乃至抑制するとともに、過度の香箱トルクが発生していない(香箱トルクがトルクTmaxを超えていない)ときはエネルギが無駄に消費されるのを防ぐことができる。
【0037】
また、本実施形態1のムーブメント100は、ばね付台座30が、二番車12のホゾ12cを上下でそれぞれ支持する受け石34(地板91に固定されたばね付台座の受け石34、輪列受けに固定されたばね付台座の受け石34)を、同一方向に移動させるように設けられている。これにより、二番車12が移動されるときは、上下のばね付台座30が同じ方向に移動する。したがって、二番車12の上下のホゾに作用する側圧を考慮し、上下のばね付台座30が同じ距離だけ移動する構成とすることにより、移動した二番車12の姿勢が鉛直方向に対して傾くのを防止することができる。
【0038】
ただし、本発明に係る機械式時計のムーブメントは、移動機構で移動される歯車のホゾを支持する受け石を、上下ともに移動させるものに限定されない。したがってばね付台座30のような移動機構を、ホゾの上下のうち一方の側にのみ設けたものであってもよい。
このように、移動機構を、ホゾの上下のうち一方の側にのみ設けた構成によっても、輪列機構を構成する歯車の間での噛み合いの効率を低下させることができ、これにより、香箱トルクの伝達効率を低下させることができる。
【0039】
本実施形態1の機械式時計のムーブメントは、ばね部33が、受け石34を、長孔31aの長手方向Xのうち、回転香箱11に近付く側の端部31bに、弾性力によって付勢(押圧する荷重を作用)している。
これにより、受け石34に、ばね部33の弾性力に抗する荷重が作用したとき、ばね部33は、その作用した荷重の大きさに応じた距離だけ、受け石34を、回転香箱11から遠ざける方向に移動させる。つまり、受け石34に作用する荷重が大きくなるにしたがって、受け石34は回転香箱11から遠ざけられる距離が長くなる。
【0040】
そして、受け石34が回転香箱11から遠ざけられる距離が長くなるにしたがって、回転香箱11から二番車12に伝達される香箱トルクの伝達効率は低くなる。よって、本実施形態1の機械式時計のムーブメント100によれば、テンプ23へ伝達されるトルクの抑制度合いが、香箱トルクが予め設定されたトルクTmaxを超えた度合いが大きくなるにしたがって大きくなり、テンプ23に伝達されるトルクが変動するのを抑制することができる。
しかも、本実施形態1の機械式時計のムーブメント100は、香箱トルクの大きさを検出する独立したセンサや、そのセンサで検出された値に応じてテンプ23への伝達度合いを調整する制御を行う制御装置などを備えていないため、簡易な構成で移動機構を実現することができる。
【0041】
本実施形態1の機械式時計のムーブメント100は、受け石34を、弾性力を作用させるばね部33により付勢したものであるが、本発明に係るムーブメントは、ばね部33で受け石を付勢するものに限定されない。
したがって、本発明に係る機械式時計のムーブメントにおける付勢部材は、受け石34に引張り又は押圧の荷重を作用させるものであればよく、例えば、コイルばねや、板ばね、ゴム等の弾性力を発揮する弾性部材、引力や斥力といった磁力を発揮する磁性部材(磁石)などを適用することもできる。
本実施形態1の機械式時計のムーブメント100は、受け石34が台座32で支持された構成であるが、台座32を省略して受け石34がばね部33によって直接付勢されていてもよい。
【0042】
本実施形態1の機械式時計のムーブメント100のばね付台座30は、長孔31aが形成され、地板91や輪列受けに固定されるガイド31と、長孔31aの空間に配置された、受け石34を備えた台座32と、ばね部33とが一体にユニット化されている。したがって、ガイド31、台座32及びばね部33が互いに独立した別部品で構成されている場合のように、部品が分離することが無いため、取扱いが容易である。
【0043】
また、ユニット化されたばね付台座30のガイド31を地板91や輪列受けに固定するだけで、二番車12を移動させる移動機構(ばね付台座30)がムーブメント100に設置される。したがって、地板91や輪列受けに移動機構を設ける場合に、地板91や輪列受けに、ガイド31を嵌め合わせるための孔を開けるだけの最小限の加工を施すだけでよい。これにより、地板91自体や輪列受け自体に、長孔31aを形成し、台座32及びばね部33を設けるのに比べて、地板91や輪列受けの構造が複雑になるのを回避することができる。
【0044】
ただし、本発明に係る機械式時計のムーブメントは、移動機構として、上述した地板91自体や輪列受け自体に長孔31aを形成し、台座32及びばね部33を設けた構成を排除するものではなく、そのように地板91自体や輪列受け自体に長孔31aを形成し、台座32及びばね部33を設けた構成を採用することもできる。
【0045】
本実施形態1の機械式時計のムーブメント100は、ばね付台座30が二番車12を移動させる態様であるが、本発明に係る機械式時計のムーブメントは、移動機構が二番車12を移動させるものに限定されない。したがって、ばね付台座30は、回転香箱11、三番車13又は四番車14を移動するものであってもよい。また、輪列機構10が、回転香箱11、二番車12、三番車13及び四番車14の他に、テンプ23に連なる歯車を備えている構成の場合は、ばね付台座30は、そのテンプ23に連なる歯車を移動させるものであってもよい。
【0046】
ただし、ばね付台座30によって移動される輪列機構10の歯車は、機械式時計の時針、分針又は秒針などの指針と共通の軸を有する歯車ではないことが好ましい。指針と共通の軸を有する歯車は、ばね付台座30が歯車を移動したときに指針も動かされ、指針の動きを見た使用者に違和感を与えるからである。
また、ばね付台座30は、輪列機構10を構成する複数の歯車のうち1つだけを移動するものに限定されない。したがって、ばね付台座30は、輪列機構10を構成する2つ以上の歯車を移動するものであってもよい。
【0047】
本実施形態のムーブメント100は、ばね付台座30の長孔31aの長手方向Xが、二番車12のホゾ12cを、駆動側の歯車である回転香箱11から遠ざける方向であるとともに、従動側の歯車である三番車13から遠ざける方向に対応している。これにより、二番車12と回転香箱11との間でのトルクの伝達効率が低下するとともに、二番車12と三番車13との間でのトルクの伝達効率も低下する。したがって、受け石34の移動量に対する、トルクの伝達効率を低下させる度合いを大きくすることができる。これにより、受け石34を移動させるために必要とされる空間を小さくすることもできる。
【0048】
なお、本発明に係る機械式時計のムーブメントは、長孔31aの長手方向Xが、移動機構により移動される歯車を、駆動側の歯車及び従動側の歯車のうち少なくとも一方の歯車から遠ざける方向に対応していればよい。これにより、輪列機構を構成する複数の歯車の間でのトルクの伝達効率を低下させることができる。
【0049】
[第2の実施形態]
図6は、本発明の第2の実施形態(実施形態2)である機械式時計のムーブメントにおける移動機構の他の一例であるばね付台座40を示す斜視図である。このばね付台座40は、
図2A,2Bに示したばね付台座30におけるばね部33をばね部43に代えた以外は、ばね付台座30と同じ構成である。
ばね付台座30におけるばね部33は、平面視の輪郭が略S字状に形成されていたが、ばね付台座40におけるばね部43は、平面視の輪郭が楕円環形状に形成されている。そして、ばね部43は、輪郭の楕円環形状の短径方向が長孔31aの長手方向Xに沿って形成されている。
【0050】
このように構成された実施形態2におけるばね付台座40は、香箱トルクが予め設定されたトルクTmaxを超えないときは、台座32がばね部43により付勢された状態を維持し、
図6に示した状態から変化しない。一方、香箱トルクが予め設定されたトルクTmaxよりも大きいときは、台座32が楕円環形状のばね部43を短径方向に潰して弾性力に抗して長手方向Xに移動する。
これにより、台座32及び受け石34が、回転香箱11及び三番車13から遠ざかった位置に移動する。
したがって、本実施形態2のばね付台座40を備えた機械式時計のムーブメントによれば、実施形態1のばね付台座30を備えた機械式時計のムーブメント100と同様の作用、効果を発揮することができる。
【0051】
[第3の実施形態]
図
7Aは、本発明の第3の実施形態(実施形態3)である機械式時計のムーブメントにおける移動機構の他の一例であるばね付台座50を示す斜視図であり、組み立てられて地板91に嵌め込まれた状態を示す図である。
図7Bは
図7Aに示したばね付台座を示す分解斜視図である。
このばね付台座50は、
図2A,2Bに示したばね付台座30や
図6に示したばね付台座40とは異なり、長手方向Xに延びた長孔51dが形成されたガイド51aと、受け石34が嵌め合わされ、長孔51dに収容された台座52と、台座52を付勢するばね部53とがそれぞれ別体に形成されている。
【0052】
また、台座52及びばね部53がガイド51aと別体であるため、台座52及びばね部53がガイド51aから分離するのを防ぐ必要がある。そこで、ばね付台座50は、
図7A,7Bに示すように、ガイド51aの上下にそれぞれ、台座52の外形輪郭よりも小さい開口51e,51fがそれぞれ形成された蓋部材51b,51cを積層している。なお、図示上側の蓋部材51bは開口51eが形成されていなくてもよい。
【0053】
蓋部材51bの開口51eは、長孔51dの空間内で台座52が長手方向Xに沿って移動したとき、受け石34に支持されたホゾ12c(
図3A,3B参照)が蓋部材51bに干渉しないように形成されている。
また、ばね部53は、金属等の弾性部材で形成された板ばねである。このばね部53は、板バネの挟み角θが大きくなると、挟み角θを元の角度に復元させようとする弾性力が発生し、この弾性力が、台座52を一方の端部の側に押す付勢力となっている。
【0054】
このように構成された実施形態3のばね付台座50は、香箱トルクが予め設定されたトルクTmaxを超えないときは、台座52がばね部53により付勢された状態を維持し、
図7Aに示した状態から変化しない。
一方、香箱トルクが予め設定されたトルクTmaxよりも大きいときは、台座52がばね部53の弾性力に抗して長手方向Xに移動する。これにより、台座52及び受け石34が、回転香箱11及び三番車13から遠ざかった位置に移動する。
したがって、本実施形態3のばね付台座50を備えた機械式時計のムーブメントによれば、実施形態1のばね付台座30又は実施形態2のばね付台座40を備えた機械式時計のムーブメント100と同様の作用、効果を発揮することができる。
【0055】
なお、実施形態1,2のばね付台座30,40においても、台座32やばね部33,43をガイド31から分離した構成の場合は、実施形態3のばね付台座50と同様に、上下に蓋部材51b,51cを積層した構成を採用することができる。
【0056】
本出願は、2015年1月5日に日本国特許庁に出願された特願2015−000127に基づいて優先権を主張し、その全ての開示は完全に本明細書で参照により組み込まれる。