特許第6452789号(P6452789)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6452789
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】液晶表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1343 20060101AFI20190107BHJP
   G02F 1/1368 20060101ALI20190107BHJP
【FI】
   G02F1/1343
   G02F1/1368
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-224225(P2017-224225)
(22)【出願日】2017年11月22日
(62)【分割の表示】特願2014-6747(P2014-6747)の分割
【原出願日】2014年1月17日
(65)【公開番号】特開2018-55119(P2018-55119A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2017年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】浅川 陽一
(72)【発明者】
【氏名】新木 盛右
【審査官】 小濱 健太
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0127698(US,A1)
【文献】 特開2010−008444(JP,A)
【文献】 特開2011−100071(JP,A)
【文献】 特開2010−009004(JP,A)
【文献】 特開2009−251324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1343−1/1368
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に延在し、第2の方向に配列した走査線と、前記第1の方向に配列した映像信号線とに囲まれた領域に画素電極が形成された画素がマトリクス状に形成されたTFT基板と、対向基板との間に液晶が挟持された液晶表示装置であって、
前記画素電極の下層には層間絶縁膜を介してコモン電極が形成され、
前記画素電極はスルーホールを介してTFTのソース電極と接続しており、
前記画素電極は、第1長辺、第2長辺、第1短辺及び第2短辺と、一つの開口部を有し、該開口部は前記第1長辺、前記第2長辺、前記第1短辺及び前記第2短辺とで囲まれており、
前記画素電極は、平面視において、前記第2短辺は、前記走査線に隣接して設けられ、前記第1長辺及び前記第2長辺は、前記第1短辺と前記第1長辺間で形成される前記開口部側の角度が鋭角、前記第1短辺と前記第2長辺間で形成される前記開口部側の角度が鈍角となるように、前記第2短辺に対して傾斜して設けられ、
前記第1長辺と前記第1短辺間は、前記開口部と繋がる間隔が設けられる、
ことを特徴とする液晶表示装置
【請求項2】
前記間隔は、前記画素電極の第1長辺側を切り欠いたものであることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記間隔は、前記画素電極の第1短辺側を切り欠いたものであることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置
【請求項4】
前記間隔は、前記画素電極の第1長辺側と第1短辺側を切り欠いたものであることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表示装置に係り、特に視野角特性が優れ、かつ、リバースドメインの発生を抑制したIPS方式の液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置では画素電極および薄膜トランジスタ(TFT)等を有する画素がマトリクス状に形成されたTFT基板と、TFT基板に対向して、TFT基板の画素電極と対応する場所にカラーフィルタ等が形成された対向基板が配置され、TFT基板と対向基板の間に液晶が挟持されている。そして液晶分子による光の透過率を画素毎に制御することによって画像を形成している。
【0003】
液晶表示装置はフラットで軽量であることから、色々な分野で用途が広がっている。携帯電話やDSC(Digital Still Camera)等には、小型の液晶表示装置が広く使用されている。液晶表示装置では視野角特性が問題である。視野角特性は、画面を正面から見た場合と、斜め方向から見た場合に、輝度が変化したり、色度が変化したりする現象である。視野角特性は、液晶分子を水平方向の電界によって動作させるIPS(In Plane Switching)方式が優れた特性を有している。
【0004】
IPS方式は優れた視野角特性を有しているが、画面を視る方向によって、視野角特性が異なる、いわゆる方位角特性が均一でない場合が存在する。このような、問題を対策するために、特許文献1には、1画素中に液晶分子の回転方向が異なる2つのドメインを形成し、これによって、視野角の方位角依存性を緩和する構成が記載されている。これをデュアルドメイン方式と呼ぶこともある。
【0005】
また、液晶表示パネルの表面を指等でおした場合、その部分において、対向基板とTFT基板の間隔が変化し、液晶が移動することによるドメインが発生する。このドメインは直ぐに消滅しない場合は問題となる。特許文献2にはこのような押しドメインの発生を抑制した構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−56336号公報
【特許文献2】特開2000−56320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
IPS方式も種々存在するが、例えば、コモン電極を平面ベタで形成し、その上に、絶縁膜を挟んで櫛歯状の画素電極を配置し、画素電極とコモン電極の間に発生する電界によって液晶分子を回転させる方式が透過率を大きくすることが出来るので、現在主流となっている。
【0008】
このような液晶表示装置においても、視野角の方位角依存性が問題になる。方位角依存性を対策する方法として、例えば、画素電極に映像信号を印加した場合に、液晶分子の回転方向が異なる第1の画素と第2の画素を形成し、第1と第2の画素の組み合わせによって、視野角依存性を緩和する方式がある。これを擬似デュアルドメイン方式と呼んでいる。
【0009】
このような液晶表示パネルにおいても、表面を指等で押した場合、その部分において、対向基板とTFT基板の間隔が変化し、液晶が移動することによるドメインが発生する。このようなドメインが発生すると、同じ画素内において、液晶分子の回転方向が異なる領域が形成され、これらの領域の境界は、バックライトの光を透過しない、いわゆる、ディスクリネーションが発生する。
【0010】
押しドメインの発生によるディスクリネーションは不安定であり、制御が難しい。このようなディスクリネーションが直ぐに消滅すれば大きな問題にはならないが、持続すると問題となる。ディスクリネーションが発生すると、画素の透過率が低下するので、画面輝度が低下する。また、ディスクリネーションの部分においては、バックライトからの光が散乱されるので、画像のコントラストが低下する。
【0011】
本発明の課題は、いわゆる擬似デュアルドメイン方式において、押しドレインの発生によるディスクリネーションを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以上のような問題点を対策するものであり、具体的な手段は次のとおりである。
【0013】
(1)第1の方向に延在し、第2の方向に配列した走査線と、第2の方向に延在し、第1の方向に配列した映像信号線に囲まれた領域に画素電極が形成された画素がマトリクス状に形成されたTFT基板と、対向基板との間に液晶が挟持された液晶表示装置であって、前記画素電極の下層には層間絶縁膜を介してコモン電極が形成され、第1の画素の画素電極は長辺が前記第2の方向から時計回りに第1の角度傾斜しており、第2の画素の画素電極は長辺が前記第2の方向から反時計回りに第1の角度傾斜しており、前記液晶はネガ型液晶であり前記画素電極の長辺端部には、前記第1の方向に突起が形成されていることを特徴とする液晶表示装置。
【0014】
(2)前記液晶はネガ型液晶であり、前記第1の方向の突起は前記第1の方向と平行な辺を有していることを特徴とする(1)に記載の液晶表示装置。
【0015】
(3)前記突起は先端が前記映像信号線と平面で見てオーバーラップしていることを特徴とする(1)に記載の液晶表示装置。
【0016】
(4)第1の方向に延在し、第2の方向に配列した走査線と、第2の方向に延在し、第1の方向に配列した映像信号線に囲まれた領域に画素電極が形成された画素がマトリクス状に形成されたTFT基板と、対向基板との間に液晶が挟持された液晶表示装置であって、前記画素電極の下層には層間絶縁膜を介してコモン電極が形成され、第1の画素の画素電極は長辺が前記第2の方向から時計回りに第1の角度傾斜しており、第2の画素の画素電極は長辺が前記第2の方向から反時計回りに第1の角度傾斜しており、前記画素電極はスルーホールを介してTFTのソース電極と接続しており、前記画素電極はスリットを有しており、記画素電極の前記スルーホールから遠い側の前記スリットの端部には切り欠きが形成されていることを特徴とする液晶表示装置。
【0017】
(5)第1の方向に延在し、第2の方向に配列した走査線と、第2の方向に延在し、第1の方向に配列した映像信号線に囲まれた領域に画素電極が形成された画素がマトリクス状に形成されたTFT基板と、対向基板との間に液晶が挟持された液晶表示装置であって、前記画素電極の下層には層間絶縁膜を介してコモン電極が形成され、第1の画素の画素電極は長辺が前記第2の方向から時計回りに第1の角度傾斜しており、第2の画素の画素電極は長辺が前記第2の方向から反時計回りに第1の角度傾斜しており、前記画素電極はスルーホールを介してTFTのソース電極と接続しており、前記画素電極はスリットを有しており、前記画素電極の前記スルーホールから遠い側の前記スリットの端部には切り欠きが形成され、前記画素電極の長辺端部には、前記第1の方向に突起が形成されていることを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、IPS方式の液晶表示装置において、液晶表示パネルの対向基板を指で押す等によるタッチ方式の入力をした場合に、押しドメインの発生を抑制するので不安定なディスクリネーションの発生を抑制することが出来る。したがって、タッチ方式の入力においても、安定した画面を形成することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明による液晶表示装置の画素の平面図である。
図2図1に示す画素の断面図である。
図3】液晶分子の配向方向を示す画素の平面図である。
図4】押圧を解除したあとの、液晶分子の配向方向を示す画素の平面図である。
図5】画素における配向膜の配光軸、電界の方向、液晶分子の安定配向方向、液晶分子の準安定方向を示す図である。
図6】突起付近の画素電極の詳細を示す平面図である。
図7】突起が映像信号線の上まで延在している場合の実施例1の画素の平面図である。
図8】実施例2の画素の構成を示す平面図である。
図9】実施例2他の形態の画素の構成を示す平面図である。
図10】実施例2さらに他の形態の画素の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に実施例によって本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明による画素構成の平面図であり、図2は、画素部分の断面図である。まず、図2の断面構造から説明する。図2において、ガラスで形成されたTFT基板100の上にゲート電極101が形成され、これを覆ってゲート絶縁膜102が形成されている。ゲート電極101の上方でゲート絶縁膜102の上に半導体層103が形成されている。
【0022】
半導体層103はa−Siで形成されている。半導体層103には、n+a−Siも形成されており、ドレイン電極104とソース電極105とに電気的に接続している。半導体層103、ドレイン電極104、ソース電極105を覆って無機パッシベーション膜106が形成され、その上に平坦化膜を兼ねた有機パッシベーション膜107が形成されている。有機パッシベーション膜107は1乃至3μmと厚く形成される。
【0023】
有機パッシベーション膜107の上には、平面状にITOによってコモン電極108が形成されている。コモン電極108を覆って層間絶縁膜109が形成され、その上にスリット1101を有する画素電極110が形成されている。画素電極110はスルーホール130を介してソース電極105と接続している。尚、ソース電極105とドレイン電極104については、その呼称が逆転してもよい。画素電極110を覆って液晶を初期配向させる配向膜111が形成されている。画素電極110に映像信号が印加されると、コモン電極108との間に図に示すような電気力線が発生し、電気力線の横成分によって液晶分子301が回転し、バックライトからの光を制御する。
【0024】
TFT基板100と液晶層300を挟んで対向基板200が配置している。対向基板200の内側で、画素電極110に対応する部分にはカラーフィルタ201が形成され、カラーフィルタ201とカラーフィルタ201の間にブラックマトリクス202が形成されている。カラーフィルタ201とブラックマトリクス202を覆ってオーバーコート膜203が形成され、オーバーコート膜203の上に配向膜113が形成されている。対向基板200側にはコモン電極が形成されていないので、外部からのノイズをシールドするために対向基板200の外側に外部導電膜210がITOによって形成されている。
【0025】
図2はいわゆるボトムゲートタイプのTFTの場合であるが、半導体層103の上にゲート電極102が形成されたトップゲート型の場合もある。また、半導体層103はa−Siに限らず、poly−Siによって形成される場合もある。また、カラーフィルタをTFT基板側に形成する構成であってもよい。
【0026】
液晶には、ネガ型液晶とポジ型液晶が存在する。ネガ型液晶は液晶分子の短軸側に極性基を有しており、ポジ型液晶は液晶分子の長軸側に極性基を有している。ネガ型液晶は液晶分子の短軸側に極性基を配置するために、ポジ型液晶に比べて分子構造的に、誘電率異方性Δεが小さく、ポジ型液晶の場合に比べて電圧印加による液晶分子の回転が生じにくい。一方、ネガ型液晶は、液晶分子が基板の垂直方向に対して立ち上がりにくいので、押しドメインの発生等に対しては、ポジ型液晶の場合に比べてより耐性を有している。以下の説明では、ネガ型液晶の場合を用いて説明するが、本発明は、ポジ型液晶の場合にも適用することが出来る。
【0027】
図1は、本発明の画素構造を示す平面図である。図1において、走査線10が横方向に延在し、所定のピッチで縦方向に配列している。映像信号線20が縦方向に延在し、所定のピッチで横方向に配列している。画素内にはTFTと画素電極110、コモン電極108が存在している。
【0028】
図1において、ゲート電極を兼ねた走査線10上にゲート絶縁膜を介して半導体層103が形成されている。半導体層103の上には映像信号線から分岐したドレイン電極104と、ドレイン電極104と対向してソース電極105が形成されている。ドレイン電極104とソース電極105の間がTFTチャンネル部となっている。ソース電極105はスルーホール130を介して画素電極110と導通し、画素電極110に映像信号を供給する。
【0029】
画素電極110の下には、図2で説明したように、平面状にコモン電極108が形成されている。画素電極110に信号電圧が印加されると、図2に示したように、電気力線が液晶層300を通り、画素電極110のスリット1101および画素電極110の外側を介してコモン電極108に到達する。電気力線の横成分によって液晶が回転し、液晶層の透過率を制御する。
【0030】
図1において、液晶分子を初期配向させるための配向膜の配向軸50は、走査線10の延在方向と一致している。この場合、液晶分子の長軸の初期の配向方向は配向膜の配向軸と一致している。このような構成において、画素電極110に電圧が印加されると、液晶分子に対する電界Eの方向は、図1に示すように、配向膜の配向軸とは所定の角度傾くことになる。
【0031】
ネガ型液晶は、電界が印加されると液晶分子の長軸が電界の向きと直角方向に回転する。したがって、図1のような構成とすることによって、画素内での大部分の液晶は、同じ方向に回転することになり、異なったドメインの発生によるディスクリネーションの発生を抑制することが出来る。ただし、後で説明するように、画素電極の一部には、液晶分子が逆方向に回転する領域が発生するが、通常はこの領域は小さく、これによって発生するディスクリネーションの領域も小さい。
【0032】
図1に示す画素電極110の長軸は、配向膜の配向軸50と直角方向、すなわち、y軸方向に対して、所定の角度θ、例えば、5乃至15度傾いている。これは、以上で説明したとおり、画素電極110に電圧が印加された場合、画素内において大部分の液晶分子を同じ方向に回転させるためである。しかし、画素内において、液晶分子の回転方向が同じであるということは、画面を視る方向によって、視野角特性が異なる、いわゆる視野角特性の方位角依存性が生ずる。
【0033】
これを対策するために、図1に示す画素の上下に配置される画素における画素電極は、図1の画素とは配向軸と直角方向、すなわち、y軸方向に対して、図1の画素とは逆方向に傾いている。したがって、画素電極に電圧が印加された場合に液晶分子の回転は図1の画素の場合と逆方向になる。このように、画素電極が傾く方向が互いに逆である画素を図1のy軸方向に対して互い違いに配置することによって、視野角特性の方位角依存性を緩和することが出来る。また、スペースファクターを向上させるために、図1における映像信号線20は、y方向にジグザグの形状となっている。本明細書では、このような場合も映像信号線20はy方向に延在しているという語句を使用する。
【0034】
図1の画素電極110は概略平行四辺形であり、内側にスリット1101を有している。また、画素電極110は端部において外側への突起30を有している。この突起30が実施例1における特徴となっている。突起30の役割は後で説明する。
【0035】
図3は以上で説明した構成を示す画素配置の平面模式図である。図3において、図3(a)が上側の画素であり、図3(b)が下側の画素である。図3の、上側の画素における画素電極110と下側の画素の画素電極110はy軸方向に対して逆方向に傾いている。上側の画素も下側の画素もスルーホール130を介してTFTのソース電極と接続している。なお、図3および図4においては、スルーホールは長方形となっている。
【0036】
図3において、画素電極110には信号電圧が印加されている。しがって、液晶分子301は、初期はx方向であったものが、画素電極110付近の電界によって回転している。液晶分子301に対する電界の向きが上側の画素と下側の画素とでx軸をはさんで逆方向なので、液晶分子301の回転方向も上側の画素と下側の画素とで向きがx軸を挟んで逆となっている。
【0037】
図3の下側の画素において、画素電極110の内部に形成されたスリット1101のコーナー部で液晶分子301が他の部分とは逆方向に回転している。これをリバースドメインと呼んでいる。通常は、このリバースドメインの領域は小さい。ここで、下側の画素に対応する部分の対向基板を押した場合、この部分において、TFT基板と対向基板の間隔が小さくなり、矢印で示すように、液晶分子が上側の画素に移動する。上側の画素に移動した液晶分子301は、上側の液晶分子301の影響を受けて、上側の画素の液晶分子と同じ方向に配列される。
【0038】
ここで、下側の画素に対する押圧が解除されると、上側の画素に流れ込んだ液晶分子301が下側の画素に還流してくる。還流してきた状態の液晶分子301の配向の様子を示すものが図4である。図4(a)が上側の画素であり、図4(b)が下側の画素である。図4において、上側の画素における液晶分子の状態は変化無いが、液晶分子301が還流してきた下側の画素における液晶分子301の配向状態は、押圧が加わる前とは、大きく異なっている。
【0039】
図4の上側画素から下側画素に向かう点線の矢印は、液晶分子が上側画素から下側画素に還流している状態を表している。ところで、液晶分子が、電界によって回転した場合、安定方向は、電界と同じ方向に液晶分子の極性基が回転する状態と、電界と逆方向に液晶分子の極性基が回転する場合とがある。電界と同じ方向に回転した状態を安定方向と呼び、電界と逆方向に回転した場合を準安定状態と呼ぶ。
【0040】
上側の画素から還流して来た液晶分子301は、下側画素において再配向するが、このときの液晶分子301は、下側画素に流れ込むときは、上側の画素の影響を受けた配向方向となっている。この状態の液晶分子の配向方向は、下側画素において、安定状態よりも準安定状態のほうに角度が近い。そうすると、上側画素から還流してきた液晶分子301は、下側画素において、液晶分子301の向きが、当初の安定状態とは異なった配向を有することになる。この状態によって形成されたドメインをリバースドメインと呼んでいる。
【0041】
したがって、液晶分子301が上側画素から還流してきた後の下側画素におけるリバースドメインの領域は、当初の下側画素におけるリバースドメインの領域よりも格段に大きくなっている。したがって、発生するディスクリネーションの領域も大きくなっている。これが押しドメインの問題である。
【0042】
図5は、以上で説明した内容を配向膜の配向軸50、電界の方向E、電界による液晶分子の配向方向の関係等によって説明する図である。図5(a)は、図3あるいは図4の上側画素における配向膜の配向軸50、つまり、初期配向方向、電界の向きE、電界による液晶分子の配向方向TS1の関係を示したものである。図5(a)において、配向膜の配向軸50の方向はx軸の方向であり、電界の方向Eは、x軸からバイアス角θだけ傾いている。液晶分子301はネガ型液晶なので、液晶分子301は液晶分子の長軸が電界Eと直角方向に回転するので、TS1の方向に配向することになる。この場合の回転角度をツイスト角φで示している。
【0043】
図5(b)は、図3または図4の下側画素の配向膜の配向軸50、電界の方向E、電界による液晶分子の配向方向TS2に加え、準安定方向による液晶分子の配向方向TS3、液晶分子が上側画素から還流して来た直後の液晶分子の配向方向TS1等を示す図である。図5において、配向膜の配向軸の方向50はx方向であることは図5(a)と同じである。しかし、図5(b)における電界の向きEは、図5(a)における電界の向きEとは、x軸方向を挟んで逆側である。
【0044】
したがって、図5(b)に押圧を加える前の液晶分子301の回転の方向は、図5(a)の場合と比較して、x軸方向を挟んで逆向きとなっている。すなわち、図5(b)における液晶分子301の向きは、図3の下側画素における液晶分子の配向している方向となっている。図3(a)と図3(b)を比較すればわかるように、液晶分子301の配向の向きは、上側画素と下側画素とは、x軸方向を挟んで対称方向となっている。
【0045】
すなわち、ポジ液晶の場合は、配向膜の配向方向50と電界の方向Eの角度であるバイアス角θが小さいほうに液晶分子391は回転する。一方、ネガ液晶の場合は、液晶分子の長軸と直角方向が電界の方向に並ぼうとするので、バイアス角が大きい方に液晶分子391は回転する。しかし、液晶分子301は、図5(b)における準安定方向TS3においてもエネルギーが小さくなる。したがって、何らかのきっかけがあれば、液晶分子301は、準安定方向TS3の方向に配向することも出来る。ここで、電界の方向Eと液晶分子の安定方向TS2のなす角φFと電界方向Eと液晶分子の準安定方向TS3のなす角φRとは、図5(b)に示すように、向きは異なるが絶対値は同じである。
【0046】
図3に示すように、下側画素から流れ込んだ液晶分子301は、上側画素の液晶分子301の影響を受けて、上側画素の液晶分子301と同じ方向の配向となる。その後、液晶分子301が上側画素から下側画素に還流してくると、液晶分子301は当初は、上側画素における配向状態を維持している。この状態が図5(b)におけるTS1である。
【0047】
その後、下側画素に流れ込んだ液晶分子301は、配向方向TS1から再配向する。このとき、還流した液晶分子301の配向方向TS1と準安定方向であるTS3とのなす角度φR1は、還流した液晶分子301の配向方向TS1と安定方向であるTS2とのなす角度φF1よりも小さい。したがって、還流した液晶分子301は準安定方向TS3に配向することになる。これに対してもともと下側画素に存在し、上側画素に流れ込まなかった液晶分子は、元の配向方向TS2のままである。
【0048】
したがって、下側画素には、押圧を解除して、液晶分子が下側画素に還流したことによって、液晶分子301の配向方向が異なる2つの領域が存在することになり、広い範囲にわたってディスクリネーションが発生する。従来はこれが大きな問題となっていた。なお、図4(b)において、わかりやすくするために、液晶分子301は全て準安定方向(リバース配向)に配向しているように描いているが、実際はある領域の液晶分子301は、押圧前の配向方向を維持しているので、ドメインが2つ存在することになる。
【0049】
なお、液晶分子301の配向方向は、周囲の液晶分子301に対して伝播する。したがって、いずれかの液晶分子301が特定の方向に配向すると、それが伝播して、広い範囲に同じ配向を有する液晶分子301が分布することになり、ドメインとなる。
【0050】
以上のように、図4における上側画素から還流した液晶分子301の配向の向きを上側画素の液晶分子301の配向の向きではなく、例えば、配向膜の配向軸方向50であるx方向に強制的に配向させることが出来れば、液晶分子301は安定方向にツイストすることになり、リバースドメインの領域が広く生ずる現象は回避できる。
【0051】
図1における突起30は液晶分子301を突起30において、配向膜の配光軸方向50に固定し、この部分の液晶分子301の影響によって、上側の画素から還流してきた液晶分子301の配向の向きを強制的に配向膜の配向軸の方向50に向けるものである。なお、図1の画素電極110は上側の端部のみでなく、下側の端部にも突起30が形成されているが、液晶は図1の下側画素から還流する場合もあるので、画素電極110の下側突起はこのような液晶分子に対して作用させるものである。
【0052】
図6は、図1における突起30の作用を示す詳細平面図である。図6において、画素電極110は下側のコモン電極108との間に電界Eが発生するが、この電界Eは平面で見ると、y方向となっている。液晶分子301の初期配向は配向膜の配向方向50であるx方向となっている。液晶分子301はネガ型液晶なので、液晶分子301は、電界が印加されても回転しない。すなわち、液晶分子301の長軸方向はx軸方向に強く固定されている。
【0053】
そうすると、上側画素から還流して来た液晶分子301は、突起30における液晶分子301の影響によって、x軸方向に配向するようになる。したがって、液晶分子301は、安定方向に配向するようになり、準安定方向に配向してリバースドメインを形成することを避けることが出来る。図1の下側の突起30の作用についても同様である。なお、この作用を持たせるためには、突起30は、x軸方向と平行方向の辺を有することが必要である。
【0054】
このように、画素電極110の突起30の長さdは長いほうが作用を大きくすることが出来る。図7は、突起30の長さを長くして、映像信号線20の上まで延在させた例である。このような構成としても、画素電極110と映像信号線20との間には、コモン電極108が存在しているので、映像信号線20からの不要信号が画素電極110に影響を与えることは無い。図7のその他の構成は図1と同じである。
【0055】
このように、本実施例によれば、画素電極110に突起を形成することにより、還流してきた液晶分子301が逆方向に配向してリバースドメインを形成し、ディスクリネーションを発生させる現象を抑制することが出来る。
【実施例2】
【0056】
図4(b)における上側画素から還流して液晶分子301が逆配向する他の原因は、もともと、下側画素に存在していたリバースドメインにおける液晶分子301の配向の影響を還流してきた液晶分子301が受けることである。すなわち、液晶分子301は周囲の液晶分子301に対して配向方向の影響を与えるからである。
【0057】
この意味から、本実施例では、画素に存在しているリバースドメインの領域をできるだけ小さくする、可能であれば、無くすことである。図8は、画素電極110のスリット1101の左上端部にリバースドメインが形成されていた場合に、この部分の画素電極110に切り欠きを形成し、リバースドメインが形成出来ないようにした構成である。この場合は、スルーホール130から遠いほうの画素電極110の長辺端部をスリット端部において切り欠きを形成したものである。
【0058】
図9は本実施例の他の形態であり、この場合も、画素電極110のスリット1101の左端部にリバースドメインが形成されていた場合である。図9においても、この部分の画素電極110端部に切り欠きを形成するが、この場合は、スルーホール130から遠いほうの画素電極10の短辺端部にスリット端部において切り欠きを形成したものである。
【0059】
図10は本実施例の他の形態であり、この場合も、画素電極110のスリット1101の左上端部にリバースドメインが形成されていた場合である。図10においても、この部分の画素電極端部に切り欠きを形成するが、この場合は、スルーホール130から遠いほうの画素電極110の短辺端部と長辺端部に、スリット端部において切り欠きを形成したものである。
【0060】
図8乃至、図10では、画素電極110のスリット1101の左上端部にリバースドメインが形成されていた場合の対策であるが、画素電極110のスリット1101の右上端部にリバースドメインが形成されていた場合もこれに準じた切り欠きを形成すればよい。要するに、スリット1101を有する画素電極110において、TFTのソース電極との接続のためのスルーホール130から遠いほうの、スリット1101端部において、リバースドメインの発生を防止するために、画素電極110に切り欠きを形成すればよい。
【0061】
なお、実施例2と実施例1を組み合わせることによって、より効果的に押しドメインの発生を防止することが出来る。
【符号の説明】
【0062】
10…走査線、 20…映像信号線、 30…画素電極突起、 40…画素電極切り欠き、 50…配向膜の配光軸、 100…TFT基板、 101…ゲート電極、 102…ゲート絶縁膜、 103…半導体層、 104…ドレイン電極、 105…ソース電極、 106…無機パッシベーション膜、 107…有機パッシベーション膜、 108…コモン電極、 109…層間絶縁膜、 110…画素電極、 111…配向膜、 130…スルーホール、 200…対向基板、 201…カラーフィルタ、 202…ブラックマトリクス、 203…オーバーコート膜、 210…外部導電膜、 1101…画素電極スリット、 E…電界方向、 θ…配向膜の配向軸と電界方向のなす角、 φ…液晶分子のツイスト角、 φF…電界方向と液晶分子の安定配向方向のなす角度、 φR…電界方向と液晶分子の準安定配向方向のなす角度、 φF1…還流してきた液晶分子の配向方向と安定配向方向とのなす角度、 φR1…還流してきた液晶分子の配向方向と準安定配向方向とのなす角度、 TS1…第1の画素の液晶分子の配向方向、 TS2…第2の画素の液晶分子の配向方向、 TS3…第2の画素における準安定方向の液晶分子の配向方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10