(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6452807
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞−ヒドロゲルを含有する組成物及びこれの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20190107BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20190107BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20190107BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20190107BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20190107BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20190107BHJP
A61K 47/36 20060101ALN20190107BHJP
A61K 47/38 20060101ALN20190107BHJP
A61K 47/32 20060101ALN20190107BHJP
A61K 47/34 20170101ALN20190107BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K9/06
A61K47/42
A61P17/02
A61P29/00
A61P37/06
!A61K47/36
!A61K47/38
!A61K47/32
!A61K47/34
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-515684(P2017-515684)
(86)(22)【出願日】2014年11月3日
(65)【公表番号】特表2017-529362(P2017-529362A)
(43)【公表日】2017年10月5日
(86)【国際出願番号】KR2014010457
(87)【国際公開番号】WO2016047849
(87)【国際公開日】20160331
【審査請求日】2017年4月7日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0125981
(32)【優先日】2014年9月22日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515291188
【氏名又は名称】アンテロジェン シーオー.,エルティーディー.
【氏名又は名称原語表記】ANTEROGEN CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】イ、ソンク
(72)【発明者】
【氏名】キム、ミヒョン
【審査官】
六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】
韓国登録特許第10−0684940(KR,B1)
【文献】
特表2014−520521(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/067983(WO,A1)
【文献】
特表2010−528107(JP,A)
【文献】
特表2007−521009(JP,A)
【文献】
特表2011−523934(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/071123(WO,A1)
【文献】
特開2012−193117(JP,A)
【文献】
特開2006−346420(JP,A)
【文献】
Tissue Engineering,2006年,12(8),p.2385-2396
【文献】
Biomaterials,2011年,32,p.39-47
【文献】
Tissue Engineering:Part A,2010年,16(2),p.453-464
【文献】
Tissue Engineering:Part A,2013年,19(21),p.2373-2381
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00−35/768
WPI
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)脂肪由来の間葉系幹細胞を培養する段階;
(b)前記培養された脂肪由来の間葉系幹細胞とヒドロゲル溶液を混合してゲルを形成する段階;及び
(c)前記ゲルを培養する段階を備え、
前記ヒドロゲルは、フィブリン糊であり、前記フィブリン糊は、0.9乃至1.6mg/mLの濃度のフィブリノーゲンを含むことを特徴とする
間葉系幹細胞−ヒドロゲル組成物の製造方法。
【請求項2】
フィブリン糊は、1乃至300I.U./mL濃度のトロンビンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の間葉系幹細胞−ヒドロゲル組成物の製造方法。
【請求項3】
フィブリン糊は、10乃至15I.U./mL濃度のトロンビンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の間葉系幹細胞−ヒドロゲル組成物の製造方法。
【請求項4】
段階(c)以後、間葉系幹細胞−ヒドロゲル組成物をアンプル、バイアルまたは注射器に充填する段階(d)をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の間葉系幹細胞−ヒドロゲル組成物の製造方法。
【請求項5】
段階(d)で製造されたアンプル、バイアルまたは注射器に充填された間葉系幹細胞−ヒドロゲルでカウントした細胞数が、段階(c)で収得された間葉系幹細胞をカウントした細胞数の70%以上であることを特徴とする、請求項4に記載の間葉系幹細胞−ヒドロゲル組成物の製造方法。
【請求項6】
段階(d)で製造されたアンプル、バイアルまたは注射器に充填された間葉系幹細胞−ヒドロゲルでカウントした細胞数が、段階(c)で収得された間葉系幹細胞をカウントした細胞数の80%以上であることを特徴とする、請求項4に記載の間葉系幹細胞−ヒドロゲル組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法で製造された間葉系幹細胞−ヒドロゲル組成物を有効成分として含有する、細胞治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロゲルで培養した間葉系幹細胞組成物、さらに詳しくは、ヒト脂肪由来の間葉系幹細胞−ヒドロゲル組成物及びこれの製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、間葉系幹細胞をヒドロゲル内で培養した後、洗浄して注射器に充填して提供することで、即刻の投与が可能で、最終の移植細胞の準備過程で酵素処理を必要とせず、遠心分離法等を用いる洗浄段階を経ることなくヒドロゲルの状態で洗浄することになるため、細胞の損失がほとんど無く、ヒドロゲル孔(pore)内に生理活性物質が固着されており、個体に投与した直後から治療効果を奏するという長所を有する。
【背景技術】
【0002】
従来の1世代の幹細胞治療剤は、トリプシンまたはディスパーゼ等のタンパク質分解酵素を処理して得た、単離された細胞でタンパク質分解酵素を処理する間、細胞膜に晒されている全てのタンパク質を非選択的に分解したため、細胞間の結合と基底膜タンパク質などがほとんど保持されていなかった。また、タンパク質分解酵素を非活性化させるために、FBS等の動物由来の物質を添加することになり、これを除去するために、数回に渡って洗浄−遠心分離過程を行うことになるが、通常、1回の洗浄−遠心分離過程の間5〜10%程の細胞損失が発生する。従って、タンパク質分解酵素を使用した細胞収集過程は、非常に非効率的な方法である。
【0003】
また、単離された単一細胞を疾患部位に移植すると、拡散及び吸収等を通じてターゲット部位から流出されるため、定着する細胞の割合が低い。さらに、間葉系幹細胞は、付着性の強い細胞であるため、単一細胞に分離した際に、6〜24時間内に死滅することになり、生着率が非常に低いという欠点を有している。
【0004】
WO2006/004951号には、生体適合性スキャフォールド内の成体の間葉系幹細胞(MSC)から、所定の形態及び規模の軟組織を新たに(de novo)生体内(in vivo)合成する方法、並びにこのような方法で製造された組成物について開示している。前記文献には、生体適合性スキャフォールドでヒドロゲル重合体、さらに詳しくは、ポリエチレングリコールジアクリレートを使用する方法が提示されている。しかしながら、前記組成物は、軟組織結合の復旧のためのものであって、ポリエチレングリコールジアクリレートがスキャフォールドに使用された場合、直径の変化がほとんどない状態でなければならないという点を想定しているのみで、培養後、注射器に充填して即刻の投与ができるようにする製造過程については開示または示唆していない。
【0005】
韓国登録特許第1,289,834号には、羊水由来の幹細胞を含有する括約筋再生細胞治療剤が開示されており、前記細胞治療剤がヒドロゲル複合体、具体的には、アルジネート/PF−127/ヒアルロン酸に注入されて、その効果が増大され得るという点が提示されている。しかしながら、前記文献では、幹細胞を収集する過程自体を改善して収得率を高められるという点については開示していない。
【0006】
韓国登録特許684,940号には、間葉系幹細胞を軟骨細胞に分化させる方法が開示されており、さらに具体的には、間葉系幹細胞を生分解性高分子であるフィブリン/HAを含有する混合支持体に固定して培養する方法が開示されている。しかしながら、前記文献では、フィブリン/HAを支持体として使用する場合、従来、細胞分化のために添加されていたTGF−betaを添加しなくても、間葉系幹細胞から軟骨細胞に分化が促進され得るという点が開示されているのみである。
【0007】
従来の方法の場合、最終の移植細胞の準備過程で酵素処理を行うことになるため、細胞間結合と基底膜タンパク質が損傷することがあり、細胞収集、洗浄、バイアル充填段階及びバイアルから再び注射器に充填する各段階において細胞損失が生じかねず、また、酵素処理後、単一細胞のみを収集して注射することになるため、細胞培養の間に合成されたコラーゲンのような活性物質は、ほとんど除去されるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明では、細胞をヒドロゲル内で培養した後、洗浄して注射器に充填して即刻の投与が可能な形態の組成物を提供することで、最終の移植細胞の準備過程で酵素処理が不要であり、遠心分離法等を用いる洗浄段階を経なくても、ヒドロゲルの状態で洗浄することになるため、細胞損失がほとんど無く、生理活性物質がヒドロゲル孔(pore)内に固着されており、個体に投与した直後から有効な治療効果を奏するという点を新たに究明することで、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2006/004951号
【特許文献2】韓国登録特許第1,289,834号
【特許文献3】韓国登録特許684,940号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Wu X,Ren J,Li J.,Cytotheray,2012 May;14(5):555−62
【非特許文献2】Liao HT. et al.,J. Trauma.,2011 Jan;70(1):228−37
【非特許文献3】Wang K. et al.,Tissue Eng Part A.,2012 Dec;18(23−24):2507−17
【非特許文献4】Fang H. et al.,J Huazhong Univ Sci Technolog Med Sci.,2004;24(3):272−4
【非特許文献5】Inok Kim et al.,Tissue Eng Part A.,2013;19(21−22):2373−81.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ヒトの脂肪組織から分離した間葉系幹細胞を疾患治癒に使用するためのものであって、1)細胞を充分な量で培養した後収集する過程における細胞の損失を防ぎ、2)タンパク質酵素処理などによる細胞の損傷を防ぎ、3)ターゲット部位で細胞の損失を最小限にするための最大に改善された方法の細胞組成物の製造方法及びこれから得られた組成物を提供することを目的とする。また、改善された方法で製造された細胞組成物を注射器に充填して提供することで、使用が容易であるようにした。本発明にて製造され充填された細胞−ヒドロゲルは、20〜25ゲージのニードルを用いて局所投与が可能な全ての疾患の治療剤として適用され得る。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成すべく、本発明では、脂肪由来の間葉系幹細胞をヒドロゲルで培養した後、注射器を用いて幹細胞−ヒドロゲルを収集する方法を提供する。
【0013】
本発明による疾患治療用組成物において、間葉系幹細胞は、CD29、CD44、CD73、CD90などに対して陽性であり、CD34及びCD45に対して陰性である自己または同種由来細胞であってもよい。
【0014】
本発明による一様態において、ヒドロゲルは、フィブリン糊、ヒアルロン酸またはこれの誘導体、ゼラチン、コラーゲン、アルギン酸、セルロース及びペクチンからなる群から選択されることができ、この際、フィブリン糊を形成するフィブリノーゲンの濃度は、0.4乃至1.8mg/mLであってもよく、さらに詳しくは、0.9乃至1.6mg/mLであってもよい。
【0015】
本発明による一様態において、幹細胞100,000〜2,000,000個を1mLのヒドロゲルと混合して12〜24well plateに1mL〜2mL添加してゲルを作った後、培地を添加して3〜6日間培養して製造する。培地は、従来の特許(瘻孔治療のための自己及び同種の脂肪由来のストロマ幹細胞組成物、韓国登録番号:1,328,604)で提示する10%FBS及びbFGFまたはEGFが含まれたDMEM培地であってもよく、または1〜10%ヒト血清アルブミンと、1〜50%の従来特許(高濃度の細胞成長因子を含む間葉系幹細胞培養液の製造方法及びこれから得られた組成物、韓国出願番号:10−2011−0043953)に従って製造された組成物とを含むDMEMであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明による脂肪由来の間葉系幹細胞−ヒドロゲルを含有する組成物の製造方法は、細胞をヒドロゲル内で培養した後、洗浄して即刻注射器に充填して使用することで、最終の移植細胞の準備過程で酵素処理が不要であり、遠心分離法等を用いる洗浄段階を経ることなく、ヒドロゲルの状態で洗浄することになるため、細胞の損失がほとんど無く、ヒドロゲル孔(pore)内に生理活性物質が固着されており、個体に投与した直後から治療効果を奏するので非常に有用である。
【0017】
さらに詳しく説明すると、本発明による脂肪由来の間葉系幹細胞−ヒドロゲルを含有する組成物の製造方法は、タンパク質分解酵素を用いた単離(選別)段階を経ないため、従来の細胞収集過程による細胞の損失を防いで細胞を効率的に得ることができる。また、このような方法で得られた幹細胞は、高活性の状態で疾患部位に投与することができ、投与された細胞は、ヒドロゲルが分解して全て吸収される前までターゲット部位に留まっており、治療効果を持続的に奏することができる。また、培養段階で間葉系幹細胞から分泌されるコラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、エラスチンのような細胞外基質が完全にヒドロゲルに固着されて存在することで、従来の治療剤に比べて治療能力が著しく優れており、治療期間を短縮させ得る有利な効果を奏する。
【0018】
実験結果、本発明による脂肪由来の間葉系幹細胞−ヒドロゲルは、幹細胞がヒドロゲル内で一週間以上生存し線維芽細胞の形態を保持して、従来の幹細胞治療剤に比べて生存期間が著しく増加しており、また、1週間の間、細胞成長及び血管形成を促す様々な成長因子とサイトカインが持続的に分泌され、様々な種類の細胞外基質を多量分泌するだけでなく、分泌された細胞外基質がヒドロゲル内に留まっており、体内に移植したとき、多様な基質を提供することで傷の治癒を容易にすることができるということが分かった。また、免疫反応を誘発せず、却って活性化した免疫細胞から分泌される炎症誘発物質のTNF−alphaを抑えて炎症を緩和させることで、傷の治癒に役立つという長所があることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ヒト脂肪由来の間葉系幹細胞−ヒドロゲルの写真であって、aは、培養後の細胞−ヒドロゲルを形成した状態であり、bは、aの細胞−ヒドロゲルを注射器に充填した後の写真であり、cとdは、注射器に充填された細胞−ヒドロゲルをニードルを通じて注射する過程及び注射後の写真であって、ゲル形態をそのまま保持していることを示す。
【
図2a】フィブリノーゲン及びトロンビン溶液を段階別に希釈して作ったフィブリンゲルと混合して培養したヒト脂肪由来の間葉系幹細胞を注射器に充填して、即刻23ゲージのニードルを通じて注射した幹細胞−ヒドロゲルを光学顕微鏡で観察した写真である(100倍率)。最終のヒドロゲルでのフィブリノーゲンとトロンビンの希釈倍数及び濃度を表記した。
【
図2b】注射器に充填した細胞−ヒドロゲルを体内温度と同じ37℃で24時間保管した後、23ゲージのニードルを通じて注射した後、光学顕微鏡で観察した写真である(100倍率)。最終のヒドロゲルでのフィブリノーゲンとトロンビンの希釈倍数及び濃度を表記した。
【
図3】従来の技術によって2次培養した細胞の収集、洗浄、バイアル充填、そして注射器に充填する各段階において、細胞回収率と、ヒドロゲルで培養した細胞の収集、洗浄、そして注射器に充填する段階における細胞回収率を示したグラフである。
【
図4】従来の技術によって2次培養してバイアルに充填した細胞(比較例1)と、ヒドロゲルで培養して注射器に充填した細胞−ヒドロゲル(実施例3)の生存をAO/EtBrで染色して示した写真である。
【
図5】従来の技術によって2次培養、収集、洗浄、充填した細胞懸濁液(比較例1)と、ヒドロゲルで培養、洗浄、注射器に充填した細胞−ヒドロゲル(実施例3)とに含まれている細胞外基質であるコラーゲンタイプIの量を酵素結合免疫吸収分析法で定量して示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、脂肪由来の間葉系幹細胞−ヒドロゲルを含有する組成物の製造方法を提供し、本発明の製造方法を使用する場合、細胞をヒドロゲル内で培養した後、洗浄して即刻注射器に充填して使用することで、最終の移植細胞の準備過程で酵素処理が不要であり、遠心分離法等を用いる洗浄段階を経ることなく、ヒドロゲルの状態で洗浄することになるため、細胞の損失がほとんど無く、ヒドロゲル孔(pore)内に生理活性物質が固着されており、個体に投与した直後から治療効果を奏することになり非常に有用である。
【0021】
以下、さらに詳しく本発明を説明する。
【0022】
本発明は、(a)脂肪由来の間葉系幹細胞を培養する段階;(b)前記培養された脂肪由来の間葉系幹細胞とヒドロゲル溶液を混合してゲルを形成する段階;及び(c)前記ゲルを培養する段階を備える、間葉系幹細胞−ヒドロゲル組成物の製造方法に関する。
【0023】
本発明の一様態において、ヒドロゲルとしては、フィブリン糊、ヒアルロン酸、ゼラチン、コラーゲン、アルギン酸、キトサン、セルロース、ペクチン、2−ヒドロキシエチルメタクリレート誘導体及びそれの共重合体、ポリエチレンオキシド及びポリビニルアルコールからなるヒドロゲル群から選ばれた何れか1種または2種以上の複合体を使用してもよく、さらに詳しくは、ヒドロゲルとしては、フィブリン糊、ヒアルロン酸、ゼラチン、コラーゲン、アルギン酸、セルロース及びペクチンからなる群から選択された何れか1種または2種以上の複合体を使用してもよく、さらに詳しくは、フィブリン糊を使用してもよい。
【0024】
本発明の一様態において、前記フィブリン糊は、0.4乃至1.8mg/mLの濃度のフィブリノーゲンを含んでもよく、さらに詳しくは、0.9乃至1.6mg/mLの濃度のフィブリノーゲンを含んでもよい。実験結果、フィブリン糊の最終濃度が前記範囲を逸した場合、細胞が増殖し難かったり、細胞とヒドロゲルが分離されたりすることが分かった。
【0025】
本発明の一様態において、フィブリン糊は、1乃至300I.U./mLの濃度、具体的には、5乃至30I.U./mL濃度のトロンビンを含んでもよく、さらに詳しくは、10乃至15I.U./mL濃度のトロンビンを含んでもよい。前記範囲内で細胞の増殖及び細胞−ヒドロゲルの付着性の面において問題が発生しない。
【0026】
本発明の一様態において、前記段階(c)の後、間葉系幹細胞−ヒドロゲル組成物をアンプル、バイアルまたは注射器に充填する段階(d)をさらに備えてもよい。前記本発明の製造方法に従って製造された脂肪由来の間葉系幹細胞−ヒドロゲル組成物は、20乃至25ゲージのニードルを使用して即刻局所投与が可能である。
【0027】
本発明の一様態において、段階(d)で製造されたアンプル、バイアルまたは注射器に充填された間葉系幹細胞−ヒドロゲルでカウントした細胞数は、段階(c)で収得された間葉系幹細胞をカウントした細胞数の70%以上、さらに詳しくは、80%以上であってもよい。
【0028】
実験結果、従来の方法を用いる場合、注射器に充填した状態で測定した結果、細胞が約70%以上失われることが示された反面、本発明による製造方法を用いた場合、20%未満程度のみが失われることが示され、細胞損失率が従来の方法に比べて著しく低いことが分かった。
【0029】
本発明は、前記方法で製造された間葉系幹細胞−ヒドロゲル組成物を有効成分として含有する、細胞治療剤を提供する。
【0030】
本発明において用語"細胞治療剤"とは、ヒトから分離、培養及び特殊製作を通じて製造された細胞及び組織であって、治療、診断及び予防の目的として使用される医薬品を言う。特に、細胞或いは組織の機能を復元させるために生きている自己、同種、または異種細胞を体外で増殖選別したり、他の方法で細胞の生物学的特性を変化させたりする等の一連の行為を介して治療、診断及び予防の目的として使用される医薬品を称する。細胞治療剤は、細胞の分化程度に応じ、大別して体細胞治療剤、幹細胞治療剤に分類され、本発明は、さらに詳しくは、脂肪由来の幹細胞治療剤に関する。
【0031】
本発明において用語、"個体"とは、本発明による細胞治療剤の投与を通じて予防または治療できる疾患が既に発病しているか、発病する恐れのあるヒトを含んだ全ての動物を意味する。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例によってさらに詳しく説明する。ただし、下記の実施例は、本発明の理解を助けるためのものであり、本発明の権利範囲がこれに限定されるのを意図するものではない。
【0033】
実施例1.ヒト脂肪由来の間葉系幹細胞の培養方法
脂肪組織は、通常、脂肪吸引法で得られるが、これに限定されない。
【0034】
脂肪吸引によって得られた脂肪組織から次のように脂肪由来の間葉系幹細胞を分離した:血液を除去するために、脂肪組織を同体積のPBSで3〜4回洗浄した。脂肪組織と同体積のコラゲナーゼ溶液を入れ、37℃の水浴で反応させた。これを遠心分離用チューブに移し入れ、20℃、1500rpmで10分間遠心分離した。上澄み液である脂肪層を除去し、下層のコラゲナーゼ溶液を揺れないように丁寧に分離した。基質培地を入れ、懸濁させた後、20℃、1200rpmで5分間遠心分離した。この際、底に沈んでいるものがストロマ−血管分画であり、上澄み液を除去した。ストロマ−血管分画を基質培地に懸濁させて培養容器に接種し、37℃、5%CO
2インキュベータで24時間培養した。培養液の除去後、燐酸塩緩衝溶液で洗浄し、基質培地、または基質培地に塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)が1ng/mL濃度で含まれた増殖培地、または基質培地に表皮細胞成長因子(EGF)が5ng/mL濃度で含まれた培地を用いて増殖させた。脂肪由来の間葉系幹細胞が培養容器の80〜90%程度までに伸びると、トリプシン処理して単一細胞に分離し、収得した。
【0035】
実施例2.フィブリン糊ヒドロゲルの濃度決定
前記実施例1から得た脂肪由来の間葉系幹細胞5x10
5個/mLにトロンビン溶液(400〜600I.U.)を1:10、1:20、1:40の比率で添加した。フィブリノーゲン(71.5〜126.5mg/mL)は、それぞれ1:20、1:40、1:80に希釈して準備した。デュープロジェクト(Duploject)シリンジシステムを用いて12well plateの各wellにフィブリノーゲンとトロンビンが含まれた細胞懸濁液をそれぞれ500〜700uLずつ添加した。ゲルが完全に固まると、10%FBS、1ng/mL bFGFが含まれた培養培地を添加した後、37℃、5%CO
2インキュベータで5日間培養した。DMEMで3回洗浄した後、1ng/mL bFGFが含まれたDMEMを添加し、37℃、5%CO
2インキュベータで約12時間培養した。上澄み液を除去し、1mL注射器を利用して細胞−ヒドロゲルを収集した。注射器に23ゲージのニードルを連結して細胞−ヒドロゲルをディッシュに押し出した後、光学顕微鏡で観察した。
【0036】
図1aは、12wellで培養した細胞−ヒドロゲルをディッシュに移して観察した写真であって、ヒドロゲルが形成された後、培養期間の間そのまま保持された。
【0037】
図1bは、細胞−ヒドロゲルを注射器に充填したものであって、細胞−ヒドロゲルが注射器に充填された後にも、ゲルの状態をそのまま保持していることを示している。
【0038】
図1cは、細胞−ヒドロゲルが充填された注射器に23ゲージのニードルを連結した後、細胞−ヒドロゲルを注射する過程であり、
図1dは、23ゲージのニードルを通じて注射された細胞−ヒドロゲルが、相変わらずヒドロゲルの形態をそのまま保持していることが分かる。
【0039】
図2aは、それぞれの比率で製造された細胞−ヒドロゲルを注射器に充填し、23ゲージのニードルを通じてプレートに注射した後、顕微鏡で観察した写真である。フィブリン糊濃度が希釈されるほど細胞がよく増殖しており、フィブリン糊の最終濃度が0.9〜1.6mg/mLまたは0.4〜0.8mg/mLの場合、細胞がよく増殖し、細胞とフィブリン糊ヒドロゲルが好適に融和していることを示している。トロンビン濃度による有意的な相違は観察されていない。
【0040】
図2bは、それぞれの比率で製造された細胞−ヒドロゲルを注射器に充填し、37℃で24時間放置した23ゲージのニードルを通じてプレートに注射した後、顕微鏡で観察した写真である。フィブリノーゲンの最終濃度が1.8〜3.2mg/mLの場合と、0.4〜0.8mg/mLの場合、細胞とヒドロゲルがほぼ分離されているが、フィブリノーゲンの最終濃度が0.9〜1.6mg/mLであるときには、24時間まで細胞がヒドロゲル内に好適に融和されていることを示している。トロンビン濃度による有意的な相違は観察されていない。
【0041】
実施例3.細胞−ヒドロゲル培養液の製造
前記実施例1で得た脂肪由来の間葉系幹細胞5x10
5個/mLにトロンビン溶液を1:20の比率で添加し、フィブリノーゲンは1:40に希釈して準備した後、実施例2に従って培養し、洗浄した後、注射器に充填した。
【0042】
比較例1.従来の細胞治療剤の培養法を用いた製造
従来の細胞治療剤の培養法では、次のような方法を用いた:
【0043】
培養容器に脂肪由来の間葉系幹細胞を培養した後、80%ほど満たされたとき、トリプシン−イーディーティ−エー(EDTA)を添加して単一細胞に分離した後、牛胎児血清が含まれたDMEMで酵素を不活性化させ、遠心分離用チューブに集めた後、1,500rpmで遠心分離した。上澄み液を除去した後、牛胎児血清を除去するためにDMEMを添加して細胞を懸濁した後、再び1,500rpmで遠心分離し、上澄み液を除去した。総3回洗浄し、最後の段階で細胞を適正の体積の細胞懸濁剤で懸濁した後、バイアルに充填した。充填された細胞は、23ゲージのニードルが連結された1mLの注射器に移し入れた。
【0044】
実験例1.細胞回収率の測定試験
前記実施例3の各段階で細胞−ヒドロゲルにトリプルエクスプレス酵素を添加してフィブリン糊を溶かした後、細胞数を測定した。同様に、比較例1の各段階において細胞数を測定した。
【0045】
図3aは、既存の製造方法(比較例1)に従って細胞治療剤を製造したとき、各段階での細胞回収率を最初の収集段階(トリプシン−イーディーティ−エー不活性化)と比べて示したグラフであって、各段階別に10〜25%ずつ減少しており、最終的に注射器に充填した以後には、最初の収集段階に比べて約30%の細胞のみ回収された。
【0046】
図3bは、本発明の製造方法(実施例3)に従って製造したとき、各段階での細胞回収率を最初の収集段階(培養完了後)と比べて示したグラフであって、各段階別に1〜5%の細胞が減少しており、最終の注射器充填の段階までに80%以上の細胞が回収された。
【0047】
実験例2.細胞−ヒドロゲルで培養した細胞の生存率及び細胞の形態
前記実施例3に従ってヒドロゲルで培養して1mLの注射器に充填した後、常温で保管し、0、24、48時間及び7日後に細胞の生存率をアクリジンオレンジ−エチジウムブロマイド(Acridin Orange/Etidium Bromide)で染色して測定した。対照群としては、前記実施例3において既存の方法に従って製造してバイアルに充填した細胞を利用した。
【0048】
図4に示されたように、既存の方法で製造してバイアルに充填された細胞は、0時間には95%以上の高い生存率を保持したが、24時間目には細胞が死滅することで、細胞膜が破壊されて細胞の形態を保持することができなかったり、固まったりし、72時間目にはほぼ全ての細胞が死滅して観察されなかった。その一方、細胞−ヒドロゲルで培養した細胞は、7日目まで細胞が生存しており、線維芽細胞の形態をそのまま保持していた。
【0049】
実験例3.細胞−ヒドロゲルに含まれた細胞外基質
前記実施例3に従ってヒドロゲルで培養して1mLの注射器に充填された細胞−ヒドロゲルを酵素処理して溶かした後、コラーゲンタイプIの量を酵素結合免疫吸収分析法(ELISA)を用いて分析した。対照群としては、前記実施例3の既存の方法に従って培養した後、1mLの注射器に充填された細胞懸濁液を利用した。
【0050】
図5に示されたように、既存の細胞治療剤の製造方法に従って培養した細胞懸濁液には、コラーゲンがほとんど含まれていなかったが、細胞−ヒドロゲルには、3ug/mL以上のコラーゲンが含まれている。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明による脂肪由来の間葉系幹細胞−ヒドロゲルを含有する組成物は、細胞をヒドロゲル内で培養した後、洗浄して即刻注射器に充填して使用することで、最終の移植細胞の準備過程で酵素処理が不要であり、遠心分離法等を用いる洗浄段階を経ることなく、ヒドロゲルの状態で洗浄することになるため、細胞の損失がほとんど無く、ヒドロゲル孔(pore)内に生理活性物質が固着されており、個体に投与した直後から治療効果を奏するようになるため、産業上非常に有用である。