特許第6452919号(P6452919)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6452919
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】接着シート、及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/30 20180101AFI20190107BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20190107BHJP
   C09J 183/08 20060101ALI20190107BHJP
   C09J 201/10 20060101ALI20190107BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20190107BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20190107BHJP
【FI】
   C09J7/30
   C09J7/38
   C09J183/08
   C09J201/10
   C09J201/00
   B32B27/00 M
【請求項の数】12
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-549991(P2018-549991)
(86)(22)【出願日】2018年3月28日
(86)【国際出願番号】JP2018012849
【審査請求日】2018年10月12日
(31)【優先権主張番号】特願2017-66678(P2017-66678)
(32)【優先日】2017年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108419
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 治仁
(72)【発明者】
【氏名】上村 和恵
(72)【発明者】
【氏名】中山 秀一
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/064574(WO,A1)
【文献】 特開平07−082533(JP,A)
【文献】 特開平11−189751(JP,A)
【文献】 特開2016−117243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
B32B
C09D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着性樹脂(P)を含む粘着剤層上に、
アミノ基、アジド基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性基(Zα)と、シラノール基、及び加水分解反応によりシラノール基を生成させる基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性基(Zβ)とを有する分子接着剤を含む分子接着剤層が直接積層されてなる接着シートであって、
前記粘着性樹脂(P)は、前記分子接着剤の反応性基(Zα)と化学結合を形成し得る反応性部分構造(Zγ)を有し、
前記粘着剤層の23℃における剪断貯蔵弾性率は、0.10〜3.30MPaであり、 前記粘着剤層の厚さは、0.1〜100μmである接着シート。
【請求項2】
前記分子接着剤層は、前記分子接着剤が有する反応性基(Zα)と前記粘着性樹脂(P)が有する反応性部分構造(Zγ)との化学結合により、前記分子接着剤が、前記粘着剤層に化学的に固定されてなるものであることを特徴とする、請求項1に記載の接着シート。
【請求項3】
前記分子接着剤が有する反応性基(Zα)が、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種であって、
前記粘着性樹脂(P)が有する反応性部分構造(Zγ)が、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、及びアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の接着シート。
【請求項4】
前記分子接着剤が有する反応性基(Zα)が、アジド基であって、
前記粘着性樹脂(P)が有する反応性部分構造(Zγ)が、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合、及び炭素−水素単結合からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の接着シート。
【請求項5】
前記粘着剤層が、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理、電子線処理、オゾン処理、エキシマ紫外線処理、酸処理、及び塩基処理からなる群から選ばれる表面処理が施されていないものである、請求項1〜4のいずれかに記載の接着シート。
【請求項6】
前記分子接着剤が、下記式(1)で示される化合物である、請求項1〜5のいずれかに記載の接着シート。
【化1】
(Rは、アミノ基、アジド基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる反応性基(Zα)、又は、これらの反応性基を1以上有する1価の基(ただし、アミノ基、アジド基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基を除く。)を表し、Aは2価の有機基を表し、Xは、ヒドロキシ基、炭素数1〜10のアルコキシ基又はハロゲン原子を表し、Yは、炭素数1〜20の炭化水素基を表す。aは、1〜3の整数を表す。)
【請求項7】
前記分子接着剤層の厚さが、200nm以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の接着シート。
【請求項8】
前記粘着剤層の片側のみに、分子接着剤層を有するものである、請求項1〜7のいずれかに記載の接着シート。
【請求項9】
前記粘着剤層の両側に、分子接着剤層を有するものである、請求項1〜7のいずれかに記載の接着シート。
【請求項10】
さらに支持体を有する、請求項1〜9のいずれかに記載の接着シート。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の接着シートの分子接着剤層を被着体に圧着することを特徴とする、粘着剤層/分子接着剤層/被着体の層構造を有する積層体の製造方法。
【請求項12】
圧着する際の温度Tが、−20〜140℃である請求項11に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子接着剤層(分子接着剤を用いて形成された層をいう。以下同じ)を有し、常温(20〜25℃、以下同じ)であっても被着体に容易に貼着できる接着シート、及びこの接着シートを用いる積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2種以上の反応性基を有する化合物は、それぞれの反応性基の特性を利用して、2種以上の化学結合を形成し得ることから、分子接着剤として有用である。
分子接着剤を用いた例としては、例えば、特許文献1には、2つの基板の間に、エントロピー弾性分子接着層を形成してなる積層体であって、該エントロピー弾性分子接着層が、エントロピー弾性体層及び分子接着剤層からなることを特徴とするものが記載されている。
特許文献1には、積層体の製造方法として、基板1上に分子接着剤層1を形成し、該分子接着剤層1上にエントロピー弾性体層1を積層し、該エントロピー弾性体層1上にさらに分子接着剤層2を積層し、さらに、基板2を積層して積層体を形成する方法(積み上げ方式)が記載されている。
また、特許文献2には、固体表面に分子接着剤を反応させ、反応性固体表面を形成し、樹脂との溶融接着により材料間を共有結合で結ぶことを特徴とする樹脂複合体の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2009/154083号(US2011/0104505 A1)
【特許文献2】特開2010−254793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、分子接着剤を用いる接合方法は、温度、湿度等の環境依存性が低く、かつ、対象物を強固に接合し得ることから注目されている。
しかしながら、分子接着剤層の厚さは従来の接着剤層や粘着剤層と比べて極めて薄いものであるため、分子接着剤を用いる接合方法は対象物の表面の凹凸の影響を受けやすく、対象物を十分に接合することができない場合があった。
【0005】
この点に関して、特許文献1には、エントロピー弾性体層を設けることで、表面粗度の大きい基板への接着性の改善が図られると記載されている。
しかしながら、特許文献1の実施例で開示する積み上げ方式の例は、基板2をめっき法により形成するもののみであり、基板1、分子接着剤層1、エントロピー弾性体層1及び分子接着剤層2からなる積層体を接着シートとして使用する態様は、具体的には開示されていない。
【0006】
また、特許文献2においては、樹脂を溶融することで、樹脂と反応性固体表面とを密着させ、分子接着剤の性能が十分に発揮されることが記載されている。
しかしながら、この方法を用いることができるのは被着体が樹脂である場合に限られる。また、この方法においては、被着面だけでなくその他の部分も熱変形するおそれがあるため、これを防ぐために特別に条件検討をする必要がある。
したがって、分子接着剤層を有し、かつ、常温であっても被着体に容易に貼着できる接着シートが要望されていた。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、分子接着剤層を有し、かつ、常温であっても被着体に容易に貼着できる接着シート、及びこの接着シートを用いる積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく、分子接着剤層を有する接着シートについて鋭意検討した。その結果、特定の粘着剤層上に、分子接着剤層を直接積層することで、常温であっても被着体に容易に貼着できる接着シートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして本発明によれば、下記(1)〜(10)の接着シート、及び(11)、(12)の積層体の製造方法が提供される。
【0010】
(1)粘着性樹脂(P)を含む粘着剤層上に、アミノ基、アジド基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性基(Zα)と、シラノール基、及び加水分解反応によりシラノール基を生成させる基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性基(Zβ)とを有する分子接着剤を含む分子接着剤層が直接積層されてなる接着シートであって、前記粘着性樹脂(P)は、前記分子接着剤の反応性基(Zα)と化学結合を形成し得る反応性部分構造(Zγ)を有し、前記粘着剤層の23℃における剪断貯蔵弾性率は、0.10〜3.30MPaであり、前記粘着剤層の厚さは、0.1〜100μmである接着シート。
(2)前記分子接着剤層は、前記分子接着剤が有する反応性基(Zα)と前記粘着性樹脂(P)が有する反応性部分構造(Zγ)との化学結合により、前記分子接着剤が、前記粘着剤層に化学的に固定されてなるものであることを特徴とする(1)に記載の接着シート。
(3)前記分子接着剤が有する反応性基(Zα)が、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種であって、前記粘着性樹脂(P)が有する反応性部分構造(Zγ)が、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、及びアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種である、(1)又は(2)に記載の接着シート。
(4)前記分子接着剤が有する反応性基(Zα)が、アジド基であって、前記粘着性樹脂(P)が有する反応性部分構造(Zγ)が、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合、及び炭素−水素単結合からなる群から選ばれる少なくとも1種である、(1)又は(2)に記載の接着シート。
(5)前記粘着剤層が、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理、電子線処理、オゾン処理、エキシマ紫外線処理、酸処理、及び塩基処理からなる群から選ばれる表面処理が施されていないものである、(1)〜(4)のいずれかに記載の接着シート。
(6)前記分子接着剤が、下記式(1)で示される化合物である、(1)〜(5)のいずれかに記載の接着シート。
【0011】
【化1】
【0012】
(Rは、アミノ基、アジド基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる反応性基(Zα)、又は、これらの反応性基を1以上有する1価の基(ただし、アミノ基、アジド基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基を除く。)を表し、Aは2価の有機基を表し、Xは、ヒドロキシ基、炭素数1〜10のアルコキシ基又はハロゲン原子を表し、Yは、炭素数1〜20の炭化水素基を表す。aは、1〜3の整数を表す。)
(7)前記分子接着剤層の厚さが、200nm以下である、(1)〜(6)のいずれかに記載の接着シート。
(8)前記粘着剤層の片側のみに、分子接着剤層を有するものである、(1)〜(7)のいずれかに記載の接着シート。
(9)前記粘着剤層の両側に、分子接着剤層を有するものである、(1)〜(7)のいずれかに記載の接着シート。
(10)さらに支持体を有する、(1)〜(9)のいずれかに記載の接着シート。
(11)前記(1)〜(10)のいずれかに記載の接着シートの分子接着剤層を被着体に圧着することを特徴とする、粘着剤層/分子接着剤層/被着体の層構造を有する積層体の製造方法。
(12)圧着する際の温度Tが、−20〜140℃である(11)に記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、分子接着剤層を有し、かつ、常温であっても被着体に容易に貼着できる接着シート、及びこの接着シートを用いる積層体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を、1)接着シート、及び、2)積層体の製造方法、に項分けして詳細に説明する。
【0015】
1)接着シート
本発明の接着シートは、粘着性樹脂(P)を含む粘着剤層上に、アミノ基、アジド基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性基(Zα)と、シラノール基、及び加水分解反応によりシラノール基を生成させる基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性基(Zβ)とを有する分子接着剤を含む分子接着剤層が直接積層されてなるものである。
前記粘着性樹脂(P)は、前記分子接着剤の反応性基(Zα)と化学結合を形成し得る反応性部分構造(Zγ)を有する。
前記粘着剤層の23℃における剪断貯蔵弾性率は、0.10〜3.30MPaであり、前記粘着剤層の厚さは、0.1〜100μmである。
本発明において、「分子接着剤を含む分子接着剤層」の「分子接着剤を含む」とは、「分子接着剤及び/又は分子接着剤由来の化合物(例えば、反応を経て、反応性基の構造が変化した化合物)を含む」を意味するものである。
また、「粘着性樹脂(P)は、前記分子接着剤の反応性基(Zα)と化学結合を形成し得る反応性部分構造(Zγ)を有する」とは、粘着剤層上に分子接着剤層が形成される前の状態を表したものである。分子接着剤層が形成された後の粘着剤層においては、粘着性樹脂(P)は、反応性部分構造(Zγ)及び/又は反応性部分構造(Zγ)由来の構造を有する。
【0016】
〔粘着剤層〕
本発明の接着シートを構成する粘着剤層は、粘着性樹脂(P)を含有する層である。
本発明の接着シートにおいて、粘着剤層は、分子接着剤を固定する役割、及び、接着シートを使用する際に、分子接着剤層と被着体との密着性を高める役割を担う。
粘着剤層は、少なくとも被着体と貼着する際に粘着性を有するものであればよい。したがって、粘着剤層には、常温で粘着性を有するもののほか、加熱することで粘着性を発現するもの(いわゆるヒートシール性の粘着剤層)も含まれるが、常温で粘着性を有するものが特に好ましい。
【0017】
粘着性樹脂(P)は、前記分子接着剤の反応性基(Zα)と化学結合を形成し得る反応性部分構造(Zγ)を有する。
粘着性樹脂(P)が反応性部分構造(Zγ)を有することで、分子接着剤層を効率よく形成することができる。
【0018】
粘着性樹脂(P)が有する反応性部分構造(Zγ)としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、アミノ基、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合、炭素−水素単結合等が挙げられる。これらは、分子接着剤中の反応性基(Zα)に合わせて適宜選択することができる。
例えば、前記分子接着剤が有する反応性基(Zα)が、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種である場合、反応性部分構造(Zγ)としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、及びアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
また、前記分子接着剤が有する反応性基(Zα)が、アジド基である場合、反応性部分構造(Zγ)としては、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合、及び炭素−水素単結合からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0019】
粘着性樹脂(P)を含有する粘着剤を用いることで、常温下においても被着体と分子接着剤層との接着性を向上させることができる。
【0020】
粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等が挙げられる。
これらの中でも、剪断貯蔵弾性率を容易に調整でき、常温下においても被着体との接着性に優れる接着シートが得られ易いことから、アクリル系粘着剤が好ましい。また、水蒸気透過性が低い粘着剤層を形成することができ、封止材等として特に有用な接着シートが得られ易いことから、ゴム系粘着剤が好ましい。
【0021】
アクリル系粘着剤は、アクリル系重合体を主成分とする粘着剤である。
アクリル系重合体とは、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸エステル由来の繰り返し単位を有する重合体である。
「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味し、「(メタ)アクリル酸エステル」とは、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルを意味する。
また、アクリル系重合体は、本発明の効果を阻害しない限り、上記以外の繰り返し単位を有するものであってもよい。
【0022】
アクリル系粘着剤に含まれる、ヒドロキシ基、カルボキシ基、炭素−炭素二重結合等の反応性部分構造(Zγ)を有する粘着性樹脂(P)としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、炭素−炭素二重結合等の官能基を有するアクリル系重合体(以下、「官能基含有アクリル系重合体」ということがある。)が挙げられる。
官能基含有アクリル系重合体は、官能基含有アクリル系単量体を用いて重合反応を行うことで得ることができる。
【0023】
官能基含有アクリル系単量体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基を有するアクリル系単量体;(メタ)アクリル酸、2−カルボキシエチル(メタ)アクリレート等のカルボキシ基を有するアクリル系単量体;ビニル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の側鎖に炭素−炭素二重結合を有するアクリル系単量体;等が挙げられる。
これらは1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
官能基含有アクリル系重合体を合成する際は、官能基を有しないアクリル系単量体や、アクリル系単量体と共重合可能なその他の単量体を併用してもよい。
官能基を有しないアクリル系単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート等のアルキル基を有するアクリル系単量体;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル基を有するアクリル系単量体;等が挙げられる。
これらのなかでも、粘着性により優れる粘着剤層を形成し得ることから、官能基を有しないアクリル系単量体としては、炭素数4〜10の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、ブチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0025】
アクリル系単量体と共重合可能なその他の単量体としては、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等のカルボキシ基を有する単量体;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のアミド基を有する単量体;アクリロニトリル;スチレン;酢酸ビニル;ビニルピロリドン等が挙げられる。
これらの単量体は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
官能基含有アクリル系重合体を製造する方法は特に制限されず、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法等の従来公知の方法を用いることができる。なかでも、重合が容易である点で溶液重合が望ましい。
重合反応に用いる開始剤は特に制限されず、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド等の過酸化物系開始剤、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシアノバレリン酸、アゾビスシアノペンタン等のアゾ系開始剤等が挙げられる。
【0027】
溶液重合反応に用いる溶媒は特に制限されず、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール等が挙げられる。
重合反応の温度や反応時間等の反応条件は、公知の条件を採用することができる。
【0028】
官能基含有アクリル系重合体の質量平均分子量(Mw)は、通常、100,000〜1,000,000、好ましくは、300,000〜900,000である。
質量平均分子量(Mw)は、重合開始剤の量や連鎖移動剤を添加することによって調節することができる。
官能基含有アクリル系重合体の質量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフランを溶媒として用いてゲルパーミエーションクロマトグラフィーを行い、標準ポリスチレン換算値として求めることができる。
官能基含有アクリル系重合体中の、官能基を有する単量体由来の繰り返し単位の割合は、全繰り返し単位に対して、通常1〜40質量%、好ましくは3〜15質量%である。
【0029】
官能基含有アクリル系重合体は、アクリル系重合体に対して変性処理を施すことにより、ヒドロキシ基、カルボキシ基等の官能基を導入するという方法によっても得ることができる。
【0030】
アクリル系粘着剤は、架橋剤を含有してもよい。架橋剤とは、上記の官能基と反応して架橋構造を形成する化合物である。架橋剤を用いる場合、用いる架橋剤に特に制限はなく、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤等が挙げられる。
【0031】
イソシアネート系架橋剤としては、特に限定されず、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物が用いられる。このようなイソシアネート系架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート;、及びそれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体;等が挙げられる。
【0032】
エポキシ系架橋剤としては、分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物が用いられる。エポキシ系架橋剤としては、例えば、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、N,N−ジグリシジルアニリン、エチレングリコールジグリシジルエーテル等の2官能エポキシ化合物;トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、[4−(グリシジルオキシ)フェニル]ジグリシジルアミン等の3官能エポキシ化合物;ソルビトールテトラグリシジルエーテル、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(ジグリシジジルアミノメチル)シクロヘキサン等の4官能エポキシ化合物;等が挙げられる。
架橋剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
架橋剤の使用量は、架橋剤の種類にもよるが、官能基含有アクリル系重合体100質量部に対し、通常0.01〜10質量部、好ましくは、0.05〜5質量部である。
【0034】
なお、上記のように、反応性基(Zα)がアジド基である場合は、反応性部分構造(Zγ)として、炭素−炭素単結合、炭素−水素単結合等を利用することができる。したがって、この場合は粘着性樹脂(P)として、官能基含有アクリル系単量体を使用しないで得られたアクリル系重合体を使用することができる。
【0035】
ゴム系粘着剤は、ゴム系樹脂を含有する粘着剤である。
ゴム系樹脂としては、例えば、天然ゴム、天然ゴムに(メタ)アクリル酸アルキルエステル、スチレン、(メタ)アクリロニトリルから選ばれる1種又は2種以上の単量体をグラフト重合させた変性天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、メタクリル酸メチル−ブタジエン共重合体、ウレタンゴム、ポリイソブチレン系樹脂、ポリブテン系樹脂等が挙げられる。
これらのゴム系化合物は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらのゴム系化合物は、通常、炭素−炭素二重結合を有する。この炭素−炭素二重結合は、反応性部分構造(Zγ)として機能し得るものである。
これらのゴム系化合物は、市販品を用いてもよい。
かかる市販品としては、イソブチレンとイソプレンの共重合体(Exxon Butyl 268(日本ブチル株式会社製))が挙げられる。
【0036】
また、これらのゴム系化合物に変性処理を施すことにより、ヒドロキシ基、カルボキシ基等の官能基を導入してもよい。
変性処理を施したゴム系化合物としては、無水マレイン酸変性ポリイソブチレン、無水フタル酸変性ポリイソブチレン、無水マレイン酸変性ポリイソプレン、ヒドロキシ基変性ポリイソプレン、アリル変性ポリイソプレン、無水マレイン酸変性ポリブタジエン、ヒドロキシ基変性ポリブタジエン等が挙げられる。
変性処理は公知の方法に従って行うことができる。
【0037】
変性処理を施したゴム系化合物としては、市販品を用いてもよい。
かかる市販品としては、無水マレイン酸変性ポリイソブチレン(HV−100M、HV−300M(以上、新日本石油株式会社製))、無水マレイン酸変性ポリイソプレン(クラプレンLIR−403、LIR−410(以上、株式会社クラレ製))、ヒドロキシ基変性ポリイソプレン(クラプレンLIR−506(株式会社クラレ製))、アリル変性ポリイソプレン(クラプレンUC−203、UC−102(以上、株式会社クラレ製))、無水マレイン酸変性ブタジエン(Ricon130MA8、Ricon131MA5(以上、クレイバレー社製))、無水マレイン酸変性ブタジエン−スチレン共重合ポリマー(Ricon184MA6(クレイバレー社製))、エポキシ変性ポリブタジエン(Ricon657(クレイバレー社製))等が挙げられる。
【0038】
ゴム系粘着剤としては、水蒸気透過性が低い粘着剤層を形成することができ、封止材等として特に有用な接着シートが得られ易いことから、ポリイソブチレン系樹脂を含むことが好ましい。
【0039】
ポリイソブチレン系樹脂は、主鎖及び/又は側鎖に、イソブチレン由来の繰り返し単位を有する重合体をいう。イソブチレン由来の繰り返し単位の量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70〜99質量%がさらに好ましい。
ポリイソブチレン系樹脂としては、イソブチレンの単独重合体(ポリイソブチレン)、イソブチレンとイソプレンの共重合体(ブチルゴム)、イソブチレンとn−ブテンの共重合体、イソブチレンとブタジエンの共重合体、及びこれら重合体を臭素化又は塩素化して得られるハロゲン化重合体等のイソブチレン系重合体、等が挙げられる。これらの中でも、イソブチレンとイソプレンの共重合体(ブチルゴム)が好ましい。
ポリイソブチレン系樹脂は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
ゴム系樹脂の質量平均分子量(Mw)は、10,000〜3,000,000が好ましく、100,000〜2,000,000がより好ましく、200,000〜500,000がさらに好ましい。質量平均分子量(Mw)がこの範囲であれば、水蒸気透過率が低く、目的の剪断貯蔵弾性率を有する粘着剤層を効率よく形成することができる。
また、2種以上のゴム系樹脂を用いる場合、質量平均分子量(Mw)が10,000未満のゴム系樹脂の含有割合が、ゴム系樹脂全体の10質量%以下であることが好ましく、含まないことがより好ましい。質量平均分子量(Mw)が10,000未満のゴム系樹脂の含有割合をゴム系樹脂全体の10質量%以下とすることで、低分子成分のブリードによる接着力の低下を抑制できる。
ゴム系樹脂の質量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフランを溶媒として用いてゲルパーミエーションクロマトグラフィーを行い、標準ポリスチレン換算値として求めることができる。
【0041】
ゴム系粘着剤は、架橋剤を含有してもよい。架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤等が挙げられる。これらの中でも、ゴム系粘着剤における架橋剤としては、エポキシ系架橋剤が好ましい
【0042】
イソシアネート系架橋剤、及びエポキシ系架橋剤としては、アクリル系粘着剤中の架橋剤として示したものと同様のものが挙げられる。
アジリジン系架橋剤はとしては、ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカーボキサミド)、トリメチロールプロパントリ−β−アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタントリ−β−アジリジニルプロピオネート、トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカーボキサミド)、トリエチレンメラミン、ビスイソフタロイル−1−(2−メチルアジリジン)、トリス−1−(2−メチルアジリジン)フォスフィン、トリメチロールプロパントリ−β−(2−メチルアジリジン)プロピオネート等が挙げられる。
【0043】
金属キレート系架橋剤としては、金属原子がアルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛、鉄、スズ等であるキレート化合物が挙げられ、なかでも、アルミニウムキレート化合物が好ましい。
アルミニウムキレート化合物としては、ジイソプロポキシアルミニウムモノオレイルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムビスオレイルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムモノオレエートモノエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノラウリルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノステアリルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノイソステアリルアセトアセテート等が挙げられる。
【0044】
これらの架橋剤は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの架橋剤を用いて架橋構造を形成する場合、その使用量は、架橋剤の架橋性基(金属キレート系架橋剤の場合は、金属キレート系架橋剤)が、ゴム系樹脂のヒドロキシ基及びカルボキシ基に対して、0.1〜5当量となる量が好ましく、0.2〜3当量となる量がより好ましい。
【0045】
前記アクリル系粘着剤やゴム系粘着剤は、粘着付与剤を含有してもよい。粘着付与剤は、粘着剤層の粘着性を向上させる化合物である。粘着付与剤を含有する粘着剤を用いることで、水分遮断性及び粘着力により優れる接着シートが得られ易くなる。
粘着付与剤としては、例えば、脂環族系石油樹脂、脂肪族系石油樹脂、テルペン樹脂、エステル系樹脂、クマロン−インデン樹脂、ロジン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ブチラール樹脂、オレフィン樹脂、塩素化オレフィン樹脂、酢酸ビニル樹脂、及びこれらの変性樹脂又は水素添加された樹脂等が挙げられる。これらの中でも、脂肪族系石油樹脂、テルペン樹脂、ロジンエステル系樹脂、ロジン系樹脂等が好ましい。
粘着付与剤は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
粘着付与剤の質量平均分子量(Mw)は、好ましくは、100〜10,000、より好ましくは500〜7,000、特に好ましくは1,000〜5,000である。
粘着付与剤の軟化点は、好ましくは、50〜160℃、より好ましくは60〜140℃、さらに好ましくは70〜130℃である。
【0047】
また、粘着付与剤として、市販品をそのまま使用することもできる。例えば、市販品としては、エスコレッツ1000シリーズ(エクソン化学社製)、クイントンA、B、R、CXシリーズ(日本ゼオン社製)等の脂肪族系石油樹脂;アルコンP、Mシリーズ(荒川化学社製)、ESCOREZシリーズ(エクソン・ケミカル社製)、EASTOTACシリーズ(イーストマン・ケミカル社製)、IMARVシリーズ(出光興産社製)等の脂環族系石油樹脂;YSレジンP、Aシリーズ(安原油脂社製)、クリアロンPシリーズ(ヤスハラ・ケミカル製)、ピコライトA、Cシリーズ(ハーキュレス社製)等のテルペン系樹脂;フォーラルシリーズ(ハーキュレス社製)、ペンセルAシリーズ、エステルガム、スーパー・エステル、パインクリスタル(荒川化学工業社製)等のエステル系樹脂;等が挙げられる。
【0048】
粘着剤が粘着付与剤を含有する場合、粘着付与剤の含有量は、粘着剤の固形分全体に対して、0.1〜60質量%が好ましく、1〜50質量%がより好ましく、5〜35質量%が特に好ましい。
【0049】
前記アクリル系粘着剤やゴム系粘着剤は、各種添加剤を含有してもよい。添加剤としては、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、着色剤、樹脂安定剤、充てん剤、顔料、増量剤、帯電防止剤、シランカカップリング剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
粘着剤層の形成方法は特に限定されず、公知の粘着剤層の形成方法を利用することができる。
例えば、用いる粘着剤を適当な有機溶媒で希釈して塗布液を調製し、これを、支持体、工程シート、剥離シート等の表面に塗布し、得られた塗膜に対して乾燥処理や硬化処理を施すことにより、粘着剤層を形成することができる。
粘着剤層の形成方法としては、浸漬法、塗布法、噴霧法等が挙げられるが、これらの中でも、生産性の観点から塗布法が好ましい。塗布方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ディップコート法、カーテンコート法、ダイコート法、グラビアコート法等が挙げられるが、バーコート法、ロールナイフコート法、グラビアコート法が好ましい。
【0051】
粘着剤層中の粘着性樹脂(P)の含有量は、粘着剤層全体を基準として、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、50質量%以上95質量%以下であることが更に好ましい。
【0052】
粘着剤層の23℃における剪断貯蔵弾性率は、0.10〜3.30MPaであり、0.13〜2.00MPaが好ましく、0.16〜1.00MPaがより好ましく、0.19〜0.40が特に好ましい。
23℃における剪断貯蔵弾性率が0.10MPa未満のときは、粘着剤層の凝集力が下がり、粘着剤層の形状が保たれないという問題が生じる。また3.30MPaを超えると、粘着剤層が硬くなるため被着体への追従性が低下する結果、接着性に劣る接着シートになる傾向がある。
23℃における剪断貯蔵弾性率は、実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0053】
粘着剤層の厚さは、0.1〜100μmであり、0.5〜75μmが好ましく、1〜50μmがより好ましく、5〜25μmが更に好ましく、10〜20μmが特に好ましい。
粘着剤層の厚さが0.1μm未満のときは、弾性体として機能することが困難であり、常温下においても被着体と分子接着剤層との接着性を維持できない。また100μmを超えると、生産性が落ちることに加え、封止材として用いた場合は端部からの水蒸気の入り込みを抑制することが困難である。
【0054】
粘着剤層は、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理、電子線処理、オゾン処理、エキシマ紫外線処理、酸処理、及び塩基処理からなる群から選ばれる表面処理が施されていないものが好ましい。
従来、分子接着剤を使用する際、接着面に樹脂成分を含む被着体に対してこれらの処理を施すことがあった。これらの処理を施すことで、被着体中の樹脂にヒドロキシ基やカルボキシ基等が生じるため、分子接着剤の性能がより高められる。
しかしながら、本発明の接着シートの粘着剤層においては、これらの表面処理は、剪断貯蔵弾性率を変化させたり、その粘着性を大きく低下させたりするおそれがある。
したがって、粘着剤層は、上記の表面処理が施されていないものが好ましい。
【0055】
〔分子接着剤層〕
本発明の接着シートを構成する分子接着剤層は、アミノ基、アジド基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性基(Zα)と、シラノール基、及び加水分解反応によりシラノール基を生成させる基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性基(Zβ)とを有する分子接着剤を含むものである。
【0056】
分子接着剤中の反応性基(Zα)は、粘着剤層中の粘着性樹脂(P)の反応性部分構造(Zγ)と化学結合を形成し得るものである。
本発明の接着シートにおいては、この化学結合により、分子接着剤は粘着剤層表面に化学的に固定されると考えられる。このときの化学結合としては、共有結合、水素結合、イオン結合、分子間力等が挙げられるが、共有結合が好ましい。
【0057】
加水分解反応によりシラノール基を生成させる基としては、Si−Xで表される部分構造を有する基が挙げられる。Xとしては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;等の加水分解性基が挙げられる。
【0058】
分子接着剤中の反応性基(Zβ)は、主に、本発明の接着シートを被着体に接着する際に、被着体との間で化学結合を形成する際に利用される。したがって、本発明の接着シートは、これらの基との反応性が高い基を表面に有する被着体に対して好ましく用いられる。
【0059】
分子接着剤としては、下記式(1)で示される化合物が挙げられる。
【0060】
【化2】
【0061】
(Rは、反応性基(Zα)、又は、反応性基(Zα)を1以上有する1価の基(ただし、反応性基(Zα)そのものを除く。)を表し、Aは2価の有機基を表し、Xは、ヒドロキシ基、炭素数1〜10のアルコキシ基又はハロゲン原子を表し、Yは、炭素数1〜20の炭化水素基を表す。aは、1〜3の整数を表す。)
【0062】
の反応性基(Zα)を1以上有する1価の基としては、例えば、下記式(2)〜(4)で表される基が挙げられる。
【0063】
【化3】
【0064】
式(2)〜(4)中、*は、Aとの結合手を表す。
は、炭素数1〜10の2価の炭化水素基、好ましくは炭素数2〜6の2価の炭化水素基を表す。Rの2価の炭化水素基としては、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基等のアルキレン基;o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基等のアリーレン基;が挙げられる。
【0065】
、Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜20の炭化水素基、好ましくは炭素数1〜10の炭化水素基を表す。
、Rの炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等のアルキル基;ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基、3−ブテニル基、4−ペンテニル基、5−ヘキセニル基等のアルケニル基;エチニル基、プロパルギル基、ブチニル基等のアルキニル基;フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等のアリール基;等が挙げられる。
【0066】
Zは、単結合、又は、−N(R)−、で表される2価の基を表す。Rは、水素原子、又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。Rの炭化水素基としては、R、Rの炭化水素基として示したものと同様のものが挙げられる。
、Rは、それぞれ独立に、反応性基(Zα)又は前記式(2)で示される基を表す。
【0067】
Aの2価の有機基としては、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニレン基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニレン基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリーレン基;等が挙げられる。
【0068】
Aの炭素数1〜20のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。
Aの炭素数2〜20のアルケニレン基としては、ビニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基、ペンテニレン基等が挙げられる。
Aの炭素数2〜20のアルキニレン基としては、エチニレン基、プロピニレン基等が挙げられる。
Aの炭素数6〜20のアリーレン基としては、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、2,6−ナフチレン基、1,5−ナフチレン基等が挙げられる。
【0069】
前記アルキレン基、アルケニレン基、及びアルキニレン基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基等のアルキルチオ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;等が挙げられる。
【0070】
前記アリーレン基の置換基としては、シアノ基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基等のアルキルチオ基;等が挙げられる。
これらの置換基は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基及びアリーレン基等の基において任意の位置に結合していてよく、同一若しくは相異なって複数個が結合していてもよい。
【0071】
Xの炭素数1〜10のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。
Xのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
Yの炭素数1〜20の炭化水素基としては、R、Rの炭化水素基として示したものと同様のものが挙げられる。
【0072】
がアミノ基である分子接着剤としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、[3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、[3−(フェニルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、トリメチル[3−(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリド、トリメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0073】
がアジド基である分子接着剤としては、(11−アジドウンデシル)トリメトキシシラン、(11−アジドウンデシル)トリエトキシシラン等が挙げられる。
【0074】
がメルカプト基である分子接着剤としては、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン等が挙げられる。
【0075】
がイソシアネート基である分子接着剤としては、3−(トリメトキシシリル)プロピルイソシアネート、3−(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネート等が挙げられる。
【0076】
がウレイド基である分子接着剤としては、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0077】
がエポキシ基である分子接着剤としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0078】
が反応性基(Zα)を1以上有する1価の基である分子接着剤としては、例えば、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメトキシメチルシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、下記式(5)〜(13)で示される化合物が挙げられる。
【0079】
【化4】
【0080】
これらの化合物の中で、式(1)で示される化合物としては、Rが式(4)で示される基である化合物が好ましく、式(5)〜(13)で示される化合物がより好ましく、式(5)〜(10)で示される化合物がさらに好ましい。
これらの化合物は、Rにトリアジン環を有する。トリアジン環を有する分子接着剤は、粘着剤層上により効率よく固定される傾向がある。
【0081】
これらの分子接着剤の多くは、シランカップリング剤として公知の化合物である。また、Rが式(4)で示される基である化合物は、WO2012/046651号、WO2012/043631号、WO2013/186941号等に記載の方法に従って合成することができる。
【0082】
用いる分子接着剤は、その反応性基(Zα)と、樹脂(P)の反応性部分構造(Zγ)との組み合わせを考慮して、適宜選択することができる。
例えば、反応性基(Zα)が、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種である場合、反応性部分構造(Zγ)としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、及びアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
なかでも反応性基(Zα)と反応性部分構造(Zγ)の好ましい組み合わせ〔反応性基(Zα)/反応性部分構造(Zγ)〕としては、(アミノ基/ヒドロキシ基)、(アミノ基/カルボキシ基)、(イソシアネート基/ヒドロキシ基)、(イソシアネート基/カルボキシ基)、(ヒドロキシ基/カルボキシ基)等が挙げられる。
【0083】
また、分子接着剤が、反応性基(Zα)としてアジド基を有するものである場合、後述するように光が照射されることによりアジド基が活性化される。この場合、反応中間体であるナイトレンは炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合、炭素−水素単結合と反応し得るため、アジド基を有する分子接着剤を用いる場合、粘着性樹脂(P)の種類は特に限定されない。
【0084】
分子接着剤層の形成方法は特に限定されない。例えば、分子接着剤を含有する分子接着剤溶液を調製し、この溶液を用いて公知の方法により、分子接着剤層を形成することができる。
【0085】
分子接着剤溶液を調製する際に用いる溶媒は特に限定されない。溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;塩化メチレン等の含ハロゲン化合物系溶媒;ブタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン等の芳香族化合物系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;水;等が挙げられる。
これらは1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0086】
分子接着剤溶液中の分子接着剤の濃度は、特に限定されない。その濃度は、好ましくは0.005〜1.000mol/L、より好ましくは0.050〜0.500mol/Lである。分子接着剤の濃度を0.005mol/L以上とすることで、分子接着剤を被塗布体に効率的に形成することができる。また1.000mol/L以下とすることで分子接着剤溶液の意図しない反応を抑制することができ、溶液の安定性に優れる。
【0087】
分子接着剤層の形成方法としては、浸漬法、塗布法、噴霧法等が挙げられるが、これらの中でも、生産性の観点から塗布法が好ましい。塗布方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ディップコート法、カーテンコート法、ダイコート法、グラビアコート法等が挙げられるが、バーコート法、ディップコート法、グラビアコート法が好ましい。
【0088】
塗布方法を選択した場合は、自然乾燥や乾燥機構への投入による乾燥処理が必要となるが、乾燥機構への投入による乾燥処理を行うことが生産性の向上の観点から好ましい。当該乾燥機構としては、例えば、エアーオーブンといったバッチ式の乾燥機構、並びにヒートロール、ホットエアースルー機構(開放式の乾燥炉内を被乾燥体が移動、通過しながら、送風を受けつつ加熱・乾燥される設備等)といった連続式の乾燥機構等が挙げられる。
なお、これら乾燥機構の一部としても用いることができる装置、例えば、高周波加熱、オイルヒーター等の熱媒循環式ヒーター、及び遠赤外線式ヒーター等のヒーター自体も乾燥機構として用いることができる。これらの中でも、生産性の向上の観点からホットエアースルー機構が好ましい。
当該乾燥機構で調整される乾燥温度は、通常、20〜250℃、好ましくは50〜200℃、より好ましくは65〜150℃、特に好ましくは80〜120℃である。乾燥時間は、通常、1秒から120分、好ましくは10秒から10分、より好ましくは20秒から5分、特に好ましくは30秒から3分である。
【0089】
分子接着剤層においては、分子接着剤の反応性基(Zα)と粘着性樹脂(P)の反応性部分構造(Zγ)との化学結合により、分子接着剤が粘着剤層に固定されていると考えられる。
したがって、分子接着剤層を形成する際は、通常、分子接着剤を粘着剤層に固定する処理(以下、固定処理ということがある。)が行われる。固定処理は、分子接着剤の反応性基(Zα)の特性に応じて適宜選択することができる。通常は、分子接着剤を粘着剤層上に塗布することにより化学結合が生成し、加熱することにより化学結合の生成が促進するため、加熱処理を行うことが生産性の向上の観点から好ましい。加熱温度は、通常、40〜250℃、好ましくは60〜200℃、より好ましくは80〜120℃である。加熱時間は、通常、1秒から120分、好ましくは1〜60分、より好ましくは1〜30分である。
加熱方法としては、特に限定されず上述の乾燥機構と同様の機構及び装置を用いることができる。
【0090】
アジド基のように、反応性基(Zα)が光反応性を有する場合、固定処理としては光照射処理が行われる。照射する光としては、通常、紫外線が用いられる。この場合は、乾燥処理の後に固定処理を行うことが、(Zα)と(Zγ)との反応性を向上させる観点から好ましい。
紫外線の照射は、水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線LED、無電極ランプ等の光源を使用した紫外線照射装置を用いて行うことができる。
【0091】
分子接着剤層の形成時において、塗布と乾燥処理と固定処理とを複数回繰り返し行ってもよい。
【0092】
分子接着剤層は、後述する各性能を損なわない程度の量で、分子接着剤以外の成分を含有するものであってもよい。分子接着剤以外の成分としては、触媒等が挙げられる。
【0093】
分子接着剤層中の分子接着剤の含有量は、接着に関与しない成分が含まれると、接着力が低下することから、分子接着剤層全体を基準として、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、90質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0094】
分子接着剤層の厚さは、200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましく、50nm以下が特に好ましい。また分子接着剤層の厚さは、1nm以上が好ましい。
本発明の接着シートは上記の粘着剤層を有するため、このように分子接着剤層が薄くても被着体に容易に貼着することができる。
【0095】
〔接着シート〕
本発明の接着シートは、前記粘着剤層上に、前記分子接着剤層が直接積層されてなるものである。
本発明の接着シートは、前記粘着剤層の片側のみに、分子接着剤層を有するものであってもよいし、前記粘着剤層の両側に、分子接着剤層を有するものであってもよい。
【0096】
本発明の接着シートは、粘着剤層、分子接着剤層以外の層を有するものであってもよい。
粘着剤層、分子接着剤層以外の層としては、支持体や剥離シートが挙げられる。
【0097】
支持体は、本発明の接着シートの保管時、使用時ともに接着シートの一部を構成するシート状の物質である。支持体としては、上質紙、アート紙、コート紙、クラフト紙、グラシン紙等の紙基材;これらの紙基材にポリエチレン等の熱可塑性樹脂をラミネートして得られるラミネート基材;ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニルフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等の樹脂製基材;金属箔;等が挙げられる。
【0098】
剥離シートは、本発明の接着シートの保管時には接着シートの一部を構成するものであるが、使用時に剥離除去されるシート状の物質である。
剥離シートとしては、前記支持体表面に剥離層を設けたもの等が挙げられる。
【0099】
本発明の接着シートとしては、例えば、下記の層構造を有するものが挙げられる。
粘着剤層/分子接着剤層
粘着剤層/分子接着剤層/剥離シート
支持体/粘着剤層/分子接着剤層
剥離シート/粘着剤層/分子接着剤層
支持体/粘着剤層/分子接着剤層/剥離シート
支持体/分子接着剤層/粘着剤層/分子接着剤層
支持体/分子接着剤層/粘着剤層/分子接着剤層/剥離シート
【0100】
本発明の接着シートは、上記方法に従って、粘着剤層上に分子接着剤層を形成し、次いで、必要に応じて、形成された分子接着剤層上に剥離シートを設けることにより製造することができる。
【0101】
2.積層体の製造方法
本発明の積層体の製造方法は、本発明の接着シートの分子接着剤層を被着体に圧着することを特徴とする、粘着剤層/分子接着剤層/被着体の層構造を有する積層体の製造方法である。
【0102】
分子接着剤層と被着体との間の接着は、通常、分子接着剤中の反応性基(Zβ)が、被着体を構成する化合物中の官能基と反応し、化学結合が形成することにより行われる。
したがって、通常、被着体としては、反応性基(Zβ)との反応性を有する基をその表面に有するものが用いられる。
そのような被着体としては、ガラス、無機酸化物、シリコーン樹脂等が挙げられる。
また、表面にこれらの成分を含有しないものであっても、表面処理を施して、反応性基(Zβ)との反応性を有する基を含む層を表面に設けることにより、被着体として用いることができる。
【0103】
本発明の積層体の製造方法に用いる接着シートは、被着体に対する追従性に優れ、被着体に凹凸があっても被着体表面に十分に密着するため、分子接着剤層と被着体との間の化学結合の生成が十分に行われる。したがって、樹脂成分を溶融させるような高温条件は必要ではない。
【0104】
圧着する際の温度Tは、通常、−20〜140℃、好ましくは0〜100℃、より好ましくは15〜35℃である。
圧着する際の圧力は、ローラーやラミネートで圧着する場合は、線圧として好ましくは5N/mm以下、より好ましくは3N/mm以下、さらに好ましくは1N/mm以下である。また線圧として好ましくは0.1N/mm以上、より好ましくは0.2N/mm以上、さらに好ましくは0.3N/mm以上である。
プレス機で圧着する場合は、プレス圧力として好ましくは10MPa以下、より好ましくは5MPa以下、さらに好ましくは3MPa以下、特に好ましくは1MPa以下である。またプレス圧力として好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは0.2MPa以上、さらに好ましくは0.3MPa以上、特に好ましくは0.4MPa以上である。
【実施例】
【0105】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例になんら限定されるものではない。
各例中の部及び%は、特に断りのない限り、質量基準である。
【0106】
〔粘着剤層の剪断貯蔵弾性率〕
粘弾性測定装置(レオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー社製、商品名「RDAII」)を使用し、ねじり剪断法により測定周波数1Hzにて、23℃における貯蔵弾性率を測定した。
【0107】
〔製造例1〕
n−ブチルアクリレート(BA)/アクリル酸(AA)=90/10(%)のアクリル系共重合体(質量平均分子量(Mw)47万)を含有する固形分濃度33.6%のトルエンと酢酸エチルとの混合溶液100部(固形分:33.6部)に対して、イソシアネート系架橋剤(東ソー株式会社製、製品名「コロネートL」、固形分濃度75%の酢酸エチル溶液)2部(固形分:1.5部)を添加し、トルエンで希釈して固形分濃度26%の粘着剤溶液(1)を得た。
【0108】
〔製造例2〕
イソブチレンとイソプレンの共重合体(日本ブチル株式会社製、Exxon Butyl 268、質量平均分子量260,000、イソプレンの含有率1.7mol%)100部、カルボン酸系官能基を有するポリイソプレンゴム(株式会社クラレ製、LIR410、質量平均分子量30,000、1分子あたりの平均カルボキシ基数:10)5部、脂肪族系石油樹脂(日本ゼオン株式会社製、クイントンA100、軟化点100℃)20部、架橋剤(エポキシ化合物)(三菱化学株式会社製、TC−5)1部をトルエンに溶解し、固形分濃度25%の粘着剤溶液(2)を得た。
【0109】
〔製造例3〕
WO2012/046651号に記載の方法に従って、6−(3−トリエトキシシリルプロピル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジアジド(前記式(10)で示される化合物)を含有する分子接着剤溶液(溶媒:エタノール、濃度0.1g/L)を得た。
【0110】
〔実施例1〕
ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡株式会社製、製品名「コスモシャイン A4100」、厚さ50μm、一方の面に易接着層を有する)の、易接着層を有する面に、製造例1で得られた粘着剤溶液(1)を乾燥後の粘着剤層の厚さが20μmとなるようにバーコーターで塗布し、100℃で1分間乾燥した。
次に、得られた粘着剤層に、製造例3で得られた分子接着剤溶液をディッピング法にて、5秒間浸漬塗布し、110℃で30秒乾燥した。その後、紫外線照射装置(ヘレウス株式会社製、製品名「ライトハンマー 10 MARK II」、光源:水銀ランプ)を用いて分子接着剤層側から紫外線を照射して接着シートを得た。
紫外線照射条件は、照度84mW/cm、光量29mJ/cmとし、当該照度及び光量は照度・光量計(EIT社製、製品名「UV Power Puck II」)を用いてUVCの領域の照度および光量を測定した。
【0111】
〔実施例2〕
粘着剤溶液(1)の代わりに製造例2で得られた粘着剤溶液(2)を用いて、乾燥後の厚さが10μmの粘着剤層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして接着シートを得た。
〔実施例3〕
粘着剤溶液(1)の代わりに製造例2で得られた粘着剤溶液(2)を用いて、乾燥後の厚さが1μmの粘着剤層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして接着シートを得た。
〔参考例1〕
粘着剤溶液(1)の代わりに製造例2で得られた粘着剤溶液(2)を用いて、乾燥後の厚さが150μmの粘着剤層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして接着シートを得た。
【0112】
〔比較例1〕
分子接着剤層を形成しなかったことを除き、実施例1と同様にして接着シートを得た。
〔比較例2〕
分子接着剤層を形成しなかったことを除き、実施例2と同様にして接着シートを得た。
【0113】
〔比較例3〕
ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡株式会社製、製品名「コスモシャイン A4100」、厚さ50μm、一方の面に易接着層を有する)の、易接着層を有する面に、粘着剤層を形成する代わりに、エチレンプロピレンジエンゴム(三井化学株式会社製、製品名「EPT」)の酢酸エチル溶液を乾燥後の厚さが20μmとなるようにバーコーターで塗布し、100℃で1分間乾燥して、エチレンプロピレンジエンゴムからなる層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして分子接着剤層を形成し、接着シートを得た。
【0114】
〔比較例4〕
ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡株式会社製、製品名「コスモシャイン A4100」、厚さ50μm、一方の面に易接着層を有する)の、易接着層を有する面に、ドライラミネート用接着剤(DIC株式会社製、製品名「LX−401A/SP−60」)を塗布、乾燥した。次いで、粘着剤層を形成する代わりに、無延伸ポリプロピレンフィルム(三井化学東セロ株式会社製、製品名「SC」、厚さ50μm)をドライラミネートして、無延伸ポリプロピレンからなる層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして分子接着剤層を形成し、接着シートを得た。
【0115】
〔接着力〕
実施例及び比較例で作製した接着シートを縦25mm×横300mmの大きさに切断した後、当該接着シートの分子接着剤層を、23℃、50%RH(相対湿度)の環境下で、重さ2kgのローラーを用いてガラス板(コーニング株式会社製、製品名「イーグルXG」)に貼付し、次いで、同じ環境下で30分間静置した。静置後、JIS Z0237:2000に基づき、180°引き剥がし法により、引っ張り速度300mm/分にて、各接着シートの接着力を測定した。その測定結果を第1表に示す。
【0116】
〔耐ブリスター性〕
実施例及び比較例で作製した接着シートを縦50mm×横50mmの大きさに切断した後、縦70mm×横150mm×厚さ2mmのポリカーボネート板(三菱ガス化学株式会社製、「ユーピロンシート NF−2000VU」)に貼付し、スキージーを用いて強く圧着し、試験サンプルを作製した。
この試験サンプルを、23℃で12時間静置した後、80℃の熱風乾燥機内に1.5時間静置し、さらに90℃の熱風乾燥機内に1.5時間静置して、加熱促進後のブリスターの発生状態を目視により観察し、以下の基準により、各接着シートの耐ブリスター性を評価した。その評価結果を第1表に示す。
A:ブリスターが全く確認されなかった。
B:部分的にブリスターが確認された。
C:全面にブリスターが確認された。
【0117】
【表1】
【0118】
第1表から、以下のことが分かる。
実施例1〜3の接着シートは、接着力及び耐ブリスター性に優れている。
また、参考例1の接着シートは、粘着剤層の厚みが150μmであるが、これらの評価試験においては、実施例1〜3と同等の性質を有する。
一方、比較例1、2の接着シートは、耐ブリスター性に劣り、比較例3、4の接着シートは接着力に劣っている。
【0119】
〔実施例4〕
基材として、ポリエチレンテレフタレートフィルムの代わりにアルミ箔とポリエチレンテレフタレートの貼合フィルム(厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに7μmのアルミ箔が積層されたフィルム)の、アルミ箔を有する面に、製造例2で得られた粘着剤溶液(2)を塗布したこと以外は実施例2と同様にして接着シートを得た。
【0120】
〔比較例5〕
基材として、ポリエチレンテレフタレートフィルムの代わりに、アルミ箔とポリエチレンテレフタレートの貼合フィルム(厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに7μmのアルミ箔が積層されたフィルム)の、アルミ箔を有する面に、製造例2で得られた粘着剤溶液(2)を塗布したこと以外は比較例2と同様にして接着シートを得た。
【0121】
〔比較例6〕
基材として、ポリエチレンテレフタレートフィルムの代わりに、アルミ箔とポリエチレンテレフタレートの貼合フィルム(厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに7μmのアルミ箔が積層されたフィルム)の、アルミ箔を有する面に、製造例2で得られた粘着剤溶液(2)を塗布したこと以外は参考例1と同様にして接着シートを得た。
【0122】
〔水分遮断性評価〕
無アルカリガラス基板(コーニング社製、45mm×45mm)上に、真空蒸着法にて、縦35mm、横35mmで膜厚150nmのカルシウム層を形成した。
次に、実施例4、比較例5、6で得られた接着シートの剥離シートをそれぞれ剥離し、露出した分子接着剤層又は粘着剤層と、ガラス基板上のカルシウム層とを、乾燥窒素雰囲気下にて、ラミネータを用いて貼合し、40℃、0.5MPaにてオートクレーブ処理して、カルシウム層を封止し、水分遮断性試験用試験片を得た。
得られた試験片を、60℃、90%RHの環境下で500時間放置し、カルシウム層の変色の割合(水分浸入の割合)を目視で確認し、下記の基準により水分遮断性を評価した。評価結果を第2表に示す。
(評価基準)
A:カルシウム層の変色は見られなかった。
B:カルシウム層の端部の変色は見られたが、変色した面積は半分未満だった。
C:カルシウム層の面積の半分以上が変色した。
【0123】
【表2】
【0124】
第2表から、以下のことが分かる。
実施例4の接着シートは、水分遮断性に優れる。
一方、比較例5の接着シートは分子接着剤層を有しないものであり、水分遮断性に劣る。
比較例6の接着シートは、粘着剤層が厚いものである。このような粘着剤層が厚い接着シートは上記の参考例1で示したように、接着性等には優れるが、水分遮断性に劣る。
【要約】
本発明は、粘着性樹脂(P)を含む粘着剤層上に、アミノ基、アジド基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性基(Zα)と、シラノール基、及び加水分解反応によりシラノール基を生成させる基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性基(Zβ)とを有する分子接着剤を含む分子接着剤層が直接積層されてなる接着シートであって、前記粘着性樹脂(P)は、前記分子接着剤の反応性基(Zα)と化学結合を形成し得る反応性部分構造(Zγ)を有し、前記粘着剤層の23℃における剪断貯蔵弾性率は、0.10〜3.30MPaであり、前記粘着剤層の厚さは、0.1〜100μmである接着シート、及び、この接着シートを用いる積層体の製造方法である。本発明によれば、分子接着剤層を有し、かつ、常温であっても被着体に容易に貼着できる接着シート、及びこの接着シートを用いる積層体の製造方法が提供される。