(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む放射線遮蔽粒子を含有する放射線遮蔽用水性組成物であって、該放射線遮蔽粒子は脱硝触媒および/または脱硫触媒またはそれらの粉砕処理物であり、該放射線遮蔽粒子は、0.2μm以下の平均一次粒子径を有し、かつ、水性組成物中で0.5μm未満の平均分散粒子径を有し、該放射線遮蔽用水性組成物は、放射線遮蔽用水性組成物の全重量に基づいて20〜99重量%の水性溶媒を含有する、放射線遮蔽用水性組成物。
放射線遮蔽粒子は、タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の成分を、放射線遮蔽粒子の全重量に基づいてタングステンおよび/またはモリブデンの金属換算で2重量%〜20重量%の量で含む、請求項1に記載の放射線遮蔽用水性組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、放射線を効率的に遮蔽することができる放射線遮蔽用水性組成物および該放射線遮蔽用水性組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を重ね、タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む放射線遮蔽粒子を含有する放射線遮蔽用水性組成物であって、該粒子は脱硝触媒および/または脱硫触媒に由来する組成物が、上記課題を達成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む放射線遮蔽粒子を含有する放射線遮蔽用水性組成物であって、該粒子は脱硝触媒および/または脱硫触媒に由来する、組成物。
(2)放射線遮蔽粒子は、タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の成分を、放射線遮蔽粒子の全重量に基づいてタングステンおよび/またはモリブデンの金属換算で2重量%〜20重量%の量で含む、上記(1)に記載の放射線遮蔽用水性組成物。
(3)放射線遮蔽粒子は0.2μm以下の平均一次粒子径を有する、上記(1)または(2)に記載の放射線遮蔽用水性組成物。
(4)放射線遮蔽粒子は水性組成物中で0.5μm未満の平均分散粒子径を有する、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の放射線遮蔽用水性組成物。
(5)放射線遮蔽粒子は、タングステン酸化物およびモリブデン酸化物とは異なる、さらなる無機酸化物を含む、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の放射線遮蔽用水性組成物。
(6)脱硝触媒および/または脱硫触媒は、触媒として使用後の脱硝触媒および/または脱硫触媒である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の放射線遮蔽用水性組成物。
(7)放射線遮蔽用水性組成物は、タングステンおよび/または酸化タングステンの粒子をさらに含有する、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の放射線遮蔽用水性組成物。
(8)放射線遮蔽用水性組成物は塗料またはインクである、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の放射線遮蔽用水性組成物。
(9)タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む放射線遮蔽粒子を、脱硝触媒および/または脱硫触媒を粉砕して得る工程、および、
該粒子を、分散剤を含む水性溶媒に分散させる工程
を含む、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の放射線遮蔽用水性組成物の製造方法。
(10)脱硝触媒および/または脱硫触媒を粉砕して、0.1μm以下の平均一次粒子径を有し、水性組成物中で0.5μm未満の平均分散粒子径を有する放射線遮蔽粒子を得る、上記(9)に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の放射線遮蔽用水性組成物によれば、少ないタングステンおよび/またはモリブデンの金属換算含有量であっても、効率的に放射線を遮蔽することができる。また、本発明の放射線遮蔽用水性組成物は、効率的に放射線を遮蔽することができるため、例えば本発明の放射線遮蔽用水性組成物を塗布して得た放射線遮蔽材料や、本発明の放射線遮蔽用水性組成物を塗布した放射線遮蔽が必要な土壌等は、同程度の効果を得るためにタングステンまたはモリブデン等の金属担体を用いて処理した放射線遮蔽材料や土壌等と比較して、より軽量であり、使用性および取扱い性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の放射線遮蔽用水性組成物は、放射線遮蔽粒子を含有する。該粒子は、放射線遮蔽効果を有する粒子であり、タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む。該粒子は、タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される成分を単独で含有してよく、2種以上の成分を組み合わせて含有してもよい。
【0012】
本発明の放射線遮蔽用水性組成物に含有される放射線遮蔽粒子は、放射線遮蔽効果の観点から、放射線遮蔽粒子の全重量に基づいて、タングステンおよび/またはモリブデンの金属換算で2重量%以上、3重量%以上、5重量%以上の、タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の成分を含むことが好ましい。該放射線遮蔽粒子は、放射線遮蔽効果の観点からは放射線遮蔽粒子中により多くのタングステンおよび/またはモリブデンを含有することが好ましいが、放射線を効率的に遮蔽する観点から、放射線遮蔽粒子の全重量に基づいて、タングステンおよび/またはモリブデンの金属換算で20重量%以下、15重量%以下、10重量%以下の、タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の成分を含むことが好ましい。
【0013】
本発明の放射線遮蔽用水性組成物に含有される放射線遮蔽粒子は、脱硝触媒または脱硫触媒に由来する。本発明において、放射線遮蔽粒子が「脱硝触媒または脱硫触媒に由来する」とは、放射線遮蔽粒子が脱硝触媒または脱硫触媒に由来して得られるものであれば特に限定されないが、例えば脱硝触媒または脱硫触媒それ自体であるか、または、脱硝触媒または脱硫触媒に例えば粉砕処理等を行って得たものであってよい。本発明の放射線遮蔽用水性組成物に含有される放射線遮蔽粒子を得るために、タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む脱硝触媒または脱硫触媒を使用することができる。本発明において使用することができる脱硝触媒
または脱硫触媒としては、例えば特開2001−113170号に記載された脱硝触媒、特開平7−222924号に記載されたチタニアを担体としこれにタングステン及び/又はモリブデン成分を担持させた触媒あるいはさらにバナジウム成分を担持させたチタン−タングステン及び/又はモリブデン系脱硝触媒、特開2004-195445に記載された酸化触媒(脱硫触媒)、特開2004−099587号に記載された液相酸化反応用触媒などが挙げられる。ここで、タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む脱硝触媒または脱硫触媒は、触媒として使用する前の脱硝触媒または脱硫触媒であるか、または、触媒として使用後の使用済み脱硝触媒または脱硫触媒のいずれであってもよい。ここで、脱硝触媒または脱硫触媒は、触媒として使用後、通常は廃棄物として処分されるものである。使用済みの脱硝触媒または脱硫触媒を使用する本発明の一態様においては、原料を安価に入手することができ、廃棄物を有効利用することができるというさらなる利点を有する。本発明の放射線遮蔽用水性組成物は、放射線遮蔽効果の観点から、使用済みの脱硝触媒または使用済みの脱硫触媒に由来する放射線遮蔽粒子を使用することが好ましい。
【0014】
本発明の一態様において、放射線遮蔽効果の観点から、本発明の放射線遮蔽用水性組成物に含有される放射線遮蔽粒子はタングステン酸化物およびモリブデン酸化物とは異なる少なくとも1種の無機酸化物をさらに含有することが好ましい。無機酸化物としては、タングステン酸化物およびモリブデン酸化物以外の無機酸化物であれば特に限定されないが、例えば金属元素および/または半金属元素の酸化物、具体的にはチタン、ケイ素、バナジウムおよびコバルトの酸化物などが挙げられる。無機酸化物はチタンおよび/またはケイ素の酸化物であることが、好ましい平均一次粒子径を有する放射線遮蔽粒子が得られるため、放射線遮蔽効果の観点から好ましい。
【0015】
本発明の一態様において、放射線遮蔽効果の観点から、本発明の放射線遮蔽用水性組成物に含有される放射線遮蔽粒子中、タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される成分が無機酸化物に担持されているか、または、タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される成分が無機酸化物を被覆した状態で存在することが好ましい。上記の態様において、タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される成分をより均一かつより緻密に塗布することができる。
【0016】
無機酸化物としては、タングステン酸化物およびモリブデン酸化物以外の無機酸化物であれば特に限定されないが、例えば金属元素および/または半金属元素の酸化物、具体的にはチタン、ケイ素、バナジウムおよびコバルトの酸化物などが挙げられる。無機酸化物はチタンおよび/またはケイ素であることが、好ましい平均一次粒子径を有する放射線遮蔽粒子が得られ、放射線遮蔽効果の観点から好ましい。本発明の放射線遮蔽用水性組成物に含有される放射線遮蔽粒子は、無機酸化物を単独で含有してよく、2種以上の成分を組み合わせて含有してもよい。
【0017】
本発明の放射線遮蔽用水性組成物に含有される放射線遮蔽粒子は、放射線遮蔽効果の観点から、好ましくは0.2μm以下、より好ましくは0.1μm以下の平均一次粒子径を有する。本発明の放射線遮蔽用水性組成物に含有される放射線遮蔽粒子は、通常0.03μm以上の平均一次粒子径を有する。ここで、平均一次粒子径の測定条件の詳細は実施例に示す通りであり、電子顕微鏡を用いて写真上で実測することにより測定することができる。
【0018】
本発明の放射線遮蔽用水性組成物に含有される放射線遮蔽粒子は、水性組成物の安定性および放射線遮蔽効果の観点から、本発明の放射線遮蔽用水性組成物中で、好ましくは0.5μm未満、より好ましくは0.4μm以下、特に好ましくは0.3μm以下の平均分散粒子径を有することが好ましい。また、本発明の放射線遮蔽用水性組成物に含有される放射線遮蔽粒子は、通常、小さい粒子径を有する放射線遮蔽粒子の存在は特に不利益を有するものではないが、0.05μm以上の平均分散粒子径を有する。ここで、平均分散粒子径の測定条件の詳細は実施例に示す通りであり、水性組成物を試料として、レーザ回折式粒子径分布測定装置を用いて測定することができる。分散粒子径が0.5μm未満であると、粒子を分散させた水性組成物、インク、塗料のより良好な安定が得られ、沈降、ハードケーキング、水相の分離などの現象がより生じにくくなる。また、分散粒子径が0.5μm未満であると、より良好な塗膜の均一性が得られる。さらに、分散粒子径が0.5μm未満であると、塗膜中の粒子密度がより高くなるため、放射線遮蔽効果の観点から好ましい。
【0019】
本発明の放射線遮蔽用水性組成物は、放射線遮蔽効果の観点から、タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される成分を含む放射線遮蔽粒子を、水性組成物の全重量に基づいて好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上、特に好ましくは10重量%以上の量で含有する。タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される成分を含む放射線遮蔽粒子の含有量は、より加工しやすい粘性を有する水性組成物を得る観点から、水性組成物の全重量に基づいて好ましくは80重量%以下、より好ましくは75重量%以下、特に好ましくは55重量%以下である。
【0020】
本発明の放射線遮蔽用水性組成物は、水性溶媒、好ましくは水を含有する。水性溶媒の含有量は、水性組成物の安定性の観点から、放射線遮蔽用水性組成物の全重量に基づいて好ましくは99重量%以下、より好ましくは95重量%以下、特に90重量%以下である。同様の観点から、放射線遮蔽用水性組成物の全重量に基づいて好ましくは20重量%以上、より好ましくは25重量%以上、特に45重量%以上である。
【0021】
本発明の放射線遮蔽用水性組成物は、放射線遮蔽粒子および水性溶媒に加えて、タングステンおよび/または酸化タングステンの粒子をさらに含有してもよい。本発明の放射線遮蔽用水性組成物がタングステンおよび/または酸化タングステンの粒子をさらに含有する場合、タングステンおよび/または酸化タングステンの粒子の量は何ら限定されないが、放射線遮蔽用水性組成物の全重量に基づいて、通常、1重量%〜30重量%である。
【0022】
タングステンおよび/または酸化タングステンの粒子としては、タングステンまたは酸化タングステンの単体の粒子を用いてよく、これらの粒子を適宜組み合わせて混合して使用してもよい。タングステンおよび/または酸化タングステンの粒子の粒径は、放射線遮蔽効果および水性組成物中での分散性または安定性の観点から、10μm以下であることが好ましい。ここで、タングステンおよび/または酸化タングステンの粒子の粒径は、Sub Sieve Sizer法により測定することができる。
【0023】
本発明の放射線遮蔽用水性組成物がタングステンおよび/または酸化タングステンの粒子をさらに含有する態様において、本発明の放射線遮蔽用水性組成物に含有される放射線遮蔽粒子の平均分散粒子径を測定する際には、例えば実施例において詳細に記載するように、適当な孔径を有するメンブランフィルター等のろ過装置を用いてタングステンおよび/または酸化タングステンの粒子を放射線遮蔽用水性組成物から除去し、得られたろ液を用いて放射線遮蔽粒子の分散粒子径を測定することができる。
【0024】
本発明の放射線遮蔽用水性組成物は、タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される成分を含む放射線遮蔽粒子および水性溶媒に加えて、分散剤、溶媒、pH調整剤、界面活性剤、顔料、防かび剤、防腐剤、消泡剤、増粘剤、バインダーなどのインクおよび塗料の分野において通常の添加剤を含有してよい。
【0025】
本発明の放射線遮蔽用水性組成物は、水性組成物の安定性の観点から、分散剤を含有することが好ましい。分散剤としては、アンモニア、アミンおよび/または無機塩で中和した酸型分散剤を使用することが、水性分散体の安定性の観点から好ましい。該分散剤としては、例えばスルホン酸基、カルボン酸基などの酸基の、アルカリ金属塩、アンモニウム塩および/またはアミン塩などの、イオン性の親水性基を有する水溶性高分子が挙げられる。該水溶性高分子としては、例えば以下が挙げられる:カルボキシメチルセルロース塩およびビスコースなどのセルロース誘導体、アルギン酸塩、ゼラチン、アルブミン、カゼイン、アラビアガム、トラガントガム、リグニンスルホン酸塩などの天然高分子類、カチオンでんぷん、リン酸でんぷん、カルボキシメチルでんぷん塩などのでんぷん誘導体、ポリアクリル酸塩、ポリビニル硫酸塩、ポリ(4-ビニルピリジン)塩、ポリアミド、ポリアリルアミン塩、縮合ナフタレンスルホン酸塩、(α-メチル)スチレン-アクリル酸塩共重合物、(α-メチル)スチレン-メタクリル酸塩共重合物、(α-メチル)マレイン酸塩共重合物、アクリル酸エステル-アクリル酸塩共重合物、アクリル酸エステル-メタクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル-アクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル-メタクリル酸塩共重合物、スチレン-イタコン酸塩共重合物、イタコン酸エステル-イタコン酸塩共重合物、ビニルナフタレン-アクリル酸塩共重合物、ビニルナフタレン-メタクリル酸塩共重合物、ビニルナフタレン-イタコン酸塩共重合物。本発明の放射線遮蔽用水性組成物は、上記の分散剤を単独で含有してもよいし、2種以上を組み合わせて含有してもよい。分散剤として、2,0000〜1,000,000の範囲の重量平均分子量を有する水溶性高分子を使用することが、水性組成物の安定性の観点から好ましい。
【0026】
分散剤として、スチレン-アクリル酸塩共重合物を使用することが、水性組成物の安定性の観点から、特に好ましい。スチレン-アクリル酸塩共重合物として、具体的には、例えばジョンソンポリマー社製の以下の市販品が挙げられる:ジョンクリル61J(水溶液タイプ、重量分子量12000、酸価195)、ジョンクリル450(エマルションタイプ、重量分子量100000〜200000、酸価100)、ジョンクリル67(重量分子量12500、酸価213)、ジョンクリル678(重量分子量8500、酸価215)、ジョンクリル586(重量分子量4600、酸価108)、ジョンクリル680(重量分子量4900、酸価215)、ジョンクリル683(重量分子量8000、酸価160)、ジョンクリル690(重量分子量16500、酸価240)。フレーク状(固形状)のスチレン-アクリル酸塩共重合物を使用する場合、スチレン-アクリル酸塩共重合物を、水溶液化またはエマルション化して使用してよい。スチレン-アクリル酸塩共重合物を水溶液化またはエマルション化するために使用する中和塩としては、例えばアンモニア、水酸化カリウム、水酸化リチウムおよび水酸化ナトリウムなどの無機塩、トリエチルアミン、アミノメチルプロパノール、アミノメチルプロパンジオール、アミノエチルプロパンジオール、トリハイドロキシメチルアミノメタン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミンおよびトリイソプロパノールアミンなどの有機アミン類が挙げられる。
【0027】
分散剤の含有量は、水性組成物における粒子等の湿潤性および分散性、ならびに水性組成物の安定性の観点から、本発明の放射線遮蔽用水性組成物の全重量に基づいて好ましくは1重量%以上であり、より好ましくは3重量%以上である。また、水性組成物の粘性および安定性の観点から、本発明の放射線遮蔽用水性組成物中に含まれる放射線遮蔽粒子の全重量に基づいて好ましくは200重量%以下であり、より好ましくは100重量%以下である。
【0028】
本発明の放射線遮蔽用水性組成物は、塗布膜の造膜性をより向上させるため、および/または、塗布膜の乾燥性を調整するために、溶媒を含有してよい。溶媒としては、例えばアルコール類、アルキルエーテルアルコール類、グリコール類、ジオール類などを使用してよい。アルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどが挙げられる。アルキルエーテルアルコール類としては、例えばエチレングルコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングルコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどが挙げられる。グリコール類としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、数平均分子量2000以下のポリエチレングリコールなどが挙げられる。ジオール類としては、例えばグリセリンなどが挙げられる。本発明の放射線遮蔽用水性組成物は、上記の溶媒を単独で含有してもよいし、2種以上を組み合わせて含有してもよい。
【0029】
本発明の放射線遮蔽用水性組成物は、水性組成物のpHを調整するためにpH調整剤を含有してよい。pH調整剤としては、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、トリエタノールアミンなどが挙げられる。本発明の放射線遮蔽用水性組成物は、上記のpH調整剤を単独で含有してよく、2種以上を組み合わせて含有してもよい。pH調整剤の含有量は、目的とするpHに応じて適宜選択することができる。
【0030】
本発明の放射線遮蔽用水性組成物は、タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される成分を含む放射線遮蔽粒子の分散性をより向上させ、および/または、本発明の水性組成物の浸透性、湿潤性をより高めるために、界面活性剤を含有してよい。界面活性剤としては、例えばアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0031】
アニオン性界面活性剤としては、例えばカルボン酸塩、単純アルキル・スルホネート、変性アルキル・スルホネート、アルキル・アリル・スルホネート、アルキル硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸エステル、硫酸化脂肪酸モノグリセライド、硫酸化アルカノール・アミド、硫酸化エーテル、アルキルリン酸エステル塩、アルキル・ベンゼン・ホスホン酸塩、ナフタレンスルホン酸・ホルマリン縮合物などが挙げられる。
【0032】
カチオン性界面活性剤としては、例えば単純アミン塩、変性アミン塩、テトラアルキル第4級アンモニウム塩、変性トリアルキル第4級アンモニウム塩、トリアルキル・ベンジル第4級アンモニウム塩、変性トリアルキル・ベンジル第4級アンモニウム塩、アルキル・ピリジニウム塩、変性アルキル・ピリジニウム塩、アルキル・キノリニウム塩、アルキル・ホスホニウム塩、アルキル・スルホニウム塩などが挙げられる。
【0033】
両性界面活性剤としては、例えばベタイン、スルホベタイン、サルフェートベタインなどが挙げられる。
【0034】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば脂肪酸モノグリセリンエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、脂肪酸ソルビタンエステル、脂肪酸蔗糖エステル、脂肪酸アルカノールアミド、脂肪酸ポリエチレングリコール縮合物、脂肪酸アミドポリエチレングルコール縮合物、脂肪酸アルコール・ポリエチレン・グリコール縮合物、脂肪酸アミン・ポリエチレン・グリコール縮合物、脂肪酸メルカプタン・ポリエチレン・グリコール縮合物、アルキル・フェノール・ポリエチレン・グリコール縮合物、ポリプロピレン・グリコール・ポリエチレン・グリコール縮合物、アセチレンジオール、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物などが挙げられる。本発明の放射線遮蔽用水性組成物は、上記の界面活性剤を単独で含有してよく、2種以上を組み合わせて含有してもよい。
【0035】
本発明の放射線遮蔽用水性組成物は、水性組成物の粘性を調整するために、増粘剤を含有してよい。増粘剤としては、例えば天然系多糖類および合成高分子系増粘剤が挙げられる。天然系多糖類としては、例えばグアーガム、ローカストビンガム、ガラクトマンナン、ペクチンおよびその誘導体、サイリュウムシュードガム、タマリンドウガム、微生物系のキサンタンガム、レオザンガム、ラムザンガム、ウエランガム、ジュランガム、海草多糖類のカラギーナン、アルギン酸およびその誘導体、樹脂多糖類のタラガントガム、セルロースおよびその誘導体が挙げられる。合成高分子系増粘剤としては、ポリアクリル酸およびその架橋型共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびその誘導体、ポリビニルメチルエーテルおよびその誘導体、ポリエーテルアクリル樹脂およびシリコンアクリル樹脂の、水中活性剤乳化型エマルション、水中自己乳化型エマルション、水中コアシェル型エマルションが挙げられる。本発明の放射線遮蔽用水性組成物は、上記の増粘剤を単独で含有してよく、2種以上を組み合わせて含有してもよい。
【0036】
本発明の放射線遮蔽用水性組成物は、本発明の放射線遮蔽用水性組成物を多様な基材に対してより良好に密着させるために、バインダーを含有してよい。バインダーとしては、例えば水溶性高分子、エマルジョン樹脂などが挙げられる。バインダーは、天然、半合成、合成のいずれであってもよい。具体的には、セルロース、でんぷんおよびそれらの変性体、天然ゴム、ロジンおよびその変性体、ポリビニルアルコール類、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂等をバインダーとして使用してよい。本発明の放射線遮蔽用水性組成物は、上記のバインダーを単独で含有してよく、2種以上を組み合わせて含有してもよい。
【0037】
タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される成分を含む放射線遮蔽粒子の製造方法は、放射線遮蔽粒子が脱硝触媒または脱硫触媒に由来するものであれば特に限定されるものではなく、種々の方法で製造することができる。
【0038】
本発明の一態様において、タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される成分を含む放射線遮蔽粒子を、例えば、タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される成分を含む粒子の凝集体であって、塊として市販されていることが多い脱硝触媒または脱硫触媒を、所望の粒径を有する粉体が得られるまで粉砕することによって製造する。市販の脱硝触媒または脱硫触媒を、例えばハンマーミルおよびクラッシャーなどの機械で破砕し、破砕した脱硝触媒または脱硫触媒をふるいにかけ、例えばミキサー、乳鉢、ボールミルおよびハンマーミルなどの機械でさらに微粉砕する。粉砕は湿式粉砕または乾式粉砕のいずれであってもよい。粉砕した脱硝触媒または脱硫触媒を、例えばふるいにかけて粗大粒子を除去し、好ましくは0.5
μm以下、より好ましくは0.2
μm以下の平均粒子径を有する粒子を得ることが、分散液がより均一になるため、放射線遮蔽効果の観点から好ましい。
【0039】
タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される成分を含む粒子を、分散機を用いて水性溶媒に分散することにより、本発明の放射線遮蔽用水性組成物を製造することができる。分散機としては、何ら限定されるものではないが、ボールミル、サンドグラインダー、ダイノミル、スパイクミル、DCPミル、バスケットミル、ペイントコンディショナーなどの湿式メディア分散機、二本ロールミル、三本ロールミル、バンバリー、2軸ルーダー、ニーダーなどの混練装置、ナノマイザー、アルチマイザー、超音波分散機などのメディアレス分散機などを使用してよい。
【0040】
本発明の放射線遮蔽用水性組成物の製造方法は、好ましくは、次の工程:
タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む放射線遮蔽粒子を、脱硝触媒および/または脱硫触媒を粉砕して得る工程、および、
該粒子を、分散剤を含む水性溶媒に分散させる工程
を含む。
【0041】
本発明の放射線遮蔽用水性組成物の製造方法は、より好ましくは、次の工程:
タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む放射線遮蔽粒子を、脱硝触媒および/または脱硫触媒を粉砕して得る工程、および、
該粒子を、分散剤を含む水性溶媒に分散させる工程
を含み、ここで、脱硝触媒および/または脱硫触媒を粉砕して、0.2μm以下の平均一次粒子径を有し、水性組成物中で0.5μm未満の平均分散粒子径を有する放射線遮蔽粒子を得る方法である。
【0042】
本発明の一態様において、タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される成分を含む放射線遮蔽粒子を、例えば顔料等の成分と共に、分散剤およびバインダー等の水溶性樹脂の溶解した水性溶媒に分散させることにより、インクとしての本発明の放射線遮蔽用水性組成物を製造することができる。
【0043】
本発明の別の一態様において、タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される成分を含む放射線遮蔽粒子を、例えば分散剤で水性溶媒に分散させ、エマルジョンバインダーと混合することにより、塗料としての本発明の放射線遮蔽用水性組成物を製造することができる。
【0044】
本発明の別の一態様において、タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される成分を含む放射線遮蔽粒子を、分散機を用いて分散剤およびバインダー等の水溶性樹脂の溶解した水性溶媒に分散することにより本発明の放射線遮蔽用水性組成物を製造し、得られた放射線遮蔽用水性組成物を顔料等の成分と共に混合、分散することにより、インクを製造することができる。
【0045】
本発明の別の一態様において、タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される成分を含む放射線遮蔽粒子を、分散剤等の成分と共に分散機を用いて分散することにより本発明の放射線遮蔽用水性組成物を製造し、得られた放射線遮蔽用水性組成物をエマルジョンバインダー等の成分と共に混合、分散することにより、塗料を製造することができる。
【0046】
本発明の水性組成物を材料に塗布し、場合により乾燥させて、放射線遮蔽材料を得ることができる。適当な材料としては、例えば繊維、不織布、紙、フィルム、木材、金属などが挙げられる。
【0047】
本発明の水性組成物を、放射線遮蔽が必要な土壌や建物などの既設の成型物へ塗布して使用してもよい。
【0048】
塗布方法としては、何ら限定されないが、例えばロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、クリーンコーティング、刷毛、ローラー、スプレー、ディッピング、含浸等を用いて塗布することができる。
【0049】
本発明の別の一態様において、本発明の水性組成物を生地の上にスプレーし、乾燥させることにより、放射線遮蔽効果を有する生地を得て、該生地から放射線遮蔽効果を有する被服を製造することができる。
【実施例】
【0050】
以下の実施例において、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
〔タングステン、モリブデンおよびそれらの酸化物からなる群から選択される成分を含む放射線遮蔽粒子の製造〕
製造例1
酸化チタン88.5%、酸化タングステン6.5%および五酸化バナジウム0.5%を含有する使用済みの脱硝触媒(NPSK-001(使用済み)、日揮触媒化成社製)を粉砕した。
【0052】
製造例2
製造例1において、使用済みの脱硝触媒に代えて、未使用の脱硝触媒(NPSK-001(未使用)、日揮触媒化成社製)を用いたこと以外は製造例1と同様にして、放射線遮蔽粒子を得た。
【0053】
〔平均一次粒子径の測定〕
製造例1および2において得た放射線遮蔽粒子のSEM画像を、FE-SEM S-5200(日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、30kVにて得た。放射線遮蔽粒子は、一次粒子が房状に凝集した形状を有していた。得られたSEM画像上の粒子100個を任意に選択し、その長径を測定する。その結果、製造例1において得た粒子は、0.03μmの平均一次粒子径を有していた。製造例2において得た粒子は、0.03μmの平均一次粒子径を有していた。
【0054】
〔放射線遮蔽用水性組成物の製造〕
実施例1
製造例1で得た放射線遮蔽粒子55部、スチレン・アクリル酸共重合体(ジョンクリルHPD196、BASF社製、固形分36%)18部、消泡剤0.1部、防腐剤0.1部およびイオン交換水27部を、ペイントシェーカー(浅田鉄工社製)を用いて混合し、30分間かけて分散させて、放射線遮蔽用水性組成物1を得た。
【0055】
実施例2
実施例1において、製造例1で得た放射線遮蔽粒子に代えて、製造例2で得た放射線遮蔽粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして、放射線遮蔽用水性組成物2を得た。
【0056】
実施例3
実施例1において、製造例1で得た放射線遮蔽粒子55部に代えて、製造例1で得た放射線遮蔽粒子30部およびタングステン単体の粉末(日本新金属社製、粒径4.00μm〜7.99μm)25部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、放射線遮蔽用水性組成物3を得た。
【0057】
比較例1
ケイ素で表面処理された酸化チタン(タイピュアR−931、デュポン社製)60部、スチレン・アクリル酸共重合体(ジョンクリルHPD196、BASF社製、固形分36%)3部、消泡剤0.1部、防腐剤0.1部およびイオン交換水37部を、ペイントシェーカー(浅田鉄工社製)を用いて混合し、30分間かけて分散させて、放射線遮蔽用水性組成物4を得た。
【0058】
比較例2
タングステン単体の粉末(日本新金属社製、粒径4.00μm〜7.99μm)70部部、スチレン・アクリル酸共重合体(ジョンクリルHPD196、BASF社製、固形分36%)2部、消泡剤0.1部、防腐剤0.1部およびイオン交換水28部を、ペイントシェーカー(浅田鉄工社製)を用いて混合し、30分間かけて分散させて、放射線遮蔽用水性組成物5を得た。
【0059】
〔平均分散粒子径の測定〕
実施例1の放射線遮蔽用水性組成物をイオン交換水で希釈して測定用試料を調製した。平均分散粒子径の測定は、マイクロトラックUPA(日機装社製、動的散乱法)を用いて行った。実施例1の放射線遮蔽用水性組成物中の放射線遮蔽粒子の平均分散粒子径は0.24μmであった。同様にして測定して、実施例2の放射線遮蔽用水性組成物中の放射線遮蔽粒子の平均分散粒子径は0.33μmであった。比較例1の放射線遮蔽用水性組成物中の粒子の平均分散粒子径は0.31μmであった。比較例2の放射線遮蔽用水性組成物中の粒子の平均分散粒子径は5.0μmであった。なお、実施例3の放射線遮蔽用水性組成物中には、上記のように、製造例1で得た放射線遮蔽粒子に加えて、粒径4.00μm〜7.99μmのタングステン単体の粉末が含まれている。そのため、実施例3の放射線遮蔽用水性組成物を孔径3μmのメンブランフィルター(アドバンテック東洋社製)に通過させて上記タングステン単体の粒子を取り除いて得たろ液をイオン交換水で希釈し、該希釈液について、マイクロトラックUPAを用いて平均分散粒子径の測定を行った。その結果、実施例3の放射線遮蔽用水性組成物中の放射線遮蔽粒子の平均分散粒子径は0.29μmであった。
【0060】
〔塗料の製造〕
放射線遮蔽用水性組成物1〜4、70部およびスチレン・アクリル共重合体樹脂(ジョンクリルPDX7341、BASF社製)30部を、撹拌機(アズワン社製、「スリーワンモーター」)を用いて混合撹拌し、塗料組成物1〜4を得た。また、放射線遮蔽用水性組成物5、55部、スチレン・アクリル共重合体樹脂(ジョンクリルPDX7341、BASF社製)30部およびイオン交換水15部を、撹拌機(アズワン社製、「スリーワンモーター」)を用いて混合撹拌し、塗料組成物5を得た。
【0061】
〔放射線遮蔽効果の評価〕
福島県の放射線汚染地域に存在する一戸建て住宅の庭から土壌を採取し、汚染土壌200gをポリエチレン製の袋に入れて、袋の上から直接、土壌の放射線量を測定した。測定は、シンチレーション式サーベイメーター(株式会社JBジャパン・ブランド製「JB5000」)およびGMサーベイメーター(日立アロカメディカル株式会社製)の2つの測定機器を用いて行った。なお、シンチレーション式サーベイメーターは一般にγ線への感度が良好であり、GMサーベイメーターは一般にβ線への感度が良好な測定機器である。得られた結果を表1に示す。
【0062】
ホモディスパー型の羽根を取り付けた撹拌機(PRIMIX製)をセットした内容量4リットルのステンレス容器に、2リットルの水を入れ、600rpmで撹拌しながら上記の土壌200gを少量ずつ添加した。次いで、回転数を3000rpmまで上げ、さらに3分間撹拌した後、20gの塗料組成物1を1分間かけて少量ずつ添加し、5分間撹拌した。次に、撹拌機の羽根をホモディスパー型の羽根から2枚スクリュー型の羽根に変更し、600rpmで撹拌しながら無機系凝集剤CS80S(スバル興業社製)を4g添加し、その後、固形分が全て沈降するまで撹拌した。次いで、上澄み水を除去し、得られた凝集物の全量をSOMELA社製の高速脱水機C14LSSに投入し、脱水した。脱水後の凝集物の放射線量はシンチレーション式サーベイメーターにて測定して1.40μSv/hであり、GMサーベイメーターで測定して682cpmであった。得られた結果を表1に示す。
【0063】
塗料組成物1に代えて塗料組成物2〜5を使用したこと以外は上記と同様にして放射線遮蔽率を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0064】
【表1】