(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
天然ガスの1つであるCNG(Compressed Natural Gas)は、メタンを主成分として含み、その他の成分として、メタンよりもオクタン価の低いエタン、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン等を含む。そのため、燃料のメタンの濃度が低くなるとノッキングが発生しやすくなる。
【0005】
本発明は、メタンの濃度が低下してもノッキングの発生を抑えることが可能な点火時期の制御装置および制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する点火時期の制御装置は、天然ガスを燃料とするエンジンの点火時期を制御する点火時期の制御装置であって、前記エンジンの運転状態に応じたベース点火時期と前記ベース点火時期を補正する補正量とに基づく目標点火時期に点火プラグの点火時期を制御する点火時期制御部と、混合気の空気量と前記混合気の燃料量とに基づく吸気空燃比を演算する吸気空燃比演算部と、排気ガスの酸素濃度に基づく排気空燃比を演算する排気空燃比演算部と、前記排気空燃比と前記吸気空燃比との比率に基づいて前記補正量を更新する補正量更新部と、を備え、前記補正量更新部は、前記比率と、燃料の組成が変化
していないと判断される前記比率の値
の範囲である許容範囲と、を比較し、前記比率が
前記許容範囲外の値であり、かつ、前記吸気空燃比よりも前記排気空燃比が高い場合に
、前記吸気空燃比よりも前記排気空燃比が高いほど前記補正量を
大きく遅角させる
とともに、前記比率が同じ値であっても、更新前の前記補正量が前記ベース点火時期を進角側へ補正するものである場合には更新前の前記補正量による進角量が大きいほど前記補正量を大きく遅角させ、更新前の前記補正量が前記ベース点火時期を遅角側へ補正するものである場合には更新前の前記補正量による遅角量が大きいほど前記補正量を小さく遅角させる。
【0007】
上記課題を解決する点火時期の制御方法は、天然ガスを燃料とするエンジンの点火時期を制御する点火時期の制御方法であって、前記点火時期を制御する制御装置は、前記エンジンの運転状態に応じたベース点火時期と前記ベース点火時期を補正する補正量とに基づく目標点火時期に点火プラグの点火時期を制御するとともに、混合気の空気量と前記混合気の燃料量とに基づく吸気空燃比と、排気ガスの酸素濃度に基づく排気空燃比と、前記排気空燃比と前記吸気空燃比との比率と、を演算し、前記比率と、燃料の組成が変化していないと判断される前記比率の値
の範囲である許容範囲と、を比較し、前記比率が
前記許容範囲外の値であり、かつ、前記吸気空燃比よりも前記排気空燃比が高い場合に
、前記吸気空燃比よりも前記排気空燃比が高いほど前記補正量を
大きく遅角させる
とともに、前記比率が同じ値であっても、更新前の前記補正量が前記ベース点火時期を進角側へ補正するものである場合には更新前の前記補正量による進角量が大きいほど前記補正量を大きく遅角させ、更新前の前記補正量が前記ベース点火時期を遅角側へ補正するものである場合には更新前の前記補正量による遅角量が大きいほど前記補正量を小さく遅角させる。
【0008】
天然ガスの主成分であるメタンは、その他の成分よりも理論空燃比が大きい。そのため、燃料のメタンの濃度が高くなると、同じ空気量、同じ燃料量であっても燃焼時に消費される酸素量が増加することで排気空燃比が低くなる。反対に、燃料のメタンの濃度が低くなると、燃焼時に消費される酸素量が減少することで排気空燃比が高くなる。
【0009】
上記構成では、比率と許容値とが異なる値であり、かつ、吸気空燃比よりも排気空燃比が高い場合に補正量が遅角される。すなわち、吸気空燃比よりも排気空燃比が高く、燃料のメタンの濃度が低下したと判断される場合に補正量が遅角される。これにより、補正量の更新前よりも目標点火時期が遅角側へと制御される。その結果、メタンの濃度が低下してもノッキングの発生が抑えられる。
【0010】
メタンの濃度が低下するほど、排気ガスの酸素濃度が高くなり、排気空燃比が高くなる。上記構成のように、排気空燃比が高いほど補正量を大きく遅角させることにより、ノッキングの発生がさらに高い確率の下で抑えられる。
【0012】
比率に基づき更新される補正量は、換言すれば、燃料のメタンの濃度を示す指標の1つである。上記構成のように、更新前の補正量に応じて更新時における補正量の遅角度合いが調整されることで、補正量の遅角によるエンジンの出力の過度な低下が抑えられる。
【0013】
上記点火時期の制御装置において、前記補正量更新部は、前記比率が
前記許容範囲外の値であり、かつ、前記吸気空燃比よりも前記排気空燃比が低い場合に前記補正量を進角させることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、比率が許容値と異なる値であり、かつ、吸気空燃比よりも排気空燃比が低い場合に、補正量が進角される。すなわち、吸気空燃比よりも排気空燃比が低く、メタンの濃度が上昇してノッキングが発生しにくくなったと判断される場合に補正量が進角される。これにより、ノッキングの発生を抑えつつ、エンジンの出力が高められる。
上記点火時期の制御装置において、前記補正量更新部は、前記吸気空燃比よりも前記排気空燃比が低いほど前記補正量を大きく進角させることが好ましい。
上記点火時期の制御装置において、前記補正量更新部は、前記比率が同じ値であっても、更新前の前記補正量が前記ベース点火時期を遅角側へ補正するものである場合には更新前の前記補正量による遅角量が大きいほど前記補正量を大きく進角させ、更新前の前記補正量が前記ベース点火時期を進角側へ補正するものである場合には更新前の前記補正量による進角量が大きいほど前記補正量を小さく進角させることが好ましい。
上記点火時期の制御装置において、前記許容範囲が第1許容範囲であり、前記補正量更新部は、所定期間における前記比率の平均値と、燃料の組成が変化していないと判断される前記平均値の範囲であって下限値が前記第1許容範囲の下限値よりも高く、かつ、上限値が前記第1許容範囲の上限値よりも低い第2許容範囲と、を比較し、前記比率が前記第1許容範囲内であっても前記平均値が前記第2許容範囲外の値であり、かつ、前記吸気空燃比よりも前記排気空燃比が高い場合に前記補正量を遅角させることが好ましい。
上記点火時期の制御装置において、前記補正量更新部は、前記比率が前記第1許容範囲内であっても前記平均値が前記第2許容範囲外の値であり、かつ、前記吸気空燃比よりも前記排気空燃比が低い場合に前記補正量を進角させることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1〜
図4を参照して、点火時期の制御装置および制御方法の一実施形態について説明する。
図1を参照して、点火時期の制御装置が搭載されたエンジンシステムの全体構成について説明する。
【0017】
図1に示すように、エンジンシステムのエンジン5は、気化した天然ガスであるCNG(Compressed Natural Gas)を燃料とするガスエンジンである。エンジン5は、複数の気筒12を有するMPI(Multi Point Injection)方式のエンジンである。エンジン5は、インテークマニホールド14の分岐管14aの各々に、気筒12に流入する吸入空気に対して燃料を供給するインジェクター11が設けられている。エンジン5は、気筒12ごとに、気筒12内の混合気を点火する点火プラグ13を有する。点火プラグ13は、例えば、電気的に火花を発生させるスパークプラグである。各気筒12の排気ガスは、エキゾーストマニホールド15に排出される。
【0018】
インテークマニホールド14に接続される吸気通路16には、上流側から順に、図示されないエアクリーナー、ターボチャージャー17を構成するコンプレッサー18、インタークーラー19、スロットルバルブ20、サージタンク21が設けられている。エキゾーストマニホールド15に接続される排気通路22には、コンプレッサー18に連結軸を介して連結され、ターボチャージャー17を構成するタービン23が設けられている。
【0019】
燃料供給装置24は、天然ガスを例えば20MPaで貯留するガスタンク25を備える。ガスタンク25には高圧配管26が接続され、高圧配管26にはレギュレーター27が設けられている。レギュレーター27は、高圧配管26を流れる燃料を例えば0.4MPaまで減圧する。レギュレーター27で減圧された燃料は、デリバリーパイプ28に流入する。デリバリーパイプ28には、インジェクター11ごとに供給配管29が各別に接続されている。デリバリーパイプ28内の燃料は、インジェクター11ごとの供給配管29を通じて各インジェクター11に供給される。
【0020】
エンジンシステムは、吸入空気量センサー30、吸気圧力センサー31、吸気温度センサー32、クランク角センサー34、カム角センサー35、空燃比センサー36、アクセル開度センサー38を備える。
【0021】
吸入空気量センサー30は、吸気通路16におけるコンプレッサー18の上流にて、吸気通路16を流れる吸入空気の体積流量である吸入空気量Qaを検出する。吸気圧力センサー31は、サージタンク21における吸入空気の圧力である吸気圧力Pbを検出する。吸気温度センサー32は、サージタンク21における吸入空気の温度である吸気温度Tiを検出する。クランク角センサー34は、クランクシャフト5aの回転角度であるクランク角CAを検出する。カム角センサー35は、図示されないカムシャフトの回転角度に基づき、所定の気筒12が圧縮上死点に到達したタイミングで気筒判別信号Gを出力する。空燃比センサー36は、タービン23から流出した排気ガスに含まれる酸素濃度に基づいて空燃比AFを検出する。アクセル開度センサー38は、アクセルペダル41の踏み込み量であるアクセル開度ACCを検出する。上記各センサー30〜38の出力した信号は、各点火プラグ13の点火時期を制御する制御装置50に入力される。
【0022】
制御装置50は、CPU、各種制御プログラムや各種データが格納されたROM、各種演算における演算結果や各種データが一時的に格納されるRAMを有するマイクロコンピューターを中心に構成される。制御装置50は、各センサーからの信号に基づいて各種情報を取得する。制御装置50は、ROMに格納された各種制御プログラムや各種データと各センサー30〜38からの情報とに基づいて各種処理を実行する。制御装置50は、点火時期制御部、吸気空燃比演算部、排気空燃比演算部、補正量更新部として機能する。
【0023】
制御装置50は、各種センサーからの信号に基づいて、吸入空気量Qa、吸気圧力Pb、吸気温度Ti、クランク角CA、気筒判別信号G、空燃比AF、および、アクセル開度ACCを取得する。制御装置50は、クランク角CAに基づいてクランクシャフト5aの回転数であるエンジン回転数Neを取得する。
【0024】
制御装置50は、燃料供給量Qfを演算し、その演算した燃料供給量Qfの分の燃料が供給されるようにインジェクター11の開閉を制御する。制御装置50は、気筒判別信号Gとクランク角CAとに基づき、混合気を燃焼させる気筒12に対応するインジェクター11である開弁対象を設定する。制御装置50は、エンジン回転数Neとエンジン負荷Lとに基づき、燃料が標準燃料であった場合の標準供給量Qfsを演算する。標準燃料は、例えばエンジン5の設計時に基準とした燃料であり、所定の組成を有する天然ガスである。制御装置50は、標準供給量Qfsに対し、例えば、空燃比センサー36の検出値に基づく空燃比フィードバック制御により演算されるフィードバック値や学習値を適用することにより燃料供給量Qfを演算する。制御装置50は、開弁対象から燃料供給量Qfの分の燃料が分岐管14aに供給されるように開弁対象の開閉を制御する。なお、エンジン負荷Lは、例えば、エンジン回転数Ne、アクセル開度ACC、吸入空気量Qa、吸気圧力Pb、吸気温度Ti等に基づき演算される。また制御装置50は、開弁対象の開閉を制御する際、例えばデリバリーパイプ28での燃料の温度や燃料の圧力が考慮されてもよい。
【0025】
制御装置50は、目標空燃比AFtを設定する。制御装置50は、エンジン回転数Neとエンジン負荷Lとに基づいて、燃料が標準燃料であった場合の目標空燃比である標準空燃比AFsを演算する。制御装置50は、標準空燃比AFsに対して、例えば、空燃比センサー36の検出値に基づく空燃比フィードバック制御により演算されるフィードバック値や学習値を適用することにより目標空燃比AFtを設定する。
【0026】
制御装置50は、スロットルバルブ20の開度を制御する。制御装置50は、燃料が標準燃料であるものとして燃料供給量Qfの重量を演算し、その演算結果と目標空燃比AFtとに基づき目標空気量Qatを演算する。制御装置50は、エンジン回転数Ne、吸気圧力Pb、および、吸気温度Ti等に基づいて、目標空気量Qatだけの分の空気が気筒12に流入するようにスロットルバルブ20の開度を制御する。
【0027】
制御装置50は、点火プラグ13の駆動を制御する。制御装置50は、気筒判別信号Gとクランク角CAとに基づいて、混合気を燃焼させる気筒12に対応する点火プラグ13である駆動対象を設定する。制御装置50は、駆動対象の目標点火時期Atarを設定し、その設定した目標点火時期Atarで駆動対象を駆動する。制御装置50は、下記式(1)のように、エンジン回転数Ne、エンジン負荷L、および、ROMに格納されている標準点火マップに基づくベース点火時期Abseを補正量Acomの分だけ補正することにより目標点火時期Atarを設定する。なお、標準点火マップに規定されたベース点火時期Abseは、燃料が標準燃料である場合において、ノッキングが発生するノック点火時期に対して所定のマージンを有する点火時期のなかでもエンジンの出力が最も高い点火時期である最適点火時期が設定されることが好ましい。
Atar=Abse+Acom … (1)
【0028】
制御装置50は、各気筒12の排気空燃比AFexを演算する。制御装置50は、気筒判別信号Gとクランク角CAとに基づいて、気筒12から排出された排気ガスが空燃比センサー36に到達するタイミングを気筒12ごとに演算する。制御装置50は、そのタイミングにおける空燃比センサー36からの空燃比AFに基づいて各気筒12の排気空燃比AFexを演算する。
【0029】
制御装置50は、排気空燃比AFexと吸気空燃比AFinとの比率に基づいて補正量Acomを更新する。本実施形態の比率は、排気空燃比AFexに対する吸気空燃比AFinの比率R(=AFin/AFex)である。吸気空燃比AFinは、混合気の空気量と混合気の燃料量とに基づく空燃比であり、気筒12に供給される空気量と燃料量とに基づく空燃比である。制御装置50は、目標空燃比AFtを吸気空燃比AFinとして取り扱うことで比率Rを演算する。制御装置50は、比率Rと許容値R1とを比較する。許容値R1は、燃料の組成が変化していないと判断される値であって、例えば、1よりも小さい下限許容値R1L以上であり、かつ、1よりも大きい上限許容値R1H以下の
第1許容範囲に含まれる各値である。下限許容値R1Lは例えば0.9であり、上限許容値R1Hは例えば1.1である。
【0030】
比率Rが許容値R1である場合(R1L≦R≦R1H)、制御装置50は、補正量Acomを更新することなく現在の補正量Acomを維持する。排気空燃比AFexが吸気空燃比AFinよりも低く、比率Rが許容値R1よりも高い値である場合(R1H<R)、制御装置50は、燃料のメタンの濃度が上昇したものとして現在の補正量Acomを更新量A1の分だけ進角させる。排気空燃比AFexが吸気空燃比AFinよりも高く、比率Rが許容値R1よりも低い値である場合(R<R1L)、制御装置50は、燃料のメタンの濃度が低下したものとして現在の補正量Acomを更新量A1の分だけ遅角させる。
【0031】
図2は、比率Rと補正量Acomの更新量A1との関係の一例を示すグラフである。
図2(a)は、更新前の補正量Acomが補正量Acom1である場合のグラフである。
図2(b)は、更新前の補正量Acomが補正量Acom1よりもベース点火時期Abseを進角側へと補正する補正量Acom2である場合のグラフである。
図2(c)は、更新前の補正量Acomが補正量Acom1よりもベース点火時期Abseを遅角側へと補正する補正量Acom3である場合のグラフである。
【0032】
図2(a)〜(c)に示すように、更新量A1は、更新前の補正量Acomが同じ値であり、かつ、比率Rが許容値R1よりも低い場合には、比率Rが低いほど、すなわち排気空燃比AFexが高いほど補正量Acomを大きく遅角させる値である。更新量A1は、更新前の補正量Acomが同じであり、かつ、比率Rが許容値R1よりも高い場合には、比率Rが高いほど、すなわち排気空燃比AFexが低いほど補正量Acomを大きく進角させる値である。
【0033】
また、更新量A1は、更新前の補正量Acomがベース点火時期Abseを進角させる場合、比率Rが同じ値であっても、更新前の補正量Acomによる進角量が大きいほど補正量Acomを大きく遅角させる値である。更新量A1は、更新前の補正量Acomがベース点火時期Abseを遅角させる場合、比率Rが同じ値であっても、更新前の補正量Acomによる遅角量が大きいほど補正量Acomを小さく遅角させる値である。
【0034】
また、更新量A1は、更新前の補正量Acomがベース点火時期Abseを遅角させる場合、比率Rが同じ値であっても、更新前の補正量Acomによる遅角量が大きいほど補正量Acomを大きく進角させる値である。更新量A1は、更新前の補正量Acomがベース点火時期Abseを進角させる場合、比率Rが同じ値であっても、更新前の補正量Acomによる進角量が大きいほど補正量Acomを小さく進角させる値である。
【0035】
更新量A1は、例えば、予め行った実験やシミュレーションに基づき定められた値であって、メタンの濃度が変化しても目標点火時期Atarが最適点火時期に設定されるように補正量Acomを調整する値である。そのため、更新量A1は、例えば、ガスタンク25内の燃料が標準燃料→他の燃料1→他の燃料2→標準燃料と切り替わったとしても、標準燃料への切り替えにより補正量Acomが0となるように定められることが好ましい。
【0036】
なお、更新量A1は、制御装置50のROMにマップとして格納されて、比率Rおよび更新前の補正量Acomをそのマップに適用することにより求められてもよい。また、更新量A1は、比率Rおよび更新前の補正量Acomをパラメーターに含む所定の関係式に各値を代入することにより求められてもよい。
【0037】
図3を参照して、制御装置50による点火時期制御の制御ルーチンの一例について説明する。この制御ルーチンは、エンジン5の始動後に繰り返し実行される。補正量Acomは、前回のエンジン5の停止時における補正量Acomを初期値とすることが好ましい。
【0038】
図3に示すように、制御装置50は、まず、各種センサーの検出値に基づく情報の他、燃料供給量Qf、目標空燃比AFt、目標空気量Qatを含む各種情報を取得する(ステップS11)。各種情報を取得した制御装置50は、クランク角CAおよび気筒判別信号Gに基づいて駆動対象を設定するとともに(ステップS12)、目標空燃比AFtを吸気空燃比AFinとして演算する(ステップS13)。また制御装置50は、エンジン回転数Ne、エンジン負荷L、および、標準点火マップに基づいてベース点火時期Abseを演算し(ステップS14)、そのベース点火時期Abseに補正量Acomを加味することによって目標点火時期Atarを設定する(ステップS15)。そして制御装置50は、目標点火時期Atarにて駆動対象を駆動する(ステップS16)。
【0039】
次に、制御装置50は、駆動対象に対応する気筒12の排気空燃比AFexを演算したのち(ステップS17)、比率Rを演算する(ステップS18)。そして制御装置50は、比率Rが許容値R1であるか否かを判断する(ステップS19)。
【0040】
比率Rが許容値R1である場合(ステップS19:YES)、制御装置50は、補正量Acomを更新することなく一連の処理を一旦終了する。一方、比率Rが許容値R1でなかった場合(ステップS19:NO)、制御装置50は、比率Rおよび更新前の補正量Acomに基づいて更新量A1を求め、その求めた更新量A1の分だけ補正量Acomを遅角、あるいは、進角させることで補正量Acomを更新し(ステップS20)、一連の処理を一旦終了する。
【0041】
図4を参照して、上述した構成の制御装置50の作用について説明する。
図4に示すように、最適点火時期は、ノッキングが高い確率で発生するノック点火時期に対して所定のマージンを有する。そして、例えば、標準燃料に対する燃料の補充によってメタンの濃度Cmが濃度Cmsから濃度Cm1に低下した場合に点火時期を調整しないとなれば、ノック点火時期に対するマージンが減少してノッキングが発生しやすくなる。
【0042】
一方、メタンの理論空燃比がエタン等の他の成分の理論空燃比よりも大きいことから、メタンの濃度Cmが低下すると、同じ空気量、同じ燃料量であっても燃焼時に消費される酸素量が減少することで排気空燃比AFexが高くなる。すなわち、燃料の補充によってメタンの濃度Cmが低下すると比率Rが低くなり、反対に、燃料の補充によってメタンの濃度Cmが上昇すると比率Rが高くなる。
【0043】
制御装置50は、比率Rと許容値R1とを比較し、比率Rが許容値R1よりも低いときに補正量Acomを遅角させる。これにより、目標点火時期Atarは、補正量Acomの更新前よりも遅角側に制御される。
【0044】
上記実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られる。
(1)燃料のメタンの濃度が低下してもノッキングの発生が抑えられる。
(2)比率Rと許容値R1との比較により目標点火時期Atarが遅角されることから、ノッキングセンサーを用いることなくノッキングの発生が抑えられる。
【0045】
(3)制御装置50は、例えば
図2(a)に示したように、比率Rが許容値R1よりも低いほど、すなわち吸気空燃比AFinよりも排気空燃比AFexが高いほど、補正量Acomを大きく遅角させる。これにより、メタンの濃度の低下が大きいほど補正量Acomが大きく遅角されるため、ノッキングの発生がさらに高い確率の下で抑えられる。
【0046】
(4)メタンの濃度に応じて更新される補正量Acomは、換言すれば、燃料のメタンの濃度を示す指標の1つである。また、例えば、メタンの濃度95%の燃料からメタンの濃度が低下して比率Rが所定値まで低くなった場合と、メタンの濃度50%の燃料からメタンの濃度が低下して比率Rが上記所定値まで低くなった場合とでは、前者の方が燃料に含まれるメタンの減少量が大きい。
【0047】
この点、制御装置50は、
図2(a)〜(c)に示したように、更新前の補正量Acomがベース点火時期Abseを進角させる場合には、更新前の補正量Acomによる進角量が大きいほど補正量Acomを大きく遅角させる。また、制御装置50は、更新前の補正量Acomがベース点火時期Abseを遅角させる場合には、更新前の補正量Acomによる遅角量が大きいほど補正量Acomを小さく遅角させる。こうした構成によれば、燃料の補充前のメタンの濃度に応じて補正量Acomの遅角度合いが調整される。これにより、補正量Acomの遅角によるエンジン5の出力の過度な低下が抑えられる。
【0048】
(5)制御装置50は、比率Rが許容値R1よりも高い場合に補正量Acomを進角させる。すなわち、制御装置50は、燃料の補充によってメタンの濃度が上昇し、ノッキングが発生にくくなった場合には補正量Acomを進角させる。その結果、ノッキングの発生を抑えつつ、エンジン5の出力が高められる。
【0049】
(6)制御装置50は、例えば
図2(a)に示したように、比率Rが許容値R1よりも高いほど、すなわち吸気空燃比AFinよりも排気空燃比AFexが低いほど、補正量Acomを大きく進角させる。これにより、メタンの濃度の上昇が大きいほど補正量Acomが進角されることから、ノッキングの発生を抑えつつ、メタンの濃度の上昇度合いに応じてベース点火時期Abseを進角させることが可能である。
【0050】
(7)上述したように補正量Acomは、燃料に含まれるメタンの濃度を示す指標の1つである。そのため、補正量Acomによるベース点火時期Abseの進角量が大きいほど燃料のメタンの濃度が高く、補正量Acomによるベース点火時期Abseの遅角量が大きいほど燃料のメタンの濃度が低い。
【0051】
この点、制御装置50は、
図2(a)〜(c)に示したように、更新前の補正量Acomがベース点火時期Abseを進角させる場合には、更新前の補正量Acomによる進角量が大きいほど補正量Acomを小さく進角させる。また、制御装置50は、更新前の補正量Acomがベース点火時期Abseを遅角させる場合には、更新前の補正量Acomによる遅角量が大きいほど補正量Acomを大きく進角させる。すなわち、燃料が補充される前のメタンの濃度に応じて補正量Acomの進角度合いが調整される。これにより、ノッキングの発生を抑えつつ、燃料の補充前のメタンの濃度と燃料の補充によるメタンの濃度の上昇度合いと応じてベース点火時期Abseを進角させることが可能である。
【0052】
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・制御装置50は、比率Rが許容値R1と異なる値であり、かつ、吸気空燃比AFinよりも排気空燃比AFexが低い場合に、補正量Acomを更新しなくともよいし、補正量Acomを進角させる場合にはその更新量A1が一定の値であってもよい。
【0053】
・制御装置50は、比率Rが許容値R1と異なる値であり、かつ、吸気空燃比AFinよりも排気空燃比AFexが高い場合に、補正量Acomを遅角させればよい。そのため、更新量A1は、更新前の補正量Acomに関わらず、比率Rと許容値R1との乖離に応じて変化する値であってもよい。また、更新量A1は、更新前の補正量Acom、および、比率Rと許容値R1との乖離、これらに関わらず一定の値であってもよい。
【0054】
・許容値R1は、連続する複数の値に限らず、ただ1つの値でもよい。
・許容値R1は、固定値に限らず、例えばメタンの濃度を示す指標の1つである補正量Acomに応じて変動してもよい。こうした構成によれば、その時々の状況に適した許容値R1を設定することが可能である。
【0055】
・吸気空燃比AFinは、例えば高圧配管26を流れる燃料の質量流量を計測するセンサーの検出値に基づく燃料供給量と、吸入空気量センサー30の検出値に基づく吸入空気量の質量流量とに基づいて演算されてもよい。また、吸入空気量の質量流量は、吸気圧力センサー31の検出値、吸気温度センサー32の検出値、および、エンジン回転数Ne等をパラメーターに含む演算式によって演算される値であってもよい。
【0056】
・制御装置50は、所定期間における比率Rの平均値Raveに基づいて補正量Acomを更新してもよい。こうした構成において制御装置50は、下限値が下限許容値R1Lよりも高く、かつ、上限値が上限許容値R1Hよりも低い
第2許容範囲に含まれる各値である平均許容値R2と、平均値Raveとを比較する。そして、制御装置50は、平均値
Raveが平均許容値R2よりも低い場合に補正量Acomを遅角させ、平均値Raveが平均許容値R2よりも高い場合に補正量Acomを進角させる。
【0057】
これは、比率Rが許容値R1であることが連続していても、例えば、許容値R1=0.9〜1.1に対して比率R=0.96が所定期間において連続し続ける場合には、燃料のメタンの濃度が僅かに変化したものと想定される。上記構成によれば、こうした僅かな変化に対しても対応することが可能である。
【0058】
・比率Rは、排気空燃比AFexに対する吸気空燃比AFinの比率(=AFin/AFex)ではなく、吸気空燃比AFinに対する排気空燃比AFexの比率(=AFex/AFin)であってもよい。こうした構成においては、比率Rが許容値R1よりも大きい場合に補正量Acomが遅角され、比率Rが許容値R1よりも小さい場合に補正量Acomが進角される。
【0059】
・制御装置50は、各気筒12への燃料の供給を1つのインジェクターで行うSPI(Single Point Injection)方式のエンジンにも適用可能である。また、制御装置50は、筒内直接噴射方式のエンジンにも適用可能である。
【0060】
・ガスエンジンの燃料は、メタンを主成分とするものであればよく、CNGのほか、液化天然ガス(LNG:liquefied natural gas)、天然ガスと水素との混合気体などであってもよい。また、天然ガスは、有機性廃棄物をメタン発酵させたバイオガスを原料とするバイオメタンガスであってもよい。
【0061】
なお、燃料がLNGである場合、燃料を貯留するタンクには、燃料の蒸発による内圧の過度な上昇を抑えるべくリリーフ弁が取り付けられる。また、メタンは、蒸発温度が他の成分よりも低いため、他の成分よりも先に蒸発する。そのため、メタンの濃度の低下は、タンク内におけるメタンの蒸発とリリーフ弁によるガスの放出とによっても生じる。