(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
30〜60体積%の熱溶融性フッ素樹脂と、40〜70体積%の窒化ホウ素粒子とを含む樹脂組成物であって、前記窒化ホウ素粒子は、粒子(A)および粒子(B)から構成され、
粒子(A)は、平均粒径が55μm以上〜100μmであり、アスペクト比が1〜2である球状凝集体粒子であり、
粒子(B)は、平均粒径が8〜55μm未満の粒子であり、アスペクト比が1〜2である球状凝集体粒子であり、
前記窒化ホウ素全量に対する前記粒子(A)の体積比率が、80〜99体積%であることを特徴とする樹脂組成物。
熱溶融性フッ素樹脂と窒化ホウ素粒子を、30〜60体積%対40〜70体積%の比率で混合する工程であって、前記窒化ホウ素粒子は、粒子(A)および粒子(B)から構成され、
粒子(A)は、平均粒径が55μm以上〜100μmであり、アスペクト比が1〜2である球状凝集体粒子であり、
粒子(B)は、平均粒径が8〜55μm未満の粒子であり、アスペクト比が1〜2である球状凝集体粒子であり、
前記窒化ホウ素全量に対する前記粒子(A)の体積比率が、80〜99体積%である工程、および、
前記混合された熱溶融性フッ素樹脂を、溶融成形してシート状成形品を得る工程、
を含むシート状成形品を製造する方法。
【背景技術】
【0002】
半導体は、微細化・高集積化に伴って発熱が増加することから、半導体を構成する材料として、高熱伝導性であり、かつ高絶縁性の放熱材を使用することが必要である。特に電力制御に用いられるパワー半導体、及びパワー半導体素子を組み込んだパワーモジュールでは、発熱が大きくなるため、熱を効率よく拡散させることが可能な放熱材の材料が望まれている。効率的な熱の除去には、放熱材としての高い熱伝導率だけではなく、発熱体に隙間なく密着することが必要である。特に、振動が大きい環境下では、クラックや欠損を生じないように、放熱材は柔軟性を有することが好ましい。
【0003】
高熱伝導性かつ高絶縁性の放熱材としては、セラミックシートが実用化されているが、加工性に劣り、柔軟性に乏しくクラックによる欠損が生じる恐れがある。特に激しい振動や、温度変化の大きい環境などでは、その懸念は大きい。更に、用途によっては、重量が大きいという欠点もある。また、セラミックシートが冷却対象物と密着するためには、その間に熱伝導グリースを塗布する必要があり、コストが高くなるという問題がある。樹脂と熱伝導性充填材(フィラー)からなる熱伝導性樹脂組成物も提案されているが、熱伝導性は未だ不十分である。また、樹脂として熱硬化性樹脂を使用する場合、硬化後の樹脂の柔軟性が無いといった欠点もある。また、実際よく使われている熱硬化性樹脂としてのシリコーンやエポキシ樹脂は絶縁性が十分ではなく、また長期間高温で使用すると、劣化し物性を維持することは難しい。そのため、振動が激しく、幅広い温度変化が起きる環境下では、クラックが生じたり、樹脂が劣化する恐れがあり、長期間使用するには課題が残る。
【0004】
温度差がある物体の伝熱量は、熱伝導する面積が大きく、物体間の距離が小さいほど良い。よって、パワー半導体の冷却効率を改善するには、放熱材は薄いシート形状が良く、その厚みは薄くなるほど冷却性能が改善される。しかし、薄くなりすぎると絶縁性およびシートの強度が低下する傾向にあり好ましくない。つまり、熱伝導率が大きく、薄く、柔軟性、強度および高絶縁性という性能を満たす放熱材が、パワー半導体の冷却用途には好ましい。
【0005】
一方、フッ素樹脂は、他の樹脂に比べて高い耐熱性、電気絶縁性、低誘電率、耐薬品性を兼ね備えており、そのため、回路基板の材料など、各種の電材に用いられている。特に分子鎖の水素が全てフッ素に置き換えられたパーフルオロ樹脂は、上記の特性(耐熱性、電気絶縁性、低誘電率、耐薬品性)が特に優れている。しかし、主なパーフルオロ樹脂は溶剤に不溶のため、充填材を混合するにはドライブレンドや溶融混合などを行う必要がある。溶剤可溶樹脂や、シリコーンやエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂では、樹脂、あるいはその架橋前の前駆体の溶液に充填材を分散させたのち、乾燥、硬化するワニス法で容易に充填材が十分に分散した樹脂組成物が得られる。これらワニス法で混合できる樹脂と比べると、パーフルオロ樹脂に充填材を分散させるには、以下の問題がある。
(1)溶融混合時、高い溶融粘度のために充填材に分散しにくい。(2)溶融混合時、高い溶融粘度のために充填材に応力がかかり、充填材が破壊されやすい。(3)溶融混合時、高い溶融粘度のために、フィラーの間隙に空気が残り、ボイドが形成されやすい。(4)特に、微細なフィラーを添加した際、組成物の溶融粘度が上昇して、上記(1)〜(3)に挙げた問題(充填材が分散しにくい、応力により充填材が破壊、ボイド形成)がより起こりやすくなる。つまり、熱伝導率が大きく、薄く、柔軟性を有し、高強度および高絶縁性という性能を満たす放熱材がパワー半導体の冷却用途には好ましい。
【0006】
熱伝導性および絶縁性の良い充填材(フィラー)として、窒化ホウ素(BN)が知られており、充填材形状による熱伝導率の配向の問題を解消するため、平板状BNが無配向に凝集してなるBN粒子が実用化されている(特許文献1)。しかしながら、この特許文献1により得られたシートの熱伝導率は、厚み方向に4.76W/mK程度と低く、不十分である。
【0007】
特許文献2には、フッ素樹脂と、熱伝導性無機粒子(窒化ホウ素)からなる絶縁性熱伝導シートが開示されている。しかしながら、この文献により得られたシートは、複数のシート状成形体を重ね合わせて圧延するという、複雑な工程を必要とするものであり、生産性に問題がある。また、得られるシートは、面内方向における熱伝導率が厚さ方向における熱伝導率よりも高いシートとなる。また、高い熱伝導率を得るためには、窒化ホウ素を90重量%も入れる必要があり、コストや成形性の面で問題がある。
【0008】
特許文献3には、熱溶融性フッ素樹脂と熱伝導性充填材(フィラー)からなる熱伝導性組成物が開示されている。しかしながら、フッ素樹脂はディスパージョン(分散液)を用いており、コーティングにより塗膜を形成しているため、形状は薄膜しかできない。また、得られた膜の熱伝導率は、大きいもので3〜4W/mKと低く、不十分である。
【0009】
特許文献4には、頻度粒度分布において、5〜30μmの領域に極大値B、100〜300μmの領域に極大値Aを有する2種類の窒化ホウ素粉末をゴム及び樹脂の少なくとも一方に含有させてなることを特徴とする組成物が開示されている。しかしながら、得られた樹脂組成物の熱伝導率は全て2W/mK以下と低く、不十分である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<1>本発明の樹脂組成物
本発明の第一の態様は、熱溶融性フッ素樹脂と窒化ホウ素粒子とを含む樹脂組成物である。
【0020】
(1)熱溶融性フッ素樹脂
本発明で使用する「熱溶融性フッ素樹脂」としては、熱溶融性フッ素樹脂として知られている樹脂の中から適宜選択することができる。例えば、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ビニリデンフルオライドおよびビニルフルオライドから選ばれるモノマーの重合体又は共重合体、または、これらモノマーとエチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチン、ヘキセン等の2重結合を有するモノマーや、アセチレン、プロピン等の3重結合を有するモノマーとの共重合体などを挙げることができる。具体的な熱溶融性フッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体などを挙げることができる。
【0021】
更に、本発明では、上記のフッ素系モノマー、及び非フッ素系モノマーから重合されるフッ素ゴム(フルオロエラストマー)も、本発明の熱溶融性フッ素樹脂として使用できる。架橋されていない状態のフッ素ゴム(フルオロエラストマー)は、加熱による流動性を示し、溶剤への溶解性もあるため、本発明の熱溶融性フッ素樹脂として好適である。具体的には、ビニリデンフルオライド・ヘキサフルオロプロピレン共重合体やビニリデンフルオライド・ヘキサフルオロプロピレン・テトラフルオロエチレン共重合体などを挙げることができる。必要により架橋剤(ポリアミン系、過酸化物系、ポリオール系)を添加しておき、成形性、耐熱性、接着性等をコントロールする事も可能である。フッ素ゴムとしては、例えば、デュポン株式会社製、バイトン(登録商標)を挙げることが出来る。
【0022】
これらの熱溶融性フッ素樹脂の中では、特にPFAやFEP、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体といったパーフルオロ樹脂が、化学的安定性、耐熱性、絶縁性、電気特性(誘電率、誘電損失)の観点から好ましく用いられる。PFAを使用する場合、PFA中のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)のアルキル基は、炭素数が1〜5であることが好ましく、1〜3であることがより好ましい。
【0023】
更には、高温溶融時の成形性から、融点以上の温度で流動性を有する、具体的にはそのメルトフローレート(MFR)が1g/10分より大きな値を持つパーフルオロ樹脂が好ましい。このような樹脂としては、PFA、FEP、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体が挙げられる。融点が高く、かつ熱流動性に優れたPFAが特に好ましい。求める特性に応じて、2種類以上の熱溶融性フッ素樹脂をブレンドして使うこともできる。
【0024】
耐熱性の観点から、熱溶融性フッ素樹脂の融点は、200℃以上が好ましく、より好ましくは250℃以上、更に好ましくは300℃以上である。本発明の熱溶融性フッ素樹脂してPFAやFEPを使用する場合、そのメルトフローレート(MFR)は、1g/10分以上であることが好ましく、5g/10分以上であることがより好ましく、10g/10分以上であることが更に好ましく、30g/10分以上であることが特に好ましい。原料として、溶融時の流動性が大きい熱溶融性フッ素樹脂を選ぶことにより、熱溶融性フッ素樹脂組成物を溶融成形する際に、フィラーの間隙に樹脂が入り込みやすくなり、また高い溶融粘度によりフィラーに物理的負荷がかかりフィラー構造が破壊されることを防止できる、などの効果が得られる。
【0025】
一方で、溶融時の流動性が大き過ぎる、すなわち熱溶融性フッ素樹脂の分子量が小さくなり過ぎると、分子の絡み合いが少なくなり、融点やガラス転移点以下の温度では樹脂が脆くなり、結果として成形品の柔軟性が低下して、脆く、割れやすくなる傾向があり、好ましくない。このため、柔軟性を向上させるという観点からは、PFAやFEPを用いる場合には、MFRは100g/10分以下であることが好ましく、80g/10分以下であることがより好ましく、70g/10分以下であることがより好ましく、60g/10分以下であることが特に好ましい。本発明の熱溶融性フッ素樹脂が共重合体を構成する各モノマーの組成比(コモノマーの含有量)は、特に定めは無いが、樹脂に求められる柔軟性、硬さ、強度により、適宜調整して使用できる。
【0026】
以上を総合すると、本発明の熱溶融性フッ素樹脂としてパーフルオロ樹脂を使用する場合、MFRは、1〜100g/10分であることが好ましく、5〜80g/10分であることがより好ましく、10〜70g/10分以上であることが更に好ましく、30〜60g/10分であることが特に好ましい。
【0027】
(2)本発明の窒化ホウ素粒子
本発明の組成物は、充填材として窒化ホウ素粒子(以下「BN」という場合がある)を含むことを特徴とするものである。本発明の窒化ホウ素粒子は、窒化ホウ素粒子(A)と窒化ホウ素粒子(B)から構成されている。
【0028】
(ア)窒化ホウ素粒子(A)
窒化ホウ素粒子(A)は、平均粒径が55μm以上〜100μmであり、アスペクト比(球状粒子の長径/短径)が1〜2である球状凝集体粒子である。この球状窒化ホウ素凝集体粒子は、球形状の粒子であり、窒化ホウ素の一次粒子の凝集体である。この球状凝集体粒子は扁平状の一次粒子の凝集体であることが好ましい。この球状凝集体粒子は、例えば、特許文献5、特許文献6に記載の方法で製造できる。この粒子の具体例としては、電気化学工業株式会社製:FP70、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製:PTX60等を挙げることが出来る。
【0029】
本発明の窒化ホウ素粒子(A)のアスペクト比は1〜2である。窒化ホウ素粒子(A)のアスペクト比が2より大きくなると、フッ素樹脂組成物を成形した成形品の内部で、成形条件により窒化ホウ素粒子が溶融成形時の流動方向に配向することにより、特定方向の熱伝導率が低下するといった不具合を生じさせ得る。また、薄いシートを成形する際は、プレス成形時に内部で充填材の移動可能な距離が短いために、アスペクト比が2より大きくなると(異方形になると)特定方向へ流れにくくなり、充填材が一様に分布しなかったり、その結果、成形されたシートの強度が低下したり、シート中に空間(ボイド)が形成されるといった不具合も生じさせ得る。
【0030】
本発明の窒化ホウ素粒子(A)の平均粒径は55μm以上〜100μmである。この範囲の大粒径の窒化ホウ素粒子を用いることで、樹脂組成物から製造された成形品の内部で樹脂/フィラーの界面が減少して、効率的な熱伝導経路を形成でき、熱伝導率を向上させることが出来る。この粒子(A)の平均粒径が55μmより小さいと、溶融粘度上昇によって、樹脂組成物の成形性が悪くなり、また、製造された成形品の熱伝導率が低下する。一方、粒子(A)の平均粒径が100μmを超えると、製造された成形品である(300μm以下の)薄いシートを作製する際に、窒化ホウ素粒子が破壊されやすくなる。更に、シートの強度を低下させ、また、シート中に空間(ボイド)が出来やすくなるため、成形品であるシートの破壊電圧を低下させるという問題がある。これらの点から、粒子(A)の平均粒径は60〜90μmであることがより好ましい。
【0031】
なお、本明細書において、「平均粒径」とは、レーザー回折・散乱法によって得られる粒度分布における積算値50%(体積基準)での粒径を意味する。
【0032】
(イ)窒化ホウ素粒子(B)
本発明の窒化ホウ素粒子(B)は、平均粒径が8〜55μm未満の粒子である。上記のように、窒化ホウ素粒子(A)平均粒径が55μm以上〜100μmであることから、窒化ホウ素粒子(A)よりも小さい粒径の窒化ホウ素粒子(B)を併用することで、300μm以下の薄いシートを溶融して圧縮成形する際に、窒化ホウ素粒子(A)のみの時より、より効率的なパッキングが可能となり、結果として効率的な熱伝導経路を形成することができる。
【0033】
粒子(B)の平均粒径が8μmより小さい場合、即ち、細かな粒子の比率が増えると、樹脂組成物の溶融粘度が上昇して十分な混合がされず、成形品に空間(ボイド)が形成され、また窒化ホウ素粒子の破壊を生じさせ、結果として、成形品に十分な熱伝導経路が形成出来なくなる。また、細かな粒子が増えると、窒化ホウ素/樹脂、窒化ホウ素/窒化ホウ素の界面が増大して、熱抵抗が高くなり熱伝導率が低下するという問題が生じる。一方、粒子(B)の平均粒径が55μmを超えると、上記の効率的なパッキングによる熱伝導経路形成の効果があまり得られないという問題が生じる。これらの点から、粒子(B)の平均粒径は、10〜50μmであることがより好ましく、20〜50μmであることが更に好ましく、25〜50μmであることが特に好ましい。
【0034】
窒化ホウ素粒子(B)の平均粒径は、窒化ホウ素粒子(A)の平均粒径に対して0.15倍以上であることが好ましく、0.2倍以上であることがより好ましく、0.3倍以上であることが更に好ましく、0.4倍以上が最も好ましい。粒子(A)に対して、粒子(B)が小さ過ぎる、すなわち粒子(A)の0.15倍より小さいと、窒化ホウ素/樹脂、窒化ホウ素/窒化ホウ素の界面が増大して熱抵抗が高くなり熱伝導率が低下するため好ましくない。窒化ホウ素粒子(B)の平均粒径は、窒化ホウ素粒子(A)の平均粒径に対して0.8倍以下であることが好ましく、0.7倍以下であることがより好ましい。粒子(A)に対して、粒子(B)が大き過ぎる、すなわち粒子(A)の0.8倍より大きいと、上記の効率的なパッキングによる熱伝導経路形成の効果があまり得られなくなり、好ましくない。
【0035】
以上を総合すると、窒化ホウ素粒子(B)の平均粒径は、窒化ホウ素粒子(A)の平均粒径に対して0.15〜0.8倍の範囲内であることが好ましく、粒子(A)の平均粒径に対して0.2〜0.8倍の範囲内であることがより好ましく、0.3〜0.7倍の範囲内であることが更に好ましく、0.4〜0.7倍の範囲内であることが最も好ましい。粒子(B)の平均粒径がこの範囲であると、薄いシート形状の成形品内で、熱伝導経路構造が効率的に形成されるため好ましい。
【0036】
窒化ホウ素粒子(B)としては、扁平状、球状、不定形などの形状の窒化ホウ素粒子を使用できるが、窒化ホウ素粒子(A)と同様に、アスペクト比が1〜2である球状凝集体粒子を使用することが好ましい。この球状凝集体粒子は扁平状の一次粒子の凝集体であることが更に好ましい。球状であるため溶融成形時に動きやすく、薄いシートを成形した場合でも、粒子(A)の粒間に粒子(B)がパッキングされ易い。また、球状凝集体粒子は熱伝導的に異方性が無い為、より効率良く熱伝導経路が形成される。更に、溶融成形時に動きやすく、そして分散しやすいことから、成形品に空間(ボイド)が出来にくく、結果として均一な熱伝導性を有する成形品を製造出来る。この粒子の具体例としては、電気化学工業株式会社製:SGPS、同社製:FP40を挙げることが出来る。
【0037】
なお、窒化ホウ素異方性粒子は、結晶構造により平板状の形状を有する窒化ホウ素の粒子であり、一般に入手可能であり、「窒化ホウ素異方性粒子」の「アスペクト比」は、「平均粒径/平板厚さ」として計算される。
【0038】
(3)窒化ホウ素粒子の組成比率
本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物は、窒化ホウ素全量に対する粒子(A)の体積比率が、80〜99体積%である。窒化ホウ素全量のうち、粒子(A)の占める体積比率は、85〜98体積%であることが好ましく、90〜98体積%であることが更に好ましく、93〜98体積%であることが特に好ましい。
【0039】
なお、「窒化ホウ素全量」とは、上記粒子(A)と、粒子(B)の合計量を意味するが、他の形状の窒化ホウ素を含む場合には、この窒化ホウ素を含む量が「窒化ホウ素全量」となる。
【0040】
(4)熱溶融性フッ素樹脂と窒化ホウ素粒子の組成比率
本発明は、30〜60体積%の熱溶融性フッ素樹脂と、40〜70体積%の窒化ホウ素粒子とを含む樹脂組成物である。本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物に占める窒化ホウ素粒子の体積組成比は、70体積%以下、好ましくは65体積%以下、更に好ましくは60体積%以下である。
【0041】
窒化ホウ素粒子の体積組成比が70体積%を超えると、溶融粘度が増大して樹脂の成形性が悪化して加工しにくくなり、また製造したシート等の成形品の柔軟性が低下して脆くなる。特に薄い(例えば、100〜300μm)のシートを成形する場合には、熱溶融性フッ素樹脂が窒化ホウ素(凝集体)粒子間に充填しきれず、空間(ボイド)が形成される恐れがある。特に薄い(100〜300μm)のシート成形時では、成形時の溶融圧縮で、窒化ホウ素(凝集体)粒子の移動距離が少なく、自由度が低いため、重なった粒子が破壊されやすくなるが、樹脂の量が増えることで、移動の自由が増加して、粒子が破壊されずにパッキングされやすくなり好ましい。また、窒化ホウ素が多すぎると、コストが増大し、また成形品の製造工程で窒化ホウ素粒子が破壊されやすく、粒子/粒子間、粒子/樹脂間の界面が増加して、シート等の成形品の熱抵抗が増加するため熱伝導率が低下するという問題もある。一方で、必要な熱伝導性を得るためには、窒化ホウ素を40体積%以上含む必要があり、45体積%以上含むことが好ましく、50体積%以上含むことが更に好ましい。
【0042】
また、本発明の樹脂組成物では、30〜60体積%の熱溶融性フッ素樹脂を含有させることにより、組合せる熱溶融性フッ素樹脂により柔軟性を有する成形品を作製することができる。本発明の樹脂組成物は、30体積%以上の熱溶融性フッ素樹脂を含有するため、曲げた際に割れずに曲がるシートを作製することが出来る。また、得られたシートは、柔軟性が求められる放熱材として、特に、振動が激しい環境下では、柔軟性を有する放熱材が、振動に追従するため適している。また、上記の窒化ホウ素粒子の含有量を考慮すると、樹脂組成物中における熱溶融性フッ素樹脂は60体積%以下であり、55体積%以下であることが好ましく、50体積%以下であることがより好ましい。以上を総合すると、本発明の樹脂組成物では、熱溶融性フッ素樹脂の比率が35〜50体積%であり、且つ窒化ホウ素粒子の比率が50〜65体積%であることが好ましい。
【0043】
(5)任意の添加剤
本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物には、求める特性に応じて、窒化ホウ素粒子以外の充填材、例えば、無機充填材、有機充填材を適宜加えることもできる。更に、本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物には、他の慣用される添加剤、例えば、安定化剤(熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤など)、分散剤、帯電防止剤、着色剤、潤滑剤などを1種又は2種以上組合せて使用することが出来る。
【0044】
<2>本発明の成形品
本発明の第二の態様は、本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物から溶融成形により製造された成形品である。本発明の成形品は、厚みが100〜300μmの範囲内のシート形状あることが好ましい。本発明の成形品は、上記のようにして得られた、粒子(A)と粒子(B)の2種類の窒化ホウ素粒子を所定の比率で含有するため、窒化ホウ素粒子間が効率的な伝導経路が形成され、結果として高い熱伝導率を有することが出来る。本発明の成形品の熱伝導率は、8.0W/mK以上であることが好ましく、10.0W/mK以上であることが更に好ましい。本発明の成形品は、2種類の異なる大きさの粒子を含み、その粒子間の空間に樹脂が配置されるため、優れた柔軟性も有する。
【0045】
<3>本発明の製造方法
本発明の成形品は、本発明の原料の熱溶融性フッ素樹脂と、窒化ホウ素粒子に、必要により他の添加剤等を加え、混合した後に、公知の溶融成形方法により成形される。つまり、本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物から本発明の成形品を製造する方法には、熱溶融性フッ素樹脂と充填材及び必要に応じて添加剤を混合した後に、熱溶融性フッ素樹脂が溶融する温度及び圧力下で成形することにより製造することが出来る。より具体的には、例えば、以下の方法により製造することが出来る。
【0046】
本発明の一つの態様は、熱溶融性フッ素樹脂と窒化ホウ素粒子を、30〜60体積%対40〜70体積%の比率で混合する工程であって、前記窒化ホウ素粒子は、粒子(A)および粒子(B)から構成され、
粒子(A)は、平均粒径が55μm以上〜100μmであり、アスペクト比が1〜2である球状凝集体粒子であり、
粒子(B)は、平均粒径が8〜55μm未満の粒子であり、
前記窒化ホウ素全量に対する前記粒子(A)の体積比率が、80〜99体積%である工程、および
前記混合された熱溶融性フッ素樹脂を、溶融成形してシート状成形品を得る工程、
を含むシート状成形品を製造する方法である。
【0047】
以下、混合工程および、溶融成形工程について説明する。
【0048】
(ア)混合工程
本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物は、上記のように熱溶融性フッ素樹脂と窒化ホウ素粒子を含むものである。本発明の樹脂組成物には、窒化ホウ素粒子(A)として、球状凝集体粒子が含まれることから、樹脂が溶融した状態で混合される溶融混練法では、混練時のせん断力によって、球状凝集体粒子が破壊される可能性がある。このため、混合する工程は、溶融状態ではなく、ドライブレンド・湿式混合・共凝集法によって行われることが好ましい。
【0049】
ドライブレンドでは、熱溶融性フッ素樹脂、窒化ホウ素粒子、および任意添加剤を、乾燥状態で混合して、通常使用されている混合器を用いて混合して混合組成物を得る。また、湿式混合では、溶媒・分散媒となる液体に、熱溶融性フッ素樹脂、窒化ホウ素粒子等を、溶解または分散させて、液状又はスラリー状の混合組成物を得る。また、共凝集法により、熱溶融性フッ素樹脂の分散液と窒化ホウ素粒子等を、適宜、液体に分散させた後に攪拌・凝集させて混合組成物を得てもよい。
【0050】
湿式混合時の溶媒・分散媒としては、水や有機溶剤などの液体を用いることができる。溶媒・分散媒としては、熱溶融性フッ素樹脂に対して可溶性または分散性を有する液体を使用することが好ましい。本発明の熱溶融性フッ素樹脂として、PFAを使用する場合、分散媒としては、PFA粒子を良く分散させるために、表面エネルギーの小さい有機溶剤を使用することが好ましく、フッ素を含有するフッ素系溶剤を使用することが好ましい。環境負荷の観点からは、フッ素系溶剤としては、炭素・フッ素・水素からなるハイドロフルオロカーボン(HFC)や、更にエーテル結合を含むハイドロフルオロエーテル(HFE)を使用することが好ましい。具体的には、三井・デュポンフロロケミカル(株)製 Vertrel(登録商標)XF(1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン)やVertrel(登録商標)スープリオン(商標)(メトキシパーフロロヘプテン)、旭硝子株式会社製アサヒクリン(登録商標)AC−6000(1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,−トリデカフルオロオクタン)、住友スリーエム(株)社製Novec(登録商標)7200(1−エトキシ−ノナフルオロブタン)、Novec(登録商標)7500(3−エトキシ−1,1,1,2,3,4,4,5,5,6,6,6−ドデカフルオロ−2−(トリフルオロメチル)−ヘキサン)、Novec(登録商標)7600(1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−4−(1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロポキシ)−ペンタン)などが挙げられる。PFAのような溶剤不溶性の熱溶融性フッ素樹脂を使用する場合、混合媒体に少量の溶剤可溶樹脂を溶解させると、成形品であるシートの成膜性および、得られたシートの柔軟性を改善できる。溶剤可溶樹脂としては、各種の樹脂を用いることができるが、フッ素ゴム(フルオロエラストマー)やポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)、その他非結晶性のフッ素樹脂のような溶剤可溶性フッ素樹脂を使用することが、熱溶融性フッ素樹脂の分散性、成形品の耐熱性および電気絶縁性の向上という観点から好ましい。また、成形されたシートの柔軟性および電気特性(絶縁性、低誘電率)の観点からは、添加する溶剤可溶樹脂としては、フッ素ゴム(フルオロエラストマー)が好ましい。
【0051】
本発明の混合工程では、上記のように原料の熱溶融性フッ素樹脂と、窒化ホウ素粒子に、必要により他の添加剤等を加え、液体に分散させて湿式混合により、液体またはスラリー状の混合物を作製することができる。そして、得られた液状またはスラリー状の混合組成物は、平らな基材上に塗布してコーティングして使用することができる。コーティングによって得られたシートは、ボイド(空隙)を除去するために、以下に説明する溶融成形を行うことが好ましい。溶融成形により、ボイドが無くなり、密に充填されるため、シートの熱伝導率や強度が改善される。
【0052】
また、本発明の製造方法では、熱溶融性フッ素樹脂を含む粉体と、窒化ホウ素粒子を混合、あるいは複合化して粉体塗料としてコーティングを行い、その後、以下に説明する溶融成形工程で、融点以上に加熱する方法を採用してもよい。
【0053】
(イ)溶融成形工程
本発明の溶融成形工程としては、溶融押出成形、射出成形、ブロー成形、トランスファー成形、溶融圧縮成形等の公知の溶融成形方法を利用できるが、成形時に、熱溶融性フッ素樹脂組成物中の窒化ホウ素粒子にせん断力をかけないように、溶融押出成形、溶融圧縮成形の方法を使用することが好ましく、溶融圧縮成形の方法を使用することが更に好ましい。
【0054】
また、溶融圧縮成形する際の圧力は、圧力が高すぎると、加圧時に窒化ホウ素凝集体の破壊を招き、結果として熱伝導性を低下させる恐れがある。一方、圧力が低すぎると、窒化ホウ素粒子間に樹脂が十分充填されず空間(ボイド)が形成されることから、結果として熱伝導性が低下することになる。具体的には、溶融圧縮成形工程においては、2〜30MPaの圧力で成形することが好ましい。また、この溶融圧縮成形工程は、融点以上に加熱した状態を維持して行うことが好ましい。そして、溶融圧縮成形工程は、金型や加熱圧縮ロールを使用して圧縮する方法が好ましい。更に、成形品からボイドを減少させることができるため、真空溶融圧縮成形機を使用することが好ましい。
【0055】
本発明では、溶融成形により、熱溶融性フッ素樹脂を融点以上に加熱して溶融させてシート状の成形品を製造するため、空間(ボイド)が無く密に充填されたシートが成形されることから、得られたシートの熱伝導率や強度が改善される。
【0056】
<4>原材料の物性測定
(1)融点(融解ピーク温度)
熱溶融性フッ素樹脂の融点は、示差走査熱量計(Pyris1型DSC、パーキンエルマー社製)を用いて測定した。試料、約10mgを秤量して専用のアルミパンに入れ、専用のクリンパーによってクリンプした後、DSC本体に収納し、150℃から360℃まで10℃/分で昇温をする。この時得られる融解曲線から融解ピーク温度(Tm)を求めた。
【0057】
(2)メルトフローレート(MFR)
熱溶融性フッ素樹脂のメルトフローレート(MFR)は、ASTM D−1238−95に準拠して、耐食性のシリンダー、ダイ、ピストンを備えたメルトインデクサー(東洋精機製)を用いて、5gの試料粉末を372±1℃に保持されたシリンダーに充填して5分間保持した後、5kgの荷重(ピストン及び重り)下でダイオリフィスを通して押出し、この時の押出速度(g/10分)をMFRとして求めた。
【0058】
(3)アスペクト比の定義・測定法
(ア)球状窒化ホウ素粒子のアスペクト比
窒化ホウ素粒子を、走査電子顕微鏡(SEM、日立製作所製、S-4500)にて観察して、粒子の長径/短径をアスペクト比とした(n=30)。
(イ)窒化ホウ素異方性粒子のアスペクト比
まず、粒子の「平均粒径」を、粒度分布における積算値50%(体積基準)として、レーザー回折・散乱法によって測定する。次に、窒化ホウ素異方性粒子は、形状が平板状であるため、上記の走査電子顕微鏡にて平板の厚みを測定し(n=30)、「平均粒径/平板厚さ」を窒化ホウ素異方性粒子のアスペクト比とした。
【0059】
<5>本発明の熱溶融性フッ素樹脂組成物の評価方法
(1)熱伝導率の測定
熱溶融性フッ素樹脂組成物の熱伝導率の測定は、以下の2つの方法の何れかを使用して行った。すなわち、1mm厚のサンプル1については、(A)レーザーフラッシュ法により測定し、200μm厚のサンプル2については、(B)一方向熱流定常比較法により測定した。
【0060】
(A)レーザーフラッシュ法(方法A)
熱伝導率は、樹脂組成物を円板フィルムの形状に成形した成形品を使用して評価した。具体的には、圧縮成形機(ホットプレスWFA−37、神藤金属工業所製、シリンダー径:152mm)を用いて、所定の金型(寸法直径55mm、高さ30mm)に組成物を入れ、360℃で15分間保持して樹脂を溶融させた後、所定の圧力で樹脂がはみ出るまで圧縮し室温で15分間冷却して直径55mm、厚み1mmの円板状に成形して、成形品(サンプル1)とした。
【0061】
そして、JIS R1611に準拠されたレーザーフラッシュ熱伝導率測定装置(NETZSCH社製、LFA457)を用いて、円板フィルム成形品(サンプル1:厚み1mm)の厚み方向の熱拡散率を測定し、下記の式に基づいて熱伝導率を求めた。
【0062】
熱伝導率(W/mK)=熱拡散率(mm
2/s)x 密度(g/cm
3)x 比熱(J/kgK)密度は、円板フィルムの重量・厚みから算出した。
【0063】
(B)一方向熱流定常比較法による熱伝導率の測定(方法B)
熱伝導率測定装置(株式会社レスカ製、TCM1000)を用いて、ASTM D5470−1に記載の方法(定常熱流法)に準拠して、20mm角の正方形にカットされたフィルム成形品(厚さ:200μm:サンプル2)の有効熱伝導率を測定した。この時、熱伝導シリコングリース(信越化学工業株式会社製 オイルコンパウンドG−747、熱伝導率0.9W/mK)をフィルム両面に塗布し、装置にセットしたときのグリース層の厚みを両面とも10μmとした。そして、得られた有効熱伝導率の値から、グリース層部分を除外し、フィルム成形品自体の熱伝導率を下式に基づき算出した。
【0064】
[有効熱伝導率(全体)] = [(グリース層体積比 / グリース層熱伝導率) + (フィルム成形品体積比 / フィルム成形品熱伝導率) ]
-1
【0065】
(2)破壊電圧測定
上記の圧縮成形機を用いて、所定の金型に、組成物を入れ、360℃で15分間保持して樹脂を溶融させた後、所定の圧力で圧縮し室温で15分間冷却して厚み200μmの板状に成形して成形品(サンプル3)とした。
【0066】
YSS式耐電破壊試験機(安田精機製作所製、No.175)を用いて、JIS C−2110に準拠して、破壊電圧を室温で測定した。
【0067】
(3)柔軟性の測定
樹脂組成物から得られた成形品の柔軟性については、以下のように、目視による脆さ評価のランクにより、評価した。
【0068】
上記の円板状の成形品(サンプル3:直径55mm、厚み200μm)を水平面上に置いて、端部2点をピンセットで持ち、円の中央部が屈曲するように片方の端部を持ち上げた時の、挙動から、◎、○、△、×という4段階の基準で、脆さランクとして評価した。
【0069】
◎:屈曲角度が目視で90°程度屈曲させてもクラックが発生しない。
○:屈曲角度が目視で45〜90°の範囲でクラックが発生する。
△:屈曲角度が目視で20〜45°の範囲でクラックが発生する。
×:屈曲角度が目視で20°以下でクラックが発生する。
【実施例】
【0070】
本発明の実施例、及び比較例では、以下の原料を使用した。
(使用原料)
(1)熱溶融性フッ素樹脂
PFA1 MFR:40g/10分。融点304℃。
乳化重合により得られたテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体の粉末。
【0071】
PFA2 MFR:75g/10分。融点300℃。
乳化重合により得られたテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体の粉末。
【0072】
PFA3 MFR:12g/10分。融点307℃
乳化重合により得られたテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体の粉末。
【0073】
フッ素ゴム デュポン株式会社 バイトン(登録商標)GF−200S
ビニリデンフルオライド・ヘキサフルオロプロピレン・テトラフルオロエチレン・臭化オレフィン(架橋点モノマー)共重合体。板状の固形物(室温)。
【0074】
(2)窒化ホウ素球状凝集体粒子 平均粒径 アスペクト比
電気化学工業株式会社、SGPS、 12μm 1〜2
電気化学工業株式会社、FP40、 40μm 1〜2
電気化学工業株式会社、FP70、 70μm 1〜2
モメンティブ・パフォーマンス・
マテリアルズ、PTX60、 60μm 1〜2
モメンティブ・パフォーマンス・
マテリアルズ、AC6091、 125μm 1〜2
【0075】
(3)窒化ホウ素異方性粒子 平均粒径 アスペクト比
電気化学工業株式会社、XGP、 30μm 150
モメンティブ・パフォーマンス・
マテリアルズ、PT110、 45μm 23
モメンティブ・パフォーマンス・
マテリアルズ、PT120、 12μm 36
【0076】
(実施例1)
熱溶融性フッ素樹脂としてPFA1と、充填材として、(A)窒化ホウ素球状凝集体粒子(平均粒径70μm)と、(B)窒化ホウ素球状凝集体粒子(平均粒径40μm)を、それぞれ43:54:3の体積比率で混合して、合計量が30gとなるように配合し、コーヒーミル(山田電器工業株式会社製、BC−1752J)を用いて、常温下で15秒間ドライブレンドを行い、混合組成物を得た。
【0077】
所定の金型(寸法直径55mm、高さ30mm)に得られた混合組成物を入れて、圧縮成形機(ホットプレスWFA−37、神藤金属工業所製、シリンダー径:152mm)を用いて、360℃で15分間保持した後、圧縮成形機のシリンダー内圧(油圧)1MPaにて溶融圧縮成形を行って、成形品サンプルを得た。得られた成形品サンプルについて、熱伝導率(方法Bによる)、破壊電圧、柔軟性を測定した。熱伝導率測定結果を表1に示し、破壊電圧および柔軟性の測定結果については表2に示す。この成形品の熱伝導率は、14.3W/mKという極めて良好な結果が得られた。なお、本発明の体積基準の含有割合(体積比率:体積%)は、窒化ホウ素粒子の比重(2.1〜2.3)、及び使用する各種樹脂の比重、及びそれらの重量比から求めることができる。
【0078】
(比較例1)
充填材としては、(A)窒化ホウ素球状凝集体粒子(平均粒径70μm)のみを使用した。すなわち、熱溶融性フッ素樹脂としてPFA1と、(A)窒化ホウ素球状凝集体粒子(平均粒径70μm)を、それぞれ43:57の体積比率で混合する以外は、実施例1と同様の方法により組成物を作製し、同様の条件で成形サンプルを作製して評価した。この成形品の熱伝導率は、7.6W/mKという結果が得られた。
【0079】
(比較例2)
比較例1において、窒化ホウ素球状凝集体粒子(平均粒径70μm)に代えて、窒化ホウ素球状凝集体粒子(平均粒径40μm)を使用した以外は同様の条件で組成物を作製し、同様の条件で成形サンプルを作製して評価した。この成形品の熱伝導率は5.2W/mKとなり、比較例1よりは低下した。
【0080】
(比較例3)
比較例1において、窒化ホウ素球状凝集体粒子(平均粒径70μm)に代えて、窒化ホウ素球状凝集体粒子(平均粒径12μm)を使用した以外は同様の条件で、組成物を作製し、同様の条件で成形サンプルを作製して評価した。この成形品の熱伝導率は4.2W/mKとなり、比較例1よりかなり低下した。
【0081】
(比較例4)
比較例1において、窒化ホウ素球状凝集体粒子(平均粒径70μm)に代えて、窒化ホウ素球状凝集体粒子(平均粒径125μm)を使用した以外は同様の条件で組成物を作製し、同様の条件で成形サンプルを作製して評価した。この成形品の熱伝導率は4.7W/mKとなり、比較例1よりは低下した。
【0082】
(比較例5)
実施例1において、充填材として、(A)窒化ホウ素球状凝集体粒子(平均粒径70μm)に代えて、窒化ホウ素球状凝集体粒子(平均粒径125μm)を使用した以外は同様の条件で、組成物を作製し、同様の条件で成形サンプルを作製して評価した。この成形品の熱伝導率は4.3W/mKとなり、比較例1よりかなり低下した。
【0083】
(比較例6)
実施例1において、(B)窒化ホウ素球状凝集体粒子の量を3%に維持しつつ、(A)窒化ホウ素球状凝集体粒子の量を54%から70%に増加させ、代わりにPFA1の量を43%から27%に減少させた以外は、同様の条件で混合して組成物を得た。その後、組成物を成形して、成形品を作製し、同様に評価した。この成形品の熱伝導率は、4.6W/mKとなり、比較例1よりは低下した。
【0084】
(実施例2)
実施例1において、(B)窒化ホウ素球状凝集体粒子(平均粒径40μm)の代わりに、(B)窒化ホウ素異方性粒子(平均粒径30μm:アスペクト比:150)を使用した以外は、同様の条件で、混合して組成物を得た。その後、組成物を成形して、成形品を作製し、同様に評価した。この成形品の熱伝導率は10.9W/mKという良好な結果が得られた。
【0085】
(実施例3)
実施例1において、(A)窒化ホウ素球状凝集体粒子の量を54%に維持しつつ、(B)窒化ホウ素球状凝集体粒子の量を3%から1%に減少させ、代わりにPFA1の量を43%から45%に増加させた以外は、同様の条件で混合して組成物を得た。その後、組成物を成形して、成形品を作製して同様に評価した。この成形品の熱伝導率は、10.9W/mKという良好な結果が得られた。
【0086】
(実施例4)
実施例1において、(A)窒化ホウ素球状凝集体粒子の量を54%に維持しつつ、(B)窒化ホウ素球状凝集体粒子の量を3%から6%に増加させ、代わりにPFA1の量を43%から40%に減少させた以外は、同様の条件で混合して組成物を得た。その後、組成物を成形して、成形品を作製して同様に評価した。この成形品の熱伝導率は、8.8W/mKと比較例1よりも良好な結果が得られた。
【0087】
(実施例5)
実施例1において、(B)窒化ホウ素球状凝集体粒子の量を3%に維持しつつ、(A)窒化ホウ素球状凝集体粒子の量を54%から60%に増加させ、代わりにPFA1の量を43%から37%に減少させた以外は、同様の条件で混合して組成物を得た。その後、組成物を成形して、成形品を作製して同様に評価した。この成形品の熱伝導率は、10.4W/mKという良好な結果が得られた。
【0088】
(実施例6)
実施例1において、(B)窒化ホウ素球状凝集体粒子の量を3%に維持しつつ、(A)窒化ホウ素球状凝集体粒子の量を54%から50%に減少させ、代わりにPFA1の量を43%から47%に増加させた以外は、同様の条件で混合して組成物を得た。その後、組成物を成形して、成形品を作製して同様に評価した。この成形品の熱伝導率は、11.2W/mKとかなり良好な結果が得られた。
【0089】
(実施例7)
実施例1において、(A)窒化ホウ素球状凝集体粒子の量を54%に維持しつつ、(B)窒化ホウ素球状凝集体粒子の量を3%から9%に増加させ、代わりにPFA−1の量を43%から37%に減少させて混合物を使用した以外は、同様の条件で混合して組成物を得た。その後、組成物を成形して、成形品を作製して同様に評価した。この成形品の熱伝導率は、14.7W/mKと極めて良好な結果が得られた。
【0090】
(実施例8)
実施例1において、熱溶融性フッ素樹脂を、PFA1からPFA2に代えた以外は、同様の条件で混合して組成物を得た。その後、組成物を成形して、成形品を作製して同様に評価した。この成形品の熱伝導率は10.5W/mKと良好な結果が得られた。
【0091】
(実施例9)
実施例1において、熱溶融性フッ素樹脂を、PFA1からPFA3に代えた以外は、同様の条件で混合して組成物を得た。その後、組成物を成形して、成形品を作製して同様に評価した。この成形品の熱伝導率は8.1W/mKと比較的良好な結果が得られた。
【0092】
(実施例10)
実施例1において、(B)窒化ホウ素球状凝集体粒子(平均粒径40μm)の代わりに、(B)窒化ホウ素球状凝集体粒子(平均粒径12μm)を使用した以外は、同様の条件で、混合して組成物を得た。その後、組成物を成形して、成形品を作製し、同様に評価した。この成形品の熱伝導率は8.7W/mKと比較例1よりも良好な結果が得られた。
【0093】
(実施例11)
実施例1において、(A)窒化ホウ素球状凝集体粒子(平均粒径70μm)の代わりに、(A)窒化ホウ素球状凝集体粒子(平均粒径60μm)を使用し、(B)窒化ホウ素球状凝集体粒子(平均粒径40μm)の代わりに、(B)窒化ホウ素異方性粒子(平均粒径45μm:アスペクト比:23)を使用した以外は、同様の条件で、混合して組成物を得た。その後、組成物を成形して、成形品を作製し、同様に評価した。この成形品の熱伝導率は10.5W/mKと良好な結果が得られた。
【0094】
(実施例12)
実施例11において、(B)窒化ホウ素異方性粒子(平均粒径45μm:アスペクト比:23)の代わりに(B)窒化ホウ素異方性粒子(平均粒径12μm:アスペクト比:36)を使用した以外は、同様の条件で、混合して組成物を得た。その後、組成物を成形して、成形品を作製し、同様に評価した。この成形品の熱伝導率は10.2W/mKと良好な結果が得られた。
【0095】
(実施例13)
実施例11において、(B)窒化ホウ素異方性粒子(平均粒径45μm:アスペクト比:23)の代わりに、(B)窒化ホウ素球状凝集体粒子(平均粒径40μm)を使用した以外は、同様の条件で、混合して組成物を得た。その後、組成物を成形して、成形品を作製し、同様に評価した。この成形品の熱伝導率は14.8W/mKと極めて良好な結果が得られた。
【0096】
(実施例14)
熱溶融性フッ素樹脂としてPFA1と、充填材として(A)球状窒化ホウ素粒子(平均粒径70μm)と、(B)球状窒化ホウ素粒子(平均粒径40μm)を43:54:3の体積比で計量し、コーヒーミル(山田電器工業株式会社製、BC−1752J)を用いて常温下で15秒間ドライブレンドし粉体混合物を得た。
【0097】
フッ素系溶剤(Vertrel(登録商標)スープリオン(商標):以下スープリオンと記す。)を上記の粉体混合物へ固形分濃度28.5重量%になるように投入し、自転公転式ミキサー(株式会社シンキー製あわとり練太郎ARE−250)を用いて、2000rpmで5分間混合して、スープリオン分散体100gを得た。
【0098】
キャビティー部分の深さが1.16mmの所定の金型(寸法直径50mm、高さ18mm)に厚さ50μmのポリイミドフィルムを直径50mmにカットしたものを3枚敷き詰めキャビティーの深さを1.01mmにした。得られた分散体をキャビティー内に流し込み、金属棒をキャビティー上面の面に合わせ、金属棒ですり切るかたちでキャビティー内に分散体を均一な高さで仕込んだ。ドラフト内で常温にて30分間乾燥させた後、200℃に設定したオーブン(エスペック株式会社製 SUPER−TEMP.OVEN STPH−101)内で3時間乾燥させた。圧縮成形機(ホットプレスWFA−37、神藤金属工業所製、シリンダー径:152mm)を用いて、400℃で12分間保持した後、圧縮成形機のシリンダー内圧(油圧)1.7MPaで溶融圧縮成形を行い、成形品サンプルを得た。得られた成形品サンプルについて、熱伝導率、破壊電圧、柔軟性を測定した。この成形品の熱伝導率は16.0W/mKと極めて良好な結果が得られた。
【0099】
(実施例15)
熱溶融性フッ素樹脂としてPFA1と、充填材として(A)球状窒化ホウ素粒子(平均粒径70μm)と、(B)球状窒化ホウ素粒子(平均粒径40μm)を34.3:54:3の体積比で計量し、コーヒーミル(山田電器工業株式会社製、BC−1752J)を用いて常温下で15秒間ドライブレンドし粉体混合物を得た。
【0100】
予めフッ素ゴム(デュポン(株)バイトン(登録商標)GF−200S)を5重量%の固形分濃度でフッ素系溶剤(スープリオン)に溶解させたものを準備し、最終的な熱溶融性フッ素樹脂組成物中でフッ素ゴムが8.7体積%となるようにフッ素ゴム/スープリオン溶液を計量して粉体混合物に投入し、自転公転式ミキサー(株式会社シンキー製あわとり練太郎ARE−250)を用いて、2000rpmで5分間混合して、固形分濃度28.5重量%のスープリオン分散体100gを得た。
【0101】
キャビティー部分の深さが1.16mmの所定の金型(寸法直径50mm、高さ18mm)に厚さ50μmのポリイミドフィルムを直径50mmにカットしたものを3枚敷き詰めキャビティーの深さを1.01mmにした。得られた分散体をキャビティー内に流し込み、金属棒をキャビティー上面の面に合わせ、金属棒ですり切るかたちでキャビティー内に分散体を均一な高さで仕込んだ。ドラフト内で常温にて30分間乾燥させた後、200℃に設定したオーブン(エスペック株式会社製 SUPER−TEMP.OVEN STPH−101)内で3時間乾燥させた。圧縮成形機(ホットプレスWFA−37、神藤金属工業所製、シリンダー径:152mm)を用いて、400℃で12分間保持した後、圧縮成形機のシリンダー内圧(油圧)1MPaで溶融圧縮成形を行い、得られた成形品サンプルについて、熱伝導率、破壊電圧、柔軟性を測定した。この成形品の熱伝導率は10.7W/mKという良好な結果が得られた。
【0102】
実施例1−15および比較例1−6の組成並びに、熱伝導率の評価結果を以下の表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
また、実施例1−15および比較例1,6のサンプルについて、破壊電圧および柔軟性試験の評価結果をまとめたものを以下の表2に示す。
【0105】
【表2】
【0106】
実施例1と比較例1との比較から、充填材として、2つの種類の窒化ホウ素粒子(A)および窒化ホウ素粒子(B)を組合せ使用することより、熱伝導率、絶縁性効果、柔軟性の何れも向上した。
【0107】
実施例4,5および7のように熱溶融性フッ素樹脂の比率が相対的に低下すると、柔軟性測定による結果が低下する傾向がある。
【0108】
また、実施例1、8および9を比較すると、MFRが40g/10分のものが最も熱伝導率が良く、この値よりも大きい場合または小さい場合には、熱伝導率が若干低下した。
【0109】
また、実施例1、8および9を比較すると、実施例9の成形品が最も柔軟性では優れている。MFRの小さい、すなわち分子量の大きい熱溶融性フッ素樹脂を用いることで成形品の脆さが改善されると考えられる。
【0110】
本発明の成形品を電子部品の放熱材、特にパワー半導体/パワーモジュール用の放熱材として用いる場合には、非常に高い絶縁性が求められる。このため、成形品の破壊電圧(測定値)は、少なくとも5kV以上であり、7kV以上が好ましく、9kV以上がより好ましい。破壊電圧は、樹脂組成物に含まれる充填材の物性、分散状態等により影響されるが、実施例1,3,6および14では、特に良好な絶縁性効果が認められた。
【0111】
特に実施例14では、熱伝導性が非常に優れている。フッ素系溶剤を用いた湿式混合により、窒化ホウ素粒子が破壊されずに、樹脂と窒化ホウ素粒子が緻密に分散されたためと考えられる。
【0112】
上記実施例15の結果から、熱溶融性フッ素樹脂としてPFA1の一部をフッ素ゴムに代えることにより、成形されたシートの柔軟性が向上したと考えられる。
【0113】
実施例14,15では、湿式混合による混合組成物のコーティングによりシートを成形することにより、製造の効率化を図るという利点を有する。
【0114】
(実施例16)
実施例1において作製した組成物を、溶融圧縮成形のシリンダー内圧を、1MPaから2MPaに変えた以外は同様の条件で、1mm厚の成形品サンプルを得た。得られた成形品サンプルについて、熱伝導率(方法Aによる)、破壊電圧、柔軟性を測定した。この成形品の熱伝導率は、10.3W/mKと良好な結果が得られた。
【0115】
(実施例17)
実施例2において作製した組成物を同様の条件で、1mm厚の成形品サンプルを得、実施例16と同様の方法Aにより測定した。この成形品の熱伝導率は、10.4W/mKと良好な結果が得られた。
【0116】
(実施例18)
実施例11において作製した組成物を、溶融圧縮成形のシリンダー内圧を、1MPaから2MPaに変えた以外は同様の条件で、1mm厚の成形品サンプルを得た。この成形品の熱伝導率(方法Aによる)は、9.9W/mKと良好な結果が得られた。
【0117】
実施例16〜18の組成および、熱伝導率の評価結果を以下の表3にまとめた。
【0118】
【表3】
【0119】
上記実施例17と実施例18の比較から、溶融成形圧力を高くし過ぎることにより、熱伝導率が若干低下する傾向が分かる。これは、成形時に高い圧力をかけすぎると、窒化ホウ素粒子の一部が破壊されてしまう影響であると考えられる。