【実施例1】
【0016】
図1に示されるように、炭化珪素半導体装置1は、MOSFETと称されるパワー半導体素子であり、半導体基板10、半導体基板10の下面を被覆するドレイン電極22、半導体基板10の上面を被覆するソース電極24及び半導体基板10の上層部に設けられているトレンチゲート30を備える。トレンチゲート30は、半導体基板10の上面に対して直交する方向から観測したときに、ストライプ状に配置されている(
図3,4,5参照)。
【0017】
半導体基板10は、炭化珪素(SiC)を材料とする基板であり、n
+型のドレイン領域11、n
-型のドリフト領域12、p
+型の電界緩和領域13、n
+型の電流分散領域14、p型のボディ領域15、p
+型のボディコンタクト領域16及びn
+型のソース領域17を有する。
【0018】
ドレイン領域11は、半導体基板10の下層部に配置されており、半導体基板10の下面に露出する。ドレイン領域11は、後述するドリフト領域12がエピタキシャル成長するための下地基板でもある。ドレイン領域11は、半導体基板10の下面を被膜するドレイン電極22にオーミック接触する。一例では、ドレイン領域11の不純物濃度は約1×10
19cm
-3以上であるのが望ましい。
【0019】
ドリフト領域12は、ドレイン領域11上に設けられている。ドリフト領域12は、エピタキシャル成長技術を利用して、ドレイン領域11の表面から結晶成長して形成される。ドリフト領域12の不純物濃度は、半導体基板10の厚み方向に一定である。一例では、ドリフト領域12の不純物濃度は約1×10
15〜5×10
16cm
-3であるのが望ましい。
【0020】
電界緩和領域13は、ドリフト領域12上に設けられており、トレンチゲート30の底面を覆うように設けられている(
図3参照)。より詳細には、電界緩和領域13は、トレンチゲート30の底面の全範囲に接するとともに、トレンチゲート30の底面から側方にも突出してトレンチゲート30の側面の一部にも接するように設けられている。電界緩和領域13は、トレンチゲート30とドリフト領域12を隔てるように構成されている。電界緩和領域13は、イオン注入技術を利用して、ドリフト領域12の表層部にアルミニウムを導入して形成される。一例では、電界緩和領域13のドーズ量は約5×10
11〜5×10
12cm
-2であり、ピーク濃度が約1×10
17〜5×10
18cm
-3であるのが望ましい。
【0021】
電流分散領域14は、ドリフト領域12及び電界緩和領域13上に設けられている。電流分散領域14は、トレンチゲート30の側面とドリフト領域12の双方に接するように構成されている。電流分散領域14は、隣り合うトレンチゲート30の間を連続して延びており、厚みが一定である。電流分散領域14の不純物濃度は、ドリフト領域12の不純物濃度よりも濃い。電流分散領域14は、イオン注入技術を利用して、電界緩和領域13及びドリフト領域12の表層部に窒素又はリンを導入して形成される。一例では、電流分散領域14のドーズ量は約1×10
10〜1×10
12cm
-2であり、ピーク濃度が約1×10
16〜1×10
18cm
-3であるのが望ましい。一例では、電流分散領域14の厚みは約0.5〜1.5μmであるのが望ましい。
【0022】
電流分散領域14は、トレンチゲート30の長手方向の端部近傍に形成されていない(
図4参照)。このため、電界緩和領域13は、トレンチゲート30の長手方向の端部において、ボディ領域15に接触しており、ボディ領域15に短絡するように構成されている(
図2参照)。
【0023】
ボディ領域15は、電流分散領域14上に設けられており、半導体基板10の上層部に配置されている。ボディ領域15は、トレンチゲート30の側面に接する。ボディ領域15は、エピタキシャル成長技術を利用して、電流分散領域14の表面から結晶成長して形成される。一例では、ボディ領域15の不純物濃度は、半導体基板10の厚み方向に一定である。一例では、ボディ領域15の不純物濃度は約1×10
16〜1×10
18cm
-3であるのが望ましい。
【0024】
ボディコンタクト領域16は、ボディ領域15上に設けられており、半導体基板10の上層部に配置されており、半導体基板10の上面に露出する。ボディコンタクト領域16は、イオン注入技術を利用して、半導体基板10の上層部にアルミニウムを導入して形成される。ボディコンタクト領域16は、半導体基板10の上面を被膜するソース電極24にオーミック接触する。一例では、ボディコンタクト領域16のドーズ量は約1×10
14〜1×10
15cm
-2であり、ピーク濃度が約1×10
19〜2×10
20cm
-3であるのが望ましい。
【0025】
ソース領域17は、ボディ領域15上に設けられており、半導体基板10の上層部に配置されており、半導体基板10の上面に露出する。ソース領域17は、ボディ領域15によってドリフト領域12から隔てられている。ソース領域17は、トレンチゲート30の側面に接する。ソース領域17は、トレンチゲート30の長手方向の端部近傍に形成されていない(
図5参照)。換言すると、トレンチゲート30のうちのソース領域17が接していない部分を端部という。このように、トレンチゲート30の端部にソース領域17が接していないので、トレンチゲート30の端部においてソース領域17からゲート電極34に電子が流入するリークが抑えられる。ソース領域17は、イオン注入技術を利用して、半導体基板10の上層部に窒素又はリンを導入して形成される。ソース領域17は、半導体基板10の上面を被膜するソース電極24にオーミック接触する。一例では、ソース領域17のドーズ量は約1×10
14〜5×10
15cm
-2であり、ピーク濃度が約1×10
19〜5×10
20cm
-3であるのが望ましい。
【0026】
トレンチゲート30は、半導体基板10の上面から深部に向けて伸びており、ゲート絶縁膜32及びゲート電極34を有する。トレンチゲート30は、ソース領域17、ボディ領域15及び電流分散領域14を貫通して電界緩和領域13に達する。ソース領域17、ボディ領域15及び電流分散領域14はトレンチゲート30の側面に接しており、電界緩和領域13はトレンチゲート30の底面及び側面に接する。ゲート絶縁膜32は、酸化シリコンである。ゲート電極34は、ゲート絶縁膜32で被覆されており、不純物を含むポリシリコンである。
【0027】
次に、
図1を参照し、炭化珪素半導体装置1の動作を説明する。ドレイン電極22に正電圧が印加され、ソース電極24が接地され、トレンチゲート30のゲート電極34が接地されていると、炭化珪素半導体装置1はオフである。炭化珪素半導体装置1では、電界緩和領域13がトレンチゲート30の底面を覆うように設けられている。さらに、電界緩和領域13がボディ領域15に短絡しているので、電界緩和領域13が接する部分のトレンチゲート30のゲート絶縁膜32に電界が加わらない。炭化珪素半導体装置1は、トレンチゲート30の底面において電界集中が緩和され、高い耐圧を有することができる。
【0028】
ドレイン電極22に正電圧が印加され、ソース電極24が接地され、トレンチゲート30のゲート電極34にソース電極24よりも正となる電圧が印加されていると、炭化珪素半導体装置1はオンである。このとき、ソース領域17と電流分散領域14を隔てるボディ領域15のうちのトレンチゲート30の側面に対向する部分に反転層が形成される。ソース領域17から供給される電子は、その反転層を経由して電流分散領域14に達する。電流分散領域14に達した電子は、電流分散領域14を経由してドリフト領域12に流れる。このように、炭化珪素半導体装置1では、トレンチゲート30の底面を覆うように電界緩和領域13が設けられていても、電界緩和領域13を迂回するように電流分散領域14を介して電流が流れるので、チャネル抵抗が低く抑えられる。
【0029】
例えば、炭化珪素半導体装置1がオンしているときに、負荷が短絡することによって炭化珪素半導体装置1に高電圧が印加されることがある。このような場合、炭化珪素半導体装置1では、電界緩和領域13がボディ領域15に短絡しているので、電界緩和領域13の電位はボディ領域15の電位(接地電位)に安定している。このため、炭化珪素半導体装置1に高電圧が印加されたときに、電界緩和領域13と電流分散領域14のpn接合から電流分散領域14内に向けて空乏層が良好に伸展することができる。例えば、電界緩和領域13の電位がフローティングの場合、電界緩和領域13の電位が不安定であり、炭化珪素半導体装置1に高電圧が印加されたとしても、電界緩和領域13と電流分散領域14のpn接合から電流分散領域14内に向けて伸びる空乏層幅が小さくなる。一方、本実施例の炭化珪素半導体装置1では、高電圧が印加されたときに、電流分散領域14の電流経路が空乏層によって狭められ、飽和電流が小さくなる。
【0030】
図6に示されるように、炭化珪素半導体装置1では、トレンチゲート30の側方において、電界緩和領域13と電流分散領域14とボディ領域15が積層した積層部分が形成されている。換言すると、電流分散領域14は、電界緩和領域13とボディ領域15によって挟まれている。この積層部分では、電流分散領域14の厚みを14Tとし、トレンチゲート30の側面に直交する方向(紙面左右方向)において電流分散領域14と電界緩和領域13が接する長さを14Lとすると、厚み14Tが長さ14Lよりも小さい関係が成立する。このような積層部分では、炭化珪素半導体装置1に高電圧が印加されたときに、電流分散領域14の電流経路が上下から伸びる空乏層によって良好に狭められ、飽和電流が小さくなる。
【0031】
図7に示されるように、電界緩和領域13は、トレンチゲート30の長手方向に沿って、複数箇所で電流分散領域14から露出するように構成されているのが望ましい。換言すると、電界緩和領域13とボディ領域15は、トレンチゲート30の長手方向の両端部の間において、複数箇所で接するように構成されているのが望ましい。この形態によると、電界緩和領域13の電位は、トレンチゲート30の長手方向の広い範囲でボディ領域15の電位に安定することができる。これにより、上記した電界緩和領域13の電界緩和機能及び空乏層伸展機能がトレンチゲート30の長手方向の広い範囲で発揮される。
【0032】
図8に示されるように、電流分散領域14は、隣り合うトレンチゲート30の間において離間していてもよい。この場合、ドリフト領域12とボディ領域15が、電流分散領域14の離間部分を介して接する。この形態によると、電流分散領域14の電流経路の電気抵抗が高くなるので、炭化珪素半導体装置1の飽和電流がさらに小さくなる。
【0033】
図9に示されるように、電流分散領域14は、半導体基板10の上面に対して直交する方向から観測したときに、電界緩和領域13の範囲内に収まるのが望ましい。換言すると、電流分散領域14の全範囲が、電界緩和領域13とボディ領域15によって挟まれているのが望ましい。この形態によると、電流分散領域14の電流経路の電気抵抗がさらに高くなるので、炭化珪素半導体装置1の飽和電流がさらに小さくなる。
【0034】
次に、実施例の炭化珪素半導体装置1の製造方法を説明する。まず、
図10Aに示されるように、ドレイン領域11とドリフト領域12が積層した半導体基板を準備する。この半導体基板は、エピタキシャル成長技術を利用して、ドレイン領域11からドリフト領域12を結晶成長して形成される。
【0035】
次に、
図10Bに示されるように、イオン注入技術を利用して、ドリフト領域12の表層部にアルミニウムを注入して電界緩和領域13を形成する。
【0036】
次に、
図10Cに示されるように、イオン注入技術を利用して、ドリフト領域12及び電界緩和領域13の表層部に窒素を注入して電流分散領域14を形成する。イオン注入技術に代えて、エピタキシャル成長技術を利用して、ドリフト領域12及び電界緩和領域13の表面から電流分散領域14を結晶成長して形成してもよい。なお、電流分散領域14が分断する例(
図8及び
図9参照)の場合、電流分散領域14は、選択的にイオン注入することで形成されてもよく、エピタキシャル成長した後に一部をエッチングにより除去して形成されてもよい。
【0037】
次に、
図10Dに示されるように、エピタキシャル成長技術を利用して、電流分散領域14の表面からボディ領域15を結晶成長して形成する。
【0038】
次に、
図10Eに示されるように、イオン注入技術を利用して、ボディ領域15の表層部にアルミニウムを注入してボディコンタクト領域16を形成するとともに窒素を注入してソース領域17を形成する。
【0039】
次に、
図10Fに示されるように、ソース領域17、ボディ領域15及び電流分散領域14を貫通して電界緩和領域13に達するトレンチを形成する。次に、CVD技術を利用して、そのトレンチ内にゲート絶縁膜32を堆積する。次に、CVD技術を利用して、ゲート電極34をトレンチ内に充填する。最後に、半導体基板の下面にドレイン電極22を被膜し、半導体基板の上面にソース電極24を被膜すると、炭化珪素半導体装置1が完成する。
【0040】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。