特許第6453188号(P6453188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6453188
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20190107BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20190107BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20190107BHJP
【FI】
   H01L29/78 652J
   H01L29/78 652T
   H01L29/78 653A
   H01L29/78 652H
   H01L29/78 652F
   H01L29/06 301D
   H01L29/06 301V
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-175131(P2015-175131)
(22)【出願日】2015年9月4日
(65)【公開番号】特開2017-50516(P2017-50516A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2017年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青井 佐智子
(72)【発明者】
【氏名】山下 侑佑
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 行彦
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】海老原 康裕
【審査官】 杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−016747(JP,A)
【文献】 特開2004−311716(JP,A)
【文献】 特開2015−141919(JP,A)
【文献】 特開2015−072999(JP,A)
【文献】 特開2012−178536(JP,A)
【文献】 特開2004−103980(JP,A)
【文献】 特開2010−232627(JP,A)
【文献】 特開2014−192174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/06
H01L 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素の半導体基板と、
前記半導体基板の上面から深部に向けて伸びるトレンチゲートと、を備え、
前記半導体基板は、
第1導電型のドリフト領域と、
前記ドリフト領域上に設けられており、前記トレンチゲートの底面を覆うように設けられているとともに前記トレンチゲートの底面から側方に突出して前記トレンチゲートの側面にも接する第2導電型の電界緩和領域と、
前記電界緩和領域上に設けられており、前記トレンチゲートの側面と前記ドリフト領域に接しており、前記ドリフト領域よりも高濃度の第1導電型の電流分散領域と、
前記電流分散領域上に設けられており、前記トレンチゲートの前記側面に接する第2導電型のボディ領域と、
前記ボディ領域上に設けられており、前記トレンチゲートの側面に接しており、前記ボディ領域によって前記電流分散領域から隔てられている第1導電型のソース領域と、を有し、
前記電界緩和領域が、前記ボディ領域に短絡するように構成されており、
前記電界緩和領域と前記電流分散領域と前記ボディ領域は、前記トレンチゲートの側方において、前記半導体基板の厚み方向に沿って積層しており、
前記電流分散領域の厚みが一定であり、
前記電流分散領域の前記厚みは、前記トレンチゲートの前記側面に直交する方向において前記電流分散領域と前記電界緩和領域が接する長さよりも小さく、
前記電流分散領域は、前記電界緩和領域と前記ボディ領域に接する、炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
前記電流分散領域は、隣り合うトレンチゲートの間において離間しており、
前記ドリフト領域と前記ボディ領域が、前記電流分散領域の離間部分を介して接する、請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記電流分散領域の全範囲が、前記電界緩和領域と前記ボディ領域によって挟まれている、請求項2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
前記トレンチゲートは、前記半導体基板の前記上面に直交する方向から観測したときに、一方向に沿って伸びており、
前記電界緩和領域と前記ボディ領域は、前記トレンチゲートの長手方向の端部において、接するように構成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項5】
前記電界緩和領域と前記ボディ領域は、前記トレンチゲートの前記長手方向の両端部の間において、複数箇所で接するように構成されている、請求項4に記載の炭化珪素半導体装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する技術は、トレンチゲートを備える炭化珪素半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、トレンチゲートの底面を覆うように設けられているp型の電界緩和領域を備える炭化珪素半導体装置を開示する。このような電界緩和領域は、トレンチゲートの底面に集中する電界を緩和することができる。これにより、炭化珪素半導体装置の耐圧が向上する。特許文献1はさらに、そのような電界緩和領域によってチャネル抵抗が増加するのを抑えるために、ドリフト領域よりも不純物濃度が濃いn型の電流分散領域を設ける技術を提案する。電流分散領域は、電界緩和領域上に設けられており、トレンチゲートの側面とドリフト領域の双方に接するように配置されている。これにより、電流は、電界緩和領域を迂回するように電流分散領域を介して流れることができる。このため、特許文献1に開示される炭化珪素半導体装置は、高耐圧と低オン抵抗を両立することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−729997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
炭化珪素半導体装置がオンしているときに、例えば負荷が短絡することによって炭化珪素半導体装置に高電圧が印加されることがある。このような場合、高電圧が印加された状態で電流が流れるので、炭化珪素半導体装置を流れる電流は飽和電流となる。このような事態に備えるために、炭化珪素半導体装置の飽和電流を小さくすることが望まれている。
【0005】
特許文献1の炭化珪素半導体装置では、電流分散領域の不純物濃度が濃く調整されている。このような電流分散領域は、空乏化され難い。このため、電流分散領域は、高電圧が印加されたとしても、空乏化されずに、電流経路を提供してしまう。このように、電界緩和領域と電流分散領域を組合せる技術は、高耐圧と低オン抵抗を両立することができるものの、飽和電流を小さくすることが難しいという問題がある。本明細書は、電界緩和領域と電流分散領域を備える炭化珪素半導体装置において、飽和電流を小さくする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書で開示する半導体装置の一実施形態は、炭化珪素の半導体基板及び半導体基板の上面から深部に向けて伸びるトレンチゲートを備える。半導体基板は、第1導電型のドリフト領域、第2導電型の電界緩和領域、第1導電型の電流分散領域、第2導電型のボディ領域及び第1導電型のソース領域を有する。電界緩和領域は、ドリフト領域上に設けられており、トレンチゲートの底面を覆うように設けられている。電流分散領域は、電界緩和領域上に設けられており、トレンチゲートの側面とドリフト領域に接しており、ドリフト領域よりも高濃度である。ボディ領域は、電流分散領域上に設けられており、トレンチゲートの側面に接する。ソース領域は、ボディ領域上に設けられており、トレンチゲートの側面に接しており、ボディ領域によって電流分散領域から隔てられている。電界緩和領域が、ボディ領域に短絡するように構成されている。
【0007】
上記実施形態の炭化珪素半導体装置では、電界緩和領域がボディ領域に短絡するように構成されているので、高電圧が印加されたときに、電界緩和領域と電流分散領域のpn接合面から電流分散領域内に向けて空乏層が良好に伸展することができる。これにより、上記実施形態の炭化珪素半導体装置では、高電圧が印加されたときに、電流分散領域の電流経路が狭められ、飽和電流が小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例の半導体装置の要部断面図を模式的に示しており、図3,4,5のI-I線に対応した断面図である。
図2】実施例の半導体装置の要部断面図を模式的に示しており、図3,4,5のII-II線に対応した断面図である。
図3】実施例の半導体装置の要部断面図を模式的に示しており、図1,2のIII-III線に対応した断面図である。
図4】実施例の半導体装置の要部断面図を模式的に示しており、図1,2のIV-IV線に対応した断面図である。
図5】実施例の半導体装置の要部断面図を模式的に示しており、図1,2のV-V線に対応した断面図である。
図6】実施例の半導体装置の要部断面図を模式的に示しており、電界緩和領域と電流分散領域とボディ領域の積層部分の拡大図である。
図7】変形例の半導体装置の要部断面図を模式的に示す。
図8】変形例の半導体装置の要部断面図を模式的に示す。
図9】変形例の半導体装置の要部断面図を模式的に示す。
図10A】実施例の半導体装置の製造過程の要部断面図を模式的に示す。
図10B】実施例の半導体装置の製造過程の要部断面図を模式的に示す。
図10C】実施例の半導体装置の製造過程の要部断面図を模式的に示す。
図10D】実施例の半導体装置の製造過程の要部断面図を模式的に示す。
図10E】実施例の半導体装置の製造過程の要部断面図を模式的に示す。
図10F】実施例の半導体装置の製造過程の要部断面図を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本明細書で開示される技術の特徴を整理する。なお、以下に記す事項は、各々単独で技術的な有用性を有している。
【0010】
本明細書で開示する炭化珪素半導体装置としては、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)及びIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が例示される。これらの炭化珪素半導体装置の一実施形態は、炭化珪素の半導体基板及び半導体基板の上面から深部に向けて伸びるトレンチゲートを備えていてもよい。これら炭化珪素半導体装置の一実施形態は、典型的には縦型であり、半導体基板の上面及び下面の各々に一対の主電極を備えていてもよい。半導体基板は、第1導電型のドリフト領域、第2導電型の電界緩和領域、第1導電型の電流分散領域、第2導電型のボディ領域及び第1導電型のソース領域を有していてもよい。電界緩和領域は、ドリフト領域上に設けられており、トレンチゲートの底面を覆うように設けられている。電流分散領域は、電界緩和領域上に設けられており、トレンチゲートの側面とドリフト領域に接しており、ドリフト領域よりも高濃度である。ボディ領域は、電流分散領域上に設けられており、トレンチゲートの側面に接する。ソース領域は、ボディ領域上に設けられており、トレンチゲートの側面に接しており、ボディ領域によって電流分散領域から隔てられている。電界緩和領域が、ボディ領域に短絡するように構成されている。
【0011】
電界緩和領域と電流分散領域とボディ領域は、トレンチゲートの側方において、半導体基板の厚み方向に沿って積層していてもよい。この場合、電流分散領域の厚みが一定であるのが望ましい。この炭化珪素半導体装置では、積層部分において、厚み一定の電流分散領域が電界緩和領域とボディ領域によって挟まれる。このため、炭化珪素半導体装置に高電圧が印加されたときに、積層部分において、電流分散領域の電流経路が上下から空乏層によって狭められるので、飽和電流が小さくなる。
【0012】
電界緩和領域と電流分散領域とボディ領域の積層部分を有する炭化珪素半導体装置では、電流分散領域の厚みが、トレンチゲートの側面に直交する方向において電流分散領域と電界緩和領域が接する長さよりも小さいのが望ましい。この形態によると、炭化珪素半導体装置に高電圧が印加されたときに、積層部分において、電流分散領域の電流経路が空乏層によって良好に狭められるので、飽和電流が小さくなる。
【0013】
電流分散領域は、隣り合うトレンチゲートの間において離間していてもよい。この場合、ドリフト領域とボディ領域が、電流分散領域の離間部分を介して接するのが望ましい。さらに、電流分散領域の全範囲が、電界緩和領域とボディ領域によって挟まれているのが望ましい。この形態によると、電流分散領域の電気抵抗値が高くなるので、飽和電流が小さくなる。
【0014】
トレンチゲートは、半導体基板の上面に直交する方向から観測したときに、一方向に沿って伸びていてもよい。この場合、電界緩和領域とボディ領域は、トレンチゲートの長手方向の端部において、接するように構成されているのが望ましい。この形態によると、電界緩和領域とボディ領域が直接的に接することで、電界緩和領域とボディ領域が短絡する。
【0015】
電界緩和領域とボディ領域はさらに、トレンチゲートの長手方向の両端部の間において、複数箇所で接するように構成されているのが望ましい。この形態によると、電界緩和領域の電位は、トレンチゲートの長手方向の広い範囲でボディ領域の電位に安定することができる。
【実施例1】
【0016】
図1に示されるように、炭化珪素半導体装置1は、MOSFETと称されるパワー半導体素子であり、半導体基板10、半導体基板10の下面を被覆するドレイン電極22、半導体基板10の上面を被覆するソース電極24及び半導体基板10の上層部に設けられているトレンチゲート30を備える。トレンチゲート30は、半導体基板10の上面に対して直交する方向から観測したときに、ストライプ状に配置されている(図3,4,5参照)。
【0017】
半導体基板10は、炭化珪素(SiC)を材料とする基板であり、n+型のドレイン領域11、n-型のドリフト領域12、p+型の電界緩和領域13、n+型の電流分散領域14、p型のボディ領域15、p+型のボディコンタクト領域16及びn+型のソース領域17を有する。
【0018】
ドレイン領域11は、半導体基板10の下層部に配置されており、半導体基板10の下面に露出する。ドレイン領域11は、後述するドリフト領域12がエピタキシャル成長するための下地基板でもある。ドレイン領域11は、半導体基板10の下面を被膜するドレイン電極22にオーミック接触する。一例では、ドレイン領域11の不純物濃度は約1×1019cm-3以上であるのが望ましい。
【0019】
ドリフト領域12は、ドレイン領域11上に設けられている。ドリフト領域12は、エピタキシャル成長技術を利用して、ドレイン領域11の表面から結晶成長して形成される。ドリフト領域12の不純物濃度は、半導体基板10の厚み方向に一定である。一例では、ドリフト領域12の不純物濃度は約1×1015〜5×1016cm-3であるのが望ましい。
【0020】
電界緩和領域13は、ドリフト領域12上に設けられており、トレンチゲート30の底面を覆うように設けられている(図3参照)。より詳細には、電界緩和領域13は、トレンチゲート30の底面の全範囲に接するとともに、トレンチゲート30の底面から側方にも突出してトレンチゲート30の側面の一部にも接するように設けられている。電界緩和領域13は、トレンチゲート30とドリフト領域12を隔てるように構成されている。電界緩和領域13は、イオン注入技術を利用して、ドリフト領域12の表層部にアルミニウムを導入して形成される。一例では、電界緩和領域13のドーズ量は約5×1011〜5×1012cm-2であり、ピーク濃度が約1×1017〜5×1018cm-3であるのが望ましい。
【0021】
電流分散領域14は、ドリフト領域12及び電界緩和領域13上に設けられている。電流分散領域14は、トレンチゲート30の側面とドリフト領域12の双方に接するように構成されている。電流分散領域14は、隣り合うトレンチゲート30の間を連続して延びており、厚みが一定である。電流分散領域14の不純物濃度は、ドリフト領域12の不純物濃度よりも濃い。電流分散領域14は、イオン注入技術を利用して、電界緩和領域13及びドリフト領域12の表層部に窒素又はリンを導入して形成される。一例では、電流分散領域14のドーズ量は約1×1010〜1×1012cm-2であり、ピーク濃度が約1×1016〜1×1018cm-3であるのが望ましい。一例では、電流分散領域14の厚みは約0.5〜1.5μmであるのが望ましい。
【0022】
電流分散領域14は、トレンチゲート30の長手方向の端部近傍に形成されていない(図4参照)。このため、電界緩和領域13は、トレンチゲート30の長手方向の端部において、ボディ領域15に接触しており、ボディ領域15に短絡するように構成されている(図2参照)。
【0023】
ボディ領域15は、電流分散領域14上に設けられており、半導体基板10の上層部に配置されている。ボディ領域15は、トレンチゲート30の側面に接する。ボディ領域15は、エピタキシャル成長技術を利用して、電流分散領域14の表面から結晶成長して形成される。一例では、ボディ領域15の不純物濃度は、半導体基板10の厚み方向に一定である。一例では、ボディ領域15の不純物濃度は約1×1016〜1×1018cm-3であるのが望ましい。
【0024】
ボディコンタクト領域16は、ボディ領域15上に設けられており、半導体基板10の上層部に配置されており、半導体基板10の上面に露出する。ボディコンタクト領域16は、イオン注入技術を利用して、半導体基板10の上層部にアルミニウムを導入して形成される。ボディコンタクト領域16は、半導体基板10の上面を被膜するソース電極24にオーミック接触する。一例では、ボディコンタクト領域16のドーズ量は約1×1014〜1×1015cm-2であり、ピーク濃度が約1×1019〜2×1020cm-3であるのが望ましい。
【0025】
ソース領域17は、ボディ領域15上に設けられており、半導体基板10の上層部に配置されており、半導体基板10の上面に露出する。ソース領域17は、ボディ領域15によってドリフト領域12から隔てられている。ソース領域17は、トレンチゲート30の側面に接する。ソース領域17は、トレンチゲート30の長手方向の端部近傍に形成されていない(図5参照)。換言すると、トレンチゲート30のうちのソース領域17が接していない部分を端部という。このように、トレンチゲート30の端部にソース領域17が接していないので、トレンチゲート30の端部においてソース領域17からゲート電極34に電子が流入するリークが抑えられる。ソース領域17は、イオン注入技術を利用して、半導体基板10の上層部に窒素又はリンを導入して形成される。ソース領域17は、半導体基板10の上面を被膜するソース電極24にオーミック接触する。一例では、ソース領域17のドーズ量は約1×1014〜5×1015cm-2であり、ピーク濃度が約1×1019〜5×1020cm-3であるのが望ましい。
【0026】
トレンチゲート30は、半導体基板10の上面から深部に向けて伸びており、ゲート絶縁膜32及びゲート電極34を有する。トレンチゲート30は、ソース領域17、ボディ領域15及び電流分散領域14を貫通して電界緩和領域13に達する。ソース領域17、ボディ領域15及び電流分散領域14はトレンチゲート30の側面に接しており、電界緩和領域13はトレンチゲート30の底面及び側面に接する。ゲート絶縁膜32は、酸化シリコンである。ゲート電極34は、ゲート絶縁膜32で被覆されており、不純物を含むポリシリコンである。
【0027】
次に、図1を参照し、炭化珪素半導体装置1の動作を説明する。ドレイン電極22に正電圧が印加され、ソース電極24が接地され、トレンチゲート30のゲート電極34が接地されていると、炭化珪素半導体装置1はオフである。炭化珪素半導体装置1では、電界緩和領域13がトレンチゲート30の底面を覆うように設けられている。さらに、電界緩和領域13がボディ領域15に短絡しているので、電界緩和領域13が接する部分のトレンチゲート30のゲート絶縁膜32に電界が加わらない。炭化珪素半導体装置1は、トレンチゲート30の底面において電界集中が緩和され、高い耐圧を有することができる。
【0028】
ドレイン電極22に正電圧が印加され、ソース電極24が接地され、トレンチゲート30のゲート電極34にソース電極24よりも正となる電圧が印加されていると、炭化珪素半導体装置1はオンである。このとき、ソース領域17と電流分散領域14を隔てるボディ領域15のうちのトレンチゲート30の側面に対向する部分に反転層が形成される。ソース領域17から供給される電子は、その反転層を経由して電流分散領域14に達する。電流分散領域14に達した電子は、電流分散領域14を経由してドリフト領域12に流れる。このように、炭化珪素半導体装置1では、トレンチゲート30の底面を覆うように電界緩和領域13が設けられていても、電界緩和領域13を迂回するように電流分散領域14を介して電流が流れるので、チャネル抵抗が低く抑えられる。
【0029】
例えば、炭化珪素半導体装置1がオンしているときに、負荷が短絡することによって炭化珪素半導体装置1に高電圧が印加されることがある。このような場合、炭化珪素半導体装置1では、電界緩和領域13がボディ領域15に短絡しているので、電界緩和領域13の電位はボディ領域15の電位(接地電位)に安定している。このため、炭化珪素半導体装置1に高電圧が印加されたときに、電界緩和領域13と電流分散領域14のpn接合から電流分散領域14内に向けて空乏層が良好に伸展することができる。例えば、電界緩和領域13の電位がフローティングの場合、電界緩和領域13の電位が不安定であり、炭化珪素半導体装置1に高電圧が印加されたとしても、電界緩和領域13と電流分散領域14のpn接合から電流分散領域14内に向けて伸びる空乏層幅が小さくなる。一方、本実施例の炭化珪素半導体装置1では、高電圧が印加されたときに、電流分散領域14の電流経路が空乏層によって狭められ、飽和電流が小さくなる。
【0030】
図6に示されるように、炭化珪素半導体装置1では、トレンチゲート30の側方において、電界緩和領域13と電流分散領域14とボディ領域15が積層した積層部分が形成されている。換言すると、電流分散領域14は、電界緩和領域13とボディ領域15によって挟まれている。この積層部分では、電流分散領域14の厚みを14Tとし、トレンチゲート30の側面に直交する方向(紙面左右方向)において電流分散領域14と電界緩和領域13が接する長さを14Lとすると、厚み14Tが長さ14Lよりも小さい関係が成立する。このような積層部分では、炭化珪素半導体装置1に高電圧が印加されたときに、電流分散領域14の電流経路が上下から伸びる空乏層によって良好に狭められ、飽和電流が小さくなる。
【0031】
図7に示されるように、電界緩和領域13は、トレンチゲート30の長手方向に沿って、複数箇所で電流分散領域14から露出するように構成されているのが望ましい。換言すると、電界緩和領域13とボディ領域15は、トレンチゲート30の長手方向の両端部の間において、複数箇所で接するように構成されているのが望ましい。この形態によると、電界緩和領域13の電位は、トレンチゲート30の長手方向の広い範囲でボディ領域15の電位に安定することができる。これにより、上記した電界緩和領域13の電界緩和機能及び空乏層伸展機能がトレンチゲート30の長手方向の広い範囲で発揮される。
【0032】
図8に示されるように、電流分散領域14は、隣り合うトレンチゲート30の間において離間していてもよい。この場合、ドリフト領域12とボディ領域15が、電流分散領域14の離間部分を介して接する。この形態によると、電流分散領域14の電流経路の電気抵抗が高くなるので、炭化珪素半導体装置1の飽和電流がさらに小さくなる。
【0033】
図9に示されるように、電流分散領域14は、半導体基板10の上面に対して直交する方向から観測したときに、電界緩和領域13の範囲内に収まるのが望ましい。換言すると、電流分散領域14の全範囲が、電界緩和領域13とボディ領域15によって挟まれているのが望ましい。この形態によると、電流分散領域14の電流経路の電気抵抗がさらに高くなるので、炭化珪素半導体装置1の飽和電流がさらに小さくなる。
【0034】
次に、実施例の炭化珪素半導体装置1の製造方法を説明する。まず、図10Aに示されるように、ドレイン領域11とドリフト領域12が積層した半導体基板を準備する。この半導体基板は、エピタキシャル成長技術を利用して、ドレイン領域11からドリフト領域12を結晶成長して形成される。
【0035】
次に、図10Bに示されるように、イオン注入技術を利用して、ドリフト領域12の表層部にアルミニウムを注入して電界緩和領域13を形成する。
【0036】
次に、図10Cに示されるように、イオン注入技術を利用して、ドリフト領域12及び電界緩和領域13の表層部に窒素を注入して電流分散領域14を形成する。イオン注入技術に代えて、エピタキシャル成長技術を利用して、ドリフト領域12及び電界緩和領域13の表面から電流分散領域14を結晶成長して形成してもよい。なお、電流分散領域14が分断する例(図8及び図9参照)の場合、電流分散領域14は、選択的にイオン注入することで形成されてもよく、エピタキシャル成長した後に一部をエッチングにより除去して形成されてもよい。
【0037】
次に、図10Dに示されるように、エピタキシャル成長技術を利用して、電流分散領域14の表面からボディ領域15を結晶成長して形成する。
【0038】
次に、図10Eに示されるように、イオン注入技術を利用して、ボディ領域15の表層部にアルミニウムを注入してボディコンタクト領域16を形成するとともに窒素を注入してソース領域17を形成する。
【0039】
次に、図10Fに示されるように、ソース領域17、ボディ領域15及び電流分散領域14を貫通して電界緩和領域13に達するトレンチを形成する。次に、CVD技術を利用して、そのトレンチ内にゲート絶縁膜32を堆積する。次に、CVD技術を利用して、ゲート電極34をトレンチ内に充填する。最後に、半導体基板の下面にドレイン電極22を被膜し、半導体基板の上面にソース電極24を被膜すると、炭化珪素半導体装置1が完成する。
【0040】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0041】
1:炭化珪素半導体装置
10:半導体基板
11:ドレイン領域
12:ドリフト領域
13:電界緩和領域
14:電流分散領域
15:ボディ領域
16:ボディコンタクト領域
17:ソース領域
22:ドレイン電極
24:ソース電極
30:トレンチゲート
32:ゲート絶縁膜
34:ゲート電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図10F