【実施例】
【0091】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0092】
試験例1:Anti-CEA scFvのリフォールディング効率の評価
1.後述する手順に従い、以下の実施例1−1〜1−3及び比較例1に示す構造を備えた、不活性な抗体の等電点よりも低い等電点を有するペプチドが連結されてなる不活性な抗体を調製した。
【0093】
なお、実施例1−1は癌胎児性抗原(CEA、carcinoembryonic antigen)に対する1本鎖抗体(anti-CEA scFv)に、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(PM)とヒスチジン残基(His)を直線状に連結させたものである。実施例1−2〜1−3は、実施例1−1において配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチドに代えて、それぞれアスパラギン酸残基5個からなるペプチド(D5)、アスパラギン酸残基10個からなるペプチド(D10)を用いた以外は、実施例1と同じ構造を有するものである。なお、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを連結させていない以外は、実施例1と同じ構造を有するものを比較例1とした。本試験例において「等電点」は、実施例1−1〜1−3のペプチドが連結されてなる抗体、または比較例1におけるヒスチジンが連結されてなる抗体のアミノ酸配列から計算した値であり、市販のソフトウェアGenetyx ver6(株式会社ゼネティックス製)を用いて、その手順に従いアミノ酸配列を入力することによって算出された値である。
実施例1−1:anti-CEA scFv-PM-His(等電点4.9)
実施例1−2:anti-CEA scFv-D5-His(等電点4.7)
実施例1−3:anti-CEA scFv-D10-His(等電点4.4)
比較例1:anti-CEA scFv-His(等電点5.3)
まず、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードするポリヌクレオチド(配列番号56)の3’末端側に6つのヒスチジン残基を連結させたヌクレオチド配列を合成し、これをpET22ベクター(メルク社製)のNot I/Xho Iサイトに導入した。次いで、anti-CEA scFvをPCRで増幅し、前記ベクターのNdeI/NotIサイトに導入した。これにより、T7プロモーター/Lacオペレーター→RBS→スタートコドン(ATG)- anti-CEA scFv→前記ペプチド-Stopコドン→T7ターミネーターの順で連結された、実施例1−1を作製するための発現ベクターを得た。同様に、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードするポリヌクレオチドに代えて、5つの連続するアスパラギン酸残基からなるポリヌクレオチド、または、10つの連続するアスパラギン酸残基からなるポリヌクレオチドを用いた以外は同様にして、実施例1−2または実施例1−3を作製するためのするための発現ベクターを得た。また、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードするポリヌクレオチドを用いない以外は実施例1−1同様にして、比較例1を作製するための発現ベクターを得た。
【0094】
このようにして得た各発現ベクターを用いてRosetta(登録商標)DE3 Competent Cells(Novagen社製)を形質転換し、アンピシリン及びクロラムフェニコールを含むLB-agarプレートで培養し、コロニーを形成させた。コロニーを採取して2xYT培地(アンピシリン及びクロラムフェニコール含有)10mL中に植菌し、一晩、200rpm、37℃で振盪培養して培養液を得た。続いて、500mLのバッフル付きフラスコにOvernight Express TB Instant Medium(メルク社製)を50mL加え、更にアンピシリン、クロラムフェニコール、培養液をOD=0.1となるように加えて37℃、200rpm、24時間振盪培養した。
【0095】
培養後、菌体を遠心分離によって回収し、PBS(NaCl 137mM, KCl 2.7mM, Na
2HPO
4 8.1mM, KH
2PO
41.47 mM (pH 7.4))を5mL加えて超音波破砕し、遠心分離によって封入体を回収し、封入体を蒸留水で3回洗浄したのち凍結乾燥した。このようにすることによって、粉末状の、前記ペプチドが連結されてなる不活性な抗体を得た。
【0096】
このようにして得られた粉末状の封入体を6M塩酸グアニジン溶液に可溶化し(25℃、10分)、遠心分離(25℃、10,000rpm、15分)して上清を回収した。次いで、His-Trap HPカラム(GEヘルスケア社製)を8M 尿素、20mMイミダゾールを含む2xPBSで平衡化し、そこに、前述のようにして得た上清を供給して、前記ペプチドが連結されてなる抗体をカラムに吸着させ、8M 尿素、0.4M イミダゾールを含む2xPBSで溶出し、得られた溶出液を、8M尿素を含むPBSで透析し、前記ペプチドが連結されてなる不活性な抗体を終濃度500μg/mLで含有する溶液を得た。
【0097】
後述するリフォールディング用の液相をBD Flacon(登録商標)96ウェルマイクロプレートウェル(日本ベクトンディッキンソン社製)内に準備し、前述のようにして変性させた、前記ペプチドが連結されてなる不活性な抗体を、終濃度200μug/mL(0.5M Uera)となるようにそれぞれのウェル中へ分散させた(総体積200uL)。
【0098】
リフォールディング用の液相について、後述の図中、pH6の液相は0.05M MESグッドバッファー(商品名MES(2-(N-Morpholino)ethanesulfonic Acid)、ナカライテスク社製)、pH6.5の液相は0.05M ADAグッドバッファー(商品名ADA(N-(2-Acetamido)iminodiacetic Acid)、ナカライテスク社製)、pH7の液相は0.05M MOPSグッドバッファー(商品名MOPS(3-(N-Morpholino)propanesulfonic Acid)、ナカライテスク社製)、pH7.5の液相は0.05M HEPESグッドバッファー(商品名HEPES(2-[4-(2-Hydroxyethyl) -1-piperazinyl]ethanesulfonic Acid)、ナカライテスク社製)、pH8の液相は0.05M EPPSグッドバッファー(商品名EPPS(N-(2-Hydroxyethyl)piperazine-N'-3-propanesulfonic Acid)、ナカライテスク社製)、pH8.5の液相は0.05M TAPSグッドバッファー(商品名TAPS(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-3-aminopropanesulfonic Acid)、ナカライテスク社製)を用いて、また、必要に応じて、NDSB及び/またはNaClを添加することにより準備した。また、図中の各液相のpH(6.0〜7.5)、NDSB(1−(3−スルホナトプロピル)ピリジニウム、0Mまたは0.5M)、NaCl濃度(0〜300mM)は、マイクロプレートウェルにおいて前記ペプチドが連結されてなる不活性な抗体を分散させた後の液相中の値である。
【0099】
前述のようにして分散させた後、室温でインキュベートしながら、インキュベート開始時から30分おきに合計6時間、波長450nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。得られた吸光度を凝集体の指標として評価した。吸光度値が高いほど、凝集体すなわちリフォールディングされていない抗体が多く残存していることを示す。
【0100】
2.結果を
図1及び
図2示す。図はいずれも6時間インキュベートした後に測定した結果である。
実施例1−1(anti-CEA scFv-PM-His)及び比較例1(anti-CEA scFv-His)を用いた結果を
図1に示す。
図1から明らかなように、比較例1に対して、実施例1−1においてOD値が著しく小さいことが確認された。
図1はOD値が小さいほど不溶で不活性な凝集体としての抗体が減少していることを示し、すなわち、OD値が小さいほどリフォールディング効率が高いことを示す。なお、
図1において、例えばpH6.0-、0mMで示されるものは、pH6、NDSB無添加、NaCl 0mMの液相に分散させてリフォールディングを行ったことを示し、pH6.0+、50mMで示されるものは、pH6、NDSB 0.5M、NaCl 50mMの液相に分散させてリフォールディングを行ったことを示す。また、図中、例えば「pH6.0-」や「pH6.0+」においてはそれぞれ4本のバーが示されているが、これは左から順に、すなわち
図1の比較例1(anti-CEA scFv-His)の結果を示すグラフにおいて「pH6.0-」のバーの上部に示されている1〜4の数字の小さいほうから順にNaCl 0mM、50mM、150mM、300mMの結果を示す。後述する同様の図においても同様に説明される。
【0101】
また、図中には示さないが、pH8やpH8.5の液相に分散させた場合であっても、NDSBの添加の有無、NaCl濃度にかかわらず、実施例1−1においてpH7の場合と同様の良好な結果が得られた。
【0102】
また、実施例1−2及び1−3を用いた場合の効果を
図2に示す。
図2から明らかなように、実施例1−2及び1−3のいずれにおいても前述の比較例1と比べてOD値が著しく小さいことが確認された。
【0103】
このことから、不活性な抗体の等電点よりも低い等電点を有するペプチドを連結させた不活性な抗体を変性させ、これを液相に分散させることによって、該ペプチドを連結させていない抗体を用いた場合と比較して、抗体のリフォールディング効率が著しく向上されることが確認できた。
【0104】
試験例2:Anti-RNase scFvのリフォールディング効率の評価
1.以下の手順で、以下の実施例2−1〜2−5及び比較例2に示す構造を備えた、不活性な抗体の等電点よりも低い等電点を有するペプチドが連結されてなる不活性な抗体を調製した。
実施例2−1:anti-RNase scFv-PM-His(等電点5.96)
実施例2−2:anti-RNase scFv-D5-His(等電点5.75)
実施例2−3:anti-RNase scFv-D10-His(等電点4.93)
実施例2−4:anti-RNase scFv-D15-His(等電点4.55)
実施例2−5:anti-RNase scFv-D20-His(等電点4.32)
比較例2:anti-RNase scFv-His(等電点7.26)
抗体としてRNaseに対する1本鎖抗体を用いた以外は試験例1の実施例1−1〜1−3及び比較例1と同様にして、実施例2−1〜2−3及び比較例2に示す、不活性な抗体の等電点よりも低い等電点を有するペプチドが連結されてなる不活性な抗体を調製した。
【0105】
更に、抗体としてRNaseに対する1本鎖抗体を用い、アスパラギン酸残基5個からなるペプチドに代えてアスパラギン酸残基15個からなるペプチド(D15)またはアスパラギン酸残基20個からなるペプチド(D20)を用いる以外は試験例1の実施例1−2と同様にして、実施例2−4及び2−5に示す、不活性な抗体の等電点よりも低い等電点を有するペプチドが連結されてなる不活性な抗体を調製した。なお、該調製において、実施例1−2において使用した5つの連続するアスパラギン酸残基からなるポリヌクレオチドに代えて、15つの連続するアスパラギン酸残基からなるポリヌクレオチド、または、20つの連続するアスパラギン酸残基からなるポリヌクレオチドを用いた以外は同様にして実施例2−4及び2−5を作製するためのするための発現ベクターを使用した。
【0106】
次いで、実施例2−1〜2−5及び比較例2に示される抗体に対して試験例1と同様の手順にて変性、リフォールディングを行い、マイクロプレートリーダーを用いて吸光度を評価した。
【0107】
2.結果を
図3及び
図4に示す。
実施例2−1及び比較例2を用いた場合の効果を
図3に示す。
図3から明らかなように、比較例2に対して、実施例2−1においてOD値が著しく小さいことが確認された。
【0108】
また、実施例2−2〜2−5を用いた場合の効果を
図4に示す。
図4から明らかなように、実施例2−2〜2−5のいずれにおいても前述の比較例2と比べてOD値が著しく小さいことが確認された。
【0109】
このことから、anti-RNase scFvにおいても、不活性な抗体の等電点よりも低い等電点を有するペプチドを連結させた不活性な抗体を変性させ、液相に分散させることによって、該ペプチドを連結させていない抗体を用いた場合と比較して、抗体のリフォールディング効率が著しく向上できることが確認できた。
【0110】
試験例3:Anti-CRP scFvのリフォールディング効率の評価
1.以下の手順で、次の実施例3−1〜3−5及び比較例3に示す構造を備えた、不活性な抗体の等電点よりも低い等電点を有するペプチドが連結されてなる不活性な抗体を調製した。試験例2とは異なる抗体である、C反応性蛋白(CRP、C-reactive protein)に対する1本鎖抗体を用いた以外は試験例2と同様にして試験を行った。
実施例3−1:anti-CRP scFv-PM-His(等電点5.9)
実施例3−2:anti-CRP scFv-D5-His(等電点5.8)
実施例3−3:anti-CRP scFv-D10-His(等電点5)
実施例3−4:anti-CRP scFv-D15-His(等電点4.6)
実施例3−5:anti-CRP scFv-D20-His(等電点4.4)
比較例3:anti-CRP scFv-His(等電点6.6)
【0111】
2.結果を
図5及び
図6に示す。
実施例3−1及び比較例3を用いた場合の効果を
図5に示す。
図5から明らかなように、比較例3に対して、実施例3−1においてOD値が著しく小さいことが確認された。
【0112】
また、実施例3−2〜3−5を用いた場合の効果を
図6に示す。
図6から明らかなように、実施例3−2〜3−5のいずれにおいても前述の比較例3と比べてOD値が著しく小さいことが確認された。
【0113】
このことから、anti-CRP scFvにおいても、不活性な抗体の等電点よりも低い等電点を有するペプチドを連結させた不活性な抗体を変性させ、液相に分散させることによって、該ペプチドを連結させていない抗体を用いた場合と比較して、抗体のリフォールディング効率が著しく向上できることが確認された。
【0114】
試験例4:Anti-TSH、Anti-IgA、Anti-IgGまたはAnti-TF189のscFvのリフォールディング効率の評価
1.前述の実施例1において抗体としてTSH、IgA、IgGまたはTF189を用いる以外は同様にして実施例4〜7に示す構造を備えた、不活性な抗体の等電点よりも低い等電点を有するペプチドが連結されてなる不活性な抗体を調製し、同様にして試験を行った。
実施例4:anti-TSH scFv-PM-His(等電点6.41)
実施例5:anti-IgA scFv-PM-His(等電点6.49)
実施例6:anti-IgG scFv-PM-His(等電点6.14)
実施例7:anti-TF189 scFv-PM-His(等電点5.86)
【0115】
2.結果を
図7に示す。
図7に示すように、抗体としてTSH、IgA、IgGまたはTF189の1本鎖抗体を用いた場合も、前記ペプチドを連結させることによってリフォールディング効率を高めることができた。なお、図中、例えば「pH7.5-」や「pH7.5+」においてはそれぞれ4本のバーが示されているが、これは左から順にTSH、IgA、IgG、TF189の結果を示す。また、図はイオン強度(NaCl濃度)0mMの溶液に分散させてリフォールディングを行った結果である。
【0116】
試験例5:リフォールディング効率の算出
前記実施例1−1、実施例2−1、実施例3−1、実施例4及び比較例1に示される不活性な抗体を以下のように変性、リフォールディングを行うことによって、これらにおけるリフォールディング効率を算出した。
【0117】
具体的には、それぞれの前記ペプチドを連結させた不活性な抗体を、終濃度500μg/mLとなるように8M 尿素を含有するPBS中に希釈した。このようにして変性させたそれぞれの前記ペプチドを連結させた不活性な抗体を、液相(0.05M TAPSグッドバッファー、pH8.5、NDSB201無添加、NaCl濃度0mM)に透析により18時間分散させた(最終濃度0.5M Uera)。10000g、25℃で、2分間遠心分離を行い、上清を回収した。遠心分離前後の抗体濃度をDC Protein Assay Kit(バイオラッドラボラトリーズ社製)によって定量し、遠心後に回収した上清中の抗体濃度を、遠心直前の液相中の抗体濃度で除して回収率を算出した。
【0118】
その結果、実施例1−1におけるリフォールディング効率は91.2%であり、これは比較例1におけるリフォールディング効率43.9%を、2倍以上で上回る回収率であった。また、リフォールディング効率は、実施例2−1では88%、実施例3−1では90%、実施例4では93%であり、いずれも高効率であった。
【0119】
試験例6:リフォールディングされた抗体の基材への固定化
1.配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(PM)は、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)製の基材に親和性を有しており、実施例2−1において該ペプチドは1本鎖抗体に連結されている。このことから、前述のようにして得た、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチドが連結されたリフォールディングされた抗体を、ポリメタクリル酸メチル製の基材と接触させることによって、該ペプチドを介してリフォールディングされた抗体が該基材上に良好に固定できるかどうかについて検討した。比較例として、前記比較例2をリフォールディングしたものを用いた。なお、リフォールディングでは0.05M TAPSグッドバッファーを用い、pH8.5、NDSB201無添加、NaCl濃度0mMに調整した液相を用いた。
【0120】
具体的には、リフォールディング後に得られた各抗体をPBSで2倍ずつ段階希釈し、ポリメタクリル酸メチル製のマイクロプレート中に100μLずつ添加し、4℃で一晩インキュベートした。次いで、マイクロプレートをPBST(PBS-0.1%Tween20)で洗浄後、2%BSA-PBSTを300μLずつ加えて25℃で1時間インキュベートした。PBSTでプレートを洗浄後、2%BSA-PBSTで100ng/mLに希釈したビオチン化RNase(抗原)を100μLずつ加えて25℃で1時間インキュベートした。PBSTでプレートを洗浄後、2%BSA-PBSTで5000倍希釈したHRP標識ストレプトアビジンを100μLずつ加えて25℃で1時間インキュベートした。PBSTで洗浄後、TMB基質溶液を100μLずつ加えて25℃で15分インキュベートし、0.3M H
2SO
4を100μLずつ加えて発色反応を停止した。マイクロプレートリーダーで波長450nmにおける吸光度(副波長650nm)を測定した。
【0121】
2.結果を
図8に示す。該結果から明らかなように、実施例2−1を用いた場合には、基材上での活性が、リフォールディングされた抗体の濃度依存的に向上した。これに対して、前記ペプチドが連結されていない比較例2を用いた場合には、リフォールディングされた抗体に基づく活性が著しく低かった。このことから、実施例2−1で用いられたペプチドは、抗体の変性及びリフォールディング後であっても、そのポリメタクリル酸メチルに対する良好且つ特異的な親和性を維持していることが確認され、前述のようにしてリフォールディングされた抗体も、その特有の活性を十分に保持していることが確認された。
【0122】
試験例7:低等電点ペプチド及び親和性ペプチドを連結させた抗体における、リフォールディング効率の評価
1.前記実施例2−4において連結させたペプチドに加えて、以下の親和性ペプチドを連結させた以外は試験例2と同様にして、抗体のリフォールディング効率を比較した。ここで、下記PSは、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなる親和性ペプチドであり、親水性ポリスチレンに対して親和性を有する。下記SiNは、配列番号29で表されるアミノ酸配列からなる親和性ペプチドであり、窒化ケイ素に対して親和性を有する。実施例8−1においてPSとD15との間に酵素により切断可能な切断部位を連結させた。同様に、実施例8−2においてSiNとD15との間に切断部位を連結させた。また、実施例2−4の低等電点ペプチドに代えて、前記親和性ペプチドを連結させたものを、比較例4(PS)及び比較例5(SiN)とした。なお、配列番号10で示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードするポリヌクレオチドは配列番号61で表され、配列番号29で表されるアミノ酸配列ペプチドをコードするポリヌクレオチドは配列番号63で表される。
実施例2−4:anti-RNase scFv-D15-His(等電点4.55)
実施例8−1:anti-RNase scFv-PS-D15-His(等電点5)
実施例8−2:anti-RNase scFv-SiN-D15-His(等電点4.83)
比較例2:anti-RNase scFv-His(等電点7.26)
比較例4:anti-RNase scFv-PS-His(等電点8.97)
比較例5:anti-RNase scFv-SiN-His(等電点8.14)
【0123】
2.結果を
図9及び10に示す。
図9はPSを用いた結果であり、
図10はSiNを用いた結果である。
図9から明らかなように、親和性ペプチドPSの存在下でも、不活性な抗体の等電点よりも低い等電点を有するペプチドが連結された不活性な抗体ではODが低く、その抗体のリフォールディング効率を高めることができた。同様に、
図10においても同様に、親和性ペプチドSiNの存在下でも、不活性な抗体の等電点よりも低い等電点を有するペプチドが連結された不活性な抗体では、その抗体のリフォールディング効率を高めることができた。
【0124】
試験例8:リフォールディングされた抗体の基材への固定化
1.前記実施例2−1、実施例2−4、実施例8−1を用いて、リフォールディングされた抗体を、ポリメタクリル酸メチル製の基材と接触させることによって、前記ペプチドを介してリフォールディングされた抗体が前記基材上に良好に固定できるかどうかについて検討した。
【0125】
具体的には、前記実施例2−4、実施例8−1、比較例4をそれぞれ前記試験例7に従いリフォールディングさせたのち(液相0.05M TAPSグッドバッファー、pH8.5、NDSB201無添加、NaCl濃度0mM)、各ペプチドが連結されてなるリフォールディングされた抗体が50ug/mLの濃度になるようPBSで調製し、これをポリメタクリル酸メチル製の基材(マイクロプレート)に100uLずつ加えて25℃で2時間インキュベートした。次いで、PBSTで5回基材を洗浄後、2%BSAを含むPBST(2% BSA-PBST)を300uLずつ加え、25℃で1時間インキュベートした。次いで、PBSTで5回基材を洗浄後、biotin標識RNaseを0〜1ug/mLとなるよう2%BSA-PBSTで希釈し、100uLずつ加えて25℃で1時間インキュベートした。次いで、PBSTで5回基材を洗浄後、HRP標識ストレプトアビジンを0.2ug/mLとなるよう2%BSA-PBSTで希釈し、100uLずつ加えて25℃で1時間インキュベートした。次いで、PBSTで5回基材を洗浄後、TMBを100uLずつ加えて25℃で15分間インキュベートし、0.3M硫酸を100uL加えて発色反応を停止させた(発色反応)。その後、450nmにおける吸光度(副波長 650nm)をマイクロプレートリーダーで測定した。
【0126】
また、ポリメタクリル酸メチル製の基材(マイクロプレート)を親水性ポリスチレン製の基材(マイクロプレート)に代えた以外は前述と同様にして前記実施例2−4、実施例8−1を用いて試験を行い、親水性ポリスチレン製の基材に対して固定の程度を測定した。
【0127】
2.結果を
図11及び12に示す。
図11から明らかなように、ポリメタクリル酸メチルに親和性を有し、且つ、不活性な抗体の等電点よりも低い等電点を有するペプチド(PM)が導入されている実施例2−1においてリフォールディングされた抗体によれば、該リフォールディングされた抗体に連結されているPMの効果によって、ポリメタクリル酸メチル製の基材にリフォールディングされた抗体が高密度に固定化され、ポリメタクリル酸メチルに親和性を有するペプチドが連結されていない他のリフォールディングされた抗体と比較して、高いシグナルが得られた。
【0128】
また、
図12においても同様の傾向が認められ、親水性ポリスチレンに親和性を有するペプチド(PS)と不活性な抗体の等電点よりも低い等電点を有するペプチドの両ペプチドが導入されている実施例8−1においてリフォールディングされた抗体によれば、該リフォールディングされた抗体に連結されているPSの効果によって、親水性ポリスチレン製の基材にリフォールディングされた抗体が高密度に固定化され、親水性ポリスチレンに親和性を有するペプチドが連結されていない他のリフォールディングされた抗体と比較して、高いシグナルが得られた。
【0129】
試験例9:重鎖Fab、軽鎖Fabのリフォールディング効率の評価
1.実施例1−1(anti-CEA scFv-PM-His)における一本鎖抗体を、CEAに対する重鎖のFab抗体(Fab H)またはCEAに対する軽鎖のFab抗体(Fab L)に代えた以外は、試験例1と同様にして、以下の実施例9−1及び実施例9−2に示される、不活性な抗体の等電点よりも低い等電点を有するペプチドが連結されてなる不活性な抗体を作製した。また、実施例2−1(anti-RNase scFv-PM-His)における一本鎖抗体を、RNaseに対する重鎖のFab抗体(Fab H)またはRNaseに対する軽鎖のFab抗体(Fab L)に代えた以外は、試験例2と同様にして、以下の実施例9−3及び実施例9−4に示される、不活性な抗体の等電点よりも低い等電点を有するペプチドが連結されてなる不活性な抗体を作製した。また、実施例7(anti-TF189 scFv-PM-His)における一本鎖抗体を、TF189に対する重鎖のFab抗体(Fab H)またはTF189に対する軽鎖のFab抗体(Fab L)に代えた以外は、試験例4と同様にして、以下の実施例9−5及び実施例9−6に示される、不活性な抗体の等電点よりも低い等電点を有するペプチドが連結されてなる不活性な抗体を作製した。また、同様に、抗体としてAFPを用いる以外は実施例9−1等と同様にして、以下の実施例9−7及び実施例9−8に示される、不活性な抗体の等電点よりも低い等電点を有するペプチドが連結されてなる不活性な抗体を作製した。
実施例9−1:anti-CEA Fab H-PM-His (等電点4.91)
実施例9−2:anti-CEA Fab L-PM-His (等電点5.81)
実施例9−3:anti-RNase Fab H-PM-His (等電点6.32)
実施例9−4:anti-RNase Fab L-PM-His (等電点5.55)
実施例9−5:anti-TF189 Fab H-PM-His (等電点6.54)
実施例9−6:anti-TF189 Fab L-PM-His (等電点5.33)
実施例9−7:anti-AFP Fab H-PM-His (等電点7.29)
実施例9−8:anti-AFP Fab L-PM-His (等電点5.81)
得られた実施例9−1〜9−8のペプチドが連結されてなる不活性な抗体を、前記試験例1と同様にして変性、リフォールディングを行い、そのリフォールディング効率を評価した。なお、本試験例では、変性、リフォールディングは実施例9−1〜9−8がそれぞれ単独で存在する条件下で行うことに加えて、実施例9−1及び9−2が共存する条件下(anti-CEA Fab-PM-His (H+L))、実施例9−3及び9−4が共存する条件下(anti-RNase Fab-PM-His (H+L))、実施例9−5及び9−6が共存する条件下(anti-TF189 Fab-PM-His (H+L))、実施例9−7及び9−8が共存する条件下(anti-AFP Fab-PM-His (H+L))でも行った。
【0130】
2.結果を
図13〜
図16に示す。
図13〜
図16は、それぞれCEA、RNase、TF189、AFPに関する各結果を示す。これらの結果から明らかなように、いずれにおいてもOD値が小さく、効率良くリフォールディングされていることが確認された。
【0131】
試験例10:リフォールディング効率の算出
試験例9において実施例9−1及び9−2が共存する条件下(anti-CEA Fab-PM-His (H+L))、実施例9−3及び9−4が共存する条件下(anti-RNase Fab-PM-His (H+L))、実施例9−5及び9−6が共存する条件下(anti-TF189 Fab-PM-His (H+L))を用いて、前記試験例5と同様にして変性、リフォールディングを行うことによって、これらにおけるリフォールディング効率を算出した。
【0132】
その結果、リフォールディング効率は、anti-CEA Fab-PM-His (H+L)では93%、anti-RNase Fab-PM-His (H+L)では100%、anti-TF189 Fab-PM-His (H+L)では100%であり、いずれも高効率であった。
【0133】
試験例11:リフォールディングされた重鎖Fab、軽鎖Fabの活性評価
1.以下のペプチドを連結させた不活性な抗体を、前記試験例10と同様にして変性、リフォールディングすることによって得た、リフォールディングされた各抗体を、後述の手順に従いポリメタクリル酸メチル製の基材と接触させ、固定された各抗体の活性を評価した。また、前記試験例10において用いたanti-CEA Fab -PM-His (H+L)、anti-RNase Fab -PM-His (H+L)、anti-TF189 Fab -PM-His (H+L)についてもリフォールディングを行い、同様にしてポリメタクリル酸メチル製の基材と接触させて、固定された各抗体の活性を評価した。リフォールディングは、0.05M TAPSグッドバッファーを用い、pH8.5、NDSB201無添加、NaCl濃度0mMに調整された液相を用いて行った。
−CEAに対する抗体
実施例1−1:anti-CEA scFv-PM-His
実施例9−1:anti-CEA Fab H-PM-His
実施例9−2:anti-CEA Fab L-PM-His
−RNaseに対する抗体
実施例2−1:anti-RNase scFv-PM-His
実施例9−3:anti-RNase Fab H-PM-His
実施例9−4:anti-RNase Fab L-PM-His
−TF189に対する抗体
実施例7:anti-TF189 scFv-PM-His
実施例9−5:anti-TF189 Fab H-PM-His
実施例9−6:anti-TF189 Fab L-PM-His
【0134】
より具体的には、前述のようにして得た、不活性な抗体の等電点よりも低い等電点を有するペプチドが連結されてなる、リフォールディングされた抗体(anti-CEA抗体、anti-RNase抗体)が100ug/mLの濃度になるようPBSで調製し、これをポリメタクリル酸メチル製の基材(マイクロプレート)に100uLずつ加えて25℃で2時間インキュベートした。次いで、PBSTで5回基材を洗浄後、2%BSAを含むPBST(2% BSA-PBST)を300uLずつ加え、25℃で1時間インキュベートした。次いで、PBSTで5回基材を洗浄後、biotin標識CEAまたはbiotin標識RNaseを0〜1ug/mLとなるよう2%BSA-PBSTで希釈し、100uLずつ加えて25℃で1時間インキュベートした。次いで、PBSTで5回基材を洗浄後、HRP標識ストレプトアビジンを0.2ug/mLとなるよう2%BSA-PBSTで希釈し、100uLずつ加えて25℃で1時間インキュベートした。次いで、PBSTで5回基材を洗浄後、TMBを100uLずつ加えて25℃で15分間インキュベートし、0.3M硫酸を100uL加えて発色反応を停止させた。その後、450nmにおける吸光度(副波長 650nm)をマイクロプレートリーダーで測定した。
【0135】
また、不活性な抗体の等電点よりも低い等電点を有するペプチドが連結されてなる、リフォールディングされた抗体(anti-TF189抗体)については、同様に、前述のようにして得たペプチドが連結されてなるリフォールディングされた抗体が100ug/mLの濃度になるようPBSで調製し、これをポリメタクリル酸メチル製の基材(マイクロプレート)に100uLずつ加えて25℃で2時間インキュベートした。次いで、PBSTで5回基材を洗浄後、2%BSAを含むPBST(2% BSA-PBST)を300uLずつ加え、25℃で1時間インキュベートした。次いで、PBSTで5回基材を洗浄後、Transferrinを0〜1ug/mLとなるよう2%BSA-PBSTで希釈し、100uLずつ加えて25℃で1時間インキュベートした。次いで、PBSTで5回基材を洗浄後、biotin標識抗Transferrin抗体を0.25ug/mLとなるよう2%BSA-PBSTで希釈し、100uLずつ加えて25℃で1時間インキュベートした。これ以降の手順は前述同様にして行い、吸光度測定した。
【0136】
2.結果を
図17〜19に示す。
図17〜19から明らかなように、特にFab LとFab Hを混合させた場合に、一本鎖抗体を用いた場合と同様に、所望の活性が観察された。通常、H鎖とL鎖はこれらが協力して抗原認識を行うと考えられている。本試験例において、Fab HやFab Lが単独で存在する場合と比較して、Fab LとFab Hとが共存させてリフォールディングを行い、この場合に高い活性が認められたことは、本発明によれば抗体に由来する所望の活性が良好に回復されていることを示している。
【0137】
試験例12:VHHのリフォールディング効率の評価
前述の実施例1において抗体としてラクダ由来VHHを用いる以外は同様にして実施例10に示す構造を備えた、不活性な抗体の等電点よりも低い等電点を有するペプチドが連結されてなる不活性な抗体を調製し、同様にして試験を行った。また、比較のため、比較例6に示す構造を備えた抗体を調製し、同様にして試験行った。
実施例10:VHH-PM-His(等電点6.05)
比較例6:VHH-His(等電点8.20)
図20に示すように、抗体としてVHH単ドメイン抗体を用いた場合も、前記ペプチドを連結させることによって凝集が著しく解消され、これによってリフォールディング効率を高めることができることが分かった。液相のpHが7.5など更に低い場合であっても、同様の傾向が認められた。
【0138】
試験例13:リフォールディング効率の算出
試験例12に記載される実施例10及び比較例6を用いて、前記試験例5と同様にして変性、リフォールディングを透析によって行い、これらにおけるリフォールディング効率を算出した。具体的には、8M Urea-PBSに溶解させた実施例10(VHH-PM-His)を、0.5mg/mL VHH-PM-His、0.5M Urea、50mM TAPSとなるよう希釈して得た溶液1mLを透析チューブ内に入れ、50mM TAPS 1Lの外液に対して4℃で一晩透析した。次いで、透析チューブ内の溶液を回収し、遠心分離によって凝集体を除去した。遠心分離前後のタンパク質濃度をDC Protein Assay(バイオラッドラボラトリーズ社製)によってそれぞれ定量し、回収率を算出した。比較例6(VHH-His)についても同様にして回収率を算出した。
【0139】
その結果、実施例10では回収率が95%であったのに対し、比較例6では回収率が20%であった。このことから、抗体としてVHHを用いた場合であっても不活性な抗体を効率よくリフォールディングできたことが分かった。
【0140】
試験例14:リフォールディング効率の算出
試験例13とは異なる方法を用いて、実施例10についてリフォールディング効率を算出した。具体的には、ゲルクロマトグラフィーによってリフォールディング効率を算出した。まず、AKTA Purifier UPC10 クロマトグラフィシステム(GEヘルスケア社製)にゲル濾過カラムHi Trap Desalting(GEヘルスケア社製) 5mL を2個連結してセットし、50mM TAPS (pH 8.5)で平衡化した。次に、8M Urea-PBSに溶解させた実施例10(VHH-PM-His)を、0.5mg/mL VHH-PM-His、0.5M Urea、50mM TAPS、0.5M NDSB201となるよう希釈して得た溶液2mLを前記カラムに負荷し、50mM TAPS (pH 8.5)を供給した。次いで 最初に溶出されるタンパク質のピークを含有する溶液を回収した(3mL回収)。 回収したタンパク質溶液の濃度をDC protein assay(バイオラッドラボラトリーズ社製)で定量し、アプライ量と回収量から回収率を算出した。その結果、実施例10では回収率が99%であった。このことから、抗体としてVHHを用いた場合であっても不活性な抗体を効率よくリフォールディングできたことが分かった。
【0141】
試験例15:リフォールディングされたVHHの基材への固定及び活性評価
1.前記実施例10を用いてリフォールディングされた抗体を、ポリメタクリル酸メチル製の基材と接触させることによって、前記ペプチドを介してリフォールディングされた抗体が前記基材上に良好に固定できるかどうかについて検討した。また、当該固定化された抗体がその活性を維持しているかどうかについて検討した。比較例6についても同様にして検討した。
【0142】
具体的には、前記実施例10を試験例13に従いリフォールディングさせたのち、ペプチドが連結されてなるリフォールディングされた抗体が45ug/mLの濃度になるようPBSで調製し、これをポリメタクリル酸メチル製の基材(マイクロプレート)に100uLずつ加えて25℃で2時間インキュベートした。次いで、PBSTで5回基材を洗浄後、2% BSA-PBSTを300uLずつ加え、25℃で1時間インキュベートした。次いで、PBSTで5回基材を洗浄後、biotin標識hCGを0〜1ug/mLとなるよう2%BSA-PBSTで希釈し、100uLずつ加えて25℃で1時間インキュベートした。次いで、PBSTで5回基材を洗浄後、HRP標識ストレプトアビジンを0.2ug/mLとなるよう2%BSA-PBSTで希釈し、100uLずつ加えて25℃で1時間インキュベートした。次いで、PBSTで5回基材を洗浄後、TMBを100uLずつ加えて25℃で15分間インキュベートし、0.3M硫酸を100uL加えて発色反応を停止させた(発色反応)。その後、450nmにおける吸光度(副波長 650nm)をマイクロプレートリーダーで測定した。
【0143】
2.結果を
図21に示す。
図21から明らかなように、ポリメタクリル酸メチルに親和性を有し、且つ、不活性な抗体の等電点よりも低い等電点を有するペプチド(PM)が導入されている実施例10においてリフォールディングされた抗体によれば、該リフォールディングされた抗体に連結されているPMの効果によって、ポリメタクリル酸メチル製の基材にリフォールディングされた抗体が高密度に固定化され、ポリメタクリル酸メチルに親和性を有するペプチドが連結されていない抗体と比較して、高いシグナルが得られた。このことから、実施例10においてリフォールディングされた抗体が基材に高密度に固定化され、また、抗体に由来する所望の活性が良好に回復されていることが分かった。