特許第6453233号(P6453233)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6453233
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】排ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/94 20060101AFI20190107BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20190107BHJP
   B01J 29/85 20060101ALI20190107BHJP
   B01J 29/76 20060101ALI20190107BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20190107BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20190107BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20190107BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20190107BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20190107BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20190107BHJP
【FI】
   B01D53/94 222
   B01D53/94 400
   B01J35/04 301E
   B01J35/04 301L
   B01J29/85 AZAB
   B01J29/76 A
   B01J23/42 A
   F01N3/035 A
   F01N3/08 B
   F01N3/10 A
   F01N3/24 E
   F01N3/28 301F
   F01N3/28 301P
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-552430(P2015-552430)
(86)(22)【出願日】2014年12月5日
(86)【国際出願番号】JP2014082320
(87)【国際公開番号】WO2015087817
(87)【国際公開日】20150618
【審査請求日】2017年11月17日
(31)【優先権主張番号】特願2013-254478(P2013-254478)
(32)【優先日】2013年12月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(72)【発明者】
【氏名】辻 誠
(72)【発明者】
【氏名】今井 啓人
(72)【発明者】
【氏名】小林 慎太郎
【審査官】 松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−188429(JP,A)
【文献】 特開2013−019390(JP,A)
【文献】 特開2000−192810(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/014467(WO,A1)
【文献】 特開2005−007260(JP,A)
【文献】 特開2011−041905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/73
B01D 53/86− 53/90
B01D 53/94
B01D 53/96
F01N 3/00
F01N 3/02
F01N 3/04− 3/38
F01N 9/00− 11/00
B01J 21/00− 38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置され、該内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
前記排気通路の上流側に配置された上流触媒部と、
前記上流触媒部よりも前記排気通路の下流側に配置された下流触媒部と、
前記上流触媒部よりも上流からアンモニアを生成するための還元剤溶液を供給する還元剤溶液供給手段と
を備え、
前記上流触媒部および前記下流触媒部は、それぞれアンモニアを吸着して排ガス中のNOxを還元するゼオライトからなるSCR触媒を含んでおり、
前記上流触媒部に含まれるゼオライトからなるSCR触媒は、国際ゼオライト学会の定める構造コードがCHA(チャバサイト)であり、
前記下流触媒部に含まれるゼオライトからなるSCR触媒は、国際ゼオライト学会の定める構造コードがBEA(ベータ)であり、
前記上流触媒部に含まれるゼオライトからなるSCR触媒の骨格密度Aが、前記下流触媒部に含まれるゼオライトからなるSCR触媒の骨格密度Bよりも小さい(A<B)、排ガス浄化装置。
【請求項2】
前記上流触媒部に含まれるゼオライトからなるSCR触媒の骨格密度Aと、前記下流触媒部に含まれるゼオライトからなるSCR触媒の骨格密度Bとの差が、0.1(T/1000Å)≦B−Aである、請求項1に記載の排ガス浄化装置。
【請求項3】
前記上流触媒部に含まれるゼオライトからなるSCR触媒の骨格密度Aと、前記下流触媒部に含まれるゼオライトからなるSCR触媒の骨格密度Bとの双方が、14(T/1000Å)以上17(T/1000Å)以下である、請求項1または2に記載の排ガス浄化装置。
【請求項4】
前記上流触媒部に含まれるゼオライトからなるSCR触媒の平均細孔径と、前記下流触媒部に含まれるゼオライトからなるSCR触媒の平均細孔径との双方が、2Å以上7Å以下である、請求項1〜3の何れか一つに記載の排ガス浄化装置。
【請求項5】
前記排気通路の上流側に配置されたフィルタ触媒部と、
前記フィルタ触媒部よりも前記排気通路の下流側に配置された複数のハニカム触媒部と
を備えており、
前記フィルタ触媒部として、前記上流触媒部が設けられており、
前記複数のハニカム触媒部のうち前記排気通路の最下流側に配置されたハニカム触媒部として、前記下流触媒部が設けられている、請求項1〜4の何れか一つに記載の排ガス浄化装置。
【請求項6】
前記最下流側に配置されたハニカム触媒部には、貴金属が担持されている、請求項5に記載の排ガス浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化装置に関する。詳しくは、ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化装置に関する。
なお、本国際出願は2013年12月9日に出願された日本国特許出願第2013−254478号に基づく優先権を主張しており、その出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
一般に、内燃機関から排出される排ガスには、炭素を主成分とする粒子状物質(PM:Particulate Matter)、不燃成分からなるアッシュなどが含まれ、大気汚染の原因となることが知られている。そのため、粒子状物質の排出量については、排ガスに含まれる炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)などの有害成分とともに年々規制が強化されている。そこで、これらの粒子状物質を排ガスから捕集して除去するための技術が提案されている。
【0003】
例えば、上記粒子状物質を捕集するためのパティキュレートフィルタが内燃機関の排気通路内に設けられている。例えばディーゼルエンジンは、一定量の粒子状物質を排ガスとともに排出するため、ディーゼルパティキュレートフィルタ(Diesel Particulate Filter:DPF)が排気通路内に装着されている。かかるパティキュレートフィルタとしては、基材が多孔質からなる多数のセルから構成され、多数のセルの入口と出口を交互に閉塞した、ウォールフロー型と呼ばれる構造のものが知られている(特許文献1、2)。ウォールフロー型パティキュレートフィルタでは、セル入口から流入した排ガスは、仕切られた多孔質のセル隔壁を通過し、セル出口へと排出される。そして、排ガスが多孔質のセル隔壁を通過する間に、粒子状物質が隔壁内部の細孔内にトラップされる。
【0004】
また、近年ではさらなる浄化性能向上のために、上記フィルタにNOx浄化能を持たせることが検討されている。例えば、アンモニア等の還元作用により排ガス中のNOxを選択的に還元するSCR(Selective Catalytic Reduction)触媒を上記フィルタに設けたものが提案されている(特許文献3)。例えば、尿素添加式の排ガス浄化装置では、SCR触媒が担持されたフィルタの上流に尿素水を供給し、該尿素水が加水分解することでアンモニアが生成する。このアンモニアがSCR触媒に吸着し、吸着したアンモニアの還元作用により排ガス中のNOxが浄化される。SCR触媒としては、銅担持ゼオライトや鉄担持ゼオライト等のゼオライトが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特許出願公開2007−185571号公報
【特許文献2】日本国特許出願公開2009−82915号公報
【特許文献3】日本国特許出願公開2004−60494号公報
【発明の概要】
【0006】
ところで、本発明者は、上記ゼオライトからなるSCR触媒を備えた排ガス浄化装置において、SCR触媒を担持したフィルタ触媒と、SCR触媒および貴金属を担持したハニカム触媒とを組み合わせて使用することを検討している。この場合、SCR触媒を担持したフィルタ触媒を排気管の上流側に配置することで、排ガス中のPMを除去しつつNOxを浄化することができる。また、SCR触媒および貴金属を担持したハニカム触媒を排気管の下流側に配置することで、NOx浄化で余ったアンモニアが除去され、アンモニアの外部排出(スリップ)が抑制される。しかし、上流側のフィルタ触媒と下流側のハニカム触媒とでゼオライトからなるSCR触媒を用いた場合に、さらに、両方の触媒部で同種のゼオライトを採用すると、NOxの浄化率が低下し、所望のNOx浄化性能が得られない事象が散見された。本発明は上記課題を解決するものである。
【0007】
本発明によって提供される排ガス浄化装置は、内燃機関の排気通路に配置され、該内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化装置である。この排ガス浄化装置は、前記排気通路の上流側に配置された上流触媒部と、前記上流触媒部よりも前記排気通路の下流側に配置された下流触媒部と、前記上流触媒部よりも上流からアンモニアを生成するための還元剤溶液を供給する還元剤溶液供給手段とを備える。前記上流触媒部および前記下流触媒部は、それぞれアンモニアを吸着して排ガス中のNOxを還元するゼオライトからなるSCR触媒を含んでいる。そして、前記上流触媒部に含まれるSCR触媒の骨格密度Aが、前記下流触媒部に含まれるSCR触媒の骨格密度Bよりも小さい(A<B)。かかる排ガス浄化装置によると、従来に比して、NOxの浄化率が高く、NOx浄化性能がより良く向上した最適な排ガス浄化装置を実現することができる。
【0008】
ここに開示される排ガス浄化装置の好ましい一態様では、前記上流触媒部に含まれるゼオライトからなるSCR触媒の骨格密度Aと、前記下流触媒部に含まれるゼオライトからなるSCR触媒の骨格密度Bとの差が、0.1(T/1000Å)≦B−Aであり、好ましくは0.2(T/1000Å)≦B−Aである。このような骨格密度の差(B−A)の範囲内であると、上流側触媒部と下流側触媒部とでゼオライトの骨格密度に差を設けたことによる触媒性能向上効果がより適切に発揮され得る。
【0009】
ここに開示される排ガス浄化装置の好ましい一態様では、前記上流触媒部に含まれるゼオライトからなるSCR触媒の骨格密度Aと、前記下流触媒部に含まれるゼオライトからなるSCR触媒の骨格密度Bとの双方が、14(T/1000Å)以上17(T/1000Å)以下である。このような骨格密度の範囲内であると、耐熱性が高く、なおかつ反応性が高いSCR触媒とすることができる。したがって、触媒全体として高いNOx浄化性能を発揮し得るとともに、その浄化性能を良好に維持することができる。
【0010】
ここに開示される排ガス浄化装置の好ましい一態様では、前記上流触媒部に含まれるゼオライトからなるSCR触媒の平均細孔径と、前記下流触媒部に含まれるゼオライトからなるSCR触媒の平均細孔径との双方が、2Å以上7Å以下である。このような平均細孔径の範囲内であると、耐熱性が高く、なおかつ反応性が高いSCR触媒とすることができる。したがって、触媒全体として高いNOx浄化性能を発揮し得るとともに、その浄化性能を良好に維持することができる。
【0011】
ここに開示される排ガス浄化装置の好ましい一態様では、前記排気通路の上流側に配置されたフィルタ触媒部と、前記フィルタ触媒部よりも前記排気通路の下流側に配置された複数のハニカム触媒部とを備えている。そして、前記フィルタ触媒部として、前記上流触媒部が設けられており、前記複数のハニカム触媒部のうち前記排気通路の最下流側に配置されたハニカム触媒部として、前記下流触媒部が設けられている。かかる構成によると、フィルタ触媒部において、排ガス中のPMを除去しつつNOxを浄化することができる。
【0012】
ここに開示される排ガス浄化装置の好ましい一態様では、前記最下流側に配置されたハニカム触媒部には、貴金属(例えば白金)が担持されている。かかる構成によると、貴金属を担持した下流触媒部が触媒として機能することで、NOx浄化で余ったアンモニアを除去することができる。したがって、該アンモニアの外部への排出(スリップ)を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、一実施形態に係る排ガス浄化装置を模式的に示す図である。
図2図2は、一実施形態に係るフィルタ触媒部を模式的に示す斜視図である。
図3図3は、一実施形態に係るフィルタ触媒部を模式的に示す断面図である。
図4図4は、一実施形態に係るハニカム触媒部を模式的に示す斜視図である。
図5図5は、各例のNOx浄化率を対比するグラフである。
図6図6は、NOx浄化率と尿素添加量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えばパティキュレートフィルタの自動車における配置に関するような一般的事項)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0015】
図1に示すように、本実施形態に係る排ガス浄化装置100は、内燃機関としてのディーゼルエンジン1に適用されたものである。まず、ディーゼルエンジン1の構成を簡単に説明する。なお、以下に説明するディーゼルエンジン1は、本発明に係る内燃機関の一例に過ぎない。本発明に係る排ガス浄化装置は、以下に説明するディーゼルエンジン1以外の内燃機関(例えばガソリンエンジン等)にも適用することができる。
【0016】
ディーゼルエンジン1は、典型的には複数ある燃焼室2と、各燃焼室2に燃料を噴射する燃料噴射弁(図示せず)とを備えている。各燃焼室2は、吸気マニホルド4および排気マニホルド5と連通している。吸気マニホルド4は吸気ダクト6を介して、排気ターボチャージャ7のコンプレッサ7aの出口に接続されている。コンプレッサ7aの入口は、エアクリーナ9に接続されている。吸気ダクト6の周りには、吸気ダクト6内を流れる空気を冷却するための冷却装置(インタークーラー)6aが配置されている。排気マニホルド5は、排気ターボチャージャ7の排気タービン7bの入口に接続されている。排気タービン7bの出口は、排ガスが流通する排気通路(排気管)3に接続されている。排気マニホルド5と吸気マニホルド4とは、排ガス再循環通路(EGR通路)8を介して互いに連結されている。EGR通路8の周りには、EGR通路8内を流れるEGRガスを冷却するためのEGR冷却装置8aが配置されている。
【0017】
<排ガス浄化装置>
ここで開示される排ガス浄化装置100は、上記内燃機関1の排気通路(排気管)3に設けられている。排ガス浄化装置100は、上流側(図1の左側)から下流側(図1の右側)に向かって順に、還元剤溶液供給手段50、上流側フィルタ触媒部10、上流側ハニカム触媒部20、下流側ハニカム触媒部30を備え、上記排出される排ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)を浄化する。燃焼室から排気された排ガスは、排気マニホルド5から排気管3を通じて上流側フィルタ触媒部10に導かれ、さらに上流側ハニカム触媒部20および下流側ハニカム触媒部30へと導かれる。
【0018】
<還元剤溶液供給手段>
還元剤溶液供給手段50は、フィルタ触媒部10よりも排気管3の上流側に配置されている。還元剤溶液供給手段50は、フィルタ触媒部10の排ガス流通方向における上流からアンモニアを生成するための還元剤溶液(ここでは尿素水)を供給する。この実施形態では、還元剤溶液供給手段50は、噴霧ノズル52とポンプ54とタンク56とを備えている。噴霧ノズル52は、ポンプ54を介してタンク56に接続されている。ポンプ54は、タンク56内の尿素水を噴霧ノズル52へ供給する。噴霧ノズル52へ供給された尿素水は、排気管3内に噴霧され、該排気管3内で上流から流れてくる排ガスとともに下流へと流されるとともに、加水分解してアンモニアを発生させる。このアンモニアが後述するフィルタ10、第1ハニカム触媒20および第2ハニカム触媒30のSCR触媒に吸着し、吸着したアンモニアの還元作用により排ガス中のNOxが浄化される。なお、還元剤溶液供給手段の数は1つに限らず2つ以上であってもよい。例えば、更なる還元剤溶液供給手段をフィルタ触媒部10と上流側ハニカム触媒部20との間に配置してもよい。
【0019】
<上流側フィルタ触媒部>
上流側フィルタ触媒部10は、還元剤溶液供給手段50よりも排気管3の下流側に配置されている。上流側フィルタ触媒部10は、排ガスに含まれる粒子状物質(PM)を捕集可能な多孔質フィルタであり、PMの通過不能な多数の細孔が設けられている。また、フィルタ触媒部10は、SCR(Selective Catalytic Reduction:選択的接触還元)触媒を担持することで、排ガス中の窒素酸化物(NO)を浄化するものとして構成されている。
【0020】
図2は、フィルタ触媒部10の斜視図であり、図3は上流側フィルタ触媒部10を軸方向に切断した断面の一部を拡大した模式図である。図3に示すように、フィルタ触媒部10は、ウォールフロー構造の基材と触媒層とを備えている。
【0021】
上流側フィルタ触媒部10の基材は、排ガス流入側の端部のみが開口した入側セル12と、該入側セル12に隣接し排ガス流出側の端部のみが開口した出側セル14と、入側セル12と出側セル14とを仕切る多孔質の隔壁16とを有している。基材には、例えば、コージェライト等のセラミックスまたは耐熱合金等からなる基材などを用いることができる。
【0022】
入側セル12は、排ガス流入側の端部のみが開口しており、出側セル14は、入側セル12に隣接し排ガス流出側の端部のみが開口している。この実施形態では、入側セル12は、排ガス流出側の端部が封止部15で目封じされており、出側セル14は、排ガス流入側の端部が封止部17で目封じされている。隣接する入側セル12と出側セル14との間には、隔壁16が形成されている。この隔壁16によって入側セル12と出側セル14とが仕切られている。隔壁16は、排ガスが通過可能な多孔質構造である。また、隔壁16の表面および/または内部には触媒層が形成されている。フィルタ触媒部10の触媒層には、ゼオライトからなるSCR触媒が含まれている。ゼオライトからなるSCR触媒は、排気管3内に噴霧された還元剤溶液(ここでは尿素水)由来のアンモニアを吸着して排ガス中のNOxを還元する。
【0023】
この上流側フィルタ触媒部10は、基材の入側セル12から排ガスが流入する。入側セル12から流入した排ガスは、多孔質の隔壁16を通過して出側セル14に到達する。図3においては、入側セル12から流入した排ガスが隔壁16を通過して出側セル14に到達するルートを矢印で示している。このとき、隔壁16は多孔質構造を有しているので、排ガスがこの隔壁16を通過する間に、PMが隔壁16の表面や隔壁16の内部の細孔内に捕集される。また、隔壁16の表面および/または内部には、アンモニアを吸着したSCR触媒を含む触媒層が設けられているので、排ガスが隔壁16の内部および表面を通過する間に、排ガス中のNOxが浄化される。隔壁16を通過して出側セル14に到達した排ガスは、排ガス流出側の開口からフィルタ触媒部10の外部へと排出される。
【0024】
<上流側ハニカム触媒部および下流側ハニカム触媒部>
上流側ハニカム触媒部20は、図1に示すように、上流側フィルタ触媒部10よりも排気管3の下流側に配置されている。下流側ハニカム触媒部30は、上流側ハニカム触媒部20よりも排気管3の下流側(ここでは最下流側)に配置されている。上流側ハニカム触媒部20および下流側ハニカム触媒部30は、ストレートフロー構造の基材上に触媒層が形成されることによって構成されている。
【0025】
図4は、上流側ハニカム触媒部20および下流側ハニカム触媒部30の斜視図である。図4に示す構成の上流側ハニカム触媒部20および下流側ハニカム触媒部30では、基材としてハニカム構造を有した筒状部材が採用されている。なお、基材全体の外形は、円筒形状、楕円筒形状、多角筒形状などを採用することができる。上流側ハニカム触媒部20および下流側ハニカム触媒部30の基材には、従来公知の排ガス浄化触媒用基材を用いることができる。例えば、基材は、多孔質構造を有した耐熱性素材で構成されていると好ましい。かかる耐熱性素材としては、コージェライト、炭化ケイ素(シリコンカーバイド:SiC)、チタン酸アルミニウム、窒化ケイ素、ステンレス鋼などの耐熱性金属やその合金などが挙げられる。
【0026】
上流側ハニカム触媒部20および下流側ハニカム触媒部30の触媒層には、ゼオライトからなるSCR触媒が含まれている。このゼオライトからなるSCR触媒にアンモニアが吸着し、吸着したアンモニアの還元作用により排ガス中のNOxが浄化される。
【0027】
また、下流側ハニカム触媒部30の触媒層は、上流側ハニカム触媒部20の触媒層とは異なり、貴金属を含んでいる。具体的には、下流側ハニカム触媒部30の触媒層は、担体と、該担体に担持された貴金属とを含んでいる。担体としては、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、これらの固溶体または複合酸化物など、従来この種の担体として用いられている物質を含有することができる。例えば、アルミナを含む担体であることが好ましい。該担体に担持される貴金属としては、NOx浄化で余ったアンモニアを除去し得る触媒機能(酸化触媒機能)を有するものが好ましい。例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、銀(Ag)などの金属触媒粒子や、該金属触媒粒子を含んだ複合粒子などを好適に用いることができる。また、特に白金を用いることにより、NOx浄化で余ったアンモニアを効率よく除去できる。
【0028】
以下、上述した排ガス浄化装置100について、より詳細に説明する。
【0029】
ここで開示される排ガス浄化装置100は、排気管3の上流側に配置された上流側フィルタ触媒部(上流触媒部)10と、上流側フィルタ触媒部10よりも排気管3の下流側に配置された下流側ハニカム触媒部(下流触媒部)30と、上流側フィルタ触媒部10よりも上流からアンモニアを生成するための尿素水(還元剤溶液)を供給する還元剤溶液供給手段50とを備えている。上流側フィルタ触媒部10および下流側ハニカム触媒部30は、それぞれアンモニアを吸着して排ガス中のNOxを還元するゼオライトからなるSCR触媒を含んでいる。
【0030】
本発明者は、種々実験を行った結果、触媒部に含まれるゼオライトからなるSCR触媒の骨格密度を異ならせると、尿素水の供給量とNOx浄化率との関係に変化が生じることを見出した。具体的には、種々異なった骨格密度のゼオライトからなるSCR触媒を含む触媒を複数用意し、尿素の添加量を変えつつ各々の触媒のNOx浄化率を測定した。このうち、骨格密度が相対的に大きいSCR触媒を含む触媒と、骨格密度が相対的に小さいSCR触媒を含む触媒とについて、NOx浄化率測定を行った結果を図6に示す。図6のラインL1は、骨格密度が相対的に大きいSCR触媒を用いたときのNOx浄化率を、図6のラインL2は、骨格密度が相対的に小さいSCR触媒を用いたときのNOx浄化率を示している。
【0031】
図6に示すように、尿素水の添加量が比較的少ない領域R1では、骨格密度が相対的に大きいゼオライトの方が、骨格密度が相対的に小さいゼオライトよりもNOx浄化率が高い傾向がある。反対に、尿素水の添加量が比較的多い領域R2では、骨格密度が相対的に小さいゼオライトの方が、骨格密度が相対的に大きいゼオライトよりもNOx浄化率が高い傾向がある。これは、尿素水の添加量が比較的少ない領域R1では、骨格密度が相対的に大きいゼオライトを用いる方がNOx浄化に有利であり、一方、尿素水の添加量が比較的多い領域R2では、骨格密度が相対的に小さいゼオライトを用いる方がNOx浄化に有利であることを意味している。
【0032】
ここで本発明者の知見によれば、各触媒部10、20、30に供給される尿素水の量は均一ではなく、還元剤溶液供給手段50から離れた下流側の触媒部ほど尿素水の供給量が低くなる傾向が見られる。特に貴金属(例えばPt)を含む下流側ハニカム触媒部30は、複数の触媒部10、20、30のうち排気管の最後段に配置する必要があるため、尿素水の供給量が低くなる傾向が見られる。そのため、下流側ハニカム触媒部30は、上流側フィルタ触媒部10に比べて尿素水の供給量が少なくなる傾向がある。したがって、尿素水の供給量が少ない下流側ハニカム触媒部30においてNOxを効率よく浄化するためには、骨格密度が相対的に大きいゼオライトを用いることが効果的である。一方、尿素水の供給量が多い上流側フィルタ触媒部10においてNOxを効率よく浄化するためには、骨格密度が相対的に小さいゼオライトを用いることが効果的である。
【0033】
以上のような知見から、本発明者は、上流側フィルタ触媒部10ではSCR触媒に骨格密度が相対的に小さいゼオライトを用い、下流側ハニカム触媒部30ではSCR触媒に骨格密度が相対的に大きいゼオライトを用いることとした。すなわち、ここで開示される排ガス浄化装置100は、上流側フィルタ触媒部10に含まれるSCR触媒の骨格密度Aが、下流側ハニカム触媒部30に含まれるSCR触媒の骨格密度Bよりも小さい(A<B)。ここで本明細書においてゼオライトからなるSCR触媒の骨格密度とは、ゼオライトの1000Åの大きさの中に含まれる、結晶中のTO四面体(T=Si、Al等)の数をいう。
【0034】
上流側フィルタ触媒部10に含まれるSCR触媒の骨格密度Aとしては、下流側ハニカム触媒部30に含まれるSCR触媒の骨格密度Bよりも小さければよい。例えば、上流側フィルタ触媒部10に含まれるSCR触媒の骨格密度Aは、凡そ15.1T/1000Å以下(例えば14T/1000Å〜15.1T/1000Å)であること適当であり、14.5T/1000Å以下であることが好ましい。また、下流側ハニカム触媒部30に含まれるSCR触媒の骨格密度Bとしては、上流側フィルタ触媒部10に含まれるSCR触媒の骨格密度Aよりも大きければよい。例えば、下流側ハニカム触媒部30に含まれるSCR触媒の骨格密度Bは、凡そ15.3T/1000Å以上(例えば15.3T/1000Å〜17T/1000Å)であることが適当であり、16T/1000Å以上であることが好ましい。例えば、上流側フィルタ触媒部10に含まれるSCR触媒の骨格密度Aと、下流側ハニカム触媒部30に含まれるSCR触媒の骨格密度Bとが、0.1T/1000Å≦B−Aの関係を満足することが好ましく、0.2T/1000Å≦B−A≦3T/1000Åの関係を満足することがさらに好ましい。このような骨格密度の差(B−A)の範囲内であると、上流側フィルタ触媒部10および下流側ハニカム触媒部30の反応効率が大幅に高まるため、従来得ることができなかった高いNOx浄化性能を実現することができる。
【0035】
また、ここでは上流側フィルタ触媒部10に含まれるSCR触媒の骨格密度Aと、下流側ハニカム触媒部30に含まれるSCR触媒の骨格密度Bとの双方が、凡そ14T/1000Å以上17T/1000Å以下であることが望ましい。上記SCR触媒の骨格密度A、Bが大きすぎると、SCR触媒の反応性が低下するため、NOx浄化率が低くなる傾向がある。一方、上記SCR触媒の骨格密度A、Bが小さすぎると、SCR触媒の耐熱性が低下するため、高温耐久後のNOx浄化性能が低くなるおそれがある。したがって、優れた反応性と高い耐熱性とを両立させる観点からは、上流側フィルタ触媒部10に含まれるSCR触媒の骨格密度Aと、下流側ハニカム触媒部30に含まれるSCR触媒の骨格密度Bとの双方が、凡そ14T/1000Å以上17T/1000Å以下であることが好ましく、凡そ15T/1000Å以上16T/1000Å以下であることがさらに好ましい。
【0036】
また、ここで開示される技術では、上流側フィルタ触媒部10に含まれるゼオライトからなるSCR触媒の平均細孔径と、下流側ハニカム触媒部30に含まれるゼオライトからなるSCR触媒の平均細孔径との双方が、2Å以上7Å以下であることが好ましい。ここで、ゼオライトの平均細孔径はガス吸着法(典型的には窒素吸着法)に基づいて測定するものとする。このようなゼオライトの平均細孔径の範囲内であると、全体として高いNOx浄化性能を発揮し得るとともに、その浄化性能を良好に維持することができる。
【0037】
上流側フィルタ触媒部10に含まれるSCR触媒の好適例として、骨格密度Aが14T/1000Å以上17T/1000Å以下であり、かつ、平均細孔径が2Å以上7Å以下の範囲であるもの、骨格密度Aが14T/1000Å以上16T/1000Å以下であり、かつ、平均細孔径が2Å以上6Å以下の範囲であるもの、骨格密度Aが14T/1000Å以上15.1T/1000Å以下であり、かつ、平均細孔径が3Å以上5Å以下の範囲であるもの、等が挙げられる。このようなSCR触媒の骨格密度Aおよび平均細孔径を両立して有することにより、上流側フィルタ触媒部10に含まれるSCR触媒の反応性および耐熱性が有効に改善され、上流側フィルタ触媒部10のNOx浄化性能および耐久性がより良く向上する。
【0038】
また、下流側ハニカム触媒部30に含まれるSCR触媒の好適例として、骨格密度が14T/1000Å以上17T/1000Å以下であり、かつ、平均細孔径が2Å以上7Å以下の範囲であるもの、骨格密度が15T/1000Å以上17T/1000Å以下であり、かつ、平均細孔径が3Å以上7Å以下の範囲であるもの、骨格密度が15.3T/1000Å以上17T/1000Å以下であり、かつ、平均細孔径が4Å以上6Å以下の範囲であるもの、等が挙げられる。このようなSCR触媒の骨格密度Bおよび平均細孔径を両立して有することにより、下流側ハニカム触媒部30に含まれるSCR触媒の反応性および耐熱性が有効に改善され、下流側ハニカム触媒部30のNOx浄化性能および耐久性がより良く向上する。
【0039】
上流側フィルタ触媒部10および下流側ハニカム触媒部30に含まれるSCR触媒の具体例としては、基本骨格を構成する元素として少なくともSiを含むゼオライトが挙げられる。また、骨格内にAlやPなどの陽イオンが置換されたゼオライトを用いてもよい。例えば、β型ゼオライト、シリコンアルミノリン酸塩(SAPO)系ゼオライト等が例示される。好適なゼオライトの構造を国際ゼオライト学会(IZA:International Zeolite Assoistion)が定めるコードで示すと、AEI、AFT、AFX、AST、BEA、BEC、CHA、EAB、ETR、GME、ITE、KFI、LEV、THO、PAU、UFIが挙げられる。これらの1種または2種以上を用いることが望ましい。
【0040】
さらに、Fe、CuおよびVなどの遷移金属をイオン交換したイオン交換ゼオライトを用いてもよい。例えば、Cuイオン交換SAPO系ゼオライトや、Feイオン交換β型ゼオライト等を好ましく用いることができる。これらのイオン交換ゼオライトは、骨格密度が14T/1000Å以上17T/1000Å以下の範囲内にあり、かつ、平均細孔径が2Å以上7Å以下の範囲内にあるため、該ゼオライトからなるSCR触媒を上流側フィルタ触媒部10および下流側ハニカム触媒部30に用いることによって、上流側フィルタ触媒部10および下流側ハニカム触媒部30のNOx浄化性能および耐久性(熱耐久性)をより良く向上させることができる。上記ゼオライトの骨格密度としては、例えば、Cuイオン交換SAPO系ゼオライトが約15.1T/1000Å、Feイオン交換β型ゼオライトが約15.3T/1000Åである。また、上記ゼオライトの平均細孔径としては、Cuイオン交換SAPO系ゼオライトが約3.7Å、Feイオン交換β型ゼオライトが約5.9Åである。
【0041】
なお、上流側フィルタ触媒部10と下流側ハニカム触媒部30との間に配置された上流側ハニカム触媒部20に含まれるゼオライトからなるSCR触媒の骨格密度としては特に限定されないが、下流側ハニカム触媒部30に含まれるゼオライトからなるSCR触媒の骨格密度よりも小さく、かつ、上流側フィルタ触媒部10に含まれるゼオライトからなるSCR触媒の骨格密度と同程度であることが好ましい。例えば、上流側ハニカム触媒部20に含まれるゼオライトからなるSCR触媒は、上流側フィルタ触媒部10に含まれるゼオライトからなるSCR触媒と質的に同一であってもよい。これにより、上流側ハニカム触媒部20に含まれるゼオライトからなるSCR触媒の反応性および耐熱性が有効に改善され、上流側ハニカム触媒部20のNOx浄化性能および耐久性がより良く向上する。
【0042】
以上、本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置100について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。
【0043】
例えば、上述した実施形態では、上流側ハニカム触媒部20および下流側ハニカム触媒部30からなる2つのハニカム触媒部を用いる場合を例示したが、ハニカム触媒部の数はこれに限定されない。例えば3つ以上のハニカム触媒部を備えていてもよい。この場合、複数(3つ以上)のハニカム触媒部のうち少なくとも排気管の最下流側(最後段)に配置されたハニカム触媒部に含まれるSCR触媒の骨格密度が、上流側フィルタ触媒部10に含まれるSCR触媒の骨格密度よりも大きければよい。このように骨格密度が異なるSCR触媒を上流側と下流側とで最適に配置させることで、各触媒部の反応効率を大幅に高めることができる。また、少なくとも排気管の最下流側(最後段)に配置されたハニカム触媒部にPt等の貴金属が担持されているとよい。排気管の最下流側に配置されたハニカム触媒部に貴金属を担持させることで、アンモニアの外部排出(スリップ)を適切に抑制することができる。
【0044】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0045】
<実施例1>
(1)上流側フィルタ触媒
シリカ・アルミナ・燐から形成されるSAPO34をイオン交換水に分散させた後、酢酸銅を添加し、80℃で12時間攪拌し、ろ過、洗浄した。その後、200℃で5時間乾燥させ、Cuイオン交換ゼオライト(Cu担持量3質量%)を調製した。このCuイオン交換ゼオライト1000gとシリカゾル500gと純水1000gとを混合した後、ボールミルで1時間攪拌し、Cuイオン交換SAPO34スラリーを得た。得られたCuイオン交換SAPO34スラリーをウォールフロー型のセラミック基材(径160mm×長さ100mm)に塗布し、余分なスラリーを除去した後、100℃で乾燥、500℃で熱処理して上流側フィルタ触媒(上流側フィルタ触媒部10(図1参照))を作製した。得られた触媒のCuイオン交換SAPO34のコート量は、基材1L当たり100gであった。
【0046】
(2)上流側ハニカム触媒
シリカ・アルミナ・燐から形成されるSAPO34をイオン交換水に分散させた後、酢酸銅を添加し、80℃で12時間攪拌し、ろ過、洗浄した。その後、200℃で5時間乾燥させ、Cuイオン交換ゼオライト(Cu担持量3質量%)を調製した。このCuイオン交換ゼオライト1000gとシリカゾル500gと純水1000gとを混合した後、ボールミルで1時間攪拌し、Cuイオン交換SAPO34スラリーを得た。得られたCuイオン交換SAPO34スラリーをストレートフロー型のセラミック基材(径160mm×長さ100mm)に塗布し、余分なスラリーを除去した後、100℃で乾燥、500℃で熱処理して上流側ハニカム触媒(上流側ハニカム触媒部20(図1参照))を作製した。得られた上流側ハニカム触媒のCuイオン交換SAPO34のコート量は、基材1L当たり160gであった。
【0047】
(3)下流側ハニカム触媒部
シリカ・アルミナ比が25のβ型ゼオライトをイオン交換水に分散させた後、酢酸鉄を添加し、80℃で12時間攪拌し、ろ過、洗浄した。その後、200℃で5時間乾燥させ、Feイオン交換ゼオライト(Fe担持量2質量%)を調製した。このFeイオン交換ゼオライト1000gとシリカゾル500gと純水1000gとを混合した後、ボールミルで1時間攪拌し、Feイオン交換β型ゼオライトスラリーを得た。得られたFeイオン交換β型ゼオライトスラリーをストレートフロー型のセラミック基材(径160mm×長さ100mm)に塗布し、余分なスラリーを除去した後、100℃で乾燥、500℃で熱処理してFeイオン交換β型ゼオライトをコートしたハニカム触媒を得た。
【0048】
また、比表面積120m/gのγ−アルミナを純水に分散させた後、ジニトロジアミン白金を添加した。その後、100℃で6時間以上乾燥、500℃で1時間熱処理し、Pt担持アルミナ(Pt担持量:1質量%、以下、Pt/アルミナと称する。)を調製した。得られたPt/アルミナ1000gと、アルミナゾル200gと、純粋1000gとを混合した後、ボールミルで1時間攪拌し、Pt/アルミナスラリーを得た。得られたPt/アルミナスラリーを、上記Feイオン交換β型ゼオライトをコートしたハニカム触媒(基材)の排ガス流出側の端部から上流側に向かって基材の全長の1/5に当たる部分に塗布し、余分なスラリーを除去した後、100℃で乾燥、500℃で熱処理して下流側ハニカム触媒(下流側ハニカム触媒部30(図1参照))を作製した。得られた触媒のFeイオン交換β型ゼオライトのコート量は、基材1L当たり160gであった。また、Pt/アルミナのハニカム触媒1個当たりの塗布量は20gであり、Pt担持量はハニカム触媒1個当たりの0.2gであった。
【0049】
上記得られた上流側フィルタ触媒、上流側ハニカム触媒および下流側ハニカム触媒を2.0L直噴式ディーゼルエンジンの排気管に上流側からこの順で配置して実施例1に係る排ガス浄化装置を作製した。かかる排ガス浄化装置では、上流側ハニカム触媒および下流側ハニカム触媒に含まれるSCR触媒(Cuイオン交換SAPO34:骨格密度15.1T/1000Å、平均細孔径3.7Å)の骨格密度が、下流側ハニカム触媒に含まれるSCR触媒(Feイオン交換β型ゼオライト:骨格密度15.3T/1000Å、平均細孔径5.9Å)の骨格密度よりも小さい。
【0050】
<実施例2>
下流側ハニカム触媒に用いるSCR触媒をCuイオン交換β型ゼオライトに変更したこと以外は実施例1と同様にして排ガス浄化装置を作製した。具体的には、シリカ・アルミナ比が25のβ型ゼオライトをイオン交換水に分散させた後、酢酸銅を添加し、80℃で12時間攪拌し、ろ過、洗浄した。その後、200℃で5時間乾燥させ、Cuイオン交換β型ゼオライト(Cu担持量2質量%)を調製した。かかるCuイオン交換β型ゼオライトを用いて、実施例1と同様の手順で下流側ハニカム触媒を作製した。
【0051】
<比較例1>
上流側フィルタ触媒、上流側ハニカム触媒および下流側ハニカム触媒に用いるSCR触媒を何れもCuイオン交換SAPO34(骨格密度15.1T/1000Å、平均細孔径3.7Å)に変更したこと以外は実施例1と同様にして排ガス浄化装置を作製した。
【0052】
<比較例2>
上流側フィルタ触媒、上流側ハニカム触媒および下流側ハニカム触媒に用いるSCR触媒を何れもシリカ・アルミナ比が25のFeイオン交換β型ゼオライト(骨格密度15.3T/1000Å、平均細孔径5.9Å)に変更したこと以外は実施例1と同様にして排ガス浄化装置を作製した。
【0053】
<比較例3>
上流側フィルタ触媒、上流側ハニカム触媒および下流側ハニカム触媒に用いるSCR触媒を何れもシリカ・アルミナ比が25のCuイオン交換Y型ゼオライト(骨格密度13.3T/1000Å、平均細孔径7.4Å)に変更したこと以外は実施例1と同様にして排ガス浄化装置を作製した。
【0054】
<比較例4>
上流側フィルタ触媒、上流側ハニカム触媒および下流側ハニカム触媒に用いるSCR触媒を何れもシリカ・アルミナ比が25のCuイオン交換ZSM5ゼオライト(骨格密度18.4T/1000Å、平均細孔径4.6Å)に変更したこと以外は実施例1と同様にして排ガス浄化装置を作製した。
【0055】
各例の排ガス浄化装置について、耐久試験を行った。耐久試験は、700℃×20時間のエージング処理を10%水蒸気含有雰囲気下で実施することにより行った。また、上記耐久試験の前後(初期および700℃耐久後)におけるNOx浄化率を評価した。具体的には、各例の上流側フィルタ触媒、上流側ハニカム触媒および下流側ハニカム触媒を前述のように2.0L直噴式ディーゼルエンジンの排気管に取り付け、排ガスを流通させ、NOx浄化率を測定した。上流側フィルタ触媒よりも排気管の上流側にはインジェクタを設置し、該インジェクタからアンモニアを生成するための還元剤溶液としての尿素水を添加した。尿素水は、NOxに対するNHの当量比が1となるように調整した。ここでNOx浄化率(%)は、「(触媒入りガスのNOx濃度(ppm)−触媒出ガスのNOx濃度(ppm))/触媒入りガスのNOx濃度(ppm)」×100により算出した。結果を図5および表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
図5および表1に示すように、上流側フィルタ触媒、上流側ハニカム触媒および下流側ハニカム触媒に含まれるSCR触媒を何れもCuイオン交換Y型ゼオライト(骨格密度13.3T/1000Å)とした比較例3に係る排ガス浄化装置は、初期のNOx浄化率は高かったものの、700℃耐久後のNOx浄化率が著しく低下した。一方、上流側フィルタ触媒、上流側ハニカム触媒および下流側ハニカム触媒に含まれるSCR触媒を何れもCuイオン交換ZSM5ゼオライト(骨格密度18.4T/1000Å)とした比較例に係る排ガス浄化装置は、700℃耐久後のNOx浄化率は維持できていたものの、他の例に比べて初期のNOx浄化率が低下傾向であった。これに対し、上流側フィルタ触媒、上流側ハニカム触媒および下流側ハニカム触媒に含まれるSCR触媒を何れもCuイオン交換SAPO34(骨格密度15.1T/1000Å)とした比較例1に係る排ガス浄化装置、および上流側フィルタ触媒、上流側ハニカム触媒および下流側ハニカム触媒に含まれるSCR触媒を何れもFeイオン交換β型ゼオライト(骨格密度15.3T/1000Å)とした比較例2に係る排ガス浄化装置は、比較例4に比べて初期のNOx浄化率が高く、なおかつ、比較例3に比べて700℃耐久後のNOx浄化率も大幅に改善されていた。
【0058】
さらに、上流側ハニカム触媒および下流側ハニカム触媒に含まれるSCR触媒(Cuイオン交換SAPO34:骨格密度15.1T/1000Å)の骨格密度を、下流側ハニカム触媒に含まれるSCR触媒(Feイオン交換β型ゼオライト:骨格密度15.3T/1000Å)の骨格密度よりも小さくした実施例1に係る排ガス浄化装置は、比較例1、2に比べて、初期のNOx浄化率が高く、700℃耐久後のNOx浄化率もさらに改善されていた。同様に、上流側ハニカム触媒および下流側ハニカム触媒に含まれるSCR触媒(Cuイオン交換SAPO34:骨格密度15.1T/1000Å)の骨格密度を、下流側ハニカム触媒に含まれるSCR触媒(Cuイオン交換β型ゼオライト:骨格密度15.3T/1000Å)の骨格密度よりも小さくした実施例2に係る排ガス浄化装置は、比較例1、2に比べて、初期のNOx浄化率が高く、700℃耐久後のNOx浄化率もさらに改善されていた。以上の結果から、上流側ハニカム触媒および下流側ハニカム触媒に含まれるSCR触媒の骨格密度を、下流側ハニカム触媒に含まれるSCR触媒の骨格密度よりも小さくすることによって、NO浄化性能および耐久性が向上し得ることが確認された。また、実施例1および比較例1、2と、比較例3、4との対比から、上流側ハニカム触媒および下流側ハニカム触媒に含まれるSCR触媒の骨格密度としては、概ね14T/1000Å以上17T/1000Å以下にすることが好ましく、凡そ15T/1000Å以上16T/1000Å以下にすることがさらに好ましい。
【0059】
以上、排ガス浄化装置100について種々の改変例を例示したが、排ガス浄化装置100の構造は、上述した何れの実施形態にも限定されない。
【0060】
この排ガス浄化装置100は、例えば、ディーゼルエンジンなど、排気温度が比較的低い排ガス中の有害成分を浄化する装置として特に好適である。ただし、本発明に係る排ガス浄化装置100は、ディーゼルエンジンの排ガス中の有害成分を浄化する用途に限らず、他のエンジン(例えばガソリンエンジン)から排出された排ガス中の有害成分を浄化する種々の用途にて用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、高いNOx浄化性能を有する排ガス浄化装置を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6