【文献】
Lupulescu, A.,PROSTAGLANDINS,1975年,Vol. 10, No. 4,pp. 573-579
【文献】
Bastiaansen-Jenniskens, Y. M. et al.,ARTHRITIS & RHEUMATISM,2013年,Vol. 65, No. 8,pp. 2070-2080
【文献】
Ding, Wen-yuan et al.,The International Journal of Biochemistry & Cell Biology,2012年,Vol. 44, No. 6,pp. 1031-1039
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
経皮コラーゲン誘導療法、切除レーザー治療、非切除レーザー治療、皮膚切除療法、ヒト羊膜移植片の適用、ケミカルピール、半閉塞性シリコーンベース軟膏、ゲル若しくはシート又は他の弾性圧迫包帯の適用、トリクロロ酢酸の適用、皮膚充填剤の注入、又は委縮性瘢痕領域への自家線維芽細胞の移植術の前、その最中又はその後に投与するための、請求項1に記載の医薬組成物。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
皮膚瘢痕は、損傷後に正常皮膚に取って代わる線維組織、又は線維症の領域である。瘢痕は、体の生物学的創傷修復プロセスの結果として生じる。損傷後に、血餅又は暫定的な創傷マトリックスが生じる。線維芽細胞と呼ばれる特殊化細胞が暫定的な創傷マトリックスに遊走し、創傷を閉じるように作用する。これは線維芽細胞による細胞外コラーゲンの産生によって達成される。瘢痕組織のコラーゲン組成は、それが取って代わる組織に似ているが、瘢痕組織のコラーゲン線維は不定に発現されることが多く、正常皮膚組織の「バスケットウィーブ(basket weave)」配向よりはむしろ平行方向に組織化及び架橋される。さらに、皮膚瘢痕組織は、正常皮膚に存在する毛包、皮脂腺及び汗腺等の付属器構造を含有しない。
線維芽細胞によるコラーゲンの不定発現又は過剰発現のため、皮膚瘢痕はさまざまな表現型を取り得る。これらには、
委縮性(又は発育不全)瘢痕、肥厚性瘢痕及びケロイドが含まれる。
委縮性瘢痕は、周囲の皮膚の表面下にある陥凹又は凹所の外観を有する(別称「陥没瘢痕」)。それらは、脂肪又は筋肉等の基底構造が瘢痕の底部における新しいコラーゲン線維の不十分な産生を伴う損傷が原因で失われると生じる。委縮性瘢痕は一般的にざ瘡、感染症(例えば:水痘帯状疱疹又はブドウ球菌感染症)、外科的又は偶発的外傷と関連している。委縮性瘢痕は、皮膚の菲薄化及び根底にある毛細血管網目構造の可視性上昇のため赤く見えることが多い。
肥厚性瘢痕は、治癒プロセス中に線維芽細胞がコラーゲンを過剰産生すると生じる。これは、周囲の皮膚の上に瘢痕を隆起させる。肥厚性皮膚瘢痕は、外科的創縫合又は外傷性皮膚損傷後によく起こる。
ケロイドは、肥厚性瘢痕のさらに重症形態であるとみなされる。ケロイドは大きな良性新生物に成長し続ける。ケロイドは色黒の人にさらによく起こる。ケロイドは外科術、外傷、ざ瘡又はピアス穴あけ後に起こり得る。ケロイドは肩及び胸に起こる傾向があり、肉芽組織、別称二次癒合によって閉鎖された創傷においてさらによく起こる。この記述の残りは、委縮型の皮膚瘢痕及びその治療の考察に限定する。
【0003】
委縮性皮膚瘢痕を有する患者は自らの皮膚の外観及びテクスチャーを改善しようと努力するので、この問題に取り組むように治療が開発されてきた。委縮性瘢痕の治療の背後にある臨床目的は、陥凹領域を周囲の皮膚と同じ物理的レベルまで物理的に高くし、ひいては瘢痕と正常皮膚との間のより滑らかな移行部を可能にすることである。現在使用されている治療には、注入可能な軟組織充填剤、コラーゲン誘導療法、皮膚瘢痕の化学的再構築(CROSS)療法、レーザー治療及び自家線維芽細胞の移植術がある。
注入可能皮膚充填剤は、委縮性瘢痕の陥凹領域に注入される物質である。充填剤として用いられる現在認可されている物質は、コラーゲン、ヒアルロン酸、ポリ-L-乳酸、ポリメチルメタクリラートとウシコラーゲン、カルシウムヒドロキシルアパタイト又は自家線維芽細胞から成る。これらの物質の注入は、委縮性瘢痕の美容的改善をもたらすが、効果は一時的であり、患者は経時的に反復注入を必要とする。充填剤のさらなる副作用には、不均等な皮膚の輪郭及びアレルギー反応がある。
【0004】
コラーゲン誘導療法の根底にある原理は、陥凹領域を充填しようとしてコラーゲンを産生するように、委縮性瘢痕の底部で線維芽細胞を刺激することである。コラーゲン誘導療法は、瘢痕に直接適用されるマイクロニードルローラーによって投与されることが多いマイクロニードリング技術を利用する。この治療は皮膚に小穿刺を生じさせ、これが該外傷に反応してコラーゲンを産生するように線維芽細胞を刺激する働きをする。そしてコラーゲンが作用して瘢痕床を厚くし、それを周囲の正常皮膚のレベルまで高くするであろう。コラーゲン誘導療法は、各種量の成功をもたらした。手技中の痛みに加えて、感染及び出血のリスクがある。さらに、一般的に複数回の治療が必要である。
皮膚瘢痕の化学的再構築(CROSS)療法はフル濃度のトリクロロ酢酸を委縮性瘢痕に適用することから成る。この酸は局在型皮膚化学的損傷を引き起こす。コラーゲン誘導療法と同様に、CROSS療法は標的損傷を用いて線維芽細胞を刺激して損傷領域におけるコラーゲン産生を増やそうと試みる。感染のリスクがあり、一般的に複数回の治療を必要とする。
委縮性皮膚瘢痕を治療するために二酸化炭素又はEr:YAGレーザーによる切除レーザー治療をも使用する。レーザー治療の背後にある原理は、委縮性瘢痕の陥凹境界と正常な周囲の皮膚との間の移行部を滑らかにすることである。これは瘢痕皮膚領域を目立たなくするのに役立つ。レーザーを使用して委縮性瘢痕床を治療することもできる。この理論的根拠は、レーザー損傷が線維芽細胞を刺激してコラーゲンを生じさせ、このコラーゲンが次に損傷領域を埋めるであろう。残念ながら、レーザー治療は痛みを伴い、複数回の治療を必要とし、非常に費用がかかる可能性がある。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な説明
皮膚瘢痕は、皮膚への損傷及び創傷部位での線維芽細胞による細胞外コラーゲンの沈着の結果として生じる。周囲の皮膚の表面下にある陥凹又は凹所によって特徴づけられる皮膚瘢痕は委縮性瘢痕と呼ばれる。委縮性瘢痕は、瘢痕底部での新コラーゲン線維の不十分な産生を伴う損傷が原因で脂肪又は筋肉等の基底構造が失われると生じる。委縮性瘢痕は、一般的にざ瘡、感染症(例えば:水痘帯状疱疹又はブドウ球菌感染症)、外科的又は偶発的外傷と関連している。
委縮性瘢痕は皮膚の菲薄化及び根底にある毛細血管網目構造の可視性上昇のため赤く見えることが多い。委縮性瘢痕を治療する目的は、注入可能充填剤を使用することによって瘢痕の陥凹領域を周囲の正常皮膚のレベルまで高めること、又は経皮マイクロニードリング、化学的損傷及びレーザー損傷等の外傷的手法を介して線維芽細胞によるコラーゲン産生を刺激しようと試みることを中心とする。
プロスタグランジンF2α(PGF2α)及びその類似体は細胞外FP受容体を刺激することによって作用し、線維芽細胞並びに正常及び病的状態の細胞外環境に著しい影響を及ぼす。
図1:PGF2α、ラタノプロスト、トラボプロスト、ビマトプロスト及びタフルプロストの構造。
【0011】
眼科学では、10年以上にわたって緑内障の治療にラタノプロスト、トラボプロスト、ビマトプロスト及びタフルプロスト等のPGF2α類似体を安全に使用している。正常な眼圧は、眼の線維柱帯及びブドウ膜強膜路を通る房水の適正なドレナージによって維持される。細胞レベルで、眼に局所適用されたPGF2α類似体はマトリックスメタロプロテイナーゼの活性化を刺激し、房水用のブドウ膜強膜路の細胞外マトリックスのリモデリングをもたらすことが分かっている。マトリックスメタロプロテイナーゼは、細胞外マトリックスの成分を破壊するように作用する酵素である。眼内において、このPGF2α類似体誘導細胞外マトリックスリモデリングはブドウ膜強膜路を通る水流への抵抗を低減し、結果として眼内圧を下げる。さらに、PGF2α類似体はヒト皮膚線維芽細胞の成長に影響を与えることが細胞培養で実証されている。
【0012】
ブレオマイシン誘発性全身性硬化症(Sc)のマウスモデルにおいては、皮膚(Sc)線維芽細胞によるコラーゲン産生のメカニズムは複雑である。このモデルでは、コラーゲン産生は、酵素プラスミンα2-抗プラスミン(α2AP)が酵素脂肪組織トリグリセリドリパーゼ(ATGL)に結合する必要がある。次にα2AP-ATGL複合体がカルシウム非依存性ホスホリパーゼA2(iPLA(2))を活性化してPGF2αを産生する。次にPGF2αが(Sc)線維芽細胞による形質転換成長因子β(TGFβ)産生を刺激する。次にTGFβが作用してコラーゲン産生及び線維形成を刺激する。最近、α2APの変異型を有するマウス系統において(Sc)線維芽細胞によるブレオマイシン誘発性コラーゲン産生が減弱されることが発見された。そしてこの変異(Sc)線維芽細胞株の線維形成(すなわちコラーゲン産生)は、外因性PGF2αを投与することによって再構築可能であることが発見された。次に外因性PGF2αは減弱化を逆転させ、この結果皮膚の肥厚化及び線維形成をもたらした。しかしながら、この研究はモデルシステムに特異的なPGF2α類似体の有効性を検討しなかった。
【0013】
PGF2αの線維化促進(profibrotic)特性の別の例は、Bastiaansen-Jenniskensらによって変形性関節症のヒト培養モデルで実証されている。これらの研究者は、培養中で、PGF2αは滑膜線維芽細胞コラーゲン産生、細胞増殖及び細胞遊走を刺激するが、形質転換成長因子βはそうでないことを見い出した。
これらの例を考慮すると、PGF2α類似体の局所適用はヒトの委縮性皮膚瘢痕の治療及び軽減にも有効であることが現在分かっている。委縮性瘢痕は、未知の酵素的突然変異又は形質転換のため、十分な量のコラーゲンを産生できない線維芽細胞で構成されている可能性がある。そしてコラーゲン産生は、外因性PGF2α又はPGF2α類似体の投与によって「レスキュー」される。外因性PGF2α又はPGF2α類似体は委縮性皮膚瘢痕内に含まれる他の正常線維芽細胞においてコラーゲンの発現を単に刺激するという可能性もある。種々のタイプの皮膚瘢痕における線維芽細胞の特異的な生化学的構成が調査されていないので、これらの線維化促進メカニズムが推測される。
本発明の組成物の使用によって与えられる委縮性皮膚瘢痕の改善の例としては以下のものが挙げられる。
a. 瘢痕床の陥凹の軽減
b. 瘢痕の以前の委縮領域の目に見えて増強された線維形成
c. 瘢痕組織と周囲の正常皮膚との間の境界のより滑らかな移行
d. 瘢痕組織の呈色の改善及び紅斑の軽減
【0014】
本開示で説明する方法及び組成物は、現在皮膚科の「標準治療」を含む委縮性瘢痕の一般的方法及び治療と併用可能であると見込まれる。これらの方法及び治療としては、限定するものではないが、CROSS療法、コラーゲン誘導療法、切除及び非切除レーザー治療、皮膚充填剤、皮膚切除及び自家線維芽細胞移植術が挙げられる。
現在説明する方法及び組成物は、フル濃度のトリクロロ酢酸を用いるCROSS療法又は例えば、限定するものではないが、マイクロニードル皮膚ローラー等のデバイスを用いる皮膚マイクロニードリングによるコラーゲン誘導療法の投与前、投与中又は投与後に使用可能である。この場合、マイクロニードリングによるコラーゲン誘導療法又はトリクロロ酢酸の適用は、委縮性瘢痕の線維芽細胞への薬物送達を改善することができ、かつPGF2α類似体と相乗的に作用して線維芽細胞によるコラーゲン産生を促進することができた。
【0015】
現在説明する方法及び組成物は、委縮性皮膚瘢痕の切除又は非切除レーザー治療の投与前、投与中又は投与後に使用可能である。非切除レーザー治療は、例えば、限定するものではないが、585nmのパルス色素レーザー、1320nmのNd:YAGレーザー、又は1540nmのEr:ガラスレーザー等のレーザーの使用を含む。
現在説明する方法及び組成物は、委縮性皮膚瘢痕の皮膚切除療法の投与前、投与中又は投与後に使用可能である。この場合、皮膚切除は薬物送達を改善すると想定され、PGF2α類似体はレーザー治療と相乗的に作用して、線維芽細胞によるコラーゲン産生を促進することができた。
現在説明する方法及び組成物は、例えば、限定するものではないが、コラーゲン、ヒアルロン酸、ポリ-L-乳酸、ポリメチルメタクリラートとウシコラーゲン、又はカルシウムヒドロキシルアパタイト等の皮膚充填剤の注入前、注入中又は注入後に使用可能である。説明する組成物は、充填剤を覆う線維芽細胞によるコラーゲンの産生を助け、反復注入の必要性を低減又は排除するであろう。
【0016】
現在説明する方法及び組成物は、委縮性皮膚瘢痕の治療のための自家線維芽細胞の移植前、移植中又は移植後に使用可能である。この場合、PGF2α類似体を含む組成物は、自家移植された線維芽細胞からのコラーゲン産生を刺激する際にも有効であると想定される。
肥厚性瘢痕は、瘢痕のコラーゲンを平らにし、瘢痕と周囲の正常皮膚との間の滑らかな移行を促すのに役立つように上を覆うシリコーンシート、ゲル又は圧迫包帯で治療されることが多い。現在説明する方法及び組成物は、瘢痕のコラーゲンを平らにし、瘢痕と周囲の正常皮膚との間の滑らかな移行を促す際に役立つシリコーンシート、ゲル又は圧迫包帯の適用前、適用中又は適用後に使用可能である。
委縮性瘢痕と関連する紅斑を治療するため、組成物はさらに、血管収縮を引き起こすことが分かっているα1又はα2アドレナリン作動薬、例えばオキシメタゾリン、テトラヒドロゾリン、ネファゾリン、キシロメタゾリン、フェニレフェリン、メトキサミン、メフェンテルミン、メタラミノール、デスグリミドドリン、ミドドリン、ブリモニジン、及びその医薬的に許容できる塩、並びに該化合物又は塩の任意の組み合わせを含んでよい。
さらなる実施形態では、組成物は、サンスクリーン、サンブロック、保湿剤、保存剤、抗菌剤、駆虫剤、抗酸化剤、ステロイド系抗炎症薬、非ステロイド系抗炎症薬、抗血管新生薬、及びレチノイン酸誘導体を含んでもよい。
【0017】
医薬的に許容できる担体
一実施形態では、医薬的に許容できる局所用担体を含む組成物によって皮膚の患部に本発明の化合物を送達する。本明細書で使用する場合、医薬的に許容できる組成物は、医薬品又は薬物の局所送達のために皮膚表面に適用できる任意の組成物である。本発明の局所用組成物は、技術上周知のいずれの方法によっても調製可能である。例えば、皮膚の委縮性瘢痕を軽減する活性化合物は、標準参考テキスト、例えばRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 1577-1591, 1672-1673, 866-885(Alfonso R. Gennaro ed. 19th ed. 1995); Ghosh, T. K.; et al. Transdermal and Topical Drug Delivery Systems (1997)等に提供されている方法によって局所用担体と併用可能である。
本発明の化合物の局所送達に有用な局所用担体は、医薬品を局所投与するために当分野で知られているいずれの医薬的に許容できる担体であってもよい。局所用担体のいくつかの例としては、ポリアルコール又は水等の溶媒;懸濁液;エマルション(水中油又は油中水エマルションのいずれか)、例えばクリーム、軟膏、又はローション;マイクロエマルション;ゲル;リポソーム;又は粉末が挙げられる。
【0018】
局所用担体としてのエマルション及びゲル
好ましい実施形態では、本発明の化合物を送達するために使用する局所用担体はエマルション、例えば、クリーム、ローション、若しくは軟膏;又はゲルである。エマルションは少なくとも2つの非混和相を含む分散系であり、一方の相が他方の相に通常0.1μm〜100μmの範囲の直径の液滴として分散している。任意で乳化剤を含めて安定性を改善する。水が分散相であり、油が分散媒体であるときは、エマルションは油中水エマルションと呼ばれる。油が水相全体に液滴として分散しているときは、エマルションは水中油エマルションと呼ばれる。両方とも本発明の方法で担体として有用である。局所用担体として使用できるクリーム、軟膏及びローション等のエマルション及びそれらの製法は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 282-291 (Alfonso R. Gennaro ed. 19th ed. 1995)に開示されている。
【0019】
一実施形態では、医薬的に許容できる担体はゲルである。ゲルは、無機粒子、通常は小さい無機粒子、又は液体により相互浸透した有機分子、通常はより大きい有機分子の懸濁液を含有する半固体系である。ゲル塊が小さい別々の無機粒子の網目構造を含むときは、それは二相ゲルと分類される。単相ゲルは、液体全体にわたって均一に分布した有機巨大分子から成り、分布した巨大分子と液体との間には明らかな境界が存在しない。本発明での使用に適したゲルは技術上周知であり、二相又は単相系であってよい。適切なゲルのいくつかの例は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 1517-1518(Alfonso R. Gennaro ed. 19
th ed. 1995)に開示されている。本発明での使用に適した他のゲルは、米国特許第6,387,383号(2002年5月14日発行);米国特許第6,517,847号(2003年2月11日発行);及び米国特許第6,468,989号(2002月10月22日発行)に開示されている。
【0020】
使用可能なゲル化剤には、当業者に知られているもの、例えば、化粧品及び医薬品業界で頻繁に用いられる親水性及び水アルコールゲル化剤がある。適切な親水性又は水アルコールゲル化剤は「CARBOPOL(登録商標)」(B.F. Goodrich, Cleveland, Ohio)、「HYPAN(登録商標)」(Kingston Technologies, Dayton, N.J.)、「NATROSOL(登録商標)」(Aqualon, Wilmington, Del.)、「KLUCEL(登録商標)」(Aqualon, Wilmington, Del.)、又は「STABILEZE(登録商標)」(ISP Technologies, Wayne, N.J.)を含む。
「CARBOPOL(登録商標)」は、一般名カルボマーが与えられている多数の架橋アクリル酸ポリマーの1つである。「カルボマー」は、水に分散し得るが、溶けない種々のポリマー酸のUSP名である。酸分散系を塩基で中和すると、清澄な安定性ゲルが形成される。カルボマー934Pは生理的に不活性であり、一次刺激物質又は感作物質ではないので、好ましいカルボマーである。他のカルボマーとしては、カルボマー910、940、941、及び1342が挙げられる。
カルボマーは水に溶解し、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン、又は他のアミン塩基等の苛性物質で中和されると清澄又はわずかに濁ったゲルを形成する。「KLUCEL(登録商標)」は、水に分散し、完全に水和されると均一ゲルを形成するセルロースポリマーである。他の適切なゲル化剤としては、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースガム、MVE/MAデカジエンクロスポリマー、PVM/MAコポリマー、又はその組み合わせが挙げられる。
【0021】
一実施形態では、組成物中のゲル化剤の最小量は約0.5%、さらに好ましくは約0.75%、最も好ましくは約1%である。別の好ましい実施形態では、組成物中のゲル化剤の最大量は約2%、さらの好ましくは約1.75%、最も好ましくは約1.5%である。
別の実施形態では、本発明の化合物を送達するために用いる局所用担体は軟膏である。軟膏はほとんど水を含まない油性半固体である。好ましくは、軟膏は炭化水素ベース、例えばワックス、ワセリン、又はゲル化鉱油である。本発明での使用に適した軟膏は技術上周知であり、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 1585-1591 (Alfonso R. Gennaro ed. 19th ed. 1995)に開示されている。
医薬担体はクリームであってもよい。クリームはエマルション、すなわち、少なくとも2つの非混和相を含む分散系であり、一方の相が他方の相に通常0.1μm〜100μmの範囲の直径の液滴として分散している。典型的に乳化剤を含めて安定性を改善する。
【0022】
例えば、水酸化ナトリウム若しくは水酸化カリウム等の塩基;又はトリエタノールアミン等のアミン塩基で医薬担体のpHを調整する。塩酸又は酢酸等の酸でpHを調整することもできる。一実施形態では、担体を10倍に希釈するとき、担体の最小pHは、約5、好ましくは5.5、最も好ましくは6.2である。担体を10倍に希釈するとき、担体の最大pHは、約8、好ましくは約7.5、さらに好ましくは7、最も好ましくは約6.8である。各最小pH値を各最大pH値と組み合わせて種々のpH範囲を作り出すことができる。例えば、pHは最小6.2、最大7.5であってよい。
上記pH値は、組成物を水で10倍に希釈する場合に生じるものである。あるpH値を得るために組成物を必ずしも10倍に希釈する必要はない。実際には、pHが測定可能となるいずれの値に組成物を希釈してもよい。例えば、約5〜約20倍に組成物を希釈してよい。
【0023】
本発明の水性局所用組成物
別の実施形態では、本発明の局所用組成物に使用する局所用担体は水溶液又は水性懸濁液、好ましくは水溶液又は水性懸濁液である。溶液及び懸濁液は、本発明での使用に適した周知の局所用担体である。本発明での使用に適した水性局所用担体は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy 1563-1576(Alfonso R. Gennaro ed. 19
th ed. 1995)に開示されている。他の適切な水性局所用担体系は、米国特許第5,424,078号(1995年1月13日発行);第5,736,165号(1998年4月7日発行);第6,194,415号(2001年2月27日発行);第6,248,741号(2001月1月19日発行);第6,465,464号(2002年10月15日発行)に開示されている。
浸透圧調整剤を本発明の水性局所用組成物に含めることができる。適切な浸透圧調整剤の例としては、限定するものではないが、塩化ナトリウム、塩化カリウム、マンニトール、デキストロース、グリセリン、及びプロピレングリコールが挙げられる。浸透圧調整剤の量は、組成物の所望特性に応じて大きく異なり得る。一実施形態では、浸透圧調整剤は、水性局所用組成物中に組成物の約0.5〜約0.9質量パーセントの量で存在する。
本発明の水溶液の粘度は、いずれの便利な粘度であってもよく、粘度調整剤、例えば、限定するものではないが、ポリビニルアルコール、ポビドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポロキサマー、カルボキシメチルセルロース、又はヒドロキシエチルセルロースを添加することによって調整可能である。一実施形態では、本発明の水性局所用組成物は、約15cps〜約25cpsの範囲の粘度を有する。
好ましい実施形態では、本発明の水性局所用組成物は、任意で塩化ベンザルコニウム若しくは二酸化塩素等の保存剤、ポリビニルアルコール等の粘度調整剤、及び/又はクエン酸ナトリウムとクエン酸、若しくは酢酸カリウムと酢酸等の緩衝系を含む等張生理食塩水である。
【0024】
賦形剤
本発明の局所用組成物はさらに、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (Alfonso R. Gennaro ed. 19th ed. 1995; Ghosh, T. K.; et al. Transdermal and Topical Drug Delivery Systems, 1997に列挙されているもの等の医薬的に許容できる賦形剤を含むことができる。これらの賦形剤としては、限定するものではないが、保護剤、吸着剤、粘滑剤、皮膚軟化薬、保存剤、抗酸化剤、保湿剤、緩衝剤、可溶化剤、及び界面活性剤が挙げられる。賦形剤は、組成物中の非活性かつ非本質的成分であり、組成物の基本特性に実質的な影響を及ぼさない。
適切な保護剤及び吸着剤としては、限定するものではないが、散布剤(dusting powders)、ステアリン酸亜鉛、コロジオン、ジメチコーン、シリコーン、炭酸亜鉛、アロエベラゲルその他のアロエ製品、ビタミンEオイル、アラトイン(allatoin)、グリセリン、ワセリン、及び酸化亜鉛が挙げられる。
適切な粘滑剤としては、限定するものではないが、ベンゾイン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びポリビニルアルコールが挙げられる。
適切な皮膚軟化薬としては、限定するものではないが、動物及び植物の脂肪及び油、ミリスチルアルコール、ミョウバン、並びに酢酸アルミニウムが挙げられる。
適切な保存剤としては、限定するものではないが、パラベン、フェノキシエタノール、四級アンモニウム化合物、例えば塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、セトリミド、塩化デカリニウム、及び塩化セチルピリジニウム;水銀薬剤、例えば硝酸フェニル水銀、酢酸フェニル水銀、及びチメロサール;アルコール薬剤、例えば、クロロブタノール、フェニルエチルアルコール、及びベンジルアルコール;抗菌エステル、例えば、パラヒドロキシ安息香酸のエステル;及び他の抗菌剤、例えばクロルヘキシジン、クロロクレゾール、安息香酸及びポリミキシンが挙げられる。
【0025】
二酸化塩素(ClO
2)、好ましくは、安定化二酸化塩素は本発明の局所用組成物での使用に適した保存剤である。用語「安定化二酸化塩素」は当業界で周知であり、当業者によく知られている。安定化二酸化塩素としては、1種以上の二酸化塩素前駆体、例えば1種以上の二酸化塩素含有錯体及び/又は1種以上のクロライト含有成分及び/又は分解するか若しくは水性媒体中で分解されて二酸化塩素を形成できる1種以上の他の構成要素が挙げられる。米国特許第5,424,078号(1995年1月13日発行)は、水溶液の保存剤として使用でき、本発明の局所用組成物に有用な安定化二酸化塩素の形態及びその製造方法を開示している。特定の安定化二酸化塩素製品の製造又は生産は、米国特許第3,278,447号に記載されている。本発明の実施に利用できる市販の安定化二酸化塩素は、商標Purogene
TM又はPurite
TMで販売されているオクラホマ州ノーマンのBioCide International, Inc.の専売安定化二酸化塩素である。他の適切な安定化二酸化塩素製品には、Rio Linda Chemical Company, Inc.によって商標DuraKlorで販売されているもの、及びInternational Dioxide, Inc.によって商標Antheium Dioxideで販売されているものがある。
【0026】
適切な抗酸化剤としては、限定するものではないが、アスコルビン酸及びそのエステル、亜硫酸水素ナトリウム、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソール、トコフェロール、並びにEDTA及びクエン酸のようなキレート剤が挙げられる。
適切な保湿剤としては、限定するものではないが、グリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコール、尿素、及びプロピレングリコールが挙げられる。
本発明での使用に適した緩衝剤としては、限定するものではないが、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、乳酸緩衝液、及びホウ酸緩衝液が挙げられる。
適切な可溶化剤としては、限定するものではないが、四級アンモニウム塩化物、シクロデキストリン、安息香酸ベンジル、レシチン、及びポリソルベートが挙げられる。
【0027】
追加の医薬的に活性な化合物
一実施形態では、委縮性皮膚瘢痕の治療、改善又は軽減に有効な唯一の医薬的に活性な化合物はPGF2α類似体、例えばPGF2α、ラタノプロスト、トラボプロスト、ビマトプロスト又はタフルプロスト及びその医薬的に許容できる塩、並びに該化合物又は塩の任意の組み合わせである。
別の実施形態では、委縮性皮膚瘢痕の治療、改善又は軽減に有効なPGF2α類似体を、局所適用されると皮膚血管拡張のため皮膚紅斑の軽減に医薬的に有効であることが分かっているα1又はα2アドレナリン受容体作動薬と組み合わせる。これら作動薬には、限定するものではないが、オキシメタゾリン、テトラヒドロゾリン、ネファゾリン、キシロメタゾリン、フェニレフェリン、メトキサミン、メフェンテルミン、メタラミノール、デスグリミドドリン、ミドドリン、ブリモニジン、及びその医薬的に許容できる塩、並びに該化合物又は塩の任意の組み合わせ等の薬剤がある。
さらに別の実施形態では、本発明の組成物に1種以上の追加の医薬的に活性な成分を含める。追加の活性成分として、いずれの医薬的に活性な成分をも含めてよい。例えば、1種以上の追加の医薬的に活性な成分としては、限定するものではないが、抗菌剤、駆虫剤、抗酸化剤、ステロイド系抗炎症薬、非ステロイド系抗炎症薬、抗血管新生薬、及びレチノイン酸誘導体が挙げられる。
【0028】
薬用量
本発明の有効量の化合物の薬用量及び投与頻度は、典型的に前臨床試験及び臨床試験中に、熟練医療従事者により決定可能である。薬用量及び投与頻度は、本発明の化合物の治療活性、特定の局所用組成物の特性、並びに治療すべき皮膚の委縮性瘢痕の性質、原因、位置、独自性及び重症度等の多数の因子によって決まる。
一般に、上記活性化合物は、本発明の組成物中に、組成物の総質量に基づいて約0.001%、0.0015%、0.004%、0.03%、0.05%、0.1%、0.2%、0.25%、0.3%、0.35%、0.4%、又は0.5%の最小量で存在する。一般的に、上記活性化合物は、本発明の組成物中に、組成物の総質量に基づいて約5%、4%、3%、2%、1%、0.9%、0.8%、0.7%、又は0.6%の最大量で存在する。例えば、緑内障を治療するための点眼液に現在使用されているPGF2α類似体のいくつかの適切な薬用量は0.0015%、0.004%、0.005%及び0.03%である。
【0029】
局所投与
本発明の医薬組成物は、当技術で知られるいずれの様式でも皮膚の患部に直接適用可能である。例えば、溶液は綿棒(cotton swab)で塗布するか又は噴霧してよい。懸濁液又はエマルションは綿棒(q-tip)又は塗布棒で塗布するか、或いは1本以上の指で患部に本発明の組成物を単に広げるだけでよい。好ましくは、本発明の医薬組成物は皮膚のみに適用し、眼その他の粘膜には投与しない。
一般的に皮膚患部に適用する本発明の局所用組成物の量は皮膚表面積の約0.0001g/cm
2〜約0.01g/cm
2、好ましくは皮膚表面積の0.001g/cm
2〜約0.003g/cm
2の範囲である。典型的に、治療期間中は1日1〜4回の適用が推奨される。例えば、医薬組成物を1日1回、1日2回、1日3回、又は1日4回患部に塗布してよい。
【0030】
各種定義
当然のことながら、本発明は、各最小値を最大値と組み合わせて全ての実行可能な範囲を作り出す実施形態を企図する。例えば、(1)ラタノプロスト若しくはその医薬的に許容できる塩又は(2)トラボプロスト若しくはその医薬的に許容できる塩は、本発明の組成物中に、組成物の総質量に基づいて約0.001パーセント〜約5パーセント、好ましくは、組成物の総質量に基づいて約0.005パーセント〜約1パーセント、さらに好ましくは、組成物の総質量に基づいて約0.0015パーセント〜約0.5パーセントの量で存在し得る。
【実施例】
【0031】
実施例
図1Aは、治療前に50歳の男性の腹部上に存在する皮膚科手術に続発して6カ月を経た委縮性皮膚瘢痕を示す。PGF2α類似体で局所治療を開始する前の3〜4カ月の間、瘢痕は構造又は外観が定性的に変化しなかった。瘢痕の検査は、皮下血管網目構造の可視化上昇及び瘢痕組織と正常な周囲の皮膚との間の鮮明な移行部又は境界に起因する紅斑と共に瘢痕床の皮膚菲薄化を明らかにする。そこで数週間1日1回局所用トラボプロスト0.004%の水溶液を用いて瘢痕表面にデジタル的にマッサージを施して瘢痕を治療した。
図1B〜Jは、治療期間中の1週間間隔の同一瘢痕の外観を示す。9週間の治療にわたって瘢痕の委縮領域の線維形成及び肥厚化の漸進的増加が見られる。紅斑の軽減及び瘢痕組織と正常な周囲の皮膚との間の境界の目に見えて滑らかな移行部も明らかである。8週間で、以前の瘢痕皮膚の範囲にわたって、正常に見えるランガー皮膚割線(Langer lines)が明白である。全ての時点で、周囲の皮膚はケロイド形成、
委縮又は色素沈着の証拠を示さなかった。治療インターバル中又はその後に他の有害反応は見られなかった。