特許第6453364号(P6453364)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6453364メガネ用変色光学フィルター及びこれを備えたメガネ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6453364
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】メガネ用変色光学フィルター及びこれを備えたメガネ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20190107BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20190107BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20190107BHJP
   G02C 7/12 20060101ALI20190107BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20190107BHJP
【FI】
   G02B5/20
   G02B5/30
   G02C7/10
   G02C7/12
   G02F1/13 505
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-573325(P2016-573325)
(86)(22)【出願日】2016年1月29日
(86)【国際出願番号】JP2016052604
(87)【国際公開番号】WO2016125694
(87)【国際公開日】20160811
【審査請求日】2017年6月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-18203(P2015-18203)
(32)【優先日】2015年2月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】窪井 浩徳
(72)【発明者】
【氏名】塚田 英孝
(72)【発明者】
【氏名】松村 祥子
【審査官】 森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭58−126431(JP,U)
【文献】 実開昭54−34737(JP,U)
【文献】 実開昭51−161816(JP,U)
【文献】 実開昭53−16447(JP,U)
【文献】 特開昭52−94147(JP,A)
【文献】 特開昭48−85253(JP,A)
【文献】 特開2008−70400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20 − 5/28
G02B 5/30
G02C 1/00 − 13/00
G02F 1/13
G02F 1/137 − 1/141
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二色性色素を含む2枚以上の偏光子と、該偏光子を支持するフレームとを有するメガネ用変色光学フィルターであって、
少なくとも1枚の偏光子へ入射する偏光面又は少なくとも1枚の偏光子から出射する偏光面を相対的に回転させることによって、光学フィルターの透過光の色相又は彩度が変化し、前記2枚以上の偏光子のうちの少なくとも1枚が、有彩色の偏光子であり、前記有彩色の偏光子の彩度C*が10以上である、メガネ用変色光学フィルター。
【請求項2】
前記有彩色の偏光子の明度L*が、50以上である、請求項1記載のメガネ用変色光学フィルター。
【請求項3】
前記有彩色の偏光子の彩度C*と明度L*との和(C*+L*)が、110以下である、請求項1または2記載のメガネ用変色光学フィルター。
【請求項4】
前記有彩色の偏光子の彩度C*と明度L*との和(C*+L*)が、80以上である、請求項3記載のメガネ用変色光学フィルター。
【請求項5】
前記偏光面の回転により前記透過光の色相又は彩度が変化するパターンは、CIE1976(L*,a*,b*)色空間において、a*の変化の度合いが20以上であり、b*の変化の度合いがa*の変化の度合いよりも小さい、請求項1から4のいずれか一項に記載のメガネ用変色光学フィルター。
【請求項6】
非偏光での最小透過率波長における最大透過率方向の直線偏光の透過率をk1とし、前記最大透過率方向に直交する方向の直線偏光の透過率をk2とした場合に、前記偏光面の回転による直線偏光の透過率k2/k1の値が、0.9以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載のメガネ用変色光学フィルター。
【請求項7】
前記少なくとも1枚の偏光子自体を回転させることによって、前記偏光面を相対的に回転させる請求項1から6のいずれか一項に記載のメガネ用変色光学フィルター。
【請求項8】
前記2枚以上の偏光子の間に介在する液晶デバイスの電圧制御によって、前記偏光面を相対的に回転させる請求項1から7のいずれか一項に記載のメガネ用変色光学フィルター。
【請求項9】
色弱者用の色識別ツールである請求項1から8のいずれか一項に記載のメガネ用変色光学フィルター。
【請求項10】
前記偏光面を相対的に回転させることによって、前記透過光が白色光から赤色光又は緑色光に変化する請求項記載のメガネ用変色光学フィルター。
【請求項11】
前記偏光子の二色性色素に基づく色彩以外の色彩範囲に移行する為のカラーフィルターを併用する請求項1から10のいずれか一項に記載のメガネ用変色光学フィルター。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか一項記載のメガネ用変色光学フィルターを備えたメガネ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光面を回転させることにより透過光の色相又は彩度が変化する変色光学フィルター及びこれを備えたメガネに関する。より詳しくは、例えば、色相又は彩度を変化させることによって色弱者が赤色と緑色を識別する為の専用メガネの用途に有用な変色光学フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、色弱者が赤色と緑色を識別する為の専用メガネとして、例えば赤色フィルター(又は緑色フィルター)を用いたメガネがある。しかし、色弱者にとっては、このような専用メガネを使用することで色弱者であることを他者に知見されるのは好ましいことではない。また一般的には、赤色と緑色を識別する必要が生じた時だけ専用メガネを使用しているので、その時々にメガネをかけたり外したりするのは極めて煩雑である。
【0003】
一方、特許文献1には、赤色用液晶、緑色用液晶及び青色用液晶を用いて様々な色の表示を制御できる電子サングラスが開示されている。しかし、この電子サングラスの用途は、個人の好み、場所、ファッション等のユーザの嗜好に合わせた色を表示させるサングラスの用途であり、色弱者の為の専用メガネの用途に関しては何ら考慮されていない。しかも、その制御構造はコレステリック液晶を用いて一部の波長の光を反射するものであり、構造が複雑で、構成部品も多く実用的ではない。
【0004】
なお特許文献2には、メガネではなく液晶表示パネルの分野に関するものではあるが、特定の屈折率を有するネマティック液晶を用いたカラー液晶表示素子が開示されている。また、その[0002]段落には、従来技術の一例として、カラーフィルタを備えた液晶セルとこの液晶セルを挟んで配置された一対の偏光フィルムからなるカラー液晶表示素子は各カラーフィルタごとの光の透過率を変化させてカラー表示を行っていることが説明され、さらにその[0004]段落には、カラーフィルタを用いた従来のカラー液晶表示パネルは、カラーフィルタによる特定波長の光の吸収により着色光を得るので光の透過率が低くなり、表示が暗くなってしまうと説明されている。すなわち、特許文献2においてはあくまでも表示パネルの性能だけが検討されており、メガネ等の他の用途に関しては何ら検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−181064号公報
【特許文献2】特開平10−096887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、比較的簡素な構造により色相又は彩度を変化できる実用的な変色光学フィルター及びこれを備えたメガネを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、偏光面の回転を利用して透過光の色相又は彩度を変化させることが非常に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下の事項により特定される。
[1]二色性色素を含む2枚以上の偏光子と、該偏光子を支持するフレームとを有する変色光学フィルターであって、少なくとも1枚の偏光子へ入射する偏光面又は少なくとも1枚の偏光子から出射する偏光面を相対的に回転させることによって、光学フィルターの透過光の色相又は彩度が変化する変色光学フィルター。
[2]2枚以上の偏光子のうちの少なくとも1枚が、有彩色の偏光子である[1]記載の変色光学フィルター。
[3]少なくとも1枚の偏光子自体を回転させることによって、偏光面を相対的に回転させる[1]記載の変色光学フィルター。
[4]複数の偏光子の間に介在する液晶デバイスの電圧制御によって、偏光面を相対的に回転させる[1]記載の変色光学フィルター。
[5]色弱者用の色識別ツールである[1]記載の変色光学フィルター。
[6]偏光面を相対的に回転させることによって、透過光が白色光から赤色光又は緑色光に変化する[5]記載の変色光学フィルター。
[7]偏光子の二色性色素に基づく色彩以外の色彩範囲に移行する為のカラーフィルターを併用する[1]記載の変色光学フィルター。
[8][1]〜[7]の何れか記載の変色光学フィルターを備えたメガネ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、比較的簡素な構造により色相又は彩度を変化できる実用的な変色光学フィルター及びこれを備えたメガネを提供できる。特に、通常の使用状態においては透過光の明度が高い状態とし、必要に応じて色相又は彩度を変化させる場合は透過光の明度は低いが彩度が高い状態となるような変色光学フィルターを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の変色光学フィルターのフレームの一形態を示す正面図である。
図2】本発明の変色光学フィルターのフレームの一形態を示す斜視図である。
図3】本発明の変色光学フィルターの一形態を示す断面図である。
図4】本発明の変色光学フィルターの固定偏光子の一形態を示す正面図である。
図5】本発明の変色光学フィルターの回転偏光子の一形態を示す正面図である。
図6】本発明の変色光学フィルターを備えたメガネの一形態を示す斜視図である。
図7】本発明の変色光学フィルターの一形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<偏光子>
本発明において「偏光子」とは偏光能を有する部材自体を意味し、その形状は何ら限定されない。また本発明において「偏光板」とは、光透過性を有する板状基材に偏光子を設けてなる部材を意味する。また一般に「光学フィルター」とは、フィルターに入射・透過する光の光学的性質を変化させることを目的として使用するフィルターを意味する。そして、本発明において「変色光学フィルター」とは、偏光面を相対的に回転させる機構を有し、これにより特に透過光の色相又は彩度を変化させることを目的とするデバイスを意味する。偏光子の形状は特に限定されないが、フィルム状が好ましい。フィルム状の偏光子は、例えば所望の基板に積層して偏光板として用いれば良い。偏光子の材質としては、例えばポリエステル、ポリビニルアルコール等の樹脂が挙げられる。具体的には、ポリエステルやポリビニルアルコールの延伸フィルムを好適に使用できる。ただし、延伸フィルム以外の公知の偏光子を使用しても構わない。また視力矯正用メガネ等の特定用途に使用する場合は、必要に応じて度付のレンズ状基板に偏光子を貼り付けてもよい。
【0012】
本発明における偏光子は、二色性色素を含む。この二色性色素は、通常、長軸方向の遷移モーメントが短軸方向に比べて大きい、あるいは短軸方向の遷移モーメントが長軸方向に比べて大きいので、これにより偏光子の機能が発現する。色素の二色比は特に制限されず、光学フィルターの具体的な用途に適したものを適宜用いれば良い。本発明においては、公知の各種二色性色素を使用できる。色素の種類としては、例えば、アゾ系色素、アントラキノン系色素、ペリレン系色素、インダンスロン系色素、イミダゾール系色素などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
色相又は彩度を変化させる為には、少なくとも一つの偏光子の二色性色素が特定の可視光の吸収が大きく、その色彩が黒やグレーでなく着色していることが好ましい。着色偏光子の色相としては、例えば、赤、緑、青、シアン、マゼンタ、イエローが挙げられる。着色偏光子の色彩は、明度や彩度によって制限されるものではない。特に、彩度が低い偏光子と着色偏光子を組み合わせて使用することが好ましい。一般に白色、グレー、黒色と表現される彩度の低い色彩は、その明度の高低に係わらず色相の違いを感じにくい色彩である。このような点から、本発明の変色光学フィルターにおいては、2枚以上の偏光子のうちの少なくとも1枚が有彩色の(すなわち黒、グレー、白等の無彩色ではない)偏光子であることが好ましい。一方、例えば従来の液晶表示素子(例えばネマティック液晶を用いたカラー液晶表示素子)においては、通常は無彩色(グレー等)の偏光子しか用いられていない。一般的な液晶表示素子は、本発明のように色相や彩度を変化させる機能を目的としていないからである。
【0014】
本発明において有彩色とは、彩度C*が5以上の色を意味する。色弱者用途においては偏光子の回転による彩度変化を大きくするために有彩色偏光子の彩度C*は大きい方が良く、好ましくは10以上、より好ましくは15以上である。また、色弱者用途においては使用者の見易さを考慮するとできるだけ光学フィルターの明度が高い方が良く、それ故に有彩色の偏光子の明度L*は高い方が好ましい。具体的には、明度L*は好ましくは50以上、より好ましくは60以上である。しかし、有彩色の偏光子の彩度C*を大きくすると光の吸収量が増えるので、一般に有彩色の偏光子の明度L*は低下する傾向にある。このような点から、彩度C*と明度L*の和(C*+L*)を際限なく大きくすることは困難であり、色弱者用途において有彩色の偏光子としてはC*+L*が110以下である偏光子が実用的である。一方、有彩色の偏光子の彩度C*と明度L*は共に高い方が良いので、色弱者用途においてC*+L*は好ましくは80以上、より好ましくは85以上である。ただし、有彩色の偏光子の彩度C*と明度L*の両立のためには彩度C*と明度L*が共に高すぎることは好ましくなく、彩度C*は好ましくは50以下、より好ましくは40以下である。また、有彩色の偏光子の明度L*は好ましくは95以下である。
【0015】
色弱者用途以外の用途、例えばメガネ、ゴーグル、撮像装置、表示装置、電気・電子機器等の用途においては、各用途に応じた光学フィルターの彩度変化が得られる有彩色の偏光子の彩度C*を採用すれば良い。メガネやゴーグルの用途においては先に説明した色弱者用途と同様に使用者の見易さを考慮する必要があるので明度L*の好適範囲は色弱者用途と同様であるが、それ以外の用途では採用可能な明度L*は異なり、具体的には、明度L*は好ましくは10以上、より好ましくは30以上、特に好ましくは50以上であり、また好ましくは100以下、より好ましくは95以下である。彩度C*は好ましくは10以上、より好ましくは15以上であり、また好ましくは50以下、より好ましくは40以下である。C*+L*は好ましくは80以上、より好ましくは85以上で
【0016】
ただし本発明においては、有彩色の偏光子の色彩を以上の各範囲に限定するものではない。また本発明において無彩色とは、有彩色ではない色彩を意味し、黒、グレー、白を含む彩度の低い色彩領域であるが、黒、グレー、白に限定されるものではない。
【0017】
例えば、グレーの偏光子(偏光面では透過率が高く、偏光面に直交する面では透過率が低い偏光子で、彩度が低いものが好ましい)と赤の偏光子(偏光面では全波長で透過率が高く、偏光面に直交する面では波長によって透過率が異なるために偏光面に直交する面の透過光が赤色で、彩度が高いものが好ましい)を組み合わせて使用する場合、この2枚の偏光子の偏光面の相対的な角度が0°である時、すなわち平行の時は透過光は白色光である。そして、偏光面の相対的な角度を90°にすると透過光は赤色となり、観察対象物の赤色の部分はそのまま見えるが、例えば緑色の部分の透過光は透過率が低下して明度が下がる。その結果、赤緑色弱者は観察対象物の赤色の部分と緑色の部分とを明度の差によって識別することができる。
【0018】
また例えば、グレーの偏光子と緑の偏光子(偏光面では全波長で透過率が高く、偏光面に直交する面では波長によって透過率が異なるために偏光面に直交する面の透過光が緑色で、彩度が高いものが好ましい)を組み合わせた場合も同様に、偏光面の相対的な角度を90°にすると透過光は緑色となり、観察対象物の緑色の部分はそのまま見えるが、例えば赤色の部分の透過光は透過率が低下して明度が低下する。その結果、赤緑色弱者は観察対象物の赤色の部分と緑色の部分とを明度の差によって識別することができる。
【0019】
以上の各組み合わせの例においては、特に観察対象物の赤色の部分と緑色の部分について説明したが、これに限定されるものではない。すなわち、観察対象物の各部の色彩を光の三原色に分解して考えた場合、前者の例では緑色又は青色成分を含む部分の透過光、後者の例では赤色又は青色成分を有する部分の透過光の透過率が低下するので、それら各部分の識別が明度の差によって可能となる。
【0020】
本発明においては、偏光面の回転により透過光の色相又は彩度が変化するが、その具体的な変化のパターンは光学フィルターの具体的な用途に応じて適宜設定すれば良い。例えば、赤緑色弱者が赤色と緑色を識別する為の色識別ツール用途では、後述する実施例に示すようにCIE 1976 (L*, a*, b*) 色空間のa*の変化が大きく、b*の変化が小さいことが好ましい。赤色と緑色の識別の為にはa*の変化が有効だからである。この場合、a*の変化の度合いは20以上が好ましく、b*の変化の度合いはa*の変化の度合いよりも小さいことが好ましい。なお、a*の変化の程度が大きくなるほど赤色と緑色の識別はより容易になるが、色弱者であることを他者に知見されるのは好ましくないという理由から、色彩の変化を小さく抑えたい場合がある。このような場合には、偏光面の回転角を90°よりも小さくすることによって色彩の変化を小さく抑えることが可能である。
【0021】
例えば色識別ツールの用途においては、偏光面の回転による透過率の変化は大きい方が好ましい。偏光子の可視光吸収特性として、非偏光での最小透過率波長における最大透過率方向の直線偏光の透過率をk1、非偏光での最小透過率波長における最大透過率方向に直交する方向の直線偏光の透過率をk2と表したとき、k2/k1の値が小さいほど偏光面の回転による透過率の変化が大きくなる。色彩の識別のためにはk2/k1の値は好ましくは0.9以下、より好ましくは0.8以下である。一方、色弱者であることを他者に知見されるのは好ましくないという理由から、色彩の変化を小さく抑えたい場合がある。このような場合には、k2/k1の値を色弱者の好みに合わせることが好ましい。
【0022】
本発明における偏光子は、二色性色素に基づく色彩をそのまま使用しても良いが、それ以外の色彩範囲に移行する為の別のカラーフィルターを併用しても良い。このカラーフィルターにも二色性色素を用いることもできる。また、偏光子自体又は偏光板の基板に他の色素を添加して色彩範囲を移行しても良い。
【0023】
<フレーム>
本発明におけるフレームに特に制限は無く、偏光子自体又は偏光子を含む部材(例えば偏光板)を支持できる部材であれば良い。フレームの具体的な形状に関しては、偏光子自体を回転させる実施形態に用いるフレームと、液晶デバイスを用いる実施形態に用いるフレームとでは異なるので、詳細は後述する。
【0024】
<偏光子自体を回転させる実施形態>
本実施形態においては、少なくとも1枚の偏光子自体を回転させることによって、偏光面を相対的に回転させる。例えば、偏光子自体を回転させる為の構成として、図1及び図2に示すような円柱形のフレーム10を使用する。そして図3に示すように、フレーム10の内面には、固定偏光板20を固定する為の溝11と、回転偏光板30を支持する為の溝12が形成されている。さらに溝12の一部には内側から外側に貫通したスリット13が形成されている。
【0025】
固定偏光板20は、図4に示すように円板状である。回転偏光板30は、図5に示すように円板状の一部に突出部31が設けられている。そして図3に示すように、固定偏光板20はフレーム10の溝11にはめ込まれ、回転偏光板30はフレーム10の溝12にはめ込まれている。回転偏光板30の突出部31は、スリット13から外側に出ている。この突出部31をつまんで移動させることにより、回転偏光板30を0°〜90°に回転することができる。このような構成の変色光学フィルターは、回転偏光板30自体を手動で回転させることにより、透過光の色相又は彩度が変化する。
【0026】
さらに図6に示すように、2つのフレーム10をブリッジ40で接合し、これにテンプル50を付ければ、本発明のメガネを得ることができる。
【0027】
偏光子自体を回転させる実施形態に用いるフレームは、少なくとも一つの偏光子を機械的に回転可能とする構造を有することが必要である。図1〜6に示す実施形態においては、フレーム10の溝12とスリット13が回転偏光板30自体を機械的に回転可能とする構造に相当する。
【0028】
図1〜6に示す実施形態はメガネ用途に用いる形態なので、そのフレーム10に人の顔面に固定する為の部品(ブリッジ40、テンプル50)が更に付加されているが、本発明はこれに限定されない。それ以外の用途(例えばルーペ)の場合はそのような部品は不要である。
【0029】
図1〜6に示す実施形態においては、手動により回転偏光板30を機械的に回転させているが、本発明はこれに限定されない。例えば、機械的動力又は電気的動力により回転偏光板30を機械的に回転させても良い。
【0030】
本実施形態のように、少なくとも1枚の偏光子自体を回転させることによって偏光面を相対的に回転させる形態は、液晶デバイスを用いる実施形態と比較して、例えば安価であり、壊れ難く、軽量であり、液晶の寿命に制限されず半永久的に使用可能であるという利点がある。特に手動又は機械的動力により回転させる形態は、耐水性の問題が無い、電池切れの心配が無いという更なる利点もある。
【0031】
なお、以上説明した実施形態は、レンズ全体の透過光の色相又は彩度が変化するメガネであるが、本発明はこれに限定されない。レンズの一部分だけ(例えば、レンズの上方だけ、下方だけ、中心部だけ、あるいは外延部の一部分だけ)の透過光の色相又は彩度が変化するメガネであっても良い。この場合は、それ以外の部分の透過光が変化せず十分な明るさを担保でき、透過光の明度低下の不都合を軽減できる点で有利である。
【0032】
<液晶デバイスを用いる実施形態>
本実施形態においては、複数の偏光子の間に介在する液晶デバイスの電圧制御によって、偏光面を相対的に回転させる。例えば、液晶デバイスを用いた構成として、図7に示すように、2枚の偏光フィルム60の間に、透明電極61/配向膜62/ネマティック液晶63/配向膜62/透明電極61の積層構造(液晶デバイス)を介在させ、この2枚の透明電極61の間に電圧を印加することによって、偏光面を相対的に回転させることができる。
【0033】
このような液晶デバイスを用いた変色光学フィルターを所望のフレームに組み込んで、例えば図6に示すメガネのフレーム11と置換すれば、先に説明した実施形態のような手動が不要なメガネになる。ただし、この場合はフレームに電圧印加手段を設けるか、あるいは電圧印加手段と電気的に接続する必要がある。
【0034】
図7に示す実施形態においては、偏光フィルム60/液晶デバイス(61/62/63/62/61)/偏光フィルム60という7層の積層構造を用いたが、本発明はこれに限定されない。積層構造には色彩範囲を移行する為のカラーフィルターを追加しても良い。上記積層構造とは異なる色を制御する為の偏光フィルムを用いて、2色、3色・・・・多数色を制御可能な変色光学フィルターとしても良い。例えば、2色を制御可能な変色光学フィルターとしては、他の色を制御する為の偏光フィルム60’を用いて、液晶デバイス(61/62/63/62/61)/偏光フィルム60’という積層構造を更に追加積層して、13層の積層構造とすれば良い。2色を適当に選択することにより、任意の色相と彩度を得ることが可能になる。これと同様に3色を制御可能な変色光学フィルターは、19層の積層構造となる。3色を適当に選択することにより、任意の色相と彩度に加え、明度を制御することが可能になる。
【0035】
本実施形態のように、複数の偏光子の間に介在する液晶デバイスの電圧制御によって、偏光面を相対的に回転させる形態は、特許文献1のようなコレステリック液晶等の特定の液晶を用いて一部の波長の光を反射する制御構造と比較して、構造が簡単で、構成部品も少なく実用的である。さらに、特許文献1のようなコレステリック液晶を用いると見る角度によって透過波長が変わってしまうが、本発明のような偏光面を相対的に回転させる液晶(例えばネマティック液晶)を用いると見る角度によっても透過波長が変わらず一定なので、メガネ等の特定用途において非常に有用である。すなわち、メガネ等の特定用途においては使用者の目の位置或いは使用者が見ようとする対象物と光学フィルターの位置との相対的位置関係が少しずれただけで見える色彩が変わってしまっては極めて不便だからである。なお、液晶デバイスを用いる形態と偏光子自体を機械的に回転させる形態とを比較した場合は、液晶デバイスを用いる形態には偏光子の形状に制限が無い、回転のON-OFF操作が簡単であるという利点がある。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
<透過光の色彩の測定方法>
光学フィルターの透過光の色彩の測定には、日本電色工業株式会社製の分光式色彩計SE−2000を使用した。光源はD65/10とし、色彩の測定結果はCIE 1976 (L*, a*, b*) 色空間で表した。L*は明度、a*は赤色、b*は黄色を表す。彩度C*及び色相∠H°は以下の式で算出した。ただし、∠H°の値に関してはa*>0かつb*<0のときは360°を加え、a*<0のときには180°を加えて、∠H°が0°から360°の範囲になるようにした。
【0038】
【数1】
【0039】
<偏光板の作製>
まず偏光子として以下の市販の着色偏光フィルム(販売:株式会社松謙)を用意した。
グレーの偏光子(L*=70.8、a*=−2.6、b*=3.4、C*=4.3、色相=128°)
赤の偏光子(L*=78.7、a*=26.7、b*=4.3、C*=27.1、色相=9°)
緑の偏光子(L*=76.7、a*=−19.7、b*=8.7、C*=21.6、色相=156°)
青の偏光子(L*=79.4、a*=−8.1、b*=−16.0、C*=18.0、色相=243°)
そして、各々の偏光フィルムを無色透明の基材(厚さ2mmのアクリル板)に貼り、各色の偏光板を得た。
【0040】
<実施例1>
固定偏光板20にグレーの偏光板、回転偏光板30に赤の偏光板を用いて、図1〜5に示す変色光学フィルターを以下の通り作製した。
【0041】
外径53mm、内径50mm、高さ6mmの円柱形樹脂からなるフレーム10の内面に、幅21mm、深さ1mmの溝11及び12を付けた。溝12の一部はさらに切削してスリット13を開けた。スリット13の長さはフレーム10の円周の4分の1よりも長くした。直径51mmの円形に加工したグレーの偏光板を溝11にはめ込み、固定偏光板20とした。直径51mmの円形に突出部31がある赤の偏光板を加工して、これをスリット13と溝12にはめ込み、回転偏光板30とした。
【0042】
このようにして得た光学フィルターの回転偏光板30を0°から90°に回転させたところ、透過光の色相及び彩度が実際に変化した。具体的には、回転偏光板30の回転角が0°のときの透過光は彩度が低く白色光であった(L*=63.8、a*=1.4、b*=3.9、C*=4.1、色相=70°)。回転偏光板30の回転角が90°のときの透過光は赤色であり、緑色や青色成分を有する色彩は明度が低下した(L*=36.7、a*=53.3、b*=14.4、C*=55.2、色相=15°)。
【0043】
<実施例2>
固定偏光板20にグレーの偏光板、回転偏光板30に緑の偏光板を用いたこと以外は、実施例1と同様にして変色光学フィルターを作製した。その回転偏光板30を0°から90°に回転させたところ、透過光の色相及び彩度が実際に変化した。具体的には、回転偏光板30の回転角が0°のときの透過光は彩度が低く白色光であった(L*=62.3、a*=−7.8、b*=7.7、C*=10.9、色相=136°)。回転偏光板30の回転角が90°のときの透過光は緑色であり、赤色や青色成分を有する色彩は明度が低下した(L*=33.9、a*=−49.7、b*=14.6、C*=51.8、色相=164°)。
【0044】
<実施例3>
固定偏光板20にグレーの偏光板、回転偏光板30に青の偏光板を用いたこと以外は、実施例1と同様にして変色光学フィルターを作製した。その回転偏光板30を0°から90°に回転させたところ、透過光の色相及び彩度が実際に変化した。具体的には、回転偏光板30の回転角が0°のときの透過光は彩度が低く白色光であった(L*=63.4、a*=−3.6、b*=3.1、C*=4.8、色相=139°)。回転偏光板30の回転角が90°のときの透過光は青色であり、赤色や緑色成分を有する色彩は明度が低下した(L*=37.7、a*=−19.5、b*=−27.3、C*=33.6、色相=234°)。
【0045】
<実施例4>
固定偏光板20に赤の偏光板、回転偏光板30に赤の偏光板を用いたこと以外は、実施例1と同様にして変色光学フィルターを作製した。その回転偏光板30を0°から90°に回転させたところ、透過光の彩度が実際に変化した。具体的には、回転偏光板30の回転角が0°のときの透過光は赤色であった(L*=72.4、a*=25.8、b*=8.2、C*=27.1、色相=18°)。回転偏光板30の回転角が90°のときの透過光は赤色であるが、緑色や青色成分を有する色彩は明度が低下した(L*=52.7、a*=69.5、b*=16.9、C*=71.5、色相=14°)。
【0046】
<実施例5>
固定偏光板20に赤の偏光板、回転偏光板30に緑の偏光板を用いたこと以外は、実施例1と同様にして変色光学フィルターを作製した。その回転偏光板30を0°から90°に回転させたところ、透過光の色相及び彩度が実際に変化した。具体的には、回転偏光板30の回転角が0°のときの透過光は彩度が低く白色光であった(L*=63.0、a*=0.8、b*=5.7、C*=5.8、色相=82°)。回転偏光板30の回転角が90°のときの透過光はオレンジ色であり、緑色や青色成分を有する色彩は明度が低下した(L*=48.6、a*=13.8、b*=17.2、C*=22.1、色相=51°)。
【0047】
<実施例6>
固定偏光板20に赤の偏光板、回転偏光板30に青の偏光板を用いたこと以外は、実施例1と同様にして変色光学フィルターを作製した。その回転偏光板30を0°から90°に回転させたところ、透過光の色相及び彩度が実際に変化した。具体的には、回転偏光板30の回転角が0°のときの透過光は彩度が低く白色光であった(L*=66.0、a*=5.5、b*=−4.1、C*=6.9、色相=323°)。回転偏光板30の回転角が90°のときの透過光は紫色であり、緑色成分を有する色彩は明度が低下した(L*=51.4、a*=27.7、b*=−19.2、C*=33.7、色相=325°)。
【0048】
<実施例7>
固定偏光板20に緑の偏光板、回転偏光板30に緑の偏光板を用いたこと以外は、実施例1と同様にして変色光学フィルターを作製した。その回転偏光板30を0°から90°に回転させたところ、透過光の彩度が実際に変化した。具体的には、回転偏光板30の回転角が0°のときの透過光は緑色であった(L*=64.1、a*=−17.2、b*=10.5、C*=20.1、色相=149°)。回転偏光板30の回転角が90°のときの透過光は緑色であり、赤色や青色成分を有する色彩は明度が低下した(L*=47.7、a*=−64.7、b*=19.2、C*=67.5、色相=164°)。
【0049】
<実施例8>
固定偏光板20に緑の偏光板、回転偏光板30に青の偏光板を用いたこと以外は、実施例1と同様にして変色光学フィルターを作製した。その回転偏光板30を0°から90°に回転させたところ、透過光の色相及び彩度が実際に変化した。具体的には、回転偏光板30の回転角が0°のときの透過光は緑色であった(L*=67.5、a*=−13.9、b*=3.8、C*=14.4、色相=165°)。回転偏光板30の回転角が90°のときの透過光は青緑色であり、赤色成分を有する色彩は明度が低下した(L*=50.7、a*=−43.3、b*=−13.7、C*=45.4、色相=198°であった)。
【0050】
<比較例1>
固定偏光板20にグレーの偏光板、回転偏光板30にグレーの偏光板を用いたこと以外は、実施例1と同様にして光学フィルターを作製した。回転偏光板30の回転角が0°のときの透過光は彩度が低く薄いグレーであった(L*=63.8、a*=−4.1、b*=6.1、C*=7.4、色相=124°)。回転偏光板30の回転角が90°のときの透過光は彩度が低く濃いグレーであり、明度は変化したが色相及び彩度は変化しなかった(L*=0.4、a*=0.1、b*=−0.7、C*=0.7、色相=277°)。
【0051】
<実施例9>
固定偏光板20に青の偏光板、回転偏光板30に青の偏光板を用いたこと以外は、実施例1と同様にして変色光学フィルターを作製した。その回転偏光板30を0°から90°に回転させたところ、透過光の彩度が実際に変化した。具体的には、回転偏光板30の回転角が0°のときの透過光は青色であった(L*=69.6、a*=−4.9、b*=−15.9、C*=16.6、色相=253°)。回転偏光板30の回転角が90°のときの透過光は青色であるが、赤色や緑色成分を有する色彩は明度が低下した(L*=53.9、a*=−22.1、b*=−39.5、C*=45.2、色相=241°)。
【0052】
<実施例10>
赤の偏光子と緑の偏光子を回転角90°で固定して貼り付けたこと以外は他の偏光板と同様にして赤×緑90°の偏光板を作製した。固定偏光板20にこの赤×緑90°の偏光板(L*=49.9、a*=16.6、b*=17.6、C*=24.2、色相=47°)、回転偏光板30にグレーの偏光板を用いたこと以外は、実施例1と同様にして変色光学フィルターを作製した。その回転偏光板30を赤色偏光子に対して0°から、45°、90°に回転させたところ、透過光の色相及び彩度が実際に変化した。具体的には、回転偏光板30の回転角が0°のときの透過光は緑色であり、赤色や青色成分を有する色彩は明度が低下した(L*=31.8、a*=−46.9、b*=13.8、C*=48.8、色相=164°)。回転偏光板30の回転角が45°のときの透過光は彩度が低くグレーであった(L*=30.6、a*=−0.2、b*=9.6C*=9.6、色相=91°)。回転偏光板30の回転角が90°のときの透過光は赤色であり、緑色や青色成分を有する色彩は明度が低下した(L*=32.5、a*=47.5、b*=13.8、C*=49.5、色相=16°)。
【0053】
<実施例11>
緑の偏光子とグレーの偏光子を回転角30°で固定して貼り付けたこと以外は他の偏光板と同様にして赤×グレー30°の偏光板を作製した。固定偏光板20にこの緑×グレー30°の偏光板(L*=58.3、a*=−10.5、b*=7.6、C*=12.9、色相=144°)、回転偏光板30に赤の偏光板を用いたこと以外は、実施例1と同様にして変色光学フィルターを作製した。その回転偏光板30を赤色偏光子に対して0°から90°に回転させたところ、透過光の色相及び彩度が実際に変化した。具体的には、回転角が0°のときの透過光は緑色であった(L*=54.9、a*=−5.6、b*=7.5、C*=9.4、色相=127°)。回転偏光板30の回転角が90°のときの透過光は赤色であり、緑色や青色成分を有する色彩は明度が低下した(L*=28.8、a*=44.3、b*=13.5、C*=46.4、色相=17°)。
【0054】
<実施例12>
図6に示すように、2つのフレーム10をブリッジ40で接合し、これにテンプル50を付けてメガネ型フレームを作製し、この2つのフレーム10に実施例1〜11と同様にして偏光子をはめ込み、本発明のメガネを得た。
【0055】
<実施例13>
図7に示す偏光フィルム60として以下の市販の着色偏光フィルム(販売:株式会社松謙)を用意した。
グレーの偏光フィルム(L*=70.8、a*=−2.6、b*=3.4、C*=4.3、色相=128°)
赤の偏光フィルム(L*=78.7、a*=26.7、b*=4.3、C*=27.1、色相=9°)
緑の偏光フィルム(L*=76.7、a*=−19.7、b*=8.7、C*=21.6、色相=156°)
青の偏光フィルム(L*=79.4、a*=−8.1、b*=−16.0、C*=18.0、色相=243°)
【0056】
図7に示す2枚の偏光フィルム60間の、透明電極61/配向膜62/ネマティック液晶63/配向膜62/透明電極61の積層構造からなるネマティック液晶デバイスとして、液晶ポラリゼーションローテイター(Liquid Crystal Polarization Rotator、販売:ARCoptix社)を用意した。液晶デバイスの電圧印加前の透過は白色光であり(L*=95.0、a*=−1.1、b*=6.1、C*=6.2、色相=100.19°)、9Vの電圧印加中も白色光であった(L*=93.8、a*=−1.0、b*=6.1、C*=6.2、色相=99.5°)。
【0057】
このネマティック液晶デバイスの一方の偏光フィルム60として前記グレーの偏光フィルムを貼り付け、もう一方の偏光フィルム60として前記赤の偏光フィルムを貼り付けて、図7に示すような液晶デバイスを用いた変色光学フィルターを得た。液晶デバイスに9Vの電圧を印加したところ、透過光の色相及び彩度が実際に変化した。具体的には、電圧印加前の透過光は彩度が低く白色光であった(L*=62.6、a*=0.9、b*=6.0、C*=6.1、色相=81.7°)。9Vの電圧印加中の透過光は赤色であり、緑色や青色成分を有する色彩は明度が低下した(L*=43.0、a*=34.4、b*=6.6、C*=35.1、色相=11.0°)。
【0058】
<実施例14>
赤の偏光フィルムの代わりに緑の偏光フィルムを用いたこと以外は、実施例13と同様にして図7に示すような液晶デバイスを用いた変色光学フィルターを作製した。液晶デバイスに9Vの電圧を印加したところ、透過光の色相及び彩度が実際に変化した。具体的には、電圧印加前の透過光は彩度が低く白色光であった(L*=65.2、a*=−8.2、b*=12.4、C*=14.8、色相=123.6°)。9Vの電圧印加中の透過光は緑色であり、赤色や青色成分を有する色彩は明度が低下した(L*=49.6、a*=−22.4、b*=13.2、C*=26.0、色相=149.5°)。
【0059】
<実施例15>
赤の偏光フィルムの代わりに青の偏光フィルムを用いたこと以外は、実施例13と同様にして図7に示すような液晶デバイスを用いた変色光学フィルターを作製した。液晶デバイスに9Vの電圧を印加したところ、透過光の色相及び彩度が実際に変化した。具体的には、電圧印加前の透過光は彩度が低く白色光であった(L*=66.4、a*=−4.6、b*=7.6、C*=8.9、色相=121.0°)。9Vの電圧印加中の透過光は青色であり、赤色や緑色成分を有する色彩は明度が低下した(L*=40.0、a*=−20.7、b*=−25.2、C*=32.6、色相=230.4°)。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、変色光学フィルターは色相又は彩度の変更が望まれる用途に有用である。特に、可視対象物の一部分の色相又は彩度が変化することを観者に認識させることが望まれる用途に非常に有用であり、この点において一般的な液晶表示素子とは全く異なるものである。例えば、色弱者用のメガネやルーペ等の色識別ツール、あるいは色相又は彩度が変更するサングラスの用途に極めて有用である。その他、クリップオン式ルーペやオーバーサングラスの用途にも使用できる。ただし、本発明の変色光学フィルターの用途はこれらに限定されない。それ以外の用途としては、例えば、天候に応じてゴーグル(スキー用ゴーグル等)の色相又は彩度を変更したり、海水中を見易くする為に青色光を減らしたり、川の中を見易くする為に川底の色を減らしたりする等、様々な用途において本発明の変色光学フィルターは有用である。また、カメラやビデオカメラ等の撮像装置やディスプレイ等の表示装置等の色彩補正用光学フィルター、光の色相又は彩度の変更を必要とするセンサーや光通信回路等の電気・電子機器としての用途にも有用である。
【符号の説明】
【0061】
10 フレーム
11 溝
12 溝
13 スリット
20 固定偏光板
30 回転偏光板
31 突出部
40 ブリッジ
50 テンプル
60 偏光フィルム
61 透明電極
62 配向膜
63 ネマティック液晶
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7