特許第6453386号(P6453386)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6453386バイオリアクター、それを用いたメタン生成方法及び水素ガス生成方法、並びに水/ガス/電気の自家的供給システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6453386
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】バイオリアクター、それを用いたメタン生成方法及び水素ガス生成方法、並びに水/ガス/電気の自家的供給システム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/107 20060101AFI20190107BHJP
   C12P 5/02 20060101ALI20190107BHJP
   C12P 3/00 20060101ALI20190107BHJP
   C12P 39/00 20060101ALI20190107BHJP
   C02F 3/28 20060101ALI20190107BHJP
   H01M 8/06 20160101ALI20190107BHJP
【FI】
   C12M1/107
   C12P5/02
   C12P3/00 Z
   C12P39/00
   C02F3/28 A
   H01M8/06
【請求項の数】10
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-120736(P2017-120736)
(22)【出願日】2017年6月20日
(62)【分割の表示】特願2013-537517(P2013-537517)の分割
【原出願日】2012年10月2日
(65)【公開番号】特開2017-153497(P2017-153497A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2017年7月20日
(31)【優先権主張番号】特願2011-220274(P2011-220274)
(32)【優先日】2011年10月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩之
(72)【発明者】
【氏名】増田 俊明
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−159457(JP,A)
【文献】 特開2008−080336(JP,A)
【文献】 特開2005−073519(JP,A)
【文献】 特開2002−280045(JP,A)
【文献】 特開2007−130511(JP,A)
【文献】 The ISME Journal,2010年,Vol. 4,pp. 531-541
【文献】 Environmental Microbiology,2010年,Vol. 12, No. 2,pp. 480-489
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−1/42
C12P 3/00
C12P 5/00−5/02
C12P 39/00
C01B 3/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素生成型発酵細菌及び水素資化性メタン生成菌を含む反応液が供給されるメタン生成槽と、
前記メタン生成槽に接続され、有機物を含む第1の基質液を前記メタン生成槽に供給可能な第1の基質液貯蔵タンクと、
前記メタン生成槽に接続され、前記メタン生成槽で生成したメタンを回収するメタンタンクと、
前記メタン生成槽に接続され、前記メタン生成槽からメタン生成後の前記反応液が供給される水素ガス生成槽と、
前記水素ガス生成槽に接続され、有機物及び水素資化性メタン生成菌阻害剤を含む第2の基質液を前記水素ガス生成槽に供給可能な第2の基質液貯蔵タンクと、
前記水素ガス生成槽に接続され、前記水素ガス生成槽で生成した水素ガスを回収する水素ガスタンクと、を備え
前記反応液が、付加帯の深部地下水であり、
前記メタン生成槽においてメタン生成を行う際の反応温度及び前記水素ガス生成槽において水素ガス生成を行う際の反応温度が、45〜65℃である、バイオリアクター。
【請求項2】
前記メタン生成槽に接続されると共に第1のガス回収装置に接続され、前記反応液を貯蔵する反応液貯蔵タンクを更に備える、請求項1に記載のバイオリアクター。
【請求項3】
前記反応液貯蔵タンクが前記メタン生成槽の底部に接続されており、かつ前記第1の基質液貯蔵タンクが前記メタン生成槽の側面上部に接続されており、前記第2の基質液貯蔵タンクが前記水素ガス生成槽の側面上部に接続されている、請求項2に記載のバイオリアクター。
【請求項4】
前記水素ガス生成槽及びメタン生成槽を加熱する加熱装置を更に備える、請求項1〜3のいずれか一項に記載のバイオリアクター。
【請求項5】
有機物を含む第1の基質液、並びに、水素生成型発酵細菌及び水素資化性メタン生成菌を含む反応液をメタン生成槽に供給するステップと、
前記メタン生成槽で、前記第1の基質液に含まれる基質を前記反応液に含まれる前記水素生成型発酵細菌及び前記水素資化性メタン生成菌により発酵させてメタンを生成するステップと、
有機物及び水素資化性メタン生成菌阻害剤を含む第2の基質液、並びに、メタン生成後の前記反応液を水素ガス生成槽に供給するステップと、
前記水素ガス生成槽で、前記第2の基質液に含まれる基質を前記反応液に含まれる水素生成型発酵細菌により発酵させて水素ガスを生成するステップと、を備え
前記反応液が、付加帯の深部地下水であり、
前記メタンを生成するステップにおいてメタン生成を行う際の反応温度及び前記水素ガスを生成するステップにおいて水素ガス生成を行う際の反応温度が、45〜65℃である、メタン及び水素ガスの生成方法。
【請求項6】
前記反応液が、塩濃度が1.5%以下、溶存酸素濃度が0.01%未満、硫酸イオン濃度が5.0mg/L以下、硫化物イオン濃度が0.01mg/L未満、ヨウ素イオン濃度が5.0mg/L以下、及び前記水素生成型発酵細菌及び前記水素資化性メタン生成菌の合計細胞数が10〜10cells/mLである、請求項5に記載のメタン及び水素ガスの生成方法。
【請求項7】
大深度掘削井戸から付加帯の深部地下水を汲み上げるポンプと、
前記ポンプと接続され、前記深部地下水に含まれるメタンを分離するメタン分離槽、前記メタン分離槽と接続され、メタンを分離した前記深部地下水が供給されるメタン生成槽、及び、前記メタン生成槽に接続され、有機物を含む第1の基質液を前記メタン生成槽に供給可能な第1の基質液貯蔵タンクを有する、メタン生成部と、
前記メタン分離槽及び前記メタン生成槽に接続され、前記深部地下水に含まれるメタン及び前記メタン生成槽で生成したメタンを回収するメタンタンクと、
前記メタン生成槽に接続され、前記メタン生成槽からメタン生成後の前記深部地下水が供給される水素ガス生成槽、並びに、前記水素ガス生成槽に接続され、有機物及び水素資化性メタン生成菌阻害剤を含む第2の基質液を前記水素ガス生成槽に供給可能な第2の基質液貯蔵タンクを有する、水素ガス生成部と、
前記水素ガス生成槽に接続され、前記水素ガス生成槽で生成した水素ガスを回収する水素ガスタンクと、
前記メタンタンクに接続されたガスエンジンを有する発電機と、
前記水素ガスタンクに接続された燃料電池と、を備え
前記メタン生成槽においてメタン生成を行う際の反応温度及び前記水素ガス生成槽において水素ガス生成を行う際の反応温度が、45〜65℃である、水/ガス/電気の自家的供給システム。
【請求項8】
前記水素ガス生成部及び前記メタン生成部を加熱する加熱装置を更に備え、
前記加熱装置が、前記発電機又は前記燃料電池からの排熱を利用して前記水素ガス生成部及び前記メタン生成部を加熱する装置である、請求項に記載の水/ガス/電気の自家的供給システム。
【請求項9】
前記メタン生成部と前記メタンタンクとの間に配置される二酸化炭素除去装置、又は前記水素ガス生成部と前記水素ガスタンクとの間に配置される二酸化炭素除去装置を更に備える、請求項又はに記載の水/ガス/電気の自家的供給システム。
【請求項10】
前記メタン生成部と前記メタンタンクとの間に配置される脱硫装置、又は前記水素ガス生成部と前記水素ガスタンクとの間に配置される脱硫装置を更に備える、請求項のいずれか一項に記載の水/ガス/電気の自家的供給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオリアクター、それを用いたメタン生成方法及び水素ガス生成方法、並びに水/ガス/電気の自家的供給システム(Self−generating water/gas/electricity supply system)に関する。
【背景技術】
【0002】
南西日本の太平洋側は、「付加帯」という地形からなる。付加帯は地下10km以上にもおよぶ厚い堆積層からなる。この堆積層は、プレートテクトニクスによって海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む際に、海洋プレート上の海底堆積物がはぎ取られて大陸プレートに付加して形成されたものである。付加帯の堆積層は、白亜紀(1億4000万年前〜6500万年前)又は第三紀(6500万年前〜250万年前)の太古の海底堆積物に由来する(図10及び図11参照)。さらに、付加帯は海洋プレートが大陸プレートに沈み込む際にできる海溝と平行して分布していることから、東海・東南海・南海地震といった大地震の災害想定区域に指定されている。
【0003】
付加帯の深部帯水層には大量のメタンが溶存していることが知られている。このメタンは、堆積層中の有機物を分解して水素ガスと二酸化炭素を生成する水素生成型発酵細菌と、水素ガス及び二酸化炭素からメタンを生成する水素資化性メタン生成菌からなる“微生物共生システム”によって、短時間で生成されることが知られている(非特許文献1)。
【0004】
一方、従来、下水処理施設の活性汚泥、家畜の糞尿、生ゴミ、及び廃材等をバイオマスとして利用する、微生物によるメタン/水素ガス生成システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−130511号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】The ISME Journal,2010年,4巻,pp.531−541
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のメタン/水素ガス生成システムは、発電機及び燃料電池と直結させることにより、ガスと電気を自家的に生成できる。しかしながら、水、ガス及び電気の3つのインフラを同時に供給することは不可能である。このため、特許文献1に記載のメタン/水素ガス生成システムは、災害時の緊急ステーションとして十分な機能を果たすことはできない。
【0008】
天然の資源である付加帯の深部帯水層の地下水、及びこれに含まれる“微生物共生システム”を効率よく利用することのできるシステムはこれまで知られていなかった。
【0009】
そこで、本発明は、付加帯の深部地下水を効率よく利用することのできるバイオリアクターを提供することを目的とする。本発明はまた、上記バイオリアクターを用いたメタン生成方法、及び水素ガス生成方法を提供することも目的とする。さらに、本発明は、上記バイオリアクター、及び付加帯の深部地下水を利用して、地下水、ガス及び電気の3つのインフラを同時にかつ自家的に供給できる水/ガス/電気の自家的供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、付加帯の深部地下水中で上記“微生物共生システム”によるメタン生成及び水素ガス生成が極めて短時間で行われ得ることに加え、付加帯の深部地下水は、溶存酸素濃度が極めて低いことを今般新たに見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0011】
すなわち、本発明は、リアクタータンクと、該リアクタータンクに開閉自在のバルブを介して接続された不活性ガス供給装置と、上記リアクタータンク及び上記不活性ガス供給装置に開閉自在のバルブを介して接続されると共に第1のガス回収装置に接続された反応液貯蔵タンクと、上記リアクタータンク及び上記不活性ガス供給装置に開閉自在のバルブを介して接続され、基質液供給部を有する基質液貯蔵タンクと、上記リアクタータンクに接続された第2のガス回収装置と、を備える、密閉型のバイオリアクターを提供する。
【0012】
上記バイオリアクターは、不活性ガス供給装置によりリアクタータンク、反応液貯蔵タンク及び基質液貯蔵タンクの内部のガスを不活性ガスで置換することが可能である。また、上記バイオリアクターは、不活性ガス供給装置の動作により、リアクタータンク、反応液貯蔵タンク及び基質液貯蔵タンクの内部圧力を制御することが可能であるため、密閉したまま、リアクター内の圧力差によって反応液及び基質液をリアクタータンクへと供給及び撹拌することが可能となっている。このため、従来のバイオリアクターでは酸素が消費された後に嫌気的微生物発酵が生じるのに対し、上記バイオリアクターではバイオリアクター内に酸素がほとんど存在しないため、直ちに嫌気的微生物発酵が生じる。したがって、高い発酵効率を達成することができる。また上記バイオリアクターは、上記反応液貯蔵タンクが上記第1のガス回収装置に接続されているため、反応液に含まれるガスを上記第1のガス回収装置により回収することができる。例えば、反応液として付加帯の深部地下水を用いたとき、付加帯の深部地下水に溶存しているメタンを上記第1のガス回収装置により回収することができる。
【0013】
上記バイオリアクターは、上記反応液貯蔵タンクが上記リアクタータンクの底部に接続されており、かつ上記基質液貯蔵タンクが上記リアクタータンクの側面上部に接続されているものであってもよい。このような構成を有することにより、撹拌することなく、反応液及び基質液の供給と同時に、反応液及び基質液をリアクタータンク底部で効率よく混合することができる。
【0014】
上記バイオリアクターは、上記リアクタータンクを加熱する加熱装置を更に備えていてもよい。リアクタータンクを加熱することにより、発酵効率をより一層高めることが可能となる。
【0015】
上記バイオリアクターは上述のような構成を備えているため、反応液が付加帯の深部地下水であり、かつ基質液が有機物を含む溶液であることが好ましい。本発明における「付加帯の深部地下水」は、付加帯の地下100m以深の帯水層に由来する溶存酸素濃度が検出限界以下の嫌気的な地下水であればよく、付加帯の地下1,000m以深の帯水層に由来する嫌気的な地下水であることが好ましい。なお、「地下100m」等とは、鉛直方向に向かう地表面からの距離を意味する。また、「付加帯」とは、海洋プレートが海溝で大陸プレートの下に沈み込む際に、海洋プレートの上の堆積物がはぎ取られ、大陸プレートに付加して形成される堆積層である。「付加帯」は上記条件を満たす堆積層であればよく、西日本の付加帯に限定されるものではない。
【0016】
本発明はまた、上記バイオリアクターを用いるメタン生成方法であって、上記不活性ガス供給装置により上記リアクタータンクの内部に不活性ガスを供給し、上記リアクタータンクの内部のガスを不活性ガスで置換するステップと、上記不活性ガス供給装置により上記反応液貯蔵タンクの内部に不活性ガスを供給し、上記反応液貯蔵タンクの内部の圧力を上記リアクタータンクの内部の圧力よりも高くするステップと、上記不活性ガス供給装置により上記基質液貯蔵タンクの内部に不活性ガスを供給し、上記基質液貯蔵タンクの内部の圧力を上記リアクタータンクの内部の圧力よりも高くするステップと、上記基質液貯蔵タンクを上記リアクタータンクと接続し、圧力差を利用して、上記基質液貯蔵タンクから上記リアクタータンクの内部に嫌気的に基質液を供給するステップと、上記反応液貯蔵タンクを上記リアクタータンクと接続し、圧力差を利用して、上記反応液貯蔵タンクから上記リアクタータンクの内部に嫌気的に反応液を供給するステップと、上記リアクタータンクの内部で、上記基質液に含まれる基質を上記反応液に含まれる微生物により発酵させてメタンを生成するステップと、を備え、上記基質液が、有機物を含み、上記反応液が、微生物として水素生成型発酵細菌及び水素資化性メタン生成菌を含み、かつ塩濃度が1.5%(w/v)以下、溶存酸素濃度が0.01%(w/v)未満、硫酸イオン濃度が5.0mg/L以下、硫化物イオン濃度が0.01mg/L未満、ヨウ素イオン濃度が5.0mg/L以下、及び上記微生物の細胞数が10〜10cells/mLである、メタン生成方法を提供する。
【0017】
本発明はさらに、上記バイオリアクターを用いる水素ガス生成方法であって、上記不活性ガス供給装置により上記リアクタータンクの内部に不活性ガスを供給し、上記リアクタータンクの内部のガスを不活性ガスで置換するステップと、上記不活性ガス供給装置により上記反応液貯蔵タンクの内部に不活性ガスを供給し、上記反応液貯蔵タンクの内部の圧力を上記リアクタータンクの内部の圧力よりも高くするステップと、上記不活性ガス供給装置により上記基質液貯蔵タンクの内部に不活性ガスを供給し、上記基質液貯蔵タンクの内部の圧力を上記リアクタータンクの内部の圧力よりも高くするステップと、上記基質液貯蔵タンクを上記リアクタータンクと接続し、圧力差を利用して、上記基質液貯蔵タンクから上記リアクタータンクの内部に嫌気的に基質液を供給するステップと、上記反応液貯蔵タンクを上記リアクタータンクと接続し、圧力差を利用して、上記反応液貯蔵タンクから上記リアクタータンクの内部に嫌気的に反応液を供給するステップと、上記リアクタータンクの内部で、上記基質液に含まれる基質を上記反応液に含まれる微生物により発酵させて水素ガスを生成するステップと、を備え、上記基質液が、有機物及び水素資化性メタン生成菌阻害剤を含み、上記反応液が、微生物として水素生成型発酵細菌及び水素資化性メタン生成菌を含み、かつ塩濃度が1.5%(w/v)以下、溶存酸素濃度が0.01%(w/v)未満、硫酸イオン濃度が5.0mg/L以下、硫化物イオン濃度が0.01mg/L未満、ヨウ素イオン濃度が5.0mg/L以下、及び上記微生物の細胞数が10〜10cells/mLである、水素ガス生成方法を提供する。
【0018】
上記メタン生成方法及び上記水素ガス生成方法では、本発明のバイオリアクターを用いているため、嫌気的微生物発酵及び嫌気的微生物メタン生成が直ちに生じる。したがって、メタン及び水素ガスを効率よく生成することが可能である。また、反応液の上記組成は、付加帯の深部地下水の組成に近似しているため、ヨウ素による微生物の増殖阻害が抑制され、硫酸還元菌の増殖が抑制される。このため硫酸還元菌による硫化水素の発生が抑制され、また水素生成型発酵細菌と硫酸還元菌とによる有機物の競合が起こりにくいという利点がある。
【0019】
上記メタン生成方法及び上記水素ガス生成方法においては、上記反応液が、付加帯の深部地下水であることが好ましい。
【0020】
付加帯の深部地下水中に含まれる微生物は好熱性のものが多く、いずれも30℃〜65℃の高温培養が可能である。このため、高温培養することで、地表付近で混入した雑菌等の増殖を抑制することができる。また、深部地下圏における地下水の流動は非常に遅く、このような環境に適応した微生物であるため、ガス生成の際にリアクター内を撹拌させる必要がない。さらに、深部地下環境は季節変動がほとんどないため、大深度掘削井戸から年間を通じて安定的に地下水とそこに含まれる微生物を入手することが可能である。
【0021】
本発明は、上記バイオリアクターから構成されるメタン生成部と、上記バイオリアクターから構成される水素ガス生成部と、上記メタン生成部と接続された、大深度掘削井戸から付加帯の深部地下水を汲み上げるポンプと、上記メタン生成部に接続されたメタンタンクと、上記水素ガス生成部に接続された水素ガスタンクと、上記メタンタンクに接続されたガスエンジンを有する発電機と、上記水素ガスタンクに接続された燃料電池と、を備える、水/ガス/電気の自家的供給システムをも提供する。
【0022】
本発明の水/ガス/電気の自家的供給システムは、上記構成を備えるため、水、ガス及び電気の3つのインフラを同時にかつ自家的に供給することができる。すなわち、外部からの水、ガス及び電気の供給がなくても自立的にこれらを供給することが可能となる。
【0023】
上記水/ガス/電気の自家的供給システムは、上記水素ガス生成部及び上記メタン生成部を加熱する加熱装置を更に備え、上記加熱装置が、上記発電機(特に、ガスエンジン)又は上記燃料電池からの排熱を利用して上記水素ガス生成部及び上記メタン生成部を加熱する装置であることが好ましい。
【0024】
上記加熱装置は、発電機(特に、ガスエンジン)及び燃料電池からの排熱を奪い、発電機(特に、ガスエンジン)及び燃料電池を冷却するとともに、奪った排熱を利用して水素ガス生成部及びメタン生成部を加熱するものである。このような加熱装置を備えることにより、より一層水素ガス生成及びメタン生成効率が向上し、水/ガス/電気の自家的供給システム全体の効率が向上する。
【0025】
上記水/ガス/電気の自家的供給システムは、上記メタン生成部と上記メタンタンクとの間に配置される二酸化炭素除去装置、又は上記水素ガス生成部と上記水素ガスタンクとの間に配置される二酸化炭素除去装置を更に備えることが好ましい。
【0026】
二酸化炭素を除去することにより、生成ガスに含まれるメタン分圧又は水素ガス分圧を高めることが可能となる。これにより、ガスエンジンと発電機又は燃料電池による発電効率をより一層高めることが可能である。
【0027】
上記水/ガス/電気の自家的供給システムは、上記メタン生成部と上記メタンタンクとの間に配置される脱硫装置(硫化水素除去装置)、又は上記水素ガス生成部と上記水素ガスタンクとの間に配置される脱硫装置を更に備えることが好ましい。
【0028】
硫化水素を除去することにより、生成ガスに含まれるメタン分圧又は水素ガス分圧を高めることが可能となる。これにより、ガスエンジン及び燃料電池の腐食を防ぐことが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、付加帯の深部地下水を効率よく利用することのできるバイオリアクターを提供することができる。また本発明によれば、上記バイオリアクターを用いたメタン生成方法、及び水素ガス生成方法を提供することができる。さらに、本発明によれば、上記バイオリアクター、及び付加帯の深部地下水を利用して、地下水、ガス及び電気の3つのインフラを同時にかつ自家的に供給できる水/ガス/電気の自家的供給システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】一実施形態に係るバイオリアクターの模式図である。
図2】一実施形態に係るバイオリアクターの模式図である。
図3】一実施形態に係る水/ガス/電気の自家的供給システムの模式図である。
図4】一実施形態に係る水/ガス/電気の自家的供給システムの模式図である。
図5】付加帯の深部地下水を用いたメタン生成を示すグラフである。
図6】付加帯の深部地下水を用いた水素ガス生成を示すグラフである。
図7】一実施形態に係るリアクタータンク(中型嫌気培養槽)の斜視図である。
図8】付加帯の深部地下水を用いたメタン生成を示すグラフである。
図9】付加帯の深部地下水を用いた水素ガス生成を示すグラフである。
図10】付加帯の形成メカニズムを説明する図である。
図11】南西日本の付加帯の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0032】
〔バイオリアクター〕
図1は、本実施形態に係るバイオリアクターの模式図である。図1に示すバイオリアクター200は、リアクタータンク20と、リアクタータンク20に開閉自在のバルブ31を介して接続された不活性ガス供給装置30と、リアクタータンク20及び不活性ガス供給装置30に開閉自在のバルブ15、23及び31を介して接続されると共にガス回収装置18に接続された反応液貯蔵タンク10と、リアクタータンク20及び不活性ガス供給装置30に開閉自在のバルブ31及び55を介して接続され、基質液供給部53を有する基質液貯蔵タンク50と、リアクタータンク20に接続されたガス回収装置40と、を備える。
【0033】
リアクタータンク20の内部で微生物による発酵が行われる。リアクタータンク20を形成する材料としては、バイオリアクターに通常用いられる材料を好適に用いることができる。発酵の際にリアクタータンク20の内部に0.1〜0.25MPa程度の圧力をかける場合は、リアクタータンク20はこの圧力に耐えられる材料で形成されていることが好ましい。このような材料としては、例えば、ステンレスが挙げられる。
【0034】
反応液貯蔵タンク10及び基質液貯蔵タンク50は、それぞれ微生物を含む反応液及び当該微生物の発酵基質となる基質液(基質溶液)を貯蔵するタンクである。反応液貯蔵タンク10及び基質液貯蔵タンク50を形成する材料としては、通常用いられる材料であれば特に限定されるものではないが、タンク内部に0.5MPa程度の圧力をかけたときに耐えられる材料であることが好ましい。具体的には、リアクタータンク20を形成する材料として例示したものが挙げられる。
【0035】
不活性ガス供給装置30は、バイオリアクター200の系内の雰囲気を嫌気的にするため、並びに反応液貯蔵タンク10及び基質液貯蔵タンク50の内部の圧力を高めるために用いられる。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス及びヘリウムガスが挙げられる。不活性ガスはこれらの1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。不活性ガス供給装置30に含まれる不活性ガスの圧力に特に制限はないが、例えば、10〜15MPaとすることができる。
【0036】
本実施形態に係るバイオリアクター200は、反応液貯蔵タンク10がリアクタータンク20の底部と接続されており、かつ基質液貯蔵タンク50がリアクタータンク20の側面上部に接続されている。しかしながら、本発明のバイオリアクターは、このような態様に限定されるものではない。図2は他の実施形態に係るバイオリアクターの模式図である。図2に示すバイオリアクター210は、反応液貯蔵タンク10及び基質液貯蔵タンク50がいずれもリアクタータンク20の側面上部に接続されている。また、反応液貯蔵タンク及び基質液貯蔵タンクの少なくとも一方がリアクタータンクの頂部に接続されていてもよい。
【0037】
〔バイオリアクターの動作方法〕
次に、バイオリアクター200を例にとり、その動作方法について説明する。なお、図2に示すバイオリアクター210も同様の動作方法である。
(i)三方コック22を切り替えて、不活性ガス供給装置30によりリアクタータンク20の内部に不活性ガスを供給する。バルブ23、24及び55は閉じられている。このとき、バルブ21を開放し、バルブ21を介してリアクタータンク20内部のガスを排出し、リアクタータンク20内部を不活性ガスで置換する。不活性ガスで置換後、バルブ21を閉じ、かつ三方コック22を切り替えることによってリアクタータンク20を閉鎖系にする。このときのリアクタータンク20内部の圧力は、通常、大気圧(0.1MPa)程度である。
【0038】
(ii)反応液貯蔵タンク10の反応液供給部(図示せず)から、反応液貯蔵タンク10の内部に反応液を注入する。バルブ15は閉じられている。このとき、加圧ポンプ16により反応液貯蔵タンク10の内部を引圧にし、反応液に含まれる溶存ガスをガス回収装置18に回収してもよい。次に、三方コック12を切り替えて、不活性ガス供給装置30により反応液貯蔵タンク10の内部に不活性ガスを供給し、反応液をバブリングする。このとき、バルブ11を開放し、反応液貯蔵タンク10内部を不活性ガスで置換する。反応液に溶存しているガスもバブリングにより不活性ガスで置換される。次に、バルブ11を閉じ、更に不活性ガスを供給することにより、反応液貯蔵タンク10の内部の圧力をリアクタータンク20の内部の圧力よりも高くする。その後、三方コック12を切り替え、反応液貯蔵タンク10を閉鎖系にする。このときの反応液貯蔵タンク10内部の圧力は、通常0.1MPaを超え、0.5MPa程度以下である。
【0039】
(iii)基質液貯蔵タンク50の基質液供給部53から、基質液貯蔵タンク50の内部に基質液を注入する。バルブ55は閉じられている。三方コック52を切り替えて、不活性ガス供給装置30により基質液貯蔵タンク50の内部に不活性ガスを供給し、基質液をバブリングする。このとき、バルブ51を開放し、基質液貯蔵タンク50内部を不活性ガスで置換する。基質液に溶存しているガスもバブリングにより不活性ガスで置換される。次に、バルブ51を閉じ、更に不活性ガスを供給することにより、基質液貯蔵タンク50の内部の圧力をリアクタータンク20の内部の圧力よりも高くする。その後、三方コック52を切り替え、基質液貯蔵タンク50を閉鎖系にする。このときの基質液貯蔵タンク50内部の圧力は、通常0.1MPaを超え、0.5MPa程度以下である。
【0040】
上記(i)、(ii)及び(iii)の操作は、任意の順序で行うことができる。(i)、(ii)及び(iii)の操作のうち2以上の操作を同時に行ってもよい。
【0041】
(iv)バルブ55を開放し、基質液貯蔵タンク50をリアクタータンク20と接続する。基質液貯蔵タンク50とリアクタータンク20との圧力差により、基質液貯蔵タンク50からリアクタータンク20の内部に基質液が供給される。外部から閉鎖されているため、この基質液の供給は嫌気的に行われる。
【0042】
(v)バルブ15及び23を開放し、反応液貯蔵タンク10をリアクタータンク20と接続する。反応液貯蔵タンク10とリアクタータンク20との圧力差により、反応液貯蔵タンク10から、流路60を通って、リアクタータンク20の内部に反応液が供給される。外部から閉鎖されているため、この反応液の供給は嫌気的に行われる。
【0043】
上記(iv)及び(v)の操作は、任意の順序で行うことができる。(iv)及び(v)の操作を同時に行ってもよい。好ましくは、(iv)の操作の後に(v)の操作を行う。このように圧力差を利用して反応液及び基質液をリアクタータンク20に供給することにより、リアクタータンク20内でこれらが自発的に混合される。したがって、撹拌装置等が不要となり、バイオリアクター200の構造を単純化することができ、コンタミネーションのリスク低減、及び低コスト化が可能となる。
【0044】
(vi)次いで、バルブ21、23、24及び55を閉じた状態で、嫌気的に微生物による発酵を行う。通常のバイオリアクターでは、この段階では溶存酸素等の影響があるため、直ちには嫌気的な発酵が始まらないが、本実施形態に係るバイオリアクター200は、上記のとおり作動するものであるため、直ぐに嫌気的な発酵を開始することができる。したがって、発酵効率が極めて高い。
【0045】
発酵により生成したガス(以下「生成ガス」ともいう。)は、ガス回収装置40によりリアクタータンク20から回収される。回収された生成ガスは、ガス回収装置40に他の機器を接続しておき、直接その機器に供給してもよい。また、ガス回収装置40をガス貯蔵用タンクとしておき、当該ガス貯蔵用タンクに貯蔵してもよい。
【0046】
バルブの開閉、三方コックの切り替え、及びバルブの開閉のタイミング制御等は手動で行ってもよいし、コンピュータープログラム等により自動で行ってもよい。
【0047】
本実施形態に係るバイオリアクターは、リアクタータンク20の加熱装置を更に備えていてもよい。加熱装置としては、反応液及び基質液の混合液の温度を制御できるものであれば任意のものを用いることができる。例えば、電熱コイル又はリアクタータンク20の外部に熱媒体(例えば、水等)を含むパイプ等を巻きつけるものであってもよい。
【0048】
本実施形態に係るバイオリアクターは、嫌気的な微生物発酵、特に付加帯の深部地下水を反応液として用いる嫌気的な微生物発酵、に適している。したがって、本実施形態に係るバイオリアクターは、嫌気的微生物発酵用バイオリアクター、又は付加帯の深部地下水用バイオリアクターとして好適に使用することができる。
【0049】
〔メタン生成方法〕
次に、本実施形態に係るメタン生成方法を、図1に示すバイオリアクター200を参照しながら説明する。
【0050】
本実施形態に係るメタン生成方法は、
(a)不活性ガス供給装置30によりリアクタータンク20の内部に不活性ガスを供給し、リアクタータンク20の内部のガスを不活性ガスで置換するステップと、
(b)不活性ガス供給装置30により反応液貯蔵タンク10の内部に不活性ガスを供給し、反応液貯蔵タンク10の内部の圧力をリアクタータンク20の内部の圧力よりも高くするステップと、
(c)不活性ガス供給装置30により基質液貯蔵タンク50の内部に不活性ガスを供給し、基質液貯蔵タンク50の内部の圧力をリアクタータンク20の内部の圧力よりも高くするステップと、
(d)基質液貯蔵タンク50をリアクタータンク20と接続し、圧力差を利用して、基質液貯蔵タンク50からリアクタータンク20の内部に嫌気的に基質液を供給するステップと、
(e)反応液貯蔵タンク10をリアクタータンク20と接続し、圧力差を利用して、反応液貯蔵タンク10からリアクタータンク20の内部に嫌気的に反応液を供給するステップと、
(f)リアクタータンク20の内部で、基質液に含まれる有機物を反応液に含まれる微生物により発酵させてメタンを生成するステップと、を備える。
【0051】
反応液は、微生物として水素生成型発酵細菌及び水素資化性メタン生成菌を含む。水素生成型発酵細菌は、有機物を嫌気的に分解し水素ガス(H)を生成する細菌である。水素資化性メタン生成菌は、水素ガス(H)と二酸化炭素(CO)からメタンを生成する細菌である。反応液に水素生成型発酵細菌及び水素資化性メタン生成菌が含まれているため、基質液に含まれる有機物を水素生成型発酵細菌が嫌気的に分解することにより生成する水素ガスと二酸化炭素とを用いて水素資化性メタン生成菌がメタンを生成する。
【0052】
水素生成型発酵細菌としては、有機物を嫌気的に分解し水素ガスを生成する細菌であれば、特に制限なく用いることができる。水素資化性メタン生成菌としては、水素ガス(H)と二酸化炭素(CO)からメタンを生成する細菌であれば、特に制限なく用いることができる。高温(例えば、30〜65℃)及び高圧(例えば、0.1〜15MPa)で嫌気的発酵が可能であることから、水素生成型発酵細菌及び水素資化性メタン生成菌としては、それぞれ付加帯の深部地下水に含まれる細菌が好ましい。高温で嫌気的発酵を行うことにより、雑菌の増殖を抑制することができる。
【0053】
反応液は、塩濃度が1.5%(w/v)以下、溶存酸素濃度が0.01%(w/v)未満、硫酸イオン濃度が5.0mg/L以下、硫化物イオン濃度が0.01mg/L未満、ヨウ素イオン濃度が5.0mg/L以下、及び上記微生物の細胞数が10〜10cells/mLとの条件を満たすものである。反応液の上記組成は、付加帯の深部地下水の組成に近似しているため、ヨウ素による微生物の増殖阻害が抑制され、硫酸還元菌の増殖が抑制される。このため硫酸還元菌による硫化水素の発生が抑制され、また水素生成型発酵細菌と硫酸還元菌とによる有機物の競合が起こりにくいという利点がある。
【0054】
反応液の塩濃度は、1.5%(w/v)以下であることが好ましく、1.3%(w/v)以下であることがより好ましく、1.2%(w/v)以下であることが更に好ましく、1.1%(w/v)以下であることが更により好ましい。
【0055】
反応液の溶存酸素濃度は、0%(w/v)、すなわち検出下限以下であることがより好ましい。
【0056】
反応液の硫酸イオン濃度は、4.5mg/L以下であることが好ましく、4.0mg/L以下であることがより好ましい。
【0057】
反応液の硫化物イオン濃度は、0mg/L、すなわち検出下限以下であることがより好ましい。
【0058】
反応液のヨウ素イオン濃度は、4.0mg/L以下であることが好ましく、3.0mg/L以下であることがより好ましく、2.0mg/L以下であることが更に好ましい。
【0059】
反応液に含まれる微生物の細胞数(細胞密度)は、10〜10cells/mLであることが好ましく、10〜10cells/mLであることがより好ましい。微生物の細胞数とは、リアクタータンクに供給する際の反応液に含まれる水素生成型発酵細菌及び水素資化性メタン生成菌の合計細胞数である。
【0060】
本実施形態に係るメタン生成方法に用いられる反応液としては、上述の諸条件を満たすものであれば、特に制限されないが、付加帯の深部地下水であることが好ましい。付加帯の深部地下水では、水素生成型発酵細菌及び水素資化性メタン生成菌を含む微生物共生システムが構成されており、かつ付加帯の深部地下水の組成は、上述の反応液組成の条件を満たす。微生物共生システムは、50℃以上の温度で生育することが可能である。また、付加帯の深部地下水は、季節変動及び天候による影響がないため、安定供給が可能である。
【0061】
付加帯の深部地下水に含まれる水素生成型発酵細菌及び水素資化性メタン生成菌としては、これに限定されるものではないが、例えば、Clostridium thermocellum、Thermodesulfovibrio yellowstonii、Desulfotomaculum salinum、Desulfotomaculum ruminis、Desulfotomaculum putei、Thermotoga lettingae、Moorella thermoacetica、Syntrophus gentianae、Prolixibacter bellariivorans、Olsenella uli、Syntrophothermus lipocalidus、Brumimicrobium mesophilum、Methanobacterium aarhusense、Methanobacterium alcaliphilum、Methanothermobactor therautotrophicus、が挙げられる。
【0062】
基質液には、微生物の炭素源となる有機物が含まれる。有機物としては、水素生成型発酵細菌及び水素資化性メタン生成菌により利用されるものであれば特に制限されない。具体的には、例えば、グルコース、ペプトン及び酵母エキス、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0063】
有機物として、米、芋類及び麦類等の穀類を粉末化した穀類粉も好適に用いることができる。特に、輸入事故米及び汚染米等の食品として利用できない米を使用すれば、バイオマスの有効利用につながる。さらに、食料需給と競合しないセルロース系バイオマスも好適に利用できる。
【0064】
本実施形態に係るメタン生成方法(a)〜(e)の各ステップにおける具体的操作は、上記〔バイオリアクターの動作方法〕欄で説明したとおりである。
【0065】
(f)ステップでは、リアクタータンク20の内部で、基質液に含まれる有機物を反応液に含まれる微生物により発酵させてメタンを生成する。発酵の際の具体的な条件は、これに限定されるものではないが、例えば、以下のように設定することができる。
反応圧力:0.1MPa(大気圧)〜0.25MPa
反応温度:30℃〜65℃
反応時間:1日〜35日
【0066】
反応液として付加帯の深部地下水を用いる場合、付加帯の深部地下水には通常10〜20MPa程度の圧力がかかっているため、反応圧力をより高く設定することが好ましい。また、付加帯の深部地下水は通常高温(例えば、〜100℃)であるため、より高い反応温度に設定するのが好ましい。具体的には、例えば、30〜65℃とすることができる。このように高温で反応することにより、雑菌の増殖を抑制することができる。
【0067】
本発明のバイオリアクターは、もともとリアクタータンクに反応液(又は基質液)を注入する際に、反応液と基質液が混合する設計になっているため、反応時に撹拌は不要である。また、付加帯の深部地下水を反応液として用いる場合、付加帯の深部地下水は通常流動が非常に遅いため、撹拌しなくても、効率よくメタン生成が可能である。
【0068】
本実施形態では、反応液と基質液を別途用意して混合する形態について述べたが、反応液中に基質となる有機物を予め添加した混合液を用意し、当該混合液をリアクタータンク20内部に供給してメタン生成を行ってもよい。
【0069】
〔水素ガス生成方法〕
次に、本実施形態に係る水素ガス生成方法を、図1に示すバイオリアクター200を参照しながら説明する。
【0070】
本実施形態に係る水素ガス生成方法は、
(a’)不活性ガス供給装置30によりリアクタータンク20の内部に不活性ガスを供給し、リアクタータンク20の内部のガスを不活性ガスで置換するステップと、
(b’)不活性ガス供給装置30により反応液貯蔵タンク10の内部に不活性ガスを供給し、反応液貯蔵タンク10の内部の圧力をリアクタータンク20の内部の圧力よりも高くするステップと、
(c’)不活性ガス供給装置により基質液貯蔵タンク50の内部に不活性ガスを供給し、基質液貯蔵タンク50の内部の圧力をリアクタータンク20の内部の圧力よりも高くするステップと、
(d’)基質液貯蔵タンク50をリアクタータンク20と接続し、圧力差を利用して、基質液貯蔵タンク50からリアクタータンク20の内部に嫌気的に基質液を供給するステップと、
(e’)反応液貯蔵タンク10をリアクタータンク20と接続し、圧力差を利用して、反応液貯蔵タンク10からリアクタータンク20の内部に嫌気的に反応液を供給するステップと、
(f’)リアクタータンク20の内部で、基質液に含まれる基質を反応液に含まれる微生物により発酵させて水素ガスを生成するステップと、を備える。
【0071】
本実施形態に係る水素ガス生成方法は、基質液に有機物に加えて水素資化性メタン生成菌阻害剤が含まれる点を除いて、上記メタン生成方法と同様の方法により行うことができる。
【0072】
本実施形態に係る水素ガス生成方法では、反応液に水素生成型発酵細菌及び水素資化性メタン生成菌が含まれており、基質液に含まれる有機物を水素生成型発酵細菌が嫌気的に分解することにより水素ガスが生成する。また、基質液に水素資化性メタン生成菌阻害剤が含まれるため、水素資化性メタン生成菌によるメタン生成が阻害されるため、水素ガスが最終生成物として得られる。
【0073】
水素資化性メタン生成菌阻害剤としては、本技術分野で通常用いられているものを好適に用いることができる。具体的には、例えば、クロロホルム、2−ブロモエタンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
【0074】
本実施形態に係る水素ガス生成方法では、水素資化性メタン生成菌阻害剤を用いているため、水素生成型発酵細菌及び水素資化性メタン生成菌を分離する必要がない。しかしながら、水素生成型発酵細菌のみが含まれる反応液(すなわち、水素資化性メタン生成菌を含まない)を調製し、上記〔メタン生成方法〕で記載したものと同じ基質液を用いて水素ガス生成を行うこともできる。
【0075】
すなわち、他の実施形態に係る水素ガス生成方法として、
上記バイオリアクターを用いる水素ガス生成方法であって、
不活性ガス供給装置30によりリアクタータンク20の内部に不活性ガスを供給し、リアクタータンク20の内部のガスを不活性ガスで置換するステップと、
不活性ガス供給装置30により反応液貯蔵タンク10の内部に不活性ガスを供給し、反応液貯蔵タンク10の内部の圧力をリアクタータンク20の内部の圧力よりも高くするステップと、
不活性ガス供給装置30により基質液貯蔵タンク50の内部に不活性ガスを供給し、基質液貯蔵タンク50の内部の圧力をリアクタータンク20の内部の圧力よりも高くするステップと、
基質液貯蔵タンク50をリアクタータンク20と接続し、圧力差を利用して、基質液貯蔵タンク50からリアクタータンク20の内部に嫌気的に基質液を供給するステップと、
反応液貯蔵タンク10をリアクタータンク20と接続し、圧力差を利用して、反応液貯蔵タンク50からリアクタータンク20の内部に嫌気的に反応液を供給するステップと、
リアクタータンク20の内部で、基質液に含まれる基質を反応液に含まれる微生物により発酵させて水素ガスを生成するステップと、を備え、
基質液が、有機物を含み、
反応液が、微生物として水素生成型発酵細菌を含み、かつ塩濃度が1.5%以下、溶存酸素濃度が0.01%未満、硫酸イオン濃度が5.0mg/L以下、硫化物イオン濃度が0.01mg/L未満、ヨウ素イオン濃度が5.0mg/L以下、及び微生物の細胞数が10〜10cells/mLである、水素ガス生成方法とすることもできる。
【0076】
〔水/ガス/電気の自家的供給システム〕
本発明の水/ガス/電気の自家的供給システムは、上記バイオリアクターから構成されるメタン生成部と、上記バイオリアクターから構成される水素ガス生成部と、メタン生成部と接続された、大深度掘削井戸から付加帯の深部地下水を汲み上げるポンプと、メタン生成部に接続されたメタンタンクと、水素ガス生成部に接続された水素ガスタンクと、メタンタンクに接続されたガスエンジンを有する発電機と、水素ガスタンクに接続された燃料電池と、を少なくとも備える。
【0077】
図3は、一実施形態に係る水/ガス/電気の自家的供給システムを示す模式図である。図3に示す水/ガス/電気の自家的供給システム1000は、大深度掘削井戸から付加帯の深部地下水を汲み上げるポンプ600と、ポンプ600と接続されたメタン分離槽120並びにメタン分離槽120と開閉自在のバルブ15及び23を介して接続されたメタン生成槽130を有するメタン生成部と、メタン生成槽130並びにメタン生成槽130と開閉自在のバルブ24及び28を介して接続された水素ガス生成槽140を有する水素ガス生成部と、を少なくとも有する。
【0078】
メタン生成部は、メタン分離槽120が上記バイオリアクターの反応液貯蔵タンク10に相当し、メタン生成槽130が上記バイオリアクターのリアクタータンク20に相当する。メタン生成槽130は、基質液貯蔵タンク50と開閉自在のバルブを介して接続されている。また、メタン分離槽120及びメタン生成槽130はメタンタンク40(上記バイオリアクターのガス回収装置40に相当する)と接続されている。メタン生成部では、メタン分離槽において付加帯の深部地下水に含まれるメタンを分離しメタンタンク40に回収するとともに、メタン生成槽130で生成させたメタンを同様にメタンタンク40に回収する。
【0079】
水素ガス生成部は、メタン生成槽130が上記バイオリアクターの反応液貯蔵タンク10に相当し、水素ガス生成槽140が上記バイオリアクターのリアクタータンク20に相当する。水素ガス生成槽140は、基質液貯蔵タンク50と開閉自在のバルブを介して接続されている。また、水素ガス生成槽140は水素ガスタンク41(上記バイオリアクターのガス回収装置40に相当する)と接続されている。水素ガス生成部では、水素ガス生成槽140で生成させた水素ガスを水素ガスタンク41に回収する。
【0080】
本実施形態に係る水/ガス/電気の自家的供給システム1000では、上述のとおり、メタン生成槽130が、上記バイオリアクターのリアクタータンク20及び反応液貯蔵タンク10を兼ねているが、これに限られるものではなく、それぞれ別個のものとして備えていてもよい。
【0081】
ポンプ600は、大深度掘削井戸に配置されており、付加帯の深部地下水を汲み上げる。汲み上げられた付加帯の深部地下水は、配管610を通して、バルブ620の開放とともにメタン分離槽120に送液される。メタン分離槽120では、付加帯の深部地下水に溶存しているメタンを分離してメタンタンク40に回収する。メタンの分離は、メタンタンク40とメタン分離槽120との間の加圧ポンプ(P)にてメタン分離槽120の内部を引圧にすることにより行う。分離できなかったメタンは、不活性ガス供給装置30から不活性ガスを供給し、付加帯の深部地下水をバブリングすることにより、メタン分離槽120上部のバルブから排出する。
【0082】
メタンを分離した付加帯の深部地下水は、続いて、上述のようにメタン分離槽120とメタン生成槽130の圧力差を利用して、メタン生成槽130に送液される。メタン生成槽130には、基質液貯蔵タンク50から有機物を含む基質液が供給される。基質液の供給によりメタン生成反応の効率が向上するが、必ずしも基質液の供給は必須ではなく、付加帯の深部地下水に含まれる有機物を発酵基質としてメタン発酵を行ってもよい。メタンを分離した付加帯の深部地下水と、基質液との供給順序は任意であるが、基質液をメタン生成槽130に供給した後にメタンを分離した付加帯の地下水をメタン生成槽130に送液することが好ましい。これにより、反応液と基質液を効率的に混合することができる。
【0083】
メタン生成後の反応液は、続いて、上述のようにメタン生成槽130と水素ガス生成槽140の圧力差を利用して、水素ガス生成槽140に送液される。水素ガス生成槽140には、基質液貯蔵タンク50から有機物及び水素資化性メタン生成菌阻害剤を含む基質液が供給される。有機物の供給により水素ガス生成反応の効率が向上するが、必ずしも有機物の供給は必須ではなく、メタン生成後の反応液に残存する有機物を発酵基質として水素ガス生成を行ってもよい。メタン生成後の反応液と、基質液との供給順序は任意であるが、基質液を水素ガス生成槽140に供給した後に反応液を水素ガス生成槽140へと送液することが好ましい。これにより、反応液と基質液を効率的に混合することができる。
【0084】
メタン分離槽120及びメタン生成槽130から排出されたメタンは、加圧ポンプ(P)を介してメタンタンク40に回収される。メタンタンク40は、ガスボンベ等とすることができる。回収されたメタンは、ガスコンロ、ガスストーブ、及び風呂釜等のガス燃料として用いることができる(図示せず)。また、ガスエンジン300の燃料とし、発電機310による発電に用いてもよい。
【0085】
水素ガス生成槽140から排出された水素ガスは、加圧ポンプ(P)を介して水素ガスタンク41に回収される。水素ガスタンク41は、ガスボンベ等とすることができる。回収された水素ガスは、燃料電池400に供給され、発電に用いられる。
【0086】
発電機310及び燃料電池400で発電された電気は、その一部がポンプ600、及び加圧ポンプ(P)の作動エネルギーとして用いられる(図3中、電気の流れを一点鎖線で示した。)。すなわち、水/ガス/電気の自家的供給システム1000は外部からの電源供給がなくても動作可能である。
【0087】
ガスエンジン300を有する発電機310、及び燃料電池400には、特に制限なく、通常用いられるガスエンジン及び発電機、並びに燃料電池を好適に利用できる。
【0088】
本実施形態に係る水/ガス/電気の自家的供給システム1000は、水素ガス生成部(特には、水素ガス生成槽140)及びメタン生成部(特には、メタン生成槽130)を加熱する加熱装置を更に備えていてもよい。付加帯の深部地下水はもともと高温であるため、これに含まれる水素生成型発酵細菌及び水素資化性メタン生成菌は好熱性である場合が多い。付加帯の深部地下水に含まれる水素生成型発酵細菌及び水素資化性メタン生成菌は、常温(例えば、25℃)でも水素ガス生成及びメタン生成が可能であるが、加熱により反応温度を高くすることでより効率よく水素ガス生成及びメタン生成を行うことが可能となる。反応温度としては30〜65℃が好適である。反応温度を高温にすることで、地上付近に存在する雑菌の増殖を抑えることも可能となる。
【0089】
加熱装置は、例えば、ラジエタ500及び520と、図3中破線及び点線で示した熱媒体の流路と、ファン510とを備えるものとすることができる。ラジエタ520から冷却した熱媒体を注入する。冷却した熱媒体の注入は任意であるが、これにより過熱しすぎた熱媒体を適切な温度に調整することができる。
【0090】
熱媒体は、水素ガス生成槽140及びメタン生成槽130を通過してラジエタ500に到達する。熱媒体の流路は、例えば、チューブ形状のものとし、水素ガス生成槽140及びメタン生成槽130の本体周囲に巻きつけるように配置することで効率よく水素ガス生成槽140及びメタン生成槽130を加熱することができる。
【0091】
続いて熱媒体は、ラジエタ500においてファン510により一定程度冷却される。冷却された熱媒体は、ガスエンジン300及び燃料電池400を通過し、これらからの排熱により加熱される。このとき、同時に、熱媒体によりガスエンジン300及び燃料電池400の冷却が行われる。図3中、破線で示した流路は比較的加熱された熱媒体が流れていることを示し、点線で示した流路は比較的冷却された熱媒体が流れていることを示している。熱媒体としては、比熱が高いことから水であることが好ましい。
【0092】
本実施形態に係る加熱装置は、上述のように、ガスエンジン300及び燃料電池400からの排熱を奪い、これらを冷却するとともに、この排熱を利用して水素ガス生成槽140及びメタン生成槽130を加温するものである。水素ガス生成槽140及びメタン生成槽130を加温することでより一層水素ガス生成及びメタン生成効率が向上することから、水/ガス/電気の自家的供給システム1000全体の効率が向上するという好ましい効果を奏する。
【0093】
本実施形態に係る水/ガス/電気の自家的供給システム1000は、二酸化炭素除去装置700を更に備えていてもよい。二酸化炭素除去装置700は、メタン生成部(特には、メタン生成槽130)とメタンタンク40との間に配置される場合と、水素ガス生成部(特には、水素ガス生成槽140)と水素ガスタンク41との間に配置される場合とがある。二酸化炭素除去装置700は、このいずれか一方のみに配置されていてもよく、双方に配置されていてもよい。
【0094】
メタン生成槽130から排出されるガスは、メタンと二酸化炭素を含む。二酸化炭素除去装置700により二酸化炭素を除去することによって、回収されるガスに含まれるメタンの分圧を高めることができる。二酸化炭素除去後のメタンの分圧には特に制限はないが、75モル%以上とすることが好ましく、80モル%以上とすることがより好ましい。これにより、ガスエンジン300及び発電機310での発電効率を高めることができる。
【0095】
また、水素ガス生成槽140から排出されるガスは、水素ガスと二酸化炭素を含む。二酸化炭素除去装置700により二酸化炭素を除去することによって、回収されるガスに含まれる水素ガスの分圧を高めることができる。二酸化炭素除去後の水素ガスの分圧には特に制限はないが、60モル%以上とすることが好ましい。これにより、燃料電池400での発電効率を高めることができる。
【0096】
二酸化炭素除去装置700は、生成したメタン(又は水素ガス)及び二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を選択的に除去するものである。二酸化炭素を除去する方法としては、特に限定されず、例えば、化学吸収法、物理吸収法、膜分離法、及び吸着剤による分離法を好適に用いることができる。
【0097】
化学吸収法は、二酸化炭素を選択的に溶解できるアルカリ性溶液(例えば、アミン及び炭酸カリ水溶液)を吸収液として利用し、二酸化炭素を化学反応によって吸収させる方法である。
【0098】
物理吸収法は、吸収液(例えば、メタノール及びポリエチレングリコール)を使用して、高圧及び低温下で物理的に二酸化炭素を吸収させる方法である。
【0099】
膜分離法は、膜(例えば、高分子膜及びセラミック膜)による、各気体の透過速度の違いを利用して、混合ガスから二酸化炭素を分離する方法である。
【0100】
吸着剤による分離法は、多孔質の吸着剤(例えば、ゼオライト及び活性炭)を用い、高い圧力下で吸着剤に二酸化炭素を吸着させる方法である。
【0101】
本実施形態に係る二酸化炭素除去装置は、より安価でかつ単純な装置になることから、化学吸収法を利用した装置が好ましい。
【0102】
本実施形態に係る水/ガス/電気の自家的供給システム1000は、脱硫装置710を更に備えていてもよい。脱硫装置710は、二酸化炭素除去装置700と同様、メタン生成部(特には、メタン生成槽130)とメタンタンク40との間に配置される場合と、水素ガス生成部(特には、水素ガス生成槽140)と水素ガスタンク41との間に配置される場合とがある。脱硫装置710は、このいずれか一方のみに配置されていてもよく、双方に配置されていてもよい。
【0103】
また、脱硫装置710と二酸化炭素除去装置700とを併用する場合は、脱硫装置710と二酸化炭素除去装置700との配置の順番は任意に設定することができるが、メタン生成部又は水素ガス生成部に近い方に脱硫装置710を配置することが好ましい。
【0104】
脱硫装置710は、培養(発酵)の過程で発生する可能性のある硫化水素を除去する装置である。硫化水素を除去することにより、ガスエンジン、燃料電池等の腐食を防ぐことができる。脱硫装置710としては、例えば、酸化鉄等を利用した装置が挙げられる。
【0105】
なお、図3の水/ガス/電気の自家的供給システム1000は、大深度掘削井戸に対してメタン生成部及び水素ガス生成部が直列に接続された態様を示すものであるが、本発明に係る水/ガス/電気の自家的供給システムは、この態様に限られるものではなく、例えば、大深度掘削井戸に対してメタン生成部及び水素ガス生成部が並列に接続されたものであってもよい。
【0106】
図4は、他の実施形態に係る水/ガス/電気の自家的供給システムの模式図である。図4に示す水/ガス/電気の自家的供給システム1000は、深度掘削井戸に対してメタン生成部及び水素ガス生成部が並列に接続されたものである。すなわち、図4に示す水/ガス/電気の自家的供給システム1000は、大深度掘削井戸から付加帯の深部地下水を汲み上げるポンプ600と、ポンプ600と開閉自在のバルブ620を介して接続された2つのメタン分離槽120を備える。一方のメタン分離槽120はメタン生成槽130と接続され、他方のメタン分離槽120は水素ガス生成槽140と接続されている。図4に示す水/ガス/電気の自家的供給システム1000は、メタン分離槽120、メタン生成槽130及び水素ガス生成槽140の配置が異なること以外は図3に示すものと同様の構成を有しており、その動作方法等も上述したとおりである。
【0107】
図4に示す水/ガス/電気の自家的供給システム1000では、メタン分離槽120は1つのみであってもよい。この場合、メタン分離槽120は、メタン生成槽130及び水素ガス生成槽140の双方に接続される。
【0108】
大深度掘削井戸に対してメタン生成部及び水素ガス生成部が並列に接続された構成を採用することにより、水素ガス生成の効率がより一層向上する。この理由については、これに限定されるものではないが、本発明者らは次のように推察している。すなわち、一旦、水素生成型発酵細菌及び水素資化性メタン生成菌により“微生物共生システム”が形成されメタン発酵が開始されると、水素生成型発酵細菌と水素資化性メタン生成菌とが鞭毛で繋がれ、種間水素伝達が生じるようになり、水素資化性メタン生成菌阻害剤が効かなくなる(すなわち、水素ガス生成効率が低下する)と考えられる。これに対し、大深度掘削井戸に対してメタン生成部及び水素ガス生成部が並列に接続された構成を採用した場合、水素資化性メタン生成菌阻害剤による効果が充分に得られ、水素ガス生成を効率よく行うことができるものと考えられる。
【0109】
本発明に係る水/ガス/電気の自家的供給システムは、水、ガス及び電気の3つのインフラを同時に、かつ自家的に供給することができるため、災害時緊急ステーションとして好適に利用できる。
【実施例】
【0110】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。
【0111】
〔付加帯の深部地下水の成分解析〕
静岡県島田市に位置する、付加帯を地下1,500mまで掘削した温泉(島田市田代の郷温泉・伊太和里の湯;34°52.283’N,138°09.150’E)にて、付加帯の深部地下水を採取し、深部地下水に含まれる成分を解析した(図11のサンプリングサイト)。
アニオン種(HCO,Cl,Br,I,SO2−,CHCOO,HCOO)の濃度は、TSKgel SuperIC−AZカラムを備えたIC−2001イオンクロマトグラフィー(東ソー株式会社製)により解析した。
カチオン種(Na,K,Mg2+,Ca2+)の濃度は、TSKgel SuperIC−CRカラムを備えたIC−2001イオンクロマトグラフィー(東ソー株式会社製)により解析した。
硫化物の濃度はメチレンブルー法により解析した。
溶存有機炭素(DOC)濃度は、ガラス繊維濾紙GF/F(ワットマン)で濾過した深部地下水をTOC−V全有機体炭素計(島津製作所)により解析した。
溶存酸素濃度は、ポータブル溶存酸素計(東亜ディーケーケー株式会社製)及びウインクラー法により解析した。
【0112】
結果を表1に示す。
【表1】
【0113】
採取日(季節)が異なっても、深部地下水に含まれる成分濃度はほぼ一定であった。溶存酸素濃度が非常に低いため、メタン生成及び水素ガス生成が短時間のうちに始まる。塩及び硫化物濃度が低いため、井戸壁面のケーシングパイプ、タンク、配管、及びエンジン等の腐食が起こりにくい。
【0114】
付加帯の深部地下水はヨウ素(I)をほとんど含まない(表1参照)。よって、リアクター内でヨウ素による微生物の増殖阻害が起こることはない。また、付加帯に由来する地下水の多くは淡水であるため、メタン及び水素ガス生成リアクター内で硫酸還元菌が増殖して硫化水素を発生させる可能性は低い。また、発酵細菌と硫酸還元菌による有機物の競合が起こりにくいという利点もある。
【0115】
〔付加帯の深部地下水を用いたメタンの生成(1)〕
上記サンプリングサイトで採取した付加帯の深部帯水層に由来する地下水30mLに、グルコース、ペプトン及び酵母エキスからなる混合有機物(グルコース18mg、ペプトン90mg、酵母エキス90mg)を嫌気的に添加した。この溶液を嫌気的に培養瓶にインジェクトした。その後、培養瓶のヘッドスペースを窒素で満たし、2.5気圧(0.25MPa)まで加圧した。次に、45℃、55℃又は65℃で各培養瓶をインキュベートした。ヘッドスペース中に生成した水素ガス、メタン及び二酸化炭素濃度を24時間毎に熱伝導率検出計を装着したガスクロマトグラフィー(GC−2014、島津製作所製)で測定した。
【0116】
結果を図5に示す。図5(A)、(B)及び(C)は、培養温度45℃、55℃及び65℃で培養したときの水素ガス、メタン及び二酸化炭素濃度をそれぞれ示すグラフである。その結果、最大63.8リットル(0℃、1気圧)/地下水m/dayのメタンの生成が確認できた(図5)。
【0117】
〔付加帯の深部地下水を用いた水素ガスの生成(1)〕
上記地下水30mLに、上記混合有機物に加えて水素資化性メタン生成菌に特異的な阻害剤(2−ブロモエタンスルホン酸ナトリウム:20mM)を添加したこと以外は、上記メタンの生成と同様にして、水素ガスの生成を行った。
【0118】
結果を図6に示す。図6(A)、(B)及び(C)は、培養温度45℃、55℃及び65℃で培養したときの水素ガス、メタン及び二酸化炭素濃度をそれぞれ示すグラフである。その結果、最大73.0リットル(0℃、1気圧)/地下水m/dayの水素ガスの生成が確認できた(図6)。
【0119】
〔付加帯の深部地下水を用いたメタンの生成(2)〕
図7は一実施形態に係るリアクタータンク(中型嫌気培養槽)を示す斜視図である。図7に示す中型嫌気培養槽2000は12L(気相7L、液相5L)の容量を有する。中型嫌気培養槽2000には、開閉自在のバルブ部2600が備えられており、バルブ部2600と連結した管の一端は、例えばホースとの接続が可能となっており、他端は培養槽の底部付近に達している。バルブ部2600にホース(図示せず)を接続することで、当該ホースを通して付加帯の深部地下水を嫌気的に中型嫌気培養槽2000に供給することができる。また、弁2100は、付加帯の深部地下水を供給する際のガス及び付加帯の深部地下水の排出口、基質液(混合有機物等)貯蔵タンクとの接続部、安全弁口、センサー設置口等として利用可能である。また、弁2200,2300及び2400等は、不活性ガスタンクとの接続部、他のリアクタータンクとの接続部、生成ガスの取り出し口、反応液の取り出し口等として使用可能である。どの弁を使用するかは任意に設定できる。また、使用しない弁は閉口しておくことができ、これにより密閉状態とすることができる。また、各弁をブチルゴム栓等で閉口することもでき、これにより注射針を用いて嫌気的に生成ガス及び反応液を取り出すことができる。本実施例では図7に示す中型嫌気培養槽2000を用いてメタンの生成を行った。
【0120】
上記サンプリングサイトで採取した付加帯の深部地下水5Lを図7に示す中型嫌気培養槽2000にバルブ部2600に接続されたホースを通して嫌気的に供給した。付加帯の深部地下水を弁2100より排出しながら、20分程度オーバーフローさせ、空気の混入を極力抑えた。弁2200より窒素ガスを注入しながら弁2300より嫌気的に付加帯の深部地下水を抜き出し、深部地下水相(5L)及びヘッドスペース(7L)を作った。次に、弁2100より、グルコース、ペプトン及び酵母エキスからなる混合有機物(グルコース1g、ペプトン5g、酵母エキス5g)を嫌気的に添加した。再度、弁2200より窒素ガスを注入し、弁2400より窒素ガスを排出することにより、中型嫌気培養槽2000のヘッドスペースを窒素で満たした。次に、55℃で中型嫌気培養槽2000をインキュベートした。ヘッドスペース中に生成した水素ガス、メタン及び二酸化炭素濃度を24時間毎に熱伝導率検出計を装着したガスクロマトグラフィー(GC−2014、島津製作所製)で測定した。
【0121】
結果を図8に示す。図8は、55℃で培養したときの水素ガス、メタン及び二酸化炭素濃度をそれぞれ示すグラフである。図8中、矢印で示したタイミング(培養開始時、14日目及び26日目)で、ヘッドスペースを窒素ガスで置換し、かつ上記混合有機物を中型嫌気培養槽2000に添加した。その結果、最大101リットル(0℃、1気圧)/地下水m/dayのメタンの生成(培養16日目)が確認できた(図8)。
【0122】
〔付加帯の深部地下水を用いた水素ガスの生成(2)〕
上記地下水5Lに、上記混合有機物に加えて水素資化性メタン生成菌に特異的な阻害剤(2−ブロモエタンスルホン酸ナトリウム:20mM)を添加したこと以外は、上記メタンの生成(2)と同様にして、水素ガスの生成を行った。
【0123】
結果を図9に示す。図9は、55℃で培養したときの水素ガス、メタン及び二酸化炭素濃度をそれぞれ示すグラフである。図9中、矢印で示したタイミング(培養開始時及び13日目)で、ヘッドスペースを窒素ガスで置換し、かつ上記混合有機物を中型嫌気培養槽2000に添加した。その結果、最大39.5リットル(0℃、1気圧)/地下水m/dayの水素ガスの生成(培養15日目)が確認できた(図9)。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の水/ガス/電気の自家的供給システムによれば、例えば、水素生成型発酵細菌及び水素資化性メタン生成菌を含む付加帯の深部地下水を利用したメタン生成バイオリアクター及び水素ガス生成バイオリアクターと、大深度掘削井戸、水中ポンプ、ガスエンジン、発電機、及び燃料電池を直結させることにより、地下水、ガス及び電気の3つのインフラを同時に自家的に供給することが可能となる。したがって、例えば、東海・東南海・南海地震等の災害時に緊急ステーションとして行政機能、救急医療、避難所生活等をサポートする役割を担うことが可能である。また、南西日本の付加帯は、電力の需要が高い東海工業地帯及び中京工業地帯等の分布域とほぼ重なる。よって、付加帯の深部地下水を利用することで、送電ロスの少ないエネルギーの地産地消も可能となる。
【符号の説明】
【0125】
10…反応液貯蔵タンク、15,23,31,55…バルブ、20…リアクタータンク、30…不活性ガス供給装置、18,40…ガス回収装置、50…基質液貯蔵タンク、53…基質液供給部、120…メタン分離槽,130…メタン生成槽、140…水素ガス生成槽、600…ポンプ、700…二酸化炭素除去装置、710…脱硫装置、1000…水/ガス/電気の自家的供給システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11