特許第6453608号(P6453608)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6453608連続焼鈍炉用ハースロール及びその製造方法
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  • 特許6453608-連続焼鈍炉用ハースロール及びその製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6453608
(24)【登録日】2018年12月21日
(45)【発行日】2019年1月16日
(54)【発明の名称】連続焼鈍炉用ハースロール及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/18 20060101AFI20190107BHJP
   C23C 22/33 20060101ALI20190107BHJP
   C23C 22/30 20060101ALI20190107BHJP
   C21D 1/00 20060101ALI20190107BHJP
   C21D 9/56 20060101ALI20190107BHJP
   F16C 13/00 20060101ALI20190107BHJP
【FI】
   C23C4/18ZAB
   C23C22/33
   C23C22/30
   C21D1/00 115A
   C21D9/56 101G
   F16C13/00 E
   F16C13/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-212984(P2014-212984)
(22)【出願日】2014年10月17日
(65)【公開番号】特開2016-79471(P2016-79471A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年8月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390030823
【氏名又は名称】日鉄住金ハード株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100067541
【弁理士】
【氏名又は名称】岸田 正行
(74)【代理人】
【識別番号】100103506
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 弘晋
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100180699
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 渓
(72)【発明者】
【氏名】栗栖 泰
(72)【発明者】
【氏名】李 ユ
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−075383(JP,A)
【文献】 特開2003−268562(JP,A)
【文献】 特開2003−293156(JP,A)
【文献】 特開2006−342398(JP,A)
【文献】 特開2013−104126(JP,A)
【文献】 特開平07−011420(JP,A)
【文献】 特開平08−021433(JP,A)
【文献】 特開昭63−100168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00−6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続焼鈍炉用ハースロールの製造方法であって、
前記ハースロールのロール表面に形成された、Co、Cr、Al及びYを含むサーメットからなる溶射皮膜にリン酸クロムを含む水溶液を塗布又は含浸する第1のステップと、前記ハースロールを焼成する第2のステップと、を有し、
前記水溶液を100質量%としたときに、リン酸クロムの濃度は5質量%〜30質量%であり、クロムの濃度は1.5質量%〜15質量%であり、
前記水溶液を焼成した焼成物における6価クロムの濃度が5ppm未満であることを特徴とする連続焼鈍炉用ハースロールの製造方法。
【請求項2】
前記第2のステップにおける焼成の回数は1回であることを特徴とする請求項に記載の連続焼鈍炉用ハースロールの製造方法。
【請求項3】
ロール表面にCo、Cr、Al及びYを含むサーメットからなる溶射皮膜が形成された連続焼鈍炉用ハースロールであって、リン酸クロムを含む水溶液を焼成した焼成物によって、前記溶射皮膜の気孔は封孔されており、前記焼成物によって前記溶射皮膜の皮膜表面が覆われており、
前記焼成物を100質量%としたときに、クロム濃度は15質量%〜45質量%で、残部がリンを含む酸化物であり、前記焼成物における6価クロムの濃度が5ppm未満であることを特徴とする連続焼鈍用ハースロール。
【請求項4】
前記溶射皮膜の皮膜表面を覆う焼成物の厚みは、2〜20μmであることを特徴とする請求項に記載の連続焼鈍炉用ハースロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理内に配置され、帯鋼板の連続焼鈍ラインや、鋼板を焼鈍し搬送するための熱処理炉用ハースロールの製造方法等に関し、特にハースロールの耐ビルドアップ性に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、連続熱処理炉内に設置されるハースロールは、500〜1000℃の還元性雰囲気下で、長時間連続して非熱処理鋼板を焼鈍し搬送するため、ロール表面は摩耗され、鋼板の付着酸化物や鉄粉がロール表面に固着および堆積していわゆるビルドアップを形成することが多い。
【0003】
このような摩耗やビルドアップによる凹凸がハースロールの表面に発生すると、鋼板が搬送されている間に疵がつき、品質低下の原因となる。このハースロールに起因する鋼板の品質低下を防止するため、定期的に熱処理炉の操業を中断してハースロール表面を研磨したり、ロール交換する等のメンテナンス作業が行われる。
【0004】
特許文献1は、ハースロールの表面に形成された金属または合金の皮膜の上に、セラミックス又はサーメットの溶射をした後、この溶射層の上部にクロム酸(HCrO)を主成分とする水溶液を含浸させることで、前記皮膜の封孔を行い、引き続く焼成処理によって各金属の酸化物やCrセラミックス皮膜を形成する方法を開示する(明細書段落0014等参照)。
【0005】
特許文献2は、ハースロールの最外層に形成される溶射皮膜にクロム酸(HCrO)を含む水溶液を浸漬、塗布、またはスプレーした後に、350℃〜550℃の焼成を行い成膜させるクロメート処理を開示する(明細書段落0018、0021等参照)。特許文献3にも特許文献2と略同様のクロメート処理が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−21433号公報
【特許文献2】特開2005−240124号公報
【特許文献3】特開2013−104126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述の水溶液には有害な6価クロムが含まれている。そのため、廃水処理に手間やコストがかかるほか、6価クロムは環境汚染及び人体への悪影響の懸念から使用が規制される方向にある。本発明者等が高温焼成後の皮膜を調査したところ、一部の6価クロムが3価クロムに変化せずに、そのまま溶射皮膜に残っていることがわかった。
【0008】
そこで、本願発明は、耐ビルドアップ性に優れ、6価クロムを含まない溶射皮膜がロール表面に形成された環境に優しい熱処理炉用のハースロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本願発明の熱処理炉用のハースロールの製造方法は、(1)連続焼鈍炉用ハースロールの製造方法であって、前記ハースロールのロール表面に形成された溶射皮膜にリン酸クロムを含む水溶液を塗布又は含浸する第1のステップと、前記ハースロールを焼成する第2のステップと、を有することを特徴とする。第1のステップによって、溶射皮膜に形成された気孔内部に前記水溶液が浸透するとともに、溶射皮膜の表面に前記水溶液が付着する。第2のステップによって、溶射皮膜の気孔内部にメタリン酸 (POと高重合体(CrPO及びクロムの酸化物(Cr)を含む封孔材としての焼成物が生成される。溶射皮膜に形成された気孔は、ビルドアップの起点となり易いため、封孔処理を行うことで耐ビルドアップ性を高めることができる。また、この焼成物は、メタリン酸(POと高重合体(CrPOが架橋された多くの環状構造を備えた、強固な無機非結晶物質であるため、耐ビルドアップ性に優れた、6価クロムとは異なる環境に優しいCrPO、Crによって封孔処理を行うことができる。また、環状化合物である(POと高重合体(CrPOの環状構造によってクロムの酸化物(Cr)を固定できるため、クロム酸(HCrO)、硫酸クロム(Cr(SO)、塩化クロム(CrCl)、硝酸クロム(Cr(NO)溶液などのクロム溶液の焼成処理によって形成されるクロム酸化物(Cr)粒子より、溶射皮膜との固着力が高く、摩耗や熱衝撃による早期脱落を抑制することができる。第2のステップによって、溶射皮膜の表面に(PO、(CrPO、Crを含む皮膜がさらに形成される。これにより、耐ビルドアップ性に優れ、6価クロムとは異なる環境に優しい(CrPO、Crによって溶射皮膜の表面を覆うことができる。
【0010】
ここで、前記水溶液には、リン酸クロム以外のSi、Zr、B、N、Cなどの無害な元素が含まれていてもよい。
【0011】
さらに、水溶液は、界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤が含まれることで、気孔のより深い位置(つまり、溶射層とロール本体との界面)までリン酸クロムを浸透させることができる。界面活性剤の濃度は、好ましくは0.001%以上1%未満である。界面活性剤の濃度が0.001%未満になると、上述の効果が十分に得られなくなる。界面活性剤の濃度が1%以上になると上述の効果が飽和するとともに、余剰の界面活性剤が焼成後に炭化脱落して、溶射皮膜の封孔効果が低下する。
【0012】
また、焼成温度は、好ましくは、250℃〜700℃である。焼成温度が250℃未満になると、ロールに水分が残存してしまう。焼成温度が700℃超になると、ロール本体及び溶射皮膜の酸化が助長される。
【0013】
(2)上記(1)の構成において、前記水溶液を100質量%としたとき、好ましくは、リン酸クロムの濃度は5質量%〜30質量%であり、クロムの濃度(リン酸クロムの中におけるクロム濃度)は1.5質量%〜15質量%である。リン酸クロムの濃度が5質量%未満になると、水溶液を焼成した際に生成されるリン酸及びクロム酸化物の生成量が少なすぎるため、溶射皮膜に対する封孔処理が不十分になる。一方、リン酸クロムの濃度が30質量%超になると、水溶液の粘度が高くなりすぎて、溶射皮膜中への浸透が悪くなり、溶射皮膜全体への封孔効果が小さくなる。水溶液に含まれるクロムの濃度が、1.5質量%以下になると、生成された焼成物に含まれるクロム酸化物の濃度が15質量%以下になり、耐ビルドアップ性が低下する。水溶液に含まれるクロムの濃度が15質量%以上になると生成された焼成物に含まれるクロム酸化物の濃度が45質量%以上になる一方で、リンを含む酸化物の減少による固着力の低下によりクロム酸化物が脱落しやすくなり、耐ビルドアップ性が低下する。
【0014】
(3)上記(1)又は(2)の構成において、前記第2のステップにおける焼成の回数は1回であってもよい。リン酸クロムは焼成することによって体積収縮するが、収縮率が小さいため、一回の封孔処理によって高い封孔効果を得ることができる。すなわち、焼成時の収縮率が大きい場合には、封孔処理を繰り返し実施しなければならないが、本発明のリン酸クロムを含む水溶液によれば、一回の封孔処理によって、高い封孔効果を得ることができる。また、一回の焼成処理によって、溶射皮膜の上に緻密性の高い焼成物からなる皮膜を形成することができる。
【0015】
(4)本願発明に係る連続焼鈍炉用ハースロールは、ロール表面に溶射皮膜が形成された連続焼鈍炉用ハースロールであって、リン酸クロムを含む水溶液を焼成した焼成物によって、前記溶射皮膜の気孔は封孔されており、前記焼成物によって前記溶射皮膜の皮膜表面が覆われていることを特徴とする。
【0016】
(5)上記(4)の構成において、前記焼成物を100質量%としたときに、好ましくは、クロム濃度は15質量%〜45質量%で、残部が溶射皮膜成分およびリンを含む酸化物である。ここで、焼成物の濃度は、焼成処理後の溶射皮膜サンプル断面における溶射皮膜中或いは表面の焼成物に対してEPMA(Electron Probe Micro Analyser:電子線マイクロアナライザ)で断面組織10箇所程度を観察して濃度分布を測定する。
【0017】
(6)上記(4)又は(5)の構成において、前記溶射皮膜の皮膜表 面を覆う焼成物の厚みは、2〜20μmとするのが望ましい。厚みが2μm未満になると、FeやMn酸化物などの反応物質は透過しやすく、溶射皮膜と反応するため、耐ビルドアップ性低下となるおそれがある。厚みが20μmを超過すると、焼成物が脱落しやすくなり、耐ビルドアップ性が低下するおそれがある。
【発明の効果】
【0018】
本願発明によれば、耐ビルドアップ性を備えるとともに、6価クロムを含まない溶射皮膜を備えた環境に優しい熱処理炉用のハースロールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】MN値を測定する測定機器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施例を示して本発明についてより具体的に説明する。
【0021】
(6価クロム測定試験)
セラミックスからなる容器内に収容されたクロム酸水溶液(比較例)を焼成することにより、焼成粉末を生成し、この焼成粉末2.5gの中に含まれるクロムの含有量及び6価クロムの含有量を測定して、6価クロムの濃度を算出した。また同様にセラミックスからなる容器内に収容されたリン酸クロム水溶液(実施例)を焼成することにより、焼成粉末を生成し、この焼成粉末2.5gの中に含まれるクロムの含有量及び6価クロムの含有量を測定して、6価クロムの濃度を算出した。焼成時間は3時間とした。焼成回数は1回とした。焼成温度を、比較例1では410℃、比較例2では460℃、比較例3では500℃、比較例4では600℃、比較例5では700℃、実施例1では410℃、実施例2では500℃、実施例3では600℃、実施例4では700℃とした。クロムの含有量及び6価クロムの含有量は、 ジフェニルカルバジド吸光光度法により測定した。測定機器には、日立製のU-2000ダ ブルビーム分光光度計を使用した。比較例1の焼成粉末は黒色であった。比較例2及び3の焼成粉末は暗緑色であった。比較例4及び5の焼成粉末は明緑色であった。実施例1〜4の焼成粉末はいずれも明緑色であった。6価クロムの濃度が1000ppm(0.1質量%)以下である場合には、6価クロムが少ないとして、「good」で評価した。6価クロムの濃度が1000ppm(0.1質量%)超である場合には、6価クロムが多いとして、「poor」で評価した。
【表1】
【表2】
【0022】
表1に示すように、比較例1〜5はいずれも6価クロムが多く、評価が「poor」となった。表2に示すように、実施例1〜4はいずれも6価クロムが少なく、評価が「good」となった。なお、濃度を測定した測定機器の検出限界は5ppmであり、実施例の濃度はいずれも検出限界を下回った。
【0023】
(耐ビルドアップ性試験)
所定のサンプルを準備し、MN値とFe付着量を測定することで、耐ビルドアップ性を評価した。図1はMN値を測定する測定機器の概略図である。同図に示すように、溶射試験片1及び溶射試験片1´を重ねこれらの間(つまり、溶射面Bと溶射面Cとの間)にビルドアップ原料2を介在させた。また、溶射試験片1の上面である溶射面Aにもビルドアップ原料2を散布し、その上から半月形ロール3を矢印X1方向に押しつけて荷重をかけながら矢印X2方向に往復運動を行うことで、溶射面A〜C各面のビルドアップ状況を評価した。
【0024】
試験は表3に示す温度、環境条件で行った。溶射面A〜Cは、CoCrAlY系(質量%で、47%Co−17%Cr−10%Al−1%Y−25%Cr)サーメット溶射皮膜を用いて形成した。
【0025】
評価は、溶射面A〜Cのそれぞれについて、ビルドアップの付着状況に応じて得点を付与し、合計点数で評価した。溶射試験片1及び1´を縦にしてビルドアップ原料2が落ちた場合には、耐ビルドアップ性が大変良好であるとして3点を付与し、ガーゼで擦ることによりビルドアップ原料2が落ちた場合には、耐ビルドアップ性が概ね良好であるとして2点を付与し、ピンセットで擦ることによりビルドアップ原料2が落ちた場合には、耐ビルドアップ性が不良であるとして1点を付与し、以上の方法を実施してもビルドアップ原料2が全く落ちない場合には、耐ビルドアップ性が極めて不良であるとして0点を付与した。
【0026】
上述の半月形ロール3の往復運動後に、蛍光X線測定装置を用いて溶射面A〜Cに付着したFe量を測定し、これらの平均値を算出した。試験結果を表4に示した。MN値が7よりも大きく、かつ、Fe付着量が2質量%以下の場合には、耐ビルドアップ性が極めて良好として、「very good」で評価した。また、MN値が4超かつ7以下の場合には、Fe付着量に関わらず、耐ビルドアップ性が良好として、「good」で評価した。MN値が4以下の場合には、耐ビルドアップ性が不良として、「poor」で評価した。
【0027】
【表3】
【表4】
【0028】
実施例5〜10はいずれもMN値が7よりも大きく、Fe付着量が2質量%以下であるため、耐ビルドアップ性の評価が「very good」となった。すなわち、実施例5〜10は、本発明の好ましい条件である、リン酸クロム濃度:5質量%〜30質量%、クロムの濃度:1.5質量%〜15質量%を満足するため、耐ビルドアップ性の評価が「very good」となった。実施例11は、リン酸クロムの濃度が低いため、Fe付着量は増大したが、MN値が4超となり、耐ビルドアップ性の評価が「good」となった。実施例12は、界面活性剤の濃度が低いため、水溶液の溶射皮膜への浸透が悪く、Fe付着量は増大したが、MN値が4超となり、耐ビルドアップ性の評価が「good」となった。実施例13は、界面活性剤の濃度が高すぎるため、焼成後活性剤の炭化脱落が発生し、Fe付着量は増大したが、MN値が4超となり、耐ビルドアップ性の評価が「good」となった。実施例14は、本発明の好ましい条件を満足しないものの、MN値が4超となり、耐ビルドアップ性の評価が「good」となった。比較例は、リン酸クロム水溶液とは異なる3価クロム塩の水溶液であるため、溶射皮膜に対する封孔効果が低く、Fe付着量は増大し、MN値が4以下で、耐ビルドアップ性の評価が「poor」となった。比較例10はいずれもMN値が4以下であるため、耐ビルドアップ性の評価が「poor」となった。
【0029】
上述の試験から、リン酸クロム水溶液を用いて封孔処理を行うことで、従来のクロム酸水溶液を用いた封孔処理よりも、耐ビルドアップ性が向上することがわかった。つまり、本願発明のハースロールは、6価クロムを含まない点で環境に優しく、かつ、耐ビルドアップ性も非常に優れているということがわかった。さらに、本発明の好ましい条件(リン酸クロム濃度:5質量%〜30質量%、クロムの濃度:1.5質量%〜15質量%)を満足することで、耐ビルドアップ性が大幅に向上することがわかった。なお、本発明者は、ビルドアップ原料2をFeからMnOに変えて上記と同様の試験を行い、概ね同様の結果が得られたことを確認している。
【0030】
また、実施例では、1回の焼成処理(つまり、塗布工程及び焼成工程が1回)によって、非常に高い耐ビルドアップ性が得られた。一方、比較例10では、焼成処理の回数を2回に増やしても、十分な耐ビルドアップ性は得られなかった。また、比較例1112に示すように、耐ビルドアップ性の評価を「poor」から「good」に引き上げるためには、焼成処理の回数を4回に増加しなければならなかった。
【符号の説明】
【0031】
1、1´:溶射試験片
2:ビルドアップ原料
3:半月形ロール
図1